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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125186
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】制御システム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 15/00 20060101AFI20230831BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B66C15/00 A
B66C13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029156
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】518317052
【氏名又は名称】株式会社DeepX
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】那須野 薫
(72)【発明者】
【氏名】冨山 翔司
(72)【発明者】
【氏名】呂 紹安
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA04
3F204BA02
3F204CA05
3F204FA03
3F204FA06
3F204FC03
3F204FC08
3F204FD02
3F204FD03
3F204FD07
(57)【要約】
【課題】クレーンを制御するシステムの一部が故障した状況でクレーンを停止させる際の安全性を高められるようにする。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る制御システムSは、クレーンの状態を示すセンサ値を測定する測定装置3と、センサ値を用いてクレーンの動作を制御する制御信号であって、測定装置が故障していると判定したことを条件としてクレーンの動作を停止させる制御信号を生成する制御装置1と、センサ値に基づいて予測された予測値を用いてクレーンの動作を停止させる停止信号を生成する停止装置2と、制御信号を停止信号に優先してクレーンに送信する送信部224と、を含む。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの動作を制御するための制御システムであって、
前記クレーンの状態を示すセンサ値を測定する測定装置と、
前記センサ値を用いて前記クレーンの動作を制御する制御信号であって、前記測定装置が故障していると判定したことを条件として前記クレーンの動作を停止させる制御信号を生成する制御装置と、
前記センサ値に基づいて予測された予測値を用いて前記クレーンの動作を停止させる停止信号を生成する停止装置と、
前記制御信号を前記停止信号に優先して前記クレーンに送信する送信部と、
を含む、制御システム。
【請求項2】
前記停止装置は、前記測定装置が故障しているか否かに関わらず、前記センサ値を用いずに前記予測値を用いて、前記停止信号を生成する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記センサ値及び前記予測値を用いて、前記制御信号を生成する、
請求項1又は2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記制御装置は、第1時点の前記クレーンの状態及び制御量に基づいて前記第1時点より後の第2時点の前記クレーンの状態を予測する物理モデルによって予測された前記クレーンの状態を示す前記予測値を用いて、前記制御信号を生成する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項5】
前記停止装置は、第1時点の前記クレーンの状態及び制御量に基づいて前記第1時点より後の第2時点の前記クレーンの状態を予測する物理モデルによって予測された前記クレーンの状態を前記予測値として用いて、前記停止信号を生成する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項6】
前記停止装置は、前記物理モデルにおいて、前記第2時点における前記クレーンの状態を所定の停止状態にする前記クレーンの制御量を算出し、算出した前記制御量を用いて前記クレーンの動作を停止させる前記停止信号を生成する、
請求項5に記載の制御システム。
【請求項7】
前記停止状態は、前記クレーンにおいて荷物を移動させるように動作する可動部材が静止しており、かつ前記可動部材から垂下されている前記荷物を吊るためのワイヤが静止している状態である、
請求項6に記載の制御システム。
【請求項8】
前記停止装置は、前記クレーンが前記停止状態になるまでの前記クレーンの状態と前記停止状態との差の所定の時間範囲における統計値が小さくなるように、前記停止信号を生成する、
請求項6又は7に記載の制御システム。
【請求項9】
前記停止装置は、前記制御装置が故障しているか否かに関わらず、前記停止信号を生成する、
請求項1から8のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項10】
前記送信部は、前記制御装置が生成した前記制御信号と、前記停止装置が生成した前記停止信号と、の両方を送信可能な場合に、前記停止信号を前記クレーンに送信せず、前記制御信号を前記クレーンに送信する、
請求項1から9のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項11】
クレーンの動作を制御するための制御方法であって、
測定装置において、前記クレーンの状態を示すセンサ値を測定するステップと、
