(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124646
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】炭素繊維電極材料、燃料電池用ガス拡散電極基材、燃料電池および炭素繊維電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20230830BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230830BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20230830BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20230830BHJP
C25B 11/043 20210101ALI20230830BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20230830BHJP
D04B 1/00 20060101ALI20230830BHJP
D02G 3/16 20060101ALI20230830BHJP
D02G 3/26 20060101ALI20230830BHJP
D01F 9/22 20060101ALI20230830BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20230830BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230830BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230830BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20230830BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20230830BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20230830BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20230830BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/88 C
C25B11/032
C25B11/043
D04B1/14
D04B1/00 B
D02G3/16
D02G3/26
D01F9/22
B32B5/24 101
B32B27/30 D
B32B27/18 J
C25B11/065
C25B11/056
C25B11/052
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028536
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】322000041
【氏名又は名称】ENETEK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(72)【発明者】
【氏名】高木 順
(72)【発明者】
【氏名】犬山 久夫
【テーマコード(参考)】
4F100
4K011
4L002
4L036
4L037
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AA37A
4F100AA37B
4F100AK17B
4F100AK21
4F100AK27
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5H018AA08
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(57)【要約】
【課題】 電極材料として好適に用いることができる炭素繊維編み物からなる炭素繊維電極材料、および、それを用いた燃料電池用ガス拡散電極基材、燃料電池を提供する。
【解決手段】 メートル番手表示で1/60Nmより細く、撚り角が40°以下、糸幅が200μm以下の炭素繊維紡績糸からなり、目付が150g/m
2以下かつ1MPa押圧時の厚みが230μm以下である炭素繊維編み物からなることを特徴とする炭素繊維電極材料。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メートル番手表示で1/60Nmより細く、撚り角が40°以下、糸幅が200μm以下の炭素繊維紡績糸からなり、
目付が150g/m2以下かつ1MPa押圧時の厚みが230μm以下である炭素繊維編み物からなることを特徴とする炭素繊維電極材料。
【請求項2】
炭素フィラーおよびフッ素系樹脂を含む微多孔平滑層が、請求項1記載の炭素繊維電極材料上に形成されていることを特徴とする、燃料電池用ガス拡散電極基材。
【請求項3】
前記炭素繊維編み物が、太さの異なる少なくとも2種類の紡績糸を含み、片面に太糸、他面に細糸が出る両面編み構造の編み物であり、
前記太糸の側の面に前記微多孔平滑層が形成されている、請求項2記載の燃料電池用ガス拡散電極基材。
