(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125047
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/41 20060101AFI20230831BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20230831BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61K31/41 ZNA
A61P7/02
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028955
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 信央
(72)【発明者】
【氏名】猪口 貞樹
(72)【発明者】
【氏名】平山 令明
(72)【発明者】
【氏名】城所 正子
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 よし子
(72)【発明者】
【氏名】萩原 早苗
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC62
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA54
4C086ZC42
(57)【要約】 (修正有)
【課題】PDPNとCLEC-2との結合による血小板活性化から発生する血小板凝集を阻害し、かつ活性化惹起物質に対して選択性の高い化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1):
で表される化合物を含むCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤である。(式中、nは0~5の整数であり、R
1は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基またはC1-C6アルコキシ基であり、Arは、置換もしくは無置換のフェニル基または置換もしくは無置換のナフチル基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含むCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤。
【化1】
式中、nは0~5の整数であり、R
1は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基またはC1-C6アルコキシ基であり、
Arは、置換もしくは無置換のフェニル基または置換もしくは無置換のナフチル基であり、
Arが、
【化2】
である場合、
mは0~5の整数であり、R
2は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、またはC1-C6ハロゲン化アルキル基であり、
Arが、
【化3】
または
【化4】
である場合、
m’は0~5の整数であり、R
3は、ナフチル環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、またはC1-C6ハロゲン化アルキル基である。
【請求項2】
前記一般式(1)中、
R1は、それぞれ独立に、メチル基またはメトキシ基であり、
R2および3は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、またはトリフルオロメチル基である、請求項1に記載の拮抗剤。
【請求項3】
n、mおよびm’は、それぞれ独立に、0~3の整数である、請求項1または2に記載の拮抗剤。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の拮抗剤を含む血小板凝集抑制剤。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載の拮抗剤を含む抗血栓薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤に関する。さらに、本発明は、CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤を含む血小板凝集抑制剤または抗血栓薬に関する。
【背景技術】
【0002】
血栓症は動脈、静脈を問わず多くの疾患に頻発し、実質的に日本人の死因の上位を占める。動脈硬化巣(プラーク)の崩壊などが引き金となる動脈血栓は脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こす。寝たきりの入院患者では下肢に深部静脈血栓が頻発し、これは致死率の高い肺梗塞を引き起こす。末期癌や敗血症などの感染症では全身の微小血管に血栓が生じる播種性血管内凝固症候群(DIC)を頻発し、多臓器不全を引き起こす。
【0003】
これら血栓症の発症に重要な役割を果たすのが血小板である。血小板は一旦活性化が起こると、アデノシン二リン酸(ADP)やトロンボキサンA2(TxA2)を放出し、これが周囲の血小板に作用し連鎖反応的に活性化を引き起こす。現在臨床で用いられている抗血小板薬はADP受容体阻害剤(クロピドグレルなど)とTxA2産生を抑えるシクロオキシゲナーゼ阻害剤(アスピリンなど)である。これらは、連鎖反応的な活性化を抑えるため幅広い適用が可能である反面、出血リスクを高める欠点があり、活性化惹起物質に対して選択性の高い薬剤の出現が望まれている(非特許文献1)。
【0004】
ところで、血小板活性化ドメインを有する膜タンパク質としてポドプラニン(PDPN)が知られている。PDPNは血小板膜上のC-type lectin-like receptor2(CLEC-2)と結合してCLEC-2をクラスター化し血小板を活性化する。通常、PDPNはリンパ管の内皮細胞など、血小板と接触のない組織・部位に発現しているが、ある種の癌細胞、ならびに感染・炎症時に活性化された血管内皮細胞やマクロファージ、動脈硬化巣に集積したマクロファージにも発現し、血小板活性化を介して血栓形成に寄与する。したがってPDPNとCLEC-2との結合を阻害できる化合物は、このような炎症性疾患に付随する血栓症に対して選択的な抗血小板作用を示す可能性があり注目を集めている。
【0005】
PDPNとCLEC-2との結合による血小板活性化から発生する血栓等の血小板凝集を阻害する化合物として、非特許文献2にはベンゾイルニトロスチレン誘導体(2CP)が開示され、非特許文献3と特許文献1にはコバルト配位ヘマトポルフィリンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2017/119417(特許6805470)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nat Rev Drug Discov., 19, 333, 2020.
【非特許文献2】Oncotarget, 2015, 6, 42733.
