(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125411
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】布地、装身品、寝具、及び衛生マスク
(51)【国際特許分類】
D03D 15/20 20210101AFI20230831BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20230831BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230831BHJP
D03D 15/225 20210101ALI20230831BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20230831BHJP
D01F 1/10 20060101ALI20230831BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20230831BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20230831BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20230831BHJP
A47G 9/02 20060101ALI20230831BHJP
A47G 9/10 20060101ALI20230831BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
D03D15/20 100
D03D15/47
D03D1/00 Z
D03D15/225
D01F2/00 Z
D01F1/10
D02G3/04
A41D13/11 Z
A41D31/04 Z
A47G9/02 P
A47G9/10 W
A62B18/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029478
(22)【出願日】2022-02-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年3月9日に株式会社ワールドプロダクションパートナーズ 東京店(東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル)にて、株式会社アルトスターが株式会社ワールドプロダクションパートナーズに販売 令和3年6月29日に株式会社ワールドプロダクションパートナーズ 東京店(東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル)にて、株式会社アルトスターが株式会社ワールドプロダクションパートナーズに販売 令和3年7月2日に株式会社ワールドプロダクションパートナーズ 東京店(東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル)にて、株式会社アルトスターが株式会社ワールドプロダクションパートナーズに販売 令和3年7月10日に株式会社ワールドプロダクションパートナーズ 東京店(東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル)にて、株式会社アルトスターが株式会社ワールドプロダクションパートナーズに販売 令和3年7月30日に株式会社ワールドプロダクションパートナーズ 東京店(東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル)にて、株式会社アルトスターが株式会社ワールドプロダクションパートナーズに販売 令和3年8月5日に株式会社ワールドプロダクションパートナーズ 東京店(東京都港区北青山3-5-10ワールド北青山ビル)にて、株式会社アルトスターが株式会社ワールドプロダクションパートナーズに販売
(71)【出願人】
【識別番号】513042012
【氏名又は名称】株式会社アルトスター
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】ビューエル 芳子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 弘子
(72)【発明者】
【氏名】石原 淑美
(72)【発明者】
【氏名】奥野 泰
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 和雄
【テーマコード(参考)】
2E185
3B102
4L035
