(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012558
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】腸内細菌叢構成比率調整剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4709 20060101AFI20230119BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230119BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230119BHJP
C07D 401/04 20060101ALN20230119BHJP
【FI】
A61K31/4709
A61P3/10
A61P3/04
C07D401/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020020398
(22)【出願日】2020-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(72)【発明者】
【氏名】関 豊和
(72)【発明者】
【氏名】中島 貴子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 千之
(72)【発明者】
【氏名】高木 裕子
(72)【発明者】
【氏名】陳 修浩
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC14
4C063DD12
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC29
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZC35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】腸内細菌叢に変化を促すことで、特に腸内ムチン層を増加させ、それにより期待される肥満、糖尿病等を治療および/または予防するための、新たな薬剤を提供する。
【解決手段】1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、腸内細菌叢を改善する医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、腸内細菌叢を改善する医薬組成物。
【請求項2】
Akkermansia属の腸内占有率を増加させることで腸内細菌叢を改善する、請求項1の医薬組成物。
【請求項3】
腸内ムチン層を増加させることで腸内細菌叢を改善する、請求項1の医薬組成物。
【請求項4】
1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、Akkermansia属の腸内占有率を増加させることで改善が期待できる疾患の治療および/または予防のための薬剤。
【請求項5】
1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、腸内ムチン層を増加させることで改善が期待できる疾患の治療および/または予防のための薬剤。
【請求項6】
疾患が肥満および/または糖尿病である、請求項4または5の薬剤。
【請求項7】
1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、肥満および/または糖尿病の治療および/または予防のための薬剤。
【請求項8】
経口剤である、請求項4~7のいずれかの薬剤。
【請求項9】
有効成分の一日投与量が0.1mg~30000mgであることを特徴とする、請求項4~8のいずれかの薬剤。
【請求項10】
治療上の有効量の1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を、治療が必要な患者に投与することを特徴とする、肥満および/または糖尿病の治療および/または予防方法。
【請求項11】
肥満および/または糖尿病の治療および/または予防するための薬剤を製造するための、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項12】
[項12]肥満および/または糖尿病の治療および/または予防するために使用する、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌叢を改善し、その改善により治療効果が期待される疾患の治療および/または予防剤、さらに詳しくは、キノロン化合物を有効成分とする肥満、糖尿病等の治療および/または予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内細菌とさまざまな疾患との関連性が報告されており、その中でもAkkermansia muciniphilaは、肥満や糖尿病との関連が研究されている。Akkermansia属は2004年に創設が提案された新しい属である(非特許文献1)。この属に所属する菌種は、ほぼ1属1種で代表種はAkkermansia muciniphilaである。この菌はグラム陰性の偏性嫌気性で、非運動性、非芽胞形成性の楕円形の真正細菌である。大きな特徴としては、名前の由来にもなっているムチン分解菌で、炭素源としてムチンを利用するとされており、培養条件にはムチン要求性があるとされている。
【0003】
糖尿病や肥満の腸ではAkkermansia muciniphilaの存在比率が低下していることが知られている。高脂肪食マウス腸内のAkkermansia muciniphilaを正常レベルまで増やすと、体重の低下、脂肪率の低下や腸粘液の層が厚くなることが報告されている(非特許文献2および3)。その他、種々の文献により、Akkermansia muciniphilaの増加は、ムチン層の肥厚化、腸管バリア機能の改善、炎症性腸疾患(非特許文献4および5)、脂肪肝、肝炎症、虫垂炎(非特許文献6)、糖尿病(非特許文献7)に有用であることが知られている。また、てんかん、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの中枢系疾患との関連が研究されている(非特許文献8および9)。
【0004】
特許文献1には、特定のキノロン系抗菌剤が開示されており、それらの抗菌剤が腸管内に生息しているClostridioides difficileに対する抗菌活性を示すことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M Derrien, M. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2004). Akkermansia muciniphila gen. nov., sp. nov., a human intestinal mucin-degrading bacterium.