【請求項4】
請求項2または3記載の燃料電池用ガス拡散電極基材が組み込まれていることを特徴とする、燃料電池。
【請求項5】
メートル番手表示で1/50Nmより細いポリアクリロニトリル紡績糸からなる編み物、または、前記ポリアクリロニトリル紡績糸の撚りを戻すように消失繊維と合糸した合糸紡績糸からなる編み物から前記消失繊維を消失させた編み物を作製する編立工程、
前記編立工程で得られた編み物を、210℃以上250℃以下の範囲内の温度で、かつ、20分以上12時間以下の範囲で処理する耐炎化処理工程、および、
前記耐炎化処理工程の後に、不活性ガス中で1200℃~2600℃で3分以上20分以下の範囲で保持して炭化焼成する炭化焼成工程を有することを特徴とする、炭素繊維電極材料の製造方法。
【請求項6】
前記耐炎化処理工程において、前記編立工程で得られた編み物を、酸化焼成前の縦横おのおのの寸法の75%以上95%以下の範囲内で2次元方向に熱収縮することを規制した状態で耐炎化処理することを特徴とする、請求項5記載の炭素繊維電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維編み物からなる炭素繊維電極材料、燃料電池用ガス拡散電極基材、燃料電池および炭素繊維電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、電気分解、レドックスフロー電池等の電気化学装置の電極や、2次電池活性材料導電保持体等の電極材料には、高導電性であること、強酸性や強アルカリ性にも耐える耐腐食性を有すること等の特性が求められている。これらの特性を備えた材料として、炭素繊維材料が着目されている。そして、低コスト燃料電池用電極の材料としては一般的に織物より編み物の方が面積当たりでは低コストであるため、炭素繊維編み物を炭素繊維電極材料に適用することが有効であると考えられる。
【0003】
炭素繊維編み物の作製において、炭素繊維の原料繊維であるポリアクリロニトリル繊維の繊維束を使用して、編み物を作製後に酸化性雰囲気中で熱処理する方法では、原料繊維が一気に燃え上がる暴走反応を起こしやすかった。そのため、耐炎化処理は緩慢に行う必要があり生産性が低く、さらに、原料繊維の収縮により、嵩高な材料を得ることが困難であった。そこで、炭素繊維の前駆体繊維である耐炎化繊維の繊維束を使用して編み物を作製し、次いで、その編み物を非酸化性雰囲気中で熱処理して炭化する電池用極基材の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、毛羽発生を抑え糸切れさせることなく編成できるシート状炭素繊維編み物の製造方法として、炭素繊維束をガイドにらせん状に巻きつけて、もしくはパイプガイドに通すことで集束させながら供給し、編成操作を繰り返す技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかし、特許文献1で提案された製造方法による電池用極基材では、厚み方向の電気抵抗が大きくなるという課題がある。また、特許文献2記載の技術では、出発原料は長繊維プリカーサ(フィラメント)であり、得られる編み物は、曲面等の複雑な形状を有する繊維強化プラスチックを成形可能ではあるものの、成形物の機械的特性を実現させるための強化材料であるため、想定される目付は100~700g/m2と、電極材料としては適しているものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63-40259号公報
【特許文献2】特開2008-106391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明においては、電極材料として好適に用いることができる炭素繊維編み物からなる炭素繊維電極材料およびそれを用いた燃料電池用ガス拡散電極基材、燃料電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素繊維電極材料は、メートル番手表示で1/60Nmより細く、撚り角が40°以下、糸幅が200μm以下の炭素繊維紡績糸からなり、目付が150g/m2以下かつ1MPa押圧時の厚みが230μm以下である炭素繊維編み物からなることを特徴とする。
【0008】
本発明の燃料電池用ガス拡散電極基材は、炭素フィラーおよびフッ素系樹脂を含む微多孔平滑層が、前記本発明の炭素繊維電極材料上に形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の燃料電池用ガス拡散電極基材において、前記炭素繊維編み物が、太さの異なる少なくとも2種類の紡績糸を含み、片面に太糸、他面に細糸が出る両面編み構造の編み物であり、前記太糸の側の面に前記微多孔平滑層が形成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の燃料電池は、前記本発明の燃料電池用ガス拡散電極基材が組み込まれていることを特徴とする。
【0011】
本発明の炭素繊維電極材料の製造方法は、メートル番手表示で1/50Nmより細いポリアクリロニトリル紡績糸からなる編み物、または、前記ポリアクリロニトリル紡績糸の撚りを戻すように消失繊維と合糸した合糸紡績糸からなる編み物から前記消失繊維を消失させた編み物を作製する編立工程、
