(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124604
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】3次元造形用組成物、3次元造形用フィラメント、および、造形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/20 20060101AFI20230830BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230830BHJP
B33Y 40/10 20200101ALI20230830BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230830BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230830BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230830BHJP
C08F 210/14 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08L23/20
B33Y10/00
B33Y40/10
B33Y80/00
B29C64/118
B29C64/314
C08F210/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028474
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮武 宏行
(72)【発明者】
【氏名】田中 正和
(72)【発明者】
【氏名】塩出 浩久
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F213AA12
4F213AC02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL27
4F213WL74
4J002BB16W
4J002BB16X
4J002GF00
4J100AA03Q
4J100AA15Q
4J100AA17P
4J100CA05
4J100DA04
4J100DA09
4J100DA13
4J100DA24
4J100DA42
4J100FA10
4J100FA19
4J100FA22
4J100FA28
4J100GC35
(57)【要約】
【課題】精度の高い造形体を製造可能な程度に、熱可塑性樹脂の熱収縮に起因する変形が抑制された3次元造形用組成物を提供する。
【解決手段】(A-a)と(A-b)とを満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)45~75質量部と、(B-a)と(B-b)とを満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)25~55質量部とを含み(ただし、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の合計を100質量部とする。)、引張弾性率が10~1000MPaである、3次元造形用組成物。
(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)90~100モル%と、炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(ii)0~10モル%からなる(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする。)。
(A-b)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃の範囲にある。
(B-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)60~78モル%と、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)22~40モル%からなる(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。)。
(B-b)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が観測されない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)45~75質量部と、
下記要件(B-a)および(B-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)25~55質量部とを含み(ただし、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の合計を100質量部とする。)、
引張弾性率が10~1000MPaである、3次元造形用組成物。
要件(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)90~100モル%と、炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(ii)0~10モル%からなる(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする。)。
要件(A-b)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃の範囲にある。
要件(B-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)60~78モル%と、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)22~40モル%からなる(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。)。
要件(B-b)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が観測されない。
【請求項2】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)がさらに要件(A-c)を満たす、請求項1に記載の3次元造形用組成物。
要件(A-c)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01g/10分~250g/10分の範囲にある。
【請求項3】
前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)が下記要件(B-c)、(B-d)および(B-e)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす、請求項1または2に記載の3次元造形用組成物。
要件(B-c)135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が、0.5~4.0dl/gの範囲にある。
要件(B-d)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算での、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、1.0~3.5の範囲にある。
要件(B-e)密度が、825~860kg/m3の範囲にある。
【請求項4】
JIS K6253に準拠して測定した前記組成物のショアD硬度が50~90である、請求項1~3のいずれか1項に記載の3次元造形用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の3次元造形用組成物を含有する3次元造形用フィラメント。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の3次元造形用組成物を含有する造形体。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の3次元造形用組成物を用いて、3次元造形用フィラメントを製造する方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の3次元造形用組成物を用いて、造形体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形用組成物、3次元造形用フィラメント、および造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、効率的な造形技術の1つとして、3次元造形用の製造装置(3次元プリンター)を用いて造形体を造形する方法が注目されている。造形体の造形方式のうちでも、熱可塑性樹脂を溶融し、積層する手法は、幅広い材料を使用可能である上、コスト面でも有利である。
