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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124936
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】作業車両の通信システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230831BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20230831BHJP
   B60R 11/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G05D1/02 H
A01B69/00 Z
B60R11/02 W
G05D1/02 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028812
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】鶴原 優太
【テーマコード(参考)】
2B043
3D020
5H301
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043BA09
2B043BB01
2B043EB05
2B043EB15
2B043EB17
2B043EB22
2B043ED12
2B043EE01
3D020BA06
3D020BA09
3D020BB05
5H301AA03
5H301AA10
5H301BB01
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD06
5H301DD15
5H301GG07
(57)【要約】
【課題】作業車両に簡単に後付けすることができる自動走行システムを提供することを主眼に置きながら、後付けする作業車両の作業機等の制御に関わる車載ネットワーク上の情報を、自動走行システムにおいて比較的簡単に取得することができて、その後付けする自動走行システムの自動走行において使用可能な作業車両の通信システムを提供する。
【解決手段】車載ネットワークと自動走行ネットワークを構築するCANバスに接続して互いのネットワーク上の情報のやり取りを中継するCANゲートウェイを設けて、他方のネットワーク上の情報であってもこの情報を取得して、一方のネットワークにおいて担う自動走行、或いは作業機等の制御において使用可能に構成する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機等の制御のために設ける電子制御ユニットを、CANの通信プロトコルに従うCANバスに接続して構築する既存の車載ネットワークと、衛星測位システムを用いて自動走行を行うために設ける電子制御ユニットを、同じくCANの通信プロトコルに従うCANバスに接続して構築するオプションの自動走行ネットワークと、これ等のネットワークに設けるCANバスに接続して互いのネットワーク上の情報のやり取りを中継するCANゲートウェイを設けて、他方のネットワーク上の情報であってもこの情報を取得して、一方のネットワークにおいて担う自動走行、或いは作業機等の制御において使用可能に構成する作業車両の通信システム。
【請求項2】
前記CANゲートウェイに設ける電子制御ユニットに近距離無線通信機能を設けて、前記ネットワーク上の自動走行、又は作業機等の制御に関する情報を、近くのモバイル端末に無線送信可能に、或いは、モバイル端末から無線送信される情報をCANゲートウェイに設ける電子制御ユニットが受信して、この受信した情報を自動走行ネットワーク上、又は車載ネットワーク上に流して、自動走行、或いは作業機等の制御に使用可能に構成する請求項1に記載の作業車両の通信システム。
【請求項3】
前記車載ネットワーク又は自動走行ネットワークを構築するCANバスの本線ケーブルに支線ケーブルを設け、この支線ケーブルの端部とCANゲートウェイに繋がるケーブルの端部とをコネクタを介して連結するか、或いは、CANバスの本線ケーブルに中継コネクタを設けて、この中継コネクタの連結を外した夫々のコネクタに、CANゲートウェイに繋がるケーブルから2つに分岐するケーブルの夫々の端部に設けるコネクタを連結して、CANゲートウェイを夫々のCANバスに接続する請求項1又は請求項2に記載の作業車両の通信システム。
【請求項4】
前記CANゲートウェイは、その電子制御ユニット等の電子部品を取り付けた基板を内装して防水処理した収容ケースを、CANバスのケーブルや他の配線と共に束ねたワイヤーハーネスに結束バンドによって締結して取り付ける請求項3に記載の作業車両の通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に農業用に用いる作業車両の通信システムに係り、詳しくは、車載ネットワークと自動走行ネットワークを備える作業車両の通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用の作業車両であるトラクタや乗用型田植機等は、操縦部に設けるステアリングホイール(ステアリングハンドル)を手動で回転させることによって前輪を操舵したり、或いは、クローラ式の走行装置を備える車両にあっては、左右のクローラ走行装置の回転数に差を与えることによって、走行機体の進行方向を修正して作業走行を行ったり、枕地での走行機体の旋回等を行う。
【0003】
また、これらの作業車両は、その圃場における畝立や耕耘作業、或いは、苗の植付や施肥作業等において効率的な無駄のない作業を行うために、その走行軌跡が蛇行しない真っすぐな直線状となって、且つ隣合う走行軌跡が等間隔となることが望まれる。また、走行機体を旋回させる場合でもそのタイミングを失することなく適切な進路に基づいて素早い適確な旋回が望まれ、さらに、これ等の作業を経験の浅い作業者が行う場合でも、ベテランと変わらない能率的な作業を行えるようにすることが望まれる。
【0004】
