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特開2023-125243銀系抗菌剤、銀系抗菌剤の製造方法、及び銀系抗菌剤処理物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125243
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】銀系抗菌剤、銀系抗菌剤の製造方法、及び銀系抗菌剤処理物品
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20230831BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230831BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20230831BHJP
   A01N 25/04 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01P1/00
A01N61/00 B
A01N25/04 102
A01N59/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029234
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】507333878
【氏名又は名称】株式会社コバテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】522077845
【氏名又は名称】宮崎 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100103023
【弁理士】
【氏名又は名称】萬田 正行
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA15
(57)【要約】
【課題】従来の銀系抗菌剤とは異なる機序及び/又は原理で銀イオンや銀粉体を担体に担持又は保持することができる銀系抗菌剤、銀系抗菌剤の製造方法、及び銀系抗菌剤処理物品の提供。
【解決手段】銀系抗菌剤は、水系溶媒と、前記水系溶媒中に分散した、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を必須成分として有する銀系衛生成分と、前記水系溶媒中に分散した焦電体材料からなる焦電体微粒子とを含有し、前記水系溶媒を蒸発したときに、前記銀系衛生成分が前記焦電体微粒子の表面上に担持又は保持される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を必須成分として有する銀系衛生成分と、
前記銀系衛生成分を担持又は保持する焦電体材料からなる焦電体微粒子とを含有することを特徴とする銀系抗菌剤。
【請求項2】
水系溶媒と、
前記水系溶媒中に分散した、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を必須成分として有する銀系衛生成分と、
前記水系溶媒中に分散した焦電体材料からなる焦電体微粒子とを含有し、
前記水系溶媒を蒸発したときに、前記銀系衛生成分が前記焦電体微粒子の表面上に担持又は保持されることを特徴とする銀系抗菌剤。
【請求項3】
前記銀系衛生成分は、平均粒径が1nm~100nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子からなり、
前記焦電体微粒子は、平均粒径が1~100μmの範囲内のいずれかの値となると共に、粒子形状が扁平状となる焦電体微粒子からなり、
前記水系溶媒を蒸発したときに、前記銀ナノ粒子が前記焦電体微粒子の厚さ方向の一側面及び/又は他側面の表面上に密集状態で担持又は保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀系抗菌剤。
【請求項4】
前記銀系衛生成分は、平均粒径が1nm~20nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子からなり、
前記焦電体微粒子は、平均粒径が1~10μmの範囲内のいずれかの値となるトルマリンからなる焦電体鉱物微粒子からなり
前記水系溶媒を蒸発したときに、前記銀ナノ粒子が前記トルマリンからなる焦電体鉱物微粒子の表面上に担持又は保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀系抗菌剤。
【請求項5】
前記焦電体微粒子の粒径を、前記銀ナノ粒子の100~1000倍の範囲内の粒径としたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の銀系抗菌剤。
【請求項6】
前記焦電体微粒子として、焦電体鉱物微粒子を使用し、前記焦電体鉱物微粒子として、オーレン電気石、苦土フォイト電気石、鉄灰電気石、鉄電気石、フォイト電気石、フッ素灰電気石、及びリチア電気石からなる群から選択したいずれか一つ又は複数の焦電体鉱物を微粒子化してなる焦電体鉱物微粒子を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の銀系抗菌剤。
【請求項7】
前記焦電体微粒子として、強誘電体からなる焦電体微粒子を使用し、前記強誘電体からなる焦電体微粒子として、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、硫酸トリグリシン、タンタル酸リチウム、ニオブ酸ストロンチウム、ニオブ酸ストロンチウム、チタン酸鉛、及びジルコン酸鉛からなる群から選択したいずれか一つ又は複数の強誘電体を微粒子化してなる焦電体微粒子を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の銀系抗菌剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の銀系抗菌剤を、基体に塗布又は含侵してなる銀系抗菌剤処理物品。
【請求項9】
水系溶媒に焦電体微粒子を分散して、懸濁液としての焦電体微粒子液を調製する焦電体微粒子液調製プロセスと、
前記焦電体微粒子液に銀ナノ粒子を混合して、懸濁液としての焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液を調製する焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液調製プロセスとを備え、
前記焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液を、48~96時間の範囲内で静置して、前記焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液中で沈殿する前記焦電体微粒子及び前記銀ナノ粒子を除去することを特徴とする
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀系抗菌剤、及び銀系抗菌剤の製造方法に関するものであり、特に、銀イオン及び/又は銀微粒子と当該銀イオン及び/又は銀微粒子(銀ナノ粒子)の担体又は保持体となる材料との混合物からなる銀系抗菌剤、当該銀系抗菌剤の製造方法、及び当該銀系抗菌剤を塗布及び/又は含侵処理してなる銀系抗菌剤処理物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細菌に起因する細菌性感染症やウイルスに起因するウイルス性感染症に対する予防的措置として、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤からなる各種の抗菌剤が提案されている。また、無機系抗菌剤として、銀が本来的に有する抗菌活性を利用した銀系抗菌剤が提案されている。そして、かかる銀系抗菌剤として、特許文献1、特許文献2又は特許文献3に示すものが提案されている。
【0003】
特許文献1は、銀コロイド粒子及びカチオン性界面活性剤を担持した無機質吸着剤からなる銀系抗菌剤であって、前記無機質吸着剤が、ゼオライト、ケイソウ土、タルク、シリカゲル、活性アルミナ、アロフェン及び粒状炭の中から選ばれた少なくとも1種である銀系抗菌剤を開示している(「特許請求の範囲」の「請求項1」及び「請求項2」参照)。この銀系抗菌剤は、銀の水溶性塩を溶かした水溶液に、カチオン性界面活性剤及び複合金属水素化物を加えて反応させることにより銀ヒドロゾルを形成させたのち、この中に無機質吸着剤粉末を加え、これに銀コロイド粒子を吸着させることによって製造される(段落[0011]参照)。
