(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125189
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】パラレルリンク機構
(51)【国際特許分類】
F16H 21/10 20060101AFI20230831BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
F16H21/10 G
B25J11/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029159
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】515304190
【氏名又は名称】株式会社人機一体
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金岡 克弥
(72)【発明者】
【氏名】インジー ザン
【テーマコード(参考)】
3C707
3J062
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707BS10
3C707BS24
3C707HT12
3C707HT20
3C707MT02
3J062AA21
3J062AA38
3J062AB27
3J062BA12
3J062BA35
3J062BA37
3J062CB02
3J062CB33
(57)【要約】
【課題】干渉駆動および重力方向分離減速の両方を実現したパラレルリンク機構を提供する。
【解決手段】パラレルリンク機構10Aは、基端部が第2移動体30に揺動自在に連結された第1パラレルリンク部47(40,41,42)と、基端部が第1パラレルリンク部47の先端部に揺動自在に連結された第2パラレルリンク部48(42,43,44)と、基端部が第1移動体20に回動自在に連結されるとともに先端部が第2パラレルリンク部48の中間位置に回動自在に連結された第1アーム部45と、基端部が第2移動体30に回動自在に連結されるとともに先端部が第1アーム部45の中間位置に回動自在に連結された第2アーム部46aと、移動体20,30を個別に昇降させ得る直動ユニット60,70とを備える。第2パラレルリンク部48は、先端部が手先装置50に揺動自在に連結されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の仮想直線上に配置された第1移動体および第2移動体と、
第1基端部および第1先端部を有し、前記第1基端部が前記第2移動体に揺動自在に連結された第1パラレルリンク部と、
第2基端部および第2先端部を有し、前記第2基端部が前記第1先端部において前記第1パラレルリンク部に揺動自在に連結された第2パラレルリンク部と、
第3基端部および第3先端部を有し、前記第3基端部が前記第1移動体に回動自在に連結されるとともに、前記第3先端部が前記第2基端部と前記第2先端部との間にある第1中間位置おいて前記第2パラレルリンク部に回動自在に連結された第1アーム部と、
第4基端部および第4先端部を有し、前記第4基端部が前記第2移動体に回動自在に連結されるとともに、前記第4先端部が前記第3基端部と前記第3先端部との間にある第2中間位置において前記第1アーム部に回動自在に連結された第2アーム部と、
前記第1移動体および前記第2移動体を前記仮想直線上において個別に移動させ得る直動手段と、
を備え、
前記第2パラレルリンク部は、前記第2先端部において手先装置に揺動自在に連結されている
ことを特徴とするパラレルリンク機構。
【請求項2】
前記直動手段は、
前記仮想直線に対して平行な第1ボールネジ軸および第2ボールネジ軸と、
前記第1ボールネジ軸および前記第2ボールネジ軸に一対一で連結された第1回転機および第2回転機と、
を含み、
前記第1ボールネジ軸は、前記第1移動体に螺合し、かつ前記第2移動体に螺合せず、
前記第2ボールネジ軸は、前記第2移動体に螺合し、かつ前記第1移動体に螺合しない
ことを特徴とする請求項1に記載のパラレルリンク機構。
【請求項3】
床面に設置される基部と、
前記基部から鉛直上方に延びた、前記直動手段を含む支柱部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のパラレルリンク機構。
【請求項4】
