(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124699
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池の正極の処理方法、及び金属複合酸化物からの有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20230830BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20230830BHJP
C22B 5/04 20060101ALI20230830BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230830BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20230830BHJP
【FI】
C22B7/00 C ZAB
C22B23/02
C22B5/04
H01M10/54
B09B3/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028631
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 芳幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁
(72)【発明者】
【氏名】橋本 英喜
(72)【発明者】
【氏名】林 健二
(72)【発明者】
【氏名】小倉 新一
(72)【発明者】
【氏名】高野 洋平
【テーマコード(参考)】
4D004
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004AB03
4D004AC04
4D004BA05
4D004CA36
4D004CC11
4K001AA08
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA11
4K001DA05
4K001GA17
4K001HA03
4K001JA02
4K001KA06
5H031BB09
5H031EE01
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】低コストで金属材料中のリン(P)を低減させることができる非水電解液二次電池の正極の処理方法、及び低コストで不純物が低減された有価金属を回収することができる金属複合酸化物からの有価金属の回収方法を提供する。
【解決手段】非水電解液二次電池の正極の処理方法は、Alを含む箔とNi及び/又はCoを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、前記正極に、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として添加する添加工程S11と、前記酸化剤が添加された前記正極を溶融することにより、正極に含まれるPを酸化除去し、Ni及び/又はCoを含む金属材料を得る溶融工程S12とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む箔とNi及び/又はCoを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、
前記正極に、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として添加する添加工程と、
前記酸化剤が添加された前記正極を溶融することにより、前記正極に含まれるPを酸化除去し、Ni及び/又はCoを含む金属材料を得る溶融工程と
を有する非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項2】
前記酸化剤の添加量は、下記式1で表されるAl回収率が3.0%以下となる量である請求項1に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
[式1]
Al回収率(%)=(溶融後の金属Alの質量)/(溶融前の金属Alの質量)
【請求項3】
前記正極に対する前記酸化剤の添加量は、50.0質量%以上83.3質量%以下である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項4】
前記酸化剤は、NiO、CoO、Co2O3、Co3O4、NiMnCo複合酸化物、NiMn複合酸化物、MnCo複合酸化物、NiCo複合酸化物、Ni及び/又はCoを含有する複合酸化物である正極活物質材料の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項5】
前記非水電解液二次電池は、非水電解液を更に備え、
前記非水電解液は、前記Pを含有する電解質を有する請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項6】
前記添加工程の前に、前記正極を準備する準備工程を更に有する請求項1~5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池の正極の処理方法。
