(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125576
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20230831BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20230831BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20230831BHJP
B43K 5/00 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/00
B43K8/02
B43K5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029763
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】大越 あや
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350GA03
2C350GA04
4J039BC13
4J039BC14
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039EA10
4J039EA47
4J039EA48
4J039GA28
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、筆跡乾燥性に優れるとともに、滲みや裏抜けが抑制された良好な筆跡が得られ、さらには、ペン芯を備えた筆記具に用いた際にも、優れた耐ボタ落ち性能が得られる、筆記具用水性インキ組成物および筆記具を提供することである。
【解決手段】本発明による筆記具用水性インキ組成物は、水と、着色剤と、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と、特定の有機溶剤と、を含んでなる、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路とを有するペン芯を備える、筆記具用水性インキ組成物であって、前記インキ組成物の、20℃における表面張力が、30mN/m~60mN/mである筆記具用水性インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、着色剤と、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と、有機溶剤と、を含んでなる、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路とを有するペン芯を備える、筆記具用水性インキ組成物であって、
前記有機溶剤が、以下の式(i)で示される有機溶剤であり、
【化1】
(式中、R
Aは、炭素数1~4の、直鎖または分岐のアルキル基であり、かつR
Bは、ヒドロキシ基であるか、または、炭素数1~3のアルコキシ基であり、Lは、メチル基によって置換されていてもよい、エチレン基(-CH
2-CH
2-)またはトリメチレン基(-CH
2-CH
2-CH
2-)であり、かつxは、1~5の整数である)、
前記インキ組成物の、20℃における表面張力が、30mN/m~60mN/mである、筆記具用水性インキ組成物。
【請求項2】
前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤が、エチレンオキシドが付加された界面活性剤である、請求項1に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項3】
前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数が2~40である、請求項2に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤に対する、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤との含有比は、質量基準で、0.001~0.1である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項5】
前記着色剤が染料である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
【請求項7】
前記筆記具が万年筆である、請求項6に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記具用水性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水性インキは、油性インキに比べて、溶媒の蒸発速度が遅いことから、筆跡の乾燥性に乏しい傾向にある。このため、筆跡が十分に乾燥するまでに時間を要し、乾燥していない筆跡に触れた場合には、筆記面が汚れてしまったり、筆跡自体が汚れてしまったりするなど、筆跡乾燥性という課題を有している。こうした課題を解決するため、各種添加剤を用いて、インキの紙面へ浸透性を向上させたインキ組成物が提案されている。(例えば、特許文献1など)
【0003】
しかしながら、このようなインキ組成物は、筆跡の乾燥性は改善傾向にあるものの、紙への浸透性が向上する反面、筆跡が滲んでしまったり、裏抜けしてしまったりするなど、良好な筆跡が得られ難かった。また、上記のようなインキ組成物を、くし溝と空気通路を有するペン芯を介して毛細管現象によりペン先へインキを誘導するような筆記具に用いた場合には、ペン芯のくし溝間におけるインキ貯留性に問題が生じ、ペン先を鉛直下向き状態にすると、非筆記時であっても、大気圧や温度の変化によってインキが溢れ出したり、また、衝撃や振動によってインキが漏れ出してしまったりすることがあり、インキのボタ落ちという新たな課題が発生してしまう可能性を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のような課題を解決するもので、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性と、さらには、耐ボタ落ち性に優れる、ペン芯を備えた筆記具用水性インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、
