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特開2023-1248345’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用
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  • 特開-5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124834
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7076 20060101AFI20230830BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230830BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A61K31/7076
A23L33/10
A61P3/04
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024474
(22)【出願日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】202210183725.3
(32)【優先日】2022-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523060699
【氏名又は名称】浙江中医薬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曹 崗
(72)【発明者】
【氏名】呂 強
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018LE06
4B018MD08
4B018MD18
4B018ME03
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF05
4B018MF06
4B018MF13
4B018MF14
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA18
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA70
(57)【要約】
【課題】5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用を提供する。
【解決手段】本発明は、5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用を開示し、動物実験により、5’-メチルチオアデノシンが肥満に対して有意な抑制効果を有し、肥満抑制薬物または健康食品の調製において良好な応用の見通しを有することを実証している。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’-メチルチオアデノシンを利用して、肥満抑制薬物または健康食品を調製する方法。
【請求項2】
5’-メチルチオアデノシンを有効成分とする肥満抑制薬物または健康食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用に関し、医薬技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、体脂肪の異常または過剰な蓄積として現れる慢性代謝性疾患であり、多くの他の疾患の誘発要因でもあり、II型糖尿病、高血圧、癌などの疾患の発生確率を高める。経済の急速な発展と人々のライフスタイルの変化に伴い、世界人口の肥満症の発症率が著しく増加し、ますます深刻な世界的な健康問題になっている。世界保健機関(WHO)の統計によると、2019年には、世界中で約23億人の成人と子供の体重が基準(BMI≧25kg/m2)を超えている(非特許文献1)。現在、その発症および進行の分子機構および介入標的が不明であり、肥満症の治療に対して効果的な治療手段が不足しており、食欲抑制類薬物であるフェンテルミン、ブプロピオン、プラムリンチドなど、栄養素吸収介入類薬物であるオルリスタット、セチリスタットなど、さらに栄養素代謝促進類薬物であるBeloranibなどの(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)、様々な標的に作用する複数種の薬物は肥満の治療に使用されているが、これらの薬物は高血圧、気分障害、心筋症などの副作用を誘発し、薬物を停止すると体重のリバウンドが発生しやすく(非特許文献5)、現在、依然として肥満症の患者のニーズを満たすことができない。したがって、安全で効果的な肥満の予防治療手段および新薬の探索は、既に世界的に注目される焦点課題になっている。
【0003】
5’-メチルチオアデノシン(MTA)は、生物界に広く分布している内因性のメチオニン(methionine,Met)代謝産物であり、哺乳動物細胞、原核生物、真菌、植物細胞はすべて、様々な代謝経路を介して少量のMTAを産生でき、その生物学的機能は、主に細胞の増殖、分化、アポトーシスなどのプロセスに関与している。現在、MTAは、免疫調節、癌制御および神経保護において、次のような潜在的な薬学的価値を有することが発見されている。
【0004】
