(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125574
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ロータおよび回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/22 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
H02K1/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029760
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】ニデック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(72)【発明者】
【氏名】徐 豫偉
(72)【発明者】
【氏名】林 信男
(72)【発明者】
【氏名】顔 國智
(72)【発明者】
【氏名】劉 承宗
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA29
5H601CC01
5H601CC17
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601FF02
5H601GA02
5H601GA28
5H601GA34
5H601GB12
5H601GB33
5H601GB49
(57)【要約】 (修正有)
【課題】回転電機の起動時に許容できる慣性負荷を向上できる構造を有するロータおよび回転電機を提供する。
【解決手段】ロータ10は、中心軸線J回りに回転可能なロータであって、ロータコア20と、ロータコアに設けられ、周方向に間隔を空けて配置された複数のフラックスバリア部群130と、を備える。複数のフラックスバリア部群のそれぞれは、径方向に間隔を空けて並んで配置された複数のフラックスバリア部30を含み、ロータコアは、フラックスバリア部の縁部からフラックスバリア部の内側に突出する凸部50を有し、複数のフラックスバリア部群のそれぞれにおいて、少なくとも1つのフラックスバリア部の縁部30eには、2つ以上の凸部が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線回りに回転可能なロータであって、
ロータコアと、
前記ロータコアに設けられ、周方向に間隔を空けて配置された複数のフラックスバリア部群と、
を備え、
前記複数のフラックスバリア部群のそれぞれは、径方向に間隔を空けて並んで配置された複数のフラックスバリア部を含み、
前記ロータコアは、前記フラックスバリア部の縁部から前記フラックスバリア部の内側に突出する凸部を有し、
前記複数のフラックスバリア部群のそれぞれにおいて、少なくとも1つの前記フラックスバリア部の縁部には、2つ以上の前記凸部が設けられている、ロータ。
【請求項2】
前記2つ以上の凸部は、周方向に間隔を空けて配置された一対の前記凸部を含み、
前記一対の凸部は、軸方向に見て、前記フラックスバリア部の周方向の中心を通って径方向に延びる仮想線を挟んで配置されている、請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記一対の凸部は、軸方向に見て、前記仮想線に対して互いに線対称に配置されている、請求項2に記載のロータ。
【請求項4】
前記複数のフラックスバリア部群のそれぞれにおいて、2つ以上の前記フラックスバリア部の縁部に前記一対の凸部が設けられており、
径方向外側に位置する前記フラックスバリア部の縁部に設けられた前記一対の凸部ほど、前記一対の凸部同士の周方向の間隔が小さい、請求項2または3に記載のロータ。
【請求項5】
前記凸部は、前記フラックスバリア部の径方向外側の第1縁部に設けられた凸部を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のロータ。
【請求項6】
前記凸部は、前記フラックスバリア部の径方向内側の第2縁部に設けられた凸部を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のロータ。
【請求項7】
軸方向に見て、前記凸部が突出する方向と直交する方向における前記凸部の寸法は、均一、または前記フラックスバリア部の縁部から離れるに従って小さくなっている、請求項1から6のいずれか一項に記載のロータ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のロータと、
