(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125060
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】血管内に乱流を発生させるための医療機器および方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/10 20130101AFI20230831BHJP
【FI】
A61M25/10 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028971
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文哉
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA06
4C267BB02
4C267BB05
4C267BB28
4C267CC08
4C267GG03
4C267GG04
4C267GG05
4C267GG06
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG09
4C267GG10
(57)【要約】
【課題】 本発明は、簡便な機構と、簡単な作業で、対象の目的部位に対して低侵襲的な治療を行うための医療機器を実現することを目的とする。
【解決手段】 シャフト体と該シャフト体上に設けられた長尺なバルーン体とを含む、血管内で使用する医療機器であって、バルーン体が血流の乱流を発生させる表面形状を有する、前記医療機器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフト体と該シャフト体上に設けられた長尺なバルーン体とを含む、血管内で使用する医療機器であって、バルーン体が血流の乱流を発生させる表面形状を有する、前記医療機器。
【請求項2】
表面形状が、バルーン体の一面に設けられた複数の溝部、および該一面の反対の面に設けられた複数の凸部を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
表面形状が、バルーン体の周方向に設けられた複数の溝部を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
表面形状が、バルーン体の表面に螺旋状に設けられた溝部を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項5】
バルーン体の先端部に三角形状の凸部が設けられている、請求項3または4に記載の医療機器。
【請求項6】
複数の溝部の間に複数の凸部が設けられている、請求項3~5のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項7】
表面形状が、複数の溝部と、該溝部の基端側にそれぞれ設けられた複数の凸部を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項8】
シャフト体内に送り込んだ治療薬をバルーン体の先端付近から放出可能に構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の医療機器。
【請求項9】
血管内に血流の乱流を発生させる方法であって、
請求項1~8のいずれか一項に記載の医療機器を提供するステップ、
医療機器を目的部位に送達するステップ、および
バルーン体を膨張させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項10】
シャフト体内に送り込んだ治療薬をバルーン体の先端付近から放出するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内に乱流を発生させるための医療機器および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の利用が試みられている(非特許文献1)。
【0003】
このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた(非特許文献2)。
【0004】
また、細胞等の移植による損傷した組織等の修復の別の例として、重症下肢疾患に対するCD34陽性細胞治療が挙げられる。かかる治療において、CD34陽性細胞を、生理食塩水に溶解して、重篤な虚血状態にある両足の数十か所に、筋肉注射により注入している(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41
【非特許文献2】Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4
【非特許文献3】Fujita et al., Circulation Journal Vol.78, February 2014: 490-501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の様な、重症下肢疾患に対する治療においては、数十か所にも及ぶ筋肉注射が試みられているが、このような手法は侵襲性が高い。したがって、本発明は、簡便な機構と、簡単な作業で、対象の目的部位に対して低侵襲的な治療を行うための医療機器を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、血管内で血流の乱流を発生させる表面形状を有するバルーン体を使用することで、対象の目的部位に対して低侵襲的な治療が行えることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]シャフト体と該シャフト体上に設けられた長尺なバルーン体とを含む、血管内で使用する医療機器であって、バルーン体が血流の乱流を発生させる表面形状を有する、前記医療機器。
