(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124668
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】紙葉類取扱装置およびその保守方法
(51)【国際特許分類】
G07D 11/235 20190101AFI20230830BHJP
G07D 11/26 20190101ALI20230830BHJP
【FI】
G07D11/235
G07D11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028572
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】504373093
【氏名又は名称】日立チャネルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平林 円香
【テーマコード(参考)】
3E141
【Fターム(参考)】
3E141AA01
3E141BA06
3E141CA07
3E141DA08
3E141DA10
(57)【要約】
【課題】保守作業を効率的に行うことができるようにした紙葉類取扱装置およびその保守方法を提供すること。
【解決手段】紙葉類を取り扱う紙葉類取扱装置1は、紙葉類を搬送して処理する紙葉類処理機構2と、紙葉類処理機構を制御する制御部100と、紙葉類処理機構から発生する音または振動を検出するセンサ部111,121と、制御部による紙葉類処理機構の制御状態と、センサ部により検出された紙葉類処理機構から発生する音または振動とに基づいて、機械学習モデルにより紙葉類処理機構の異常を判定する異常判定部112を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類を取り扱う紙葉類取扱装置であって、
紙葉類を搬送して処理する紙葉類処理機構と、
前記紙葉類処理機構を制御する制御部と、
前記紙葉類処理機構から発生する音または振動を検出するセンサ部と、
前記制御部による前記紙葉類処理機構の制御状態と、前記センサ部により検出された前記紙葉類処理機構から発生する音または振動とに基づいて、機械学習モデルにより前記紙葉類処理機構の異常を判定する異常判定部と
を備える紙葉類取扱装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記紙葉類処理機構に含まれる複数の駆動部のうち対象駆動部を一つずつ駆動させ、
前記センサ部は、前記対象駆動部から発生する音または振動を検出し、
前記異常判定部は、前記制御部による前記対象駆動部の制御状態と、前記センサ部により検出された前記対象駆動部から発生する音または振動とに基づいて、前記機械学習モデルにより前記対象駆動部の異常を判定する
請求項1に記載の紙葉類取扱装置。
【請求項3】
前記紙葉類処理機構は複数の駆動部を有しており、前記複数の駆動部のうち一部の駆動部は対象駆動部として金庫内に設けられており、
前記センサ部は前記金庫内に設けられて、前記対象駆動部から発生する音または振動を検出し、
前記異常判定部は、前記制御部による前記対象駆動部の制御状態と、前記センサ部により検出された前記対象駆動部から発生する音または振動とに基づいて、前記機械学習モデルにより前記対象駆動部の異常を判定する
請求項1に記載の紙葉類取扱装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記対象駆動部を一つずつ駆動させる
請求項3に記載の紙葉類取扱装置。
【請求項5】
前記紙葉類処理機構は、紙幣を処理する紙幣処理機構である
請求項1に記載の紙葉類取扱装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記紙幣処理機構を用いて、入金計数動作、入金収容動作、出金動作を実行させる
請求項5に記載の紙葉類取扱装置。
【請求項7】
紙葉類を取り扱う紙葉類取扱装置の保守方法であって、
紙葉類を搬送して処理する紙葉類処理機構から発生する音または振動をセンサ部により検出し、
制御部による前記紙葉類処理機構の制御状態を取得し、