【0003】
造形体を造形する際の材料として、従来、流動性や造形性の観点から、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)やポリ乳酸(PLA樹脂)等の熱可塑性樹脂が提案されている(特許文献1、2参照)。しかし、これらの樹脂は、高比重かつ硬質な材料であるため、造形体の軽量化が難しく、柔らかい造形体の製造が困難であり、さらに、造形時に臭気が出るなどの問題があった。
【0004】
そこで、ABS樹脂およびPLA樹脂を用いた場合に起こる前記問題が生じない造形材料として、特許文献3には、135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]が0.1~5.0dl/gにあり、分子量分布(Mw/Mn)が1.0~3.5にあり、示差走査熱量分析で測定される融点が100℃以上165℃未満であるか、又は実質的に観測されず、かつ、密度が810~880kg/m3の範囲にあるプロピレン系共重合体を含む3次元プリンター造形用フィラメントが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5911564号公報
【特許文献2】特開2016-215502号公報
【特許文献3】特開2018-158451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載のいずれの造形用材料を用いた場合でも、ノズルから押し出された溶融状態の造形用材料が3次元造形体として固化する際の熱収縮に起因して、造形体に変形が生じてしまい、精度の高い造形体が得られない場合があった。造形用材料に熱膨張係数が低い充填剤を添加することにより熱収縮による変形を抑制することも提案されているが、充填剤の添加量が多くなると、造形用材料が固くなりやすく、造形体の靭性が悪化する場合があった。
【0007】
本発明は、精度の高い造形体を製造可能な程度に、熱可塑性樹脂の熱収縮に起因する変形が抑制された3次元造形用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが検討を進めた結果、特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)とを、特定の割合で含み、かつ、引張弾性率が特定の範囲にある組成物によれば、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、例えば以下[1]~[8]の事項を有する。
【0010】
[1] 下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)45~75質量部と、
下記要件(B-a)および(B-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)25~55質量部とを含み(ただし、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)の合計を100質量部とする。)、
引張弾性率が10~1000MPaである、3次元造形用組成物。
要件(A-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)90~100モル%と、炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位(ii)0~10モル%からなる(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計を100モル%とする。)。
要件(A-b)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃の範囲にある。
要件(B-a)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)60~78モル%と、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)22~40モル%からなる(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計を100モル%とする。)。
要件(B-b)示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が観測されない。
【0011】
[2] 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)がさらに要件(A-c)を満たす、[1]に記載の3次元造形用組成物。
要件(A-c)260℃、5kg荷重下のメルトフローレート(MFR)が0.01g/10分~250g/10分の範囲にある。
【0012】
[3] 前記4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)が下記要件(B-c)、(B-d)および(B-e)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす、[1]または[2]に記載の3次元造形用組成物。
要件(B-c)135℃デカリン中で測定した極限粘度〔η〕が、0.5~4.0dl/gの範囲にある。
要件(B-d)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算での、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、1.0~3.5の範囲にある。
要件(B-e)密度が、825~860kg/m3の範囲にある。
【0013】
[4] JIS K6253に準拠して測定した前記組成物のショアD硬度が50~90である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の3次元造形用組成物。
【0014】
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の3次元造形用組成物を含有する3次元造形用フィラメント。
【0015】
[6] [1]~[4]のいずれか1つに記載の3次元造形用組成物を含有する造形体。
【0016】
[7] [1]~[4]のいずれか1つに記載の3次元造形用組成物を用いて、3次元造形用フィラメントを製造する方法。
【0017】
[8] [1]~[4]のいずれか1つに記載の3次元造形用組成物を用いて、造形体を製造する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、精度の高い造形体を製造可能な程度に、熱可塑性樹脂の熱収縮に起因する変形が抑制された3次元造形用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
≪3次元造形用組成物≫
本発明の3次元造形用組成物は、特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、特定の要件を満たす4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)とを、特定の割合で含み、かつ、引張弾性率が10~1000MPaの範囲にある。
【0020】
<4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)>
本発明の3次元造形用組成物に含有される4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たし、好ましくは、さらに要件(A-c)~要件(A-h)からなる群より選ばれる1つ以上を満たす重合体である。なお、以下の記載では、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を単に「重合体(A)」と記載する場合がある。
【0021】
〈要件(A-a)〉
