(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124665
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02N 11/08 20060101AFI20230830BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20230830BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20230830BHJP
F16H 61/684 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
F02N11/08 L
F16H61/02
F16H63/50
F16H61/684
F02N11/08 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028569
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】珍部 友宏
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 真治
(72)【発明者】
【氏名】笛木 正弘
(72)【発明者】
【氏名】石関 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 未也
(72)【発明者】
【氏名】神尾 健二
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552NA01
3J552NB01
3J552NB05
3J552NB08
3J552PA26
3J552QA30C
3J552RC01
3J552SA07
3J552SA08
3J552UA03
3J552VA07W
3J552VA53Z
(57)【要約】
【課題】スタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ、電動オイルポンプ装置の小型化を図る。
【解決手段】スタータモータを用いたエンジンの始動に際して、スタータモータによるクランキングの完了後に電源装置の出力電圧又は電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっていると判定した後に、電動オイルポンプ装置による作動油の吐出を開始するスタータ始動制御が行われるので、クランキングに伴って電源装置の出力電圧が低下する場合に、電動オイルポンプ装置の内部に電圧低下時にも作動可能な高機能なデバイスを使用することなく、電動オイルポンプ装置を正常に作動することができる。よって、スタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ、電動オイルポンプ装置の小型化を図ることができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた油圧式のクラッチと、前記エンジンの始動に用いられるスタータモータと、前記クラッチに供給される油圧の元となる作動油を吐出する電動オイルポンプ装置と、前記スタータモータと前記電動オイルポンプ装置とを各々駆動する電力を供給する電源装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記スタータモータを用いた前記エンジンの始動に際して、前記スタータモータによるクランキングの完了後に前記電源装置の出力電圧又は前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっていると判定した後に、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始するスタータ始動制御を行う始動制御部を含むことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記始動制御部は、前記スタータ始動制御を行う際には、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始した後に、前記作動油を元にした前記油圧を前記クラッチに供給して前記クラッチを解放状態から係合状態へ切り替えることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記始動制御部は、前記スタータモータ及び前記電動オイルポンプ装置の各々に前記電力を供給した状態で前記エンジンの始動を開始し、前記クランキングの完了後に前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっていると判定した場合には、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記始動制御部は、前記電動オイルポンプ装置への前記電力の供給を開始した時点から前記電動オイルポンプ装置の作動準備に必要な所定準備時間が経過した状態で、前記クランキングの完了後に前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっているか否かを判定することを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記始動制御部は、前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっていることを前記電動オイルポンプ装置が検知した状態であるか否かを判定することで、前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっているか否かを判定することを特徴とする請求項3又は4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記始動制御部は、前記スタータモータに前記電力を供給した状態で前記エンジンの始動を開始し、前記クランキングの完了後に前記電源装置の出力電圧が前記所定電圧以上となっていると判定した場合には、前記電動オイルポンプ装置への前記電力の供給を開始して前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記始動制御部は、前記クランキングの完了後に前記電動オイルポンプ装置が正常に作動できる状態であると判定した場合には、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項8】
前記始動制御部は、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要なクランキングトルクを伝達するように前記クラッチを制御し、前記クラッチによるクランキングに連動して前記クランキングトルクを出力するように、前記クラッチと前記駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された、前記電源装置を充電可能に設けられた高圧電源装置から供給される電力によって駆動させられる電動機を制御し、前記クラッチによるクランキングに連動して運転を開始するように前記エンジンを制御するクラッチ始動制御を行うことが可能であり、
前記始動制御部は、前記クラッチ始動制御を行うことが難しい場合に、前記スタータ始動制御を行うことを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項9】
前記クラッチ始動制御を行うことが難しい場合とは、前記車両の起動後において初回に前記エンジンを始動する場合であることを特徴とする請求項8に記載の車両の制御装置。
【請求項10】
前記クラッチ始動制御を行うことが難しい場合とは、前記電動機が適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に前記車両がある場合であることを特徴とする請求項8又は9に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動用のスタータモータを備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた油圧式のクラッチと、前記クラッチに供給される油圧の元となる作動油を吐出する電動オイルポンプ装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された動力伝達装置がそれである。この特許文献1には、電動オイルポンプ装置が吐出する作動油を元にした油圧によってクラッチを係合しつつ、クランキングトルクを出力するように、クラッチと駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された電動機を制御してエンジンを始動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンの始動に用いられるスタータモータが車両に備えられており、そのスタータモータによりエンジンを始動する場合がある。この場合、スタータモータを駆動する電力を供給する電源装置の出力電圧が一時的に低下することがある。この電源装置が電動オイルポンプ装置を駆動する電力も供給していると、エンジンを始動する際に電動オイルポンプ装置を駆動してクラッチの係合を行う場合に、電動オイルポンプ装置が正常に作動しないおそれがある。これに対して、電動オイルポンプ装置の入力電圧がエンジンの始動に伴って低下しても、正常に作動する電動オイルポンプ装置を用いることが考えられる。この場合には、例えば電動オイルポンプ装置の内部に昇圧電源回路を設けたり、電動オイルポンプ装置が備えるインバータに低電圧でも作動できる機能を設けたりするなど、電動オイルポンプ装置の内部に電圧低下時にも作動可能な高機能な装置(=デバイス)を使用する必要がある。そうすると、ハード的構成の追加などにより、電動オイルポンプ装置を小型化し難いという問題が生じる。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、スタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ、電動オイルポンプ装置の小型化を図ることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた油圧式のクラッチと、前記エンジンの始動に用いられるスタータモータと、前記クラッチに供給される油圧の元となる作動油を吐出する電動オイルポンプ装置と、前記スタータモータと前記電動オイルポンプ装置とを各々駆動する電力を供給する電源装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記スタータモータを用いた前記エンジンの始動に際して、前記スタータモータによるクランキングの完了後に前記電源装置の出力電圧又は前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっていると判定した後に、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始するスタータ始動制御を行う始動制御部を含むことにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記スタータ始動制御を行う際には、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始した後に、前記作動油を元にした前記油圧を前記クラッチに供給して前記クラッチを解放状態から係合状態へ切り替えることにある。
