(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125064
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】バイオマス資源由来アクリル系繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/18 20060101AFI20230831BHJP
D01F 6/40 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
D01F6/18 Z
D01F6/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028982
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 達哉
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035BB03
4L035BB11
4L035BB17
4L035EE20
4L035FF08
4L035GG01
4L035MB02
(57)【要約】
【課題】本発明は、CO2排出量削減に貢献する、バイオマス資源由来のアクリル繊維を提供する。
【解決手段】本発明は、上記の課題を解決せんとするものであって、主たる繰り返し単位がアクリロニトリル単位によって構成されるアクリル系重合体からなるアクリル繊維であって、前記アクリロニトリルがバイオマス資源から誘導された物であることを特徴とするバイオマス資源由来アクリル繊維である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がアクリロニトリル単位によって構成されるアクリル系重合体からなるアクリル系繊維であって、前記アクリロニトリルがバイオマス資源から誘導されたものであることを特徴とするバイオマス資源由来アクリル系繊維。
【請求項2】
アクリル系重合体が、アクリロニトリル以外のモノマーを1%~20モル%共重合したものであることを特徴とする、請求項1記載のバイオマス資源由来アクリル系繊維。
【請求項3】
色調b値が0.0~6.0の範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載のバイオマス資源由来アクリル系繊維。
【請求項4】
アクリロニトリルの原料となるバイオマス資源が、トール油および/または廃動物油である、請求項1~3のいずれかに記載のバイオマス資源由来アクリル系繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源由来のアクリル系繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維は羊毛に似た風合いを持つことから、セーターや靴下などの衣料製品、あるいは獣毛調の風合いや光沢を生かした獣毛調立毛製品のパイル素材などに用いられており、合成繊維の中でも主要な素材である。
一方、近年多くの工業製品で、CO2の放出など環境への影響を考慮し、化石資源から再生可能資源への代替が求められており、合成繊維も例外ではない。再生可能資源としてバイオマス資源由来の原料を用いる方法がいくつも提案されており、例えば、特許文献1にはバイオマス資源由来グリコールとバイオマス資源由来テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体を原料としたポリエステル繊維が公開されている。また特許文献2にはヒマシ油の趣旨から精製されるセバシン酸を原料としたポリアミド繊維が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-219736号公報
【特許文献2】特開2013-64217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バイオマス資源由来のアクリル系繊維について提案されたものはなく、したがって、本発明の目的はバイオマス資源由来のアクリル系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、主たる繰り返し単位としてアクリロニトリル単位によって構成されるアクリル系重合体からなるアクリル系繊維であって、前記アクリロニトリルがバイオマス資源から誘導されたものであることを特徴とするバイオマス資源由来アクリル系繊維である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、再生可能なバイオマス資源由来のアクリル系繊維を提供することができ、CO2の排出抑制が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のアクリル系繊維は、主たる繰り返し単位としてアクリロニトリル単位によって構成されるアクリル系重合体からなるアクリル系繊維であって、前記アクリロニトリル単位のもととなるアクリロニトリルがバイオマス資源から誘導されたものであることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に用いられるアクリロニトリルはバイオマス資源から誘導されたものであることが特徴である。バイオマス資源から誘導されたものであれば特に限定されるものではなく、トール油、廃動植物油から得られるバイオナフサや、植物油のメタノリシスにより得られるグリセロール、グルコースの生体発酵により得られる1,3-プロパンジオール、藻類から得られるトリグリセリドなどを出発物質に、既知の方法でアクリロニトリルを得ることができる。中でも、経済性や調達の安定性の観点から、トール油や廃動植物油を原料とすることが好ましい。なお、上記バイオマス資源由来の原料を複数用いたアクリロニトリルを使用することもできる。
