(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124623
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】電池システム及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 7/04 20060101AFI20230830BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230830BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H02J7/04 L
H02J7/00 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028499
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
(72)【発明者】
【氏名】内藤 駿弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智晃
(72)【発明者】
【氏名】円子 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】大樂 陽介
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 健志
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA08
5G503CB11
5G503CB13
5G503EA05
5G503FA06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】 長寿命で安定化するように外気温に適応するSOCに制御された二次電池により、移動体の機動性も確保できる電池システムを提供する。
【解決手段】 複数の電池セルを有して移動体に積載される蓄電システムと、蓄電システムの充電率を制御する充電率制御部と、を備える電池システムであって、充電率制御部は、移動体の運用が終了される際の充電設備から蓄電システムに対する充電を、蓄電システムの温度と蓄電システムの充電率に基づいて充電制御し、充電制御の条件として、蓄電システムの温度が第1温度閾値より大きい状態では、蓄電システムの充電率が第1充電率閾値より大きくなるようにし、蓄電システムの温度が1温度閾値以下の第2温度閾値より小さい状態では、蓄電システムの充電率が第1充電率閾値以下の第2充電率閾値より小さくする。温度は蓄電池温度の測定値か予測値又は環境温度から換算しても良い。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルを有して移動体に積載される蓄電システムと、
当該蓄電システムの充電率を制御する充電率制御部と、
を備える電池システムであって、
前記充電率制御部は、
前記移動体の運用が終了される際の充電設備から前記蓄電システムに対する充電を、前記蓄電システムの温度と当該蓄電システムの充電率に基づいて充電制御し、
充電制御の条件として、
前記蓄電システムの温度が第1温度閾値より大きい状態では、前記蓄電システムの充電率が第1充電率閾値より大きくなるようにし、
前記蓄電システムの温度が前記1温度閾値以下の第2温度閾値より小さい状態では、前記蓄電システムの充電率が前記第1充電率閾値以下の第2充電率閾値より小さくなるようにする、
電池システム。
【請求項2】
前記蓄電システムの温度は、前記複数の蓄電池の少なくとも一つの蓄電池温度、その測定値、又は、その予測値であり、さらに、環境温度から換算しても良く、
前記充電率は、前記複数の蓄電池の少なくとも一つの蓄電池の測定値である、
請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記充電制御の条件として、
温度の情報に電池温度を適用する場合、前記第1温度閾値は30℃以上に設定され、前記第2温度閾値は30℃以下に設定され、
温度の情報に環境温度を適用する場合、前記第1温度閾値は25℃以上に設定され、前記第2温度閾値は25℃以下に設定される、
請求項1に記載の電池システム。
【請求項4】
前記充電制御の条件として、
前記第1充電率閾値は充電率70%以上に設定され、前記第2充電率閾値は充電率70%以下に設定される、
請求項1に記載の電池システム。
【請求項5】
前記充電制御の条件として、
温度の情報に電池温度を適用する場合、前記第1温度閾値は35℃以上に設定され、前記第2温度閾値は20℃以下に設定され、
温度の情報に環境温度を適用する場合、前記第1温度閾値は30℃以上に設定され、前記第2温度閾値は10℃以下に設定される、
請求項1に記載の電池システム。
【請求項6】
前記充電制御の条件として、
前記第1充電率閾値は充電率75%~85%に設定され、前記第2充電率閾値は充電率50%~60%に設定される、
請求項1に記載の電池システム。
【請求項7】
前記充電率制御部は、
該充電率制御部が備えるメモリに、
前記移動体の運行終了時刻と、
前記移動体が運行終了直前に立ち寄る充電設備と、
該充電設備に立ち寄る時刻と、
の情報を格納しており、
前記運行終了時刻又はその所定時間前に充電を開始させる、
請求項1~6の何れか1項に記載の電池システム。
【請求項8】
前記移動体は鉄道車両であり、前記電池セルは、正極活物質材料に、スピネル型マンガン酸リチウムが使用されている、
請求項7に記載の電池システム。
【請求項9】
複数の電池セルを有して移動体に積載される蓄電システムと、
当該蓄電システムの充電率を制御する充電率制御部と、
を用いる電池制御方法であって、
前記充電率制御部は、
