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特開2023-125051目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125051
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20230831BHJP
   A61M 5/145 20060101ALI20230831BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20230831BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61M37/00
A61M5/145
A61M5/20 520
A61M5/32 530
A61M5/32 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028961
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】松田 勇
【テーマコード(参考)】
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD09
4C066EE04
4C066EE10
4C066FF05
4C066GG03
4C267AA71
4C267BB25
4C267BB37
4C267CC05
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡便な機構と簡単な作業で、目的部位に適切に細胞を投与することができる医療機器を提供することを目的とする。
【解決手段】体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部、細胞懸濁液を注入するための穿刺部を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直に変位可能であるように構成されている、目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器を提供することにより、上記課題を解決した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器であって、
細胞懸濁液を注入するための穿刺部、および
体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部、
を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直の方向に変位可能であるように構成されている、前記医療機器。
【請求項2】
弾性体をさらに含み、該弾性体が、体表面に対して垂直の方向に変位した穿刺部を元の位置に戻すように構成されている、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
細胞懸濁液を貯留する貯留部をさらに含み、該貯留部が、細胞懸濁液を穿刺部へ送達するように構成されている、請求項1または2に記載の医療機器。
【請求項4】
貯留部と流体連通する供給部をさらに含み、該供給部が、貯留部に細胞懸濁液を供給するように構成されている、請求項3に記載の医療機器。
【請求項5】
貯留部が、押圧されることにより、穿刺部へ細胞懸濁液を送達し、押圧が弱まることにより供給部から細胞懸濁液が供給されるように構成されている、請求項4に記載の医療機器。
【請求項6】
目的部位が血管の周辺組織である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項7】
目的部位に細胞懸濁液を注入する方法であって、
細胞懸濁液を注入するための穿刺部、および体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直の方向に変位可能であるように構成されている、医療機器を提供するステップ、
支持部の先端を体表面に接触させるステップ、および
穿刺部を体表面に対して垂直の方向に変位させるステップ
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の利用が試みられている(非特許文献1)。
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(非特許文献2)。また、細胞等の移植による損傷した組織等の修復の別の例として、重症下肢疾患に対するCD34陽性細胞治療が挙げられる。かかる治療において、CD34陽性細胞を、生理食塩水に溶解して、重篤な虚血状態にある両足の数十か所に、筋肉注射により注入している(非特許文献3)。
【0003】