「1.水と、着色剤と、有機溶剤と、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と、を含んでなる、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路とを有するペン芯を備える、筆記具用水性インキ組成物であって、
前記有機溶剤が、以下の式(i)で示される有機溶剤であり、
【化1】
(式中、R
Aは、炭素数1~4の、直鎖または分岐のアルキル基であり、かつR
Bは、ヒドロキシ基であるか、または、炭素数1~3のアルコキシ基であり、Lは、メチル基によって置換されていてもよい、エチレン基(-CH
2-CH
2-)またはトリメチレン基(-CH
2-CH
2-CH
2-)であり、かつxは、1~5の整数である)、前記インキ組成物の、20℃における表面張力が、30mN/m~60mN/mである、筆記具用水性インキ組成物。
2.前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤が、エチレンオキシドが付加された界面活性剤である、第1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
3.前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数が2~40である、第2項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
4.前記有機溶剤に対する、前記アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤との含有比が、質量基準で、0.001~0.1である、第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
5.前記着色剤が染料である、第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物。
6.第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用水性インキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
7.前記筆記具が万年筆である、第6項に記載の筆記具。」とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、筆跡は素早く乾燥性し、得られる筆跡は滲みや裏抜けが抑制され、さらに、ペン芯を備えた筆記具に用いた場合、大気圧や温度の変化によってインキが溢れ出したり、漏れ出してしまったりすることのない、優れた、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性と、さらには、耐ボタ落ち性を有する、筆記具用水性インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り、質量基準であり、含有率とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0009】
<筆記具用水性インキ組成物>
本発明による筆記具用水性インキ組成物(以下、場合により「インキ組成物」と表す)は、ペン芯を備えた筆記具に用いられるインキ組成物であって、水と、着色剤と、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と特定の有機溶剤とを併用するとともに、インキの表面張力を特定の値に設定したことを特徴とするものである。つまり、本発明のインキ組成物は、特定の構成成分を組み合わせ、さらに、インキ組成物の表面張力を特定の値とすることで、優れた、筆跡乾燥性と、耐滲み裏抜け性と、耐ボタ落ち性を得ることができる。
これは、以下のように推測する。
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と特定の有機溶剤を組み合わることで、インキ組成物の紙面に対する浸透性を劇的に向上することができる。このため、インキ組成物が紙面上で毛細管現象による広がりを見せる前に、素早く浸透できるようになり、筆跡は素早く乾燥し、かつ、滲みや裏抜けが抑制されると推測する。また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と特定の有機溶剤を組み合わせるとともに、さらに、インキ組成物の表面張力を特定の値に設定することで、上述のように紙面に対する浸透性を劇的に向上させながらも、ペン芯に対する濡れ性を適正に維持できる。このため、ペン芯のくし溝間におけるインキ流入性とインキ貯留性をともに良化できるようになる。それゆえ、インキ貯蔵体の内圧が変化した場合にも、余剰のインキがペン芯に円滑に流入でき、かつ保持できるようになるため、ペン芯の機能を十分に働かせることが可能となり、ペン先からのボタ落ちを十分に抑制することができると推測する。
従って、本願発明のインキ組成物は、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性と、耐ボタ落ち性のすべてを十分に満足させることができるのである。
以下、インキ組成物における構成成分について、詳細に説明する。
【0010】
<アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤>