【請求項7】
有価金属を含む金属複合酸化物からの有価金属の回収方法であって、
前記金属複合酸化物に、前記金属複合酸化物中の前記有価金属を還元する還元剤を添加する還元剤添加工程と、
前記還元剤が添加された前記金属複合酸化物に、有価金属を含む酸化物を酸化剤として添加する酸化剤添加工程と、
前記還元剤及び前記酸化剤が添加された前記金属複合酸化物を溶融することにより、前記金属複合酸化物中の前記有価金属を還元するとともに、前記金属複合酸化物に含まれる不純物を酸化して、有価金属と酸化物とを含む溶融物を得る溶融工程と、
前記溶融物から前記酸化物を分離し、前記有価金属を得る分離工程と
を有する金属複合酸化物からの有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池の正極の処理方法、及び金属複合酸化物からの有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される電源として用いられており、近年、急激に需要が高まっている。非水電解液二次電池の需要増加に伴い、使用済み非水電解液二次電池、不良品非水電解液二次電池、製造工程で生じる工程屑の量も増加傾向にある。非水電解液二次電池の電極、特に正極には、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)等の有価物が含まれている。資源の有効利用のために、非水電解液二次電池から、Ni、Co等の有価物を含む金属材料が回収される。リチウムイオン二次電池の電解液には、非水溶媒にLiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)を混合したものが通常用いられており、回収された金属材料には不純物としてのリン(P)が含まれ、金属材料中のPを低減する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法として、廃リチウムイオン電池を熔融し、得られた熔融物からスラグを分離して、有価物を含む金属材料を回収した後、この金属材料に酸素を吹き込みながら酸化カルシウム(CaO)を添加することで、金属材料中のPを酸化して除去する脱リン工程を行う方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、廃リチウムイオン電池から有価金属を回収する方法として、電池の粉砕物にフラックスとしてCaOを添加し、粉砕物をフラックスとともに熔融することで、Pをフラックスに取り込んでスラグとして分離し、金属材料中のPを低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-091826号公報
【特許文献2】国際公開第2020/013294号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された回収方法では、脱リン工程が必要であるので、リサイクルコストが高くなるという課題がある。また、特許文献1、2に記載された回収方法では、金属材料中のPを十分に低減させることができない。
【0007】
そこで本発明は、低コストで金属材料中のリン(P)を低減させることができる非水電解液二次電池の正極の処理方法、及び低コストで不純物が低減された有価金属を回収することができる金属複合酸化物からの有価金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法は、Alを含む箔とNi及び/又はCoを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、前記正極に、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として添加する添加工程と、前記酸化剤が添加された前記正極を溶融することにより、前記正極に含まれるPを酸化除去し、Ni及び/又はCoを含む金属材料を得る溶融工程とを有する。
【0009】
本発明に係る金属複合酸化物からの有価金属の回収方法は、有価金属を含む金属複合酸化物からの有価金属の回収方法であって、前記金属複合酸化物に、前記金属複合酸化物中の前記有価金属を還元する還元剤を添加する還元剤添加工程と、前記還元剤が添加された前記金属複合酸化物に、有価金属を含む酸化物を酸化剤として添加する酸化剤添加工程と、前記還元剤及び前記酸化剤が添加された前記金属複合酸化物を溶融することにより、前記金属複合酸化物中の前記有価金属を還元するとともに、前記金属複合酸化物に含まれる不純物を酸化して、有価金属と酸化物とを含む溶融物を得る溶融工程と、前記溶融物から前記酸化物を分離し、前記有価金属を得る分離工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として正極に添加し、酸化剤が添加された正極を溶融することにより、低コストで金属材料中のリン(P)を低減させることができる。
【0011】
本発明によれば、有価金属を含む金属複合酸化物に還元剤と酸化剤とを添加し、還元剤及び酸化剤が添加された金属複合酸化物を溶融することにより、低コストで不純物が低減された有価金属を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法に使用される非水電解液二次電池の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法を説明するフローチャートである。
