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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125314
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】患者隔離装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 10/00 20060101AFI20230831BHJP
   A61G 10/02 20060101ALI20230831BHJP
   A61G 7/05 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61G10/00 K
A61G10/00 C
A61G10/02 M
A61G7/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029332
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平岡 典子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 朋美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
(72)【発明者】
【氏名】上田 満隆
(72)【発明者】
【氏名】小島 弘之
(72)【発明者】
【氏名】東畑 太一郎
【テーマコード(参考)】
4C040
4C341
【Fターム(参考)】
4C040AA30
4C040GG06
4C341JJ03
4C341KK05
4C341KL04
4C341KL07
(57)【要約】
【課題】治療装置および医療従事者を患者から隔離することが可能な患者隔離装置を提供する。
【解決手段】隔離装置100は、空間を介して少なくとも患者の上方および側方を覆う幕体200と、幕体200を支持する支持体300とを備えている。幕体200は、患者に治療を行なうための治療装置と患者との間を仕切る。隔離装置100において、幕体200を平面視した面積と患者が使用するベッド10を平面視した面積とが近似していてもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を介して少なくとも患者の上方および側方を覆う幕体と、
前記幕体を支持する支持体と、を備え、
前記幕体は、患者に治療を行なうための治療装置と患者との間を仕切る、患者隔離装置。
【請求項2】
前記幕体を平面視した面積と患者が使用するベッドを平面視した面積とが近似している、請求項1に記載の患者隔離装置。
【請求項3】
患者が使用するベッドに取り付けまたは載置される、請求項1または請求項2に記載の患者隔離装置。
【請求項4】
前記幕体は、患者が出入り可能な開口部を有する幕体本体と、前記開口部を開閉可能に閉鎖するためのフラップとを有し、
前記フラップはその上端部が前記幕体本体に連続しており、その両側部および下部が前記幕体本体に着脱可能である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の患者隔離装置。
【請求項5】
前記フラップの前記上端部は患者の上方に位置する、請求項4に記載の患者隔離装置。
【請求項6】
前記支持体は複数の支柱を有し、
前記複数の支柱は、前記開口部と少なくとも一部が重なり前記フラップを支持するフラップ用支柱を含み、
前記フラップ用支柱の少なくとも前記開口部と重なる部分は取り外し可能である、請求項4または請求項5に記載の患者隔離装置。
【請求項7】
前記幕体に接続されて前記幕体の内部を陰圧にする吸引装置と、
前記吸引装置により吸引された空気を除菌する除菌装置とをさらに備えた、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の患者隔離装置。
【請求項8】
前記幕体には前記幕体の内部が陰圧のときに開いて前記幕体の内部を外部と連通させる弁が設けられている、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の患者隔離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、感染対策用患者隔離装置に関する。より詳しくは、本開示は患者に治療を行なうとき等に用いられる患者隔離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1(特開2010-264076号公報)には、感染症などの患者を他の空間から隔離するための隔離装置が開示されている。この隔離装置は、患者が使用するベッドを含む病室内の広い範囲を幕体で覆う。医療従事者は幕体内に入室して患者に必要な施術を行なう。幕体は病室の天井付近から床に届く高さを有する。幕体は側面に出入り口を有しており、患者および医療従事者はこの出入り口から幕体の内部に出入りする。
【0003】