[2]表面形状が、バルーン体の一面に設けられた複数の溝部、および該一面の反対の面に設けられた複数の凸部を含む、[1]に記載の医療機器。
[3]表面形状が、バルーン体の周方向に設けられた複数の溝部を含む、[1]に記載の医療機器。
[4]表面形状が、バルーン体の表面に螺旋状に設けられた溝部を含む、[1]に記載の医療機器。
[5]バルーン体の先端部に三角形状の凸部が設けられている、[3]または[4]に記載の医療機器。
[6]複数の溝部の間に複数の凸部が設けられている、[3]~[5]のいずれか一つに記載の医療機器。
【0009】
[7]表面形状が、複数の溝部と、該溝部の基端側にそれぞれ設けられた複数の凸部を含む、[1]に記載の医療機器。
[8]シャフト体内に送り込んだ治療薬をバルーン体の先端付近から放出可能に構成されている、[1]~[7]のいずれか一つに記載の医療機器。
[9]血管内に血流の乱流を発生させる方法であって、[1]~[8]のいずれか一つに記載の医療機器を提供するステップ、医療機器を目的部位に送達するステップ、およびバルーン体を膨張させるステップを含む、前記方法。
[10]シャフト体内に送り込んだ治療薬をバルーン体の先端付近から放出するステップをさらに含む、[9]に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、対象の目的部位に対して低侵襲的な治療を行うことができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。
【0011】
本発明によれば、治療薬を効率よく目的部位に適用できるため、治療薬の消費を少なくすることができる。また、下肢血管のような長い距離の血管に対して効率的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1aは、本発明の第1実施態様に係る医療機器を示す概念図である。
図1bは、本発明の第2実施態様に係る医療機器を示す概念図である。
【
図2】
図2は、溝部と凸部の変形例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、「治療薬」とは、例えば、血管新生を促す治療薬を含む。かかる治療薬としては、限定されず、細胞懸濁液、任意の遺伝子または任意の遺伝子を含むウイルスベクター、細胞から産生されるサイトカインやエクソソームなどを含むことができる。
本発明において、「細胞懸濁液」とは、細胞が任意の媒体中で懸濁状態となっているものをいう。細胞は、単一の細胞の状態であってもよく、または細胞同士が介在物質を介して連結されていてもよい。細胞は、任意の遺伝子または任意の遺伝子を含むウイルスベクターなどを含んでいてもよい。また、細胞は、細胞培養物であってもよい。本発明において、細胞培養物は、細胞培養ステップを経て得られるものを指し、これらに限定されるものではないが、スフェロイド、シート状細胞培養物およびシート状細胞培養物の破砕片を包含する。
本発明において、細胞を懸濁する媒体は、これらに限定されないが、水、生理食塩水、培地、緩衝液、希釈液、細胞保存液およびゲルなどの膨潤体などが挙げられる。
【0014】
本発明において「シート状細胞培養物」とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)体、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0015】
シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、好ましくは、シート状細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0016】
本発明において、「シート状細胞培養物の破砕片」とは、シート状細胞培養物を破砕することにより、複数の破砕片へと分割したものを指す。破砕片の大きさは、これに限定されるものではないが、破砕片のうち大部分が、微小血管へ入らず、かつ注射針の内部を通る大きさであることが好ましい。かかる大きさは、例えば、シート形状の平面の対角線の長さの平均が30μm~1000μmであり、好ましくは100μm~500μmである。本発明において破砕は、シート状細胞培養物の破砕片を得られるものであれば、既知の任意の方法によって行うことができ、例えば、シリンジおよびニードルまたはピペットなどにより、シート状細胞培養物を含む媒体を懸濁することによって行うことができる。
【0017】