そこで、近年、真っすぐで等間隔のうね作りを行うことを目指して、トラクタの走行機体に設ける単眼カメラが撮影した映像から直進や追従作業時における走行機体の進行方向のズレをプロセッサが取得し、また、このズレを無くす指示を走行機体に後付けする自動操舵装置に出して、また、自動操舵装置はこの操舵指示を受けて電動モータによってステアリングシャフトを回転させて、走行機体の進行方向を自動的に修正する、というアシストシステムを提供している。
【0005】
また、スマート農業が叫ばれるなかで提唱される作業者が搭乗した状態での自動走行、或いは有人監視下での無人状態での自動走行を実現するために、衛星測位システムを利用して走行機体の位置並びに方位情報を取得し、また、これに基づいて予め作成した直線状の作業走行経路に倣うように自動走行させるといった自動走行システムを提供し(特許文献1参照)、さらに、これを発展させて作業走行経路のみならず作業を伴わない旋回走行経路を含めた自動走行システムの提供を本発明者等は目指している。
【0006】
なお、農業用の作業車両は、その作業の高率化や精度の向上を目指して複数の電子制御ユニット(ECU)を設けることによって種々の自動制御を行わせている。また、この場合の各電子制御ユニット間の情報交換は、自動車等で一般的に用いられているシリアル通信プロトコルであるCAN(Controller Area Network)を使用し、これにより複数の電子制御ユニットで使用する信号線を削減してハーネスの引き回しを簡素化している。
【0007】
そして、係るCAN等の通信ネットワークを使用して構築する車載ネットワークに、前述の衛星測位システムを用いた測位装置と、その測位情報等に基づいてトラクタの自動走行を行わせる自動走行制御部等を組み込んで設けることが、提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-11139号公報
【特許文献2】特開2021-108439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のように農業用の作業車両にあって、衛星測位システムを利用して走行機体の位置並びに方位情報を取得し、予め作成した直線状の作業走行経路や旋回走行経路に倣うように有人又は無人で走行機体を自動走行させると、無駄のない精度の高い作業を能率的に行うことができて、作業者がハンドル操作を行う必要がないのでその負担を軽減することができる。
【0010】
そして、これらの自動走行システムを作業車両に実際に導入する場合に、特許文献1に記載されているようにGNSS受信装置や操舵ユニットを手持ちの作業車両に簡単に後付けできるようにすると、比較的安価に自動走行システムを提供することができ、ユーザーが早速に導入し易くなる利点がある。
【0011】
しかし、このものでは後付けできる作業車両を選ばないことを主眼に自動走行システムを開発するから、作業車両の例えば、元々備える作業機制御等に関わる情報等を全く用いることなく、その自動走行ネットワーク内の情報を用いるだけで完結する自動走行システムを構築している。そのため、ある意味でその自動走行の制御内容に限界が生じて、それ以上に自動走行の制御内容を拡張して発展させるといったことが困難になるという問題がある。
【0012】
一方、特許文献2に記載されているトラクタのように、その車載ネットワークに測位装置や自動走行制御部等を最初から組み込んで自動走行を行えるようにする作業車両では、その自動走行システムが、車載ネットワーク上の作業機制御等に関わる情報を容易に使用することができて、これにより自動走行の制御内容を比較的簡単に拡張して発展させることができる。
【0013】
但し、このように作業車両に最初から自動走行システムを埋め込んでしまうと、自動走行システムを使用しないユーザーにとっては、無駄に高価な作業車両を購入することになってしまう。また、そうかといってこのような埋め込み型の自動走行システムを必要とした際に後付けしようとしても、作業車両側の大掛かりな改造を必要として実質的に後付けすることができないという問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、前述のような問題点に鑑みて、作業車両に簡単に後付けすることができる自動走行システムを提供することを主眼に置きながら、後付けする作業車両の作業機等の制御に関わる車載ネットワーク上の情報を、自動走行システムにおいて比較的簡単に取得することができて、その後付けする自動走行システムの自動走行において使用可能な作業車両の通信システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の課題を解決するため本発明の作業車両の通信システムは、作業機等の制御のために設ける電子制御ユニットを、CANの通信プロトコルに従うCANバスに接続して構築する既存の車載ネットワークと、衛星測位システムを用いて自動走行を行うために設ける電子制御ユニットを、同じくCANの通信プロトコルに従うCANバスに接続して構築するオプションの自動走行ネットワークと、これ等のネットワークに設けるCANバスに接続して互いのネットワーク上の情報のやり取りを中継するCANゲートウェイを設けて、他方のネットワーク上の情報であってもこの情報を取得して、一方のネットワークにおいて担う自動走行、或いは作業機等の制御において使用可能に構成する。
【0016】
また、本発明の作業車両の通信システムは、前記CANゲートウェイに設ける電子制御ユニットに近距離無線通信機能を設けて、前記ネットワーク上の自動走行、又は作業機等の制御に関する情報を、近くのモバイル端末に無線送信可能に、或いは、モバイル端末から無線送信される情報をCANゲートウェイに設ける電子制御ユニットが受信して、この受信した情報を自動走行ネットワーク上、又は車載ネットワーク上に流して、自動走行、或いは作業機等の制御に使用可能に構成する。
【0017】