【
図3】NiO粉末の添加量に対するNi、Co、Mn、及びAlの回収率と金属材料中のP量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.実施形態
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法に使用される非水電解液二次電池10の斜視図である。非水電解液二次電池10は、電気自動車やハイブリッド自動車等の自動車の電源として利用された使用済みのリチウムイオン二次電池である。以下の説明では非水電解液二次電池10がリチウムイオン二次電池である場合を例に説明するが、非水電解液二次電池10としては、リチウムイオン二次電池に限定されず、マグネシウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池等でも良い。非水電解液二次電池10は、使用済みのものに限られず、製造後に不良が確認された未使用の非水電解液二次電池でも良い。また、本実施形態に係る非水電解液二次電池の正極の処理方法において処理対象となる正極は、使用済みの非水電解液二次電池から取り出した正極、未使用の非水電解液二次電池から取り出した正極、非水電解液二次電池の製造工程における工程屑(例えば電極体の不良品等)から取り出した正極、正極の製造工程における工程屑等でも良い。処理対象の正極には、例えば、後述のLiPF
6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)等の電解質に由来するリン(P)、正極材料中の不純物としてのP等が含まれている。
【0015】
非水電解液二次電池10は、セル容器12に、電極体(図示せず)と非水電解液(図示せず)とを備える。セル容器12は、例えばアルミニウム合金製である。セル容器12は、容器本体14及び蓋体16を含む。容器本体14と蓋体16とは、レーザー溶接されている。容器本体14は、有底角筒状に形成されており、内部に電極体と非水電解液とを収容する。蓋体16は、容器本体14の開口に設けられ、容器本体14を密閉する。蓋体16には、安全弁18、正極端子20、及び負極端子22が設けられている。安全弁18は、非水電解液二次電池10の内部の圧力を低下させるためのものである。正極端子20は、正極リード(図示せず)を介して、後述する正極と接続している。負極端子22は、負極リード(図示せず)を介して、後述する負極と接続している。
【0016】
電極体は、セパレータ(図示せず)を介して捲回された正極(図示せず)と負極(図示せず)とを含む。電極体は、上記のような捲回型である場合に限られず、正極、負極、及びセパレータを積層した積層型でも良い。
【0017】
正極は、正極集電体及び正極活物質層を有する。正極集電体はアルミニウム(Al)を含む箔(以下、Al箔とも言う)である。正極における正極集電体の質量比は、5~25質量%である。正極活物質層は、正極活物質、バインダー、及び導電材を含む。正極活物質層における導電材、バインダーの質量比は、それぞれ正極の0~30質量%、0~20質量%である。
【0018】
正極活物質としては、ニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)を含有する任意の金属複合酸化物を用いることができる。例えば、正極活物質は、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等から選択することができる。本実施形態においては、正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である。なお、正極活物質は、マグネシウムイオン二次電池の場合は任意のマグネシウム複合酸化物を用いることができ、ナトリウムイオン二次電池の場合は任意のナトリウム複合酸化物を用いることができ、カリウムイオン二次電池の場合は任意のカリウム複合酸化物を用いることができ、カルシウムイオン二次電池の場合は任意のカルシウム複合酸化物を用いることができる。
【0019】
バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素化合物を含むフッ素系バインダーである。導電材は、黒鉛、カーボンブラック等の炭素材料である。
【0020】
負極は、負極集電体及び負極活物質層を有する。例えば、負極集電体は銅(Cu)箔であり、負極活物質は黒鉛である。セパレータとしては、一般的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂製の多孔質膜又は不織布が用いられる。
【0021】
非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解可能なリチウム塩(電解質)とを含む。非水溶媒としては、カーボネート類、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等が用いられる。これらの非水溶媒は、1種類単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0022】