前記センサ部により検出された前記紙葉類処理機構から発生する音または振動と、前記取得された制御状態とに基づいて、異常判定部が機械学習モデルを用いて前記紙葉類処理機構の異常を判定する
紙葉類取扱装置の保守方法。
【請求項8】
前記制御部は、前記紙葉類処理機構に含まれる複数の駆動部のうち対象駆動部を一つずつ駆動させ、
前記センサ部は、前記対象駆動部から発生する音または振動を検出し、
前記異常判定部は、前記制御部による前記対象駆動部の制御状態と、前記センサ部により検出された前記対象駆動部から発生する音または振動とに基づいて、前記機械学習モデルを用いて前記対象駆動部の異常を判定する
請求項7に記載の紙葉類取扱装置の保守方法。
【請求項9】
前記紙葉類処理機構は複数の駆動部を有しており、前記複数の駆動部のうち一部の駆動部は対象駆動部として金庫内に設けられており、
前記センサ部は前記金庫内に設けられて、前記対象駆動部から発生する音または振動を検出し、
前記異常判定部は、前記制御部による前記対象駆動部の制御状態と、前記センサ部により検出された前記対象駆動部から発生する音または振動とに基づいて、前記機械学習モデルを用いて前記対象駆動部の異常を判定する
請求項7に記載の紙葉類取扱装置の保守方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類取扱装置およびその保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紙葉類取扱装置としての現金自動取引装置は、集積された紙幣をローラによって一枚ずつに分離して繰出し、繰り出された紙幣を搬送ベルトやローラで挟持して搬送しながら処理する。この処理の際に、各々の紙幣は、搬送部に設けられた通過センサによって搬送状態が検出され、この検出信号を元に搬送方向の切換制御や障害検出などが行われている。
【0003】
ところで、現金自動取引装置をはじめとする紙葉類取扱装置は、紙幣などの紙葉類の繰出しや搬送を長期間行うと、ローラや搬送ベルト、駆動部が劣化する。そうすると紙葉類の正常な状態での繰出し、集積や搬送ができなくなる。このため、搬送不良によるリジェクト(不良紙幣)が多発したり、集積不良が起こったりして、その後の取引動作に問題が生じる。劣化状態を放置すると、最終的に紙葉類取扱装置は故障してしまい、取引動作ができなくなる。
【0004】
このような問題を防ぐため、特許文献1では、搬送路内での紙の通過時間信号を計測し、その通過時間が正常範囲に対するずれの度合いにより故障を診断する。
【0005】
なお、現金自動取引装置や複写機では、保守員があらかじめ定められた期間毎に、ローラや搬送ベルトを目視で点検して交換要否を判断し、交換必要な場合は交換する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紙葉類取扱装置の保守作業は、あらかじめ定められた期間毎に、定められたマニュアルに沿って行われている。これは、交換が必要か否かの判断を行う手法が現状では確立されておらず、本来交換が必要なローラや搬送ベルトの抽出ができないことによる。このため、期間中の取引量が少なく点検の必要がないローラや搬送ベルトであっても、点検を省略することはできず、保守作業の効率向上や低コスト化を阻害する要因となっている。
【0008】
定期的な保守サービス体制が確立されていない場合、本当に交換作業が必要な場合のみ保守を行うことが要求されるが、上述した理由によりいまだこのような保守作業を行うことができていない。
【0009】
効率的で低コストな保守作業を行うためには、ローラや搬送ベルトの劣化度合いを正確に計測することが必要である。しかし、特許文献1にあるような特定のセンサを用いての故障診断手法は、その測定範囲が分布しやすいため正確な判断が難しい。
【0010】
搬送される紙葉類が現金自動取引装置における紙幣のように様々な折れくせや剛性がある場合を検討する。この場合、紙葉類の搬送動作中の信号に基づいた診断方法では、折れくせや剛性,紙葉表面の摩擦係数などの相違によって搬送特性が変化するため、何が正しい基準であるかが明確でなく、正確な劣化判定は難しい。
【0011】