本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞は、特に限定されず、例えば、接着細胞(付着性細胞)が挙げられる。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞等を含む。体細胞の例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞等)、筋衛星細胞、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞等の多能性幹細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞等)、肝細胞(例えば、肝実質細胞等)、膵細胞(例えば、膵島細胞等)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。体細胞は、iPS細胞から分化させたもの(iPS細胞由来細胞)であってよく、iPS細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等が挙げられる。
細胞は浮遊細胞を含む。浮遊細胞の例としてはTリンパ球やBリンパ球を含む。
一態様において、本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞は、血管新生を促進できる細胞、例えば、血管新生を促進する因子、例えば、VEGFなどのサイトカインを分泌できる細胞が特に好ましい。
【0018】
本発明において、用語「対象」は、任意の生物個体、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体を意味する。本発明の医療機器は、下肢の疾患を有している対象の病変部位付近の脈管内で使用される。一態様において、医療機器は、末梢動脈疾患の患者において、血流量が悪化している病変部位、例えば、下肢の大腿内転筋群における脈管内で使用される。
本発明において、「目的部位」とは、例えば、対象の病変部位付近の脈管が挙げられる。目的部位としては、例えば、脈管において、損傷(創傷)が存在する部位や、その近傍が挙げられる。損傷(創傷)は、これらに限定されるものではないが、血管の狭窄や閉塞を含み、このような場合においては、目的部位は、血管の狭窄や閉塞が起こっている部位や、その近傍である。目的部位は、予め投与前に超音波検査やCT検査などによって決定されてもよい。
【0019】
本発明において、細胞懸濁液は、対象の組織内、好ましくは、対象の脈管内、脈管周辺の組織内、より好ましくは下肢の疾患を有している対象の病変部位付近の脈管内、脈管周辺の組織内へ投与される。一態様において、細胞懸濁液は、末梢動脈疾患の患者において、血流量が悪化している病変部位、例えば、下肢の大腿内転筋群における脈管内、脈管周辺の組織中へ投与される。一態様において、細胞懸濁液を、病変部位付近の脈管内、脈管周辺の組織内に投与することにより、例えば投与7日後に、健常状態と比較して、例えば35%、40%、45%まで血流量を改善することができる。一態様において、細胞懸濁液を、病変部位付近の脈管内、脈管周辺の組織内に投与することにより、対照の生理食塩水と比較して、例えば、血流量を約1.5倍、約2倍、約2.5倍改善することができる。
【0020】
一態様において、本発明の医療機器により細胞懸濁液を投与される対象は、下肢の疾患を有する。下肢の疾患は、下肢に障害を有するあらゆる疾患を含む。かかる疾患の例として、これらに限定されないが、末梢動脈疾患、下肢静脈瘤、深部静脈血栓症および糖尿病足病変などが挙げられる。好ましくは、本発明における下肢の疾患は、下肢において血管が狭窄または閉塞し、その下肢の血流量が悪化している疾患、例えば、末梢動脈疾患である。本発明において、末梢動脈疾患は、これらに限定されるものではないが、下肢閉塞性動脈硬化症、バージャー病、膠原病などを含み、特に重症化した下肢閉塞性動脈硬化症を重症下肢虚血と称する。
特定の理論に拘束されることはないが、本発明の医療機器により投与される細胞懸濁液の下肢の疾患への作用は、投与された本発明の細胞懸濁液に含まれる細胞から持続的に分泌されるVEGFなどのサイトカインやエクソソームが、虚血部位の細胞に直接的および/または間接的に作用し、血管新生を促進することによるものと考えられる。
【0021】
エクソソームとは、細胞由来の膜質二重膜から構成される小胞である。小胞中にはタンパク質、mRNA、microRNAなどの核酸が内包されている。エクソソームは多くの細胞種から放出されるが、特に間葉系幹細胞由来のエクソソームが好ましい。間葉系幹細胞由来のエクソソームは血管新生、抗炎症作用、創傷治癒といった様々な作用を有している。エクソソームのみを回収するには細胞を無血清培地で培養することができる。エクソソームのサイズとしては例えば20~1000nmである。
【0022】
本発明において、「医療機器」とは、ヒトもしくは動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、またはヒトもしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等を指す。
【0023】
本発明において、細胞懸濁液を目的部位に送達するとは、疾患を有する部位(目的部位)を治療するために、目的部位に細胞懸濁液を送達して投与するという、治療行為を行うことを含むことができる。本発明において、目的部位は、典型的には不整脈や再狭窄の原因となる血管内皮細胞の損傷部位(患部)であるが、他にも、創傷治癒、疼痛緩和、血流改善、梗塞、静脈瘤などの治療のために、細胞懸濁液を送達するために使用することもできる。
【0024】
本発明において、「バルーン体」とは、その内腔(バルーン体の内表面)とシャフト体との間の空間に生理食塩水や気体などの流体を収容でき、膨張および収縮が可能な部材をいう。バルーン体は、流体を注入して内圧を高めることで膨張させることができ、流体を排出して内圧を低くすることで収縮させることができる。一態様において、バルーン体は、シャフト体を周方向に取り囲むように配置することができ、膨張させると、シャフト体の半径方向に膨張するように構成されている。
