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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125270
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】連結車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 13/06 20060101AFI20230831BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B62D13/06
B62D6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029269
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】新田 宣広
(72)【発明者】
【氏名】所 裕高
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC02
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DB07
3D232DB11
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD02
3D232EB04
3D232EC22
3D232GG05
(57)【要約】
【課題】より適切な車両挙動を実現することができる連結車両の制御装置を提供する。
【解決手段】連結車両は、車両の進行方向を変える車輪である操舵輪を有するトラクタと、トラクタによって牽引されるトレーラとを有する。連結車両の制御装置は、連結車両の後退操作が行われるとき、操作者による特定の操作を通じて設定される後退制御の目標値に制御量を追従させることにより、トレーラの後退操作を支援する。連結車両の制御装置は、ジャックナイフ現象の発生を抑える観点に基づき、目標値を制限する処理と、目標値の時間変化率を制限する処理と、を実行ように構成される。目標値は、たとえば、目標仮想操舵角α 、または目標ヒッチ角βである。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向を変える車輪である操舵輪を有するトラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラとを有する連結車両を制御対象とし、
前記連結車両の後退操作が行われるとき、操作者による特定の操作を通じて設定される後退制御の目標値に制御量を追従させることにより、前記トレーラの後退操作を支援する連結車両の制御装置であって、
適切な車両挙動を実現する観点に基づき、前記目標値を制限する処理と、前記目標値の時間変化率を制限する処理と、を実行するように構成される連結車両の制御装置。
【請求項2】
ジャックナイフ現象の発生を抑える観点に基づき、前記目標値を制限する処理と、前記目標値の時間変化率を制限する処理と、を実行するように構成される請求項1に記載の連結車両の制御装置。
【請求項3】
前記目標値は、前記トラクタの長さ方向に延びる中心軸と前記トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度であるヒッチ角の目標値である目標ヒッチ角であって、
物理的に取り得る前記操舵輪の操舵角の最大値である最大操舵角の値、あるいは前記最大操舵角を微分することにより得られる最大操舵角速度の値を、前記ヒッチ角の時間変化率であるヒッチ角速度の運動方程式に代入することにより、前記目標ヒッチ角の時間変化率に対する制限値を演算するように構成される請求項1または請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【請求項4】
前記ヒッチ角速度の値としての零、および前記最大操舵角の値を、前記ヒッチ角速度の運動方程式に代入し、前記ヒッチ角について解くことにより、ジャックナイフ現象が発生するかどうかの前記ヒッチ角の境界値であるジャックナイフヒッチ角を演算する処理と、
前記ジャックナイフヒッチ角を、前記目標ヒッチ角に対する制限値として設定する処理と、を実行するように構成される請求項3に記載の連結車両の制御装置。
【請求項5】
前記目標値は、前記トレーラを単体車両とみなした場合の前記トレーラの仮想的な操舵輪の仮想操舵角の目標値である目標仮想操舵角であって、
前記トラクタの長さ方向に延びる中心軸と前記トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度であるヒッチ角の時間変化率であるヒッチ角速度の値と、物理的に取り得る前記操舵輪の操舵角の最大値である最大操舵角の時間変化率である最大操舵角速度の値とを、前記仮想操舵角の時間変化率である仮想操舵角速度の運動方程式に代入することにより、前記目標仮想操舵角に対する制限値を演算するように構成される請求項1または請求項2に記載の連結車両の制御装置。
【請求項6】
ジャックナイフ現象が発生するかどうかの前記ヒッチ角の境界値であるジャックナイフヒッチ角の値と、物理的に取り得る前記操舵角の最大値である最大操舵角の値とを、前記仮想操舵角の運動方程式に代入することにより、前記目標仮想操舵角に対する制限値を演算するように構成される請求項5に記載の連結車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタとしての車両にトレーラが連結された連結車両が存在する。連結車両の操縦は、普通乗用車などの単体車両の操縦と比べて難しい。特に、連結車両を後退操作する際、トレーラが連結されていない単体車両を後退させる場合のステアリング操作とは反対のステアリング操作が必要となる。また、連結車両を後退操作する際、いわゆるジャックナイフ現象が発生する前に、車両とトレーラとの組み合わせを安定させるために、たとえばブレーキをかける必要がある。ジャックナイフ現象とは、連結車両を後退操作する際、車両とトレーラとの連結部分が大きく折れ曲がる現象をいう。
【0003】
そこで、たとえば、特許文献1の後退支援システムは、ヒッチ角を制限する。ヒッチ角は、車両の長さ方向に延びる中心軸と、トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度である。後退支援システムは、ノブの操作を通じて選択されるトレーラの所望の曲率に基づき、第1のヒッチ制限角を演算する。ただし、車両の使用者は、第1のヒッチ制限角内において、第2の制限角を設定することができる。車両の使用者は、第1の制限角および第2の制限角のいずれか一方を選択することが可能である。後退支援システムは、車両の使用者により選択される、第1の制限角または第2の制限角を表示装置に表示させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0164919号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、ヒッチ角を制限する後退支援システムにおいては、つぎのことが懸念される。すなわち、連結車両の物理的な制約などに起因して、ヒッチ角には応答遅れが発生する。このため、たとえば、ノブの操作を通じて設定されるトレーラの曲率が急激に変化するとき、トレーラの曲率の急激な変化にヒッチ角が適切に応答できないおそれがある。このことに起因して、ジャックナイフ現象が発生するおそれがある。連結車両の制御装置には、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制すること、ひいてはより適切な車両挙動を実現することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する連結車両の制御装置は、車両の進行方向を変える車輪である操舵輪を有するトラクタと、前記トラクタによって牽引されるトレーラとを有する連結車両を制御対象とする。連結車両の制御装置は、前記連結車両の後退操作が行われるとき、操作者による特定の操作を通じて設定される後退制御の目標値に制御量を追従させることにより、前記トレーラの後退操作を支援する。連結車両の制御装置は、適切な車両挙動を実現する観点に基づき、前記目標値を制限する処理と、前記目標値の時間変化率を制限する処理と、を実行するように構成される。
【0007】
この構成によれば、適切な車両挙動を実現する観点に基づき、後退制御の目標値が制限されることにより、適切な車両挙動を実現することができる。また、適切な車両挙動を実現する観点に基づき、目標値の時間変化率が制限されることにより、制御量が目標値を行き過ぎる、いわゆるオーバーシュートの発生が抑えられる。これにより、適切な車両挙動を実現することができる。
