(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125061
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】プリプレグシートの製造装置および製造方法。
(51)【国際特許分類】
D06B 1/10 20060101AFI20230831BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20230831BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20230831BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230831BHJP
D06B 1/14 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
D06B1/10
B29C70/16
B29C70/50
C08J5/04 CEQ
C08J5/04 CEZ
D06B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028977
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 広平
(72)【発明者】
【氏名】西野 聡
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 潔
【テーマコード(参考)】
3B154
4F072
4F205
【Fターム(参考)】
3B154AA14
3B154AB09
3B154BB36
3B154BB39
3B154BB42
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3B154CA34
4F072AA04
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4F205HB02
4F205HF24
4F205HK25
(57)【要約】
【課題】
本発明はプリプレグシートの製造に関して、強化繊維束ごとに均一に樹脂が付与され、品質が均一であるプリプレグシートを製造する装置および方法を提供する。
【解決手段】
引き出された複数本の強化繊維束が糸道制御機構で1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に分割され、糸道制御機構近傍にある樹脂付与機構によって繊維束単位通過領域を通過する強化繊維束単位に対して、独立して連続的に所定量の樹脂を付与する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の強化繊維束を引き出し、引き出された強化繊維束に対し連続的に樹脂を付与した後にシート状に成形するプリプレグシートの製造装置であって、前記複数本の強化繊維束を1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に区分し、該繊維束単位ごとに独立に樹脂を付与するプリプレグシートの製造装置。
【請求項2】
強化繊維束1本を前記繊維束単位とする、請求項1に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項3】
前記繊維束単位の少なくとも幅方向側面を規制するガイド部により区画された繊維束単位通過領域を形成する糸道制御機構を有し、前記樹脂の付与を前記繊維束単位通過領域内で行う、請求項1または2に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項4】
前記糸道制御機構が、前記繊維束単位の底面および幅方向側面を規制する溝により前記繊維束単位通過領域を形成する、請求項3に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項5】
前記糸道制御機構が、ローラまたはバーである、請求項4に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項6】
前記糸道制御機構が、前記繊維束単位通過領域に向けて樹脂を吐出する樹脂吐出口を有する、請求項3~5のいずれかに記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項7】
前記糸道制御機構と独立した樹脂付与機構を有する、請求項3~5のいずれかに記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項8】