幕体の内部に入る医療従事者は感染対策の装備を行なう必要がある。幕体の内部に入る医療従事者は、幕体内の感染患者のみの対応に専念することとなり、他の患者への対応が困難となる。このように従来の隔離装置は、医療従事者の作業効率を著しく低下させるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-264076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで患者を感染症から保護するため、または、感染症に罹患した患者から医療従事者を保護するために隔離装置を用いることが望ましい。たとえば治療中の患者が感染症に罹患すると一般的に重症化しやすいため、感染症に感染する可能性がある状況においては患者を隔離することが好ましい。また、治療中の患者が何らかの感染症にさらに罹患してしまった場合でも治療を継続する必要があるが、その場合には医療従事者を患者から隔離することが好ましい。
【0006】
たとえば特許文献1に記載の隔離装置を用いて、患者に対して治療装置による治療を行なうと仮定すると、患者と治療装置とが隔離装置の幕体に同時に覆われることとなる。それは患者と治療装置とは血液回路を構成するチューブなどで接続される場合があり、大きく離すことはできないため、治療装置は隔離装置内のベッド付近に配置されることとなるためである。また、医療従事者は治療開始時または治療中に治療装置を操作する場合があるが、その場合には隔離装置の幕体内に入室する必要がある。さらに、医療従事者は患者に対して穿刺などの処置を行なう場合があるが、その場合にも隔離装置の幕体内に入室することとなる。
【0007】
従来の隔離装置を用いた場合、治療装置が隔離装置内に位置することとなるため、患者が感染症に罹患していた場合は治療装置が汚染される可能性がある。また、患者と医療従事者とが同時に隔離装置に入室することになるので、従来の隔離装置で患者と医療従事者とを隔離することはできない。
【0008】
したがって、この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、治療装置および医療従事者と患者とを隔離することが可能な患者隔離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に基づいた患者隔離装置に従えば、空間を介して少なくとも患者の上方および側方を覆う幕体と、上記幕体を支持する支持体と、を備えている。上記幕体は、患者に治療を行なうための治療装置と患者との間を仕切る。
【0010】
上記患者隔離装置において、上記幕体を平面視した面積と患者が使用するベッドを平面視した面積とが近似していてもよい。
【0011】
上記患者隔離装置において、患者が使用するベッドに取り付けまたは載置されてもよい。
【0012】
上記患者隔離装置において、上記幕体は、患者が出入り可能な開口部を有する幕体本体と、上記開口部を開閉可能に閉鎖するためのフラップとを有し、上記フラップはその上端部が上記幕体本体に連続しており、その両側部および下部が上記幕体本体に着脱可能としてもよい。
【0013】
上記患者隔離装置において、上記フラップの上記上端部は患者の上方に位置してもよい。
【0014】
上記患者隔離装置において、上記支持体は複数の支柱を有し、上記複数の支柱は、上記開口部と少なくとも一部が重なり上記フラップを支持するフラップ用支柱を含み、上記フラップ用支柱の少なくとも上記開口部と重なる部分は取り外し可能としてもよい。
【0015】
上記患者隔離装置は、上記幕体に接続されて上記幕体の内部を陰圧にする吸引装置と、上記吸引装置により吸引された空気を除菌する除菌装置とをさらに備えてもよい。
【0016】
上記患者隔離装置において、上記幕体には上記幕体の内部が陰圧のときに開いて上記幕体の内部を外部と連通させる弁が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示に係る患者隔離装置によると、治療装置を患者から隔離することができ、また、治療装置を操作する医療従事者を患者から隔離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態における隔離装置を用いて治療を行なう状態を模式的に示す平面図である。
図2】実施の形態における隔離装置をベッドに載置した状態を示す斜視図である。
図3】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。
図4】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。
図5】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。
図6】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。
図7】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。