【非特許文献2】lsson CL, et al. Obes (Silver Spring) (2012). The microbiota of the gut in preschool children with normal and excessive body w eight
【非特許文献3】Dao MC, et al. Gut (2016). Akkermansia muciniphila and improved metabolic health during a dietary intervention in obesity: relationship with gut microbiome richness and ecology.
【非特許文献4】Png CW, et al. Am J Gastroenterol (2010). Mucolytic bacteria with increased prevalence in IBD mucosa augment in vitro utilization of mucin by other bacteria.
【非特許文献5】Lyra A, et al. World J Gastroenterol (2012). Comparison of bacterial quantities in left and right colon biopsies and faeces.
【非特許文献6】Swidsinski A, et al. Gut (2011). Acute appendicitis is characterised by local invasion with Fusobacterium nucleatum
【非特許文献7】Zhang X, et al. PLoS One (2013). Human gut microbiota changes reveal the progression of glucose intolerance.
【非特許文献8】Christine A. Olson,; Helen E. Vuong,; Jessica M. Yano,; Qingxing Y. Liang,; David J. Nusbaum,; Elaine Y. Hsiao, et al. The Gut Microbiota Mediates the Anti-Seizure Effects of the Ketogenic Diet, Cell, 2018, 173
【非特許文献9】Eran Blacher,; Stavros Bashiardes,; Hagit Shapiro,; Daphna Rothschild,; Uria Mor,; Mally Dori-Bachash, et al. Potential roles of gut microbiome and metabolites in modulating ALS in mice. Nature, 2019, vol. 572
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、腸内細菌叢に変化を促すことで、特に腸内ムチン層を増加させ、それにより期待される肥満、糖尿病等を治療および/または予防するための、新たな薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、公知のキノロン系抗菌剤である1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸が、腸内細菌叢を改善し、特にムチン層を増加させることが知られているAkkermansia属の占有率を劇的に増加し、それにより期待される肥満、糖尿病等の治療に有効であり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[項1]1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、腸内細菌叢を改善する医薬組成物。
【0010】
[項2]Akkermansia属の腸内占有率を増加させることで腸内細菌叢を改善する、項1の医薬組成物。
【0011】
[項3]腸内ムチン層を増加させることで腸内細菌叢を改善する、項1の医薬組成物。
【0012】
[項4]1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、Akkermansia属の腸内占有率を増加させることで改善が期待できる疾患の治療および/または予防のための薬剤。
【0013】
[項5]1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、腸内ムチン層を増加させることで改善が期待できる疾患の治療および/または予防のための薬剤。
【0014】
[項6]疾患が肥満および/または糖尿病である、項4または5の薬剤。
【0015】
[項7]1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含有する、肥満および/または糖尿病の治療および/または予防のための薬剤。
