(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124680
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】接着剤塗布設備
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20230830BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20230830BHJP
B05C 13/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H02K15/02 F
B05C5/00 101
B05C13/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028601
(22)【出願日】2022-02-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-16
(71)【出願人】
【識別番号】390023032
【氏名又は名称】田中精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】山下 剛史
(72)【発明者】
【氏名】恒田 柾暉
【テーマコード(参考)】
4F041
4F042
5H615
【Fターム(参考)】
4F041AA05
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA32
4F041BA34
4F041BA48
4F042AA02
4F042AA06
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4F042AB00
4F042BA07
4F042BA08
4F042BA19
4F042CA01
4F042CB03
4F042CB26
4F042DB17
4F042DC01
4F042DF07
4F042DF11
4F042DF21
4F042DF23
4F042DF34
4F042DH09
4F042ED01
5H615AA01
5H615PP01
5H615PP06
5H615SS05
5H615SS18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メンテナンスが容易である接着剤塗布設備を提供する。
【解決手段】帯状薄鋼板を金型31、33によって所定形状に打ち抜いた鉄心を積層して互いに接着するために当該帯状薄鋼板に接着剤を塗布する接着剤塗布設備35であって、接着剤塗布設備35は帯状薄鋼板の送り方向において金型31、33の直前又は金型31、33と後続する金型32、34との間に配置され、接着剤塗布設備35は帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状薄鋼板を金型によって所定形状に打ち抜いた鉄心を積層して互いに接着するために当該帯状薄鋼板に接着剤を塗布する接着剤塗布設備であって、当該接着剤塗布設備は帯状薄鋼板の送り方向において金型の直前又は当該金型と後続する金型との間に配置され、上記接着剤塗布設備は帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能であることを特徴とする接着剤塗布設備。
【請求項2】
帯状薄鋼板を下金型に向けて押圧する押圧プレートを有し、当該押圧プレートは帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤塗布設備。
【請求項3】
接着剤塗布設備と金型とが密着していることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤塗布設備。
【請求項4】
押圧プレートと金型とが密着していることを特徴とする請求項2または3に記載の接着剤塗布設備。
【請求項5】
接着剤塗布設備が有する接着剤を吐出するシリンジは上方向に脱着可能であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の接着剤塗布設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤塗布設備に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、帯状薄鋼板に接着剤を塗布するための接着剤塗布設備に関する。
【0003】
