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特開2023-124898galectin-7に結合する核酸アプタマー及び該核酸アプタマーを含むgalectin-7を発現する組織検出用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124898
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】galectin-7に結合する核酸アプタマー及び該核酸アプタマーを含むgalectin-7を発現する組織検出用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/115 20100101AFI20230831BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028756
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】茂木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】羽藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】劉 爽
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】高木 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康之
(72)【発明者】
【氏名】竹政 絵理香
(57)【要約】
【課題】真珠腫(特に、遺残性真珠腫)を目視で確認できるgalectin-7を認識する核酸アプタマーを提供することを課題とする。
【課題手段】Cell-SELEX法を用いた核酸アプタマー選抜により、galectin-7を認識する核酸アプタマーを取得した。さらに、該核酸アプタマーが真珠腫組織を特異的に認識することを確認して、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれか1の塩基配列を有することを特徴とする、galectin-7(ガレクチン-7)に結合する核酸アプタマー。
1)X―配列番号15(GTE1-M4)―Y、ここで、Xは、数1~50の任意の塩基配列であり、かつ、Yは数1~50の任意の塩基配列である。
2)配列番号1(GTE1)
3)配列番号2(GTE2)
4)配列番号3(GTE3)
5)配列番号4(GTE4)
6)配列番号5(GTE5)
7)配列番号6(GTE6)
8)配列番号7(GTE7)
9)配列番号8(GTE8)
10)配列番号9(GTE9)
11)配列番号10(GTE10)
12)配列番号11(GTE11)
13)配列番号12(GTE1-M1)
14)配列番号13(GTE1-M2)
15)配列番号14(GTE1-M3)
16)配列番号15(GTE1-M4)
17)X―配列番号20(GTE2-M5)―Y、ここで、Xは、塩基数1~50の任意の塩基配列であり、かつ、Yは塩基数1~50の任意の塩基配列である。
18)配列番号16(GTE2-M1)
19)配列番号17(GTE2-M2)
20)配列番号18(GTE2-M3)
21)配列番号19(GTE2-M4)
22)配列番号20(GTE2-M5)
【請求項2】
前記核酸アプタマーは、以下のいずれか1の塩基配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の核酸アプタマー。
1)配列番号1(GTE1)
2)配列番号2(GTE2)
3)配列番号3(GTE3)
4)配列番号4(GTE4)
5)配列番号5(GTE5)
6)配列番号6(GTE6)
7)配列番号7(GTE7)
8)配列番号8(GTE8)
9)配列番号9(GTE9)
10)配列番号10(GTE10)
11)配列番号11(GTE11)
12)配列番号12(GTE1-M1)
13)配列番号13(GTE1-M2)
14)配列番号14(GTE1-M3)
【請求項3】
前記核酸アプタマーは、以下のいずれか1の塩基配列を有することを特徴とする、請求項1に記載の核酸アプタマー。
1)配列番号1(GTE1)
2)配列番号12(GTE1-M1)
3)配列番号13(GTE1-M2)
4)配列番号14(GTE1-M3)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1に記載の核酸アプタマーを含む、galectin-7を発現する組織検出用組成物。
【請求項5】
前記組織が真珠腫である、請求項4に記載の検出用組成物。
【請求項6】
前記組織が中耳真珠腫である、請求項4に記載の検出用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、galectin-7に結合する核酸アプタマー及び該核酸アプタマーを含むgalectin-7を発現する組織検出用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
(真珠腫)
中耳真珠腫は、慢性中耳炎の一種であり、鼓膜の一部が内側に窪み、真珠のような塊となる。真珠腫が大きくなるにつれて、中耳内を占拠して神経を圧迫し、難聴、目まい、顔面神経麻痺などの発症につながることがある。治療方法は、主に真珠腫の切除手術である。
【0003】
(真珠腫の切除手術の問題)