前記編立工程で得られた編み物を、210℃以上250℃以下の範囲内の温度で、かつ、20分以上12時間以下の範囲で処理する耐炎化処理工程、および、
前記耐炎化処理工程の後に、不活性ガス中で1200℃~2600℃で3分以上20分以下の範囲で保持して炭化焼成する炭化焼成工程を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の炭素繊維電極材料の製造方法は、前記耐炎化処理工程において、前記編立工程で得られた編み物を、酸化焼成前の縦横おのおのの寸法の75%以上95%以下の範囲内で2次元方向に熱収縮することを規制した状態で耐炎化処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭素繊維電極材料は、電極材料として好適に用いることができ、本発明の炭素繊維電極材料を用いることで、発電性能に優れた燃料電池用ガス拡散電極基材および燃料電池を低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは、本発明における実施例1の炭素繊維編み物表面の顕微鏡写真である。
【
図1B】
図1Bは、本発明における実施例2の炭素繊維編み物表面の顕微鏡写真である。
【
図1C】
図1Cは、本発明における実施例3の炭素繊維編み物表面の顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、実施例で用いた発電性能試験の評価セル100の模式構造図である。
【
図3】
図3は、発電性能試験の結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明の炭素繊維電極材料の特性を説明する、模式説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の炭素繊維電極材料を製造する際に用いる、焼成(炭素化)装置の一例の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下の例に限定および制限されない。なお、以下で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。
【0016】
炭素繊維の出発原料として使用する繊維としては、天然セルロース(綿、竹繊維など)再生セルロース(レーヨン、アセテート)ポリアクリロニトリル系、ピッチ系、ポリノジック系、フェノール樹脂系、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、あるいはこれらの混合物からなる繊維が使用できる。ここで、耐炎化処理工程を必要とするが、市場性に優れ、強度的にも安定しているポリアクリロニトリル(PAN)を主成分する繊維は、出発原料として望ましい。特に、燃料電池用のガス拡散電極基材は積み重ねて使用するため、物性値としては、引っ張り強度よりも圧縮強度や曲げ強度のほうが重要である。そのため、構造物強度材として使用する際に求められる炭素繊維強度は、必要以上に求めなくともよいため、アクリル繊維を編み物にしたのち、耐炎化処理工程および炭化焼成工程を行えば、耐炎化繊維を編み物にするより、細い紡績糸でも安定生産できトータルのエネルギーコストを低減できるという特徴がある。
【0017】
[紡績糸]
編み物の素材として使用する紡績糸は、その下撚数A、撚方向Zの紡績糸と編立後に消失させる消失繊維とを合糸させて製糸することができる。この場合、上撚数はAとほぼ同じで撚方向S(下撚りを戻す方向)とすればよい。ここで、消失繊維は編立工程の安定化に寄与し、その後は水や有機溶剤で容易に消失でき低コストである材料であればよい。形状としてはフィラメントでも紡績糸でもよく、原料としてはPVA(ポリビニルアルコール)繊維やでんぷんを繊維とし編立後に洗い落せばよい。ほかに、アルカリで溶けるSSTポリマー繊維(5ナトリウムスルフォイソフタル酸ジメチル)でもよい。また、温水で溶解可能な澱粉糊で固着した紡績糸を撚り戻して編立してもよい。あるいは、ドラフト後の紡績スライバーを消失繊維で包み込むように巻きつけた複合糸を用いることもできる。すなわち、編立後にこれらの溶解除去可能なものであれば限定されないが、溶解残液の環境負荷、コストの面、安定した技術などの点からPVA繊維が好ましい。
【0018】
紡績糸は、双糸、単繊維のいずれであってもよいが、一般に双糸のほうが単繊維よりも、繊維の引張強度が大きくなる。編み物の素材に双糸を使用する場合でも、その条件を適切に選択すれば扁平にさせやすい繊維になる。本発明においては、焼成後の撚り角が40°以下となるポリアクリロニトリル紡績糸を用いるものであり、出発原料である白糸の上撚数は繊維長1m当たりで、300回/m~1000回/m、好ましくは800回/m以下である。撚り角は、30°以下であることが好ましく、無撚りであることがさらに好ましい。下撚数が小さいと毛羽数が大きくなりやすく、下撚数が大きいと、加撚時に糸切れ発生確率が増加し太さむらが増加する場合もある。ここで単位長さあたりの毛羽数が多くなる場合は毛羽焼き工程を入れることが望ましい。この下撚数に対し上撚数をほぼ同数にして逆方向に撚りを入れて合糸すれば、各単糸の撚が巻き戻され、両単糸の糸束どうしが相互に巻きつく形態になり、実質的に無撚とは言えないが、各単糸は相互に巻き付き、ピッチの長手方向の範囲では概略平行に並び、編み物にしたのちの圧縮工程で厚み方向に扁平に押しつぶされ、その糸束断面の輪郭線に直線部を得やすくなる。