前記ロータの径方向外側に位置するステータと、
を備える、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータおよび回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアとロータコアに設けられた孔とを備える回転電機のロータが知られている。例えば、特許文献1のロータは、ロータの軸方向に見て、径方向外側に向かって凸形状であるフラックスバリアとなる複数の孔と、周方向外側に間隔を空けて配置された複数の孔とを有する。周方向外側に配置された孔の内側には導電体が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のロータでは、ロータの回転を開始する際に、ステータにより生じた磁束の流れの向きとフラックスバリア同士の間の磁路の延びる方向とが同じでないと、ステータにより生じた磁界をロータのトルクを生じさせる磁界として好適に利用できない場合があった。この場合、回転電機の起動時におけるロータの慣性負荷が、定格速度までロータを回転させた場合に許容できる回転電機の最大慣性負荷を越え、ロータの回転速度を定格速度まで上げられない場合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みて、回転電機の起動時に許容できる慣性負荷を向上できる構造を有するロータおよび回転電機を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のロータの一つの態様は、中心軸線回りに回転可能なロータであって、ロータコアと、前記ロータコアに設けられ、周方向に間隔を空けて配置された複数のフラックスバリア部群と、を備える。前記複数のフラックスバリア部群のそれぞれは、径方向に間隔を空けて並んで配置された複数のフラックスバリア部を含む。前記ロータコアは、前記フラックスバリア部の縁部から前記フラックスバリア部の内側に突出する凸部を有し、前記複数のフラックスバリア部群のそれぞれにおいて、少なくとも1つの前記フラックスバリア部の縁部には、2つ以上の前記凸部が設けられている。
【0007】
本発明の回転電機の一つの態様は、上記のロータと、前記ロータの径方向外側に位置するステータと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一つの態様によれば、回転電機の起動時に許容できる慣性負荷を向上できる構造を有するロータおよび回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の回転電機の模式図を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のロータおよびステータを示す断面図であって、
図1におけるII-II断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のロータにおける磁束の流れを説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、本実施形態のロータの変形例を示す断面図である。
【
図4B】
図4Bは、本実施形態のロータのその他の変形例を示す断面図である。
【
図5B】
図5Bは、
図5Aに示す磁場が回転した際のロータにおける磁束の流れを説明するための図である。
【
図5C】
図5Cは、
図5Bに示す磁場がさらに回転した際のロータにおける磁束の流れを説明するための図である。
【
図6】
図6は、本実施形態のロータのその他の変形例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本実施形態のロータのその他の変形例を示す断面図である。
【
図8A】
図8Aは、本実施形態のロータのその他の変形例を示す、ロータの部分拡大図である。
【
図8B】
図8Bは、本実施形態のロータのその他の変形例を示す、ロータの部分拡大図である。
【
図8C】
図8Cは、本実施形態のロータのその他の変形例を示す、ロータの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
各図に適宜示すZ軸方向は、正の側を「上側」とし、負の側を「下側」とする上下方向である。各図に適宜示す中心軸線Jは、Z軸方向と平行であり、上下方向に延びる仮想線である。以下の説明においては、中心軸線Jの軸方向、すなわち上下方向と平行な方向を単に「軸方向」と呼び、中心軸線Jを中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、中心軸線Jを中心とする周方向を単に「周方向」と呼ぶ。軸方向の上側から見て、周方向で時計回りに進む方向を+θ側と呼び、反時計回りに進む方向を-θ側と呼ぶ。
