(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125168
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】堆肥
(51)【国際特許分類】
C05F 17/00 20200101AFI20230831BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230831BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230831BHJP
C12R 1/01 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C05F17/00
C12N1/00 S
C12N1/00 Q
C12N1/00 R
C12N1/20 F
C12N1/20 D
C12R1:01
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029134
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】松澤 大起
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂輝
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 響
【テーマコード(参考)】
4B065
4H061
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB03
4B065BB11
4B065BB26
4B065CA46
4B065CA49
4B065CA56
4H061AA01
4H061CC47
4H061EE01
4H061EE16
4H061EE20
4H061EE66
4H061GG48
4H061LL25
(57)【要約】
【課題】臭気が抑制された堆肥とその製造方法を提供すること。
【解決手段】この堆肥は、炭化物、リン、鉄、およびアンモニア酸化古細菌を含む。堆肥の全リン酸濃度は2.0重量%以上5.0重量%以下であり、鉄濃度は0.4重量%以上6.0重量%以下であり、全細菌数に対するアンモニア酸化古細菌の数は0.04%以上0.10%以下である。炭化物の濃度は、2重量%以上40重量%以下でもよい。炭化物の比表面積は、100m
2/g以上900m
2/g以下でもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化物、リン、鉄、およびアンモニア酸化古細菌を含み、
全リン酸濃度が2.0重量%以上5.0重量%以下であり、
前記鉄の濃度が0.4重量%以上6.0重量%以下であり、
全細菌数に対する前記アンモニア酸化古細菌の数が0.04%以上0.10%以下である堆肥。
【請求項2】
前記炭化物を2重量%以上40重量%以下の濃度で含む、請求項1に記載の堆肥。
【請求項3】
前記炭化物の比表面積が100m2/g以上900m2/g以下である、請求項1に記載の堆肥。
【請求項4】
前記リンと前記鉄の少なくとも一部は、リン酸鉄として存在する、請求項1に記載の堆肥。
【請求項5】
前記アンモニア酸化古細菌は、ニトロソスパエラ・ウィエンネンシスおよびニトロソプミルス・マリティムスの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の堆肥。
【請求項6】
バインダをさらに含む、請求項1に記載の堆肥。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、堆肥に関する。例えば、本発明の実施形態の一つは、臭気の発生が大幅に抑制された堆肥とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ごみ、家畜などの動物からの排泄物、食物残渣などの生物由来の有機性廃棄物は、堆肥の原料として利用することができる。例えば特許文献1には、窒素を含む有機性廃棄物、活性炭、およびアンモニアを分解する発酵菌を混合して堆肥が得られることが開示されている。特許文献2には、窒素を含有する有機性廃棄物に脱窒機能を有する微生物と発酵促進剤を混合することで堆肥が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-145769号公報