回転電機用の積層鉄心は一般に、電磁鋼板のフープ材(帯状薄鋼板)を素材として、その帯状薄鋼板を順次金型装置に送給することにより製造される。金型装置では、帯状薄鋼板に対してパイロット穴やスロット部、内径ティース等の所定の打ち抜き加工が順次行われて鉄心薄板が連続的にかたちづくられ、打ち抜き後の鉄心薄板を所定の枚数積層して固着させることにより積層鉄心が製造される。鉄心薄板の固着には、各鉄心薄板にかしめ用の凹凸を形成しておき、積層時に圧着させてかしめ結合させる積層かしめ法や、積層後にレーザ溶接等によって鉄心薄板を結合する積層溶接法も存在するが、結合部位の磁気特性の劣化等が生じ難いことから、金型装置内で帯状薄鋼板の表面に接着剤を塗布し、打ち抜きと同時に鉄心薄板を積層して接着させる積層接着法が広く提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、
図15に示すように、間欠的に移送される薄鋼板SSの移送方向に沿って配設された複数のダイ61と、前記複数のダイ61に前記薄鋼板SSを押し付けるストリッパー62と、前記ストリッパー62によって前記複数のダイ61に押し付けられた前記薄鋼板SSにプレス加工を行う複数のパンチ63とを備え、前記複数のパンチ63のうち前記移送方向の下流側の位置に配置されたパンチとして外形打抜パンチ64が配設されており、前記外形打抜パンチ64によって前記薄鋼板SSから所定の平面形状の金属個片を打ち抜いて前記薄鋼板から分離すると共に、前記外形打抜パンチ64に対応したダイ内65で前記金属個片を積層するよう構成された金属個片積層体の製造装置66であって、前記複数のダイ61のうち前記外形打抜パンチ64に対応したダイ67よりも上流の位置には、接着剤塗布ユニット68が配設されており、前記接着剤塗布ユニット68は、接着剤を貯留する接着剤貯留室69と、前記接着剤貯留室69から供給された前記接着剤を、前記薄鋼板SSの下側の面の所定の位置に、前記金属個片として予定されている平面形状に対応した接着剤塗布パターンで塗布する塗布ヘッド70と、前記接着剤を前記薄鋼板SSに塗布する際に該塗布ヘッド70の裏面から前記塗布ヘッド70を押さえるヘッド押え71と、を有し、前記塗布ヘッド70は、多孔質の樹脂でなり、前記塗布ヘッド70の表面には、平面視したときに前記接着剤塗布パターンと実質的に同等の形状となっており前記薄鋼板SSが当接したときに表面から滲出した前記接着剤を前記薄鋼板SSに転写する部分となる転写部が設けられており、前記ヘッド押え71は、平面視したときに前記接着剤塗布パターンに対応した押えパターンとなっている押え面を有し、前記押え面が、前記塗布ヘッド70の裏面に前記転写部に対応する位置及び姿勢で当接するように構成されている、ことを特徴とする金属個片積層体の製造装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、
図16に示すように、所定の一方向に間欠的に順次送り出される帯状の金属板に対して、外形抜き加工を除く所定の加工を施すように構成された第1の金型81と、前記第1の金型81によって加工された後の金属板のうち所定箇所に接着剤を供給するように構成された供給ユニット82と、前記供給ユニット82によって接着剤が供給された後の前記金属板に対して外形抜き加工を施すことにより、接着剤が付与された所定形状の打抜部材を形成するように構成された第2の金型83と、前記第1の金型81、前記供給ユニット82及び前記第2の金型83を個別的に又は一体的に駆動させるように構成された少なくとも一つの第1の駆動機構84とを備え、前記第1の金型81と、前記供給ユニット82と、前記第2の金型83とは、それぞれ別体であり、前記金属板が送り出される上流側から下流側にかけてこの順に並んでおり、供給ユニット82は、下流側の第2の金型83によって加工された後の電磁鋼板ESのうち所定箇所に接着剤を供給する機能を有し、供給ユニット82は、
図17に示すように、下方から上方に向かうにつれて、底板85と、昇降機86と、電磁鋼板ESに対して接着剤を供給する機能を有する供給プレート87と、一組のガイドレール88と、電磁鋼板ESのうち一組のガイドレール88の間の領域を供給プレート87と共に挟持可能に構成されている押圧プレート89(押圧部材)と、天板90とを備える、積層鉄心の製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-035242号公報
【特許文献2】特開2018-129981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された金属個片積層体の製造装置は、複数のダイ61と接着剤塗布ユニット68が離れているため、装置全体が大型化してしまうという不都合がある。また、接着剤塗布ユニット68に向けて薄鋼板SSを押圧する動作がストリッパー62によって行われるので、メンテナンスのために接着剤塗布ユニット68の上部にアクセスすることが困難である。接着剤塗布ユニット68のメンテナンスをしようとしても、ストリッパー62は容易に取り外せないため、接着剤塗布ユニット68を取り外すか、又は、上金型72全体をメンテナンスできる位置まで上昇させて接着剤の吐出孔の周りを目視でチェックすることが必要であり、非常に煩雑で手間がかかる。というのは、通常金型のストロークは20~30mm程度なので、ストリッパー62と接着剤塗布ユニット68の間から接着剤を吐出するノズルを目視したり、そのノズルを整備することは不可能である。