そこで、本発明の目的は、保守作業を効率的に行うことができるようにした紙葉類取扱装置およびその保守方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく、本発明に従う紙葉類取扱装置は、紙葉類を取り扱う紙葉類取扱装置であって、紙葉類を搬送して処理する紙葉類処理機構と、紙葉類処理機構を制御する制御部と、紙葉類処理機構から発生する音または振動を検出するセンサ部と、制御部による紙葉類処理機構の制御状態と、センサ部により検出された紙葉類処理機構から発生する音または振動とに基づいて、機械学習モデルにより紙葉類処理機構の異常を判定する異常判定部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紙葉類処理機構の制御状態と紙葉類処理機構から発生する音または振動とに基づいて、機械学習モデルにより紙葉類処理機構の異常を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】現金自動取引装置の保守システムを示す全体概要図である。
【
図4】紙幣処理機構における紙幣の流れの説明図である。
【
図6】異常検出装置の設置方法の一例を示す説明図である。
【
図9】各部位の動作情報の一例を示す説明図である。
【
図10】集音データの切り出し方法の一例を示す説明図である。
【
図11】集音データの切り出し方法の一例を示す説明図である。
【
図12】集音データの切り出し方法の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、以下の観点で、紙葉類取扱装置およびその保守方法を説明する。
【0016】
(1)通常動作時に異常が発生した場合に、異常発生のタイミングと各部位の動作タイミングとから異常発生部位の集音データを抽出し、機械学習を用いた分析によってその集音データから異常発生部位の異常原因を特定する。
【0017】
(2)特定の部位のみの動作音によってその劣化状態を機械学習させておき、保守モードにおいて特定の部位のみを動作させ、機械学習を用いた分析によってその部位の劣化状態を分析する。
【0018】
(3)上記(1)と(2)とを結合させることで、故障などの異常の予兆を検出し、早期の保守につなげる。
【0019】
上記の観点に基づく紙葉類取扱装置は、例えば、紙葉類をローラやベルト等の搬送手段で搬送する紙葉類取扱装置において、ローラや搬送ベルト、駆動部の劣化状態、および故障状態を検出する検出手段と、ローラや搬送ベルト、駆動部の劣化状態、および故障状態を判断する判断手段と、この判断手段からローラや搬送ベルト、駆動部の保守タイミングを告知する告知手段とを備える。
【0020】
検出手段は、駆動部(および駆動部により駆動される搬送手段)の劣化状態および故障状態を音から検出してもよい。
【0021】
検出手段は、駆動部から発生する音と駆動部を制御する制御信号とによって、駆動部の劣化状態および故障状態を検出してもよい。
【0022】
判断手段は、検出手段によって検出された音を機械学習によって判断してもよい。
【0023】
検出手段により検出された音のうち、駆動部を制御する制御信号に対応する時間的範囲の音を機械学習によって判断してもよい。
【0024】
本実施形態によれば、より正確に駆動部の状態を判定することができ、保守作業の効率向上と低コスト化を実現できる。
【実施例0025】
図1~
図15を用いて第1実施例を説明する。
図1は、現金自動取引装置1の保守システムを示す全体概要図である。「紙葉類取扱装置」の一例としての現金自動取引装置1の詳細は後述する。
【0026】
現金自動取引装置1は、金庫14を内蔵している。紙幣処理機構2の少なくとも一部は金庫14内に設けられている。現金自動取引装置1には、複数の種類の異常検知装置110,120のいずれか一方または両方を設けることができる。
【0027】
現金自動取引装置1における金庫14は、内部に収容された紙幣の盗難を防止するためのものである。現金自動取引装置1の保守システムにおける金庫14は、盗難防止機能のほかに、雑音を遮断または減衰させる機能も持つ。後述のように、金庫14内にセンサ部111,121を設ければ、金庫14内の音または振動を検出することができ、金庫14の外部からの音または振動による影響を抑制できる。