前記基部は、前記支柱部に連結された第3回転機を含む
ことを特徴とする請求項3に記載のパラレルリンク機構。
【請求項5】
前記第1移動体の変位にかかわらず該第1移動体に対して一定の鉛直上方の力を加える第1定荷重バネと、
前記第2移動体の変位にかかわらず該第2移動体に対して一定の鉛直上方の力を加える第2定荷重バネと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のパラレルリンク機構。
【請求項6】
前記第1パラレルリンク部は、一端が前記第2移動体に回動自在に連結された第1リンク部材と、一端が前記第2移動体に回動自在に連結された第2リンク部材と、前記第1リンク部材の他端および前記第2リンク部材の他端に接続された第3リンク部材とを含み、
前記第2パラレルリンク部は、一端が前記第1リンク部材の他端に回動自在に連結されるとともに他端が前記手先装置に回動自在に連結された第4リンク部材と、一端が前記第2リンク部材の他端に回動自在に連結されるとともに他端が前記手先装置に回動自在に連結された第5リンク部材とを含み、
前記第1リンク部材、前記第2リンク部材および前記第1アーム部が互いに平行をなし、
前記第4リンク部材、前記第5リンク部材および前記第2アーム部が互いに平行をなし、
前記第3リンク部材、前記第2移動体上の2つの回動軸を結ぶ直線および前記手先装置上の2つの回動軸を結ぶ直線が互いに平行をなし、
前記第4基端部および前記第4先端部の間の距離と、前記第3基端部および前記第2中間位置の間の距離とが等しく、
前記第5リンク部材および前記手先装置の連結点と前記第2中間位置とが、前記仮想直線に直交する同一の面内にある
ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のパラレルリンク機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種作業を行う作業アームとして使用可能なパラレルリンク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
作業アームとして使用可能な従来のリンク機構のひとつとして、
図6に示すリンク機構100がある(特許文献1参照)。このリンク機構100は、本出願人が提案したもので、重力方向に延びた同一の仮想直線上に配置された移動体110,120,130と、第1基端部111aが移動体110に回動自在に連結された第1アーム部111,111と、第2基端部121aが移動体120に回動自在に連結された第2アーム部121,121と、第3基端部131aが移動体130に回動自在に連結されるとともに、第3先端部131bが第2基端部121aおよび第2先端部121bの間において第2アーム部121に回動自在に連結された第3アーム部131,131と、第1先端部111bおよび第2先端部121bの両方に回動自在に連結された作業装置140と、移動体110,120,130を上記仮想直線上において個別に移動させ得る回転機150,151,152とを備えている。参照符号Wを付したものは作業対象物である。
【0003】
このリンク機構100では、3つの回転機150,151,152が発生する力の和が作業対象物Wを持ち上げる力となる。言い換えると、このリンク機構100では、3つの回転機150,151,152が発生する力を余すことなく利用して作業対象物Wを持ち上げることができる。一方、このリンク機構100では、水平方向(X方向)の減速比を重力方向(Z方向)の減速比とは独立に調節することができなかった。
【0004】
つまり、この従来のリンク機構100は、「干渉駆動(Coupled Drive)」は実現できているが、「重力方向分離減速(Gravitationally Decoupled Reduction, GDR)」は実現できていなかった。なお、干渉駆動については非特許文献1に解説がある。また、重力方向分離減速(GDR)は、非特許文献1にて解説されている「重力方向分離駆動(Gravitationally Decoupled Actuation, GDA)」に類似の概念であり、本出願人が本明細書にて初めて定義するものである。GDAが重力方向と非重力方向で駆動アクチュエータを分離することを意味する概念であるのに対し、GDRは重力方向と非重力方向で減速比を分離する(互いに独立に設計できる)ことを意味する。この定義によると、GDRはGDAの必要条件である。また、同一の重力方向と非重力方向で干渉駆動を使いながらGDAを実現することは定義上両立しないのに対し、同一の重力方向と非重力方向で干渉駆動を使いながらGDRを実現することは定義としては必ずしも矛盾しない。すなわち、干渉駆動およびGDRは、両立する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】広瀬茂男,“ロボットの小形軽量化”,精密工学会誌,精密工学会,1994年,第60巻,第7号,p.913-919