前記樹脂付与機構は、前記繊維束単位通過領域ごとに独立して樹脂を吐出する複数の樹脂吐出口を有する、請求項7に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項9】
前記樹脂付与機構は、2以上の繊維束単位に対して一括して樹脂を吐出するスリット状の樹脂吐出口を有する、請求項7に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項10】
前記樹脂付与機構は、前記樹脂吐出口から吐出された樹脂を前記繊維束単位通過領域に向けて誘導する樹脂誘導部材を備える、請求項8または9に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項11】
前記樹脂誘導部材が、前記樹脂吐出口から前記繊維束単位通過領域に向かうにつれて細くなる略テーパー形状の部材である、請求項10に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項12】
前記樹脂誘導部材が前記樹脂付与機構に対し着脱自在である、請求項10または11に記載のプリプレグシートの製造装置。
【請求項13】
複数本の強化繊維束を引き出し、引き出された強化繊維束に対し連続的に樹脂を付与した後にシート状に成形するプリプレグシートの製造方法であって、
前記複数本の強化繊維束を1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に区分し、該繊維束単位ごとに独立に樹脂を付与するプリプレグシートの製造方法。
【請求項14】
前記強化繊維束が炭素繊維束である、請求項13に記載のプリプレグシートの製造方法。
【請求項15】
前記樹脂が樹脂粒子を溶媒に分散させたスラリーである、請求項13または14に記載のプリプレグシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維束に樹脂が含浸されてなるプリプレグシートの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を強化繊維で補強した繊維強化複合材料(FRP)は、航空・宇宙用材料、自動車材料、産業用材料、スポーツ用途など様々な分野で用いられている。FRPは強化繊維束に樹脂を含浸させることで得られる中間基材(プリプレグシート)を積層、成形することで製造されている。
【0003】
プリプレグシートはその繊維方向(繊維の長さ方向)において、引張強度や靭性が非常に高く、成形性に優れているシート状物である。プリプレグシートの製造方法としては、例えば特許文献1のように、樹脂粒子を水に均一分散させて得られたスラリーを溜めたスラリー槽に、シート状に配列した強化繊維束を浸漬させることで強化繊維束の表面及び内部へ樹脂粒子を含浸し、加熱工程にて水の蒸発除去と樹脂の溶融を行うことで、繊維束へ樹脂を付与してプリプレグを得る方法が一般的である。この方法は、強化繊維束をスラリー槽に浸けることで容易に強化繊維束に樹脂粒子を付与し、プリプレグを製造することが可能である。しかしこの方法では、強化繊維束に含浸する樹脂が、スラリー槽内の樹脂粒子の分布や強化繊維束の開繊状態によって変わるため、強化繊維束への樹脂の付与量を制御することが困難である。そのため、プリプレグシートの樹脂目付がばらつき、シート品質が不均一になってしまうという問題が生じる。
【0004】
特許文献2には、樹脂粒子を含んだスラリーをスプレーノズルに供給し、シート状に配列した強化繊維束にスラリーを吹き付けて強化繊維束に樹脂粒子を付与する方法が開示されている。この方法はニードルバルブで流量を制御しているため、一定量の樹脂粒子を強化繊維束に吹き付けることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-275291号公報
【特許文献2】特開2008-1915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法は、スラリーの飛散範囲の制御が難しいこと、また、表面に露出した強化繊維束には多くの樹脂が付与され、内部に埋もれた強化繊維束には樹脂が付与されないことなどから、強化繊維束ごとに樹脂の付与量がばらつき、プリプレグシート品質が不均一になってしまうという問題が生じる。本発明の課題は、強化繊維束に均一に樹脂が付与され、品質が均一であるプリプレグシートを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のプリプレグシートの製造装置は、引き出された複数本の強化繊維束が糸道制御機構で1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に区分され、糸道制御機構近傍にある樹脂付与機構によって繊維束単位通過領域を通過する繊維束単位に対して、独立して連続的に樹脂を付与することを特徴とする。