制御装置において、前記センサ値を用いて前記クレーンの動作を制御する制御信号であって、前記測定装置が故障していると判定したことを条件として前記クレーンの動作を停止させる制御信号を生成するステップと、
前記制御装置とは異なる停止装置において、前記センサ値に基づいて予測された予測値を用いて前記クレーンの動作を停止させる停止信号を生成するステップと、
前記制御信号を前記停止信号に優先して前記クレーンに送信するステップと、
を含む、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンを停止させるための制御システム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クレーンのフック又は吊り荷の位置をセンサにより計測し、計測した位置に基づいて異常状態か否かを判定し、異常状態と判定した場合にクレーンに停止信号を出力する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-215669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレーンを制御するシステムが含むセンサやコンピュータ等が故障した場合には、クレーンを停止させる必要がある。しかしながら、クレーンへの制御信号の送信自体を止めたり、クレーンの制御量をいきなりゼロにしたりしてしまうと、クレーンが急停止し、クレーンのブーム(アーム)やクレーンが吊っている荷物が激しく揺れる等の事態が生じるおそれがあった。また、特許文献1に開示された発明では、クレーンを停止させるための制御をする装置自体が故障した状況では、当該装置を用いてクレーンを停止させることができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、クレーンを制御するシステムの一部が故障した状況でクレーンを停止させる際の安全性を高められるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の制御システムは、クレーンの動作を制御するための制御システムであって、前記クレーンの状態を示すセンサ値を測定する測定装置と、前記センサ値を用いて前記クレーンの動作を制御する制御信号であって、前記測定装置が故障していると判定したことを条件として前記クレーンの動作を停止させる制御信号を生成する制御装置と、前記センサ値に基づいて予測された予測値を用いて前記クレーンの動作を停止させる停止信号を生成する停止装置と、前記制御信号を前記停止信号に優先して前記クレーンに送信する送信部と、を含む。
【0007】
前記停止装置は、前記測定装置が故障しているか否かに関わらず、前記センサ値を用いずに前記予測値を用いて、前記停止信号を生成してもよい。
【0008】
前記制御装置は、前記センサ値及び前記予測値を用いて、前記制御信号を生成してもよい。
【0009】
前記制御装置は、第1時点の前記クレーンの状態及び制御量に基づいて前記第1時点より後の第2時点の前記クレーンの状態を予測する物理モデルによって予測された前記クレーンの状態を示す前記予測値を用いて、前記制御信号を生成してもよい。
【0010】
前記停止装置は、第1時点の前記クレーンの状態及び制御量に基づいて前記第1時点より後の第2時点の前記クレーンの状態を予測する物理モデルによって予測された前記クレーンの状態を前記予測値として用いて、前記停止信号を生成してもよい。
【0011】
前記停止装置は、前記物理モデルにおいて、前記第2時点における前記クレーンの状態を所定の停止状態にする前記クレーンの制御量を算出し、算出した前記制御量を用いて前記クレーンの動作を停止させる前記停止信号を生成してもよい。
【0012】
前記停止状態は、前記クレーンにおいて荷物を移動させるように動作する可動部材が静止しており、かつ前記可動部材から垂下されている前記荷物を吊るためのワイヤが静止している状態であってもよい。
【0013】
前記停止装置は、前記クレーンが前記停止状態になるまでの前記クレーンの状態と前記停止状態との差の所定の時間範囲における統計値が小さくなるように、前記停止信号を生成してもよい。
【0014】
前記停止装置は、前記制御装置が故障しているか否かに関わらず、前記停止信号を生成してもよい。
【0015】
前記送信部は、前記制御装置が生成した前記制御信号と、前記停止装置が生成した前記停止信号と、の両方を送信可能な場合に、前記停止信号を前記クレーンに送信せず、前記制御信号を前記クレーンに送信してもよい。
【0016】
本発明の第2の態様の制御方法は、クレーンの動作を制御するための制御方法であって、測定装置において、前記クレーンの状態を示すセンサ値を測定するステップと、制御装置において、前記センサ値を用いて前記クレーンの動作を制御する制御信号であって、前記測定装置が故障していると判定したことを条件として前記クレーンの動作を停止させる制御信号を生成するステップと、前記制御装置とは異なる停止装置において、前記センサ値に基づいて予測された予測値を用いて前記クレーンの動作を停止させる停止信号を生成するステップと、前記制御信号を前記停止信号に優先して前記クレーンに送信するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クレーンを制御するシステムの一部が故障した状況でクレーンを停止させる際の安全性を高められるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る制御システムの概要を示す図である。
図2】実施形態に係る制御システムのブロック図である。
図3】測定装置が測定するセンサ値を説明するための模式図である。
図4】クレーンに制御信号又は停止信号を送信する処理を説明するための模式図である。
図5】クレーンに制御信号又は停止信号を送信する処理を説明するための模式図である。
図6】クレーンに制御信号又は停止信号を送信する処理を説明するための模式図である。