真珠腫は、術後の再発率が高く、病型によって、20~50%の再発率することが報告されている。再発の原因は、初回手術時の遺残である。遺残の原因は、解剖学的複雑性であり、手術者が明視で確認できない部位がある。
【0004】
(先行特許)
特許文献1は、「galectin-7を認識する、癌組織が不均一な癌細胞集団を含むか否かの判定用遺伝子マーカー」を開示している。
しかし、これらの文献は、本発明のgalectin-7に結合する核酸アプタマーを開示又は示唆をしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2017/002943
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Otol Neurotol. 2012Apr;33(3):396-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、以前、真珠腫組織における特異的マーカーであるgalectin-7(ガレクチン-7)を同定している(非特許文献1)。また、galectin-7染色による真珠腫の迅速同定を検討したが、抗体・染色液中の添加物による安全性の問題があったことを確認している。
そこで、本発明では、真珠腫(特に、遺残性真珠腫)を確認できるgalectin-7を認識する核酸アプタマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Cell-SELEX法を用いた核酸アプタマー選抜により、galectin-7を認識する核酸アプタマーを取得した。さらに、該核酸アプタマーが真珠腫組織を特異的に認識することを確認して、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
1.以下のいずれか1の塩基配列を有することを特徴とする、galectin-7(ガレクチン-7)に結合する核酸アプタマー。
1)X―配列番号15(GTE1-M4)―Y、ここで、Xは、数1~50の任意の塩基配列であり、かつ、Yは数1~50の任意の塩基配列である。
2)配列番号1(GTE1)
3)配列番号2(GTE2)
4)配列番号3(GTE3)
5)配列番号4(GTE4)
6)配列番号5(GTE5)
7)配列番号6(GTE6)
8)配列番号7(GTE7)
9)配列番号8(GTE8)
10)配列番号9(GTE9)
11)配列番号10(GTE10)
12)配列番号11(GTE11)
13)配列番号12(GTE1-M1)
14)配列番号13(GTE1-M2)
15)配列番号14(GTE1-M3)
16)配列番号15(GTE1-M4)
17)X―配列番号20(GTE2-M5)―Y、ここで、Xは、塩基数1~50の任意の塩基配列であり、かつ、Yは塩基数1~50の任意の塩基配列である。
18)配列番号16(GTE2-M1)
19)配列番号17(GTE2-M2)
20)配列番号18(GTE2-M3)
21)配列番号19(GTE2-M4)
22)配列番号20(GTE2-M5)
2.前記核酸アプタマーは、以下のいずれか1の塩基配列を有することを特徴とする、前項1に記載の核酸アプタマー。
1)配列番号1(GTE1)
2)配列番号2(GTE2)
3)配列番号3(GTE3)
4)配列番号4(GTE4)
5)配列番号5(GTE5)
6)配列番号6(GTE6)
7)配列番号7(GTE7)
8)配列番号8(GTE8)
9)配列番号9(GTE9)
10)配列番号10(GTE10)
11)配列番号11(GTE11)
12)配列番号12(GTE1-M1)
13)配列番号13(GTE1-M2)
14)配列番号14(GTE1-M3)
3.前記核酸アプタマーは、以下のいずれか1の塩基配列を有することを特徴とする、前項1に記載の核酸アプタマー。
1)配列番号1(GTE1)
2)配列番号12(GTE1-M1)
3)配列番号13(GTE1-M2)
4)配列番号14(GTE1-M3)
4.前項1~3のいずれか1に記載の核酸アプタマーを含む、galectin-7を発現する組織検出用組成物。
5.前記組織が真珠腫である、前項4に記載の検出用組成物。
6.前記組織が中耳真珠腫である、前項4に記載の検出用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、真珠腫組織を特異的に認識する核酸アプタマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Cell-SELEX法を用いた核酸アプタマー選抜方法の概要図。
図2】(1)フローサイトメトリー法による結合検出。上から、GTE1、GTE2、GTE11、Anti-Galectin-7 Ab及びNegative controlを示す。(2)濃度-反応曲線によるEC50の決定。
図3】選抜した核酸アプタマーのガレクチン-7結合特異性の確認。
図4】最適化した核酸アプタマーのガレクチン-7結合能力の確認。
図5】ガレクチン-7結合能力を有する核酸アプタマーを使用して患者由来真珠腫組織の検出。
図6】ガレクチン-7結合能力を有する核酸アプタマーを使用して患者由来真珠腫組織のin vivoでの検出。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の対象)
本発明は、galectin-7に結合する核酸アプタマー及び該核酸アプタマーを含むgalectin-7を発現する組織(特に、疾患部)検出用組成物に関する。