本発明のインキ組成物は、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤を含んでなる。アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤は、紙面に対するインキ組成物の浸透性を向上させることができる。さらに、後述する、特定の有機溶剤との組み合わせることで、この浸透性をより一層向上することができる。また、本発明においては、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と特定の有機溶剤と組み合わせるとともに、さらに、インキの表面張力を特定の値に設定することで、インキ組成物の紙への浸透性を高めながらも、ペン芯の濡れ性を適正に維持することが可能となる。よって、本発明のインキ組成物は、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性と、さらには耐ボタ落ち性の全てにおいて、優れたものとなる。
【0011】
本発明に用いるアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤としては、構造中にアセチレン結合を有する界面活性剤であれば、特に問わない。例えば、アセチレングリコール系界面活性剤やアセチレンアルコール系界面活性剤などが挙げられる。
【0012】
本発明に用いるアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤は、エチレンオキシド基を少なくとも一つ有する、エチレンオキシドが付加されたアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤を用いることが好ましい。このような界面活性剤は、インキ中における安定性に優れることから、界面活性剤がもたらす効果を長期に維持することができる。
さらに、後述する有機溶剤との組み合わせによるインキ組成物の浸透性の更なる向上を考慮すると、エチレンオキシド基が付加されたアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤のエチレンオキシド付加モル数は、2~40であることが好ましく、5~20であることがより好ましく、8~15であることがさらに好ましい。
【0013】
また、インキ組成物の経時安定性をおよびインキ組成物の紙面に対する更なる浸透性向上を考慮すると、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤のHLB値は10~16であることが好ましく、12~16であることが好ましい。
ここで、本発明に用いられる界面活性剤のHLB値は、グリフィンが提唱した化合物の親水性を評価する値であり、下記一般式(ii)によって算出される値をいう。
HLB値=20×(親水基の質量%)=20×(親水基の式量の総和/界面活性剤の分子量)・・・(ii)
【0014】
また、本発明に用いるアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤が、一定の起泡性と優れた破泡性を有することが好ましい。
このような特定のアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤とともに、後述する有機溶剤を用いることで、優れた、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性と、耐ボタ落ち性が、より一層得られやすくなる。
具体的には、界面活性剤の0.1%水溶液を試験液とし、この試験液を100mlメスシリンダーに20ml採取し、180往復/分で1分間上下に振とう(振とう幅40mm)した際の直後および5分後の泡の高さをそれぞれ、Amm、Bmmとした際に、A≧5かつ、A-B(AとBの差)≧5である界面活性剤を用いることが好ましい。
これは、理由は定かではないが、下記のように推測する。
一定の起泡性を有する界面活性剤を用いることで、インキ組成物の静止時の表面張力を一定値以上に保ち、かつ、インキに動きが生じた際には、インキの表面張力の上昇を抑えこむことができ、紙面やペン芯などの筆記具部材の濡れ性の悪化を抑止できる傾向にあると考える。このため、インキが紙にのる時にも、有機溶剤との相乗効果により向上した良好な浸透性は十分に維持され、インキは素早く紙面に浸透でき、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性を向上できると推測する。また、インキ貯蔵体の内圧が変化した場合にも、ペン芯に対する適度な濡れ性は維持されることから、くし溝間にインキは円滑に流入し、かつ保持できるため、ペン芯の機能を十分に働かせやすくなると推測する。また、前記界面活性剤は、破泡性にも優れていることから、インキに泡が残り難い。このため、残泡によって、ペン芯のくし溝間にインキが流入することが阻害されることがあるが、これを抑制できる。ゆえに、耐ボタ落ち性も向上できるものと推測する。
以上より、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の中でも、上述のような起泡性と破泡性を有する特徴的なアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤を用いることで、より優れた筆跡乾燥性と耐ボタ落ち性を得ることができるため、効果的である。
上記効果の向上を考慮すると、A>10であるものがより好ましく、A>15であるものがさらに好ましい。さらには、AとBの差においては、A-B>10であることがより好ましく、A-B>12であるものがさらに好ましい。また、B<5であることが好ましい。
【0015】
また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の曇点は、40℃以上であることが好ましい。これは、前記界面活性剤の曇点が40℃以上であると、水への溶解性が安定するため、水との分離が起こりにくく、界面活性剤の効果を十分に得ることができるためである。
【0016】
また、本発明に用いるアセチレン結合を構造中に有する界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。これは、アセチレンアルコール系界面活性剤は揮発性に富む傾向にあることから、アセチレングリコール系界面活性剤を用いた方が、優れた筆跡乾燥性を得ながらも、良好な耐ドライアップ性能も得られやすいためである。
【0017】
アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましい。これは、0.001質量%以上であれば、紙面に対する浸透性を向上し、筆跡乾燥性を良化できる。一方で、1質量%以下であれば、表面張力の極端な低下が抑制され、ペン芯への濡れ性は適正に保たれ、優れた耐ボタ落ち性を得ることができ、さらには、界面活性剤がインキ中で安定に存在しやすくなり、インキ経時安定性を良化できる。
筆跡乾燥性の更なる向上を考慮すれば、0.003質量%以上がより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましい。
また、耐ボタ落ち性や経時安定性の更なる向上を考慮すると、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であるであることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましく、0.03質量%以下であることが最も好ましい。
なお、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤は、1種または、2種以上の混合物として使用することも可能である。
【0018】
<特定の有機溶剤>
本発明に用いられる特定の有機溶剤は、以下の式(i)で示される有機溶剤で示されるものである。
【化2】
式中、R
Aは、炭素数1~4の、直鎖または分岐のアルキル基であり、かつR
Bは、ヒドロキシ基であるか、または、炭素数1~3のアルコキシ基であり、Lは、メチル基によって置換されていてもよい、エチレン基(-CH
2-CH
2-)またはトリメチレン基(-CH
2-CH
2-CH
2-)であり、かつxは、1~5の整数である。
【0019】
本発明は、上述のように、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と式(i)で示されるような特定の有機溶剤を組み合わせすることにより、インキ組成物の紙面に対する浸透性を劇的に向上することができる。このため、インキ組成物が紙面上で毛細管現象による広がりを見せる前に、素早く浸透できるようになり、筆跡は素早く乾燥し、かつ、滲みや裏抜けが抑制される。
また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と特定の有機溶剤と組み合わせ、さらに、インキの表面張力を特定の値に設定すること、インキ組成物の紙への浸透性を高めながらも、ペン芯の濡れ性を適正に維持することが可能となる。このため、優れた耐ボタ落ち性も得ることができる。
【0020】
上記効果の向上を考慮すると、好ましくは、式(i)におけるRAが、メチル基、またはエチル基であり、かつRBは、ヒドロキシ基であるか、または、炭素数1~3のアルコキシ基であり、Lは、エチレン基(-CH2-CH2-)またはトリメチレン基(-CH2-CH2-CH2-)であり、かつxは、1~5の整数である有機溶剤であり、より好ましくは、式(i)におけるRAが、メチル基であり、かつRBは、ヒドロキシ基であるか、または、メトキシ基であり、Lは、エチレン基(-CH2-CH2-)またはトリメチレン基(-CH2-CH2-CH2-)であり、かつxは、2~4の整数である有機溶剤である。
【0021】
また、式(i)で示されるような有機溶剤の20℃における、密度は0.80g/cm3~1.05g/cm3であることが好ましく、0.90g/cm3~1.02g/cm3であることがより好ましく、0.95g/cm3~0.98g/cm3であることがさらに好ましい。密度が上記数値の範囲であれば、インキ中において安定に存在し、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤との相乗効果が得られやすい。
【0022】
また、式(i)で示されるような有機溶剤の表面張力は、25℃環境下において、25mN/m~40mN/mであることが好ましく、25mN/m~35mN/mであることがより好ましく、26mN/m~30mN/mであることが特に好ましい。
【0023】
式(i)で示されるような有機溶剤の具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。
中でも、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤との相乗効果により浸透性が向上し、筆跡乾燥性の更なる向上を考慮すると、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテルが好ましく、さらには、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いることが特に好ましい。
【0024】
式(i)で示されるような有機溶剤の含有率は、インキ組成物の総質量を基準として、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.5質量%~5質量%であることがより好ましく、1質量%~5質量%であることがさらに好ましい。
式(i)で示されるような有機溶剤の含有率が、上記数値の範囲内であれば、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤との相乗効果により浸透性を大きく向上しながらも、表面張力を特定の範囲に設定可能とし、さらには、ペン芯の濡れ性を適切に維持できる。このため、筆跡乾燥性と耐滲み性・耐裏抜け性と、耐ボタ落ち性をバランス良く、向上できる。
なお、式(i)で示されるような有機溶剤は、1種または、2種以上の混合物として使用することも可能である。
【0025】
また、式(i)で示されるような有機溶剤に対する、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤との含有比(アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤/特定の有機溶剤)は、質量基準で、0.001~0.1であることが好ましく、0.002~0.08であることがより好ましく、0.002~0.01であることがさらに好ましい。上記数値の範囲であれば、二つの成分の相乗効果を効果的に得て、優れた筆跡乾燥性と、耐滲み性と耐裏抜け性と、さらには耐ボタ落ち性能をバランス良く、良化できる。
