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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125593
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】熱成形シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20230831BHJP
   C09J 175/00 20060101ALI20230831BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230831BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J175/00
B32B27/00 D
B32B27/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029785
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】江頭 憲
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AH03
4F100AH03A
4F100AK03
4F100AK03A
4F100AK25
4F100AK25B
4F100AK45
4F100AK45C
4F100AK74
4F100AK74C
4F100AL02
4F100AL02A
4F100AR00C
4F100BA03
4F100BA07
4F100CB00
4F100CB00A
4F100CB00B
4F100CB03
4F100CB03B
4F100EJ37
4F100JK02
4F100JL11
4F100JL11A
4F100JL11B
4F100JL12
4F100JL12B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J004AA14
4J004AB05
4J004CB03
4J004CC03
4J004CE01
4J004DB03
4J004FA01
4J040DF021
4J040EF281
4J040JA08
4J040JB02
4J040MB16
4J040PA30
4J040PB19
(57)【要約】
【課題】加熱を伴う成形法を利用して、熱成形シートを被着体に貼り合わせたとしても、経時的な剥がれ及び切れ目の開きを低減又は防止し得る、熱成形シートの提供。
【解決手段】本開示の一実施態様の熱成形シートは、第1接着層、第2接着層、及び表面層をこの順で含み、第1接着層が、160℃未満で解離を開始するブロック剤でブロックされた非環状脂肪族イソシアネートポリマーを固形分比で65質量%以上含み、かつ、0.5マイクロメートル以上13マイクロメートル以下の厚さを有し、熱成形シートの95℃で200%延伸したときの引張強度は、3N/50mm以上240N/50mm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1接着層、第2接着層、及び表面層をこの順で含む、熱成形シートであって、
前記第1接着層が、160℃未満で解離を開始するブロック剤でブロックされた非環状脂肪族イソシアネートポリマーを固形分比で65質量%以上含み、かつ、0.5マイクロメートル以上13マイクロメートル以下の厚さを有し、
95℃で200%延伸したときの引張強度が、3N/50mm以上240N/50mm以下である、熱成形シート。
【請求項2】
前記非環状脂肪族イソシアネートポリマーは、非環状脂肪族イソシアネート化合物のポリマーを前記ブロック剤でブロックしたポリマーであって、前記非環状脂肪族イソシアネート化合物が、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、及びその変性体からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の熱成形シート。
【請求項3】
120℃で200%延伸したときの引張強度が、1N/50mm以上140N/50mm以下である、請求項1又は2に記載の熱成形シート。
【請求項4】
前記第2接着層が、感熱型接着剤層である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱成形シート。
【請求項5】
前記第2接着層の厚さが、10マイクロメートル以上140マイクロメートル以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱成形シート。
【請求項6】
前記熱成形シートを165℃±5℃に加熱し、延伸前の前記熱成形シートの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開きが1.0mm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱成形シート。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の熱成形シートが、支持部材に接着されている、物品。
【請求項8】
三次元形状を有する、請求項7に記載の物品。
【請求項9】
乗物の内装品又は外装品である、請求項7又は8に記載の物品。
【請求項10】
前記支持部材が、PC-ABS部材、及び電着塗装部材からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7~9のいずれか一項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は熱成形シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加熱を伴う成形法を利用して、加飾性などの性能を有する熱成形シートを被着体に貼り合わせる技術が知られている。
【0003】
特許文献1(特開2012-111043号公報)には、ハードコート層(A)、ベースフィルム層(B)、意匠層(C)及び接着層(D)からなる多層フィルムであって、接着層(D)は、40℃以上の融点を有し且つ200μm以下の粒子寸法を有する少なくとも1種の固体表面不活性化ポリイソシアネート(D1)、及び少なくとも1種のイソシアネート反応性ポリマー(D2)を有する、真空成形に用いられる多層加飾フィルムが記載されている。
【0004】
特許文献2(特表2018-512477号公報)には、接着層;該接着層の上部に形成された基材層;該基材層の上部に形成された印刷層;及び該印刷層の上部に形成された透明基材層を含み、接着層は、ポリウレタンポリマー及びアクリルポリマーを含み、溶融温度及び架橋温度の差が30℃ないし60℃である真空熱成形用接着剤組成物で形成されている、真空熱成形用デコレーションシートが記載されている。
【0005】
特許文献3(特開2014-031003号公報)には、接着層(A)および接着層(A)に積層される層(B)を含む少なくとも2層以上からなる加飾成型用フィルムであって、接着層(A)はオレフィン系樹脂およびNCO含有率が0.01~1.6質量部であるイソシアネート基を含んでなり、かつ、層(B)に含まれる樹脂がヒドロキシ基を有する、加熱成型される加飾成型用フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-111043号公報
