(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125323
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】超音波カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 8/12 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
A61B8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029344
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】石原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】清水 克彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰一
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】神宮 裕貴
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB11
4C601BB14
4C601BB24
4C601DD14
4C601DD15
4C601EE04
4C601FE04
4C601GA03
4C601GB50
4C601GC15
(57)【要約】
【課題】振動子の先端側側面から発振される超音波の反射を抑制して、超音波画像のノイズを低減できる超音波カテーテルを提供する。
【解決手段】長尺なシース15と、超音波振動子41と、超音波振動子41を保持するシャフト50と、シース15の開口部20aを封止し、X線造影性を有するキャップ22と、を備え、キャップ22は、超音波振動子41に面する基端部71と、シース15の内周面と対向する外周面72と、を含む延長部70を有し、基端部71は、超音波振動子41からの超音波を散乱させる超音波散乱面73を有し、外周面72は、シース15の内周面と液密に密着した密着部72aを有し、超音波散乱面73は、超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜した超音波カテーテル10である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に開口部を有する長尺なシースと、
前記シース内に収納された超音波振動子と、
前記シース内で前記超音波振動子を保持するシャフトと、
前記シースの前記開口部を封止し、X線造影性を有する造影部を有するキャップと、を備え、
前記超音波振動子は、前記シースの中心軸と略平行な、または前記シースの中心軸に対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面を有し、
前記キャップは、前記開口部から前記シース内に延びて、前記超音波振動子に面する基端部と、前記シースの内周面と対向する外周面と、を含む延長部を有し、
前記基端部は、前記超音波振動子から当該基端部に向かう超音波を散乱させる超音波散乱面を有し、
前記外周面は、前記シースの内周面と液密に密着した密着部を有し、
前記超音波散乱面は、前記超音波発振面を面内方向に拡大した仮想面と交差し、かつ、前記シースの中心軸と垂直な平面に対して傾斜している超音波カテーテル。
【請求項2】
前記超音波散乱面は、前記密着部から基端側に向かう凸状で前記シースの前記中心軸上に頂点が配置される略錐形状部の表面に形成される請求項1に記載の超音波カテーテル。
【請求項3】
前記略錐形状部は、略円錐形状を有する請求項2に記載の超音波カテーテル。
【請求項4】
前記略錐形状部は、前記超音波散乱面が前記シースの前記中心軸と垂直な平面に対して35度以上の傾斜角を有するように形成されている請求項2または3に記載の超音波カテーテル。
【請求項5】
前記超音波発振面は、前記シースの前記中心軸から径方向外側に離間した位置に配置されている請求項1~4のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【請求項6】
前記超音波散乱面は、前記超音波振動子から離間する方向に向かう凹状で前記シースの前記中心軸上に頂点が配置される略錐形状部の表面に形成される請求項1に記載の超音波カテーテル。
【請求項7】
前記キャップは、前記延長部の先端に前記開口部から先端側に突出すると共に、前記シースの外径と略同一の外径を有する先端突出部を有し、