前記移動体の運用が終了される際の充電設備から前記蓄電システムに対する充電を、前記蓄電システムの温度と当該蓄電システムの充電率に基づいて充電制御し、
充電制御の条件として、
前記蓄電システムの温度が第1温度閾値より大きい状態では、前記蓄電システムの充電率が第1充電率閾値より大きくなるようにし、
前記蓄電システムの温度が前記1温度閾値以下の第2温度閾値より小さい状態では、前記蓄電システムの充電率が前記第1充電率閾値以下の第2充電率閾値より小さくなるようにする、
電池制御方法。
【請求項10】
前記蓄電システムの温度は、前記複数の蓄電池の少なくとも一つの蓄電池温度、その測定値、又は、その予測値であり、さらに、環境温度から換算しても良く、
前記充電率は、前記複数の蓄電池の少なくとも一つの蓄電池の測定値である、
請求項9に記載の電池制御方法。
【請求項11】
前記充電制御の条件として、
温度の情報に電池温度を適用する場合、前記第1温度閾値は30℃以上に設定され、前記第2温度閾値は30℃以下に設定され、
温度の情報に環境温度を適用する場合、前記第1温度閾値は25℃以上に設定され、前記第2温度閾値は25℃以下に設定される、
請求項9に記載の電池制御方法。
【請求項12】
前記充電制御の条件として、
前記第1充電率閾値は充電率70%以上に設定され、前記第2充電率閾値は充電率70%以下に設定される、
請求項9に記載の電池制御方法。
【請求項13】
前記充電制御の条件として、
温度の情報に電池温度を適用する場合、前記第1温度閾値は35℃以上に設定され、前記第2温度閾値は20℃以下に設定され、
温度の情報に環境温度を適用する場合、前記第1温度閾値は30℃以上に設定され、前記第2温度閾値は10℃以下に設定される、
請求項9に記載の電池制御方法。
【請求項14】
前記充電制御の条件として、
前記第1充電率閾値は充電率75%~85%に設定され、前記第2充電率閾値は充電率50%~60%に設定される、
請求項9に記載の電池制御方法。
【請求項15】
前記充電率制御部は、
該充電率制御部が備えるメモリに、
前記移動体の運行終了時刻と、
前記移動体が運行終了直前に立ち寄る充電設備と、
該充電設備に立ち寄る時刻と、
の情報を格納しており、
前記運行終了時刻又はその所定時間前に充電を開始させる、
請求項9~14の何れか1項に記載の電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池を備えた蓄電システムにとって、適切な温度や充電率(SOC:State Of Charge)で管理することは、二次電池の出力特性を安定して確保すると共に、二次電池の電池劣化を抑制する上でも重要である。例えば、特許文献1には、二次電池の温度情報と充電率情報を取得し、それらの情報に基づいて、二次電池の充電率が特定の閾値以上、かつ二次電池温度が特定の閾値温度以下の場合に、二次電池を放電状態に切り替える蓄電池制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の蓄電池制御装置では、低温環境下における二次電池が冷却されて二次電池温度が低下することを抑制できるため、二次電池の出力特性の低下を抑制する効果がある。しかし、特許文献1では、劣化抑制の観点から高温環境下における二次電池の充電率に関する制御技術や運行法については言及されていない。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、外気温に応じて二次電池のSOCを適切に制御することによって、二次電池の安定的な長期利用を可能にすると共に、それによる移動体の機動性も確保できる電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は、複数の電池セルを有して移動体に積載される蓄電システムと、蓄電システムの充電率を制御する充電率制御部と、を備える電池システムであって、充電率制御部は、移動体の運用が終了される際の充電設備から蓄電システムに対する充電を、蓄電システムの温度と蓄電システムの充電率に基づいて充電制御し、充電制御の条件として、蓄電システムの温度が第1温度閾値より大きい状態では、蓄電システムの充電率が第1充電率閾値より大きくなるようにし、蓄電システムの温度が1温度閾値以下の第2温度閾値より小さい状態では、蓄電システムの充電率が第1充電率閾値以下の第2充電率閾値より小さくなるようにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外気温に応じて二次電池のSOCを適切に制御することによって、二次電池の安定的な長期利用を可能にすると共に、それによる移動体の機動性も確保できる電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】二次電池出力の温度特性を示すグラフである。
【
図2】暖機処理に適用される矩形波を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施形態に係る電池システム(以下、「本電池システム」という)の概略を示す機能ブロック図である。
【
図4】温度閾値の設定に使用する電池劣化の温度特性(温度依存性)を示すグラフである。
【
図5】充電率閾値の設定に使用する電池劣化の充電率依存性を示すグラフである。
【
図6】本発明の変形例に係る電池システム(これも「本電池システム」という)の概略を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を用いて、本発明の実施の形態を詳述する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更、及び修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。また、以下では、二次電池(蓄電池)を、単に「電池」と略すこともある。
