(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125207
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】磁石揺動型発電機
(51)【国際特許分類】
H02K 35/02 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
H02K35/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029185
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光秀
(72)【発明者】
【氏名】水野 勉
(57)【要約】
【課題】本発明は、自転車走行時のように3次元方向の振動が発生しやすい対象において、効率よく発電が可能になると共に、永久磁石の揺動とコイルの出力電圧を増大させる磁石揺動型発電機を提供する。
【解決手段】磁石揺動式発電機10は、内部に液体2を収容する非強磁性の容器1と、容器1の外周に、容器1を内包する配置に設けられたコイル4と、液体に浮かぶ浮体6に永久磁石5が装着され、容器1内において、3次元的に揺動自在に浮動する磁気揺動体3と、を備え、コイル4は、永久磁石5の揺動に応じて電磁誘導によって発電する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を収容する非強磁性の容器と、
前記容器の外周に、前記容器を内包する配置に設けられたコイルと、
前記液体に浮かぶ浮体に永久磁石が装着され、前記容器内において、3次元的に揺動自在に浮動する磁気揺動体と、を備え、
前記コイルは、前記永久磁石の揺動に応じて電磁誘導によって発電する
ことを特徴とする磁石揺動式発電機。
【請求項2】
前記永久磁石の磁極面の全面又は一部に前記永久磁石の残留磁束密度より大きい飽和磁束密度を有する強磁性体が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁石揺動式発電機。
【請求項3】
前記永久磁石は、上面および下面が磁極面のリング形状であり、前記浮体の外周囲に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁石揺動式発電機。
【請求項4】
前記液体の揺動の共振周波数と前記磁気揺動体の揺動の共振周波数が一致するように、前記容器の形状およびサイズならびに前記液体の量が設定されている
ことを特徴とする請求項1~3に記載の磁石揺動式発電機。
【請求項5】
請求項1~4に記載の磁石揺動式発電機を備え、さらに当該磁石揺動式発電機による電力によって発光する発光部を備えた車両。
【請求項6】
前記磁気揺動体の揺動の共振周波数が、前記車両の振動の周波数帯域に含まれることを特徴とする請求項5に記載の車両。
【請求項7】
請求項1~4に記載の磁石揺動式発電機による振動検知手段と、当該磁石揺動式発電機による電力によって無線を送信する無線送信手段と、を備えたドア開閉検知システム。
【請求項8】
前記磁気揺動体の揺動の共振周波数が、前記ドアの振動の周波数帯域に含まれることを特徴とする請求項7に記載のドア開閉検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を貯蔵する容器と永久磁石を有する浮体とコイルを有し、外部の振動により液体を通じて磁石を揺動させ、電磁誘導で発電する磁石揺動型発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、タンク内部の液体に浮かぶ磁石が、液面の揺動に応じて上下方向に移動して電磁誘導を利用する発電装置が記述されている。車両の発電装置は、タンクと電磁コイルと浮動体を備えている。タンクは、車両に搭載され、内部に液体を貯留する。電磁コイルは、軸芯が上下方向に沿った状態でタンクの内部に固定され、内径部への液体の流入を許容する。浮動体は、永久磁石を有し、電磁コイルの内径部に配置され、電磁コイルの内径部に貯留される液体に浮かび、液体の液面の揺動に応じて電磁コイルに対して上下方向に移動する。電磁コイルは、永久磁石の上下方向の移動に応じた電磁誘導によって発電する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された車両の発電装置の浮動体は、永久磁石を有し、電磁コイルの内径部に配置され、電磁コイルの内径部に貯留される液体に浮かび、液体の液面の揺動に応じて電磁コイルに対して上下方向に移動する。永久磁石が浮動体の内部に配置されており、コイルからのギャップが大きいため、電磁誘導による電圧が得にくいおそれがある。
