IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

特開2023-125540トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム
<>
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図1
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図2
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図3
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図4
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図5
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図6
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図7
  • 特開-トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125540
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20230831BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20230831BHJP
   G01B 11/16 20060101ALI20230831BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
E21D9/00 Z
G01B11/16 Z
G01B11/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029672
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】市田 雄行
(72)【発明者】
【氏名】大塚 勇
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA04
2F065AA06
2F065AA09
2F065AA52
2F065AA65
2F065BB08
2F065CC40
2F065FF11
2F065FF61
2F065GG04
2F065HH04
2F065JJ01
2F065LL62
2F065MM16
2F065PP22
2F065QQ03
2F065QQ17
2F065QQ21
2F065QQ25
2F065QQ28
2F065RR05
2F065SS09
2F065UU05
(57)【要約】
【課題】トンネルを支持する支保工の掘削段階ごとの健全性を適正に評価することのできる、トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システムを提供する。
【解決手段】トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する、トンネル支保工の健全性評価方法であり、トンネルの掘削段階ごとに、設定された支保工の計測位置を三次元レーザスキャナ10により撮像して三次元座標を取得し、掘削段階ごとの計測位置における変位量を特定するとともに、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定するA工程と、コンピュータにおいて、支保工に関する支保工モデルMを作成し、支保工モデルMに対して増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに支保工モデルMに発生する応力を算定するB工程と、算定された掘削段階ごとの応力に基づいて、支保工の健全性を評価するC工程とを有する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する、トンネル支保工の健全性評価方法であって、
トンネルの掘削段階ごとに、設定された前記支保工の計測位置を三次元レーザスキャナにより撮像して三次元座標を取得し、掘削段階ごとの該計測位置における変位量を特定するとともに、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定する、A工程と、
コンピュータにおいて、前記支保工に関する支保工モデルを作成し、該支保工モデルに対して前記増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに該支保工モデルに発生する応力を算定する、B工程と、
算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価する、C工程とを有することを特徴とする、トンネル支保工の健全性評価方法。
【請求項2】
前記B工程において、
前記支保工は、吹付けコンクリートと鋼製支保工を含み、
前記支保工モデルは、吹付けコンクリートモデルと鋼製支保工モデルを含み、
前記吹付けコンクリートモデルと前記鋼製支保工モデルのそれぞれの掘削段階ごとの応力を算定し、
前記C工程において、
前記吹付けコンクリートと前記鋼製支保工のそれぞれの健全性を評価することを特徴とする、請求項1に記載のトンネル支保工の健全性評価方法。
【請求項3】
前記B工程において、
前記支保工モデルを三次元モデルとして作成し、
前記支保工モデルに対して、面的に前記増分変位量を付与することを特徴とする、請求項1又は2に記載のトンネル支保工の健全性評価方法。
【請求項4】
前記支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例から、前記支保工の損傷時の許容ひずみを設定する、D工程と、