【非特許文献3】Blood Adv. 2018, 2, 2214.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の二種類の化合物は実用化に至っていない。よって、PDPNとCLEC-2との相互作用を阻害できる化合物の開発が求められている。また、出血リスクを少なくするためには、血小板活性化惹起物質に対して選択性の高い化合物の開発が求められている。
【0009】
よって、本発明は、PDPNとCLEC-2との結合による血小板活性化から発生する血小板凝集を阻害しかつ活性化惹起物質に対して選択性の高い化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、PDPN誘導性の血小板凝集を阻害しかつ血小板活性化惹起物質に対して高い選択性を有する化合物を見出した。
【0011】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を含むCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤。
【化1】
式中、nは0~5の整数であり、R
1は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基またはC1-C6アルコキシ基であり、
Arは、置換もしくは無置換のフェニル基または置換もしくは無置換のナフチル基であり、
Arが、
【化2】
である場合、
mは0~5の整数であり、R
2は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、またはC1-C6ハロゲン化アルキル基であり、
Arが、
【化3】
または
【化4】
である場合、
m’は0~5の整数であり、R
3は、ナフチル環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、またはC1-C6ハロゲン化アルキル基である。
[2] 前記一般式(1)中、
R
1は、それぞれ独立に、メチル基またはメトキシ基であり、
R
2および
3は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、またはトリフルオロメチル基である、[1]に記載の拮抗剤。
[3] n、mおよびm’は、それぞれ独立に、0~3の整数である、[1]または[2]に記載の拮抗剤。
[4] [1]から[3]の何れか一に記載の拮抗剤を含む血小板凝集抑制剤。
[5] [1]から[3]の何れか一に記載の拮抗剤を含む抗血栓薬。
[6] [1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の治療的有効量を対象に投与することを含む、それを必要とする対象のCLEC-2および/またはGPVIをアンタゴナイズする方法。
[7] [1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の治療的有効量を対象に投与することを含む、それを必要とする対象の血小板凝集を抑制する方法。
[8] [1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の治療的有効量を対象に投与することを含む、それを必要とする対象の血栓症を治療または予防する方法。
[9] CLEC-2および/またはGPVIの拮抗に使用するための、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物。
[10] 対象の血小板凝集を抑制する方法に使用するための、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物。
[11] 対象の血栓症を治療または予防する方法に使用するための、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物。
[12] CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤の製造における、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の使用。
[13] 血小板凝集を抑制する医薬の製造における、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の使用。
[14] 血栓症を治療または予防するための医薬の製造における、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の使用。
[15] 対象においてCLEC-2および/またはGPVIをアンタゴナイズする方法における、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の使用。
[16] 対象の血小板凝集を抑制する方法における、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の使用。
[17] 対象の血栓症を治療または予防する方法における、[1]から[3]の何れか一に定義した一般式(1)を有する化合物の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、PDPNとCLEC-2との結合による血小板活性化から発生する血小板凝集を阻害しかつ活性化惹起物質に対して選択性の高い化合物を提供することができる。本発明によれば、CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤、血小板凝集抑制剤および抗血栓薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】CLEC-2によるPDPNのプルダウンと、スロットブロットによるPDPN量の測定を模式的に示した図である。この評価系では、被検化合物がCLEC-2とPDPNとの結合を阻害するとプルダウンされるPDPNの量が低下する。
【
図1B】スロットブロットによるPDPN量の測定結果の一部を示す図である。
【
図1C-1】
図1Bの、化合物1、化合物2、化合物4および化合物5による阻害効果を定量化したグラフである。
【
図1C-2】
図1Bの、化合物7、化合物8、化合物10および化合物11による阻害効果を定量化したグラフである。
【
図1C-3】
図1Bの、化合物3、化合物9、化合物6および化合物12による阻害効果を定量化したグラフである。
【0014】
【
図2-1】ヒト洗浄血小板(1×10
9/mL)のPDPN-CHO細胞(2×10
6/mL)による惹起による凝集に対して、12種類のCLEC-2阻害化合物が50μMにおいて完全抑制を示すことを示す結果である。血小板凝集反応が起こると血小板懸濁液の透過率(transparency(%))が上昇する。(A)化合物1、化合物2、化合物11、(B)化合物4、化合物5、化合物6、(C)化合物3、化合物7、化合物10、(D)化合物8、化合物9、化合物12。
【
図2-2】
