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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125559
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレースとその製作方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
E04B1/58 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029731
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】中原 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】梶原 武志
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA33
2E125AB02
2E125AB08
2E125AC15
2E125AC21
2E125AC28
2E125AF03
2E125AF07
(57)【要約】
【課題】効率的な溶接により溶接ひずみが抑制され、初期不整が抑制もしくは抑止された座屈拘束ブレースと、その製作方法を提供すること。
【解決手段】座屈拘束ブレース100は、鋼製でプレート状の芯材10と、芯材10の有する二つの広幅面10aに対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材30と、芯材10と拘束材30の間に介在するアンボンド材20と、芯材10の側方において一対の拘束材30の両側を繋ぐ一対の補剛材50とを有し、芯材10が一対の拘束材30と一対の補剛材50とにより包囲され、少なくとも拘束材30と補剛材50が、レーザー溶接部60を介して接続されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材と前記拘束材の間に介在するアンボンド材と、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を繋ぐ、一対の補剛材とを有し、
前記芯材が、前記一対の拘束材と前記一対の補剛材とにより包囲されており、
少なくとも前記拘束材と前記補剛材が、レーザー溶接部を介して接続されていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記レーザー溶接部が、前記補剛材の端部よりも内側にあることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記レーザー溶接部が、線状の連続した形態、もしくは、線状の間欠した形態のいずれか一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記レーザー溶接部が、ファイバーレーザー溶接部であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
前記芯材の両端には、前記広幅面に直交して他部材に接合される、一対の接合板が固定されており、
前記一対の接合板に対して補強板が固定され、前記広幅面と該一対の接合板と該補強板により形成される空間に前記拘束材の端部が収容されていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
座屈拘束ブレースの製作方法であって、
鋼製でプレート状の芯材の有する二つの広幅面に、一対のアンボンド材を当接させ、該一対のアンボンド材を角形鋼管からなる一対の拘束材にて挟持させ、前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を一対の補剛材にて溶接により繋ぎ、この際に、溶接をレーザー溶接にて行うことを特徴とする、座屈拘束ブレースの製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースとその製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ここで、特許文献1には、芯材が一対の角形鋼管により形成される拘束材にて拘束された座屈拘束ブレースに関し、芯材から押圧力を受けた拘束材に局部破壊を生じさせない座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、板状部の両端に他部材との接合のための接合部を有した芯材と、板状部の弱軸方向に直交する各面に対向して配置された拘束材とを備える座屈拘束ブレースである。この座屈拘束ブレースでは、芯材を包囲する一対の拘束材に対して、補剛材の両端が隅肉溶接による溶接部を介して接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6445862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の座屈拘束ブレースによれば、既製の角形鋼管などの部材を拘束材として用いることが容易になり、高コスト化を招来することなく、芯材から押圧力を受けた拘束材の局部破壊を抑制することが可能になる。
【0006】