前記許容ひずみに対して、管理対象のトンネルの掘削半径を乗じることにより、前記支保工の管理基準値を設定する、E工程とをさらに有し、
前記C工程では、算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価することに加えて、前記管理基準値と、掘削段階ごとの前記計測位置における前記変位量を比較することにより、前記支保工の健全性を評価することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のトンネル支保工の健全性評価方法。
【請求項5】
トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する、トンネル支保工の健全性評価システムであって、
三次元レーザスキャナと、評価装置とを有し、
前記三次元レーザスキャナは、
トンネルの掘削段階ごとに、設定された前記支保工の計測位置を三次元レーザスキャナにより撮像して三次元座標を取得し、
前記評価装置は、
掘削段階ごとの前記計測位置における変位量を特定するとともに、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定する、変位量特定部と、
前記支保工に関する支保工モデルを作成し、該支保工モデルに対して前記増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに該支保工モデルに発生する応力を算定する、応力算定部と、
算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価する、評価部とを有することを特徴とする、トンネル支保工の健全性評価システム。
【請求項6】
前記評価装置は、
前記支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例を格納する、格納部と、
前記複数のトンネル施工事例に基づいて、支保工の損傷時の許容ひずみを設定する、許容ひずみ設定部と、
前記許容ひずみに対して、管理対象のトンネルの掘削半径を乗じることにより、前記支保工の管理基準値を設定する、管理基準値設定部とをさらに有し、
前記評価部では、算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価することに加えて、前記管理基準値と、掘削段階ごとの前記計測位置における前記変位量を比較することにより、前記支保工の健全性を評価することを特徴とする、請求項5に記載のトンネル支保工の健全性評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工においては、地山の性状(もしくは状態、挙動等)を把握するべく、切羽を目視観察したり、支保工や地山の変形もしくは応力状態を測定する坑内計測が一般に行われている。
トンネルの施工管理方法は、例えば直接ひずみ法等を用いて坑内変位に関する管理基準値を設定し、掘進に伴い坑内変位を随時計測しながら、計測値と管理基準値を比較する方法により行われている。しかしながら、直接ひずみ法を用いた坑内変位に関する管理基準値の設定は、地山の安定性確保を目的としたものであり、トンネルを支持する支保工の健全性を評価するものではない。トンネルを支持する支保工の掘削段階ごとの健全性が適正に評価されることにより、施工安全性の高いトンネル施工を実現することができる。
【0003】
ここで、特許文献1には、トンネル現場において山岳トンネルの変位量予測方法を提供する、トンネルの最終変位量予測方法が提案されている。具体的には、任意に標準モデルとして設定した三次元有限要素法モデルによって、掘削進行状況を反映した三次元有限要素法シミュレーション解析を行い、地山種別及び支保構造並びに掘削工法別毎に、各計測ポイントの初期変位速度と地山剛性比との関係式と、少なくとも最終変位量と地山剛性比との関係式とを得る第1手順と、トンネルの掘削後に、切羽前面に設置した3Dレーザースキャナによる計測によって各計測ポイントの初期変位速度データを取得する第2手順と、第1手順によって得た初期変位速度と地山剛性比との関係式に当て嵌め、掘削部位の地山剛性比を算出し、最終変位量と地山剛性比との関係式に基づいて、各計測ポイントの最終変位量を算出する第3手順とを有する最終変位量予測方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-121487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の予測方法は、トンネルの最終変位量を予測するものであり、上記するように、トンネルを支持する支保工の掘削段階ごとの健全性を評価するものではない。
【0006】
本発明は、トンネルを支持する支保工の掘削段階ごとの健全性を適正に評価することのできる、トンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル支保工の健全性評価方法の一態様は、
トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する、トンネル支保工の健全性評価方法であって、
トンネルの掘削段階ごとに、設定された前記支保工の計測位置を三次元レーザスキャナにより撮像して三次元座標を取得し、掘削段階ごとの該計測位置における変位量を特定するとともに、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定する、A工程と、
コンピュータにおいて、前記支保工に関する支保工モデルを作成し、該支保工モデルに対して前記増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに該支保工モデルに発生する応力を算定する、B工程と、
