(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124946
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】騒音低減設備
(51)【国際特許分類】
G10K 11/178 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
G10K11/178 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028827
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康夫
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】 人の感性を考慮して騒音を能動的に低減できる設備を提供する。
【解決手段】 本発明の騒音低減設備10は、音源Sからの入射音を検出するリファレンスマイク12と、入射音を低減させるために出力音を出力するスピーカ14と、スピーカ14を制御する制御装置20と、を備える。制御装置20は、リファレンスマイク12の検出結果と、リファレンスマイク12及びスピーカ14よりも音源Sから離れた位置での音に対するユーザの評価値とに基づいて、出力音に関する制御項目について設定値を設定し、設定値に応じた出力音をスピーカ14に出力させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの入射音を検出する検出器と、
前記入射音を低減させるために出力音を出力する出力器と、
前記出力器を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記検出器の検出結果と、前記検出器及び前記出力器よりも前記音源から離れた位置での音に対するユーザの評価値とに基づいて、前記出力音に関する制御項目について設定値を設定し、該設定値に応じた前記出力音を前記出力器に出力させる、騒音低減設備。
【請求項2】
前記検出器は、前記出力器よりも前記音源に近い位置で前記入射音を検出する第1検出器であり、
前記第1検出器及び前記出力器よりも前記音源から離れた位置で音を検出する第2検出器をさらに備え、
前記制御装置は、前記第1検出器の検出結果と、前記第2検出器にて検出された音に対する前記評価値に基づいて、前記設定値を設定する、請求項1に記載の騒音低減設備。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記ユーザによって入力された前記評価値を特定し、
前記評価値に対して設定された第1目標値を記憶し、
前記設定値を変えながら前記出力器を制御して前記出力音を前記設定値毎に出力させ、且つ、前記ユーザによって入力された前記評価値と前記第1目標値との第1差分を前記設定値毎に求め、前記第1差分が最小となるように前記設定値を設定する、請求項2に記載の騒音低減設備。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記第1検出器及び前記出力器よりも前記音源から離れた位置での音の強度に対して設定された第2目標値を記憶し、
前記設定値を変えながら前記出力器を制御して前記出力音を前記設定値毎に出力させ、且つ、前記第2検出器にて検出された音の前記強度と前記第2目標値との第2差分を前記設定値毎に求め、前記第2差分が最小となるように前記設定値を設定する、請求項3に記載の騒音低減設備。
【請求項5】
前記制御装置は、最急降下法により、前記第1差分及び前記第2差分の各々が最小となるように前記設定値を設定する、請求項4に記載の騒音低減設備。
【請求項6】
前記出力器及び前記第2検出器は、前記ユーザが居る部屋に設置されている、請求項2乃至5のいずれか一項に記載の騒音低減設備。
【請求項7】
前記制御装置は、前記出力音の位相、振幅、及び周波数のうち、少なくとも一つを前記制御項目として前記設定値を設定する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の騒音低減設備。
【請求項8】
前記ユーザによって操作され、前記ユーザによる前記評価値の入力を受け付ける操作端末を備え、
前記制御装置は、前記操作端末から前記評価値に関するデータを受信して前記評価値を特定する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の騒音低減設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音低減設備に係り、特に、騒音(ノイズ)を能動的に低減する騒音低減設備に関する。
【背景技術】
【0002】