【0025】
バルーン体を膨張させ、血管壁とバルーン体の表面とを近接させると、血管壁付近で血流の乱流を発生させることができる。この場合は、バルーン体の膨張後の直径が、1mm~10mm、好ましくは2mm~8mm、より好ましくは3mm~7mmとなるように、構成することができる。バルーン体は、シャフト体上に配置することができ、この際に、バルーン体が血流の上流側になるように配置することが好ましい。すなわち、血流が、バルーン体の表面を流れるように配置することが好ましい。バルーン体は、膨張させた際に、バルーン体の表面と血管壁との間に血液が流れるための隙間が出来るように構成、または膨張させることが好ましい。
【0026】
バルーン体の材料としては、弾性樹脂材料が挙げられ、かかる弾性樹脂材料としては、限定されず、例えば、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン、ポリウレタン系エラストマー、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
本発明において、「シャフト体」とは、バルーン体をその先端部分に配置した状態で、目的部位に送達することができる長尺の部材をいう。シャフト体の長さは、30cm~250cm、好ましくは60cm~200cm、より好ましくは90cm~150cmとすることができる。
シャフト体は、屈曲した血管内などに挿入して目的部位にアプローチできるように、屈曲可能に構成することができる。シャフト体は、中空体として構成することができ、シャフト体の基端側から生理食塩水や気体などの流体や細胞懸濁液などを入れて、シャフト体の先端側に送り込むことができる。
【0028】
一態様において、シャフト体は、バルーン体内に連通する連通孔を設けることができる。これにより、シャフト体の基端側から流体を送り込み、バルーン体内に連通孔を介して注入して膨張させることができる。また、シャフト体は、細胞懸濁液を放出するための開口部をバルーン体の先端付近に設けることができる。これにより、シャフト体の基端側から細胞懸濁液を送り込み、バルーン体の先端付近に放出することができる。シャフト体の先端部は閉塞させることができる。
【0029】
シャフト体の材料としては、特に限定されず、各種公知の材料を単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。このような材料としては、例えば、金属、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体(SEBS)、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体(SEPS)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ナイロンなどのポリアミド樹脂及びポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂及びポリエステルエラストマー、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
以下、本発明の好適な実施態様に係る医療機器ついて、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1aは、本発明の第1実施態様に係る医療機器の概念図を示す。
図1bは、本発明の第2実施態様に係る医療機器の概念図を示す。
図2は、溝部と凸部の変形例を示す概念図である。
なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。また、図中左側を医療機器の先端側、図中右側を医療機器の基端側として説明し、便宜上、医療機器の基端側は省略している。
【0031】
第1実施態様
まず、本発明の第1実施態様について説明する。
図1aに示されるように、本発明の第1実施態様に係る医療機器Mは、中空のシャフト体1、シャフト体1上に配置されているバルーン体2を含む。バルーン体2は、シャフト体1を周方向に取り囲むように配置されており、内側に生理食塩水や気体などの流体を収容可能な空間を有し、膨張および収縮可能に構成されている。
【0032】
シャフト体1は、バルーン体2の先端付近に設けられた開閉可能な開口部11、およびバルーン体2内に連通する開閉可能な連通孔12を有する。バルーン体2の一面(上面)には軸方向に延伸する複数の溝部21が設けられている。その反対の面(下面)には複数の凸部22が設けられている。複数の凸部22は、下面を覆うように離間して設けられている。
【0033】
医療機器Mを使用する際は、まず、バルーン体2を収縮させた状態で血管V内に挿入する。この際に、シャフト体1の先端方向が、血管V内の血流の上流側に向くように配置する。そして、
図1aに示されるように、シャフト体1の基端側から流体を送り込み、連通孔12を介してバルーン体2内へ注入して、血管Vが閉塞されない程度に膨張させる。この際に、複数の凸部22が血管Vの周りの虚血が起こっている微小血管(患部A)に面するように配置する。
【0034】