特許文献1には、液体注入具が記載されている。かかる液体注入具は、その内腔部に液体が収容された筒体と、前記筒体の先端部に配置され、該筒体と連通し、先端に鋭利な針先を有する中空針と、前記筒体内で摺動し得るガスケットと、前記ガスケットに連結され、該ガスケットを前記筒体の縦方向に沿って移動操作する押し子とを有する内側構造体と、前記内側構造体の外周側に、前記内側構造体に対して前記軸方向に沿って移動可能に配置され、先端が開口した管状をなすプロテクタとを備えており、該プロテクタの先端を目的部位に押し付けることによりプロテクタが基端方向に移動し、中空針の針先が露出し、押し子と弾性片との係合が解除され、押し子により内腔部の液体が押し出され、注入されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6038020号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4
【非特許文献3】Fujita et al., Circulation Journal Vol.78, February 2014: 490-501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように細胞を組織中に投与する場合、夫々の投与箇所において、適切に位置決めを行い投与するという動作を繰り返すことになる。それによって、充分な細胞を投与するまでに要する時間も長くなり、長時間にわたる投与操作は、投与される対象においても多大な負担となる。したがって、本発明は、このような問題を解決し、簡便な機構と簡単な作業で、目的部位に適切に細胞を投与することができる医療機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、穿刺部による穿刺の位置決めを行う支持部を備えた医療機器を提供することで上記課題を解決できることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器であって、
細胞懸濁液を注入するための穿刺部、および
体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部、
を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直の方向に変位可能であるように構成されている、前記医療機器。
[2]弾性体をさらに含み、該弾性体が、体表面に対して垂直の方向に変位した穿刺部を元の位置に戻すように構成されている、[1]に記載の医療機器。
[3]細胞懸濁液を貯留する貯留部をさらに含み、該貯留部が、細胞懸濁液を穿刺部へ送達するように構成されている、[1]または[2]に記載の医療機器。
[4]貯留部と流体連通する供給部をさらに含み、該供給部が、貯留部に細胞懸濁液を供給するように構成されている、[3]に記載の医療機器。
【0009】
[5]貯留部が、押圧されることにより、穿刺部へ細胞懸濁液を送達し、押圧が弱まることにより供給部から細胞懸濁液が供給されるように構成されている、[4]に記載の医療機器。
[6]目的部位が血管の周辺組織である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の医療機器。
[7]目的部位に細胞懸濁液を注入する方法であって、
細胞懸濁液を注入するための穿刺部、および体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直の方向に変位可能であるように構成されている、医療機器を提供するステップ、
支持部の先端を体表面に接触させるステップ、および
穿刺部を体表面に対して垂直の方向に変位させるステップ
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、目的部位の直上に位置する体表面に対して支持部の先端を接触させて適切に位置決めを行い、穿刺部を体表面に対して垂直の方向に変位させるという単純な操作で、細胞懸濁液を適切に注入することができる。
また、本発明によれば、目的部位への細胞懸濁液の注入後、容易に再注入の準備が可能であるため、複数の目的部位に対して連続的に注入することができる。これにより、細胞懸濁液の注入操作全体に要する時間も短くできるため、対象の細胞懸濁液の注入操作による負担も低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る医療機器の概念図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係る医療機器の使用例を示す概念図である。
【0012】
本発明は一側面において、体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部、および細胞懸濁液を注入するための穿刺部を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直に変位可能であるように構成されている、目的部位に細胞懸濁液を注入するための医療機器に関する。
【0013】
