(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125110
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】マスターバッチ、樹脂組成物、マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20230831BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20230831BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20230831BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20230831BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20230831BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20230831BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08J3/22 CER
C08J3/22 CEZ
C08L1/02
C08K7/02
C08L23/26
C08K5/20
C08K5/103
C08L101/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029062
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】角田 惟緒
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA13
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(57)【要約】
【課題】 セルロース繊維の分散性に優れた樹脂組成物を得ることができるマスターバッチを提供する。
【解決手段】 セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含むマスターバッチ。
【請求項2】
前記嵩高剤が、脂肪酸と多価アルコールとのエステル系化合物および脂肪酸アミド系化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のマスターバッチ。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレンであることを特徴とする、請求項1または2に記載のマスターバッチ。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のマスターバッチと、希釈用樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項5】
セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含む原料を混練してマスターバッチを得るマスターバッチ混練工程を含む、マスターバッチの製造方法。
【請求項6】
セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含む原料を混練してマスターバッチを得るマスターバッチ混練工程と、
前記マスターバッチ混練工程で得られた前記マスターバッチと、希釈用樹脂とを混練する希釈混練工程とを含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維を含むマスターバッチ、このマスターバッチを含む樹脂組成物、このマスターバッチの製造方法、及びこの樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約1nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維である。微細繊維状セルロースは、軽量で、且つ、高い強度および高い弾性率を有し、低い線熱膨張係数を有することから、樹脂組成物の補強材料として好適に使用されている。
【0003】
しかし、微細繊維状セルロースが親水性であるのに対し、樹脂は疎水性であるため、微細繊維状セルロースを樹脂の補強材料として使用するには、当該微細繊維状セルロースの分散性に問題があった。
【0004】
特許文献1には、セルロース繊維の分散性を高めるため、相溶化樹脂および尿素とともに混練し、マスターバッチを得て、このマスターバッチを希釈用樹脂と混練することにより引張強度に優れた樹脂組成物を得ることが記載されている。
【0005】
しかし、特許文献1の方法は、マスターバッチ中の残留尿素や、混練にて生じた尿素由来の副生成物に起因してセルロース繊維の凝集が生じることによる樹脂組成物の強度低下を抑制するため、マスターバッチを熱水で洗浄する工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、上記のマスターバッチを熱水で洗浄する工程が作業の律速となっていたため、マスターバッチの洗浄工程を省略可能な、尿素に代わる助剤が求められていた。
【0008】
本発明は、セルロース繊維の分散性に優れた樹脂組成物を得ることができるマスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、マスターバッチの洗浄工程を省略可能なマスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下を提供する。
(1) セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含むマスターバッチ。