図8】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す正面図である。
図9】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。
図10】実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す正面図である。
図11】実施の形態における隔離装置の弁を示す正面図である。
図12】実施の形態における隔離装置の弁を示す断面図である。
図13】実施の形態における隔離装置の弁を示す断面図である。
図14】実施の形態における除菌装置を示す断面図である。
図15】実施の形態におけるフックを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示に基づいた実施の形態における患者隔離装置の構造について、図を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、実施の形態における隔離装置を用いて治療を行なう状態を模式的に示す平面図である。本実施の形態における治療装置としては、たとえば血液透析装置、血液濾過装置、血液濾過透析装置、血液浄化装置などが挙げられる。図1を参照して、本実施の形態の隔離装置100を使用する状態の一例について説明する。以下の実施形態の説明においては、治療装置が透析装置の場合について説明するが、治療装置は透析装置に限定されるものではない。
【0021】
隔離装置100は患者1が使用するベッド10に載置されている。治療装置としての透析装置20がベッド10の側方に設置されている。透析装置20と患者1との間には隔離装置100の幕体が位置している。隔離装置100の幕体は、透析装置20を用いて患者1に透析を行なう際に患者1と透析装置20とを仕切る。治療を行なう状態において、透析装置20と患者1との間は血液回路を構成するチューブ30で接続されている。チューブ30は幕体の開口部を通過している。
【0022】
図1に示すように、隔離装置100を平面視した面積とベッド10を平面視した面積とは近似している。本実施の形態の隔離装置100を平面視した面積はベッド10を平面視した面積よりも僅かに小さい。隔離装置100を平面視した面積はベッド10を平面視した面積と同じであってもよいし、僅かに大きくてもよい。
【0023】
本実施の形態では、隔離装置100はベッド10に載置されている。ここで載置とは、ベッド10のマット12上に置かれる場合のみならず、ベッド10のフレーム14上に置かれ、マット12とフレーム14との間に隔離装置100の一部が挟み込まれる場合も含む。
【0024】
隔離装置100には、内部を陰圧にするとともに、ウィルスなどを除去する吸引装置500が接続されている。吸引装置500は、陰圧を形成するためのファンを有する。吸引装置500の内部には、紫外線照射装置および/またはHEPAフィルタなどからなる除菌装置が設けられており、ウィルスなどを除去して排気することができる。吸引装置500と除菌装置とは別体としてもよい。
【0025】
除菌装置は、紫外線照射装置およびHEPAフィルタの両方を備えてもよいし、その一方のみを備えてもよい。吸引装置500により隔離装置100の内部を陰圧にすることでウィルスなどが隔離装置100の外部に拡散することを抑制する。
【0026】
吸引装置500によって隔離装置100の内部は外気圧に対して2.5パスカル以上低い気圧に保たれることが好ましい。吸引装置500の能力は、1時間あたり12回以上隔離装置100の内部の空気が入れ替わるものであることが好ましい。吸引装置500の風量は30L/h以上であることが好ましい。吸引装置500の風量は可変であることが好ましい。たとえば、吸引装置500の風量は、通常時モードと比較して後述するシャントモード時が3倍以上となることが好ましい。
【0027】
除菌装置の一例として図14に紫外線照射装置550を示す。紫外線照射装置550は筒状の遮蔽壁552と棒状の紫外線ランプ554とを有する。遮蔽壁552は紫外線ランプ554から放射される紫外線が外部に放出されることを防ぐ。
【0028】
遮蔽壁552は中空であり、中空部は空気流路556を形成する。空気流路556には図14に矢印で示す方向に隔離装置100の内部の空気が導かれる。紫外線ランプ554は空気流路556の中心軸に沿って延びる。紫外線ランプ554から放射された紫外線は空気流路556を通過する空気に照射され、その空気を除菌することができる。
【0029】
紫外線ランプ554の紫外線照射能力は、3mJ/m以上であることが好ましい。紫外線ランプ554が3mJ/m以上の紫外線照射能力を有することにより、空気をより確実に除菌することができる。紫外線照射装置550の構造は一例であり、紫外線照射装置550は異なる構造のものであってもよい。
【0030】
図2は隔離装置をベッドに載置した状態を示す斜視図である。図2を参照して本実施の形態の隔離装置100の構造を説明する。本実施の形態の隔離装置100は、空間を介して患者の少なくとも上方および側方を覆う幕体200と、幕体200を支持する支持体300とを備えている。