【0004】
特許文献2は、銀とゲルマニウムとの混合物を主成分とする抗菌剤であって、前記銀は銀粉末であり、前記ゲルマニウウムはゲルマニウム粉末である抗菌剤を開示している(「特許請求の範囲」の「請求項1」及び「請求項2」参照)。前記銀粉末は、銀イオンをガラス組成中に約1重量%含有する水溶性のホウケイ酸ガラスであり、ガラス中における銀イオンは、水分や大気中の湿度の作用によってガラス中の構成成分とともに徐々に溶出し、細菌や黴などの生育を阻止する作用を奏する(段落[0019]参照)。
【0005】
特許文献3は、粉状のセラミックと一価のAgイオンを含む粉状の水溶性ガラスとの混合物の焼成物で構成されている抗菌性セラミック体であって、前記一価のAgイオンを含む粉状の水溶性ガラスは、水溶性ガラスの粉状物、Ag粉体、及び銀化合物で構成されている抗菌性セラミック体を開示している(「特許請求の範囲」の「請求項1」及び「請求項2」参照)。前記一価のAgイオンを含む水溶性ガラスの粉状物は、水溶性ガラスの粉状物にAg粉体及び銀化合物を混合することによって製造することができる(段落[0010]参照)。また、Agイオンが水溶性ガラスを介してセラミックに混合されているため、接触した液体(湿気)によってガラス成分を溶出し、Agイオンがこのガラスの溶解に応じて徐々に抗菌力を発揮する(段落[0012]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3548728号明細書
【特許文献2】特開2012-111710号公報
【特許文献3】特許第6010834号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[従来技術]
上記3つの特許文献が開示する銀系抗菌剤は、いずれも、無機質材料からなる担体(具体的には、単体としての)に、銀イオン(Agイオン)又は銀粉体(Ag粉体)を固定的に担持している。即ち、特許文献1の銀系抗菌剤は、銀コロイド粒子をゼオライトや珪藻土やタルク等の無機質吸着剤粉末に吸着して固定化している(段落[0015]、[0018]-[0020])。具体的には、特許文献1の発明では、無機質吸着剤粉末のとしてのゼオライトの場合は、ゼオライトの陽イオン交換能による電気化学的吸着力(これに加えて、原理的にはゼオライトの多孔質構造による物理吸着力)により、無機質吸着剤粉末が珪藻土の場合は、珪藻土の多孔質構造による物理吸着力により、無機質吸着剤粉末がタルクの場合は、タルクの層間構造による物理吸着力により、それぞれ、無機質吸着剤粉末が銀コロイド粒子を強固に吸着保持しているものと考えられる。また、特許文献2の銀系抗菌剤は、銀イオンを水溶性ガラスのガラス組成中に含有することで固定化している(段落[0019])。更に、特許文献3の銀系抗菌剤は、銀粉末を水溶性ガラスのガラス組成中に含有することで固定化している(段落[0019])。なお、特許文献2及び特許文献3の発明では、銀イオン又は銀粉末は、水溶性ガラス中に封入された構造となり(即ち、水溶性ガラス中に物理的に固定化された構造となり)、水溶性ガラスが水溶して放出される以外は、物理的外力によっては容易に担体としての水溶性ガラスからは離脱することなく、担体としての水溶性ガラスに強固に保持されている。
【0008】
[新規な課題]
上記のように、従来の銀系抗菌剤では、銀イオンや銀粉体を担体に担持する手段として、(特許文献1のゼオライトのような)担体の陽イオン交換能を利用した吸着(以下、「イオン交換型吸着」という。)、(特許文献1の珪藻土又はタルクのような)担体の多孔質構造又は層間構造を利用した吸着(即ち、物理吸着)、或いは、(特許文献2及び特許文献3の水溶性ガラスのような)担体に構造の一部として固定化することによる担持(以下、「構造化型吸着」という。)を利用している。ここで、本発明者らは、銀イオン及び/又は銀コロイド粒子を主要抗菌成分とする銀系抗菌剤について鋭意の研究開発を重ね、特に、水(精製水を含む)又は水系溶媒に銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を均一に分散してなる液状の銀系抗菌剤であって、被塗物に塗布したときに、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子が被塗物に安定して保持される液状の銀系抗菌剤について鋭意の研究開発を重ねた。その結果、本発明者らは、従来の銀系抗菌剤と異なる原理(例えば、全く異なる、或いは、大きく異なる機序及び/又は原理)で銀イオンや銀粉体を担体に担持又は保持することができれば、従来の銀系抗菌剤とは異なる作用効果(例えば、全く異なる、或いは、大きく異なる作用効果)を発現することができるのではないか、少なくとも、(作用効果に大きな違いがなくとも)従来とは全く異なる、或いは、大きく異なる構成となる新規な銀系抗菌剤を得ることができるのではないかと考えた。そして、本発明者らは、そのような従来の銀系抗菌剤とは異なる(全く異なる、或いは、大きく異なる)機序及び/又は原理で銀イオンや銀粉体を担体に担持又は保持することができる(少なくとも、従来とは全く異なる、或いは、大きく異なる構成となる新規な銀系抗菌剤を提供することができる)新規かつ独自の技術思想の創作を新規な課題とし、この課題を解決すべく、鋭意の研究開発を進めた。
【0009】
[本発明者らの独自の新規な知見]
本発明者らは、上記の新規な課題を解決するため、銀イオン及び/又は銀コロイド粒子を主要抗菌成分とする銀系抗菌剤について鋭意の研究開発を重ね、特に、水(精製水を含む)又は水系溶媒に銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を均一に分散してなる液状の銀系抗菌剤であって、被塗物に塗布したときに、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子が被塗物に安定して保持される液状の銀系抗菌剤について鋭意の研究開発を重ねた。その結果、本発明者らは、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を水系溶媒に溶解又は分散すると共に、その水系溶媒に特定の誘電体材料からなる微粉体を混合することで、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を水(精製水を含む)又は水系溶媒に均一に分散することができ、かつ、被塗物に塗布したときに、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を被塗物に安定して保持することができるとの新規かつ独自の知見を得、この知見に基づき、上記の課題を解決することができる発明として、本発明を完成した。
【0010】
[発明が解決しようとする課題]
即ち、本発明は、従来の銀系抗菌剤とは異なる(全く異なる、或いは、大きく異なる)機序及び/又は原理で銀イオンや銀粉体を担体に担持又は保持することができる(少なくとも、従来とは全く異なる、或いは、大きく異なる構成となる新規な銀系抗菌剤を提供することができる)銀系抗菌剤、銀系抗菌剤の製造方法、及び銀系抗菌剤処理物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る発明の銀系抗菌剤は、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を必須成分として有する銀系衛生成分と、前記銀系衛生成分を担持又は保持する焦電体材料からなる焦電体微粒子とを含有する。
【0012】
本発明の第2の観点に係る発明の銀系抗菌剤は、水系溶媒と、前記水系溶媒中に分散した、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を必須成分として有する銀系衛生成分と、前記水系溶媒中に分散した焦電体材料からなる焦電体微粒子とを含有し、前記水系溶媒を蒸発したときに、前記銀系衛生成分が前記焦電体微粒子の表面上に担持又は保持される。
【0013】