【0005】
また、特許文献1では、永久磁石が浮動体の内部に配置され、上下方向の移動に伴う電磁誘導を利用している。そのため、進行方向(x方向)、横方向(y方向)、鉛直方向(z方向)の3次元方向に加速度が発生する自転車に対しては、上下方向の振動のみを利用する方式は、運動の制約を受けて効率よく発電できないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、自転車走行時のように3次元方向の振動が発生しやすい対象において、効率よく発電が可能になると共に、永久磁石の揺動とコイルの出力電圧を増大させる磁石揺動型発電機を提供し、さらにこれを搭載した車両およびドア開閉検知システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の磁石揺動型発電機は、内部に液体を収容する非強磁性の容器と、前記容器の外周に、前記容器を内包する配置に設けられたコイルと、前記液体に浮かぶ浮体に永久磁石が装着され、前記容器内において、3次元的に揺動自在に浮動する磁気揺動体と、を備え、前記コイルは、前記永久磁石の揺動に応じて電磁誘導によって発電することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の磁石揺動型発電機は、請求項1に記載のものであり、永久磁石の磁極面の全面又は一部に前記永久磁石の残留磁束密度より大きい飽和磁束密度を有する強磁性体が設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の磁石揺動型発電機は、請求項1又は2に記載のものであり、前記永久磁石が、上面および下面が磁極面のリング形状であり、前記浮体の外周囲に取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の磁石揺動型発電機は、請求項1~3のいずれかに記載のものであり、前記液体の揺動の共振周波数と前記磁気揺動体の揺動の共振周波数が一致するように、前記容器の形状およびサイズならびに前記液体の量が設定されていることを特徴とする。
請求項5に記載の車両は、請求項1~4に記載の磁石揺動式発電機を備え、さらに当該磁石揺動式発電機による電力によって発光する発光部を備える。
【0011】
請求項6に記載の車両は、請求項5に記載の車両であり、前記磁石揺動式発電機の磁気揺動体の揺動の共振周波数が、前記車両の振動の周波数帯域に含まれることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載のドア開閉検知システムは、請求項1~4に記載の磁石揺動式発電機による振動検知手段と、当該磁石揺動式発電機による電力によって無線を送信する無線送信手段と、を備える。
【0013】
請求項8に記載のドア開閉検知システムは、請求項7に記載のドア開閉検知システムであり、前記磁石揺動式発電機の磁気揺動体の揺動の共振周波数が、前記ドアの振動の周波数帯域に含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明を適用する磁石揺動型発電機は、容器内の液体に浮かび、前記液体の液面の揺動に応じて3次元的に揺動可能な磁気揺動体を有するため、あらゆる方向の振動を発電機に入力できる。また、永久磁石に取り付ける強磁性体部材の特性、形状を変更することで磁気揺動体の振動の特性やコイルの鎖交磁束数を向上させることが可能である。さらに、磁気揺動体が浮かんだ状態で容器内の液体が共振して揺動する周波数が磁気揺動体の揺動の共振周波数に一致するように、容器の形状・サイズおよび容器内の液体の量が設定されることで磁気揺動体に大きな揺動を発生させ、効率よく出力電圧を増加させることが可能である。また、これらの高い出力が得られる磁石揺動型発電機を車両またはドアに取り付け発光用発電機または開閉センサとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る磁石揺動型発電機の(a)外観図、(b)平面構成図、(c)断面構成図である。