【0008】
上記の連結車両の制御装置において、ジャックナイフ現象の発生を抑える観点に基づき、前記目標値を制限する処理と、前記目標値の時間変化率を制限する処理と、を実行するように構成されてもよい。
【0009】
この構成によれば、ジャックナイフ現象の発生を抑える観点に基づき、後退制御の目標値が制限されることにより、ジャックナイフ現象の発生を抑制することができる。また、ジャックナイフ現象の発生を抑える観点に基づき、目標値の時間変化率が制限されることにより、制御量が目標値を行き過ぎる、いわゆるオーバーシュートの発生が抑えられる。これにより、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0010】
上記の連結車両の制御装置において、前記目標値は、前記トラクタの長さ方向に延びる中心軸と前記トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度であるヒッチ角の目標値である目標ヒッチ角であってもよい。この場合、連結車両の制御装置は、物理的に取り得る前記操舵輪の操舵角の最大値である最大操舵角の値、あるいは前記最大操舵角を微分することにより得られる最大操舵角速度の値を、前記ヒッチ角の時間変化率であるヒッチ角速度の運動方程式に代入することにより、前記目標ヒッチ角の時間変化率に対する制限値を演算するように構成されてもよい。
【0011】
この構成によれば、目標ヒッチ角の時間変化率が制限されることにより、ヒッチ角が目標ヒッチ角を行き過ぎる、いわゆるオーバーシュートの発生を抑えることができる。このため、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0012】
上記の連結車両の制御装置は、前記ヒッチ角速度の値としての零、および前記最大操舵角の値を、前記ヒッチ角速度の運動方程式に代入し、前記ヒッチ角について解くことにより、ジャックナイフ現象が発生するかどうかの前記ヒッチ角の境界値であるジャックナイフヒッチ角を演算する処理と、前記ジャックナイフヒッチ角を、前記目標ヒッチ角に対する制限値として設定する処理と、を実行するように構成されてもよい。
【0013】
この構成によれば、ヒッチ角がジャックナイフヒッチ角に制限される。ヒッチ角がジャックナイフヒッチ角を超えることが抑制されるため、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0014】
上記の連結車両の制御装置において、前記目標値は、前記トレーラを単体車両とみなした場合の前記トレーラの仮想的な操舵輪の仮想操舵角の目標値である目標仮想操舵角であってもよい。この場合、連結車両の制御装置は、前記トラクタの長さ方向に延びる中心軸と前記トレーラの長さ方向に延びる中心軸とのなす角度であるヒッチ角の時間変化率であるヒッチ角速度の値と、物理的に取り得る前記操舵輪の操舵角の最大値である最大操舵角の時間変化率である最大操舵角速度の値とを、前記仮想操舵角の時間変化率である仮想操舵角速度の運動方程式に代入することにより、前記目標仮想操舵角に対する制限値を演算するように構成されてもよい。
【0015】
この構成によれば、仮想操舵角の時間変化率が制限されることにより、仮想操舵角が目標仮想操舵角を行き過ぎる、いわゆるオーバーシュートの発生を抑えることができる。また、仮想操舵角の時間変化率が制限されることにより、ヒッチ角の時間変化率も制限される。ヒッチ角の絶対値が急激に増加することが抑制されるため、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0016】
上記の連結車両の制御装置は、ジャックナイフ現象が発生するかどうかの前記ヒッチ角の境界値であるジャックナイフヒッチ角の値と、物理的に取り得る前記操舵輪の操舵角の最大値である最大操舵角の値とを、前記仮想操舵角の運動方程式に代入することにより、前記目標仮想操舵角に対する制限値を演算するように構成されてもよい。
【0017】
この構成によれば、目標仮想操舵角が制限されることにより、操舵角、ひいてはヒッチ角も制限される。こんため、ヒッチ角の絶対値が、ジャックナイフヒッチ角の絶対値を超えることが抑制される。したがって、ジャックナイフ現象の発生を抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の連結車両の制御装置によれば、より適切な車両挙動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】連結車両の制御装置の第1の実施の形態が搭載される連結車両の斜視図である。
図2】連結車両の制御装置の第1の実施の形態のブロック図である。
図3】第1の実施の形態にかかる連結車両の運動モデルである。
図4】第1の実施の形態にかかるトレーラの運動モデルである。
図5】第1の実施の形態にかかる制御目標値に対する制限処理の手順を示すフローチャートである。
図6】第1の実施の形態にかかる制御目標値の挙動の一例を示すグラフである。
図7】(a)は、比較例にかかるトラクタの前輪の操舵角の経時的変化を示すグラフ、(b)は、比較例における仮想操舵角の経時的変化を示すグラフである。
図8】(a)は、第1の実施の形態にかかるトラクタの前輪の操舵角の経時的変化を示すグラフ、(b)は、第1の実施の形態にかかる仮想操舵角の経時的変化を示すグラフである。
図9】第2の実施の形態にかかる制御目標値に対する制限処理の手順を示すフローチャートである。
図10】(a)は、比較例にかかるトラクタの前輪の操舵角の経時的変化を示すグラフ、(b)は、比較例にかかるヒッチ角の経時的変化を示すグラフである。
図11】(a)は、第2の実施の形態にかかるトラクタの前輪の操舵角の経時的変化を示すグラフ、(b)は、第2の実施の形態にかかるヒッチ角の経時的変化を示すグラフである。
図12】他の実施の形態にかかるダイヤルの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施の形態>
以下、連結車両の制御装置の第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、連結車両10は、トラクタ11およびトレーラ12を有している。トラクタ11には様々な種類が存在するところ、ここでは小型貨物自動車の一種であるピックアップトラックを例として挙げる。トラクタ11は、前輪11Fおよび後輪11Rを有している。前輪11Fは右前輪および左前輪の2輪を含み、後輪11Rは右後輪および左後輪の2輪を含む。ただし、図1では左前輪および左後輪のみが図示されている。前輪11Fとステアリングホイールとの間は、図示しない操舵機構を介して動力伝達可能に連結されている。前輪11Fは操舵輪である。操舵輪とは、ステアリングホイールの操作に応じて動くことによってトラクタ11の進行方向を変える車輪をいう。
【0021】
トレーラ12には用途に応じて様々な形状およびサイズを有するものが存在するところ、ここでは箱型を例として挙げる。トレーラ12は、車輪12Rを有している。車輪12Rは、右車輪および左車輪の2輪を含む。ただし、図1では左車輪のみが図示されている。
【0022】
トレーラ12は、ボールジョイント13を介してトラクタ11の後部に連結されている。ボールジョイント13は、ヒッチボール14およびヒッチカプラ15を有している。ヒッチボール14は、ヒッチメンバを介してトラクタ11の後部に設けられている。ヒッチカプラ15は、トレーラ12の前部から突出するタング16の先端に設けられている。ヒッチカプラ15がヒッチボール14に装着されることにより、トレーラ12はトラクタ11に対して軸17を中心として回転可能に連結される。軸17は、トラクタ11の高さ方向に沿って延びる。
【0023】
図2に示すように、トラクタ11は、表示装置20、パワーステアリング装置30および後退支援装置40を有している。
表示装置20は、たとえば車室内のインストルメントパネルに設けられる。表示装置20は、たとえばタッチパネルであって、画面21上の表示をタッチ操作することによりデータを入力したり車載機器の動作を指示したりすることが可能である。画面21には、たとえば支援開始ボタン21Aおよび支援終了ボタン21Bが表示される。支援開始ボタン21Aは、連結車両10の後退支援機能をオンする際に操作される。支援終了ボタン21Bは、連結車両10の後退支援機能をオフする際に操作される。
【0024】
パワーステアリング装置30は、操作者によるステアリングホイールの操舵を補助するためのシステムであって、モータ30A、トルクセンサ30B、操舵角センサ30Cおよび操舵制御装置30Dを有している。操作者は、トラクタ11の車室内で連結車両10を運転する運転者を含む。