重合体(A)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を「構成単位(i)」、炭素原子数5~20のα-オレフィン(ただし、4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位を「構成単位(ii)」とすると、構成単位(i)の量は、90~100モル%であり、好ましくは92~99モル%であり、構成単位(ii)の量は、0~10モル%であり、好ましくは1~8モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の合計は100モル%とする。)。
【0022】
重合体(A)における構成単位(i)の含有率が90モル%以上であることにより、3次元造形用組成物として適した耐熱性が得られ、さらに、ハンドリングに適した弾性率および可撓性が得られるという利点がある。
【0023】
重合体(A)の構成単位(ii)を形成する4-メチル-1-ペンテン以外の炭素原子数5~20のα-オレフィンとしては、例えば、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、および1-エイコセン等が挙げられる。
【0024】
構成単位(ii)を形成するα-オレフィンとしては、3次元造形用組成物に適度な弾性率と可撓性を付与するという観点から、炭素原子数8~18のα-オレフィンが好ましく、具体的には、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、および1-オクタデセンがより好ましく、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、および1-オクタデセンが特に好ましい。これらα-オレフィンは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)、および4-メチル-1-ペンテン以外のα-オレフィンから導かれる構成単位(ii)以外のその他の構成単位を含んでもよい。その他の構成単位の含有率は、例えば、0~10モル%である(ただし、構成単位(i)と構成単位(ii)の含有率の合計を100モル%とする)。
【0026】
重合体(A)における各構成単位の含有率(モル%)の値は、後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)における各構成単位の含有率と同様に、炭素13C核磁気共鳴(以下、13C-NMRということがある。)による測定方法によって算出した場合のものである。なお、具体的な測定方法は、後述の実施例に記載する。
【0027】
〈要件(A-b)〉
重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、200~250℃、好ましくは200~245℃、より好ましくは200~240℃の範囲にある。重合体(A)の融点が上述の範囲内であれば、得られる3次元造形用組成物は適切な耐熱性を有する。なお、具体的な融点(Tm)の測定方法は、後述の実施例に記載する。
【0028】
〈要件(A-c)〉
重合体(A)のASTM D1238に準拠して260℃、5.0kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、通常0.01g/10分~250g/10分、好ましくは5g/10分~230g/10分、より好ましくは10g/10分~220g/10分、さらに好ましくは15g/10分~200g/10分の範囲にある。
【0029】
重合体(A)のMFRが前記範囲にあると、後述する4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)と、溶融混練によって混合しやすく、また、得られる3次元造形用組成物の成形が容易である。
【0030】
〈要件(A-d)〉
重合体(A)は、デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度〔η〕が、好ましくは1.0~4.0dl/g、より好ましくは1.0~3.5dl/g、さらに好ましくは1.0~3.0dl/gの範囲にある。
【0031】
重合体(A)の極限粘度〔η〕が、前記範囲内であると、3次元造形用組成物が良好な流動性を有し、成形性に優れる。なお、極限粘度〔η〕の具体的な測定方法は、後述の実施例のとおりである。
【0032】
〈要件(A-e)〉
重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは1.0~7.0の範囲にある。前記分子量分布(Mw/Mn)は、より好ましくは2.0~6.0、さらに好ましくは2.5~5.0である。
【0033】
分子量分布(Mw/Mn)が前記範囲にあると、組成分布や低分子量ポリマーの影響を抑えることができるため、重合体(A)の機械特性、成形性、耐摩耗性を発現するのに有利であり、べたつきを抑えることができる。そのため、分子量分布(Mw/Mn)が前記範囲にある重合体(A)を含有する3次元造形用組成物は、成形性、耐摩耗性に優れ、かつべたつきを防ぎやすくなる傾向がある。また、重合体(A)を含有する3次元造形用組成物からなる造形体の機械特性および耐摩耗性が良好になる傾向がある。
【0034】
〈要件(A-f)〉
重合体(A)は、密度が、好ましくは820~850kg/m3、より好ましくは825~845kg/m3の範囲にある。重合体(A)の密度が前記の範囲内にあると、重合体(A)を含有する3次元造形用組成物を用いて、軽量かつ強度の優れた造形体を作製可能である。なお、密度の測定条件等の詳細は、後述の実施例のとおりである。
【0035】
〈要件(A-g)〉
重合体(A)は、-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み設定0.1%による動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδの最大値が、好ましくは0.01~5.0、より好ましくは0.1~3.0、さらに好ましくは0.1~2.0の範囲である。なお、以下の記載では、損失正接tanδの最大値を「tanδピーク値」と記載することがある。
【0036】
ここで、損失正接tanδは、動的粘弾性で測定される貯蔵弾性率G′と損失弾性率G″の比(G″/G′)であり、応力緩和性の評価に使用される。貯蔵弾性率G′は応力を加えた際に、そのエネルギーを内部に蓄えて応力を保持する弾性成分のことである。一方、損失弾性率G″は応力を加えた際に、そのエネルギーを熱に変換して逃がす(外部へ拡散する)粘性成分のことである。したがって、特定の温度環境下での損失正接tanδが高い材料であるほど、衝撃を吸収しやすく、より高い応力緩和性を発現することになる。
【0037】
重合体(A)単独のtanδピーク値は、0.1以上であると、応力吸収による造形体の変形を抑制可能である。
【0038】
〈要件(A-h)〉
重合体(A)は、-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み設定0.1%による動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδの値が最大となる際の温度が、好ましくは-30~100℃、より好ましくは0~50℃、さらに好ましくは10~50℃の範囲にある。なお、以下の記載では、損失正接tanδが最大となる際の温度を「tanδピーク温度」と記載することがある。
【0039】
さらに、本発明に係る3次元造形用組成物では、重合体(A)単独のtanδピーク温度が-30~100℃の範囲であると、3次元造形用組成物および該3次元造形用組成物から得られる造形体で発生する歪みや変形などの応力を緩和しやすくなり、造形精度の優れた組成物となる。なお、具体的なtanδの測定方法については、後述の実施例に記載する。
前記tanδピーク値およびtanδピーク温度は、重合体(A)における構成単位(i)/構成単位(ii)の組成比などにより調整することができる。
【0040】
≪重合体(A)の製造方法≫
重合体(A)は、例えば、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じて炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)とを重合して製造できる。また、高分子量の4-メチル-1-ペンテン系重合体を熱分解して製造してもよい。また、重合体(A)は、溶媒に対する溶解度の差異で分別する溶媒分別、あるいは沸点の差異で分取する分子蒸留などの方法で精製されてもよい。