【0028】
一つの異常検知装置は、固定型の異常検知装置110であり、現金自動取引装置1内に内蔵される。他の一つの異常検出装置は、可搬型の異常検出装置120であり、現金自動取引装置1に後付けで取り付けることができる。第1の異常検知装置110の例は、後述する異常検知装置15である。第2の異常検知装置120の例は、後述する集音装置16である。
【0029】
第1の異常検知装置110は、センサ部111と判定部112を備える。判定部112は、センサ部111からの検出信号と制御装置100からの制御情報とに基づいて、機械学習モデルにより紙幣処理機構2の対象部位に異常が生じたか否かを判断する。
【0030】
第2の異常検知装置120は、センサ部121とデータ記憶装置122を備える。データ記憶装置122は、センサ部121からの検出信号を記憶し、記憶された検出信号を管理サーバ120へ送信する。管理サーバ120は、第2の異常検知装置120から受信した検出信号に基づいて、紙幣処理機構2の対象部位に異常が生じたか判断する。第2の異常検知装置120は、現金自動取引装置1に取り付けられた状態で管理サーバ130に検出信号を送信してもよいし、現金自動取引装置1から離れた場所(例えば保守センタなど)から管理サーバ130に検出信号を送信してもよい。
【0031】
センサ部111,121は、音または振動、あるいは、音および振動を検出し、電気信号として出力する。検出可能な周波数範囲は限定しない。紙幣処理機構2の対象部位に異常が生じたか否かを判断できるデータを得られる周波数範囲であればよい。なお、本明細書において、異常検知とは異常が発生した場合だけでなく、異常が発生しうると予兆する場合も含む。
【0032】
第1の異常検知装置110は、金庫14内に設けられるセンサ部111だけでなく、金庫14の外部に設けられる他のセンサ部111(不図示)を備えてもよい。同様に、第2の異常検知装置120も、複数のセンサ部121を備えてもよく、複数のセンサ部121のうち少なくとも一つのセンサ部は金庫14の外部に設けられてもよい。
【0033】
上述のように、センサ部111,121は、音を検出する一つ以上のセンサ、振動を検出する一つ以上のセンサの少なくともいずれか一方または両方であってもよい。
【0034】
図1に示す制御装置100の一例は、後述する制御部11およびメイン制御装置13である。管理サーバ130と制御装置100および第2の異常検知装置120は、通信ネットワークCNを介して双方向通信可能に接続されている。通信ネットワークCNは、インターネットのような広域公衆通信網でもよいし、専用の通信網でもよい。通信ネットワークCNは、有線または無線のいずれでもよい。
【0035】
図2を用いて、還流式の現金自動取引装置1を説明する。
図2は、還流式現金自動取引装置1における紙幣処理機構2の構成図である。
【0036】
還流式の現金自動取引装置1とは、ある利用者が入金した紙幣を他の利用者へ出金紙幣として再使用する現金自動取引装置である。紙幣処理機構2とは、利用者が入金した紙幣および利用者へ出金する紙幣を処理するための機構である。
【0037】
紙幣処理機構2は、利用者が紙幣を預け入れたり、利用者が出金された紙幣を受け取るための入出金口3を備える。鑑別部4は、搬送機構9の途中に設けられており、入出金口3から一枚ずつ搬送されてくる紙幣の真偽判定および金種判定等を行う。
【0038】
一時スタッカ5は、入金された紙幣を一時的に収納しておくための収容部である。還流個6は、入金された紙幣を金種ごとに収納しておく収容部である。リジェクト庫7は、入金された紙幣のうち出金紙幣として使用しない紙幣を収納しておくための収容部である。装填回収庫8は、紙幣処理機構2へ紙幣を装填したり回収したりするために用いられる収容部である。搬送機構9は、これら各ユニット3,4,5,6,7,8間で紙幣を搬送する機構である。
【0039】
上記各ユニット2-8および搬送機構9では、紙幣が正常に搬送されたか否かを検出するための通過センサ10が所定の箇所に設けられている。通過センサ10として、例えば光学式センサが用いられる。光学式の通過センサ10は、投光側と受光側の間を紙幣が通過して、投光側から受光側への光の透過が遮断されると、この遮光の信号を検出して紙幣の通過を検出する。
