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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124923
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】複数個所穿刺注入デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/42 20060101AFI20230831BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61M5/42 520
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028786
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】松田 勇
【テーマコード(参考)】
4B029
4C066
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD08
4C066DD12
4C066EE06
4C066EE14
4C066FF03
4C066GG01
4C066HH27
4C066KK19
4C066LL16
(57)【要約】
【課題】
簡便な機構と簡単な作業で、ヒトの下肢等の穿刺注入対象に複数の注入を行える手段を提供すること。
【解決手段】
注入対象を固定するハウジングと、注入対象との相対位置を迅速確実に規定できる2次元移動ガイドをおこなう装着部によって、穿刺部の移動ガイドをおこない、湾曲針に固定した把持つまみで位置決めをおこない、さらに湾曲針の進退も把持つまみにより行って穿刺し、湾曲針に連通したシリンジから注入液を注入する。把持つまみの操作だけで穿刺位置の決定が可能であり、多数カ所穿刺が迅速確実となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液注入のためのデバイスであって、注入対象部位に穿刺される湾曲針、湾曲針を進退可能に支持する穿刺部、穿刺部を注入対象部位に対して2次元的に位置移動可能に可動支持する装着部、装着部を収容固定するハウジングを含み、ハウジングは注入対象部位を所定位置に固定するものである、前記デバイス。
【請求項2】
注入対象部位は、ヒトの下肢である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
湾曲針が、湾曲針に固定され、穿刺部に開口した鈴口開口部から突出したつまみを有し、つまみを介して湾曲線上を周方向に進退させることが可能な、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
湾曲針の先端開口と、湾曲針に固定されたシリンジとが連通しており、薬液経路の操作および/またはシリンジの操作によって薬液の注入を制御可能な、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
装着部は、穿刺部を離散的固定位置に固定可能な可動支持を行うものである、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
湾曲針が有するつまみと薬液注入シリンジが一体的に構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
ハウジングが、ヒトの下肢を収納するブーツ形状である、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
注入する薬液が、細胞懸濁液である、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
穿刺部の位置データおよび湾曲針の進退データを取得する位置データ検出器を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの下肢等の穿刺注入対象に、注入液を注入する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の利用が試みられている(非特許文献1)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(非特許文献2)。
【0004】
また、細胞等の移植による損傷した組織等の修復の別の例として、重症下肢疾患に対するCD34陽性細胞治療が挙げられる。かかる治療において、CD34陽性細胞を、生理食塩水に溶解して、重篤な虚血状態にある両足の数十か所に、筋肉注射により注入している(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4
【非特許文献3】Fujita et al., Circulation Journal Vol.78, February 2014: 490-501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように細胞を筋肉注射により組織中に投与することは行われていたものの、細胞を例えば下肢動脈の血行が悪くなった状態(動脈硬化に起因する末消動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)や糖尿病による足病変など)に対して、特定の複数の位置に正確にかつ簡単な操作で投与することはできなかった。
本発明は、このような問題を解決し、簡単な作業で、細胞を所望の多数の位置、たとえば下肢動脈外側近傍の所望の多数の位置に、正確かつ簡便に投与するための医療器具を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、投与のための操作を、穿刺針として湾曲針を用いて、湾曲針ガイドを穿刺対象の軸方向および周方向に移動させつつ、湾曲針の湾曲線にそった進退運動によって穿刺と抜針とを繰り返して穿刺をおこなう、というものとすれば、正確かつ簡便に、複数の投与位置に連続穿刺投与が可能であることを初めて見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に関する。