前記造影部は、前記先端突出部および前記延長部を含む部分で構成されている請求項1~6のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【請求項8】
前記先端突出部は、先端側に向かって凸状のドーム形状を有する請求項7に記載の超音波カテーテル。
【請求項9】
前記超音波振動子は、前記超音波発振面と略垂直な側面のうち、少なくとも前記キャップの前記基端部に面する部分を覆うように配置された超音波減衰部材を有する請求項1~8のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【請求項10】
前記超音波振動子は、前記シャフトによって前記シースの前記中心軸に略沿って移動する請求項1~9のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓や血管などの内腔に挿入して画像を取得する超音波カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓や血管などから患部を診察する場合に、生体の内腔に挿入されて、超音波を利用して画像を取得する超音波カテーテルが使用される。超音波カテーテルは、超音波を送受信するための振動子と、この振動子を回転させるシャフトと、振動子およびシャフトを回転可能に収容するシースとを有している。振動子は、シース内でシャフトにより回転駆動されて超音波を送受信し、生体内の画像を取得する。
【0003】
振動子は、シース先端部の閉空間内において、シースの中心軸と直交する方向または当該方向からやや傾斜する方向を向くように配置される。このような超音波カテーテルとして、例えば特許文献1に挙げるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波カテーテルで画像を取得するため、振動子から超音波を発振する際、振動子が面する方向だけでなく、振動子の先端側側面からも超音波が発振される。このため、シースの先端側に超音波が一部向かい、これが反射することで、超音波画像上にリング状のノイズが出現する。このリング状のノイズは、振動子がシースの軸方向に移動することで径が変化し、生体組織の観察を阻害する。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、振動子の先端側側面から発振される超音波の反射を抑制して、超音波画像のノイズを低減できる超音波カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する超音波カテーテルは、先端に開口部を有する長尺なシースと、前記シース内に収納された超音波振動子と、前記シース内で前記超音波振動子を保持するシャフトと、前記シースの前記開口部を封止し、X線造影性を有する造影部を有するキャップと、を備え、前記超音波振動子は、前記シースの中心軸と略平行な、または前記シースの中心軸に対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面を有し、前記キャップは、前記開口部から前記シース内に延びて、前記超音波振動子に面する基端部と、前記シースの内周面と対向する外周面と、を含む延長部を有し、前記基端部は、前記超音波振動子から当該基端部に向かう超音波を散乱させる超音波散乱面を有し、前記外周面は、前記シースの内周面と液密に密着した密着部を有し、前記超音波散乱面は、前記超音波発振面を面内方向に拡大した仮想面と交差し、かつ、前記シースの中心軸と垂直な平面に対して傾斜している。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した超音波カテーテルは、造影性を有するキャップでシースの開口部を確実に封止すると共に、超音波振動子からキャップに向かう超音波が、超音波振動子側に反射して生じるノイズを低減できる。
【0009】
前記超音波散乱面は、前記密着部から基端側に向かう凸状で前記シースの前記中心軸上に頂点が配置される略錐形状部の表面に形成されてもよい。これにより、超音波振動子からの超音波を超音波振動子側以外に向けて確実に反射できる。
【0010】
前記略錐形状部は、略円錐形状を有してもよい。これにより、超音波散乱面で反射する超音波の散乱方向が一定となり、ノイズの低減効果を高くすることができる。
【0011】
前記略錐形状部は、前記超音波散乱面が前記シースの前記中心軸と垂直な平面に対して35度以上の傾斜角を有するように形成されてもよい。これにより、ノイズをより低減することができる。
【0012】
