(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125488
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】エアバッグ及びエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/2334 20110101AFI20230831BHJP
B60R 21/205 20110101ALI20230831BHJP
【FI】
B60R21/2334
B60R21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029603
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】早▲崎▼ 拓也
(72)【発明者】
【氏名】向井 達洋
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA14
3D054BB16
3D054CC06
3D054CC08
3D054CC15
3D054CC25
3D054CC34
3D054CC42
3D054DD09
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】簡便な構造で障害物の前面にエアバッグの一部を膨張展開することができる、エアバッグ及びエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】エアバッグ2は、乗員Mの前方に膨張展開される本体部2aと、センタークラスターCと乗員Mとの間に膨張展開される突出部2bと、を有している。フロントパネル21は、本体部2aを形成する第一面部211と、突出部2bを形成する第二面部212と、を備えている。フロントパネル21の第二面部212は、外周の一部が内側に切り込まれた略V字形状の第一切り込み部212a及び第二切り込み部212bを備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常時は車両構造物内に折り畳まれて収容されており、緊急時にガスが供給されて車両の座席に着座した乗員の前方に膨張展開するエアバッグにおいて、
前記エアバッグは、前記乗員の前方に膨張展開される本体部と、前記車両構造物に形成された障害物と前記乗員との間に膨張展開される突出部と、を有し、
前記エアバッグは、膨張展開時に前記乗員側に位置するフロントパネルと、膨張展開時に前記車両構造物側に位置するリアパネルと、を備え、
前記フロントパネルは、前記本体部を形成する第一面部と、前記突出部を形成する第二面部と、を含み、前記リアパネルは、前記本体部を形成する第一面部と、前記突出部を形成する第二面部と、を含み、
少なくとも前記フロントパネルの第二面部は、外周の一部が内側に切り込まれ対辺が縫合される複数の切り込み部を備えている、
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
前記複数の切り込み部は、隣り合う位置に形成された第一切り込み部及び第二切り込み部を含み、前記フロントパネルの第二面部は、前記第一切り込み部と前記第二切り込み部との間に形成された直線形状の中間部を備えている、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項3】
前記第一切り込み部の縫合予定線は、切り返し点を形成する第一頂点と、前記中間部との境界点を形成する第一境界点と、を備え、前記第二切り込み部の縫合予定線は、切り返し点を形成する第二頂点と、前記中間部との境界点を形成する第二境界点と、を備え、前記第一頂点と前記第二頂点との間隔は前記第一境界点と前記第二境界点との間隔よりも広く設定されている、請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項4】
前記リアパネルの第二面部は、前記中間部に縫合される中間直線部を有している、請求項2に記載のエアバッグ。
【請求項5】
前記リアパネルの第二面部の周長は、前記複数の切り込み部を縫合した後の前記フロントパネルの第二面部の周長と同じ長さを有している、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項6】