アクティブノイズキャンセラ(ANC)、すなわち能動的に騒音を低減する騒音低減設備は、既に実用化されている(例えば、特許文献1参照)。能動的な騒音低減設備は、低減対象とする騒音に対して、同音圧(同振幅)且つ逆位相の制御音を出力し、この制御音との減殺的な干渉により騒音を低減する。
【0003】
従来から存在する能動的な騒音低減設備は、騒音の伝達系における伝達関数を自己適応させることにより、制御点に向けて出力すべき制御音の信号(以下、制御信号Y(n)という)を生成する適応フィルタを備える。適応フィルタは、制御信号Y(n)を生成する機能と、フィルタ係数W(n)を更新する機能と、を有する。
【0004】
例えば、フィードフォワード制御方式の適応フィルタでは、低減対象音の検出信号(以下、騒音信号X(n)という)に、フィルタ係数W(n)を乗算して制御信号Y(n)を生成する。これにより、制御信号Y(n)に対応する制御音が制御点に向けて出力される。また、制御点で検出される音に対応する誤差信号E(n)(低減対象音と制御音との差分、以下、誤差信号E(n)いう)に基づいて、誤差信号E(n)が最小となるように、フィルタ係数W(n)を逐次更新する。この場合、例えば、LMSアルゴリズム(LMS:Least Mean Square)などの最適化アルゴリズムが適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の能動的な騒音低減設備では、制御音の制御が収束する時点において、低減対象の音(つまり、騒音)が良好に低減されているとは限らず、特に、その空間内に居る人の感性や好みにとって必ずしも快適な環境となっていない可能性がある。また、上記の制御(特に、フィードフォワード制御)では、通常、複雑な演算処理を要するために相当の処理負荷が掛かる。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、人の感性を考慮して騒音を能動的に低減できる設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、本発明の騒音低減設備によれば、音源からの入射音を検出する検出器と、入射音を低減させるために出力音を出力する出力器と、出力器を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、検出器の検出結果と、検出器及び出力器よりも音源から離れた位置での音に対するユーザの評価値とに基づいて、出力音に関する制御項目について設定値を設定し、設定値に応じた出力音を出力器に出力させることにより解決される。
【0009】
上記のように構成された本発明の騒音低減設備によれば、出力音との干渉によって低減された音に対するユーザの評価値に基づいて出力器を制御することにより、人の感性(例えば、好み)を反映して騒音を低減することができる。これにより、例えば、消音効果(低減対象とする音の音圧レベルの低下)が小さかったとしても、ユーザの好みに応じた音、具体的には、不快感を軽減できる音質となるように出力音を調整することができる。
【0010】
また、上記の騒音低減設備において、検出器は、出力器よりも音源に近い位置で入射音を検出する第1検出器でもよく、本発明の騒音低減設備は、第1検出器及び出力器よりも音源から離れた位置で音を検出する第2検出器をさらに備えてもよい。この場合、制御装置は、第1検出器の検出結果と、第2検出器にて検出された音に対する評価値に基づいて、設定値を設定すると、好適である。
上記の構成では、出力音との干渉によって低減された音、具体的には残留騒音を第2検出器にて検出する。これにより、残留騒音を適切に検出し、その検出された音に対するユーザの評価値に基づいて出力器を制御することができる。
【0011】
また、上記の騒音低減設備において、制御装置は、ユーザによって入力された評価値を特定し、評価値に対して設定された第1目標値を記憶し、設定値を変えながら出力器を制御して出力音を設定値毎に出力させ、且つ、ユーザによって入力された評価値と第1目標値との第1差分を設定値毎に求め、第1差分が最小となるように設定値を設定すると、より好適である。
上記の構成によれば、低減された音に対するユーザの評価値が目標値(第1目標値)に近付くように出力器を制御することができる。その際、複雑な演算処理(デジタルフィルタ)を用いる必要がなく、より簡単な構成にて最適な設定値(解)を導出することができる。
【0012】
また、上記の騒音低減設備において、制御装置は、第1検出器及び出力器よりも音源から離れた位置での音の強度に対して設定された第2目標値を記憶し、設定値を変えながら出力器を制御して出力音を設定値毎に出力させ、且つ、第2検出器にて検出された音の強度と第2目標値との第2差分を設定値毎に求め、第2差分が最小となるように設定値を設定すると、さらに好適である。