ところで、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースでは、芯材を包囲する一対の拘束材に対して、補剛材の両端がアーク溶接(隅肉溶接)による溶接部を介して接続されていることから、一つの補剛材の両端にて計二本の長い溶接部を要し、二つ(一対)の補剛材が一対の拘束材に接続されていることから、計四本の長い溶接部を要することになる。従って、溶接量が多くなるといった課題が内包されており、溶接量に関して改善の余地がある。
【0007】
溶接量が多いことにより、溶接時間も自ずと長くなり、拘束材や補剛材が溶接熱に晒される時間が長くなることに起因して、溶接ひずみも大きくなる。例えば、相互に溶接される拘束材や補剛材の断面が小さいケースでは、溶接ひずみに起因する座屈拘束ブレースの初期不整による影響が大きくなる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、効率的な溶接により溶接ひずみが抑制され、初期不整が抑制もしくは抑止された座屈拘束ブレースと、その製作方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている、角形鋼管からなる一対の拘束材と、
前記芯材と前記拘束材の間に介在するアンボンド材と、
前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を繋ぐ、一対の補剛材とを有し、
前記芯材が、前記一対の拘束材と前記一対の補剛材とにより包囲されており、
少なくとも前記拘束材と前記補剛材が、レーザー溶接部を介して接続されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、少なくとも拘束材と補剛材が、レーザー溶接部を介して接続されていることにより、エネルギー密度が高く、溶接効率に優れたレーザー溶接が適用されることで溶接部周辺の溶接ひずみを抑制することができ、初期不整が抑制もしくは抑止された座屈拘束ブレースとなる。このことにより、溶接時間の短縮や、溶接ひずみが生じた際の矯正の解消、スパッタ除去に要する時間の削減等を図ることができる。
【0011】
また、レーザー溶接を適用することにより、一対の拘束材と接続される補剛材の厚みを可及的に薄くすることが可能になる。例えば、通常のアーク溶接等により薄厚の補剛材の端部を拘束材に溶接する場合、補剛材の端部の隅角部が溶け落ち易くなることから、この溶け落ちを考慮した厚みとする必要があり、従って補剛材の厚みを薄くすることが困難となるが、レーザー溶接ではこのような溶け落ちの懸念がないことから補剛材の厚みを最大限薄くしながら、板厚の全域を溶接部の脚長とすることが可能になる。
【0012】
レーザー溶接技術は、例えば車両製造等の他の技術分野における適用はあるものの、建築分野への適用はこれまでに無く、座屈拘束ブレースの構成部材同士の接続への適用は当然に新規な用途への適用となる。
【0013】
ここで、「少なくとも拘束材と補剛材が、レーザー溶接部を介して接続されている」とは、拘束材と補剛材のみがレーザー溶接部を介して接続され、他の部材同士の溶接がレーザー溶接以外のアーク溶接等により行われている形態と、拘束材と補剛材の接続の他に、全ての部材同士の溶接がレーザー溶接により行われている形態を含む意味である。
【0014】
本態様において、アンボンド材は、ブチルゴム等の変形性能を有する弾性材により形成される。このアンボンド材が芯材の広幅面と拘束材の間に介在することで、アンボンド材の厚みをクリアランスとして、芯材が圧縮力を受けた際にこのクリアランス内で高次モードの座屈を生じさせることが可能になる。また、芯材において、その弱軸方向に高次モードの座屈を有効に生じさせるべく、芯材の広幅面にスリットを設けてもよい。そして、このように広幅面にスリットを設けたことにより、芯材の強軸方向の強度が弱くなることから、必要に応じて、広幅面のスリットにスペーサーを挿入してもよい。
【0015】
さらに、アンボンド材と拘束材の間に、内挿板が介在している形態であってもよい。この形態によれば、アンボンド材と拘束材の間に例えば鋼製の内挿板が介在していることにより、芯材の弱軸方向への高次モードの座屈による押圧力が拘束材に直接作用して、拘束材が局部破壊することを効果的に抑制することができる。
【0016】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記レーザー溶接部が、前記補剛材の端部よりも内側にあることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、拘束材と補剛材がレーザー溶接部を介して接続されていることから、レーザー溶接部を補剛材の端部よりも内側に設定することができる。このことにより、補剛材の平面寸法を可及的に大きくして、例えば、一対の拘束材の双方の両端やその近傍まで広がる補剛材を適用した上で、レーザー溶接部はこの広い補剛材の途中位置に設定することが可能になる。
【0018】
補剛材の平面寸法が大きくなることで、芯材の弱軸方向と強軸方向の双方の断面性能(断面二次モーメント)が大きくなり、座屈拘束ブレースの面外と面内の座屈耐力がともに向上する。その一方で、仮に補剛材の平面寸法が大きくてその端部を拘束材に対してアーク溶接にて行う場合、補剛材の中心(芯材の中心)からアーク溶接部までの距離が自ずと長くなり、アーク溶接部に作用する曲げモーメントが大きくなることから、この曲げモーメントによるアーク溶接部の耐力低下が懸念される。すなわち、従来のアーク溶接等では、補剛材の端部が溶接箇所となることから、補剛材の平面寸法を大きくした際のアーク溶接部の曲げモーメントに起因する破損の恐れから、補剛材の平面寸法を大きくすることができず、従って座屈拘束ブレースの弱軸方向の面外座屈に対する座屈耐力の向上を図り難かった。