【0019】
一方、引張強度を持つような撚りのある(焼成後の撚り角が40°を超える)単糸からなる編み物は、単糸群が扁平に変形されにくいため、薄くならず接触面積も少なく電気抵抗は高止まりする傾向にある。一般的には、強い紡績糸を得ようとする際には撚り角を大きくするが、焼成収縮後に撚り角が45°を超えてしまうと、2重織りとなりかえって強度が下がり、織目が乱れる。また、焼成後にカールが発生し、後工程の作業性を大幅に損ねるおそれもある。
【0020】
さらに、長繊維の場合では交絡数の少ない糸からなる編み物であれば、言うまでもなく、実質的に無撚であり扁平に変形しやすい炭素繊維編み物となる。ただし先にあげたアクリルの長繊維は望ましい出発原料ではあるが、250dtexまでの長繊維は用途が限られるため市場性は低い。また長繊維は交絡数が少ないと、単糸切れが多発するなど、価格的な課題が残る。この点が、長繊維より市場性の高い紡績糸が望ましい理由である。
【0021】
また、紡績糸の太さについては、メートル番手表示で、太くても1/50Nm以下、好ましくは1/100Nm以下の太さであり、細いほうは1/200Nm以上、好ましくは1/300Nm以上である。メートル番手表示で、1/50Nm以下の太さの紡績糸を用いることで、焼成後に、1/60Nm以下の太さ(1/60Nmより細い太さ)の炭素繊維紡績糸を得ることができる。また双糸の場合はメートル番手表示で、太くても通常2/64Nm以下、好ましくは2/100Nm以下の太さであり、細いほうは通常2/200Nm以上、好ましくは2/300Nm以上の太さである。
【0022】
紡績糸の撚数については、JIS L1095(一般紡績糸試験方法)に準拠する。単糸の場合の撚数は、繊維長1m当たりで、通常は300回/m~1000回/m、であるが、糸束断面を扁平にするには、すくなければ少ないほど望ましい。ここで、糸にならないほど少ない撚数の紡績糸を実質的に無撚糸と定義し、この繊維からなる編み物を得た後の工程で圧縮することにより、多数の単繊維からなる糸束断面を扁平に変形させることができる。
【0023】
従来、炭素繊維編み物を製造する際には、耐炎化糸(前駆体糸とも呼ばれている)を編み物にした後に、炭化・黒鉛化していた。しかし、この方法では、炭素繊維の前駆体糸(主としてPAN紡績糸)は耐炎化処理工程で強度が低下するために細くできなかった。具体的には、炭素繊維用にブレンドしたポリマーを製糸し、本発明で用いる繊維と比べて約1万倍太いスライバー状の繊維束を、1次元方向で耐炎化処理した後に紡績糸にするため、糸の引張強度が下がり、メートル番手表示で、例えば、1/34Nmより細くすることができなかった。その結果、編立される編み物も厚くならざるを得ず、厚み方向の抵抗が大きくなってしまうため、電極材になりえなかった。一方、電極用としては、例えば2Mpa時の圧縮強度があればよく、必要以上の引張強度は求められていない。よって本発明においては、炭素繊維用に製造された(炭素繊維用にブレンドしたポリマーを用いた)PAN繊維が必要ではなく、衣料用で量産されている極細PAN紡績糸を用いることができる。これを編み物にし、面状で耐炎化し炭化することで、極薄炭素繊維編み物となり、厚み方向の電気抵抗も低くなり、電極性能が向上する。編み物にした後、耐炎化と炭化焼成するため、細糸でも編みの工程通過性もよい。また炭素繊維用にブレンドしたポリマーでなくても、後述のように、耐炎化時に延伸してポリマー配向させることにより、電極材料としての実使用時の圧縮強度を確保可能である。
【0024】
[編立工程]
本発明における炭素繊維編み物は、目付が150g/m2以下かつ1MPa押圧時の厚みが230μm以下であればよく、平編み、ゴム編み、パール編み、タック編み、浮き編み、両面編み、テレコ編み、トリコット編み、ラッセル編み、ジャガード編み、デンビー編み、ハーフ編み、ポンチローマ編み、段ボール編みなどの編組織とすることができ、電極用として、その目的に応じて選択できる。ゴム編みは、形成されるリブが電解液の流路として作用することで、電解液が流れやすくなり、反応効率を向上できるので好ましい。またポンチローマ編みや段ボール編みは、表裏で糸太さを変えられるため、燃料電池用ガス拡散電極基材として用いる場合には、CCM(触媒被覆膜)面側に太い糸を、セパレータ面側に細い糸となる構成とすることが望ましい。また前記した実質無撚もしくはそれに近い合糸した糸をCCM面に当てると接触面積が増え、後述のMPLも塗布しやすくなり望ましい。
【0025】
[炭化工程(耐炎化処理工程および炭化焼成工程)]
市販されている炭素繊維の95%以上はアクリル繊維を耐炎化、炭化、黒鉛化しているが、良好な電気特性と耐食性を必要とする燃料電池向けとしては、剛性を上げるための黒鉛化も必須ではなく、むしろ市販性が高く低価格なセルロース繊維やアクリル繊維が望ましい。それ以外でも出発原料の項で述べた材料でもよく、これらを不活性ガス中で1200℃~2600℃で炭化すればよい。アクリル繊維の場合は、これを編み物とし、酸化雰囲気で収縮を許しながら、210℃~250℃で20分以上12時間以下の範囲内で耐炎化処理を行ったのち、不活性ガス中で1200℃~2600℃で3分以上20分以下の範囲内で保持して炭化すればよい。