前記超音波発振面は、前記シースの前記中心軸から径方向外側に離間した位置に配置されてもよい。これにより、超音波振動子の先端面から超音波発振面と平行に延ばした仮想面状に略錐形状部の頂点が位置しないため、超音波振動子からキャップに向かう超音波がより確実に超音波散乱面で散乱されて、ノイズを低減できる。
【0013】
前記超音波散乱面は、前記超音波振動子から離間する方向に向かう凹状で前記シースの前記中心軸上に頂点が配置される略錐形状部の表面に形成されてもよい。これにより、超音波振動子からの超音波を超音波振動子側以外に向けて確実に反射できる。
【0014】
前記キャップは、前記延長部の先端に前記開口部から先端側に突出すると共に、前記シースの外径と略同一の外径を有する先端突出部を有し、前記造影部は、前記先端突出部および前記延長部を含む部分で構成されてもよい。これにより、造影部を大きくすることができ、造影性を高くすることができる。
【0015】
前記先端突出部は、先端側に向かって凸状のドーム形状を有してもよい。これにより、先端形状によって生体組織を傷付けることを防止できる。
【0016】
前記超音波振動子は、前記超音波発振面と略垂直な側面のうち、少なくとも前記キャップの前記基端部に面する部分を覆うように配置された超音波減衰部材を有してもよい。これにより、超音波振動子からキャップに向かう超音波をより散乱させ、ノイズをより低減することができる。
【0017】
前記超音波振動子は、前記シャフトによって前記シースの前記中心軸に略沿って移動してもよい。これにより、キャップで反射する超音波に起因するノイズを低減した状態で、血管の走行方向に沿って断面画像を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】超音波カテーテルの先端部付近の平面視拡大断面図である。
【
図3】超音波カテーテルの先端部付近の正面視拡大断面図である。
【
図5】超音波カテーテルで取得した生体組織の画像であって、(A)は超音波散乱面を有しないキャップを用いた場合の画像、(B)は超音波散乱面を有するキャップを用いた場合の画像、(C)は超音波散乱面を有するキャップを用い、かつ、超音波振動子に超音波減衰部材を設けた場合の画像である。
【
図6】本実施形態に係る超音波カテーテルシステムの使用例を示す概略図である。
【
図7】キャップの変形例および比較例の正面図である。
【
図9】第1変形例に係る振動子を有する超音波カテーテルの先端部付近の正面視拡大断面図である。
【
図10】第2変形例に係る振動子を有する超音波カテーテルの先端部付近の正面視拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、生体内に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0020】
本実施形態に係る超音波カテーテル10は、
図1に示すように、長尺なシース15の基端部にハウジング60を備えている。シース15は、外シース20と、内シース30とを備え、シース15の内部には振動子ユニット40と、振動子ユニット40を保持するシャフト50と、が設けられる。
【0021】
外シース20は、生体内腔内に挿入される管体である。外シース20は、基端から先端へ向かって、基端側管状部23と、屈曲部24と、先端側管状部25とを備えている。基端側管状部23、屈曲部24および先端側管状部25の内部には、基端から先端へ連通する収容ルーメン21が形成されている。
【0022】
基端側管状部23は、略直線状の軸心を有する管体である。基端側管状部23の基端部は、第1のハウジング60に固定されている。基端側管状部23の少なくとも先端部の軸心は、直線的な基準線X上に位置している。屈曲部24は、基端側管状部23の先端側に位置して屈曲した軸心を有する管体である。先端側管状部25は、屈曲部24の先端側に位置して直線状の軸心を有する管体である。先端側管状部25の先端部は、キャップ22に固定されている。
【0023】
屈曲部24の曲げ角度θは、特に限定されないが、10°~40°であることが好ましい。曲げ角度θが小さすぎると、外シース20の先端部の基端部に対するオフセット量が小さくなる。オフセット量とは、外シース20の屈曲部24よりも先端側の部位のうち、基準線Xから当該基準線Xと垂直な方向へ最も離れている部位の軸心までの長さである。曲げ角度θが大きすぎると、屈曲部24の内部で曲げられた状態で回転しつつ軸心方向へ移動するシャフト50の回転および軸心方向への移動が妨げられやすい。これに対し、曲げ角度θが適切な大きさであることで、シャフト50の回転および軸心方向への移動を安定して維持しつつ、外シース20のオフセット量を望ましい値に設定しやすくなる。
【0024】