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185BA11
2E185BA16
2E185CC32
2E185CC73
3B102AB07
3B102BA11
4L035EE20
4L035FF01
4L035KK05
4L036MA08
4L036MA33
4L036MA37
4L036MA39
4L036MA40
4L036PA33
4L048AA13
4L048AA56
4L048AB05
4L048AC00
4L048AC09
4L048BA01
4L048BA02
4L048CA00
4L048CA01
4L048DA01
4L048DA13
4L048DA22
(57)【要約】
【課題】 活性成分放出性繊維を用いて、充分な活性成分機能を満たし、充分な強度を備え、装身品や寝具に適当な風合いを備え、環境への負荷が少なく、生産性に優れた布地及びその布地を用いた装身品や寝具を提供する。
【解決手段】 本発明は、布地及び当該布地を用いて構成された装身品及び寝具に関する。そして、本発明の布地は、所定の条件により放出される活性成分としてビタミンEを含有する第1のセルロース繊維と活性成分を含まない第2のセルロース繊維が混紡された横糸と、前記第2のセルロース繊維だけで紡糸された縦糸とがツイル織又はサテン織で製織されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の条件により放出される活性成分としてビタミンEを含有する第1のセルロース繊維と活性成分を含まない第2のセルロース繊維が混紡された横糸と、前記第2のセルロース繊維だけで紡糸された縦糸とがツイル織又はサテン織により製織されている
ことを特徴とする記載の布地。
【請求項2】
前記第2のセルロース繊維はレーヨンであることを特徴とする請求項1に記載の布地。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の布地を用いて構成されたことを特徴とする装身品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の布地を用いて構成されたことを特徴とする寝具。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の布地を用いて構成されたことを特徴とする衛生マスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地、装身品、寝具、及び衛生マスクに関し、例えば、使用者(着用者)に対する保温以外の特殊な機能(以下、「特殊機能」と呼ぶ)を備える繊維(以下、「特殊機能性繊維」と呼ぶ)により構成された装身品及び寝具に適用し得る。
【背景技術】
【0002】
従来、特殊機能性繊維として、例えば、特許文献1の繊維が存在する。
【0003】
特許文献1には、温度等の条件により活性成分の放出を制御可能な繊維(以下、「活性成分放出性繊維」と呼ぶ)について記載されている。そして、特許文献1では、当該活性成分放出性繊維として、リヨセル紡糸プロセスにより紡糸されるリヨセル繊維とすることが好ましいものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、特許文献1の活性成分放出性繊維だけで布地を製造しようとした場合、非常に高コストであることや、製織するには強度不足であること等の問題がある。本来、特許文献1に記載された活性成分放出性繊維は、綿状の繊維であり、衣服や寝具の中綿として用いられるものであり、紡績・製織することに最適化された構成ではないためである。また、特許文献1の活性成分放出性繊維は、セルロース繊維(例えば、リヨセル(登録商標))とされているが、適用する物の用途やデザインによっては、活性成分放出性繊維を用いた布地の風合は不適当となる場合もある。さらに、活性成分放出性繊維を、他の種類の繊維と混紡した混紡糸を用いた布地で、身装品や寝具を製造するといったことも考えられるが、活性成分放出性繊維を他の繊維と混紡しつつ、活性成分による機能(使用者の身体に与える影響;以下、「活性成分機能」と呼ぶ)を満たす構成については特許文献1には開示されていない。さらにまた、現在、持続可能性の高い事業活動(いわゆるサステナビリティ)を重視するアパレル企業が増えており、環境負荷が少ない原材料で布地が構成されていることが望ましい。また、単に機能や強度を満たした布地を開発したとしても、生産性に優れていなければ結局は需要を満たすことができないため重要な要素となる。
【0006】