【0040】
紙幣処理機構2は、紙幣の入出金取引動作を行うために、紙幣処理機構における各ユニット2-8の動作および搬送機構9の動作を制御する制御部11を備える。各通過センサ10からの信号は、信号線12を通じて制御部11へ送られる。
【0041】
図3に示すように、現金自動取引装置1は、紙幣処理機構2以外の他の装置を備える。他の装置には、例えば、通帳プリンタ1P、表示装置1D、カード処理機構1Cなどがある。さらに、これら現金自動取引装置1の内部には、他の装置1P,1D,1Cの動作を制御するメイン制御装置13が設けられている。メイン制御装置13は、信号線12を通じて制御部11と通信することにより、紙幣処理機構2を制御する。
【0042】
図4を用いて、紙幣処理機構2の動作を説明する。
図4は、紙幣の流れを順に示した紙幣処理機構2の断面図である。
図4の左側は入金係数時の様子を示し、
図4の中央は入金収容時の様子を示し、
図4の右側は出金時の様子を示す。入金係数動作、入金収容動作、出金動作の詳細は、フローチャートと共に後述する。
【0043】
図4において、利用者が入金時に投入した紙幣は、入出金口3で一枚ずつに分離されて繰出され、鑑別部4へ搬送される。鑑別部4で真偽判定および金種判定がなされた紙幣は、一時スタッカ5へ集積される。鑑別部4で真偽判定または金種判定ができなかった紙幣は、入出金口3へそのまま搬送されて、利用者へ返却される。搬送機構9の分岐部では、ゲートと呼ばれる紙幣の搬送方向を切り換えるガイド機構9G(
図2に示す)が設けられている(以上、入金計数動作である)。
【0044】
鑑別部4で計数された金額は、現金自動取引装置1の表示装置1D(
図3に示す)で表示される。利用者が確認ボタン(不図示)を押すと取引が成立し、一時スタッカ5に集積された紙幣は再び一枚ずつ繰出され、再度鑑別部4を通って、金種ごとに還流庫6へ集積される。このとき、還流されない金種の紙幣と紙幣状態がひどく出金紙幣として不適と判断された紙幣とは、リジェクト庫7(
図2に示す)へ集積される(以上、入金収納動作である)。
【0045】
利用者が出金処理を行う場合は、利用者が指定した金額に対応した枚数の紙幣が還流庫6から一枚ずつ分離して繰出され、鑑別部5を通って入出金口3へ搬送され集積される(以上、出金動作である)。
【0046】
図5は、還流庫6の構成例を示す。還流庫6は、紙幣を収納する紙幣収納部6Aと、収納する紙幣を回収/繰り出すための紙幣繰出部6Bとから構成される。
【0047】
紙幣繰出部6Bは、例えば、スタック・フィードローラ61、バックアップローラ62、ゲートローラ63、ブラシローラ64、分離・スタックガイド65、ピックアップローラ66を有する。
【0048】
現金自動取引装置1の保守方法の一例として、還流庫6のブラシローラ64の劣化判定方法を説明する。
【0049】
ブラシローラ64は、ゲートローラ63と同一軸上に設けられており、外周側には複数枚のシートがブラシとして放射状に配置されている。ブラシローラ64を回転させることにより、紙幣収納部6Aに連続して収納される紙幣を干渉することなく集積することができる。
【0050】
紙幣処理機構2では、多数の紙幣の繰出しと集積と搬送を行うため、長期間使用されている間に、ブラシローラ64のブラシの弾性が落ちてしまう。ブラシの弾性が低下すると、紙幣の搬送力が低下し、所望の性能が得られなくなる。そこで、ブラシローラ64は定期交換部品として扱われ、保守員により定期交換される。しかし、ブラシローラ64の交換作業は、紙幣の取引量とは無関係に行われるため、交換の必要がないにも関わらず交換されることがある。これとは逆に、ブラシの弾性が落ちていても交換時期にならないと交換されない場合もあるため、紙幣の集積不良を招くこともある。
【0051】
上述のように、交換対象部位の実際の状況(異常が生じているか、あるいは近々異常が生じる可能性が高いかなど)と無関係に保守作業を行うことは、保守作業の効率向上および低コスト化を困難にしている。
【0052】