【0008】
具体的には、本発明は下記の手段により上記課題を解決するものである。
(1)複数本の強化繊維束を引き出し、引き出された強化繊維束に対し連続的に樹脂を付与した後にシート状に成形するプリプレグシートの製造装置であって、前記複数本の強化繊維束を1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に区分し、該繊維束単位ごとに独立に樹脂を付与するプリプレグシートの製造装置。
(2)強化繊維束1本を前記繊維束単位とする、(1)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(3)前記繊維束単位の少なくとも幅方向側面を規制するガイド部により区画された繊維束単位通過領域を形成する糸道制御機構を有し、前記樹脂の付与を前記繊維束単位通過領域内で行う、(1)または(2)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(4)前記糸道制御機構が、前記繊維束単位の底面および幅方向側面を規制する溝により前記繊維束単位通過領域を形成する、(3)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(5)前記糸道制御機構が、ローラまたはバーである、(4)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(6)前記糸道制御機構が、前記繊維束単位通過領域に向けて樹脂を吐出する樹脂吐出口を有する、(3)~(5)のいずれかに記載のプリプレグシートの製造装置。
(7)前記糸道制御機構と独立した樹脂付与機構を有する、(3)~(5)のいずれかに記載のプリプレグシートの製造装置。
(8)前記樹脂付与機構は、前記繊維束単位通過領域ごとに独立して樹脂を吐出する複数の樹脂吐出口を有する、(7)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(9)前記樹脂付与機構は、2以上の繊維束単位に対して一括して樹脂を吐出するスリット状の樹脂吐出口を有する、(7)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(10)前記樹脂付与機構は、前記樹脂吐出口から吐出された樹脂を前記繊維束単位通過領域に向けて誘導する樹脂誘導部材を備える、(8)または(9)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(11)前記樹脂誘導部材が、前記樹脂吐出口から前記繊維束単位通過領域に向かうにつれて細くなる略テーパー形状の部材である、(10)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(12)前記樹脂誘導部材が前記樹脂付与機構に対し着脱自在である、(10)または(11)に記載のプリプレグシートの製造装置。
(13)複数本の強化繊維束を引き出し、引き出された強化繊維束に対し連続的に樹脂を付与した後にシート状に成形するプリプレグシートの製造方法であって、前記複数本の強化繊維束を1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に区分し、該繊維束単位ごとに独立に樹脂を付与するプリプレグシートの製造方法。
(14)前記強化繊維束が炭素繊維束である、(13)に記載のプリプレグシートの製造方法。
(15)前記樹脂が樹脂粒子を溶媒に分散させたスラリーである、(13)または(14)に記載のプリプレグシートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプリプレグシートの製造装置および製造方法によれば、1本ないしはそれ以上の強化繊維束からなる繊維束単位に区分された繊維束に対し、それぞれ独立して樹脂付与量を制御することで、それぞれの繊維束単位の樹脂目付が均一となる。その結果、幅方向におけるプリプレグシートの樹脂目付が一定で、品質が均一なプリプレグシートを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態のプリプレグシートの製造装置の概略図である。
【
図2】本発明におけるシート化機構として多段バーを使用した場合の概略図である。
【
図3】本発明におけるシート化機構として多段ニップロールを使用した場合の概略図である。
【
図4】本発明における糸道制御機構としてコームを使用した場合の概略図である。
【
図5】本発明における糸道制御機構として溝部材を使用した場合の概略図である。
【
図6】本発明の他の実施形態のプリプレグシートの製造装置の概略図である。