[1]薬液注入のためのデバイスであって、注入対象部位に穿刺される湾曲針、湾曲針を進退可能に支持する穿刺部、穿刺部を注入対象部位に対して2次元的に位置移動可能に可動支持する装着部、装着部を収容固定するハウジングを含み、ハウジングは注入対象部位を所定位置に固定するものである、前記デバイス。
[2]注入対象部位は、ヒトの下肢である、[1]に記載のデバイス。
[3]湾曲針が、湾曲針に固定され、穿刺部に開口した鈴口開口部から突出したつまみを有し、つまみを介して湾曲線上を周方向に進退させることが可能な、[1]または[2]に記載のデバイス。
[4]湾曲針の先端開口と、湾曲針に固定されたシリンジとが連通しており、薬液経路の操作および/またはシリンジの操作によって薬液の注入を制御可能な、[1]~[3]のいずれか一項に記載のデバイス。
[5]装着部は、穿刺部を離散的固定位置に固定可能な可動支持を行うものである、[1]~[4]のいずれか一項に記載のデバイス。
[6]湾曲針が有するつまみと薬液注入シリンジが一体的に構成されている、[1]~[5]のいずれか一項に記載のデバイス。
[7]ハウジングが、ヒトの下肢を収納するブーツ形状である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のデバイス。
[8]注入する薬液が、細胞懸濁液である、[1]~[7]のいずれか一項に記載のデバイス。
[9]穿刺部の位置データおよび湾曲針の進退データを取得する位置データ検出器を含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載のデバイス。
【0009】
本発明の穿刺注入デバイスは、穿刺対象に対する穿刺針の相対的位置を正確に規定し、操作者が把持部を保持して穿刺針を簡便・正確に移動することができ、注入操作もまた簡便に行う事が出来るようにするために、穿刺対象を固定するハウジングと、穿刺対象との相対位置を操作者が簡便、正確に決定保持できるための、穿刺針を保持した穿刺部の空間位置決めが可能な装着部と、装着部によって穿刺対象の所望の位置に持ち来される穿刺部と、穿刺部に保持された進退可能な湾曲針とを含む。
【0010】
湾曲針は、穿刺部に進退可能に保持されており、湾曲針に固定された穿刺部つまみを操作者が操作することによって、湾曲針の進退が操作される。穿刺部つまみは、穿刺部に開口した湾曲開口部である鈴口を通って延びる湾曲針と一体に動く部材により湾曲針と連結しており、この連結によってつまみによる湾曲針の進退が可能となっている。
つまみはまた、穿刺対象に対する穿刺部の相対位置を決定するために操作者が把持して、穿刺部を2次元移動させることにも使用される。
【0011】
穿刺部の2次元移動を正確かつ簡便に行えるようにするために、装着部は穿刺部を2次元方向に移動可能に支持している。この各次元の方向への移動は、弾性体によるクリック動作で、あらかじめ定めた離散的位置に停止することが可能となる様にもできる。クリック動作は、弾性に抗して操作者がつまみを動かすことにより、次のクリック位置まで容易に穿刺部を移動させることが出来る。
【0012】
注入液は、湾曲針の先端に開口した針穴から注入され、針穴は湾曲針の内腔を経由し、シリンジ固定部を経由してシリンジの内腔に連通している。シリンジのピストンを押すことによって、注入液を湾曲針から注入対象内に注入することが出来る。針穴とシリンジ固定部とは、湾曲針の内腔経由とすることに限らず、管状体を連結に利用して、さらに離れた個所にシリンジ固定部を設けても良い。また、湾曲針に固定した連結部からさらに可撓性の管状体を経由して、その先にシリンジ固定部を設けて注入液を供給する様にしても良い。
【0013】
針穴とシリンジとの間の経路中に、三方活栓を設けて、注入液の供給排出等の制御を行うようにしても良い。
三方活栓は、湾曲針に固定しても、操作つまみに固定しても、また、シリンジ固定部に固定しても、さらにその先の位置に設けても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、穿刺対象に対する穿刺針の相対的位置を正確に規定し、操作者が把持部を保持して穿刺針を簡便・正確に移動することができ、注入操作もまた簡便に行う事が出来る。
そして本発明は湾曲針を使用することによって、通常の注射器であれば注射のストロークのための空間を多く必要とするのに比較して、装置全体の大きさがコンパクトになり、また、操作も、注入位置の決定のための針穿刺操作と、注入のためのシリンジ操作とが、つまみの移動およびつまみ位置近傍に設けたシリンジを操作すればよいものとなるため、迅速・簡便・正確となる。
穿刺対象がヒトの下肢であり、注入液が細胞懸濁液の場合、注入カ所が多数であり、注入位置が近接した多数カ所となるので、ハウジングによる下肢位置の位置決めの正確さ、装着部の効果である位置決めの正確さ、複数注入を連続して迅速に行える簡便さを得られることは、特に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一例の、基本的構造を示す図である。
図2図2は、本発明の、装着部の一例を示す図である。
図3図3は、本発明の、装着部の他の一例を示す図である。
図4図4は、本発明の、穿刺部の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の、穿刺部の他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、「細胞懸濁液」とは、細胞が任意の媒体中で懸濁状態となっているものをいう。細胞は、単一の細胞の状態であってもよく、または細胞同士が介在物質を介して連結されていてもよい。細胞は、任意の遺伝子または任意の遺伝子を含むウイルスベクターなどを含んでいてもよい。また、細胞は、細胞培養物であってもよい。本発明において、細胞培養物は、細胞培養ステップを経て得られるものを指し、これらに限定されるものではないが、スフェロイド、シート状細胞培養物およびシート状細胞培養物の破砕片を包含する。