上記の構成によれば、低減された音(詳しくは、残留騒音)の強度が目標値(第2目標値)に近付くように出力器を制御することができる。その際、複雑な演算処理(デジタルフィルタ)を用いる必要がなく、より簡単な構成にて最適な設定値(解)を決定することができる。
【0013】
また、上記の騒音低減設備において、制御装置は、最急降下法により、第1差分及び第2差分の各々が最小となるように設定値を設定すると、なお一層好適である。
上記の構成によれば、低減された音の強度と評価値のそれぞれが目標値に近付くように出力器を制御することができ、その際の設定値(解)は、最急降下法により適切に求めることができる。
【0014】
また、上記の騒音低減設備において、出力器及び第2検出器は、ユーザが居る部屋に設置されてもよい。
上記の構成によれば、ユーザが居る部屋で聞こえる音の評価値に基づいて出力器を制御することで、上記の部屋での音(残留騒音)による不快感を効果的に軽減することができる。
【0015】
また、上記の騒音低減設備において、制御装置は、出力音の位相、振幅、及び周波数のうち、少なくとも一つを制御項目として設定値を設定してもよい。
上記の構成によれば、出力音の位相、振幅、及び周波数のうち、少なくとも一つを制御項目として、騒音を適切に低減できるように設定値を設定することが可能となる。
【0016】
また、上記の騒音低減設備は、ユーザによって操作され、ユーザによる評価値の入力を受け付ける操作端末を備えてもよい。この場合、制御装置は、操作端末から評価値に関するデータを受信して評価値を特定すると、好適である。
上記の構成によれば、低減された音に対するユーザの評価値を適切に特定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の騒音低減設備によれば、出力音との干渉によって低減された音に対するユーザの評価値に基づく制御を通じて、ユーザの感性(例えば、好み)を反映して騒音を低減することができる。これにより、例えば、ユーザにとって不快感が軽減されるように騒音を低減することが可能となる。
また、本発明の騒音低減設備によれば、低減された音の強度、及び、その音に対するユーザの評価値が最適化するように出力器を制御する際に、複雑な演算処理を用いる必要がなく、より簡単な構成にて最適な制御条件(解)を導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る騒音低減設備の構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る制御装置の機能についての説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る制御構造を示す概念図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る騒音低減制御の基本フローを示す図である。
【
図5】
図4の基本フロー中、制御A,Bの流れを示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る騒音低減設備の構成を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る制御Bの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<<本発明の具体的な実施形態について>>
以下、本発明の二つの具体的な実施形態について、添付の図面(
図1~7)を参照しながら説明する。
なお、本明細書において、「装置」という概念には、所定の機能を一台で発揮する単一の装置が含まれるとともに、分散してそれぞれが独立して存在しつつも協働(連携)して所定の機能を発揮する複数の装置も含まれることとする。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る騒音低減設備10は、低減対象の音である騒音に対して、同音圧(同振幅)且つ逆位相の音を出力し、この出力音との干渉により騒音を能動的に低減するものであり、すなわちANCである。
【0021】
騒音低減設備10は、例えば、住宅又は施設等の建物内で利用され、具体的には、ユーザが居る部屋、又は騒音の音源Sが設置された部屋等を防音/消音する目的で利用される。ここで、ユーザとは、騒音低減設備10の利用者であり、例えば、騒音低減設備10の防音/消音効果が得られる部屋の利用者である。また、騒音の音源Sは、一般的な騒音の音源であり、特に、人が不快と感じる音の音源である。また、部屋は、壁(側壁)及び天井及び床によって仕切られた空間でもよく、オフィス内の1スペースのようなパーテンションによって仕切られた空間でもよい。
【0022】
第1実施形態に係る騒音低減設備10の機器構成は、