【
図7】本発明における樹脂付与機能を備えた糸道制御機構の概略断面図である。
【
図8】本発明における樹脂付与機構としてチューブを使用した場合の概略図である。
【
図9】本発明における樹脂付与機構としてノズルを使用した場合の概略図である。
【
図10】本発明における複数の樹脂付与機構に対して、1つの樹脂供給手段を使用した場合の概略図である。
【
図11】本発明の他の実施形態のプリプレグシートの製造装置の概略図である。
【
図12】本発明における樹脂付与機構として複数の樹脂吐出口を有するダイを使用した場合の概略断面図である。
【
図13】本発明における樹脂付与機構として複数の樹脂吐出口を有するダイを使用した場合の概略断面図である。
【
図14】本発明における樹脂付与機構として単一の樹脂吐出口を有するダイを使用した場合の概略断面図である。
【
図15】本発明における樹脂誘導部材として略テーパー形状部材を使用した場合の概略断面図である。
【
図16】本発明における樹脂誘導部材として溝付きスロープを使用した場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の望ましい実施形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。当業者には明らかであるが、本明細書における特定の実施形態についての説明は、上位概念としての本発明の製造装置の説明としても理解し得るものである。また、主として本発明のプリプレグシートの製造装置について説明するが、このような製造装置を用いて実行され得るプリプレグシートの製造方法もまた本発明の一側面であることは容易に理解されよう。
【0012】
図1は本発明の一実施形態のプリプレグシートの製造装置を示す概略図である。ボビン1より引き出された複数本の強化繊維束2は、搬送ローラ3を介して糸道制御機構4に導かれる。
図1では糸道制御機構4として、強化繊維束2の配列方向に一定の間隔をもって配列された複数の板状の部材(ガイド部)からなる幅規制ガイド11を用いている。糸道制御機構4では、複数本の強化繊維束2のそれぞれが独立に、繊維束単位通過領域41(
図1では隣り合う板状の部材に挟まれた領域)を通過する。つまり、本実施形態においては、複数本の強化繊維束2は1本の強化繊維束からなる繊維束単位に区分される。ここで、本明細書においては、強化繊維の単糸を複数本束ねて集合体としたものを強化繊維束と呼び、前記繊維束を1本ないしはそれ以上を一塊として区分したものをそれぞれ繊維束単位と呼ぶ。さらに糸道制御機構4の近傍には樹脂付与機構5が設けられており、繊維束単位通過領域41を通過する複数の繊維束単位に対して、それぞれ独立に所定量の樹脂を付与している。樹脂を付与された複数の強化繊維束2は、シート化機構6によって結合されて、1枚のプリプレグシート7となり、巻き取り装置8で巻き取られる。
【0013】
図1の製造装置では、幅規制ガイド11の板状の部材によって繊維束単位の幅方向側面が規制され、繊維束単位通過領域41では繊維束同士の重なりが生じない。さらに樹脂付与機構5によって繊維束単位通過領域41を通過する複数の繊維束単位に対し、それぞれ独立して樹脂付与量を制御できるため、各繊維束単位の樹脂付与量を均一にすることができる。
【0014】
さらに強化繊維束2への樹脂の含浸促進を目的として、樹脂付与機構5と巻き取り装置8の間に多段のローラやバー、コンマロール、ニップロールを設けることができる。
【0015】
シート化機構6としては、多段やバーやニップロール、ダブルベルトプレス、開繊装置などを用いることができる。特に
図2のような多段バー9や、
図3のような多段ニップロール10を用いると、強化繊維束のシート化と含浸促進が同時に行えるため、好ましい。
【0016】
また必要に応じて、シート化機構6と巻き取り装置8の間に乾燥装置や溶融装置、成型装置を設けてもよい。
【0017】
強化繊維束2としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、金属酸化物繊維、金属窒化物繊維などを用いることができるが、本発明は、特に炭素繊維を用いたプリプレグシートの製造に好適である。
【0018】
強化繊維束に付与する樹脂は特に限定されず、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを用いることができる。また、付与する樹脂の種類も特に限定されず、常温で流動性の高い液体樹脂や、加熱溶融した樹脂、樹脂を溶媒に溶解させた溶液、樹脂粒子を溶媒に分散させたスラリーなどを用いることができる。
【0019】