図2-1の続き。(E)Cangrelor(3.12μM)、(F)凝集抑制の度合いを示すため、各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。PDPN誘導血小板凝集に対しては、いずれの化合物にも抑制作用があることが示された。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0015】
【
図3】ヒト洗浄血小板(1×10
9/mL)のPDPN-CHO細胞(2×10
6/mL)による惹起による凝集に対する化合物1、化合物5、化合物11による抑制作用の濃度依存性を示す結果である。(A)化合物1、(B)化合物5、(C)化合物11。これらの化合物は、<6.25μMで凝集を完全抑制できる。
【0016】
【
図4-1】ヒト洗浄血小板(5×10
8/mL)の抗CLEC-2ポリクローナル抗体(4μg/mL)によるCLEC-2クラスター化による凝集に対する12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける影響を示す結果である。(A)化合物1、化合物5、化合物11、(B)化合物3、化合物8、化合物12、(C)化合物2、化合物6、化合物9、(D)化合物4、化合物7、化合物10。
【
図4-2】
図4-1の続き。(E)Cangrelor(3.12μM)、(F)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。抗CLEC-2抗体誘導血小板凝集に対しては、Cangrelorと異なり、いずれの化合物にもほとんど抑制作用がないことが示された。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0017】
【
図5-1】ヒト洗浄血小板(3×10
8/mL)のトロンビン(0.5U/mL)惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける影響を示す結果である。(A)化合物1、化合物5、化合物11、(B)化合物4、化合物2、化合物6、(C)化合物3、化合物7、化合物10、(D)化合物8、化合物9、化合物12。
【
図5-2】
図5-1の続き。(E)Cangrelor(6.25μM)、(F)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。トロンビン誘導血小板凝集に対しては、いずれの化合物にも抑制作用がないことが示された。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0018】
【
図6-1】ヒト洗浄血小板(3×10
8/mL)のADP(20μM)+フィブリノーゲン(0.6mg/mL)惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける影響を示す結果である。(A)化合物1、化合物5、化合物11、(B)化合物2、化合物6、化合物7、(C)化合物8、化合物9、化合物12、(D)化合物3、化合物4、化合物8。
【
図6-2】
図6-1の続き。(E)化合物10、化合物12、(F)Cangrelor(3.1μM)、(G)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。ADP誘導血小板凝集に対しては、Cangrelorと異なり、いずれの化合物にも抑制作用がないことが示された。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0019】
【
図7-1】ヒト洗浄血小板(1×10
9/mL)のコラーゲン(2μg/mL)惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける影響を示す結果である。(A)化合物5、化合物6、化合物11、(B)化合物8、化合物9、化合物12、(C)化合物4、化合物7(D)化合物3、化合物10。
【
図7-2】
図7-1の続き。(E)化合物1、化合物2、化合物11、(F)Cangrelor(3.12μM)、(G)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。コラーゲン誘導血小板凝集に対しては、程度に違いはあるが、いずれの化合物にも抑制作用があることが示された。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0020】
【
図8】ヒト洗浄血小板(1×10
9/mL)のコラーゲン(2μg/mL)惹起による凝集に対する、選抜化合物(A)化合物1、(B)化合物5、(C)化合物11による抑制作用の濃度依存性を示すグラフである。
【0021】
【
図9-1】マウス洗浄血小板(1×10
9/mL)のPDPN-CHO細胞(2×10
6/mL)による惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の100μMにおける抑制効果を示す結果である。(A)化合物1、化合物9、化合物11、(B)化合物2、化合物3、化合物6、(C)化合物5、化合物7、化合物11、(D)化合物4、化合物8、化合物10。
【
図9-2】
図9-1の続き。(E)Cangrelor(3.1μM)、(F)100μMにおける各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【
図10】マウス洗浄血小板(1×10
9/mL)のPDPN-CHO細胞(2×10
6/mL)による惹起による凝集に対する、選抜化合物の化合物1、化合物5、化合物11による抑制作用の濃度依存性を示す結果である。(A)化合物1、(B)化合物5、(C)化合物11。
【0022】
【
図11-1】マウス洗浄血小板(3×10
8/mL)のトロンビン(0.5U/mL)惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける抑制効果を示す結果である。(A)化合物1、化合物5、化合物11、(B)化合物3、化合物4、化合物8、(C)化合物2、化合物10、化合物12、(D)化合物3、化合物4、化合物8。
【
図11-2】
図11-1の続き。(E)Cangrelor(3.1μM)、(F)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0023】
【
図12-1】マウス洗浄血小板(5×10
8/mL)のADP(50μM)+フィブリノーゲン(0.6mg/mL)惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける抑制効果を示す結果である。(A)化合物1、化合物2、化合物3、(B)化合物4、化合物5、化合物6、(C)化合物7、化合物8、化合物9、(D)化合物10、化合物11、化合物12。
【
図12-2】
図12-1の続き。(E)Cangrelor(3.1μM)、(F)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0024】
【
図13-1】マウス洗浄血小板(1×10