【0016】
[項8]経口剤である、項4~7のいずれかの薬剤。
【0017】
[項9]有効成分の一日投与量が0.1mg~30000mgであることを特徴とする、項4~8のいずれかの薬剤。
【0018】
[項10]治療上の有効量の1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩を、治療が必要な患者に投与することを特徴とする、肥満および/または糖尿病の治療および/または予防方法。
【0019】
[項11]肥満および/または糖尿病の治療および/または予防するための薬剤を製造するための、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩の使用。
【0020】
[項12]肥満および/または糖尿病の治療および/または予防するために使用する、1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸またはその医薬的に許容される塩。
【発明の効果】
【0021】
本発明の化合物は、経口投与することで、速やかにAkkermansia属の占有率が劇的に増加し、Akkermansia muciniphilaを優勢とする腸内細菌叢が再構成され、その繁殖によりムチンが増加する。そして、これらの腸内細菌叢の改善により、本発明は肥満や糖尿病に対する治療及び予防薬として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】実施例5の体重の変化の結果を示す(** p<0.01、* p<0.05)。
【
図3】実施例5の血糖値の変化の結果を示す(** p<0.01)。
【
図4】実施例5のHbA1cの変化の結果を示す(** p<0.01、* p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明化合物の1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸は以下の式(1)の構造を有し、特許文献1において化合物番号2-18として開示され、その製造方法およびClostridioides difficileに対する抗菌活性も開示されている。
【化1】
【0024】
本発明化合物は、水和物及び/又は溶媒和物の形で存在することもあるので、これらの水和物及び/又は溶媒和物もまた本発明の化合物に包含される。
また、本発明化合物のいずれか1つ又は2つ以上の1Hを2H(D)に変換した重水素変換体も本発明化合物に包含される。
結晶として得られる本発明化合物及びその医薬的に許容される塩には、結晶多形が存在する場合があり、その結晶多形も本発明に包含される。
【0025】
「医薬的に許容される塩」とは、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、又はグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等のアミノ酸塩が挙げられ、各種の塩基と塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、又はアンモニウム塩等が挙げられる。
【0026】
本発明において、ヒトや動物の腸の内部に生息している細菌の総称が「腸内細菌叢」であり、「腸内細菌叢」とは、ヒトや動物の腸管、主に大腸に生息する約1000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が互いに密接な関係を持ち、バランスをとっている複雑な腸内の微生物生態系であり、特に本発明において「腸内細菌叢を改善」するとは、Akkermansia属の腸内占有率を増加させることが主たる改善効果であり、ここでAkkermansia属の代表種はAkkermansia muciniphilaである。Akkermansia属はムチン分解菌であり、Akkermansia属の腸内占有率の増加により、ムチン層の肥厚化、腸管バリア機能の改善などが期待でき、更に肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、脂肪肝、肝炎症、虫垂炎、糖尿病、てんかん、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、自閉症、アトピー性皮膚炎等への治療効果及び抗がん作用(PD1抗体等の免疫チェックポイント阻害剤の増強作用)等が期待される。
【0027】
本発明化合物の投与経路としては、経口投与、腸管への直接投与(注腸剤、坐剤など)などが選択されるが、好ましくは経口投与で、その一日投与量は、化合物の種類、投与方法、患者の症状・年齢等により異なる。例えば、経口投与の場合、通常、ヒト又は哺乳動物1kg体重当たり約0.02mg~500mg、好ましくは約0.01mg~200mg、より好ましくは約1mg~10mg、更に好ましくは約2mg~20mgを1~数回に分けて投与することができ、具体的には一日投与量はヒトで約0.1mg~30000mg、好ましくは約5mg~12000mg、より好ましくは約50mg~6000mg、更に好ましくは約100mg~1200mgである。