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、干渉駆動および重力方向分離減速の両方を実現したパラレルリンク機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るパラレルリンク機構は、同一の仮想直線上に配置された第1移動体および第2移動体と、第1基端部および第1先端部を有し、第1基端部が第2移動体に揺動自在に連結された第1パラレルリンク部と、第2基端部および第2先端部を有し、第2基端部が第1先端部において第1パラレルリンク部に揺動自在に連結された第2パラレルリンク部と、第3基端部および第3先端部を有し、第3基端部が第1移動体に回動自在に連結されるとともに、第3先端部が第2基端部と第2先端部との間にある第1中間位置おいて第2パラレルリンク部に回動自在に連結された第1アーム部と、第4基端部および第4先端部を有し、第4基端部が第2移動体に回動自在に連結されるとともに、第4先端部が第3基端部と第3先端部との間にある第2中間位置において第1アーム部に回動自在に連結された第2アーム部と、第1移動体および第2移動体を上記仮想直線上において個別に移動させ得る直動手段とを備え、第2パラレルリンク部は、第2先端部において手先装置に揺動自在に連結されている、ことを特徴とする。
【0009】
上記パラレルリンク機構は、例えば、直動手段が、上記仮想直線に対して平行な第1ボールネジ軸および第2ボールネジ軸と、第1ボールネジ軸および第2ボールネジ軸に一対一で連結された第1回転機および第2回転機とを含み、第1ボールネジ軸が、第1移動体に螺合し、かつ第2移動体に螺合せず、第2ボールネジ軸が、第2移動体に螺合し、かつ第1移動体に螺合しない、との構成をとることができる。
【0010】
上記パラレルリンク機構は、床面に設置される基部と、基部から鉛直上方に延びた、上記直動手段を含む支柱部とをさらに備えていてもよい。
【0011】
上記パラレルリンク機構は、基部が、支柱部に連結された第3回転機を含んでいることが好ましい。
【0012】
上記パラレルリンク機構は、第1移動体の変位にかかわらず該第1移動体に対して一定の鉛直上方の力を加える第1定荷重バネと、第2移動体の変位にかかわらず該第2移動体に対して一定の鉛直上方の力を加える第2定荷重バネとをさらに備えていることが好ましい。
【0013】
上記パラレルリンク機構は、第1パラレルリンク部が、一端が第2移動体に回動自在に連結された第1リンク部材と、一端が第2移動体に回動自在に連結された第2リンク部材と、第1リンク部材の他端および第2リンク部材の他端に接続された第3リンク部材とを含み、第2パラレルリンク部が、一端が第1リンク部材の他端に回動自在に連結されるとともに他端が手先装置に回動自在に連結された第4リンク部材と、一端が第2リンク部材の他端に回動自在に連結されるとともに他端が手先装置に回動自在に連結された第5リンク部材とを含み、第1リンク部材、第2リンク部材および第1アーム部が互いに平行をなし、第4リンク部材、第5リンク部材および第2アーム部が互いに平行をなし、第3リンク部材、第2移動体上の2つの回動軸を結ぶ直線および手先装置上の2つの回動軸を結ぶ直線が互いに平行をなし、第4基端部および第4先端部の間の距離と、第3基端部および第2中間位置の間の距離とが等しく、第5リンク部材および手先装置の連結点と第2中間位置とが上記仮想直線に直交する同一の面内にある、との構成を有していることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、干渉駆動および重力方向分離減速の両方を実現したパラレルリンク機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施例に係るパラレルリンク機構を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1実施例に係るパラレルリンク機構の、手先装置をZ方向に移動させる動作を示す模式的な側面図である。