基端側管状部23と屈曲部24の境界から外シース20の最先端までの、基準線Xに沿う長さである先端部長さは、特に限定されないが、20~150mmであることが好ましい。このため、外シース20の屈曲部24よりも先端側のオフセットした部位(軸心が、基準線Xから基準線Xの垂直方向へずれた部位)の基準線Xに沿う長さを、広い内腔を有する心蔵や血管内で使用するために適切に設定できる。また、先端部長さが短すぎると、外シース20の先端部の基端部に対するオフセット量が小さくなりやすい。先端部長さが長すぎると、外シース20の先端部の基端部に対するオフセット量が大きくなりやすい。これに対し、先端部長さが適切な長さであることで、外シース20のオフセット量を望ましい値に設定しやすくなる。
【0025】
オフセット量は、特に限定されないが、5~30mmであることが好ましい。オフセット量が適度な大きさを有することで、広い内腔を有する心臓や血管内で、外シース20を観察対象部位へ近づけることが容易となる。
【0026】
外シース20は、収容ルーメン21に、振動子ユニット40、内シース30およびシャフト50を収容している。外シース20内の振動子ユニット40、内シース30およびシャフト50は、外シース20の軸心に沿って、収容ルーメン21内を移動可能である。さらに、外シース20内の振動子ユニット40およびシャフト50は、外シース20の内部で回転可能である。外シース20は、基端のみが開口し、先端がキャップ22で閉鎖された筒体である。外シース20の基端部を形成する基端側管状部23の基端部は、第1のハウジング60に固定されている。外シース20の先端部を形成する先端側管状部25の先端部はキャップ22に固定されている。外シース20の基端部は、編組されたブレード線等の補強体が設けられてもよい。
【0027】
本実施形態において、屈曲部24は1つ設けられるが、設けられなくてもよく、または2つ以上設けられてもよい。
【0028】
図2、3に示すように、シース15の先端部には、振動子ユニット40が配置され、シース15を構成する外シース20の先端側の開口部20aはキャップ22で封止されている。
【0029】
振動子ユニット40は、体内で生体組織に向けて超音波を送受信する。振動子ユニット40は、超音波を送受信する超音波振動子41と、超音波振動子41が配置されると共にシャフト50に固定される振動子保持部42とを備えている。振動子ユニット40は、外シース20の収容ルーメン21内を、屈曲部24を超えて、外シース20の軸心方向へ移動可能である。また、振動子ユニット40は、収容ルーメン21内を、軸心を中心に回転可能である。
【0030】
振動子ユニット40において超音波振動子41は、シース15の中心軸Cと略平行な超音波発振面41aと、超音波発振面41aと略垂直な側面であって、キャップ22に面する先端側側面41bとを有している。なお、超音波振動子41は、シース15の中心軸Cに対して15℃以下の角度をなして傾斜していてもよい。超音波発振面41aは、シース15の中心軸Cから径方向外側に離間した位置に配置されている。
【0031】
振動子保持部42と超音波振動子41のうち超音波発振面41aと反対側の面との間には、背面側超音波減衰部材43が設けられる。また、超音波振動子41の先端側側面41bには、キャップ22に面する部分に先端側超音波減衰部材44が設けられる。背面側超音波減衰部材43と先端側超音波減衰部材44は、いずれも超音波振動子41から発振される超音波が超音波振動子41に向かって反射しないように超音波を減衰させる特性を有する。なお、ここで、「超音波を減衰させる特性」とは、超音波を散乱させたり、吸収したりする特性を指す。背面側超音波減衰部材43や先端側超音波減衰部材44としては、例えば樹脂に粒状のガラスビーズやポリエチレンビーズなどのフィラーを混合した超音波散乱部材を用いることができるが、これに限定されず、超音波を減衰させる任意の材料を用いることができる。
【0032】
キャップ22は、X線不透過性の材料を含んで形成されており、X線造影性を有する造影部を構成する。X線不透過性材料としては、例えば、硫酸バリウム、酸化ビスマス、タングステン、金、白金、タンタル等を用いることができる。
図2、4に示すように、キャップ22は、外シース20の開口部20aから外シース20内に延びる延長部70と、開口部20aから先端側に突出し、外シース20の外径と略同一の外径を有する先端突出部74とを有している。延長部70は、超音波振動子41に面する基端部71と、外シース20の内周面と対向する外周面72と、を有している。外周面72は、外シース20の内周面と液密に密着した密着部72aを有している。
【0033】