【0026】
<着色剤>
次に、本実施形態のインキ組成物に含まれる着色剤について説明する。インキ組成物に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
【0027】
染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料、反応性染料、直接染料、分散染料および食用色素等の各種の染料が挙げられる。
【0028】
酸性染料としては、例えば、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドオレンジ10、C.I.アシッドイエロー3、C.I.アシッドイエロー7、C.I.アシッドイエロー23(タートラジン)、C.I.アシッドイエロー42、C.I.アシッドグリーン3、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー22、C.I.アシッドブルー90、C.I.アシッドブルー239、C.I.アシッドブルー248、C.I.アシッドバオレット15、C.I.アシッドバイオレット49、C.I.アシッドブラック1、C.I.アシッドブラック2、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド289、C.I.アシッドレッド388、C.I.アシッドレッド87(エオシン)、C.I.アシッドレッド92(フロキシン)、C.I.アシッドレッド97、C.I.アシッドレッド51(エリスロシン)、C.I.アシッドレッド94(ローズベンガル)、アクリジンレッド(C.I.45000)、ローダミン110、ローダミン123、ローダミン6G(C.I.ベーシックレッド1)、ローダミン6Gエキストラ、ローダミン116、ローダミンB(C.I.45170)、テトラメチルローダミン過塩素酸塩、ローダミン3B、ローダミン19、スルホローダミン、ピロニンG(C.I.45005)、ローダミンS(C.I.45050)、ローダミンG(C.I.45150)、エチルローダミンB(C.I.45175)、ローダミン4G(C.I.45166)、ローダミン3GO(C.I.45215)、スルホローダミンG等が挙げられる。
【0029】
塩基性染料としては、例えば、C.I.ベーシックオレンジ2、C.I.ベーシックオレンジ14、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックブルー9、C.I.ベーシックブルー26、C.I.ベーシックバイオレット1、C.I.ベーシックバイオレット3、C.I.ベーシックバイオレット10、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が挙げられる。
【0030】
直接染料としては、例えば、C.I.ダイレクトレッド28、C.I.ダイレクトイエロー44、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー87、C.I.ダイレクトバイオレット51、C.I.ダイレクトブラック19等が挙げられる。
【0031】
食用色素としては、例えば、C.I.フードイエロー3、C.I.フードブラック2、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が挙げられる。
【0032】
顔料としては、例えば、無機、有機、加工顔料等が挙げられる。具体的には、顔料としては、カーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、アルミ顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。その他、顔料として、マイクロカプセル顔料を用いてもよい。マイクロカプセル顔料は、顔料を媒体中に分散させてなる着色体を公知のマイクロカプセル化法等により樹脂壁膜形成物質からなる殻体に内包又は固溶化させたものである。更に、顔料としては、顔料を透明または半透明の樹脂等で覆った着色樹脂粒子や、無色樹脂粒子を顔料もしくは染料で着色したもの等を用いることもできる。
【0033】
中でも、着色剤は染料を用いることが好ましい。染料は、顔料とは異なり、インキ中で溶解状態で存在することから、界面活性剤と有機溶剤による浸透性の向上効果を阻害し難く、優れた筆跡乾燥性と耐滲み性・耐裏抜け性が得られやすい。
また、本発明においては、2種以上の染料を用いた方が好ましく、被筆記面に様々な紙種を用いたとしても、優れた筆跡乾燥性を奏することができる傾向にある。これは、理由は定かではないが、異なる染料を併用することで、紙面に対する浸透性に微差が生じ、順序良く紙面にインキが浸透可能となり、結果、インキ全体が素早く紙面に浸透できるようになるのではないかと推測する。特に、黒色インキについてはこの傾向は顕著に見られ、黒色の染料を単独で用いるよりも、色彩の異なる染料を3種類以上用いることが効果的であり、さらに、青色染料と赤色染料と黄色染料の染料を、それぞれ少なくとも1種類以上用いることがより効果的である。
【0034】
<水>
本発明によるインキ組成物は、水を含んでなる。用いられる水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水または蒸留水などが挙げられる。
【0035】
<その他の添加剤>
本発明のインキ組成物は、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。用いることができる添加剤について説明すると以下の通りである。
【0036】
<pH調整剤>
本発明によるインキ組成物は、pH調整剤を含むことができる。pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンを例示として挙げられるようなアルカノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられる。インキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、さらに、紙面に対する浸透性やペン芯の濡れ性に影響を与え難い、アルカノールアミンを用いることが好ましい。これらのpH調整剤は2種類以上を組み合わせた混合物として使用することもできる。