【0008】
また、第3の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記スタータモータ及び前記電動オイルポンプ装置の各々に前記電力を供給した状態で前記エンジンの始動を開始し、前記クランキングの完了後に前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっていると判定した場合には、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始することにある。
【0009】
また、第4の発明は、前記第3の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記電動オイルポンプ装置への前記電力の供給を開始した時点から前記電動オイルポンプ装置の作動準備に必要な所定準備時間が経過した状態で、前記クランキングの完了後に前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっているか否かを判定することにある。
【0010】
また、第5の発明は、前記第3の発明又は第4の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっていることを前記電動オイルポンプ装置が検知した状態であるか否かを判定することで、前記電動オイルポンプ装置の入力電圧が前記所定電圧以上となっているか否かを判定することにある。
【0011】
また、第6の発明は、前記第1の発明又は第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記スタータモータに前記電力を供給した状態で前記エンジンの始動を開始し、前記クランキングの完了後に前記電源装置の出力電圧が前記所定電圧以上となっていると判定した場合には、前記電動オイルポンプ装置への前記電力の供給を開始して前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始することにある。
【0012】
また、第7の発明は、前記第1の発明から第6の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記クランキングの完了後に前記電動オイルポンプ装置が正常に作動できる状態であると判定した場合には、前記電動オイルポンプ装置による前記作動油の吐出を開始することにある。
【0013】
また、第8の発明は、前記第1の発明から第7の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記エンジンの回転速度を引き上げるクランキングに必要なクランキングトルクを伝達するように前記クラッチを制御し、前記クラッチによるクランキングに連動して前記クランキングトルクを出力するように、前記クラッチと前記駆動輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された、前記電源装置を充電可能に設けられた高圧電源装置から供給される電力によって駆動させられる電動機を制御し、前記クラッチによるクランキングに連動して運転を開始するように前記エンジンを制御するクラッチ始動制御を行うことが可能であり、前記始動制御部は、前記クラッチ始動制御を行うことが難しい場合に、前記スタータ始動制御を行うことにある。
【0014】
また、第9の発明は、前記第8の発明に記載の車両の制御装置において、前記クラッチ始動制御を行うことが難しい場合とは、前記車両の起動後において初回に前記エンジンを始動する場合である。
【0015】
また、第10の発明は、前記第8の発明又は第9の発明に記載の車両の制御装置において、前記クラッチ始動制御を行うことが難しい場合とは、前記電動機が適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に前記車両がある場合である。
【発明の効果】
【0016】
前記第1の発明によれば、スタータモータを用いたエンジンの始動に際して、スタータモータによるクランキングの完了後に電源装置の出力電圧又は電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっていると判定した後に、電動オイルポンプ装置による作動油の吐出を開始するスタータ始動制御が行われるので、クランキングに伴って電源装置の出力電圧が低下する場合に、電動オイルポンプ装置の内部に電圧低下時にも作動可能な高機能なデバイスを使用することなく、電動オイルポンプ装置を正常に作動することができる。よって、スタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ、電動オイルポンプ装置の小型化を図ることができる。
【0017】
また、前記第2の発明によれば、スタータ始動制御が行われる際には、電動オイルポンプ装置による作動油の吐出が開始された後に、作動油を元にした油圧がクラッチに供給されてクラッチが解放状態から係合状態へ切り替えられるので、電動オイルポンプ装置の小型化を図りつつ、車両の発進に備えることができる。
【0018】
また、前記第3の発明によれば、スタータモータ及び電動オイルポンプ装置の各々に電力が供給された状態でエンジンの始動が開始され、クランキングの完了後に電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっていると判定された場合には、電動オイルポンプ装置による作動油の吐出が開始されるので、クランキングの完了時点では既に電動オイルポンプ装置に電力が供給されており、入力電圧が所定電圧以上とされると速やかに作動油の吐出が開始される。これにより、作動油を元にした油圧がクラッチに供給されてクラッチが解放状態から係合状態へ切り替えられる場合に、クラッチを速やかに係合することができ、車両発進までの応答性を向上することができる。
【0019】
また、前記第4の発明によれば、電動オイルポンプ装置への電力の供給が開始された時点から電動オイルポンプ装置の作動準備に必要な所定準備時間が経過した状態で、クランキングの完了後に電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっているか否かが判定されるので、入力電圧が所定電圧以上とされると所定準備時間を待機することなく速やかに作動油の吐出が開始される。
【0020】
また、前記第5の発明によれば、電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっていることを電動オイルポンプ装置が検知した状態であるか否かが判定されることで、電動オイルポンプ装置の入力電圧が所定電圧以上となっているか否かが判定されるので、電動オイルポンプ装置の内部に電圧低下時にも作動可能な高機能なデバイスを使用する必要がなくなる。
【0021】
また、前記第6の発明によれば、スタータモータに電力を供給した状態でエンジンの始動が開始され、クランキングの完了後に電源装置の出力電圧が所定電圧以上となっていると判定された場合には、電動オイルポンプ装置への電力の供給が開始されて電動オイルポンプ装置による作動油の吐出が開始されるので、クランキングに伴って電源装置の出力電圧が低下する場合に、電動オイルポンプ装置が正常に作動しない状態を回避することができる。これにより、作動油を元にした油圧がクラッチに供給されてクラッチが解放状態から係合状態へ切り替えられる場合に、電動オイルポンプ装置が正常に作動しない状態を回避しつつクラッチを係合することができる。
【0022】
また、前記第7の発明によれば、クランキングの完了後に電動オイルポンプ装置が正常に作動できる状態であると判定された場合には、電動オイルポンプ装置による作動油の吐出が開始されるので、確実に電動オイルポンプ装置を正常に作動することができる。
【0023】
また、前記第8の発明によれば、クラッチ始動制御を行うことが難しい場合に、スタータ始動制御が行われるので、通常時に行われるエンジンの始動とは別のスタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ、電動オイルポンプ装置の小型化を図ることができる。
【0024】
また、前記第9の発明によれば、クラッチ始動制御を行うことが難しい場合とは、車両の起動後において初回にエンジンを始動する場合であるので、暖機完了前にエンジンを適切に始動することができる。
【0025】
また、前記第10の発明によれば、クラッチ始動制御を行うことが難しい場合とは、電動機が適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に車両がある場合であるので、極低温の環境下でエンジンを適切に始動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】油圧制御回路へ作動油を供給する油圧源、及び低圧バッテリからの電力の供給先を説明する図である。
【
図3】電動オイルポンプ装置の内部の構成を説明する図である。
【
図4】エンジン始動制御が実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、スタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ電動オイルポンプ装置の小型化を図る為の制御作動を説明するフローチャートである。
【
図6】
図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【
図7】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、スタータモータを用いたエンジンの始動に対応しつつ電動オイルポンプ装置の小型化を図る為の制御作動を説明するフローチャートであって、
図5とは別の実施例である。
【
図8】
図7のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0028】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、動力源SPとして機能する、エンジン12及び電動機MGを備えたハイブリッド車両である。又、車両10は、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0029】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置(=ECU)90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12のトルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0030】