【0011】
なお、上下方向、上側、および下側とは、単に各部の配置関係等を説明するための名称であり、実際の配置関係等は、これらの名称で示される配置関係等以外の配置関係等であってもよい。
【0012】
図1に示す本実施形態の回転電機1は、インナーロータ型のモータである。
図1に示すように、本実施形態の回転電機1は、ハウジング2と、ロータ10と、ステータ3と、ベアリングホルダ4と、ベアリング5a,5bと、を備える。ハウジング2は、ロータ10、ステータ3、ベアリングホルダ4、およびベアリング5a,5bを内部に収容している。ハウジング2の底部は、ベアリング5bを保持している。ベアリングホルダ4は、ベアリング5aを保持している。ベアリング5a,5bは、例えば、ボールベアリングである。
【0013】
ステータ3は、ロータ10の径方向外側に位置する。
図1に示すように、ステータ3は、ステータコア3aと、インシュレータ3dと、複数のコイル3eと、を有する。
図2に示すように、ステータコア3aは、コアバック3bと、複数のティース3cと、を有する。コアバック3bは、中心軸線Jを中心とする円環状である。複数のティース3cは、コアバック3bから径方向内側に延びている。複数のティース3cは、周方向に沿って一周に亘って等間隔に配置されている。複数のコイル3eは、インシュレータ3dを介してステータコア3aに装着されている。
【0014】
ロータ10は、中心軸線Jを中心として回転可能である。
図2に示すように、ロータ10は、シャフト11と、ロータコア20と、を備える。シャフト11は、中心軸線Jを中心として軸方向に延びる円柱状である。
図1に示すように、シャフト11は、ベアリング5a,5bによって中心軸線J回りに回転可能に支持されている。
【0015】
ロータコア20は、磁性体である。ロータコア20の材質は、例えば、鉄と炭素との合金よりも透磁率の高く電気伝導率の低いケイ素鋼である。ロータコア20は、シャフト11の外周面に固定されている。ロータコア20は、ロータコア20を軸方向に貫通する貫通孔20aを有する。
図2に示すように、貫通孔20aは、軸方向に見て、中心軸線Jを中心とする円形状である。貫通孔20aには、シャフト11が通されている。シャフト11は、例えば圧入等により、貫通孔20a内に固定されている。図示は省略するが、ロータコア20は、例えば、複数の電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されている。
【0016】
ロータコア20は、複数のフラックスバリア部30を有する。本実施形態において各フラックスバリア部30はロータコア20に設けられた孔によって構成されている。フラックスバリア部30は、例えば、ロータコア20を軸方向に貫通している。各フラックスバリア部30は、軸方向と直交する平面に沿って延びており、軸方向に見て径方向外側に凸となる形状となっている。ロータコア20には、2つ以上のフラックスバリア部30を含む組が複数組設けられている。1組のフラックスバリア部30をフラックスバリア部群130とも呼ぶ。各フラックスバリア部群130は、複数のフラックスバリア部30を含む。
【0017】
このようにフラックスバリア部30が設けられたロータ10は、磁気突極構造を有するシンクロナスリラクタンスモータのロータとなる。より詳しくは、軸方向から見て、隣り合う2組のフラックスバリア部群130同士の間は磁束が通りやすい突極方向となり、1組のフラックスバリア部群130の周方向における中央部には磁束が通りにくい方向が設けられる。なお、以下の説明では、上記の磁束が通りやすい突極方向を「d軸方向」と呼び、上記の磁束が通りにくい方向を「q軸方向」と呼ぶ。ロータ10はq軸方向およびd軸方向において磁気的な異方性を有するため、ステータ3により磁界が発生した際にリラクタンストルクが発生し、ロータ10を回転させることが可能となる。
また、d軸方向はロータ10の磁極部Pの周方向の中心を通る径方向であり、q軸方向は周方向で隣り合う磁極部P同士の間における周方向中心を通る径方向である。周方向で隣り合う磁極部P同士の間に位置する部分を、以降、磁極中間部Mと呼ぶ。q軸は磁極中間部Mを通る。
このように、ロータ10には、周方向に沿って設けられた複数の磁極部Pと、周方向に隣り合う磁極部P同士の間にそれぞれ位置する複数の磁極中間部Mと、が設けられる。磁極中間部Mは、フラックスバリア部群130をそれぞれ有する。
【0018】
