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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124720
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230830BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028661
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100198568
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 絵美
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 将之
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770AA05
5H770BA03
5H770DA03
5H770EA02
5H770EA03
5H770EA04
5H770GA19
5H770JA11W
5H770JA13W
5H770KA01W
(57)【要約】
【課題】高調波電流を低減し、交流モータで発生する損失を低減することができるとともに、パルスモードを切り替える制御が複雑にならず、出力トルクの変動を抑える。
【解決手段】電力変換装置100は、変調率αに応じてパルスモードを選択し、パルスモードと角周波数とから、キャリアとキャリアの波高値とを出力し、変調率が上昇する間において、(9+6(k-1))パルスモード(kは1以上の整数)を選択した後に7パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、変調率が下降する間に7パルスモードを選択した後に(9+6(k-1))パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、7パルスモードの波形は、120度の位相の前と後ろそれぞれにOFF信号を発生させ、位相が180度から360度までの波形は、位相が0度から180度までの波形において、ON信号とOFF信号とを入れ替えた波形である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス幅変調に基づいてスイッチング素子をスイッチングすることにより直流電力を交流電力に変換する電力変換装置であって、
少なくともトルク指令を用いて電流指令を生成する電流指令生成部と、
前記電流指令から電圧指令を生成する電圧指令生成部と、
前記電圧指令から変調率を計算する変調率計算部と、
前記電圧指令から出力電圧の電圧位相及び角周波数を算出する電圧位相・角周波数算出部と、
前記変調率と、前記電圧位相及び前記角周波数とから、PWM信号を生成するPWM信号生成部とを備え、
前記PWM信号生成部は、
前記変調率と、前記角周波数とを用いて、前記出力電圧の1周期を構成するパルス数であるパルスモードを変更し、前記パルスモードに応じてキャリア周波数を変更し、キャリアを生成するキャリア生成部と、
前記変調率と、前記電圧位相とを用いて、変調波割合算出テーブルを参照することで、変調波を算出する変調波生成部と、
前記キャリアと、前記変調波とを比較し、比較結果に応じて、前記PWM信号を電力変換器へ出力する比較器とを備え、
前記キャリア生成部は、
前記変調率に応じて、高調波電流が最低となる前記パルスモードを選択するパルスモード選択器と、
前記パルスモードと前記角周波数とから、前記キャリアと前記キャリアの波高値とを出力するキャリア生成器とを備え、
前記パルスモード選択器は、前記変調率が上昇する間において、(9+6(k-1))パルスモード(kは1以上の整数)を選択した後に7パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、前記変調率が下降する間に7パルスモードを選択した後に前記(9+6(k-1))パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、
前記7パルスモードの波形は、1パルスモードにおいて位相が30度から210度の間でON信号を発生させる波形において、30度の位相の前にON信号を発生させ、30度の位相の後ろにOFF信号を発生させ、120度の位相の前と後ろそれぞれにOFF信号を発生させ、位相が180度から360度までの波形は、位相が0度から180度までの波形において、ON信号とOFF信号とを入れ替えた波形であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記変調波生成部は、