【0026】
耐炎化処理工程で布が熱収縮する際、繊維方向にポリマーの分子配向が進むようにすることで、電極として必要十分な強度を確保することができる。その一つの方法として、炭化後の紡績糸の撚り角を、40°以下にすることが挙げられる。ここで、「撚り角」とは紡績糸の中心線に対する単糸の角度をいう。耐炎化処理工程・炭化焼成工程において撚り角が45°を超えていると撚り締まりにより単糸の内部に微小クラックが発生し強度が低下するからである。
【0027】
また、各工程でPAN紡績糸の分子配向を促進させることで、強度を向上させることができる。前記編立工程で得られた編み物は、酸化焼成前の縦横おのおのの寸法の75%以上95%以下の範囲内で2次元方向に熱収縮することを規制した状態で耐炎化処理を行う。具体的には、まず耐炎化後の布寸法とほぼ同じ寸法の矩形の耐熱薄板(耐熱板)を準備する。次にこの耐熱板を内包するように、袋状に耐炎化前の編み物布をミシン縫いする。このとき、耐熱板の縦・横寸法が、前記編み物布の縦・横の対辺寸法の75~95%となるようにミシン縫いをすることが望ましい。次に、耐熱板をミシン目のほぼ中央に内包させた状態で、編み物布を金網上に水平において、上記の耐炎化処理条件で加熱収縮させる。加熱時間とともに編み物布を構成している繊維は熱収縮し、耐熱板に密着した後は、熱収縮引張応力が働き繊維方向に分子配向が進み、その繊維の引張強度を向上させることができる。
【0028】
さらに、熱処理時に滑らかな平面を持つ耐熱板で前記白布を挟み、前記耐熱板間の隙間が編み物厚みの70%~200%になるように、4隅にシムを配置すると、2次元に収縮するときに摩擦力が働き、PAN分子を繊維方向に配向促進させることもできる。このように配向させることにより、市販の衣料用の紡績アクリル繊維でも、電極としての圧縮強度を確保することができるとともに、原料が市販品として大量生産されているため、出発原料コストの抑制が可能である。また、耐熱板の平滑面で挟まれた状態で熱処理されることで、熱処理後の編み物の表面が平滑になり、得られる炭素繊維編み物の電気抵抗も下げることができる。
【0029】
また、得られる炭素繊維編み物の電極材料の電気抵抗を低くするためには、以下の製造方法が有効である。まず、消失繊維(例えばPVA)で、PAN紡績糸の撚りを戻すように合糸する。その際には、炭素繊維にしたとき撚り数測定器で測れないぐらいの甘撚りが好ましく、さらには無撚り状態が望ましい。このように合糸した糸を編み物にし、湯洗工程(85℃以上)で消失繊維を溶解させてから、耐炎化・炭化して炭素繊維編み物を得る。そうすると、紡績糸でありながら実質的に無撚り状態の糸から形成された炭素繊維編み物になり、平板で圧縮したとき、その糸の単糸で構成されている糸束断面は扁平に変形し、接触面積が増え厚み方向の接触抵抗を下げることができる。
【0030】
編立工程や前述の耐炎化処理工程で得られた炭素繊維編み物(炭素繊維電極材料)を炭化処理する工程の詳細を
図5を用いて説明する。焼成(炭素化)装置200は、上部開口11aを有する焼成箱11の底板11bの上に平滑で望ましくは0.1mm以下の平面度である耐熱平板16を敷き、その上に鉄などの金属が介在しないようにして前述の炭素繊維編み物(以下、編み物という)20が皺(しわ)にならず、はみ出さないように置く。その上に同様の耐熱平板と編み物20を順次繰り返し積み上げて、最上段に均一荷重が掛かるように、おもり17を載せる。この焼成箱11は上部開口11aを有する焼成加熱炉1の本体2に格納されている。焼成加熱炉1の上部開口11aは蓋3で閉じられ、グラファイトシートのシール4を介して蓋3をボルト5a・ナット5bで挟持螺着され密閉されている。ほかにボルト締めに代わり、耐熱のガスシール法でもよく、排ガス処理付きの真空高温炉でもよい
【0031】
次に、焼成加熱炉1の本体2にはガス供給配管6が接続され、図示しないガス源から不活性ガスが供給可能にされている。また、本体2にはガス排出口7が接続されており、パイプ8を通って排ガストラップ31に接続されている。排ガストラップ31の本体32には、水34が入れられ、パイプ8の先端8aは水34内に水没されている。排ガストラップ31の本体32は排ガストラップ排出口35を有する蓋33により密閉されている。排ガストラップ排出口35はパイプ36を介して浄化装置37等に接続され、無害とされた排ガスを外部へ排出するようにされている。排ガストラップ31では水の液面を視認又は成分を検出できるようにしておくことや、焼成加熱炉内の温度・圧力の確認や、分解発生するガスを分析する弁を設けておくと良い。また、排ガス燃焼装置を設けておくとなお良い。このような装置構成を用いた炭化処理は、不活性ガスを焼成箱11内に投入するとともに、焼成箱11内で分解・発生するガスを排出しながら、炭化が可能な温度1200℃~2600℃に加熱し、3分~20分間保持後、冷却することにより行う。
【0032】