【特許文献2】特表2018-512477号公報
【特許文献3】特開2014-031003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
加熱を伴う成形法(例えば、真空圧空成形法)を利用して、熱成形シートを被着体に貼り合わせると、シートは伸ばされた状態で被着体に適用される。その結果、シートが伸ばされた箇所には伸び応力がかかっているため、経時的にシートの端部から剥がれたり、或いは、シートが伸ばされた箇所が傷ついて切れ目が入ると、経時的に切れ目が開いたりするおそれがあった。
【0008】
本開示は、加熱を伴う成形法を利用して、熱成形シートを被着体に貼り合わせたとしても、経時的な剥がれ及び切れ目の開きを低減又は防止し得る、熱成形シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施態様によれば、第1接着層、第2接着層、及び表面層をこの順で含む、熱成形シートであって、第1接着層が、約160℃未満で解離を開始するブロック剤でブロックされた非環状脂肪族イソシアネートポリマーを固形分比で約65質量%以上含み、かつ、約0.5マイクロメートル以上約13マイクロメートル以下の厚さを有し、熱成形シートの95℃で200%延伸したときの引張強度が、約3N/50mm以上約240N/50mm以下である、熱成形シートが提供される。
【0010】
本開示の別の実施態様によれば、上記の熱成形シートが、支持部材に接着されている、物品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、加熱を伴う成形法を利用して、熱成形シートを被着体に貼り合わせたとしても、経時的な剥がれ及び切れ目の開きを低減又は防止し得る、熱成形シートを提供することができる。
【0012】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施態様の熱成形シートの概略断面図である。
図2】真空圧空成形(DVT、Dual Vacuum Thermoforming)法を用いて熱成形シートを支持部材に適用して物品を形成する方法を例示的に説明する図である。
図3A】実施例のDVT成形性評価における延伸前の真空圧空成形機の概略断面図である。
図3B】実施例のDVT成形性評価における支持部材(被着体)の配置位置を示す上面図である。
図3C】実施例のDVT成形性評価における延伸後の真空圧空成形機の概略断面図である。
図4】(a)は、実施例の熱収縮試験において試験片に入れた格子状の切れ目を示す写真であり、(b)は、比較例の熱収縮試験において試験片に入れた格子状の切れ目を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、必要に応じて図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
【0015】
本開示において、例えば、「第2接着層及び表面層をこの順で含む熱成形シート」における「この順で」とは、第2接着層と表面層の2つの構成要素に着目したときに、熱成形シートがこれらの構成要素をこの順番で含んでいることを意図し、これらの構成要素の間には装飾層などの他の層が介在してもよい。
【0016】
本開示において、例えば、「表面層が第2接着層の上に配置される」における「上」とは、表面層が第2接着層の上側に直接的に配置されること、又は、表面層が他の層を介して第2接着層の上側に間接的に配置されることを意図している。
【0017】
本開示において、例えば、「装飾層が表面層の下に配置される」における「下」とは、装飾層が表面層の下側に直接的に配置されること、又は、装飾層が他の層を介して表面層の下側に間接的に配置されることを意図している。
【0018】
本開示において「略」とは、製造誤差などによって生じるバラつきを含むことを意味し、±約20%程度の変動が許容されることを意図する。
【0019】
本開示において「透明」とは、JIS K 7375に準拠して測定される可視光領域(波長400nm~700nm)の平均透過率が、約80%以上をいい、望ましくは約85%以上、又は約90%以上であってよい。平均透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、約100%未満、約99%以下、又は約98%以下とすることができる。
【0020】
本開示において「半透明」とは、JIS K 7375に準拠して測定される可視光領域(波長400nm~700nm)の平均透過率が、約80%未満をいい、望ましくは約75%以下であってよく、下地等を完全に隠蔽しないことを意図する。
【0021】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0022】
本開示において「シート」には、「フィルム」と呼ばれる部材も包含される。
【0023】
以下、必要に応じて図面を参照し、本開示の熱成形シートについて説明する。
【0024】
一実施態様の熱成形シートは、第1接着層、第2接着層、及び表面層をこの順で含み、第1接着層が、約160℃未満で解離を開始するブロック剤でブロックされた非環状脂肪族イソシアネートポリマーを固形分比で約65質量%以上含み、かつ、約0.5マイクロメートル以上約13マイクロメートル以下の厚さを有している。この実施態様の熱成形シートは、95℃で200%延伸したときの引張強度が、約3N/50mm以上約240N/50mm以下である。
【0025】
図1に、一実施態様の熱成形シート10の概略断面図を示す。熱成形シート10は、剥離ライナー20上に、第1接着層16、第2接着層14、及び表面層12を含む。ここで、剥離ライナーは任意の構成要素であり、本開示の熱成形シートは、剥離ライナーを含んでいてもよく、又は含まなくてもよい。
【0026】
以下、本開示の代表的な実施態様を例示する目的で、各構成要素の詳細について一部符号を省略して説明する。
【0027】
本開示の第1接着層は、約160℃未満で解離を開始するブロック剤でブロックされた非環状脂肪族イソシアネートポリマーを固形分比で約65質量%以上含み、かつ、約0.5マイクロメートル以上約13マイクロメートル以下の厚さを有している。第1接着層は、典型的には、被着体、例えば、後述する物品の支持部材に適用される層である。本開示の第2接着層は、第1接着層とは異なり、例えば、従来の熱成形シートで使用される接着層を使用することができる。本発明者は、従来の熱成形シートで使用される接着層に上記の非環状脂肪族イソシアネートポリマーを単に配合するだけでは、被着体に適用した後の熱成形シートにおける経時的な剥がれ又は切れ目の開き(単に「口開き」と称する場合がある。)を改善することはできないが、第2接着層と上記の第1接着層とを併用すると、経時的な剥がれ及び口開きを好適に改善し得ることを見出した。かかる剥がれ及び口開きは、高温下であるとより生じやすいが、本開示の熱成形シートは、高温下における剥がれ及び口開きに対しても低減又は防止効果を発揮することができる。ここで「高温」とは、例えば、約50℃以上、約70℃以上、約90℃以上、又は約95℃以上、約120℃以下、約110℃以下、又は約100℃以下とすることができる。
【0028】