【
図2】磁気揺動体の傾斜角θと復原長さLの関係を計算した結果である。
【
図3】第2の実施形態に係る磁石揺動型発電機の(a)磁気揺動体における永久磁石と強磁性体、ならびに(b)平面断面図、と(c)正面断面図である。
【
図4】第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機の(a)磁気揺動体における永久磁石と強磁性体、ならびに(b)平面断面図、と(c)正面断面図である。
【0016】
【
図5】第1~第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機10を搭載し、該磁石揺動型発電機による電力によって発光する発光部を備えた車両(自転車)である。
【
図6】車両(自転車)走行時のx軸、y軸、z軸方向加速度の測定結果である。
【
図7】
図6の加速度測定結果をフーリエ変換した結果である。
【
図8】第1~第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機をドアに搭載してドアの開閉を検知するシステムを説明する図である。
【
図9】磁石揺動型発電機AおよびBについて磁気揺動体の復原長さを導出した結果である。
【
図10】磁石揺動型発電機Aについて外部から振動させた場合の磁気揺動体の傾斜角度特性である。
【
図11】磁石揺動型発電機Bについて外部から振動させた場合の磁気揺動体の傾斜角度特性である。
【
図12】自転車走行時における磁石揺動型発電機Aの磁気揺動体の傾斜角特性の測定結果である。
【
図13】
図12の傾斜角度特性をフーリエ変換した周波数分布図である。
【
図14】磁石揺動型発電機Bの磁気揺動体の傾斜角特性の測定結果である。
【
図15】磁石揺動型発電機AとBの磁気揺動体の揺動速度(傾斜角の時間微分値)の時間依存である。
【
図16】磁石揺動型発電機Aの出力電圧特性である。
【
図17】磁石揺動型発電機Bの出力電圧特性である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0018】
<第1実施形態>
(構造・材料)
まず、本発明の第1の実施形態を、
図1を用いて説明する。
図1は、第1の実施形態に係る磁石揺動型発電機10の(a)外観図、(b)平面断面図、(c)正面断面図である。
図1に示されるように、第1の実施形態の磁石揺動型発電機10は、容器1、液体2、磁気揺動体3およびコイル4から構成されている。磁石揺動型発電機10は、容器1内の液体2に磁気揺動体3が浮遊する構造であり、磁気揺動体3の周囲には誘導起電力を生成するコイル4を備えている。磁気揺動体3は、硬磁性材料で形成された永久磁石5と液体中で浮力を得て運動するための浮体6を備えている。
【0019】
容器1は、底がある筒状形状の非強磁性の部材で構成され、内部に液体2を収容できる。非強磁性の部材は、磁性をほとんど示さない材料(強磁性体ではない材料)で形成される。非強磁性の部材は、比透磁率が小さな部材であり、例えば比透磁率が2以下である。非強磁性の部材の材料に限定は無く、例えば、樹脂、セラミック、非磁性金属を用いることができる。非強磁性の部材が樹脂の場合、例えば、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ABS樹脂、AS樹脂が挙げられる。また、液体2には、水、油またはアルコールなどを用いることができる。
【0020】
磁気揺動体3において、永久磁石5は浮体6に接合し装着されている。永久磁石5は、
図1(c)に示すにように、コイル4内に内包されコイル4のz軸方向のほぼ中央に配置されている。永久磁石5は軽量化のためリング形状に形成されてもよい。このとき、永久磁石5は、浮体6の外周囲に取り付け浮体6を内包することができる。
【0021】