【特許文献2】国際公開第2007/114324号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、堆肥とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、新規な組成を有する堆肥とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、臭気が抑制された堆肥とその製造方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、堆肥である。この堆肥は、炭化物、リン、鉄、およびアンモニア酸化古細菌を含む。堆肥の全リン酸濃度は2.0重量%以上5.0重量%以下であり、鉄濃度は0.4重量%以上6.0重量%以下であり、全細菌数に対するアンモニア酸化古細菌数の比は0.04%以上0.10%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施形態の一つに係る堆肥の製造方法を示すフロー。
【
図2】本発明の実施形態の一つに係る堆肥の製造方法を利用する二酸化炭素の貯留を示す概念図。
【
図3】実施例と比較例の堆肥に含まれるアンモニアの含有量を示すグラフ。
【
図4】実施例と比較例の堆肥に含まれるニトロソスパエラ・ウィエンネンシスの含有量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0008】
本明細書では、「リン」という用語は、リン単体のみならず、リンを含む化合物も含む。したがって、リンはリン酸も含む。ここで、「リン酸」という用語は、狭義のリン酸、すなわち、H3PO4の化学式で表される化合物を意味するだけでなく、リン酸(H3PO4)のほか、種々のリン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩を示す用語として用いられる。したがって、例えばリン酸鉄は、特記しない限り、リン酸鉄のみならず、リン酸一水素鉄、リン酸二水素鉄を意味する。また、リン酸塩に含まれる金属の価数にも制約はなく、例えばリン酸鉄の鉄イオンも2価でも3価でもよい。
【0009】
1.堆肥
本発明の実施形態の一つに係る堆肥は、炭化物、リン、鉄、およびアンモニア酸化古細菌を含む。堆肥は、水やバインダをさらに含んでもよい。堆肥は、次亜塩素酸ナトリウムをさらに含んでもよい。堆肥にはさらに、肥料助剤に含まれる含硫黄化合物、含マンガン化合物、含ホウ素化合物、繊維質などが含まれていてもよい。以下、これらの各成分について説明する。
【0010】
1-1.炭化物
本堆肥に含まれる炭化物は、炭素を主成分として有し、数nmから数十μmの断面径を有する細孔を備える多孔質材料である。本堆肥中の炭化物の濃度(組成)は、例えば2重量%以上40重量%以下または5重量%以上35重量%以下である。上述した範囲で炭化物が含まれることで、後述するアンモニア酸化古細菌の高い組成を維持することができる。炭化物の比重は、0.05g/cm3以上0.8g/cm3以下、または0.1g/cm3以上0.5g/cm3以下であってもよい。炭化物の比表面積は、例えば100m2/g以上900m2/g以下、100m2/g以上800m2/g以下、または150m2/g以上400m2/g以下である。比表面積は、水銀圧入法やBJH法またはHK法に例示されるガス吸着法などを用いて測定される。
【0011】
1-2.リン
本堆肥には、リンが全リン酸(すなわち、リンの総量)として2.0重量%以上5.0重量%以下の濃度で含まれる。本堆肥に含まれるリンの少なくとも一部は、2価または3価のリン酸鉄として含まれる。後述するように、本堆肥の製造においては、鉄と炭化物を含む混合物(鉄含有炭化物)がリン酸を含む水と処理される。このため、リン酸鉄(III)は、主に鉄含有炭化物中の鉄とリン酸を含む水に由来する。
【0012】
本堆肥では、リンの他の一部は、非水溶性リン酸として存在していてもよい。非水溶性リン酸とは、水に不溶であり、かつ2%クエン酸水溶液に可溶なリン酸(ク溶性リン酸)である。非水溶性リン酸としては、リン酸水素カルシウムやリン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸マグネシウムなどが例示される。これらの非水溶性リン酸の金属イオンは、堆肥の原料である炭化物や有機肥料源に由来する。
【0013】
本堆肥には、水溶性リン酸がさらに含まれていてもよい。水溶性リン酸としては、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウムなどのリン酸塩、リン酸一水素リチウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸一水素アンモニウムなどのリン酸一水素塩、リン酸二水素リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素アンモニウムなどのリン酸二水素塩などが挙げられる。これらの水溶性リン酸の金属イオンも、炭化物や有機肥料源に由来する。
【0014】