ブロック剤は、約160℃未満で解離を開始するブロック剤であれば特に制限はい。熱成形シートは、一般に、被着体に貼り合わせる前は、倉庫などに保管されている。したがって、保管時に非環状脂肪族イソシアネートポリマーの反応を進行させない保管性等の観点から、ブロック剤の解離開始温度の下限値としては、約50℃以上、約70℃以上、約90℃以上、約100℃以上、又は約110℃以上であることが好ましい。一方、熱成形時には、成形時の加熱によってブロック剤を解離させて非環状脂肪族イソシアネートポリマーの反応を進行させることが必要である。したがって、熱成形時における非環状脂肪族イソシアネートポリマーの反応進行性等の観点から、ブロック剤の解離開始温度の上限値としては、約150℃以下、約140℃以下、約140℃未満、約130℃以下、又は約120℃以下であることが好ましい。ブロック剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
ブロック剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、2-エトキシヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、イソノニルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、2-エトキシエタノール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸アミル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N-ジエチルアミノエタノール、N,N-ジブチルアミノエタノール等のアルコール類;フェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ニトロフェノール、クロロフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール等のフェノール類;α-ピロリドン、β-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム、γ-ブチロラクタム、δ-バレロラクタム等のラクタム類;アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、ジエチルケトンオキシム;シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム類;ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-フェニルピラゾール等のピラゾール類;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ベンゼンチオール等のメルカプタン類;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステル、マロン酸ジニトリル、アセチルアセトン、メチレンジスルホン、ジベンゾイルメタン、ジピバロイルメタン、アセトンジカルボン酸ジエステル等の活性メチレン系化合物類;ジブチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール等のアミン類;イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール類;メチレンイミン、エチレンイミン、ポリエチレンイミン、プロピレンイミン等のイミン類;アセトアニリド、(メタ)アクリルアミド、酢酸アミド、ダイマー酸アミド等の酸アミド類;コハク酸イミド、マレイン酸イミド、フタル酸イミド等の酸イミド類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素化合物類を挙げることができる。なかでも、保管性及び熱成形時における非環状脂肪族イソシアネートポリマーの反応進行性等の観点から、メチルエチルケトンオキシム、3,5-ジメチルピラゾール、及びマロン酸ジエチルが好ましく、3,5-ジメチルピラゾールがより好ましい。
【0030】
本開示の非環状脂肪族イソシアネートポリマーは、非環状脂肪族イソシアネート化合物のポリマーを上述したブロック剤でブロックしたポリマーである。非環状脂肪族イソシアネートポリマーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0031】
非環状脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネ-ト、リジンジイソシアネート、及びこれらの変性体(例えば、イソシアヌレート体、ビウレット体、トリマー(三量体)、エチレングリコールアダクト体、プロピレングリコールアダクト体、トリメチロールプロパンアダクト体、エタノールアミンアダクト体、アロファネート体、ウレトジオン体、ポリエステルポリオールアダクト体、ポリエーテルポリオールアダクト体、ポリアミドアダクト体、ポリアミンアダクト体)を挙げることができる。なかでも、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)、耐口開き性等の観点から、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(単に「ヘキサメチレンジイソシアネート」又は「HDI」と称する場合がある。)、及びその変性体(例えば、ビウレット体、トリマー(三量体)、トリメチロールプロパンアダクト体、アロファネート体、ウレトジオン体)からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。非環状脂肪族イソシアネート化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0032】
本開示の第1接着層は、約160℃未満で解離を開始するブロック剤でブロックされた非環状脂肪族イソシアネートポリマーを固形分比で約65質量%以上含んでいる。被着体に対する接着力(剥がれ防止性)、耐口開き性等の観点から、第1接着層中のかかるポリマーの配合量は、固形分比で、約70質量%以上、約75質量%以上、約80質量%以上、約85質量%以上、約90質量%以上、又は約95質量%以上であることが好ましい。第1接着層中におけるかかるポリマーの配合量の上限値としては特に制限はなく、約100質量%以下又は約100質量%未満とすることができる。
【0033】
本開示の第1接着層は、約0.5マイクロメートル以上約13マイクロメートル以下の厚さを有している。第1接着層の厚さがこのような範囲であると、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性に優れるとともに、気泡等に伴う外観不良も低減又は防止することができる。第2接着層を使用せずに第1接着層のみとした構成の場合、約13マイクロメートル以下の厚さの第1接着層では被着体に対して良好な接着力が得られないおそれがあったり、或いは、約13マイクロメートル超の厚さの第1接着層では、ブロック剤の解離に伴うガスの発生割合が増加する結果、発生したガスに伴う気泡等の外観不良が発生するおそれがあったりする。本開示の熱成形シートは、接着層を、特定の第1接着層を使用する二層構成の接着層とすることで、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性を向上させつつ、気泡等の外観不良を低減又は防止することができる。