前記本体部及び前記突出部により構成される前記エアバッグの正面部は、前記乗員に対して略正対するように一つの膨張面を形成するように構成されている、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項7】
前記第一面部の前記正面部側に配置される縫合予定線と前記第二面部の前記正面部側に配置される縫合予定線とは、直線状に連続するように構成されている、請求項6に記載のエアバッグ。
【請求項8】
前記突出部は、前記本体部の片側又は両側に配置されている、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項9】
前記リアパネルの第二面部は、外周の一部が内側に切り込まれ対辺が縫合される複数の切り込み部を備えている、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項10】
前記エアバッグは、前記乗員が前記本体部に衝突する方向の軸線から外れた位置に形成されたベントホールを備える、請求項1に記載のエアバッグ。
【請求項11】
請求項1~請求項10のいずれか一項に記載されたエアバッグを備える、ことを特徴とするエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ及びエアバッグ装置に関し、特に、膨張展開されるエアバッグの周辺に障害物を有する車両に適したエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、衝突時等の緊急時にエアバッグを車内で膨張展開させて乗員に生ずる衝撃を吸収するためのエアバッグ装置が搭載されることが一般的になってきている。かかるエアバッグ装置は、一般に、通常時は折り畳まれており緊急時に膨張展開されるエアバッグと、該エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記エアバッグ及び前記インフレータを保持するリテーナと、前記エアバッグを被覆するエアバッグカバーと、を備えている。
【0003】
近年の車両は、インストルメントパネルの中央部にナビゲーションシステムのディスプレイや空調設備のスイッチ等を装備したセンタークラスターが配置されていることが多い。かかるセンタークラスター(特に、ディスプレイ部分)は、インストルメントパネルに対して突出した形状を有していることが多く、エアバッグの膨張展開時に干渉しやすい。
【0004】
センタークラスターのように膨張展開されるエアバッグの周辺に障害物が存在する場合、エアバッグの膨張展開時の姿勢(例えば、向きや位置)が崩れてしまう場合がある。また、車両の衝突方向によっては、乗員がセンタークラスターに向かって移動する場合もある。そこで、例えば、特許文献1に記載されたように、センタークラスターの前面を覆うように拡張部を有するエアバッグが既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたエアバッグでは、エアバッグ本体を障害物と干渉しないように膨張展開させる必要があり、テザー等によりエアバッグ本体の膨張展開形状を制御しなければならない。したがって、エアバッグの構造が複雑化するとともに重量の増加や折り畳み形状の大型化等の問題を生じる。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、簡便な構造で障害物の前面にエアバッグの一部を膨張展開することができる、エアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、通常時は車両構造物内に折り畳まれて収容されており、緊急時にガスが供給されて車両の座席に着座した乗員の前方に膨張展開するエアバッグにおいて、前記エアバッグは、前記乗員の前方に膨張展開される本体部と、前記車両構造物に形成された障害物と前記乗員との間に膨張展開される突出部と、を有し、前記エアバッグは、膨張展開時に前記乗員側に位置するフロントパネルと、膨張展開時に前記車両構造物側に位置するリアパネルと、を備え、前記フロントパネルは、前記本体部を形成する第一面部と、前記突出部を形成する第二面部と、を含み、前記リアパネルは、前記本体部を形成する第一面部と、前記突出部を形成する第二面部と、を含み、少なくとも前記フロントパネルの第二面部は、外周の一部が内側に切り込まれ対辺が縫合される複数の切り込み部を備えている、ことを特徴とするエアバッグが提供される。
【0009】