(2) 前記嵩高剤が、脂肪酸と多価アルコールとのエステル系化合物および脂肪酸アミド系化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載のマスターバッチ。
(3) 前記熱可塑性樹脂が、酸変性ポリプロピレンであることを特徴とする、(1)または(2)に記載のマスターバッチ。
(4) (1)~(3)の何れかに記載のマスターバッチと、希釈用樹脂とを含む樹脂組成物。
(5) セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含む原料を混練してマスターバッチを得るマスターバッチ混練工程を含む、マスターバッチの製造方法。
(6) セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含む原料を混練してマスターバッチを得るマスターバッチ混練工程と、前記マスターバッチ混練工程で得られた前記マスターバッチと、希釈用樹脂とを混練する希釈混練工程とを含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セルロース繊維の分散性に優れた樹脂組成物を得ることができるマスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することができる。また、マスターバッチの洗浄工程を省略可能なマスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のマスターバッチについて説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0012】
(マスターバッチ)
本発明のマスターバッチは、セルロース繊維(A)と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂(B1)と、嵩高剤(C)とを含む。
【0013】
(セルロース繊維(A))
本発明のマスターバッチに含まれるセルロース繊維(A)は、パルプ原料をパルプ化することにより得ることができる。パルプ原料としては、木材及び非木材のいずれであってもよい。木材パルプを製造するために用いられる木材原料としては、針葉樹、広葉樹等が挙げられる。非木材パルプを製造するために用いられる非木材原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ等が挙げられる。パルプ原料(木材原料、非木材原料)は、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0014】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ(TMP);薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。
【0015】
本発明のマスターバッチに含まれるセルロース繊維(A)は、そのカナダ標準濾水度(CSF)については特に限定されない。濾水度が600mLを超える場合は、叩解の工程を省略できるためコスト削減に寄与する観点から好ましい。濾水度の上限値は特に限定されないが、現実的には800mL以下である。なお、セルロース繊維(A)のカナダ標準濾水度は、JIS P 8121-2:2012に従い測定することができる。
【0016】
セルロース繊維(A)と母材樹脂の界面が増加することが、最終的な繊維強化樹脂としての強度向上に繋がる観点から、セルロース繊維(A)は機械的処理を行ったものであることが好ましい。パルプに対して機械的処理を行うことにより,パルプの比表面積が増加する。その結果、相溶化樹脂やその他助剤がパルプの界面を十分に補強できることが期待できる。
【0017】
本発明において機械的処理とは、一般には水に代表される分散媒中の繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散等を含む。微細化は繊維長、繊維径等が小さくなることいい、フィブリル化は繊維の毛羽立ちが多くなることをいう。機械的処理に用いる装置は限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として、金属または刃物とセルロース繊維を作用させるもの、あるいはセルロース繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。本発明においては、繊維のフィブリル化を効率的に進めることができるため、機械的処理はリファイナーやニーダーを用いた叩解であることが好ましく、高濃度処理が可能なディスクリファイナーやコニカルリファイナーを用いた叩解処理であることがさらに好ましい。
【0018】
機械的処理は上記パルプと分散媒を含む混合物を用いて実施されるが、その際の固形分濃度は1質量%以上であってもよいが、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、18質量%以上であるとさらに好ましい。(当該濃度での機械的処理を「高濃度機械的処理」ともいう。)分散媒は限定されず、有機溶媒や水を用いることができるが、好ましくは水である。固形分濃度とは、機械的処理に供される前記混合物における固形分の濃度である。固形分濃度が10質量%以上と高い条件にてパルプに対して叩解等の機械的処理を行うことで、処理効率の向上、ハンドリング性の向上などのメリットが得られる。ハンドリング性としては、例えば、高濃度機械的処理を行った後に希釈処理せずに高濃度のまま輸送することができる点や、高濃度機械的処理を経たパルプ分散液の粘度が高くなくポンプでの輸送効率が良好であること、さらには当該分散液の保存容器内への張り付きなどが少ない等の点が挙げられる。さらに、高濃度機械的処理の後に乾燥工程を実施する場合、揮発する分散媒量が少なく乾燥効率が良好である点も挙げられる。さらに本発明のパルプにおいて化学変性を施したパルプを高濃度機械的処理すると分散液の粘度が上昇しにくいため好ましい。