【0025】
モータ30Aは、アシスト力を発生する。アシスト力は、ステアリングホイールの操舵を補助するための力である。モータ30Aのトルクは、減速機構を介して前輪11Fの操舵機構に付与される。トルクセンサ30Bは、ステアリングホイールに付与されるトルクである操舵トルクτstrを検出する。操舵角センサ30Cは、たとえばモータ30Aの回転角に基づき、前輪11Fの切れ角である操舵角αを検出する。前輪11Fとモータ30Aとは操舵機構を介して互いに連動する。このため、モータ30Aの回転角と前輪11Fの操舵角αとの間には相関関係がある。したがって、モータ30Aの回転角に基づき前輪11Fの操舵角αを求めることができる。
【0026】
操舵制御装置30Dは、連結車両10の後退支援機能がオフされているとき、アシスト制御を実行する。すなわち、操舵制御装置30Dは、トルクセンサ30Bを通じて検出される操舵トルクτstrに基づきモータ30Aに対する通電を制御することによって、操舵トルクτstrに応じたアシスト力をモータ30Aに発生させる。
【0027】
操舵制御装置30Dは、連結車両10の後退支援機能がオンされているとき、前輪11Fの操舵制御を実行する。すなわち、操舵制御装置30Dは、連結車両10の後退支援機能がオンされているとき、後退支援装置40により生成される目標操舵角α に基づきモータ30Aの回転角を制御することによって前輪11Fの操舵角αを制御する。目標操舵角α は、前輪11Fの操舵角αの目標値である。操舵制御装置30Dは、操舵角センサ30Cを通じて検出される前輪11Fの操舵角αを目標操舵角α に一致させるべく、操舵角αのフィードバック制御の実行を通じてモータ30Aの動作を制御する。
【0028】
後退支援装置40は、連結車両10の後退支援機能がオンされているとき、連結車両10の後退操作を支援する。後退支援装置40は、操作者によって指定される連結車両10の後退方向あるいは後退経路、ならびに操舵角センサ30Cを通じて検出される前輪11Fの操舵角αに基づき、前輪11Fの目標操舵角α を演算する。目標操舵角α は、操作者によって指定される連結車両10の後退方向あるいは後退経路に沿って連結車両10が移動するために必要とされる前輪11Fの操舵角αの目標値である。後退支援装置40は、連結車両10の後退支援機能がオフされているとき、目標操舵角α を演算しない。
【0029】
<後退支援装置>
つぎに、後退支援装置40について詳細に説明する。
図2に示すように、後退支援装置40は、入力装置41および制御装置42を有している。
【0030】
入力装置41は、操作部材としてのダイヤル41Aを有している。ダイヤル41Aは、たとえば車室内のセンターコンソールに設けられる。ダイヤル41Aは、操作者が連結車両10の後退方向あるいは後退経路を指定する際に操作される。後退方向あるいは後退経路は、たとえば後退左旋回、後退右旋回および直線後退を含む。連結車両10を後退左旋回させるとき、ダイヤル41Aは直線経路に対応する基準位置を基準として反時計方向へ操作される。連結車両10を後退右旋回させるとき、ダイヤル41Aは基準位置を基準として時計方向へ操作される。連結車両10を直線後退させるとき、ダイヤル41Aは基準位置に維持される。入力装置41は、ダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に応じた電気信号S1を生成する。
【0031】
制御装置42は、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
【0032】
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0033】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータ(ここではCPU)で読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。プログラムは、連結車両10の後退支援制御を実行するためのプログラムを含む。後退支援制御とは、連結車両10の後退操作を支援するための制御をいう。
【0034】
制御装置42は、連結車両10の後退支援制御を実行する。制御装置42は、操作者による後退支援制御の開始操作を契機として後退支援制御の実行を開始する。制御装置42は、操作者による後退支援制御の終了操作を契機として後退支援制御の実行を停止する。操作者による後退支援制御の開始操作および終了操作は、表示装置20を通じて行われる。表示装置20の画面21に表示される支援開始ボタン21Aがタッチ操作されたとき、制御装置42は後退支援制御の実行を開始する。表示装置20の画面21に表示される支援終了ボタン21Bがタッチ操作されたとき、制御装置42は後退支援制御の実行を終了する。
【0035】
制御装置42は、後退支援制御の実行時、操作者によって指定される連結車両10の後退方向あるいは後退経路に沿って連結車両10が移動するように、パワーステアリング装置30を通じて連結車両10の後退経路を制御する。
【0036】
制御装置42は、設定部42Aおよび制御部42Bを有している。
設定部42Aは、入力装置41により生成される電気信号S1、すなわちダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に基づき、トレーラ12の目標仮想操舵角α を設定する。目標仮想操舵角α は、トレーラ12の仮想操舵角αの目標値である。仮想操舵角αとは、トレーラ12をトラクタ11から仮想的に分離して、仮想的な前輪を有する単体車両とみなしたときの見掛けの操舵角をいう。設定部42Aは、たとえばダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置とトレーラ12の目標仮想操舵角α との関係を規定するマップを使用して、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置に応じた目標仮想操舵角α を演算する。操作者は、ダイヤル41Aの操作を通じてトレーラ12を後退させる所望の後退経路に応じた目標仮想操舵角α を指定することが可能である。
【0037】
制御部42Bは、設定部42Aにより設定される目標仮想操舵角α 、車載のヒッチ角センサ51を通じて検出されるヒッチ角β、車載の車速センサ52を通じて検出される車速V、および操舵角センサ30Cを通じて検出される操舵角αを取り込む。ヒッチ角βは、トラクタ11の長さ方向に沿って延びる中心軸とトレーラ12の長さ方向に沿って延びる中心軸とのなす角度をいう。ヒッチ角βは、トレーラ12の折れ曲がり角ともいう。
【0038】
制御部42Bは、設定部42Aにより設定される目標仮想操舵角α ならびに各センサを通じて検出されるヒッチ角β、車速Vおよび操舵角αに基づき、トラクタ11の前輪11Fの目標操舵角α を演算する。制御部42Bは、トレーラ12の仮想操舵角αが目標仮想操舵角α に収束するように、前輪11Fの目標操舵角α を演算する。すなわち、制御部42Bは、トレーラ12の仮想操舵角αを目標仮想操舵角α に一致させるべく、仮想操舵角αのフィードバック制御の実行を通じて前輪11Fの目標操舵角α を演算する。制御部42Bは、たとえば、非線形モデル予測制御(NMPC:Nonlinear Model Predictive Control)を使用して、目標操舵角α を演算するようにしてもよい。
【0039】
<連結車両の運動モデル>
つぎに、平面運動する連結車両10の挙動を表す運動モデルについて説明する。
図3に示すように、連結車両10の運動モデルは、地上に固定された二次元のxy座標系において、左右の車輪を車体の中心軸に移動した等価モデルで考えることができる。図3の運動モデルは、連結車両10の前進時の運動モデルである。ただし、図3の運動モデルでは、運動学の範囲で連結車両10の挙動を明らかにするため、極低速時の連結車両10のタイヤには横滑りが発生せず、その進行方向にのみ速度ベクトルを有するものとする。また、車両は一定の速度で運転されるものとする。また、路面は平坦であって連結車両10の外部からの外乱はないものとする。
【0040】
図3の運動モデルにおいて、トラクタ11とトレーラ12との間の運動学的関係を説明するために使用される連結車両10のパラメータは、つぎの通りである。
:トラクタ11の前輪11F
:トラクタ11の後輪11R
:トラクタ11のヒッチ点(ヒッチボール14の位置を示す点)
:トレーラ12の車輪
c0:トラクタ11の前輪11Fの速度ベクトル
:トラクタ11の後輪11Rの速度ベクトル
c1:トラクタ11のヒッチ点Cの速度ベクトル
B2:トレーラ12の速度ベクトル
α:トラクタ11の前輪11Fの操舵角
α:トレーラ12の仮想操舵角