電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。電動機MGは、車両10に備えられたインバータ52を介して、車両10に備えられた高圧バッテリ54に接続されている。高圧バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGのトルクであるMGトルクTmが制御される。電動機MGは、力行時には高圧バッテリ54から供給される電力によって駆動させられる。電動機MGは、回生時には発電した電力を高圧バッテリ54へ供給する。MGトルクTmは、例えば電動機MGの回転方向がエンジン12の運転時と同じ回転方向である正回転の場合、加速側となる正トルクでは力行トルクであり、減速側となる負トルクでは回生トルクである。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0031】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、K0クラッチ20、トルクコンバータ22、自動変速機24等を備えている。K0クラッチ20は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路におけるエンジン12と電動機MGとの間に設けられたクラッチである。トルクコンバータ22は、K0クラッチ20を介してエンジン12に連結されている。自動変速機24は、トルクコンバータ22に連結されており、トルクコンバータ22と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。自動変速機24は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路における電動機MGと駆動輪14との間に設けられた変速機である。又、動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備えている。又、動力伝達装置16は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結するエンジン連結軸34、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結する電動機連結軸36等を備えている。
【0032】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路、特にはK0クラッチ20と駆動輪14との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。又、電動機MGは、K0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結されている。見方を換えれば、電動機MGは、K0クラッチ20を介することなくトルクコンバータ22や自動変速機24と動力伝達可能に連結されている。
【0033】
トルクコンバータ22は、電動機連結軸36と連結されたポンプ翼車22a、及び自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38と連結されたタービン翼車22bを備えている。トルクコンバータ22は、動力源SPからの動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ22は、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを連結する、つまり電動機連結軸36と変速機入力軸38とを連結する直結クラッチとしてのLUクラッチ40を備えている。LUクラッチ40は、公知のロックアップクラッチである。
【0034】
自動変速機24は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、例えば複数の油圧式の係合装置例えば公知の摩擦係合装置を含んでいる。係合装置CBは、各々、車両10に備えられた油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。
【0035】
自動変速機24は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて、係合装置CBのうちの自動変速機24の変速に関与する係合装置の制御状態が切り替えられることで、形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT入力回転速度Niは、タービン回転速度Ntで表すことができる。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0036】
K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56から供給される調圧された油圧であるK0油圧PRk0によりK0クラッチ20のトルク容量であるK0トルクTk0が変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの制御状態が切り替えられる。
【0037】
車両10において、K0クラッチ20の係合状態では、エンジン12とトルクコンバータ22とが動力伝達可能に連結される。一方で、K0クラッチ20の解放状態では、エンジン12とトルクコンバータ22との間の動力伝達が遮断される。電動機MGはトルクコンバータ22に連結されているので、K0クラッチ20は、エンジン12を電動機MGと断接するクラッチとして機能する。
【0038】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。又、電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の制御状態に拘わらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0039】
車両10は、更に、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動オイルポンプ装置である電動オイルポンプ60、スタータモータ62、DC/DCコンバータ64、低圧バッテリ66、スタートボタン68等を備えている。
【0040】
MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、動力源SPにより回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。MOP58を回転駆動する動力源SPは、K0クラッチ20が解放状態であるときには電動機MGであり、K0クラッチ20が係合状態であるときには少なくともエンジン12である。電動オイルポンプ60は、電動オイルポンプ60が備える電動オイルポンプ用モータ70(後述する
図2、3参照)により、電動オイルポンプ60が備える電動オイルポンプ用ポンプ72(後述する
図2、3参照)が回転駆動させられることで作動油OILを吐出する。電動オイルポンプ60は、例えばMOP58が作動できない場合、MOP58による作動油OILの流量が不足する場合などに作動させられる。MOP58や電動オイルポンプ60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。油圧制御回路56は、MOP58及び/又は電動オイルポンプ60が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、K0油圧PRk0などを供給する。
【0041】
スタータモータ62は、エンジン12の始動に用いられる始動用モータである。スタータモータ62は、エンジン12の始動に際してエンジン12を回転駆動するすなわちクランキングする専用のモーターである。
【0042】
DC/DCコンバータ64は、高圧バッテリ54に接続されている。低圧バッテリ66は、DC/DCコンバータ64に接続されており、高圧バッテリ54から供給される電力を源として、DC/DCコンバータ64によって充電される。高圧バッテリ54は、低圧バッテリ66よりも高い電圧を蓄電する高圧系のバッテリであって、低圧バッテリ66を充電可能に設けられた高圧電源装置である。
【0043】
スタートボタン68は、車両10における電源の供給状態すなわち車両電源の状態を切り替える為に運転者により操作されるパワースイッチである。スタートボタン68は、例えばモーメンタリ式の押しボタンスイッチであり、運転者によりスイッチオンポジションまで押込み操作される。スタートボタン68は、スイッチオンポジションまで押込み操作される毎に、スイッチオンポジションに応じたパワースイッチ信号PSonを後述する電子制御装置90へ出力する。電子制御装置90は、パワースイッチ信号PSonに基づいて運転者によるスタートボタン68の操作を検出する。
【0044】
車両電源の状態は、例えばオフ状態としてのオフ(=「OFF」)の状態、一部オン状態としてのアクセサリオン(=「ACC」)の状態、及びオン状態としてのイグニッションオン(=「IG-ON」)の状態である。「OFF」の状態は、例えば車両走行を不能とし且つ車両走行に関わらない一部の機能も稼働不能とする為の電源状態である。「ACC」の状態は、例えば不図示のコンビネーションメータを消灯して車両走行を不能とするが車両走行に関わらない一部の機能を稼働可能とする為の電源状態である。「IG-ON」の状態は、例えばコンビネーションメータを点灯して車両走行を可能とする為の電源状態である。
【0045】
図2は、油圧制御回路56へ作動油OILを供給する油圧源、及び低圧バッテリ66からの電力の供給先を説明する図である。
図2において、電動オイルポンプ60は、電動オイルポンプ用モータ70、電動オイルポンプ用ポンプ72等を備えている(
図3参照)。電動オイルポンプ用モータ70は、電動オイルポンプ用ポンプ72を回転駆動する為の電動オイルポンプ60専用のモータである。電動オイルポンプ用ポンプ72は、電動オイルポンプ用モータ70により回転駆動させられて作動油OILを吐出する電動式のオイルポンプである。MOP58と電動オイルポンプ用ポンプ72とは、作動油OILが流通する油路の構成上、並列に設けられている。MOP58及び電動オイルポンプ用ポンプ72は、各々、ケース18の下部に設けられたオイルパン100に還流した作動油OILを、共通の吸い込み口であるストレーナ102を介して吸い上げて、各々の吐出油路104、106へ吐出する。吐出油路104、106は、各々、油圧制御回路56が備える油路、例えばライン圧PLが流通する油路であるライン圧油路108に連結されている。MOP58から作動油OILが吐出される吐出油路104は、油圧制御回路56に備えられたMOP用チェックバルブ110を介してライン圧油路108に連結されている。電動オイルポンプ用ポンプ72から作動油OILが吐出される吐出油路106は、油圧制御回路56に備えられた電動オイルポンプ用チェックバルブ112を介してライン圧油路108に連結されている。