【0009】
バイオマス資源から誘導されたアクリロニトリルであるかどうかは14Cの存在有無によって判別可能である。自然界に存在する14Cの存在比率は1.2×10-12と一定であり、生体中では炭素は常に環境と交換されるため、バイオマス資源由来のアクリロニトリルの14C比率は自然界と同等の数値となる。一方、放射性同位体である14Cは5730年の半減期で14Nに放射壊変するため、石油資源由来のアクリロニトリルは14Cが検出されず、実質的に有さない。ゆえに、14Cが検出可能なアクリロニトリルはバイオマス資源由来であるといえ、本アクリロニトリルより重合されたアクリル系重合体、およびアクリル系繊維についても同様である。
【0010】
14Cの含有率はASTM規格D6866-06またはASTM規格D7026-04に記載の方法の一つ、特にASTM規格D8866-06に記載の質量分析または液体シンチレーション分光分析によって分析できる。
【0011】
本発明のアクリル系繊維を構成するアクリル系重合体は主たる繰り返し単位としてアクリロニトリル単位によって構成されるが、好ましくはアクリロニトリルを80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上含むものが用いられ、アクリロニトリル単体からなる重合体でもよい。主成分のアクリロニトリルのほか、共重合成分を任意に含むことができる。共重合成分であるモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸またはこれらのエステル類、イタコン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのオレフィン系モノマー、あるいはアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタリルスルホン酸及びP-スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸またはこれらの塩類などを用いることができ、特にアクリル酸メチルやメタリルスルホン酸ナトリウムが好ましく用いられる。衣料用や資材用として、染色、機能性付与を行う観点からは、上記のすくなくとも1つの成分を共重合しておくことが好ましく、好ましい下限は1モル%、より好ましくは2モル%である。共重合成分が多すぎる場合には曳糸性を損なう場合があり、好ましい上限は20モル%、より好ましくは15モル%である。
【0012】
なお、本発明のアクリル系繊維は単一のアクリル系重合体からなるものの他、組成の異なる2種以上のアクリル系重合体からなる複合繊維であってもよく、その複合形態としては単純混合の他、サイドバイサイド型や芯鞘複合型、偏心芯鞘型、多層複合型などの手段をとることが可能である。共重合成分の異なるポリマーをサイドバイサイド型や偏心芯鞘型とすることで熱処理後の発現捲縮が発生するため、嵩高性が求められる場合においては好ましい態様となる。
【0013】
また、本発明で用いられるアクリル系重合体には必要に応じ、添加剤として、重合開始剤、pH調整剤及び分子量調整剤等を配合することができる。
本発明のアクリル系繊維の製造方法としては、本発明のアクリル系繊維が得られる限り特に制限はないが、例えば以下のような製造方法をとることができる。
【0014】
本発明で用いることができるアクリル系重合体の重合方法は特に制限はなく、懸濁重合法、乳化重合法、及び溶液重合法等、一般的な重合方法を用いることが可能である。また、重合工程で有機溶媒を使用する場合は、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOという。)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒を使用することができる他、ロダン酸ソーダ水溶液、硝酸水溶液、塩化亜鉛水溶液などの水系溶剤を用いることも可能である。
【0015】
本発明のアクリル系繊維の紡糸方法は、乾式紡糸法、湿式紡糸法、及び乾湿式紡糸法などが採用できる。衣料用途等の外観の審美性を求められる用途においては、黄味を帯びていないものが望ましいが、熱履歴が高くなるほど黄味を帯びる傾向にあることから、重合-製糸工程が一貫しているDMSO溶媒での溶液重合-湿式紡糸法の採用が望ましい。
【0016】
また、本発明のアクリル系繊維の好ましい様態としては、黄味の指標となる色調b値が0.0~6.0の範囲となっていることが望ましく、より好ましくは2.0~5.0の範囲となっていることが好ましい。
【0017】