繊維束単位は1本ないしはそれ以上の強化繊維束としているが、繊維束単位に含まれる強化繊維束の本数が多いほど、繊維束単位通過領域にて強化繊維束同士の重なりが生じやすく、強化繊維束ごとに付与される樹脂量のばらつきが大きくなる。繊維束単位に含まれる強化繊維束の本数の上限は、製造するプリプレグシートに要求される樹脂量のばらつきの許容値や、FRPとして積層、成形する際のプリプレグシートの単位幅などを考慮して決定すればよいが、一般的には10本以下が好ましく、5本以下がより好ましい。繊維束単位に含まれる強化繊維束を1本とすると、幅方向に完全に均一に樹脂が付与されたプリプレグシートを得ることができる。その結果、プリプレグシートの任意の場所を任意の幅で切り取って使用しても、常に均一な品質のFRPを成形することが可能となり、最も好ましい。なお、本発明は、1枚のプリプレグシートを製造するために用いられる全ての強化繊維束を、少なくとも2以上の繊維束単位に区分するものである。
繊維束単位への区分数は、製造されるプリプレグシートのサイズや、付与する樹脂の特性等に応じて適宜決定され得るが、10以上の繊維束単位に区分することが好ましく、100以上の繊維束単位に区分することがより好ましい。
【0020】
図1では糸道制御機構4として、強化繊維束2の配列方向に一定の間隔をもって配列された複数の板状の部材からなる幅規制ガイド11を例示したが、これに限定されず、各々の繊維束単位の幅を規制し、繊維束単位同士の重なりが生じない構成であればよい。例えば、
図4(A)および(B)のように、複数の棒状部材からなるコーム12を用いてもよい。なお、
図4(B)は、2本の強化繊維束2からなる繊維束単位に区分してコーム12からなる糸道制御機構4を通過するよう構成した例である。
【0021】
図5は、糸道制御機構4として、繊維束単位21の底面および幅方向側面を規制する溝によって繊維束単位通過領域41を形成した実施形態の一例を示す概略図である。この実施形態では、糸道制御機構4として、強化繊維束の配列方向に一定の間隔をもって配列された溝を有する溝付きブロック13を用いており、強化繊維束は繊維束単位21に区分されて通過している。すなわち、繊維束単位通過領域41は、溝の壁面および底面からなるガイド部によって規制されて区画されている。そして、それぞれの繊維束単位通過領域41に対応する位置に樹脂付与機構5が設けられ、繊維束単位通過領域41内で、通過する繊維束単位21に対してそれぞれ独立して所定量の樹脂を付与している。
図5の繊維束単位通過領域41では、繊維束単位21の幅方向側面及び底面が規制されており、繊維束単位同士の重なりが生じないだけでなく、繊維束単位の厚み方向の振動が生じない。これにより、樹脂付与機構5と繊維束単位21の距離が一定に保たれ、より繊維束単位への樹脂の付与を安定して行うことができる。また、繊維束単位21が溝の底面に押し付けられることで、繊維束単位が幅方向に開繊する。これにより、繊維束単位通過領域41における繊維束単位21の厚みが薄くなり、付与された樹脂が繊維束単位の内部まで含浸する効果も得られる。
【0022】
溝付きブロック13の溝の断面形状は特に限定されないが、通過する繊維束単位の幅を均一化し、厚みを薄くする観点から、長方形や正方形のような矩形形状にすると、より好ましい。溝の深さは繊維束単位の脱落防止の観点から、繊維束単位の厚みよりも十分に大きくすることが好ましい。より具体的には1mm以上にすることが好ましく、より好ましくは2mm以上である。溝の幅は特に限定しないが、溝の壁面と繊維束単位の過剰な擦過を防止する観点から、繊維束単位の幅と同程度とすることが好ましい。
【0023】
図6は、糸道制御機構4として、繊維束単位21の底面および幅方向側面を規制する溝によって繊維束単位通過領域41を形成した実施形態の他の例を示す概略図である。
図6の実施形態は、糸道制御機構4として強化繊維束2の配列方向に複数の溝を有する溝付きローラ14を設けている以外は、
図1の実施形態と同じである。
図6では、複数本の強化繊維束2が繊維束単位に区分されて、溝付きローラ14の各々の溝を通過する。
図6では、溝の側面によって各々の繊維束単位21の幅方向側面が規制されるため、隣り合う繊維束単位同士の重なりが生じない。また、溝の底面に繊維束単位が押し付けられることで、繊維束単位の厚み方向の振動が抑制される。
【0024】
なお、
図5に示す溝付きブロック13や
図6に示す溝付きローラ14において、溝の底面を曲面状とすると、曲面状の溝の底面に繊維束単位が押し付けられることで繊維束単位が幅方向に効率よく開繊する。これにより繊維束単位通過領域41における繊維束単位の厚みがより薄くなり、付与された樹脂が繊維束単位の内部までより含浸しやすくなる効果を得られる。さらに溝の底面が曲面状であるため、繊維束単位と溝の底面が擦過した際の毛羽立ちも軽減される。その結果、各々の強化繊維束への樹脂の付与量が均一で、かつ繊維束の内部まで樹脂が含浸し、毛羽立ちも少ない高品質なプリプレグシートを得ることができる。
