(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125430
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】高比抵抗合金および抵抗器
(51)【国際特許分類】
C22C 30/00 20060101AFI20230831BHJP
H01C 13/00 20060101ALI20230831BHJP
H01C 3/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C22C30/00
H01C13/00 J
H01C3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029507
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】須藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】監物 幸翼
(72)【発明者】
【氏名】安藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】石田 清仁
(57)【要約】
【課題】比抵抗値が高く、温度特性が小さい高比抵抗合金および抵抗器を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る高比抵抗合金は、Fe、Co、CrおよびAl、ならびに不純物からなり、FeとCoの総量が45~62原子%である組成を有し、結晶組織が、体心立方構造の不規則構造を持つ相および体心立方構造の規則構造を持つ相の2相からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe、Co、CrおよびAl、ならびに不純物からなり、
FeとCoの総量が45~62原子%である組成を有し、
結晶組織が、体心立方構造の不規則構造を持つ相および体心立方構造の規則構造を持つ相の2相からなる高比抵抗合金。
【請求項2】
前記不規則構造はA2構造であり、前記規則構造はB2構造である請求項1に記載の高比抵抗合金。
【請求項3】
前記組成において、CrとAlの濃度比Cr/Alが1以下である請求項1または2に記載の高比抵抗合金。
【請求項4】
前記組成において、濃度が最も高い元素と最も低い元素の濃度差が2原子%以上である請求項1~3の何れか一項に記載の高比抵抗合金。
【請求項5】
前記組成において、さらに、Ti、SiおよびGeからなる群から選択した1種又は2種以上の元素をそれぞれ0.01~6.0原子%含有する請求項1~4の何れか一項に記載の高比抵抗合金。
【請求項6】
室温において185(μΩ・cm)以上の比抵抗値を有する請求項1~5の何れか一項に記載の高比抵抗合金。
【請求項7】
25℃~100℃の温度範囲の抵抗値の温度係数が±200ppm/℃の範囲内である請求項1~6の何れか一項に記載の高比抵抗合金。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の高比抵合金を含む材料からなる抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比抵抗合金および抵抗器に関する。特に、本発明は、高い比抵抗値と小さい温度係数とを兼ね備えた、抵抗器として用いるのに好適な合金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車から産業機器、センサーやポータブルデバイス、更にはそれらを動作させるためのバッテリーに至るまで、様々な製品の性能構造が期待されている。通常、これらのような多くの製品は電圧、電流により制御されるため、その内部電気回路には必ず抵抗器が使われている。
【0003】
抵抗器には、大小様々な比抵抗を有する抵抗材料が用いられる。抵抗材料には、抵抗値の他に重要な特性として、温度変化によって抵抗値が変化しない小さな温度係数(Temperature Coefficient of Resistivity:TCR(ppm/℃))が要求される。通常、金属的な性質を示す合金材料は、半導体材料などに比べ温度係数が小さいことから抵抗器用の材料として広く利用されている。
【0004】
一般的に、抵抗材料の抵抗値は抵抗材料自体の厚さを薄くする事で高い値にすることが可能である。そのため、抵抗材料の板厚や膜厚の制御の観点から大小様々な抵抗値を有する抵抗器が開発されている。
【0005】
しかしその一方で、抵抗材料の薄肉化や薄膜化は限界に近づいている上、将来に向けては、特に、高い比抵抗を持つ材料の開発が期待されている。
【0006】
このような背景の中、高い比抵抗値(μΩ・cm)と小さい温度係数(ppm/℃)を兼ね備えた抵抗材料として、Fe-Cr-Al合金が広く利用されている。ただし、Fe-Cr-Al合金の比抵抗値は142μΩ・cm程度であり、将来に向けては十分とは言えず、更に高い比抵抗値を持つ材料が要求されている。
【0007】
特許文献1には、高い比抵抗値を有する合金として、Mn:10.0~45.0質量%、Al:5.0~15.0質量%、C:0.01~2.0質量%、Cr:0.01~15.0質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなることを特徴とする高抵抗器用鉄合金が開示されている。特許文献1に開示された合金は、150μΩ・cm以上の比抵抗を有し、その温度係数も±200ppm/℃の範囲以内と小さい。
【0008】
また、高い比抵抗を有する他の合金として、非特許文献1に記載されているようなCo-Fe-Cr-Al合金が知られている。非特許文献1には、Co:25.5原子%、Fe:24.6原子%、Cr:24.5原子%およびAl:25.4原子%の組成比で、Si基板上にスパッタリング成膜することで合金を製造した場合、室温にて、200μΩ・cm以上の比抵抗を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Y.Jin et al.,“Effect of disorder on the resistivity of CoFeCrAl films”AIP Advances 7,055834 (2017).