9/mL)のコラーゲン(2μg/mL)惹起による凝集に対する、12種類のCLEC-2阻害化合物の50μMにおける抑制効果を示す結果である。(A)化合物2、化合物4、化合物6、(B)化合物5、化合物8、化合物12、(C)化合物3、化合物10、化合物11、(D)化合物1、化合物7、化合物9。
【
図13-2】
図13-1の続き。(E)Cangrelor(3.1μM)、(F)各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。グラフ中、CangrelorをCangと記載した。
【0025】
【
図14】マウス洗浄血小板(1×10
9/mL)のコラーゲン(2μg/mL)惹起による凝集に対する、化合物1、化合物5、化合物11による抑制作用の濃度依存性を示す結果である。(A)化合物1、(B)化合物5、(C)化合物11。
【0026】
【
図15】コラーゲン受容体であるGPVIと化合物5(A)または化合物11(B)との相互作用をin silico化合物ドッキングシミュレーションした図である。CRP(コラーゲン関連ペプチド)は参照として示す。GPVI:リボンモデル(マンガモデル)、化合物5(A)および化合物11(B):空間充填モデル、CRP:表面モデル。
【0027】
【
図16】血小板の電顕像を示す。untreated:非処理の血小板像、PDPN+DMSO:DMSO(コントロール)の存在下PDPN処理された血小板像、PDPN+化合物5:50μMの化合物5の存在下PDPN処理された血小板像、コラーゲン+DMSO:DMSO(コントロール)の存在下コラーゲン処理された血小板像、コラーゲン+化合物5:50μMの化合物5の存在下コラーゲン処理された血小板像。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に記載する本発明の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0029】
本明細書において、特に断らない限り、各用語は、次の意味を有する。
予防とは、発症の阻害、発症リスクの低減または発症の遅延などを意味する。
治療とは、疾患または症状の改善または進行の抑制などを意味する。
治療的有効量とは、投与された場合(単回投与として、または複数回投与の時間経過として)、疾患症状の重症度の減少、疾患症状のない期間の頻度および期間の増加、または疾患の苦痛による障害または障害の予防によって証明される疾患退縮を促進する量を含む。治療的有効量は、疾患を発症するリスクがあるか、または疾患の再発を患うリスクがある対象に投与された場合、疾患の発症または再発を阻害する量である「予防的有効量」を含む。
対象とは、ヒトを含む哺乳動物を意味する。
【0030】
(CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤)
本発明のCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤は、N,3―ジアリール-2-テトラゾール-プロパンアミド化合物を含み、より具体的には下記一般式(1)で表される化合物を含む。
【0031】
前記CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤は、血小板膜上の血小板活性化惹起物質受容体であるCLEC-2および/またはGPVIの機能を抑制する作用を有する。
【0032】
CLEC-2(C-type lectin-like receptor2)は、血小板上に発現する膜タンパク質である。CLEC-2の生体内リガンドは、PDPN(ポドプラニン)である。PDPNは、血小板活性化ドメインを有する膜タンパク質であり、リンパ管上皮や腎臓ポドサイトなどに構成的に発現する。CLEC-2がPDPNにより活性化されると、血小板凝集が促進され、血栓形成が促進される。本発明の拮抗剤は、CLEC-2に特異的に結合するか、またはPDPNと競合することによりCLEC-2の機能を抑制する拮抗剤として機能する。
【0033】
GPVI(Glycoprotein VI)は、巨核球、血小板上に発現する、1型膜貫通型受容体であり、コラーゲン結合領域を含む2つのイムノグロブリンドメインを有し、コラーゲンによる血小板の活性化に関与する。GPVIのアゴニストとして、コラーゲン(I型およびIII型)のほか、クロスリンクしたCRP(コラーゲン関連ペプチド)などが知られている(血栓止血誌18(1):61-65、2007)。血管損傷部位では、多段階の血小板凝集反応の1つとして、血小板のGPVIが、損傷部位のコラーゲンに結合し、活性化され、血小板血栓が形成される。本発明の拮抗剤は、GPVIに特異的に結合するか、またはコラーゲンやCRP等と競合することによりGPVIの機能を抑制する拮抗剤として機能する。
【0034】
前記CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤は、CLEC-2とPDPNとの結合を阻害する作用を有すること、および/またはGPVIとGPVIのアゴニスト(例えば、コラーゲンやCRP)との結合を阻害する作用を有することが好ましく、CLEC-2とPDPNとの結合を阻害する作用を有し、かつGPVIとGPVIのアゴニスト(例えば、コラーゲンやCRP)との結合を阻害する作用をすることがより好ましい。
【0035】
(一般式(1)で表される化合物)
【化5】
式中、nは0~5の整数であり、R
1は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基またはC1-C6アルコキシ基であり、
Arは、置換もしくは無置換のフェニル基または置換もしくは無置換のナフチル基であり、
Arが、
【化6】
である場合、
mは0~5の整数であり、R
2は、フェニル基の環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、またはC1-C6ハロゲン化アルキル基であり、好ましくは、C1-C3アルキル基、C1-C3アルコキシ基、またはC1-C3ハロゲン化アルキル基であり、
Arが、
【化7】
または
【化8】
である場合、
m’は0~5の整数であり、R
3は、ナフチル環上の置換基であり、それぞれ独立に、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基、またはC1-C6ハロゲン化アルキル基であり、好ましくは、C1-C3アルキル基、C1-C3アルコキシ基、またはC1-C3ハロゲン化アルキル基である。
【0036】
一般式(1)中、nは0~3の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、1または2であることがさらにより好ましい。R1は、それぞれ独立に、メチル基またはメトキシ基であることが好ましい。
【0037】
Arが、
【化9】
である場合、mは、0~3の整数であることが好ましく、1~3の整数であることがより好ましく、1または2であることがさらにより好ましい。R
2は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、またはトリフルオロメチル基であることが好ましい。