図1aに示されるように、バルーン体2の上面は、先端から基端に掛けて縮径しており、基端方向に傾斜ができるように構成されている。バルーン体2は、流体を注入した後に連通孔12を閉鎖することで、その膨張状態と形状を維持することができる。バルーン体2を膨張させ、血管Vの血管壁とバルーン体2の表面とを近接させると、バルーン体2の上面側を流れる血流は、軸方向に延伸した複数の溝部21に沿って流れが速くなる。
【0035】
一方で、バルーン体2の下面側を流れる血流は、複数の凸部22に衝突して流れが遅くなる。バルーン体2の上面側を流れる血流(上側の矢印)は、傾斜に沿って下向きに曲げられるため、バルーン体2には上向きの揚力が発生する。すると、バルーン体2の下面と血管壁との間に隙間が発生し、下面側を流れる遅い血流(下側の矢印)が複数の凸部22に衝突して乱流が発生する。これにより、血液が乱流として血管壁に衝突し、血管Vの周りの微小血管などに新鮮な血液を送り込むことができる。
【0036】
血管壁付近で血液の乱流が発生することで、患部A周辺の血流量が増加して治癒が促される。また、さらにバルーン体2の先端付近に設けられた開口部11から細胞懸濁液などの治療薬を放出し、血管壁に沿って乱流を発生させることで、患部A周辺の血管新生を促進することもできる。これは、例えば、連通孔12を閉鎖してシャフト体1内の流体を吸引した後に、シャフト体1の基端側から細胞懸濁液を送り込むことで、実現することができる。
【0037】
従来であれば、例えば、重症下肢疾患などに対する治療においては、CD34陽性細胞を、重篤な虚血状態にある両足の数十か所に、筋肉注射により注入していたが、かかる手法は侵襲性が高かった。これに対して、本発明の医療機器Mは、虚血状態にある組織に対して血管の内側からアプローチするという、低侵襲的な手法を取ることができる。そして、虚血状態にある組織の周りにある血管や微小血管に新鮮な血液を送り込んだり、細胞懸濁液で血管新生を促したりすることで、血流量を増加させ、治癒を促すことができる。
【0038】
バルーン体2は、膨張、収縮を繰り返し行いながら、血管V内を移動させる、またはシャフト体1上に複数設けることで、下肢血管のような長い距離の血管内にある複数の患部に対して使用することもできる。開口部11は、シャフト体1の先端部に1つ設け、かかる開口部11から放出された細胞懸濁液が、複数のバルーン体2の表面を通過するように構成することもできる。開口部11を複数のバルーン体2それぞれの先端付近に設けることもできる。
【0039】
第2実施態様
次に、本発明の第2実施態様について説明する。
図1bに示されるように、本発明の第2実施態様に係る医療機器Mは、中空のシャフト体1、シャフト体1上に配置されているバルーン体2を含む。バルーン体2は、シャフト体1を周方向に取り囲むように配置されており、内側に生理食塩水や気体などの流体を収容可能な空間を有し、膨張および収縮可能に構成されている。
【0040】
シャフト体1は、バルーン体2の先端付近に設けられた開閉可能な開口部11、およびバルーン体2内に連通する開閉可能な連通孔12を有する。バルーン体2表面には周方向に延伸する複数の溝部21が設けられている。また、複数の溝部21に隣接して複数の凸部22が設けられている。バルーン体2の先端部に設けられた凸部22は、三角形状を有している。これにより、血流を矢印で示されるように二又に分岐できるように構成されている。複数の溝部21は、螺旋状に設けることもできる。
【0041】
二又に分岐された血流は、血管Vの血管壁に跳ね返され、周方向に延伸する複数の溝部21に沿って反対側に流れ、反対側の血管壁に跳ね返され、また複数の溝部21に沿って反対側に流れることを繰り返すことで、乱流が発生する。また、複数の溝部21の間に複数の凸部22を設けることで、さらに乱流を発生させることもできる。シャフト体1の開口部11から細胞懸濁液などの治療薬を放出して、患部A周辺の血管新生を促進することもできる。
【0042】
図2は、溝部と凸部の変形例を示す概念図である。
図2aに示されるように、バルーン体2の表面形状は、バルーン体2の軸方向に延伸する複数の溝部21と、かかる複数の溝部21の基端側に配置された三角錐状の複数の凸部22を含むことができる。この場合、
図2bに示されるように、血流を溝部21に沿って凸部22に当て、矢印の方向、すなわち、血管壁の方向に流すことができる。
図2cに示されるように、凸部22の先端に羽根部23を設けることで、血流に対してバルーン体2の位置が安定するように構成することもできる。
【0043】
本発明の医療機器の使用は、以下の工程によって順次行うことができる。
(1)医療機器を提供する
(2)医療機器を目的部位に送達する
(3)バルーン体を膨張させる
バルーン体を膨張させた後に、シャフト体内に送り込んだ細胞懸濁液などの治療薬をバルーン体の先端付近から放出することもできる。
【0044】
以上、本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、対象の目的部位に対して低侵襲的な治療を行うことができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。
本発明によれば、治療薬を効率よく目的部位に適用できるため、治療薬の消費を少なくすることができる。また、下肢血管のような長い距離の血管に対して効率的に使用することができる。
【符号の説明】
【0045】
M 医療機器
1 シャフト体
11 開口部
12 連通孔
2 バルーン体
21 溝部
22 凸部
23 羽根部
A 患部
V 血管