【0010】
[基本例]
図1は、二次電池出力の温度特性を示すグラフであり、横軸に温度[℃]を示し、縦軸に二次電池出力[W]を示している。
図1に示すように、10℃を下回る温度では、二次電池出力が急激に低下する温度特性が知られている。この温度特性は、二次電池の種類によって若干の違いがあるものの、本電池システム3,6(
図3、
図6)で用いられるリチウムイオン電池のほとんどが該当する。
【0011】
図2は、暖機処理に適用される矩形波を示すグラフであり、横軸に時間[秒]を示し、縦軸に充放電電流を示している。
図2のグラフにおいて、充電電流を正方向に示し、放電電流を負方向に示している。暖機処理では、ある程度の電力消耗を免れないとしても、最小限の電力消耗で効率的に電池を発熱させて保温するため、
図2に示すように、二次電池に繰り返し矩形波で充放電し、その充放電電流と内部抵抗(電池抵抗R)とより発生するジュール熱で二次電池を温める。これ以外の暖機処理の具体例については後述する。
【0012】
図3は、本発明の実施形態に係る電池システム(本電池システム)3の概略を示す機能ブロック図である。
図3では、本電池システム3の制御対象である蓄電システム40に対する制御フローも明示される。蓄電システム40を搭載した鉄道車両は、蓄電システム40の貯蔵電力により、非電化区間も走行可能となる。蓄電システム40は、直並列接続された複数の二次電池(電池セル)と、それら各々の電圧及び充放電電流を均一化するための制御機能を備えて構成される。
【0013】
充電率制御部(以下、「制御部」ともいう)61は、電力を蓄電システム40に充電するタイミング及び充電率(SOC)を制御する機能を有しており、制御部61と、電池の目標充電率データ62と、充電率目標の設定に使用する温度閾値63と、該蓄電システム40を搭載した鉄道車両の運行が終了する時刻情報(運行終了情報64)と、を備えて構成される。
【0014】
運行終了情報64は、列車ダイヤ等に基づいて、予め制御部61に登録されている。制御部61が備えるメモリには、データテーブルが形成されている。そのデータテーブルには、少なくとも、鉄道車両の運行終了時刻と、その運行終了時刻又はその所定時間前に立ち寄る充電設備と、の情報が格納されている。
【0015】
制御部61は、例えばソフトウェアを実行するコンピュータやハードウェアデバイスで形成された制御回路である。制御部61は、その外部(充電率検知部70、温度検知部71、及び計時装置80)から入力される情報や、内部に保持された情報(目標充電率62、温度閾値63)に基づいて所定の計算を行う。制御部61は、その計算結果に基づいて、蓄電システム40の充電率を決定するように制御する。あるいは、制御部61の下位でセルコントローラ等(Cell controller)が電池セルを常時又は定期的に計測しながら適宜に情報を制御部61へ届ける形態でも良い。
【0016】
制御部61は、目標充電率と温度閾値とが、それぞれ第1、第2どちらの値を使用するかについて、充電率検知部70で取得された充電率情報と、温度検知部71で取得された温度情報と、に基づいて充電率を決定する。この制御処理の詳細は後述する。なお、目標充電率62や温度閾値63は、制御部61に予め登録された値と、制御部61に逐次入力された値と、少なくとも何れかを適用すれば良く、両者を組み合わせても良い。
【0017】
制御部61が採択する目標充電率62や温度閾値63の設定値は、期間別に使い分けても良く、一例として、ある期間中は、制御部61の内部メモリに予め登録した値を使用し、それ以外の時期は、制御部61の外から入力した値を使用しても良い。
【0018】
目標充電率62は、第1目標充電率と第2目標充電率と、2つの目標充電率が設定される。第1目標充電率は、二次電池の劣化が進行し難くなるSOC値の閾値で規定される。第2目標充電率は、想定電流値での暖機処理を実施可能なSOCの上限値が設定される。
【0019】
ただし、第2目標充電率で設定されるSOC値が、鉄道車両の走行中に電池の残容量がゼロになりうるSOC値(SOC*)よりも小さい場合、第2目標充電率の値には、SOC*を採用する。場合によっては、これら第1、第2目標充電率の2つを同一値に設定して良い。同様に温度閾値63にも、第1温度閾値と第2温度閾値と、2つの温度閾値が設定される。これも場合によっては、これら第1、第2温度閾値の2つを同一値に設定して良い。
【0020】
運行終了情報64は、少なくとも、鉄道車両が運行を終了する時刻と、終了直前の時点で立ち寄る充電設備に関する情報と、その充電設備に立ち寄る時刻と、を有する。充電率検知部70は、蓄電システム40から、その充電状態の情報を取得する。
【0021】
温度検知部71は、蓄蓄電システム40の温度情報として、蓄電システム40内に備わる何れか一つ以上の蓄電池温度と、外気温と、の少なくとも1つ以上の温度情報を取得する。複数の温度情報が測定されている場合は、その中の最大値と最小値の両方を適用する。
【0022】
このように、取得容易な数値を妥当な基準で使い易く簡便にまとめた温度情報を「蓄電システム40の温度情報」という。蓄電システム40の温度特性は、内蔵された電池セルのさらに深部に位置する内部電極の温度で決まるとしても、真の温度を計測することは容易でないため、制御部61は、真の温度を代用するように、簡便にまとめた温度情報を充電率制御に採用する。
【0023】
以下では、具体的に場合分けして例示列挙しながら、制御部61が蓄電システム40の充電率を制御するための処理について説明する。制御部61は、鉄道車両の運行終了情報64に基づいて、運行が終了する直前の時点で立ち寄った充電設備において、制御処理を開始する。まず、制御部61は、温度検知部71から蓄電システム40の温度情報を取得する。