【非特許文献2】Y.Jin et al.,“Half-metallicity in highly L21-оrdered CoFeCrAl thin films”Appl.Phys.Lett. 109, 142410 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された合金の場合、合金中にCを多く含むため、使用中に炭化物が形成される可能性があり、比抵抗や温度係数が変化してしまう課題を抱えている。
【0012】
また、非特許文献1に記載された合金の場合、高い比抵抗を得ることができるものの、温度係数は900ppm/℃以上と大きく、抵抗器用の高抵抗材料としては十分小さな温度係数とは言えない。
【0013】
以上の事情を鑑み、本発明は、高い比抵抗値および低い温度係数を兼ね備えた高比抵抗合金および抵抗器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らはまず、Fe-Co-Cr-Al合金の組成に着目し、比抵抗値の増大および温度係数の低減を両立させる観点から、組成設計について検討した。その結果、Fe-Co-Cr-Al合金において、各成分含有量を適正範囲に制御するとともに、合金組織の相構成を制限することで、高比抵抗値および低温度係数を発現することが可能なFe-Co-Cr-Al合金を実現できることを見出した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一実施態様に係る高比抵抗合金は、Fe、Co、CrおよびAl、ならびに不純物からなり、
FeとCoの総量が45~62原子%である組成を有し、
結晶組織が、体心立方構造の不規則構造を持つ相および体心立方構造の規則構造を持つ相の2相からなる高比抵抗合金。
[2]上記[1]に記載の高比抵抗合金においては、前記不規則構造はA2構造であり、前記規則構造はB2構造であってもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の高比抵抗合金においては、前記組成において、CrとAlの濃度比Cr/Alが1以下であってもよい。
[4]上記[1]~[3]の何れか一項に記載の高比抵抗合金においては、前記組成において、濃度が最も高い元素と最も低い元素の濃度差が2原子%以上であってもよい。
[5]上記[1]~[4]の何れか一項に記載の高比抵抗合金においては、前記組成において、さらに、Ti、SiおよびGeからなる群から選択した1種又は2種以上の元素をそれぞれ0.01~6.0原子%含有してもよい。
[6]上記[1]~[5]の何れか一項に記載の高比抵抗合金においては、室温において185(μΩ・cm)以上の比抵抗値を有してもよい。
[7]上記[1]~[6]の何れか一項に記載の高比抵抗合金においては、25℃~100℃の温度範囲の抵抗値の温度係数が±200ppm/℃の範囲内であってもよい。
[8]本発明の他の実施態様に係る抵抗器は、上記[1]~[7]の何れか一項に記載の高比抵合金を含む材料からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い比抵抗値および低い温度係数を兼ね備えた高比抵抗合金および抵抗器を提供することができる。また本発明の高比抵抗合金は、従来よりも高い比抵抗値および低い温度係数を発現できるため、種々の抵抗器として、幅広い分野にて好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、発明例6における、透過電子顕微鏡(TEM)による観察によって得られた結晶組織を示すTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態に係る高比抵抗合金について説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
[高比抵抗合金]