図7】実施形態に係る制御システムが実行する例示的な制御方法のシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[制御システムSの概要]
図1は、本実施形態に係る制御システムSの概要を示す図である。制御システムSは、制御装置1と、停止装置2と、測定装置3と、を含む。制御システムSは、その他のサーバ、端末等の機器を含んでもよい。制御システムSは、クレーン4の動作を制御するためのシステムである。
【0020】
制御装置1は、測定装置3が測定したセンサ値を用いてクレーン4の動作を制御するコンピュータである。制御装置1は、例えば、予め設定された荷物の軌道と、測定装置3が測定したセンサ値と、に基づいて制御信号を生成することによって、クレーン4を動作させ、又はクレーン4の動作を停止させる。制御装置1は、生成した制御信号を、有線通信又は無線通信によって、停止装置2を介してクレーン4に送信する。
【0021】
停止装置2は、測定装置3が測定したセンサ値に基づいて予測された予測値を用いてクレーン4の動作を停止させるコンピュータである。停止装置2は、例えば、クレーン4の現在の状態から将来の状態を予測する物理モデルによってクレーン4を所定の停止状態にするための制御量を算出し、算出した制御量に対応する停止信号を生成することによって、クレーン4の動作を停止させる。現在の状態は、例えば、測定装置3がセンサ値を測定した時点のクレーン4の状態である。特に、現在の状態は、測定装置3がセンサ値を測定した直近の時点のクレーン4の状態であることが望ましい。停止装置2は、制御装置1が生成した制御信号、又は停止装置2が生成した停止信号を、有線通信又は無線通信によって、クレーン4に送信する。
【0022】
測定装置3は、クレーン4の状態を示すセンサ値を測定する装置である。測定装置3は、例えば、クレーン4が有するブーム(アームともいう)の角度及び速度、クレーン4が荷物を吊るためのワイヤの角度及び速度等をセンサ値として測定するための一又は複数のセンサを含む。また、測定装置3は、クレーン4に関するその他の値を測定するためのセンサを含んでもよい。測定装置3が含む一又は複数のセンサは独立しており、一又は複数のセンサの少なくとも一部が故障し得る。以下、測定装置3が含む一又は複数のセンサの少なくとも一部が故障していることを、測定装置3が故障していることという。測定装置3は、測定したセンサ値を、有線通信又は無線通信によって、制御装置1及び停止装置2に送信する。
【0023】
クレーン4は、荷物を吊り上げて移動させる装置である。荷物は、クレーン4によって吊り上げられ、所定の目的地に移動させられる物体である。クレーン4は、例えば、ジブクレーン、天井クレーン、橋形クレーン、タワークレーン、又は荷物を吊り上げて移動可能なその他のクレーンである。クレーン4は、自走可能であってもよく、地面、天井、壁等に固定されていてもよい。クレーン4は、予め設定された軌道に沿って自動的に荷物を移動させるものであってもよい。
【0024】
本実施形態に係る制御システムSが実行する処理の概要を以下に説明する。測定装置3は、クレーン4の状態を示すセンサ値を測定する。制御装置1は、測定装置3が測定したセンサ値を用いてクレーン4の動作を制御する制御信号であって、測定装置3が故障していると判定したことを条件としてクレーン4の動作を停止させる制御信号を生成する。制御装置1は、例えば、測定装置3が故障していない場合にはクレーン4に荷物を移動させるための制御信号を生成し、測定装置3が故障している場合にはクレーン4を停止させるための制御信号を生成する。制御装置1は、生成した制御信号を、停止装置2に送信する。
【0025】
停止装置2は、測定装置3が測定したセンサ値に基づいて、将来のクレーン4の状態を示す予測値を予測する。将来のクレーン4の状態は、例えば、測定装置3がセンサ値を測定した時点よりも後の時点のクレーン4の状態である。停止装置2は、例えば、第1時点のクレーン4の状態及び制御量に基づいて第1時点より後の第2時点のクレーン4の状態を予測する物理モデルによって、予測値を予測する。停止装置2は、予測した予測値を用いて、クレーン4の動作を停止させる停止信号を生成する。
【0026】
停止装置2は、制御装置1が生成した制御信号、又は停止装置2が生成した停止信号を、クレーン4に送信する。ここで停止装置2の送信部は、制御装置1が生成した制御信号を、停止装置2が生成した停止信号に優先して、クレーン4に送信する。停止装置2の送信部は、例えば、制御装置1が故障していない場合、すなわち制御装置1が生成した制御信号と、停止装置2が生成した停止信号と、の両方を送信可能な場合に、停止信号をクレーン4に送信せず、制御信号をクレーン4に送信する。一方、停止装置2の送信部は、例えば、制御装置1が故障している場合、すなわち制御装置1が制御信号を生成できない場合もしくは制御装置1が生成した制御信号を送信できない場合又は制御装置1が送信した制御信号が制御装置1の異常を示している場合に、停止装置2が生成した停止信号をクレーン4に送信する。
【0027】
このように、制御システムSは、クレーン4の停止が必要な際に、制御装置1が故障していない場合には制御装置1がセンサ値に基づいて生成した停止信号をクレーン4に送信し、制御装置1が故障している場合には停止装置2がセンサ値の予測値に基づいて生成した停止信号をクレーン4に送信する。これにより、制御システムSは、クレーン4を制御するシステムの一部が故障している状況であっても、クレーン4を安全に停止させるための信号を送信でき、クレーン4を停止させる際の安全性を高められる。
【0028】
[制御システムSの構成]