以上のような問題に鑑みて、活性成分放出性繊維を用いて、充分な活性成分機能を満たし、充分な強度を備え、装身品や寝具に適当な風合いを備え、環境への負荷が少なく、生産性に優れた布地及びその布地を用いた装身品や寝具が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の本発明の布地は、所定の条件により放出される活性成分としてビタミンEを含有するセルロース繊維とレーヨン繊維が混紡された横糸と、レーヨン繊維により構成された縦糸とがツイル織又はサテン織により製織されていることを特徴とする。
【0008】
第2の本発明の装身具は、第1の本発明の布地を用いて構成されたことを特徴とする。
【0009】
第3の本発明の寝具は、第1の本発明の布地を用いて構成されたことを特徴とする。
【0010】
第4の本発明の衛生マスクは、第1の本発明の布地を用いて構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、活性成分放出性繊維を用いて、充分な活性成分機能を満たし、充分な強度を備え、装身品や寝具に適当な風合いを備え、環境への負荷が少なく、生産性に優れた布地及びその布地を用いた装身品や寝具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施形態に係る装身品(Tシャツ)の構成例について示した図(平面図)である。
【
図3】実施形態に係る寝具(ベッド)の構成例について示した図(斜視図)である。
【
図4】実施形態に係る衛生マスクの構成例について示した図(斜視図)である。
【
図5】実施形態に係る布地をツイル織とした場合の構成について示した図(イメージ図)である。
【
図6】実施形態に係る布地をツイル織とした場合の構成をマトリクス形式で示した場合の図(イメージ図)である。
【
図7】実施形態に係る布地をサテン織とした場合の構成について示した図(イメージ図)である。
【
図8】実施形態に係る布地をサテン織とした場合の構成をマトリクス形式で示した場合のイメージ図である。
【
図9】実施形態に係る布地を平織とした場合の構成について示した図(イメージ図)である。
【
図10】実施形態に係る布地を平織とした場合の構成をマトリクス形式で示した場合のイメージ図である。
【
図11】実施形態に係る布地の横糸における活性成分放出性繊維の混紡量と活性成分の量(濃度)との関係について表形式で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(A)主たる実施形態
以下、本発明による布地、装身品、寝具、及び衛生マスクの一実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0014】
(A-1)実施形態の構成
図1は、実施形態に係る布地10の平面図である。
【0015】
図2は、実施形態に係る布地10を用いて構成された身装品としての肌着20の平面図である。
図2では、本発明の身装品の例として肌着20を示しているが、本発明の身装品としては肌着だけでなく肌着以外の下着類、スカーフ、靴下、帽子等直接装着者の皮膚や頭部(頭髪)に接触するものに適用し得る。
【0016】
図3は、実施形態に係る布地10を用いて構成された寝具30(ベッド)である。寝具30においては、例えば、シーツ31、布団カバー32、枕カバー33等の要素に布地10を用いることができる。なお、本明細書において「寝具」とは、シーツ31、布団カバー32、枕カバー33等「寝具を構成する要素」も含む概念であるものとして説明する。したがって、この実施形態では、シーツ31、布団カバー32、及び枕カバー33は、それぞれ別個の寝具に係る発明であると言える。
【0017】
図4は、実施形態に係る布地10を用いて構成された衛生マスク40である。衛星マスクにおいては、例えば、ユーザ(着用者)の口元を覆うカバー部41に布地10を適用することができる。
【0018】
次に、布地10の構成について説明する。
【0019】
ここでは、布地10は、使用者の身体に直接触れる肌着20や寝具30に適用されることを前提としているものとする。なお、この実施形態では、布地10は、横糸101(緯糸)と縦糸102(縦糸)が所定の織り方で織られた織物であるものとして説明する。
【0020】
ここでは、布地10に、活性成分放出性繊維が含まれているものとして説明する。また、ここでは、布地10を構成する活性成分放出性繊維には、活性成分として、いわゆるビタミンE(具体的には、トコフェロール酢酸エステル)が含まれているものとする。なお、活性成分放出性繊維を構成する活性成分は、ビタミンEだけでなく他の物質を含むようにしてもよい。以下では、活性成分のうち、目的とする機能(ここではスキンケア機能;以下、「目的機能」とも呼ぶ)を達成するための成分を「目的機能性活性成分」と呼ぶものとする。ここでは、目的機能性活性成分はビタミンEとなる。なお、活性成分放出性繊維を構成する活性成分は、複数種類の成分で構成されるようにしてもよい。すなわち、活性成分放出性繊維を構成する活性成分には、複数種類の目的機能性活性成分が含まれるようにしてもよいし、目的機能性活性成分以外の成分が含まれるようにしてもよい。