【0046】
油圧制御回路56は、ライン圧油路108、MOP用チェックバルブ110、及び電動オイルポンプ用チェックバルブ112の他に、K0ソレノイドSLk0、不図示の、レギュレータバルブ、PL用ソレノイドバルブ、複数のCBソレノイドなどを備えている。
【0047】
レギュレータバルブは、MOP58及び電動オイルポンプ用ポンプ72の少なくとも一方が吐出する作動油OILを元にしてライン圧PLを調圧する。PL用ソレノイドバルブは、例えばリニアソレノイドバルブであり、モジュレータ圧を元にして、自動変速機24への入力トルクTin等に応じたパイロット圧をレギュレータバルブへ出力するように後述する電子制御装置90により制御される。これにより、ライン圧PLは、自動変速機24への入力トルクTin等に応じた値に調圧される。モジュレータ圧は、例えばライン圧PLを元圧として不図示のモジュレータバルブによって一定値に調圧された油圧である。
【0048】
K0ソレノイドSLk0は、ライン圧PLを元圧として、K0クラッチ20へ調圧したK0油圧PRk0を供給するように後述する電子制御装置90により制御されるK0クラッチ20用のソレノイドバルブ特にはリニアソレノイドバルブである。CBソレノイドは、係合装置CBの各々に対応して設けられており、K0ソレノイドSLk0と同様に、ライン圧PLを元圧としてCB油圧PRcbを供給するリニアソレノイドバルブである。
【0049】
低圧バッテリ66は、車両に備えられた電動オイルポンプリレー120を介して電動オイルポンプ60に接続されている。低圧バッテリ66は、車両に備えられたスタータリレー122を介してスタータモータ62に接続されている。低圧バッテリ66は、電動オイルポンプリレー120が後述する電子制御装置90の指令によってオン状態とされてつまり通電されて接点が閉じられると、電動オイルポンプ60へ電力を供給する。低圧バッテリ66は、スタータリレー122が後述する電子制御装置90の指令によってオン状態とされて接点が閉じられると、スタータモータ62へ電力を供給する。このように、低圧バッテリ66は、電動オイルポンプ60とスタータモータ62とを各々駆動する電力を供給する電源装置である。電動オイルポンプ60の入力電圧である電動オイルポンプ入力電圧Vopは、電動オイルポンプリレー120のオフ状態では0[V]であり、電動オイルポンプリレー120のオン状態では低圧バッテリ66の出力電圧である低圧バッテリ電圧Vbatlow例えば12[V]とされる。スタータモータ62の入力電圧であるスタータモータ入力電圧Vstは、スタータリレー122のオフ状態では0[V]であり、スタータリレー122のオン状態では低圧バッテリ電圧Vbatlowとされる。
【0050】
図3は、電動オイルポンプ60の内部の構成を説明する図である。
図3において、電動オイルポンプ60は、前述した電動オイルポンプ用モータ70、電動オイルポンプ用ポンプ72の他に、制御電源74、電動オイルポンプ用CPU76、電動オイルポンプ用インバータ78等を備えている。制御電源74及び電動オイルポンプ用インバータ78には、電動オイルポンプリレー120を介して低圧バッテリ電圧Vbatlow(
図3中の+B参照)つまり電動オイルポンプ入力電圧Vopが印加される。制御電源74は、電動オイルポンプリレー120のオン状態では、電動オイルポンプ入力電圧Vopを元にして、制御電源74の出力電圧である電動オイルポンプ内部制御電源電圧として、電動オイルポンプ用CPU76に動作電圧例えば5[V]を供給する。制御電源74は、電源投入後、最初の電動オイルポンプ用CPU76の作動開始時に、電動オイルポンプ用CPU76の初期化を行う、つまり電動オイルポンプ用CPU76をリセットする電動オイルポンプ内部CPUリセット機能を有している。電動オイルポンプ用CPU76は、電動オイルポンプ用インバータ78に接続されており、後述する電子制御装置90からの電動オイルポンプ制御指令信号Sopに基づいて電動オイルポンプ用インバータ78を制御する。電動オイルポンプ用インバータ78は、電動オイルポンプ用モータ70に接続されており、電動オイルポンプ用CPU76により制御されて電動オイルポンプ用モータ70を作動する。
【0051】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、クラッチ制御用、変速機制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0052】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサや各種装置等(例えばスタートボタン68、エンジン回転速度センサ80、タービン回転速度センサ81、出力回転速度センサ82、MG回転速度センサ83、アクセル開度センサ84、スロットル弁開度センサ85、ブレーキスイッチ86、バッテリセンサ87、油温センサ88、低圧バッテリセンサ89など)による検出値に基づく各種信号等(例えばパワースイッチ信号PSon、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、高圧バッテリ54のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、油圧制御回路56内の作動油OILの温度である作動油温THoil、低圧バッテリ電圧Vbatlowなど)が、それぞれ供給される。
【0053】
電子制御装置90は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ充電量SOC[%]を算出する。バッテリ充電量SOCは、高圧バッテリ54の充電量であって、高圧バッテリ54の充電状態を示す値つまり充電状態値である。電子制御装置90は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ充電量SOCに基づいて高圧バッテリ54の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]を算出する。高圧バッテリ54の充電可能電力Winは、高圧バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、高圧バッテリ54の入力制限つまり充電制限を示している。高圧バッテリ54の放電可能電力Woutは、高圧バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、高圧バッテリ54の出力制限つまり放電制限を示している。
【0054】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、電動オイルポンプ60、スタータモータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、係合装置CBを制御する為のCB油圧制御指令信号Scb、K0クラッチ20を制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0、LUクラッチ40を制御する為のLU油圧制御指令信号Slu、電動オイルポンプ60を制御する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sop、スタータモータ62を制御する為のスタータ制御指令信号Sstなど)が、それぞれ出力される。
【0055】
各油圧制御指令信号Sについて、K0油圧制御指令信号Sk0を例示して説明する。電子制御装置90は、K0油圧PRk0の指令値として、油圧制御回路56から調圧されたK0油圧PRk0を供給させる為のK0クラッチ20の指示圧であるK0クラッチ指示圧Spk0を算出する。指示圧とは、係合装置に供給される作動油OILに対して電子制御装置90から指示される目標油圧であって、この指示圧に応じて係合装置に供給される実際の油圧である実油圧が変化する。電子制御装置90は、K0クラッチ指示圧Spk0を、K0ソレノイドSLk0を駆動する為のK0指示電流値Sik0に変換する。K0指示電流値Sik0は、電子制御装置90に備えられた、K0ソレノイドSLk0を駆動する駆動回路であるソレノイド用ドライバに対する指示電流である。K0油圧制御指令信号Sk0は、K0指示電流値Sik0に基づいて、ソレノイド用ドライバがK0ソレノイドSLk0を駆動する為の駆動電流又は駆動電圧である。つまり、K0クラッチ指示圧Spk0は、K0油圧制御指令信号Sk0に変換されて油圧制御回路56へ出力される。本実施例では、便宜上、K0クラッチ指示圧Spk0とK0油圧制御指令信号Sk0とを同意に取り扱う。
【0056】
電子制御装置90は、車両10における各種制御を実現する為に、動力源制御手段すなわち動力源制御部92、クラッチ制御手段すなわちクラッチ制御部94、変速機制御手段すなわち変速機制御部96、及び始動制御手段すなわち始動制御部98を備えている。
【0057】
動力源制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部92aとしての機能と、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御手段すなわち電動機制御部92bとしての機能と、を含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行するハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部である。
【0058】
動力源制御部92は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdemである。要求駆動トルクTrdem[Nm]は、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求AT出力トルク等を用いることもできる。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0059】
動力源制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat等を考慮して、要求駆動トルクTrdemを実現する為の要求システム軸トルクTsysdemを算出する。要求システム軸トルクTsysdemは、システム軸トルクTsysの要求値である。システム軸トルクTsysは、電動機連結軸36上におけるトルクすなわち伝達軸トルクである。システム軸トルクTsysは、動力源トルクTspのうちの、自動変速機24を介して駆動輪14へ伝達されるトルク、すなわち駆動トルクTrとして用いられるトルクである。動力源制御部92は、要求システム軸トルクTsysdemを実現するように、エンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Seと、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Smと、を出力する。