前記変調率に対する、高調波電流が最低となるパルス幅と、前記パルス幅を出力するための変調波の、前記キャリアの波高値に対する割合とを予め対応付けて記憶し、前記変調率計算部によって計算された前記変調率を、前記キャリアの波高値に対する割合に変換する前記変調波割合算出テーブルと、
前記変調波割合算出テーブルによって変換された前記割合と、前記キャリア生成部で生成された前記キャリアの波高値とから前記変調波を算出する変調波算出器と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子をパルス幅変調に基づくスイッチングにより直流電力を交流電力に変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気車用の誘導電動機を駆動する電力変換装置の制御方法として、車両が低速で走行している際には、非同期制御を行い、車両が高速で走行している際には、同期制御を行うという方法が用いられることが多い。
【0003】
図7は一般的な電力変換装置の構成例を示す図である。図7に示すように、電力変換装置90は、リアクトル3と、コンデンサ4と、電力変換器5と、電流検出器6と、電流指令生成部11と、電圧指令生成部12と、電圧位相・角周波数計算部14と、PWM信号生成部25とを備える。
【0004】
電力変換器5は、直流電源2を用いて交流モータ1を駆動するために、直流電源2から供給される直流電力を交流電力に変換する。具体的には、電力変換器5はスイッチング素子を備えており、スイッチング素子をスイッチングすることにより、直流電源2からの直流電力を交流電力に変換して、交流モータ1に供給する。電力変換器5のスイッチングとしては、キャリアと制御指令との比較に応じて、パルス幅が異なるPWM(Pulse Width Modulation)制御信号により、スイッチング素子のオンとオフとを切り替えるように制御するPWM方式で制御を行う方法がある。
【0005】
電流指令生成部11は、少なくともトルク指令を用いて電流指令を生成する。
【0006】
電圧指令生成部12は、電流指令生成部11で生成された電流指令から電圧指令を生成する。具体的には、電圧指令生成部12は、電流指令生成部11からの電流指令と電流検出器6からの電流値との偏差を用いて、d軸及びq軸の電圧指令を生成する。
【0007】
電圧位相・角周波数計算部14は電圧指令生成部12からの電圧指令を用いて電力変換器5から出力する電圧位相及び角周波数を計算する。
【0008】
PWM信号生成部25は電圧指令生成部12で生成された電圧指令と、電圧位相・角周波数計算部14で計算された電圧位相及び角周波数とを用いて、三角波などのキャリアを用いて、PWM信号を生成する。
【0009】
電力変換器5は、PWM信号生成部25で生成されたPWM信号を用いて、スイッチング素子をスイッチングすることにより、直流電力を交流電力に変換して、交流モータ1に出力する。
【0010】
一般的に、電力変換器5から出力される交流電力の出力電圧の周波数が閾値を超えると、非同期制御から9パルス、15パルス等の同期制御に切り替えられる。その後、例えば、交流電力を出力する交流モータ1を有する電気車の速度が上がることによって、電圧指令が上昇していくと、図8に示すように、変調波(図8の破線)の振幅がキャリア(図8の実線)の振幅を超える過変調状態となる。過変調状態では、パルスに欠損が生じ最終的に1パルスモードとなる。1パルスモードとは、一周期分の出力電圧が一つのパルスで生成されている状態のことである。
【0011】
電流検出器6は、交流モータ1の固定子電流を、回転する直交座標系におけるd軸及びq軸上の各成分の電流であるd軸電流idとq軸電流iqに変換して出力する。d軸は、交流モータ1が誘導電動機の場合に一般的に交流モータ1の2次鎖交磁束ベクトルの方向に定義され、交流モータ1が永久磁石同期電動機の場合に一般的に該電動機の回転子の永久磁石のN極方向に定義される。
【0012】
しかし、上述した技術では、図8に示すように、変調波の振幅がキャリアの振幅を超える過変調状態となる領域で、高調波電流による交流モータ1での損失が大きくなることがある。
【0013】