算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価する、C工程とを有することを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、三次元レーザスキャナを使用してトンネルの掘削段階ごとに、支保工の計測位置の三次元座標を取得して変位量を特定し、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定した後、支保工モデルに対して増分変位量を付与し、掘削段階ごとに支保工モデルに発生する応力を算定して支保工の健全性を評価することにより、掘削段階ごとの支保工の健全性を適正に評価することができる。ここで、三次元レーザスキャナの三次元座標は、トラバース測量等によって求めておくことで、三次元座標を有する三次元レーザスキャナにより、支保工の計測位置における三次元座標が特定される。
三次元レーザスキャナを適用することにより、支保工における様々な計測位置ごとに計測機器を設置することを不要にして、各計測位置における速やかな変位計測が可能になる。従来の支保工の応力計測では、支保工の各所に応力計を取り付け、吹付けコンクリート(二次吹付け)に応力計を埋設する方法により行われていることから、支保工の多様な計測位置での応力計測が不可能であり、計測位置の臨機な変更も不可能であり、さらには、支保工に設置された応力計は基本的に二次吹付けの内部に残置(埋め殺し)されることから、応力計の設置に手間がかかり、応力計測に費用を要する等、様々な課題が存在している。三次元レーザスキャナを適用することにより、これらの課題を全て解消することができる。
コンピュータにて作成した支保工モデルに対して、掘削段階が進んだ際の増分変位量を付与して応力解析を実施することにより、支保応力の逆解析にて支保工の全域に生じている応力を高精度に特定することができる。ここで、支保工モデルには、二次元の梁バネモデルや、二次元もしくは三次元のFEM(Finite Element Method)解析モデル等が含まれる。
【0009】
また、本発明によるトンネル支保工の健全性評価方法の他の態様は、
前記B工程において、
前記支保工は、吹付けコンクリートと鋼製支保工を含み、
前記支保工モデルは、吹付けコンクリートモデルと鋼製支保工モデルを含み、
前記吹付けコンクリートモデルと前記鋼製支保工モデルのそれぞれの掘削段階ごとの応力を算定し、
前記C工程において、
前記吹付けコンクリートと前記鋼製支保工のそれぞれの健全性を評価することを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、支保工に含まれる吹付けコンクリートと鋼製支保工の計測位置における変位量と、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定し、それぞれの支保応力の逆解析にてそれぞれの支保工に実際に生じている応力を特定することにより、支保工ごとの健全性を適正に評価することができる。従って、例えば、吹付けコンクリートと鋼製支保工の双方の発生応力がそれぞれの降伏強度等よりも大きな場合は、双方の支保工の仕様見直しをはじめとする対策工を講じることになり、鋼製支保工のみが不適な場合は鋼製支保工のみに関して対策工を講じることができる。
ここで、吹付けコンクリートの健全性が不十分と評価される場合は、吹付けコンクリートのクラックや剥落の恐れあり、鋼製支保工の健全性が不十分と評価される場合は、鋼製支保工の変形や座屈の恐れがある。
【0011】
また、本発明によるトンネル支保工の健全性評価方法の他の態様は、
前記B工程において、
前記支保工モデルを三次元モデルとして作成し、
前記支保工モデルに対して、面的に前記増分変位量を付与することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、支保工の三次元モデル(FEM解析モデル等)に対して面的に増分変位量を付与することにより、より一層高精度な解析結果が得られ、支保工の健全性をより一層精緻に評価することができる。
【0013】
また、本発明によるトンネル支保工の健全性評価方法の他の態様は、
前記支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例から、前記支保工の損傷時の許容ひずみを設定する、D工程と、
前記許容ひずみに対して、管理対象のトンネルの掘削半径を乗じることにより、前記支保工の管理基準値を設定する、E工程とをさらに有し、
前記C工程では、算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価することに加えて、前記管理基準値と、掘削段階ごとの前記計測位置における前記変位量を比較することにより、前記支保工の健全性を評価することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、掘削段階ごとの支保工の応力に基づいた健全性の評価に加えて、支保工の変位量に関する計測値と管理基準値との比較に基づく健全性の評価を行うことにより、例えば双方の評価がともに好ましい場合に支保工が健全であるとし、少なくとも一方の評価が好ましくない場合に支保工が健全でないとすることで、より一層信頼性の高い健全性評価を実現できる。
また、本態様では、支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例から支保工の損傷時の許容ひずみを設定し、当該許容ひずみに対して管理対象のトンネルの掘削半径を乗じて支保工の管理基準値を設定することにより、支保工の損傷時のひずみと管理対象のトンネルの規模(掘削半径)が反映された、支保工の健全性を評価できる管理基準値を設定することができる。そして、この管理基準値と、トンネルの掘進に伴う支保工の変位量に関する計測値とを比較して支保工の適否を判定することにより、支保工の健全性を適正に評価することができる。