【0021】
活性成分(目的機能性活性成分)として、ビタミンEを含む活性成分放出性繊維を人間の身体(皮膚)に触れた状態とすることで、人間の皮膚を良好に保つ効果(いわゆるスキンケア効果)がある。したがって、ここでは、布地10を構成する活性成分放出性繊維による活性成分機能はスキンケア機能となる。
[布地に求められる強度的性能]
ここで、布地10に求められる強度的な性能要件について説明する。
【0022】
上記の通り、この実施形態において布地10は、身装品(肌着20等)又は寝具(寝具30のシーツ31、布団カバー32、枕カバー等)に用いられることが前提となる。そして、一般的に衣類等の身装品や寝具の布地に必要とされる強度等の品質基準(検査基準)については一定の方法と基準がある。
【0023】
製織された布地(織物)には、通常、強度的な品質基準(検査基準)として一定以上の「引張強度」(布地(織物)を引っ張った際の破断する強度を評価する基準;単位は[N]:ニュートン)と「引裂強度」(織物を引き裂いた際の破断する強度を評価する基準;単位は[N]:ニュートン)を満たす必要がある。ここでは、「引張強度」を評価する方法として「JIS L 1096 A法」(いわゆる「ストリップ法」)による評価方法を適用し、「引裂強度」を評価する方法としてJIS L 1096 D法(いわゆる「ペンジュラム法」)による評価方法を適用するものとする。
【0024】
そして、一般的には、薄手の布地(一般的に180g/平米未満の布地)により構成される肌着や寝具には、引張強度150N以上で且つ引裂強度7N以上の強度的性能が求められる。このような基準は、例えば、参考文献1等に示されている通りである。
[参考文献1] 一般財団法人ボーケン品質評価機構,「ボーケン基準(繊維製品)生地・製品検査 品質基準一覧表 抜粋」,https://www.boken.or.jp/wp-content/uploads/2021/08/qstandardjapan.pdf」,[Online],INTERNET,[2021年11月30日検索],URL:https://www.boken.or.jp/wp-content/uploads/2021/08/qstandardjapan.pdf
従って、この実施形態において、布地10は、引張強度150N以上で且つ引裂強度7N以上の基準(以下「目標強度的性能」と呼ぶ)を満たす必要があるものとして説明する。
[布地の生産性要件]
ただし、最終的な布地10の状態で、目標強度的性能を満たしたとしても、一般的な自動織機を用いて製織できる構成でなければ布地10を大量生産することは難しくなってしまうことになる。さらには、一般的な自動織機を用いて一定以上の速度で且つ一定以上の生産性(歩留まり)で布地10を製織できれば、布地10を大量生産する上では好ましい。一般的に、自動織機で製織する際に、製織途中の布地(織物)に一定以上の応力(張力)がかかると、製織途中の布地が破断するなどして生産性(歩留まり)が悪くなる。さらに、自動織機で布地を製織する際には、織り方によっても破断する頻度が変動する場合がある。つまり、一般的な自動織機を用いて、布地10を製織する際に、一定以上の生産性を保つ(例えば、一般的な速度で製織を行い、製織中の破断頻度を一定以下とする)際には、横糸101及び縦糸102の特性や織り方が関連していると言える。横糸101及び縦糸102の構成については後述する。
[布地の織り方]
布地10を製織する織方には種々の構成が考えられるが、ここでは、肌着や寝具において一般的な織り方であるツイル織、サテン織、平織のいずれかを適用するものとして検討する。
【0025】
ここで、布地10をツイル織、サテン織、平織のそれぞれで製織する場合の構造について
図5~
図10を用いて説明する。
【0026】
図5は布地10をツイル織で製織した場合の構成について示した図(イメージ図)であり、
図6は布地10をツイル織で製織した場合の構成(横糸101、縦糸102の分布)をマトリクス形式で示した場合の図(イメージ図)である。
図7は布地10をサテン織で製織した場合の構成について示した図(イメージ図)であり、
図8は布地10をサテン織で製織した場合の構成(横糸101、縦糸102の分布)をマトリクス形式で示した場合の図(イメージ図)である。
図9は布地10を仮に平織で製織した場合の構成について示した図(イメージ図)であり、