【0024】
このとき制御部61は、取得された温度値と、温度閾値63と、を比較すると共に、充電率検知部70から蓄電システム40の充電率情報を取得する。制御部61は、得られた温度の大小関係と、充電率情報と、に基づいて、以下のように蓄電池ステム40の充電率を制御する。ここで、温度検知部71から取得した温度値は、複数計測されている場合、その中の最大値のみを温度情報としても良い。
【0025】
温度検知部71から取得した温度値(複数計測されている場合は、それらの最大値)が第1温度閾値よりも大きく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第1目標充電率よりも低い場合、制御部61は蓄電システム40の充電率が目標充電率に達するまで充電する。
【0026】
温度検知部71から取得した温度値(複数計測されていれば、その最大値)が第1温度閾値よりも大きく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第1目標充電率よりも高い場合、制御部61は蓄電システム40に対して制御を実施しない。
【0027】
温度検知部71から取得した温度値(複数計測されていれば、その最小値)が第2温度閾値よりも小さく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第2目標充電率よりも低い場合、制御部61は蓄電システム40の充電率が第2目標充電率に達するまで充電する。
【0028】
温度検知部71から取得した温度値(複数計測されていれば、その最小値)が第2温度閾値よりも小さく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第2目標充電率よりも高い場合、制御部61は蓄電システム40の充電率が第2目標充電率に達するまで放電する。なお、蓄電システム40の温度と充電率が上記の何れにも該当しない場合、制御部61は蓄電システム40に対して制御処理を実施しない。
【0029】
以上の充電率制御を実施することで、高温環境下における蓄電池の劣化抑制と、低温環境下における暖機処理の効率化を両立できる。このことをスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)が正極に使用されている二次電池を例示する。
【0030】
なお、以下では二次電池の表面温度と充電率が測定されている場合を考える。このとき、第1温度閾値、及び第2温度閾値は、それぞれ30℃以上、及び30℃以下にすることが好ましく、35℃以上、及び25℃以下にするとなお好ましい。また、第1目標充電率、及び第2目標充電率は、それぞれ70%以上かつ70%以下にすることが好ましく、75%以上、及び60%以下であればなお好ましい。これらの理由について、
図4を用いて示す。
【0031】
図4は、温度閾値の設定に使用する電池劣化の温度特性を示すグラフであり、横軸に温度[℃]を示し、縦軸に劣化速度を示している。
図4の実線は、二次電池の劣化速度の温度特性であり、温度上昇に伴って二次電池の劣化速度は急増している様子が確認できる。このように、20℃を超えるあたりから徐々に劣化速度が高まり、40℃~50℃を超えると何らかの対策を要することになる。
【0032】
また、
図4の1点鎖線は、実線で示した温度特性における40℃以上の高温側における接線と、実線で示した温度特性におけ10℃以下の低温側での接線である。このように、低温側の接線と、高温側の接線と、の交点である30℃付近で劣化速度が急増する。したがって、第1温度閾値は、劣化速度の増大が生じる値(30℃)以上にするのが好ましく、第2温度閾値はこうした値(30℃)以下にするのが好ましい。
【0033】
なお、ここでは温度の情報に二次電池の表面温度が測定されている場合を例示したが、環境温度が測定されている場合は、上記の第1、第2温度閾値よりも5~10℃程度低い値を使用することが好ましい。この理由は、二次電池の表面温度は、二次電池使用時のジュール発熱によって環境温度よりも5~10℃程度高くなるためである。
【0034】
つぎに、第1、第2目標充電率の値の決定方法を示す。これら、第1目標充電率、及び第2目標充電率は、それぞれ70%以上かつ70%以下にすることが好ましく、75%以上、及び60%以下であればなお好ましい。それらの理由について、
図5を用いて示す。
【0035】
図5は、充電率閾値の設定に使用する電池劣化の充電率依存性を示すグラフであり、横軸に温SOC[%]を示し、縦軸に劣化速度を示している。
図5の実線は、40℃(第1温度閾値以上)での結果を示し、破線は10℃(第2温度閾値以下)の結果を示す。なお、二次電池の充電率が低過ぎれば、鉄道車両の走行に必要なエネルギーを補えなくなるため、以降では充電率が50%以上の領域を対象に述べる。
【0036】
図5の破線に示すように、二次電池は、第1温度閾値以下における劣化速度の充電率依存性が非常に小さい。しかし、
図5の実線に示すように、二次電池は、第1温度閾値以上において、劣化速度の充電率依存性が大きくなり、特に、充電率約30%と70%とを境に劣化速度が大きく変化する。したがって、二次電池は、第1温度閾値以上において、第1目標充電率は、劣化速度が小さいSOCの範囲(SOC70%以上)とし、第2目標充電率も、劣化速度が小さいSOCの範囲(SOC30%以下)にするのが好ましい。
【0037】
本電池システム3は、以上のように設定した第1、第2温度閾値、及び第1第2目標充電率を用いた場合、どのように二次電池の劣化が抑制されるかを説明する。一例として、まず温度検知部71で取得した温度値が40℃、充電率検知部71から取得したSOCが60%の場合を考える。