【0019】
機械的処理時の固形分濃度が50質量%を超えると、処理に伴い装置内で乾燥が進み、材料の焦げ付きが発生しやすくなるため、50質量%以下の条件で処理することが好ましく、40質量%以下の条件がさらに好ましい。
【0020】
また、セルロース繊維(A)は、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下であり、3質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。リグニン含有量が上記上限値よりも多すぎると、相対的に強化繊維の割合が低下するため補強効果が低下し、上記下限値よりも少なすぎると繊維の凝集が起こりやすくなったり、樹脂との親和性が低下し繊維と樹脂間の界面強度が低下する。リグニンの含有量は、セルロース繊維(A)の原料となるパルプ原料に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。また、リグニン含有量の測定は、例えばクラーソン法を用いて行うことができる。
【0021】
また、本発明のマスターバッチを製造する際に用いるセルロース繊維(A)は、凝集防止およびハンドリングの観点から、含水率が好ましくは1~90%であり、より好ましくは10~85%であり、さらに好ましくは20~80%である。含水率の測定は、例えば加熱減量を測定する水分計等を用いて行うことができる。
【0022】
本発明に用いるセルロース繊維(A)の分解温度は、セルロース繊維を窒素雰囲気下10℃/分で昇温したときの1%重量減少温度から算出することができる。
【0023】
なお、本発明で用いるセルロース繊維(A)は、未変性の状態で使用してもよいが、アセチル化、酸化、エステル化、エーテル化等の化学変性がされていても良い。
【0024】
(アセチル化変性)
本発明に用いることができるアセチル化変性されたパルプ(単に「アセチル化パルプ」ということがある。)は、パルプ原料のセルロース表面に存在する水酸基の水素原子がアセチル基(CH3-CO-)で置換されているものである。アセチル基で置換されることにより疎水性が高まり、乾燥時の凝集が減少するため作業性が高まり、混練後の樹脂中で分散や解繊しやすくなる。また反応性の高い水酸基がアセチル基で置換されるためセルロースの熱分解が抑制され、混練時の耐熱性が向上する。アセチル化パルプのアセチル基置換度(DS)は、作業性およびセルロース繊維の結晶性維持の観点から、好ましくは0.4~1.3、より好ましくは0.6~1.1となるように調整する。
【0025】
(アセチル化反応)
アセチル化反応は、セルロース原料を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に原料を懸濁し、無水酢酸、アセチルクロリド等のハロゲン化アセチル等を使用して、塩基の存在下で行うと短時間で反応を行うことが可能となる。このアセチル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましく、炭酸カリウムがより好ましい。また、無水酢酸などのアセチル化試薬を過剰に使用することで無水非プロトン性極性溶媒や塩基を使用しない条件で反応を行うことも可能である。
【0026】
アセチル化反応は、例えば、室温~100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。反応処理後はアセチル化試薬の除去のため減圧乾燥を行ってもよい。また目標のアセチル基置換度に到達していない場合、アセチル化反応とそれに続く減圧乾燥を任意の回数繰り返し行ってもよい。
【0027】
(洗浄)
アセチル化反応により得られたアセチル化パルプは、アセチル化処理後に水置換などの洗浄処理を行うことが好ましい。
【0028】
(脱水)
洗浄処理においては必要に応じて脱水を行ってもよい。脱水法としてはスクリュープレスを用いた加圧脱水法、揮発などによる減圧脱水法などで実施も可能だが、効率の点から遠心脱水法が好ましい。脱水は、溶媒中の固形分が10~60%程度になるまで行うことが好ましい。
【0029】
(乾燥)
本発明に用いることができるアセチル化パルプは、そのまま保管する場合には上記脱水工程の後、乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、アセチル化パルプの含水率が1~40%程度になるまで行うことが好ましく、1~10%まで乾燥するがより好ましく、1~5%まで乾燥することがさらに好ましい。
【0030】
(酸化変性)
酸化は公知のとおりに実施できる。酸化処理により、機械的処理を行う際のパルプ高濃度化の際のハンドリングが良好となる。例えばN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中で原料パルプを酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0031】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0032】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾質量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、さらに好ましくは0.5mmol/g以上、よりさらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1~3.0mmol/gが好ましく、0.3~2.5mmol/gがより好ましく、0.5~2.5mmol/gがさらに好ましく、0.8~2.0mmol/gがよりさらに好ましい。