【0041】
重合体(A)は、従来公知のオレフィン重合用触媒、例えば、バナジウム系触媒、チタン系触媒、マグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報、あるいは特開平2-41303号公報に記載のメタロセン触媒などを用いて、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じて炭素原子数5~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)とを重合することにより得ることができる。
また、重合体(A)は、市販品を使用することができ、例えば、三井化学社製TPX(登録商標)が挙げられる。
【0042】
<4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)>
本発明の3次元造形用組成物に含有される4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)は、下記要件(B-a)および(B-b)を満たし、好ましくは、さらに要件(B-c)~(B-h)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たす。例えば、4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)は、要件(B-a)および(B-b)を満たし、さらに要件(B-c)、(B-d)、および(B-e)からなる群より選ばれる少なくとも1つの要件を満たすものであってもよい。なお、以下の記載では、4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)を単に「共重合体(B)」と記載する場合がある。
【0043】
〈要件(B-a)〉
共重合体(B)における、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位を「構成単位(iii)」、炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位を「構成単位(iv)」とすると、構成単位(iii)の量は60~78モル%であり、構成単位(iv)の量は22~40モル%である(ただし、構成単位(iii)と構成単位(iv)の合計は100モル%とする。)。
【0044】
共重合体(B)における構成単位(iii)の含有率が60モル%以上78モル%以下であることにより、共重合体(B)を含む組成物および該組成物から形成された造形体に応力緩和性を付与できる。
共重合体(B)における構成単位(iv)の含有率が22モル%以上40モル%以下であることにより、共重合体(B)を含む組成物および該組成物から形成された造形体に応力緩和性を付与できる。
【0045】
共重合体(B)における各構成単位の含有率(モル%)は、前記重合体(A)と同様に、13C-NMR測定で得られた結果に基づいて算出したものである。なお、具体的な測定方法については、後述の実施例に記載する。
【0046】
共重合体(B)における構成単位(iii)の含有率は、応力緩和性の発現しやすさの点から、好ましくは65~75モル%、より好ましくは68~75モル%、さらに好ましくは70~75モル%の範囲にある。
【0047】
共重合体(B)における構成単位(iv)の含有率は、応力緩和性の発現しやすさの点から、好ましくは25~35モル%、より好ましくは25~32モル%、さらに好ましくは25~30モル%の範囲にある。
【0048】
共重合体(B)における構成単位(iv)を形成する炭素原子数2~4のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどが挙げられる。これらは、1種単独、あるいは本発明の効果を損なわない範囲で、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特にプロピレンが好ましく、3次元造形用組成物に用いられる前記重合体(A)に対する相容性が得られる。
【0049】
〈要件(B-b)〉
共重合体(B)は、示差走査熱量計(DSC)により融点(Tm)が、観測されない。融点(Tm)の値は、共重合体(B)の立体規則性、ならびに、構成単位(iv)となるα-オレフィンに依存して変化する。また、共重合体(B)の融点(Tm)の値および融点(Tm)の有無は、後述するオレフィン重合用触媒を用いて所望の組成に制御することにより調整が可能である。なお、融点(Tm)の測定条件等の詳細は、後述する実施例のとおりである。
【0050】
〈要件(B-c)〉
共重合体(B)は、デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度〔η〕が、好ましくは0.5~4.0dl/g、より好ましくは0.6~3.5dl/g、さらに好ましくは0.8~3.0dl/gの範囲にある。
【0051】
共重合体(B)の極限粘度〔η〕が、前記範囲内であると、低分子量成分が少ないため、3次元造形用組成物および該3次元造形用組成物から得られる造形体のべたつきが低減され、造形体の成形が容易となる。なお、極限粘度〔η〕の具体的な測定方法は、後述の実施例のとおりである。
【0052】
〈要件(B-d)〉
共重合体(B)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が、好ましくは1.0~3.5の範囲にある。前記分子量分布(Mw/Mn)は、より好ましくは1.2~3.0、さらに好ましくは1.5~2.5である。
【0053】
分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であると、組成分布に由来する低分子量および低立体規則性ポリマーの影響が少なく、3次元造形用組成物および該3次元造形用組成物から得られる造形体のべたつきが低減され、造形体の成形が容易となる。
【0054】
〈要件(B-e)〉
共重合体(B)は、密度が、好ましくは825~860kg/m3、より好ましくは830~850kg/m3の範囲にある。密度が前記の範囲内にあると、3次元造形用組成物に含まれる前記重合体(A)に対して、均一で良好な分散性が得られるため好ましい。また、得られる3次元造形用組成物は、均一なフィラメントに成形できるため有利である。なお、密度の測定条件等の詳細は、後述の実施例のとおりである。
【0055】
〈要件(B-f)〉
共重合体(B)は、-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み設定0.1%による動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδピーク値が、好ましくは0.5~5.0、より好ましくは0.6~4.5、さらに好ましくは0.7~4.0の範囲である。
【0056】
共重合体(B)単独のtanδピーク値が0.5以上であると、3次元造形用組成物および該3次元造形用組成物から得られる造形体で発生する歪みや変形などの応力を緩和しやすくなり、造形精度の優れた組成物となる。
【0057】
〈要件(B-g)〉
共重合体(B)は、-40~150℃の温度範囲で、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み設定0.1%による動的粘弾性測定で求められる損失正接tanδピーク温度が最大となる際の温度が、好ましくは-30~60℃、より好ましくは-20~50℃、さらに好ましくは10~50℃の範囲にある。
【0058】
さらに、本発明に係る3次元造形用組成物では、共重合体(B)単独のtanδピーク温度が-30~60℃の範囲であると、3次元造形用組成物および該3次元造形用組成物から得られる造形体で発生する歪みや変形などの応力を緩和しやすくなり、造形精度の優れた組成物となる。なお、具体的なtanδの測定方法については、後述の実施例に記載する。
前記tanδピーク値およびtanδピーク温度は、共重合体(B)における構成単位(iii)/構成単位(iv)の組成比などにより調整することができる。
【0059】
〈要件(B-h)〉
共重合体(B)のASTM D1238に準拠して230℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは4.0~30g/10分、より好ましくは6.0~15g/10分、さらに好ましくは7.0~13g/10分の範囲にある。