本発明の第3の観点に係る発明の銀系抗菌剤の製造方法は、水系溶媒に焦電体微粒子を分散して、懸濁液としての焦電体微粒子液を調製する焦電体微粒子液調製プロセスと、前記焦電体微粒子液に銀ナノ粒子を混合して、懸濁液としての焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液を調製する焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液調製プロセスとを備え、前記焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液を、48~96時間の範囲内で静置して、前記焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液中で沈殿する前記焦電体微粒子及び前記銀ナノ粒子を除去する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点に係る発明の銀系抗菌剤及び本発明の第2の観点に係る発明の銀系抗菌剤によれば、従来の銀系抗菌剤とは異なる(全く異なる、或いは、大きく異なる)機序及び/又は原理で銀イオンや銀粉体を担体に担持又は保持することができる(少なくとも、従来とは全く異なる、或いは、大きく異なる構成となる)新規な銀系抗菌剤を提供することができる。
【0015】
また、本発明の第3の観点に係る発明の銀系抗菌剤の製造方法によれば、従来の銀系抗菌剤とは異なる(全く異なる、或いは、大きく異なる)機序及び/又は原理で銀イオンや銀粉体を担体に担持又は保持することができる(少なくとも、従来とは全く異なる、或いは、大きく異なる構成となる)新規な銀系抗菌剤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の一実施の形態に係る銀系抗菌剤の製造方法を概略的に示す工程図である。
図2図2は一実施の形態に係る銀系抗菌剤の焦電体微粒子の表面に集積した銀集積体の構造を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施の形態という)を説明する。なお、各実施の形態を通じ、同一の部材、要素または部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0018】
[用語の定義]
本願出願書類中で使用する用語のうち、下記の用語は、特段の別個の説明がない限り、下記の意味で使用する。
「抗菌性」とは、例えば、SIAA(抗菌製品技術協議会)の策定する「品質と安全性に関する自主基準」で定義される「抗菌性能」を有する性質(当該「品質と安全性に関する自主基準」で定義される「抗菌性能基準」を満足するもの)をいい、一般には、製品又は物品の表面上における細菌の増殖を抑制する性質をいう。本発明における「抗菌性」は、例えば、JIS L 1902(ISO 20743)で規定される抗菌性繊維製品の評価方法(菌液吸収法等)に準じた方法で評価される。
「抗ウイルス性」とは、例えば、SIAA(抗菌製品技術協議会)の策定する「品質と安全性に関する自主基準」で定義される「抗ウイルス性能」を有する性質(当該「品質と安全性に関する自主基準」で定義される「抗ウイルス性能基準」を満足するもの)をいい、一般には、製品又は物品の表面上におけるウイルスの増殖を抑制する性質をいう。本発明における「抗ウイルス性」は、例えば、JIS L 1922(ISO 18184)で規定される抗ウイルス性繊維製品の評価方法に準じた方法で評価される。
「防カビ性」とは、例えば、SIAA(抗菌製品技術協議会)の策定する「品質と安全性に関する自主基準」で定義される「防カビ性能」を有する性質(当該「品質と安全性に関する自主基準」で定義される「防カビ性能基準」を満足するもの)をいい、一般には、製品又は物品の表面上におけるカビの増殖を抑制する性質をいう。本発明における「防カビ性」(カビ抵抗性)は、例えば、JIS Z 2911で規定されるカビ抵抗性試験方法(7.繊維製品の試験)に準じた方法で評価される。
「衛生成分」とは、抗菌性及び/又は抗ウイルス性及び/又は防カビ性(カビ抵抗性)を有する成分をいう。また、「抗菌成分」とは、(抗菌性のみに着目した)通常の意味で使用するが、本発明の衛生成分は、抗菌性のみならず、抗ウイルス性及び防カビ性をも備えるものである。
「銀系抗菌剤処理物品」は、「銀系抗菌剤」により処理した物品である限り、任意の物品を意味する。
「圧電体」とは、一般的な意味の圧電効果(ピエゾエレクトリック効果)を有する(即ち、圧電性を有する)物質をいい、「圧電体材料」とは、そのような圧電体を構成する任意の材料をいう。
「焦電体」とは、一般的な意味の焦電効果(パイロエレクトリック効果)を有する(即ち、焦電性を有する)物質をいい、「焦電体材料」とは、そのような焦電体を構成する任意の材料をいう。なお、一般に、焦電体材料は、焦電性のみならず、圧電性をも有する。
「強誘電体」とは、一般的な意味の強誘電効果を有する(即ち、強誘電性を有する)物質をいい、「強誘電体材料」とは、そのような強誘電体を構成する任意の材料をいう。なお、一般に、強誘電体材料は、強誘電性のみならず、焦電性及び圧電性をも有する。
【0019】
[本発明の課題解決手段の要旨]
まず、本発明者らは、上記の課題について、鋭意の調査研究を進め、種々の考察を経た結果、以下のような知見を得た。即ち、水系溶媒に銀イオン及び/又は銀ナノ粒子を均一に分散してなる液状の銀系抗菌剤において、焦電体材料からなる微粒子(以下、「焦電体微粒子」)を添加又は混合すると、上記した本発明の新規な課題を解決することができること、即ち、本発明の解決手段とすることができるとの知見を得た。また、本発明者らは、鉱物からなる微粒子(以下、「鉱物微粒子」)のうち、焦電性を有する(即ち、焦電体となる)鉱物(以下、「焦電体鉱物」)を微粉砕して得た鉱物微粒子(以下、「焦電体鉱物微粒子」)が、前記焦電体微粒子として予期しない顕著な技術的効果を発揮するとの治験を得た。そして、本発明者らは、これらの知見に基づき、更に鋭意の研究開発を進めた結果、本発明の解決手段として、水系溶媒に銀イオン及び/又は銀ナノ子並びに焦電体微粒子(典型的には、焦電体鉱物微粒子)を均一に分散してなる液状の銀系抗菌剤の発明を完成した。以下、本発明に係る液状の銀系抗菌剤について詳細に説明する。
【0020】
[銀系抗菌剤]
本出願書類中において、「銀系抗菌剤」とは、一般的な技術用語としての「銀系抗菌剤」と同様の意味で使用しているが、主要な抗菌成分として銀微粒子及び/又は銀イオンを含有するものの他、主要な又は副次的(二次的な)な抗菌成分として銀微粒子及び/又は銀イオン以外の他の抗菌成分を含有するものも含む。また、本発明の銀系抗菌剤は、抗菌性に加え、抗ウイルス性や防カビ性等の作用効果も発揮するものであるため、「銀系抗菌剤」なる用語は、その作用効果が抗菌作用のみであることを意味するわけではなく、主要な作用として抗菌作用を発揮するという意味で使用している。
【0021】
[銀系抗菌剤の構成の概要]
(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、銀系衛生成分と、前記銀系衛生成分を担持又は保持する焦電体材料からなる焦電体微粒子とを必須成分として含有することを特徴とする銀系組成物(又は、銀系抗菌剤組成物)である。また、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、前記銀系衛生成分と前記焦電体微粒子とを、必須成分として、水系溶媒に分散してなることを特徴とする水系組成物(又は、液状銀系組成物若しくは液状銀系抗菌剤組成物)である。詳細には、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、水系溶媒と、前記水系溶媒中に分散した銀系衛生成分と、前記水系溶媒中に分散した焦電体材料からなる焦電体微粒子とを含有し、前記水系溶媒を蒸発したときに、前記銀系衛生成分が前記焦電体微粒子の表面上に担持又は保持されることを特徴とする。以下、銀系抗菌剤を構成するこれらの成分について、それぞれ、詳細に説明する。
【0022】
[水系溶媒]