本堆肥に含まれるリンの総量、すなわち全リン酸の定量では、バナドモリブデン酸アンモニウム吸光光度法を用いることができる。例えば、所定量の堆肥を硝酸または過塩素酸を用いて分解し、その後、バナジン(V)酸アンモニウム、七モリブデン酸六アンモニウム、および硝酸を加える。生成するりんバナドモリブデン酸塩の吸収(例えば420nmにおける吸収)を紫外・可視分光光度計を用いて測定することで、全リン酸が定量される。
【0015】
水溶性リン酸の濃度は、例えばバナドモリブデン酸アンモニウム吸光光度法を用いて決定することができる。この方法では、例えば、本堆肥に水を加え、所定量の水可溶部を試料として採取する。この試料に硝酸(1+1)を加えて加熱し、非オルトりん酸をオルトりん酸イオンに加水分解する。その後、バナジン(V)酸アンモニウム、七モリブデン酸六アンモニウムおよび硝酸を加えてりんバナドモリブデン酸塩を生成する。紫外・可視分光光度計を用いてりんバナドモリブデン酸塩の吸収(例えば420nmにおける吸収)を測定することで、水溶性リン酸が定量される。
【0016】
1-3.鉄
本堆肥には、鉄が0.4重量%以上6.0重量%以下の濃度(組成)で含まれる。本堆肥に含まれる鉄は、少なくとも一部がリン酸鉄として存在する。また、他の一部は金属鉄(すなわち、0価の鉄)として存在していてもよく、あるいは酸化鉄や水酸化鉄として存在してもよい。これらの鉄と鉄化合物は、主に本堆肥の製造工程において添加される鉄および酸化鉄に由来する成分である。例えば、金属鉄は、添加された鉄が酸化されることなく本堆肥中に存在することに起因する。3価のリン酸鉄(III)は、炭化物と鉄の混合物(鉄含有炭化物)をリン酸を含む水で処理する際に生成する。後述するように、本堆肥の製造において、鉄含有炭化物が有機肥料源とともに嫌気性条件下で処理されるが、この過程においてリン酸(III)鉄が還元されて2価の鉄イオンとリン酸イオンを与える。この2価の鉄イオンは、引き続く好気性条件下で酸化され、酸化鉄(III)と水酸化鉄(III)が生成する。その結果、堆肥には、製造時に添加される酸化鉄(III)に加え、水酸化鉄(III)が含まれ得る。
【0017】
1-4.アンモニア酸化古細菌
本堆肥には、アンモニア酸化古細菌としてニトロソスパエラ・ウィエンネンシス(Nitrososphaera viennensis)およびニトロソプミルス・マリティムス(Nitrosopumilus maritimus)の少なくともいずれか一方が含まれる。本堆肥中の全細菌数に対するアンモニア酸化古細菌数の比は、0.04%以上0.10%以下である。実施例で示すように、このように比較的高い割合でアンモニア酸化古細菌が含まれることで、堆肥の製造工程においてアンモニアがアンモニア酸化古細菌により硝化されるため臭気の発生が大幅に抑制され、かつ、得られる本堆肥からの臭気の発生も効果的に抑制される。このため、有機性廃棄物を原料として用いても、アンモニアに起因する悪臭発生が抑制された堆肥を提供することができる。
【0018】
本堆肥中における全細菌とアンモニア酸化古細菌の数は、堆肥をゲノム解析することで測定することができる。
【0019】
上述したように、本堆肥は多孔質材料である炭化物を含み、さらに、比較的高濃度の全リン酸濃度を有する。多孔質材料とリン酸によってそれぞれアンモニア酸化古細菌が増殖するための酸素を供給できる空間と養分とが与えられる。これに起因し、本堆肥は高い割合でアンモニア酸化古細菌を有し、その結果、堆肥製造時に発生するアンモニアは速やかに硝化され、アンモニアに起因する臭気が抑制される。
【0020】
1-5.バインダ
バインダは、後述する堆肥の製造工程において炭化物、鉄粉、および酸化鉄を効率よく分散させ、これらを一体化させるために用いられる。バインダの種類に制約はないが、有機系バインダおよび/または無機系バインダを用いることができる。有機系バインダとしては、例えば糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルとエチレンの共重合体若しくはそのケン化体、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、およびタールピッチなどから選択される一つまたは複数が挙げられる。中でも糖蜜は安価で有害成分が少なく、固形成分が多いため、糖蜜を用いることで除去材の成形が容易となる。無機系バインダとしては、例えばセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、石膏(硫酸カルシウム)や石膏を加熱・脱水して得られる焼石膏、ケイ酸ナトリウム等が例示される。
【0021】
1-6.酸化剤