まず、本実施形態の高比抵抗合金を以下詳細に説明する。なお本明細書において、特段の断りがなければ各元素の含有量は合金材全体を基準(100原子%)とする。
【0020】
<組成>
本実施形態の高比抵抗合金は、Fe、Co、CrおよびAl、ならびに不純物からなる。すなわち、本実施形態の高比抵抗合金は、Fe-Co-Cr-Al系合金からなる。
【0021】
本実施形態の高比抵抗合金は、Fe、Co、CrおよびAl以外の成分を実質的に含まないが、必要に応じて、以下で説明するTi、SiおよびGeの1種以上を含有してもよい。
ここで、「実質的に含まない」とは、本発明の効果や特性を損なわない程度の不純物の存在は包含することを意味する。不純物とは、合金材を工業的に製造する際に原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であり、不可避的に混入する成分も含む。なお、不純物の含有量は、少ないほど望ましいが、合金材全体に対して合計で0.1原子%以下が好ましい。
【0022】
(FeとCoの総量:45~62原子%)
本実施形態の高比抵抗合金の組成において、FeとCoの総量は45~62原子%とする。FeおよびCoは、温度係数の抑制に寄与する重要な元素である。FeとCoの総量が少ないと、温度係数が大きくなってしまう(例えば、±200ppm/℃を外れる)おそれがある。そのためFeとCoの総量は45原子%以上とする。好ましくは、50原子%以上、より好ましくは52原子%以上である。一方、FeとCoの総量が過剰であると、合金組織において体心立方構造の規則構造(例えば、B2構造)を持つ相が不十分となり、十分な抵抗値を確保できないおそれがある。そのためFeとCoの総量は62原子%以下とする。好ましくは、60原子%以下、より好ましくは58原子%以下である。
【0023】
(Cr/Al:1以下)
本実施形態の高比抵抗合金の組成において、CrとAlの濃度比であるCr/Alは1以下とすることが好ましい。Crは体心立方構造を安定化する作用、また、Alは比抵抗を上昇させる作用を有する元素である。より高い比抵抗値を得るためには、Cr含有量よりもAl含有量を多くすることが有効である。そのためCr/Alは1以下とすることが好ましい。高比抵抗かつ小さな温度係数を実現するために、より好ましくは、0.9以下、さらに好ましくは0.7以下である。なお、Cr/Alの下限値は特に限定しないが、0.5以上としてもよい。
【0024】
(濃度が最も高い元素と最も低い元素の濃度差:2原子%以上)
本実施形態の高比抵抗合金の組成において、濃度が最も高い元素と最も低い元素の濃度差を2原子%以上とすることが好ましい。すなわち、本実施形態の高比抵抗合金を構成するFe-Co-Cr-Al系合金において、各元素の間で濃度差が設けられることが望ましい。このように、各元素が等量含まれる場合よりも、各元素に濃度差があった方が、合金中に不均一な格子歪みが生じ、電子が強く散乱されるため比抵抗が高くなると考えられる。そのため、Fe-Co-Cr-Al系合金である本実施形態の高比抵抗合金の組成において、最も濃度の高い元素と最も濃度の低い元素の濃度差が2原子%以上とすることが好ましい。より好ましくは4原子%以上、さらに好ましくは8原子%以上である。なお、最も濃度の高い元素と最も濃度の低い元素の濃度差の上限は特に限定しないが、20原子%以下としてもよい。
【0025】
ここで、本実施形態の高比抵抗合金であるFe-Co-Cr-Al系合金の組成において、各元素の個別の含有量は特に限定しないが、以下の範囲内としてもよい。
【0026】
Feは、常温で体心立方構造を持つ元素であり、体心立方構造を呈する相の形成に影響する元素である。この効果を発揮させるためには、Fe量は20原子%以上とすることが好ましく、25原子%以上とすることがより好ましい。なお、Fe量の上限値は特に限定しないが、他の元素と固溶し合うことで高い比抵抗を維持する観点から、50原子%以下としてもよい。