前記複数の切り込み部は、隣り合う位置に形成された第一切り込み部及び第二切り込み部を含み、前記フロントパネルの第二面部は、前記第一切り込み部と前記第二切り込み部との間に形成された直線形状の中間部を備えていてもよい。
【0010】
前記第一切り込み部の縫合予定線は、切り返し点を形成する第一頂点と、前記中間部との境界点を形成する第一境界点と、を備え、前記第二切り込み部の縫合予定線は、切り返し点を形成する第二頂点と、前記中間部との境界点を形成する第二境界点と、を備え、前記第一頂点と前記第二頂点との間隔は前記第一境界点と前記第二境界点との間隔よりも広く設定されていてもよい。
【0011】
前記リアパネルの第二面部は、前記中間部に縫合される中間直線部を有していてもよい。
【0012】
前記リアパネルの第二面部の周長は、前記複数の切り込み部を縫合した後の前記フロントパネルの第二面部の周長と同じ長さを有していてもよい。
【0013】
前記本体部及び前記突出部により構成される前記エアバッグの正面部は、前記乗員に対して略正対するように一つの膨張面を形成するように構成されていてもよい。
【0014】
前記第一面部の前記正面部側に配置される縫合予定線と前記第二面部の前記正面部側に配置される縫合予定線とは、直線状に連続するように構成されていてもよい。
【0015】
前記突出部は、前記本体部の片側又は両側に配置されていてもよい。
【0016】
前記リアパネルの第二面部は、外周の一部が内側に切り込まれ対辺が縫合される複数の切り込み部を備えていてもよい。
【0017】
前記エアバッグは、前記乗員が前記本体部に衝突する方向の軸線から外れた位置に形成されたベントホールを備えていてもよい。
【0018】
また、本発明によれば、上述したいずれかの構成を有するエアバッグを備える、ことを特徴とするエアバッグ装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明に係るエアバッグ及びエアバッグ装置によれば、本体部と突出部とを備えたエアバッグの突出部を構成するパネルに複数の切り込み部を形成したことにより、突出部を立体縫製することができ、突出部の膨張展開の厚さを大きくすることができ、簡便な構造で障害物の前面にエアバッグの一部を膨張展開することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置を示す全体構成図である。
【
図2】
図1に示したエアバッグの膨張展開形状を示す概略図であり、(A)は
図1におけるA矢視図、(B)は
図1におけるB矢視図、である。
【
図3】
図1に示したエアバッグを構成するパネルの平面展開図であり、(A)はフロントパネル、(B)はリアパネル、を示している。
【
図4】
図1に示したエアバッグの変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、を示している。
【
図5】本発明の第二実施形態に係るエアバッグを構成するパネルの平面展開図であり、(A)はフロントパネル、(B)はリアパネル、を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図5(B)を用いて説明する。ここで、本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置を示す全体構成図である。
図2は、
図1に示したエアバッグの膨張展開形状を示す概略図であり、(A)は
図1におけるA矢視図、(B)は
図1におけるB矢視図、である。
【0022】
本発明の第一実施形態に係るエアバッグ装置1は、
図1に示すように、通常時はインストルメントパネルI内に折り畳まれて収容されており、緊急時にガスが供給されて車両の座席Zに着座した乗員Mの前方に膨張展開するエアバッグ2と、エアバッグ2にガスを供給するインフレータ3と、エアバッグ2及びインフレータ3を保持するリテーナ4と、エアバッグ2を覆い隠すとともにインストルメントパネルIの一部を構成するエアバッグカバー5と、を備えている。
【0023】
図1に示した車両は、インストルメントパネルIの中央部にセンタークラスターCを有している。センタークラスターCは、ナビゲーションシステムのディスプレイや空調設備のスイッチ等を装備する部分である。なお、インストルメントパネルIは、エアバッグ2が配置される車両構造物の一例である。
【0024】
図1に示したエアバッグ装置1は、例えば、助手席用エアバッグ装置であり、エアバッグ2は、例えば、乗員M、ウインドシールドW及びインストルメントパネルIにより囲まれた空間に膨張展開される。なお、センタークラスターCは、エアバッグ2の膨張展開時にエアバッグ2と干渉する可能性がある障害物の一例である。