(本実施の形態を含む)本発明において、「水系溶媒」なる用語は、一般的な技術用語としての「水系溶媒」と同様の意味で使用されるが、一般的には、水を含む溶媒である限り任意のものを含み、純水や精製水等の水単独である場合も含む(即ち、水のみからなる場合も含む)。また、「水系溶媒」は、水と水混和性の有機溶媒(例えば、アンモニア、メタノールやエタノール等のアルコール、等々)との混合溶媒(例えば、アンモニア水)も含む。しかし、本発明の作用効果を最大限に発揮するためには、水系溶媒としては水のみ(例えば、精製水のみ)からなる水系溶媒を使用することが好ましい。また、水の種類は特に限定されず、蒸留水や純水や超純水等の精製水のほか、水道水等の非精製水も使用可能であるが、本発明の作用効果を最大限に発揮するためには、水としては精製水を使用することが好ましい。即ち、本発明の水系溶媒は、本質的な成分として水のみを含む水系溶媒から構成することが好ましいが、本発明の作用効果を低減する等の悪影響を与えない限りにおいて、水以外の非本質的成分を含有する場合も含む意味で使用する。
【0023】
[銀系衛生成分]
(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤において、「銀系衛生成分」とは、衛生成分のうち、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子により構成される衛生成分をいう。即ち、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤において、銀系衛生成分は、銀イオンのみからなる銀系衛生成分の場合もあり、銀ナノ粒子のみからなる銀系衛生成分の場合もあり、或いは、銀イオン及び銀ナノ粒子の両者からなる銀系衛生成分の場合(即ち、水系溶媒中に銀イオン及び銀ナノ粒子の両成分が混在する場合)もある。更に、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤は、銀系衛生成分として銀ナノ粒子のみを水系溶媒中に分散する場合でも、その銀ナノ粒子から銀イオンが水系溶媒中に溶解して拡散され、その銀イオンが水系溶媒中に副次的成分として(主成分としての銀ナノ粒子に加えて)混在する場合もある。
【0024】
上記のとおり、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤は、衛生成分として、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子(即ち、銀系衛生成分)を使用し、銀イオン及び/又は銀ナノ粒子が有する抗菌性/防カビ性により、有機系抗菌/防カビ剤と同等又はそれ以上の抗菌性及び防カビ性を発揮することができ、更には、抗ウイルス性も発揮するものである。ここで、銀イオン自体は、銀原子と同等のサイズ(直径)、即ち、約200ピコメートル(pm)程度のサイズである。また、銀ナノ粒子(銀ナノパーティクル)は、粒径2nm以下のもの(例えば、粒径1nmのもの)も存在し、本発明の銀系抗菌剤ではこのような銀ナノ粒子を使用することもできるが、これよりも大きなナノサイズの銀ナノ粒子を使用することもできる。例えば、銀系衛生成分としての銀ナノ粒子としては、平均粒径が1~5nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が1~10nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が1~20nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が5~10nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が5~20nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が10~20nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が20~30nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が30~40nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が40~50nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が50~100nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子、平均粒径が100~200nmの範囲内のいずれかの値となる銀ナノ粒子等、衛生成分として要求される作用効果を発揮できる限りにおいて、任意の粒径の銀ナノ粒子を使用することができる。また、銀ナノ粒子の形状やアスペクト比も、衛生成分として要求される作用効果を発揮できる限りにおいて、任意のものとすることができる。
【0025】
[焦電体微粒子]
上記のように、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤では、水系溶媒中に、衛生成分として銀系衛生成分を添加しているが(即ち、水系溶媒中に、銀系衛生成分としての銀ナノ粒子が分散し、及び/又は、銀イオンが溶解しているが)、これに加え、水系溶媒中に、焦電体微粒子(具体的には、多数の焦電体微粒子からなる焦電性粉体材料)を添加し、この焦電体微粒子により、当該焦電体微粒子の表面に前記銀系衛生成分(銀ナノ粒子及び/又は銀イオン)を捕集して担持又は保持するようになっている。典型的には、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤は、所望の被塗物に塗布したり所望の対象物に含侵したりした状態で、水系溶媒を蒸発させて乾燥したときに、前記焦電体微粒子により、当該焦電体微粒子の表面に前記銀系衛生成分(銀ナノ粒子及び/又は銀イオン)を捕集して担持又は保持するようになっている。即ち、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤は、典型的には、銀系抗菌剤を所望の被塗物に塗布したり所望の対象物に含侵したりした状態で、水系溶媒を蒸発させて乾燥したときに、前記焦電体微粒子が、銀系衛生成分を担持又は保持する担持体又は保持体(以下、「銀保持体」)を構成するようになっている。即ち、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤は、前記焦電体微粒子からなる焦電性粉体材料を、水系溶媒の乾燥時に、銀系衛生成分を担持又は保持する銀保持体材料として使用している。
【0026】
[焦電体微粒子の粒径]
前記焦電体微粒子は、所定の焦電体材料を所定の微粉化方法により所定の粒径まで微粉化することで得られる。典型的には、焦電体微粒子は、焦電体材料に機械的エネルギーを加えて微細化する(所定の微粉砕機による)ブレークダウン法により、ミクロンオーダーの微粉体となるように調製される。ここで、焦電体微粒子の粒径は、例えば、1μm~30μmの範囲内の任意の平均径又はメジアン径(中位径)又はモード径(最頻度粒子径)、1μm~50μmの範囲内の任意の平均径又はメジアン径又はモード径、1μm~100μmの範囲内の任意の平均径又はメジアン径又はモード径等、所定の粒径とすることができるが、銀系保持体としての所期の機能を確実に発揮するために、好ましくは、1μm~10μmの範囲内の任意の平均径又はメジアン径(中位径)又はモード径(最頻度粒子径)とし、更に好ましくは、5μm~10μmの範囲内の任意の平均径又はメジアン径(中位径)又はモード径(最頻度粒子径)となるようにする。例えば、焦電体材料としてトルマリン(電気石)を使用した焦電体微粒子(トルマリン微粒子)の場合、銀系保持体としての所期の機能を確実に発揮するために、1μm~10μmの範囲内の任意の平均径、2μm~10μmの範囲内の任意の平均径、3μm~10μmの範囲内の任意の平均径、3μm~5μmの範囲内の任意の平均径、3μm~7μmの範囲内の任意の平均径、又は5μm~10μmの範囲内の任意の平均径とすることが好ましい。或いは、焦電体微粒子(トルマリン微粒子)の場合、銀系保持体としての所期の機能を確実に発揮する一方で、歩留まり向上等のためには、平均径が5μm~15μmの範囲内の任意の粒径としたり、平均径が5μmの粒径、10μmの粒径、又は15μmの粒径となるよう調整することが好ましい。
【0027】
[焦電体微粒子の粒子形状]