本実施形態では、フラックスバリア部30内には導電体40が配置されている。複数のフラックスバリア部30のうち、すべてのフラックスバリア部30の内側に導電体40が充填されている。導電体40を構成する材料は、電気伝導率の高い材料である。導電体40を構成する材料としては、例えばアルミニウム、銅、およびアルミニウムと銅との合金等が挙げられる。導電体40を構成する材料は、フラックスバリア部30により構成された磁気突極構造に影響を与えないよう、強磁性体でない金属である。
フラックスバリア部30内の導電体40は、導電体40となる金属を加熱してフラックスバリア部30内に流し込むことで作られている。
【0019】
シンクロナスリラクタンスモータのフラックスバリア部30内に導電体40が配置された場合、回転する磁界の中に導体が配置されることになる。このため、ステータ3により発生した磁界が回転した際に、電磁誘導により導電体40に誘導電流が流れ、誘導電流のローレンツ力によりロータ10に回転力を発生させることが可能となる。特に、静止したロータ10の回転を開始する時にローレンツ力によるトルクを得ることができるため、回転電機1の起動時に許容できる慣性負荷を向上させることができる。このように、起動時の特性を向上させたシンクロナスリラクタンスモータは、特にDOL SynRM(Direct-On-Line Synchronous Reluctance Motor)とも呼ばれる。
【0020】
ここで、磁気突極構造を有するロータ10では、磁極部Pには導電体40が配置されていないため、周方向において導電体40の配置される量は均等ではない。また、
図3に示すように、起動時にステータ3により生じる磁束Fの流れる向きが、ロータコア20において磁束が流れる磁路MPの延びる方向と一致していない場合、磁束Fがロータ10を好適に通過できず、起動時に発生するローレンツ力が充分に得られない場合があった。なお、磁路MPとは、ロータコア20のうち、複数のフラックスバリア部30同士の間の領域およびフラックスバリア部30の近傍の領域である。
【0021】
そこで、発明者らは、フラックスバリア部30の縁部30eからフラックスバリア部30の内側に突出するロータコア20の凸部50を配置することで、起動時にステータ3により生じる磁束Fの流れる向きによらず、磁束Fをロータ10に好適に通過させられることを見出した。凸部50を配置することで、
図3に示すように磁路MPの延びる方向とステータ3により発生した磁束Fの流れの向きとが一致しない状態であっても、ステータ3により発生した磁束Fを凸部50に沿って好適に流すことができる。これにより、静止したロータ10の回転を開始する時にローレンツ力によるトルクを得ることができるため、ロータ10の起動時に許容できる慣性負荷を向上することができる。
【0022】
以下、
図2および
図3を用い、ロータ10のフラックスバリア部30および凸部50の構成についてより詳細に説明する。
【0023】
(フラックスバリア部30)
図2に示すように、本実施形態のロータ10は、第1バリア部31と、第2バリア部32と、第3バリア部33と、第4バリア部34と、第5バリア部35と、をそれぞれ備える2組のフラックスバリア部群130を有する。
本実施形態では5つのフラックスバリア部30が、1組のフラックスバリア部群130に配置されている。1組のフラックスバリア部群130におけるフラックスバリア部30の数は5つに限られず、2つ以上であれば特に限定されない。フラックスバリア部30の数は、ロータ10の大きさにより適宜変更されてもよい。
以降、第1バリア部31~第5バリア部35のいずれかを指す場合は、単にフラックスバリア部30とも呼ぶ。
【0024】
2組のフラックスバリア部群130はロータ10の周方向に沿って等間隔に並べられている。また、2組のフラックスバリア部群130は貫通孔20aを挟んで対向している。
フラックスバリア部群130の各組は、それぞれ周方向に180°回転した姿勢で配置されている点を除いて、同様の構成である。以下の各フラックスバリア部30の説明においては、2組のフラックスバリア部群130のうち代表して1つの組に含まれるフラックスバリア部30について説明する。
【0025】
フラックスバリア部群130に含まれる複数のフラックスバリア部30のうち、第1バリア部31と、第2バリア部32と、第3バリア部33と、第4バリア部34と、第5バリア部35と、は径方向外側から径方向内側に向かって、この順に配置されている。各フラックスバリア部30はそれぞれ接触しておらず、径方向において離れて位置している。ロータコア20のうち、第1バリア部31の径方向外側の領域と、径方向に隣り合う2つのフラックスバリア部30同士の間の領域と、第5バリア部35の径方向内側の領域と、は、磁束の流れる磁路MPとなる。