電解質としては、例えば、LiPF6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)等のリン(P)を含有する電解質が用いられる。電解質としては、LiBF4(テトラフルオロホウ酸リチウム)、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド)等を用いても良い。これらの電解質は、1種類単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。以下の説明では電解質がLiPF6である場合を例に説明する。
【0023】
図2に示すように、非水電解液二次電池10の正極の処理方法は、Alを含む箔とNi及び/又はCoを含む金属複合酸化物としての活物質とを有する正極を備える非水電解液二次電池の正極の処理方法であって、正極を準備する準備工程S10と、正極に、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として添加する添加工程S11と、酸化剤が添加された正極を溶融することにより、正極に含まれるPを酸化除去し、Ni及び/又はCoを含む金属材料を得る溶融工程S12と、正極が溶融した溶融物を、Ni及び/又はCoを含む金属材料とスラグとに分離する分離工程S13とを有する。各工程について、以下に詳細な説明を行う。
【0024】
[準備工程]
準備工程S10では、セル容器12を開封して取り出した捲回型の電極体を巻き戻すことにより、シート状の正極を準備する。シート状の正極は、次工程である添加工程S11に供される。なお、準備工程S10では、非水電解液二次電池10を放電させる放電工程、放電させた非水電解液二次電池10のセル容器12内を洗浄液で洗浄するセル内洗浄工程、シュレッダー等を用いてシート状の正極を裁断する裁断工程等を行っても良い。準備工程S10で準備する正極は、本実施形態では使用済みの非水電解液二次電池10から取り出した正極であるが、これに限られず、未使用の非水電解液二次電池から取り出した正極、非水電解液二次電池の製造工程における工程屑から取り出した正極、正極の製造工程における工程屑でも良い。準備工程S10は、正極のみを準備することが好ましい。後述の溶融工程S12において、正極以外の部材(セル容器12、セパレータ、負極等)が含まれていると、還元反応が阻害されるからである。
【0025】
[添加工程]
添加工程S11は、正極に、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として添加する。酸化剤の形状は、特に制限はなく、粉末状、塊状、シート状等の形状を適宜選択することができる。例えば、正極と、酸化剤の粉末とを袋に入れて振ることにより、正極の表面に酸化剤の粉末を付着させることができる。正極と、酸化剤の粉末とを、ブレンダー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等のミキサーで混合しても良い。酸化剤が添加された正極は、次工程である溶融工程S12に供される。
【0026】
酸化剤は、Pを酸化するが、回収する対象であるNi及び/又はCoを酸化し難い物質であることが必要であり、Pよりも酸化され難い元素を含む酸化物である。「Pよりも酸化され難い元素」とは、エリンガム図において、Pよりも上方に位置する元素であり、Ni、Co等が挙げられる。酸化剤は、Pよりも酸化され難い元素を含む酸化物であることが必要であるが、Pよりも酸化され易い元素を含んでも良い。「Pよりも酸化され易い元素」とは、エリンガム図において、Pよりも下方に位置する元素であり、Li等が挙げられる。酸化剤にPよりも酸化され易い元素が含まれていても、溶融工程S12でPとともに酸化除去される。
【0027】
酸化剤は、NiO、CoO、Co2O3、Co3O4、NiMnCo複合酸化物、NiMn複合酸化物、MnCo複合酸化物、NiCo複合酸化物、Ni及び/又はCoを含有する複合酸化物である正極活物質材料の組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの物質を含む。酸化剤として用いる正極活物質材料としては、例えば、LiNi複合酸化物、LiCo複合酸化物、LiNiCo複合酸化物、LiNiMn複合酸化物、LiNiCoAl複合酸化物、LiNiCoMn複合酸化物等から選択することができる。酸化剤は、回収対象であるNi及び/又はCoを含む酸化物であることが好ましい。回収された金属材料を、そのままニッケル金属水素化物電池用金属材料又は水素貯蔵用金属材料として使用する場合は、それぞれの用途上、汚染物質となるような成分を含まないことが好ましく、例えば酸化物中にNi、Co、Mn以外の金属を含まないことが好ましい。最も好ましい酸化剤はNiOである。Niは回収対象であるNiそのものであるので、NiOが還元されることにより、Niとして回収できるからである。本実施形態では、酸化剤としてNiOが用いられている。
【0028】
正極に対する酸化剤の添加量は、活物質と還元剤としてのAlとの酸化還元反応後に残る余剰分の還元剤としてのAlが全て酸化される量を基本とする。余剰分の還元剤としてのAlが全て酸化される量の酸化剤を添加することにより、確実にPを酸化除去することができる。