本発明において、細胞を懸濁する媒体は、これらに限定されないが、水、生理食塩水、培地、緩衝液、希釈液、細胞保存液およびゲルなどの膨潤体などが挙げられる。
【0017】
本発明において「シート状細胞培養物」とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)体、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0018】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、好ましくは、シート状細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0019】
本発明において、「シート状細胞培養物の破砕片」とは、シート状細胞培養物を破砕することにより、複数の破砕片へと分割したものを指す。破砕片の大きさは、これに限定されるものではないが、破砕片のうち大部分が、微小血管へ入らず、かつ注射針の内部を通る大きさであることが好ましい。かかる大きさは、例えば、シート形状の平面の対角線の長さの平均が30μm~1000μmであり、好ましくは100μm~500μmである。本発明において破砕は、シート状細胞培養物の破砕片を得られるものであれば、既知の任意の方法によって行うことができ、例えば、シリンジおよびニードルまたはピペットなどにより、シート状細胞培養物を含む媒体を懸濁することによって行うことができる。
【0020】
本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞は、組織中に投与され得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞等を含む。体細胞の例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞等)、筋衛星細胞、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞等の多能性幹細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞等)、肝細胞(例えば、肝実質細胞等)、膵細胞(例えば、膵島細胞等)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。体細胞は、iPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来細胞)であってよく、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等が挙げられる。
細胞は浮遊細胞を含む。浮遊細胞の例としてはTリンパ球やBリンパ球を含む。
一態様において、本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞は、血管新生を促進できる細胞、例えば、血管新生を促進する因子、例えば、VEGFなどのサイトカインを分泌できる細胞が特に好ましい。
【0021】
本発明において、「組織中の目的部位」とは、対象の組織中における、細胞懸濁液を投与する部位をいう。組織中の目的部位としては、例えば、生体において、損傷(創傷)が存在する部位や、その近傍が挙げられる。損傷(創傷)は、これらに限定されるものではないが、血管の損傷、狭窄を含み、このような場合においては、組織中の目的部位は、血管の近傍の組織中、好ましくは、血管壁とその周囲の組織の間である。一態様において、組織中の目的部位は、血管組織周辺の血管鞘である。組織中の目的部位は、予め投与前に超音波検査やCT検査などによって決定されてもよい。本発明において、「組織中の目的部位に細胞懸濁液を投与する」ことは、組織中の目的部位に細胞懸濁液を投与するための空間を形成し、該空間に細胞懸濁液を投与することを含む。
【0022】
本発明において、細胞懸濁液は、対象の組織内、好ましくは、対象の脈管周辺の組織内、より好ましくは下肢の疾患を有している対象の病変部位付近の脈管周辺の組織内へ投与される。一態様において、細胞懸濁液は、末梢動脈疾患の患者において、血流量が悪化している病変部位、例えば、下肢の大腿内転筋群における脈管周辺の組織中へ投与される。一態様において、細胞懸濁液を、病変部位付近の脈管周辺の組織内に投与することにより、例えば投与7日後に、健常状態と比較して、例えば35%、40%、45%まで血流量を改善することができる。一態様において、細胞懸濁液を、病変部位付近の脈管周辺の組織内に投与することにより、対照の生理食塩水と比較して、例えば、血流量を約1.5倍、約2倍、約2.5倍改善することができる。
【0023】
一態様において、本発明の医療機器により細胞懸濁液を投与される対象は、下肢の疾患を有する。下肢の疾患は、下肢に障害を有するあらゆる疾患を含む。かかる疾患の例として、これらに限定されないが、末梢動脈疾患、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症および糖尿病足病変などが挙げられる。好ましくは、本発明における下肢の疾患は、下肢において血管が狭窄または閉塞し、その下肢の血流量が悪化している疾患、例えば、末梢動脈疾患である。本発明において、末梢動脈疾患は、これらに限定されるものではないが、下肢閉塞性動脈硬化症、バージャー病、膠原病などを含み、特に重症化した下肢閉塞性動脈硬化症を重症下肢虚血と称する。
【0024】