【0038】
Arが、
【化10】
または
【化11】
である場合、m’は0~3の整数であることが好ましい。R
3は任意選択的であり、m’は0であってもよく、一般式(1)のArは無置換の1-ナフチルまたは2-ナフチルであり得る。m’が1以上の整数である場合、R
3は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、またはトリフルオロメチル基であり得る。
【0039】
本発明で用いる化合物としては、さらに好ましくは、一般式(1)中、
nは1または2であり、R
1は、それぞれ独立に、メチル基またはメトキシ基であり、および
Arが、
【化12】
であり、mは1または2であり、R
2は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、またはトリフルオロメチル基であるか、または
Arが、無置換のナフチル基である。
【0040】
R1、R2、およびR3の置換位置は、それぞれ独立に、任意である。特に限定されないが、R2がイソプロピル基のとき、窒素原子に対してパラ位であることが好ましい。
【0041】
「C1-C6アルキル基」は、炭素原子が1~6個の直鎖または分枝鎖のアルキル分子を意味し、非限定的な例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基および1,3-ジメチルブチル基が挙げられる。
【0042】
「C1-C6アルコキシ基」は、酸素原子を介して主鎖の炭素原子と結合する、上に定義したアルキル基を意味し、非限定的な例として、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
【0043】
「C1-C6ハロゲン化アルキル基」は、1個以上のハロゲン原子で置換されたアルキルを意味し、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基が挙げられる。
【0044】
前記一般式(1)で表される化合物は、全ての立体異性体(例えば、シス-トランス異性体)および全ての光学異性体(例えば、RおよびS鏡像異性体)をとり得る場合があり、その場合、いずれかの構造、あるいはそれら複数が混在した状態、すなわち、そのような異性体のラセミ体および他の混合物で用いることができる。全ての立体異性体が本発明の特許請求の範囲内に包含されるが、当業者であれば、特定の立体異性体が好ましいことを認識し得る。
【0045】
前記一般式(1)で表される化合物は、その薬学的に許容される塩、またはそれらの水和物もしくはそれらの溶媒和物として用いてもよい。塩としては、塩酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩や、酢酸、プロピオン酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸および安息香酸等の有機酸との塩が挙げられる。塩や遊離形態の化合物の他、これらの任意の水和物あるいは溶媒和物を有効成分として用いてもよい。上記の溶媒和物を形成し得る溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン等が挙げられる。
【0046】
前記一般式(1)で表される化合物としては、以下を挙げることができるが、これらに限定されない。
【化13】
【化14】
【0047】
前記一般式(1)で表される化合物は、化学合成法により製造することができる。また、一般式(1)で表される化合物は、ナミキ商事株式会社(サプライヤー:ASINEX社、Princeton Biomolecular社、Vitas-M Laboratory社)から購入することができる。
【0048】
被検化合物がCLEC-2とその生体内リガンドであるPDPNとの結合を阻害する作用を有することは、後記する実施例のとおり、本発明者らによって開発されたin vitro 化合物結合阻害能評価系であるプルダウンースロットブロット系を用いて評価することができる(Watanabe N et al. (2019) A pull-down and slot blot-based screening system for inhibitor compounds of the podoplanin-CLEC-2 interaction. PLoS ONE 14(9): e0222331)。in vitro化合物結合阻害能評価系の前に、in silico化合物ドッキングシミュレーションを行い、候補化合物をスクリーニングしてもよい。
【0049】
一般式(1)で表される化合物が抗血小板凝集作用を有することは、後記する実施例のとおり、被検化合物の存在下、血小板懸濁液に種々の血小板活性化惹起物質を添加し、血小板懸濁液の透過率(transparency(%))を、血小板凝集測定装置を用いて測定することにより、検証することができる。血小板凝集反応が起こると血小板懸濁液の透過率(%)が上昇する。血小板活性化惹起物質としては、PDPN(ポドプラニン)、コラーゲン、CRP(コラーゲン関連ペプチド)、トロンビン、アデノシン二リン酸(ADP)やトロンボキサンA2(TxA2)などを挙げることができるが、これらに限定されない。これらの受容体としては、ポドプラニン受容体(CELEC-2)、コラーゲン受容体(GPIb-IV-V複合体、GPVI、GPIa/IIa)、トロンビン受容体(PAR1)、ADP受容体(P2Y12)、トロンボキサンA2受容体(TP)を挙げることができる。
【0050】
一般式(1)で表される化合物が抗血小板凝集作用を有することは、電子顕微鏡等を用いて、血小板の形態を観察することにより検証することができる。血小板は、正常時、凹凸のない滑らかな表面を有するが、出血時には血小板活性化惹起物質により血小板内の細胞骨格系が変化し、多数の長い突起を出し、それと同時に新たに細胞膜上に細胞接着因子が発現する。In vitroでも、血小板懸濁液に血小板活性化惹起物質を添加すると、通常、血小板に多数の長い突起が現れる。被検化合物の存在下、血小板懸濁液に特定の血小板活性化惹起物質を添加し、突起の出現が観察されないかまたは突起の数が被検化合物の非存在下と比較して減少する場合、被検化合物が、その特定の血小板活性化惹起物質による血小板活性化を抑制しているということができる。
【0051】
本発明のCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤は、PDPN誘導血小板凝集を強力に阻害することができる(<6.25μMで完全抑制)。またコラーゲン誘導血小板凝集も抑制することができる(<12.5μMで完全抑制)。一方で、本発明のCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤は、抗CLEC-2抗体、トロンビンおよびADPのそれぞれにより誘導される血小板凝集を抑制せず、PDPNおよびコラーゲンのそれぞれにより誘導される血小板凝集を選択的に阻害することができる。血小板活性化惹起物質に対して選択性の高い化合物は、多数の活性化惹起物質に適用が可能である化合物と比較して、出血リスクが低いと考えられる。