【
図3】本発明の第1実施例に係るパラレルリンク機構の、手先装置をX方向に移動させる動作を示す模式的な側面図である。
【
図4】(A)は本発明の第2実施例に係るパラレルリンク機構を示す模式的な側面図、(B)は本発明の第1実施例に係るパラレルリンク機構を示す模式的な側面図、(C)は本発明の第3実施例に係るパラレルリンク機構を示す模式的な側面図である。
【
図5】本発明の第4実施例に係るパラレルリンク機構の、手先装置をX方向に移動させる動作を示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るパラレルリンク機構の実施例について説明する。なお、以下では作業アームとして使用する場合について説明するが、本発明に係るパラレルリンク機構は、他のロボットの一部として使用することもできる。
【0017】
[第1実施例]
図1に、本発明の第1実施例に係るパラレルリンク機構10Aを示す。パラレルリンク機構10Aは、その可動範囲内で任意の手先装置50をXYZ空間の任意の位置に移動させることができるもので、同図に示すように、床面に設置される基部90と、支柱部80と、2つの移動体20,30と、7つのリンク部材40,41,42,43,44,45,46aとを備えている。なお、本実施例では、床面は水平なXY平面に対して平行であり、X方向およびY方向に直交するZ方向は重力方向(鉛直方向)であるものとする。
【0018】
支柱部80は、基部90から+Z方向に延びている。支柱部80は、底部81と、底部81から+Z方向に離間した天井部82と、底部81と天井部82とを繋ぐ後壁83および側壁84,85と、第1直動ユニット60と、第2直動ユニット70とを含んでいる。2つの側壁84,85は、直動ユニット60,70を挟み込むようにY方向に離間している。直動ユニット60,70同士も、Y方向に離間している。
【0019】
支柱部80は、底部81においてZ軸まわりに回動自在に基部90に連結されている。以下の説明では、支柱部80が基部90に対して回動すると、これに連動してX軸およびY軸の向きも変わるものとする。言い換えると、7つのリンク部材40,41,42,43,44,45,46aからなるリンク機構は、支柱部80から常に+X方向に延びているものとする。
【0020】
第1直動ユニット60は、Z方向に延びた第1ボールネジ軸61と、第1ボールネジ軸61の下端に連結された第1減速機62と、第1減速機62に連結された出力軸を有する第1回転機63とを含んでいる。つまり、第1回転機63の出力軸は、第1減速機62を介して第1ボールネジ軸61に連結されている。このため、第1回転機63の出力軸が回転すると、その回転の方向に対応した方向に第1ボールネジ軸61も回転する。このとき、第1ボールネジ軸61および第1回転機63の出力軸の回転数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
第2直動ユニット70は、第1直動ユニット60と同様の構成を有している。すなわち、第2直動ユニット70は、Z方向に延びた第2ボールネジ軸71と、第2ボールネジ軸71の下端に連結された第2減速機72と、第2減速機72に連結された出力軸を有する第2回転機73とを含んでいる。つまり、第2回転機73の出力軸は、第2減速機72を介して第2ボールネジ軸71に連結されている。このため、第2回転機73の出力軸が回転すると、その回転の方向に対応した方向に第2ボールネジ軸71も回転する。このとき、第2ボールネジ軸71および第2回転機73の出力軸の回転数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
第1移動体20は、第1直動ユニット60の第1ボールネジ軸61に螺合している。このため、第1ボールネジ軸61が回転すると、その回転数に対応した速度で、その回転の方向に対応した方向(+Z方向/-Z方向)に第1移動体20は移動する。一方、第1移動体20は、第2直動ユニット70の第2ボールネジ軸71には螺合していない。このため、第2ボールネジ軸71の回転は第1移動体20に影響を及ぼさない。
【0023】