【0013】
(本発明のgalectin-7に結合する核酸アプタマー)
以下の本実施例により、本発明の核酸アプタマーはgalectin-7を発現する組織を検出することができる。
なお、galectin-7を発現する組織(特に、疾患部)は、真珠腫、中耳真珠、扁平上皮癌、メラノーマ、子宮頸がん等を例示することができるが、特に、真珠腫、中耳真珠腫が好ましい。
1)X―配列番号15(GTE1-M4)―Y、ここで、Xは、数(整数)1~50の任意の塩基配列(アデニン,チミン,グアニン,シトシン,ウラニン)であり、かつ、Yは数(整数)1~50の任意の塩基配列である。なお、XとYの任意の塩基配列の数の範囲は1~45、10~20、15~30、20~40、30~50等を例示することができる。
2)配列番号1(GTE1)
3)配列番号2(GTE2)
4)配列番号3(GTE3)
5)配列番号4(GTE4)
6)配列番号5(GTE5)
7)配列番号6(GTE6)
8)配列番号7(GTE7)
9)配列番号8(GTE8)
10)配列番号9(GTE9)
11)配列番号10(GTE10)
12)配列番号11(GTE11)
13)配列番号12(GTE1-M1)
14)配列番号13(GTE1-M2)
15)配列番号14(GTE1-M3)
16)配列番号15(GTE1-M4)
17)X―配列番号20(GTE2-M5)―Y、ここで、Xは、塩基数1~50の任意の塩基配列であり、かつ、Yは塩基数1~50の任意の塩基配列である。
18)配列番号16(GTE2-M1)
19)配列番号17(GTE2-M2)
20)配列番号18(GTE2-M3)
21)配列番号19(GTE2-M4)
22)配列番号20(GTE2-M5)
【0014】
(本発明のgalectin-7に結合する核酸アプタマーを含む組織検出用組成物)
本発明のgalectin-7に結合する核酸アプタマーを含む組織(特に、疾患部)検出用組成物は、上記galectin-7に結合する核酸アプタマーを含むが、該核酸アプタマーの標識物質(特に、蛍光標識物質)を含むことが好ましい
標識物質(特に、蛍光標識物質)として、公知の蛍光色素分子、酵素、ビオチン、ナノ粒子、磁気ビーズ、アガロース、金コロイド等を例示することができる。
また、該検出用組成物は、薬理学的または生理学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤、保存剤等を含んで良い。例えば、以下を例示することができる。
スクロース、キシリトール、ラクトース、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル
【0015】
本発明の疾患部検出用組成物は、真珠腫又は中耳真珠腫用診断用組成物又は診断キットとすることができる。
【0016】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の実施例は、愛媛大学医学部倫理委員会の承認(1409004)を受けており、研究プロトコルの実施については、ヘルシンキ宣言に基づき全患者のインフォームドコンセントにて同意を取得した。
【実施例0017】
(材料及び方法)
〇患者
中耳真珠腫患者から真珠腫と周辺粘膜組織を採取した。新鮮な標本を4℃で保存後、速やかに異種移植実験に用いた。凍結用標本を、免疫組織化学的分析等で使用するため、OCTコンパウンドで標本を包埋し、-80℃で凍結した。
【0018】
〇異種移植片-真珠腫性中耳炎モデルの樹立
動物実験プロトコルは、愛媛大学動物実験委員会の承認を得ており(05K12616)、愛媛大学動物愛護委員会のガイドラインに従って実施された。真珠腫性中耳炎の摘出片をオスのNOD/ShiJic-scidマウス(NOD/SCID)(CLEA Japan, Tokyo, Japan)に移植した。マウスは、空気中で気化させた1%イソフルランを用いて麻酔を受け、皮下組織を露出された後、外腹筋をメスで血が出るまで掻き出された。次に、切り取った真珠腫性中耳炎組織(直径5~8 mm)をマウスの第4~6腰椎の高さの筋肉上に移植した。最後に、マウスは、皮膚切開部を縫合され、回復した。
【0019】
〇異種移植真珠腫モデルにおける蛍光イメージングを用いた真珠腫の同定
移植後8週間経過した異種移植マウスを、真珠腫の可視化に使用した。該マウスは、深い麻酔を受け、皮下組織を露出した状態で固定され、顕微鏡のステージに載せられた。0.1 mg/ml 酵母由来 RNAと0.1 mg/mlサケ精子DNAを含むブロッキング溶液を、露出した真珠腫膜に10分間塗布し、生理食塩水で3回洗浄した。アプタマー溶液(1 μM)を5分、10分又は15分の時点で真珠腫組織に塗布し、次に、生理食塩水を用いて3回洗浄した。移植部位の画像を、Zeiss蛍光顕微鏡で取得した。
【0020】
〇細胞培養
ヒト胚性腎臓細胞株HEK-293T細胞、ヒト包皮から調製したヒト角化細胞株でありかつpSV40-ori-(minus)DNAを剪断したPSVK1 細胞をJCRB細胞バンクから入手した。HEK-293T細胞を、10% ウシ胎児血清含むダルベッコ最小必須培地にて培養した。PSVK1 細胞を、KGMTM Gold Keratinocyte Growth Medium BulletKit TM (LonzaGroup Ltd. Basel, Switzerland) を用いて増殖させた。すべての細胞を、5% CO2で湿度の高い培養器中にて、37℃で培養した。継代3-26代の細胞を本実施例で使用した。