その他、本発明を実施するための形態は重合・製糸諸条件を当業者が適宜調整可能である。
【実施例0018】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
(1)単繊維繊度、切断強度(cN/dtex)および切断伸度(%)
JIS L1015:2010化学繊維ステープル試験方法に記載の方法に準拠して測定した。
【0020】
(2)色調b値
JIS L1015:2010化学繊維ステープル試験方法に記載の白色度測定方法に準じて試料を作製し、スガ社製「カラーコンピューター;型式SM-3」を用いてb値を測定した。
【0021】
(3)染色性
繊維250gを開繊して繊維ウェブ状にしたものを試料綿とし、次の染色液を用いて浴温度を80分で100℃まで昇温し、そのまま100℃の温度で30分間の染色を行った。
【0022】
<染色液>
Astrzon Gollden Yellow GL-E 1.00 owf%
Astrzon Red F3BL 0.48 owf%
Malachite Green 0.22 owf%
染色助剤(均染剤カチオーゲンL 1.00 owf%、酢酸ナトリウム 0.50 owf%、酢酸 0.60 owf%)。
【0023】
参考例にて採取した綿(対象綿)と試料綿とを同じ条件で染色し、得られた染色綿を、色調b値測定と同様にして色調L値を測定、対照綿と試料綿とのL値の差を比較した。
優秀(A):|L値(対照綿)-L値(試料綿)|<1.0
良 (B):|L値(対照綿)-L値(試料綿)|=1.0~1.5
可 (C):|L値(対照綿)-L値(試料綿)|=1.5~2.0
不良(D):|L値(対照綿)-L値(試料綿)|>2.0
上記の4段階で判定して優秀(A)、良(B)と可(C)を合格とした。
【0024】
[参考例]
石油資源由来のアクリロニトリル(INEOS製、European Standard Grade)を用い、アクリロニトリル93.8質量%、アクリル酸メチル5.0質量%、メタリルスルホン酸ソーダ1.2質量%からなるアクリル系重合体をDMSO系溶液重合により得た。得られたアクリル系重合体のDMSO溶液に、DMSOを添加し、アクリル系重合体溶液の濃度を20質量%に調整し紡糸原液とした。この紡糸原液を60℃に温調し、40℃、60質量%のDMSO水溶液中に湿式紡糸した。その後、5.0倍での延伸、軟水での水洗、乾燥緻密化、油剤付与の後、スチームによる湿熱処理にてトウを75℃に昇温し、押し込みクリンパーにて捲縮付与し、乾燥、切断することにより、単繊維繊度1.1dtex、カット長38mmのアクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。
【0025】
[実施例1]
トール油を出発物質に、バイオナフサ、バイオプロパン、バイオプロピレンを経由し得られたバイオマス資源由来のアクリロニトリル(AnQore社製、Econitrile)を用いた以外は参考例と同様に重合、製糸し、単繊維繊度1.1dtex、カット長38mmのアクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。
【0026】
[実施例2]
アクリル系重合体の組成のうち、アクリロニトリル93.5質量%、アクリル酸5.3質量%とした以外は実施例1と同様に重合、製糸し、単繊維繊度1.1dtex、カット長38mmのアクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。
【0027】
[実施例3]
アクリル系重合体の組成のうち、アクリロニトリル85.9質量%、アクリル酸13.0質量%、メタリルスルホン酸ソーダ1.1質量%とした以外は実施例1と同様に重合、製糸し、単繊維繊度1.1dtex、カット長38mmのアクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。
【0028】
[実施例4]
アクリル系重合体の組成のうち、アクリロニトリル98.1質量%、アクリル酸メチル1.6質量%、メタリルスルホン酸ソーダ0.3質量%とし、紡糸後の延伸倍率を3.5倍とした以外は実施例1と同様に重合、製糸して、単繊維繊度1.4dtex、カット長38mmのアクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。
【0029】
[実施例5]
実施例1と同様のモノマー組成にて、水系懸濁重合法により重合を行い、得られたポリマーを分取、乾燥させてアクリル系重合体を得た。得られたアクリル系重合体をDMSOに溶解し、濃度を20質量%に調整し紡糸原液を得た。得られた紡糸原液について実施例1同様にして製糸し、単繊維繊度1.1dtex、カット長38mmのアクリル系繊維を得た。得られた繊維の諸特性を表1に示す。
【0030】
実施例1~5のアクリル繊維は、参考例で示した石油資源由来アクリロニトリルを用いたアクリル繊維と何ら遜色ない繊維物性、染色性、色調を示した。特に、共重合成分を一定以上有する実施例1~3では延伸性、染色性に優れることが示された。また、重合後に重合体を取り出すことなく製糸可能な溶液重合で採取した実施例1~4については、熱履歴による黄変を抑制し、色調b値が低い範囲に抑えられることが示された。
【0031】
【0032】