そこで、特許文献1に記載された発明は、あらかじめ高調波電流を低減できるパルスパターンをテーブル化しておき、変調率に応じてパルスモードを9パルスモード、7パルスモード(P7パルスモード)、5パルスモード(N5パルスモード)、3パルスモード(N3パルスモード)と切り替えることで、過変調状態となる領域での高調波電流の低減を行っている。なお、7パルスモード、5パルスモード、及び3パルスモードとは、1周期分の出力電圧が、それぞれ7つ、5つ、及び3つのパルスで生成されている状態である。すなわち、パルスモードとは、出力電圧の1周期を構成するパルス数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2020-137385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、パルスモード毎にキャリアの位相が異なるため、パルスモードを切り替える際にキャリア周波数を変更する必要がある。これにより、電動機から出力されるトルクに変動が生じる可能性がある。また、キャリア周波数を複数回、変更するため、制御が複雑になる。
【0016】
上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、高調波電流を低減し、交流モータで発生する損失を低減することができるとともに、パルスモードを切り替える制御が複雑にならず、出力トルクの変動を抑えることができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明に係る電力変換装置は、パルス幅変調に基づいてスイッチング素子をスイッチングすることにより直流電力を交流電力に変換する電力変換装置であって、少なくともトルク指令を用いて電流指令を生成する電流指令生成部と、前記電流指令から電圧指令を生成する電圧指令生成部と、前記電圧指令から変調率を計算する変調率計算部と、前記電圧指令から出力電圧の電圧位相及び角周波数を算出する電圧位相・角周波数算出部と、前記変調率と、前記電圧位相及び前記角周波数とから、PWM信号を生成するPWM信号生成部とを備え、前記PWM信号生成部は、前記変調率と、前記角周波数とを用いて、前記出力電圧の1周期を構成するパルス数であるパルスモードを変更し、前記パルスモードに応じてキャリア周波数を変更し、キャリアを生成するキャリア生成部と、前記変調率と、前記電圧位相とを用いて、変調波割合算出テーブルを参照することで、変調波を算出する変調波生成部と、前記キャリアと、前記変調波とを比較し、比較結果に応じて、前記PWM信号を電力変換器へ出力する比較器とを備え、前記キャリア生成部は、前記変調率に応じて、高調波電流が最低となる前記パルスモードを選択するパルスモード選択器と、前記パルスモードと前記角周波数とから、前記キャリアと前記キャリアの波高値とを出力するキャリア生成器とを備え、前記パルスモード選択器は、前記変調率が上昇する間において、(9+6(k-1))パルスモード(kは1以上の整数)を選択した後に7パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、前記変調率が下降する間に7パルスモードを選択した後に前記(9+6(k-1))パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、前記7パルスモードの波形は、1パルスモードにおいて位相が30度から210度の間でON信号を発生させる波形において、30度の位相の前にON信号を発生させ、30度の位相の後ろにOFF信号を発生させ、120度の位相の前と後ろそれぞれにOFF信号を発生させ、位相が180度から360度までの波形は、位相が0度から180度までの波形において、ON信号とOFF信号とを入れ替えた波形であることを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明に係る電力変換装置制御装置において、前記変調波生成部は、前記変調率に対する、高調波電流が最低となるパルス幅と、前記パルス幅を出力するための変調波の、前記キャリアの波高値に対する割合とを予め対応付けて記憶し、前記変調率計算部によって計算された前記変調波を、前記キャリアの波高値に対する割合に変換する前記変調波割合算出テーブルと、前記変調波割合算出テーブルによって変換された前記割合と、前記キャリア生成部で生成された前記キャリアの波高値とから前記変調波を算出する変調波算出器と、をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、過変調状態となる領域における高調波電流を低減することで、交流モータで発生する損失を低減することができるとともに、制御を簡素化しながらパルスモードを切り替えるときの出力トルクの変動を少なくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る電力変換装置の構成例を示す図である。