永久磁石5の材料(硬磁性材料)には、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、希土類磁石を用いることができる。希土類磁石の場合、例えば、サマリウムコバルト磁石(Sm-Co系磁石)、ネオジム磁石(Nd-Fe-B系磁石)などを用いることができる。浮体6は、浮力材として限定されないが、例えば発泡スチロール、発泡ポリウレタンなどの発泡樹脂を使用することができる。
【0022】
コイル4は、容器1の外周に巻回され、容器1および永久磁石5を内包するように配置されている。このとき、コイルの巻回の軸方向は筒状の容器1の長手方向に一致していることが好ましい。コイル4の線材には、例えば、銅線またはマンガニン(登録商標)線を用いることができる。また、コイルは、ボビンに巻回して形成してもよい。ボビンの巻線位置によって永久磁石5を内包するコイルの位置を調整することもできるからである。
【0023】
(発電の原理)
磁気揺動体3は、浮体6の浮力によって液体2に浮いている。外部からの振動によって容器1内の液体2が揺動すると、この揺動よって液体2に浮く磁気揺動体3が揺動し、永久磁石5も共に揺動する。磁気揺動体3および永久磁石5の揺動は液体2の揺動に連動し3次元的に行われる。そして、揺動によって磁気揺動体3の傾き角度(傾斜角)が変化する。この変化に応じて、コイル4に鎖交する永久磁石5からの磁束の数が変化し、これより、コイル4は、永久磁石5の揺動に応じて電磁誘導によって発電する。
【0024】
液体を入れた容器が振動した場合、共振によって液体の表面が大きくうねり揺動する。この現象をスロッシング(sloshing)という。スロッシング現象においては、液体の共振周波数は、容器の形状やサイズ、また容器内の液体の量によって定まる。
【0025】
本発明の第1実施形態においては、液体2に磁気揺動体3が浮かんでおり、液体2の揺動の共振周波数は、磁気揺動体3がないときの液体のみのスロッシング周波数と異なる。しかしながら、磁気揺動体3を浮かべたときの液体2の揺動の共振周波数は、磁気揺動体3の形状、重量、浮力が一定であるとの条件下で、容器2の形状やサイズ、また容器内の液体の量によって定まると考えられる。そこで、磁気揺動体3が浮かんだ状態での液体2の揺動の共振周波数が磁気揺動体3の揺動の共振周波数に一致するとき、液体に浮かぶ磁気揺動体3は液体2と共に大きく揺動し、磁気揺動体3の傾斜角の変化は大きくなってコイルに鎖交する磁束の数も変化して誘導起電力は増加すると考えられる。
【0026】
したがって、高い出力電圧を得るため、磁気揺動体3が浮かんだ状態での容器1内の液体2の共振周波数と磁気揺動体3の揺動の共振周波数が一致するように、容器1の形状やサイズ、容器内の液体2の量を設定することが好ましい。すなわち、磁気揺動体3が共振して揺動するように、容器1の形状やサイズ、容器内の液体2の量を設定することが望ましい。
【0027】
(磁気揺動体の共振周波数)
次に、磁気揺動体の揺動の共振周波数について説明する。式(1)は、磁気揺動体3の傾斜角θに関する回転運動方程式である。Jは磁気揺動体の慣性モーメント、mは質量である。また、Lは水に浮く磁気揺動体の復原長さである。Lは、後述するように、
図9において磁気揺動体の重心と浮心のx軸方向の距離である。
【0028】
【0029】
図2は、3次元CAD設計ソフトウェアのSOLIDWORKS(SolidWorks社製)を用いて、磁気揺動体の傾斜角θと復原長さLの関係を計算した結果である。図中、(a)が本発明の第1の実施形態に係る場合であり、(b)が後述する第3の実施形態に係る場合の結果である。より具体的には、(a)が後述する実施例における磁石揺動型発電機Aの場合を計算した結果であり、(b)が磁石揺動型発電機Bの場合を計算した結果である。
図2に示すように、磁気揺動体の傾斜角θと復原長さLは比例関係にある。それぞれの比例係数k(=L/θ)は図中に示してある。k(=L/θ)を用いると運動方程式は、式(2)のように記述される。
【0030】
【0031】
この方程式を解くと、磁気揺動体の揺動の共振周波数ffは、次式(3)で表される。
【0032】
【0033】