本発明において、「細胞懸濁液」とは、細胞が任意の媒体中で懸濁状態となっているものをいう。細胞は、単一の細胞の状態であってもよく、または細胞同士が介在物質を介して連結されていてもよい。細胞は、任意の遺伝子または任意の遺伝子を含むウイルスベクターなどを含んでいてもよい。また、細胞は、細胞培養物であってもよい。本発明において、細胞培養物は、細胞培養ステップを経て得られるものを指し、これらに限定されるものではないが、スフェロイド、シート状細胞培養物およびシート状細胞培養物の破砕片を包含する。
本発明において、細胞を懸濁する媒体は、これらに限定されないが、水、生理食塩水、培地、緩衝液、希釈液、細胞保存液およびゲルなどの膨潤体などが挙げられる。
【0014】
本発明において「シート状細胞培養物」とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)体、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0015】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、好ましくは、シート状細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0016】
本発明において、「シート状細胞培養物の破砕片」とは、シート状細胞培養物を破砕することにより、複数の破砕片へと分割したものを指す。破砕片の大きさは、これに限定されるものではないが、破砕片のうち大部分が、微小血管へ入らず、かつ注射針の内部を通る大きさであることが好ましい。かかる大きさは、例えば、シート形状の平面の対角線の長さの平均が30μm~1000μmであり、好ましくは100μm~500μmである。本発明において破砕は、シート状細胞培養物の破砕片を得られるものであれば、既知の任意の方法によって行うことができ、例えば、シリンジおよびニードルまたはピペットなどにより、シート状細胞培養物を含む媒体を懸濁することによって行うことができる。
【0017】
本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞は、液性因子を産生するものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)が挙げられる。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞等を含む。体細胞の例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞等)、筋衛星細胞、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞等の多能性幹細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞等)、肝細胞(例えば、肝実質細胞等)、膵細胞(例えば、膵島細胞等)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。体細胞は、iPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来細胞)であってよく、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等が挙げられる。細胞は、浮遊細胞を含む。浮遊細胞の例としては、Tリンパ球やBリンパ球等が挙げられる。
好ましくは、本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞は、血管新生を促進できる細胞、例えば、血管新生を促進する因子、例えば、VEGFなどのサイトカインを分泌できる細胞である。
【0018】
本発明において、「目的部位」とは、対象の組織中における、細胞懸濁液を注入する部位をいう。組織中の目的部位としては、例えば、生体において、損傷(創傷)が存在する部位や、その近傍が挙げられる。損傷(創傷)は、これらに限定されるものではないが、血管の損傷、狭窄を含み、このような場合においては、組織中の目的部位は、血管の近傍の組織中、好ましくは、血管壁とその周囲の組織の間である。一態様において、組織中の目的部位は、血管組織周辺の血管鞘である。組織中の目的部位は、予め注入前に超音波検査やCT検査などによって決定されてもよい。
【0019】
本発明において、細胞懸濁液は、対象の組織内、好ましくは、対象の脈管周辺の組織内、より好ましくは下肢の疾患を有している対象の病変部位付近の脈管周辺の組織内へ注入される。一態様において、細胞懸濁液は、末梢動脈疾患の患者において、血流量が悪化している病変部位、例えば、下肢の大腿内転筋群における脈管周辺の組織中へ注入される。一態様において、細胞懸濁液を、病変部位付近の脈管周辺の組織内に注入することにより、例えば注入7日後に、健常状態と比較して、例えば35%、40%、45%まで血流量を改善することができる。一態様において、細胞懸濁液を、病変部位付近の脈管周辺の組織内に注入することにより、対照の生理食塩水と比較して、例えば、血流量を約1.5倍、約2倍、約2.5倍改善することができる。
【0020】