【0025】
インフレータ3は、ガス噴出口がエアバッグ2内に挿入された状態でリテーナ4に固定される。インフレータ3は、図示しないECU(電子制御ユニット)に接続されており、加速度センサ等の計測値に基づいて制御されている。ECUが車両の衝突や急減速等の緊急時を感知した場合には、インフレータ3の内部に格納された薬剤を燃焼させてガスを発生させ、エアバッグ2にガスを供給する。インフレータ3は、ディスク型形状であってもよいし、円柱形状であってもよい。
【0026】
リテーナ4は、例えば、側面部に接続されたフックにより、エアバッグカバー5に係止されるとともに、接合部材を介してリインフォースメント等の車体構造物6に連結されている。リテーナ4には、バッグリングを介してエアバッグ2及びインフレータ3が固定される。なお、リテーナ4の構成は、図示した構成に限定されるものではない。
【0027】
エアバッグカバー5は、例えば、車両内装面を構成する板状部51と、板状部51の背面に配置されエアバッグ2の放出口を構成するインナーケース52と、を有している。インナーケース52上の板状部51には、エアバッグ2の膨張展開時に開裂可能に形成された扉部53が形成されている。エアバッグカバー5は、インストルメントパネルIに形成された開口部に嵌め込まれるように構成されていてもよいし、インストルメントパネルIと一体に形成されていてもよい。なお、エアバッグカバー5の構成は、図示した構成に限定されるものではない。
【0028】
エアバッグ2は、乗員Mの前方に膨張展開される本体部2aと、センタークラスターC(車両構造物に形成された障害物)と乗員Mとの間に膨張展開される突出部2bと、を有している。本体部2a及び突出部2bにより構成されるエアバッグ2は、膨張展開時に乗員M側に位置するフロントパネル21と、膨張展開時にインストルメントパネルI側に位置するリアパネル22と、に二分割されて構成されている。なお、図示しないが、エアバッグ2は、必要に応じて補強用のパッチパネルを有していてもよい。
【0029】
また、エアバッグ2は、乗員Mが本体部2aに衝突する方向の軸線から外れた位置に形成されたベントホールを備えていてもよい。ベントホールは、例えば、本体部2aの背面部2dの上側に形成された第一ベントホール24と、本体部2aの背面部2dの下側に形成された第二ベントホール25と、により構成される。
【0030】
例えば、第一ベントホール24は突出部2bと同じ側に配置され、第二ベントホール25は突出部2bと反対側に配置される。また、第二ベントホール25の開口径は第一ベントホール24の開口径よりも大きく形成されていてもよい。なお、ベントホールの個数及び配置は図示した構成に限定されるものではない。
【0031】
本体部2aは、エアバッグカバー5から車内に放出された後、ウインドシールドWに接触した状態で乗員Mに向かって膨張展開し、正面に向かって移動する乗員Mの頭部を主に拘束する機能を有している。
図2(A)に示したエアバッグ2において、乗員M側に膨張展開される部分を正面部2cと称し、ウインドシールドW側に膨張展開される部分を背面部2dと称することとする。
【0032】
突出部2bは、本体部2aと連通するように形成された凸部である。
図2(A)に示したように、突出部2bは、エアバッグ2の障害物となるセンタークラスターCが配置されている側に形成される。したがって、右ハンドルの車両と左ハンドルの車両では、突出部2bの位置は反対になる。突出部2bは、
図2(A)に示したように長さXを有し、
図2(B)に示したように厚さHを有している。
【0033】
ところで、
図2(A)に示したように、本体部2aの中心線Lから離れた位置にセンタークラスターCが配置されている場合、側面が単一のパネルで構成されたエアバッグでは、エアバッグが球形状に膨張しやすいことからエアバッグがセンタークラスターCに干渉するおそれがある。したがって、側面が単一のパネルで構成されたエアバッグでは、エアバッグの膨張展開形状を制御する手段が必要になる。
【0034】
それに対して、
図1に示したように、エアバッグ2をフロントパネル21とリアパネル22の2ピース構造とすることにより、フロントパネル21とリアパネル22との縫合線23に対して、フロントパネル21を上方側に膨張させることができ、リアパネル22を下方側に膨張させることができ、テザー等の形状制御部材を用いることなく、エアバッグ2の横幅を規制することができる。したがって、