【0033】
(エーテル化及びエステル化)
エーテル化及びエステル化としては、カルボキシメチル化や、リン酸エステル化、亜リン酸エステル化、硫酸エステル化等、公知の方法で変性を行うことができる。
【0034】
(カルボキシメチル化変性)
カルボキシメチル化は公知のとおりに実施できる。カルボキシメチル化処理により、機械的処理を行う際のパルプ高濃度化の際のハンドリングが良好となる。カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0035】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.35がさらに好ましい。
【0036】
(熱可塑性樹脂(B1))
本発明のマスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂(B1)は、親水性官能基で変性、好ましくは酸変性されていることが必要である。ここでいう親水性とは、水やセルロース表面との親和性が良好であることを意味する。親水性官能基としては、水酸基,カルボキシ基,カルボニル基,アミノ基,アミド基,スルホ基等が挙げられる。このような熱可塑性樹脂(B1)として、例えば、塩基変性ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が挙げられる。酸変性ポリオレフィンとしては、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)のような酸変性ポリプロピレンや無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)のような酸変性ポリエチレンが挙げられ、親和性の観点から希釈用樹脂と同じベース樹脂,すなわちポリプロピレンで希釈する場合は酸変性ポリプロピレンを用いることがより好ましい。
【0037】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B1)の融点は、易分散性の観点から、後述する希釈用樹脂(M)の融点以下である。ここで、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)の融点は、150℃であり、無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)の融点は、120℃である。また、熱可塑性樹脂(B1)の融点は、成型後に問題にならないよう常温以上であることが好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂(B1)は、相溶化樹脂としての機能を有する。相溶化樹脂とは、疎水性の異なるセルロース繊維と、後述する希釈用樹脂(M)との均一混合や密着性を高める働きをするものである。相溶化樹脂としての特徴を決める要素として、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量があげられる。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20~100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45~65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中でセルロースの水酸基、変性セルロースに含まれる水酸基、および変性官能基との相互作用をする点が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシル基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000~250,000が好ましく、50,000~100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲より小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲より大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
【0039】
熱可塑性樹脂(B1)の配合量は、特には限定されないが、リグニンを除いたセルロース繊維(A)の質量(100質量%)に対して、10~70質量%が好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。添加量が70質量%を超えると、セルロースと樹脂の界面形成に必要な量を超えるため、複合体とした際に強度が低下すると考えられる。
【0040】
また熱可塑性樹脂(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。また1種または2種以上のポリマーとポリオレフィンとのグラフト体として使用の場合、グラフト体を構成するポリオレフィン樹脂は特に限定されないが、グラフト体を製造しやすいという観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等を使用することができる。
【0041】
(嵩高剤(C))
本発明のマスターバッチは、これを含んで得られる樹脂組成物中のセルロースの分散性向上の観点から、嵩高剤を含む。
【0042】