図10は布地10を仮に平織で製織した場合の構成(横糸101、縦糸102の分布)をマトリクス形式で示した場合の図(イメージ図)である。
【0027】
なお、
図5~
図10の説明において、横糸101と並行となる方向を「横方向」又は「X方向」と呼び、経糸102と並行となる方向を「縦方向」又は「Y方向」と呼ぶものとする。
【0028】
図5(a)は、ツイル織で製織された布地10の一部を拡大して示した図(イメージ図)である。
図5(b)は、
図5(a)に示す布地10を縦方向(Y方向)で切断した場合の端面について示した図(
図5(a)のA1-A1’線矢視端面図)である。
図5(c)は、
図5(a)に示す布地10を横方向(X方向)で切断した場合の端面について示した図(
図5(a)のB1-B1’線矢視端面図)である。
【0029】
図7(a)は、サテン織で製織された布地10の一部を拡大して示した図(イメージ図)である。
図7(b)は、
図7(a)に示す布地10を縦方向(Y方向)で切断した場合の端面について示した図(
図7(a)のA2-A2’線矢視端面図)である。
図7(c)は、
図7(a)に示す布地10を横方向(X方向)で切断した場合の端面について示した図(
図7(a)のB2-B2’線矢視端面図)である。
【0030】
図9(a)は、平織織で製織された布地10の一部を拡大して示した図(イメージ図)である。
図9(b)は、
図9(a)に示す布地10を縦方向(Y方向)で切断した場合の端面について示した図(
図9(a)のA3-A3’線矢視端面図)である。
図9(c)は、
図9(a)に示す布地10を横方向(X方向)で切断した場合の端面について示した図(
図9(a)のB3-B3’線矢視端面図)である。
【0031】
【0032】
図5、
図6に示すように、この実施形態において、ツイル織は縦糸102と横糸101とを2:1の比率で規則的に飛ばして製織(縦糸102と横糸101の上下を入れ替えて製織)する構成となっているものとする。また、
図7、
図8に示すように、この実施形態において、サテン織は縦糸102と横糸101とを4:1の比率で規則的に飛ばして製織(縦糸102と横糸101の上下を入れ替えて製織)する構成となっているものとする。さらに、
図9、
図10に示すように、この実施形態において、平織は縦糸102と横糸101とを1:1の比率で規則的に製織(縦糸102と横糸101の上下を入れ替えて製織)する構成となっているものとする。
[布地に求められる目的性能]
上記の通り、布地10の目的機能はスキンケア機能であり、目的機能性活性成分はビタミンEである。
【0033】
特許文献1に記載された活性成分放出性繊維は、人間の皮膚に接触した際に含有している活性成分(ここでは、ビタミンE)を放出することで、活性成分を人間の皮膚に移動させる。この際、人間の皮膚に移動する活性成分の量は、元々活性成分放出性繊維が含有している活性成分の量(濃度)と相関する。
【0034】
以下では、活性成分放出性繊維全体を基準(100重量%)として、活性成分(ビタミンE)が含まれている比率(量、濃度)を「重量%」で表すものとする。例えば、100gの活性成分放出性繊維に1gの活性成分放出性繊維が含まれている場合、当該活性成分放出性繊維における活性成分の比率(量、濃度)は1重量%であると言える。
【0035】
ここで、本願発明者が使用した活性成分放出性繊維は、ビタミンEの含有量が11重量%のリヨセル繊維(綿状の繊維)であった。ここでは、上記の活性成分放出性繊維(ビタミンEを11重量%含有)を用いて布地10を構成するものとして説明する。
【0036】
ここで、布地10によるスキンケア機能が有効とする基準として、既存の医薬部外品を引例として、どの程度の目的機能活性成分を含有させる必要があるかについて検討する。具体的には、有効成分としてビタミンE(トコフェロール酢酸エステル)等を含有する医薬部外品(いわゆる「薬用化粧品」)の例を引例として検討する。いわゆる薬用化粧品に含まれるべき有効成分の程度については、日本国厚生労働省より参考文献2のような文献が発行されている。すなわち、布地10に、薬用化粧品(医薬部外品)と言える程度以上の濃度の有効成分(ここではビタミンE)が含有されていれば、布地10には十分なスキンケア性能が保持されていると言える。
[参考文献2] 厚生労働省医薬食品局審査管理課,「いわゆる薬用化粧品中の有効成分リストについて(薬食審査発第1225001号;平成20年12月25日)」,https://www.boken.or.jp/wp-content/uploads/2021/08/qstandardjapan.pdf」,[Online],INTERNET,[2021年12月20日検索],<URL:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/yakuyou_kounou_1.pdf>