本堆肥の製造工程においては、殺菌処理のため、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム、硫酸などの酸化剤を添加してもよい。このため、残留した酸化剤に由来する次亜塩素酸ナトリウム、硫酸が本堆肥に含まれていてもよい。本堆肥中における次亜塩素酸ナトリウム、硫酸の濃度(組成)は、例えば100ppm以上1%以下であってもよい。
【0022】
1-7.その他の成分
含硫黄化合物としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の硫酸塩などが例示される。含マンガン化合物としては、硫酸マンガンや硝酸マンガン、塩化マンガン、炭酸マンガン、ホウ酸マンガンなどのマンガン塩が挙げられる。含ホウ素化合物としては、上述したホウ酸マンガンのほか、ホウ酸が例示される。堆肥中のこれらの含硫黄化合物、含マンガン化合物、含ホウ素化合物のそれぞれの濃度は、例えば0.01重量%以上1重量%以下でもよい。含硫黄化合物や含硫黄化合物、含マンガン化合物、含ホウ素化合物、繊維質は、主に肥料助剤に由来する。
【0023】
上述したように、本堆肥にはアンモニアを硝化するアンモニア酸化古細菌が比較的高い割合で含まれる。さらに、全リン酸濃度も高い。このため、本堆肥は、臭気の発生が大幅に抑制され、かつ、植物の生育に寄与する肥料成分を豊富に含む堆肥であると言える。
【0024】
2.堆肥の製造方法
以下、本発明の実施形態の一つに係る、本堆肥の製造方法について述べる。この製造方法のフローは
図1に示される。
【0025】
2-1.炭化物の調整
まず、炭化物を調製する。具体的には、バイオマスなどの有機物を低酸素濃度で加熱する。ここで、バイオマスとは有機物の一種である、生体由来の物質とその代謝物である。炭化物の調製において利用可能なバイオマスとしては、木に由来する材料が挙げられる。具体的には、板状や柱状の木材、間伐材、剪定廃材、建築廃木材、粉末状のおがくず、パーティクルボートなどの木製成形品が挙げられる。木の種類に制約はなく、スギやヒノキ、竹でもよい。あるいは籾殻、バガス、トウモロコシの軸や葉などの農業廃棄物、藁や麦わら、乾草などの農業副産物もバイオマスの一例として挙げられる。あるいは麻や亜麻、綿、サイザル麻、アバカ、ヤシ毛などの繊維の原料となる植物もバイオマスとして挙げられる。あるいは、バイオマスは海藻などの藻類でもよく、食品残渣や、動物の糞尿から得られるサイレージでもよい。
【0026】
具体的には、窒素ガス若しくはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、無酸素雰囲気下、低酸素雰囲気下、還元雰囲気下、または減圧雰囲気下、有機物を加熱することによって炭化物を得ることができる。炭化を減圧雰囲気下で行う場合、102Pa以上105Pa以下の低真空状態、10-1Pa以上102Pa以下の中真空状態、10-5Pa以上10-1Pa以下の高真空状態、または10-5Pa以下の超高真空状態で行うことができる。炭化を低酸素雰囲気下で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下または0.1%以上2%以下で行うことができる。炭化における加熱温度は、400℃以上1200℃以下、500℃以上1100℃以下、600℃以上1000℃以下、または600℃以上900℃以下とすればよい。加熱時間は10分以上10日以下、または10分以上5時間以下とすればよい。
【0027】
炭化は、内燃式または外熱式の炭化炉を用いて行われる。炭化炉としては、バッチ式の密閉型の炭窯炉や連続式のロータリーキルン、揺動式炭化炉、スクリュー炉などが挙げられる。有機物の炭化によって乾留ガスが発生するとともに、有機物の構造に起因する孔と、乾留ガスの脱離によって形成される細孔が複雑に混ざり合った、様々な形状と大きさを有する細孔が形成された炭化物が生成する。なお、乾留ガスには主に水素や一酸化炭素、メタンやプロパン、ブタンなどに代表されるアルカンなどの可燃性、または還元力を有するガスが含まれる。乾留ガスは高温(700℃から1300℃)の状態で取り出されるため、その熱エネルギーや可燃性などをエネルギー源として発電や温水の供給などに利用してもよい。
【0028】
2-2.鉄含有炭化物の調整
次に、炭化物と鉄粉を混合し、鉄含有炭化物を得る。鉄粉として、一部が酸化して表面に酸化鉄や水酸化鉄を含む鉄粉を用いてもよい。さらに、鉄粉と同時に酸化鉄粉を加えてもよい。このとき、バインダや水をさらに加えてもよい。バインダや水を添加することで、炭化物や鉄粉、酸化鉄粉に起因する粉塵の発生を防止することができるとともに、均一な混合が可能となる。
【0029】