図2図1に示すPWM信号生成部の構成例の概略を示す図である。
図3図2に示すキャリア生成部の構成例を示す図である。
図4図2に示す変調波生成部の構成例を示す図である。
図5】中性点から見た、NP7パルスモードにおける相電圧波形の一例を示す図である。
図6】従来技術における高調波電流と、本実施形態における高調波電流とを比較した図である。
図7】一般的な電力変換装置の構成例を示す図である。
図8】9パルスモードにおける過変調状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態の電力変換装置100について、図面を参照しながら説明する。なお、図7を参照して説明した電力変換装置90が備える機能部と同一の機能部については、同一の符号を付し、説明を省略する。また、本実施形態の電力変換装置100は、キャリアとして、傾きが一定である三角波を用い、キャリアの波高値を変更することで、キャリア周波数を変更できるものとする。また、本実施形態の電力変換装置100が非同期制御から同期制御へ切り替えた際の同期制御のパルスモードは9パルスモードとして説明を行う。
【0022】
図1は、本実施形態に係る電力変換装置100の構成例を示した図である。
【0023】
図1に示すように、電力変換装置100は、リアクトル3と、コンデンサ4と、電力変換器5と、電流検出器6と、電流指令生成部11と、電圧指令生成部12と、変調率計算部13と、電圧位相・角周波数計算部14と、PWM信号生成部15とを備える。電力変換装置100は、パルス幅変調に基づいてスイッチング素子をスイッチングすることにより直流電力を交流電力に変換する。本実施形態の電力変換装置100は、図7に示す従来の電力変換装置90におけるPWM信号生成部25の代わりにPWM信号生成部15を備え、さらに、電圧指令生成部12とPWM信号生成部15との間に変調率計算部13を備える。
【0024】
変調率計算部13は、電圧指令生成部12で生成された電圧指令から変調率αを計算する。ここで、変調率αは1パルスモードでの出力可能電圧を1とした場合の電圧指令から算出される出力電圧の割合である。
【0025】
電圧位相・角周波数算出部14は、電圧指令生成部12で生成された電圧指令から電圧位相及び角周波数を算出する。
【0026】
PWM信号生成部15は、変調率計算部13で計算された変調率αと、電圧位相・角周波数算出部14で算出された電圧位相及び角周波数とからPWM信号を生成する。PWM信号生成部15は、PWM信号を電力変換器5へ出力する。
【0027】
図2はPWM信号生成部15の構成例の概略を示した図である。
【0028】
PWM信号生成部15は、キャリア生成部151と、変調波生成部152と、比較器153とを備える。
【0029】
キャリア生成部151は、変調率計算部13で計算された変調率αと、電圧位相・角周波数算出部で生成された角周波数とを用いて、出力電圧の1周期を構成するパルス数であるパルスモードを変更し、パルスモードに応じてキャリア周波数を変更し、キャリアを生成する。キャリア生成部151は、キャリアを比較器153へ出力する。
【0030】
変調波生成部152は、変調率計算部13で計算された変調率αと、電圧位相・角周波数算出部14で算出された電圧位相とを用いて、変調波割合算出テーブルを参照することで、変調波を算出する。変調波生成部152は、変調波を比較器153へ出力する。
【0031】
比較器153は、キャリア生成部151で生成されたキャリアと、変調波生成部152で生成された変調波とを比較し、比較結果に応じて、PWM信号を電力変換器5へ出力する。
【0032】
図3はキャリア生成部151の一例を示した図である。
【0033】
キャリア生成部151は、パルスモード選択器154と、キャリア生成器155とを備える。
【0034】
パルスモード選択器154は、変調率計算部13で計算された変調率αに応じて、高調波電流が最低となるパルスモードを選択する。具体的には、パルスモード選択器154は、変調率計算部13で計算された変調率αに応じて、9パルス又は7パルスのパルスモードの選択を行い、選択されたパルスモードを、キャリア生成器155へ出力する。さらに具体的には、パルスモード選択器154は、変調率αが上昇する間において、9パルスモードを選択した後に7パルスモードを選択する処理のみを一回実行し、変調率αが下降する間に7パルスモードを選択した後に9パルスモードを選択する処理のみを一回実行する。なお、パルスモード選択器154がパルスモードを選択する具体的な方法については追って詳細な説明を行う。