【0038】
これらの温度値は、第1温度閾値以下であり、かつSOCも第1目標充電率以下であるため、本電池システム3は、蓄電システム40における二次電池のSOCが70%以上になるように、制御部61が充電制御する。これにより、本電池システム3は、40℃のような高温下では、蓄電システム40における二次電池が中SOC帯(SOCが40%~70%の範囲、
図5の実線参照)で長時間保持されることを防ぐ。その結果、本電池システム3は、二次電池の加速度的な劣化進行を抑制できる。
【0039】
別の例として、温度検知部71で取得された温度値が10℃で、充電率検知部71から取得したSOCが60%の場合について説明する。このとき、温度値は第2閾値温度以下であり、SOCは第2目標充電率以下であるため、本電池システム3は、二次電池に対して充放電制御しない。その理由は、
図5の破線で示すように、10℃を下回るような低温下において、二次電池の劣化速度は、SOC依存性が極めて小さいため、こうした制御が二次電池劣化に及ぼす影響は極めて小さいからである。
【0040】
一方、10℃のような低温下では、二次電池を鉄道車両走行に使用する前に、二次電池に対して暖機処理を施すことが望まれる。このとき、本電池システム3によれば、暖機処理可能なSOC値(SOCが50%~70%の範囲)であれば、蓄電システム40に早めの暖機処理を開始できるため、車両運行開始前の暖機処理に要する時間を最小化できる。
【0041】
[変形例]
図6は、本電池システムの変形例に係る電池システム(これも本電池システム)6の概略を示す機能ブロック図である。
図6の本電池システム6は、
図3の本電池システム3における温度検知部71の代わりに、温度予測部72を採用した点が異なる。
【0042】
温度予想部73では、蓄電システム40を搭載した鉄道車両の運行が終了したタイミングにおいて、気象予報情報などを参照して鉄道車両が次に運行される時点での外気温の予測値を取得する機能を有すると良い。例えば、鉄道車両の運行がある日時の夕刻に終了し、その翌朝に運行が再開される場合、温度予想部73では翌朝の外気温の予測値が取得される。
【0043】
以下では、本電池システム6における制御部61が、温度予測部72で取得した情報に対する動作を説明する。鉄道車両は、運行終了情報64すなわちダイヤに基づいて、運行が終了する直前の時点に充電設備へ立ち寄ることが多い。制御部61は、鉄道車両が立ち寄った充電設備において、蓄電システム40を充電するための制御処理を開始する。温度予測部72は、鉄道車両の運行終了間際に、つぎの始発時刻、又はその少し手前位の外気温を予測する機能を有すると良い。制御部61は、その予測値を温度予測部72から取得する。
【0044】
このとき制御部61は、温度予測部72から取得された温度値と、温度閾値63と、を比較すると共に、充電率検知部70から蓄電システム40の充電率情報を取得する。制御部61は、得られた温度の大小関係と、充電率情報と、に基づいて、以下のように蓄電池ステムの充電率を制御する。
【0045】
温度予測部72から取得した温度値が、第1温度閾値よりも大きく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第1目標充電率よりも低い場合、制御部61は蓄電システム40の充電率が目標充電率に達するまで充電する。
【0046】
温度予測部72から取得した温度値が、第2温度閾値よりも小さく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第2目標充電率よりも低い場合、制御部61は蓄電システム40の充電率が第2目標充電率に達するまで充電する。
【0047】
温度予測部72から取得した温度値が、第2温度閾値よりも小さく、かつ充電率検知部71から取得した充電率が第2目標充電率よりも高い場合、制御部61は蓄電システム40の充電率が第2目標充電率に達するまで放電する。蓄電システム40の温度と充電率が上記の何れにも該当しない場合、制御部61は蓄電システム40に対して制御処理を実施しない。
【0048】
環境温度が高くなることが予測される場合、本電池システム6は、上述した一連の演算を制御部61で実施することにより、電池の充電率を制御して劣化を抑制できる。逆に、環境温度が低くなることが予測される場合、本電池システム6は、効率的に暖機処理を実施可能な充電率に蓄電システム40を制御することにより、鉄道車両のダイヤ乱れを抑制できる。
【0049】
以上のことから、本電池システム3,6によれば、長寿命で安定化するように外気温に応じて適切なSOCに制御された二次電池により、移動体の機動性も確保できる。すなわち、本電池システム3,6は、二次電池温度もしくは外気温に応じて、二次電池の充電率を所定の値に制御し、高温環境下での二次電池の劣化を抑制することにより、二次電池を安定的に長期利用できるようにする。また、本電池システム3,6は、低温環境下でも鉄道車両の運行ダイヤの遅延を防ぐことが可能である。
【0050】
[補足]
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した本電池システム3,6は、発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0051】
また、ある実施の形態における構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施の形態における構成に他の実施の形態における構成を加えることも可能である。また、各実施の形態における構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0052】