第2移動体30は、第1移動体20の上方において、第2直動ユニット70の第2ボールネジ軸71に螺合している。このため、第2ボールネジ軸71が回転すると、その回転数に対応した速度で、その回転の方向に対応した方向(+Z方向/-Z方向)に第2移動体30は移動する。一方、第2移動体30は、第1直動ユニット60の第1ボールネジ軸61には螺合していない。このため、第1ボールネジ軸61の回転は第2移動体30に影響を及ぼさない。
【0024】
移動体20,30は、同一の仮想直線上に配置されているといえる。また、ボールネジ軸61,71は、この仮想直線に平行であるといえる。
【0025】
第1リンク部材40は、基端部(=支柱部80側の端部。以下同様)および先端部(=手先装置50側の端部。以下同様)を有している。第1リンク部材40の基端部は、第2移動体30にY軸まわりに回動自在に連結されている。
【0026】
第2リンク部材41は、基端部および先端部を有している。第2リンク部材41の基端部は、第2移動体30および第1リンク部材40の連結点よりも所定距離だけ下方において、第2移動体30にY軸まわりに回動自在に連結されている。第2リンク部材41の長さは、第1リンク部材40の長さに等しい。
【0027】
第3リンク部材42は、上端部および下端部を有している。第3リンク部材42の上端部は、第1リンク部材40の先端部にY軸まわりに回動自在に連結されている。また、第3リンク部材42の下端部は、第2リンク部材41の先端部にY軸まわりに回動自在に連結されている。第1リンク部材40および第3リンク部材42の連結点と第2リンク部材41および第3リンク部材42の連結点との間の距離は、第1リンク部材40および第2移動体30の連結点と第2リンク部材41および第2移動体30の連結点との間の距離(以下、距離Z1とする)に等しい。
【0028】
第4リンク部材43は、基端部および先端部を有している。第4リンク部材43の基端部は、第1リンク部材40の先端部および第3リンク部材42の上端部の両方にY軸まわりに回動自在に連結されている。また、第4リンク部材43の先端部は、手先装置50にY軸まわりに回動自在に連結されている。
【0029】
第5リンク部材44は、基端部および先端部を有している。第5リンク部材44の基端部は、第2リンク部材41の先端部および第3リンク部材42の下端部の両方にY軸まわりに回動自在に連結されている。また、第5リンク部材44の先端部は、第4リンク部材43および手先装置50の連結点よりも距離Z1だけ下方において、手先装置50にY軸まわりに回動自在に連結されている。第5リンク部材44の長さは、第4リンク部材43の長さに等しい。
【0030】
第1リンク部材40、第2リンク部材41および第3リンク部材42は、本発明の「第1パラレルリンク部」47に相当する。第1パラレルリンク部47は、基端部および先端部を有し、基端部において第2移動体30に揺動自在に連結されているといえる。
【0031】
第3リンク部材42、第4リンク部材43および第5リンク部材44は、本発明の「第2パラレルリンク部」48に相当する。第2パラレルリンク部48は、基端部および先端部を有し、基端部において第1パラレルリンク部47の先端部に揺動自在に連結され、先端部において手先装置50に揺動自在に連結されているといえる。
【0032】
第6リンク部材45は、基端部および先端部を有している。第6リンク部材45の基端部は、第1移動体20にY軸まわりに回動自在に連結されている。また、第6リンク部材45の先端部は、第1中間位置44a(
図2等参照)において第5リンク部材44にY軸まわりに回動自在に連結されている。第6リンク部材45の先端部は、第2パラレルリンク部48の中間位置に回動自在に連結されているともいえる。
【0033】
第7リンク部材46aは、基端部および先端部を有している。第7リンク部材46aの基端部は、第2移動体30および第2リンク部材41の基端部の両方にY軸まわりに回動自在に連結されている。また、第7リンク部材46aの先端部は、第2中間位置45a(
図2等参照)において第6リンク部材45にY軸まわりに回動自在に連結されている。
【0034】
本実施例では、第1リンク部材40、第2リンク部材41および第6リンク部材45が互いに平行をなし、第4リンク部材43、第5リンク部材44および第7リンク部材46aが互いに平行をなし、第3リンク部材42、第2移動体30上の2つの回動軸を結ぶ直線および手先装置50上の2つの回動軸を結ぶ直線が互いに平行をなし、第7リンク部材46aおよび第2移動体30の連結点と第2中間位置45aとの間の距離と、第6リンク部材45および第1移動体20の連結点と第2中間位置45aとの間の距離とが等しく(つまり、これら2つの連結点と第2中間位置45aとが二等辺三角形をなし)、さらに第5リンク部材44および手先装置50の連結点のZ方向位置(高さ)と第2中間位置45aのZ方向位置(高さ)とが同一である。第5リンク部材44および手先装置50の連結点と第2中間位置45aとは、Z方向に直交する同一の面内(XY平面内)にあるともいえる。
