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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124622
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】電解加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 3/02 20060101AFI20230830BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B23H3/02 B
B25J11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028498
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 智広
【テーマコード(参考)】
3C059
3C707
【Fターム(参考)】
3C059AA02
3C059AB01
3C059BB00
3C059CC03
3C059DA07
3C059EA02
3C059JA08
3C707AS12
3C707BS24
3C707HS26
(57)【要約】
【課題】被加工物の加工面の加工精度が高い電解加工方法の提供を目的とする。
【解決手段】電解液中にて被加工物に対して工具電極を走査させる電解加工方法であって、
前記工具電極を陰極とし、前記被加工物を陽極とするとともに、工具電極と被加工物との間に印加する印加電圧をパルス制御してあり、
前記パルス制御は前記工具電極の走査速度に応じて可変制御されていることを特徴とする。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液中にて被加工物に対して工具電極を走査させる電解加工方法であって、
前記工具電極を陰極とし、前記被加工物を陽極とするとともに、工具電極と被加工物との間に印加する印加電圧をパルス制御してあり、
前記パルス制御は前記工具電極の走査速度に応じて可変制御されていることを特徴とする電解加工方法。
【請求項2】
前記パルス制御は、パルス幅変調制御又はパルス周波数変調制御であることを特徴とする請求項1記載の電解加工方法。
【請求項3】
前記工具電極の走査速度は、最高速度が500mm/sまで可変可能であることを特徴とする請求項1又は2記載の電解加工方法。
【請求項4】
前記工具電極は、被加工物に向けて電解液を供給できるノズル電極であり、
前記工具電極の走査手段が工具電極を保持するエンドエフェクタと駆動部と、前記エンドエフェクタと前記駆動部とを複数のリンクでリンク連結したパラレルメカニズムになっていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の電解加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解液中で工具を陰極にし、工作物等の被加工物を陽極にした状態で工具を走査させながら電解反応により、所定の加工面に仕上げる電解加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解加工においては、被加工物に所望する加工面が得られるまで工具電極をNC制御にて繰り返し、往復移動走査や少しずつずらしながらピックフィード走査させることになる。
したがって、工具電極は高速移動領域、低速移動領域等の移動速度に変化が生じる。
また、工具電極と被加工物との間の局所的な電解反応を繰り返しながら加工する際に、工具電極の直下領域とその周辺領域では電流密度に差が生じ、加工面の表面粗さ等にバラツキが発生しやすいことから、工具電極を高速走査させることが望ましい。
【0003】
特許文献1には工具電極として棒状電極を用い、被加工物の加工面に倣って移動させる際に、この工具電極の移動速度に比例した電流印加を行いながら電解仕上げ加工する技術を開示する。
本技術は同公報図11に記載されているとおり、直流電流を用い、棒状電極の移動速度に応じて加工電圧を変化させているものである。
これでは加工電圧が低下した際には、棒状電極と被加工物との間に流れる電流密度が小さくなるため加工面の表面粗さが大きくなる技術課題がある。
また、同公報に開示する走査手段は駆動用サーボモータを用いたボールネジ送り機構によるため走査速度が3000mm/min(50mm/s)程度と遅いために加工面の表面粗さにバラツキが生じやすく、表面粗さが大きくなる恐れがある。
さらには、棒状電極であるために加工面との間に生じる電解反応物の除去作用が不充分である恐れもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-43948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被加工物の加工面の加工精度が高い電解加工方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電解加工方法は、電解液中にて被加工物に対して工具電極を走査させる電解加工方法であって、前記工具電極を陰極とし、前記被加工物を陽極とするとともに、工具電極と被加工物との間に印加する印加電圧をパルス制御してあり、前記パルス制御は前記工具電極の走査速度に応じて可変制御されていることを特徴とする。