基端部71は、超音波振動子41から基端部71に向かう超音波を散乱させる超音波散乱面73を有している。超音波散乱面73は、超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、かつ、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜するように形成されている。超音波散乱面73は、密着部72aから基端側に向かう凸状で、シース15の中心軸C上に頂点が配置される略円錐形状の表面に形成される。このため、超音波振動子41の先端側側面41bから先端方向に向かって発振される超音波は、超音波散乱面73において超音波振動子41と異なる方向に向かって反射される。超音波振動子41は、超音波発振面41aがシース15の中心軸Cから径方向外側に離間した位置となるように配置されているので、超音波振動子41の先端側側面41bからキャップ22に向かう超音波は、超音波散乱面73に対して頂点以外の傾斜部分で反射される。このため、超音波を確実に超音波振動子41以外の方向に向かって反射させることができる。
【0034】
先端突出部74は、先端側に向かって凸状のドーム形状を有している。先端突出部74は、超音波カテーテル10の先端となるので、その形状がドーム形状であることにより、生体組織を傷付けることを防止できる。
【0035】
キャップ22は、延長部70と先端突出部74のいずれにもX線不透過性の材料を含んでいる。このため、キャップ22は、延長部70と先端突出部74とに渡って、X線造影性を有し、造影部が大きくなるため、X線造影性を良好にすることができる。
【0036】
内シース30は、
図1に示すように、先端側の一部が外シース20に挿入される筒体である。内シース30の先端側の部位は、外シース20の内部に、外シース20の軸心に沿って移動可能に収容されている。内シース30の基端部は、外シース20および第1のハウジング60から基端側に導出されて、第2のハウジング70に固定されている。
【0037】
内シース30は、シャフト50を回転可能に収容している。内シース30の先端部は、振動子ユニット40の基端側に、振動子ユニット40に近接して位置している。内シース30は、外シース20の内周面とシャフト50の外周面の間に配置されて、シャフト50の回転方向および軸方向への移動を安定させる。
【0038】
外シース20および内シース30の構成材料は、可撓性を有し、ある程度の強度を有すれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド等が好適に使用できる。
【0039】
シャフト50は、駆動ユニット(図示しない)から作用する回転力および軸心方向への移動力を振動子ユニット40に伝達する。シャフト50が回転の動力を伝達することによって、振動子ユニット40が回転し、血管や心腔から、組織の内部構造を360度観察できる。また、シャフト50は、外シース20の収容ルーメン21内を、外シース20の軸心に沿って移動可能である。
【0040】
ハウジング60には、外シース20の基端部が液密に固着されており、第1のポート62および第2のポート64を備えている。ハウジング60の構成材料は、ある程度の強度を有すれば特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等が好適に使用できる。
【0041】
超音波カテーテル10における超音波走査(スキャン)は、回転運動をシャフト50に伝達し、シャフト50の先端に固定された振動子ユニット40を回転させることにより行われる。これにより、超音波振動子41で送受信される超音波を略径方向に走査できる。さらに、シャフト50を基端側へ牽引することで、超音波振動子41を回転させつつ基端側へ移動させることができる。このため、血管または心腔の包囲組織の360°の断面画像を、外シース20の軸心に沿って任意の位置まで走査的に得ることができる。
【0042】
図5(A)に示すように、超音波散乱面73を有しないキャップ22を外シース20の開口部20aに取付け、超音波振動子41の先端側側面41bに先端側超音波減衰部材44を設けなかった場合、超音波カテーテル10で取得した生体組織の画像には、矢印で示すリング状のノイズが発生する。
図5(B)に示すように、超音波散乱面73を有するキャップ22を外シース20の開口部20aに取付けた場合、超音波カテーテル10で取得した生体組織の画像において、リング状のノイズは薄くなる。
図5(C)に示すように、超音波散乱面73を有するキャップ22を外シース20の開口部20aに取付け、さらに、超音波振動子41の先端側側面41bに先端側超音波減衰部材44を設けることで、超音波カテーテル10で取得した生体組織の画像、リング状のノイズはほとんど確認されなくなる。