1)5’-メチルチオアデノシンは、脳の自己免疫疾患の治療において、炎症促進性遺伝子およびサイトカインの産生を抑制する一方で、抗炎症性サイトカインの産生を増加させることができ、また、多発性硬化症および他のいくつかの自己免疫疾患に対して緩和効果を有する(非特許文献6、非特許文献7)。したがって、特許文献1(Bioresearch S.r.I.)には、MTAの抗炎症、解熱および陣痛の薬学的価値を開示しており、特許文献2には、多発性硬化症および移植拒絶などの免疫疾患の予防および治療におけるMTAの使用を開示している。
【0005】
2)特許文献3には、癌の治療におけるMTAP酵素を抑制する化合物の使用を開示している。化学的に誘導された肝臓癌モデルでは、5’-メチルチオアデノシンのレベルの低下が観察され、外因性の5’-メチルチオアデノシンによる治療は、肝臓の前腫瘍病変およびDNAの合成を抑制することが発見された。
【0006】
3)5’-メチルチオアデノシンは、ニューロン破壊による星状細胞の反応性の増加を部分的に抑制できる(非特許文献8、非特許文献9)。特許文献4には、MTAが酸素またはブドウ糖を欠く環境下での大脳皮質の星状細胞およびニューロンなどを保護するための神経保護特性を開示している。
【0007】
現在、5’-メチルチオアデノシンを肥満抑制薬物または健康食品の調製に使用する関連報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許4,454,122
【特許文献2】国際特許WO2006097547
【特許文献3】国際特許WO2004/074325
【特許文献4】中国特許出願公開第102573854号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sung et al.CA:a cancer journal for clinicians,2019,69(2):88-112
【非特許文献2】Kheniser et al.The Journal of Clinical Endocrinology&Metabolism,2021
【非特許文献3】Idris et al.Diabetes,Obesity and Metabolism,2009,11(2):79-88
【非特許文献4】Velazquezet al.Annals of the New York Academy of Sciences,2018,1411(1):106-119
【非特許文献5】D’Antongiovanni et al.Frontiers in Pharmacology,2021,11:2415
【非特許文献6】Moreno et al.Diss.Abstr.Int.,C 2007,68(1),111
【非特許文献7】Ann Neurol 2006;60:323-334
【非特許文献8】中国神経科学雑誌 1999,15(4),289-296
【非特許文献9】医科大学学報 1999,26(5),318-320
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の欠点を克服するために、5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は下記の技術的解決手段を提供する。
【0012】
1、5’-メチルチオアデノシンの肥満抑制薬物または健康食品の調製における使用。
【0013】
そのうち、5’-メチルチオアデノシンの化学構造式は、

である。
【0014】
好ましくは、肥満は、HepG2細胞の脂肪蓄積または高脂肪食によって誘導された肥満である。
【0015】
2、5’-メチルチオアデノシンを有効成分とする肥満抑制薬物または健康食品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有益な効果:
出願人は、腸内細菌代謝産物による肥満の抑制を研究する過程で、5’-メチルチオアデノシンがマウスの高脂肪飼料誘導性肥満を有意に抑制し、肝臓脂肪の合成および皮下脂肪と内臓脂肪の増加を抑制できるとともに、マウスの経口ブドウ糖負荷およびインスリン感受性を改善できることを予想外に発見した。
動物実験により、5’-メチルチオアデノシンは、肥満に対して有意な抑制効果を有し、肥満抑制薬物または健康食品の調製において良好な応用の見通しを有することを実証している。本発明は、5’-メチルチオアデノシンとアデノシンを比較し、実験結果は、5’-メチルチオアデノシンが肥満抑制により効果的であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】MTAの微生物合成経路および同位体合成産物である。ここで、aは、Bifidobacteriumlongumがメチオニンを利用してMTAを合成する経路である。bは、メチオニン13C標識である。cは、ビフィドバクテリウム・ロンガムが同位体標識されたメチオニンを利用して産物MTAを合成する質量スペクトル情報であり、合成されたMTA量はメチオニン濃度に比例する。dは、液体クロマトグラムである。eは、cの部分拡大図である。fは、dの部分拡大図である。
図2】C57/BLマウスの高脂肪食誘導性肥満の抑制に対する5’-メチルチオアデノシンおよびアデノシンの効果である。ここで、Aは、犠牲時のマウスの体重である。Bは、マウスの肝臓の重量である。Cは、マウスの皮下脂肪の重量である。Dは、マウスの内臓脂肪の重量である。
図3】5’-メチルチオアデノシンがHepG2肝臓癌細胞の脂肪合成を抑制することである。