ここで印加電圧をパルス制御するとは、陰極となる工具電極と陽極となる被加工物との間に電圧を印加する際に電圧のON/OFFをパルス信号にて実行することをいう。
また、工具電極の走査はNC制御されているのが好ましい。
【0007】
パルス制御には、パルス周期が一定でデューティー比と称されるON/OFF比を変化させるパルス幅変調制御(PWM:Pulse Width Modulation)、パルスの周期を変調するパルス周波数変調制御(PFM:Pulse Freguency Modulation)、及びパルス電圧を可変するパルス振幅変調制御(PAM:Pulse Amplitude Modulation)等が例として挙げられる。
本発明においては走査速度を変化させても、被加工物の加工面の局所的単位面積当たりの印加電力量が一定になるように制御することで、電解反応量が均一になるようにした点に特徴がある。
従って、工具電極の走査速度(移動速度)が相対的に速い領域では印加時間が長く、逆に走査速度が相対的に遅い領域では印加時間が短くなるように制御しやすい点では印加電圧が一定でパルス幅変調制御又は、パルス周波数変調制御が好ましい。
【0008】
本発明において、前記工具電極の走査速度は、最高速度が500mm/sまで可変可能であるのが好ましい。
工具電極を移動させる際に高速である方が電極直下以外の周辺領域の影響が小さく、表面粗さを小さく抑えることができる。
そこで例えば、前記工具電極は、被加工物に向けて電解液を供給できるノズル電極であり、前記工具電極の走査手段が工具電極を保持するエンドエフェクタと駆動部と、前記エンドエフェクタと前記駆動部とを複数のリンクでリンク連結したパラレルメカニズムになっている例が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
電解加工において、工具電極と被加工物との間に連続的に電圧を印加しながら加工面に倣って走査させると、例えば繰り返し往復走査にて溝を形成する場合で説明すると、工具電極の移動は終端付近にて低速させて反転させることになるが、この間では電解反応が高速走査領域よりも進行することになり、その分だけ折り返し部での加工量が多くなるので加工面の深さが不均一になる恐れがあった。
これに対して本発明は、高速領域では印加時間が長く、低速領域では印加時間が短くなるようにして加工面のそれぞれの局部的な部位における総印加時間が同じになるように制御したので走査速度が変化しても加工深さが均一になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】溝加工を電解加工にて行う場合の模式図を示す。
図2】(a)はパラレルメカニズムの原理を示し、(b)は本実施例に用いた3自由度パラレルメカニズムの構成例を示す。
図3】電解加工条件を示す。
図4】エンドエフェクタを速度100mm/sで往復運動をさせた場合の運動方向が切り替わる点での速度変化を示す。
図5】電圧制御の原理を示し、(a)は電圧制御を行わなかった場合、(b)は低速方向に比例して電圧の印加時間を短くした場合を示す。
図6】電解加工における単位除去形状と速度分布を示す。
図7】シミュレーション結果を示す。 (a)は全体、(b)は溝の端部付近を拡大した図である。
図8】加速時のエンドエフェクタの速度と、極間の印加される電圧をオシロスコープで測定した結果(グラフ)を示す。
図9】溝の長手方向の断面形状を示す。 電圧制御した場合をWith control、電圧制御しなかった場合をWithout controlとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るNC制御を用いた電解加工の例を図1に示した溝加工を例にして説明するが、本発明はこれに限定されない。
図1は、工具電極1としてノズル型のパイプ電極(ノズル電極)を用いて電解液中で、被加工物2に溝状の加工面3を形成する模式図を示す。
溝を電解加工にて形成する場合には工具電極を陰極にし、被加工物を陽極にし、この工具電極をNC制御にて往復走査させる。
図1の下段に拡大図を示す。
【0012】
工具電極の走査手段として本実施例では、図2(a)に示した原理に基づき、図2(b)に示した3自由度パラレルメカニズムを走査手段として用いた。
図2(a)に示すように、パラレルメカニズムはリンク連結により駆動部がそれぞれ独立して動くので、X,Y,Z軸方向に相互にスライド移動する機構よりも慣性力の影響を受けにくい。
図2(b)に示した実施例では、3つの直動機構(リニアモータ)を等角度(120°)で水平に配置している。
直動機構には、リニアモータの一種であるシャフトモータ(ジイエムシーヒルストン,GHR15,ストローク300mm)を用いた。
直動機構とエンドエフェクタを繋ぐリンクには長さの等しい6本のロッドが用いられ、各直動機構とエンドエフェクタが高精度球面軸受(ヒーハイスト株式会社,SRJ006C)を介して、平行な2本のロッドで接続されている。
また、このエンドエフェクタに工具電極を固定し、工具を走査することで加工を行う。