なお、不活性ガスの投入量は1kPaの圧力で3分間あたり焼成加熱炉1内のガス体積となるようにするのが好ましく、酸素濃度は150℃以上では5ppm以下が望ましい。また、平板16による編み物20に加える荷重は0.1~5N/cm2であり、より好ましくは0.4~2N/cm2である。また、平板16の平面度(平滑度)はA4版サイズあたり、0.1mm以内が好ましく、傷がなく冷間圧延板程度の面精度でよい。ここで、編み物20の耐炎化後の仕上がり厚みより70~200%薄いシムを編み物20の周りに挟むと厚みムラは少なく、熱収縮による割れの問題も少なくなる。また、編み物20は炭化時に収縮変形するが、このとき糸束断面において単繊維からなる輪郭線が直線部を持つように押しつぶされるとともに、単繊維が繊維長手方向に並ぶように熱固定されることが重要である。
【0033】
炭素繊維編み物の各工程の熱処理時には、経横に適正な張率を与え、適正な熱収縮応力を発生させながら分子配向させることで、炭素繊維用にブレンドされたアクリル繊維でない衣料用の極細紡績糸でも、電極として使用するために必要な強度や靭性を確保することができる。
【0034】
本発明における炭素繊維編み物は、編み物を構成する炭素繊維紡績糸の糸幅が200μm以下であり、前記編み物の目付は150g/m2以下である。前記糸幅は、40μm~150μmの範囲内にあることが好ましい。紡績糸を構成する単糸本数は、65本~200本の範囲内にあることが好ましく、炭素繊維紡績糸を構成する単糸径は、8μm以下であることが好ましい。また、前記編み物の目付は40g/m2~150g/m2の範囲内にあることが好ましい。
【0035】
本発明における炭素繊維編み物は、太さの異なる少なくとも2種類の紡績糸を含み、片面に太糸、他面に細糸が出る両面編み構造の編み物であることが好ましい。細い糸と太い糸とを用いて、細い糸が裏面、太い糸が表面に出るように編み上げた構造とすると、毛細管現象によって細い糸側から太い糸側に水分が移動しやすい、水はけのよい編み物とすることができる。また、消失繊維と合糸した状態で編立を行うことで、編立工程の改善や、消失繊維消失後に無撚りとなることによる毛管現象の改善効果も期待できる。本発明における炭素繊維編み物を燃料電池用ガス拡散電極基材として用いる場合、このような構造の炭素繊維編み物を用い、前記太糸の側の面に後述の微多孔平滑層を形成すると好適である。
【0036】
本発明の燃料電池用ガス拡散電極基材は、炭素フィラーおよびフッ素系樹脂を含む導電性の微多孔平滑層、いわゆる、マイクロポーラス・レイヤー(MPL)が、上述の本発明の炭素繊維電極材料上の少なくとも片面に、形成されていることを特徴とする。微多孔平滑層の目付は、10~30g/m2の範囲内にあることが好ましい。高分子膜燃料電池用の薄い電解質膜を保護するとともに密接性をよくするために、MPLが設けられる。MPLを設けることによって、発電性能を、例えば、10%程度改善できるが、基本的には、基材の形態がその性能を決定している。微多孔平滑層を設けると、炭素繊維電極材料の表面凹凸が覆われ平滑となるため、膜-電極接合体を構成し、燃料電池を構成した際に、触媒層との間の電気抵抗を低減することができる。また、固体高分子電解質膜の損傷もより確実に防止することができる。
【0037】
前記微多孔平滑層は、ガス拡散電極基材の排水性を向上する目的で、疎水性であることが好ましく、フッ素系樹脂を好適に用いることができる。フッ素系樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)等のフッ素樹脂が挙げられるが、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)が汎用性および取扱い性等の観点から好ましく用いることができる。
【0038】
炭素フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛等を用いることができる。炭素フィラーとしては導電性のよいカーボンブラックを用いるのが好ましい。フッ素系樹脂および炭素フィラーの添加量は、フッ素系樹脂1質量部に対して炭素フィラーが3~4.5質量部の比率であることが好ましく、前記比率は3.5~4質量部であることがより好ましい。これらを水溶性のインクとし、炭素繊維編み物に、スプレーコータ、スクリーン印刷、フィルム転写などの方法で積層し結着樹脂を熱固定する。
【0039】
本発明で得られる燃料電池用ガス拡散電極基材を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することで膜-電極接合体が構成される。微多孔平滑層が片面のみに形成されている場合は、前記微多孔平滑層が触媒層と接するように、膜-電極接合体を構成することが好ましい。かかる膜-電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成することができる。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いるのが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性、耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いるのが好ましい。かかる燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例により具体的に表1で説明する。