【0025】
強化繊維束2と溝付きローラの擦過による毛羽立ちを極限まで小さくしたい場合には、溝付きローラ14の溝の底面における周速が、強化繊維束2の搬送速度と同じとなるように回転させると、溝付きローラ14の底面と強化繊維束2の擦過が少なくなり、好ましい。溝付きローラ14を回転させた際に、繊維束単位の単糸の一部がローラに巻き付く場合は、溝付きローラ14の溝の底面における周速を、強化繊維束2の搬送速度よりも遅くすると、単糸の巻き付きを抑制できて好ましい。溝付きローラ14の溝内部に樹脂の一部が堆積する場合は、溝付きローラ14の回転を停止して固定のバーとして使用すると、繊維束単位に付与された樹脂が溝付きローラ14の溝に残らず、繊維束への樹脂付与量の安定化の観点から好ましい。溝付きローラ14の溝の断面形状は特に限定しないが、通過する繊維束単位の幅を均一化し、厚みを薄くする観点から、長方形や正方形のような矩形形状にすると、より好ましい。溝の深さは繊維束単位の脱落防止の観点から、繊維束単位の厚みよりも十分に大きくすることが好ましい。より具体的には1mm以上にすることが好ましく、より好ましくは2mm以上である。溝の幅は特に限定しないが、溝の壁面と繊維束単位の過剰な擦過を防止する観点から、繊維束単位の幅と同程度とすることが好ましい。
【0026】
また、
図6に示す溝付きローラ14を、回転しないよう構成し、固定のバーを糸道制御機構4とすることもできる。
【0027】
糸道制御機構4の表面性状は特に限定しないが、繊維束単位の擦過による毛羽立ちを防止する観点から、繊維束単位との接触部は平滑であることが好ましい。また、糸道制御機構4の材質としては、摩擦係数の低い材質や、摩擦係数の低い表面処理を用いることで、繊維束単位の擦過による毛羽立ちを防止することができる。
【0028】
図1、6では糸道制御機構4と樹脂付与機構5が独立して設置されているが、糸道制御機構4が樹脂付与機構の機能を兼ね備えていてもよい。すなわち、糸道制御機構4が、繊維束単位通過領域41に向けて樹脂を吐出する樹脂吐出口を有していてもよい。
図7は樹脂付与機能を備えた糸道制御機構15を、
図1のX方向から見た概略断面図である。
図7の糸道制御機構15は、
図5と同じく強化繊維束の配列方向に一定の間隔をもって配列された溝付きブロック13を用いている。溝付きブロック13の底面には、通過する繊維束単位21に樹脂を付与するための樹脂吐出口16が備わっており、樹脂吐出口16には樹脂供給装置18から樹脂供給配管17を通じて樹脂が供給されている。
図7の糸道制御機構15では、樹脂吐出口16から繊維束単位21との接触面へ樹脂が染み出すようになっており、通過する繊維束単位21に対してそれぞれ独立して樹脂が付与される。また、糸道制御機構15の底面と通過する繊維束単位21の間に樹脂が介在するため、繊維束単位21が溝付きブロック13の溝の底面に押し付けられた際に、繊維束単位が幅方向に開繊すると共に樹脂も幅方向に薄く広がることで、樹脂が開繊された繊維束単位内部にまで均一に含浸する効果を得られる。
【0029】
樹脂付与機構5を糸道制御機構4とは独立して設ける場合、樹脂付与機構5は区分された各々の繊維束単位21に対して、独立して所定量の樹脂を付与することができる機構であればよい。例えば、
図8のように複数のチューブ19を並べて使用してもよいし、
図9のようにノズル20を使用してもよい。ノズル20としては、例えばディスペンサーノズルやシリンジ、ブラシ、スプレーノズル、スプレーガンなどを使用することができる。各々の樹脂付与機構5に樹脂を供給する手段は特に限定されず、種々のポンプを使用することができる。具体的には、ダイヤフラムポンプやシリンジポンプ、スネークポンプ、渦巻ポンプを例示できる。またはポンプを用いず、樹脂を貯留したタンクを加圧する圧送方式でもよい。また樹脂供給手段は各々の樹脂付与機構5に対して、それぞれ独立に設けてもよいし、1つの樹脂供給手段から複数の樹脂付与機構5に対して樹脂を供給する構成でもよい。
【0030】
図10は1つの樹脂供給手段から複数のノズル20から構成される樹脂付与機構5に対して樹脂を供給する実施形態を示す概略図で、樹脂付与機構を
図1に示すX方向から見た図である。樹脂供給装置18から供給された樹脂は、樹脂供給配管17を通じて分岐し、複数のノズル20に供給される。さらに各々のノズル20の上流側には複数の流量調整機構22が設けられている。このように流量調整機構22を設けると、各々のノズル20から供給される樹脂の量にばらつきが生じた場合でも、各々のノズル20に供給される樹脂の流量を独立して調整することが可能となり、好ましい。各々のノズル20から供給される樹脂の量がばらつく原因としては、各々のノズルのわずかな形状の違いや、各々のノズルに至る樹脂供給配管の圧力損失の差が挙げられる。もちろん、各々のノズルを精度よく製作し、樹脂供給配管の圧力損失を均一にする場合は、流量調整機構は不要である。流量調整機構22の構成は特に限定されないが、ニードルバルブやボールバルブ、ダイヤフラムバルブなどを用いることができる。