図2(a)に示したように、本体部2aをセンタークラスターCと干渉させずに膨張展開させることができる。
【0035】
また、例えば、車両が斜めに衝突した場合に、乗員Mの頭部がセンタークラスターCに向かって移動するおそれがある。そこで、本実施形態に係るエアバッグ2は、センタークラスターCの前面の少なくとも一部を覆うことができる突出部2bを備えている。
【0036】
また、突出部2bの拘束性能を高めるためには、エアバッグ2の正面部2cにおける本体部2aと突出部2bとの間に形成される段差を低減することが好ましい。したがって、突出部2bの長さX及び厚さHは、本体部2a及び突出部2bにより構成されるエアバッグ2の正面部2cが乗員Mに対して略正対するように一つの膨張面(拘束面)を形成するように構成されている。
【0037】
ここで、エアバッグ2を構成するフロントパネル21及びリアパネル22について、
図3(A)及び
図3(B)を参照しつつ説明する。
図3は、
図1に示したエアバッグを構成するパネルの平面展開図であり、(A)はフロントパネル、(B)はリアパネル、を示している。なお、
図3(A)及び
図3(B)において、一点鎖線は区画仮想線、二点鎖線は縫合予定線を示している。
【0038】
フロントパネル21は、例えば、
図3(A)に示したように、本体部2aを形成する第一面部211と、突出部2bを形成する第二面部212と、を備えている。第一面部211及び第二面部212の外周の境界点をPf,Qfとすれば、第一面部211及び第二面部212は境界点Pf,Qfを結ぶ区画仮想線Lfにより概念的に区画される。
【0039】
フロントパネル21の第一面部211は、エアバッグ2の背面部2dを構成する側に略V字形状の第一切り欠き部211aと第二切り欠き部211bとを備えている。第一切り欠き部211aを構成する対辺は縫合予定線S1,S1′により縫合され、第二切り欠き部211bを構成する対辺は縫合予定線S2,S2′により縫合される。
【0040】
フロントパネル21の第二面部212は、外周の一部が内側に切り込まれた略V字形状の第一切り込み部212a及び第二切り込み部212bを備えている。第一切り込み部212aを構成する対辺は縫合予定線S3,S3′により縫合され、第二切り込み部212bを構成する対辺は縫合予定線S4,S4′により縫合される。
【0041】
また、第一切り込み部212a及び第二切り込み部212bは隣り合う位置に形成されており、フロントパネル21の第二面部212は、第一切り込み部212aと第二切り込み部212bとの間に形成された直線形状の中間部212cを備えている。中間部212cの縫合予定線S5はリアパネル22の縫合予定線S5′に縫合される。
【0042】
第一切り込み部212aの縫合予定線S3′は、切り返し点を形成する第一頂点T1と、中間部212cとの境界点を形成する第一境界点U1と、を備え、第二切り込み部212bの縫合予定線S4は、切り返し点を形成する第二頂点T2と、中間部212cとの境界点を形成する第二境界点U2と、を備えている。第一頂点T1と第二頂点T2との間隔Dtは第一境界点U1と第二境界点U2との間隔Duよりも広く設定されている。
【0043】
かかる構成により、
図1に示したように、エアバッグ2の縫合線23に対して突出部2bの乗員M側の膨張面積を拡張することができる。第一境界点U1と第二境界点U2との間隔Duは、中間部212cの長さでもある。突出部2bの形状(厚さH,長さX等)は、第一切り込み部212aの縫合予定線S3,S3′の長さ、第二切り込み部212bの縫合予定線S4,S4′の長さ、間隔Dtの長さ、縫合予定線S3′,S4の開き角度、間隔Du(中間部212c)の長さ等の条件により設定される。
【0044】
また、第一面部211の正面部2c側に配置される縫合予定線S6と第二面部212の正面部2c側に配置される縫合予定線S7とは、例えば、境界点Qf近傍の区画仮想線Lf上で屈曲することなく直線状に連続するように構成される。かかる構成により、エアバッグ2の膨張展開時における本体部2aと突出部2bとの段差を低減することができる。
【0045】
また、第一面部211の第一切り欠き部211aと第二面部212との間であって背面部2d側には第一ベントホール24が形成される。この位置に第一ベントホール24を形成することにより、乗員Mが本体部2aに衝突する方向の軸線から外れた位置にベントホールを配置することができる。
【0046】