一態様において、本発明の医療機器により細胞懸濁液を注入される対象は、下肢の疾患を有する。下肢の疾患は、下肢に障害を有するあらゆる疾患を含む。かかる疾患の例として、これらに限定されないが、末梢動脈疾患、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症および糖尿病足病変などが挙げられる。好ましくは、本発明における下肢の疾患は、下肢において血管が狭窄または閉塞し、その下肢の血流量が悪化している疾患、例えば、末梢動脈疾患である。本発明において、末梢動脈疾患は、これらに限定されるものではないが、下肢閉塞性動脈硬化症、バージャー病、膠原病などを含み、特に重症化した下肢閉塞性動脈硬化症を重症下肢虚血と称する。
特定の理論に拘束されることはないが、本発明の医療機器により注入される細胞懸濁液の下肢の疾患への作用は、投与された細胞が産生する液性因子を含む液体に含まれるVEGFなどのサイトカインが、虚血部位の細胞に直接的および/または間接的に作用し、血管新生を促進することによるものと考えられる。
【0021】
本発明において、「穿刺部」とは、体表面に穿刺して、目的部位に細胞懸濁液を注入するための部材をいう。穿刺部は、内腔を有する針状の部材であり、その内腔を細胞懸濁液が通ることができる。
本発明において、「支持部」とは、穿刺部を体表面に対して垂直に支持する部材をいう。支持部は、先端側に支持部の位置を体表面に対して固定できる筒状の構造を有する。例えば、支持部は、先端側に面状の構造を有しており、かかる面を体表面に接触させることにより、支持部の位置を体表面に対して固定することができる。これにより支持部は、体表面に対して垂直に支持されている穿刺部が、目的部位の直上に位置するように、位置決めを行うことができる。支持部は、直接的に穿刺部を支持していなくてもよく、他の部材を介して間接的に穿刺部を支持していてもよい。体表面に対して適切に穿刺部を支持するために、1つの穿刺部について複数の支持部によって支持してもよい。これによって、腕や足のような曲面をなしている体表面であっても、支持部は、穿刺部を適切に、目的部位の直上の体表面に対して垂直に支持することができる。本発明において、目的部位の直上の体表面とは、その位置において体表面に対して垂直に穿刺部を穿刺し、進めると穿刺部の先端が目的部位または目的部位周辺に到達する体表面の位置をいう。本開示において、本発明の医療機器の目的部位側を先端側、操作者側を基端側と称する。
【0022】
一態様において、本発明の支持部は、他の部材に対して、体表面と垂直の方向に変位可能である。支持部をかかる方向に変位させることにより、支持部の先端を体表面に接触させた状態で、穿刺部の先端を体表面に接近させる、または体表面から離すことができる。また、支持部をかかる方向に変位させることにより、支持部の先端を体表面に穿刺、または穿刺した支持部の先端を抜去することができる。このような変異可能な構造の例として、支持部が二重の筒状の構造を有し、一方の筒(内側の筒)を他方の筒(外側の筒)の内部にスライド可能である構造が挙げられる。かかる構造において、外側の筒の内腔上端と内側の筒の外側上端の間に弾性体を配置することができる。この場合、弾性体がひずむように力をかけて、内側の筒を外側の筒内にスライドさせるようにして、支持部の全長を短くすることで、穿刺部を体表面に向けて、体表面と垂直の方向で変位させることができる。また、弾性体にかける力を弱めることにより、弾性体は元の形状に戻ろうとし、内側の筒は、外側の筒の内部から弾性体によりスライドして押し出される。それによって、支持部の全長が長くなり、穿刺部が、体表面と垂直の方向で体表面から離れるように変位することができる。
【0023】
本発明において、「貯留部」とは、細胞懸濁液を貯留する部材をいう。貯留部は、穿刺部の基端側において穿刺部の内腔と流体連通可能であり、貯留部に貯留された細胞懸濁液を、穿刺部に送達することができる。貯留部の材料としては、例えば、形状変化が可能である柔軟性を有する素材が挙げられる。かかる素材としては、特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの軟質性樹脂が挙げられる。一態様において、貯留部は、押圧などにより力を加えられて変形することにより、穿刺部へと細胞懸濁液を送達することができる。貯留部は、穿刺部からの液体の逆流を防ぐ弁構造を有していてもよい。
【0024】
本発明において、「供給部」とは、貯留部へと細胞懸濁液を供給する部材をいう。供給部は、貯留部と無菌的に流体連通可能であり、供給部から貯留部へと細胞懸濁液を送達することができる。供給部は、流体を収納することが可能な形状であれば特に限定されず、例えば、供給部は袋状の形状をしている。貯留部が袋状である場合、材料としては、例えば、形状変化が可能である柔軟性を有する素材が挙げられる。かかる素材としては、特に限定されるものではないが、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの軟質性樹脂が挙げられる。かかる場合に、供給部は、押圧されることにより貯留部に細胞懸濁液を供給することができる。供給部は、貯留部からの液体の逆流を防ぐ弁構造を有していてもよい。
【0025】