【0041】
[実施例1]
メートル番手表示で1/100NmのPAN紡績糸(太糸)とPVA繊維とで合糸した糸と、メートル番手表示で1/200NmのPAN紡績糸(細糸)とPVA繊維とで合糸した糸とを用い、編み針ピッチは28本/インチとし、段ボール粗密編み物を作製した。編立後に、PVA繊維を湯洗消失させて、得られた編み物を、収縮率が処理前の縦横寸法の95%となるような薄い耐熱板を用いて耐炎化処理を行い、その後、窒素ガス中で1200℃、5分間保持して炭化焼成を行い、炭素繊維電極材料編み物を得た。得られた炭素繊維編み物を構成する炭素繊維紡績糸の撚り角は0°(無撚糸)、一方の面(太糸側の面)の糸幅は150μm、他方の面(細糸側の面)の糸幅は75μmであった。
図1Aは、得られた炭素繊維編み物の太糸側の面の顕微鏡写真である。
【0042】
[実施例1-1](表太裏細編み)
得られた炭素繊維電極材料編み物を用いて、燃料電池用ガス拡散電極基材を作製した。その際、編み物の太糸側の面を表面としてMPL層を形成し、発電特性試験においては、細糸側の面がセパレータ面に当たるようにセルを組み立てた。結果を表1に示す。なお、MPL層は、0.5μmのカーボンブラックおよびPTFE粒子を3.5:1の割合で含む、水系のインクを塗布することで形成した。
【0043】
[実施例1-2](表細裏太編み)
得られた炭素繊維電極材料編み物を用いて、燃料電池用ガス拡散電極基材を作製した。その際、編み物の細糸側の面を表面として、実施例1-1と同様にMPL層を形成し、発電特性試験においては、太糸側の面がセパレータ面に当たるようにセルを組み立てた。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
メートル番手表示で1/100NmのPAN紡績糸とPVA繊維とで合糸した糸と、メートル番手表示で1/200NmのPAN紡績糸とPVA繊維とで合糸した糸とを用い、ポンチローマ粗密編み物を作製した(表太裏細編み)。編立後に、PVA繊維を湯洗消失させて、得られた編み物を、収縮率が処理前の縦横寸法の82%となるような薄い耐熱板を用いて耐炎化処理を行い、その後、窒素ガス中で1200℃、5分間保持して炭化焼成を行い、炭素繊維電極材料編み物を得た。得られた炭素繊維編み物を構成する炭素繊維紡績糸の撚り角は0°(無撚糸)、糸幅は、150μmおよび75μmであった。
図1Bは、得られた炭素繊維編み物の顕微鏡写真である。
【0045】
本例の炭素繊維電極材料編み物を用いて燃料電池用ガス拡散電極基材を作製する際には、編み物の太糸側の面に、実施例1-1と同様にMPL層を形成し、発電特性試験においては、細糸側の面がセパレータ面に当たるようにセルを組み立てた。結果を表1に示す。発電性能は実施例1とほぼ同じく良好な結果であった。
【0046】
[実施例3]
メートル番手表示で1/100NmのPAN紡績糸と、メートル番手表示で1/200NmのPAN紡績糸とを用い、スムース編み物を作製した(表裏同、太細交互編み)。得られた編み物を、収縮率が処理前寸法の78%となるような薄い耐熱板を用いて、実施例1と同じ条件で耐炎化処理と炭化焼成を行い、炭素繊維電極材料編み物を得た。得られた炭素繊維編み物を構成する炭素繊維紡績糸の撚り角は30°、糸幅は、100μmおよび60μmであった。
図1Cは、得られた炭素繊維編み物の顕微鏡写真である。
【0047】
本例の炭素繊維電極材料編み物を用いて燃料電池用ガス拡散電極基材を作製する際には、編み物の片面に、実施例1-1と同様にMPL層を形成し、発電特性試験においては、その反対面がセパレータ面に当たるようにセルを組み立てた。結果を表1に示す。その過加湿発電特性は、他の実施例には劣るものの、各比較例に比べ、良好な結果であった。
【0048】
[比較例1]
市販されているSGL社製のMPL付きカーボンペーパ(24BC)を燃料電池用ガス拡散電極基材として、セルを組み立てた。発電性能は表1に示すとおりである。なお目付および電気抵抗値は、MPLが塗布された状態での測定値である。
【0049】
[比較例2]
表1に記載の物性値を有するZOLTEK社製炭素繊維織物(MPLなし)を燃料電池用ガス拡散電極基材として、セルを組み立てた。その発電性能は表1に示すとおりである。
【0050】
[比較例3]
比較例2で用いたZOLTEK社製炭素繊維織物に、実施例1-1と同様にMPL層を形成したものを燃料電池用ガス拡散電極基材として、セルを組み立てた。その発電性能は表1に示すとおりである。
【0051】
表1に示した実施例および比較例における評価項目は、次のとおりである。
【0052】
[耐炎化焼成時の規制収縮率]
耐炎化時、ミシン糸で縫い合わされた編み物が内包した耐熱板で収縮できないように規制したときの収縮率である。ミシン縫い幅の縦寸法に対する耐熱版の縦寸法の比率(%)と、ミシン縫い幅の横寸法に対する耐熱版の横寸法の比率(%)との平均値を表示している。
【0053】
[焼成後の糸幅]
得られた炭素繊維編み物を250倍に拡大し、同じ種類の糸につき、5箇所の幅を画面上で測定し、その平均値(μm)を表示している。
【0054】
[焼成後目付]