【0035】
第6リンク部材45は、本発明の「第1アーム部」に相当する。また、第7リンク部材46aは、本発明の「第2アーム部」に相当する。
【0036】
次に、直動ユニット60,70による移動体20,30の移動速度と手先装置50の移動速度との関係について検討する。
【0037】
本実施例に係るパラレルリンク機構10Aでは、上記の関係を次式のように簡潔に表現することができる。
【数1】
ここで、
v
xは、手先装置50のX方向の移動速度[m/s]
v
zは、手先装置50のZ方向の移動速度[m/s]
ドットd
1は、第1直動ユニット60による第1移動体20の移動速度[m/s]
ドットd
2は、第2直動ユニット70による第2移動体30の移動速度[m/s]
である。
【0038】
(1)式は、第1移動体20および第2移動体30の移動速度の差(=ドットd1-ドットd2)によって手先装置50のX方向の移動速度vxが決まり、第1移動体20および第2移動体30の移動速度の和(=ドットd1+ドットd2)によって手先装置50のZ方向の移動速度vzが決まることを示している。つまり、本実施例に係るパラレルリンク機構10Aは、いわゆる差動機構となっている。
【0039】
X方向の減速比となる係数J
xは、次式のように、第1移動体20と第2移動体30の距離(=d
1-d
2)の関数として表現することができる。
【数2】
ここで、
d
1は、第1直動ユニット60による第1移動体20の変位[m]
d
2は、第2直動ユニット70による第2移動体30の変位[m]
である。
X方向の減速比J
xは、リンク長等の機構のパラメータを変更することによって広い範囲で自在に調節することができる。
【0040】
一方、
図1に示した構成では、Z方向の減速比となる係数J
zは1/2(定数)となる。つまり、本実施例では、移動体20,30の平均速度が手先装置50のZ方向の移動速度v
zとなる。
【0041】
このように、本実施例に係るパラレルリンク機構10Aによれば、重力方向であるZ方向の減速比となる係数Jzとは独立に、非重力方向であるX方向の減速比となる係数Jxを設計することができる。つまり、本実施例に係るパラレルリンク機構10Aによれば、重力方向分離減速(GDR)を実現することができる。
【0042】
次に、直動ユニット60,70の駆動力と手先装置50の並進力との関係について検討する。
【0043】
本実施例に係るパラレルリンク機構10Aでは、(1)式の関係から仮想仕事の原理を用いると、上記の関係を次式のように表現することができる。
【数3】
そして、これを解くと、次式が得られる。
【数4】
ここで、
f
xは、手先装置50のX方向の並進力[N]
f
zは、手先装置50のZ方向の並進力[N]
f
1は、第1直動ユニット60の駆動力[N]
f
2は、第2直動ユニット70の駆動力[N]
である。
【0044】
(4)式は、第1直動ユニット60および第2直動ユニット70の駆動力の差(=f1-f2)によって手先装置50のX方向の並進力fxが決まり、第1直動ユニット60および第2直動ユニット70の駆動力の和(=f1+f2)によって手先装置50のZ方向の並進力fzが決まることを示している。
【0045】
前述した通り、
図1に示した構成では、Z方向の減速比となる係数J
zは1/2(定数)である。このため、(4)式から次式が得られる。
【数5】
【0046】
(5)式は、2つの直動ユニット60,70の駆動力f1,f2の和がそのまま手先装置50のZ方向の並進力fzとなることを示している。言い換えると、この式は、本実施例に係るパラレルリンク機構10Aによって、干渉駆動が実現されることを示している。
【0047】
続いて、本実施例に係るパラレルリンク機構10Aの動作について説明する。
【0048】