図4】C57/BLマウスの高脂肪食誘導性肥満の抑制に対する5’-メチルチオアデノシンの効果である。ここで、Aは、実験設計である。Bは、体重増加曲線である。Cは、体重増加量である。Dは、肝臓の重量である。Eは、肝臓組織のH&E染色である。Fは、皮下脂肪の重量である。Gは、内臓脂肪の重量である。Hは、経口ブドウ糖負荷である。Iは、膵島抵抗である。
図5】C57/BLマウスの高脂肪食誘導性肥満の抑制に対するMTAの効果である。ここで、Aは、体重増加曲線である。Bは、体重増加量である。Cは、肝臓の重量である。Dは、皮下脂肪の重量である。Eは、精巣周囲脂肪の重量である。Fは、腎周囲脂肪の重量である。Gは、経口ブドウ糖負荷である。Hは、経口ブドウ糖負荷曲線下面積である。Iは、膵島抵抗である。Jは、膵島抵抗曲線下面積である。
【0018】
すべての図では、Chowは低脂肪飼料群であり、HFDは高脂肪飼料群であり、MTAは5’-メチルチオアデノシン薬物治療群であり、Adenosineはアデノシン薬物治療群である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに説明し、なお、以下の説明は本発明を解釈するためのものに過ぎず、その内容を限定するものではない。
【0020】
MTAの合成(図1):
【0021】
人体腸内細菌(Bifidobacterium longum)発酵の方法を用いて、5’-メチルチオアデノシン(MTA)を生産し、Bifidobacterium longumを嫌気性発酵タンクに接種し、一定濃度のメチオニンを添加したGMM培地を用いて、24時間培養したGMM培地を凍結乾燥した後に体積濃度70%のエタノール水溶液で抽出し、上澄み液を濃縮した後に12000r/minで高速遠心分離し、分取液体クロマトグラフィーシステムを用いて分離精製して、純度>98%の5’-メチルチオアデノシンモノマーを得た。
【0022】
微生物合成経路および同位体合成産物を図1に示す。
【0023】
1、MTAとアデノシンの比較
【0024】
実験動物:8週齢のC57BL/6マウス
【0025】
飼料および薬物:低脂肪飼料(10%kcal as fat,product#D12450J,Research Diets)、高脂肪飼料群(60%kcal as fat,product#D12492,Research Diets)、MTA(5’-メチルチオアデノシン)、Adenosine(アデノシン)。
【0026】
肥満抑制におけるMTAとアデノシンの違いの比較:経管栄養量100mg/kg/dの濃度では、アデノシンはマウスの体重および肝臓の増加ならびに脂肪の蓄積をある程度抑制することが示されたが、MTAの肥満抑制効果はアデノシンよりも有意に優れていた(図2)。
【0027】
2、5’-メチルチオアデノシンによるHepG2肝臓癌細胞の脂肪合成の抑制
【0028】
尿酸(120μg/mL)を利用して、HepG2肝臓癌細胞が脂肪を合成するように誘導し、24時間後、2群に分けて試験を行い、モデル群は尿酸(120μg/mL)を利用して細胞を24時間誘導し続け、投与群は尿酸(120μg/mL)+5’-メチルチオアデノシン(0.05、0.1、0.5、1.0、5.0μg/mL)で細胞を24時間処理した後、オイルレッド染色法を利用して、細胞が合成した脂肪量を検出したところ、5’-メチルチオアデノシンはHepG2細胞の尿酸誘導性脂肪合成を濃度勾配効果で有意に抑制できることを発見した(図3)。
【0029】
3、5’-メチルチオアデノシンによる高脂肪食誘導性肥満の抑制
【0030】
8週齢のC57BL/6マウスを3群(対照群、モデル群、薬物治療群)(図4、A)に分け、対照群に低脂肪飼料を与え、モデル群に高脂肪飼料を与え、自由に摂食させた。薬物治療群に高脂肪飼料+5’-メチルチオアデノシン(100mg/kg/d)の用量で胃内注入し、9週間飼育し、その間にマウスの体重を記録し、その経口ブドウ糖負荷(OGTT)およびインスリン感受性(ITT)を検出したところ、5’-メチルチオアデノシンは高脂肪食誘導性肥満を有意に抑制でき(図4、B)、同時にマウスの経口ブドウ糖負荷およびインスリン感受性を改善できる(図4、H、I)ことを発見した。犠牲させた後、その肝臓、皮下脂肪および内臓脂肪を秤量したところ、5’-メチルチオアデノシンは肝臓脂肪の合成および皮下脂肪と内臓脂肪の増加を抑制できることを発見した(図4、C~G)。
【0031】
8週齢のC57BL/6マウスを3群(対照群、モデル群、薬物治療群)に分け、対照群に低脂肪飼料を与え、モデル群に高脂肪飼料を与え、薬物治療群に高脂肪飼料+5’-メチルチオアデノシン(50mg/kg/d、100mg/kg/d)の用量で胃内注入し、11週間飼育し、その間にマウスの体重を記録し、その経口ブドウ糖負荷(OGTT)およびインスリン感受性(ITT)を検出した。5’-メチルチオアデノシンは、高脂肪食誘導性肥満を濃度勾配効果で有意に抑制できることを発見した(図5、A、B)。同時にマウスの経口ブドウ糖負荷およびインスリン感受性を改善できた(図5,G~J)。犠牲させた後、その肝臓、皮下脂肪、腎周囲脂肪、精巣周囲脂肪を秤量したところ、5’-メチルチオアデノシンは肝臓脂肪の合成および皮下脂肪と内臓脂肪の増加を濃度勾配効果で抑制できることを発見した(図5、C~F)。
【0032】
上記は本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明の保護範囲を限定するものではなく、本発明の技術的解決手段に基づき、当業者が創造的な労働を要することなく行うことができる様々な修正または変形は、本発明の保護範囲内に属する。
図1
図2
図3
図4
図5