【0029】
Pを酸化させるための酸化剤の添加量の下限としては、余剰分のAlが全て酸化される量までは必要とならない。これは、Pの酸化は回収金属中にAlが残っている状態でも、一部始まるためである。したがって、Pを酸化させるための酸化剤の添加量の下限は、以下の(式1)に示すAl回収率が3.0%以下、より好ましくは0.2%以下、更により好ましくは0.01%以下となる量である。
Al回収率(%)=(溶融後の金属Alの質量)/(溶融前の金属Alの質量)
・・・(式1)
ここで、金属Alとは、還元能力を持つAlのことであり、Al酸化物中のAlは含まない。また、特に断りのない限り、本明細書においては金属Alのことを単にAlと記す。また、正極活物質の還元に用いられるAlは、正極中のAl箔でも良いし、必要に応じ別途添加しても良い。なお、金属Alの質量は、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析を行うことにより測定できる。
【0030】
酸化剤を多く添加してもPの除去効果には影響を与えないので、酸化剤の添加量の上限は特に限定されない。しかしながら、酸化剤の添加量を多くし過ぎると、一部のCo及び/又はNiが酸化される場合があるとともに、酸化反応に寄与しない酸化剤の量が増える。したがって、酸化剤の添加量の上限は、活物質と還元剤としてのAlとの酸化還元反応後に残る余剰分の還元剤としてのAlが全て酸化される量に、余剰分のAlが全て酸化される量の25.0%の量、より好ましくは7.6%の量を加えた量である。酸化剤の添加量がこの量以下であれば、Ni及びCoの回収率は、前者で約80%以上、後者で90%以上と高い値を示す。なお、余剰分のAlが全て酸化される量とは、Al回収率(%)が0.01%以下となる量のことをいう。還元剤としては、Al箔に限定されず他の還元剤を用いても良い。また、還元剤の種類は、Alに限定されず、活物質中のNi及び/又はCoを含む金属複合酸化物を還元できるものであれば良い。還元剤の添加量はAlの場合と同様にして定められる。なお、還元剤回収率は、以下の(式2)により表される。
還元剤回収率(%)=(溶融後の還元剤の質量)/(溶融前の還元剤の質量)
・・・(式2)
【0031】
また、正極の質量を基準とした場合、正極に対する酸化剤の添加量の下限は、好ましくは50.0質量%であり、より好ましくは58.3質量%であり、更により好ましくは66.7質量%である。酸化剤の添加量が50.0質量%未満であると、Pの酸化除去が不十分となる。酸化剤の添加量が多いほど後述の金属材料中のP量(ppm)が低減される。金属材料中のP量は、酸化剤の添加量が50.0質量%以上で3500ppm以下となり、58.3質量%以上で3000ppm以下となり、66.7質量%以上で10ppm以下となる。酸化剤を多く添加してもPの除去効果には影響を与えないので、酸化剤の添加量の上限は特に限定されない。しかしながら、酸化剤の添加量を多くし過ぎると、一部のCo及び/又はNiが酸化される場合があるので、正極に対する酸化剤の添加量の上限は、好ましくは83.3質量%であり、より好ましくは71.7質量%である。Ni及びCoの回収率は、酸化剤の添加量が71.7質量%までは90%以上の高い値であり、添加量が71.7質量%を超えると回収率が減少傾向となるが、添加量が83.3質量%でも約80%と高い値が維持される。
【0032】
[溶融工程]
溶融工程S12では、酸化剤が添加された正極を溶融して溶融物を得る。溶融工程S12について、正極活物質としてLiNixCoyMnzO2を用いた場合を例に説明する。溶融工程S12では、正極に含まれるAl箔が還元剤となり、以下のような反応が生じる。反応の結果、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料として、Ni、Co及びMnを含有する合金(NixCoyMnz)が得られる。
LiNixCoyMnzO2+Al → 1/2Li2O+NixCoyMnz+1/2Al2O3
本実施形態では、正極に対し外部の加熱手段(例えば、高周波誘導溶解炉)から熱エネルギーを付与し、例えば1500℃で正極を溶融する。アルミナ(Al2O3)を溶融スラグ状態にするために、CaO等のフラックスを添加しても良い。
【0033】
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、還元剤としてのAl箔により還元される。正極に含まれているPは、酸化剤としてのNiOにより酸化除去される。この結果、金属材料中のP量が低減した、Ni、Co及びMnを含有する合金を回収することができる。なお、Mnは、NiOにより一部酸化され、Ni及びCoよりも回収率が低くなる。
【0034】
[分離工程]
分離工程S13では、溶融メタルと溶融スラグが比重差により分離した後に冷却されることにより、Ni、Co、Mnを含む金属材料と、スラグとを分離する。回収される金属材料中のNiは、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物及び酸化剤としてのNiOに由来する。金属材料中のCo及びMnは、正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物に由来する。