【0060】
共重合体(B)のMFRが前記範囲にあると、成形性に優れる3次元造形用組成物を容易に得ることができる。
【0061】
≪共重合体(B)の製造方法≫
共重合体(B)の製造方法は、特に限定されない。例えば、4-メチル-1-ペンテンと前述の炭素原子数2~4のα-オレフィンとをマグネシウム担持型チタン触媒、またはメタロセン触媒などの適切な重合触媒存在下で重合することにより、共重合体(B)が製造される。
【0062】
共重合体(B)の製造の際に使用きる重合触媒としては、従来公知の触媒、例えば、マグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号公報、あるいは特開平2-41303号公報、国際公開第2011/055803号、国際公開第2014/050817号等に記載のメタロセン触媒などが挙げられる。重合は、溶解重合および懸濁重合などを含む液相重合法、ならびに気相重合法などから適宜選択して行うことができる。
【0063】
液相重合法では、液相を構成する溶媒として不活性炭化水素溶媒を用いることができる。前記不活性炭化水素の例には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、および灯油などを含む脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、およびメチルシクロヘキサンなどを含む脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエン、およびキシレンなどを含む芳香族炭化水素、ならびにエチレンクロリド、クロロベンゼン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、およびテトラクロロメタンなどを含むハロゲン化炭化水素、ならびにこれらの混合物などが含まれる。
【0064】
また、液相重合法では、前述の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)に対応するモノマー(すなわち、4-メチル-1-ペンテン)、前述の炭素原子数2~4のα-オレフィンから導かれる構成単位(iv)に対応するモノマー(すなわち、前述の炭素原子数2~4のα-オレフィン)自体を溶媒とした塊状重合とすることもできる。
【0065】
なお、上述の4-メチル-1-ペンテンと上述の炭素原子数2~4のα-オレフィンとの共重合を段階的に行うことにより、共重合体(B)を構成する4-メチル-1-ペンテンの構成単位(iii)、および、炭素原子数2~4のα-オレフィンの構成単位(iv)の組成分布を適度に制御することもできる。
【0066】
共重合体(B)を重合する際の重合温度は、-50~200℃が好ましく、0~100℃がより好ましく、20~100℃がさらに好ましい。共重合体(B)を重合する際の重合圧力は、常圧~10MPaゲージ圧であることが好ましく、常圧~5MPaゲージ圧であることがより好ましい。
【0067】
共重合体(B)の重合の時に、生成するポリマーの分子量や重合活性を制御することを目的として、水素を添加してもよい。添加する水素の量は、前述の4-メチル-1-ペンテンの量と前述の炭素原子数2~4のα-オレフィンの量との合計1kgに対して、0.001~100NL程度が適切である。
【0068】
<3次元造形用組成物>
本発明の3次元造形用組成物は、前記重合体(A)を45~75質量部、好ましくは50~70質量部、より好ましくは50~65質量部、さらに好ましくは55~65質量部含み、さらに、前記共重合体(B)を25~55質量部、好ましくは30~50質量部、より好ましくは35~50質量部、さらに好ましくは35~45質量部(ただし、前記重合体(A)と前記共重合体(B)の合計を100質量部とする。)含む組成物である。
本発明の3次元造形用組成物では、熱可塑性樹脂の熱収縮に起因する変形が抑制されている。そのため、3次元造形用組成物から作製される3次元造形体の変形を抑制する成分(例えば充填剤)を該3次元造形用組成物に添加することなく使用することができる。
【0069】
本発明に係る3次元造形用組成物は、重合体(A)を前記範囲内で含むことにより、重合体(A)の含有量が前記範囲よりも少ない樹脂組成物と比べて、耐熱性に優れる。また、本発明に係る3次元造形用組成物は、重合体(A)を前記範囲内で含むことにより、重合体(A)の含有量が前記範囲よりも多い樹脂組成物と比べて、異種材料との接着力が向上する。
本発明に係る3次元造形用組成物は、前記共重合体(B)を前記範囲内で含むことにより、共重合体(B)の含有量が前記範囲よりも少ない樹脂組成物と比べて、応力緩和性が高くなることから、弾性率と応力緩和性のバランスが良好であり、該3次元造形用組成物から造形体を作製しやすくなる。本発明に係る3次元造形用組成物は、前記共重合体(B)を前記範囲内で含むことにより、共重合体(B)の含有量が前記範囲よりも多い樹脂組成物と比べて、弾性率が高くなるため、該3次元造形用組成物から造形体を作製しやすくなる。
【0070】
本発明に係る3次元造形用組成物は、JIS K7161-2:2014に準拠して測定した引張弾性率が、10~1000MPa、好ましくは100~800MPa、より好ましくは150~750MPa、さらに好ましくは200~400MPaである。3次元造形用組成物の引張弾性率が前記範囲にあると、造形体に含まれる残留応力を低減でき、造形体の反りを抑制可能である。
【0071】
本発明に係る3次元造形用組成物は、JIS K6253に準拠して、厚さ2mmのプレスシートを3枚積み重ねた状態で測定される、押針接触開始直後のショアD硬度の値が、好ましくは50~90、より好ましくは52~80、さらに好ましくは55~75である。3次元造形用組成物のショアD硬度の値が前記範囲にあると、押出積層法を用いた3次元造形時の材料供給を問題なく行える。
なお、押出積層法では、後述するように、造形体の材料としてフィラメントが用いられる場合とペレットが用いられる場合とがある。フィラメントが材料として用いられる場合、該フィラメントはギアで送り出されるが、3次元造形用組成物のショアD硬度の値が前記範囲にあると、該組成物はギアでの送り出しが容易な硬さを有しつつ、ギアの摩耗を抑制可能な硬度になる。一方、ペレットが材料として用いられる場合、該ペレットはスクリューでの溶融混錬の後に吐出されるが、3次元造形用組成物のショアD硬度の値が前記範囲にあると、スクリューでの送り出しが容易であり、かつ、スクリューの摩耗が抑制される傾向がある。
【0072】
本発明に係る3次元造形用組成物は、前記重合体(A)および前記共重合体(B)を前記特定の割合で混合することにより得られる。混合する方法は、とくに限定はされず、種々公知の方法、例えば、上述成分をヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、V-ブレンダー等によりドライブレンドする方法、ドライブレンドした後、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等により溶融混練する方法、および溶媒の存在下で、攪拌混合する方法等によって調整することができる。
【0073】
本発明に係る3次元造形用組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤を含有することができる。酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が使用可能である。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、硫黄系酸化防止剤、ラクトーン系酸化防止剤、有機ホスファイト化合物、有機ホスフォナイト化合物、あるいはこれらを数種組み合わせたものが使用できる。
【0074】
本発明に係る3次元造形用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の添加剤、例えば、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、結晶核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機又は有機の充填剤、有機系又は無機系の発泡剤、架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤等の各種添加剤を含有してもよい。上述の各種添加剤の含有量については、樹脂組成物(X)における重合体(A)および共重合体(B)以外の成分の含有量は、重合体(A)および共重合体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0075】