別の側面において、本発明は、細胞懸濁液を注入するための穿刺部、および体表面に対して穿刺部を垂直に支持する支持部を含み、穿刺部が、体表面に対して垂直に変位可能であるように構成されている、医療機器を提供するステップ、支持部の先端を体表面に接触させるステップ、および穿刺部を体表面に対して垂直に変位させるステップを含む、目的部位に細胞懸濁液を注入する方法に関する。
本発明の方法の医療機器を提供するステップにおいて提供される医療機器は、本明細書に記載の任意の医療機器であってもよい。したがって、本発明の方法は、貯留部に貯留された細胞懸濁液を、穿刺部の先端から注入するステップ、体表面に対して垂直の方向に変位した穿刺部を元の位置に戻すステップ、供給部から貯留部へと細胞懸濁液を供給するステップ、などのステップを含み得る。本発明における細胞懸濁液の注入は、複数の目的部位への連続的な細胞懸濁液の注入であってもよい。
【0026】
以下、本発明の好適な実施態様に係る医療機器1について説明する。図1は、本発明の第1実施形態の概念図を示す。なお、本開示における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は実際の大きさを示すものではない。
【0027】
図1に示されるように、医療機器1は、穿刺部2、および穿刺部2を支持する支持部3を含む。支持部3は、穿刺部2を体表面に対して垂直の方向に支持するよう構成されており、支持部3の先端を体表面に接触させることにより、穿刺部2の先端を体表面に対して垂直の方向から、体表面に穿刺することができる。支持部3は、体表面と垂直の方向に変位できるように二重の筒状の構造をとることができ、かかる構造により支持部3は、その全長を変位させることができる。これにより、穿刺部2の先端が、支持部3の先端よりも基端側に位置するように支持部3が穿刺部2を支持している場合においても、支持部3の全長を短くすることにより、穿刺部2の先端を支持部3の先端よりも先端側に出現させることができる。支持部3の筒状の内部には、弾性体(A)8を配置することができる。これにより、力を加えて弾性体(A)8をひずませること、力を抜いて弾性体(A)8のひずみを戻すことで支持部3の全長の長短を調節することができる。
【0028】
支持部3は、穿刺部2を、弾性体(B)9を介して支持することができる。すなわち、図1に示されるように、弾性体(B)9は、体表面に対して垂直の方向にのみひずむように穿刺部2の基端側と支持部3の基端側とに接続されており、穿刺部2が、弾性体(B)9中を、体表面に対して垂直の方向にのみスライド可能であるように創通する。これにより、穿刺部2は、力を加えて弾性体(B)9をひずませること、力を抜いて弾性体(B)9のひずみを戻すことにより、支持部3に対して穿刺部2を体表面に対して垂直の方向に変位させることができる。
【0029】
医療機器1は、さらに貯留部4を含むことができる。貯留部4は、穿刺部2の基端側においてその内腔と流体連通しており、貯留部4に貯留された細胞懸濁液を穿刺部2へと送達することができるように配置されている。貯留部4は、例えば、押圧されることでその形状を変形させて細胞懸濁液を穿刺部2へと送達する。図1に示されるように、貯留部4は、その基端側に弾性体(C)10を配置することができる。かかる場合に、貯留部4は、弾性体(C)10に力を加えてひずませることにより、押圧して、細胞懸濁液を穿刺部2へと送達することができる。弾性体(C)10を弾性体(A)8や弾性体(B)9より、ひずみにくくする、例えば、弾性体(C)10の材料として弾性体(A)8や弾性体(B)9よりもばね係数の大きなものを用いることにより、医療機器1を、穿刺部2の先端が目的部位に到達した後に初めて弾性体(C)10がひずみ、貯留部4が押圧されるように構成することができる。
【0030】
医療機器1は、さらに供給部5を含むことができる。供給部5は、貯留部4と流体連通可能であり、供給部5から貯留部4へと細胞懸濁液を供給することができるように配置されている。例えば、貯留部4の基端側に弾性体(C)が接続している場合において、弾性体(C)のひずみにより押圧された貯留部4は、弾性体(C)のひずみが戻ると元の形状に戻ろうとする、その際の貯留部4の内圧の変化を利用して供給部5から貯留部4へと細胞懸濁液を供給するように構成することができる。
【0031】
医療機器1は、操作を容易にするために、把持部6や本体部7をさらに含むことができる。把持部6は、医療機器1の基端側に位置し、把持部6の操作により穿刺部2を体表面に対して穿刺または抜去させることができるように構成されている。また、把持部6は、これを押し込むことにより、各部材を介して弾性体(A)8、弾性体(B)9、弾性体(C)10すべてに力を加えることができるように構成することもできる。かかる場合において、弾性体(A)8、弾性体(B)9、弾性体(C)10のひずみやすさ、例えば、各弾性体の材料のばね係数、を調節することにより、弾性体のひずむ順序を決定することができる。