さらに、本発明の作業車両の通信システムは、前記車載ネットワーク又は自動走行ネットワークを構築するCANバスの本線ケーブルに支線ケーブルを設け、この支線ケーブルの端部とCANゲートウェイに繋がるケーブルの端部とをコネクタを介して連結するか、或いは、CANバスの本線ケーブルに中継コネクタを設けて、この中継コネクタの連結を外した夫々のコネクタに、CANゲートウェイに繋がるケーブルから2つに分岐するケーブルの夫々の端部に設けるコネクタを連結して、CANゲートウェイを夫々のCANバスに接続する。
【0018】
そして、本発明の作業車両の通信システムは、前記CANゲートウェイは、その電子制御ユニット等の電子部品を取り付けた基板を内装して防水処理した収容ケースを、CANバスのケーブルや他の配線と共に束ねたワイヤーハーネスに結束バンドによって締結して取り付ける。
【発明の効果】
【0019】
本発明の作業車両の通信システムによれば、作業機等の制御のために設ける電子制御ユニットを、CANの通信プロトコルに従うCANバスに接続して構築する既存の車載ネットワークと、衛星測位システムを用いて自動走行を行うために設ける電子制御ユニットを、同じくCANの通信プロトコルに従うCANバスに接続して構築するオプションの自動走行ネットワークと、これ等のネットワークに設けるCANバスに接続して互いのネットワーク上の情報のやり取りを中継するCANゲートウェイを設けて、他方のネットワーク上の情報であってもこの情報を取得して、一方のネットワークにおいて担う自動走行、或いは作業機等の制御において使用可能に構成する。
【0020】
そのため、互いのネットワークを中継するCANゲートウェイを設けることによって、作業車両の作業機等の制御に関わる車載ネットワーク上の情報を、後付けする自動走行システムにおいて比較的簡単に取得することができて、その後付けする自動走行システムの自動走行において使用可能になる。また、逆に自動走行ネットワーク上の情報を作業車両の作業機等の制御において必要に応じて使用可能になる。
【0021】
なお、ここで用いるCANの通信プロトコルに従うかぎり、車載ネットワークの電子制御ユニットを接続するCANバスと、自動走行ネットワークの電子制御ユニットを接続するCANバスの夫々の両端には、信号の反射を防止して通信品質の低下を防ぐ終端抵抗を設ける必要がある。そこで、例えば、車載ネットワークと自動走行ネットワークのCANバスの両端に接続する夫々の電子制御ユニットのCANバスには1つずつ終端抵抗を設ける。
【0022】
そして、この場合に車載ネットワークと自動走行ネットワークのCANバスの中途を仮にそのまま接続すると、全体としてCANバスに合わせて4つの終端抵抗を設けることになるので、CANの通信プロトコルに違反してしまい、通信できない電子制御ユニットが生じる等の問題が発生する。そこで、このような事態を無くすために車載ネットワークの電子制御ユニットやこの電子制御ユニットで使用するセンサ等の情報を、自動走行ネットワークの電子制御ユニットで使用するために両者を多数の信号線を用いて接続すると、大掛かりなハーネスの引き回しが必要となって、自動走行システムを簡単に後付けすることができない。
【0023】
しかし、これ等のネットワークに設けるCANバスに接続して互いのネットワーク上の情報のやり取りを中継するCANゲートウェイを設けると、前述のCANの通信プロトコルに従って、他方のネットワーク上の情報であってもこの情報を取得して、一方のネットワークにおいて担う自動走行、或いは作業機等の制御において使用可能になり、多少コストアップとなるものの全体でみれば、自動走行システムを簡単に後付けすることができるメリットが遥かに上回る。
【0024】
また、本発明の作業車両の通信システムによれば、前記CANゲートウェイに設ける電子制御ユニットに近距離無線通信機能を設けて、前記ネットワーク上の自動走行、又は作業機等の制御に関する情報を、近くのモバイル端末に無線送信可能に、或いは、モバイル端末から無線送信される情報をCANゲートウェイに設ける電子制御ユニットが受信して、この受信した情報を自動走行ネットワーク上、又は車載ネットワーク上に流して、自動走行、或いは作業機等の制御に使用可能に構成する。
【0025】
そのため、自動走行ネットワーク上に流れる衛星測位システムを用いて取得した作業車両の精度の高い位置や方位情報、或いは走行経路情報等や、車載ネットワーク上に流れる例えば、車速や作業内容、或いは燃料や農業資材の消費情報等を、必要に応じて関連づけて統一したフォーマットでモバイル端末に無線送信することができ、また、送信された情報をパーソナルコンピュータや営農管理サーバー、或いはクラウドサービス事業者のサーバー等に転送して管理することができる。さらに、サーバー等に蓄積した前述の情報等をもとにした走行経路の指示等を逆のルートで送信して作業車両側で役立たせることができる。
【0026】
さらに、本発明の作業車両の通信システムによれば、前記車載ネットワーク又は自動走行ネットワークを構築するCANバスの本線ケーブルに支線ケーブルを設け、この支線ケーブルの端部とCANゲートウェイに繋がるケーブルの端部とをコネクタを介して連結するか、或いは、CANバスの本線ケーブルに中継コネクタを設けて、この中継コネクタの連結を外した夫々のコネクタに、CANゲートウェイに繋がるケーブルから2つに分岐するケーブルの夫々の端部に設けるコネクタを連結して、CANゲートウェイを夫々のCANバスに接続するから、CANゲートウェイを自動走行ネットワークと車載ネットワークのCANバスに短時間で、且つ至って簡単に接続することができる。
【0027】
そして、本発明の作業車両の通信システムによれば、前記CANゲートウェイは、その電子制御ユニット等の電子部品を取り付けた基板を内装して防水処理した収容ケースを、CANバスのケーブルや他の配線と共に束ねたワイヤーハーネスに結束バンドによって締結して取り付けるから、CANゲートウェイに雨水が降り掛かっても故障せずにその機能を長年に亘って維持することができると共に、出来るだけ水等が掛からない箇所に設けた基幹となるワイヤーハーネス等にその収容ケースを結束バンドによって直接締結して取り付けることによって、作業車両側にCANゲートウェイを取り付けて設けるためのスペースを格別に用意する必要を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を適用したトラクタの側面図である。