また、本発明に係る3次元造形用組成物は、重合体(A)および共重合体(B)以外の重合体も含有してもよい。その場合、3次元造形用組成物における重合体(A)および共重合体(B)以外の成分の含有量は、重合体(A)および共重合体(B)の合計100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0076】
〈3次元造形用組成物の形態〉
3次元造形用組成物の形態は、成形品であってもよい。成形品の成形方法は特に制限はなく、押出成形等の公知の成形方法で成形された成形品でもよい。また、成形品の形態は、ペレット又はフィラメントであってもよい。
ペレットは、予め形状が付与された少量の固形物を指す。
フィラメントは、細長い紐状で均一な断面をもつ長尺状物を指す。フィラメントは、一般にリールに巻きつけた形態で用いられる。
【0077】
3次元造形用組成物は、ペレットおよびフィラメントのいずれの形態でもよく、ペレットおよびフィラメントの両方の形態の材料が混在した混合物でもよい。3次元造形用組成物の形態は、サイズが比較的大きい造形体を造形する観点では、ペレットが好ましい。
【0078】
3次元造形用組成物をペレットに成形する場合、その成形方法は限定されない。ペレットの成形方法としては、例えば、3次元造形用組成物を、溶融押出機(例:二軸押出機)により混練押出し、押出された棒状のストランドをペレタイザーにて切断する方法が挙げられる。また、溶融押出機に投入する3次元造形用組成物は、ドライブレンド物であってもよい。ドライブレンド物は、3次元造形用組成物の一部または全部を予めヘンシェルミキサー等により混合して調製される。
【0079】
≪3次元造形用フィラメント≫
本発明の3次元造形用フィラメントは、前記3次元造形用組成物を溶融紡糸し、更に延伸することにより製造される。溶融紡糸には、公知の溶融紡糸方法を採用することができる。また、延伸についても公知の方法を採用することができる。
【0080】
本発明のフィラメントの製造方法としては、例えば、前記3次元造形用組成物を、単軸押出機もしくは二軸押出機のダイス孔より溶融ストランドとして押出成形し、冷却水槽に導き、ストランドを得る押出工程と、ストランドを延伸する延伸工程と、延伸したフィラメントを巻き取る巻取工程とを含む方法を挙げることができる。
【0081】
押出は、重合体(A)の融点(Tm)~融点(Tm)+130℃の範囲の温度で行い、ダイスから吐出された溶融ストランドを水槽中に浸漬させて冷却する。その水温は、目的とするフィラメントの直径にもよるが、好ましくは5~60℃、より好ましくは7~50℃、さらに好ましくは10~40℃の範囲である。水温が高いと、ストランドの冷却不足が生じ、軟らかいまま次の延伸行程へ導入されるため、引取ロール(延伸ロール)での巻き取り不良を引き起こす場合がある。
【0082】
本発明における延伸とは、フィラメントを材料の融点以下の温度で機械的に引き伸ばし、引張方向と平行に分子鎖を配向させる操作をいう。この操作により引張強さは著しく向上し、靱性を増す。延伸工程の後、延伸温度以上に再加熱すると元の寸法に収縮しようとする性質が表れるため、寸法や強度の安定性をはかるために、延伸温度よりやや低い温度で熱処理(熱固定、ヒートセット)を行うことがある。
【0083】
本発明では、押出工程で得られたストランドを、特定の温度に加熱して延伸を行う。延伸は、入口側の引取ロールと出口側の引取ロールとの速度比(延伸倍率)によって行い、このときの延伸倍率は好ましくは2~15倍である。延伸時の加熱方法は、温水槽、オーブン、熱ロール等のいずれを用いてもよく、何ら制限はないが、より均一に加熱延伸するには温水槽がより好ましい。
【0084】
温水槽を用いた延伸は、水温調節可能な長さと深さを有する水槽と、その前後に引取ロールとを配置することにより実現可能である。オーブンを用いた延伸は、電気式ヒーター(赤外線ヒーター)を熱源として引取方向に配置しており、温度調節可能な長さ数mのオーブンと、その前後に引取ロールを配置することにより実現可能である。また、熱ロールを用いた延伸は、水配管、油配管、および、内部に配置された電気ヒーターなどにより温度調節された複数の引取ロールを設置し、ロールの回転速度を調節することにより実現可能である。
【0085】
延伸時の温度条件は、温水槽、オーブン、熱ロール等いずれの装置及び方法を選択してもほぼ同じであり、延伸前のフィラメントの表面温度が重合体(A)のガラス転移温度(Tg)~融点(Tm)の範囲が好ましく、Tg~Tm-30℃の範囲がより好ましく、Tg~Tm-60℃の範囲がさらに好ましい。表面温度がTgに満たない場合は、延伸切れが起こったり、2倍以上の延伸が不可能となったりする場合がある。逆にTmを越える場合は、延伸による強度発現の効果が少なくなる。
【0086】
延伸倍率は、通常2~15倍、好ましくは3~12倍、より好ましくは4~10倍である。延伸倍率が2倍に満たない場合は、延伸操作による強度発現が不充分となる場合がある。逆に、15倍を超える延伸倍率では、延伸切れを起こしやすくなる、ボイドを生じて白化する、フィラメントが縦割れやすくなるなどのトラブルが発生する場合がある。
【0087】
2~15倍の延伸を行う方法としては、1段の延伸処理で行う方法の他に、複数回の延伸を適宜組み合わせて、2段、3段~多段の構成とし、各段で小倍率の延伸を行い、全体の延伸倍率を2~15倍とする方法でもよい。
【0088】
多段の延伸を行う場合には、例えば、1段目で1.1~10倍、2段目で1.5~12倍というように、順次延伸倍率を変化させ、全体的な延伸倍率が2~15倍となるようにし、同時に加熱温度条件は前記温度範囲において、1段目を一番低く、段数を増す毎に順次温度を高くする方法が好ましい。
【0089】
本発明では、延伸したフィラメントを更に熱処理(熱固定)し、高温下での物性変化(例えば、収縮)を抑制することができる。重合体(A)のガラス転移温度(Tg)~融点(Tm)の間の温度で熱処理する方法としては、好ましくは20~140℃、より好ましくは30~120℃に設定した加熱槽に導き、熱処理(熱固定)を行った後、冷却槽にて冷却する方法が挙げられる。熱処理には、延伸操作の場合と同様に、水槽、オーブン、熱ロール等いずれの方法を用いてもよく、何ら制限はない。また、冷却には、水冷、空冷いずれの方法でも良く、何ら制限はない。
最後に、延伸したフィラメントを巻取機により専用のカートリッジ、ボビンまたはコーンにより巻き取り、フィラメントの巻物を得ることができる。
【0090】
本発明の3次元造形用フィラメントの直径は、造形工程で用いる3次元プリンターの設計仕様や造形に使用するシステム能力などにも依るが、通常は1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは1.6mm以上である。一方で上限は通常4.0mm以下、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは3.0mm以下である。
【0091】
本発明の3次元造形用フィラメントの真円度は、通常0.93以上、好ましくは0.95以上であり、上限は1.0である。なお、真円度は、フィラメント上の所定の間隔をあけた複数の点について、ノギスで長径と短径を測定し、それぞれの測定点についての短径/長径の比率を平均した値とすることができる。真円度が1.0に近いほど、フィラメントの断面が真円状に近い。
前記範囲の直径および真円度を有するフィラメントは、造形性に優れているため、外観や表面性状等に優れた造形体の製造に適している。
【0092】
≪造形体の製造方法≫
造形体の製造方法は、既述の本開示の3次元造形用組成物を溶融する溶融工程と、溶融された3次元造形用組成物を3次元プリンターのノズルから押し出し、造形体を造形する造形工程と、を有している。溶融工程および造形工程は、この順で実行される。
【0093】
(溶融工程)
溶融工程は、前記3次元造形用組成物を溶融する。3次元造形用組成物を溶融する加熱手段は、特に制限されず、公知の加熱手段が適用できる。
【0094】
溶融工程では、例えば電気ヒーター等の加熱手段を備えた3次元プリンターを用いることが好ましい。
【0095】