嵩高剤としては、従来製紙用として使用されている公知のものを使用することができ、特に制限されない。例えば、油脂系非イオン界面活性剤、糖アルコール系非イオン界面活性剤、糖系非イオン界面活性剤、多価アルコール型非イオン界面活性剤、高級アルコール、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、高級アルコールあるいは高級脂肪酸のポリオキシアルキレン付加物、高級脂肪酸エステルのポリオキシアルキレン付加物、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物のポリオキシアルキレン付加物、脂肪酸ポリアミドアミン、脂肪酸アミド系化合物、カチオン性化合物等が挙げられ、製紙用途で広く用いられ、セルロースおよび樹脂に対する親和性のバランスの観点から、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物および脂肪酸アミド系化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0043】
脂肪酸アミド系化合物としては、直鎖状脂肪酸モノアミド、直鎖状脂肪酸ジアミド、直鎖状脂肪酸ポリアミド等が挙げられ、直鎖状脂肪酸モノアミドが好ましく、炭素数が12~22である直鎖状脂肪酸モノアミドを用いることがより好ましい。炭素数が12~22である直鎖状脂肪酸モノアミドとしては、例えばステアリン酸アマイドが挙げられる。
【0044】
嵩高剤の配合量は、特に限定されないが、補強を阻害しないように、リグニンを除いたセルロース繊維(A)100質量部に対して、0.01~50質量部が好ましく、0.1~40質量部がより好ましい。
【0045】
本発明のマスターバッチは、さらに熱可塑性樹脂(B2)を含むものであってもよい。なお、本明細書においては、この熱可塑性樹脂(B2)を「バインダー樹脂」と呼ぶことがある。
【0046】
(熱可塑性樹脂(B2))
本発明で用いることができる熱可塑性樹脂(B2)は、親水性官能基で変性されておらず、その融点は、易分散性の観点から、後述する希釈用樹脂(M)の融点以下である。下限は特に限定されないが、自動車や家電等の部材に使用することを考慮すると、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0047】
熱可塑性樹脂(B2)としては、例えば、ホモポリプロピレン(hPP、融点:165℃)、高密度ポリエチレン(HDPE、融点:132℃)、低密度ポリエチレン(LDPE、融点:95~135℃)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE、融点:124℃)等のポリオレフィン、ブロックポリプロピレン(bPP、融点:160~165℃)等のブロック共重合体が挙げられる。
【0048】
熱可塑性樹脂(B2)の配合量は、凝集抑制を行いつつも成形体の強度低下に寄与しないために、リグニンを除いたセルロース繊維(A)100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(B2)の配合量は、界面形成を阻害しないために、熱可塑性樹脂(B1)の配合量以下である。
【0049】
また、本発明のマスターバッチは、さらに酸化防止剤が添加されたものであってもよい。用いることが可能な酸化防止剤としては、チオエーテル系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤を挙げることができ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、例えば、BASFジャパン(株)製 Irganox1010を挙げることができる。
【0050】
(マスターバッチの製造方法)
本発明のマスターバッチは、特に限定されないが、例えば、下記の乾燥混練工程及びマスターバッチ混練工程を行うことにより製造することができる。
【0051】
(乾燥混練工程)
乾燥混練工程では、含水セルロース繊維(A)と、熱可塑性樹脂(B1)と、嵩高剤(C)とを、130℃以下で乾燥及び撹拌し、混合物を得る。なお、含水セルロース繊維(A)と嵩高剤(C)とは、易分散性の観点から、先に混合しておくことが好ましい。
【0052】
乾燥工程において、セルロース繊維(A)と、熱可塑性樹脂(B1)と、嵩高剤(C)とを乾燥及び撹拌する装置としては、乾燥機としては、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサーといった回転軸が垂直に立ち撹拌翼で分散させながら乾燥が可能なミキサー、レーディゲミキサーなどの回転軸が水平の撹拌翼で分散させながら乾燥が可能なミキサー、一軸または多軸混練機(押出機)、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、回分式乾燥機等の撹拌と乾燥を同時に実施できるミキサーを挙げることができる。
【0053】
乾燥混練工程においては、得られる混合物の固形分濃度が90質量%以上100質量%以下となるまで水分の除去を行うことが好ましく、95質量%以上100質量%以下がより好ましい。
【0054】
(マスターバッチ混練工程)
マスターバッチ混練工程では、必要に応じて用いられる熱可塑性樹脂(B2)と、乾燥混練工程で得られた混合物とを、セルロース繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練することにより、マスターバッチを製造する。
【0055】
本発明のマスターバッチ混練工程で混練を行う装置としては、一軸または多軸混練機(押出機)を用いることが好ましい。セルロース繊維(A)と熱可塑性樹脂(B1)及び必要に応じて用いられる熱可塑性樹脂(B2)とを溶融混練可能であることに加え、パルプのナノ化を促す強い混練力を有する観点から、二軸混練機(押出機)、四軸混練機(押出機)等の多軸混練機(押出機)は、スクリューを構成するパーツにニーディングやローターなどを複数含む構成であることが望ましい。
【0056】
本発明のマスターバッチの製造方法において、熱可塑性樹脂(B2)(バインダー樹脂)を用いる場合は、上記の通り、マスターバッチ混練工程でバインダー樹脂を混練機に投入してもよいし、これに代えて、乾燥混練工程でバインダー樹脂を他の原料組成物に含めてもよい。