式(3)から、磁気揺動体の揺動の共振周波数は、磁気揺動体の慣性モーメントおよび質量に依存することが分かる。
【0034】
<第2実施形態>
本発明の第2の実施形態を、
図3を用いて説明する。
図3は、第2の実施形態に係る磁石揺動型発電機10の(a)磁気揺動体3における永久磁石と強磁性体、ならびに(b)平面断面図、と(c)正面断面図である。(b)と(c)では、容器1、液体2および浮体6は省略し、磁気揺動体3の永久磁石5、強磁性体7およびコイル4のみを図示している。
【0035】
第2の実施形態に係る磁石揺動型発電機は、第1の実施形態に係る磁石揺動型発電機と基本的に同じであるが、
図3に示されるように、第1の実施形態に係る磁石揺動型発電機において、永久磁石5の磁極面(N極およびS極)の全面に強磁性体7を接合して設けている点が異なる。
【0036】
永久磁石5の磁極から発生する磁界が強磁性体7の保磁力より大きい場合、強磁性体7は磁界の方向に磁化される。そして、強磁性体7の飽和磁束密度が永久磁石5の残留磁束密度より大きければ、強磁性体7の表面から発生する磁束は永久磁石5の場合より多くコイル4に鎖交する磁束の数が増加する。よって、これより、誘導起電力によってコイル4に発生する電圧を増加させることが可能となる。
【0037】
そこで、強磁性体7の材料は、永久磁石4の残留磁束密度より大きい飽和磁束密度を有することが好ましい。上述したように表面から発生する磁束の数が増加するからである。強磁性体7の材料として、例えば、SPCC(Steel Plate Cold Commercial、冷間圧延鋼板)、パーメンジュール(FeとCoを1対1の割合で混ぜたFeCo合金)、またはセンダスト(Fe-Si-Al合金)などを用いることができる。さらに、強磁性体7の飽和磁束密度は1.5テスラ以上であることがより好ましい。
【0038】
なお、
図3において、永久磁石5はリング形状であるが、第2の実施形態における永久磁石5はリング形状に限定されない。永久磁石5は、例えば円盤形状、平板形状などであってもよい。また同様に、強磁性体7についても形状は限定されない。
図3において、強磁性体7の形状はリング形状であるが、強磁性体7の形状は、例えば円盤形状、平板形状などであってもよい。
【0039】
<第3実施形態>
本発明の第3の実施形態を、
図4を用いて説明する。
図4は、第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機10の(a)磁気揺動体3における永久磁石と強磁性体、ならびに(b)平面断面図、と(c)正面断面図である。
【0040】
第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機は、第1の実施形態に係る磁石揺動型発電機と基本的に同じであるが、
図4に示されるように、第1の実施形態に係る磁石揺動型発電機において、永久磁石5の磁極面(N極およびS極)の一部に強磁性体7を接合して設けている点が異なる。
【0041】
強磁性体7の具体的材料については、第2の実施形態に係る強磁性体7の材料(段落0037に記載)と同様の材料を用いることができる。また、効果(磁束密度の増加)についても第2の実施形態に係る強磁性体7の材料の場合(段落0036に記載)と同様であるが、それに加えて、強磁性体7を永久磁石5の磁極面の一部に設けることから強磁性体7全体の重量を減少でき、強磁性体の重量による磁気揺動体の沈降の抑制が可能となる。
【0042】
また、強磁性体7を磁気揺動体3の重心から外れるよう永久磁石5の表面の一部に偏って配置しているので、磁気揺動体は、揺動していないとき、バランスを崩して傾いて浮いている。このとき、永久磁石5の磁化方向は前記コイル4の巻回の軸方向に対して傾いているので、磁気揺動体3の傾斜角の変化に対する感度は増加し、発電による出力電圧を高くできるという効果もある。
【0043】
また、磁気揺動体について、重心と浮心が鉛直線上に並んでいる場合、重力と浮力は作用線と大きさが一致するため安定したつり合いの状態にあるが、浮体が傾いた場合は、水中にある浮体の体積に偏りが生じ、浮点は体積の増加した方に移動し、重力と浮力による回転のモーメントが発生する。回転モーメントが大きいほど浮体は元のつり合いの位置へ戻る復元力が強く作用し、揺動速度が高くなる。回転モーメントは、復原長さが大きいほど大きくなる。