【0019】
これに対して、補剛材の途中位置にレーザー溶接部が設けられていることにより、補剛材の平面寸法を大きくして座屈拘束ブレースの弱軸方向の面外座屈に対する座屈耐力を高めながら、溶接部(レーザー溶接部)に作用する曲げモーメントの増加を抑制することが可能になる。
【0020】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記レーザー溶接部が、線状の連続した形態、もしくは、線状の間欠した形態のいずれか一種であることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、レーザー溶接部が、線状に連続している、もしくは線状に間欠していることにより、拘束材と補剛材が、双方の長手方向に沿って低ひずみな態様で接続される。
【0022】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、
前記レーザー溶接部が、ファイバーレーザー溶接部であることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、レーザー溶接部がファイバーレーザー溶接部であることにより、レーザー溶接の中でもファイバーレーザー溶接はエネルギー密度がより一層高いことから、溶接部周辺の溶接ひずみがより一層抑制され、初期不整がより一層抑制もしくは抑止された座屈拘束ブレースとなる。
【0024】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、
前記芯材の両端には、前記広幅面に直交して他部材に接合される、一対の接合板が固定されており、
前記一対の接合板に対して補強板が固定され、前記広幅面と該一対の接合板と該補強板により形成される空間に前記拘束材の端部が収容されていることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、芯材の両端において広幅面に直交する一対の接合板が固定され、一対の接合板に対して補強板が固定され、広幅面と一対の接合板と補強板により形成される空間に拘束材の端部が収容されていることにより、高強度な端部構造を備えた座屈拘束ブレースとなる。ここで、接合板が接合される他部材とは、建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具が一例として挙げられる。また、芯材の端部をウェブとした場合は、このウェブに直交する一対の接合板は一対のフランジとなる。
【0026】
また、本発明による座屈拘束ブレースの製作方法の一態様は、
鋼製でプレート状の芯材の有する二つの広幅面に、一対のアンボンド材を当接させ、該一対のアンボンド材を角形鋼管からなる一対の拘束材にて挟持させ、前記芯材の側方において、前記一対の拘束材の両側を一対の補剛材にて溶接により繋ぎ、この際に、溶接をレーザー溶接にて行うことを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、芯材の側方において、一対の拘束材の両側に対して一対の補剛材をレーザー溶接にて繋ぐことにより、優れた溶接効率の下で双方の部材を接続することができ、アーク溶接等に比べて溶接速度が速いことから溶接部周辺の溶接ひずみを抑制することができ、初期不整が抑制もしくは抑止された座屈拘束ブレースを製作することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースとその製作方法によれば、効率的な溶接により溶接ひずみが抑制され、初期不整が抑制もしくは抑止された座屈拘束ブレースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図である。
図2】実施形態に係る座屈拘束ブレースの組立前状態の軸直交方向の縦断面図である。
図3A】一対の拘束材に対して一対の補剛材がレーザー溶接部の一例により接続されている状態を示す斜視図である。
図3B】一対の拘束材に対して一対の補剛材がレーザー溶接部の他の例により接続されている状態を示す斜視図である。
図4】実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図5A】一対の拘束材に対して一対の補剛材がアーク溶接部により接続される従来例の縦断面図であって、アーク溶接部に作用する曲げモーメントや補剛材の幅の例を示す図である。
図5B】一対の拘束材に対して一対の補剛材がレーザー溶接部により接続される実施形態の縦断面図であって、レーザー溶接部に作用する曲げモーメントや補剛材の幅の例を示す図である。
図6】芯材から拘束材に対して、高次モードの座屈の際の押圧力が作用している状態を説明する、座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0031】
[実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法]
図1乃至図6を参照して、実施形態に係る座屈拘束ブレースとその製作方法の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の分解斜視図であり、図2は、実施形態に係る座屈拘束ブレースの端部に関する、組立前状態の座屈拘束ブレースの軸直交方向の縦断面図である。また、図3A図3Bはいずれも、一対の拘束材に対して一対の補剛材がレーザー溶接部の一例により接続されている状態を示す斜視図である。