【0008】
また、特許文献2に記載された積層鉄心の製造装置の供給ユニット82は、電磁鋼板ESを押圧する押圧プレート89と接着剤を供給する設備が一体となったユニットであり、接着剤供給設備のメンテナンスのためには、供給ユニット82を全体装置から取り出してから押圧プレート89を取り外す必要があり、非常に煩雑で手間がかかる。
【0009】
本発明は、従来技術の前記問題点に鑑みてこれを改良したものであって、メンテナンスが容易である接着剤塗布設備を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために本願第一発明の接着剤塗布設備は、帯状薄鋼板を金型によって所定形状に打ち抜いた鉄心を積層して互いに接着するために当該帯状薄鋼板に接着剤を塗布する接着剤塗布設備であって、当該接着剤塗布設備は帯状薄鋼板の送り方向において金型の直前又は当該金型と後続する金型との間に配置され、上記接着剤塗布設備は帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能であることを特徴とする。
【0011】
本願第二発明は、本願第一発明において、帯状薄鋼板を下金型に向けて押圧する押圧プレートを有し、当該押圧プレートは帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能であることを特徴とする。
【0012】
本願第三発明は、本願第一発明または第二発明において、接着剤塗布設備と金型とが密着していることを特徴とする。
【0013】
本願第四発明は、本願第二発明または第三発明において、押圧プレートと金型とが密着していることを特徴とする。
【0014】
本願第五発明は、本願第一発明ないし第四発明のいずれかの発明において、接着剤塗布設備が有する接着剤を吐出するシリンジは上方向に脱着可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願第一発明によれば、接着剤塗布設備を金型と切り離して取り出すことができるので、上金型の駆動部分を上方に移動させたり、接着剤塗布設備と金型の間に作業スペースとしての空間を設けることなく、容易に接着剤塗布設備のメンテナンスや点検を行うことができる。接着剤塗布設備は金型とは別体であるから、金型の小型化も可能である。
【0016】
本願第二発明によれば、押圧プレートを引き出すことにより、接着剤塗布設備を引き出すことなく、接着剤塗布設備の上部から接着剤塗布設備のメンテナンスや点検を行うことができる。
【0017】
本願第三発明によれば、専用のガイドポストを設けて接着剤塗布設備と帯状薄鋼板の送り方向の位置合わせをする必要がないため、金型の小型化が可能である。また、接着剤塗布設備の上部からメンテナンスしたり、接着剤塗布設備を取り出してメンテナンスできるので、接着剤塗布設備と金型の間に作業スペースとしての空間を設ける必要がない。帯状薄鋼板の送り方向に対する直角方向における接着剤塗布設備の位置合わせは所定の位置に位置決めブロックを設置しておけばよく、打抜き金型ほどの厳密な位置合わせは不要である。
【0018】
本願第四発明によれば、専用のガイドポストを設けて接着剤塗布設備と押圧プレートの位置合わせをする必要がないため、金型の小型化が可能である。
【0019】
本願第五発明によれば、接着剤塗布設備を取り出さずに、押圧プレートとシリンジを取外してシリンジ内部や接着剤塗布設備内の接着剤供給路のメンテナンスができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、接着剤塗布設備及びその前後設備を含む積層鉄心の製造装置の一実施形態の概略構成図である。
【
図2】
図2は、接着剤塗布設備の一実施形態の斜視図である。
【
図3】
図3は、接着剤塗布設備の一実施形態の平面図である。
【
図4】
図4は、接着剤塗布設備の一実施形態の側面図である。
【
図5】
図5は、
図4から一部の構成部材を除いた側面図である。
【
図6】
図6は、接着剤塗布設備の一実施形態の正面図である。
【
図7】
図7は、
図6から一部の構成部材を除いた正面図である。
【
図8】
図8は、接着剤塗布設備における接着剤の流路の一実施形態を示す平面図である。
【
図9】