γ:中間変数(トラクタ11の中心軸とヒッチ点Cの速度ベクトルVc1とのなす角)
θ:トラクタ11の姿勢角(トラクタ11の中心軸とX軸とのなす角)
θ:トレーラ12の姿勢角(トレーラ12の中心軸とX軸とのなす角)
β :ヒッチ角(トラクタ11の中心軸とトレーラ12の中心軸とのなす角)
:トラクタ11のホイールベース
:トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離
:トレーラ12の仮想ホイールベース
ただし、各パラメータの符号は、つぎの通りである。すなわち、トラクタ姿勢角θは、X軸を基準とする反時計回りを正とする。トラクタ11の前輪11Fの操舵角αおよび中間変数γは、トラクタ11の中心軸を基準とする反時計回りを正とする。ヒッチ角βは、トラクタ11の中心軸あるいはその延長線を基準とする反時計回りを正とする。車速Vは、前進のとき正、後退のとき負とする。
【0041】
図3に示すように、トラクタ11は前輪11Fの速度ベクトルVc0に従い運動する。また、トレーラ12は、トラクタ11との連結点であるヒッチ点Cの速度ベクトルVc1に従って運動する。このことから、トレーラ12から見たヒッチ点Cの速度ベクトルVc1は、トレーラ12の仮想的な前輪の速度ベクトルとみなせる。図3の運動モデルにおいて、ヒッチ点Cの速度ベクトルVc1とトレーラ12の中心軸とのなす角は「β-γ」である。この場合、図4に示すように、トレーラ12をトラクタ11から仮想的に分離して仮想的な前輪を有する単体車両とみると、その仮想的な前輪は見掛けの操舵角である仮想操舵角α(=-(β-γ))で操舵されていると見なせる。このことから、トレーラ12を単体車両として検討できることが分かる。ちなみに、連結車両10の後退運動の運動モデルは、速度ベクトルが図3の前進時の運動モデルと逆向きになる。
【0042】
トレーラ12の仮想操舵角αは、つぎの数式1で表される。
【0043】
【数1】
【0044】
ただし、「β」は、ヒッチ角である。「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「α」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角である。
【0045】
<ジャックナイフ抑制処理>
制御装置42は、ジャックナイフ現象の発生を抑制する機能を有している。ジャックナイフ現象とは、連結車両10の後退操作時においてトラクタ11とトレーラ12との連結部分が大きく折れ曲がる現象をいう。
【0046】
制御装置42は、たとえば、操作者による後退支援制御の開始操作、すなわち表示装置20の画面21に表示される支援開始ボタン21Aがタッチ操作されることを契機として、ジャックナイフ抑制処理の実行を開始する。ジャックナイフ抑制処理は、ジャックナイフ現象の発生を抑制するための処理である。ただし、制御装置42は、トラクタ11に搭載される変速機のシフトレンジがリバースポジションに切り替えられることを契機として、ジャックナイフ抑制処理の実行を開始するようにしてもよい。制御装置42は、制御装置42の図示しない記憶装置に格納されたプログラムに従って、ジャックナイフ抑制処理を実行する。
【0047】
図5のフローチャートに示すように、まず、制御装置42は、目標仮想操舵角α を演算する(ステップS101)。目標仮想操舵角α は、制御装置42の内部的な制御量である仮想操舵角αの目標値である。
【0048】
制御装置42は、たとえば、入力装置41により生成される電気信号S1、すなわちダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に基づき、目標仮想操舵角α を演算する。制御装置42は、たとえば、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置と目標仮想操舵角α との関係を規定するマップを使用して、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置に応じた目標仮想操舵角α を演算する。
【0049】
また、制御装置42は、ジャックナイフヒッチ角βjkを演算する(ステップS102)。ジャックナイフヒッチ角βjkは、ジャックナイフ現象が発生するかどうかのヒッチ角βの境界値である。ジャックナイフヒッチ角βjkは、物理的には、トラクタ11の前輪11Fの最大操舵角α1mxにおいて、ヒッチ角βの時間変化率であるヒッチ角速度β(・)の値が「0」となるときのヒッチ角βとして定義される。「・」は、時間微分を示す。最大操舵角α1mxは、物理的に取り得る、トラクタ11の前輪11Fの操舵角αの最大値である。
【0050】
ヒッチ角速度β(・)の運動方程式は、つぎの数式2で表される。
【0051】
【数2】
【0052】
ただし、「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「l2」は、トレーラ12の仮想ホイールベースである。「VB1」は、トラクタ11の後輪11Rの速度ベクトルである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「α」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角である。
【0053】
制御装置42は、数式2において、操舵角αに最大操舵角α1mxを代入するとともに、ヒッチ角速度β(・)に「0」を代入する。この後、制御装置42は、数式2をヒッチ角βについて解くことにより、ジャックナイフヒッチ角βjkを得る。
【0054】
制御装置42は、先のステップS102により演算されるジャックナイフヒッチ角βjkに基づき、目標仮想操舵角α に対する角度制限値α2mxを演算する(ステップS103)。制御装置42は、つぎの数式3を使用して、角度制限値α2mxを演算する。
【0055】
【数3】
【0056】
ただし、「βjk」は、ジャックナイフヒッチ角である。「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「αmx」は、トラクタ11の前輪11Fの最大操舵角である。
【0057】
つぎに、制御装置42は、目標仮想操舵角α の絶対値が角度制限値α2mxの絶対値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS104)。
制御装置42は、先のステップS101で演算された目標仮想操舵角α の絶対値が角度制限値α2mxの絶対値よりも小さくないとき(ステップS104でNO)、ステップS105へ処理を移行する。
【0058】
ステップS105において、制御装置42は、先のステップS101で演算された目標仮想操舵角α を、角度制限値α2mxに制限する。制御装置42は、角度制限値α2mxに制限された目標仮想操舵角α を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標仮想操舵角α として保持する。
【0059】
先のステップS101で演算された目標仮想操舵角α の絶対値が角度制限値α2mxの絶対値よりも小さいとき(ステップS104でYES)、先のステップS101で演算された目標仮想操舵角α を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標仮想操舵角α して保持する。
【0060】
つぎに、制御装置42は、目標仮想操舵角速度α (・)に対する速度制限値α2mx(・)を演算する(ステップS106)。目標仮想操舵角速度α (・)は、目標仮想操舵角α の時間変化率である。目標仮想操舵角速度α (・)は、目標仮想操舵角α を時間で微分することにより得られる。
【0061】
目標仮想操舵角速度α (・)は、つぎの数式4で表される。
【0062】
【数4】
【0063】
ただし、「β(・)」は、ヒッチ角速度である。ヒッチ角速度β(・)は、先の数式2を使用して演算することができる。「α1」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角である。「l」は、トラクタ11のホイールベースである。「h」は、トラクタ11の後輪11Rとヒッチ点Cとの間の距離である。「α(・)」は、トラクタ11の前輪11Fの操舵角速度である。
【0064】
数式4の右辺第2項の操舵角速度α(・)に、前輪11Fの最大操舵速度α1mx(・)を代入することにより、目標仮想操舵角速度α に対する速度制限値α2mx(・)が得られる。
【0065】
なお、操舵角αの値が変化しない状況である場合、数式4の右辺第2項は「0」として演算してもよい。操舵角αの値が変化しない状況は、たとえば前輪11Fが物理的な可動範囲の限界位置に達した状態に維持される場合、あるいは、連結車両10の直進状態に対応する操舵角αの値が「0」である場合を含む。