【0044】
そこで、強磁性体7は、永久磁石5を挟んだ反対側の強磁性体7が、永久磁石5のリングの中心に対して点対称になるように配置することが好ましい。前述したように、浮体が傾き磁気揺動体3の復原長さが大きくなって磁気揺動体3の回転モーメントが増加するからである。
【0045】
なお、
図4において、永久磁石5はリング形状であるが、第3の実施形態における永久磁石5はリング形状に限定されない。永久磁石5は、例えば円盤形状、平板形状などであってもよい。
【0046】
また同様に、強磁性体7についても形状は限定されない。
図4において、強磁性体7の形状は、永久磁石5の形状に沿ったリング形状の一部となっている。リングの中心を扇形の中心として考えると、強磁性体7は、中心角は45°の扇形の周に沿った形状となっている。しかし、強磁性体7の形状は、中心角が45°以外の中心角の扇形の場合であってもよく、リング形状の一部(扇形の周に沿った形状)でなく任意の形状であってもよい。
【0047】
<第4実施形態>
本発明の第4の実施形態を、
図5を用いて説明する。
図5は、第1~第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機10を搭載し、該磁石揺動型発電機による電力によって発光する発光部を備えた車両(自転車)20である。磁石揺動型発電機10は、車両(自転車)20の振動の大きい位置に固定されている。磁石揺動型発電機10にはLEDライトが負荷として接続されている(図示なし)。
【0048】
図6は、加速度センサ(MicroStone社製・小型無線モーションレコーダMVP-RF8-GC)を車両(自転車)20のハンドル下フレームの位置に取り付け、アスファルト路面を一定速度で走行したときの車両(自転車)20の振動を測定した結果である。車両(自転車)20の進行方向をx軸、進行方向に対して水平で垂直な方向をy軸、鉛直方向をz軸としている。車両(自転車)20の走行中には定常的にx軸、y軸、z軸方向に振動が発生している。
図7は、
図6の加速度測定結果をフーリエ変換した結果である。各方向軸において、低周波数から約50Hzに加速度成分が分布している。
【0049】
車両(自転車)20は、このように、走行中にx軸、y軸およびz軸方向のあらゆる方向の振動成分を有している。この振動により、当該車両20に取り付けられた磁石揺動型発電機10も振動し、内部の磁気揺動体の揺動によってコイルに誘起起電力が生じこの電力によってLEDが発光する。
【0050】
なお、車両(自転車)20に搭載する磁石揺動型発電機10の磁気揺動体の揺動の共振周波数が、この車両(自転車)20の振動の周波数帯域に含まれていることが好ましい。磁気揺動体が共振し永久磁石も大きく揺動してコイルに鎖交する磁束の数も変化し電磁誘導による出力電圧が増加するからである。
【0051】
また、
図5において、車両20は自転車であるが、第4の実施形態における車両20は自転車に限定されない。車両20は、例えば、原動機付自転車、自動二輪車(オートバイ)、自動車、荷車などであってもよい。
【0052】
<第5実施形態>
本発明の第5の実施形態を、
図8を用いて説明する。
図8は、第1~第3の実施形態に係る磁石揺動型発電機10をドア30に搭載したドア30の開閉を検知するシステムを説明する図である。
【0053】
ドア30を開閉するときのドアの振動により、磁石揺動型発電機10も振動し、これにより、内部の磁気揺動体が揺動して磁石揺動型発電機10が発電する。ドア開閉検知システムは、この原理を利用して、ドア開閉の振動を磁石揺動型発電機により電圧変化に変換する振動検知手段と、磁石揺動式発電機による電力によって無線を送信する無線送信手段を備え、ドア開閉情報を送信する。
【0054】
すなわち、本ドア開閉検知システムは、まず、ドア30が開閉する際の振動を磁石揺動型発電機で電力に変換する。次に、磁石揺動型発電機の出力回路には、無線送信機31が接続されており、近傍のルーターなどのネットワーク中継用通信機器32にドアの開閉情報を送信する。送信に必要な電力は磁石揺動型発電機の発電電力を利用する。そして、ドアの開閉情報を受信した受信機(図示無し)によってドアが開閉されたことの検知を行う。