本発明において「処置する」とは、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を行うことを包含するものとする。例えば、「処置する」とは、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止をすることなどを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を行うことを包含する。
特定の理論に拘束されることはないが、本発明の医療機器により投与される細胞懸濁液の下肢の疾患への作用は、投与された本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞から持続的に分泌されるVEGFなどのサイトカインが、虚血部位の細胞に直接的および/または間接的に作用し、血管新生を促進することによるものと考えられる。
【0025】
図1に、本発明の基本的構造を示す。
本発明の注入デバイスは、ヒトの下肢等の注入対象1をデバイスに対して位置固定するハウジング2と、ハウジング2に固定されて、穿刺針である湾曲針4を含む穿刺部5を注入対象1に対して相対的に2次元位置決めできるように穿刺部5を2次元可動支持する装着部3と、湾曲針4を進退可能に支持する穿刺部5と、湾曲針4と、湾曲針4に固定された穿刺部つまみ6とを含む。
【0026】
図2に、装着部3の一例を示す。
装着部3は、穿刺部5が垂直方向に移動できるためのレールを有しており、また、装着部3はハウジングに設けた横方向ガイドレール7に沿って移動可能にもなっており、操作者が穿刺部つまみ6を把持して動かすことにより、垂直方向にも横方向にも、レールに沿って軽く移動できる。
図2には装着部位置調節つまみ8を記載してあり、これを有さない操作者のつまみ6による2次元位置決めに替えて、装着部位置調節つまみ8によって2次元位置決めを行うこともできる。装着部位置調節つまみ8に相当する位置決め動作を、機械によって自動的におこなえば、穿刺部5の移動を自動化することが可能である。
装着部3は、穿刺部5の、この2次元方向の軽い移動を行えるものであれば、いかなる機構を用いても良い。
また、各次元の移動経路には、弾性体を利用したクリックストップ機構を備えても良い。クリックストップの機能により、操作者による穿刺を行う位置として、一定の距離を隔てた多数の穿刺箇所に簡便迅速に穿刺注入を行うことが可能となる。
【0027】
図3に、装着部3の上記と異なる例を示す。
穿刺部5は、図3の例においては、装着部内面に設けた球状の窪み9に、穿刺部5に設けた弾性体により付勢されたボール状突起10が、窪み9と係合することによって、クリックストップを行う。
図3の例においては、2次元方向のいずれについても、ボール状突起10と球状窪み9の作用により、穿刺部つまみ6の操作だけで、2次元方向の移動、クリックストップが、操作者の意図するように実施できる。
【0028】
図4に、穿刺部5の一例を示す。
穿刺部5には、湾曲した穴を通って進退する湾曲針4が設けられており、湾曲針4の後端は、穿刺部内部で屈曲して、穿刺部5に設けた鈴口11から、穿刺部5の外に突出している。
鈴口11から突出した湾曲針4の後端に三方活栓12が固定され、三方活栓12はシリンジ13に連結される。
図4の例では、鈴口11は穿刺部5の上面に設けられており、三方活栓12およびシリンジ13は、穿刺部5の上方に位置する。
【0029】
図4aおよび図4bに、湾曲針4の進退状態を示す。
図4bは、湾曲針4が格納された状態を示し、図4aは穿刺のために湾曲針4が突出した状態を示す。鈴口11に沿って穿刺部つまみ6を把持した操作者の操作により、湾曲針4は、突出状態から格納状態まで、移動させることが出来る。
湾曲針4の突出量は、穿刺した針の先端の深さに対応するので、鈴口11に沿った湾曲針4の移動量を、例えば複数個所のクリックストップを設けて多段に設定することや、あらかじめ定めた移動量となるように、湾曲針移動量をさらに細かく制御できるように構成しても良い。
【0030】
図5には、穿刺部5のさらに別の例を示す。図3に示した例と同様に、鈴口11は、穿刺部5の側面に開口しており、穿刺部つまみ6は、穿刺部の側面側において操作されることになる。
また、図5の例では、シリンジ13と穿刺部つまみ6を一体的に構成し、さらに三方活栓12に固定したものが、湾曲針4に固定されているが、穿刺部つまみ6が湾曲針4に固定されている限り湾曲針4を操作者がつまみ6を把持して移動させることが可能となるのであるから、三方活栓12やシリンジ13は、必ずしも湾曲針4と一体的になっていなくても良い。
【0031】
また、穿刺部つまみ6を湾曲針4に固定する位置も、湾曲針4と一体的に操作できれば足りるので、湾曲針の先端に近い位置(図3図5)に設けても、湾曲針の後端(図4)に設けても良い。
【0032】
図5の例のように、シリンジ13と穿刺部つまみ6とを一体的に構成し、湾曲針4の進退操作の方向とシリンジ13のプランジャー操作を同じ方向として、穿刺動作に続いてプランジャーを押す動作をおこない、全体の操作を単純簡便化することもできる。
【0033】
本発明の薬液注入デバイスを用いれば、操作者がつまみを把持して、穿刺部移動および湾曲針の進退の操作を行い、さらにシリンジのプランジャー操作を一つの動作でおこなうだけで、迅速・正確・簡便に複数の投与ポイントに注入が行えるという優れた効果がある。
また、本発明の薬液注入デバイスの位置変化を行う部分に、位置検知手段を設ければ、注入処置の記録が簡便に取得でき、注入状況の記録が可能となる。さらに注入動作そのものも、位置検知手段と移動操作手段とを組み合わせれば、自動化が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 注入対象
2 ハウジング
3 装着部
4 湾曲針
5 穿刺部
6 穿刺部つまみ
7 横方向ガイドレール
8 装着部位置調節つまみ
9 球状くぼみ
10 球状突起
11 鈴口
12 三方活栓
13 シリンジ
図1
図2
図3
図4
図5