図2は、本実施形態に係る制御システムSのブロック図である。図2において、矢印は主なデータの流れを示しており、図2に示したもの以外のデータの流れがあってもよい。図2において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、図2に示すブロックは単一の装置内に実装されてもよく、あるいは複数の装置内に分かれて実装されてもよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
【0029】
制御装置1は、記憶部11と、制御部12とを有する。制御装置1は、2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されてもよい。また、制御装置1は、コンピュータ資源の集合であるクラウドによって構成されてもよい。
【0030】
記憶部11は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクドライブ等を含む記憶媒体である。記憶部11は、制御部12が実行するプログラムを予め記憶している。また、記憶部11は、クレーン4が荷物を移動させる予定の軌道である予定軌道を示す軌道情報を予め記憶している。記憶部11は、制御装置1の外部に設けられてもよく、その場合にネットワークを介して制御部12との間でデータの授受を行ってもよい。
【0031】
制御部12は、受信部121と、予測部122と、制御信号生成部123と、送信部124と、を有する。制御部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサであり、記憶部11に記憶されたプログラムを実行することにより、受信部121、予測部122、制御信号生成部123及び送信部124として機能する。制御部12の機能の少なくとも一部は電気回路によって実行されてもよい。また、制御部12の機能の少なくとも一部は、制御部12がネットワーク経由で実行されるプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0032】
停止装置2は、記憶部21と、制御部22とを有する。停止装置2は、2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されてもよい。また、停止装置2は、コンピュータ資源の集合であるクラウドによって構成されてもよい。
【0033】
記憶部21は、ROM、RAM、ハードディスクドライブ等を含む記憶媒体である。記憶部21は、制御部22が実行するプログラムを予め記憶している。記憶部21は、停止装置2の外部に設けられてもよく、その場合にネットワークを介して制御部22との間でデータの授受を行ってもよい。
【0034】
制御部22は、受信部221と、予測部222と、停止信号生成部223と、送信部224と、を有する。制御部22は、例えばCPU等のプロセッサであり、記憶部21に記憶されたプログラムを実行することにより、受信部221、予測部222、停止信号生成部223及び送信部224として機能する。制御部22の機能の少なくとも一部は電気回路によって実行されてもよい。また、制御部22の機能の少なくとも一部は、制御部22がネットワーク経由で実行されるプログラムを実行することによって実現されてもよい。
【0035】
以下、制御システムSが実行する処理について詳細に説明する。クレーン4が荷物を吊って移動させる前又は最中に、測定装置3は、0.01秒、0.1秒等の所定の時間間隔でクレーン4の状態を示すセンサ値を測定する。
【0036】
図3は、測定装置3が測定するセンサ値を説明するための模式図である。図3は、クレーン4の構造を模式的に表している。クレーン4は、ブーム41と、ワイヤ42と、吊り具43と、を有する。ブーム41(アーム)は、モータ、アクチュエータ等の動力により、起伏、伸縮、旋回等の動作をすることが可能な可動部材である。ブーム41は、吊り具43に吊られた荷物を移動させるように動作をする。天井クレーン等のクレーン4は、ブーム41に代えて、吊り具43を移動させることが可能なその他の可動部材を有してもよい。
【0037】
ワイヤ42(ケーブル)は、ブーム41から垂下されている線状部材である。ワイヤ42は、ウインチ等によって巻き取られることにより、ブーム41から垂下されている部分の長さが変更可能であり、これにより吊り具43及び荷物の鉛直方向に沿った高さが変更される。
【0038】
吊り具43は、荷物を吊るための部材である。吊り具43は、例えば、ブーム41から垂下されているワイヤ42の一方端に設けられている。吊り具43は、例えば、フックである。
【0039】
測定装置3は、クレーン4が配置されている空間上で互いに直行する所定の3軸(図3のx軸、y軸、z軸)において、クレーン4、すなわちブーム41及びワイヤ42の状態を示す値を測定する。例えば、xy平面を地面に平行な平面とし、ブーム41がxy平面に沿って回転する方向を旋回方向と呼び、ブーム41がxy平面に対して垂直な面に沿って回転する方向を起伏方向と呼ぶ。
【0040】
測定装置3は、例えば、ブーム41について、長さ、起伏方向角度、起伏方向角速度、旋回方向角度、旋回方向角速度を測定する。また、測定装置3は、例えば、ワイヤ42について、長さ、速度、起伏方向振れ角、起伏方向振れ角速度、旋回方向振れ角、及び旋回方向振れ角速度を測定する。測定装置3は、ここに示した具体的な値に限られず、クレーン4の状態を示すその他の値を測定してもよい。
【0041】
また、制御装置1の記憶部11及び停止装置2の記憶部21は、それぞれ第1時点のクレーン4の状態及び制御量に基づいて第1時点より後の第2時点のクレーン4の状態を予測する物理モデルを記憶している。物理モデルは、例えば、以下の式(1)によって表される。
【数1】
【0042】
fは物理モデルであり、例えば運動方程式である。aはクレーン4の加速度であり、クレーン4の制御量に対応する。θはクレーン4の状態を示す状態変数であり、θ’はクレーン4の状態を示す状態変数の予測値である。時刻tから時刻t+1への経過時間が短い場合に、θとθ’との間の推定誤差が小さいため、状態変数の推定値θ’を状態変数θとみなすことができる。