【0026】
第1バリア部31~第5バリア部35は、軸方向に見てq軸に交差する方向にそれぞれ伸びている。本実施形態において第1バリア部31~第5バリア部35のそれぞれは、軸方向に見て、q軸を対称軸とする線対称な形状である。
以下の説明においては、軸方向に見てフラックスバリア部30が延びる方向を「延伸方向」と呼ぶ。軸方向に見て第1バリア部31、第2バリア部32、第3バリア部33、第4バリア部34、および第5バリア部35が延びる方向をそれぞれ「第1延伸方向」、「第2延伸方向」、「第3延伸方向」、「第4延伸方向」、および「第5延伸方向」と呼ぶ。
【0027】
軸方向に見て、径方向外側に位置するフラックスバリア部30ほど、フラックスバリア部30の延伸方向の寸法が短い。すなわち、第1バリア部31の第1延伸方向の寸法は第2バリア部32の第2延伸方向の寸法よりも短い。第2バリア部32の第2延伸方向の寸法は第3バリア部33の第3延伸方向の寸法よりも短い。第3バリア部33の第3延伸方向の寸法は第4バリア部34の第4延伸方向の寸法よりも短い。第4バリア部34の第4延伸方向の寸法は第5バリア部35の第5延伸方向の寸法よりも短い。
【0028】
軸方向に見て、各フラックスバリア部30は径方向外側に向かう凸状に湾曲している。これにより、貫通孔20aが配置された部分を避けつつ、複数のフラックスバリア部30を配置することができる。
軸方向に見て、第1バリア部31~第5バリア部35のそれぞれの延伸方向における中央部30aでは、径方向外側に凸となる円弧を含む形状になっている。各フラックスバリア部30の中央部30aに含まれる円弧のうち、径方向内側に配置されているフラックスバリア部30ほど円弧半径が小さく、径方向外側のフラックスバリア部30になるほど円弧半径は大きくなっている。なお、軸方向に見て、径方向外側に位置する1つまたは2つ以上のフラックスバリア部30は、中央部30aに円弧を含まず、q軸に直交する方向に直線状に伸びていてもよい。
【0029】
各フラックスバリア部30の延伸方向両側の端部30bはロータコア20の径方向外周縁部に位置する。フラックスバリア部30の両方の端部30bの径方向位置は、それぞれ同等の位置となっている。
【0030】
軸方向に見て、フラックスバリア部30の延伸方向の中央部30aでは、フラックスバリア部30の幅が端部30bにおけるフラックスバリア部30の幅よりも小さくなっている。さらに、複数のフラックスバリア部30の中央部30aにおいて、径方向内側のフラックスバリア部30ほど幅が狭くなっている。なお、フラックスバリア部30の幅とは、軸方向に見て各フラックスバリア部30の延伸方向と直交する方向の寸法である。
このようにフラックスバリア部30の幅の狭い領域を設けることで、磁路MPの幅を好適に確保しつつ複数のフラックスバリア部30を配置することができる。
なお、第1バリア部31~第5バリア部35の幅は、例えば、それぞれ均一であってもよい。
【0031】
なお、本明細書において「或るパラメータ同士が互いに同じである」とは、或るパラメータ同士が厳密に互いに同じである場合に加えて、或るパラメータ同士が互いに略同じである場合も含む。「或るパラメータ同士が互いに略同じである」とは、例えば、公差の範囲内で、或るパラメータ同士が僅かにずれていることを含む。
【0032】
(凸部50)
ロータコア20は、フラックスバリア部30の縁部30eからフラックスバリア部30の内側に突出する凸部50を有する。
縁部30eは、フラックスバリア部30の径方向外側の第1縁部30e1と、径方向内側の第2縁部30e2と、を含む。本実施形態では、凸部50は、フラックスバリア部30の径方向外側の第1縁部30e1に設けられている。これにより、径方向外側から流れてくる磁束Fを凸部50に通しやすくなる。
複数のフラックスバリア部群130のそれぞれにおいて、少なくとも1つのフラックスバリア部30の縁部30eには、2つ以上の凸部50が設けられている。本実施形態では、第2バリア部32、第3バリア部33、第4バリア部34、および第5バリア部35に、それぞれ、一対の凸部50が配置されている。
【0033】
径方向の最も外側に配置されている第1バリア部31には、凸部50が設けられていない。ステータ3に最も近い位置に配置されている第1バリア部31では、凸部50により磁束Fを制御する効果が他のフラックスバリア部30の凸部50よりも弱く、また、凸部50を設けなくてもステータ3により生じる磁束Fの流れを制御可能である場合があるためである。
なお、第1バリア部31に凸部50が設けられていてもよい。
【0034】
1つのフラックスバリア部30に含まれる2つの凸部50は、周方向に間隔を空けて配置されている。