この時用いられる鉄粉や酸化鉄粉の形状に制約はなく、例えば平均円形度が50以上100以下、70以上95以下または80以上90以下の鉄粉や酸化鉄粉を用いてもよい。ここで平均円形度とは、粉体に含まれる各粒子の形状を表すパラメータの一つであり、粉体を顕微鏡観察して得られる画像を解析し、複数の粒子について円形度を求め、それを平均した値である。円形度としては、例えば顕微鏡像中の各粒子の投影面の周囲長で投影面の面積と等しい面積の円の周囲長を除した値を用いることができる。あるいは、投影面を内接する円の面積で投影面の面積を除した値を円形度として採用してもよい。鉄粉や酸化鉄粉の平均粒径にも制約はなく、例えば20μm以上500μm以下または50μm以上200μm以下である。ここで、粉体の平均粒径とは、粉体を顕微鏡観察して得られる画像を解析し、複数の粒子について粒径を求め、それを平均した値である。各粒子の粒径としては、例えば顕微鏡像中の各粒子の投影面を内接する円の直径または正方形の一辺の長さを採用することができる。
【0030】
混合の際の炭化物の量は、炭化物、バインダ、鉄粉、および酸化鉄粉の総重量に対して20重量%以上80重量%以下、40重量%以上80重量%以下、または60重量%以上80重量%以下の範囲から選択すればよい。鉄粉と酸化鉄粉の総量は、炭化物、バインダ、および鉄粉の総重量に対して5重量%以上35重量%以下、5重量%以上25重量%以下、または5重量%以上20重量%以下の範囲から選択すればよい。鉄粉と酸化鉄粉の両者を用いる場合には、これらの重量比(鉄粉:酸化鉄粉)は、例えば、1:5以上5:1の範囲から選択すればよい。バインダの量は、炭化物、バインダ、鉄粉、および酸化鉄粉の総重量に対して5重量%以上50重量%以下、15重量%以上50重量%以下、または20重量%以上50重量%以下の範囲から選択すればよい。
【0031】
得られる鉄含有炭化物は、適宜造粒して一定の形状に成形してもよい。成形は造粒機を用いて行うことができる。造粒機としては、圧縮型造粒機、押出型造粒機、ロール型造粒機、ブレード型造粒機、溶融型造粒機、または噴霧型造粒機などが例示される。例えば押出型造粒機を用いペレット形状(例えば、略円柱状)に鉄含有炭化物を成形してもよい。
【0032】
この後、さらに鉄含有炭化物を乾燥してもよい。乾燥は、例えば、30℃以上400℃未満、50℃以上300℃以下、100℃以上300℃以下の範囲から選択される温度で行われる。乾燥時の湿度は、20%以上95%以下、または50%以上90%以下でもよい。乾燥時間も1分以上1週間以下、1時間以上3日以下、または3時間以上1日以下の範囲から適宜選択される。乾燥の際の雰囲気も、例えば空気、窒素、アルゴンなどの希ガス、あるいはこれらの混合でもよい。
【0033】
2-3.リン酸鉄含有炭化物の調整
リン酸鉄含有炭化物は、ここまでの工程で得られた鉄含有炭化物をリン酸を含む水(以下、処理水)と接触させることで調製される。処理水は、例えばリン酸ナトリウムやリン酸カリウムなどのリン酸塩を水に溶解して調製してもよいが、河川や湖沼、海などの水域の水を処理水として利用してもよい。例えば、河川や湖沼、海中に鉄担持炭化物が充填された容器を設置し、鉄含有炭化物を水域の水と接触させてもよい。これにより、河川や湖沼、海の水中に含まれるリン酸が鉄含有炭化物に含まれる鉄、酸化鉄、および/または水酸化鉄と反応し、水に対して溶解性の低いリン酸鉄(III)として炭化物に吸着または担持されるとともに、水域中のリン酸やリンを含有する有機化合物などが除去される。すなわち、この方法により、リン酸鉄含有炭化物を低コストで調製できるだけでなく、各種水域の浄水や水質改善を同時に行うことができる。
【0034】
2-4.堆肥化
引き続き、リン酸鉄含有炭化物を原料の一つとして用い、堆肥化を行う。
【0035】
(1)リン酸鉄含有炭化物と有機肥料源の混合
まず、上述した方法で得られるリン酸鉄含有炭化物と有機肥料源を混合する。有機肥料源に対するリン酸鉄含有炭化物の量に制約はないが、例えば有機肥料源に対して1重量%以上40重量%以下または5重量%以上25重量%以下のリン酸鉄含有炭化物を加えればよい。得られる混合物(一次混合物)の粘度が高い場合には、さらに水を加えて粘度を調整してもよい。有機肥料源としては、牛糞や豚糞、鶏糞などの動物の糞や尿、食品残渣などの食品廃棄物、農産廃棄物、生ごみ、汚泥などに例示される、生物由来の易分解性有機物が挙げられる。易分解性有機物か否かの判断は、例えば土壌と混合した後の二酸化炭素発生量や酸性デタージェント可溶有機物(AD可溶有機物)含量を指標の一つとして用いることができる。
【0036】
有機肥料源から発生する二酸化炭素の定量は、所定量の試料と土壌の混合物に水を加えて培養を開始し、培養中発生する二酸化炭素を定量することで行えばよい。発生した二酸化炭素は水酸化ナトリウム水溶液で捕集すればよく、これに塩化バリウムを加えて炭酸バリウムとして沈殿させ、炭酸バリウムを塩酸で滴定することで二酸化炭素を定量することができる。例えば、培養開始から10日後までに発生する二酸化炭素の量が乾燥した試料1gあたり200mg以上、300mg以上、または400mg以上であれば、この試料は易分解性有機物であり、本堆肥を製造するための有機肥料源として利用可能であると判断することができる。