【0043】
制御装置1及び停止装置2は、物理モデルfを用いてモデル予測制御(Model Predictive Control、MPC)を行うことによって、クレーン4の将来実現させたい目標状態に向けて行動系列を算出する。制御装置1及び停止装置2は、例えば、目標状態の状態変数をθgとすると、θg=θt+Tとなるように加速度の系列at, at+1,…、at+Tを算出し、算出した加速度の系列に対応する制御信号又は停止信号を生成することによって、クレーン4を所定の状態になるように制御することができる。
【0044】
図4図5及び図6は、クレーン4に制御信号又は停止信号を送信する処理を説明するための模式図である。図4は、制御装置1及び測定装置3が故障していない状況を表している。図5は、制御装置1が故障しておらず、測定装置3が故障している状況を表している。図6は、制御装置1が故障している状況を表している。
【0045】
まず、図4を用いて、制御装置1及び測定装置3が故障していない状況における処理を説明する。測定装置3は、測定したセンサ値を、制御装置1及び停止装置2それぞれに送信する。制御装置1の受信部121は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部11に記憶させる。停止装置2の受信部221は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部21に記憶させる。
【0046】
ここで受信部121及び受信部221は、所定期間内(例えば、センサ値を前回受信してから2秒以内、望ましくは1秒以内)に測定装置3からセンサ値の少なくとも一部が受信できない場合、又は測定装置3から受信したセンサ値の少なくとも一部が測定装置3の異常を示している場合(センサ値が異常値である場合等)に、測定装置3が故障していると判定し、そうでない場合に測定装置3が故障していないと判定する。図4は、測定装置3が故障していないと受信部121及び受信部221が判定した場合の処理を表している。
【0047】
制御装置1の予測部122は、例えば、測定装置3から受信したセンサ値を、記憶部11に記憶された上述の物理モデルの状態変数(すなわち、第1時点のクレーン4の状態)に入力する。さらに予測部122は、例えば、クレーン4が移動させている荷物が記憶部11に予め記憶された軌道情報が示す予定軌道上にある状態を、物理モデルの目標状態(すなわち、第2時点のクレーン4の状態)に設定する。そして予測部122は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。
【0048】
制御信号生成部123は、予測部122が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す制御信号、すなわちクレーン4を動作させる制御信号(図4における動作用の制御信号)を生成する。送信部124は、制御信号生成部123が生成した制御信号を、停止装置2に送信する。
【0049】
停止装置2において、受信部221は、制御装置1が送信した制御信号を受信する。受信部221は、所定期間内(例えば、センサ値を前回受信してから2秒以内、望ましくは1秒以内)に制御装置1から制御信号を受信できない場合、又は制御装置1から受信した制御信号が制御装置1の異常を示している場合(制御信号が異常な信号である場合等)に、制御装置1が故障していると判定し、そうでない場合に制御装置1が故障していないと判定する。図4は、制御装置1が故障していないと受信部221が判定した場合の処理を表している。
【0050】
測定装置3が故障していないと受信部221が判定した場合に、予測部222は、例えば、測定装置3から受信したセンサ値を、記憶部21に記憶された上述の物理モデルの状態変数(すなわち、第1時点のクレーン4の状態)に入力する。さらに予測部222は、クレーン4が停止していることを示す所定の停止状態を、物理モデルの目標状態(すなわち、第2時点のクレーン4の状態)に設定する。停止状態の内容については、図6を用いて後述する。
【0051】
そして予測部222は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。停止信号生成部223は、予測部222が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す停止信号、すなわちクレーン4の動作を停止させる停止信号を生成する。
【0052】
送信部224は、受信部221が制御装置1から受信した制御信号を、停止信号生成部223が生成した停止信号に優先してクレーン4に送信する。図4の状況では、制御信号及び停止信号の両方を送信可能であるため、送信部224は、停止信号をクレーン4に送信せず、制御信号をクレーン4に送信する。クレーン4は、停止装置2から受信した、制御装置1が生成した制御信号に従って動作をする。
【0053】
これにより、制御システムSは、制御装置1が故障した場合に速やかにクレーン4の停止を開始できるように停止装置2において停止信号を生成しながら、制御装置1が故障していない状況では制御装置1が生成した制御信号によりクレーン4を移動させることができる。
【0054】
次に、図5を用いて、制御装置1が故障しておらず、測定装置3が故障している状況における処理を説明する。測定装置3は、測定したセンサ値を、制御装置1及び停止装置2それぞれに送信する。制御装置1の受信部121は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部11に記憶させる。停止装置2の受信部221は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部21に記憶させる。
【0055】