【0027】
Coは、体心立方構造の規則構造の生成に影響する元素である。特に、B2構造を有する相を確保するには所定量以上のCo量を含有させることが好ましい。この効果を発揮させるためには、Co量は20原子%以上とすることが好ましく、22原子%以上とすることがより好ましい。なお、Co量の上限値は特に限定しないが、他の元素と固溶し合うことで高い比抵抗を維持する観点から、30原子%以下としてもよい。
【0028】
Crは、体心立方構造を安定化させる効果を有する元素である。特に、Crは、Feの体心立方構造に固溶する事で比抵抗を上昇させる作用を有する。この作用を発揮させるためには、所定量以上のCr量を含有させることが好ましい。この効果を発揮させるためには、Cr量は20原子%以上とすることが好ましく、22原子%以上とすることがより好ましい。なお、Cr量の上限値は特に限定しないが、他の元素と固溶し合うことで高い比抵抗を維持する観点から、25原子%以下としてもよい。
【0029】
Alは、体心立方構造の規則構造の生成に影響する元素である。特に、B2構造を有する相を確保するには所定量以上のAl量を含有させることが好ましい。この効果を発揮させるためには、Al量は20原子%以上とすることが好ましく、22原子%以上とすることがより好ましい。なお、Al量の上限値は特に限定しないが、材料の脆化を防止する観点から、30原子%以下としてもよい。
【0030】
以上、本実施形態の高比抵抗合金の組成について説明したが、本実施形態の組成は、必要に応じて、さらにTi、SiおよびGeからなる群から選択した1種又は2種以上の元素を0.01~6.0原子%含有されてもよい。
【0031】
Ti、SiおよびGeは、比抵抗を高く維持したまま温度係数を調整することができる有効な元素である。そのため、これら元素を本発明の作用効果を阻害しない範囲内で含有してもよい。Ti、SiおよびGeの1種もしくは2種以上を含有させる場合は、それぞれの含有量を0.01~6.0原子%とすることが好ましい。Ti、SiおよびGeの各含有量が0.01原子%未満ではその添加効果が得られない。よって、Ti、SiおよびGeを含有させる場合は、各含有量を0.1原子%以上とすることがより好ましい。一方、Ti、SiおよびGeの1種以上の含有量が5.5原子%を超えると温度係数が大きくなってしまう(例えば、±200ppm/℃を外れる)おそれがある。よって、Ti、SiおよびGeを含有させる場合は、含有量を6.0原子%以下とすることがより好ましい。
【0032】
<結晶組織>
本実施形態の高比抵抗合金における結晶組織(合金組織)は、体心立方構造(BCC構造)の不規則構造を持つ相および体心立方構造の規則構造を持つ相の2相からなる。BCC構造の不規則構造は比抵抗値の向上に寄与し、規則構造は温度係数の低減に寄与する因子である。すなわち、不規則構造を持つ相と規則構造を持つ相の2相構造の組織とすることにより、高い比抵抗値および小さな温度係数の両立を実現することができる。
【0033】
ここで、上述したとおり、高い比抵抗を有する合金として非特許文献1および2にはFe-Co-Cr-Al合金が開示されている。しかし、非特許文献1および2に開示された合金は、規則構造であるB2構造および/またはL2
1構造内に不規則性(不規則なA2構造が局所的かつランダムに配置された構造)を有する単一相であるため温度係数が非常に高いものであった。一方、本実施形態の高比抵抗合金では、不規則構造と規則構造が、互いに相として配置されているため(
図1参照)、高い比抵抗値および小さな温度係数を両立させることができる。
【0034】