第2バリア部32、第3バリア部33、第4バリア部34、および第5バリア部35にそれぞれ配置された一対の凸部50は、軸方向に見て、フラックスバリア部30の周方向の中心を通って径方向に延びる仮想線ILを挟んで配置されている。これにより、ロータ10の起動時に、回転する磁界により生じる磁束Fが、仮想線ILに対して+θ側または-θ側のいずれの位置を通過する場合であっても、一対の凸部50のうちの一つの凸部50によりフラックスバリア部30の幅方向を貫通する方向に磁束Fを好適に流すことが可能となる。なお、仮想線ILはq軸と重なる位置に配置されていてもよい。
【0035】
1つのフラックスバリア部30に含まれる一対の凸部50は、軸方向に見て、仮想線ILに対して互いに線対称に配置されている。これにより、ロータ10を+θ方向および-θ方向のいずれの方向に回転を開始する場合にも、同等の大きさのトルクを得ることができる。また、+θ方向および-θ方向のいずれの方向にロータ10の回転を開始する場合にも、起動時に許容できる慣性負荷を向上させることができる。
【0036】
径方向外側に位置するフラックスバリア部30の縁部30eに設けられた一対の凸部50ほど、一対の凸部50同士の周方向の間隔が小さい。すなわち、第2バリア部32の一対の凸部50同士の間の間隔は、第3バリア部33の一対の凸部50同士の間の間隔よりも小さい。第3バリア部33の一対の凸部50同士の間の間隔は、第4バリア部34の一対の凸部50同士の間の間隔よりも小さい。第4バリア部34の一対の凸部50同士の間の間隔は、第5バリア部35の一対の凸部50同士の間の間隔よりも小さい。
これにより、複数の凸部50を好適に配置して、複数の凸部50に沿って磁束Fを流しやすくできる。また、貫通孔20aを避けつつ、複数のフラックスバリア部群130にわたって磁束Fを通過させることができる。
なお、1つのフラックスバリア部30に含まれる一対の凸部50同士の間の距離は、5mm以上であることが好ましい。これにより、導電体40をフラックスバリア部30内に配置する際に、溶融した導電体40を2つの凸部50同士の間にも適切に流れ込ませることが可能となる。
【0037】
軸方向に見て、凸部50が突出する方向と直交する方向における凸部50の寸法は、均一である。すなわち、凸部50は矩形形状となっている。以降、凸部50が突出する方向と直交する方向における凸部50の寸法を凸部50の幅とも呼ぶ。凸部50の幅は磁束Fの流れをガイドすることが可能である寸法とすることが好ましい。
凸部50の先端は第2縁部30e2に接触していない。また、1つのフラックスバリア部30内の導電体40は凸部50により電気的に分断されていない。さらに、軸方向に見て、凸部50の先端と、凸部50が配置されている第1縁部30e1に対向する第2縁部30e2と、の間の距離が1.5mm以上であることが好ましい。これにより、導電体40をフラックスバリア部30内に配置する際に、溶融した導電体40をフラックスバリア部30内に適切に流れ込ませることが可能となる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態のロータは、中心軸線J回りに回転可能なロータ10であって、ロータコア20と、ロータコア20に設けられ、周方向に間隔を空けて配置された複数のフラックスバリア部群130と、を備え、複数のフラックスバリア部群130のそれぞれは、径方向に間隔を空けて並んで配置された複数のフラックスバリア部30を含み、ロータコア20は、フラックスバリア部30の縁部30eからフラックスバリア部30の内側に突出する凸部50を有し、複数のフラックスバリア部群130のそれぞれにおいて、少なくとも1つのフラックスバリア部30の縁部30eには、2つ以上の凸部50が設けられている。
本実施形態のロータ10では、静止したロータ10の回転を開始する時に、凸部50により、
図3に示すようにステータ3から生じる磁束Fを好適にロータ10に流すことが可能となる。このように、本実施形態のロータ10は、回転電機1の起動時に許容できる慣性負荷を向上できる構造を有する。ステータ3により生じた磁界を好適に利用できるため、回転電機1の起動時におけるロータ10の慣性負荷が、定格速度までロータ10を回転させた場合に許容できる回転電機1の最大慣性負荷を超えることを抑制でき、ロータ10の回転速度を定格速度まで良好に上げることが可能となる。
さらに、ロータ10の回転速度が定格速度となる定常状態では、フラックスバリア部群130が配置されることにより生じるリラクタンストルクにより、ロータ10を好適に回転させることができる。
【0039】