図2】操舵系の斜視図である。
図3】操縦部の斜視図である。
図4】車載ネットワークの説明図である。
図5】自動走行ネットワークの説明図である。
図6】トラクタにGNSSユニットを取付けた状態を示す斜視図である。
図7】ステアリングホイールに駆動ユニットを取付けた状態を示す斜視図である。
図8】ステアリングホイールに駆動ユニットを取付ける手順を示す分解図である。
図9】CANゲートウェイの配線図である。
図10】CANゲートウェイの取り付け状態を示す斜視図である。
図11】ナビゲーションシステムのガイダンス画面である。
図12】GNSSアンテナの取付位置を設定する画面である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように作業車両としての農業用のトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジング3、トランスミッションケース4等を一体的に連結して車体(走行機体)を構成する。また、車体の前部寄りには、エンジン2とエンジン2の補器類を覆うボンネット5とサイドーカバー6を設け、ボンネット5は後部に設けるヒンジを介して前部側を開閉自在に構成する。
【0030】
さらに、エンジン2に固定して前方に延びるフロントブラケット7は、図2に示すようにフロントアクスルケース8を左右揺動自在に軸支する。そして、このフロントアクスルケース8の左右端には、キングピンケース9及びファイナルケース10を取付ける。また、ファイナルケース10に軸支する前車軸11には前輪12を取付ける。
【0031】
一方、車体の後部寄りにはトランスミッションケース4の左右に連結するリアアクスルケースを設け、このリアアクスルケースに軸支する後車軸13に左右の後輪14を取付ける。また、車体の後部には、トップリンク15と左右のロワリンク16からなる周知の三点リンク機構や、ドローバ等の連結装置を設け、これらの連結装置にはロータリ耕耘装置、畝立機、或いは播種機や移植機等の作業機を連結し、トランスミッションケース4の後部に軸支するPTO軸(動力取出軸)から作業機にエンジン動力を伝達する。
【0032】
さらに、エンジン2より後方の車体には、防振ゴムを介して操縦部を覆うキャビン17を搭載する。ここで、キャビン17は、左右一対の前側の支柱であるフロントピラー18と、左右一対の後側の支柱であるリアピラー19と、両者の間に設ける左右一対の中間の支柱であるミッドピラー20と、この上下方向に延びる6本の各支柱18、19、20の上端部間を連結固定する方形枠状の上部フレーム21と、各支柱18、19、20の下端部間を連結固定する下部フレーム22等によってキャビンフレームを構成する。
【0033】
そして、キャビンフレームには、左右のドアガラス23を後部側に設けるヒンジ24を介して開閉自在に装着すると共に、前面側にフロントガラス25を、また、後面側にリヤガラス26をヒンジを介して開閉自在に装着し、更にミッドピラー20とリアピラー19の間にはヒンジ27を介してサイドガラス28を開閉自在に装着する。また、左右のリアピラー19の下端部から、前方斜め下方のフロア29側に向けて後輪14の前側上方を覆うフェンダ30を設ける。さらに、上部フレーム21にはルーフ31を設けて操縦部の上方を覆う。
【0034】
また、キャビン17内に設ける運転席32は、左右のフェンダ30間の中央に位置させて設ける。なお、図3に示すように運転席32の右側や左側には、トランスミッションケース4に設ける走行変速装置を変速操作する主変速レバー33と副変速レバー34を設けると共に、作業機を昇降させるポジションコントロールレバー35、深さ設定ボリューム36、PTOスイッチ37、或いは、作業機の深さや傾きの自動スイッチ、傾きや上げ高さボリューム、代かきランプ等の自動制御関連の操作具を設ける。
【0035】
さらに、運転席32の前方には、左右の前輪12を操舵してトラクタ1の進行方向を変更するステアリングホイール38を設ける。そして、このステアリングホイール38は、キャビン17の前部に立設する操舵フレーム39に回動可能に設けるステアリングコラム40によって覆うステアリングシャフト41の上部に締結して設け(図2参照)、その下方に設けるチルトペダル42の踏み込みによってチルト調節を行うことができる。
【0036】
また、ステアリングホイール38の前方には、操舵フレーム39の周囲を覆うパネルカバー43とリヤパネルカバー44を設け、この内、パネルカバー43にはタコメータや燃料計、或いは液晶ディスプレイ等を備えるメーターパネル45を設ける他、エンジンコントロールレバー46やトラクタ1の各種の自動制御の入り切りを行う操作スイッチ群47と、メーターパネル45に設ける液晶ディスプレイの操作スイッチ及び自動の一括スイッチ等を設ける。
【0037】
また、前述のステアリングコラム40に設けるブラケットには走行変速装置の前後進レバー48と、コンビネーションスイッチレバー49、或いは作業機の昇降を行うクイックアップレバー50を設ける。そして、このステアリングコラム40やブラケット等はコラムカバー51によって覆い、さらに、ステアリングホイール38の下方には主クラッチペダル52と左右のブレーキペダル53、PTO変速レバー54等を設ける。
【0038】
なお、図2に示すように、ステアリングホイール38によって回転するステアリングシャフト41の下部は、ジョイントシャフトとヨーク55を介して全油圧式のパワーステアリングユニット56の入力軸に連結する。そして、このパワーステアリングユニット56はフロントアクスルケース8に設ける複動油圧シリンダ57を作動させ、また、複動油圧シリンダ57はタイロッド58を介して左右のナックルアーム59を回動させて左右の前輪12を操舵する。従って、ステアリングホイール38を回転させると、油圧を用いてその操作力を軽減させて左右の前輪12をスムーズに操舵して機体の進行方向を変更することができる。
【0039】