焦電体微粒子の粒子形状は、粉砕方法や使用する焦電体材料の物性(特に、劈開性)等に応じて各種の粒子形状になるが、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤では、焦電体微粒子は、鱗片状や扁平状等、小さい粒子厚と広い(即ち、粒子厚に比較して非常に大きな面積となる)平坦状の粒子表面とを有する粒子形状とすることが、銀保持体としての保持能力の点で好ましい。即ち、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤では、焦電体微粒子は、鱗片状や扁平状以外の形状となる場合、例えば、でも、できるだけ小さい粒子厚と広い(即ち、粒子厚に比較して非常に大きな面積となる)平坦状の粒子表面とを有する粒子形状とすることが、銀保持体としての保持能力の点で好ましい。
【0028】
[焦電体材料の種類(焦電体鉱物)]
(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、焦電体材料としては、電気的特性として焦電性を有する材料であれば任意の材料を使用することができるが、例えば、焦電性を有する鉱物(以下、「焦電体鉱物」)を好適に使用することができる。即ち、焦電体微粒子としては、焦電体鉱物を微粉砕して上記粒径の微粉体状(パウダー状)となるように調製した焦電体鉱物微粒子からなる焦電体鉱物微粉体を好適に使用することができる。(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、焦電体鉱物として、異極鉱、オーレン電気石、灰トムソン沸石、苦土電気石、苦土フォイト電気石、コールマン石 (低温)、スコレス沸石、スパング石、石英、ソーダ沸石、ソーダ明礬石 (強)、中沸石 (極弱)、鉄灰電気石、鉄電気石、鉄明礬石 (強)、毒鉄鉱 (弱)、フォイト電気石、フッ素灰電気石、ブルース石、ベルトラン石、ボラサイト、明礬石 (強)、リチア電気石、硫テルル蒼鉛鉱のいずれか一つ、又は、いずれか複数を組み合わせてなるものを使用することができる。また、これらのうち、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、焦電体鉱物として、電気石族のいずれかの電気石(トルマリン)を選択して使用し、選択した電気石を微粉砕して焦電体鉱物微粒子を調製することが好ましい。或いは、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、焦電体鉱物として、電気石族のいずれか複数の種類の電気石を選択して使用し、選択した複数の電気石を微粉砕して(それらの混合微粉体からなる)焦電体鉱物微粒子を調製することもできる。
【0029】
以下、上記の焦電体鉱物の各々の物性等について代表的なものを説明する。異極鉱(ヘミモーファイト)(Hemimorphite)は、化学式(化学組成)がZnSiO7(OH)・HO又は[Zn2+ ][(OH)|Si8-・HO)、劈開は{110}2方向完全で{101}{001}2方向貧弱、硬度4.5-5、比重3.5である。また、オーレン電気石(オーレナイト)(Olenite)は、化学式がNaAl(BOSi18(OH)又は(Na,[])(Al,Li)Al(BOSi18(O,OH)又は[Na][Al3+ ][Al3+ ][OH|O|(BO|(SiO28-、劈開なし、硬度7、比重3.0である。灰トムソン沸石(トムソナイト-Ca)(Thomsonite-Ca)は、化学式がNaCaAlSi20・6HO又は[Na][Ca2+ ][(AlSiO5-・6HO、劈開が{010}1方向完全で{100}1方向良好、硬度5-5.5、比重2.3である。苦土電気石(ドラバイト)(Dravite)は、化学式がNaMgAl(BOSi18(OH)又は[Na][Mg2+ ][Al3+ ][(OH)|OH|(BO|(SiO25-、劈開が{1120}{1011}6方向貧弱、硬度7-7.5、比重3.1である。苦土フォイト電気石(マグネシオフォイタイト)(Magnesiofoitite)は、化学式がMgAlSi18(BO(OH)又は([],Na)Mg(Al,Fe)AlSi18(BO(OH)又は [][Mg2+ ][Al3+][Al3+ ][(OH)|(BO|(SiO25-で、劈開なし、硬度7である。コールマン石(灰硼石)(コールマナイト)(Colemanite)は、化学式がCaB(OH)・HO又は[Ca2+][H2-・HO、劈開が{010}1方向完全,{001}1方向明瞭、硬度4.5、比重2.4である。スコレス沸石(スコレサイト)(Scolecite)は、化学式がCaAlSi10・3HO又は[Ca2+][AlSi102-・3HO、劈開が{110}2方向完全、硬度5-5.5、比重2.3である。石英(Quartz)は、化学式がSiO又は[Si4+][O4-、劈開が{1011}3方向不明瞭、硬度7、比重2.7である。ソーダ沸石(ナトロライト)(Natrolite)は、化学式がNaAlSi10・2HO又は [Na ][AlSi102-・2HO、劈開が{110}2方向完全,{010}1方向裂開、硬度5-5.5、比重2.3である。ソーダ明礬石(ナトロアルナイト)(Natroalunite)は、化学式がNaAl(SO(OH)叉は(Na,K)Al(SO(OH)又は[Na][Al3+][Al3+ ][(OH)|(SO10-、劈開が{0001}1方向明瞭,{0112}3方向貧弱、硬度3.5-4、比重2.8である。中沸石(メソライト)(Mesolite)は、化学式がNaCaAlSi30・8HO又は[Na ][Ca2+ ][(AlSi106-・8HO、劈開が{110}2方向完全、硬度5、比重2.3である。鉄灰電気石(フェルバイト)(Feruvite)は、化学式がCaFeAlMg(BO)3Si18(OH)又はCa(Fe,Mg)3AlMg(BOSi18(OH)又は[Ca2+][Fe2+ ][Mg2+][Al3+ ][(OH)|OH|(BO|(SiO25-、劈開なし、硬度7、比重3.2である。スパング石(スパンゴライト)(Spangolite)は、化学式がCuAlSO(OH)12Cl・3HO又は[Cu2+ ][Al3+][(OH)12|Cl|SO15-・3HO、劈開が{0001}1方向完全,{1011}3方向明瞭、硬度3,比重3.1である。鉄電気石(スコール)(Schorl)は、化学式がNaFeAl(BO)3Si18(OH)又は[Na][Fe2+ ][Al3+ ][(OH)|OH|(BO|(SiO25-、劈開が{11-20}{1011}6方向貧弱、硬度7、比重3.2である。鉄明礬石(ジャロサイト)(Jarosite)は、化学式がKFe(SO(OH)又は[K][Fe3+ ][(OH)|(SO10-、劈開が{0001}1方向明瞭、硬度2.5-3.5、比重3.1である。毒鉄鉱(ファーマコシデライト)(Pharmacosiderite)は、化学式がKFe(AsO(OH)・6-7HO又は[K][Fe3+ ][(OH)|(AsO13-・6-7HO、劈開が{001}3方向不完全、硬度2.5、比重2.8である。フォイト電気石(Foitite)は、化学式がFeAlAlSi18(BO(OH)又は ([],Na)(Fe,Al)AlSi18(BO(OH)又は[][Fe2+ ][Al3+][Al3+ ][(OH)|OH|(BO|(SiO25-、劈開なし、硬度7、比重3.2である。フッ素灰電気石(フルオロウバアイト,フルオロユーバイト)(Fluor-uvite)は、化学式がCaMgAl(BOSi18(OH)F又は(Ca,Na)(Mg,Fe)Al(BOSi18(OH,F)又は[Ca2+][Mg2+ ][Mg2+][Al3+ ][(OH)|F|(BO|(SiO25-、劈開なし、硬度7.5、比重3.0である。ブルース石(水滑石,ブルーサイト)(Brucite)は、化学式がMg(OH)又は[Mg2+][(OH)2-、劈開が{0001}1方向完全、硬度2.5-3、比重2.4である。ベルトラン石(ベルトランダイト)(Bertrandite)は、化学式がBeSi(OH)又は[Be2+ ][(OH)|Si8-、劈開が{001}1方向完全,{100}{010}{110}4方向明瞭、硬度6-7、比重2.6である。ボラサイト(方硼石)(Boracite)は、化学式がMg13Cl又は[Mg2+ ][Cl|B3+ 136-、劈開なし、硬度7-7.5、比重2.9である。明礬石(アルナイト)(Alunite)は、化学式がKAl3(SO4)2(OH)6又は[K+][Al3+3][(OH)6|(SO4)2]10-、劈開が{0001}1方向完全,{0112}3方向不明瞭、硬度3.5-4、比重2.8である。リチア電気石(リシア電気石,エルバイト)(Elbaite)は、化学式がNa(Li,Al)Al(BOSi18(OH)又は[Na][Li 1.5Al3+ 1.5][Al3+ ][(OH)|OH|(BO|(SiO25-、劈開{1120}{1011}6方向不明瞭、硬度7.5、比重3.0である。硫テルル蒼鉛鉱(テトラジマイト)(Tetradymite)は、化学式がBiTeS又は[Bi3+ ][S|Te6-、劈開が{0001}1方向完全、硬度1.5-2、比重7.6である。更に、焦電体鉱物としては、化学式がNaCaAlSi4(COの灰霞石(カンクリナイト)(Cancrinite)を使用することもできる。