さらに、海外拠点では、保守サービス網が充実しておらず、保守員の技術も十分でないため、本当に交換作業が必要な場合に何らかの作業指示を保守員に与えたいというニーズがある。
【0053】
そこで、本実施例では、上述の問題を解決し、保守作業の効率向上と低コスト化および本当に交換作業が必要な場合に保守員へ作業指示を行うことが可能な現金自動取引装置1を提案する。
【0054】
本実施例では、
図2,
図3に示した現金自動取引装置1の内部に、現金自動取引装置1の対象部位の動作音を集音し、機械学習モデルを用いて異常の予兆、および故障検出をする異常検出装置15を設置する。
【0055】
もしくは、保守員が、持ち運び可能な集音装置16を現金自動取引装置1の設置場所へ持参し、保守作業時に集音装置16にて集音したデータを別の解析装置にて予兆、および故障検出してもよい。
【0056】
図6に、異常検知装置15の設置例を模式的に示す。現金自動取引装置1の内部に異常検出装置15設置することで、現金自動取引装置1の周囲の音の影響を低減することができ、現金自動取引装置1の内部の音の特徴をより鮮明に取得できる。
【0057】
還流庫6、リジェクト庫7、装填回収庫8は、それぞれ紙幣を収納するため、これら各ユニット6-8につながる搬送機構9とともに金庫14内に設けられている。還流庫6、リジェクト庫7、装填回収庫8の集音をする場合は、異常検出装置15を金庫14の中に設置することで、現金自動取引装置1内の各機構のうち、金庫14の外部の機構の音による影響も軽減することができる。
【0058】
図2で述べた紙幣処理機構2の制御部11では、紙幣処理機構2の動作種別や異常発生の有無、各アクチュエータやセンサの動作情報を、時刻情報とともに随時、制御部11内の記録領域に記録している。
図9は、その動作情報の一例であり、時間経過に対して各部位が動作しているタイミングを示している。
図9では、複数のモータM1-M3、複数のソレノイドSL1,SL2、複数のセンサSR1-SR4のそれぞれの動作タイミングが示されている。したがって、制御部11により異常が検出された場合、異常検出時に(異常検出の直前または直後に)、どの部位が動作していたかを直ちに確認できる。
【0059】
図7は、異常検出装置15の内部構成を示すブロック図の一例である。異常検出装置15は、紙幣処理機構2の動作時の音をマイク15Aにて取得し、データ記憶部15Bに記憶する。演算装置15Cは、データ加工処理部15Dと機械学習モデル15Eを有する。機械学習モデル15Eは、あらかじめ各アクチュエータ(モータやソレノイドなど)それぞれについて、種々の正常時の集音データと各種故障原因の集音データとを収集し、機械学習させておく。アクチュエータは、「駆動部」、「対象駆動部」、「対象部位」の例である。センサは「対象部位」の例である。
【0060】
劣化判定では、正常時の集音データを機械学習させ、それらの特徴から差異の大きいものを劣化状態と判定する。故障判定では、故障原因により音の特徴が異なるため、故障原因毎の音をそれぞれ機械学習し、原因を分類する。
【0061】
図8は、集音装置16の内部構成を示すブロック図である。集音装置16は、異常検出装置15から演算装置15Cを外した構成を持つ。すなわち、マイク16Aと、データ記憶部16Bとを備える。
【0062】
本実施例の異常検出装置15では、以下の複数の判定処理を実行できる。第1の判定処理では、通常動作時に異常が発生した場合、時系列のアクチュエータ動作情報から異常発生時に動作しているアクチュエータを特定し、特定したアクチュエータに対応した機械学習モデルと集音データとを使用して故障原因を判定する。第2の判定処理では、保守作業時に特定のアクチュエータに対して専用の劣化判定動作を行い、劣化判定動作の機械学習モデルと集音データとで劣化状態を判定する。以下、詳細に説明する。
【0063】
(第1の判定処理)通常動作時における故障原因判定
【0064】
紙幣処理機構2で取得した各アクチュエータやセンサの動作情報の時刻情報を用いて、対象のアクチュエータの動作時刻と同時刻の集音データをデータ加工処理部15Dにて切り出す。
【0065】
図10は、集音データの切り出し処理の模式図である。
図10の上段は、集音データの時系列情報を示す。
図10の下段は、各アクチュエータの動作情報と異常検知信号との時系列情報を示しており、