【0037】
AD可溶有機物の定量では、例えば試料を酸性デタージェント溶液(例えば、0.5mol/Lの硫酸1Lに臭化セチルトリメチルアンモニウム20gを溶解した溶液)中で1時間煮沸し、ろ過する。残渣を洗浄、乾燥して秤量する。その後、残渣を灰化して秤量し、灰化前との重量差を酸性デタージェント繊維(ADF)の量として求める。AD可溶有機物はADF以外の有機物であるため、試料重量からADFと灰化後の残渣の重量を引くことでAD可溶有機物が算出される。このようにして得られるAD可溶有機物の量が乾燥した試料1gあたり500mg以上、600mg以上、または700mg以上であれば、この試料は易分解性有機物であり、本堆肥を製造するための有機肥料源として利用可能であると判断することができる。
【0038】
ただし、本発明の実施形態では、有機肥料源は上述した指標やその数値によって限定されることは無く、嫌気性微生物によって分解される有機物であれば有機肥料源として用いることができる。
【0039】
リン酸鉄含有炭化物と有機肥料源との混合は、密閉されたチャンバー内で行ってもよく、開放された空間で行ってもよい。一次混合物は、数cmから数十cmの平均直径、または数cm3から数千cm3程度の体積を有する複数の塊(ブロック)として得られる。
【0040】
(2)発酵
一次混合物は、引き続いて発酵処理に供される。具体的には、まず、一次混合物を酸素を含む雰囲気に晒す。酸素を含む雰囲気は大気雰囲気でもよく、あるいは酸素および窒素やアルゴンなどの不活性ガスを含む雰囲気でもよい。発酵処理は、外気の温度で行ってもよく、あるいは30℃以上60℃以下の範囲で温度調整された環境下で行ってもよい。発酵処理の時間も任意に設定することができ、例えば1日以上120日以下、10日以上60日以下、あるいは15日以上30日以下の範囲から適宜選択すればよい。この処理により、一次混合物の各塊の表面は好気性条件下に晒され、内部は嫌気性条件下に晒される。その結果、各塊の表面では好気的発酵が進行し、同時に内部では嫌気的発酵が進行する。一次混合物の各塊では、好気的発酵が進行する部分は略表面に限られるため、一次混合物の大部分において嫌気的発酵が進行する。
【0041】
嫌気的発酵は、有機肥料源に含まれる嫌気性微生物の作用によって促進される。このため、上述したリン酸鉄含有炭化物と有機肥料源の混合において、有機物の分解を促進する嫌気性微生物を加えてもよい。嫌気性微生物としては、硝酸塩還元菌、鉄還元菌、硫酸塩還元菌、酸生成菌、酢酸生成菌、メタン生成古細菌などが挙げられ、好ましくは鉄還元菌やメタン生成古細菌である。
【0042】
この発酵処理では、嫌気的発酵による有機物の分解に伴い、一次混合物の各塊の内部は還元的環境となり、酸化還元電位(ORP)が負に大きくなる。このため、一次混合物の内部では、3価のリン酸鉄は2価のリン酸鉄に還元される。2価のリン酸鉄は3価のリン酸鉄と比較して水に対する溶解度が高いため、リン酸鉄は一次混合物中に含まれる水に少なくとも一部が溶解し、2価の鉄イオンとリン酸イオンに解離する。例えば鉄化合物含有炭化物に含まれる3価のリン酸鉄がFePO4の場合、2価のリン酸鉄Fe3(PO4)2が生成する。また、リン酸鉄含有炭化物はバイオマスなどの有機物に由来する炭化物を含むため、アルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンを多く含む。同様に、有機肥料源にも大量のアルカリ金属やアルカリ土類イオンが含まれる。これらのイオンはリン酸イオンとイオン結合し、水溶性リン酸や非水溶性リン酸を与える。また、有機肥料源に含まれるたんぱく質はアンモニアへ分解し、その結果、アンモニア、リン酸イオン、および水からリン酸アンモニウムが生成する。
【0043】
(3)好気性条件下での処理
発酵処理の後、一次混合物の各塊の内部を好気性条件下で処理する。具体的には、一次混合物の各塊を粉砕し、その内部を酸素と接触させる。粉砕は、大気下で行ってもよく、酸素および窒素やアルゴンなどの不活性ガスを含む雰囲気下で行ってもよい。この工程により、2価のリン酸鉄は酸素によって速やかに酸化され、酸化鉄(III)と水酸化鉄(III)を与える。このとき、酸化鉄(III)の水に対する低い溶解性に起因し、酸化鉄(III)とリン酸との反応は略無視することができ、発酵工程で生成するリン酸イオンはアルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、あるいはアンモニウムイオンとイオン結合し、水溶性リン酸と非水溶性リン酸を与える。本発明の堆肥は、多孔質材料とリン酸によってそれぞれアンモニア酸化古細菌が増殖するための酸素を供給できる空間と養分とが与えられる。このため、好気性条件を長時間維持できるため、アンモニア酸化古細菌が増殖し、堆肥製造時に発生するアンモニアは硝化され、アンモニアに起因する臭気が抑制される。