【0043】
本実施形態に係る超音波カテーテル10は、例えば、
図6に示すように、大腿静脈Ivから右心房HRaに挿入し、治療用カテーテル100による処置状況を観察するために用いることができる。
【0044】
キャップの変形例について説明する。
図7(A)のキャップ110と
図7(B)のキャップ120は、いずれも基端部111、121の超音波散乱面112、122が略円錐形状である。これらは、いずれも超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、かつ、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜した状態となる。一方で、
図7(A)の超音波散乱面112と
図7(B)の超音波散乱面122は、キャップ110、120の中心軸に直交する平面に対する傾斜角度が異なっている。この傾斜角度が大きいほど、超音波を散乱してリング状のノイズを低減する効果が大きくなる。ただし、傾斜角度を大きくしすぎると、キャップが長くなり、超音波振動子41をシース15の先端側に移動させることができなくなる。傾斜角度は、例えば35°~60°の範囲に設定することができる。
【0045】
図7(C)のキャップ130は、基端部131の超音波散乱面132が超音波振動子41に向かう凸状のドーム形状を有するように形成されている。このようなドーム形状でも、超音波散乱面132は、超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、かつ、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜した状態となり、超音波振動子41からの超音波を散乱させることができる。
【0046】
図7(D)のキャップ140と
図7(E)のキャップ150は、いずれも基端部141、151の超音波散乱面142、152が、超音波振動子41から離間する方向に向かう凹状であって、シース15の中心軸C上に頂点が配置される略円錐形状を有するように形成されている。このように、超音波散乱面142、152は凹状であってもよく、超音波散乱面142、152は、超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、かつ、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜した状態となる。超音波散乱面142と超音波散乱面152とでは、キャップ140、150の中心軸と直交する平面に対する傾斜角度が異なる。この傾斜角度は、超音波散乱面が凸状の場合と同様、例えば35°~60°の範囲に設定することができる。
【0047】
図7(F)のキャップ160は、基端部161の超音波散乱面162が、超音波振動子41から離間する方向に向かう凹状のドーム形状を有するように形成されている。超音波散乱面162は、超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、かつ、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜した状態で、超音波振動子41からの超音波を散乱させることができる。
【0048】
超音波散乱面を有する
図7(A)~(F)に示す各キャップと、比較例としての超音波散乱面を有しないキャップ170を使用した場合におけるリング状のノイズの発生レベルを下記表1に示す。このように、
図7(A)~(F)のいずれのキャップも、超音波散乱面を有しないキャップ170よりノイズレベルは低くなった。その中でも、特に超音波散乱面を超音波振動子41に向かう凸状の略円錐形状とした場合に、ノイズレベルが低くなる。
【0049】
【0050】
超音波散乱面は、超音波振動子41に向かって凸状あるいは凹状の略角錐状であってもよい。また、
図8に示すように、超音波散乱面182は、キャップ180の中心軸と直交する平面に対して一定の角度で一方向に傾斜する平面であってもよい。
【0051】
超音波振動子の変形例について説明する。
図9に示すように、超音波振動子191は、振動子ユニット190において、周方向に沿って複数が配列されてもよい。超音波振動子191は、振動子ユニット190の全周に渡って配列することができる。これにより、振動子ユニット190を回転させることなく、血管または心腔の包囲組織の360°の断面画像を得ることができる。
【0052】