【0028】
剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、注腸剤、坐剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製することができる。なお、液体製剤にあっては、用時、水、適当な水溶液又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよい。また、錠剤及び顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。製剤は、製薬学的に許容される添加剤を用いて、公知の方法で製造される。
添加剤は、目的に応じて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、溶解剤、溶解補助剤、増粘剤、分散剤、安定化剤、甘味剤、香料等を用いることができる。具体的には、例えば、乳糖、マンニトール、リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、酸化チタン、タルク、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等が挙げられる。
【0029】
本発明の化合物が単一の製剤で調製される場合、これに限らないが、例えば本発明の化合物がその製剤の組成物全体に対して0.1~85重量%含まれ得る。好ましくは、本発明の化合物がその製剤の組成物全体に対して10~70重量%である。
【0030】
更に、本発明化合物は、その効果の増強および/または副作用の軽減等を目的として、他の薬物と併用又は組み合わせて用いることができる。
【実施例0031】
以下に本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、ここで用いた本発明化合物(以下、「被験物質」という)の入手を以下に示す。
被験物質[1-シクロプロピル-6-フルオロ-1,4-ジヒドロ-8-メチル-7-(2-アミノ-3-シアノ-5-ピリジル)-4-オキソ-3-キノリンカルボン酸]:大塚製薬株式会社より入手
【0032】
実施例1.被験物質の正常マウスの腸内細菌叢に対する影響
正常 Balb/cマウスに被験物質を21日間投与し、糞便解析をすることで腸内細菌叢への影響を検討した。
(試験方法)
Blalb/cマウスに溶媒である5% Gum Arabicもしくは被験物質 10 mg/kgを1日1回経口で投与し、7日目と21日目に糞便を回収した。回収した糞便は、バッファーとともにEZ-beads(Promega)にて破砕・ホモジナイズし、得られた上清より、MaxwellTM RSC自動核酸精製装置(Promega)を使用説明書に従い操作して、バクテリアゲノムDNAを抽出した。
得られたバクテリアゲノムDNA試料は、DropSense96(SCRUM)にて濃度測定を行い、5 ng/μLに調製した後、ribosomal RNA遺伝子のV4領域を、PCRにて濃縮し、アンプリコンを作製した。作製したアンプリコン5μL、Nextera Index 1 adapters (N7xx) 5μL、Nextera Index 2 adapters (S5xx) 5μL、2×KAPA HiFi HS ReadyMix 25μL、Nuclease free water 10μLを混合したものを反応液とし、これをサーマルサイクラーにて、95℃×3 min、(95℃×30 sec、55℃×30 sec、72℃×30 sec)を8サイクル、72℃×5 minのステップで反応させライブラリーを作製した。
得られたライブラリーをAgencourt AMPure XPにて精製したのち、DropSense96にて濃度を測定後、2100 バイオアナライザ電気泳動システム(Agilent)にて品質の確認を行った。
各サンプルのライブラリーを1 nMの濃度に調製した後等量混合し、解析用ライブラリーとした。解析用ライブラリーを、0.1 N NaOHにて変性し、一本鎖化したものを中和した後、1.5 pM程度の濃度に再調整して、次世代シークエンサーMiniSeq(Illumina)にて使用説明書に従い操作し、解析した。MiniSeq解析終了後に、自動的にシークエンサー内部で塩基配列データであるシークエンスファイル(.fastq)が作製され、このV4領域の塩基配列ファイルを用い、メタゲノム解析用専用アプリi16S Metagenomics(Illumina社)によって腸内細菌叢解析の解析を行った。
【0033】
(結果)
7日目と21日目の腸内細菌叢の解析の結果を下記の表1と表2に示す。溶媒投与による経時的な腸内細菌叢の変化は認められなかったが、被験物質を投与することにより7日後で溶媒投与群に比べて明らかな変化が認められた。被験物質投与により糞便中の腸内細菌叢におけるAkkermansia属の占有率が50%以上と顕著に増加した。投与21日後ではその割合は減少したが、溶媒投与群に比べてその割合は高値を維持していた。