図9に相当する。
【0066】
本例では、モータM2,M3及びソレノイドSL1,SL2の動作後は異常がなく、モータM1が動作した直後に異常検知信号が出力されていることから、モータM1のみが動作した際の集音データを切り出している様子を示している。
【0067】
データ加工処理部15Dは、切り出されたデータを前処理し、機械学習に適した形式とする。例えば、データをFFT(Fast Fourier Transform)変換する。そして、機械学習モデル15Eは、前処理されたデータに基づいてモータM1についての故障原因を判定する。もしくは、データ加工処理部15Dにて前処理されたデータを、
図1で示した管理サーバ130へ送信し、管理サーバ130内で機械学習モデルによる故障判定を行ってもよい。
【0068】
機械学習モデル15Eにより交換必要と判断された場合は、現金自動取引装置1の表示装置1Dにて、交換必要部位と交換を促す文言と、交換作業手順とを表示する。あるいは、交換が必要である旨の電子的メッセージ(交換対象部位を特定する情報、現金自動取引装置1を特定する情報を含む)を、管理サーバ130または保守センタ(不図示)へ送信してもよい。異常検知装置15から保守員の持つ情報端末(不図示)へ上記の電子的メッセージを送信してもよい。電子的メッセージは、電子メール、SMS(Short Message Service)、SNS(Social networking service)などである。
【0069】
異常検出装置15を内蔵していない現金自動取引装置1に対しては、保守員が持ち運ぶ集音装置16を用いることによって、第1の判定処理が可能である。保守員は、保守作業時に手動にて紙幣処理機構2を動作させる。その時の動作音を集音装置16で取得する。各アクチュエータやセンサの動作情報を制御部11の記憶領域から外部メモリ(不図示)に転送させる。保守員は、集音装置16と外部メモリを保守センタへ持ち帰り、保守センタ内の解析装置(不図示)にて第1の判定処理を行う。保守員は、集音装置16および外部メモリに接続された解析装置を、管理サーバ130に接続することにより、第1の判定処理を行ってもよい。
【0070】
(第2の判定処理)保守作業時における劣化判定
【0071】
第2の判定処理は、現金自動取引装置1内の特定の部位に対して、その劣化状態を判定する。ここでは、特定部位として、ブラシローラ64を例に説明するが、他の部位についても同様である。
【0072】
ブラシローラ64の劣化判定では、紙幣処理機構2にて、ブラシローラに接続されているアクチュエータ(ブラシローラーモータ)のみを一定速度で一定方向に回転させるという専用の劣化判定動作を行う。
【0073】
還流庫6は、1つの紙幣処理機構2に複数個設けられる。1つずつの還流庫6について劣化判定の専用動作を実施する。専用動作を用いることで、1つのブラシローラの音のみのデータとなる。他のアクチュエータの音が省かれることにより、より特徴音を抽出しやすくなる。
【0074】
図11は、専用動作による劣化判定の様子を示す。
図11の上段は、集音データの時系列を示す。
図11の下段は、ブラシローラ1個の動作タイミング(ブラシローラーモータ1個の動作タイミング)を示しており、ブラシローラが動作している際の集音データを切り出して劣化判定を行う。
【0075】
本実施例では、音の周波数成分を使用して、機械学習モデルによる判定を行う。複数のアクチュエータが同時に動作していると、周波数成分が混ざるため、どのアクチュエータの周波数成分なのかを判別するのが難しくなる。特に複数のブラシローラが動作していると、周波数成分が似ているため、さらに判別が難しくなる。
【0076】
本実施例では、アクチュエータを1つずつ動作させるという専用動作を実施することにより、高精度の劣化判定を行うことができる。
図12に示すように、複数の同種アクチュエータを1つずつ動作させるため、アクチュエータ毎に異常検出装置15をそれぞれ設けなくても、1つの異常検出装置15でどのアクチュエータの音なのかを判別することができる。
【0077】