そして、トラクタ1は走行機体に連結する作業機がその能力を最大限に発揮するために各種の自動制御を用意しており、これ等の自動制御にはマイクロコンピュータユニット等によって構成する複数の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)を用いる。また、これ等の電子制御ユニットは車体の各所に分散して設けると共に、シリアル通信プロトコルであるCAN(Controller Area Network)を用いてネットワークを構築することによって、複数の電子制御ユニットで使用する信号線を削減して、そのハーネスの引き回しを簡素化する。
【0040】
そのため、トラクタ1は図4に示すように、作業機等の制御のために設けるメインの電子制御ユニット(運転席32の右側のサイドコンソール内に設けるMACユニット)60と、前述の操作スイッチ群47を制御するフロントユニット61と、メーターパネル45に設ける液晶ディスプレイ等を制御するメータパネルユニット62と、運転席32の右側のサイドコンソールに設ける自動制御関連の操作具を制御するサイドパネルユニット63を、1チャンネルのCANバス(CAN1バス)に夫々接続して、第1の車載ネットワークを構築する。
【0041】
また、前述のメイン電子制御ユニット60と、走行トランスミッションの変速制御を行う走行ユニット64と、エンジン2の回転数等を制御するエンジンECU65を0チャンネルのCANバス(CAN0バス)に夫々接続して、第2の車載ネットワークを構築する。
【0042】
なお、夫々のCANバスは、CANハイバスラインCAN_HとCANローバスラインCAN_Lの両端に終端抵抗Rを備えて閉じた通信線で構成する。そして、第1の車載ネットワークにあっては、この終端抵抗Rをメイン電子制御ユニット60とフロントユニット61に夫々設け(図9参照)、第2の車載ネットワークにあっては、この終端抵抗Rをメイン電子制御ユニット60と走行ユニット64に夫々設ける。
【0043】
また、これ等の電子制御ユニット60~65は、その入力ポートに各種のセンサや操作スイッチやボリューム等を接続する一方、その出力ポートに油圧電磁切換バルブのソレノイドや、電動モータ、或いはランプやブザー等の警報手段を接続し、例えば、メイン電子制御ユニット60であれば、それらの入出力装置によって作業機の昇降を行うポジション制御、深さ自動制御、傾き制御、ドラフト制御、前輪倍速・オートブレーキ制御、PTO制御等の周知の自動制御を行う。
【0044】
以上、トラクタ1の概要について説明したが、次にオプションとして提供する自動走行システムについて説明すると、この自動走行システムは、RTK(Real Time Kinematic)によるGNSS(Global Navigation Satellite System)を用いてトラクタ1の位置と方位、或いは時刻を取得して、トラクタ1を圃場における直線状の作業走行経路や旋回走行経路等を運転席32に座る作業者の手を煩わせること無く自動的に走行させようとするものである。
【0045】
そのため、この自動走行システムは、図5に示すように米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州連合のGalileo等の測位衛星から出される電波を位置及び方位用の2つのアンテナ66で捉えてトラクタ1の位置情報等を取得する受信機67と、この受信機67で取得する位置情報を補完する補正情報を得る基地局68と、地図データ等に基づいて作業走行経路や旋回走行経路等を作成すると共に、トラクタ1の走行経路からのズレに基づいてその走行経路に導くための操舵量を演算するタブレット端末69と、タブレット端末69によって指示された操舵量に一致するように前輪12を操舵制御する自動操舵装置70等を備える。
【0046】
そして、係る自動走行システムは、既存のトラクタ1に比較的簡単に後付け可能にするものであって、例えば、前述のGNSSアンテナ66と、基地局68と通信する無線アンテナ71と、受信機67や全体を統括するコントローラ(GNSS-ECU)72、及び自動操舵装置70のマイクロコンピュータユニットで構成する操舵ECU73等を備えるGNSSユニット74は、図6に示すようにキャビン17のルーフ31上に設けるフレーム75に纏めて取付けて設ける。また、基地局68はトラクタ1が作業を行う圃場から300メートル以内で周囲に山や木、高い建物などの障害物がない見通しの良い安定した場所に設置する。
【0047】
さらに、タッチパネル付きの液晶ディスプレイを備え、自動走行に欠かせないナビゲーションソフトウェアを予めインストールする薄型軽量のコンピュータであるタブレット端末69は、運転席32に座った作業者の手元に置くこともできるが、運転席32の前方に設けるパネルカバー43に設けるモバイル端末を載置するホルダ43aに納めて置くことができ(図3参照)、また、このタブレット端末69は自らの充電等が必要になれば、ホルダ43aから取り外して自宅等に持ち運ぶこともできる。
【0048】
そして、残る自動操舵装置70の駆動ユニット76について説明すると、この駆動ユニット76は操縦部に設けるステアリングホイール38の下方に後付けして設け、前述の操舵ECU73から駆動ユニット76に備える電動モータ77に駆動指示が出されると、電動モータ77はステアリングホイール38を介してステアリングシャフト41を回転させ、さらに、パワーステアリングユニット56と複動油圧シリンダ57によって、左右の前輪12を操舵してトラクタ1の進行方向を変更する。
【0049】
より詳細に説明すると、図7及び図8に示すように電動モータ77はブラシレスの直流電動モータによって構成し、この電動モータ77の出力軸にはベアリングで支持して回転自在なローラー78を多数備えるピニオン79を取り付けて設ける。また、このピニオン79のローラー78に噛み合うトロコイド歯形を外周側に備える樹脂製の大径ローター80は周方向に3分割可能に構成する。さらに、これ等のピニオン79とローター80の外周側を覆う樹脂製のピニオンハウジング81とローターハウジング82は、2つのピン83によって連結して一体化することができる。
【0050】