【0032】
座屈拘束ブレース100は、芯材10と、芯材10の有する二つの広幅面10aに対向するように配設されている一対の拘束材30と、芯材10と拘束材30の間に介在するアンボンド材20とを有する。ここで、図示例の他に、アンボンド材20と拘束材30の間に内挿板が介在する形態であってもよい。
【0033】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、これらの材料からなる芯材10を適用することにより、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0034】
芯材10は、細長の鋼板により形成され、その長手方向の中央側において広幅面10aの幅が相対的に狭い狭幅部11を有し、その長手方向の端部側において広幅面10aの幅が相対的に広い広幅部12を有している。
【0035】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部11を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部11を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部11に限定させることができる。
【0036】
芯材10の狭幅部11の中央位置において、狭幅部11の二つの広幅面10aには、鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部11の広幅面10aに対して溶接等により接合されている。
【0037】
また、芯材10の狭幅部11の突起15の両側には、細長のスリット14が設けられており、スリット14には、鋼製のスペーサー17がX1方向に挿通されるようになっている。
【0038】
スリット14は、芯材10の耐力調整用の細孔であり、スペーサー17は、芯材10がスリット14を設けたことにより内部へ変形すること(強軸方向への変形)を防止する内部変形防止材として機能する。スリット14に挿通されたスペーサー17は、一対の拘束材30により位置規制される。
【0039】
芯材の両端にある広幅部12には、その広幅面10aに直交して他部材に接合される、一対の鋼板からなる接合板13が溶接等により接合されている。
【0040】
広幅部12と接合板13にはそれぞれボルト孔12a,13aが設けられており、不図示の建物架構の隅角部等から構面内に張り出すブラケットやガセットプレート等の接続治具(他部材)のボルト孔と位置合わせされ、ボルト接合されるようになっている。
【0041】
一対の接合板13に対して鋼板からなる補強板18が溶接等により接合され、芯材10の広幅部12と一対の接合板13と補強板18とにより形成される空間に、拘束材30の端部が収容されるようになっている。
【0042】
アンボンド材20は、芯材10の狭幅部11と拘束材30の間に介挿され、アンボンド材20の厚みをクリアランスとして、建物架構の変形の際に芯材10に圧縮力が作用して狭幅部11に面外方向(弱軸方向)の高次モードの座屈(波状の変形)が生じるようになっている。
【0043】
アンボンド材20としては、例えばブチルゴム等の弾性材が適用される。また、アンボンド材20の長手方向の中央位置には、芯材10の突起15が嵌まり込む突起孔20aが設けられている。
【0044】
拘束材30は、断面視矩形の角形鋼管により形成されており、矩形の長辺に対応する側面がアンボンド材20に当接している。拘束材30のうち、アンボンド材20に当接する側面にも、芯材10の突起15が嵌まり込む突起孔30aが設けられている。
【0045】
芯材10の側方において、一対の拘束材30の両側(矩形の短辺に対応する側面)を一対の鋼板からなる補剛材50が溶接等によって繋いでおり、芯材10は、一対の拘束材30と一対の補剛材50とにより包囲されている。
【0046】
図3A図3Bに示すように、一対の拘束材30の左右面に対して、一対の補剛材50はレーザー溶接部60,60Aにより接続される。
【0047】
図3Aに示す例は、拘束材30や補剛材50の長手方向に沿って、線状の連続したレーザー溶接部60により双方の部材が接続される形態である。
【0048】
レーザー溶接部60は、部材の様々な部位にレーザーを照射して相互に積層される部材同士を接続できることから、図示例のように補剛材50の広幅面の途中位置に溶接部を設けることができ、従来のアーク溶接のように溶接部が補剛材の端部に限定されるといった制約がない。そのため、補剛材50の広幅面における様々な位置にレーザー溶接部60を設定することができ、その位置は設計者により所望に調整される。
【0049】
レーザー溶接は、エネルギー密度が高く、溶接効率に優れていることから、一般のアーク溶接等に比べて溶接時間も大幅に短縮することができるため、溶接部周辺の溶接ひずみを抑制することができ、相互に接続される拘束材30と補剛材50の初期不整を抑できる。
【0050】
ここで、レーザー溶接の中でも、エネルギー密度が格段に高いファイバーレーザー溶接が適用され、ファイバーレーザー溶接部60を介して拘束材30と補剛材50が接続されるのが好ましい。ファイバーレーザー溶接を適用することにより、溶接効率を一層高めることができ、溶接時間の一層の短縮と溶接ひずみの一層の抑制を図ることが可能になる。