工具電極には直径3mm,内径0.75mmの中空黄銅パイプを用いる。
実験方法の概要を図3に示す。
工作物には炭素鋼(S50C)を用いた。
電解液には中性の20wt.%のNaNO水溶液を使用し,ポンプで工具電極の中心穴から電解液を極間へ供給する。
なお、電極側面での加工を防ぐために電極側面を絶縁用の塗料によって電気的に絶縁した。
また、パイプ電極のノズルから工作物上面に電解液を供給し、工作物(被加工物)と工具電極が電解液に浸漬された状態で加工を行った。
【0013】
エンドエフェクタの速度が実際にどのように変化するのか、測定を行い、
図4にエンドエフェクタを速度100mm/sで往復運動させた場合の運動方向が切り替わる点での速度変化を示す。
100mm/sから減速して停止し、反対方向に加速して-100mm/sに達するように制御したが、この減速と加速にあわせて50msほどの時間を要しており、このような低速領域が加工形状に影響を与えていると思われる。
【0014】
走査加工において、あるX座標における除去形状h(x)は単位除去形状をf(x),速度分布をV(x)とおくと、(1)式のように畳み込み積分の形で求めることができる。
式(1)から分かるように,除去形状,つまり加工深さは速度に反比例する。
従って、加減速により速度が遅くなる場所では、加工深さが増加してしまう。
図5(a)はパルス制御を行わなかった場合を表しており、速度が遅い点でも一定の大きさで電圧を印加しているため、その部分での局所的な電解反応が進むのに対して、(b)のように速度が遅い点では一定周期のパルス電圧を印加することで電解加工の均一化を検討した。
【0015】
前節で述べたパルス制御の原理が正しいことを確認するために、(1)式を用いて加工形状のシミュレーションを行った。
まず、加工形状のシミュレーションに必要な単位除去形状と速度分布を実験によって測定した。
単位除去形状には極間距離100μm,印加電圧10V,電圧の印加時間1sで電極を移動させずに加工したものを使用した。
電極の速度分布は,電極の送り速度を100mm/sとし、移動経路は原点からX方向に+10mm移動したのち、X方向に-20mm移動し、そこからX方向に+10mm移動することで原点に戻るという動作を10回繰り返した。
図6は左側に単位除去形状と右側に速度変化を示す。
これらを用い、パルス制御の有無による加工形状のシミュレーションを行った。
シミュレーションの結果を図7(a)に示す。
Without controlはパルス制御を行わない連続的な印加電圧であり、Pulse period 3msはパルス周期3msで、減速に合せてデューティー比を小さくなるように変化させた場合の加工溝の断面形状である。
また、図7(b)に溝の端部分を拡大したものを示す。
この結果からパルス制御を行わなかった場合に見られた局所的に加工深さが増加してしまうという現象が、速度に応じた印加電圧のパルス制御を行うことで改善されるという結果が得られた。
【0016】
実際に速度に応じて印加電圧をパルス制御した溝加工を行った。
パルス制御を行うために、リニアモータドライバから出力される各リニアモータの位置座標と速度座標に応じた電圧をマイコンに取り込み、エンドエフェクタの速度をリアルタイムで計算する。
印加する電圧のパルス制御方法は、PWM制御と同様であり、周期を3ms固定とし、3msに一回エンドエフェクタの速度に応じてON時間のパルス幅を0~3msの間で変化させている。
実際に加工を行った場合の、加速時のエンドエフェクタの速度と極間に印加される電圧をオシロスコープで測定したグラフを図8に示す。
エンドエフェクタの速度と工具電極に印加される電圧を表している。
このようにエンドエフェクタの速度が遅い場所、すなわち滞在時間の長い場所では電圧の印加時間を短くすることで、加工面の電圧の印加時間をおおよそ一定にすることができる。
【0017】
実際に電圧を制御した電解加工実験を行った。
電解液の供給圧力0.36MPa,印加電圧の大きさ10V,極間距離100μm,電極の送り速度は最高速度100mm/sとしている。
電極の移動経路は原点からX方向に+10mm移動したのち、X方向に-20mm移動し、そこからX方向に+10mm移動することで原点に戻るという動作を10回繰り返して溝加工した。
図9にパルス制御を行わない場合(Without control)とパルス制御を行った(With control)溝の長手方向の断面形状を示す。
本実施例ではパルス周期を3msとし、パルス周期のうち電圧が印加されているデューティー比を速度が低下するのに比例して小さくした。
なお、パルス制御を行わない場合では直流電源で加工しているため、電源のON/OFFを手作業で行っている影響で中心が深くなってしまっている。
パルス制御を行わない場合の加工では運動の方向が切り替わる溝の端部において加工深さが深くなっている。
また、局所的に加工深さが深くなりくぼみが発生している。
一方で、パルス制御を行った場合の加工では、これらが生じることなく加工面が平滑であった。
これらのことから、速度に応じたパルス制御を行うことにより加工精度を改善することができた。
【符号の説明】
【0018】
1 工具電極
2 被加工物
3 加工面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9