図9は、接着剤塗布設備における接着剤の流路の別の実施形態を示す平面図である。
【
図10】
図10は、本発明の接着剤塗布設備を含む設備の一実施形態の概略構成図である。
【
図11】
図11(a)、(b)、(c)は、本発明の接着剤塗布設備の動作を説明する図である。
【
図12】
図12は、本発明の接着剤塗布設備の別の実施形態の斜視図である。
【
図13】
図13は、本発明の接着剤塗布設備の別の実施形態の概略構成図である。
【
図14】
図14は、本発明の接着剤塗布設備を含む設備の別の実施形態の概略構成図である。
【
図15】
図15は、特許文献1に記載された金属個片積層体の製造装置を説明するための図である。
【
図16】
図16は、特許文献2に記載された打抜装置を示す概略断面図である。
【
図17】
図17は、特許文献2に記載された接着剤供給装置の供給ユニットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。
【0022】
図1は、接着剤塗布設備及びその前後設備を含む積層鉄心の製造装置の一実施形態の概略構成図である。
図1において、1は帯状薄鋼板2が巻かれたコイル材、3は内側接着剤塗布装置、4は外側接着剤塗布装置、5は内側接着剤塗布装置3の昇降手段、6は外側接着剤塗布装置4の昇降手段、7は上金型、8は下金型、9a、9bは内側接着剤塗布装置3及び外側接着剤塗布装置4を含む接着剤塗布設備の架台である。内側接着剤塗布装置3又は外側接着剤塗布装置4は、それぞれ昇降手段5又は6よって独立して昇降することが可能である。
図1に示すように、内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4は上下金型の直前に設置されている。コイル材1から送り出された帯状薄鋼板2の下面に内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4によって接着剤が塗布された後、帯状薄鋼板2は上金型7と下金型8、及び必要に応じて後続する上金型と下金型で所定の形状に打ち抜かれて、矢示A方向に送られる。
なお、回転電機用の積層鉄心には、ステータ(固定子)、ロータ(回転子)等があり、外側接着剤塗布装置、内側接着剤塗布装置により、ステータ、ロータに対する接着剤塗布を並行して行うことが可能となる。又、回転電機の種類や用途に応じて、鉄心片の一部、例えばステータのティース部、ステータのバックヨーク部(外周円環部)、ロータのリブ部(打抜き穴周囲の細枠部)に塗布することがある一方、鉄心片全体に渡り、輪郭形状に沿って、その細部も含め、全域に塗布を行うこともできる。
【0023】
図2は、接着剤塗布設備の一実施形態の斜視図である。
図2において、10は内側接着剤塗布装置3の円環状の溝状塗布部、11は外側接着剤塗布装置4の円弧形状の溝状塗布部である。円環状の溝状塗布部10、内側の円形部10a及び外側の円環状部10bは、後記する昇降手段によって一体となって昇降することが可能である。円弧形状の溝状塗布部11は、内側用とは異なる昇降手段によって昇降することが可能である。12は、帯状薄鋼板に接着剤が塗布されたかどうかを感知するための複数個のセンサ類である。13は、内側接着剤塗布装置と外側接着剤塗布装置の昇降手段の昇降動作を制御するための電磁弁である。14は、接着剤の温度を上昇させるためのカートリッジヒータである。15は円環状の溝状塗布部10、内側の円形部10a及び外側の円環状部10bを含む内側接着剤塗布装置3の温度を感知するための温度センサ、16は円弧形状の溝状塗布部11を含む外側接着剤塗布装置4の温度を感知するための温度センサである。17は内側接着剤塗布装置3の円環状の溝状塗布部10に接着剤を供給するための接着剤供給口、18は外側接着剤塗布装置4の円弧形状の溝状塗布部11に接着剤を供給するための接着剤供給口である。これらの接着剤供給口17と18は脱着可能である。接着剤供給口17から供給された接着剤は全周にわたる接着剤吐出孔26(
図3参照)から吐出され、接着剤供給口18から供給された接着剤は全周にわたる接着剤吐出孔27(
図3参照)から吐出される。
【0024】
図4は、接着剤塗布設備の一実施形態の側面図である。19は、円弧形状の溝状塗布部11を含む外側接着剤塗布装置4の昇降動作に伴う衝撃を緩和するためのショックアブソーバ、20は、円環状の溝状塗布部10、内側の円形部10a及び外側の円環状部10bを含む内側接着剤塗布装置3の昇降動作に伴う衝撃を緩和するためのショックアブソーバである。
【0025】