【0037】
なお、本発明のインキ組成物のpH値は11以下であることが好ましい。これは、pH値が11以下であれば、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤や有機溶剤の効果を十分に得られやすく、高い経時安定性が得らやすいためである。また、インキ組成物の経時安定性、インキ組成物が接触する金属部材の腐食防止の観点から、pH値は6以上であることが好ましい。したがって、インキ組成物のpH値は、6~11であることがより好ましく、7~10であることがさらに好ましい。なお、本発明において、pH値は、HM-30R型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
【0038】
<抗菌性物質>
本発明によるインキ組成物は、抗菌性物質を含むことができる。抗菌性物質としては、フェノール、フェノキシエタノール、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、オルトフェニルフェノールまたはその塩などが挙げられ、フェノキシエタノール、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(以下、BITということがある)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、MITということがある)、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、OITということがある)、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものがより好ましい。
【0039】
<防錆剤>
本発明によるインキ組成物は、防錆剤を含むことができる。防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその誘導体、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、チオ硫酸ナトリウム、サポニン、またはジアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0040】
<キレート剤>
本発明によるインキ組成物は、キレート剤を含むことができる。キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)およびそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩またはアミン塩などが挙げられる。
【0041】
<保湿剤>
本発明によるインキ組成物は、筆跡乾燥性の効果を損なわない程度で、保湿剤を含むことができる。保湿剤としては、例えば、エチレングリコールやジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、尿素、ソルビット、N,N,N-トリアルキルアミノ酸、またはヒアルロン酸類などが挙げられる。
【0042】
また、リン酸エステル系界面活性剤や脂肪酸などの潤滑剤やアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などの各種樹脂なども、インキ物性や機能を向上させる目的で添加することができる。
【0043】
<筆記具用インキ組成物の物性>
本発明によるインキ組成物の表面張力は、20℃環境下において、30mN/m~60mN/mであることが必須である。
上述の通り、本発明のインキ組成物は、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と特定の有機溶剤を併用するとともに、インキの表面張力を特定の範囲に設定することが重要であり、これにより、浸透性を劇的に向上させながらも、ペン芯に対する濡れ性を適正に維持できるものとなり、ペン芯のくし溝間におけるインキ流入性とインキ貯留性をともに良化できる。このため、筆跡乾燥性と、耐滲み性・耐裏抜け性と、耐ボタ落ち性のすべてを満足できるようになる。
上記効果の向上を考慮すると、40mN/m~60mN/mであることがより好ましく、45mN/m~50mN/mであることがさらに好ましい。
なお、インキ組成物の表面張力は、20℃環境下において、協和界面科学株式会社製の表面張力計測器を用い、白金プレートを用いて、垂直平板法によって測定して求められる。
【0044】
また、本発明によるインキ組成物は、相対的に粘度が低いことが好ましい。
インキ組成物の粘度を抑えることで、インキ組成物の浸透性を向上することができ、筆跡乾燥性をより一層向上させることができる。このため、B型回転粘度計を用いて、回転数60rpm、20℃で測定したインキ粘度が、50mPa・s以下であることが好ましく、さらには、10mPa・s以下であることがより好ましく、2mPa・s以下であることが特に好ましい。
なお、粘度の測定は、B型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製)を用いて行うことができる。
また、上述のようにインキ粘度が抑えられ、かつ、上述のような範囲の表面張力を有するインキとすることは、ペン芯の機能をより一層効果的に働かせやすく、優れた耐ボタ落ち性とともに、優れたインキ吐出性を得ることができる。
【0045】
<インキ組成物の製造方法>
本発明によるインキ組成物は、従来知られている任意の方法により製造することができる。具体的には、前記各成分を必要量配合し、マグネチックスターラー、プロペラ攪拌機、ホモジナイザー攪拌機、ホモディスパー、ホモミキサー、遊星式撹拌機などの各種攪拌機やビーズミルなどの各種分散機などにて混合し、製造することができる。
【0046】
<筆記具>