ここで受信部121及び受信部221は、所定期間内(例えば、センサ値を前回受信してから1秒以内等)に測定装置3からセンサ値の少なくとも一部を受信できない場合、又は測定装置3から受信したセンサ値の少なくとも一部が測定装置3の異常を示している場合に、測定装置3が含む一又は複数のセンサの少なくとも一部が故障している、すなわち測定装置3が故障していると判定し、そうでない場合に測定装置3が故障していないと判定する。図5は、測定装置3が故障していると受信部121及び受信部221が判定したことを条件とした処理を表している。
【0056】
制御装置1の予測部122は、例えば、物理モデルが過去に予測した状態変数の予測値を、記憶部11に記憶された上述の物理モデルの状態変数(すなわち、第1時点のクレーン4の状態)に入力する。また、予測部122は、測定装置3が含む一又は複数のセンサのうち故障していないセンサについては、測定装置3から受信したセンサ値を、物理モデルの状態変数に入力してもよい。すなわち、制御装置1は、センサ値及び予測値の両方を用いて、後述の制御信号を生成してもよい。これにより、制御装置1は、測定装置3が含む一又は複数のセンサの少なくとも一部が故障している場合であっても、センサ値を物理モデルが予測した予測値で補完し、クレーン4を安全に停止させることができる。
【0057】
さらに予測部122は、クレーン4が停止していることを示す所定の停止状態を、物理モデルの目標状態(すなわち、第2時点のクレーン4の状態)に設定する。停止状態の内容については、図6を用いて後述する。
【0058】
そして予測部122は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。制御信号生成部123は、予測部122が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す制御信号、すなわちクレーン4の動作を停止させる制御信号(図5における停止用の制御信号)を生成する。送信部124は、制御信号生成部123が生成した制御信号を、停止装置2に送信する。
【0059】
停止装置2において、受信部221は、制御装置1が送信した制御信号を受信する。受信部221は、所定期間内(例えば、センサ値を前回受信してから2秒以内、望ましくは1秒以内)に制御装置1から制御信号を受信できない場合、又は制御装置1から受信した制御信号が制御装置1の異常を示している場合(制御信号が異常な信号である場合等)に、制御装置1が故障していると判定し、そうでない場合に制御装置1が故障していないと判定する。図5は、制御装置1が故障していないと受信部221が判定した場合の処理を表している。
【0060】
測定装置3が故障していると受信部221が判定した場合に、予測部222は、例えば、物理モデルが過去に予測した状態変数の予測値を、記憶部21に記憶された上述の物理モデルの状態変数(すなわち、第1時点のクレーン4の状態)に入力する。また、予測部222は、測定装置3が含む一又は複数のセンサのうち故障していないセンサについては、測定装置3から受信したセンサ値を、物理モデルの状態変数に入力してもよい。これにより、停止装置2は、測定装置3が含む一又は複数のセンサの少なくとも一部が故障している場合であっても、センサ値を物理モデルが予測した予測値で補完し、クレーン4を安全に停止させることができる。
【0061】
さらに予測部222は、クレーン4が停止していることを示す所定の停止状態を、物理モデルの目標状態(すなわち、第2時点のクレーン4の状態)に設定する。停止状態の内容については、図6を用いて後述する。
【0062】
そして予測部222は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。停止信号生成部223は、予測部222が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す停止信号、すなわちクレーン4の動作を停止させる停止信号を生成する。
【0063】
送信部224は、受信部221が制御装置1から受信した制御信号を、停止信号生成部223が生成した停止信号に優先してクレーン4に送信する。図5の状況では、制御信号及び停止信号の両方を送信可能であるため、送信部224は、停止信号をクレーン4に送信せず、制御信号をクレーン4に送信する。クレーン4は、停止装置2から受信した、制御装置1が生成した制御信号に従って、動作を停止する。
【0064】
これにより、制御システムSは、制御装置1が故障した場合に速やかにクレーン4の停止を開始できるように停止装置2において停止信号を生成しながら、制御装置1が故障していない状況では制御装置1が生成した制御信号によりクレーン4を安全に停止させることができる。
【0065】
次に、図6を用いて、制御装置1が故障している状況における処理を説明する。測定装置3は、測定したセンサ値を、制御装置1及び停止装置2それぞれに送信する。停止装置2の受信部221は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部21に記憶させる。
【0066】
図4図5と同様に、停止装置2において、受信部221は、制御装置1が送信した制御信号を受信する。受信部221は、所定期間内(例えば、センサ値を前回受信してから 2秒以内、望ましくは1秒以内)に制御装置1から制御信号を受信できない場合、又は制御装置1から受信した制御信号が制御装置1の異常を示している場合(制御信号が異常な信号である場合等)に、制御装置1が故障していると判定し、そうでない場合に制御装置1が故障していないと判定する。図6は、制御装置1が故障していると受信部221が判定した場合の処理を表している。
【0067】