体心立方構造の不規則構造を持つ相としては、例えば、A2構造であることが好ましい。また体心立方構造の不規則構造を持つ相としては、例えば、B2構造であることが好ましい。このようにA2構造とB2構造からなる相構造とすることでより安定して高い比抵抗値および小さな温度係数の両立を実現することができる。換言するに、合金組織が、例えば、A2構造もしくはB2構造のいずれかの相のみからなる単相である場合、抵抗値が不十分となるおそれがある。また、合金組織としてBCC構造ではなく、FCC構造やHCP構造を含む場合は、高い比抵抗を維持できないおそれがある。なお、体心立方構造の規則構造を持つ相としてD03構造やL21構造が挙げられるが、本発明の効果を阻害しない範囲であればD03構造やL21構造を含んでもよい。
【0035】
合金組織は、例えば、透過電子顕微鏡による暗視野像を用いて、BCC構造の規則相及び不規則相の存在を同定することが出来る。
【0036】
[特性]
本実施形態に係る高比抵抗合金は、以下の各特性を示す。
【0037】
<比抵抗>
本実施形態の高比抵抗合金は、非常に高い比抵抗値を示す。具体的には、室温(25℃程度)において185(μΩ・cm)以上の比抵抗値を発現させることができる。
【0038】
比抵抗値は四端子法で測定できる。
四端子法とは、4つの端子を用いて、材料内に発生する電位差を測定して比抵抗値を算出する方法である。具体的には、まず、測定試料に2つの電流端子と、2つの電圧端子を設ける。2つの電圧端子は、2つの電流端子間に設けられる。そして、2つの電流端子間に電流を流し、2つの電圧端子によって、この2つの電圧端子間の電圧を測定する。
電圧端子間の距離をL、測定試料の断面積をS、通電電流をI、及び測定電圧をVとすると、比抵抗値ρ(μΩ・cm)は、ρ=(V/I)×(S/L)で求めることができる。
【0039】
<温度係数>
本実施形態の高比抵抗合金は、非常に小さな温度係数(Temperature Coefficient of Resistivity:TCR)を示す。具体的には、25℃~100℃の温度範囲において抵抗値の温度係数が±200(ppm/℃)の範囲内である特性を示す。
【0040】
本実施形態における温度係数(ppm/℃)は、下記式(1)より算出することができる。
【0041】
〔{(ρ100℃-ρ25℃)/ρ25℃}/75〕×106・・・(1)
ここで、ρ100℃は100℃での比抵抗値(μΩ・cm)を示し、ρ25℃は25℃での比抵抗値(μΩ・cm)を示す。
【0042】
なお、比抵抗および温度係数は、上述した組成の各元素量や、FeとCoの総量、および/またはCrとAlの濃度比(Cr/Al)を好適な範囲に制御することにより、さらに良好な特性(例えば、190μΩ・cm以上の高い比抵抗値、かつ±20(ppm/℃)の範囲内である温度係数)を発現させることも可能である。
【0043】
[高比抵抗合金の製造方法]
本実施形態の高比抵抗合金の製造方法としては、特に限定せず、常法の工程を採用してよい。例えば、溶解鋳造、熱間加工(熱間鍛造、熱間圧延等)により本実施形態の高比抵抗合金を製造することができる。以下、本実施形態の高比抵抗合金の製造方法の一例として、好適な製法を説明する。
【0044】
まず、Fe、Co、CrおよびAlについて、上記の組成範囲内となるよう成分調整し合金原料を得る。またこの時、必要に応じて、Ti、SiおよびGeの1種以上を、上記含有量の範囲内で添加してもよい。
【0045】
次に、得られた合金原料をアーク溶解炉又は高周波溶解炉を用いて溶解し、鋳造インゴットを得る。その後、鋳造インゴットを室温まで冷却することで、高比抵抗合金が得られる。なお、必要に応じて、鋳造インゴットに対して熱間鍛造あるいは熱間圧延を行ってもよい。
また、鋳造インゴットとした後(もしくは熱間加工の後)、必要に応じて、1200℃以下、800℃以上の温度にて0.1分~1000分の熱処理を施してもよい。その後の冷却方法としては、焼き入れ、空冷、炉冷を採用してよい。B2規則相の規則度を高める観点からは、冷却方法は、空冷や炉令とすることが好ましい。
さらに、前述の熱処理後、必要に応じて、300℃~1000℃の温度にて0.1分~1000分の時効熱処理を施してもよい。