【0030】
[トルマリン(電気石)]
(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、焦電体材料としての焦電体鉱物として、上記の焦電体鉱物のうち、(電気石とも呼ばれる)トルマリンを更に好適に使用することができる。本願出願書類中では、「トルマリン(電気石)」なる用語は、「トルマリン族(電気石族)」に属する鉱物(以下、「トルマリン系鉱物」)を包括的に意味する用語として使用する。なお、トルマリン系鉱物は、その電気的特性として、焦電性を有している。また、ここで、トルマリン族の鉱物は、化学式として、[ X ][Y][Z][V|W|(BO|(TO]を有する鉱物である。(式中、x: [ 2+: Ca ][ 1+: Na, K ][ 0: [] ]、Y: [ 4+: Ti ][ 3+: Al, Fe, Cr, v ][ 2+: Fe, Mg, Mn, Zn, Ni, Co, Cu ][ 1+: Li ]、Z: [ 3+: Al, Fe, Cr, V ][ 2+: Mg, Fe ]、T: [ 4+: Si ][ 3+: Al, B ]、V: [ 2-: O ][ 1-: OH ]、W: [ 2-: O ][ 1-: OH, F ]である。)トルマリン族は、例えば、アルカリ電気石グループ(Alkali-tourmaline group)([(Na,k)][ Y ][ Z ][ V |W|(BO|(TO])、カルシウム電気石グループ(Calcic-tourmaline group)([Ca][ Y ][ Z ][(OH)|W|(BO|(SiO])、及び空乏電気石グループ(x-vacant-tourmaline group)([ [] ][ Y ][Al][(OH)|W|(BO)3|(SiO])に分類することができる。このうち、アルカリ電気石グループには、苦土電気石、鉄電気石、フッ素苦土電気石、フッ素鉄電気石、マンガン電気石、リチア電気石、フッ素リチア電気石、オーレン電気石等が属する。また、カルシウム電気石グループには、鉄灰電気石、灰電気石、フッ素灰電気石、足立電気石等が属する。また、空乏電気石グループには、フォイト電気石、苦土フォイト電気石、ロスマン電気石等が属する。ここで、上記トルマリンの中でも、特に、焦電体微粒子を構成したときに良好な焦電性を発揮して銀保持体としての機能を十分に発揮する観点から、焦電体材料としては、オーレン電気石、苦土フォイト電気石、鉄灰電気石(フェルバイト)、鉄電気石(スコール)、フォイト電気石、フッ素灰電気石、リチア電気石のいずれか(又は、これらの複数の組み合わせ)を使用することが好ましい。また、リチアトルマリン等の市場で安価に入手できるトルマリン(電気石)は、安価であるため、製品コストを低減することができる。
【0031】
[焦電体材料の種類(強誘電体材料)]
(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤は、焦電体材料として強誘電体材料を使用することもできる。強誘電体材料としては、強誘電性を有する材料であれば任意の材料を使用することができるが、例えば、チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛等のABX3型ペロブスカイト酸化物からなるセラミックス材料を使用することができる。また、高い焦電係数を有する強誘電体からなる焦電性セラミックス材料としては、例えば、硫酸トリグリシン(TGS)(NHCHCOOH)・3HSO)(単結晶材料)、タンタル酸リチウム(LiTaO)(単結晶材料)、ニオブ酸ストロンチウム(SrNb)とニオブ酸バリウム(BANb)の固溶体系の単結晶であるニオブ酸ストロンチウム(SBN)(単結晶)、チタン酸鉛(PbTiO)、ジルコン酸鉛(PbZrO)等を利用することができる。
【0032】
[焦電体鉱物微粒子の粒子形状]
ここで、上記の焦電体微粒子の粒子形状と関連して、例えば、焦電体微粒子は、焦電体材料として焦電体鉱物を使用する焦電体鉱物微粒子の場合、微粉砕により調製されたときの微粒子形状は、使用する焦電体鉱物の劈開性に依存すると考えられる。ここで、鉱物材料の劈開性について簡単に説明すると、劈開とは、鉱物を構成する原子の配列(原子配列、結晶構造)において、原子同士の結合力の弱い部分に沿って割れる性質(物性)のことをいい、劈開によって割れた面は比較的平滑であり、その割れた面を劈開面という。また、劈開面の平滑度は、きわめて完全(ほぼ完全な平面)、完 全 (やや完全な平面)、明瞭(明らかに平面性が認められる)、不明瞭(かなり凸凹があるがかろうじて平面性が認められる)の4段階に分けられることが多い。なお,きわめて完全な劈開がある鉱物は、劈開以外の方向に割ることは困難である。また、同一の鉱物でも結晶方位によって異なる2種類の劈開があり、その平滑度が異なることもある。
【0033】
したがって、(本実施の形態を含む)本発明に係る銀系抗菌剤では、焦電体微粒子として焦電体鉱物微粒子を使用する場合、その焦電体鉱物としては、1方向完全の劈開性を有する鉱物を使用することが好ましく、又は、1方向明瞭の劈開性を有する鉱物を使用することも好ましい。即ち、1方向完全又は1方向明瞭の劈開性を有する鉱物は、微粉砕したときに、広い劈開面を厚さ方向両面に有すると共に粒子厚が相対的に小さくなる鱗片状等の、扁平粒子形状になる。したがって、このような扁平粒子形状の焦電体微粒子は、広い平坦面となる劈開面により、銀保持体として、銀衛生成分をその広い平坦表面に効率よく、かつ、相対的に多量に捕集して保持することができる。また、このような扁平粒子形状の焦電体微粒子は、粒子厚が小さいほど良好な焦電性を発揮し、その平坦表面における銀衛生成分の吸着力が大きくなることを、本発明者らは鋭意の効果確認試験により実際に確認し、その実験データも保有している。したがって、このような扁平粒子形状の焦電体微粒子は、小さい粒子厚により、良好な焦電効果を発揮し、その平坦表面における銀衛生成分の吸着力を大きくして、銀衛生成分を効率的に多量に捕集して保持することができる。
【0034】
例えば、上記で列挙した焦電体鉱物材料の場合、灰トムソン沸石、コールマン石、ソーダ明礬石、スパング石、鉄明礬石、ブルース石、及び硫テルル蒼鉛鉱は、劈開が1方向完全又は1方向明瞭な鉱物であり、微粉砕したときに、広い劈開面を厚さ方向両面に有すると共に粒子厚が相対的に小さくなる鱗片状等の、扁平粒子形状になると考えられる。
【0035】
[銀保持体の機序]
上記のとおり、(本実施の形態を含む)本発明の銀系抗菌剤は、所望の被塗物に塗布したり所望の対象物に含侵したりした状態で、水系溶媒を蒸発させて乾燥したときに、前記焦電体微粒子が、銀系衛生成分を担持又は保持する銀保持体として機能するが、この機序(メカニズム)については、以下のように考えることができる。まず、物質は、正電荷を有する粒子(原子核や陽イオン)と負電荷を有する粒子(電子や陰イオン)から構成され、物質の表裏に外部から電場(外部電場)を加えると、正電荷の粒子は負極側に、負電荷の粒子は正極側に引き寄せられ、正負両電荷の分布が変化して分極が発生する。ここで、誘電体には、外部電場を与えたときのみ分極が発生する物質と、外部電場がない状態でも自発的に分極が発生している(即ち、自発分極を有する)物質とがあり、強誘電体及び(強誘電体ではない)焦電体は、いずれも、外部電場なしに自発分極している物質である。誘電体のうち、結晶構造に対称中心がなく非対称なイオンが変位して分極を生じるものが圧電体であり、圧電体のうち、永久双極子を有し配向分極を生じるものが焦電体であるが、焦電体のうち、永久双極子を外部電場で人工的に反転できるものが強誘電体である。また、焦電体における自発分極は、その永久双極子間で静電的相互作用が強く、外部電場なしに永久双極子が小さな区域内で互いに平行に並んでいることに起因する。また、焦電体に熱を与えると電気が発生するが、これは、熱電変換機能の1つであり焦電効果とよばれる。