図6は、接着剤塗布設備の一実施形態の正面図である。21は、円弧形状の溝状塗布部11を含む外側接着剤塗布装置4を昇降させるためのエアシリンダ、22は、円環状の溝状塗布部10、内側の円形部10a及び外側の円環状部10bを含む内側接着剤塗布装置3を昇降させるためのエアシリンダである。23は、エアシリンダー21の上下限を感知するためのセンサ類、24は、エアシリンダー22の上下限を感知するためのセンサ類である。なお、エアシリンダ21とエアシリンダ22は、それぞれ複数個備えられている。
【0026】
図8は、接着剤塗布設備における接着剤の流路の一実施形態を示す平面図であり、この場合の流路25の幅dは全長にわたって同じであり、この流路25を通って、
図3に示す円環状の溝状塗布部10と円弧形状の溝状塗布部11のそれぞれの全周にわたる接着剤吐出孔26と27から接着剤が吐出される。
図9は、接着剤塗布設備における接着剤の流路の別の実施形態を示す平面図であり、この場合の流路28の幅wは先端に向けて徐々に小さくなっている。流路の長さが比較的長い場合、流路の幅が先端に向けて小さくなることは、接着剤を先端まで送り出す上で有利である。
図3に示す接着剤供給口17及び18から流路25または28のいずれかに接着剤が供給される。
図3において、円環状の溝状塗布部10と円弧形状の溝状塗布部11は水平面から少しへこんだ(内側に離れた)位置にある。このように、円環状の溝状塗布部10と円弧形状の溝状塗布部11が凹状にへこんでいると、流路25または28を経て接着剤吐出孔26と27から吐出される接着剤が直ちに薄鋼板(
図1の符号2参照)の下面に塗布されず、接着剤吐出孔26と27上に盛り上がった、ほぼ一定量の接着剤を帯状薄鋼板の下面に塗布することができるという利点がある。又、凹状のへこみは必ずしも円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状である必要はなく、吐出孔26と27毎に座ぐり状(段付き状)に設けてもよい。
【0027】
上記のように構成される接着剤塗布設備を用いて帯状薄鋼板に接着剤を塗布する方法について説明する。
帯状薄鋼板に対して途切れることなく接着剤が塗布されるのではなく、
図1において、上金型7を下金型8に向かって下降させて帯状薄鋼板2を所定の形状に打ち抜くタイミングに同期させて、帯状薄鋼板2に対して接着剤が塗布される。すなわち、
図1に示すように、打ち抜き以外のタイミングでは、帯状薄鋼板2と、内側接着剤塗布装置3の上面、外側接着剤塗布装置4の上面、架台9a、9bの上面および下金型8の上面との間には所定の間隔(数mm程度)が設けられている。そして、
図1において、帯状薄鋼板2を所定の形状に打ち抜くタイミングで、上金型7が下金型8に向かって下降することで帯状薄鋼板2は下金型8側に向けて押圧される。内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4はそれぞれ独立して昇降することが可能であるから、帯状薄鋼板2の下面を内側接着剤塗布装置3又は外側接着剤塗布装置4のいずれかの上面に当接させることができる。そして、接着剤が貯留されているタンク(図示せず)から所定の圧力で接着剤が内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4に常時供給されているので、帯状薄鋼板2の下面に接着剤を塗布することができる。なお、
図1では、内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4は帯状薄鋼板2の下側にあるが、内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4は帯状薄鋼板2の上側に設けることもできる。他の設備との干渉や設備コストなどの付帯条件を考慮して、内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4は帯状薄鋼板2の上側または下側に設けることができる。
【0028】
上記のようにして、帯状薄鋼板2の下面に接着剤が塗布された後、帯状薄鋼板2は上金型7と下金型8、及び必要に応じて後続する上金型と下金型で所定の形状に打ち抜かれ、所定の形状に打ち抜かれることによって得られる鉄心は下金型8又は後続する下金型内に積層される。この積層鉄心が所定枚数に達すると、下金型8又は後続する下金型から排出され、排出された積層鉄心には、加熱等の所定の後処理が施された後、組み立てられる。例えば、
図1において、上金型7を下金型8に向かって下降させて帯状薄鋼板2を所定の形状に打ち抜くタイミングでは内側接着剤塗布装置3のみを上昇させて帯状薄鋼板2の下面に内側接着剤塗布装置3によって接着剤を塗布し、この部分を上金型7と下金型8で所定の形状に打ち抜いて下金型8内に積層する。そして、上金型7と下金型8に後続する上金型と下金型において上金型を下金型に向かって下降させて帯状薄鋼板2を所定の形状に打ち抜くタイミングでは外側接着剤塗布装置4のみを上昇させて帯状薄鋼板2の下面に外側接着剤塗布装置4によって接着剤を塗布し、この部分を上金型7と下金型8に後続する上金型と下金型において所定の形状に打ち抜いて下金型内に積層する。