図1に示す通りであり、操作端末18を備える点を除き、一般的なANCとほぼ同様である。具体的に説明すると、騒音低減設備10は、第1検出器としてのリファレンスマイク12と、出力器としてのスピーカ14と、第2検出器としてのエラーマイク16とを有する。
なお、
図1に示す構成では、リファレンスマイク12、スピーカ14及びエラーマイク16が一組のみであるが、これらの機器のセットは、二組以上設けられてもよい。
【0023】
リファレンスマイク12は、検出器に相当し、スピーカ14よりも音源Sに近い位置で、音源Sからの入射音(すなわち、騒音ともいう)を検出する。リファレンスマイク12は、音源Sに比較的近い位置に配置されているのが好ましい。なお、本明細書において、音源Sに近い(遠い)とは、音源Sから放射される音の伝播経路において、音源S側に寄っている(離れている)ことを意味し、必ずしも直線距離での近さと一致するとは限らない。
【0024】
スピーカ14は、入射音を低減させるために出力音(音響波)を制御点に向けて出力し、例えば、ユーザが居る部屋において、出力音が所定方向に向かって出力されるように設置されている。
【0025】
エラーマイク16は、リファレンスマイク12及びスピーカ14よりも音源Sから離れた位置で音、詳しくは残留騒音を検出する。つまり、エラーマイク16は、対象とする騒音の消音偏差、すなわち誤差(エラー)を検出する。また、エラーマイク16は、指向性を有するマイクであり、例えば、ユーザが居る部屋において、所定方向に向いた状態で音を検出するように設置されている。
【0026】
騒音低減設備10は、
図1に示すように、スピーカ14を制御する制御装置20を有する。制御装置20は、制御回路又は汎用的なコンピュータ等によって構成され、プロセッサを備える。このプロセッサには、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及び、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるための専用の回路構成を有する専用電気回路等が含まれ得る。また、例えば、SoC(System on Chip)等に代表されるように、制御装置20に搭載された機能すべてを1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサも利用可能である。また、上記のプロセッサを構成するハードウェアは、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路(Circuitry)でもよい。
【0027】
制御装置20は、リファレンスマイク12及びエラーマイク16からの伝送信号に基づいて制御信号Y(n)を生成する。詳しく説明すると、制御装置20では、リファレンスマイク12が騒音を検出して出力するアナログ電気信号(以下、騒音信号X(n)という)のうち、低減対象とする周波数成分をバンドパスフィルタによって抽出する。抽出された信号は、増幅器によって増幅された後に、A/D変換器によりデジタル電気信号に変換される。その後、調整器により、変換後の信号の振幅及び位相が調整される。この際、位相は、例えば、抽出された信号に対して逆位相になるように調整される。
【0028】
バンドパスフィルタにより抽出される周波数、並びに、調整器により調整される振幅及び位相は、エラーマイク16による検出結果(厳密には、誤差信号E(n))に応じて設定される。具体的には、誤差がゼロ(0)と最小となるように周波数、振幅、位相及びフィルタ係数等が設定される。
【0029】
制御装置20は、上記の調整を経て制御信号Y(n)を生成してスピーカ14に伝送し、スピーカ14は、制御信号に応じた音(出力音)を制御点に向けて出力する。
【0030】
第1実施形態に係る騒音低減設備10は、
図1に示すように、ユーザによって操作される操作端末18を備える。操作端末18は、例えば、パソコン、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、情報入力が可能なテレビ受像機、ウェアラブル端末、又は通信機能を備えるその他の端末等によって構成される。操作端末18は、ユーザによる入力を受け付け、入力された内容を示すデータを制御装置20に送信する。
【0031】
具体的に説明すると、ユーザは、リファレンスマイク12及びスピーカ14よりも音源Sから離れた位置での音(つまり、残留騒音)に対する評価値を操作端末18にて入力する。より詳しく説明すると、騒音低減設備10により騒音が低減される空間(部屋)内に居るユーザは、エラーマイク16にて検出された音を、不図示のヘッドフォン等を通じて聴取する。なお、
図1に示す構成では、エラーマイク16が、ユーザに聴取させる音を収音する収音用マイクとして兼用されているが、これに限定されるものではなく、収音用マイクがエラーマイク16とは別に設けられてもよい。