【0031】
図11は樹脂付与機構5として、ダイ52を用いた場合の実施形態を示す概略図である。また、
図12は樹脂付与機構5として、複数の樹脂吐出口524を有するダイ52を用いた場合の概略断面図である。
図12は糸道制御機構4を
図11に示すX方向から見た図である。また、
図13はダイ52を
図12に示すY方向から見た概略断面図である。ダイ52の内部には樹脂が流入する樹脂流入口521、流入した樹脂を幅方向(
図12のY方向)に拡幅するためのマニホールド522、樹脂を整流化するための複数のスリット状流路523が設けられており、樹脂は複数の樹脂吐出口524を通じて区分された繊維束単位21に付与される。このように内部に拡幅空間と整流化流路を有するダイを用いると、各々の樹脂吐出口524から均一な量の樹脂を吐出することが可能となり、各々の樹脂吐出口ごとに流量調整機構を設けなくとも、各々の繊維束単位21に対して均一な量の樹脂を付与することが可能となる。その結果、装置構成を単純化しつつ、得られるプリプレグシートの品質が向上する。
【0032】
図12では各々の繊維束単位21が通過する繊維束単位通過領域に対応して、ダイ52に複数のスリット状流路523および複数の樹脂吐出口524がある例を示したが、これに限定されず、2以上の繊維束単位21に対して一括して樹脂を吐出するスリット状流路および樹脂吐出口を有するダイを用いることもできる。例えば、
図14のように、ダイに長いスリット状流路525を1つだけ設けることにより、スリット状の樹脂吐出口526を1つだけ有するよう設計してもよい。このような場合には、ダイ52の樹脂吐出口526を有する面と糸道制御機構4を接触させて、吐出された樹脂が各々の繊維束単位通過領域41、すなわち糸道制御機構4の溝に供給されるようにすることで、繊維束単位21ごとに独立に樹脂を付与することができる。
【0033】
または
図15のように、ダイ52と糸道制御機構4を離間して設置し、ダイ52の樹脂吐出口526を有する面に樹脂誘導部材53を設けて、樹脂吐出口526から吐出された樹脂が各々の繊維束単位通過領域41に供給されるよう、樹脂の流れを誘導してもよい。樹脂誘導部材としては、
図15に示すように樹脂吐出口526から繊維束単位21の繊維束単位通過領域41に向かうにつれて細くなる略テーパー形状の部材にすると、樹脂吐出口526から吐出された樹脂が均等に分割されて各々の繊維束単位通過領域41に供給され、繊維束単位21に対して確実に樹脂を誘導することが可能となる。
【0034】
樹脂誘導部材として、
図16に示すように溝付きスロープ54を使用してもよい。
図16では、ダイ52から吐出された樹脂は溝付きスロープ54の各々の溝を通過することによって分割されて各々の繊維束単位通過領域41に供給され、繊維束単位21に付与される。このように樹脂誘導部材として溝付きスロープ54を用いると、ダイ52から吐出される樹脂の流量が樹脂供給手段であるポンプの脈動などにより変動する場合であっても、樹脂が溝付きスロープ54を垂れ落ちる間に流量変動が吸収され、繊維束単位21に対して長手方向に均一な量の樹脂を付与することが可能となる。溝付きスロープ54の溝と幅の間隔は、配列される繊維束単位の幅と間隔と同じであることが好ましく、溝の深さは吐出された樹脂が幅方向に漏れない程度であることが好ましい。また樹脂誘導部材として、
図15のテーパー状部材と
図16の溝付きスロープを組み合わせて使用してもよい。
【0035】
このような樹脂誘導部材は、樹脂付与機構5に対し着脱な部材として設計することで、洗浄等のメンテナンスが容易になるため好ましい。
【符号の説明】
【0036】
1 ボビン
2 強化繊維束
3 搬送ローラ
4 糸道制御機構
5 樹脂付与機構
6 シート化機構
7 プリプレグシート
8 巻き取り装置
9 多段バー
10 多段ニップロール
11 幅規制ガイド
12 コーム
13 溝付きブロック
14 溝付きローラ
15 糸道制御機構
16 樹脂吐出口
17 樹脂供給配管
18 樹脂供給装置
19 チューブ
20 ノズル
21 繊維束単位
22 流量調整機構
41 繊維束単位通過領域
52 ダイ
53 樹脂誘導部材
54 溝付きスロープ
521 樹脂流入口
522 マニホールド
523 スリット状流路
524 樹脂吐出口
525 スリット状流路
526 樹脂吐出口