そのため、係る駆動ユニット76をステアリングホイール38の下方に取り付ける際には、ステアリングシャフト41からステアリングホイール38を取り外さなくとも装着できるように、先ず、3分割したローター80の各パーツをステアリングホイール38の3本のスポーク38aの下方において一体となるように結合する。次に、ローター80の上部に3つの連結具84を取り付けて、その先端寄りをハブ38b上となる中央側に倒し、ここで円環状の金具85を用いて3つの連結具84を一体的に固定すると、ステアリングホイール38の下方にローター80を一体に回転するように取り付けることができる。
【0051】
また、このようにステアリングホイール38の下方に取り付けたローター80の外周に、ローターハウジング82の3つの膨出部82aに夫々回転自在に設けるローラー86を係合させることによって、ローター80にローターハウジング82を支持させながら、そのローターハウジング82を被せて装着する。さらに、このローター80に装着したローターハウジング82の両端部に、電動モータ77やピニオン79を取り付けたピニオンハウジング81の両端部を位置合わせしてピン83で連結すると、ステアリングホイール38への駆動ユニット76の取り付けが完了する。
【0052】
なお、ローターハウジング82には図示しないピンを下方に向けて突出させて設けており、このピンは、前述のローターハウジング82をローター80に装着する際に合わせて、ステアリングコラム40に予め取り付けて設ける金具のスリットに嵌める。そのため、電動モータ77がピニオン79を回転させ、それに伴ってローター80がステアリングホイール38を回転させる際の駆動反力で、逆にローターハウジング82やピニオンハウジング81が回転することを防ぎ、ステアリングホイール38を確実に回転させてトラクタ1の進行方向を変更することができるようにする。
【0053】
さらに、説明が後になったが駆動ユニット76の主体となる電動モータ77は、自らの回転を検出するアブソリュート型のロータリーエンコーダ87を下部に一体に備える。そして、このロータリーエンコーダ87は電動モータ77を制御する操舵ECU73に電動モータ77の絶対的な回転角度を出力するので、操舵ECU73は指示された操舵量に一致するように電動モータ77をフィードバック制御によって回転させて、トラクタ1の進行方向を速やかに修正することができる。
【0054】
また、前述のGNSSユニット74の全体を統括するGNSS-ECU72と操舵ECU73は、トラクタ1の車載ネットワークと同様に、シリアル通信プロトコルであるCANを用いて情報のやり取りを行うことによって、両電子制御ユニット72、73で使用する信号線を削減してハーネスの引き回しを簡素化する。なお、ここで用いるCANバスの終端抵抗Rは2つの電子制御ユニット72、73に夫々設ける(図9参照)。
【0055】
以上、衛星測位システムを用いた自動走行システムについて説明したが、係る自動走行システムでは、GNSS-ECU72と操舵ECU73をCANを用いて狭義の自動走行ネットワークを構築し、また、GNSS-ECU72がタブレット端末69と近距離無線通信を行ったり、或いは、RTK基地局68と特定小電力無線通信を行って広義の自動走行ネットワークを構築する。しかし、このような限られたネットワークから得られる情報だけで、トラクタ1の自動走行を完結させようとすると、その制御内容に自ずと限界が生じて、それ以上に自動走行の制御内容を拡張して発展させるといったことが困難となる。
【0056】
そこで、これを解決するために、自動走行ネットワークとトラクタ1が既に備える車載ネットワークをCANゲートウェイ88を用いて中継することによって、自動走行システム側の電子制御ユニット72、73、或いはタブレット端末69が、車載ネットワーク上の情報を利用して自動走行の制御内容を拡張したり、或いは、逆に自動走行ネットワーク上の情報をトラクタ1の作業機等の制御のために設けるメイン電子制御ユニット60等が利用できるようにする。
【0057】
そのため、新たに設けるCANゲートウェイ88を構成する電子制御ユニット89は、その2つのCANバス接続ポート89a、89bに、図4に示す車載ネットワークを構築する1チャンネルのCAN1バスの中途と、図5に示す自動走行ネットワークを構築するCANバスの中途を夫々接続する。より詳細に説明すると、図9に示すように車載ネットワークを構築する1チャンネルのCAN1バスの本線ケーブル90(Hライン90a、Lライン90b、12V電源ライン及びグランドライン)に中継コネクタ91(オス91a、メス91b)を設けている。
【0058】
そして、この中継コネクタ91のオス91aとメス91bは互いに連結しておくことによって車載ネットワークが構築されるが、このオス91aとメス91bの連結を一旦ここで取り外す。また、この取り外したコネクタ91のオス91aとメス91bに、CANゲートウェイ88の電子制御ユニット89のCANバス接続ポート89aに繋がるケーブル92(Hライン92a、Lライン92b、12V電源ライン及びグランドライン)から2つに分岐するケーブル93(Hライン93a、Lライン93b)の端部に設けるコネクタ94のメス94bとオス94aを連結する。
【0059】
一方、自動走行ネットワークを構築するCANバスの本線ケーブル95(Hライン95a、Lライン95b、12V電源ライン及びグランドライン)に支線ケーブル96(Hライン96a、Lライン96b、12V電源ライン及びグランドライン)を設けている。そこで、この支線ケーブル96の端部とCANゲートウェイ88の電子制御ユニット89のCANバス接続ポート89bに繋がるケーブル97(Hライン97a、Lライン97b、12V電源ライン及びグランドライン)の端部とを、夫々の端部に設けるコネクタ98(オス98a、メス98b)を介して連結すると、CANゲートウェイ88を車載ネットワークと自動走行ネットワークのCANバスに短時間で、且つ至って簡単に繋げる(接続する)ことができる。
【0060】
ところで、前述のCANゲートウェイ88を構成する電子制御ユニット89は、シリアルポートを使ってデータの送受信を行うことができるかのような通信規約を備える近距離無線通信機99を設けている(図5参照)。そのため、電子制御ユニット89はこの近距離無線通信機能を利用して、前述のネットワーク上の自動走行、又は作業機等の制御に関する情報を必要に応じて関連づけて統一したフォーマットで、近距離無線通信機99の近くに設けるタブレット端末やスマートフォン、或いはノートパソコン等のモバイル端末100に無線送信することができる。