【0032】
ユーザは、聴取した音に対する不快度又は好み等を数値(スコア)で評価し、そのスコアを評価値として操作端末18にて入力する。操作端末18は、ユーザによる評価値の入力を受け付けると、入力された評価値に関するデータを制御装置20に送信する。制御装置20は、操作端末18から評価値に関するデータを受信し、当該データから評価値を特定する。
【0033】
そして、制御装置20は、制御信号Y(n)を生成する際に、ユーザの評価値を用い、具体的には、評価値に基づいて、スピーカ14から出力される音(出力音)の周波数、振幅、位相、及びフィルタ係数等を調整する。
以下に、制御装置20の機能、及び制御装置20により実行される制御処理について詳しく説明する。
【0034】
制御装置20は、
図2に示すように、初期設定部21、目標記憶部22、評価値特定部23、設定部24、及び出力調整部25という機能部を有する。これらは、制御装置20に搭載されたプロセッサ及びメモリ等のハードウェア機器と、制御装置20に実装されたプログラム(すなわち、ソフトウェア)との協働によって実現される。
【0035】
初期設定部21は、制御用の初期設定を実施する。具体的に説明すると、初期設定部21は、リファレンスマイク12及びスピーカ14の各々の位置に関する情報、あるいは、リファレンスマイク12とスピーカ14との間の距離に関する情報等を取得する。これらの情報は、予め制御装置20に登録されており、また、ユーザが操作端末18を操作することで適宜変更可能である。そして、初期設定部21は、上記の位置情報又は距離情報から遅延時間を導出する。ここで、遅延時間とは、リファレンスマイク12とスピーカ14との間の距離から生じる制御遅延を相殺するための位相調整(位相変化)である。なお、遅延時間には、トランデューサによる遅延時間を含めてもよい。
【0036】
また、初期設定部21は、リファレンスマイク12が騒音を検出して出力するアナログ電気信号、すなわち騒音信号X(n)から、騒音の周波数特性を特定する。さらに、初期設定部21は、スピーカ14からの出力音に関する制御項目(詳しくは、振幅、位相及び周波数)の初期値、及び制御条件の初期値等を取得する。これらの情報は、騒音の周波数特性に応じて決められてもよく、あるいは、ユーザの入力値に基づいて決められてもよい。
【0037】
目標記憶部22は、第1目標値と第2目標値とを記憶する。第1目標値は、ユーザの評価値に対して設定された目標値であり、例えばユーザにとっての最高評価値である。第2目標値は、リファレンスマイク12及びスピーカ14よりも音源Sから離れた位置での音、すなわち残留騒音の強度(詳しくは音圧レベル)に対して設定された目標値であり、具体的には、音圧の最小値、例えばゼロ(0)である。第1目標値及び第2目標値は、ユーザにより操作端末18を介して入力されてもよく、あるいは制御装置20側で自動的に設定されてもよい。また、第1目標値及び第2目標値は、設定後に、ユーザ又は制御装置20によって適宜見直されてよい(変更されてもよい)。
【0038】
評価値特定部23は、ユーザによって評価値が入力された際に操作端末18から送信されるデータに基づいて、入力された評価値を特定する。
【0039】
設定部24は、リファレンスマイク12の検出結果と、評価値特定部23により特定されたユーザの評価値とに基づいて、スピーカ14からの出力音に関する制御項目について設定値を設定する。制御項目は、例えば、出力音の位相、振幅、及び周波数、並びにバンドパスフィルタのフィルタ係数である。設定部24は、これら4つの項目の各々を制御項目として設定値を設定する。ただし、これに限定されず、上記4つの項目のうちの1つを制御項目として設定値を設定してもよく、又は、2つ若しくは3つの項目を制御項目として各々の設定値を設定してもよい。
【0040】
出力調整部25は、設定部24により設定された制御項目の設定値に応じて制御信号Y(n)を生成する。具体的に説明すると、出力調整部25は、位相、振幅、及び周波数、並びにバンドパスフィルタのフィルタ係数を、それぞれの設定値に基づいて調整し、調整後の位相、振幅及び周波数にてスピーカ14から音が出力されるように制御信号Y(n)を生成する。
【0041】
以上のように構成された制御装置20では、初期設定部21により実施された初期設定の内容と、及び、目標記憶部22に記憶された第1目標値及び第2目標値とに基づいて、設定部24が各制御項目について初回の設定値を設定する。そして、出力調整部25が初回の設定値に応じて制御信号Y(n)を生成する。これにより、初回の設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音がスピーカ14から出力される。
【0042】