【0035】
2.作用及び効果
本実施形態に係る非水電解液二次電池の処理方法では、Ni及び/又はCoを含む酸化物を酸化剤として正極に添加し、酸化剤が添加された正極を溶融する。正極に含まれるPが酸化剤により酸化除去されるので、脱リン工程を不要とし、低コストで金属材料中のPを低減させることができる。酸化剤に含まれるNi及び/又はCoは、金属材料として回収することができる。
【0036】
正極に対する酸化剤の添加量を50.0質量%以上83.3質量%以下とすることにより、金属材料中のPをより確実に低減し、かつ、Ni及び/又はCoの回収率の低下を抑制することができる。酸化剤の添加量を66.7質量%以上とすることにより、金属材料中のP量を10ppm以下とできるので、回収された金属材料を、そのままニッケル金属水素化物電池用金属材料又は水素貯蔵用金属材料として使用できる。回収された金属材料のP量が650ppm以下であれば、回収された金属材料をそのままニッケル金属水素化物電池の電極材料として用いても電池特性に影響を与えないと考えられる。
【0037】
3.実施例
以下に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
【0038】
捲回型の電極体と非水電解液とがセル容器12に収容された使用済みの非水電解液二次電池を用意した。用意した非水電解液二次電池に含まれる正極と非水電解液の構成は以下の通りである。
【0039】
<正極>
Al箔 厚さ15μm,20質量%
活物質(LiNi1/6Co2/3Mn1/6O2) 72~73質量%
バインダー(PVDF) 3~4質量%
導電材 4質量%
<非水電解液>
非水溶媒(DMC:EMC:PC) 質量比28:27:28
電解質(LiPF6) 1M
【0040】
実験では、まず、用意した非水電解液二次電池を放電させ、セル容器12内を洗浄し、セル容器12を開封して取り出した捲回型の電極体を巻き戻してシュレッダーで切断することにより正極を準備した(準備工程S10)。
【0041】
30gの正極と、所定量の酸化剤と、11.1gのCaO粉末とを、予め用意した袋に入れて振ることにより、正極に酸化剤とCaO粉末を添加した(添加工程S11)、酸化剤が添加された正極を実施例1~10とした。酸化剤としてNiO粉末を用いた。NiO粉末の添加量は、実施例1、2では10.0g、実施例3、4では15.0g、実施例5、6では17.5g、実施例7、8では20.0g、実施例9、10では25.0gとした。CaO粉末は、アルミナを溶融スラグ状態にするために添加した。また、30gの正極と、8.0gのCaO粉末とを、予め用意した袋に入れて振ることにより、正極にCaO粉末のみを添加した、酸化剤が添加されていない正極を比較例1、2とした。
【0042】
実施例1~10の正極と比較例1、2の正極を溶融工程S12に供することにより実験を行った。
【0043】
酸化剤としてのNiO粉末が添加された実施例1~10の正極を高周波誘導溶解炉に入れ、窒素(N2)ガスを流量5L/minで流しながら、炉内の温度を室温から1550℃まで昇温させ、20分間維持して実施例1~10の正極を溶融した。高周波誘導溶解炉は、実施例1~10の正極を充填するためのアルミナ坩堝と、アルミナ坩堝を収容するカーボン坩堝と、カーボン坩堝の外周に沿って設けられた高周波誘導コイルとにより構成した。炉内の温度を室温まで降温させた後、アルミナ坩堝を解体して金属材料を取り出した。
【0044】
酸化剤が添加されていない比較例1、2の正極を高周波誘導溶解炉に入れ、炉内の空気を排出して真空状態とし、室温から300℃まで昇温させ、90分間維持した。その後、炉内にアルゴン(Ar)ガスを入れてArガス雰囲気とし、炉内の温度を1550℃まで昇温させ、20分間維持して比較例1、2の正極を溶融した。炉内の温度を室温まで降温させた後、アルミナ坩堝を解体して金属材料を取り出した。
【0045】
実施例1~10の正極、及び比較例1、2の正極を溶融して得られた各金属材料の成分分析結果を
図3に示す。
図3は、NiO粉末の添加量に対するNi、Co、Mn、及びAlの回収率と金属材料中のP量を示すグラフである。
図3は、NiO粉末の添加量(g)を横軸、Ni、Co、Mn、及びAlの回収率(%)を紙面左側の縦軸、金属材料中のP量(ppm)を紙面右側の縦軸とし、NiO粉末の添加量が同一の実施例における測定値(N=2)の平均値をプロットして作成した。なお、溶融する前の実施例1~10の正極中のP量は4500~10000ppm程度であった。Ni、Co、Mn、及びAlの各金属の回収率は、溶融後の各金属の質量を溶融前の各金属の質量で除して求めた。なお、Niの回収率については、溶融前の正極に含有されているNi量に、酸化剤として添加したNiO粉末中のNi量を加えた質量で、溶融後の各金属の質量を除した。溶融前の各金属の質量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析を行うことにより測定した。なお、一部のサンプルについては溶融前の正極における正極活物質の質量%と正極活物質の組成に基づき計算して求めた。溶融後の各金属の質量及び金属材料中のP量もICP質量分析を行うことにより測定した。いずれのICP質量分析にも日立ハイテクサイエンス社製PS3520UVDDIIまたはSPS3520UVDDを用いた。