【0036】
特に、焦電体のような極性結晶では、結晶内の正電荷と負電荷の重心が一致していないために自発分極が存在するが、結晶が一定温度に保たれているときは、表面に大気中の分子やイオンが吸着して結晶内の自発分極を打ち消すため、実際には分極を外部から観測することはできない。しかし、この状態で結晶の温度を変化させると、わずかな温度変化であっても、自発分極は温度の関数であるため、自発分極の大きさが変化し、過剰の表面電荷が外部回路によって電流または電圧として観測される。その後、結晶の温度が一定となると、再び表面への吸着分子等によって電荷のバランスがとれた平衡状態に達し、分極は観測されなくなる。このように、焦電効果は1つの平衡状態から別の平衡状態への変化の過程で過渡的に観測される物性であり、焦電効果は自発分極の温度変化に依存する。そして。(本実施の形態を含む)本発明の液状銀系抗菌剤では、焦電体微粒子が発揮する焦電効果に起因して、少なくとも水系溶媒を蒸発させたときに、焦電体微粒子が、自発分極による(銀微粒子のような導電体微粒子を含む)外部微粒子の誘引吸着効果によって、その表面に銀衛生成分を吸着又は捕集して担持又は保持し、銀保持体としての機能を発揮するものと考えられる。即ち、(本実施の形態を含む)本発明の液状銀系抗菌剤では、少なくとも水系溶媒が蒸発するときに、(その蒸発による温度変化が、常温による自然乾燥のような温度変化であっても)焦電体微粒子には必ず温度変化が発生するため、この温度変化により、焦電体微粒子が焦電効果を発揮し、焦電体微粒子が、自発分極による(銀微粒子のような導電体微粒子を含む)外部微粒子の誘引吸着効果によって、その表面に銀衛生成分を吸着又は捕集して担持又は保持し、銀保持体としての機能を発揮するものと考えられる。このため、焦電体微粒子の焦電材料としては、大きな焦電係数を有する強誘電体が望ましいが、これに加え、焦電効果(例えば、出力としての焦電流や焦電圧)は焦電体の厚さに反比例するため、焦電体微粒子の粒子厚をできるだけ薄くできるよう、上記のとおり、焦電体微粒子の焦電体材料として、1方向の劈開性を有する焦電体鉱物微粒子を使用することも好ましい。
【0037】
[水系溶媒中の挙動]
なお、(本実施の形態を含む)本発明の液状銀系抗菌剤では、水系溶媒中で、焦電体微粒子が銀衛生成分を担持又は保持する銀保持体として機能しているか否かは、観察が困難であるため不明であるが、焦電体微粒子及び銀衛生成分のいずれもが、互いに分離した状態で水系溶媒中で均一に分散しているか、銀衛生成分の一部が焦電体微粒子の表面に担持又は保持されているかのいずれかであると考えられる。
【0038】
[銀系抗菌剤の製造方法]
次に、本実施の形態に係る液状銀系抗菌剤の製造方法を、図1を参照して説明する。図1に示すように、本実施の形態に係る液状銀系抗菌剤の製造方法は、トルマリン液(「Tr液」と略称することがある。)を調製するTr液調製プロセスSTEP1~STEP5と、銀コロイド液(「Ag液」と略称することがある。)を調製して最終的に銀ナノ粒子(所定のナノオーダーの銀パウダー)を調製する銀微粒子調製プロセスSTEP11~STEP17と、Tr液調製プロセスで得たTr液に、銀微粒子調製プロセスで得た銀ナノ粒子を混合して、最終製品としての本実施の形態の銀系抗菌剤、即ち、調製トルマリン・銀液(「調製Tr・Ag液」と略称することがある。)を得るトルマリン液・銀ナノ粒子混合プロセス(「Tr液・Agナノ粒子混合プロセス」と略称することがある。)STEP21~STEP23とからなる。
【0039】
[Tr液調製プロセス]
詳細には、Tr液調製プロセスSTEP1~STEP5では、STEP1で、水系溶媒としての純水に、所定の粒径(10μm以下の平均粒径)のトルマリン微粒子(トルマリンパウダー、「Tr粉」と略称することがある)を所定の添加量で添加し、一次トルマリン液(「一次Tr液」)を得る。このとき、水系溶媒へのTr粉の添加量は、水系溶媒中におけるTr粉の濃度が所定濃度となるような重量比(例えば、水系溶媒の重量全体に対する重量%)とする。次に、STEP2で、一次Tr液を所定時間撹拌し(即ち、水系溶媒中でTr粉を所定時間撹拌し)、二次トルマリン液(「二次Tr液」)を得る。その後、STEP3で、二次Tr液を所定時間(例えば、T1=20~30分の範囲内の所定の時間)静置する。なお、必要な場合、STEP1~STEP3を所定の複数回数(複数サイクル)繰り返すが(STEP4)、STEP1~STEP3を所定の複数回数繰り返すことなく1回(1サイクル)のみとすることもできる(STEP4)。これにより、最終トルマリン液としての調製トルマリン液(「調製Tr液」と略称することがある。)を得る(STEP5)。この調製Tr液は、水系溶媒(純水)中にTr粉(トルマリンからなる焦電体微粒子)が均一に分散した懸濁液である。ここで、Tr液調製プロセスSTEP1~STEP5は、本発明の銀系抗菌剤の製造方法における焦電体微粒子液調製プロセスを構成する。また、この場合において、前記調製トルマリン液は、本発明の銀系抗菌剤の製造方法における懸濁液としての焦電体微粒子液を構成する。
【0040】
ここで、STEP1における水系溶媒(純水)へのTr粉の添加量は、水系溶媒中におけるTr粉の濃度が所定濃度となるような重量比とするが、この所定濃度は、最終製品としての液状銀系抗菌剤において、含油される銀系衛生成分の総量に対し、焦電体微粒子が銀系衛生成分を集積して保持するための必要量以上の量となる濃度(以下、「銀担持所要濃度」という。)とする。例えば、Tr粉の添加量は、純水の総重量100重量部に対して2重量部以下の任意の添加量としたり、3~20重量部の範囲内の任意の添加量としたり、5~10重量部の範囲内の任意の添加量としたりすることができる。また、Tr粉の添加量は、重量百分率では、例えば、1~2重量%の範囲内の任意の値、1~3重量%の範囲内の任意の値、2~4重量%の範囲内の任意の値、1~5重量%の範囲内の任意の値、3~10重量%の範囲内の任意の値、5~10重量%の範囲内の任意の値、3~20重量%の範囲内の任意の値、5~20重量%の範囲内の任意の値等、要求される条件に応じて任意の値とすることができる。また、必要に応じて、STEP1~STEP2のいずれの工程において、水系溶媒中にTr粉を均一に分散するための分散剤を添加してもよい。
【0041】
[銀微粒子調製プロセス]
銀微粒子調製プロセスSTEP11~STEP17では、STEP11で、水系溶媒(精製水又は純水等)に、銀パウダー原料(硝酸銀、炭酸銀、酸化銀等)を溶解して銀原料水溶液を調製する。次に、STEP12で、この銀原料水溶液に所定の還元剤を添加して、銀原料水溶液中の銀イオン(Ag)を所定温度で還元し、所定の粒径の銀微粒子として成長させることで、銀コロイド液を調製する。なお、この還元剤としては、銀微粒子の製造に使用される公知の還元剤を使用することができ、例えば、クエン酸やアスコルビン酸を使用することができる。また、STEP11又はSTEP12で、銀原料水溶液に所定の保護剤を添加して、生成した銀微粒子の表面を保護し、銀コロイド液中における銀微粒子の凝集を防止したり、銀コロイド液中における銀微粒子の分散を促進したりすることができる。この保護剤としては、銀微粒子の製造に使用される公知の保護剤を使用することができ、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)を使用することができる。次に、STEP13で、STEP13で、銀コロイド液を所定時間(例えば、T2=30分~2時間の範囲内の所定の時間)静置する。なお、基本的には、STEP11~STEP13を所定の複数回数(複数サイクル、例えば、2~3サイクル)繰り返すが(STEP14)、STEP11~STEP13を所定の複数回数繰り返すことなく1回(1サイクル)のみとすることもできる(STEP14)。これにより、最終銀コロイド液としての調製銀液(「調製Ar液」と略称することがある。)を得る(STEP15)。次に、STEP16で、調製Ar液をフィルターろ過や遠心分離機等の所定の固液分離手段により固液分離して乾燥し、調製銀ナノ粒子(「調製Agナノ粒子」と略称することがある。)を得る。なお、STEP16の後、銀ナノ粒子に対して水洗による不要成分の除去(及び、これによる銀ナノ粒子の清浄化)や凝集防止処理等の追加の処理を施してもよい。
【0042】
[Tr液・Agナノ粒子混合プロセス]