【0034】
第1接着層の厚さは、約0.7マイクロメートル以上、約1.0マイクロメートル以上、約2.0マイクロメートル以上、約3.0マイクロメートル以上、約4.0マイクロメートル以上、又は約5.0マイクロメートル以上とすることができ、約12マイクロメートル以下、約11マイクロメートル以下、約10マイクロメートル以下、約9.0マイクロメートル以下、又は約8.0マイクロメートル以下とすることができる。
【0035】
ここで、本開示における接着層の厚みは、例えば、特開2018-004789号公報に記載される断面測定法を用いて測定することができる。具体的には、積層構成の熱成形シートをエポキシ樹脂で包埋して、試料片を用意する。この試料片を、ミクロトームを用いて厚み5マイクロメートルにスライスする。その後、スライスにより現れた断面を、顕微鏡を用いて観察することで、熱成形シートに含まれる各層の厚みを測定することができる。
【0036】
本開示の第1接着層は、任意成分として、例えば、粘着付与樹脂、架橋剤、導電性フィラー、熱伝導性フィラー等のフィラー(充填剤)、シランカップリング剤、可塑剤、増粘剤、顔料、染料、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定化剤等を配合することができる。かかる任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0037】
第1接着層は、非環状脂肪族イソシアネートポリマー及び溶媒、並びに必要に応じて上記の任意成分を含む第1接着剤組成物を用いて形成することができる。具体的には、第2接着層の上に第1接着剤組成物を塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより、第1接着層を形成することができる。あるいは、別の剥離ライナー上に第1接着剤組成物を塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより第1接着層を形成し、第2接着層の上に第1接着層を熱ラミネートすることもできる。例えば、第1接着層は、第1接着剤組成物を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって第2接着層又は剥離ライナーに塗布し、必要に応じて加熱して乾燥、固化又は硬化させることにより形成することができる。剥離ライナーは、シリコーンなどにより剥離処理された表面を有してもよい。
【0038】
第1接着層は、一般に平坦な接着面を形成するが、凹凸接着面を形成してもよい。この凹凸接着面には、第1接着層の接着面に、接着剤を含む凸部と、その凸部の周りを取り囲んだ凹部とが形成され、被着体に接着された状態で被着体表面と接着面との間に凹部が画する外部と連通した連通路が形成される接着面を含む。凹凸接着面を形成する方法の一例を以下説明する。
【0039】
所定の凹凸構造を有する剥離面を持つ剥離ライナーを用意する。この剥離ライナーの剥離面に、第1接着剤組成物を塗布し、必要に応じて加熱して、第1接着層を形成する。これにより、第1接着層の剥離ライナーと接する面(これが熱成形シートにおける接着面となる。)に、剥離ライナーの凹凸構造(ネガ構造)を転写し、接着面に所定の構造(ポジ構造)を有する凹凸接着面を形成する。接着面の凹凸は、前述したように、被着体に凸部が接着した際に連通路が形成可能な溝を含むように予め設計される。かかる凹凸は、第1接着層のみに形成されてもよく、或いは、第1接着層から後述する第2接着層にわたって形成されていてもよい。
【0040】
第1接着層の溝は、熱成形法(例えばDVT法)により熱成形シートを被着体である支持部材に貼り付ける際に気泡残りを防止できる限り、一定形状の溝を規則的パターンに沿って接着面に配置して規則的パターンの溝を形成してもよく、不定形の溝を配置し不規則なパターンの溝を形成してもよい。複数の溝が互いに略平行に配置されるように形成される場合、溝の配置間隔は約10~約2,000マイクロメートルであることが好ましい。溝の深さは、通常約10マイクロメートル以上、約100マイクロメートル以下である。溝の深さとは、接着面から熱成形シートの厚さ方向に向かって測定した溝の底までの距離を意図する。溝の底は、熱成形シートのいずれの箇所に存在していてもよく、例えば、第1接着層内に存在していてもよく、第1接着層を越えて第2接着層内に存在していてもよく、或いは、第1接着層及び第2接着層を越えて第2接着層上に配置される他の層(例えば、装飾層、表面層)内に存在していてもよい。気泡残りの防止性の観点から、溝の底は、第1接着層内又は第2接着層内に存在することが好ましく、第2接着層内に存在することがより好ましい。溝の形状も、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。例えば、溝の形状を、接着面に垂直な方向の溝の断面において、略矩形(台形を含む)、略半円形、又は略半楕円形とすることができる。
【0041】
本開示の熱成形シートは、第2接着層を含む。第2接着層は、第1接着層及び表面層に対し、直接的に適用されてもよく、又は他の層(例えば装飾層)を介して間接的に適用されてもよい。他の層は、第2接着層の全面に適用されてもよく、又は部分的に適用されてもよい。被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性の観点から、第2接着層は、第1接着層に対して、直接的に適用されていることが好ましい。
【0042】
第2接着層の材料としては特に制限はなく、例えば、一般に使用される、(メタ)アクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。感圧型接着剤及び感熱型接着剤も、架橋剤によって熱架橋又は放射線(例えば電子線ビーム又は紫外線)で架橋されたものでもよい。
【0043】
かかる材料のなかでも、被着体への貼り合わせの容易性等の観点から、感圧型接着剤及び感熱型接着剤が好ましく、また、例えば真空成形又は真空圧空成形時の赤外線ヒーターなどの熱を利用できる観点から感熱型接着剤がより好ましい。本開示において「感圧型接着剤」とは、室温(例えば約20℃)で恒久的に粘着性であり、軽い圧力で様々な表面に接着し、相変化(液体から固体へ)を呈さない接着剤を指す。本開示において「感熱型接着剤」とは、室温では粘着性(タック)を示さないが、高温ではタックを示す材料を指し、熱活性化接着剤及びホットメルト接着剤を包含する。熱活性化接着剤は、ディレイドタック感熱型接着剤とも呼ばれ、加熱により活性化してタックが生じ、熱源を取り除いた後でもタックがしばらくの時間持続するものである。ホットメルト接着剤は、加熱により溶融又は軟化してタックが生じ、熱源を取り除くと急速に固化してタックを失うものである。一般に、感熱型接着剤は、室温より高いガラス転移温度(Tg)又は融点(Tm)を有する。温度がTg又はTmより高い場合に、感熱型接着剤の貯蔵弾性率が低下して感熱型接着剤はタックを示す。感熱型接着剤のTg及びTmは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される。
【0044】