【0055】
なお、ドア30に搭載する磁石揺動型発電機10の磁気揺動体の揺動の共振周波数が、ドア30の振動の周波数帯域に含まれていることが好ましい。磁気揺動体が共振し永久磁石も大きく揺動してコイルに鎖交する磁束の数も変化し電磁誘導による出力電圧が増加するからである。
【0056】
また、
図8ではドア30としてスライドドアが図示されているが、ドア30はスライドドアに限定されない。ドア30は、例えば、開き戸、折れ戸またはアコーディオドアなどであってもよい。
【実施例0057】
以下、本発明の実施形態について、さらに実施例を用いて説明する。ただし、本発明はここで述べられる適用例に限定されるものではない。
【0058】
(1)磁石揺動型発電機の作製
(1-1)強磁性体が無い磁石揺動型発電機A
作製した磁石揺動型発電機Aを
図1に示す。容器1にはポリプロピレン樹脂の円筒形状のプッシュバイアル容器を、液体2には水を用いた。プッシュバイアル容器は水を入れた状態で振動しても水が漏れないよう蓋がついており、本体は半透明であるため内部の磁気揺動体の動きを観察することが可能である。
【0059】
永久磁石5には図示する寸法のリング形状のネオジム磁石(N35、Arnold社製)(外径×内径×厚さ:31×19×3mm)を、浮体6には図示する寸法の発泡スチロールを用い、リング形状の永久磁石5に発泡スチロールを挿入して磁気揺動体3を形成した。すなわち、直径19mmの穴が開いた外径31mmのリング形状の永久磁石5が発泡スチロールの浮体6によって浮いた状態となっている。
【0060】
磁気揺動体3の質量の大部分を占める永久磁石5を発泡スチロールの下端から5mmの位置に移動させた。これにより磁気揺動体3のバランスが悪化し、傾きが発生しやすくした。ただし発泡スチロールの下端まで移動させると衝撃で永久磁石5が外れやすくなってしまうため、下端から5mmの位置に定めた。
【0061】
コイル4は、5mm幅の2つのコイルを差動で接続し形成した。コイルの間隔は1mmであり、コイル4をボビンごと動かすことで、(c)正面断面図に示すように、永久磁石5が2つのコイルの間に位置するよう永久磁石5を配置した。
【0062】
表1は、差動用の2つのコイルに使用された1つのコイルの仕様である。巻線の直径は0.1mmである。この巻線を5mm幅、内径35mm、外径42.6mmのボビン8に1872回巻いた。ボビンを使用することでコイル幅とコイル間隔を一定に保つことが出来る。また、容器内に入れる水の量を変化させた場合、磁気揺動体3のコイル4に対する位置が変化してしまう。このときコイル4をボビン8ごと上下に移動させることで、永久磁石5がコイル4の2つのコイルの間に位置するよう永久磁石5を配置することが可能である。1つのコイルの内部抵抗は測定した結果0.5kΩであった。このような仕様のコイルを2つ差動で接続するため、コイル4全体の内部抵抗は1kΩであった。
【0063】
【0064】
(1-2)永久磁石の磁極面の一部に強磁性体を配置した磁石揺動型発電機B
作製した磁石揺動型発電機Bを
図4に示す。磁石揺動型発電機Bは、磁石揺動型発電機Aと基本的に同じ構成である。永久磁石5としてリング形状のネオジム磁石(N40、Arnold社製)(外径×内径×厚さ:30×24×5mm)を用いたこと、リング形状の一部の形状を有する強磁性体7を永久磁石5の磁極面に配置したこと、また、強磁性体を接合させたことにより磁気揺動体の重量が増加したため、浮力を補うため発泡スチロール(浮体)の長さを2mm増加させている点が異なる。なお、強磁性体7にはSPCCを採用し、リングの中心を扇形の中心と考えその中心角が45°になるようSPCCを切断して2つのSPCCを用意した。そして、当該SPCCを、永久磁石5を挟んだ反対側のSPCCが永久磁石5から見て対角線になるように配置した。
【0065】
(2)回転モーメント
前述の3次元CAD設計ソフトウェアのSOLIDWORKS(SolidWorks社製)を用いて、磁石揺動型発電機AおよびBの構造に対し、磁気揺動体の復原長さを導出した。結果を
図9に示す。
【0066】