【0066】
つぎに、制御装置42は、目標仮想操舵角速度α の絶対値が速度制限値α2mx(・)の絶対値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS107)。
制御装置42は、目標仮想操舵角速度α の絶対値が速度制限値α2mx(・)の絶対値よりも小さくないとき(ステップS107でNO)、ステップS108へ処理を移行する。
【0067】
ステップS108において、制御装置42は、先のステップS101で演算された目標仮想操舵角α に基づく目標仮想操舵角速度α を、速度制限値α2mx(・)に制限する。制御装置42は、速度制限値α2mx(・)に制限された目標仮想操舵角速度α を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標仮想操舵角速度α として保持する。
【0068】
制御装置42は、目標仮想操舵角速度α の絶対値が速度制限値α2mx(・)の絶対値よりも小さいとき(ステップS107でYES)、先のステップS101で演算された目標仮想操舵角α に基づく目標仮想操舵角速度α を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標仮想操舵角速度α として保持する。
【0069】
制御装置42は、制御目標値である最終的な目標仮想操舵角α および最終的な目標仮想操舵角速度α を使用して、連結車両10の挙動を制御する(ステップS109)。
【0070】
<制御目標値の挙動>
つぎに、制御目標値である目標仮想操舵角α の挙動の一例について説明する。
まず、目標仮想操舵角α および目標仮想操舵角速度α (・)を制限しない比較例について検討する。比較例において、ダイヤル41Aの操作を通じて、角度制限値α2mxの絶対値を超える目標仮想操舵角α が設定されるとき、目標仮想操舵角α は、たとえば、つぎのように変化する。
【0071】
図6のグラフに特性線L1で示すように、後退支援制御の実行開始を契機として(時刻t)、目標仮想操舵角α の絶対値は、初期値である「0」から今回の設定値α21 へ向けて徐々に増加する。設定値α21 は、角度制限値α2mxの絶対値を超える値である。目標仮想操舵角α の絶対値は、たとえば、速度制限値α2mx(・)を超える目標仮想操舵角速度α (・)で増加する。目標仮想操舵角速度α (・)は、目標仮想操舵角α の絶対値の単位時間当たりの変化量であって、特性線L1の傾きを示す。目標仮想操舵角α の絶対値は、角度制限値α2mxの絶対値を超え、やがて今回の設定値α21 に達する(時刻t)。
【0072】
つぎに、目標仮想操舵角α および目標仮想操舵角速度α (・)を制限する本実施の形態について検討する。本実施の形態において、ダイヤル41Aの操作を通じて、角度制限値α2mxの絶対値を超える目標仮想操舵角α が設定されるとき、目標仮想操舵角α は、つぎのように変化する。
【0073】
図6のグラフに特性線L2で示すように、後退支援制御の実行開始を契機として(時刻t)、目標仮想操舵角α の絶対値は、初期値である「0」から今回の設定値α21 へ向けて徐々に増加する。ただし、目標仮想操舵角α の絶対値は、速度制限値α2mx(・)に制限された目標仮想操舵角速度α (・)で増加する。すなわち、特性線L2の傾きは、特性線L1の傾きよりも小さい。目標仮想操舵角α の絶対値は、やがて角度制限値α2mxの絶対値に達する(時刻t)。今回の設定値α21 は角度制限値α2mxの絶対値を超える値であるものの、目標仮想操舵角α の絶対値は、角度制限値α2mxの絶対値に制限された状態に維持される。
【0074】
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
一例として、連結車両10は後退右旋回を行った後、後退左旋回を行う。後退右旋回を行うときと、後退左旋回を行うときの旋回半径は同じである。また、旋回を行う際、ダイヤル41Aの操作を通じて、トラクタ11の前輪11Fの物理的な可動範囲の限界値である最大操舵角α1mxを超える値の目標操舵角α が設定される。
【0075】
図7(a)のグラフに示すように、連結車両10の後退右旋回の開始に伴い(時刻t10)、トラクタ11の前輪11Fの操舵角αは、一旦、負方向へ変化した後、正方向へ徐々に増加する。やがて、操舵角αは、正の一定値に達する。操舵角αは、正の一定値に達した以降、所定の期間だけ、正の一定値に維持される。正の一定値の絶対値は、最大操舵角α1mxの絶対値未満の値である。
【0076】
連結車両10の後退右旋回が終了した後、今度は、連結車両10の後退左旋回が開始される(時刻t11)。操舵角αは、最大操舵角α1mxの絶対値未満の正の一定値から、再び正方向へ向けて増加を開始する。これは、たとえば、連結車両10の物理的な制約による操舵角αの応答遅れに起因する。操舵角αは、最大操舵角α1mxに達した後、今度は、負方向へ向けて減少し、負の一定値に維持される。
【0077】
目標仮想操舵角速度α (・)を制限しない比較例の場合、仮想操舵角αは、つぎのように変化する。
図7(b)のグラフに示すように、比較例において、連結車両10の後退右旋回が開始されたとき(時刻t10)、操舵角αの正方向への増加に伴い、仮想操舵角αは正方向へ徐々に増加する。仮想操舵角αは、正の目標仮想操舵角α を正方向へ行き過ぎた後、今度は負方向へ減少し、やがて正の目標仮想操舵角α に達する。仮想操舵角αは、正の目標仮想操舵角α に達した以降、連結車両10の後退右旋回が終了するまでの期間、正の目標仮想操舵角α に維持される。
【0078】
連結車両10の後退右旋回が終了した後、今度は、連結車両10の後退左旋回が開始される(時刻t11)。仮想操舵角αは、正の目標仮想操舵角α から、負方向へ徐々に減少する。仮想操舵角αは、負の目標仮想操舵角α を負方向へ行き過ぎた後、今度は正方向へ反転し、やがて負の目標仮想操舵角α に達する。仮想操舵角αは、負の目標仮想操舵角α に達した以降、負の目標仮想操舵角α に維持される。
【0079】
図7(b)のグラフに示すように、比較例では、仮想操舵角αのオーバーシュートが発生する。オーバーシュートは、制御量である仮想操舵角αが、目標値である目標仮想操舵角α を行き過ぎることである。連結車両10の物理的な制約などにより、操舵角αおよびヒッチ角βには、応答遅れが存在する。このため、目標操舵角α が急激に変化したとき、操舵角αが目標操舵角α の変化に追従することができないおそれがある。また、目標ヒッチ角βが急激に変化したとき、ヒッチ角βが目標ヒッチ角βの変化に追従することができないおそれがある。
【0080】
これに対し、目標仮想操舵角速度α (・)を制限する第1の実施の形態の場合、操舵角αおよび仮想操舵角αは、つぎのように変化する。
連結車両10の旋回方向、およびダイヤル41Aの操作量などの前提条件は、先の比較例と同じである。すなわち、連結車両10は後退右旋回を行った後、後退左旋回を行う。後退右旋回を行うときと、後退左旋回を行うときの旋回半径は同じである。また、旋回を行う際、ダイヤル41Aの操作を通じて、トラクタ11の前輪11Fの物理的な可動範囲の限界値である最大操舵角α1mxを超える値の目標操舵角α が設定される。
【0081】
図8(a)に示すように、操舵角αは、図7(a)に示される先の比較例と同様に変化する。図8(b)に示すように、操舵角αの正方向への増加に伴い、仮想操舵角αは正方向へ徐々に増加し、やがて正の目標仮想操舵角α に達する。図7(b)に示される先の比較例と異なり、仮想操舵角αが正の目標仮想操舵角α を正方向へ行き過ぎることはない。仮想操舵角αは、正の目標仮想操舵角α に達した以降、連結車両10の後退右旋回が終了するまでの期間、正の目標仮想操舵角α に維持される。
【0082】
連結車両10の後退右旋回が終了した後、今度は、連結車両10の後退左旋回が開始される(時刻t11)。仮想操舵角αは、正の目標仮想操舵角α から、負方向へ徐々に減少し、やがて負の目標仮想操舵角α に達する。図7(b)に示される先の比較例と異なり、仮想操舵角αは、負の目標仮想操舵角α を負方向へ行き過ぎることはない。仮想操舵角αは、負の目標仮想操舵角α に達した以降、負の目標仮想操舵角α に維持される。
【0083】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)制御装置42は、連結車両10の後退制御の目標値である目標仮想操舵角α を制限する処理を実行するように構成される。制御装置42は、目標仮想操舵角α に対する角度制限値α2mxを設定する。目標仮想操舵角α が角度制限値α2mxに制限されることにより、角度制限値α2mxを超える、過大な絶対値を有する目標仮想操舵角α が演算されることを抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0084】