その後、制御装置20は、リファレンスマイク12の検出結果と、評価値特定部23により特定された評価値と、エラーマイク16の検出結果に基づいて、スピーカ14に対する制御を繰り返す。具体的に説明すると、設定部24が、リファレンスマイク12の検出結果と、評価値特定部23により特定された評価値と、エラーマイク16の検出結果に基づいて、各制御項目について設定値を変更する。設定値が変更されると、その都度、出力調整部25が変更後の設定値に応じて制御信号Y(n)を生成する。この結果、変更後の設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音がスピーカ14から出力される。
【0043】
つまり、制御装置20は、リファレンスマイク12の検出結果と、リファレンスマイク12及びスピーカ14よりも音源Sから離れた位置での音に対するユーザの評価値とに基づいて、出力音に関する制御項目について設定値を設定する。そして、制御装置20は、設定値に応じた出力音をスピーカ14に出力させる。
【0044】
上記の制御構造について
図3を参照しながら説明すると、制御装置20は、音の強度に関する制御(以下、制御A)と、ユーザの評価値に関する制御(以下、制御B)とを実施する。制御Aでは、各制御項目の設定値を変えながらスピーカ14を制御して出力音を設定値毎に出力させ、エラーマイク16にて検出された音の強度(音圧)と第2目標値との差分(以下、第2差分という)を設定値毎に求め、第2差分が最小となるように設定値を設定する。制御Bでは、各制御項目の設定値を変えながらスピーカ14を制御して出力音を設定値毎に出力させ、ユーザによって入力された評価値と第1目標値との差分(以下、第1差分という)を設定値毎に求め、第1差分が最小となるように設定値を設定する。
【0045】
なお、制御A、Bにおいて、制御装置20は、最急降下法により、第1差分及び第2差分の各々が最小となるように設定値を設定してもよい。ただし、制御A、Bにおいて第1差分及び第2差分が最小となるように設定値を設定する方法は、最急降下法に限定されず、その他の最適化手法(例えば、反復法等)を用いてもよい。
【0046】
制御装置20による制御処理の基本フローについて
図4を参照しながら説明すると、制御装置20が初期設定を実施した後に、リファレンスマイク12が騒音を検出する(S001、S002)。そして、制御装置20は、リファレンスマイク12の検出結果、具体的にはリファレンスマイク12から出力される騒音信号X(n)に基づき、出力音の周波数、位相及び振幅並びにフィルタ係数の各々について初回の設定値を設定する(S003)。その後、制御装置20は、初回の設定値に応じた制御信号Y(n)を生成する(S004)。生成された制御信号Y(n)は、スピーカ14に伝送される。
【0047】
以上の結果、初回の設定値に応じて周波数、位相及び振幅が調整された出力音がスピーカ14から出力される(S005)。この段階での出力音の位相は、騒音信号X(n)(厳密には、バンドパスフィルタによって抽出された信号)を単純に反転させた位相(逆位相)に調整されている。
【0048】
その後、制御装置20は、リファレンスマイク12の検出結果と、ユーザによって入力された評価値と、エラーマイク16の検出結果に基づいて上述の制御A及び制御Bを実行する(S006)。なお、第1実施形態では、エラーマイク16にて検出された音をユーザが聴いて操作端末18にて評価値を入力する。つまり、第1実施形態に係る評価値は、エラーマイク16にて検出された音に対する評価値であると言える。
【0049】
制御A、Bでは、設定値が適宜変更され、変更後の設定値に応じた制御信号Y(n)が生成される。この結果、設定値が変更される度に、変更後の設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音がスピーカ14から出力される。
【0050】
制御A、Bの実施ステップS006の流れについて
図5を参照しながら詳しく説明すると、制御A、Bの実施に際しては、先ず、リファレンスマイク12にて騒音を検出し、エラーマイク16にて残留騒音を検出する(S011、S012)。また、ユーザがエラーマイク16にて検出された音を聴き、その音に対する評価値を操作端末18にて入力する(S013)。制御装置20は、入力された評価値に関するデータを操作端末18から受信することで評価値を特定する。
【0051】
次に、制御装置20は、現時点で第2差分が最小であるか、つまり、エラーマイク16にて検出される音の音圧が第2目標値に到達しているかを判定する(S014)。第2差分が最小である場合には、ステップS018に移行する。
【0052】