3次元造形用組成物を溶融する温度は、特に制限されず、3次元造形用組成物に含まれる重合体(A)および共重合体(B)の性質に応じて適宜設定すればよい。3次元造形用組成物を溶融する温度は、例えば、重合体(A)の融点またはガラス転移温度(Tg)のいずれか高い温度を基準として、+10℃~150℃の温度としてもよい。
【0096】
溶融工程では、例えば、3次元造形用組成物を溶融し、かつ混練してもよい。特に、3次元造形用組成物がガラス繊維を含む場合、溶融工程では、3次元造形用組成物を溶融し、かつ混練することが好ましい。3次元造形用組成物が溶融及び混練されたことにより、3次元造形用組成物に含まれる重合体(A)と共重合体(B)とは、より均一に混ざる傾向にある。そのため、得られた造形体の材料のムラが生じることが抑制され易い。その結果、造形体の変形がより抑制される傾向にある。
【0097】
(造形工程)
造形工程では、溶融工程で溶融された3次元造形用組成物をノズルから押し出し、造形体を造形する。
【0098】
造形工程では、例えば、溶融された3次元造形用組成物を3次元プリンターのノズルから押し出し、複数の2次元データをもとに、2次元層を基板の上に順次積層することにより、造形体を造形することができる。複数の2次元データは、スライサーソフトウェアによって、造形される造形体の3次元の座標データが輪切りにされて、生成される。
【0099】
3次元プリンターは、材料押出方式の3次元プリンターを用いることができる。材料押出方式の3次元プリンターは、特に制限はなく、公知の装置または公知の装置構成を適用することができる。
【0100】
3次元プリンターは、例えば、シリンダーと、ノズルと、加熱手段と、を備えた装置であってもよい。シリンダーには、3次元造形用組成物が供給される。ノズルは、シリンダーの3次元造形用組成物の吐出方向の下流側の部位に設けられる。ノズルは、3次元造形用組成物を吐出する。加熱手段は、シリンダーに設けられる。加熱手段は、3次元造形用組成物を加熱し溶融する。
3次元プリンターは、加熱溶融された3次元造形用組成物をノズルから押し出し、ノズルから押し出された3次元造形用組成物を積層造形する。これにより、3次元造形体が造形される。
【0101】
シリンダーは、その内部にスクリューを有していてもよい。スクリューは、3次元造形材料を混練する。
3次元プリンターは、テーブル装置をさらに備えていてもよい。テーブル装置は、ノズルに対向して配置される。テーブル装置上には、ノズルから押し出される溶融状態の3次元造形用組成物が積層される。
3次元プリンターは、制御手段をさらに備えていてもよい。制御手段は、基板及びノズルの空間座標、並びに、ノズルから押し出される3次元造形用組成物の量を制御する。制御手段は、ノズルから押し出される溶融状態の3次元造形用組成物の吐出を制御し、かつ、ノズル及び/又はテーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御することが好ましい。
【0102】
(他の工程)
本発明に係る造形体の製造方法は、例えば、加工工程をさらに有してもよい。加工工程では、造形工程で造形された造形体を加工処理する。
【0103】
<造形体>
本発明に係る造形体は、前記3次元造形用組成物から形成された造形体である。このため、造形体の熱収縮等に起因した変形が抑制されている。
【0104】
本発明に係る造形体は、前記3次元造形用組成物から形成された造形体であれば特に制限はなく、いずれの方法で造形されたものでもよい。中でも、本発明に係る造形体は、前記の造形体の製造方法により造形されたものであることが好ましい。
【実施例0105】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例における重合体物性の測定方法、使用重合体、試験片の作製方法、および評価方法は次のとおりである。
【0106】
≪重合体の物性の測定方法≫
<構成単位の含有率>
実施例および比較例で用いた重合体の各々について、4-メチル-1-ペンテン含量、およびα-オレフィン含量は、以下の装置および条件により13C-NMRで測定した結果を基に算出した。ただし、本測定結果のα-オレフィン含量には、4-メチル-1-ペンテンの含量は含まれない。
【0107】
日本電子社製ECP500型核磁気共鳴装置を用いて、オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、試料濃度55mg/0.6ml、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定した。得られた13C-NMRスペクトルにより、各重合体の組成を定量化した。
【0108】
<メルトフローレート(MFR)>
ASTM D1238に準拠して、重合体(A)は、温度260℃、5kg荷重で測定し、共重合体(B)は、温度230℃、2.16kg荷重で測定した。
【0109】
<融点(Tm)>
JIS K7121に準拠し、日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計DSC7000Xを用い、昇温速度10℃/分で測定される融解ピーク頂点の最も高い温度を融点とした。
【0110】
<極限粘度>
ウベローデ粘度計を用いて、デカリン溶媒中135℃で、極限粘度を求めた。まず、実施例および比較例で用いた重合体の各々について試料を約20mg採取した。なお、試料の形態は、重合パウダー、ペレット、フィラメント、樹脂塊等の種々の形態のいずれでもよい。採取した試料をデカリン15mlに溶解して、135℃に加熱したオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同じように比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)をゼロに外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として算出した(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0111】
<重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn値)>
実施例および比較例で用いた重合体の各々について、分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
具体的には、液体クロマトグラフとしてWaters社製ALC/GPC150-Cplus型(示差屈折計検出器一体型)を用い、分離カラムとして東ソー社製GMH6-HTを2本、およびGMH6-HTLを2本直列接続して用い、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼン、酸化防止剤として0.025質量%のジブチルヒドロキシトルエン(武田薬品工業社製)を用い、移動相媒体を1.0ml/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mlとし、試料注入量は500μLとし、検出器は示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンとしては、重量平均分子量(Mw)が1,000以上、4000,000以下において、東ソー社製の標準ポリスチレンを用いた。
【0112】
得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを用いて検量線を作成して解析することで、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn値)を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0113】
<密度>
密度は、JIS K7112に準拠して、密度勾配管を用いて測定した。
【0114】
≪重合体の合成≫
<合成例1:重合体(A-1)の合成>
国際公開第2006/054613号の比較例9に記載の重合方法に準じて、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、および、水素の割合を変更することで、重合体(A-1)を得た。各物性の測定結果を表1に示す。
【0115】
<合成例2:共重合体(B-1)の合成>
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、23℃でn-ヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテン450mlを装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入して攪拌した。