【0015】
ここで、「複数のトンネル施工事例」とは、建設会社の保有する過去のトンネル施工実績の他にも、日本トンネル技術協会や土木学会等から公表されている、支保工の損傷が確認されているトンネル施工事例を含んでいる。支保工には、吹付けコンクリートと鋼製支保工、ロックボルト等が含まれ、「支保工の損傷」には、上記するように、吹付けコンクリートのクラックや剥落、鋼製支保工の変形や座屈、ロックボルトの座金の変形やロックボルトの破断等が挙げられる。
【0016】
支保工の損傷時のひずみ(支保工(もしくはトンネル壁面)の変位量/トンネルの掘削半径)として、例えば2%以下(1乃至2%程度)を設定することができる。
【0017】
また、本発明によるトンネル支保工の健全性評価システムの一態様は、
トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する、トンネル支保工の健全性評価システムであって、
三次元レーザスキャナと、評価装置とを有し、
前記三次元レーザスキャナは、
トンネルの掘削段階ごとに、設定された前記支保工の計測位置を三次元レーザスキャナにより撮像して三次元座標を取得し、
前記評価装置は、
掘削段階ごとの前記計測位置における変位量を特定するとともに、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定する、変位量特定部と、
前記支保工に関する支保工モデルを作成し、該支保工モデルに対して前記増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに該支保工モデルに発生する応力を算定する、応力算定部と、
算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価する、評価部とを有することを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、三次元レーザスキャナを使用してトンネルの掘削段階ごとに、支保工の計測位置の三次元座標を取得して変位量を特定し、評価装置において、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定し、作成した支保工モデルに対して増分変位量を付与し、掘削段階ごとに支保工モデルに発生する応力を算定して支保工の健全性を評価することにより、掘削段階ごとの支保工の健全性を適正に評価することができる。
【0019】
また、本発明によるトンネル支保工の健全性評価システムの他の態様において、
前記評価装置は、
前記支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例を格納する、格納部と、
前記複数のトンネル施工事例に基づいて、支保工の損傷時の許容ひずみを設定する、許容ひずみ設定部と、
前記許容ひずみに対して、管理対象のトンネルの掘削半径を乗じることにより、前記支保工の管理基準値を設定する、管理基準値設定部とをさらに有し、
前記評価部では、算定された掘削段階ごとの前記応力に基づいて、前記支保工の健全性を評価することに加えて、前記管理基準値と、掘削段階ごとの前記計測位置における前記変位量を比較することにより、前記支保工の健全性を評価することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、掘削段階ごとの支保工の応力に基づいた健全性の評価に加えて、支保工の変位量に関する計測値と管理基準値との比較に基づく健全性の評価を行うことにより、より一層信頼性の高い健全性評価を実現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のトンネル支保工の健全性評価方法と健全性評価システムによれば、トンネルを支持する支保工の掘削段階ごとの健全性を適正に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価システムの一例を示す全体構成図である。
図2】健全性評価システムを構成するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】健全性評価システムを構成する評価装置の機能構成の一例を示す図である。
図4】支保工のFEM解析モデルに対して、増分変位量を強制変位として付与した際の表示部における表示例を示す図である。
図5】表示部における、支保工応力の算出結果の表示例を示す図である。
図6】トンネル施工事例の一例であって、過去の施工実績に基づく施工事例をまとめたテーブルである。
図7】第1実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法の一例のフローチャートである。
図8】第2実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価システムと健全性評価方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0024】
[実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価システム]
はじめに、図1乃至図6を参照して、実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価システムの一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価システムの一例を示す全体構成図である。また、図2は、健全性評価システムを構成するコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図であり、図3は、健全性評価システムを構成する評価装置の機能構成の一例を示す図である。
【0025】
健全性評価システム100は、トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する健全性評価システムである。