発現プラスミドpCMV6-AC-GFP-galeectin-7(NM-001042507) (Origene, Rockville, MD, USA) をLipofectamine3000 (Invitrogen)を使用して HEK-293T細胞に移植し、Galectin-7過剰発現の安定細胞株を確立させた。GFP陽性細胞は、BD FACSAriaセルソーター(BD Biosciences, Franklin Lakes,NJ, USA)を用いて、2週間ごとに定期的に選択を行った。
【0021】
〇Cell-SELEX法を用いた選抜
ランダム配列ライブラリ(3'-ATGACCATGACCCTCCACAC(40N)TCAGACTGTGGCAGGGAAAC-5')を293T細胞に37℃、1時間、negative selectionとして適用した。上清を回収し、positive selectionとして、ガレクチン-7を発現した293T細胞と37℃で1時間インキュベートした。選択後、細胞を採取し、95℃で10分間インキュベートした後、直ちに氷上で10分間冷却した。ssDNAを抽出し、PCRにより増幅した(フォワードプライマー:3'-ATGACCATGACCCTCCAC-5'、リバースプライマー:3'-GTTTCCCTGCCACAGTCTGA-Biotin-5)。 PCR産物の全量を4%アガロースゲルで分離し、80bp周辺のバンドを切り出した。NuceloSpin Gel and PCR Clean-up kit (TaKaRa Bio. Tokyo, Japan) の説明書通りに、切り出したゲルからDNAを抽出した。精製したDNA産物を高容量ストレプトアビジンビーズ (Thermo Fisher, Waltham, MA, USA) に付着させ、0.1M NaOHを用いて室温で5分間溶出させた。最後に、ss-DNAをエタノール沈殿で濃縮し、次の選択に使用した。positive selectionの条件は、インキュベーション温度と反応時間を徐々に減少させ、条件を厳しいものとした。 28回の選抜を経て濃縮されたアプタマープールは、TOPO TA Cloning Kit(Thermo Fisher) の説明書通りに、シークエンスベクターにクローニングした。これらのアプタマー候補は、以下の結合スクリーニングに使用した。
【0022】
〇フローサイトメトリー
Alexa-Fluor 594タグ付きアプタマー候補をカスタマイズして合成し、フローサイトメトリー法を用いて、アプタマーの結合能と特異性をスクリーニングした。Galectin-7を発現させた293T細胞、293T細胞又はPSVK1細胞(3x105)をブロッキングし、アプタマー候補と指定の濃度で4℃、1時間インキュベートした。洗浄後、細胞を結合バッファーに再懸濁し、BD FACSCaliburTM Flow Cytometer (BD Biosciences) を用いて蛍光シグナルを分析した。
【0023】
〇In silicoでのアプタマーガレクチン-7の結合
選抜したアプタマーの二次元構造予測は、mfold(http://www.unafold.org/mfold/applications/dna-folding-form.php) を用いて行った。デフォルトの設定は、DNAは線形構造で、予測条件は37℃、ナトリウム濃度0.15 Mである。また、予測に用いるパラメータは生理的細胞外液の条件を想定している。その他については初期設定のままであった。得られた結果のうち、分子エネルギーが最も安定であると予測されたものを選択した。Vienna formatのファイルをダウンロードし、テキストエディタでRNA形式に編集した。例えば、チロシンの「T」であれば、ウラシルの「U」に置き換えて保存した。この情報をRNAComposer (http://rnacomposer.cs.put.poznan.pl/) に入力すると、アプタマーの一次予測立体構造をPDB formatで取得することができた。得られたPDB formatはPyMol (Ver.2.3.0, Open Source, https://pymol.org/2/)で表示した。核酸変異の編集ウィザードを用いて、ウラシル、チロシンに変換した。UCSF Chimera (Ver.1.15, https://www.cgl.ucsf.edu/chimera/)でファイルを開き、水素と電荷を追加した。編集後、PDB file形式で保存し、UCSF Chimeraで水素と電荷を追加して保存した。作成したファイルを再度PyMolで開き、アドインの「Optimize」を使って、エネルギー的に最も安定な構造予測を得た。
次に、RCSB protein data bankからガレクチン-7の結晶化構造のPDB file(https://www.rcsb.org/structure/1BKZ)を入手した。入手したファイルにUCSF Chimeraを用いて、水素と電荷を追加した。PyMolアドインを用いたエネルギー的な最小化及びアプタマーの調製を行った。用意したアプタマーとガレクチンの構造データを用いて、HPCであるSHIROKANE(https://gc.hgc.jp/lead/,The University of Tokyo)上でHdocklite(Yan et al. 2017)を用いたin silico結合実験を実施した。
【0024】
〇統計解析