【0052】
(血小板凝集抑制剤および抗血栓薬)
前記CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤は、CLEC-2とPDPNとの結合を阻害する作用を有すること、および/またはGPVIとGPVIのアゴニスト(例えば、コラーゲンやCRP)との結合を阻害する作用を有することが好ましく、CLEC-2とPDPNとの結合を阻害する作用を有し、かつGPVIとGPVIのアゴニスト(例えば、コラーゲンやCRP)との結合を阻害する作用をすることがより好ましい。
【0053】
本発明の血小板凝集抑制剤は、本発明のCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤を含む。前記血小板凝集抑制剤は、血小板の凝集を抑制する作用を有する薬剤である。
【0054】
本発明の抗血栓薬は、本発明の前記CLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤を含む。前記抗血栓薬は、血栓の形成を抑制し、血管閉塞を予防する作用を有する薬剤である。
【0055】
前記血小板凝集抑制剤および前記抗血栓薬は、血小板膜上の血小板活性化惹起物質受容体であるCLEC-2および/またはGPVIの機能抑制を介して作用することが好ましく、CLEC-2とその生体内リガンドであるPDPNとの結合を阻害する作用を有することおよび/またはGPVIとそのアゴニスト(例えば、コラーゲンやCRP)との結合を阻害する作用をすることがより好ましい。
【0056】
(医薬組成物)
本発明のCLEC-2および/またはGPVIの拮抗剤、一般式(1)で表される化合物、血小板凝集抑制剤、および抗血栓薬の少なくともいずれかを含み、更に必要に応じて薬学的に許容可能な添加物などのその他の成分を含む医薬組成物も本発明の意図する範疇である。
【0057】
前記薬学的に許容可能な添加物としては、例えば等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、凍結保護剤、抗生物質等を例示できる。具体的には、水、エタノール、塩化ナトリウム、ブドウ糖、アルブミン等が挙げられる。また、薬学的に許容される添加物の別の例としては、賦形剤、結合剤、滑沢剤等を例示できる。賦形剤としては、例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、二酸化ケイ素等が挙げられる。結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ等が挙げられる。
【0058】
前記医薬組成物は、投与経路に応じて最適な剤形で処方される。医薬組成物は、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、カプセル剤等の固形製剤または液剤、ゼリー剤、シロップ剤等の経口投与用製剤であってもよく、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等の非経口投与用製剤であってもよい。
【0059】
本発明の医薬組成物の製造は、医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理規則に適合した条件(good manufacturing practice、GMP)で実施されることが好ましい。
【0060】
前記医薬組成物を投与する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて投与経路、投与タイミング、投与量、投与スケジュール等の投与条件を適宜選択することができる。前記投与経路としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、静脈内投与、経皮投与、経口投与が好ましい。
【0061】
前記医薬組成物の投与量としては、特に制限はなく、処置を必要とする対象の疾患状態、体重等の要因に応じて適宜選択することができるが、一日当たり、1mg~1,000mgが好ましく、10mg~200mgがより好ましい。
【実施例0062】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0063】
実施例1
PDPN/CLEC-2相互作用に対する阻害能の測定
化合物1から化合物12は、ナミキ商事株式会社(サプライヤー:ASINEX社、Princeton Biomolecular社、Vitas-M Laboratory社)から購入したものを用いた。
【表1】
【0064】
実験方法
1)イムノグロブリンFc領域融合CLEC-2(Fc-CLEC-2)と、PDPN過剰発現HeLa細胞由来のライゼートとを混合して、Fc-CLEC-2によってPDPNを捕捉するプルダウン評価系を構築した(
図1A)。Fc-CLEC-2とPDPN複合体または遊離のFc-CLECはProtein A結合ビーズ(KANEKA KanCapA
TM)で回収し、遠心フィルターユニット(UFC30DV00 ultra-free,Millipore)で洗浄操作を行った。GlyHCl (pH2.8)でタンパク質を溶出させ、スロットブロット(MilliBlot,Millipore)にてpolyvinylidene difluoride(PVDF)膜上に吸着させた。PVDF膜のブロッキングを行った後、CLEC-2ならびにPDPNはそれぞれ抗CLEC-2抗体(AF1718,Novus Biologicals)、抗PDPN抗体(NZ-1,Angio Bio Co.)を反応させ、続いて西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)標識の2次抗体と反応させた後、化学発光法で発光させ、image analyzer(ATTO,Tokyo, Japan)でシグナルを記録した。スロットの強度は画像解析ソフト(NIH,Image J)を用いて定量化した。被検化合物を共存させ、PDPNの沈降のみが抑制した場合、その化合物はCLEC-2とPDPNとの結合を特異的に阻害したことになる。
【0065】
2)Fc-CLEC-2は以下のように作製した。ヒト末梢血単核球からRNAを調製し逆転写を行い、cDNAを得た。CLEC-2の細胞外領域に相当する配列(Genbank Accession:NM_016509の位置351-890の部分)をBamH1またはEcoRV制限サイトを含む下記のプライマーを用いてPCRで増幅した。
CLEC-2-F:5’-CGTGGATCCATGCTGGGGATTTGGTCTGTCAT(配列番号1)
CLEC-2-R:5’-CGTGATATCTTAAGGTAGTTGGTCCACCTTGG(配列番号2)
【0066】
これをFc融合タンパク質発現ベクターpFUSEN-hG1Fc(InVIVOGen)へ連結し、HEK293細胞へトランスフェクトし培地を回収した。AKTA chromatography system(GE Healthcare)とHiTrap Protein A HPカラム(GE Healthcare)を用いて培地からFc-CLEC-2を精製した。