また、本実施形態の回転電機1は、上述のロータ10と、ロータ10の径方向外側に位置するステータ3と、を備える。
上述のように、回転電機1は回転する磁界の磁束Fを好適に通すことができるロータ10を有しているため、回転電機1の起動時に許容できる慣性負荷を向上させることができる。
【0040】
本発明は上述の実施形態に限られず、本発明の技術的思想の範囲内において、他の構成を採用することもできる。
例えば、
図4Aに示すように、一つのフラックスバリア部30に配置される複数の凸部50の数が、2つ以上であってもよい。
図4Aに示す例では、第1バリア部31には凸部50が配置されておらず、第2~第4バリア部32~34には、それぞれ2つの凸部50が配置され、第5バリア部35には4つの凸部50が配置されている。
図4Aにおける第5バリア部35の凸部50は、第1凸部50aと、第5バリア部35の延伸方向において第1凸部50aよりも端部30b側に配置された第2凸部50bと、を含む。
図4Aに示す例において、第2~第5バリア部32~35の複数の凸部50は、仮想線ILに対して互いに線対称な位置に配置されている。
【0041】
また、各フラックスバリア部30に、それぞれ4つ、または6つの凸部50が配置されていてもよい。
図4Bに示されるロータ10は、第2~第5バリア部32~35にそれぞれ6つずつ凸部50が配置されている。
図4Bに示す例において、第2~第5バリア部32~35の凸部50は、それぞれ、第1凸部50aと、第2凸部50bと、第3凸部50cと、を含む。
図4Bに示す第2~第5バリア部32~35では、延伸方向において中央部30aから端部30bに向かって、第1凸部50aと、第2凸部50bと、第3凸部50cと、がこの順で配置されている。
図4Bに示す例において、第2~第5バリア部32~35の複数の凸部50は、仮想線ILに対して互いに線対称な位置に配置されている。
【0042】
なお、凸部50の数はロータ10の大きさおよびフラックスバリア部30の形状を考慮し適宜変更してもよい。例えば、q軸上に凸部50を配置せず、かつq軸対称に複数の凸部50を配置するため、1つのフラックスバリア部30に配置される凸部50の数は2以上の偶数であってもよい。
ただし、各フラックスバリア部30に配置される凸部50の数は2つ以上4つ以下であることが好ましい。これは、凸部50の数が過度に多すぎるとロータ10の回転が定常状態となった時に磁束Fの流れに影響を及ぼす可能性があるためである。
【0043】
図5A~
図5Cでは、矢印A1の方向にステータ3により生じる磁界が回転を開始した際の、
図4Bに示すロータ10内における、磁束Fの流れを示している。複数の凸部50が配置されることで、
図5A~
図5Cに示すように、回転する磁界が中心軸線Jに対していずれの角度に配置された状態でも、複数の凸部50により磁束Fをロータ10に通過させることができる。これにより、静止したロータ10が回転を開始する際にローレンツ力によるトルクを好適に得ることが可能となる。
【0044】
また、1つのフラックスバリア部30に一対の凸部50のみが設けられている場合の一対の凸部50同士の間の間隔は、
図2に示す例に限られない。例えば、フラックスバリア部30には、
図4Bに示す第1凸部50aの位置に配置された一対の凸部50のみが設けられていてもよいし、第2凸部50bの位置に配置された一対の凸部50のみが設けられていてもよいし、第3凸部50cの位置に配置された一対の凸部50のみが設けられていてもよい。
【0045】
また、ロータ10の磁極部Pの数は2極に限られず、2極より多くてもよい。ロータ10の磁極部Pの数は、例えば、4極、6極、または8極であってもよい。
図6に、4極構造のロータ10を示す。4組のフラックスバリア部群130はロータ10の周方向に沿って等間隔に並べられている。周方向で隣り合うフラックスバリア部群130同士の間に、磁極部Pが設けられるため、
図6に示すロータ10では4極の磁極部Pが設けられている。
なお、
図6に示すロータ10では、複数のフラックスバリア部30の形状は、軸方向に見て径方向内側に凸となる円弧状となっている。このように、フラックスバリア部30の形状は軸方向に見て径方向内側に凸となる円弧状であってもよいし、軸方向に見て径方向内側に凸となる折れ線状となっていてもよい。また、1組のフラックスバリア部群130において、円弧状のフラックスバリア部30と折れ線状のフラックスバリア部30との両方が含まれていてもよい。
【0046】
また、凸部50は、フラックスバリア部30の径方向内側の第2縁部30e2に設けられた凸部50を含んでいてもよい。これにより、他のフラックスバリア部群130を通り径方向内側から流れてくる磁束Fを凸部50に通しやすくなる。