本発明は、ペン芯を備えた筆記具に用いられるものである。ペン芯は、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するものである。このペン芯は、インキ貯蔵体の内圧が変化した場合に、余剰のインキがペン芯のくし溝間に流入、保持することで、ペン先からのインキの漏れやインキの溢れ出しを抑制し、さらに、インキの吐出性を調整し、良好な筆跡をもたらす、インキ供給機構としての機能を有する。
ペン芯は、上述のような機能を有するために、複雑な形状であることが多く、一般的には樹脂により成型される傾向にある。ただし、用いられる樹脂の種類や、成型時に用いられる金型潤滑剤などの添加剤の影響を受け、疎水性が高まり、インキ組成物との濡れ性に課題が生じる場合がある。しかし、本発明のインキ組成物は、このようなペン芯においても、良好な濡れ性を維持できることから、この点においても、本発明のインキ組成物は有用なものであるといえる。
【0047】
なお、本発明の筆記具用水性インキ組成物を充填する筆記具の構造は、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えていれば、特に限定されるものではない。
例えば、従来から汎用のものが適用でき、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップをペン先としたマーキングペン(サインペン)や、ボールペンチップなどをペン先としたボールペン、さらに、万年筆などの各種筆記具に用いることができる。
【0048】
筆記具のペン先の材質としては、ボールペンや万年筆では、超硬合金、ステンレス、金、イリジウムなどの金属や炭化珪素のなどのセラミックスが例示でき、マーキングペン(サインペン)では、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリルなどの合成樹脂が例示できる。
【0049】
本発明によるインキ組成物は、ステンレス、金メッキしたステンレス、14金、18金、22金などの金属に対しても濡れ性が良好であり、ペン先からの優れたインキ吐出性が得られ、良好な筆跡が得られる。このため、金属製のペン先を有する筆記具に好適に用いることができる。
【0050】
また、万年筆は他の筆記具に比べ、ペン先からのインキ吐出量が多い傾向にある。このため、得られる筆跡の乾燥性に課題が生じやすい。上述の通り、本発明のインキ組成物は紙面への浸透性に優れており、ゆえに、優れた筆跡乾燥性を有しているものであるから、本発明のインキ組成物を万年筆に用いることは好適であり、効果的である。
【0051】
また、本発明によるインキ組成物を用いることができる筆記具としては、インキ組成物を直に充填する構成のものであってもよく、インキ組成物を充填することのできるインキ貯蔵体を備えるものであってもよい。
【0052】
インキ貯蔵体としては、筆記具本体やペン芯などに着脱自在に交換可能であり、予めインキ組成物またはインキが充填されたカートリッジ式や、インキ瓶などのようなインキ収容体からインキ組成物またはインキを充填することが可能な吸入機構を備えたインキ吸入式、などが挙げられる。
【0053】
吸入機構は、筆記具本体内に直に設ける構成であってもよく、コンバーターのように筆記具本体やペン芯などに着脱可能に装着する構成であってもよい。
【0054】
また、本発明のインキ組成物を用いることができる筆記具は、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式筆記具や、ノック機構または回転機構、またはスライド機構を備えた、軸筒内にペン先を収容可能な出没式筆記具が挙げられる。本発明によるインキ組成物は、耐ボタ落ち性に優れていることから、インキ漏れなどに課題が生じやすい、出没式筆記具に好適に用いることができる。
【実施例0055】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
下記原材料をプロペラ撹拌により混合して、実施例1のインキ組成物を得た。
・アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤: 0.01質量%
(アセチレングリコール系界面活性剤A:エチレンオキシドが付加されたアセチレングリコール系界面活性剤)
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル: 4.0質量%
・着色剤: 10.0質量%
(黒色染料)
・トリエタノールアミン: 1.0質量%
・1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン(BIT): 0.05質量%
・水: 残部
【0057】
また、インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製、機種:DY-200)により測定したところ、48mN/mであった。
【0058】
<実施例2~13、比較例1~2>
原材料の種類および配合量を変更して、実施例2~13および比較例1~2のインキ組成物を得た。調製されたインキ組成物の組成は、表に示した通りである。
また、得られた実施例、比較例のインキ組成物の表面張力は、実施例1のインキ組成物同様、表面張力計測器により測定した。結果は表の通りである。
【0059】
また、実施例、比較例で用いた原材料は以下の通りである。なお、表中の注番号に沿って説明する。
【0060】
(1)商品名:オルフィンE1010、日信化学工業株式会社製、エチレンオキシドが付加されたアセチレングリコール系界面活性剤、EO付加モル数;10、HLB;13-14、曇点;42℃、起泡性;直後(A)17ml、5分後(B)2ml、有効成分100%
(2)商品名:オルフィンExp.4200、日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤、HLB;10-13、起泡性;直後(A)3ml、5分後(B)0ml、有効成分75%
(3)密度:1.019g/cm3、表面張力:34.3mN/m
(4)密度:0.943g/cm3、表面張力:28.1mN/m
(5)密度:0.955g/cm3、表面張力:27.9mN/m
(6)密度:1.049g/cm3、表面張力:36.4mN/m
(7)密度:0.984g/cm3、表面張力:30.0mN/m