制御装置1が故障していると受信部221が判定した場合に、予測部222は、例えば、物理モデルが過去に予測した状態変数の予測値を、記憶部21に記憶された上述の物理モデルの状態変数(すなわち、第1時点のクレーン4の状態)に入力する。受信部221によって制御装置1が故障していると判定された後、クレーン4の動作が停止するまで、予測部222は、測定装置3が故障しているか否かに関わらず、センサ値を用いずに予測値を用いて、物理モデルによる状態変数の予測を行う。これにより、停止装置2は測定装置3からセンサ値をリアルタイムで取得して処理する必要がないため、停止装置2の処理性能を抑えることができる。これにより、停止装置2の構成を制御装置1よりも単純で頑健な構成にでき、制御システムSを導入するためのコストを削減できる。
【0068】
さらに予測部222は、クレーン4が停止していることを示す所定の停止状態を、物理モデルの目標状態(すなわち、第2時点のクレーン4の状態)に設定する。停止状態は、例えば、クレーン4において荷物を移動させるように動作する可動部材であるブーム41が静止しており、ブーム41から垂下されている、荷物を吊るためのワイヤ42が静止している状態である。停止状態は、ワイヤ42が振り子運動において折り返す際に速度がゼロになっている状態を含まず、ブーム41からワイヤ42の垂下が始まる根元の位置(例えば、ワイヤ42の向きを鉛直方向に変えるガイドローラの位置)の鉛直方向下方においてワイヤ42が静止している状態を含む。
【0069】
停止状態における物理モデルの状態変数は、例えば、以下の表1のように設定される。
【表1】
【0070】
そして予測部222は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。停止信号生成部223は、予測部222が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す停止信号、すなわちクレーン4の動作を停止させる停止信号を生成する。
【0071】
予測部222及び停止信号生成部223は、クレーン4が停止状態になるまでのクレーン4の状態と停止状態との差の所定の時間範囲における統計値(平均値、最頻値等)が小さくなるように、停止信号を生成することが望ましい。
【0072】
この場合に、予測部222は、例えば、クレーン4が停止状態になるまでの各時点におけるクレーン4の状態変数と停止状態の状態変数との間の差を評価する評価関数(例えば、差が大きいほど値が大きい関数)を用いて、当該評価関数の値の所定の時間範囲における平均値が最小となるように、クレーン4が停止状態になるまでの加速度の系列を算出する。停止信号生成部223は、予測部222が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す停止信号を生成する。これにより、停止装置2は、最終的な停止状態に近いクレーン4の状態が、所定の時間範囲内で多くなるように制御し、クレーン4及び荷物の急激な動きを抑えることができる。
【0073】
送信部224は、停止信号生成部223が生成した停止信号を、クレーン4に送信する。図6の状況では、停止信号のみを送信可能であるため、送信部224は、制御信号をクレーン4に送信せず、停止信号をクレーン4に送信する。クレーン4は、停止装置2から受信した停止信号に従って、動作を停止する。
【0074】
このように、制御システムSにおいて、停止装置2は、制御装置1が故障しているか否かに関わらず停止信号を生成しているため、制御装置1が故障した場合に速やかにクレーン4の停止を開始できる。また、停止装置2は、物理モデルによって予測された予測値を用いて所定の停止状態にする停止信号を生成するため、停止装置2の処理性能が低くても、クレーン4を安全に停止させることができる。
【0075】
[制御方法のシーケンス]
図7は、本実施形態に係る制御システムSが実行する例示的な制御方法のシーケンス図である。測定装置3は、測定したセンサ値を、制御装置1及び停止装置2それぞれに送信する。制御装置1の受信部121は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部11に記憶させる(S11)。停止装置2の受信部221は、測定装置3が送信したセンサ値を受信し、記憶部21に記憶させる(S12)。
【0076】
制御装置1において、受信部121は、所定期間内に測定装置3からセンサ値の少なくとも一部が受信できない場合、又は測定装置3から受信したセンサ値の少なくとも一部が測定装置3の異常を示している場合に、測定装置3が故障していると判定し、そうでない場合に測定装置3が故障していないと判定する。
【0077】
測定装置3が故障していないと受信部121が判定した場合に(S13のNO)、制御装置1はステップS15に進む。測定装置3が故障していると受信部121が判定した場合に(S13のYES)、予測部122は、例えば、物理モデルが過去に予測した状態変数の予測値を、物理モデルの状態変数に入力することにより、故障しているセンサのセンサ値を補完する(S14)。予測部122は、故障していないセンサについては、測定装置3から受信したセンサ値を、物理モデルの状態変数に入力してもよい。
【0078】
測定装置3が故障していないと受信部121が判定した場合に、予測部122は、例えば、クレーン4が移動させている荷物が記憶部11に予め記憶された軌道情報が示す予定軌道上にある状態を、物理モデルの目標状態に設定する。一方、測定装置3が故障していると受信部121が判定した場合に、予測部122は、クレーン4が停止していることを示す所定の停止状態を、物理モデルの目標状態に設定する。そして予測部122は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。
【0079】
制御信号生成部123は、予測部122が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す制御信号、すなわちクレーン4を動作又は停止させる制御信号を生成する(S15)。送信部124は、制御信号生成部123が生成した制御信号を、停止装置2に送信する。