(1-2)目標仮想操舵角α の絶対値が増加するにつれて、操舵角αの絶対値、ひいてはヒッチ角βの絶対値が増加する。このため、目標仮想操舵角α の絶対値を制限することにより、操舵角αの絶対値、ひいてはヒッチ角βの絶対値を制限することができる。したがって、ヒッチ角βの絶対値が、ジャックナイフヒッチ角βjkの絶対値を超えることが抑制される。このため、連結車両10の後退支援制御の実行中、ジャックナイフ現象の発生を抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。ジャックナイフヒッチ角βjkは、ジャックナイフ現象が発生するかどうかの境界値である。
【0085】
(1-3)制御装置42は、目標仮想操舵角α の時間変化率を制限する処理を実行するように構成される。制御装置42は、目標仮想操舵角α の時間変化率である目標仮想操舵角速度α (・)に対する速度制限値α2mx(・)を設定する。目標仮想操舵角速度α (・)は、速度制限値α2mx(・)に制限される。このため、目標仮想操舵角α は、制御装置42の内部的な制御量である仮想操舵角αが追従できない変化率で変化することが抑制される。これにより、仮想操舵角αが目標仮想操舵角α を行き過ぎる、いわゆるオーバーシュートの発生が抑えられる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0086】
(1-4)目標仮想操舵角速度α (・)の絶対値が増加するにつれて、操舵角速度α(・)の絶対値、ひいてはヒッチ角速度β(・)の絶対値が増加する。このため、目標仮想操舵角速度α (・)が制限されることにより、ヒッチ角速度β(・)が制限される。これにより、ヒッチ角βが、ジャックナイフヒッチ角βjkを超えることが抑制される。また、ヒッチ角βの絶対値が急激に増加することが抑制される。したがって、連結車両10の後退支援制御の実行中、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0087】
(1-5)操作者が入力装置41の操作を通じてトレーラ12の目標仮想操舵角α を指定することによって、非線形かつ不安定系のトレーラ12の後退運動をトラクタ11のみの単体車両、すなわち前輪操舵の普通乗用車とみなして制御することができる。このため、連結車両10の後退操作をより適切に支援することができる。操作者は、連結車両10の後退操作を普通乗用車と同じような感覚で行うことができる。
【0088】
<第2の実施の形態>
つぎに、連結車両の制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の図1図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有する。したがって、第1の実施の形態と同様の部材および構成については、その詳細な説明を割愛する。本実施の形態は、制御装置42の内部的な制御量として、仮想操舵角αに代えて、ヒッチ角βが採用されている点で、第1の実施の形態と異なる。
【0089】
制御装置42は、設定部42Aおよび制御部42Bを有している。
設定部42Aは、入力装置41により生成される電気信号S1、すなわちダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に基づき、トレーラ12の目標ヒッチ角βを設定する。目標ヒッチ角βは、トレーラ12のヒッチ角βの目標値である。設定部42Aは、たとえばダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置とトレーラ12の目標ヒッチ角βとの関係を規定するマップを使用して、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置に応じた目標ヒッチ角βを演算する。操作者は、ダイヤル41Aの操作を通じてトレーラ12を後退させる所望の後退経路に応じた目標ヒッチ角βを指定することが可能である。
【0090】
制御部42Bは、設定部42Aにより設定される目標ヒッチ角β、ヒッチ角センサ51を通じて検出されるヒッチ角β、車速センサ52を通じて検出される車速V、および操舵角センサ30Cを通じて検出される操舵角αを取り込む。
【0091】
制御部42Bは、設定部42Aにより設定される目標ヒッチ角βならびに各センサを通じて検出されるヒッチ角β、車速Vおよび操舵角αに基づき、トラクタ11の前輪11Fの目標操舵角α を演算する。制御部42Bは、トレーラ12のヒッチ角βが目標ヒッチ角βに収束するように、前輪11Fの目標操舵角α を演算する。すなわち、制御部42Bは、トレーラ12のヒッチ角βを目標ヒッチ角βに一致させるべく、ヒッチ角βのフィードバック制御の実行を通じて前輪11Fの目標操舵角α を演算する。
【0092】
<ジャックナイフ抑制処理>
つぎに、ジャックナイフ抑制処理の手順について説明する。
図9のフローチャートに示すように、まず、制御部42Bは、目標ヒッチ角βを演算する(ステップS201)。目標ヒッチ角βは、制御量としてのヒッチ角βの目標値である。
【0093】
制御部42Bは、たとえば、入力装置41により生成される電気信号S1、すなわちダイヤル41Aの基準位置を基準とする操作量あるいは操作位置に基づき、目標ヒッチ角βを演算する。制御部42Bは、たとえば、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置と目標ヒッチ角βとの関係を規定するマップを使用して、ダイヤル41Aの操作量あるいは操作位置に応じた目標ヒッチ角βを演算する。
【0094】
また、制御部42Bは、ジャックナイフヒッチ角βjkを演算する(ステップS202)。ジャックナイフヒッチ角βjkは、ジャックナイフ現象が発生するかどうかのヒッチ角βの境界値である。ジャックナイフヒッチ角βjkは、物理的には、トラクタ11の前輪11Fの最大操舵角α1mxにおいて、ヒッチ角βの時間変化率であるヒッチ角速度β(・)の値が「0」となるときのヒッチ角βとして定義される。「・」は、時間微分を示す。最大操舵角α1mxは、物理的に取り得る、トラクタ11の前輪11Fの操舵角αの最大値である。
【0095】
ヒッチ角速度β(・)の運動方程式は、先の数式2で表される。制御部42Bは、数式2において、操舵角αに最大操舵角α1mxを代入するとともに、ヒッチ角速度β(・)に「0」を代入する。この後、制御部42Bは、数式2をヒッチ角βについて解くことにより、ジャックナイフヒッチ角βjkを得る。
【0096】
制御部42Bは、先のステップS202により演算されるジャックナイフヒッチ角βjkに基づき、目標ヒッチ角βに対する角度制限値βmxを演算する(ステップS203)。角度制限値βmxは、正の角度制限値である上限値+βjkと、負の角度制限値である下限値-βjkとを含む。すなわち、ジャックナイフヒッチ角βjkが角度制限値βmxとして設定される。
【0097】
つぎに、制御部42Bは、目標ヒッチ角βの絶対値が角度制限値βmxの絶対値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS204)。
制御装置42は、先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βの絶対値が角度制限値βmxの絶対値よりも小さくないとき(ステップS204でNO)、ステップS205へ処理を移行する。
【0098】
ステップS205において、制御装置42は、先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βを、角度制限値βmxに制限する。制御装置42は、角度制限値βmxに制限された目標ヒッチ角βを、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標ヒッチ角βとして保持する。
【0099】
先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βの絶対値が角度制限値βmxの絶対値よりも小さいとき(ステップS204でYES)、先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βの値を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標ヒッチ角βとして保持する。
【0100】
つぎに、制御装置42は、目標ヒッチ角速度β(・)に対する速度制限値βmx(・)を演算する(ステップS206)。目標ヒッチ角速度β(・)は、目標ヒッチ角βの時間変化率である。