【0060】
動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える場合には、車両10を駆動する駆動モードとしてモータ駆動モードつまりBEV駆動モードを成立させる。BEV駆動モードは、K0クラッチ20の解放状態において、エンジン12の運転が停止させられた状態で電動機MGのみを動力源SPに用いて走行するモータ走行つまり電動走行(=BEV走行)が可能な電動駆動モードである。一方で、動力源制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求システム軸トルクTsysdemを賄えない場合には、駆動モードとしてエンジン駆動モードつまりHEV駆動モードを成立させる。HEV駆動モードは、K0クラッチ20の係合状態において、少なくともエンジン12を動力源SPに用いて走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HEV走行)が可能なハイブリッド駆動モードである。他方で、動力源制御部92は、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える場合であっても、高圧バッテリ54の充電が必要な場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、駆動モードとしてHEV駆動モードを成立させる。高圧バッテリ54の充電が必要な場合とは、例えばバッテリ充電量SOCが規定の範囲よりも低下した場合、又は、バッテリ充電量SOCは規定の範囲に入っているが、高圧バッテリ54の充電を行った方がエネルギー効率が良くなる場合などである。
【0061】
変速機制御部96は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じてつまりその変速判断の結果に応じて自動変速機24の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。変速機制御部96は、自動変速機24の変速制御では、例えば係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放状態への切替えと、係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合状態への切替えと、によって自動変速機24の変速を行う。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0062】
始動制御部98は、エンジン12の制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン12の始動要求つまりエンジン始動要求の有無を判定する。例えば、始動制御部98は、BEV駆動モード時に、要求システム軸トルクTsysdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大したか否か、又は、エンジン12等の暖機が必要であるか否か、又は、高圧バッテリ54の充電が必要であるか否かなどに基づいて、エンジン始動要求が有るか否かを判定する。
【0063】
始動制御部98は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、エンジン12の始動つまりエンジン始動制御CTstを実行するようにK0クラッチ20を制御する為の指令をクラッチ制御部94へ出力する。クラッチ制御部94は、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達する為のK0トルクTk0が得られるように、解放状態のK0クラッチ20を係合状態に向けて制御する為のK0油圧制御指令信号Sk0を油圧制御回路56へ出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要な所定のトルクである。
【0064】
始動制御部98は、エンジン始動要求が有ると判定した場合には、エンジン始動制御CTstを実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する為の指令を動力源制御部92へ出力する。動力源制御部92特には電動機制御部92bは、K0クラッチ20の係合状態への切替えに合わせてつまりK0クラッチ20によるエンジン12のクランキングに連動して、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smをインバータ52へ出力する。又、動力源制御部92特にはエンジン制御部92aは、K0クラッチ20によるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。
【0065】
エンジン12のクランキング時には、K0クラッチ20の係合に伴う反力トルクが生じる。この反力トルクは、BEV走行時には、エンジン始動中のエンジン12等のイナーシャによる駆動トルクTrの落ち込みを生じさせる。その為、エンジン12のクランキング時には、MGトルクTmは、K0クラッチ20を介して伝達されるクランキングトルクTcr分増加させられる。エンジン始動制御CTstの際にクランキングトルクTcrに向けて増加させられるMGトルクTmは、この反力トルクを打ち消す為のMGトルクTmであって、この反力トルクを補償するMGトルクTm分すなわち反力補償用のMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、エンジン12のクランキングに必要なK0トルクTk0であり、電動機MG側からK0クラッチ20を介してエンジン12側へ流れる、エンジン12のクランキングに必要なMGトルクTmである。クランキングトルクTcrは、例えばエンジン12の諸元、エンジン12の始動方式(=始動タイプ)つまりエンジン始動タイプ等に基づいて予め定められた例えば一定のトルクである。
【0066】
つまり、BEV走行中のエンジン始動制御CTstでは、駆動トルクTrとして用いられるMGトルクTm分に加えて、クランキングトルクTcrとして用いられるMGトルクTm分が電動機MGから出力させられる。その為、BEV走行中には、エンジン始動制御CTstにおいて駆動トルクTrの落ち込みを生じさせないように、エンジン始動制御CTstに備えてクランキングトルクTcr分を担保しておく必要がある。従って、電動機MGの出力のみで要求システム軸トルクTsysdemを賄える範囲は、出力可能な電動機MGの最大トルクすなわち最大MGトルクTmmaxに対して、クランキングトルクTcr分を減じたトルク範囲となる。BEV走行中のシステム軸トルクTsysつまりMGトルクTmは、最大MGトルクTmmaxからクランキングトルクTcrを減じたトルクにて上限が制限される。最大MGトルクTmmaxは、高圧バッテリ54の放電可能電力Woutによって決められる及び/又は電動機MGの定格によって決められる、MGトルクTmの最大値である。
【0067】
図4は、エンジン始動制御CTstが実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図4において、t1a時点は、例えばBEV走行中に、運転者によるアクセルペダルの踏み増し操作に伴ってエンジン始動要求が有ると判定されたことにより、エンジン始動制御CTstが開始された時点を示している。エンジン始動制御CTstの開始後、K0クラッチ20のパック詰め制御すなわちK0パック詰め制御が実行される。パック詰め制御は、摩擦係合装置を、摩擦係合装置の摩擦プレート等におけるパッククリアランスが詰められた、パック詰めが完了した状態すなわちパック詰め完了状態とする制御である。摩擦係合装置のパック詰め完了状態は、そのパック詰め完了状態から摩擦係合装置へ供給する油圧を増大させれば摩擦係合装置がトルク容量を持ち始める状態である。K0パック詰め制御の終了後、エンジン12をクランキングする為に、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達するK0クラッチ20によるクランキングすなわちK0クランキングが実行される。
【0068】
K0クランキングによりエンジン回転速度Neが引き上げられた後、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させるK0クラッチ20による同期制御すなわちK0同期制御が実行される(
図4の実線参照)。エンジン回転速度Neは、エンジン連結軸34の回転速度であって、K0クラッチ20の入力回転速度と同値である。MG回転速度Nmは、電動機連結軸36の回転速度であって、K0クラッチ20の出力回転速度と同値である。つまり、エンジン回転速度NeとMG回転速度Nmとを同期させることとは、K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度とを同期させることと同意である。K0クラッチ20の入力回転速度と出力回転速度との同期すなわちK0同期が完了させられると(t2a時点参照)、つまりK0クラッチ20の係合状態への切替えすなわちK0係合が完了させられると、エンジン点火などが開始されてエンジン12が初爆させられる(
図4の実線参照)。K0同期の完了後、K0クラッチ20の完全係合状態を維持するK0完全係合制御が実行され(t2a時点以降参照)、その後、エンジントルクTeがエンジン制御指令信号Seに従って安定して出力されるようになった時点でエンジン始動制御CTstが完了させられる(t3a時点参照)。本実施例では、K0クラッチ20や電動機MGによってK0同期までエンジン回転速度Neを引き上げた後にエンジン12を初爆して始動するエンジン始動タイプを、押しがけ始動方式つまりPUSH始動タイプと称する。PUSH始動タイプは、クランキングトルクTcrによってエンジン回転速度Neを上昇させると共にK0同期の完了後にエンジン12を爆発させる始動方式、つまりフューエルカット状態でK0クラッチ20によってエンジン回転速度Neを持ち上げてK0同期の完了後に点火する始動方式である。
【0069】
本実施例では、
図4の破線で示すように、PUSH始動タイプ(
図4の実線参照)とは別のエンジン始動タイプを実行することが可能である。
図4の破線において、K0クランキングによってエンジン回転速度Neが引き上げられると、早期にエンジン点火などが開始されてK0同期前にエンジン12が初爆させられる。