例えば、
図7に示すように、径方向外側の第1縁部30e1に設けられた外側凸部51と径方向内側の第2縁部30e2に設けられた内側凸部52とがフラックスバリア部30に設けられていてもよい。外側凸部51と内側凸部52とはフラックスバリア部30の延伸方向において異なる位置に配置されている。これにより、径方向外側から流れてくる磁束Fと、径方向内側から流れてくる磁束Fと、のいずれも凸部50により好適に導きやすくなる。
【0047】
また、外側凸部51と内側凸部52とはフラックスバリア部30の延伸方向において同じ位置に配置されていてもよい。すなわち、フラックスバリア部30内で、軸方向および延伸方向の両方と直交する方向において、外側凸部51と内側凸部52とは対向する位置に配置されていてもよい。この場合においても、径方向外側から流れてくる磁束Fと、径方向内側から流れてくる磁束Fと、のいずれも凸部50により好適に導きやすくなる。
ここで、例えば、凸部50が突出する方向における凸部50の寸法を長く設計した場合、製造時に凸部50が変形しやすくなる場合がある。このような場合に、1つの凸部50を、外側凸部51と内側凸部52との2つに分けることで、凸部50の合計の突出寸法を確保し磁束Fを導く効果を得つつ、製造プロセスにおける凸部50の変形を防ぐことができる。
なお、外側凸部51の先端と内側凸部52の先端との間の距離は、前述のように、導電体40を流し込めるように1.5mm以上であることが好ましい。
【0048】
また、凸部50の形状は矩形に限られない。すなわち、軸方向に見て、凸部50が突出する方向と直交する方向における凸部50の寸法は、均一でなくてもよい。例えば、
図8Aに示すように、凸部50は軸方向に見て半楕円形状であってもよく、
図8Bに示すように凸部50は軸方向に見て三角形状でもよく、
図8Cに示すように凸部50は軸方向に見て台形状であってもよい。
より詳しくは、
図8A~
図8Cに示すロータ10では、軸方向に見て、凸部50が突出する方向と直交する方向における凸部50の寸法はフラックスバリア部30の縁部30eから離れるに従って小さくなっている。これにより、凸部50に流れた磁束Fを凸部50に沿って好適に導きやすい。また、
図8Bに示すロータ10では、径方向外側のフラックスバリア部30に配置された凸部50の三角形状の先端が指す方向に径方向内側に配置された他のフラックスバリア部30の凸部50が配置されている。これにより、1つの凸部50に流れた磁束Fを他の凸部50に導きやすい。したがって、複数の凸部50に沿って磁束Fをより好適に導きやすくなる。
【0049】
なお、起動時と定常回転時との両方における慣性負荷を考慮し、凸部50の形状は適宜変更されてもよい。また、起動時に凸部50に流れた磁束Fをフラックスバリア部30の幅方向に貫通させる方向に好適に導くため、軸方向に見て、凸部50が突出する方向と直交する方向における凸部50の寸法はフラックスバリア部30の縁部30eから離れるに従って大きくなっていないことが好ましい。
【0050】
また、複数の凸部50は仮想線ILまたはq軸に対して対称な位置に配置されていなくてもよい。また、1つのフラックスバリア部30は、奇数個の凸部50を有していてもよい。このように、凸部50の配置を非対称にすることで、ロータ10が+θ側および-θ側のうちのいずれか一方の方向に回転を開始する際の慣性負荷を特に向上させることができる。
【0051】
また、フラックスバリア部30は、ロータコア20を軸方向に貫通しなくてもよい。フラックスバリア部30は、ロータコア20の軸方向の端面に開口していてもよい。
【0052】
フラックスバリア部30は、磁束Fの流れを抑制できるならば、特に限定されない。上述した実施形態においてフラックスバリア部30内に導電体40を配置した構成としたが、フラックスバリア部30内は空隙部としてもよい。また、当該空隙部に樹脂等の非磁性体が埋め込まれることで、フラックスバリア部30が構成されてもよい。導電体40がフラックスバリア部30内に配置されていなくても、凸部50により磁束Fの流れを好適に導くことができる。
【0053】
本発明が適用される回転電機の用途は、特に限定されない。回転電機は、例えば、車両に搭載されてもよいし、車両以外の機器に搭載されてもよい。以上、本明細書において説明した構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0054】
1…回転電機、3…ステータ、10…ロータ、20…ロータコア、30…フラックスバリア部、30e…縁部、30e1…第1縁部、30e2…第2縁部、50…凸部、130…フラックスバリア部群、IL…仮想線、J…中心軸線