【表1】
【表2】
【0034】
実施例2.被験物質の大腸炎モデルマウスの腸内菌叢に対する影響
(試験方法)
Balb/cマウス脾臓から、Naive CD4+ T Cell アイソレーションキット,マウス(Miltenyi Biotec)を用いて、ナイーブT細胞(CD4+CD62L+CD44-細胞)を分取し、免疫不全マウス(SCID マウス)の腹腔内に、500μL/body(5 x 105 cells/body)にて移植して、大腸炎モデルを作成した。細胞移植後14日目に体重を指標に群分けを実施し、溶媒である5% Gum Arabicもしくは被験物質 10 mg/kgを1日1回、21日間連続経口投与した。未処置とは細胞移植をしていないSCID マウスである。回収した糞便は、次世代シークエンサーを用いて腸内細菌叢解析を実施した。詳細な測定及び解析方法は実施例1と同様に行った。
【0035】
(結果)
21日間の腸内細菌叢の解析の結果を下記の表3~表5に示す。溶媒投与群あるいは未処置群に経時的な腸内細菌叢の大きな変化は認められなかったが、被験物質投与により明らかな変化が認められた。被験物質投与により7日目以降Akkermansia属の占有率が顕著に増加した。
【表3】
【表4】
【表5】
【0036】
実施例3.ラットにおける被験物質(100 mg/kg)1日2回投与による糞便中細菌叢の解析と糞便中ムチン量測定
Normal SDラットに媒体(5% Gum Arabic)または被験物質(100 mg/kg)を1日2回投与し、各群の糞便を経日的に採取し、糞便中細菌叢の解析とムチン量測定を行った。
(試験方法)
SDラットに溶媒である5% Gum Arabicもしくは被験物質100 mg/kgを1日2回経口で投与し、経日的にラット糞便を採取し、バッファーとともにEZ-beads(Promega)にて糞便を破砕・ホモジナイズ後、上清よりMaxwellTM RSC自動核酸精製装置(Promega)を使用説明書に従い使用し、バクテリアゲノムDNAを抽出した。
得られたバクテリアゲノムDNA試料は、DropSense96(SCRUM)にて濃度測定を行い、5 ng/μLに調製した後、ribosomal RNA遺伝子のV4領域を、PCRにて濃縮し、アンプリコンを作製した。作製したアンプリコン5μL、Nextera Index 1 adapters (N7xx) 5μL、Nextera Index 2 adapters (S5xx) 5μL、2×KAPA HiFi HS ReadyMix 25 μL、Nuclease free water 10 μLを混合したものを反応液とし、サーマルサイクラーにて、95℃×3 min、(95℃×30 sec、55℃×30 sec、72℃×30 sec)を8サイクル、72℃×5 minのステップで反応させライブラリーを作製した。
得られたライブラリーをAgencourt AMPure XPにて精製したのち、DropSense96にて濃度を測定後、2100 バイオアナライザ電気泳動システム(Agilent)にて品質の確認を行った。
各サンプルのライブラリーを1 nMの濃度に調製した後等量混合し、解析用ライブラリーとした。解析用ライブラリーを、0.1N NaOHにて変性し、一本鎖化したものを中和した後、1.5 pM程度の濃度に再調整して、次世代シークエンサーMiniSeq(Illumina)にて使用説明書に従い操作して、解析した。MiniSeq解析終了後に、自動的にシークエンサー内部で塩基配列データであるシークエンスファイル(.fastq)が作製され、このV4領域の塩基配列ファイルを用い、メタゲノム解析用専用アプリi16S Metagenomics(Illumina社)によって腸内細菌叢解析の解析を行った。
糞便中ムチン量は、経日的にラットの糞便を採取し、凍結乾燥後、FecalMucin Assay kit(コスモバイオ株式会社)を用い、測定を行った。
【0037】
(結果)
溶媒対照群および被験物質投与群の結果を下記の表6と表7に示す。
溶媒対照群の糞便中細菌叢は、多様な腸内細菌叢が確認され、0日後から7日後まで大きな変化は認められなかった。Akkermansia属の占有率は極めて低かった。
一方、被験物質(100 mg/kg)を投与することにより、一時的な腸内細菌叢の多様性・菌種の低下が認められた。1日後ではAkkermansia属の占有率が顕著に増加し、Lactobacillus属が増加し、Parabacteroides属がやや増加し、これら3菌種で90%を占有し、腸内細菌叢の多様性が低下した。3日後では、Akkermansia属の占有率がさらに増加し約40%となり、Lactobacillus属が顕著に低下し、Parabacteroides属がやや増加した。その後、7日後では、Akkermansia属の占有率がやや低下し、Parabacteroides属がやや増加し、他菌種の割合も増加し、多様性が回復している傾向が認められた。