例えば、弾性体(A)8のばね係数<弾性体(B)9のばね係数<弾性体(C)10のばね係数とすることにより、穿刺部2の先端が、体表面に接近する、体表面に穿刺して目的部位に到着する、先端から細胞懸濁液が投与される、という工程を実現できる。弾性体(B)9のばね係数<弾性体(A)8のばね係数<弾性体(C)10のばね係数としても同様の効果を奏することができる。また、医療機器1は、弾性体(A)8および弾性体(B)9のひずむ度合いと支持部3の全長を調節することにより穿刺部2が穿刺する深度を調節することができる。特に、医療機器1を用いて血管の周辺組織に細胞懸濁液を注入する場合、医療機器1は、穿刺部2を体表面に対して垂直の方向に穿刺することができるため、予め体表面から目的の血管付近までの距離を測定し、その距離のみ穿刺するように穿刺部2の穿刺の深度を調節することにより、容易に穿刺部2の先端を目的部位に到達させることができる。本体部7は、本体部内部を、各部材が夫々体表面に対して垂直な方向に変位できるように各部材と、または別の部材を介して接続するように配置される。供給部5は、本体部7に収納されず、必要時のみ貯留部4に無菌的に接続されるよう構成されていてもよい。
【0032】
図1に示される医療機器1によって、目的部位に細胞懸濁液を注入するためには、まず図2aに示されるように、目的部位に穿刺部2の先端が到達するように、支持部3の先端を目的部位の直上の体表面に接触させる。次いで、把持部6を目的部位に向けて押し込むことにより、図2bに示されるように、弾性体(A)8が体表面と垂直の方向にひずみ、支持部3の内側の筒が外側の筒に入り込むようスライドし、支持部3の全長が短くなることで、穿刺部2が体表面と垂直の方向に変位し、穿刺部2の先端が目的部位の直上の体表面に接近する。
さらに把持部6を目的部位に向けて押し込むことにより、図2cに示されるように、弾性体(B)9が体表面と垂直の方向にひずみ、穿刺部2がさらに体表面と垂直方向に変位する。それにより、穿刺部2は体表面を穿刺して、穿刺部2の先端が目的部位に到達する。穿刺部2の先端が目的部位に到達した後に、さらに把持部6を押し込むことにより、図2dに示されるように、弾性体(C)10が体表面と垂直の方向にひずむ。それにより、弾性体(C)10にかけられた力が、弾性体(C)10と接続された貯留部4に伝わり、貯留部4が押圧される。貯留部4は押圧により変形することで内部に貯留された細胞懸濁液を穿刺部2へと送達し、目的部位に到達した穿刺部2の先端から細胞懸濁液が注入される。
【0033】
細胞懸濁液の注入が終わると、把持部6を押し込む力を弱めていくことにより、弾性体(C)10、弾性体(B)9、弾性体(A)8の順にひずんでいた弾性体が戻っていく。これにより、まずは、貯留部4に対する押圧がなくなり、貯留部4から穿刺部2へと細胞懸濁液が送達されなくなる。次いで、穿刺部2を体表面に押し付けている力がなくなるため、穿刺部2は、弾性体(B)9の戻りに伴い、体表面に対して垂直の方向に目的部位から離れるように変位し、その先端が体表面から抜去される。最後に弾性体(A)8の戻りに伴い支持部3の外側の筒から内側の筒が押し出されるようにスライドし、支持部3の全長が長くなることで、穿刺部2は、体表面に対して垂直の方向に体表面から離れるように変位し、図2aに示される状態に戻る。
また、医療機器1は、供給部5をさらに含んでいてもよい。かかる場合において、細胞懸濁液は、医療機器1が図2aの状態に戻る際に供給部5から貯留部4へと供給される。
【0034】
すなわち、本発明の医療機器の使用は、以下のステップによって順次行うことができる。
(1)医療機器1を提供する。
(2)支持部3の先端を目的部位付近の直上の体表面に接触させる。
(3)穿刺部2を体表面に対して垂直の方向に変位させて、穿刺部2の先端を体表面に穿刺する。
(4)穿刺部2の先端から目的部位に細胞懸濁液を注入する。
(5)穿刺部2の先端を、体表面から抜去する。
上記の手順において、(2)のステップは、穿刺部2を体表面に対して垂直の方向に変位させて、穿刺部2の先端を体表面に接近させた後、穿刺部2を体表面に対して垂直の方向にさらに変位させて、穿刺部2の先端を体表面に穿刺する、と二段階のステップにしてもよい。また、体表面に対して垂直の方向に変位した穿刺部2を元の位置に戻す、供給部5から貯留部4へと細胞懸濁液を供給する、といったステップをさらに含むことができる。
【0035】
以上、本発明の医療機器によれば、目的部位の直上に位置する体表面に対して支持部の先端を接触させて適切に位置決めを行い、穿刺部を体表面に対して垂直の方向に変位させるという単純な操作で、細胞懸濁液を適切に注入することができる。また、本発明によれば、目的部位への細胞懸濁液の注入後、容易に再注入の準備が可能であるため、複数の目的部位に対して連続的に注入することができる。これにより、細胞懸濁液の注入操作全体に要する時間も短くできるため、対象の細胞懸濁液の注入操作による負担も低減することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 医療機器
2 穿刺部
3 支持部
4 貯留部
5 供給部
6 把持部
7 本体部
8 弾性体(A)
9 弾性体(B)
10 弾性体(C)
図1
図2