【0116】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.40MPaとなるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいたアルミニウム換算で1mmolのメチルアルミノキサン、および0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含むトルエン溶液0.34mlをオートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始した。重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度を調整した。重合開始から60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液にアセトンを添加しながら攪拌した。
【0117】
得られた溶媒を含むパウダー状の共重合体を100℃、減圧下で12時間乾燥した。生成物である共重合体(B-1)の重量は36.9gで、共重合体(B-1)中の4-メチル-1-ペンテン含有量は72.4モル%、プロピレン含有量は27.6モル%であった。示差走査熱量計(DSC)で測定を行ったところ、融点は観測されなかった。各物性の測定結果を表1に示す。
【0118】
<合成例3:共重合体(CB-1)の合成>
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付のSUS製オートクレーブに、23℃でn-ヘキサン300ml(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、4-メチル-1-ペンテン450mlを装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入して攪拌した。
【0119】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.19MPaとなるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいたアルミニウム換算で1mmolのメチルアルミノキサン、および0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含むトルエン溶液0.34mlをオートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始した。重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度を調整した。重合開始から60分後、オートクレーブにメタノール5mlを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液にアセトンを添加しながら攪拌した。
【0120】
得られた溶媒を含むパウダー状の重合体を130℃、減圧下で12時間乾燥した。生成物である共重合体(CB-1)の重量は、44.0gで、共重合体(CB-1)中の4-メチル-1-ペンテン含有量は84.1モル%、プロピレン含有量は15.9モル%であった。示差走査熱量計(DSC)で測定を行ったところ、融点は130℃であった。各物性の測定結果を表1に示す。
【0121】
<各重合体の動的粘弾性測定>
前述の方法で得られた重合体(A-1)、共重合体(B-1)および共重合体(CB-1)のそれぞれをSUS製型枠に所定量充填し、重合体(A-1)の場合は加熱盤270℃、共重合体(B-1)および共重合体(CB-1)の場合は加熱盤200℃に設定し、油圧式熱プレス機(関西ロール社製PEWR-30)を用いて、予熱7分間、ゲージ圧10MPaで2分間加圧した後、20℃に設定した冷却盤に移し替え、ゲージ圧10MPaで圧縮して3分間冷却し、厚み2.0mmの測定用プレスシートを作製した。
【0122】
次に、上述の方法で得られた厚み2.0mmの測定用プレスシートを、レオメーター(アントンパール社製MCR301)により、トーションモード、周波数10rad/s(1.6Hz)、歪み量0.1%、昇温速度2℃/分の条件で、-40~150℃における動的粘弾性の温度分散を観測し、tanδピーク値およびtanδピーク温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0123】
【0124】
[実施例1]
<調製例1:3次元造形用組成物の調製>
重合体(A-1)60質量部と共重合体(B-1)40質量部とをドライブレンドして、3次元造形用組成物とした。
【0125】
〈引張弾性率の測定〉
加熱温度200℃、プレス圧力50MPa、プレス時間3分の条件で、得られた3次元造形用組成物を熱プレス成形して、2mm厚の測定用熱プレス角板を得た。この板をJIS K7161-2:2014に規定される1BA形試験片形状で打ち抜いた。測定用熱プレス品の全長は、75mmであった。得られた測定用熱プレス品の引張弾性率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0126】
〈ショアD硬度の測定〉
上記に記載した、3次元造形用組成物の測定用熱プレス角板3枚を重ね、合計厚み6mmとして用いて、JIS K6253に準拠してショアD硬度計で測定した。押針接触開始直後の数字をショアD硬度として得た。得られた結果を表2に示す。
【0127】
〈フィラメントの製造〉
3次元造形用組成物を二軸押出機中で溶融混錬し、吐出して冷却水槽中で冷却し、ストランドとした。その後、得られたストランドを温水槽中で延伸することで、直径1.75mmのフィラメントを作製した。
【0128】
〈造形体の製造と評価〉
得られた直径1.75mmのフィラメントを材料として、日本3Dプリンター社の3Dプリンター機種「Raise3D Pro2」を用いて造形体A1~A4を作製した。このとき、形状データをAutodesk社のソフトウェア「Fusion360」で作成し、Simplify3D社のソフトウェア「Simplify3D」にて造形条件を決定した。造形テーブルは40℃、ノズル温度は290℃、造形速度は60mm/s、内部充填率100%の造形条件にて、評価用サンプルを作製した。
【0129】
造形体A1は、長さ40mm、幅20mm、厚さ2mmの矩形板形状を有し、造形体A2は、長さ80mm、幅40mm、厚さ2mmの矩形板形状を有する。
造形体A3は、底面の直径が80mm、高さが40mmの歯形造形体である。造形体A3は、造形体A1および造形体A2と比較して、凹凸形状が増加し、ヒトの歯並びおよび歯茎などを再現するための微細な造形が求められること、造形体の体積増加に伴う造形時間の増加により、造形テーブルと造形体の間に強力な接着が求められることなどから、造形体A1および造形体A2と比較して造形が困難である。
造形体A4は、底面の長さ40mm、幅10mm、全長の長さ60mm、高さが50mmの舟形造形体である。舟形の造形体A4は、船首が底面から浮いており、積層造形時の支持体となる下層部分より上層部分の方が大きくなることなどにより、造形体A3よりも造形が困難な造形体である。
【0130】
造形体について、造形完了の可否、造形テーブルから離型後の造形体の形状から、以下の評価基準に基づき評価を実施した。
(評価基準)
〇:造形が途中で停止することなく完了し、離型後の造形体の反り量が2mm未満。
△:造形が途中で停止することなく完了し、離型後の造形体の反り量が2mm以上。
×:造形途中に造形体が反ることで、造形が途中で停止した。
××:フィラメントを装置に設置不可。
-:造形未実施。
【0131】
離型後の造形体の反りは、造形体を定盤に載置し、前記定盤からの造形体底面の浮き上がり量を計測することにより、評価した。前記浮き上がり量の最大値を造形体の反り量と規定した。各測定結果を表2に示した。
【0132】
<比較例1~7>
3次元造形用組成物の調製に使用する重合体(A-1)、共重合体(B-1)、および、共重合体(CB―1)の量を表2に示すように変更した他は、実施例1と同様に、3次元造形用組成物を調整し、引張弾性率の測定、ショアD硬度の測定、造形体の製造および得られた造形体の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0133】