【0046】
図3より、酸化剤の添加量が多いほど、P量が低減できることが確認できた。酸化剤の添加量が10gを超えるまでは、Alの回収率が優位に減少するが、P量の減少は小さい。これに対し、酸化剤の添加量が10gを超えると、すなわちAlの回収率が8.0%未満になると、Alの回収率の減少は緩やかになる一方、P量は急激に減少し、15g以上(Al回収率1.6%以下)では3500ppm以下となり、17.5g以上(Al回収率0.2%以下)では3000ppm以下となり、20g以上(Al回収率0.01%以下)では10ppm以下となる。酸化剤が添加された正極を溶融することにより、正極に含まれるPを酸化除去できることが確認できた。Ni及びCoの回収率は、酸化剤の添加量が20g(Al回収率0.01%以下)までは、90%以上の高い値となった。Ni及びCoの回収率は、酸化剤の添加量が20gを超えると減少傾向となった。Ni及びCoの一部が酸化されたため、及び酸化反応に寄与しない酸化剤(NiO粉末)の量が増加したためであると考えられる。ただし、酸化剤の添加量が25gでも、Ni及びCoの回収率は約80%と高い値を維持した。なお、Alの回収率は酸化剤を20g添加した段階で0.01%以下となっており、この時点で余剰分のAlが全て酸化されたと考えられる。すなわち、酸化剤の添加量25gは、余剰分のAlが全て酸化される量20gに、余剰分のAlが全て酸化される量の25%である5gを加えた量である。また、酸化剤の添加量を多くするとともに、Mnの回収率の低下が見られた。Mnの回収率は、P量の減少と似た挙動を示し、酸化剤の添加量が10gを超えると急激に減少している。エリンガム図に示された酸化のし易さは、Al、Mn、P、Co、Niの順である。溶融工程S12において、酸化されていないAl及びMnが残っている状態でもPの酸化除去が始まり、Al及びMnが十分に酸化除去された後にP量も十分低減される挙動が見て取れる。
【0047】
アルミナ坩堝を解体して金属材料を取り出した際に、NiO粉末の添加量が多いほど、スラグの表面の色が黒ずんでいることが確認できた。NiO粉末の添加量の増加に伴い、スラグの表面におけるMnO2の析出が進行したと考えられる。
【0048】
以上より、酸化剤の添加量を15g(50.0質量%)以上25g(83.3質量%)以下とすることで、金属材料中のP量を3500~10ppmと低減しつつ、Ni及びCoの回収率が80%以上となることが確認できた。酸化剤の添加量を17.5g(58.3質量%)以上20g(66.7質量%)以下とすることで、金属材料中のP量を3000~10ppmとより低減でき、Ni及びCoの回収率を95%以上と向上できた。酸化剤の添加量を20g(66.7質量%)以上25g(83.3質量%)以下とすることで、Ni及びCoの回収率を低下させることなく、金属材料中のP量を10ppm以下とでき、十分に脱リンできた。
【0049】
上記の実験ではカーボン坩堝を使用しているのでN2ガスを流しながら正極の溶融を行ったが、酸素と反応しにくい材質(例えばアルミナ)のみで構成された坩堝を使用する場合は、大気雰囲気で正極の溶融を行っても良い。
【0050】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0051】
溶融工程S12は、上記実施形態では外部の加熱手段を用いて正極を溶融したが、箔と活物質との反応熱により正極を溶融しても良い。「箔と活物質との反応」とは、金属Alである正極集電体と金属酸化物である正極活物質との混合物を反応させた際に、金属Alにより金属酸化物を還元しながら高熱を発生する酸化還元反応であり、テルミット反応とも言う。正極は、箔と活物質との反応熱によって自己発熱する。「自己発熱」とは、正極に対し外部の加熱手段(例えば、高周波誘導溶解炉)から熱エネルギーが付与されなくても、箔と活物質との反応熱によって自己の温度が上昇することを意味する。
【0052】
テルミット反応は、大きな発熱を伴う反応であるため、反応が持続する温度に到達した後は自己発熱(反応熱)により反応が進む。テルミット反応を励起させる方法としては、例えば、坩堝に正極を入れ、着火するテルミット法がある。基本的に、この着火だけでテルミット反応が進み、金属複合酸化物を構成する金属を含む金属材料を得ることができる。なお、テルミット法においては、必要に応じ適宜助燃剤を用いることもできる。あるいは、アーク溶解や高周波誘導溶解炉等の外部から高温の熱を与える装置を用いる方法もあり、この場合は、自己発熱(反応熱)により正極が溶融するとともに、アーク溶解や高周波誘導溶解等の熱によっても正極が溶融する。
【0053】
非水電解液二次電池10の正極の処理方法としては、準備工程S10、添加工程S11、溶融工程S12、及び分離工程S13に加え、正極を加熱する加熱処理を行う加熱工程を更に有するものでも良い。加熱工程は、準備工程S10と添加工程S11との間、又は添加工程S11と溶融工程S12との間に行う。
【0054】