感圧型接着剤の材料としては特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー、天然ゴム、合成ゴム、ポリエステル系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、シリコーン系ポリマー、又は他のポリマーを使用することができる。なかでも、(メタ)アクリル系ポリマーの感圧型接着剤は、透明性、耐候性、接着性に優れているので好ましい。
【0045】
感熱型接着剤の材料としては特に制限はないが、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性の観点から、(メタ)アクリル系感熱型接着剤、ポリウレタン系感熱型接着剤が好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル系感熱型接着剤として、例えば、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(以下、総称して単に「(メタ)アクリル系ポリマー」ともいう。)を含む熱可塑性樹脂(以下、「アクリルブレンド熱可塑性樹脂」ともいう。)を挙げることができる。かかる熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
アクリルブレンド熱可塑性樹脂は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのポリマーブレンドを含む。カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの非共有結合的な相互作用は、第2接着層に伸び特性と強度を付与する。その結果、熱成形シートは、DVT法等に適した高い延伸性、例えば延伸前の熱成形シートの面積を100%としたときに面積比で200%以上の延伸を可能にする延伸性を有する。また、熱成形シートは、延伸及び接着後、高温環境下に長時間置かれた後でも、破断及び剥離せずに接着状態を維持し、かつ塗装色等の外観を維持することができる。カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーとカルボキシ基含有不飽和モノマーとを共重合することにより得ることができる。アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーとアミノ基含有不飽和モノマーとを共重合することにより得ることができる。
【0048】
モノエチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリル系ポリマーの主成分となるものであって、一般には式CH=CRCOOR(式中、Rは水素又はメチル基であり、Rは直鎖、分岐状、又は環状のアルキル基、フェニル基、アルコキシアルキル基、フェノキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、又は環状エーテル基である)で表されるアクリレートに加えて、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニルなどのビニルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリルも含まれる。式CH=CRCOORで表されるモノエチレン性不飽和モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレートなどの直鎖アルキル(メタ)アクリレート;イソアミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートなどの分岐状アルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート;メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシブチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;及びグリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどの環状エーテル含有(メタ)アクリレートを挙げることができる。モノエチレン性不飽和モノマーとして、例えば所望のガラス転移温度、引張強さ、伸び特性などを得る目的で、1種又は2種以上のモノエチレン性不飽和モノマーを使用することができる。
【0049】
カルボキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸;ω-カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、及び2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸が挙げられる。カルボキシ基含有不飽和モノマーとして、必要に応じて、1種又は2種以上のカルボキシ基含有不飽和モノマーを使用することができる。
【0050】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、モノエチレン性不飽和モノマーを約85質量部以上、約90質量部以上、又は約92質量部以上、約99.5質量部以下、約99質量部以下、又は約98質量部以下と、カルボキシ基含有モノエチレン性不飽和モノマーを約0.5質量部以上、約1質量部以上、又は約2質量部以上、約15質量部以下、約10質量部以下、又は約8質量部以下の量で用いて共重合することにより得ることができる。
【0051】
アミノ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)などのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドなどのジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルアミノエチルビニルエーテル、N,N-ジエチルアミノエチルビニルエーテルなどのジアルキルアミノアルキルビニルエーテル;及びビニルイミダゾールなどの含窒素複素環を有するビニルモノマーなどの3級アミノ基を有するモノマーが挙げられる。アミノ基含有不飽和モノマーとして、必要に応じて、1種又は2種以上のアミノ基含有不飽和モノマーを使用することができる。
【0052】
アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーは、例えば、モノエチレン性不飽和モノマーを約80質量部以上、約85質量部以上、又は約90質量部以上、約99.5質量部以下、約99質量部以下、又は約97質量部以下と、アミノ基含有不飽和モノマーを約0.5質量部以上、約1質量部以上、又は約3質量部以上、約20質量部以下、約15質量部以下、又は約10質量部以下の割合で共重合することにより得ることができる。
【0053】
共重合は、ラジカル重合により行なうことが好ましく、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの公知の重合方法を用いることができる。開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどの有機過酸化物、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(AVN)などのアゾ系重合開始剤を用いることができる。開始剤の使用量は、モノマー混合物100質量部に対して、一般に約0.01質量部以上、又は約0.05質量部以上、約5質量部以下、又は約3質量部以下である。