【0061】
或いは、CANゲートウェイ88に設ける電子制御ユニット89が、このモバイル端末100から無線送信される情報を近距離無線通信機99を介して受信し、また、この受信した情報を電子制御ユニット89が、自動走行ネットワーク上又は車載ネットワーク上に流して、自動走行、或いは必要に応じて作業機等の制御に役立たせることができる。
【0062】
さらに、このモバイル端末100は、電子制御ユニット89から送信された情報を、個人で使用するパーソナルコンピュータや農事法人が所有する営農管理サーバー、或いはクラウドサービス事業者のサーバー等に転送して管理することができ、或いは、サーバー等に蓄積した情報をもとに新たな走行経路を作成して、この走行経路に基づいて作業走行を行うことを逆のルートで送信して指示する等、トラクタ1の自動走行等に役立たせることができ、これによりトラクタ1は一層拡大したネットワークを備えて、昨今提唱されるスマート農業を実現する各種の制御に対応可能となる。
【0063】
なお、以上説明したCANゲートウェイ88は、その電子制御ユニット89や近距離無線通信機99等の電子部品を取り付けた基板を、図10に示すように収容ケース101に内装する。また、収容ケース101内にウレタン樹脂等を注入して電子部品の防水性や防振性を向上させる。さらに、この収容ケース101は、運転席32の下方に設けるカバーの下方に配策するメイン電子制御ユニット60とフロントユニット61等を繋ぐ基幹となるワイヤーハーネス102に結束バンド103を用いて締結する。
【0064】
そのため、CANゲートウェイ88は、下方のトランスミッションケース4や上方の着脱可能なカバー等によって挟まれた雨水の掛かり難い空き空間に設けることができ、トラクタ1側にCANゲートウェイ88の設置スペースを予め用意しておく必要がない。また、このワイヤーハーネス102のCAN1バス本線ケーブル90から中継コネクタ91を引き出して、前述のようにCANゲートウェイ88に繋がるケーブル93を本線ケーブル90に接続すると、CANゲートウェイ88の取り付けとケーブル93、90の接続作業を一時に済ますことができる。
【0065】
そして、ここで以上説明したCANゲートウェイ88を設ける通信システムを用いた自動走行における具体的な制御内容の一端について説明すると、トラクタ1は作業機としてロータリ耕耘装置を後部に連結して圃場の耕耘作業を行う場合、ロータリ耕耘装置を圃場に接地させて1行程の耕耘作業を行う。また、トラクタ1は枕地に至るとロータリ耕耘装置を一旦上昇させて旋回等の方向修正を行い、その後に、再びロータリ耕耘装置を下降させて次行程の耕耘作業を行う。
【0066】
そこで、この耕耘作業を行う行程をトラクタ1が真っすぐに直進するように制御する自動直進制御は、事前に行ったティーチング走行等によって取得した作業走行における基準方位に基づいて、例えば、ロータリ耕耘装置の耕耘幅から重複して耕耘する幅を減算した所定の行程間隔を備える基準方位に平行な作業走行経路を作成し、この作業走行経路にトラクタ1が倣って走行するように自動操舵装置70を用いてステアリングホイール38を自動的に操舵する。
【0067】
そして、この場合に自動直進制御の開始と終了は、図11に示すようにナビゲーションソフトウェアをインストールするタブレット端末69の液晶ディスプレイに表示するガイダンス画面において、その開始/停止ボタン104を作業者がタップすることによって行うものとしている。
【0068】
そのため、1行程の作業走行を終えると作業者は係る開始/停止ボタン104をタップして自動直進制御を終了させると共に、操縦部に設けるクイックアップレバー50を上方に操作してロータリ耕耘装置を上昇させ、次いでステアリングホイール38を手動操作してトラクタ1の旋回を行う。また、次の作業行程に至ると作業者はクイックアップレバー50を下方に操作してロータリ耕耘装置を下降させて耕耘作業を開始すると共に、再び開始/停止ボタン104をタップして自動直進制御を開始させる、といった煩わしい操作が必要となる。
【0069】
しかし、この自動直進制御の開始と終了をロータリ耕耘装置の下降操作と上昇操作に連動させて行うように制御プログラムを修正すると、作業者は幾分かでも煩わしい操作から開放されてその負担を軽減することができる。従って、これを実現するためにクイックアップレバー50の上方や下方への操作は、そのクイックアップスイッチ105のオン/オフによってフロントユニット61が検出する(図4参照)。
【0070】
また、フロントユニット61は係る情報を車載ネットワークを介してメイン電子制御ユニット60に送信し、一方、メイン電子制御ユニット60は、このフロントユニット61からの情報に基づいて、自らが実行する作業機の昇降制御において、作業機の昇降装置を構成する油圧リフトシリンダを作動させる油圧電磁切換弁の上昇ソレノイド106や下降ソレノイド107に電流を流して、ロータリ耕耘装置を油圧リフトシリンダの伸縮作動によって昇降させる。
【0071】
そこで、自動走行システム側のGNSS-ECU72は、車載ネットワークにおけるフロントユニット61がメイン電子制御ユニット60に向けて発信する前述の作業機の昇降指令情報を、車載ネットワークとCANゲートウェイ88と自動走行ネットワークのCANバスを介して取得する。また、GNSS-ECU72は、係る情報に基づいて近距離無線通信機107を介してタブレット端末69に自動直進制御の開始、或いは終了を指令し、タブレット端末69はこれに基づいて自動直進制御の開始、或いは終了を実行する。
【0072】
従って、車載ネットワークと自動走行ネットワークを中継するCANゲートウェイ88を設けることによって、前述の一例の如くトラクタ1の作業機等の制御に関わる車載ネットワーク上の情報を、後付けする自動走行システムにおいて比較的簡単に取得することができて、その後付けする自動走行システムの自動走行において適切に活用することができる。また、CANゲートウェイ88が自動走行ネットワーク上の情報を車載ネットワーク上に流すようになすと、自動走行ネットワーク上に流れるトラクタ1の位置や方位、或いは時刻等の情報を、トラクタ1の作業機等の制御において必要に応じて活用することも可能になる。