【0031】
支持体300は、幕体200の長手方向両端部の各々に位置する端部支持体310と、幕体200の長手方向略中央部に位置する中間部支持体330と、幕体200の天井部に長手方向に延びる天井部支持体320とを含む。ここで長手方向とはベッド10を平面視したときの長辺の方向を意味する。
【0032】
端部支持体310および中間部支持体330の各々はアーチ状に構成されている。言い換えると端部支持体310および中間部支持体330は略逆U字型に構成されている。端部支持体310および中間部支持体330はいずれも曲げ方向に弾性を有するポールで構成されている。端部支持体310および中間部支持体330は解放状態においては直線状をなす。曲げ方向に弾性を有するポールとしては、たとえばガラス繊維やカーボン繊維などで補強された樹脂材料製のポールや、アルミニウムなどの比較的変形しやすく軽量な金属製のポールなどを用いることができる。端部支持体310および中間部支持体330として、解放状態でも略逆U字型を保つように成形された部材を用いてもよい。端部支持体310および中間部支持体330はアーチ状の形状を有する構造体に限定されず、上下方向に延びる一対の柱部材の上端を水平方向に延びる梁部材で接続した構造としてもよい。言い換えると、端部支持体310および中間部支持体330を門型の形状を有する構造体としてもよい。端部支持体310および中間部支持体330は、2本の直線方向に延びる部材を上端で角度をなすように接続した形状としてもよい。言い換えると、端部支持体310および中間部支持体330は山型の形状を有する構造体としてもよい。
【0033】
天井部支持体320も端部支持体310および中間部支持体330と同様の材料で構成されたポールからなる。天井部支持体320は長手方向に、一方の端部支持体310と他方の端部支持体310とを結ぶように直線状に延びる。天井部支持体320は中間部支持体330と天井部において交差する方向に延びる。
【0034】
天井部支持体320は、端部支持体310および中間部支持体330と連結されている。ただし、天井部支持体320は、端部支持体310および中間部支持体330とは直接連結せず、幕体200を介してこれらに固定されていてもよい。具体的には、天井部支持体320の端部が挿入されるポケットを幕体200に設けて天井部支持体320と幕体200とを固定してもよい。
【0035】
中間部支持体330は、第1部材332と第2部材334とを含む。第1部材332と第2部材334とは天井部で接続されている。第1部材332は第1開口部214aと重なる側に位置する。第2部材334は第2開口部214bと重なる側に位置する。第1部材332と第2部材334とは接続パイプ336で接続されている。具体的には、第2部材334の天井部側端部に接続パイプ336が固定されている。第1部材332の天井部側の端部が接続パイプ336の開口に挿入されている。接続パイプ336を用いた接続構造に代えて、第1部材332と第2部材334の天井部側端部を幕体200の天井部側に設けたポケットに挿入し、第1部材332と第2部材334とを幕体200を介して間接的に固定しても良い。端部支持体310も中間部支持体330と同様に、第1部材と第2部材の2つの部材を連結する構造としても良い。
【0036】
中間部支持体330の第1部材332および第2部材334の床側端部は、幕体200に設けられたポケット260に挿入されている。中間部支持体330の接続パイプ336は幕体200の内面側に図示しない面ファスナなどを用いて固定されている。
【0037】
中間部支持体330の第1部材332は取り外すことができる。第1部材332を取り外す際には、第1部材332の天井側端部を接続パイプ336から抜き、第1部材332の床側端部をポケット260から抜く。中間部支持体330の第2部材334も取り外すことができる。第2部材334を取り外す際には、第2部材334の接続パイプ336が第1部材332と接続されている場合には、第1部材332の天井側端部を接続パイプ336から抜く。次に第2部材334の床側端部をポケット260から抜く。
【0038】
幕体200は、上部幕体210と床部幕体250とを含む。上部幕体210は、患者の上方および側方を覆う。床部幕体250は患者の下方を覆う。床部幕体250は省略してもよい。床部幕体250に代えて、中間部支持体330の両床側端部間の距離を一定に保つ(拘束する)ベルトなどを取り付けてもよい。ベルトは一方側のポケット260と他方側のポケット260との間を接続する。本実施の形態の床部幕体250はベッド10のマット12とフレーム14との間に挟み込まれている。幕体200を含む隔離装置100はベッド10に載置されている。隔離装置100は、ベッド10のフレーム14に支持体300を固定することで、ベッド10に取り付けてもよい。
【0039】