【0035】
キャリア生成器155は、パルスモード選択器154で選択されたパルスモードと、電圧位相・角周波数計算部14で計算された角周波数とから、キャリアとキャリアの波高値とを出力する。具体的には、キャリア生成器155は、パルスモードと角周波数とからキャリアを生成し、比較器153へ出力するとともに、キャリアの波高値を算出し、変調波生成部152へ出力する。
【0036】
図4は、変調波生成部152の一例を示した図である。変調波生成部152は、変調波割合算出テーブル156と、比較値算出器157とを備える。
【0037】
変調波割合算出テーブル156は、変調率αに対する、高調波電流が最低となるパルス幅を出力するための変調波の、キャリアの波高値に対する割合(図4の比較値)とを予め対応付けて記憶し、変調率計算部13によって計算された変調率を、キャリアの波高値に対する割合に変換する。具体的には、変調波割合算出テーブル156は、予め、変調率計算部13で計算される変調率αと、電圧位相・角周波数計算部14で算出される電圧位相とに対応付けて、キャリアの波高値に対する割合を記憶している。そして、変調波割合算出テーブル156は、変調率計算部13で計算される変調率αと、電圧位相・角周波数計算部14で算出される電圧位相とを用いて、変調波の波高値の、キャリアの波高値に対する割合を算出し、変調波算出器157へ出力する。
【0038】
変調波算出器157は、変調波割合算出テーブル156によって変換された、変調波の波高値の、キャリアの波高値に対する割合と、キャリア生成部151で生成されたキャリアの波高値から変調波を算出する。変調波算出器157は、変調波を比較器153へ出力する。
【0039】
次に、パルスモード選択器154と変調波割合算出テーブル156で用いるパルスモードの切り替え点と変調波の割合の算出方法について説明を行う。
【0040】
本実施形態の電力変換装置100が非同期制御から同期制御へ切り替えを行う際、同期制御では1周期において9つのパルスで制御を行う9パルスモードを用いることとする。そのため、本実施形態の電力変換装置100は、高調波電流を低減するために、9パルスモードと1パルスモードの間に多パルスを導入することで高調波電流の低減を行う。
【0041】
9パルスと1パルスの間に導入が可能なパルスとして、7パルス、5パルス、3パルスが考えられる。ここでは、0ベクトルが挿入されない3パルスモード(N3パルスモード)に対して、2箇所の0ベクトルを挿入することを考える。すなわち、7パルスモードの波形は、1パルスモードにおいて位相が30度から210度の間でON信号が出ている波形とするときに、30度の位相の前にON信号を発生させ、30度の位相の後ろにOFF信号を発生させ、120度の位相の前と後ろそれぞれにOFF信号を発生させ、位相が180度から360度までの波形は、位相が0度から180度までの波形において、ON信号とOFF信号とを入れ替えた波形である。なお、120度の位相の前と後ろそれぞれにOFF信号を発生させる位相は、位相120°を中心として位相の幅がθ071となる位相であり、以降の説明において、該OFF信号の位相の幅をθ072とする。また、以降において、このように生成された7パルスモードをNP7パルスモードとして説明を行う。
【0042】
図5は中性点における、NP7パルスモードでの相電圧波形の一例を示した図である。NP7パルスモードにおいて、図5に示すような、θ071及びθ072、並びに30度の位相の前に発生させるON信号の位相の幅であるθ070の3つの位相(パルス幅)を変化させることで、高調波電流が最低となるパルス幅の組み合わせを求める。なお、NP7パルスモードのθ072が0となったときの波形はN3パルスモードとなる。
【0043】
まず、図5のような相電圧波形から、変数となるパルス幅θ700、θ071、及びθ072を変化させることで、高調波電流の算出を行う。
【0044】
具体的には、図5に示す相電圧波形をU相の電圧波形vとし、U相の電圧波形vから120度遅らせた波形をV相の電圧波形v、U相の電圧波形vから240度遅らせた波形をW相の電圧波形vとして、式(1)を用いて3相合成波vを作成する。
【0045】
【数1】
【0046】