【表6】
【表7】
【0038】
ラットでの溶媒投与群と被験物質投与群でのムチン量の変化を
図1に示す。溶媒対照群の糞便中ムチン量は、0日後から7日後まで大きな変化は認められなかった。一方、被験物質(100 mg/kg)を投与することにより、1日後から糞便中ムチン量が増加し、3日後で最大となり、7日後まで維持された。
被験物質投与によるAkkermansia属の占有率増加と、腸内ムチン量の間には有意かつ強い相関関係(r=0.52,P<0.05)があることが示された。
【0039】
実施例4.DSS誘発ラット大腸炎モデルにおける被験物質(1、3、10 mg/kg)、SASP(300mg/kg)、CPFX(500 mg/kg)1日2回投与、及びDEX(1mg/kg)1日1回投与による糞便中細菌叢の解析
Dextran sulfate sodium(DSS)をラットに経口摂取させることにより惹起したラット大腸炎モデルに、媒体(5% Gum Arabic)と被験物質(1、3、10 mg/kg)を1日2回投与し、各群の糞便を経日的に採取し、糞便中細菌叢の解析を行った。また、本件の被験物質の対照薬として、SASP (Sulfasalazine)、CPFX (Ciprofloxacin)、及びDEX (Dexamethasone)の評価も行った。
(試験方法)
ラットに3日前より給水瓶による慣らし飼育を行ったのち、群分けを行った。群分け後、3% DSS溶液を給水瓶に入れラットに自由摂取させて(摂取開始日を0日とした)、大腸炎を惹起させた。無処置群には実験期間を通じて注射用水を給水瓶に入れ自由摂取させた。群分け翌日から試験終了時まで、被験物質(1、3、10 mg/kg)または対照物質 SASP(300 mg/kg)、CPFX(500 mg/kg)、および媒体(5% Gum Arabic)を1日2回胃内ゾンデを用い経口投与を行った。対照薬 DEX(1 mg/kg)は1日1回胃内ゾンデを用い経口投与を行った。経日的にラット糞便を採取し、次世代シークエンサーを用いて腸内細菌叢を解析した。詳細な測定及び解析方法は実施例3と同様に行った。
【0040】
(結果)
各群の結果を下記の表8~表15に示す。各群で異なった糞便中細菌叢変化が認められた。無処置群の糞便中細菌叢は、多様な腸内細菌叢が確認され、0日から7日まで大きな変化は認められなかった。溶媒対照群では、Bacteroides属の占有率が経時的に増加した。一方、被験物質(1、3、10 mg/kg)投与により1日からAkkermansia属の占有率が顕著に増加した。その増加の程度は、用量依存性の傾向が認められた。対照薬投与群のSASP群とDEX群では、細菌叢変化は認められたが、Akkermansia属の占有率には大きな変化は認められなかった。CPFX群では、500 mg/kgと投与量が非常に大きいにも関わらず、7日までAkkermansia属の占有率に大きな変化は認められなかった。
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【0041】
実施例5.高脂肪食摂取による肥満モデルマウスにおける被験物質の効果
被験物質の肥満や糖尿病に対する効力を評価するために、高脂肪食摂取による肥満モデルマウスに被験物質を経口投与し血糖値及びヘモグロビンAlc(HbA1c)を評価した。
(試験方法)
C57BL/6Jマウスを体重、血糖値及びHbA1cを指標に群分けし、群分け当日から高脂肪食を摂取させ、溶媒対照、被験物質(10 mg/kg)を1日1回経口投与した。1週間に2回体重および摂餌量を量った。血糖値は、投与初日から2週間に1回尾静脈からの血液を用いて測定した。HbA1cは4週間に1回尾静脈からの血液を用いて、DCAバンテージ(シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス)によって測定した。
【0042】
(結果)
無処置マウス(通常食摂取)では、63日後までの体重増加がわずかであったが、高脂肪食の溶媒対照群では無処置群と比較して有意な体重増加が認められた(63日後、p<0.01)。高脂肪食の被験物質投与群は、溶媒対照群と比較して体重増加を有意に抑制した(63日後、p<0.05)。
血糖値に関しては、高脂肪食の溶媒対照群では無処置群と比較し、有意な血糖値の上昇が認められた(63日後、p<0.01)。高脂肪食の被験物質投与群は、溶媒対照群と比較して血糖値の上昇を有意に抑制し(63日後、p<0.01)、無処置群と同レベルであった。
HbA1cに関しても、高脂肪食の溶媒対照群では無処置群と比較し、有意なHbA1cの上昇が認められた(63日後、p<0.01)。高脂肪食の被験物質投与群は、溶媒対照群と比較してHbA1cの上昇を有意に抑制した(63日後、p<0.05)。高脂肪食の溶媒対照群と比較して、被験物質の投与により、有意な体重増加の抑制、有意な血糖値上昇の抑制、及び有意なHbA1c上昇の抑制が認められたことから、被験物質の肥満及び糖尿病に対する有用性が示唆された。