Tr液・Agナノ粒子混合プロセスSTEP21~STEP23では、STEP21で、前記トルマリン液及び銀ナノ粒子を混合し(即ち、調製トルマリン液に調製銀ナノ粒子を添加して混合し)、Tr・Ag混合液を調製する。次に、STEP22で、このTr・Ag混合液を所定時間(例えば、T3=48~72時間の範囲内の所定時間又はT3=72~96時間の範囲内の所定の時間、最も好ましくは、T3=72時間)静置する。このSTEP23により、静置状態のTr・Ag混合液中で、上記の一定粒径範囲内(ミクロンオーダー)にあるトルマリン微粒子及び上記の一定粒径範囲内(ナノオーダー)にある銀ナノ粒子が、それぞれ、互いに水系溶媒中で分散して懸濁液としての状態を維持する一方で、一部のトルマリン微粒子及び銀ナノ粒子が、水系溶媒中で沈降して沈殿する。このように水系溶媒中で沈殿するトルマリン微粒子及び銀ナノ粒子は、時間の経過により(少なくとも、上記所定時間T3の経過中に)水系溶媒中に安定して分散状態を維持できないものである一方、上記の所定時間T3の経過後も沈殿しない(即ち、分散状態を維持している)トルマリン微粒子及び銀ナノ粒子は、水系溶媒中に上記の所定時間T3の経過後も安定して分散状態を維持できるものである。最後に、STEP24で、水系溶媒中で沈殿するトルマリン微粒子及び銀ナノ粒子(沈殿トルマリン粒子及び沈殿銀ナノ粒子)を除去して廃棄することで、水系溶媒中で上記の所定時間T3の経過後も安定して分散状態を維持できるトルマリン微粒子及び銀ナノ粒子(分散トルマリン粒子及び分散銀ナノ粒子)のみからなるトルマリン・銀ナノ粒子混合液、即ち、本実施の形態の液状銀系抗菌剤である最終生成物としての調製トルマリン・銀液(「調製Tr・Ag液」と略称することがある。)を得ることができる。このように、本実施の形態に係る液状銀系抗菌剤の製造方法によれば、特に、上記のSTEP23及びSTEP24により、静置状態のTr・Ag混合液中で、水系溶媒中に上記の所定時間T3の経過後も安定して分散状態を維持できるトルマリン微粒子及び銀ナノ粒子のみを残し、時間の経過にかかわらず良好な分散状態の懸濁液を構成するトルマリン・銀ナノ粒子液を確実かつ効率的に調製することができる。なお、上記STEP22の静置のための所定時間T3は、T3=72時間(3日間)とした場合が、最も抗菌/抗ウイルス・防カビ効果が高いことを、本発明者らは、効果確認試験により確認している。ここで、Tr液・Agナノ粒子混合プロセスSTEP21~STEP23は、本発明の銀系抗菌剤の製造方法における焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液調製プロセスを構成する。また、この場合において、前記調製Tr・Ag液は、本発明の銀系抗菌剤の製造方法における懸濁液としての焦電体微粒子・銀ナノ粒子混合液を構成する。
【0043】
[調製Tr・Ag液の塗布・含侵・乾燥プロセス]
上記のように製造した調製Tr・Ag液(本実施の形態の液状銀系抗菌剤)は、典型的には、所定の塗布対象物にスプレー噴射等により塗布したり、所定の含侵対象物にスプレー噴射等により含侵したりして、抗菌等の所期の効果を発揮するために使用される。このとき、塗布対象物への塗布後、又は、含侵対象物への含侵後に、本実施の形態の液状銀系抗菌剤は、加熱乾燥により(又は、常温乾燥であっても)水系溶媒が蒸発して乾燥するが、この水系溶媒の乾燥後には、上記のとおり、焦電体微粒子としてのトルマリン粒子が、銀系衛生成分としての銀ナノ粒子を担持又は保持する銀保持体として機能する。
【0044】
[焦電体微粒子上の銀保持構造]
上記のように本実施の形態の液状銀系抗菌剤を塗布対象物への塗布した後、又は、含侵対象物への含侵した後に、水系溶媒を蒸発して乾燥したときの、焦電体微粒子による銀保持構造について、図2を参照して説明する。なお、図2に示すように、焦電体微粒子として、鱗片状等の扁平状をなすトルマリン微粒子(Tr微粒子)10を使用した事例で説明する。この場合、トルマリン微粒子10は、扁平状をなし、その厚さ方向両面が平坦面(又は略平坦面)となっている。また、トルマリン微粒子10は、所定のトルマリン粒子厚Hを有している。そして、本実施の形態の液状銀系抗菌剤を塗布対象物への塗布した後、又は、含侵対象物への含侵した後に、水系溶媒を蒸発して乾燥したとき、トルマリン微粒子10の厚さ方向の一側表面(又は、両側表面)には、その表面に吸着して保持された多数の銀ナノ粒子が集積して、銀集積体(「Ag集積体」)20を形成している。この銀集積体20は、図2では、説明の便宜上、トルマリン微粒子10の厚さ方向の一側表面にのみ銀ナノ粒子が集積した状態で描画されているが、実際は、トルマリン微粒子10の厚さ方向の一側表面のみならず、他側表面にも銀ナノ粒子が集積される。また、この銀集積体20は、図2では、説明の便宜上、銀ナノ粒子が隙間なく密集して集積した状態で描画されているが、実際は、銀ナノ粒子が隙間なく密集する部分(「銀密集部」)と、銀密集部内又は複数の銀密集部間に形成された隙間部分(「銀不在部分」)とが混在したものである。このようにしてトルマリン微粒子10の表面に銀集積体20が集積形成されることは、本発明者らが、効果確認試験により確認している。
【0045】
なお、図2では、焦電体微粒子として、扁平状のトルマリン微粒子を例にとって説明したが、扁平状以外の粒子形状の焦電体微粒子であっても、平坦表面又は略平坦表面(若干の凹凸のある平坦表面)に、同様にして銀ナノ粒子が集積し、同様の銀集積体20を形成する。
【0046】
[銀集積体の集積態様]
本発明者らによる効果確認試験(透過型電子顕微鏡(STEM)及びエネルギー分散型X線分光器(EDS)を使用した効果確認試験)によれば、第1の実験例では、上記の銀集積体20が、トルマリン微粒子10の平坦表面において、トルマリン微粒子10の平坦表面のX方向(略長方形状の場合の長軸方向又は略正方形状の場合の左右方向)に約2μm、Y方向(短軸方向又は上下方向)に約2μmの範囲にわたって形成されていることが確認されている。なお、この第1の事例に係る液状銀系抗菌剤では、焦電体微粒子として、平坦表面の長軸寸法が2μm~5μmの範囲の異なる粒子サイズのトルマリン微粒子10が混在するものを使用した。この場合、トルマリン微粒子10は、被塗物の表面に密集して配置され(即ち、隣接するトルマリン微粒子10が隙間なく敷き詰められた状態で密接配置され)、それらの異なる粒子サイズのトルマリン微粒子10の平坦表面上に、銀ナノ粒子が集積して銀集積体20を形成していることが確認された。この場合、銀集積体20は、隣接するトルマリン粒子20間に連続して集積することが確認された。また、第2の実験例では、上記の銀集積体20が、トルマリン微粒子10の平坦表面において、トルマリン微粒子10の平坦表面のX方向に約4μm、Y方向に約5μmの範囲にわたって形成されていることが確認されている。なお、この第2の事例に係る液状銀系抗菌剤でも、第1の実験例と同様の粒子サイズのトルマリン微粒子10を使用した。なお、第2の実験例の場合、銀集積体20は、第1の実験例の場合よりも隣接するトルマリン粒子20間に広く連続して集積することが確認された。即ち、第1の実験例では隣接する2~3個のトルマリン微粒子10にわたって銀集積体20が連続することが確認されたが、第1の実験例では隣接する4~5個のトルマリン微粒子10にわたって銀集積体20が連続することが確認された。
【0047】
[焦電体微粒子の粒径と銀ナノ粒子の粒径]
上記のような焦電体微粒子による銀ナノ粒子の保持を確実かつ効率的に実現するため、焦電体微粒子の粒径は、銀ナノ粒子の粒径に対し、100~1000倍の範囲内とすることが好ましい。例えば、焦電体微粒子の粒径を1~10μmの範囲内の平均粒径とした場合、銀ナノ粒子の粒径を1~10nmの範囲内の平均粒径とし、焦電体微粒子の粒径を1~100μmの範囲内の平均粒径とした場合、銀ナノ粒子の粒径を1~100nmの範囲内の平均粒径とする。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の銀系抗菌剤は、上記実施の形態のように、液状銀系抗菌剤に適用して産業上利用することができるが、当該液状銀系抗菌剤を所定の塗布対象物(布製品や衛生用マスク等)に塗布してなる銀系抗菌剤処理物品や、当該液状銀系抗菌剤を所定の含侵対象物に含侵してなる銀系抗菌剤処理物品に適用して産業場利用することもできる。
【符号の説明】
【0049】
10:トルマリン微粒子(焦電体微粒子)
20:銀集積体熱融着部
H:トルマリン厚(トルマリン粒子厚)
図1
図2