【0026】
健全性評価システム100は、三次元レーザスキャナ10と、評価装置20とを有する。図示例の健全性評価システム100は、三次元レーザスキャナ10と評価装置20がネットワーク30を介して計測データを送受信可能に接続されている形態である。ここで、三次元レーザスキャナ10と評価装置20がネットワーク30にて接続されず、有線にてデータの送受信を行う形態であってもよい。
【0027】
三次元レーザスキャナ10は、支保工に設定される複数の計測位置に対してレーザーを照射し、反射レーザーを受光して計測位置の三次元座標を取得する。より厳密には、三次元レーザスキャナ10の三次元座標がトラバース測量等により特定されており、三次元座標を有する三次元レーザスキャナ10により、支保工の複数の計測位置の三次元座標が特定される。
【0028】
評価装置20は、図3に示すように各種の機能を備えているが、その内容は以下で詳説する。三次元レーザスキャナ10と評価装置20はいずれも、コンピュータにより構成されているが、図2を参照する以下の説明では、評価装置20を取り上げて説明する。
【0029】
評価装置20を構成するパーソナルコンピュータは、接続バス26により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)21、主記憶装置22、補助記憶装置23、通信IF24、及び入出力IF(interface)25を備えている。主記憶装置22と補助記憶装置23は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0030】
CPU21は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU21は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU21は、評価装置20の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU21は、例えば、補助記憶装置23に記憶されたプログラムを主記憶装置22の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0031】
主記憶装置22は、CPU21が実行するコンピュータプログラムや、CPU21が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置22は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置23は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置23には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF24を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。評価装置20に対する外部装置等には、三次元レーザスキャナ10、計測員の所属する部署にあるホストコンピュータ、他の計測員等の携帯するスマートフォンやタブレット等が含まれる。
【0032】
補助記憶装置23は、例えば、主記憶装置22を補助する記憶領域として使用され、CPU21が実行するコンピュータプログラムや、CPU21が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置23は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置23として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0033】
入出力IF25は、評価装置20に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF25には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。評価装置20は、入出力IF25を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付ける。
【0034】
また、入出力IF25には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。評価装置20では、複数の掘削段階ごとの支保工の応力算定結果や健全性評価結果が随時表示されるようになっている。
【0035】
通信IF24は、評価装置20が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF24は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)等、様々なネットワークを介して、三次元レーザスキャナ10による計測値を受信し、支保工の応力算定結果や健全性評価結果に関するデータ等をホストコンピュータ等に送信する。ここで、通信IF24には、LPWA無線通信モジュールと通信アンテナ等が接続されてもよい。LPWA無線通信モジュールはLPWA無線通信(無線送信)を実現する機器であり、例えば無線チップと周辺回路を小型基板に実装した電子部品である。LPWAの主な通信方式(通信プロトコル)には、Sigfox、LoRaWAN(Long Range Wide Area Network)、NB-IoT等があるが、例えばライセンスを必要とせず、携帯電話通信の波が届き難い山岳地帯でも坑内に自営の基地局を設置することができ、低コストの通信システムを構築可能なLoRaWANを適用するのが好ましい。LoRaWANは、920MHz帯のISMバンドを使用し、13dBm以下の低い出力でも遠距離通信を可能とする、LoRa変調を採用した通信方式である。
【0036】