得られた炭素繊維編み物を、8cm×8cmの大きさに切り出し、質量を測定して、1m2当りの質量に換算した値を表示している。なお、本願における「目付」とは、日本工業規格(JIS)L02028における「毛織物などの単位面積当たりの質量を表す単位で、1m2当りのグラム数」と同義である。
【0055】
[厚方向の電気抵抗値]
得られた炭素繊維編み物を、1cm2の銀板で挟み、100Nの押圧をかけて測定した厚み方向の抵抗値(mΩ/Mpa/cm2)である。
【0056】
[1Mpa押圧時厚み]
得られた炭素繊維編み物を、1cm2の押板で1Mpa押圧した時の厚みを、デジタル厚み測定器(ミツトヨ製)で読み取った値(μm/Mpa)である。
【0057】
[過加湿発電特性]
MPLを目付18g/m
2となるように塗布した燃料電池用ガス拡散電極基材を用い、両極とも同じ1cm
2の試験片(ガス拡散電極基材)を用いた。本測定試験に使用した評価セル100は、
図2に示す様に、触媒付きの高分子膜40を両側から、ガス拡散電極基材21,22および溝付きのセパレータ51,52で挟み込んだ構造である。高分子膜40(電解質膜:厚さ40μm)はアノードおよびカソードの両側に触媒層を密着させた上で各ガス拡散電極基材21,22に当接した。本測定の評価セルに組み込んだ各ガス拡散電極基材の厚みは、表1に記載の、面圧が1MPa時の厚みとなるようシム調整してセットし、60℃で加湿された500cc/分の水素と1000cc/分の空気を送り込み、一定の慣らし運転を行った。その後、燃料電池セルに両極とも45℃、ガス湿度165%、酸素濃度1%の窒素を流し、0.9V~0.2Vを5往復繰り返し、最後の0.2Vの時の電流密度(A/cm
2)を測定し、過加湿発電性能(過加湿ガス拡散抵抗値S/M)とした。ここで、「慣らし運転」とは、発電パターン(電圧電流条件やその時間)を変えながら、高分子膜、触媒層、ガス拡散電極基材の間の馴染みを良くしながら、発電能力を定常状態に向上させて、性能評価を行う前段階のセルの試運転をいうものとする。また、この評価セルにおける空気極の平均背圧を0.15MPa(abs)、水素極の平均背圧を0.10MPa(abs)としている。
【0058】
[大電流発電特性]
一定の慣らし運転後の前記過加湿特性測定に引き続き、両極とも60℃、ガス湿度80%、酸素濃度21%の空気を流し、0.9V~0.2Vを5往復繰り返し、最後の0.2V時の電流密度(A/cm2)を測定し大電流発電特性とした。
【0059】
【0060】
実施例1について、過加湿発電特性は、実施例1-2より実施例1-1のほうが、良好な結果が得られた。実施例1-1は編み物の太糸面にMPLを塗布しており、実施例1-2は編み物の細糸側にMPLを塗布しただけの違いで、他の条件は同じである。実施例1-2は、過加湿発電特性が実施例1-1よりも、14%低下していた。これは、実施例1-1の形態では、水はけがよい、すなわち電解質膜側から見て厚み方向に空間が広がり、生成水蒸気が拡散しやすく結露せずにセパレータを通じて排出されるためであると考えられる。なお、水はけ性能を特徴づけるため1%酸素99%窒素ガスを供給して両例の比較した結果を
図3に示す。
【0061】
実施例2および3の炭素繊維編み物と比較例1のカーボンペーパ、比較例2の太い繊維の炭素繊維織物を比較すると、目付や厚みは大差ないが、編み物構造の実施例2および3は、大電流域での生成水の排水性がよく、過加湿発電特性は良好であった。その理由として、
図4を参照して説明する。
図4(A)は炭素繊維編み物21Aの編み目とセパレータ51との位置関係を模式的に示した図である。
図4(B)は、
図4(A)のI-I断面のセパレータ51からMPL層21Bまでの領域の部分拡大図である。
図4(A)において、斜線で示す領域は、セパレータ51の凸部分であり、炭素繊維編み物21Aに接する部分である。
図4(A)に示すように、本願の炭素繊維編み物21Aとセパレータ51でできる溝部に矢印の方向に空気を流すと、編目の繊維が前記空気の流れ方向にハの字状(流路に沿って徐々に狭くなる形状)になっているため、流路断面積が小さくなり流速が上がる。そのため、その部分での電気化学反応が促進され、発電効率が上がるとともに、電解質膜触媒層とMPL層との界面で発生した水蒸気が、セパレータ側へ吸い出されやすくなっていると考えられる。なお、セパレータのピッチと編み物のピッチとを合わせると、セパレータ凸部と編み物との接触面を増やすことができ、抵抗を下げることができるというメリットもある。
【0062】
製法においても実施例1,2,3で得られる炭素繊維編み物は、比較例1のカーボンペーパや比較例2の太い糸からなる炭素繊維織物に対し、省エネ・省工程であり電力コストが少ないため、製造時のCO2排出の削減にもつながる。すなわち、耐炎化前に市販のPAN紡績糸を編み物とすればよく、安価な細い糸も使用可能となり、耐炎化工程においても、糸条ごとに加熱するのではなく、面の形状で加熱できるため、設備面積が少なくて済むからである。なお、耐炎化処理で強度が落ちるため、従来のように後から編み立てる方法では細い紡績糸からなる炭素繊維編み物を得ることができていないが、本発明の製造方法においては、白糸(耐炎化・炭化処理前の糸)を先に編み物にして2次元で耐炎化処理するため、糸強度が弱くなっても編み物布の形態は確保できる。むしろ耐炎化焼成するときに、2次元で繊維を配向させることにより、引張強度を確保することができる。