図10に示すように、超音波振動子201は、振動子ユニット200において、軸方向と径方向にそれぞれ複数が配列されてもよい。この場合、振動子ユニット200の平面状の配置面200aに超音波振動子201が格子状に配列される。これにより、包囲組織の扇状の断面画像を得ることができる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係る超音波カテーテル10は、先端に開口部20aを有する長尺なシース15と、シース15内に収納された超音波振動子41と、シース15内で超音波振動子41を保持するシャフト50と、シース15の開口部20aを封止し、X線造影性を有する造影部を有するキャップ22と、を備え、超音波振動子41は、シース15の中心軸Cと略平行な、またはシース15の中心軸Cに対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面41aを有し、キャップ22は、開口部20aからシース15内に延びて、超音波振動子41に面する基端部71と、シース15の内周面と対向する外周面72と、を含む延長部70を有し、基端部71は、超音波振動子41から当該基端部71に向かう超音波を散乱させる超音波散乱面73を有し、外周面72は、シース15の内周面と液密に密着した密着部72aを有し、超音波散乱面73は、超音波発振面41aを面内方向に拡大した仮想面Pと交差し、かつ、シース15の中心軸Cと垂直な平面に対して傾斜している。このように構成した超音波カテーテル10は、造影性を有するキャップ22でシース15の開口部20aを確実に封止すると共に、超音波振動子41からキャップ22に向かう超音波が、超音波振動子41側に反射して生じるノイズを低減できる。
【0054】
超音波散乱面73は、密着部72aから基端側に向かう凸状でシース15の中心軸C上に頂点が配置される略錐形状部の表面に形成されてもよい。これにより、超音波振動子41からの超音波を超音波振動子41側以外に向けて確実に反射できる。
【0055】
略錐形状部は、略円錐形状を有してもよい。これにより、超音波散乱面73で反射する超音波の散乱方向が一定となり、ノイズの低減効果を高くすることができる。
【0056】
略錐形状部は、超音波散乱面73がシース15の中心軸Cと垂直な平面に対して35度以上の傾斜角を有するように形成されてもよい。これにより、ノイズをより低減することができる。
【0057】
超音波発振面41aは、シース15の中心軸Cから径方向外側に離間した位置に配置されてもよい。これにより、超音波振動子41の先端面から超音波発振面41aと平行に延ばした仮想面状に略錐形状部の頂点が位置しないため、超音波振動子41からキャップ22に向かう超音波がより確実に超音波散乱面73で散乱されて、ノイズを低減できる。
【0058】
超音波散乱面73は、超音波振動子41から離間する方向に向かう凹状でシース15の中心軸C上に頂点が配置される略錐形状部の表面に形成されてもよい。これにより、超音波振動子41からの超音波を超音波振動子41側以外に向けて確実に反射できる。
【0059】
キャップ22は、延長部70の先端に開口部20aから先端側に突出すると共に、シース15の外径と略同一の外径を有する先端突出部74を有し、造影部は、先端突出部74および延長部70を含む部分で構成されてもよい。これにより、造影部を大きくすることができ、造影性を高くすることができる。
【0060】
先端突出部74は、先端側に向かって凸状のドーム形状を有してもよい。これにより、先端形状によって生体組織を傷付けることを防止できる。
【0061】
超音波振動子41は、超音波発振面41aと略垂直な側面のうち、少なくともキャップ22の基端部71に面する部分を覆うように配置された超音波減衰部材44を有してもよい。これにより、超音波振動子41からキャップ22に向かう超音波をより散乱させ、ノイズをより低減することができる。
【0062】
超音波振動子41は、シャフト50によってシース15の中心軸Cに略沿って移動してもよい。これにより、キャップ22で反射する超音波に起因するノイズを低減した状態で、血管の走行方向に沿って断面画像を取得することができる。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 超音波カテーテル
15 シース
20 外シース
20a 開口部
21 収容ルーメン
22 キャップ
22a 造影部
23 基端側管状部
24 屈曲部
25 先端側管状部
30 内シース
40 振動子ユニット
41 超音波振動子
41a 超音波発振面
41b 先端側側面
42 振動子保持部
43 背面側超音波減衰部材
44 先端側超音波減衰部材
50 シャフト
60 ハウジング
70 延長部
71 基端部
72 外周面
72a 密着部
73 超音波散乱面
74 先端突出部
100 治療用カテーテル