【0080】
停止装置2において、受信部221は、所定期間内に測定装置3からセンサ値の少なくとも一部が受信できない場合、又は測定装置3から受信したセンサ値の少なくとも一部が測定装置3の異常を示している場合に、測定装置3が故障していると判定し、そうでない場合に測定装置3が故障していないと判定する。
【0081】
また、受信部221は、制御装置1が送信した制御信号を受信する。受信部221は、所定期間内に制御装置1から制御信号を受信できない場合、又は制御装置1から受信した制御信号が制御装置1の異常を示している場合に、制御装置1が故障していると判定し、そうでない場合に制御装置1が故障していないと判定する。
【0082】
測定装置3が故障していないと受信部221が判定した場合に(S16のNO)、停止装置2はステップS18に進む。測定装置3が故障していると受信部221が判定した場合に(S16のYES)、予測部222は、例えば、物理モデルが過去に予測した状態変数の予測値を、物理モデルの状態変数に入力することにより、故障しているセンサのセンサ値を補完する(S17)。
【0083】
制御装置1が故障していると受信部221が判定した場合に、予測部222は、例えば、物理モデルが過去に予測した状態変数の予測値を、記憶部21に記憶された物理モデルの状態変数に入力する。受信部221によって制御装置1が故障していると判定された後、クレーン4の動作が停止するまで、予測部222は、測定装置3が故障しているか否かに関わらず、センサ値を用いずに予測値を用いて、物理モデルによる状態変数の予測を行う。一方、制御装置1が故障していないと受信部221が判定した場合に、予測部222は、測定装置3から受信したセンサ値を、物理モデルの状態変数に入力してもよい。
【0084】
さらに予測部222は、クレーン4が停止していることを示す所定の停止状態を、物理モデルの目標状態に設定する。そして予測部222は、物理モデルを用いて、目標状態を実現するための加速度の系列を算出する。停止信号生成部223は、予測部222が算出した加速度の系列に対応する制御量を示す停止信号、すなわちクレーン4の動作を停止させる停止信号を生成する(S18)。
【0085】
制御装置1が故障していると受信部221が判定した場合に(S19のYES)、送信部224は、停止信号生成部223が生成した停止信号を、クレーン4に送信する(S20)。制御装置1が故障していないと受信部221が判定した場合に(S19のNO)、送信部224は、受信部221が制御装置1から受信した制御信号を、クレーン4に送信する(S21)。クレーン4は、停止装置2から受信した制御信号又は停止信号に従って、動作を停止する。
【0086】
[実施形態の効果]
本実施形態に係る制御システムSは、クレーン4の停止が必要な際に、制御装置1が故障していない場合には制御装置1がセンサ値に基づいて生成した停止信号をクレーン4に送信し、制御装置1が故障している場合には停止装置2がセンサ値の予測値に基づいて生成した停止信号をクレーン4に送信する。これにより、制御システムSは、クレーン4を制御するシステムの一部が故障している状況であっても、クレーン4を安全に停止させるための信号を送信でき、クレーン4を停止させる際の安全性を高められる。
【0087】
[変形例]
上述の実施形態では、停止装置2が制御信号を停止信号に優先してクレーン4に送信する送信部224として機能しているが、制御装置1及び停止装置2の外部に設けられたその他の装置が送信部224として機能してもよい。
【0088】
この場合に、制御システムSは、制御装置1、停止装置2及びクレーン4と有線通信又は無線通信によって通信可能な通信装置をさらに含む。制御装置1は、制御信号生成部123が生成した制御信号を、通信装置に送信する。停止装置2は、停止信号生成部223が生成した停止信号を、通信装置に送信する。
【0089】
送信部224である通信装置は、制御装置1から受信した制御信号を、停止装置2から受信した停止信号に優先してクレーン4に送信する。すなわち、通信装置は、制御信号及び停止信号の両方を送信可能である場合、又は制御信号のみを送信可能である場合に、停止信号をクレーン4に送信せず、制御信号をクレーン4に送信する。一方、通信装置は、停止信号のみを送信可能である場合に、制御信号をクレーン4に送信せず、停止信号をクレーン4に送信する。
【0090】
本変形例によれば、制御信号及び停止信号のクレーン4への送信を切り替える送信部224を制御装置1及び停止装置2の外部に設けるため、制御装置1が故障しておらず、停止装置2が故障している状況であっても、クレーン4を安全に停止させるための信号を送信でき、クレーン4を停止させる際の安全性を高められる。
【0091】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【0092】
制御装置1及び停止装置2のプロセッサは、図7に示す制御方法に含まれる各ステップ(工程)の主体となる。すなわち、制御装置1及び停止装置2のプロセッサは、図7に示す制御方法を実行するためのプログラムを記憶部11、21から読み出し、該プログラムを実行することによって、図7に示す制御方法を実行する。図7に示す制御方法に含まれるステップは一部省略されてもよく、ステップ間の順番が変更されてもよく、複数のステップが並行して行われてもよい。
【符号の説明】
【0093】
S 制御システム
1 制御装置
11 記憶部
121 受信部
122 予測部
123 制御信号生成部
124 送信部
12 制御部
2 停止装置
21 記憶部
22 制御部
221 受信部
222 予測部
223 停止信号生成部
224 送信部
3 測定装置
4 クレーン
41 ブーム
42 ワイヤ
43 吊り具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7