【0057】
なお、本発明のマスターバッチの製造方法は、尿素を使用していないため、得られたマスターバッチを水で洗浄する工程を設ける必要がない。
【0058】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、上記のマスターバッチと、母材としての希釈用樹脂(M)とが混練されてなるものである。
【0059】
(希釈用樹脂(M))
本発明に用いる希釈用樹脂(M)としては、溶融温度が250℃以下の、以下の一般的な熱可塑性樹脂を挙げることができる。希釈用樹脂(M)は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上の樹脂を混合して使用してもよい。
【0060】
一般的な熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリ乳酸、乳酸とエステルとの共重合樹脂、ポリグリコール酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリアセタール、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロースなど)等を使用することができる。
【0061】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「PP」とも記す)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどを使用することが可能である。
【0062】
またポリアミド樹脂(PA)は、セルロースの水酸基との相互作用も期待され、好適に使用することができる。PAとしては、ポリアミド6(ナイロン6、PA6)、ポリアミド11(ナイロン11、PA11)、ポリアミド12(ナイロン12、PA12)、ポリアミド66(ナイロン66、PA66)、ポリアミド46(ナイロン46、PA46)、ポリアミド610(ナイロン610、PA610)、ポリアミド612(ナイロン612、PA612))等の脂肪族PA、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族PA等を挙げることができる。セルロース繊維、セルロースナノファイバーとの親和性が高い観点から、脂肪族PAを用いることが好ましく、PA6、PA11、PA12を用いることがより好ましく、PA6を用いることが特に好ましい。また、ポリアミド樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上のポリアミド樹脂を混合して使用してもよい。
【0063】
上記で例示した樹脂は、ホモポリマーとしての使用の他に、各種公知の機能を有する樹脂を半量以下含むコポリマーとしたブロック共重合体として使用することも可能である。
【0064】
(樹脂組成物の製造方法)
上記のマスターバッチと、母材としての希釈用樹脂(M)とを混練する希釈混練工程を行うことにより、樹脂組成物を得る。
【0065】
(希釈混練工程)
上記のようにして得られたマスターバッチに希釈用樹脂(M)を加えて溶融混練する際には、マスターバッチと希釈用樹脂(M)とを室温下で加熱せずに混合してから溶融混練しても、加熱しながら混合して溶融混練しても良い。
【0066】
希釈用樹脂(M)を加えて溶融混練を行う場合の装置としては、上記のマスターバッチの製造方法のマスターバッチ混練工程で用いる装置と同様のものを使用することができる。また、溶融混練時の加熱設定温度は、希釈用樹脂(M)について熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度±10℃程度が好ましい。温度をこの温度範囲に設定することにより、パルプと樹脂を均一に混合することができる。
【0067】
本発明の樹脂組成物は、更に、例えば、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0068】
本発明によれば、尿素に代えて嵩高剤を用いることにより、セルロース繊維の分散性に優れた樹脂組成物を得ることができるマスターバッチを提供することができる。また、このマスターバッチを用いた樹脂組成物を提供することができる。また、尿素を用いないため、マスターバッチの洗浄工程を省略可能なマスターバッチの製造方法、並びに、このマスターバッチの製造方法を含む樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0069】
(用途)
本発明の樹脂組成物を用いて、成形材料及び成形体(成型材料及び成型体)を製造することができる。成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造など各種形状等の各種形状の成形体が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
【0070】
成形体(成型体)は、セルロース繊維を含むマトリックス成形物(成型物)が使用される繊維強化プラスチック分野に加え、熱可塑性及び機械強度(引張り強度等)が要求される分野にも使用できる。
【0071】
自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【実施例0072】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0073】
(カナダ標準濾水度(CSF)の測定)
実施例および比較例で用いたセルロース繊維のカナダ標準濾水度は、JIS P 8121-2:2012に従い測定した。
【0074】
(リグニン含有量の測定)