参考文献2によれば、「クリーム、乳液、ハンドクリーム、化粧用油」に含まれるべきビタミンE(参考文献2では「トコフェロール酢酸エステル」と記載)としては、0.3%~0.5%と記載されているので、ここではこの基準を適用する。なお、参考文献2の基準には品目として「パック」も含まれるが、一時的に装着する「パック」と異なり、肌着、寝具、衛生マスク等に適用される布地10は長時間継続してユーザの皮膚に触れるものであるため、「クリーム、乳液、ハンドクリーム、化粧用油」の基準を用いる方が好適である。一般的に、参考文献2のように薬用化粧品(医薬部外品)として示される基準は、有効成分に基づく人体への効果が有ると言える最低限の基準(エビデンス)となっている。したがって、布地10に含まれるべき目的機能活性成分(ここではビタミンE)も、0.3重量%~0.5重量%程度以上とすることで、薬用化粧品と同程度のスキンケア性能が期待できるということになる。
【0037】
一般的にクリームや乳液における有効成分の分布が均一である一方で、布地10では活性成分放出性繊維以外の繊維も含まれることから、(クリームや乳液と比較して)目的機能活性成分の分布にばらつきがある。そのため、ここでは、布地10全体において、目的機能活性成分の量が0.3重量%以上となることを担保するため、参考文献2における上限値である0.5重量%以上を適用するものとする。言い換えると、布地10全体で、目的機能活性成分の量が0.5重量%以上であるとすれば、布地10で構成される肌着や寝具を使用するユーザの皮膚には、目的機能活性成分の濃度が0.5%以上の布地が接触した状態になっているため、スキンケア効果が有ると言える状態となる。
【0038】
以上のような理由により、ここでは、布地10全体では、目的機能性活性成分(ここではビタミンE)の含有量(濃度)が0.5重量%以上であることが必要となる。
[縦糸/横糸の構成及び織り方について]
上記の通り、布地10は、充分な活性成分機能を満たし、充分な強度を備え、装身品や寝具に適当な風合いを備え、環境への負荷が少なく、生産する際の生産性に優れるという要件を満たす必要がある。一方で、上記の通り、活性成分放出性繊維自体は、非常に高コストであることや、紡績・製織するには強度不足であること等の問題がある。
【0039】
そのため、本願発明者は、活性成分放出性繊維を混紡した糸を布地10に適用することで、上記の目的を達成することを検討した。活性成分放出性繊維に種々の繊維を混紡して紡績することは可能であるが、「装身品や寝具に適当な風合い」と「環境への負荷が少ない」という要件を備える繊維とする必要がある。本願発明者は、種々の繊維から「装身品や寝具に適当な風合い」と「環境への負荷が少ない」という要件を満たす繊維(活性成分放出性繊維と混紡する繊維)として、活性成分放出性繊維と同様のセルロース繊維(再生セルロース繊維)を見出した。セルロース繊維(再生セルロース繊維)としては、例えば、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等が存在する。本願発明者は、これらのセルロース繊維から、レーヨンを活性成分放出性繊維に混紡する繊維として最も好適なものとして選択した。一般的に、セルロース系の繊維の中では、レーヨンが最も肌着として良好な風合いを備えているためである。
【0040】
しかしながら、本願発明者の実験により、横糸101と縦糸102にレーヨンと活性成分放出性繊維を混紡した糸(以下、単に「混紡繊維」とも呼ぶ)を適用して布地10の製織を試みたところ、どのような混紡比率(レーヨンと活性成分放出性繊維との混紡比率)や織り方の組合せであっても、上記の5つの要件を全て満たすことはできないことが分かっている。もともと、レーヨンは、綿等の他の繊維と比べると強度(引張強度)が弱い上、レーヨンに活性成分放出性繊維を混紡して紡績した糸を横糸101と縦糸102に適用する場合レーヨン100%の糸よりも強度が弱くなってしまう。そのため、目的機能性活性成分が0.5重量%以上含まれるような比率でレーヨンに活性成分放出性繊維を混紡して紡績した糸を横糸101と縦糸102に適用する場合、織機で製織中に破断してしまったり、製織できたとしても上記の強度的性能(引張強度150N以上で且つ引裂強度7N以上)を満たすことができない。
【0041】