すべての実施例は、完全無作為化多因子フォーマットで設計された。結果は平均値±S.E.M.で表した。一対一の比較は両側スチューデントのt検定を用いて行った。ハイスループット蛍光スクリーニングの結果の比較には、二要因分散分析に続いてシェフェF検定を使用した。P値<0.05を有意とした。
【実施例0025】
(ガレクチン-7結合能力を有するアプタマーの選抜)
本実施例では、Cell-SELEX法を用いて、ガレクチン-7結合能力を有する核酸アプタマーを選抜した(参照:図1)。
以下のガレクチン-7結合能力を有する核酸アプタマーを取得した。
〇GTE1(配列番号1)
ATGACCATGACCCTCCACACCAGTCTCTCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGTTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE2(配列番号2)
ATGACCATGACCCTCCACACGTCCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE3(配列番号3)
ATGACCATGACCCTCCACACTTGACTAGCAATCTTGACTTGACTACATGGGAGTGAGACATCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE4(配列番号4)
ATGACCATGACCCTCCACACACAGTCCGCAGTTACGAAGAGGTATAGTTACAAGTACATGTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE 5(配列番号5)
ATGACCATGACCCTCCACACATCGTGCAGAGTACCGGCTTAGATCTTGAAACGGGTGACATCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE 6(配列番号6)
ATGACCATGACCCTCCACACGTCAGGAGGCCTATGCGAGGAGTTAAGTCGATGGAATCAATCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE7(配列番号7)
ATGACCATGACCCTCCACACCCCTATTCGATGTTATTAGGGAGCTCCGCATGGGCTCGGGTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE8(配列番号8)
ATGACCATGACCCTCCACACCGCTAATATCTCATCGGAGTGGGTCCCCTGCGGGCGAACCTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE9(配列番号9)
ATGACCATGACCCTCCACACCTACGTTACAGGGGAGATGTGCTCCGACATTTGAGAAAGCTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE10(配列番号10)
ATGACCATGACCCTCCACACTCCTGGAAGCTTCGCACGCTCGTATGCAGGCAGAATCGATTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE11(配列番号11)
ATGACCATGACCCTCCACACGAAAGCACGGTCTTGTGGTAACTCGCGTCTAAATCAAGATTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
【実施例0026】
(選抜したガレクチン-7結合能力を有するアプタマーの結合能力の確認)
本実施例では、実施例2で取得したGTE1、GTE2、GTE3及びGTE11のガレクチン-7結合能力をフローサイトメトリー法で検出し、さらに、濃度-反応曲線によるEC50を決定した。
図2(1)から明らかなように、GTE1及びGTE2はガレクチン-7結合能力を有することを確認した。
図2(2)から明らかなように、GTE1、GTE2及びGTE3はガレクチン-7結合能力を有することを確認した。
【実施例0027】
(選抜したガレクチン-7結合能力を有する核酸アプタマーの特異性の確認)
本実施例では、実施例2で取得したGTE1及びGTE2のガレクチン-7結合特異性を細胞結合実験により確認した。
図3の結果に記載の通りに、GTE1及びGTE2はガレクチン-7結合特異性が高いことを確認した。より詳しくは、GTE1は、GTE2と比較して、結合能は高いが、特異性は低かった。
【実施例0028】
(ガレクチン-7結合能力を有するアプタマーの最適化)
本実施例では、実施例で取得したGTE1及びGTE2のin silico結合実験によるアプタマーの最適化を実施した。
最適化したガレクチン-7結合能力を有するアプタマーは、以下の通りである(なお、共通の塩基配列は下線を付与している)。
【0029】
〇GTE1
ATGACCATGACCCTCCACACCAGTCTCTCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGTTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE1-M1(配列番号12)
CCCTCCACACCAGTCTCTCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGTTCAGACTGTGGCAGGG
〇GTE1-M2(配列番号13)
CCCTCCACACCAGTCTCTCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGTTCAGACTGTGGCAGGG
〇GTE1-M3(配列番号14)
AGTCTCTCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGTTCAGACT
〇GTE1-M4(配列番号15)
TCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGT
【0030】
〇GTE2
ATGACCATGACCCTCCACACGTCCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTGTGGCAGGGAAAC
〇GTE2-M1(配列番号16)
ATGACCATGACCCTCCACACGTCCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTGTGGCAGGG
〇GTE2-M2(配列番号17)
ATGACCATGACCCTCCACACGTCCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTGTGGCAGGG
〇GTE2-M3(配列番号18)
CCCTCCACACGTCCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTGTGGCAGGG
〇GTE2-M4(配列番号19)
CCACACGTCCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTGTGG
〇GTE2-M5(配列番号20)
CCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTG
【実施例0031】
(最適化したガレクチン-7結合能力を有する核酸アプタマーの結合能力の確認)
本実施例では、実施例5で取得したGTE1及びGTE1-M1~M3のガレクチン-7結合能力を確認した。
図4の結果に記載の通りに、共通配列「TCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGT」(配列番号15)を有するGTE1及びGTE1-M1~M2はガレクチン-7結合能力を有することを確認した。特に、GTE1-M1及びGTE1-M3の結合能力は、GTE1の結合能力と比較して、高いことを確認した。すなわち、GTE1の最適化に成功していることを確認した。
これにより、共通配列「TCCTGACGGAAGCAGCAGATTAGCACCCCGGGT」(配列番号15)を有するGTE1及びGTE1-M1~M3はガレクチン-7結合能力を有する。
同様に、共通配列「CCAGTCCCACCAACACCCATTAGCCTATGCGCTGATACTCAGACTG」(配列番号20)を有するGTE2及びGTE2-M1~M5はガレクチン-7結合能力を有すると考えられる。
【実施例0032】
(ガレクチン-7結合能力を有するアプタマーを使用して患者由来真珠腫組織の検出)
本実施例では、蛍光標識したGTE-1が特異的に真珠腫組織を検出することができるかを確認した。
図5の結果から明らかなように、正常粘膜組織ではGTE-1の蛍光は検出されず、真珠腫組織のみでGTE-1の蛍光は検出された。
これにより、本発明のガレクチン-7結合能力を有するアプタマーは、真珠腫組織を特異的に認識することができる。
【実施例0033】
(ガレクチン-7結合能力を有するアプタマーを使用して患者由来真珠腫組織のin vivo検出)
本実施例では、蛍光染色したGTE-1が生体内(in vivo) に移植した真珠腫組織を検出することができるかを確認した。
図6の結果から明らかなように、GTE-1が生体内(in vivo) に移植した真珠腫組織を検出することができることを確認した。特に、目視で検出することができることを確認した。
これにより、本発明のガレクチン-7結合能力を有するアプタマーは、生体内(特に、手術中)の真珠腫組織を検出することができる。
さらに、本発明のガレクチン-7結合能力を有するアプタマーで染色されたマウスでは有害事象を確認されなかった。これにより、本発明のガレクチン-7結合能力を有するアプタマーは、安全性を有することを確認した。
【0034】
(総論)
本実施例では、ヒトの真珠腫に特異的に発現しているガレクチン-7を標的とした特異的DNAアプタマーを作製した。ガレクチン-7アプタマーを用いた分子イメージングにより、異種移植された真珠腫モデルにおいて、真珠腫組織と周辺正常組織の切除断端の観察に成功した。ガレクチン-7を標的としたアプタマーは、分子イメージングに有用であり、臨床医は術中に中耳の真珠腫の位置を検出できるだけでなく、術後の治療に対する発現プロファイルの反応性を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
真珠腫組織を特異的に認識する核酸アプタマーを提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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