図4の破線に示すように、K0クランキングの終了後、K0クラッチ20の係合状態への切替えを待機する為に、K0トルクTk0をクランキングトルクTcrよりも低下させて所定トルクTk0fに維持するクランキング後定圧待機が実行される。クランキング後定圧待機時のK0クラッチ指示圧Spk0は、例えばK0クラッチ20をパック詰め完了状態又はスリップ状態に維持するK0油圧PRk0と同程度であって、エンジン12の完爆の外乱とならないK0トルクTk0を実現する為のK0クラッチ指示圧Spk0である。クランキング後定圧待機の実行中、エンジン回転速度Neは、K0トルクTk0によってではなく、専らエンジン12の燃焼トルクによって上昇させられる。クランキング後定圧待機の実行中に、エンジン12の爆発による自立回転が安定した状態となると、すなわちエンジン12が完爆した状態となると、K0同期制御が実行されてK0同期が完了させられる。K0同期制御は、エンジン回転速度NeがMG回転速度Nmに到達してから開始されても良い。従って、エンジン12の初爆後のエンジン回転速度Neは、K0同期に向けて少なくともエンジントルクTeによって上昇させられる。本実施例では、K0同期前に例えばK0クランキングの早期にエンジン12を初爆して始動するエンジン始動タイプを、早期始動方式つまりTDC始動タイプと称する。TDC始動タイプは、K0同期の完了までの過程でエンジン12を爆発させると共にエンジン12の爆発後は少なくともエンジントルクTeによってエンジン回転速度Neを上昇させる始動方式である。尚、実線に示すPUSH始動タイプと破線に示すTDC始動タイプとでは、エンジン始動制御CTstの期間は本来は異なるが、
図4では便宜上同じ長さとしている。
【0070】
図4を参照すれば、始動制御部98は、エンジン始動制御CTstに際して、クランキングトルクTcrを伝達するようにK0クラッチ20を制御し、K0クラッチ20によるクランキングに連動してクランキングトルクTcrを出力するように電動機MGを制御し、K0クラッチ20によるクランキングに連動して運転を開始するようにエンジン12を制御するクラッチ始動制御CTstcltを行う。又、始動制御部98は、PUSH始動タイプによるクラッチ始動制御CTstcltと、TDC始動タイプによるクラッチ始動制御CTstcltと、を選択的に実行する。
【0071】
TDC始動タイプは、エンジン12の自立回転によるエンジン回転速度Neの引き上げがあるので、PUSH始動タイプに比べて、必要なクランキングトルクTcrが小さくされ、エネルギー効率や始動応答性に優れている。一方で、PUSH始動タイプは、TDC始動タイプに比べて、始動ショックが小さくされ易い。その為、始動制御部98は、始動ショックが問題となり易い領域例えばMG回転速度Nmが低い領域では、又は、ショック感度が大きくされ易いとき例えば自動変速機24がローギヤ段であるときには、PUSH始動タイプによるクラッチ始動制御CTstcltを行う。
【0072】
ここで、エンジン始動制御CTstに際して、例えばエンジン12の冷間時等には必要なクランキングトルクTcrが大きくされ易い。その為、例えば車両10のシステムの起動後において、つまりスタートボタン68の操作によって車両電源の状態が「OFF」の状態から「IG-ON」の状態へ遷移した後において、初回にエンジン12を始動する場合には、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが難しい場合がある。又は、エンジン始動制御CTstに際して、例えば高圧バッテリ54の放電可能電力Woutが小さくされているか高圧バッテリ54からの電力供給が難しいときには電動機MGを適切に制御することが難しくされる。その為、例えば電動機MGが適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に車両10がある場合には、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが難しい場合がある。
【0073】
車両10は、スタータモータ62を備えている。その為、始動制御部98は、エンジン始動制御CTstに際して、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが可能であり、又、スタータモータ62を用いたエンジン12の始動であるスタータ始動制御CTstmtrを行うことが可能である。始動制御部98は、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが難しい場合に、スタータ始動制御CTstmtrを行う。
【0074】
始動制御部98は、スタータ始動制御CTstmtrに際して、スタータリレー122をオン状態へ切り替えた後、スタータモータ62へ低圧バッテリ66からの電力が供給された状態でスタータモータ62を作動する為のスタータ制御指令信号Sstを出力し、スタータモータ62によるエンジン12のクランキングを行う。始動制御部98は、エンジン12が完爆した状態となるとスタータ制御指令信号Sstを解除してスタータモータ62によるクランキングを停止する。
【0075】
エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達するにはK0クラッチ20を係合状態へ切り替える必要がある。この際、MOP58が作動していないので、電動オイルポンプ60を作動させてK0油圧PRk0の元となる作動油OILを供給する必要がある。始動制御部98は、スタータ始動制御CTstmtrに際して、電動オイルポンプリレー120をオン状態へ切り替えた後、電動オイルポンプ60へ低圧バッテリ66からの電力が供給された状態で電動オイルポンプ用モータ70を作動する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sopを出力し、電動オイルポンプ60から作動油OILを吐出させる。始動制御部98は、スタータ始動制御CTstmtrを行う際には、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始した後に、作動油OILを元にしたK0油圧PRk0をK0クラッチ20に供給してK0クラッチ20を解放状態から係合状態へ切り替える為の指令をクラッチ制御部94へ出力する。
【0076】
ところで、スタータ始動制御CTstmtrを行う場合、スタータモータ62によるクランキング時には低圧バッテリ電圧Vbatlowが低下することがある。低圧バッテリ66は電動オイルポンプ60にも電力も供給しているので、スタータ始動制御CTstmtrの際には電動オイルポンプ入力電圧Vopが低下して電動オイルポンプ60が正常に作動しないおそれがある。これに対して、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低下しても、正常に作動する電動オイルポンプ60を用いることが考えられる。この場合には、例えば電動オイルポンプ60の内部に昇圧電源回路を設けたり、電動オイルポンプ用インバータ78に低電圧でも作動できる機能を設けたりするなど、高機能なデバイスの追加などにより、電動オイルポンプ60を小型化し難いという問題が生じる。
【0077】
そこで、本実施例では、スタータ始動制御CTstmtrの際に電動オイルポンプ入力電圧Vopが低下したら、電動オイルポンプ60が低電圧フェイル状態を制御的に検知する仕様とすることで、電動オイルポンプ60の内部に高機能なデバイスを使用しない構成とする。低電圧フェイル状態は、例えば電動オイルポンプ入力電圧Vopが後述する低電圧フェイル閾値Vfail未満となっている状態である。電動オイルポンプ60は低電圧フェイル状態を検知したことを電子制御装置90に通知し、その後、低圧バッテリ電圧Vbatlowが低下状態から復帰すると、低電圧フェイル状態の検知が解除され、電動オイルポンプ60は正常作動可能な状態に復帰する仕様とする。電子制御装置90は、エンジン12のクランキング中において電動オイルポンプ60によって低電圧フェイル状態が検知されている間には、電動オイルポンプ60を作動する指令を出力しない。電子制御装置90は、エンジン12のクランキング完了後に、低圧バッテリ電圧Vbatlowが安定してから電動オイルポンプ60を作動する指令を出力する仕様とする。これにより、電動オイルポンプ60の内部に高機能なデバイスを使用する必要がなく、電動オイルポンプ60の小型化につながる。
【0078】
図3に戻り、電動オイルポンプ用CPU76は、電動オイルポンプ入力電圧Vopを監視する機能を有している。例えば、電動オイルポンプ用CPU76は、電動オイルポンプ入力電圧Vopが所定電圧としての低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かを判定する。つまり、電動オイルポンプ用CPU76は、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail未満となっているか否かを検知する低電圧フェイル検出機能を有している。電動オイルポンプ用CPU76は、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上であれば電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvをオフとする一方で、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail未満であれば電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvをオンとする。低電圧フェイル閾値Vfailは、例えば電動オイルポンプ60の正常な作動を保証する為の予め定められた電動オイルポンプ入力電圧Vopの下限値である。電子制御装置90には、電動オイルポンプ60から電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvが供給される(
図1、3参照)。
【0079】
図1に戻り、始動制御部98は、スタータ始動制御CTstmtrに際して、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvがオフとされているか否かを判定する。電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvがオフとされているか否かを判定することは、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かを判定することである。このように、始動制御部98は、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていることを電動オイルポンプ60が検知した状態であるか否かを判定することで、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かを判定する。始動制御部98は、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvがオフとされていると判定した後に、つまり電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定した後に、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sopを出力する。電動オイルポンプ入力電圧Vopは、電動オイルポンプリレー120のオン状態では低圧バッテリ電圧Vbatlowとされるので、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定することは、低圧バッテリ電圧Vbatlowが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定することと同意である。