図2に示すように、第1直動ユニット60および第2直動ユニット70を作動させて第1移動体20および第2移動体30を同じ量だけ+Z方向に移動(上昇)させると、手先装置50も同じ量だけ上昇する(同図(A)→(B)→(C)参照)。反対に、第1直動ユニット60および第2直動ユニット70を作動させて第1移動体20および第2移動体30を同じ量だけ-Z方向に移動(下降)させると、手先装置50も同じ量だけ下降する(同図(C)→(B)→(A)参照)。いずれの場合においても、手先装置50はX方向には一切移動しない。
【0049】
図3に示すように、第2直動ユニット70を作動させて第2移動体30を下降させながら第1直動ユニット60を作動させて第1移動体20を同じ量だけ上昇させると、手先装置50は+X方向に移動する(遠ざかる)(同図(A)→(B)→(C)参照)。反対に、第2直動ユニット70を作動させて第2移動体30を上昇させながら第1直動ユニット60を作動させて第1移動体20を同じ量だけ下降させると、手先装置50は-X方向に移動する(近づく)(同図(C)→(B)→(A)参照)。いずれの場合においても、手先装置50はZ方向には一切移動しない。
【0050】
もちろん、手先装置50をX方向に移動させるときに、第1移動体20および第2移動体30を同じ量だけ反対方向に移動させることは必須ではない。例えば、第2移動体30を固定したまま第1移動体20を上昇させることによって手先装置50を遠ざけてもよい。この場合、手先装置50は+Z方向にも移動する。あるいは、第2移動体30を固定したまま第1移動体20を下降させることによって手先装置50を近づけてもよい。この場合、手先装置50は-Z方向にも移動する。
【0051】
以上のように、第1実施例に係るパラレルリンク機構10Aによれば、重力方向分離減速(GDR)および干渉駆動の両方を、同一の重力方向(Z方向)と非重力方向(X方向)で同時に実現することができる。この他、パラレルリンク機構10Aによれば、(1)パンタグラフ構造を採用したことにより従来の機構100よりも手先装置50の可動範囲(特にX方向の可動範囲)を広くとることができる、(2)パラレルリンク構造を採用したことにより従来の機構100よりも全体として外力に対して強い、との作用効果も得られる。
【0052】
[第2実施例]
図4(A)に示すように、本発明の第2実施例に係るパラレルリンク機構10Bは、第7リンク部材46aの代わりにこれよりも短い第7リンク部材46bを備えている点、第1中間位置44aよりも基端部に近い位置(第1中間位置44b)において第6リンク部材45を第5リンク部材44に連結した点、および第2中間位置45aよりも基端部に近い位置(第2中間位置45b)において第7リンク部材46bを第6リンク部材45に連結した点においてパラレルリンク機構10A(同図(B)参照)と相違している。
【0053】
この構成によれば、X方向の減速比が小さくなり、より高速に手先装置50をX方向に移動させることができるようになる。その一方で、手先装置50のX方向の並進力は低下する。
【0054】
[第3実施例]
図4(C)に示すように、本発明の第3実施例に係るパラレルリンク機構10Cは、第7リンク部材46aの代わりにこれよりも長い第7リンク部材46cを備えている点、第1中間位置44aよりも先端部に近い位置(第1中間位置44c)において第6リンク部材45を第5リンク部材44に連結した点、および第2中間位置45aよりも先端部に近い位置(第2中間位置45c)において第7リンク部材46cを第6リンク部材45に連結した点においてパラレルリンク機構10A(同図(B)参照)と相違している。
【0055】
この構成によれば、X方向の減速比が大きくなり、手先装置50のX方向の並進力を増大させることができる。その一方で、手先装置50のX方向における移動速度は低下する。
【0056】
[第4実施例]
図5に示すように、本発明の第4実施例に係るパラレルリンク機構10Dは、第1実施例に係るパラレルリンク機構10Aを上限反転したような構成を有している。この構成によっても、第1実施例と同様の効果が得られる。
【0057】
[変形例]
以上、本発明に係るパラレルリンク機構の第1~第4実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0058】
例えば、本発明に係るパラレルリンク機構は、重力補償手段をさらに備えていてもよい。手先装置50のペイロードをm[kg]、重力加速度をg[m/s
2]とすると、ペイロードにかかる重力はf
x=0、f
z=-mgとなり、これらを(3)式に代入することにより次式が得られる。
【数6】