上部幕体210は長手方向の端部に位置する端部シート212と、内部に横たわる患者の横方向および上方向に位置する本体シート214とを含む。本体シート214および端部シート212は幕体本体を構成する。端部シート212および本体シート214は透明なシートで構成されている。端部シート212は略逆U字型または半円型の外形を有する。端部シート212と本体シート214とは、端部シート212の輪郭に沿って縫い合わされることで接続されている。
【0040】
端部シート212と本体シート214との接続部分に沿ってスリーブ216が設けられている。スリーブ216は端部シート212の輪郭に沿って設けられた筒状のシートである。スリーブ216は長手方向から見ると略逆U字型をなしている。スリーブ216には端部支持体310が挿通している。端部支持体310は、スリーブ216に挿通されることでスリーブ216と同じ逆U字型の形状となる。スリーブ216を挿通する端部支持体310により上部幕体210の長手方向の端部が支持される。
【0041】
本体シート214は患者が出入り可能な第1開口部214aおよび第2開口部214bを有している。第1開口部214aは隔離装置100の一方の側面に設けられている。第2開口部214bは隔離装置100の他方の側面に設けられている。第1開口部214aおよび第2開口部214bがそれぞれの側面に設けられていることで、患者はいずれの側からも出入りすることができる。第1開口部214aおよび第2開口部214bのいずれか一方を省略することも可能である。
【0042】
上部幕体210は、第1開口部214aおよび第2開口部214bを開放可能に閉鎖するためのフラップ220を有している。フラップ220は第1開口部214aおよび第2開口部214bの各々に設けられている。
【0043】
フラップ220は上端部が本体シート214に連続している。本実施の形態ではフラップ220と本体シート214とを一枚の連続したシートで構成している。フラップ220と本体シート214とを別々のシートで構成し、フラップ220の上端部で本体シート214と接続することで両者を連続させてもよい。フラップ220の上端部は上部幕体210の最も高い位置(天井部)に位置している。フラップ220の上端部は隔離装置100内の患者の上方に位置する。天井部支持体320は上部幕体210の内側に位置している。天井部支持体320は上部幕体210の天井部を下から支えている。
【0044】
フラップ220の隅部には図15に示すようなフック290が設けられている。フック290はフック本体292と、ベース294と、固定具296とを有している。フック本体292はC字型に湾曲した部分を有し、この部分を被係合部に引っ掛けることができる。フック本体292の基端側はベース294に固定されている。ベース294および固定具296の一方または両方に磁石が設けられており、ベース294と固定具296は互いに磁力により引き付けられる。ベース294と固定具296との間にはフラップ220が挟み込まれる。これによりフック290をフラップ220に固定している。フラップ220に固定されたフック290をたとえば天井部支持体320に係止することで、フラップ220を仮止めすることができ、フラップ220が垂れ下がるのを防止することができる。
【0045】
第1開口部214aおよび第2開口部214bの下部はベッドの側部に沿って長手方向に直線状に延びる。第1開口部214aおよび第2開口部214bの側部はスリーブ216と略平行に第1開口部214aおよび第2開口部214bの下部から天井部まで直線状に延びる。第1開口部214aおよび第2開口部214bの下部と側部とは曲線で滑らかに繋がれている。
【0046】
フラップ220と本体シート214とはファスナー230で開閉可能に連結されている。ファスナー230は、ファスナー230を開閉するための2つのスライダー232を有している。2つのスライダー232を有することでファスナー230の任意の場所を部分的に開口させることができる。この部分的な開口に隔離装置100に繋がるチューブ30を挿通させることができる。
【0047】
第1開口部214aおよびそのフラップ220と中間部支持体330の第1部材332とは重なっている。第1部材332は第1開口部214aのフラップ用支柱を構成する。中間部支持体330の第1部材332を取り外すことで、フラップ220を開放した状態において第1開口部214aと重なる障害物を無くすことができる。
【0048】
第2開口部214bおよびそのフラップ220と中間部支持体330の第2部材334とは重なっている。第2部材334は第2開口部214bのフラップ用支柱を構成する。中間部支持体330の第2部材334を取り外すことで、フラップ220を開放した状態において第2開口部214bと重なる障害物を無くすことができる。
【0049】
本実施の形態では、フラップ220を中間部支持体330の下側に固定する(吊り下げる)構造としている。逆に、フラップ220を中間部支持体330の第1部材332および第2部材334が下から(幕体200の内側から)支える構造としてもよい。言い換えると、中間部支持体330の第1部材332および第2部材334の上にフラップ220が載置される構造としてもよい。