実施例および比較例で用いたセルロース繊維のリグニン含有量は、定量法として通常用いられるクラーソン法に基づき測定した(クラーソンリグニン)。
【0075】
(引張強度の測定)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度200℃、金型温度40℃の条件で、ダンベル型試験片(タイプA12、JIS K 7139)を成形した。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」)を用いて、試験速度1mm/分、初期標線間距離30mmで弾性率、最大応力(降伏点強度)及び破断変位(破断までのひずみ、伸び)を測定した。弾性率及び最大応力については、希釈用樹脂の弾性率及び最大応力の値をそれぞれ100としたときの各サンプルの測定値の比率を補強率とし、その結果を表1に示す。破断変位については、測定値を表1に示す。
【0076】
(曲げ強度の測定)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度250℃、金型温度は40℃の条件で、バー試験片を成形した(厚さ4mm、並行部長さ80mm)。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」を用いて、試験速度10mm/分、支点間距離は64mmで弾性率、最大応力、及び破断変位を測定した。弾性率及び最大応力については、希釈用樹脂の弾性率及び最大応力の値をそれぞれ100としたときの各サンプルの測定値の比率を補強率とし、その結果を表1に示す。破断変位については、測定値を表1に示す。
【0077】
(フィルムの外観評価)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成型体60mgを株式会社神藤金属工業所製の圧縮成型機を用いて200℃で2.5MPaとなるまでプレスすることにより、およそ直径35mm×厚さ0.1mmのフィルムを作製した。このフィルムを目視で確認し、下記の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:ダマが殆ど見られないか、全く見られない
B:ダマが低減されている
C:ダマが多く見られる
【0078】
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した材料)
(A)セルロース繊維(分解温度:299℃)
(B1)親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP):(東洋紡(株)製 トーヨータックPMA-H1000P:ジカルボン酸の付加量 57mgKOH/g、融点:150℃)
(B2)親水性官能基で変性されていない熱可塑性樹脂(「バインダー樹脂」ということがある。)
・高密度ポリエチレン(HDPE):(日本ポリエチレン(株)製 HJ580、融点:134℃)
(C)嵩高剤
・嵩高剤A:ステアリン酸アマイド
・嵩高剤B:脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物(花王製、KB-130)
(M)希釈用樹脂
・ホモポリプロピレン(hPP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A、融点:165℃)
【0079】
(実施例1)
(セルロース繊維の調製)
固形分濃度18質量%の針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)に、NUKP中のセルロース10質量部に対して嵩高剤Aを0.55質量部添加し、カナダ標準濾水度(CSF)が15mLになるまでシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業社製、プレートの刃幅:4mm、溝幅:5mm)を用い、クリアランス:0.25mmの条件で叩解処理を行い、嵩高剤が添加された含水率72%のセルロース繊維1を得た。セルロース繊維1のリグニン含有量は、セルロース10質量部に対してリグニン1質量部であった。
【0080】
(マスターバッチの製造)
上記で得られた嵩高剤Aが添加されたセルロース繊維1に、セルロース10質量部に対してMAPPを3質量部添加し、二軸混練機を用いて60℃以上130℃以下の条件で乾燥及び撹拌(乾燥混練)し、固形分濃度99質量%の混合物を得た。この混合物の全量を、二軸混練機を用いて180℃以下の条件で混練し(マスターバッチ混練)、マスターバッチを得た。なお、マスターバッチ混練においては、サンプル出口付近は110℃に降温させた。
【0081】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチ全量14.55質量部(セルロース:リグニン:嵩高剤A:MAPP=10:1:0.55:3)に対して、全体が100質量部となるように希釈用樹脂(hPP)を加えて混合し、二軸混練機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した(希釈混練)。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、セルロース繊維、嵩高剤A、MAPP、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0082】
(実施例2)
セルロース繊維の調製において、NUKP中のセルロース10質量部に対して嵩高剤Aを0.11質量部添加したこと、及び、CSFが57mLになるまで叩解処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして嵩高剤が添加された含水率76%のセルロース繊維2を得た。