【0029】
上記のように、接着剤が貯留されているタンク(図示せず)から所定の圧力で供給される接着剤は
図3に示す接着剤供給口17と18に到達し、内側接着剤塗布装置3の円環状の溝状塗布部10の全周にわたる吐出孔26及び外側接着剤塗布装置4の円弧形状の溝状塗布部11の全周にわたる吐出孔27から帯状薄鋼板の下面に塗布される。円環状の溝状塗布部10、内側の円形部10a及び外側の円環状部10bは、後記する昇降手段によって一体となって昇降することが可能であり、円弧形状の溝状塗布部11は、内側用とは異なる昇降手段によって昇降することが可能である。このように、内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4を1つの設備の中に組み込んで、各々を独立して昇降させることができるので、接着剤塗布装置、金型及び積層鉄心製造装置を小型化できるだけでなく、全体設備構成がシンプルになり、設備コストの大幅な低減を図ることができる。
【0030】
具体的には、内側接着剤塗布装置3の円環状の溝状塗布部10、内側の円形部10a及び外側の円環状部10bは、
図6に示すエアシリンダ22によって昇降することが可能であり、外側接着剤塗布装置4の円弧形状の溝状塗布部11は、
図6に示すエアシリンダ21によって昇降することが可能である。
【0031】
ところで、これらの凹状にへこんだ溝状塗布部は、接着剤塗布装置の上面から接着剤の吐出孔までが所定の距離になるように作られているが、これには後述する効果がある。接着剤塗布装置が上昇し、帯状薄鋼板2の下面が接着剤塗布装置の上面に当接した時に、接着剤吐出孔26と27から吐出されて盛り上がった接着剤が帯状薄鋼板2の下面に塗布されるが、この接着剤塗布装置の上昇量に誤差が生じた場合、接着剤の塗布量にばらつきが生じる恐れがある。ところが、接着剤塗布装置の上面から接着剤吐出孔26と27までが所定の距離に固定されていれば、帯状薄鋼板2が下金型8に向けて押圧された際に、帯状薄鋼板2は接着剤塗布装置の上面に押し付けられ、帯状薄鋼板2の下面と接着剤吐出孔26と27の距離を所定の距離に保つことができる。また、帯状薄鋼板2の表面が完全に平滑な形状でなかったとしても、帯状薄鋼板2の表面形状に関係なく、帯状薄鋼板2が下金型8に向けて押圧されて、帯状薄鋼板2が接着剤塗布装置の上面に押し付けられた際に、帯状薄鋼板2の下面と接着剤吐出孔26及び27の距離を所定の距離に保つことができる。複数の接着剤吐出孔26または27が連通していると、帯状薄鋼板に対する接着剤の塗布量の均一化を図ることができるという利点がある。なお、複数の接着剤塗布装置によって同時に帯状薄鋼板2に接着剤を塗布しない場合は、エアシリンダ21またはエアシリンダ22と図示しないリフトピンによって帯状薄鋼板2を昇降させてもよい。
【0032】
エアシリンダ21と22の作動は
図2に示す電磁弁13によって制御され、エアシリンダの昇降動作の上下限は
図6に示すセンサ類23と24によって感知されるが、
図4に示すショックアブソーバ19と20を備えているので、これらの昇降動作に伴う各設備に対する衝撃を緩和し、衝撃による振動が収束する時間を短縮することができる。
【0033】
さらに、
図2に示すように、帯状薄鋼板に接着剤が塗布されたかどうかを感知するための複数個のセンサ類12を備えている。そこで、例えば、帯状薄鋼板に接着剤が塗布されていない箇所があれば、センサ類12で感知した情報を接着剤が貯留されているタンク(図示せず)にフィードバックすることにより、内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4への接着剤の供給を中断して、点検・修理等の必要な措置を講ずることができる。
【0034】
図2において、接着剤の温度を上昇させるためのカートリッジヒータ14は図示しない電源と接続されており、カートリッジヒータ14で接着剤を昇温することにより接着剤の流動性を向上させ、
図3に示す接着剤吐出孔26と27から安定して接着剤を吐出することができる。また、温度センサ15と16を有するので、設備の異常な温度上昇を感知して、必要に応じてカートリッジヒータ14の稼働個数を調整することができる。内側接着剤塗布装置3と外側接着剤塗布装置4は上金型7と下金型8の外に設けられているので、カートリッジヒータ14による昇温の影響が金型装置に及んだり、逆に金型装置の温度変化が接着剤の流動性に影響を及ぼすことはない。
【0035】