他方、第2差分が最小でない場合、制御装置20は、前回の設定値の設定時点から所定時間が経過したタイミングで設定値を変更する(S015)。この際、設定値が変更される制御項目、及び、設定値の変更度合い等は、ランダムに決めてもよく、一定のルールに従って決めてもよい。また、変更後の設定値を決める際には、第2差分が効率よく最小化するように決めるのが望ましく、例えば最急降下法を適用して決めるとよい。
【0053】
そして、制御装置20が変更後の設定値に応じた制御信号を生成する(S016)。この結果、変更後の設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音がスピーカ14から出力される(S017)。その後、S011に戻り、S011以降のステップを繰り返す。なお、設定値した変更後にエラーマイク16にて検出される音の音圧がこれまでの最小値である場合、制御装置20は、その時点の設定値を記録する。
【0054】
ステップS018では、現時点で第1差分が最小であるか、つまり、ユーザの評価値が第1目標値(評価値の最高値)に到達しているかを判定する。第1差分が最小でない場合、ステップS015に移行し、すなわち、制御装置20は、前回の設定値の設定時点から所定時間が経過したタイミングで設定値を変更する。なお、変更後の設定値を決める際には、第1差分が効率よく最小化するように決めるのが望ましく、例えば最急降下法を適用して決めるとよい。
【0055】
その後、ステップS016、S017を実施した後、ステップS011に戻り、S011以降のステップを繰り返す。なお、設定値を変更した後の評価値がこれまでの最高値である場合、制御装置20は、その時点の設定値を記録する。
【0056】
一方、ステップS018において、第1差分が最小である場合、制御装置20は、その時点の設定値を記録する(S019)。このステップS019、制御装置20は、エラーマイク16にて検出された音(残留騒音)の音圧の現在値、及び、その時点でのユーザの評価値を併せて記録するとよい。
【0057】
ステップS019以降、制御装置20は、ステップS019にて記録された設定値を維持し、その設定値に基づいてスピーカ14を制御する。具体的には、第1差分及び第2差分を最小化させる設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音をスピーカ14から出力させる制御が続行される。
【0058】
以上までに説明してきたように、第1実施形態では、残留騒音に対するユーザの評価値に基づいてスピーカ14からの出力音を制御することにより、ユーザの感性(好み)を考慮して騒音を低減させることができる。この場合、例えば、騒音低減効果(つまり、騒音の音圧レベルの減少度合い)が小さかったとしても、残留騒音に起因するユーザの不快感を低減させるようにスピーカ14の出力音を制御することができる。
また、設定値を変更させながら最適な設定値(解)を導出することで、従来のANCの制御(例えば、LMSアルゴリズムを適用した制御)のように複雑な演算を必要とせず、より簡単な構成にて、スピーカ14からの出力音を制御することができる。
さらに、エラーマイク16が検出した音の強度(音圧)のみに基づいて設定値を設定する場合には、設定値が定まらずに解が発散することがあり得る。これに対して、第1実施形態によれば、ユーザの評価値を踏まえて設定値を設定するため、解の発散を抑えることができ、何らかの妥当な設定値が得られる。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る騒音低減設備10Xは、
図6に示すように、エラーマイク16を備えていない点を除き、第1実施形態と同様の構成である。以下では、第2実施形態について、第1実施形態と相違する点を主に説明することとする。なお、
図6に示す機器のうち、第1実施形態と共通する機器には、第1実施形態における符号(つまり、
図1に示されている符号)と同じ符号が付されている。
【0060】
第2実施形態に係る騒音低減設備10Xでは、エラーマイク16が備えられておらず、ユーザは、リファレンスマイク12及びスピーカ14よりも音源Sから離れた位置、具体的にはスピーカ14が設けられた部屋内で音(残留騒音)を直接聴くことになる。そして、ユーザは、直接聴いた残留騒音に対する評価値を操作端末18にて入力する。
【0061】
また、エラーマイク16が備えられていないため、制御装置20は、スピーカ14を制御する際に、エラーマイク16の検出結果を用いず、リファレンスマイク12の検出結果とユーザの評価値とに基づいて制御する。また、第2実施形態では、各制御項目(すなわち、出力音の振幅、位相及び周波数、並びにフィルタ係数)に対して重みが設定されており、各制御項目の重みは適宜変更される。
【0062】
第2実施形態における制御装置20による制御処理について説明すると、制御処理の基本フローは、第1実施形態と略同様である。他方、第2実施形態では、エラーマイク16による残留騒音の検出ステップがなく、ユーザの評価値に基づく制御Bが実施される一方で、エラーマイク16に基づく制御Aが実施されない。