また、各実施の形態において示した構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)がそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現しても良い。
【0053】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリであるハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを図示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実施には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えても良い。
【0054】
近年、地球温暖化を防止するために、炭酸ガスの排出量削減が求められており、例えば炭酸ガスの大きな排出源の一つであるガソリンエンジンを使用した自動車については、ハイブリッド電気自動車や電気自動車等への代替が進んでいる。それらに好適で、充放電が可能な蓄電池(二次電池)として、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、鉛電池、及び電気二重層キャパシタ等が存在する。なかでも、リチウムイオン電池に代表される高出力密度の電池セルを複数個備える蓄電システム40は、産業用途に広く採用されている。
【0055】
[蓄電池電車]
近年では、高電圧化し、大容量化された蓄電システム40が普及している。この蓄電システム40は、鉄道車両の分野においても、省エネルギー化を図るため、広く利用されている。特に、架線のない非電化区間を走行する鉄道車両の環境負荷低減を目的に、高電圧大容量の蓄電システム40を搭載した蓄電池電車が普及し始めている。
【0056】
蓄電池電車は、架線のある電化区間で得られる架線電力を電源として走行するだけでなく、架線のない非電化区間も蓄電システム40を電源として走行できる。そのため、蓄電池電車の動力用電源に適用される大型の蓄電システム40は、高電圧かつ高出力であることが求められる。このような、高電圧かつ高出力用途の蓄電システム40は、複数の電池セルを直並列に接続して構成される。
【0057】
[出力の温度特性]
上記構成する各電池セルは、統一されたリチウムイオン電池が多用される。リチウムイオン電池に代表される二次電池の出力は、外気温に強く依存する温度特性を有する。その点について、
図1を用いて上述したように、特に10℃以下から0℃に至る低温領域において、急激に出力低下する温度特性が使用上の問題となる。
【0058】
この温度特性は、一例として二次電池の抵抗が低温環境下で増大することが原因と考えられる。この温度特性によって、二次電池電圧が仕様上設定された上下限範囲を逸脱する現象として、通電時の過電圧が大きくなる。この現象に対応し、蓄電システム40は、自己防御の制御機能を作動させることにより、二次電池との通電が停止される。蓄電システム40の通電停止により、鉄道車両を駆動するための放電ができないばかりか、蓄電システム40に充電させることもできなくなる。
【0059】
そのため、低温環境下で二次電池を使用する場合は、事前に二次電池温度が0℃以上、好ましくは10℃以上になるように温める処理(暖機処理)が必要となる。こうした暖機処理として、事前に蓄電システム40に搭載したヒーターで加温する方法のほか、
図2を用いて上述したように、二次電池に繰り返し矩形波で充放電し、その充放電電流と内部抵抗とより発生するジュール熱で二次電池を温める方法などが挙げられる。
【0060】
[劣化のSOC依存性]
二次電池を使用する際の環境温度は、上述した出力特性の他に、二次電池の劣化特性にも影響する。一般に、二次電池は30℃以上、あるいは45℃以上の高温度で使用すると劣化が進行しやすくなるという特性を有している。温度の他に、二次電池の劣化に影響する因子の一つに充電率(SOC)が挙げられる。
【0061】
充電率SOCは、充電状態とも呼ばれ、仕様上の完全放電状態を0%、満充電状態を100%として一般的に表わされるが、その逆数表示もある。一般に、二次電池には安全な製品として動作が保証されるSOCの範囲が仕様に定められている。この仕様によるSOC範囲の上下限を超えて二次電池を稼働することは、蓄電システム40を故障させる原因となり、また、蓄電システム40の寿命を短縮させる原因ともなるため、避けなければならない。
【0062】
また、仕様のSOC範囲内であっても、特定のSOC帯では劣化が加速進行し、電池容量が減少すると共に、内部抵抗が上昇し、許容範囲を超えて出力変動することが広く知られている。二次電池の劣化が進行しやすくなるSCO帯は、電極に使用される活物質材料に依存することが知られている。
【0063】
例えば、正極活物質材料に、スピネル型マンガン酸リチウムが使用されている二次電池は、高温環境下では30%~60%程度の中SOC帯で劣化が進行し易くなる特性を有している。そのため、二次電池を長く安定して使用するには、高温環境下かつ中SOC帯での使用を避ける必要がる。
【0064】
二次電池の劣化が進行すると、電池容量の低下や内部抵抗の増加が生じる。そのため、電池の劣化に伴い、蓄電システム40の電力量や出力が次第に低下して最終的に使用不可能となる。加えて、鉄道車両の走行中に蓄電システム40の出力が低下してしまうと車両の停止を招く。
【0065】
こうした問題を防ぐため、二次電池の劣化が進行した蓄電システム40を適宜交換する必要がある。しかし、蓄電池電車用の蓄電システム40には車両走行に適するように、大量の二次電池が使用されており、車両システム全体に占める二次電池のコスト割合が高い。そのため、二次電池の劣化を抑制するための制御技術は、車両システムのランニングコストを抑えるという観点からも重視される。