【0044】
2-5.殺菌処理
以上の工程により、本発明の実施形態の一つに係る堆肥を製造することができるが、引き続き殺菌処理を行ってもよい。殺菌処理は、好ましくは堆肥を酸化剤で処理することで行う。酸化的剤の処理は、例えば次亜塩素酸ナトリウムを含む水、硫酸を散布することで行えばよい。あるいは、紫外線を堆肥に照射してもよい。さらに、有機肥料源に含まれる水、または別途加えた水を蒸発させて水分量を適切に制御してもよく、これにより、取り扱いの容易な堆肥を得ることができる。
【0045】
上述したように、一次混合物の内部で進行する嫌気的発酵によって3価のリン酸鉄が還元されて2価のリン酸鉄が生成する。2価のリン酸鉄は水に溶解し、リン酸イオンが遊離する。一方、有機肥料源の分解によってアンモニアが生じる。
【0046】
その後の好気性条件下では、2価の鉄イオンは酸化されて溶解性の低い酸化鉄(III)として析出するため、鉄イオンによるリン酸イオンのトラップが抑制される。一方、一次混合物中には、炭化物の原料である有機物や有機肥料源に由来するアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオンが存在する。このため、嫌気的発酵によって遊離するリン酸イオン、およびリン酸イオンと水の平衡で生じるリン酸は、アンモニアやアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンと結合し、非水溶性リン酸とともに水溶性リン酸を生成する。その結果、得られる堆肥は優れた水溶性リン酸の供給源として機能し、即効性の肥料として植物の生長に寄与することができる。
【0047】
ここで、嫌気性発酵に伴い、有機肥料源はアンモニアを生成する。しかしながら、本堆肥の原料となる炭化物は大量の細孔を有する多孔質体であり、アンモニア酸化古細菌が増殖する空間を与えることができる。さらに、本堆肥の製造工程においては、リン酸が鉄含有炭化物に含まれる鉄、酸化鉄、および/または水酸化鉄と反応して溶解性の低いリン酸鉄(III)として炭化物に吸着または担持されるが、その後の嫌気性発酵によって水溶性または非水溶性のリン酸を与える。このため、アンモニア酸化古細菌がリン酸を養分として増殖することができる。その結果、本堆肥は高い割合でアンモニア酸化古細菌を含むので、アンモニア酸化古細菌の作用が効果的に機能し、生成するアンモニアを効率良く硝化する。このようなメカニズムの寄与により、堆肥製造時の臭気の発生を効果的に抑制することができるとともに、堆肥からの臭気発生を低減することができる。
【0048】
2-6.その他の工程
得られた堆肥は肥料として単独で利用してもよく、あるいは上述した含硫黄化合物、含マンガン化合物、または含ホウ素化合物を含む肥料助剤と混合した後に利用してもよい。この場合、肥料助剤は、堆肥中の含硫黄化合物、含マンガン化合物、または含ホウ素化合物の濃度が、例えば0.01重量%以上1重量%以下となるように添加すればよい。混合はミキサーを用いて行えばよく、ミキサーはフリーフォールミキサー、強制ミキサー、Y分岐ミキサー、アジテータミキサー、あるいはパドルミキサーなどから任意に選択することができる。
【0049】
さらに、得られた堆肥の乾燥、成形などを行ってもよい。成形では、堆肥をペレット状、棒状、粒状、粉状などの任意の形状に加工すればよい。必要に応じ、堆肥の粒径を調整するために解砕や分級を行ってもよい。例えば、平均粒径が10mm以下または0.1mm以上10mm以下となるように堆肥を解砕、分級すればよい。解砕は解砕機を用いて行えばよく、例えば振動ミル、ジェットミル、ボールミル、ローラーミル、ロッドミル、ハンマーミル、インパクトミル、回転ミル、ピンミル、ピン-ディスクミル、あるいは遊星ミルなどの解砕機を利用することができる。解砕機を用いて堆肥を解砕することで表面積が増大し、その結果、水溶性リン酸の土壌への溶出が促進される。分級は分級機を用いて行われ、分級機としては乾式分級式分級機でも湿式分級機のいずれを採用してもよい。例えば気流分級機、重力場分級機、慣性力場分級機、遠心力場分級機などが分級機として例示される。
【0050】
上述した方法により製造される本発明の実施形態の一つに係る堆肥は、リン酸を豊富に含むだけでなく、アンモニアに起因する臭気が大幅に抑制されている。したがって、取り扱いの容易な堆肥として植物の育成に寄与することができる。
【0051】