【0073】
なお、前述の自動走行システムに設ける位置及び方位用の2つのアンテナ66は、図6においてトラクタ1の前進方向の左側に設けるアンテナ66を基準アンテナとし、また、右側に設けるアンテナ66を方位アンテナとしてトラクタ1の測位を行わせる。しかし、これらのアンテナ66はトラクタ1の前進方向に所定の間隔を隔てて一直線上に設けてもよい。そして、このようにアンテナ66の取り付け位置を変更する場合は、図12に示すようにタブレット端末69の液晶ディスプレイに表示するドキュメントボタン108をタップして、アンテナ66の設置位置の設定を変更する必要がある。
【0074】
そこで、この場合には表示されるトラクタ1のイラストや座標軸表示、並びに説明文や推奨設定値に基づいて、例えば、基準位置Rとなす後車軸13の左右中心からの基準アンテナ66の実測した取付位置をX、Y、Zの各入力欄に書き込む。また、方位アンテナ66は基準アンテナ66の前方に設置するので方位オフセットの入力欄に「0」を書き込むことによって誤りなく、衛星測位情報をトラクタ1の機体位置情報に変換することができる。
【0075】
なお、GNSSユニット74はトラクタ1の姿勢を検出する3軸のジャイロと3方向の加速度計からなる慣性計測装置109を備える。そのため、トラクタ1が左右方向や前後方向等に傾斜したとしても、この慣性計測装置109の計測結果に基づいてトラクタ1の基準位置Rにおける機体位置情報を正しく補正することができる。また、この慣性計測装置109のトラクタ1に対する取付情報を設定する場合にも、同様にトラクタ1のイラストや座標軸表示、並びに説明文や推奨設定値等が表示されていると誤りなく値を書き込むことができる。
【0076】
また、農研機構を主体として運用が開始されている農業データ連携基盤に示される地図(航空写真、地形図)、或いは、圃場筆ポリゴン等の情報の利用が進めば、パーソナルコンピュータ上において圃場の航空写真等からトラクタ1で作業を行う圃場を指定し、また、これに基づき画像処理を行って圃場の輪郭を抽出し、さらに、この輪郭の座標に対応する経緯度を地図に関連乃至対応付けられたデータからファイル形式で取得できれば、この情報に基づいてトラクタ1の走行経路を机上で検討することができる。
【0077】
そして、ここで作成したトラクタ1の走行経路を、モバイル端末100を経由して最終的にタブレット端末69に送信すれば、トラクタ1を指定した圃場において机上で作成した走行経路に倣って自動走行させることができ、例えば、圃場内の畦際に沿ってトラクタ1をティーチング走行させて緯経度を実測する手間を省くことができる。
【0078】
さらに、圃場においてトラクタ1がその作業機を下降させて実際に作業走行を行った際の位置情報を、CANゲートウェイ88の電子制御ユニット89が車載ネットワークと自動走行ネットワークから得て、この情報をモバイル端末100を経由して最終的にパーソナルコンピュータ等に圃場の番地、作業内容、作業日時等と共に保存する。そして、この情報を後日利用して例えば、その後の田植や苗の移植作業、或いは収穫作業を行う際の走行経路作成の参考情報として活用することができる。
【0079】
即ち、トラクタ1が実作業走行を行った位置情報から勘案して、圃場のある区間は真っすぐ走行していれば、その区間開始位置の経緯度情報と方位情報を記録し、また、その区間を過ぎると別の直線上に沿って走行するものであれば、この区間の開始位置の経緯度情報と方位情報を同様に記録しながら、圃場全体における走行経路を線分の連続する形態として作成する。そして、この作成した走行経路に沿って田植機やコンバイン、或いはトラクタを自動走行させることによって作業者の負担軽減を図ることができる。
【0080】
なお、実作業を行う作業走行経路に加えて枕地での旋回走行経路にあってもトラクタ1を特に無人で自動走行させる場合には、安全性を考慮してトラクタ1の進行方向に作業者や補助作業者が入ったことを障害物センサ(ステレオカメラ、ソナー、ミリ波レーダー、ライダー)によって検出してトラクタ1の走行を停止させるように構成する。そのため、このような作業の中断による損失を無くすためには、補助作業者等がトラクタ1の進行方向から常に退避している必要がある。
【0081】
しかし、トラクタ1が作業走行経路を直進していれば事前にその進行方向の前方から退避することができるが、旋回走行経路に差し掛かった場合にはその旋回方向が右となるか左になるか予測し難い場合があり、このような場合にはトラクタ1を往々にして停止させてしまう。そこで、係る問題を解決するために、トラクタ1の旋回走行経路に至る所定距離前の作業走行経路情報の中に旋回走行経路に至った際の旋回方向を示す情報を付加して走行経路を作成する。
【0082】
そして、トラクタ1がこの旋回走行経路に至る所定距離前の作業走行経路を通過すると、旋回方向となるウインカーランプ110や、別途トラクタ1に設ける3色灯の自動操作を表示するランプの点滅パターンを変化させて補助作業者等に報知し、また、トラクタ1が旋回走行経路を抜けるとランプを消灯させる。従って、このようにトラクタ1がこれから旋回する方向が明らかになれば、補助作業者等はトラクタ1の進行方向の前方に入らないように余裕をもって退避することができて、トラクタ1の作業中断を無くすことができる。
【符号の説明】
【0083】
1 トラクタ(作業車両)
60 メイン電子制御ユニット
61 フロントユニット
69 タブレット端末
72 GNSS-ECU
73 操舵ECU
76 駆動ユニット
88 CANゲートウェイ
89 ゲートウェイECU
90 CANバス本線ケーブル
91 中継コネクタ
92 CANゲートウェイ88に繋がるケーブル
95 自動走行ネットワークを構築するCANバスの本線ケーブル
96 支線ケーブル
97 CANゲートウェイ88に繋がるケーブル
100 モバイル端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12