【0051】
座屈拘束ブレース100の製作に際しては、図示例のように拘束材30と補剛材50の溶接に加えて、他の部材同士の溶接箇所にレーザー溶接を適用してもよく、このように部材同士の溶接箇所にレーザー溶接を適用することにより、溶接時間の短縮に加えて、溶接ひずみが生じた際の矯正を解消でき、スパッタ除去に要する時間を削減できることから、従来のアーク溶接により製作する場合と比較して、座屈拘束ブレース100の製作効率を格段に向上させることが可能になる。
【0052】
一方、図3Bに示す例は、拘束材30や補剛材50の長手方向に沿って、線状で間欠したレーザー溶接部60Aにより双方の部材が接続される形態である。このレーザー溶接部60Aにも、ファイバーレーザー溶接が適用されるのが好ましい。
【0053】
レーザー溶接部60Aによれば、拘束材30と補剛材50の全域を接続できることに加えて、溶接量を低減できることから、溶接ひずみのより一層の抑制を図ることが可能になる。
【0054】
少なくとも、一対の拘束材30と一対の補剛材50が線状のレーザー溶接部60(もしくはレーザー溶接部60A)により接続されることにより、図4に示す座屈拘束ブレース100が製作される。
【0055】
次に、図5を参照して、レーザー溶接を適用した際の構造性能上の効果について説明する。ここで、図5Aは、一対の拘束材に対して一対の補剛材がアーク溶接部により接続される従来例の縦断面図であって、アーク溶接部に作用する曲げモーメントや補剛材の幅の例を示す図であり、図5Bは、一対の拘束材に対して一対の補剛材がレーザー溶接部により接続される実施形態の縦断面図であって、レーザー溶接部に作用する曲げモーメントや補剛材の幅の例を示す図である。
【0056】
図5Aに示すように、拘束材30に対して補剛材50をアーク溶接部AWにて接続する場合は、補剛材50の端部がアーク溶接部AWとなる。そのため、座屈拘束ブレースに弱軸方向の面外座屈が作用する際には、補剛材50の軸芯(図示する強軸方向ライン)からアーク溶接部AWまでの長さt1が長くなると、アーク溶接部AWに作用する曲げモーメントM1により、アーク溶接部AWの破損の恐れがある。
【0057】
このことから、長さt1を長くすることはできず、従って補剛材50の幅L1を大きくするのは難しい。
【0058】
また、アーク溶接では、補剛材50の端部の隅角部が溶け落ち易くなることから、この溶け落ちを考慮した厚みとする必要があり、従って補剛材50の厚みを薄くすることも困難となる。
【0059】
これに対して、図5Bに示すように、拘束材30に対して補剛材50をレーザー溶接部60を介して接続することにより、レーザー溶接部60を補剛材50の端部よりも内側の所望位置(補剛材50の軸芯から長さt2の位置)に設定できる。このことにより、補剛材50の幅L2を大きくした場合でも、レーザー溶接部60に作用する曲げモーメントM2が大きくなることを解消でき、曲げモーメントM2によるレーザー溶接部60の破損を抑制できる。
【0060】
従って、補剛材50の幅L2(及び平面寸法)を大きくして座屈拘束ブレース100の弱軸方向の面外座屈に対する座屈耐力を高めながら、レーザー溶接部60に作用する曲げモーメントの増加を抑制すること(双方の両立)が可能になる。
【0061】
さらに、レーザー溶接では、通常のアーク溶接の際の部材の隅角部の溶け落ちの懸念がないことから、拘束材30と接続される補剛材50の厚みを最大限薄くすることが可能になる。
【0062】
次に、図6を参照して、芯材10の強軸方向に生じる高次モードの座屈について説明する。
【0063】
座屈拘束ブレース100は、その両端部が建物架構の隅角部等に設けられている接続治具に対してボルト接合等されることにより、建物架構に組み込まれる。そして、建物架構が地震時に変形した際には、地震時の水平力等の外力が接続治具を介して座屈拘束ブレース100の端部に入り、芯材10の端部からその全域に外力が圧縮力として伝達されることにより、芯材10の全域が塑性変形することで地震時のエネルギー吸収性能が発揮されることになる。
【0064】
言い換えると、芯材10に圧縮力が作用した際に芯材10の全域でその強軸方向に高次モードの座屈(波状の変形)が生じることにより、芯材10の全体を可及的均等に座屈させることで座屈拘束ブレース100の全体の塑性変形性能を発揮することができる。
【0065】
芯材10に作用する圧縮力によって高次モードの座屈が生じ、座屈による波状の変形の山が拘束材30に当接し、図6に示すように補剛材50に対して押圧力Qを付与することになる。
【0066】
補剛材50は、局所的に作用する押圧力Qに対して局部破壊を生じないように、その局部降伏耐力が設定される。
【0067】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0068】
10:芯材
10a:広幅面
11:狭幅部
12:広幅部
12a:ボルト孔
13:接合板
13a:ボルト孔
14:スリット
15:突起
17:スペーサー
18:補強板
20:アンボンド材
20a:突起孔
30:拘束材(角形鋼管)
30a:突起孔
50:補剛材
60,60A:レーザー溶接部(ファイバーレーザー溶接部)
100:座屈拘束ブレース
Q:押圧力
AW:アーク溶接部
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6