【0080】
具体的には、始動制御部98は、車両10のシステムの起動後、スタータリレー122をオン状態へ切り替え、且つ、電動オイルポンプリレー120をオン状態へ切り替える。その後、始動制御部98は、スタータモータ62を作動する為のスタータ制御指令信号Sstを出力する。このように、始動制御部98は、スタータモータ62及び電動オイルポンプ60の各々に低圧バッテリ66からの電力を供給した状態でエンジン12の始動を開始する。
【0081】
始動制御部98は、エンジン12が完爆した状態となったか否か、つまりエンジン12の始動が完了したか否かを判定する。エンジン12が完爆した状態となると、スタータモータ62によるクランキングが停止させられるので、エンジン12の始動が完了したか否かを判定することは、スタータモータ62によるクランキングが完了させられたか否かを判定することと同意である。
【0082】
始動制御部98は、エンジン12の始動が完了したと判定した場合には、電動オイルポンプ60が低電圧フェイル状態から復帰しているか否か、つまり電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvがオフであるか否かを判定する。
【0083】
始動制御部98は、電動オイルポンプ60が低電圧フェイル状態から復帰していると判定した場合には、電動オイルポンプ60つまり電動オイルポンプ用モータ70を作動する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sopを出力する。このように、始動制御部98は、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定した場合には、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始する。その後、始動制御部98は、K0クラッチ20を解放状態から係合状態へ切り替える為の指令をクラッチ制御部94へ出力する。
【0084】
図5は、電子制御装置90の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、スタータモータ62を用いたエンジン12の始動に対応しつつ電動オイルポンプ60の小型化を図る為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えばスタートボタン68の操作によって車両10のシステムが起動された後に実行される。
図6は、
図5のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0085】
図5において、フローチャートの各ステップは始動制御部98の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、スタータリレー122がオン状態へ切り替えられ、且つ、電動オイルポンプリレー120がオン状態へ切り替えられる。次いで、S20において、スタータモータ62を作動する為のスタータ制御指令信号Sstが出力される。次いで、S30において、エンジン12の始動が完了したか否かが判定される。このS30の判断が否定される場合は、S30が繰り返し実行される。このS30の判断が肯定される場合はS40において、電動オイルポンプ60が低電圧フェイル状態から復帰しているか否かが判定される。このS40の判断が否定される場合は、S40が繰り返し実行される。このS40の判断が肯定される場合はS50において、電動オイルポンプ60つまり電動オイルポンプ用モータ70を作動する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sopが出力される。次いで、S60において、K0クラッチ20を解放状態から係合状態へ切り替える為の指令が出力される。その後、K0クラッチ20の係合状態への切替えが完了させられると、本ルーチンが終了させられる。
【0086】
図6は、車両10のシステムが起動されたときにスタータ始動制御CTstmtrが実行される場合の一例を示す図である。
図6において、t1b時点は、車両10のシステムが起動された時点を示している。車両10のシステムが起動すると、スタータリレー122がオン状態へ切り替えられると共に電動オイルポンプリレー120もオン状態へ切り替えられる。電動オイルポンプリレー120のオン状態への切替えによって電動オイルポンプ60が起動させられる。電動オイルポンプ60の起動後、電動オイルポンプ60が電子制御装置90からの指令を受け付けられる状態になるまでには、所定準備時間TMf(=TM1+TM2+TM3)を要する。「TM1」は、電動オイルポンプリレー120のオン状態への切替え時点から、電動オイルポンプ内部制御電源電圧が電動オイルポンプ用CPU76の動作電圧まで立ち上がった時点までの時間である。「TM2」は、電動オイルポンプ内部制御電源電圧が立ち上がった時点から、電動オイルポンプ用CPU76のリセットが完了した時点すなわち電動オイルポンプ用CPU76が作動の準備を完了した時点までの時間である。「TM3」は、電動オイルポンプ用CPU76の準備完了時点から、電動オイルポンプ用CPU76が電子制御装置90からの指令受付の準備を完了した時点までの時間である。所定準備時間TMfは、公知の電子制御装置やCPUにおけるシステム起動時間と同様の時間である。
【0087】
その後、電子制御装置90からの指令によってスタータモータ62の作動が開始されて、エンジン12のクランキングが開始される(t2b時点参照)。この際、クランキングによって低圧バッテリ電圧Vbatlowが低下し、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail未満になると、電動オイルポンプ60は低電圧フェイル状態と認識し、オンとした電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvを電子制御装置90へ送信する(t3b時点以降参照)。エンジン12のクランキングが完了し(t4b時点参照)、低圧バッテリ電圧Vbatlowが上昇して電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上になると(t5b時点参照)、電動オイルポンプ60は低電圧フェイル状態から復帰させられる。この際、電動オイルポンプ60は、電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvをオフとすることで、低電圧フェイル状態から復帰したことを電子制御装置90へ知らせる。電動オイルポンプ60は、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上になったときに速やかに電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvをオフとしても良い。又は、
図6に示すように、電動オイルポンプ60は、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上になってから所定の復帰遅れ時間TM4後に電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvをオフとしても良い(t6b時点参照)。所定の復帰遅れ時間TM4は、例えば電動オイルポンプ入力電圧Vopが確実に低電圧フェイル閾値Vfail以上になったと判断する為の予め定められた遅延時間である。電子制御装置90は、エンジン12のクランキング完了後、電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvがオフであることを確認し、電動オイルポンプ60を作動する指令を出力して、K0クラッチ20を係合状態へ切り替える(t6b時点以降参照)。
【0088】
図6を参照すれば、始動制御部98は、電動オイルポンプ60への低圧バッテリ電圧Vbatlowからの電力の供給を開始した時点から電動オイルポンプ60の作動準備に必要な所定準備時間TMfが経過した状態で、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かを判定する。
【0089】
上述のように、本実施例によれば、スタータモータ62によるクランキングの完了後に低圧バッテリ電圧Vbatlow又は電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定した後に、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始するスタータ始動制御CTstmtrが行われるので、クランキングに伴って低圧バッテリ電圧Vbatlowが低下する場合に、電動オイルポンプ60の内部に電圧低下時にも作動可能な高機能なデバイスを使用することなく、電動オイルポンプ60を正常に作動することができる。よって、スタータモータ62を用いたエンジン12の始動に対応しつつ、電動オイルポンプ60の小型化を図ることができる。
【0090】
また、本実施例によれば、スタータ始動制御CTstmtrが行われる際には、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出が開始された後に、作動油OILを元にしたK0油圧PRk0がK0クラッチ20に供給されてK0クラッチ20が解放状態から係合状態へ切り替えられるので、電動オイルポンプ60の小型化を図りつつ、車両10の発進に備えることができる。
【0091】
また、本実施例によれば、スタータモータ62及び電動オイルポンプ60の各々に低圧バッテリ66からの電力が供給された状態でエンジン12の始動が開始され、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定された場合には、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出が開始されるので、クランキングの完了時点では既に電動オイルポンプ60に電力が供給されており、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上とされると速やかに作動油OILの吐出が開始される。これにより、作動油OILを元にしたK0油圧PRk0がK0クラッチ20に供給されてK0クラッチ20が解放状態から係合状態へ切り替えられる場合に、K0クラッチ20を速やかに係合することができ、車両発進までの応答性を向上することができる。
【0092】
また、本実施例によれば、電動オイルポンプ60への低圧バッテリ電圧Vbatlowからの電力の供給が開始された時点から電動オイルポンプ60の作動準備に必要な所定準備時間TMfが経過した状態で、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かが判定されるので、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上とされると所定準備時間TMfを待機することなく速やかに作動油OILの吐出が開始される。これにより、エンジン12の始動開始からK0クラッチ20の係合完了までの時間を短くすることができる。