セルロース繊維2を用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを製造し、このマスターバッチを用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(成形体)を得た。
【0083】
(実施例3)
セルロース繊維の調製において、NUKP中のセルロース10質量部に対して嵩高剤Bを0.11質量部添加したこと、及び、CSFが102mLになるまで叩解処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして嵩高剤が添加された含水率77%のセルロース繊維3を得た。
セルロース繊維3を用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを製造し、このマスターバッチを用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(成形体)を得た。
【0084】
(実施例4)
セルロース繊維の調製において、NUKP中のセルロース10質量部に対して嵩高剤Bを0.11質量部添加したこと、及び、CSFが33mLになるまで叩解処理を行ったこと以外は実施例1と同様にして嵩高剤が添加された含水率75%のセルロース繊維4を得た。
セルロース繊維4を用いたこと以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを製造し、このマスターバッチを用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物(成形体)を得た。
【0085】
(実施例5)
(セルロース繊維の調製)
未叩解針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)(カナダ標準濾水度600mL超、リグニン含有量:セルロース10質量部に対してリグニン1質量部)に、NUKP中のセルロース10質量部に対して嵩高剤Aを3質量部添加し、4℃で一晩含浸させることにより、嵩高剤が添加された含水率64%のセルロース繊維5を得た。
【0086】
(マスターバッチの製造)
上記で得られた嵩高剤Aが添加されたセルロース繊維5に、セルロース10質量部に対してMAPPを3質量部添加し、二軸混練機を用いて60℃以上130℃以下の条件で乾燥及び撹拌し(乾燥混練)、固形分濃度99質量%の混合物を得た。この混合物の全量と、バインダー樹脂としてのHDPE3質量部を、二軸混練機を用いて180℃以下の条件で混練し(マスターバッチ混練)、マスターバッチを得た。なお、マスターバッチ混練においては、サンプル出口付近は110℃に降温させた。
【0087】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチ全量20質量部(セルロース:リグニン:嵩高剤A:MAPP:HDPE=10:1:3:3:3)に対して、全体が100質量部となるように希釈用樹脂(hPP)を加えて混合し、二軸混練機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した(希釈混練)。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、セルロース繊維、嵩高剤A、MAPP、HDPE、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0088】
(実施例6)
セルロース繊維の調製において、嵩高剤Aに代えて嵩高剤Bを用いたこと以外は実施例5と同様にして、嵩高剤が添加された含水率64%のセルロース繊維6を得た。セルロース繊維6を用いたこと以外は実施例5と同様にして、マスターバッチの製造および樹脂組成物の製造を行った。
【0089】
(比較例1)
(セルロース繊維の調製)
固形分濃度18質量%の針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)を、カナダ標準濾水度(CSF)が19mLになるまでシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業社製、プレートの刃幅:4mm、溝幅:5mm)を用い、クリアランス:0.25mmの条件で叩解処理を行い、含水率80%のセルロース繊維7を得た。セルロース繊維7のリグニン含有量は、セルロース10質量部に対してリグニン1質量部であった。
【0090】
(マスターバッチの製造)
上記で得られたセルロース繊維7に、セルロース10質量部に対してMAPPを3質量部添加し、二軸混練機を用いて60℃以上130℃以下の条件で乾燥及び撹拌(乾燥混練)し、固形分濃度99質量%の混合物を得た。この混合物の全量を、二軸混練機を用いて180℃以下の条件で混練し(マスターバッチ混練)、マスターバッチを得た。なお、マスターバッチ混練においては、サンプル出口付近は110℃に降温させた。
【0091】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチ全量14質量部(セルロース:リグニン:MAPP=10:1:3)に対して、全体が100質量部となるように希釈用樹脂(hPP)を加えて混合し、二軸混練機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した(希釈混練)。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、セルロース繊維、MAPP、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0092】
【0093】
表1からわかる通り、セルロース繊維と、親水性官能基で変性されている熱可塑性樹脂と、嵩高剤とを含むマスターバッチを用いて得られる実施例1~6の樹脂組成物は、フィルムの外観評価結果に優れるものであった。