接着剤塗布設備で使用することができる接着剤としては、加熱硬化型のエポキシ系やアクリル系の樹脂、湿気硬化型のシアノアクリレート系やシリコーンゴム系の樹脂、硬化剤混合型のエポキシ系やシリコーンゴム系やアクリル系の樹脂、嫌気硬化型のアクリル系の樹脂、紫外線硬化型のエポキシ系やアクリル系の樹脂を挙げることができるが、これら接着剤を吐出するシリンジの吐出孔は非常に小さい(吐出口の直径は約1~2mm)ので、定期的に吐出孔における接着剤の詰まりをチェックする作業と、吐出孔まで接着剤を供給する流路を清掃する作業を定期的に行う必要がある。例えば、接着剤塗布設備のメンテナンス作業の主なものを挙げれば、以下のとおりである。
【0036】
[接着剤塗布設備の主なメンテナンス作業]
(1)接着剤塗布作業の始業時と終業時に、塗布設備周辺の接着剤拭き取り清掃を行う必要がある。
(2)接着剤塗布作業の始業時と終業時に、吐出孔まで接着剤を供給する流路を清掃するために、吐出孔に向けて高圧エアーを吹き付ける作業を行う必要がある。
(3)始業時に、吐出孔からの吐出量の確認作業を行う必要がある。
(4)接着剤塗布作業中に、
図2に示すセンサ類12から制御装置(図示せず)に送られる信号に基づいてトラブルを検知した場合、接着剤を吐出するシリンジの吐出孔を清掃したり、シリンジを交換する必要がある。
【0037】
ところが、上記のように、特許文献1に記載された金属個片積層体の製造装置や特許文献2に記載された積層鉄心の製造装置の接着剤塗布設備のメンテナンス作業は非常に煩雑で手間がかかる。
また、
図3に示す接着剤塗布設備において、接着剤吐出孔26や27のメンテナンス作業は帯状薄鋼板が送られていない状態で行う必要がある。接着剤吐出孔以外の他の接着剤塗布関連部材のメンテナンス作業は、接着剤塗布設備の上面、側面または前面から当該部材にアクセスして調整や交換等の作業を行う必要がある。従って、
図3に示す接着剤塗布設備においても接着剤塗布設備のメンテナンス作業は容易とは言えない。
【0038】
しかしながら、
図10に示す本発明の接着剤塗布設備を含む設備によれば、接着剤塗布設備と押圧プレートを帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能であるから、メンテナンスが容易である。
図10において、31、32は上金型、33、34は下金型であり、これら上金型31及び下金型33からなる金型と、上金型32及び下金型34からなる金型との間に接着剤塗布設備35と押圧プレート36が配置されている。押圧プレート36は金型ほど強い圧力で帯状薄鋼板に力を及ぼすものではないが、上金型と下金型による打ち抜き作業が正確に支障なく行われるように、帯状薄鋼板を押圧する器具である。押圧プレート36は押圧力を調整するスプリング36aを備えているので、スプリング36aの弾発力により押圧プレート36は帯状薄鋼板の表面に巧みに倣うように、帯状薄鋼板を押圧することができる。また、押圧プレート36は上金型31に密着している。なお、押圧プレートは鉄鋼材料だけでなく、アルミニウム合金や樹脂等の軽量材料を用いることができ、軽量化することで、押圧プレートをより容易に引き出すことができる。
【0039】
37は置台であり、上金型31と32は置台37に結合されており、帯状薄鋼板の打ち抜きを行うために、上金型31と32は置台37と一体となって下金型33と34に向けて下降する動作と元の位置に戻るために上昇する動作を行うことができる。
【0040】
下金型33は置台38に固定されており、下金型34は置台39に固定されており、これら下金型33と34はその位置から移動することはできない。さらに、置台38と39は枠体40に固定されている。41は接着剤塗布設備35のベースプレートである。接着剤塗布設備35のベースプレート41は置台38と39に密着している。
【0041】
図11(b)に示すように、ベースプレート41を含む接着剤塗布設備35は、帯状薄鋼板の送り方向(
図10の左から右に向かう方向)に対して直角方向(両方の矢印で示す方向)に引き出すことが可能である。また、
図11(a)に示すように、押圧プレート36も帯状薄鋼板の送り方向(
図10の左から右に向かう方向)に対して直角方向(両方の矢印で示す方向)に引き出すことが可能である。
図11(b)において、42はストッパーであり、
図11(c)に示すように、ストッパー42は接着剤塗布設備35の不必要な移動を停止して、接着剤塗布設備35を元の位置に復帰させることができる。なお、接着剤塗布設備35の不必要な移動を停止する構造は、本実施形態のストッパー42(ブロック)に限定されず、例えば、ベースプレート41と枠体40の間にノックピンを設けるなどしてもよい。
【0042】
図12は、本発明の接着剤塗布設備の別の実施形態の斜視図である。