【0066】
劣化進行を抑制する対策の一例として、二次電池の充電率を、中SOC帯を避けて、低SOCもしくは高SOCに保つことが有効と考えられる。しかし、低SOC(低充電率)で使用する場合、鉄道車両の走行区間によっては、走行中に二次電池の容量を使い果たしてしまう懸念がある。また、列車ダイヤを適切に守りつつ、高SOCで使用する場合、低温下での二次電池の暖機処理が困難となる場合が有る。その理由を以下に示す。上述したように電池抵抗Rは、低温環境下で増大するため、充電時の電池電圧Vは近似的に以下のように表される。
【0067】
V = V_OCV + IR・・・・・(1)
【0068】
ここで、V_OCV(Open Circuit Voltage)は、開回路電圧(非通電時の電池電圧)であり、Iは充電電流値を表す。一般に、二次電池は安全に使用可能な上下限電圧が設定されており、二次電池電圧がこの値を逸脱すると通電量が制限されることが多い。その場合、低温下での暖機を効率良く実施するには、充電電流値を大きくしてジュール発熱を増大させる必要がある。
【0069】
そのため充電電流値を大きくしつつ、かつ二次電池電圧Vが電圧の上限値を逸脱しないようにするには、上記式(1)において、開回路電圧V_OCVを小さくする必要がある。このことが、二次電池の充電率(SOC)を低く保つ操作に相当しているとすれば、高SOCで使用する場合には暖機処理が困難にもなり得る。
【0070】
[鉄道ダイヤとの関係]
二次電池に印加可能な電流値が小さくなる場合、暖機に要する時間も長くなるため、鉄道車両のダイヤが遅延する原因となる。なお、放電によって二次電池を暖機することも可能だが、この場合、二次電池を暖機するために放電した後に、車両走行に備えて再び二次電池を充電するという処理が必要となり、一連の処理が完了するまでに長い時間を要するため、この場合もダイヤ遅延を招く懸念がある。
【0071】
そこで、本電池システム3,6は、鉄道車両に搭載された蓄電システム40に対し、つぎのように充放電制御する。まず、制御に必要な情報を収集する。すなわち、蓄電システム40において、それに備わる複数の中で、何れか1つ以上の電池セルに対する充電率と、同様に何れかの電池セルに対する温度と、をセルコントローラ等により、常時又は定期的に計測されている。また、蓄電システム40の環境温度も、制御部61が取得可能に常時又は定期的に計測されている。
【0072】
つぎに、車両の運行終了時、制御部61は、つぎの制御規則に基づいて、充放電制御する。計測された温度が所定の温度よりも高い場合、電池セルの充電率が所定の値より大きくなるように充電する。それとは逆に、計測された温度が所定の温度よりも低い場合、電池の充電率が所定の値より小さくなるように充電する。なお、この制御規則として適用される温度情報は、計測容易な電池セルの表面温度と、環境温度と、所定の情報及び計算式による推定電池温度と、の少なくとも何れかの情報を用いれば良い。
【0073】
本電池システム3,6について、構成、作用、及び効果の観点から、つぎの[1]~[8]に分けて補足説明する。
[1]
図3及び
図6に示す本電池システム3,6は、複数の電池セルを有する蓄電システム40と、その蓄電システム40に対して、少なくとも充電率及び充電するタイミングを制御可能な制御部61と、を備えて移動体に適用されるものである。蓄電システム40は、複数の電池セルそれぞれの状態を管理するセルコントローラ、又はそれと同等機能を有する。
【0074】
制御部61は、少なくとも、環境温度と、電池温度と、充電率と、の情報を取得可能であり、その情報に基づいて充電率を適切に制御し、環境温度に適応させる機能を有する。環境温度は、実測値又は予測値が採用される。予測値は、計算のほか、季節毎に異なる数値を設定しても良い。
図3の本電池システム3は、温度検知部71が実測値を取得する。
図6の本電池システム6は、温度予測部72が気象情報等に基づいて予測値を生成する。電池温度は、蓄電システム40に備わる電池セルの何れか1つ以上から、セルコントローラ等を介して取得、又は算出されると良い。充電率も、蓄電システム40に備わる電池セルの何れか1つ以上から、セルコントローラ等により実測されると良い。
【0075】
制御部61は、つぎのタイミングで取得された情報に基づく条件を適用して、充電制御する。そのタイミングとは、移動体が実質上の管理期間内で運行終了直前、又は終了するときであり、例えば、ダイヤで運行管理される鉄道では、一日単位の管理期間における最終便の運行終了直前、又は終了時と考えて良い。
【0076】
なお、鉄道車両、すなわち蓄電池電車は、最終便の運行終了直前に充電設備へ立ち寄って充電し、その充電設備から離れた車庫等へ到着したことをもって、運行終了とする場合がある。その一方で、車庫に充電設備が付設されている場合もある。蓄電池電車は、充電設備を用いずに、架線から受電した電力で充電する場合もある。これら、何れの場合にも本電池システム3,6は適用可能である。
【0077】
本電池システム3,6は、上述のタイミングで取得された情報に基づく充電制御の条件通りに、制御部61が充電を実行する。制御部61は、つぎのように、充電制御の条件を具体的に設定して、環境温度に適応させる。
【0078】
・電池温度が所定の第1温度閾値よりも高い場合、充電率を第1充電率閾値より大きく充電する。
・環境温度が所定の第2温度閾値よりも低い場合、充電率を第2充電率閾値より小さく充電する。
【0079】