【0054】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの一方のガラス転移温度が0℃以上であり、かつ他方のガラス転移温度が0℃以下又は0℃未満であることが好ましい。言い換えると、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのTgを0℃以上とした場合には、アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのTgは0℃以下又は0℃未満であり、前者のTgを0℃以下とした場合には後者のTgを0℃以上又は0℃超である。いかなる理論に拘束されることを望む訳ではないが、高いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーは第2接着層に高い引張強さを付与し、低いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーは第2接着層の伸び特性を良好にすると考えられている。いくつかの実施態様では、高いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーのTgは約5℃以上、約20℃以上、又は約40℃以上であり、低いTgを有する(メタ)アクリル系ポリマーのTgは約-5℃以下、約-20℃以下、又は約-40℃以下である。
【0055】
例えば、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルメタクリレート(BMA)など、単体で重合したホモポリマーが0℃以上のTgを有する(メタ)アクリル系モノマーを主成分として共重合させることにより、Tgが0℃以上の(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0056】
例えば、エチルアクリレート(EA)、n-ブチルアクリレート(BA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)など、単体で重合したホモポリマーが0℃以下のTgを有する成分を主成分として共重合させることにより、Tgが0℃以下の(メタ)アクリル系ポリマーを得ることができる。
【0057】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、各ポリマーがn種類のモノマーから共重合されているとして、下記のFOXの式(Fox, T. G., Bull. Am. Phys. Soc., 1 (1956), p. 123)
【数1】
を用いて計算ガラス転移温度として求めることができる。式中、Tgは成分iのホモポリマーのガラス転移温度(℃)、Xは重合の際に添加した成分iのモノマーの質量分率をそれぞれ示し、iは1~nの自然数であり、
【数2】
である。
【0058】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー又はアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーが、重量平均分子量の異なる2種類以上の(メタ)アクリル系ポリマーのブレンドである場合、ブレンドのTgは動的粘弾性測定によって決定することができる。具体的には、(メタ)アクリル系ポリマーのブレンドの溶液を剥離ライナーの上に塗布し、乾燥して得られたフィルム(厚さ約50μm)を試験片として、動的粘弾性スペクトルメータ(TA Instruments社製、型番:RSAIII)を用いて、温度範囲-20~160℃、Temp ramp mode、周波数10Hzの条件で、損失正接(tanδ)を測定し、この損失正接の測定値からポリマーブレンドのTgを求めることができる。
【0059】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、約1,000以上、約5,000以上、又は約10,000以上、約2,000,000以下、約1,500,000以下、又は約1,000,000以下とすることができる。本開示における重量平均分子量は、GPC法による標準ポリスチレンで換算した値を意味する。
【0060】
一実施態様では、ガラス転移温度が0℃以下又は0℃未満の(メタ)アクリル系ポリマー(低Tg(メタ)アクリル系ポリマー)の重量平均分子量は、約100,000以上、約150,000以上、又は約200,000以上、約2,000,000以下、約1,500,000以下、又は約1,000,000以下である。
【0061】
一実施態様では、ガラス転移温度が0℃以上又は0℃超の(メタ)アクリル系ポリマー(高Tg(メタ)アクリル系ポリマー)の重量平均分子量は、約1,000以上、約5,000以上、又は約10,000以上、約200,000以下、約180,000以下、又は約150,000以下である。
【0062】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとの配合比を変化させることにより、所望の引張強さ及び伸び特性を熱成形シートに付与することができる。一実施態様では、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーのうち高Tg(メタ)アクリル系ポリマーと低Tg(メタ)アクリル系ポリマーの配合比は、高Tg(メタ)アクリル系ポリマーを100質量部としたときに、低Tg(メタ)アクリル系ポリマーが約10質量部以上、約20質量部以上、約50質量部以上、又は約80質量部以上、約900質量部以下、約500質量部以下、約200質量部以下、又は約150質量部以下である。
【0063】
アクリルブレンド熱可塑性樹脂中のカルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの合計含有量は、一般に約25質量%以上、約35質量%以上、又は約45質量%以上、100質量%以下、約90質量%以下、又は約80質量%以下である。
【0064】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー同士、又はカルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーとを架橋させることが好ましい。これらの架橋により網目構造が形成され、熱成形シートの強度及び伸び特性がさらに向上する。カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマーの架橋剤としては、例えば、エポキシ架橋剤、ビスアミド架橋剤、アジリジン架橋剤、及びカルボジイミド架橋剤が挙げられる。架橋剤として、必要に応じて、1種又は2種以上の架橋剤を使用することができる。
【0065】