【0046】
以上の方法により、BCC構造の不規則構造(例えばA2構造相)およびBCC構造の規則構造(例えばB2構造相)からなる結晶構造を有する高比抵抗合金を製造することができる。
【0047】
[用途]
本実施形態の高比抵抗合金は、高い比抵抗値および低い温度係数を兼備できることから、各種の抵抗器の素材として好適である。
【実施例0048】
次に実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。すなわち、本発明は、本発明の技術思想の範囲における他の例、態様等を当然含むものである。
【0049】
(実施例1)
表1に示す組成の合金素材を、アーク溶解炉を用いて溶解し、さらに溶解後の素材を金型に鋳込むことで溶解インゴットを作製した。得られた溶解インゴットを、水冷銅ハース上で室温まで冷却して、高比抵抗合金を得た。
【0050】
表1に、発明例1~8の高比抵抗合金および比較例1~3の合金の組成、結晶組織の相構成、比抵抗値(μΩ・cm)および抵抗値の温度係数(ppm/℃)(25℃~100℃における)を示す。
【0051】
【0052】
比抵抗値は、得られた高比抵抗合金からサンプル(サイズ:長さ10mm×幅3mm×厚さ1mm)を切り出し、上述したような四端子法を用いて測定した。
【0053】
また、温度係数は、下記式(1)より算出した。
【0054】
〔{(ρ100℃-ρ25℃)/ρ25℃}/75〕×106・・・(1)
ここで、ρ100℃は100℃での比抵抗値(μΩ・cm)を示し、ρ25℃は25℃での比抵抗値(μΩ・cm)を示す。
【0055】
また、高比抵抗合金結晶組織の相構成は、上述したように透過電子顕微鏡より同定した。
【0056】
表1に示す通り、発明例1~8の合金は、185(μΩ・cm)以上の高い比抵抗値および±200(ppm/℃)以内の小さな温度係数を示した。
これに対し、比較例1~3については、比抵抗値が低い、あるいは温度係数が±200(ppm/℃)を超えており、両特性の両立が出来ていないことが分かった。
【0057】
また、表1に示す通り、発明例1~8の合金はいずれもA2構造およびB2構造からなる2相組織を呈していた。
【0058】
図1は、発明例6のサンプルにおいて、透過電子顕微鏡(TEM)による観察によって得られた結晶組織を示すTEM画像である。なお、
図1に示す結晶組織は、B2規則反射より得られた暗視野像を示す。
図1に示すように、発明例6の場合、各相のサイズがナノサイズレベルであるA2構造とB2構造からなる2相組織を呈していることが分かる。なお、
図1に示すTEM画像において、暗い部分がA2構造、明るい部分がB2構造を示す。
【0059】
(実施例2)
次に、高比抵抗合金において、比抵抗値および温度係数に及ぼす熱処理の効果を調査した結果を表2に発明例9として示す。
【0060】
まず、表2に示す組成の合金素材を、アーク溶解炉を用いて溶解し、さらに溶解後の素材を金型に鋳込むことで溶解インゴットを作製した。得られた溶解インゴットを、1000℃で6時間の熱処理をした後に空冷し、さらに600℃で5分の時効熱処理を行い空冷して、高比抵抗合金を得た。
表2に示すとおり、これらの熱処理を施すことにより、高い比抵抗を維持したまま、温度係数を調整することが可能であることがわかる。
【0061】
【0062】
(実施例3)
次に、表3は、高比抵抗合金において、添加元素の効果を調査した結果を表3に発明例10~12として示す。組成以外の製法は実施例1と同様である。
表3に示すように、Ti、SiもしくはGeの添加により、高い比抵抗値を維持したまま、温度係数を調整することが可能であることがわかる。
【0063】
本発明の高比抵抗合金は、比抵抗値が高く、温度特性が小さいという効果を有する。従って、高抵抗器用材料、一般パワー抵抗器、精密抵抗器などに好適に使用することができる。