加熱処理について説明する。加熱処理に用いる加熱装置は、加熱炉、加熱部、温度計、ガス供給部、流量計、及び制御部を有する。加熱炉は、正極を収容するための内部空間を有する。加熱部は、加熱炉内に配置された正極を加熱する。温度計は、加熱炉内の温度を測定する。ガス供給部は、加熱炉内に酸素を含むガス(この例では空気)を供給し、加熱炉内を、酸素を含む雰囲気とする。流量計は、加熱炉内の空気の流量を測定する。制御部は、温度計の測定結果に基づき加熱部を制御し、加熱炉内を所定の昇温速度で昇温させ、予め設定された加熱温度に制御する。制御部は、流量計の測定結果に基づきガス供給部を制御し、加熱炉内に供給する空気の流量を制御する。制御部は、加熱温度及び流量が所定の時間維持されるように、加熱部とガス供給部とを制御する。加熱温度及び流量を維持する時間を「キープ時間」と言う。なお、上記の加熱装置は一例である。このため、加熱装置の構成は、上記の構成に限定されず、適宜設計することができる。例えば、ロータリーキルン等を用いれば、加熱処理を連続的に行うことができる。
【0055】
加熱処理の手順を説明する。まず、シート状の正極を耐熱性の容器に配置する。次に、加熱装置を作動し、加熱炉内を昇温させ、予め設定された加熱温度とする。正極が配置された容器を加熱炉内に設置し、加熱炉内に空気を所定の流量で供給する。予め設定されたキープ時間が経過するまで、加熱温度及び流量を維持する。なお、加熱装置を作動させる前に、正極が配置された容器を加熱炉内に設置しても良い。
【0056】
加熱処理は、箔が酸化しない温度で加熱を行うことが好ましい。加熱温度が高すぎると、正極集電体としてのAl箔が酸化する。酸化したAl箔は、溶融工程S12において、還元剤として使用することができない。
【0057】
加熱処理は、バインダーを分解する温度で行うことが好ましい。加熱温度が低すぎると、バインダーの分解が不十分となり、正極にバインダーが残留する。バインダーが残留した正極が溶融工程S12に供された場合、溶融工程S12において、バインダーの熱分解及びその後の酸化によりH2O、CO2やCO等の水素や炭素の酸化物のガスが発生し、還元反応が阻害される。還元反応を阻害するガスを反応阻害ガスと称する。また、発生したガスが急激に膨張して炉が破損する場合があり、危険である。バインダーを分解する温度で加熱処理を行うことにより、バインダーが除去された正極を溶融工程S12に供することができる。また、加熱処理は、導電材を酸化除去する温度で行うことが好ましい。
【0058】
加熱処理は、400℃以上650℃以下で加熱を行うことが好ましい。加熱温度を400℃以上650℃以下とすることにより、バインダーが確実に分解され、かつ、Al箔の酸化が抑制される。また、加熱温度が高すぎると、正極集電体のAlが還元剤となって意図せぬ還元反応が起きる場合があり、危険である。加熱処理は、より好ましくは450℃以上600℃以下であり、更により好ましくは500℃以上600℃未満である。
【0059】
加熱工程において、箔が酸化しない温度で加熱を行うことにより、Al箔の表面におけるアルミナの生成が抑制されるので、溶融工程S12における還元反応(テルミット反応)が促進される。
【0060】
加熱工程において、バインダーを分解する温度で加熱を行うことにより、溶融工程S12の段階での反応阻害ガスの発生が抑制され、還元反応(テルミット反応)が促進される。
【0061】
加熱工程において、400℃以上650℃以下で加熱を行うことにより、加熱処理中のテルミット反応の発生が抑制され、安全性が向上する。加熱処理によりバインダーと導電材とが除去され、溶融工程S12の段階での反応阻害ガスの発生が抑制される。このため、溶融工程S12における還元反応(テルミット反応)が促進される。
【0062】
上記実施形態では還元剤として正極集電体のAl箔を用いたが、還元剤として例えばAl粉末を添加しても良い。
【0063】
本発明は、非水電解液二次電池の正極の処理方法に限定されることなく、金属複合酸化物中の有価金属よりも酸化され易い不純物を除去して、有価金属を含む金属複合酸化物から有価金属を回収する際に広く適用できる技術である。例えば、一次電池でも良く、鉱物資源における鉱石でも良い。また、不純物もリン(P)に限定されることなく、金属複合酸化物中の有価金属よりも酸化され易いものであればいずれの不純物でも良い。本発明を用いることにより、P等の不純物を除去した有価金属の回収が可能となる。すなわち、本発明に係る金属複合酸化物からの有価金属の回収方法は、有価金属を含む金属複合酸化物からの有価金属の回収方法であって、前記金属複合酸化物に、前記金属複合酸化物中の前記有価金属を還元する還元剤を添加する還元剤添加工程と、前記還元剤が添加された前記金属複合酸化物に、有価金属を含む酸化物を酸化剤として添加する酸化剤添加工程と、前記還元剤及び前記酸化剤が添加された前記金属複合酸化物を溶融することにより、前記金属複合酸化物中の前記有価金属を還元するとともに、前記金属複合酸化物に含まれる不純物を酸化して、有価金属と酸化物とを含む溶融物を得る溶融工程と、前記溶融物から前記酸化物を分離し、前記有価金属を得る分離工程とを有することにより、低コストで、金属複合酸化物から不純物を低減した有価金属を回収することが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
10 非水電解液二次電池
S10 準備工程
S11 添加工程
S12 溶融工程
S13 分離工程