【0093】
また、本実施例によれば、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていることを電動オイルポンプ60が検知した状態であるか否かが判定されることで、電動オイルポンプ入力電圧Vopが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かが判定されるので、電動オイルポンプ60の内部に電圧低下時にも作動可能な高機能なデバイスを使用する必要がなくなる。
【0094】
また、本実施例によれば、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが難しい場合に、スタータ始動制御CTstmtrが行われるので、通常時に行われるエンジン12の始動とは別のスタータモータ62を用いたエンジン12の始動に対応しつつ、電動オイルポンプ60の小型化を図ることができる。
【0095】
また、本実施例によれば、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが難しい場合とは、車両10の起動後において初回にエンジン12を始動する場合であるので、暖機完了前にエンジン12を適切に始動することができる。
【0096】
また、本実施例によれば、クラッチ始動制御CTstcltを行うことが難しい場合とは、電動機MGが適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に車両10がある場合であるので、極低温の環境下でエンジン12を適切に始動することができる。
【0097】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例1では、スタータ始動制御CTstmtrに際して、スタータモータ62及び電動オイルポンプ60の各々へ電力を供給した状態でスタータモータ62によるエンジン12のクランキングを行った。前述の実施例1の場合、低圧バッテリ電圧Vbatlowの低下に伴う低電圧フェイル状態を電動オイルポンプ60が検知したときには、低電圧フェイル状態が解除されるまで電動オイルポンプ用モータ70を作動させず、電動オイルポンプ60が正常作動可能な状態に復帰した後に電動オイルポンプ用モータ70の作動を開始した。
本実施例では、スタータ始動制御CTstmtrに際して、スタータモータ62によるエンジン12のクランキングの完了後に、低圧バッテリ電圧Vbatlowが規定値以上に復帰するまでは電動オイルポンプリレー120をオフ状態とすることで、電動オイルポンプ60における低電圧フェイル状態を発生させない。本実施例の場合、クランキングが完了し、低圧バッテリ電圧Vbatlowが復帰した後に、電動オイルポンプリレー120をオン状態へ切り替えて電動オイルポンプ60を作動させる仕様とすることで、電動オイルポンプ60の内部に高機能なデバイスを使用しない構成とする。
つまり、本実施例では、始動制御部98は、スタータモータ62によるクランキングの完了後に低圧バッテリ電圧Vbatlowが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定した後に、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sopを出力する。この際、電動オイルポンプリレー120は、低圧バッテリ電圧Vbatlowが復帰した後にオン状態へ切り替えられる。このように、始動制御部98は、スタータモータ62に低圧バッテリ66からの電力を供給した状態でエンジン12の始動を開始し、スタータモータ62によるクランキングの完了後に低圧バッテリ電圧Vbatlowが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定した場合には、電動オイルポンプ60への低圧バッテリ66からの電力の供給を開始して電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始する。
具体的には、始動制御部98は、車両10のシステムの起動後、スタータリレー122をオン状態へ切り替える。スタータモータ62によるクランキングによって低圧バッテリ電圧Vbatlowが低下して、電動オイルポンプ60が低電圧フェイル状態に至らないように、電動オイルポンプリレー120はオフ状態のままとされる。
その後、始動制御部98は、スタータモータ62を作動する為のスタータ制御指令信号Sstを出力する。始動制御部98は、電動オイルポンプ60には低圧バッテリ66からの電力を供給しない状態でエンジン12の始動を開始する。
始動制御部98は、エンジン12の始動が完了したと判定した場合には、低圧バッテリ電圧Vbatlowが規定値例えば低電圧フェイル閾値Vfail以上となっているか否かを判定する。
始動制御部98は、低圧バッテリ電圧Vbatlowが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定した場合には、電動オイルポンプリレー120をオン状態へ切り替える。その後、始動制御部98は、電動オイルポンプ60が異常ではないか否か、つまり電動オイルポンプフェイルフラグFLfopがオフであるか否かを判定する。電動オイルポンプ60の異常は、例えば電動オイルポンプ60が低電圧フェイル状態となっている異常すなわち電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflvがオンとなっている異常、電動オイルポンプ60の内部機能が欠陥している異常、電動オイルポンプ用モータ70の作動不良等のハード的な故障などの複数種類の電動オイルポンプ異常を含んでいる。電動オイルポンプ60は、自己診断機能によって、複数種類の電動オイルポンプ異常のうちの何れもが生じていない場合には、電動オイルポンプフェイルフラグFLfopをオフとする。電動オイルポンプ60は、自己診断機能によって、複数種類の電動オイルポンプ異常のうちの何れか一つでも生じている場合には、電動オイルポンプフェイルフラグFLfopをオンとする。従って、本実施例では、電子制御装置90には、電動オイルポンプ60から電動オイルポンプフェイルフラグFLfopが供給される。
尚、前述の実施例1において説明したように、電動オイルポンプリレー120のオン状態への切替えによって電動オイルポンプ60が起動させられた後、電動オイルポンプ60が電子制御装置90からの指令を受け付けられる状態になるまでには、所定準備時間TMfを要する。所定準備時間TMfは、電動オイルポンプ60のためだけに必要な時間である。その為、電動オイルポンプフェイルフラグFLfopのオン又はオフの信号は、電動オイルポンプ用CPU76が電子制御装置90からの指令受付の準備を完了した時点から電動オイルポンプ60によって出力される。
始動制御部98は、電動オイルポンプ60が異常ではないと判定した場合には、電動オイルポンプ60つまり電動オイルポンプ用モータ70を作動する為の電動オイルポンプ制御指令信号Sopを出力する。このように、始動制御部98は、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ60が正常に作動できる状態であると判定した場合には、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出を開始する。その後、始動制御部98は、K0クラッチ20を解放状態から係合状態へ切り替える為の指令をクラッチ制御部94へ出力する。
上述のように、本実施例によれば、前述の実施例1と同様に、スタータモータ62を用いたエンジン12の始動に対応しつつ、電動オイルポンプ60の小型化を図ることができる。
また、本実施例によれば、スタータモータ62に低圧バッテリ66からの電力を供給した状態でエンジン12の始動が開始され、スタータモータ62によるクランキングの完了後に低圧バッテリ電圧Vbatlowが低電圧フェイル閾値Vfail以上となっていると判定された場合には、電動オイルポンプ60への低圧バッテリ66からの電力の供給が開始されて電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出が開始されるので、クランキングに伴って低圧バッテリ電圧Vbatlowが低下する場合に、電動オイルポンプ60が正常に作動しない状態を回避することができる。これにより、作動油OILを元にしたK0油圧PRk0がK0クラッチ20に供給されてK0クラッチ20が解放状態から係合状態へ切り替えられる場合に、電動オイルポンプ60が正常に作動しない状態を回避しつつ、つまり電動オイルポンプ60における低電圧フェイル状態を発生させることなく、K0クラッチ20を係合することができる。
また、本実施例によれば、スタータモータ62によるクランキングの完了後に電動オイルポンプ60が正常に作動できる状態であると判定された場合には、電動オイルポンプ60による作動油OILの吐出が開始されるので、確実に電動オイルポンプ60を正常に作動することができる。
例えば、前述の実施例では、車両10は、エンジン始動制御CTstとして、クラッチ始動制御CTstcltとスタータ始動制御CTstmtrとを行うことが可能であったが、この態様に限らない。例えば、少なくともスタータ始動制御CTstmtrを行うことが可能な車両であれば、本発明を適用することができる。
また、前述の実施例では、電動オイルポンプ60は低電圧フェイル状態又は異常な状態から復帰できることが前提であるが、仮に、電動オイルポンプ低電圧フェイルフラグFLflv又は電動オイルポンプフェイルフラグFLfopがオンのままである場合は、車両10のシステムが起動された時点からカウントされるタイマを用いて、極低温の環境下でのスタータ始動制御CTstmtrを中断しても良い。この場合、再度、スタートボタン68が操作された場合にスタータ始動制御CTstmtrを実施しても良い。
また、前述の実施例では、自動変速機24として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。例えば、自動変速機24は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。又は、自動変速機24は、必ずしも備えられている必要はない。
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。要は、エンジンと、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた油圧式のクラッチと、スタータモータと、クラッチに供給される油圧の元となる作動油を吐出する電動オイルポンプ装置と、スタータモータと電動オイルポンプ装置とを各々駆動する電力を供給する電源装置と、を備えた車両であれば、本発明を適用することができる。