【0050】
本実施の形態では、中間部支持体330を幕体200の外側に配置している。幕体200の本体シート214およびフラップ220を面ファスナなどで中間部支持体330に固定する。中間部支持体330の第1部材332および第2部材334を取り外す際には当該面ファスナによる固定を解除して第1部材332および第2部材334を取り外す。通常は第1部材332および第2部材334は両方を取り外す。
【0051】
隔離装置100の両側部には吸引装置500のダクトを接続するダクト接続口270を有している。ダクト接続口270には吸引装置500が接続され隔離装置100の内部の空気を吸引装置500により吸引することができる。ダクト接続口270は第1開口部214aおよび第2開口部214bとスリーブ216との間の本体シート214に設けられている。
【0052】
図11から図13に示すように、幕体200の両側部を構成する本体シート214および隔離装置100の端部シート212には弁280が設けられている。弁280は、幕体200に設けられた貫通孔285を塞ぐように幕体200の内側に設けられている。弁280は貫通孔285よりも大きく、弁280の外周部は幕体200と重なる。弁280の上端は幕体200に固定されている。幕体200の内部が負圧になると弁280が内側に開いて、貫通孔285から幕体200の外部の空気を導入することができる。弁280の外周部および貫通孔285の周囲の幕体200には、その平面形状を維持するためのリング状の補強部材を設けてもよい。
【0053】
図3から図10を用いて本実施の形態の患者隔離装置の使用方法について説明する。図3から図7および図9は実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す側面図である。図8および図10は実施の形態における隔離装置を使用する状態を模式的に示す正面図である。
【0054】
図3に示すように、患者が隔離装置100に入室する前に、まず中間部支持体330の第1部材332および第2部材334を取り外す。第1部材332を取り外す際には、まず第1開口部214aを塞ぐフラップ220と中間部支持体330を連結する面ファスナなどによる連結を解除する。次に、第1部材332の天井側端部を接続パイプ336から抜く。続いて、第1部材332の床側端部をポケット260から抜いて第1部材332の固定を解除する。第2部材334の床側端部をポケット260から抜いて第2部材334の固定を解除する。
【0055】
図4に示すように、次にフラップ220を上方にめくり上げて第1開口部214aを開放する。その際には、まずファスナー230を全開にする。ファスナー230を開く前の状態においては、第1開口部214aを塞ぐフラップ220はその両側および下部が本体シート214に着脱自在にファスナー230で固定されている。
【0056】
次にフラップ220の下端を持ち、上方に持ち上げる。図4に示すように、持ち上げたフラップ220を隔離装置100の天井部に載置する。フラップ220を隔離装置100の天井部に載置するか、フラップ220に設けられたフック290を天井部支持体320に係止することで、フラップ220が垂れ下がることを防止することができる。中間部支持体330の第1部材332が取り外されているので、フラップ220を持ち上げることで第1開口部214aを完全に開放することができる。
【0057】
図5に示すように、第1開口部214aが開放された状態において、患者1が隔離装置100に入室する。第1開口部214aにより隔離装置100の天井部まで開放しているので、患者1は広い第1開口部214aから容易に入室することができる。
【0058】
図6は、入室した患者がベットに横たわった状態で、フラップ220を下げて、ファスナー230を閉めた状態を示す。この時、幕体200のダクト接続口270には吸引装置500が接続されている。吸引装置500を作動させて、隔離装置100の内部を陰圧にして、患者の呼気が隔離装置100の外部に漏れないようにしている。吸引装置500から排出される空気は紫外線照射装置550および/またはHEPAフィルターにより除菌される。
【0059】
このとき陰圧によって弁280が内側に開くことで、貫通孔285を通って新鮮な空気が隔離装置100の内部に流入する。医療従事者は、弁280が開いた状態を目視することができる。これにより、医療従事者は、吸引装置500の作動および隔離装置100の内部が陰圧であることを目視確認することができる。
【0060】
隔離装置100が取り付けられたキャスター付きベット10に吸引装置500および除菌装置ならびにこれらを駆動するバッテリを固定してもよい。この場合には、図6に示すように第1開口部214aおよび第2開口部214bを閉鎖し吸引装置500および除菌装置を駆動し続けることで、ベッド10の移動中も周囲に汚染を拡散させることを防止することができる。これにより周囲への汚染を防ぎながらベッド10を汚染区域から治療を行なう清浄区域に移動させることが可能である。
【0061】