【0101】
ヒッチ角速度β(・)の運動方程式は、先の数式2で表される。ここでは、トラクタ11の前輪11Fの転舵速度を抑えるべくヒッチ角速度β(・)を制限する観点から、操舵角αを含む数式2の第2項における「tanα」の値を制限する。ヒッチ角速度β(・)と、前輪11Fの転舵速度との間には、相関関係がある。
【0102】
「α>0」である場合、次時刻の「tan(α′)」は、つぎの数式5に示される関係を有する。
【0103】
【数5】
【0104】
ただし、「α1mx」は、トラクタ11の前輪11Fの最大操舵角である。「α1mx(・)」は、最大操舵角α1mxの時間変化率である最大操舵角速度である。最大操舵角速度α1mx(・)は、前輪11Fの最大操舵角α1mxを時間で微分することにより得られる。
【0105】
数式5の第2項または第3項を「tanα」に対する制約として使用する。数式5の第3項は、第2項よりも強い制約である。
第2項または第3項を先の数式2に代入することにより、目標ヒッチ角速度β(・)に対する速度制限値βmx(・)が得られる。
【0106】
つぎに、制御装置42は、目標ヒッチ角速度β(・)の絶対値が速度制限値βmx(・)の絶対値よりも小さいかどうかを判定する(ステップS207)。
目標ヒッチ角速度β(・)は、先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βの値を、先の数式2の代入することにより得られる。
【0107】
制御装置42は、目標ヒッチ角速度β(・)の絶対値が速度制限値βmx(・)の絶対値よりも小さくないとき(ステップS207でNO)、ステップS108へ処理を移行する。
【0108】
ステップS208において、制御装置42は、先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βに基づく目標ヒッチ角速度β(・)を、速度制限値βmx(・)に制限する。制御装置42は、速度制限値βmx(・)に制限された目標ヒッチ角速度β(・)を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標ヒッチ角速度β(・)として保持する。
【0109】
制御装置42は、目標ヒッチ角速度β(・)の絶対値が速度制限値βmx(・)の絶対値よりも小さいとき(ステップS207でYES)、先のステップS201で演算された目標ヒッチ角βに基づく目標ヒッチ角速度β(・)を、連結車両10の挙動制御に使用される最終的な目標ヒッチ角速度β(・)として保持する。
【0110】
制御装置42は、制御目標値である最終的な目標ヒッチ角βおよび最終的な目標ヒッチ角速度β(・)を使用して、連結車両10の挙動を制御する(ステップS209)。
<制御目標値の挙動>
つぎに、制御目標値である目標ヒッチ角βの挙動の一例について説明する。
【0111】
目標ヒッチ角βおよび目標ヒッチ角速度β(・)を制限しない比較例を検討する。比較例において、ダイヤル41Aの操作を通じて、角度制限値βmxの絶対値を超える目標ヒッチ角βが設定されるとき、目標ヒッチ角βは、たとえば、つぎのように変化する。
【0112】
図6のグラフに特性線L1で示すように、後退支援制御の実行開始を契機として(時刻t)、目標ヒッチ角βの絶対値は、初期値である「0」から今回の設定値β へ向けて徐々に増加する。設定値β は、角度制限値βmxの絶対値を超える値である。目標ヒッチ角βの絶対値は、たとえば、速度制限値βmx(・)を超える目標ヒッチ角速度β(・)で増加する。目標ヒッチ角速度β(・)は、目標ヒッチ角βの絶対値の単位時間当たりの変化量であって、特性線L1の傾きを示す。目標ヒッチ角βの絶対値は、角度制限値βmxの絶対値を超え、やがて今回の設定値β に達する(時刻t)。
【0113】
これに対し、目標ヒッチ角βおよび目標ヒッチ角速度β(・)を制限する本実施の形態について検討する。本実施の形態において、ダイヤル41Aの操作を通じて、角度制限値βmxの絶対値を超える目標ヒッチ角βが設定されるとき、目標ヒッチ角βは、つぎのように変化する。
【0114】
図6のグラフに特性線L2で示すように、後退支援制御の実行開始を契機として(時刻t)、目標ヒッチ角βの絶対値は、初期値である「0」から今回の設定値β へ向けて徐々に増加する。ただし、目標ヒッチ角βの絶対値は、速度制限値βmx(・)に制限された目標ヒッチ角速度β(・)で増加する。すなわち、特性線L2の傾きは、特性線L1の傾きよりも小さい。目標ヒッチ角βの絶対値は、やがて角度制限値βmxの絶対値に達する(時刻t)。今回の設定値β は角度制限値βmxの絶対値を超える値であるものの、目標ヒッチ角βの絶対値は、角度制限値βmxの絶対値に制限された状態に維持される。
【0115】
<第2の実施の形態の作用>
つぎに、第2の実施の形態の作用を説明する。
一例として、連結車両10は後退右旋回を行った後、後退左旋回を行う。後退右旋回を行うときと、後退左旋回を行うときの旋回半径は同じである。また、旋回を行う際、ダイヤル41Aの操作を通じて、トラクタ11の前輪11Fの物理的な可動範囲の限界値である最大操舵角α1mxを超える値の目標操舵角α が設定される。
【0116】
図10(a)のグラフに示すように、連結車両10の後退右旋回の開始に伴い(時刻t10)、トラクタ11の前輪11Fの操舵角αは、一旦、負方向へ変化した後、正方向へ徐々に増加する。やがて、操舵角αは、正の一定値に達する。操舵角αは、正の一定値に達した以降、所定の期間だけ、正の一定値に維持される。正の一定値の絶対値は、最大操舵角α1mxの絶対値未満の値である。
【0117】
連結車両10の後退右旋回が終了した後、今度は、連結車両10の後退左旋回が開始される(時刻t11)。操舵角αは、最大操舵角α1mxの絶対値未満の正の一定値から、再び正方向へ向けて増加を開始する。これは、たとえば、連結車両10の物理的な制約による操舵角αの応答遅れに起因する。操舵角αは、最大操舵角α1mxに達した後、今度は、負方向へ向けて減少し、負の一定値に維持される。
【0118】
目標ヒッチ角速度β(・)を制限しない比較例の場合、ヒッチ角βは、つぎのように変化する。
図10(b)のグラフに示すように、比較例において、連結車両10の後退右旋回が開始されたとき(時刻t10)、操舵角αの正方向への増加に伴い、ヒッチ角βは負方向へ徐々に増加する。ヒッチ角βは、負の目標ヒッチ角βを負方向へ行き過ぎた後、今度は正方向へ増加し、やがて負の目標ヒッチ角βに達する。ヒッチ角βは、負の目標ヒッチ角βに達した以降、所定の期間だけ、負の目標ヒッチ角βに維持される。
【0119】
連結車両10の後退右旋回が終了した後、今度は、連結車両10の後退左旋回が開始される(時刻t11)。ヒッチ角βは、負の目標ヒッチ角βから、正方向へ徐々に増加する。ヒッチ角βは、正の目標ヒッチ角βを正方向へ行き過ぎた後、今度は負方向へ変化し、やがて正の目標ヒッチ角βに達する。ヒッチ角βは、正の目標ヒッチ角βに達した以降、正の目標ヒッチ角βに維持される。
【0120】
図10(b)のグラフに示すように、比較例では、ヒッチ角βのオーバーシュートが発生する。オーバーシュートは、制御量であるヒッチ角βが、目標値である目標ヒッチ角βを行き過ぎることである。連結車両10の物理的な制約などにより、操舵角αおよびヒッチ角βには、応答遅れが存在する。このため、目標操舵角α が急激に変化したとき、操舵角αが目標操舵角α の変化に追従することができないおそれがある。また、目標ヒッチ角βが急激に変化したとき、ヒッチ角βが目標ヒッチ角βの変化に追従することができないおそれがある。
【0121】
つぎに、目標ヒッチ角速度β(・)を制限する本実施の形態について検討する、本実施の形態において、操舵角αおよびヒッチ角βは、つぎのように変化する。連結車両10の旋回方向、およびダイヤル41Aの操作量などの前提条件は、先の比較例と同じである。すなわち、連結車両10は後退右旋回を行った後、後退左旋回を行う。後退右旋回を行うときと、後退左旋回を行うときの旋回半径は同じである。また、旋回を行う際、ダイヤル41Aの操作を通じて、トラクタ11の前輪11Fの物理的な可動範囲の限界値である最大操舵角α1mxを超える値の目標操舵角α が設定される。
【0122】
図11(a)に示すように、操舵角αは、図10(a)に示される先の比較例と同様に変化する。図11(b)に示すように、操舵角αの正方向への増加に伴い、ヒッチ角βは負方向へ徐々に増加し、やがて負の目標ヒッチ角βに達する。図10(b)に示される先の比較例と異なり、ヒッチ角βが負の目標ヒッチ角βを負方向へ行き過ぎることはない。ヒッチ角βは、負の目標ヒッチ角βに達した以降、所定の期間だけ、負の目標ヒッチ角βに維持される。