図9に示すように、磁気揺動体の復原長さはx軸方向の磁気揺動体の重心と浮心の距離である。磁石揺動型発電機AおよびBについて、20°傾いた場合、Aの復原長さは0.89mm、Bの復原長さは1.14mmであった。A、Bの何れも復原長さは1mm前後であるが、Bの方がAに比べ復原長さが長く、回転モーメントはBの方が大きいといえる。
【0067】
(3)共振周波数
磁石揺動型発電機AおよびBについて、式(3)を用いて揺動の共振周波数を求めると、磁石揺動型発電機Aは2.49Hz、磁石揺動型発電機Bは2.73Hzであった。そこで、磁石揺動型発電機AおよびBに対し、外部からこれらの共振周波数近傍の振動を加えて磁気揺動体の傾斜角特性の測定を行った。振動印加には加振機(山洋電気製・リニアサーボシステムDT030)を使用した。
【0068】
図10は、磁石揺動型発電機Aについて1.5Hz、2.0Hzおよび2.5Hzで振動させた場合の磁気揺動体の傾斜角度特性である。
図11は、磁石揺動型発電機Bについて1.0Hz、2.0Hzおよび3.0Hzで振動させた場合の磁気揺動体の傾斜角度特性である。磁気揺動体の揺動特性は、磁石揺動型発電機に振動が加わったときの磁気揺動体をスマートフォンで動画撮影し、動作解析ソフトKinoveaを用いて計測した。撮影した動画の任意の点をトラッキングして軌跡を描き、点の座標変化を計測した。240fpsの動画を取り込み、浮体上の2点と容器の1点をトラッキングさせて、4ms周期で2次元の変位情報を取得し、傾斜角特性を得た。
【0069】
図10において、1.5Hzおよび2.0Hzでは大きく振動しているが、2.5Hzでは揺動が安定しない。また、
図11において、2.0Hzでは磁気揺動体が大きく振動し傾斜しているが、1.0Hzでは振動が小さく、また3.0Hzでは磁気揺動体の傾斜が安定せず継続しない。したがって、共振周波数に関し計算値と実験値で若干ずれがあるが、磁気揺動体の質量が大きくなると傾斜しやすい周波数も高くなり、磁気揺動体には振動を大きくする共振周波数が存在することがわかった。また、磁気揺動体の共振周波数を考慮した磁気揺動体の質量、慣性モーメントとすることで、磁気揺動体の傾斜角を大きくし、大きな揺動を引き起こすことがわかった。
【0070】
(4)磁石揺動型発電機を自転車に搭載
図5に示すように、磁石揺動型発電機AおよびBを自転車に搭載した。固定位置は、前かごの下の部分である。
【0071】
(4-1)磁気揺動体の傾斜角特性
磁石揺動型発電機AおよびBを搭載した自転車を時速15kmで等速走行させ、磁気揺動体の傾斜角特性を測定した。
【0072】
図12は、磁石揺動型発電機Aの磁気揺動体の傾斜角特性の測定結果である。
図13は、
図12の傾斜角度特性をフーリエ変換した周波数分布図である。磁石揺動型発電機Aを前かごに搭載した場合は2Hz程度で傾斜し、傾斜角度は15°程度である。また、フーリエ変換の結果から、傾斜角成分は5Hz以下の低周波に集中し、自転車の広周波数帯域の振動が水を使用することで低周波化されることが分かった。
【0073】
また、
図14は、磁石揺動型発電機Bの磁気揺動体の傾斜角特性の測定結果である。磁石揺動型発電機Bの場合も傾斜角度は17°程度で、磁石揺動型発電機Aの場合より大きい。さらに、
図15は、磁石揺動型発電機AとBの磁気揺動体の揺動速度(傾斜角の時間微分値)の時間依存である。磁石揺動型発電機Bの方が磁石揺動型発電機Aに比べて最大揺動速度が大きいことが分かる。SPCCをアンバランスに磁気揺動体に装着したことの効果と考えられる。
【0074】
(4-2)出力電圧特性
磁石揺動型発電機AおよびBを搭載した自転車を時速15kmで等速走行させ、揺動により電磁誘導によって生じた出力電圧を測定した。測定は、小型電圧データロガーMCR-4V(マルチ計測器株式会社)を用い、チャンネルを磁石揺動型発電機のコイル出力端子に接続して行った。
【0075】
図16および
図17は、それぞれ磁石揺動型発電機AおよびBの出力電圧特性である。磁石揺動型発電機Aについて最大0.8V、磁石揺動型発電機Bについて最大2.1Vの出力電圧が得られた。また、後者の磁石揺動型発電機BについてLED(Kingbright L-7935RD-D)を接続し走行した結果、LEDの点灯を確認できた。