図3に示すように、評価装置20は、CPU21によるプログラムの実行により、少なくとも、通信部202、変位量特定部204、応力算定部206、評価部208、許容ひずみ設定部210、管理基準値設定部212、表示部214、及び格納部216の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0037】
通信部202では、三次元レーザスキャナ10から送信された支保工の各計測位置における三次元座標に関する計測データ(計測値)が随時受信され、格納部216に随時格納される。
【0038】
変位量特定部204は、掘削段階ごとに計測されている、支保工の複数の計測位置における三次元座標とその座標変化量に基づき、各計測位置における掘削段階ごとの変位量を特定し、各支保工の各計測位置における掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定する。例えば、数m間隔で建て込まれる鋼製支保工の複数の計測位置の三次元座標を、複数の掘削段階ごとに計測することにより、掘削段階ごとの増分変位量が特定される。
【0039】
応力算定部206は、支保工に関する支保工モデルを作成し、支保工モデルに対して増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに支保工モデルに発生する応力を算定する。
【0040】
ここで、図4は、支保工のFEM解析モデルに対して、増分変位量を強制変位として付与した際の表示部214における表示例を示す図である。図示例の支保工モデルMは、二次元もしくは三次元のFEM解析モデルであり、断面が馬蹄形の支保工モデルMに対して増分変位量を強制載荷した際のモデル図である。
【0041】
ここで、支保工が吹付けコンクリートと鋼製支保工を含む場合は、支保工モデルMは吹付けコンクリートモデルと鋼製支保工モデルの重ね梁モデルとなる。鋼製支保工モデルには、その仕様に応じたν(ポアソン比)、E(ヤング係数)、A(断面積)、及びI(断面二次モーメント)等を設定し、吹付けコンクリートモデルには、その仕様に応じたν、E、A等を設定する。尚、吹付けコンクリートに関し、そのヤング係数Eは、材令により変化することから仮定が必要になり、断面積Aも厚さのむらを考慮した仮定が必要になる。
【0042】
三次元のFEM解析モデル(三次元モデル)を作成した際は、三次元の支保工モデルに対して面的に増分変位量を付与することにより、より精度の高い応力解析結果が得られる。
【0043】
図4に示すように、支保工モデルMに対して増分変位量を強制変位として付与することにより、図5に示すように支保工モデルに発生する応力が算定される。図示例では、支保工モデルMのうちの鋼製支保工モデルにおいて、最大曲げ応力274N/mmが発生している。
【0044】
格納部216には、例えば鋼製支保工の降伏強度データ(例えば400N/mm)が格納されており、評価部208では、算定された最大曲げ応力274N/mmと降伏強度:400N/mmを比較することにより、鋼製支保工の健全性の有無を評価する。本例では、最大発生曲げ応力が降伏強度以下であることから、健全性ありと評価される。
【0045】
格納部216には、支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例が格納されている。
【0046】
ここで、図6には、トンネル施工事例の一例を示しており、より詳細には、過去の施工実績に基づく施工事例をまとめたテーブルである。
【0047】
図6には、Aトンネル乃至Zトンネルまでの26例に関する、土被り、地質、支保部材(支保工)の変状位置、切羽離れ、トンネル換算半径(例えば、馬蹄形のトンネルを円形に模擬した際の半径等)、変状発生時の支保パターン(支保工パターン)、計測変位量を示しており、右欄の「周方向ひずみ」は、トンネルの換算半径と計測変位量から算定している。尚、「周方向ひずみ」とは、トンネルの周方向の複数箇所(天端、内空、壁面)における、径方向のひずみのことである。また、本発明者等によりまとめられている施工実績に基づく施工事例は、図6に示す例の他にも存在するが、図6には、その一例を示している。
【0048】
ここで、周方向ひずみ:εt(%)の算定方法は、トンネルの計測変位量(半径方向変位量):Ur(m)をトンネル掘削半径(もしくは換算半径で、単位はm):Rで除し、100を乗じる方法である。
【0049】
尚、図示を省略するが、施工事例には、公知文献に記載の事例が含まれる。この公知文献としては、日本トンネル技術協会;トンネルと地下や、土木学会:トンネル工学研究発表会 論文・報告集、日本トンネル技術協会:施工体験発表会等に記載の施工事例が挙げられる。
【0050】
許容ひずみ設定部210では、支保工の損傷時の許容ひずみを、上記する複数の施工事例に基づき、例えば、1%乃至2%の範囲で設定する。ここで、許容ひずみを2%とすることでトンネル施工事例に基づく危険側の管理基準値を設定でき、許容ひずみを1%とすることでトンネル施工事例に基づく安全側の管理基準値を設定できる。許容ひずみ設定部210は、1%乃至2%程度の範囲で、管理対象のトンネルに対して好適な許容ひずみを自動的に設定してもよいし、施工管理者等が1%乃至2%程度の範囲で設定した許容ひずみが、許容ひずみ設定部210に入力されるようになっていてもよい。
【0051】
また、例えばひずみ1%に対してさらに安全率を見込んでもよく、安全率を見込むことでより安全側の管理基準値を設定できる。ここで、安全率としては、1.1乃至1.5程度を設定でき、例えばひずみ1%に対して安全率1.25を見込んだ場合は、許容ひずみは0.8%に設定される。
【0052】
管理基準値設定部212は、許容ひずみ設定部210にて設定されている許容ひずみに対して、管理対象のトンネルの掘削半径を乗じることにより、支保工の管理基準値を設定する。
【0053】