紙幣処理機構2の各アクチュエータ類に異常が発生した場合、アクチュエータ自体に異常が発生したのか、それ以外の異常、例えば制御部、ケーブル類の異常、異物の混入なのかを、保守員が判断できないことがある。しかし、異常発生時刻の情報があれば、異常発生前後の集音データを抽出することができる。
【0078】
【0079】
図13は、入金計数動作の処理を示す。入金計数動作では、制御部11がメイン制御装置13から動作開始信号を受信すると、搬送機構モータM1/M2がそれぞれ正転開始する(ステップS101)。その後、ガイド機構のソレノイドを入金計数ルートへ駆動する(ステップS102)。一時スタッカモータを集積方向に回転開始し(ステップS103)、鑑別部4を起動する(ステップS104)。
【0080】
入出金口モータを分離方向に回転開始し、紙幣を入出金口から一時スタッカへ搬送する(ステップS105)。入出金口の紙幣を分離し終えたら、入出金口モータと一時スタッカモータを停止させる(ステップS106、S107)。最後に搬送機構モータM1/M2をそれぞれ停止し、入金計数動作を終了する(ステップS108)。
【0081】
図14は、入金収容動作の処理を示す。入金収納動作では、搬送機構モータM1/M3が逆転開始する(ステップS201)。その後、ガイド機構のソレノイドを入金収納ルートへ駆動する(ステップS202)。リジェクト庫モータおよび還流庫モータを集積方向に回転開始させ(ステップS203、S204)、鑑別部4を起動する(ステップS205)。一時スタッカモータを分離方向に回転開始し、紙幣を一時スタッカ5からリジェクト庫7および還流庫6へ搬送する(ステップS206)。
【0082】
一時スタッカ5の紙幣を分離し終えたら、一時スタッカモータ、リジェクト庫モータ、還流庫モータを停止する(ステップS207、S208、S209)。最後に搬送機構モータM1/M3を停止し、入金収納動作を終了する(ステップS210)。
【0083】
図15は、出金動作の処理を示す。出金動作では、搬送機構モータM1/M2/M3がそれぞれ正転開始する(ステップS301)。その後、ガイド機構のソレノイドを出金ルートへ駆動する(ステップS302)。入出金口モータを集積方向に回転開始し(ステップS303)、鑑別部4を起動する(ステップS304)。
【0084】
還流庫モータを分離方向に回転開始し、紙幣を還流庫6から入出金口3へ搬送する(ステップS305)。還流庫6の紙幣を分離し終えたら、還流庫モータおよび入出金口モータを停止する(ステップS306、S307)。最後に搬送機構モータM1/M2/M3をそれぞれ停止させ、出金動作を終了する(ステップS308)。このように紙幣処理機構では、動作種別によって、各アクチュエータの動作有無や動作時間、動作パターンがそれぞれ異なる。
【0085】
したがって、各アクチュエータおよびセンサの動作情報と時刻情報があれば、異常直前に動作していたアクチュエータや動作種別を判別できる。異常直前に動作していたアクチュエータや動作種別がわかれば、機械学習に用いる学習モデルを特定することができるため、高精度の故障原因判別を行うことができる。
【0086】
集音装置16は、保守作業時に現金自動取引装置1に設置されるが、異常検出装置15は保守作業時以外の通常時も故障判定(自己診断)を行うことができる。劣化判定動作は、例えば、現金自動取引装置1の休止時間に定期的に行うことができる。異常原因の判定は、異常発生時に即時に行うことができる。このように構成される本実施例によれば、対象部位の交換(ユニット交換)が必要であるか否かを適切に判断することができるため、無駄な保守交換が行われるのを防止でき、保守作業の効率向上と低コスト化を実現することができる。
【0087】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の範囲内で、種々の追加や変更等を行うことができる。実施形態に述べた特徴は適宜組み合わせることもできる。
1:現金自動取引装置、2:紙幣処理機構、3:入出金口、4:鑑別部、5:一時スタッカ、6:還流庫、7:リジェクト庫、8:装填回収庫、9:搬送機構、10:通過センサ、11:制御部、13:メイン制御装置、14:金庫、
15:異常検知装置、16:集音装置、100:制御装置、110:異常検知装置、120:異常検知装置、130:管理サーバ