【0063】
図7を参照しながら具体的に説明すると、第2実施形態では、制御Bの実施に際して、リファレンスマイク12にて騒音を検出する(S031)。また、ユーザは、低減された音(残留騒音)を部屋内で聴き、その音に対する評価値を操作端末18にて入力する(S032)。制御装置20は、入力された評価値に関するデータを操作端末18から受信することで評価値を特定する。
【0064】
次に、制御装置20は、現時点で第1差分が最小であるか、つまり、ユーザの評価値が第1目標値に到達しているかどうかを判定する(S033)。第1差分が最小でない場合、前回の設定値の設定時点から所定時間が経過したタイミングで設定値を変更する(S034)。この際、各制御項目の設定値を満遍なく変更するが、それぞれの設定値の変更量は、各制御項目に対する重みに応じて決定される。各制御項目の重みは、例えば、所定時間が経過する度に変更されてもよい。この際、各制御項目の重みを順番に変えてもよいし、あるいは、評価値に基づいて各制御項目に対して設定された優先順位に応じた順序で変えてもよい。また、変更後の設定値、及び各制御項目の重みを決める際には、第1差分が効率よく最小化するように決めるのが望ましく、例えば最急降下法を適用して決めるとよい。
【0065】
そして、制御装置20が変更後の設定値に応じた制御信号を生成する(S035)。この結果、変更後の設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音がスピーカ14から出力される(S036)。その後、S031に戻り、S031以降のステップを繰り返す。なお、設定値を変更した後の評価値がこれまでの最高値である場合、制御装置20は、その時点の設定値を記録する。
【0066】
一方、ステップS033において、第1差分が最小である場合、制御装置20は、その時点の設定値と、その時点でのユーザの評価値とを記録する(S037)。そして、ステップS037以降、制御装置20は、ステップS037にて記録された設定値を維持し、その設定値に基づいてスピーカ14を制御する。つまり、第1差分が最小となる設定値に応じて位相、振幅及び周波数が調整された出力音をスピーカ14から出力させる制御が続行される。
【0067】
以上までに説明してきたように、第2実施形態においても、第1実施形態と同様、残留騒音に対するユーザの評価値に基づいてスピーカ14からの出力音を制御することにより、ユーザの感性(好み)を考慮して騒音を低減させることができる。
また、設定値及び重みを変更させながら最適な設定値を導出することで、従来のANCの制御のように複雑な演算を必要とせず、より簡単な構成にて、スピーカ14からの出力音を制御することができる。また、ユーザの評価値を踏まえて設定値を設定するため、解の発散を抑えることができ、何らかの妥当な設定値が得られる。
さらに、エラーマイク16を備えていない分、第1実施形態よりも騒音低減設備10Xの機器構成が簡素化され、これに付随して制御構造もシンプルなものとなる。
【0068】
<<その他の実施形態について>>
以上までに、本発明の騒音低減設備、及び、騒音低減設備における制御方法について、幾つかの具体的な実施形態を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれることは勿論である。
【0069】
上記の実施形態では、音に対するユーザの評価値は、操作端末18にて入力することとしたが、評価値の入力方式は、特に限定されず、制御装置20に対して評価値を直接入力してもよい。
【0070】
また、上記の実施形態(具体的には、第1実施形態)では、エラーマイク16にて検出された音をユーザが聞くこととした。この場合、エラーマイク16の設置位置と、ユーザが音を聞く位置は、必ずしも一致していなくてもよく、例えば、ユーザは、エラーマイク16から離れた位置にて、エラーマイク16にて検出された音を聞いてもよい。
【0071】
また、上記の実施形態(具体的には、第1実施形態)では、音の強度に関する制御A、及び、ユーザの評価値に関する制御Bのうち、制御Aを優先的に実施し、音圧を下げることを重視することとしたが、これに限定されるものではない。例えば、ユーザの評価値を重視してもよく、具体的には、制御Aを実施して音の強度(音圧)がある程度下げられた場合、その後には制御Bを優先的に実施してもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 騒音低減設備
10X 騒音低減装置
12 リファレンスマイク
14 スピーカ
16 エラーマイク
18 操作端末
20 制御装置
21 初期設定部
22 目標記憶部
23 評価値特定部
24 設定部
25 出力調整部
S 音源