評価部208では、上記するように、算定された掘削段階ごとの応力に基づいて支保工の健全性を評価することに加えて、設定されている管理基準値と、掘削段階ごとの計測位置における変位量を比較することによっても支保工の健全性を評価する。
【0054】
そして、例えば、二段階の支保工の健全性評価により、双方の健全性評価をともにクリアした際に支保工が健全であると判定することができる。また、少なくとも一方の健全性評価をクリアしない場合は支保工が健全でないと判定し、対策工を検討・実施することとする。
【0055】
図示例の評価装置20は、二段階の支保工の健全性評価機能を有しているが、例えば、許容ひずみ設定部210と管理基準値設定部212を具備しない形態であってもよい。この形態では、算定された掘削段階ごとの応力のみに基づいて支保工の健全性が評価されることになる。
【0056】
健全性評価システム100によれば、三次元レーザスキャナ10を使用してトンネルの掘削段階ごとに、支保工の計測位置の三次元座標を取得して変位量を特定し、評価装置20において、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定し、作成した支保工モデルMに対して増分変位量を付与し、掘削段階ごとに支保工モデルMに発生する応力を算定して支保工の健全性を評価することにより、掘削段階ごとの支保工の健全性を適正に評価することができる。
【0057】
また、三次元レーザスキャナ10を適用することにより、支保工における様々な計測位置ごとに計測機器を設置することを不要にして、各計測位置における速やかな変位計測が可能になる。
【0058】
[第1実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法]
次に、図7を参照して、第1実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法の一例について説明する。ここで、図7は、第1実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法の一例のフローチャートである。
【0059】
この健全性評価方法は、トンネルの掘削に伴い施工される支保工の応力を特定し、支保工の健全性を評価する評価方法である。
【0060】
まず、トンネルの掘削段階ごとに、設定された支保工の計測位置を三次元レーザスキャナにより撮像して三次元座標を取得する(ステップS10)。
【0061】
そして、掘削段階ごとの計測位置における変位量を特定するとともに、掘削段階が進んだ際の増分変位量を特定する(ステップS12)。以上、ステップS10、S12をまとめて、A工程とする。
【0062】
次に、コンピュータにおいて、支保工に関する支保工モデルを作成し、支保工モデルに対して増分変位量を付与することにより、掘削段階ごとに支保工モデルに発生する応力を算定する(ステップS14,B工程)。
【0063】
次に、算定された掘削段階ごとの応力に基づいて、支保工の健全性を評価する(ステップS16、C工程)。
【0064】
支保工の健全性評価の結果、例えば応力が降伏強度を超える場合は、支保工が健全でないとして、何らかの対策工の検討と実施を行う(ステップS18)。一方、応力が降伏強度以下の場合は、現状の支保工が健全であると評価することができる。
【0065】
[第2実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法]
次に、図8を参照して、第2実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法の一例について説明する。ここで、図8は、第2実施形態に係るトンネル支保工の健全性評価方法の一例のフローチャートである。
【0066】
図8において、左欄のフローチャートは、原則的に図7に示すフローチャートと同様である。この左欄のフローにより、第一段の支保工の健全性評価を行う(ステップS16)。
【0067】
一方、図8において、右欄のフローチャートでは、まず、支保工の損傷が確認されている複数のトンネル施工事例から、支保工の損傷時の許容ひずみを設定する。許容ひずみは、1%乃至2%程度の範囲で設定するのがよく、安全率をさらに見込む場合は、より安全側の許容ひずみが設定される(ステップS20,D工程)。
【0068】
次に、許容ひずみに対して、管理対象のトンネルの掘削半径を乗じることにより、支保工の管理基準値を設定する(ステップS22,E工程)。
【0069】
次に、トンネルの掘削段階ごとに、設定された支保工の計測位置を三次元レーザスキャナにより撮像して三次元座標を取得し(ステップS24)、管理基準値と、掘削段階ごとの計測位置における変位量を比較することにより、第二段の支保工の健全性評価を行う(ステップS26、C工程)。
【0070】
最後に、第一段と第二段の支保工の健全性評価の結果の少なくとも一方が健全であるか否かを判定し(ステップS30)、双方ともに健全でないと評価される場合は、何らかの対策工の検討と実施を行う(ステップS18)。一方、いずれか一方が健全である、もしくは双方ともに健全であると評価される場合は、現状の支保工が健全であると評価することができる。
【0071】
この健全性評価方法によれば、より評価精度の高い支保工の健全性評価を実現できる。
【0072】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0073】
10:三次元レーザスキャナ
20:評価装置
30:ネットワーク
100:トンネル支保工の健全性評価システム(健全性評価システム)
202:通信部
204:変位量特定部
206:応力算定部
208:評価部
210:許容ひずみ設定部
212:管理基準値設定部
214:表示部
216:格納部
M:支保工モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8