続いて図7および図8に示すように、患者1がベッドに横たわった状態で医療従事者6が必要な処置を行なうが、その際にはフラップ220を垂れ下げることで、患者1の頭部を含む身体本体と医療従事者6との間をフラップ220で仕切ることができる。患者1と医療従事者6とを仕切るフラップ220は患者1の上方に位置する。フラップ220の上端と本体シート214とは患者1の上方で連続しているので、垂れ下げたフラップ220が患者1と医療従事者6との間に位置する。
【0062】
医療従事者6は、治療を行なうために患者1の腕2のシャントに治療装置としての透析装置20から延びるチューブ30を接続する必要がある。図8に示すように、患者1はフラップ220の下端から腕2のみをフラップ220の医療従事者6の側に出す。シャントにチューブ30を接続する作業時(シャントモード時)においては、吸引装置500の風量を通常モード時よりも増加させることで、隔離装置100の内部の陰圧を保つことが好ましい。隔離装置100の内部を陰圧に確実に保つため、シャント時モードにおいては通常時モードの3倍以上の風量とすることが好ましい。
【0063】
医療従事者6の作業においては、図7に示すように、患者1のシャントが設けられた腕の真上に医療従事者6の目線を取る事ができ、医療従事者6が容易に穿刺でき、医療従事者6の作業を妨げることがないことが重要である。医療従事者6は患者1の頭部を含む身体本体と医療従事者6との間をフラップ220で仕切ることで医療従事者の目線を遮ることなく両者を仕切ることができる。医療従事者6は隔離装置100の外側に位置して、血管に穿刺された針とチューブ30とを接続することができるので、その作業を容易にすることができる。続く透析装置20を操作する作業において、隔離装置100が医療従事者6の導線を妨げることがない。
【0064】
次に図9および図10に示すように、フラップ220の内側に患者1の腕をいれ、チューブ30を挿通するための空間を空けてフラップ220のファスナー230を閉じる。その後、中間部支持体330の第1部材332および第2部材334を再度取り付ける。第1部材332および第2部材334を再度取り付け、第1部材332にフラップ220を固定することで、フラップ220と患者1との距離が離れる。これにより隔離装置100の内部の空間を広く保つことができ、治療中の患者1が感じる圧迫感を緩和することができる。
【0065】
ファスナー230は2つのスライダー232を有しているので、2つのスライダー232の間の隙間にチューブ30を通すことができる。治療を実施している間はフラップ220を閉鎖したままにしておくことで、患者1を病室内の他の空間から隔離しやすくなる。
【0066】
治療を行なう状態において、患者1は隔離装置100の内部に位置し、透析装置20は隔離装置100の外部に位置するので、透析装置20を患者1から隔離することができる。仮に患者1が感染症に罹患していたとしても透析装置20が汚染されることを防止し、透析装置20のような治療装置を介した二次感染を防止することができる。また、透析などの治療中にも透析装置20を操作する医療従事者6を患者1から隔離することができる。
【0067】
患者によって、シャントは左腕に設けられている場合と、右腕に設けられている場合とがある。本実施の形態の隔離装置100においては、隔離装置100の両側面に左右対称に第1開口部214aおよび第2開口部214bならびにフラップ220が設けられているので、患者のシャントの位置に合わせて対応することができる。
【0068】
上記の説明においては、感染した患者を隔離装置100の内部に入れることで、隔離装置100の外側に患者および医療従事者を保護する場合について説明した。吸引装置500による空気の流れを逆にすることにより、感染していない患者を隔離装置100の内部に入れて、汚染した外部空間から患者を隔離することができる。この場合には隔離装置100の内部は陽圧となるので、弁280を幕体200の外側に設けて、隔離装置100の内部の空気を外側に排出できるようにすることが好ましい。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0070】
1 患者、2 腕、6 医療従事者、10 ベッド、12 マット、14 フレーム、20 透析装置(治療装置)、30 チューブ、100 隔離装置、200 幕体、210 上部幕体、212 端部シート、214 本体シート、214a 第1開口部、214b 第2開口部、216 スリーブ、220 フラップ、230 ファスナー、232 スライダー、250 床部幕体、260 ポケット、270 ダクト接続口、280 弁、285 貫通孔、290 フック、300 支持体、310 端部支持体、320 天井部支持体、330 中間部支持体、332 第1部材(フラップ用支柱)、334 第2部材(フラップ用支柱)、336 接続パイプ、500 吸引装置、550 紫外線照射装置、552 遮蔽壁、554 紫外線ランプ、556 空気流路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15