このため、手先装置50のペイロードの半分に相当する+Z方向の力をハードウェア的またはソフトウェア的に各直動ユニット60,70または各移動体20,30に加えれば、パラレルリンク機構の姿勢に関わらず重力を相殺することができる。言い換えると、重力補償を行うことができる。なお、ハードウェア的に重力補償を行う場合は、例えば、支柱部80の天井部82と第1移動体20との間、および支柱部80の天井部82と第2移動体30との間のそれぞれに出力がmg/2である定荷重バネ(ツールバランサ、コンストン等)を設ければよい。
【0059】
なお、第7リンク部材46a(46b,46c)および第2移動体30の連結点と第2中間位置45a(45b,45c)との間の距離と、第6リンク部材45および第1移動体20の連結点と第2中間位置45a(45b,45c)との間の距離が等しくない場合は、係数Jzが1/2とは異なる値となるので、第1直動ユニット60(第1移動体20)に加えるべき力および第2直動ユニット70(第2移動体30)に加えるべき力は、1:1ではなくなる。
【0060】
基部90は、その出力軸が支柱部80の底部81に連結された第3回転機(
図1では図示を省略)をさらに備えていてもよい。この構成によれば、Z軸まわりの支柱部80の回転が可能となり、手先装置50の可動範囲が広がる。
【0061】
第1~第4実施例では、X方向およびY方向を水平方向、Z方向を重力方向としたが、これには限定されず、例えば、X方向またはY方向を重力方向としてもよい。
【0062】
なおここまで、直動手段が、仮想直線に対して平行な第1ボールネジ軸および第2ボールネジ軸によって構成されるとしてきたが、ボールネジに限定されるものではなく、滑りネジ、ラックとピニオン、ライナーユニット、あるいはリニアシャフトモータのような他の直動手段によって構成されていてもよい。摩擦が少なく伝達効率の良いボールネジでなく、あえて摩擦が大きく伝達効率の悪い滑りネジを選択する場合、直動アクチュエータがいわゆるセルフロック機能を持つことになり、能動的に駆動力を加えない限り逆駆動しなくなる。ただし、重量物搬送の場合はセルフロック機能が有利であることが多いので、その場合は滑りネジを選択することもできる。
【0063】
同様のロック機能は、もちろんボールネジ等の直動手段と、ボールネジ等の直動手段を回転駆動させるモータに(電磁)ブレーキ等を取り付ける構成によっても実現される。この場合、ブレーキ等を余分に取り付ける必要があるが、例えば伝達効率の良いボールネジを使いつつ、出力軸のロック機能をも獲得できることになる。
【符号の説明】
【0064】
10A,10B,10C,10D パラレルリンク機構
20 第1移動体
30 第2移動体
40 第1リンク部材
41 第2リンク部材
42 第3リンク部材
43 第4リンク部材
44 第5リンク部材
44a,44b,44c 第1中間位置
45 第6リンク部材(第1アーム部)
45a,45b,45c 第2中間位置
46a,46b,46c 第7リンク部材(第2アーム部)
47 第1パラレルリンク部
48 第2パラレルリンク部
50 手先装置
60 第1直動ユニット
61 第1ボールネジ軸
62 第1減速機
63 第1回転機
70 第2直動ユニット
71 第2ボールネジ軸
72 第2減速機
73 第2回転機
80 支柱部
81 底部
82 天井部
83 後壁
84 側壁
85 側壁
90 基部
【手続補正書】
【提出日】2023-02-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0058】
例えば、本発明に係るパラレルリンク機構は、重力補償手段をさらに備えていてもよい。手先装置50のペイロードをm[kg]、重力加速度をg[m/s
2]とすると、ペイロードにかかる重力はf
x=0、f
z=-mgとなり、これらを(3)式に代入することにより次式が得られる。
【数6】
このため、手先装置50のペイロードの半分に相当する+Z方向の力をハードウェア的またはソフトウェア的に各直動ユニット60,70または各移動体20,30に加えれば、パラレルリンク機構の姿勢に関わらず重力を相殺することができる。言い換えると、重力補償を行うことができる。なお、ハードウェア的に重力補償を行う場合は、例えば、支柱部80の天井部82と第1移動体20との間、および支柱部80の天井部82と第2移動体30との間のそれぞれに出力がmg/2である定荷重バネ(ツールバランサ、コンストン等)を設ければよい。