エポキシ架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)(製品名TETRAD-X(三菱ガス化学株式会社、日本国東京都千代田区)、E-AX、E-5XM(綜研化学株式会社、日本国東京都豊島区));及びN,N’-(シクロヘキサン-1,3-ジイルビスメチレン)ビス(ジグリシジルアミン)(製品名TETRAD-C(三菱ガス化学株式会社、日本国東京都千代田区)、E-5C(綜研化学株式会社、日本国東京都豊島区))が挙げられる。ビスアミド架橋剤として、例えば、1,1’-(1,3-フェニレンジカルボニル)ビス(2-メチルアジリジン)、1,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ベンゼン、4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、1,8-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)オクタンなどが挙げられる。アジリジン架橋剤としては、例えば、ケミタイトPZ33(株式会社日本触媒、日本国大阪府大阪市)、及びNeoCryl CX-100(DSM Coating Resins,LLC.、オランダ国オーファーアイセル州ズヴォレ)が挙げられる。カルボジイミド架橋剤としては、例えば、カルボジライトV-03、V-05、及びV-07(日清紡ケミカル株式会社、日本国東京都中央区)が挙げられる。
【0066】
架橋剤の添加量は、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー100質量部に対して約0.01質量部以上、約0.05質量部以上、又は約0.1質量部以上、約5質量部以下、約3質量部以下、又は約2質量部以下とすることができる。
【0067】
ポリウレタン系感熱型接着剤は、ポリオールとポリイソシアネートとの反応物であるポリウレタンを含む。ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの高分子量ポリオール、及びエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、メチルペンタンジオールアジペート、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの炭素原子数2~20の低分子ポリオールが挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、トランス及び/又はシス-1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;及びそれらのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、カルボジイミド変性体又はアダクト変性体が挙げられる。ポリオール又はポリイソシアネートとして、1種又は2種以上のポリオール又はポリイソシアネートを使用することができる。
【0068】
ポリウレタン系感熱型接着剤は、直鎖ポリウレタンを含むことが好ましい。ポリウレタンは水酸基を有していてもよい。水酸基を有するポリウレタンは、ポリオールとポリイソシアネートとを、NCO/OH比(ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数/ポリオールの水酸基のモル数)が1未満となるように、すなわち水酸基が過剰となるように反応させることにより得ることができる。
【0069】
熱成形シートの熱収縮を抑制する観点から、ポリウレタン系感熱型接着剤は架橋されていることが好ましい。架橋ポリウレタン系感熱型接着剤は、水酸基を有するポリウレタンと、架橋剤として上記ポリイソシアネートとを反応させることにより形成することができる。上記ポリイソシアネートの過剰のイソシアナト基も空気中その他に含まれる水分と反応して架橋に寄与する。水酸基を有するポリウレタンと架橋剤であるポリイソシアネートのNCO/OH比(ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数/水酸基を有するポリウレタンの水酸基のモル数)は、例えば、約0.5以上、約1以上、又は約2以上、約10以下、約8以下、又は約6以下とすることができる。
【0070】
架橋前のポリウレタン系感熱型接着剤の融点(Tm)は、約30℃以上、約35℃以上、又は約40℃以上、約80℃以下、約65℃以下、又は約50℃以下とすることができる。ポリウレタン系感熱型接着剤の融点(Tm)は、示差走査熱量計を用いて測定される値である。
【0071】
第2接着層は、粘着付与剤を更に含んでもよい。粘着付与剤としては、例えば、ロジン誘導体、テルペン樹脂系、石油樹脂系、フェノール樹脂系、及びキシレン樹脂系の粘着付与剤が挙げられる。
【0072】
熱活性化型の感熱型接着剤層は、固体可塑剤を更に含んでもよい。固体可塑剤は、常温で固体であり、その融点以上に加熱すると溶融して、例えば、ポリウレタン、粘着付与剤などを膨潤又は溶解させることができる。これにより、高温時に感熱型接着剤層のタックが増強される。一方、固体可塑剤は一旦溶融すると、温度が融点未満に下がっても結晶化の進行が遅いため、熱活性化により生じたタックを長時間にわたり維持することができる。固体可塑剤としては、例えば、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヒドロアビエチル、イソフタル酸ジメチル、安息香酸スクロース、ジ安息香酸エチレングリコール、トリ安息香酸トリメチロールエタン、トリ安息香酸グリセリド、オクタ酢酸スクロース、クエン酸トリシクロヘキシル、及びN-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミドが挙げられる。
【0073】
第2接着層は、この他、任意成分として、例えば、ベンゾトリアゾールなどの紫外線吸収剤、ヒンダードアミンなどの光安定剤、フェノール系酸化防止剤などの酸化防止剤、シランカップリング剤、架橋剤、導電性フィラー、熱伝導性フィラー等のフィラー(充填剤)、上記以外の可塑剤、増粘剤、顔料、染料、難燃剤、安定化剤などを含んでもよい。
【0074】
第2接着層の厚さは様々であってよいが、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性の観点から、約10マイクロメートル以上、約15マイクロメートル以上、約20マイクロメートル以上、約25マイクロメートル以上、約30マイクロメートル以上、又は約35マイクロメートル以上であることが好ましく、約140マイクロメートル以下、約130マイクロメートル以下、約120マイクロメートル以下、約110マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、又は約90マイクロメートル以下であることが好ましい。
【0075】
第2接着層は、例えば、カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー及びアミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマーと、又はポリウレタンと、必要に応じて溶媒及び/又は架橋剤を含む第2接着剤組成物を用いて形成することができる。具体的には、第2接着剤組成物を、表面層又は剥離処理PETフィルムなどの剥離ライナーに塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより、表面層又は剥離ライナー上に第2接着層を形成することができる。あるいは、剥離ライナー上に形成した第1接着層の上に第2接着剤組成物を塗布し、乾燥、固化又は硬化させることにより、第2接着層を形成することもできる。塗布装置として、通常のコータ、例えば、バーコータ、ナイフコータ、ロールコータ、ダイコータなどを用いることができる。乾燥、固化又は硬化は、揮発性溶媒を含む第2接着剤組成物の乾燥、溶融した樹脂成分の冷却などによって行うことができる。第2接着層は、溶融押出によっても形成することができる。