【0067】
3)PDPN発現細胞は以下のようにして樹立した。ヒト食道がん扁平上皮細胞株TE11細胞(RIKEN CELL BANK)よりRNAを抽出しcDNAを得た。PDPNのタンパク質の翻訳領域全長をAge1またはBamH1制限サイトを含む以下のプライマーを用いて増幅した(GenBank:AF390106.1)。
PDPN-F:5’-ACGACCGGTATGTGGAAGGTGTCAGCTCT(配列番号3)
PDPN-R:5’-CGTGGATCCTTAGGGCGAGTACCTTCCCG(配列番号4)
【0068】
PCR増幅物はレンチウイルス発現ベクター CSII-MCS-Venus(RIKEN BRC DNA BANK)に連結しレンチウイルスベクターを作製した。レンチウイルスをHeLa細胞またはCHO細胞に感染させ、安定発現細胞をFACS(FACSAria,BD Biosciences)を用いて分離した。
【0069】
結果
12種の化合物1から化合物12について、CLEC-2とPDPNとの結合を抑制する効果を測定した結果を、
図1C-1~3に示す。コントロール(DMSO)添加時のPDPNのスロットの発光強度を1として各濃度の化合物添加時の相対的発光強度をグラフ化した。12種の化合物のすべてが、4mMにおける結合抑制率85%以上を示した。12種の被検化合物の中でも、特に化合物1、化合物5、化合物6、化合物7、化合物11は結合抑制が高く、相対的に高い阻害効果を示した。2mMにおける結合抑制率は、化合物1:84%、化合物5:82%、化合物6:97%、化合物7:75%、化合物11:69%であった。
【0070】
実施例2
血小板凝集測定
血液はクエン酸ナトリウムを抗凝固剤として健常人ならびにマウスから得た。血液は200×Gで10分間して過血小板血漿を回収し、続いてアピラーゼ(Sigma)、プロスタグランジンI2(Cayman Chemical)を添加して1000×Gで10分間遠心分離を行った。得られた血小板はTyrode's溶液にて再度アピラーゼ、プロスタグランジンI2存在下で遠心洗浄を行った後、1×109/mLの密度でTyrode's溶液に懸濁し洗浄血小板とした。血小板凝集は4-チャンネル血小板凝集測定装置PA-200(興和株式会社)で測定した。被検化合物は惹起物質添加の30秒前に添加した。対照薬として、Cangrelor(Cangrelor Tetrasodium, Selleckchem.com, Catalog No.S3737)を用いた。
【0071】
血小板凝集は以下の終濃度の惹起物質を用いた。
i)PDPN-CHO細胞(2×106/mL)、
ii)抗CLEC-2抗体、抗原アフィニティー精製ポリクローナルヤギIgG(AF1718、R&D Systems、4μg/mL)
iii)ヒト由来トロンビン(Sigma、0.5U/mL)
iv)ADP(nacalai、20μM)+ヒト由来フィブリノーゲン(Wako、0.6mg/mL)
v)コラーゲン(Revohem collagen Sysmex社AW-993-82, 2μg/mL)、
PDPN発現CHO細胞は、実施例1の3)に記載のとおり、作成した。
【0072】
結果
ヒト血小板の凝集に対する阻害効果について
i)PDPN誘導血小板凝集に対する阻害効果
12種の化合物1から化合物12について、PDPN-CHO細胞により惹起される血小板凝集に対する阻害効果を測定した。
図2A-Eは、血小板懸濁液の透過率(transparency(%))に示す。血小板凝集反応が起こると血小板懸濁液の透過率(%)が上昇する。PDPN-CHO細胞添加後、DMSOコントロールの透過率%は上昇しており、これは血小板凝集反応が起きていることを示す。12種の化合物1から化合物12のいずれかの存在下(50μM)では、PDPN-CHO細胞添加後も、透過率%は上昇しなかった(
図2-1のA~D)。この結果は、12種の化合物1から化合物12が50μMにおいてPDPN誘導血小板凝集を完全に抑制することを示す。対照薬Cangrelor(3.12μM)の存在下でも、PDPN-CHO細胞添加後に、透過率%は上昇しなかった(
図2E)。
図2-2のFは、凝集抑制の度合いを示すため、各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。12種の化合物1から化合物12のすべてが、PDPN誘導血小板凝集に対して阻害効果を有することが示された。
【0073】
さらに3つの化合物1、化合物5、化合物11については、濃度6.25μM、12.5μMおよび25μM存在下での血小板懸濁液の透過率(%)を測定した。
図3の結果から、少なくとも、化合物1、化合物5、化合物11による、PDPN誘導血小板凝集に対する阻害効果は、濃度依存性を示すことがわかる。
【0074】
ii)抗CLEC-2抗体誘導血小板凝集に対する阻害効果
12種の化合物1から化合物12について、抗CLEC-2抗体によるCLEC-2クラスター化により惹起される血小板凝集に対する阻害効果を測定した。
図4A-Eは、血小板懸濁液の透過率(transparency(%))に示す。CLEC-2抗体添加後、DMSOコントロールの透過率%は上昇しており、これは血小板凝集反応が起きていることを示す。12種の化合物1から化合物12のいずれかの存在下(50μM)でも、CLEC-2抗体添加後に、透過率%は上昇した(
図4-1のA~D)。この結果は、12種の化合物1から化合物12が濃度50μMで、抗CLEC-2抗体誘導血小板凝集に対してほとんど抑制作用がないことを示す。対照薬Cangrelor(3.12μM)の存在下では、抗CLEC-2抗体添加後に、透過率%は上昇せず、抗CLEC-2抗体誘導血小板凝集が抑制された(
図4-2のE)。
図4-2のFは、凝集抑制の度合いを示すため、各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。12種の化合物1から化合物12は、抗CLEC-2抗体誘導血小板凝集に対しては、Cangrelorと異なり、ほとんど抑制作用がないことが示された。
【0075】
iii)トロンビン誘導血小板凝集
12種の化合物1から化合物12について、トロンビンにより惹起される血小板凝集に対する阻害効果を測定した。12種の化合物1から化合物12のいずれかの存在下(50μM)および対照薬Cangrelor(6.25μM)の存在下でも、トロンビン添加後に、透過率%は上昇した(
図5-1のA~D、および
図5-2のE)。
図5-2のFは、凝集抑制の度合いを示すため、各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。12種の化合物1から化合物12およびCangrelorは、トロンビン誘導血小板凝集に対しては、ほとんど抑制作用がないことが示された。
【0076】
iv)ADP誘導血小板凝集
12種の化合物1から化合物12について、ADPにより惹起される血小板凝集に対する阻害効果を測定した。ADPは、フィブリノーゲンと共に添加した。ADPは、損傷により活性化された血小板から連続的に進展する血小板凝集のカスケードの凝固メディエータの1つであり、活性化の過程で貯蔵顆粒から放出される。活性化された血小板の表面には、フィブリノーゲンや別の血小板が結合し、血小板同士が凝集する。しかし、本系のような洗浄血小板ではADP刺激単独では凝集反応は起こらないため、通常フィブリノーゲンをともに添加する。