そこで、本願発明者は、上記のような問題に鑑み、種々の組合せで実験を繰り返した結果、横糸101に上記の混紡繊維を用い、縦糸102にレーヨン100%の糸を用いることで、上記の5つの要件全てを満たす布地10の構成が好適であることを発見した。特に、本願発明者は、混紡繊維の横糸101とレーヨン100%の縦糸102について、平織で製織とするよりも、ツイル織又はサテン織で製織する方が、強度的に好適であることについても発見した。
【0042】
以下では、横糸101全体を基準(100重量%)として、レーヨン又は活性成分放出性繊維が含まれている比率(量)を「重量%」で表すものとする。例えば、100gの横糸101に40gの活性成分放出性繊維(60gのレーヨン)が含まれている場合、横糸101では、活性成分放出性繊維40重量%(レーヨン60重量%)であると言える。
【0043】
本願発明者は、混紡繊維の横糸101として、レーヨン60重量%(活性成分放出性繊維40重量%)で紡績(混紡)した混紡繊維を適用することが好適であることについても発見した。さらに、本願発明者は、混紡繊維の横糸101とレーヨン100%の縦糸102として、横糸101と同じ仕様(40番手(133デニール))で紡績した糸を適用することが好適であることについても発見した。
【0044】
まとめると、本願発明者は、レーヨンと活性成分放出性繊維の混紡繊維を用いて布地10を構成する場合の最も好適な形態(上記の5つの要件を満たすための最良の形態)として、「横糸101にレーヨン60重量%(活性成分放出性繊維40重量%)で且つ40番手(133デニール)で紡績した糸を適用し」、「縦糸102にレーヨン100%で且つ40番手(133デニール)で紡績した糸を適用し」、「横糸101と縦糸102をツイル織又はサテン織で製織する」という構成(以下、「ベスト構成」と呼ぶ)を発見した。
【0045】
出願人による実験(以下、「本実験」と呼ぶ)では、ツイル織のベスト構成の布地10の場合、「引張強度:254N」、「引き裂き強度:9.9N」、「横糸101の混紡量:33.95重量%(縦糸102の混紡量:66.05重量%)」であった。そして、本実験では、布地10全体における目的機能性活性成分の含有量C[重量%]は、以下の(1)式により算出することができる。ここでは、K2=0.11(11重量%)で固定となる。そして、ツイル織のベスト構成の布地10の場合、K1=0.4(40重量%)、K3=0.3395(33.95重量%)であるため、C=1.49重量%となる。
【0046】
C[重量%]=K1×K2×K3×100…(1)
K1:横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量
K2:活性成分放出性繊維におけるビタミンEの含有量
K3:布地10における横糸101の混紡量(混紡比)
また、本実験では、サテン織のベスト構成の布地10の場合、「引張強度:214N」、「引き裂き強度:23.5N」、「横糸101の混紡量:30.20重量%(縦糸102の混紡量:69.80重量%)」であった。そして、この場合、(1)式により、布地10全体における目的機能性活性成分の含有量C=1.33重量%となる。
【0047】
なお、本実験では、上記のベスト構成と同様の横糸101・縦糸102を用いて、平織で布地10を製織することも行った。この場合、平織の布地10では、「引張強度:258N」、「引き裂き強度:5.3N」、「横糸101の混紡量:33.81重量%(縦糸102の混紡量:66.19重量%)」であった。そして、この場合、(1)式により、布地10全体における目的機能性活性成分の含有量C=1.49重量%となる。しかしながら、本実験では、上記の通り、同じ構成の横糸101でも、平織の場合は、「引き裂き強度:5.3N」と強度的な要件を満たすことができなかった。
【0048】
また、本実験において、上記のベスト構成の布地10を製造する際に、一般的な紡績機械・織機を用いて一般的な速度で紡績・製織を行ったが、途中での破断等は発生しなかった。具体的には、本実験では、横糸101の紡績に紡績機械として「サイロコンパクト」を用い、0.01kg/時間の速度で紡績を行った。また、本実験では、縦糸102については既存のレーヨン繊維(横糸101と同じ仕様の40番手(133デニール))を適用した。さらに、本実験では、横糸101と縦糸102の製織に「レピア織機」を用いて4m/1時間で製織を行った。
【0049】
次に、横糸101に適用する混紡繊維における活性成分放出性繊維の混紡量の許容範囲(上限及び下限)について説明する。
【0050】
まず、横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量の上限値について検討する。
【0051】