リアパネル22は、例えば、
図3(B)に示したように、本体部2aを形成する第一面部221と、突出部2bを形成する第二面部222と、を備えている。第一面部221及び第二面部222の外周の境界点をPr,Qrとすれば、第一面部221及び第二面部222は境界点Pr,Qrを結ぶ区画仮想線Lrにより概念的に区画される。
【0047】
リアパネル22の第一面部221は、エアバッグ2の背面部2dを構成する側に略矩形形状の第一凸部221a及び第二凸部221bと、第一凸部221aと第二凸部221bとの間に形成された略台形形状の凹部221cと、を備えている。第一凸部221aと第二凸部221bとは端部同士が縫合予定線S8,S8′により縫合される。凹部221cを形成する一対の脚部の縫合予定線S9,S9は、凹部221cの底辺を形成する縫合予定線S9′に縫合される。
【0048】
リアパネル22の第二面部222は、第一面部221の側方に略四角形状に拡張された部分であり、フロントパネル21の中間部212cに縫合される中間直線部222aを有している。中間直線部222aの長さDrは、フロントパネル21における中間部212cの長さ(第一境界点U1と第二境界点U2との間隔Du)と同じ長さに設定される。中間直線部222aの縫合予定線S5′は中間部212cの縫合予定線S5に縫合される。
【0049】
また、リアパネル22の第二面部222の周長(境界点Prから境界点Qrまでの長さ)は、第一切り込み部212a及び第二切り込み部212bをそれぞれ縫合した後のフロントパネル21の第二面部212の周長(境界点Pfから境界点Qfまでの長さ)と同じ長さを有するように設定される。
【0050】
また、第一面部221の正面部2c側に配置される縫合予定線S6′と第二面部222の正面部2c側に配置される縫合予定線S7′とは、例えば、境界点Qr近傍の区画仮想線Lr上で屈曲することなく直線状に連続するように構成される。かかる構成により、エアバッグ2の膨張展開時における本体部2aと突出部2bとの段差を低減することができる。なお、リアパネル22の縫合予定線S6′はフロントパネルの縫合予定線S6に縫合され、リアパネル22の縫合予定線S7′はフロントパネルの縫合予定線S7に縫合される。
【0051】
また、第一面部221の背面部2d側の略中心部にはインフレータ3のガス噴出口を挿入するインフレータ用開口部221dが形成されている。また、第一面部221の第二面部222と反対側(第二凸部221b側)であって背面部2d側には第二ベントホール25が形成される。この位置に第二ベントホール25を形成することにより、乗員Mが本体部2aに衝突する方向の軸線から外れた位置にベントホールを配置することができる。
【0052】
上述したフロントパネル21の第一切り欠き部211aを縫合予定線S1,S1′で縫合し、第二切り欠き部211bを縫合予定線S2,S2′で縫合し、第一切り込み部212aを縫合予定線S3,S3′で縫合し、第二切り込み部212bを縫合予定線S4,S4′で縫合することによりエアバッグ2の上半部が形成される。
【0053】
また、上述したリアパネル22の凹部221cを縫合予定線S9,S9′で縫合し、第一凸部221a及び第二凸部221bを縫合予定線S8,S8′で縫合することによりエアバッグ2の下半部が形成される。最終的にフロントパネル21及びリアパネル22を縫合線23で縫合することにより袋体であるエアバッグ2が形成される。
【0054】
上述した本実施形態に係るエアバッグ2及びエアバッグ装置1によれば、本体部2aと突出部2bを備えたエアバッグ2の突出部2bを構成するフロントパネル21に複数の切り込み部(例えば、第一切り込み部212a及び第二切り込み部212b)を形成したことにより、突出部2bを立体縫製することができ、突出部2bの膨張展開の厚さを大きくすることができ、簡便な構造で障害物(例えば、センタークラスターC)の前面にエアバッグ2の一部を膨張展開することができる。
【0055】
なお、エアバッグ2を折り畳む際には、例えば、突出部2bを本体部2aの内側に押し込んで全体形状を整えた後、横方向及び縦方向に任意の大きさとなるように所定の折り畳み方法(蛇腹折り、山折り、谷折り、ロール折り等)により折り畳まれ、リテーナ4内に収容される。
【0056】
次に、エアバッグ2の変形例について、
図4(A)及び
図4(B)を参照しつつ説明する。ここで、
図4は、
図1に示したエアバッグの変形例を示す図であり、(A)は第一変形例、(B)は第二変形例、を示している。