3相合成波vの電圧波形をFFT(Fast Fourier Transform)解析することで、各次の電圧の波高値が算出される。各次の電圧の波高値をそれぞれの次数で除した値の2乗和平方根を計算することで、高調波電流の大きさを算出する。このとき算出される高調波電流の大きさは、1パルスモードの高調波電流の大きさを1とした割合で算出される。このとき、変調率αの導出も行う。そして、上述したパルス幅θ700、θ071、及びθ072を変化させることで、算出された変調率αにおいて高調波電流が最低値となるパルス幅θ700、θ071、及びθ072が導出される。
【0047】
図6に示す実線は、本実施形態の電力変換装置100における、変調率αに応じた高調波電流値を示している。また、図6に示す破線は、従来技術(具体的には、特許文献1に記載された技術)における電力変換装置90がパルスモードを変更したときの高調波電流値の変化を示している。図6において、変調率αが0.7未満から0.7以上になったときに9パルスモードからNP7パルスモードに切り替えられている。そして、変調率αが0.87以上のときに、従来技術よりも高調波電流が大きくなり、0.98にて従来技術と同等の高調波電流となっている。
【0048】
本実施形態の電力変換装置100は、従来技術における電力変換装置90が9パルスモードからP7パルスモードへの切り替えよりも8%程度低い変調率αで、9パルスモードからNP7パルスモードに切り替えることで、従来の電力変換装置90よりも高調波電流を低減することが可能である。なお、電力変換装置100によって変換された交流電力を用いて駆動される電気車が加速する過程において、変調率αが0.87以上且つ0.98未満の、高調波電流が従来技術より高くなる時間は短い。このため、本実施形態では、加速過程における高調波電流が従来技術に比べて高くなる時間においても、電力変換装置100は、NP7パルスモードを用い続けることにより、切り替え制御の回数を少なくし、複雑な制御を実行することを回避することができる。
【0049】
また、上述したように、θ072を0にすることによって、NP7パルスモードはN3パルスモードとなる。そのため、本実施形態の電力変換装置100は、キャリアを変更せず、変調波のみを変更することでパルスモードを切り替えることが可能であり、複雑な制御を要さずに連続的に切り替えることが可能である。
【0050】
以上のことを踏まえると、本実施形態の電力変換装置100は、9パルスモードからNP7パルスモードに切り替え、その後、変調率αに応じて連続的に出力が変化し、0ベクトルがなくなったところで、N3パルスモードへ移行させるという容易な制御により、出力トルクの変動を回避又は低減しつつ、過変調状態となる領域の高調波電流を低減することができる。なお、図3に示すように、パルスモード選択器154には上記のように導出されたパルスモードの切り替え点(9パルスからNP7パルスモード、NP7パルスモードから9パルスモード)が設定されている。また、図4に示すように、図4の変調波割合算出テーブル156には、高調波電流が最低となったパルス幅を示す情報が設定されている。
【0051】
なお、上述した実施形態では、9パルスモードと1パルスモードとの間にNP7パルスモードを導入する例について、説明してきたが、シリコンカーバイド(SiC)などのワイドバンドギャップ持つ半導体素子を用いて、スイッチング損失を減らすことで、電力変換装置100は、9パルスに限定されることなく、(9+6(k-1))パルスモード(kは1以上の整数)(例えば、15パルスモード、21パルスモード)からNP7パルスモードに切り替えることで、変調率αが0.7より低い領域で高調波電流を低減することも可能である。
【0052】
以上のように、同期制御モードに移行後、過変調状態となる領域においてパルスモードを導入することで、高調波電流を低減することが可能となる。高調波電流が減ることで、交流モータで発生する損失を低減することが可能である。
【0053】
本発明を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、電力変換装置によって変換された交流電力によって駆動する電気車に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 交流モータ
2 直流電源
3 リアクトル
4 コンデンサ
5 電力変換器
6 電流検出器
11 電流指令生成部
12 電圧指令生成部
13 変調率計算部
14 電圧位相・角周波数算出部
15 PWM信号生成部
100 電力変換装置
151 キャリア生成部
152 変調波生成部
153 比較器
154 パルスモード選択器
155 キャリア生成器
156 変調波割合算出テーブル
157 変調波算出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8