【0077】
DMSOコントロールの透過率%は、ADP添加後数分で急上昇しており、これはADPにより血小板が活性化され血小板凝集反応が起きていることを示す(
図6-1のA~D)。
図6-1のA~Dの結果は、12種の化合物1から化合物12が濃度50μMで、ADP誘導血小板凝集に対してほとんど抑制作用がないことを示す。対照薬Cangrelor(3.1μM)の存在下では、ADP添加後に、透過率%は上昇せず、ADP誘導血小板凝集が抑制された(
図6-2のE)。
図6-2のFは、凝集抑制の度合いを示すため、各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。12種の化合物1から化合物12は、ADP誘導血小板凝集に対しては、Cangrelorと異なり、抑制作用がないことが示された。
【0078】
v)コラーゲン誘導血小板凝集
コラーゲン細胞添加後、DMSOコントロールの透過率%は上昇しており、これはコラーゲン誘導血小板凝集反応が起きていることを示す。12種の化合物1から化合物12のいずれかの存在下(50μM)では、コラーゲン細胞添加後、DMSOコントロールと比較して、透過率%の上昇が、化合物により程度に違いがあるが、抑制されていた(
図7-1のA~D、
図7-2のE)。特に、化合物1、化合物2、化合物3、化合物4、化合物10、化合物11、および化合物12では、透過率%はほとんど上昇しなかった。この結果は、12種の化合物1から化合物12が50μMにおいてコラーゲン誘導血小板凝集を抑制することを示す。対照薬Cangrelor(3.12μM)の存在下でも、コラーゲン添加後に、透過率%は上昇しなかった(
図7-2のF)。
図7-2のGは、凝集抑制の度合いを示すため、各測定時におけるコントロール(DMSO)の凝集カーブに対する各化合物添加時のArea Under the Curve(AUC)の相対値を示すグラフである。12種の化合物1から化合物12のすべてが、コラーゲン誘導血小板凝集に対して阻害効果を有することが示された。
【0079】
さらに化合物1、化合物5、化合物11については、濃度12.5μM、25μMおよび50μM存在下での血小板懸濁液の透過率(%)を測定した。
図8の結果から、少なくとも、化合物1、化合物5、化合物11による、コラーゲン誘導血小板凝集に対する阻害効果は、濃度依存性を示すことがわかる。3つの化合物の中では化合物11に強い凝集抑制作用が見られる。
【0080】
Cangrelorについて
対照薬Cangrelorは、ADP受容体の競合阻害剤である。Cangrelorはトロンビン惹起の血小板凝集以外、すべての惹起剤での凝集を阻害した。それ故、出血リスク伴うことが懸念される。
【0081】
マウス血小板の凝集に対する阻害効果について
マウス血小板を用いて、12種の化合物1から化合物12について、PDPN誘導血小板凝集、トロンビン誘導血小板凝集、ADP誘導血小板凝集、およびコラーゲン誘導血小板凝集に対する阻害効果を測定した。ヒト血小板を用いた場合と同様の結果が得られた(
図9~14)。ヒト血小板を用いた場合と比較して、マウス血小板PDPN誘導血小板凝集およびコラーゲン誘導血小板凝集に対する阻害効果が弱い場合があるが、これはCLEC-2ならびにGPVIのアミノ酸配列がヒトとマウスで若干異なるため、化合物の結合がマウスタンパク質に対しては弱くなっている可能性がある。
【0082】
実施例3
in silico 化合物ドッキングシミュレーション
コラーゲン受容体であるGPVIのCRP(コラーゲン関連ペプチド)結合部位に対して演算機上(in silico)で化合物5および化合物11をドッキングさせるドッキングシミュレーションを行った。
【0083】
このドッキングシミュレーションにより、化合物5および化合物11のそれぞれについてGPVIのコラーゲン結合部位への結合のしやすさ、阻害形式を判別することができる。
化合物のドッキング対象であるGPVIの3次元構造は蛋白質構造データバンク(プロテインデータバンク:http://pdbj.org/)から取得した(GPVI、PDB ID:5OU9)。ドッキングシミュレーションには、ASEDock(Goto, J.; Kataoka, R.; Muta, H.; Hirayama, N. “ASEDock-docking based on alpha spheres and excluded volumes” J Chem Inf Model.,2008, 48(3), 583-590.)を用いた。
【0084】
(結果)
ドッキングシミュレーションから、GPVIのCRP結合予測部位に、化合物5および化合物11のそれぞれが結合しやすいことが示された。阻害形式は、競合阻害である。ドッキングシミュレーションから求められる相互作用の強さは、結合自由エネルギーに相当するGBVI/WSA dG(Corbeil, C. R.; Williams,C. I.; Labute, P. Variability in docking success rates due to dataset preparation. J. Comput.-Aided Mol. Des. 2012, 26, 775-786.)で評価した。化合物5および11のGBVI/WSA dG値は各々-7.947および-8.007kcal/molであり、両化合物ともGPVIのCRP結合予測部位に結合しやすいことが示された。
【0085】
実施例4
血小板の形態
実施例2で調製したマウスの洗浄血小板(1×109/mL)に、化合物5(50μM)またはDMSO(コントロール)の存在下、PDPN-CHO細胞(2×106/mL)またはコラーゲン(2μg/mL)を添加して、血小板の形態を走査型電子顕微鏡(株式会社日本電子JSM-6510LV)で観察した。
【0086】
図16は、血小板の電顕像である。血小板は、正常時、凹凸のない滑らかな表面を有する(untreated)。PDPNで処理された血小板は、多数の長い突起を出している(PDPN+DMSO)。これは、PDPNにより血小板が活性化された状態である。一方、化合物5の存在下でPDPNで処理された血小板(PDPN+化合物5)は、非処理の血小板(untreated)と変わらず、突起を出していない。すなわち、血小板凝集抑制が活性化抑制に基づくことを示す。
【0087】
コラーゲンで処理された血小板は、多数の長い突起を出している(コラーゲン+DMSO)。これは、コラーゲンにより血小板が活性化された状態である。一方、化合物5の存在下でコラーゲンで処理された血小板(コラーゲン+化合物5)は、非処理の血小板(untreated)と変わらず、突起を出していない。
【0088】
これらの結果から、本発明のCLEC-2/GPVIデュアル阻害剤は、化合物5を例として、PDPN惹起およびコラーゲン惹起による血小板の活性化を抑制することにより、凝集を抑制することが確認された。