横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量は増えるほど、布地10における活性成分の量(濃度)は向上することから、強度的な条件が問題となる。ただし、発明者の実験では、上記のベスト構成において「横糸101にレーヨン50重量%(活性成分放出性繊維50重量%)で且つ40番手(133デニール)で紡績した糸を適用」を適用して紡績・製織した場合(上記と同様の条件で紡績・製織した場合)、紡績・製織の途中で破断等が発生してしまい、安定的に布地10を製造することができないことが分かっている。つまり、このことから、横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量は設計上40重量%が上限値であることが分かる。
【0052】
次に、横糸101に活性成分放出性繊維の混紡量の下限値について検討する。
【0053】
横糸101において活性成分放出性繊維の混紡量が減るほど、活性成分放出性繊維より強度の高いレーヨン100%繊維の比率が増えることから、布地10の強度は向上することから、活性成分の量(濃度)が問題となる。
【0054】
図11は、横糸101の活性成分放出性繊維の混紡量を10重量%~40重量%で変化させた場合における、布地10全体の活性成分の量(濃度)を表形式で示した図である。
【0055】
図11(a)、10(b)は、それぞれ布地10をツイル織、サテン織とした場合における活性成分の量(濃度)を示している。
【0056】
図11(a)の結果から、布地10をツイル織とした場合、活性成分の量(濃度)を0.5重量%以上とするには、横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量を20重量%以上とする必要があることがわかる。また、
図11(b)の結果から、布地10をサテン織とした場合でも、活性成分の量(濃度)を0.5重量%以上とするには、横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量を20重量%以上とする必要があることがわかる。
【0057】
つまり、このことから、横糸101における活性成分放出性繊維の混紡量は設計上20重量%が下限値であることが分かる。
【0058】
以上のように、布地10では、上記のベスト構成に対して横糸101の活性成分放出性繊維の混紡量を20重量%~40重量%の間で変化させた場合でも、上記の5つの要件を満たすことができる。
【0059】
(A-2)第1の実施形態の効果
この実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0060】
「上記のベスト構成」又は「上記のベスト構成に対して横糸101の活性成分放出性繊維の混紡量を20重量%~40重量%の間で変化させた構成」で布地10を製織することで、当該布地10は当初の目的である活性成分放出性繊維を用いて、充分な活性成分機能を満たし、充分な強度を備え、装身品や寝具に適当な風合いを備え、環境への負荷が少なく、生産性に優れたという5つの要件を同時に満たすことができる。
【0061】
特に、上記のベスト構成の布地10では、横糸101に混紡繊維(レーヨンと活性成分放出性繊維を混紡した繊維)を適用しつつ、縦糸102にレーヨン100%の繊維を適用することで、充分な活性成分機能を満たしつつ充分な強度を備えることを容易としている。
【0062】
(B)他の実施形態
本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0063】
(B-1)上記の実施形態では、布地10を構成する横糸101として、レーヨンと活性成分放出性繊維を混紡した繊維を適用したが、レーヨン以外のセルロース繊維を混紡して横糸101を構成するようにしてもよい。また、縦糸102についても、レーヨン以外のセルロース繊維を適用するようにしてもよい。なお、横糸101に混紡するセルロース繊維と、縦糸102に適用するセルロース繊維は同じものを適用する方が風合いを統一する面で望ましい。
【0064】
(B-2)上記の実施形態では、本発明の布地を人間が使用する装身品、寝具、及び衛生マスクに適用する例について説明したが、本発明の布地は、人間以外の動物(例えば、犬、猫、猿等)が使用する装身品、寝具、及び衛生マスク等に適用するようにしてもよい。一般的に、ビタミンEは人間以外の動物にとっても有効成分となりえるため、本発明の布地を適用した装身品、寝具、及び衛生マスクを動物が使用(着用)した場合でも、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0065】
布地…10、肌着(装身品)…20、ベッド(寝具)…30、シーツ…31、布団カバー…32、枕カバー…33、衛生マスク…40、カバー部…41、横糸…101、縦糸…102。