【0057】
図4(A)に示した第一変形例は、フロントパネル21の第二面部212の形状を変更したものである。具体的には、第三切り込み部212dを追加して複数の切り込み部を第一切り込み部212a、第二切り込み部212b及び第三切り込み部212dの三つの切り込み部により構成したものである。このように、切り込み部の個数は二つ以上であればよく、切り込み部の個数のより突出部2bの膨張形状を任意に形成することができる。
【0058】
図4(B)に示した第二変形例は、リアパネル22の第二面部222の形状を変更したものである。具体的には、第二面部222に第一切り込み部222b及び第二切り込み部222cを形成したものである。このように、フロントパネル21の第二面部212だけでなく、リアパネル22の第二面部222にも外周の一部が内側に切り込まれ対辺が縫合される複数の切り込み部を形成するようにしてもよい。
【0059】
次に、本発明の第二実施形態に係るエアバッグ2について、
図5(A)及び
図5(B)を参照しつつ説明する。ここで、
図5は、本発明の第二実施形態に係るエアバッグを構成するパネルの平面展開図であり、(A)はフロントパネル、(B)はリアパネル、を示している。なお、上述した第一実施形態と同じ構成部品については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0060】
第二実施形態に係るエアバッグ2は、突出部2bを本体部2aの両側に形成したものである。上述した第一実施形態に係るエアバッグ2では、突出部2bを本体部2aの片側に形成しているが、必要に応じて本体部2aの左右両側に突出部2bを配置するようにしてもよい。
【0061】
具体的には、
図5(A)に示したように、フロントパネル21は、第二面部212の反対側に第三面部213を備えている。第三面部213は、例えば、第二面部212と同様に第一切り込み部213a、第二切り込み部213b及び中間部213cを備えている。なお、ここではベントホールの図を省略してある。
【0062】
また、
図5(B)に示したように、リアパネル22は、第二面部222の反対側に第三面部223を備えている。第三面部223は、例えば、第二面部222と同様に中間直線部223aを備えている。なお、ここではベントホールの図を省略してある。
【0063】
突出部2bは、エアバッグ2の障害物となる部分に配置されていればよく、上述した第一実施形態及び第二実施形態に示した構成に限定されるものではない。また、障害物の位置や大きさ等の条件により、大きさの異なる突出部2bを有していてもよいし、本体部2の上部や下方に配置されていてもよい。
【0064】
上述した第一実施形態(変形例を含む)及び第二実施形態では、エアバッグ装置1を助手席に配置した場合について説明しているが、エアバッグ装置1は助手席以外の座席に配置されるものであってもよい。また、エアバッグ装置1が配置される座席は後部座席であってもよい。
【0065】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
1 エアバッグ装置
2 エアバッグ
2a 本体部
2b 突出部
2c 正面部
2d 背面部
3 インフレータ
4 リテーナ
5 エアバッグカバー
6 車体構造物
21 フロントパネル
22 リアパネル
23 縫合線
24 第一ベントホール
25 第二ベントホール
51 板状部
52 インナーケース
53 扉部
211 第一面部(フロントパネル)
211a 第一切り欠き部
211b 第二切り欠き部
212 第二面部(フロントパネル)
212a 第一切り込み部
212b 第二切り込み部
212c 中間部
212d 第三切り込み部
213 第三面部(フロントパネル)
213a 第一切り込み部
213b 第二切り込み部
213c 中間部
221 第一面部(リアパネル)
221a 第一凸部
221b 第二凸部
221c 凹部
221d インフレータ用開口部
222 第二面部(リアパネル)
222a 中間直線部
222b 第一切り込み部
222c 第二切り込み部
223 第三面部(リアパネル)
223a 中間直線部
C センタークラスター
I インストルメントパネル
L 中心線
Lf,Lr 区画仮想線
M 乗員
Pf,Qf,Pr,Qr 境界点
S1~S9,S1′~S9′ 縫合予定線
T1 第一頂点
T2 第二頂点
U1 第一境界点
U2 第二境界点
W ウインドシールド
Dt,Du 間隔
Dr 中間直線部の長さ
Z 座席