ここで、堆肥の主成分である炭化物は、バイオマスの炭化によって得ることができる。すなわち、光合成による二酸化炭素の固定によって産出される植物に由来するバイオマスを有効活用することで炭化物が調製される。さらに、この炭化物を利用して堆肥を製造する過程で各種水系の水質改善ができるとともに、本堆肥を土壌へ散布することで、植物によって固定された二酸化炭素を炭化物として地中に貯留することができる。
【0052】
より具体的に説明すると、
図2に示すように、本発明の実施形態により、バイオマスが炭化されて炭化物が調製され(1)、さらに炭化物から鉄含有炭化物が調製される(2)。この鉄含有炭化物は、リン酸鉄含有炭化物へ変換される際に水の浄化に寄与するとともに(3)、有機肥料源との混合、発酵処理、好気性条件下での処理を含む一連の過程を通してバイオマスを起源とする多孔性炭化物を含む堆肥へ変換される(4)。この堆肥は、水溶性リン酸や非水溶性リン酸を含む肥料として土壌に散布され、植物の育成に利用される(5)。植物は大気中の二酸化炭素を光合成によって固定し、食料や構造材料を提供するとともに、炭化物の原料となるバイオマスを副生する(6)。
【0053】
この(1)から(6)の一連のプロセスによって構築されるサイクルにより、大気中の二酸化炭素が光合成によって有機物として固定化され、この有機物が食料や材料として利用されるとともにバイオマスが副生される。バイオマスは炭化によって炭化物へ変換され、最終的には堆肥として地中に散布される。したがって、本発明の実施形態の一つに係る堆肥とその製造方法は、大気中の二酸化炭素を炭素として地中に貯留することで大気中の二酸化炭素の削減に寄与すると言える。
【実施例0054】
本実施例では、本発明の実施形態の一つに係る堆肥の製造とその評価について説明する。
【0055】
1.リン酸鉄含有炭化物の調製
不定形状の木炭(木質バイオマスガス化発電廃炭)、鉄粉、酸化鉄粉、バインダである高炉スラグ微粉末、および水を加え、室温で30分間混練して粉体混合物を得た。次に、得られた粉体混合物を造粒機に投入し、直径4mm、高さ10mmのペレット形状に成形した。その後、成形した粉体混合物を20℃において24時間乾燥(養生)し、鉄含有炭化物を得た。
【0056】
鉄含有炭化物中の鉄の含有量は、粉砕した鉄含有炭化物をJIS K 1474に従って処理することで鉄を抽出し、抽出された鉄の含有量を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(PerkinElmer社製、Optima 5300 DV)で測定することで求めた。その結果、鉄含有炭化物の全量に対して10重量%の鉄が含まれることが確認された。
【0057】
得られた鉄含有炭化物をガラス製カラムに充填し、100mg/Lのリン酸を含む下水汚泥脱水分離液を23L/日の流量で12日間通水した。なお、ここで用いた下水汚泥脱水分離液は、神奈川県の下水処理場で汚泥を遠心分離して得られた上澄液である。その後、得られたリン酸鉄含有炭化物を室温で24時間乾燥させることでリン酸鉄含有炭化物を調整した。
【0058】
2.発酵
有機肥料源として牛糞を用いた。実施例では、有機肥料源とリン酸鉄含有炭化物の一次混合物(重量比は、有機肥料源:リン酸鉄含有炭化物=1:0.05~1:1)を調製し、この一次混合物を樹脂製瓶(容量約500L)に充填して密閉し、60℃で5日間発酵処理を行った。発酵処理中、一日に1回一次混合物の攪拌を行った。
【0059】
一方、比較例では、リン酸鉄含有炭化物を用いず、実施例と同条件で有機肥料源に対して発酵処理を行った。
【0060】
発酵後、肥料等試験法((独)農林水産消費安全技術センター)4.1.2.a蒸留法に従い、試料に含まれるアンモニアを揮発させた。揮発したアンモニアはトラップ剤(0.25M硫酸水溶液)でトラップし、トラップ剤を0.1M水酸化ナトリウム水溶液で逆滴定することでアンモニア濃度を測定した。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、実施例のアンモニア発生量は比較例と比較して1/2以下であり、リン酸鉄が吸着または担持された炭化物を用いることでアンモニア発生量が大幅に低減できることが分かる。
【0061】
発酵後の実施例および比較例の試料をゲノム解析し、試料中に含まれるニトロソスパエラ・ウィエンネンシスの量を測定した。その結果を
図4に示す。
図4から理解できるように、実施例の試料に含まれるニトロソスパエラ・ウィエンネンシスの量は、比較例のそれと比較して約8倍であることが確認された。このことから、リン酸鉄が吸着または担持された炭化物を用いることで、アンモニア酸化古細菌の増殖が促進され、その結果、堆肥化におけるアンモニア発生量が低減すると言える。
【0062】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0063】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。