【0123】
連結車両10の後退右旋回が終了した後、今度は、連結車両10の後退左旋回が開始される(時刻t11)。ヒッチ角βは、負の目標ヒッチ角βから、正方向へ徐々に増加し、やがて正の目標ヒッチ角βに達する。図10(b)に示される先の比較例と異なり、ヒッチ角βは、正の目標ヒッチ角βを正方向へ行き過ぎることはない。ヒッチ角βは、正の目標ヒッチ角βに達した以降、正の目標ヒッチ角βに維持される。
【0124】
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、つぎの効果を奏する。
(2-1)制御装置42は、連結車両10の後退制御の目標値である目標ヒッチ角βを制限する処理を実行するように構成される。制御装置42は、目標ヒッチ角βに対する角度制限値βmxを設定する。目標ヒッチ角βが角度制限値βmxに制限されることにより、角度制限値βmxを超える、過大な値を有する目標ヒッチ角βが演算されることを抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0125】
(2-2)目標ヒッチ角βの絶対値が増加するにつれて、ヒッチ角βの絶対値が増加する。このため、目標ヒッチ角βの絶対値を制限することにより、ヒッチ角βの絶対値を制限することができる。したがって、ヒッチ角βの絶対値が、ジャックナイフヒッチ角βjkの絶対値を超えることが抑制される。このため、連結車両10の後退支援制御の実行中、ジャックナイフ現象の発生を抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0126】
(2-3)制御装置42は、目標ヒッチ角βの時間変化率を制限する処理を実行するように構成される。制御装置42は、目標ヒッチ角βの時間変化率である目標ヒッチ角速度β(・)に対する速度制限値α2mx(・)を設定する。目標ヒッチ角速度β(・)は、速度制限値α2mx(・)に制限される。このため、目標ヒッチ角βは、制御装置42の内部的な制御量であるヒッチ角βが追従できない変化率で変化することが抑制される。これにより、ヒッチ角βが目標ヒッチ角βを行き過ぎる、いわゆるオーバーシュートの発生が抑えられる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0127】
(2-4)目標ヒッチ角速度β(・)の絶対値が増加するにつれて、ヒッチ角速度β(・)の絶対値が増加する。このため、目標ヒッチ角速度β(・)が制限されることにより、ヒッチ角速度β(・)が制限される。これにより、ヒッチ角βが、ジャックナイフヒッチ角βjkを超えることが抑制される。したがって、連結車両10の後退支援制御の実行中、ジャックナイフ現象の発生を、より適切に抑制することができる。ひいては、より適切な車両挙動を実現することができる。
【0128】
(2-5)操作者が入力装置41の操作を通じてトレーラ12の目標ヒッチ角βを指定することによって、非線形かつ不安定系のトレーラ12の後退運動を制御することができる。このため、連結車両10の後退操作をより適切に支援することができる。
【0129】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・制御装置42は、連結車両の後退支援制御の実行時、様々な情報を表示装置20の画面に表示させるようにしてもよい。制御装置42は、たとえばつぎの情報(B1)~(B3)のうち少なくとも1つを表示装置20の画面に表示させる。
【0130】
(B1)制御目標値の制限値
制御装置42は、制御目標値に対する制限値を表示装置20の画面に表示させるようにしてもよい。第1の実施の形態において、制御装置42は、目標仮想操舵角α に対する制限値である角度制限値α2mxを表示装置20の画面に数値表示させる。第2の実施の形態において、制御装置42は、目標ヒッチ角βに対する角度制限値βmxを表示装置20の画面に数値表示させる。
【0131】
(B2)制御目標値の制限範囲
第1の実施の形態において、制御装置42は、目標仮想操舵角α が制限される範囲を、表示装置20の画面に視覚的に表示させてもよい。たとえば、目標仮想操舵角α が制限される角度範囲は、ヒッチ点Cを中心とする2本の直線を使用して、視覚的に表示される。第2の実施の形態において、制御装置42は、目標ヒッチ角βが制限される範囲を、表示装置20の画面に表示させてもよい。たとえば、目標ヒッチ角βが制限される角度範囲は、ヒッチ点Cを中心とする2本の直線を使用して、視覚的に表示される。
【0132】
(B3)仮想操舵角
制御装置42は、たとえば、表示装置20の画面に、仮想的な前輪を有する単体車両とみなしたトレーラモデルを表示させるようにしてもよい。制御装置42は、仮想操舵角αの変化に応じて、トレーラモデルの仮想的な前輪を変位させる。
【0133】
・第1の実施の形態において、たとえば、目標仮想操舵角α の値と角度制限値α2mxとの差の値が、第1のしきい値未満の値に至ったとき、その旨連結車両10の操作者に報知するようにしてもよい。また、第2の実施の形態において、目標ヒッチ角βの値と角度制限値βmxとの差の値が、第2のしきい値未満の値に至ったとき、その旨、連結車両10の操作者に報知するようにしてもよい。制御装置42は、たとえば、表示装置20を通じて、連結車両10の操作者の視覚に訴えて報知する。また、制御装置42は、車載のスピーカを通じて、連結車両10の操作者の聴覚に訴えて報知するようにしてもよい。
【0134】
・さらに、制御装置42は、制御目標値が制限値に近づいていることを、連結車両10の操作者の触覚に訴えて報知するようにしてもよい。
図12に示すように、入力装置41は、たとえば、モータ41Bを有している。モータ41Bは、ダイヤル41Aに連結されている。制御装置42は、モータ41Bの制御を通じて、ダイヤル41Aにトルクを付与する。制御装置42は、たとえば、制御目標値が制限値に近づいた時点で、ダイヤル41Aに反力Fを付与する。制御目標値が制限値に近づいた時点とは、たとえば、制御目標値と制限値との差の値が、定められたしきい値未満の値に至ったときである。反力Fは、ダイヤル41Aの操作方向D1と反対方向の力である。また、制御装置42は、制御目標値が制限値に近づくにつれて、反力Fの値を徐々に増加させるようにしてもよい。さらに、制御装置42は、制御目標値が制限値に達するタイミングで、ダイヤル41Aを回転操作することが困難となる程度の反力Fを、ダイヤル41Aに付与するようにしてもよい。ダイヤル41Aは、仮想的な操作範囲の限界位置である仮想エンド位置に保持される。
【0135】
・第1および第2の実施の形態のように、トラクタ11の操舵機構として前輪11Fとステアリングホイールとの間を動力伝達可能に連結するタイプの操舵機構が採用される場合、入力装置41として、つぎの構成を採用してもよい。たとえば先のダイヤル41Aに代えて、スライダを有する構成を採用してもよい。スライダは連結車両10の後退方向あるいは後退経路を指定する専用品であってもよいし、他の車載機器を操作するためのスライダであってもよい。スライダが他の車載機器を操作するためのものである場合、連結車両10の後退支援機能がオフからオンへ切り替えられることを契機として、スライダの機能が入力装置41としての機能へ切り替えられる。
【0136】
・第1および第2の実施の形態においては、トラクタ11の操舵機構として前輪11Fとステアリングホイールとの間の動力伝達が遮断されるステアバイワイヤタイプの操舵機構が採用されることがある。この場合、ステアリングホイールを入力装置41として使用してもよい。これは、前輪11Fとステアリングホイールとを互いに独立して動かすことができるからである。トラクタ11の前輪11Fは、転舵モータの駆動を通じて操舵される。この場合、連結車両10の後退支援機能がオフからオンへ切り替えられることを契機として、ステアリングホイールの機能が入力装置41としての機能へ切り替えられる。操作者は、ステアリングホイールの操作を通じて、連結車両10の後退方向あるいは後退経路を指定する。
【0137】
・トレーラ12は、仮想的な前輪を有する単体車両とみなせる。この特徴を活かして、連結車両10の自動後退システムを構築することができる。たとえば、第1の実施の形態において、制御装置42の内部的な制御量がトレーラ12の仮想操舵角αであることを踏まえて、既存の普通乗用車用の自動駐車制御をトレーラ12の自動後退制御に適用することが可能である。このため、トレーラ12を目標軌道に追従させるための制御を新たに開発する必要がない。
【符号の説明】
【0138】
10…連結車両
11…トラクタ
11F…前輪(操舵輪)
12…トレーラ
42…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12