本電池システム3,6は、環境温度に適応させるように、充電率と充電タイミングを適切に制御することによって、二次電池を安定的に長期利用させられる。すなわち、本電池システム3,6は、制御部61が上記充電制御の条件通りに充電すれば、環境温度に適応させられるので、蓄電システム40を構成する複数の電池セルの寿命を延ばして、資源エネルギー効率を高めることができる。それだけでなく、本電池システム3,6によれば、外気温に応じて適切なSOCに制御された二次電池により、移動体の機動性も確保できる。
【0080】
[2]上記[1]において、蓄電システム40の温度は、複数の蓄電池の少なくとも一つの蓄電池温度、又は、その測定値、又は、その予測値であり、さらに、環境温度から換算しても良い。また、充電率は、複数の蓄電池の少なくとも一つの蓄電池の測定値、又は計算値である。このような本電池システム3,6は、簡素な構成で容易に実現できる。電池の温度特性は、電極の温度に依存すると考えられるが、非破壊状態で電極近辺の温度を実測することは困難なため、簡便な代替手段により実用的な温度推定する。つまり、充電率制御部61は、計測容易な箇所の現在温度や、気象データによる予測気温を用いて充電率制御すれば、電池の長寿命化と、電池出力の有効利用と、を両立させるという本発明の目的を達成できる。
【0081】
[3]上記[1]において、本電池システム3,6は、電池セルの内部温度の代わりに電池セルの表面温度や環境温度を便宜的に代用しても良い。より正確には、各種の補正手段を併用した推定温度を採用しても良い。また、
図4及び
図5に示した電池特性に基づく下記の充電制御の条件を設定することによって、本電池システム3,6は好結果が得られた。電池特性は、制御部61が有するメモリに記憶された電池の仕様に基づいて適用されると良い。
【0082】
・温度の情報に電池温度を適用する場合、第1温度閾値は30℃以上に設定され、第2温度閾値は30℃以下に設定される。
・温度の情報に環境温度を適用する場合、第1温度閾値は25℃以上に設定され、第2温度閾値は25℃以下に設定される。
【0083】
[4]上記[1]の本電池システム3,6において、制御部61は、つぎのように、充電制御の条件を具体的に設定しても、環境温度に適応する好結果が得られた。下記の充電制御の条件も、制御部61が有するメモリに記憶された電池の仕様に基づいて適用されると良い。すなわち、
図4及び
図5に示した電池特性に基づく設定である。
・第1充電率閾値は充電率70%以上に設定され、第2充電率閾値は充電率が70%以下に設定される。
【0084】
[5]上記[1]の本電池システム3,6において、制御部61は、つぎのように、充電制御の条件を具体的に設定しても、環境温度に適応する好結果が得られた。下記の充電制御の条件設定も、制御部61が有するメモリに記憶された電池の仕様に基づいて適用されると良い。すなわち、
図4及び
図5に示した電池特性に基づく設定である。
・温度の情報に電池温度を適用する場合、第1温度閾値は35℃以上に設定され、第2温度閾値は20℃以下に設定される。
・温度の情報に環境温度を適用する場合、第1温度閾値は30℃以上に設定され、第2温度閾値は10℃以下に設定される。
【0085】
[6]上記[1]の本電池システム3,6において、制御部61は、つぎのように、充電制御の条件を具体的に設定しても、環境温度に適応する好結果が得られた。下記の充電制御の条件設定も、制御部61が有するメモリに記憶された電池の仕様に基づいて適用されると良い。すなわち、
図4及び
図5に示した電池特性に基づく設定である。
・充電率の閾値1は充電率75%~85%に設定され、充電率の閾値2は充電率50%~60%に設定される。
【0086】
[7]上記[1]~[6]の本電池システム3,6において、充電制御の条件は、つぎの形態で実施が容易であり、好結果が得られた。すなわち、本電池システム3,6は、コンピュータ、及び電気回路を構成する各種ハードウェアデバイスや、センサ類を備える。また、制御部61の各機能は、コンピュータのCPUがメモリに記憶されたプログラムを実行することによって、実現される部分が多い。そのコンピュータは、ワンチップマイコン、又はパーソナルコンピュータで良く、さらに、他の用途で使用中のコンピュータの一部を兼用利用しても構わない。
【0087】
制御部61は、その制御部61が備えるメモリにデータテーブルを形成している。そのデータテーブルには、少なくとも、移動体の運行終了時刻と、移動体が運行終了時刻又はその所定時間前に立ち寄る充電設備と、の情報を格納されている。運行終了時刻又はその所定時間前になると、制御部61が蓄電システム40に充電を開始させる。
【0088】
[8]上記[7]において、移動体は鉄道車両であり、蓄電池電車が好適であるが、ハイブリット電車にも適用可能である。これらの鉄道車両は、上述の要領で、運行終了時刻又はその所定時間前に立ち寄る充電設備において、環境温度に適応した充電率で、制御部61が蓄電システム40に充電を開始させる。その鉄道車両は、始発の運行開始時には、良好に充電されているので、架線のない区間を高いエネルギー効率で走行できる。また、電池セルは、正極活物質材料に、スピネル型マンガン酸リチウムが使用されていると、良好な結果が得られる。
【符号の説明】
【0089】
3,6 電池システム(本電池システム:Battery system)、40 蓄電システム(Power storage system)、61 制御部(仕様)(Charge rate control unit(Specification))、62 目標充電率(Target charge rate)、63 温度閾値(Temperature threshold)、64 運行終了情報(Service end information)、70 充電率検知部(Charge rate detector)、71 温度検知部(Temperature detector)、72 温度予測部(Temperature prediction unit)