図12において、43は帯状薄鋼板に接着剤が塗布されたかどうかを感知するための複数個のセンサ類であり、接着剤塗布設備を帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことにより、上側から点検・修理等の作業を行うことが可能である。44は接着剤を吐出するシリンジであり、接着剤塗布設備を帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出した後、上側に抜き取ることが可能な構造を備えているので、点検・交換等の作業が容易である。さらに、
図13に示すように、押圧プレート36は帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出した後、取り外すことが可能な構造を備えており、点検・修理等の作業が極めて容易である。
【0043】
図14は、本発明の接着剤塗布設備を含む設備の別の実施形態の概略断面図である。
図10においては、接着剤塗布設備35は、上金型31及び下金型33からなる金型と、上金型32及び下金型34からなる金型との間に配置されているが、
図14では、接着剤塗布設備45は上金型46及び下金型47からなる金型の直前に配置されている。48は置台であり、上金型46は置台48に結合されており、帯状薄鋼板の打ち抜きを行うために、上金型46は置台48と一体となって下金型47に向けて下降する動作と元の位置に戻るために上昇する動作を行うことができる。下金型47は置台49に固定されているので、下金型47はその位置から移動することはできない。50は接着剤塗布設備45のベースプレ-トである。接着剤塗布設備45のベースプレ-ト50は置台49に密着している。
【0044】
ベースプレ-ト50を含む接着剤塗布設備45は、帯状薄鋼板の送り方向(
図10の左から右に向かう方向)に対して直角方向に引き出すことが可能である。さらに、置台49は枠体51に固定されている。
【0045】
なお、本発明の接着剤塗布設備における接着剤塗布部は、本明細書に記載される形態に限定されず、接着剤を含浸した多孔質体を押付ける、接着剤を吹付ける、接着剤を滴下するなど、種々の形態が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の接着剤塗布設備は、ステップモータやモータコアのための積層鉄心用の帯状薄鋼板に適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 コイル材
2 帯状薄鋼板
3 内側接着剤塗布装置
4 外側接着剤塗布装置
5 内側接着剤塗布装置の昇降手段
6 外側接着剤塗布装置の昇降手段
7 上金型
8 下金型
9a、9b 架台
10 円環状の溝状塗布部
10a 内側の円形部
10b 外側の円環状部
11 円弧形状の溝状塗布部
12 センサ類
13 電磁弁
14 カートリッジヒータ
15、16 温度センサ
17、18 接着剤供給口
19、20 ショックアブソーバ
21、22 エアシリンダ
23、24 センサ類
25、28 流路
26、27 接着剤吐出孔
31、32 上金型
33、34 下金型
35 接着剤塗布設備
36 押圧プレート
36a スプリング
37、38、39 置台
40 枠体
41 接着剤塗布設備35のベースプレート
42 ストッパー
43 センサ類
44 接着剤を吐出するシリンジ
45 接着剤塗布設備
46 上金型
47 下金型
48、49 置台
50 接着剤塗布設備45のベースプレート
51 枠体
【手続補正書】
【提出日】2023-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状薄鋼板を金型によって所定形状に打ち抜いた鉄心を積層して互いに接着するために当該帯状薄鋼板に接着剤を塗布する接着剤塗布設備であって、当該接着剤塗布設備は帯状薄鋼板の送り方向において金型の直前又は当該金型と後続する金型との間に配置され、上記接着剤塗布設備は帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能である接着剤塗布設備において、帯状薄鋼板を下金型に向けて押圧する押圧プレートを有し、当該押圧プレートは帯状薄鋼板の送り方向に対して直角方向に引き出すことが可能であることを特徴とする接着剤塗布設備。
【請求項2】
接着剤塗布設備と金型とが密着していることを特徴とする請求項1に記載の接着剤塗布設備。
【請求項3】
押圧プレートと金型とが密着していることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤塗布設備。
【請求項4】
接着剤塗布設備が有する接着剤を吐出するシリンジは上方向に脱着可能であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の接着剤塗布設備。