(8)密度:1.011g/cm3、表面張力:31.8mN/m
(10)Water Black 191-L、オリヱント化学工業株式会社製、着色剤成分15%の水溶液
(11)Water Blue 9、オリヱント化学工業株式会社製、(C.I.アシッドブルー9)
(12)Water Blue 105、オリヱント化学工業株式会社製、(C.I.アシッドブルー90)
(13)食用赤 106
(14)食用黄 5
(15)Spilon Yellow WS-1、保土谷化学工業株式会社製、(C.I.アシッドイエロー23)
【0061】
また、得られた実施例4のインキ組成物の粘度をB型回転粘度計(機種:BLII、ローター:BLアダプタ、東機産業株式会社製、サンプル量20ml)により測定したところ、20℃、回転速度60rpmにおける粘度は1.3mPa・sであった。また、インキ組成物の表面張力を、表面張力計測器(20℃環境下、白金プレート、垂直平板法、協和界面科学株式会社製、機種:DY-200)により測定したところ、46mN/mであった。さらに、IM-40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃において水性インキ組成物のpHを測定した結果、pHは9.5であった。
【0062】
【0063】
【0064】
<試験および評価>
得られた実施例、比較例のインキ組成物について、以下の方法で評価を行った。
【0065】
<筆跡乾燥性>
実施例、比較例のインキ組成物を、樹脂製のインキ貯蔵体(インキ容量0.9ml)に、その開口部から0.3ml注入した。このインキ貯蔵体を、金メッキしたステンレス製の字幅Mのペン先を有し、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えたノック式の万年筆(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:キャップレス(字幅M))に装着した。この筆記具を試験用筆記具とした。試験用筆記具を、ペン先下向き状態にし、充填されたインキ組成物をペン先まで流入させ、筆記可能な状態とした。その状態で、筆記試験用紙(市販のキャンパスノートA罫(コクヨ株式会社製))上に「永」という文字(文字の大きさは縦横約1cm)を筆記し、経時時間毎にティッシュペーパーで擦過させたとき、その筆跡の周囲を汚すことがなく、良好な筆跡が得られたときを筆跡が乾燥したものとし、下記基準に従って筆跡乾燥性を評価した。筆跡乾燥性の評価基準を以下に示した。また、評価結果を表に示した。
【0066】
筆跡乾燥性の評価基準
◎◎:筆記3秒未満で、筆跡が乾燥した。
◎:筆記3秒以上、5秒未満で、筆跡が乾燥した。
○:筆記5秒以上、10秒未満で、筆跡が乾燥した。
×:筆記10秒以上、20秒未満で、筆跡が乾燥した。
【0067】
<耐滲み性・耐裏抜け性>
実施例、比較例のインキ組成物を、樹脂製のインキ貯蔵体(インキ容量0.9ml)に、その開口部から0.3ml注入した。このインキ貯蔵体を、金メッキしたステンレス製の字幅Mのペン先を有し、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えたノック式の万年筆(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:キャップレス(字幅M))に装着した。この筆記具を試験用筆記具とした。試験用筆記具を、ペン先下向き状態にし、充填されたインキ組成物をペン先まで流入させ、筆記可能な状態とした。その状態で、筆記試験用紙(市販のキャンパスノートA罫(コクヨ株式会社製))上に「永」という文字(文字の大きさは縦横約1cm)を筆記した。その得られた筆跡の状態により、下記基準に従って耐滲み性・耐裏抜け性を評価した。耐滲み性・耐裏抜け性の評価基準を以下に示した。また、評価結果を表に示した。
【0068】
耐滲み性の評価基準
○:滲みはほとんど観察されない。
△:わずかに滲みが観察されるが、実用上問題が無い。
×:滲みが認められる。
【0069】
耐裏抜け性の評価基準
○:裏抜けはほとんど観察されない。
△:わずかに裏抜けが観察されるが、実用上問題が無い。
×:裏抜けが認められる。
【0070】
<耐ボタ落ち性>
実施例、比較例のインキ組成物を、樹脂製のインキ貯蔵体(インキ容量0.9ml)に、その開口部から0.3ml注入した。このインキ貯蔵体を、金メッキしたステンレス製の字幅Mのペン先を有し、一時的にインキを貯留するくし溝とインキ流通路と空気通路を有するペン芯を備えたノック式の万年筆(株式会社パイロットコーポレーション製、商品名:キャップレス(字幅M))に装着した。この筆記具を試験用筆記具とした。この試験用筆記具を、ペン先下向き状態にし、減圧デシケータ中に静置した。この状態で、5分間でデシケータ内を大気圧との相対圧力で-70mmHgまで減圧させた。
その後、大気圧との相対圧力で-70mmHgの減圧状態を保持したまま、更に5分間、デシケータ中に試験用筆記具を放置した。減圧時および減圧状態の保持時における、試験用筆記具のペン先からのインキの漏れ出しであるボタ落ちの有無を確認し、下記基準に従って耐ボタ落ち性を評価した。耐ボタ落ち性の評価基準を以下に示した。また、評価結果を表に示した。
【0071】
耐ボタ落ち性評価の評価基準
○:ペン先からのインキ組成物のボタ落ち発生なし。
×:ペン先からのインキ組成物のボタ落ち発生あり。
【0072】
また、上記の筆跡乾燥性の評価における筆記試験用紙を、市販の万年筆用箋(株式会社パイロットコーポレーション製)を用いた以外は同様にして、実施例4と実施例13のインキ組成物で、筆跡乾燥性を再び評価したところ、実施例4のインキ組成物に比べて、実施例13のインキ組成物の方が、速く乾燥することが確認できた。
【0073】
以上より、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤と、特定の有機溶剤と、水と、着色剤を含んでなるインキ組成物であって、インキ組成物の20℃における表面張力が30mN/m~60mN/mであるインキ組成物は、筆跡乾燥性、耐滲み性・耐裏抜け性、耐ボタ落ち性に優れ、ペン芯を備えた筆記具用インキ組成物として、優れたものであることがわかった。