【0076】
第2接着層は、一般に平坦な接着面を有するが、例えば、上述した第1接着面の凹凸接着面に対応する凹凸面を有していてもよい。このような第2接着層の凹凸面は、例えば、第1接着層と同様に、所定の凹凸構造を有する剥離面を持つ剥離ライナーを用いて得ることができる。例えば、第1接着層の厚さよりも大きい凹凸構造を有する剥離面を持つ剥離ライナーを用意し、この剥離ライナーの剥離面に、第1接着剤組成物を塗布し、必要に応じて加熱して、第1接着層を形成する。次いで、剥離ライナーの凹凸構造が残存している第1接着層上に、第2接着剤組成物を塗布し、必要に応じて加熱して、第2接着層を形成する。これにより、第2接着層の第1接着層と接する面に、剥離ライナーの凹凸構造(ネガ構造)が転写され、第2接着層に所定の構造(ポジ構造)を有する凹凸面が形成される。
【0077】
本開示の熱成形シートは表面層を含む。表面層の材料としては特に制限はなく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及び(メタ)アクリル共重合体を含む(メタ)アクリル樹脂、ウレタン結合を有する樹脂(例えばポリウレタン)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA/PVDF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体(THV)などのフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ナイロン等のポリアミド、エチレン/アクリル酸共重合体(EAA)及びそのアイオノマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)などの共重合体を、単独で又は二種以上ブレンドして使用することができる。表面層は多層構造であってもよい。例えば、表面層は、上記樹脂から形成されたフィルムの積層体であってもよく、上記樹脂の多層コーティングであってもよい。表面層はその表面の全面又は一部にエンボスパターンなどの3次元凹凸形状を有してもよい。ここで、本開示において「ウレタン結合を有する樹脂」とは、ウレタン樹脂の他、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート及びウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーから選択される少なくとも一種を用いて調製した樹脂なども包含することができ、ウレタン樹脂には、(メタ)アクリルウレタン樹脂なども包含することができる。
【0078】
表面層は、直接又は接合層等を介して第2接着層に樹脂組成物をコーティングして形成することができる。表面層のコーティングは、熱成形シートを被着体(例えば後述する支持部材)に適用する前又は適用した後に実施することができる。あるいは、剥離ライナーに樹脂組成物をコーティングして表面層フィルムを形成し、直接又は接合層等を介して第2接着層にそのフィルムをラミネートすることもできる。表面層フィルムは、例えば、硬化性(メタ)アクリル樹脂組成物、反応性ポリウレタン組成物などの樹脂材料を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって剥離ライナーなどにコーティングし、必要に応じて光又は加熱硬化することによって、形成することができる。
【0079】
表面層として、押出、延伸などによってあらかじめフィルム状に形成されたものを使用してもよい。このようなフィルムは直接又は接合層等を介して第2接着層にラミネートすることができる。かかるフィルムとして、平坦性の高いフィルムを使用することで、より表面平坦性の高い外観を物品(構造物)に与えることができる。表面層は、他の層と多層押し出しすることによって形成することもできる。他の層として、例えば、(メタ)アクリルフィルムを使用することができる。(メタ)アクリルフィルムとして、例えば、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリアクリル酸ブチル、(メタ)アクリル共重合体、エチレン/アクリル共重合体、エチレン酢酸ビニル/アクリル共重合体などを含む樹脂をフィルム状にして用いることができる。(メタ)アクリルフィルムは、透明性及び/又は耐擦傷性に優れ、熱及び/又は光に強く、退色及び/又は光沢変化が生じにくい。加えて、可塑剤を使用せずとも成形加工性に優れており、また、可塑剤を使用しなくてもよいため、耐汚染性にも優れている。なかでもPMMAを主成分とするものが好ましい。例えば、他の層として耐擦傷性等に優れる(メタ)アクリル樹脂を用い、表面層として耐薬品性等に優れるETFE、PVDF、PMMA/PVDFなどのフッ素樹脂を用いた場合には、形成される表面層は、両層の性能を兼ね備えたものとなり得る。
【0080】
本開示の表面層は、用途に応じた性能(例えば保護性能)等を阻害しない範囲において、任意成分として、例えば、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、ハードコート材、光沢付与剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒、顔料、染料などを含むことができる。なかでも、ベンゾトリアゾール、Tinuvin(商標)400(BASF社製)などの紫外線吸収剤、Tinuvin(商標)292(BASF社製)などのヒンダードアミン光安定化剤(HALS)などを用いることによって、下層に位置する層の、変色、退色、劣化などを有効に防止することができる。ハードコート材は、表面層中に含まれていてもよく、表面層上に別途コーティングしてハードコート層として適用されていてもよい。
【0081】
表面層は、透明、半透明又は不透明であってもよい。熱成形シートに装飾層が含まれる場合には、表面層は、部分的に半透明又は不透明であってもよいが、装飾層の視認性等の観点から、透明であることが好ましい。
【0082】
表面層の厚さは様々であってよいが、例えば、約1マイクロメートル以上、約5マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、約20マイクロメートル以上、又は約30マイクロメートル以上であってもよく、約200マイクロメートル以下、約200マイクロメートル未満、約180マイクロメートル以下、約150マイクロメートル以下、約130マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、又は約80マイクロメートル以下であってもよい。耐口開き性の観点から、表面層の厚さは、約200マイクロメートル未満、又は約180マイクロメートル以下であることが好ましい。複雑な形状の支持部材に対して熱成形シートを適用する場合、表面層は薄い方が形状追従性の観点から有利であり、例えば、約100マイクロメートル以下、又は約80マイクロメートル以下であることが好ましい。一方、物品に対して高い耐薬品性、耐候性、耐擦傷性等の性能を付与する場合、表面層は厚い方が有利であり、例えば、約5マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、約20マイクロメートル以上、又は約30マイクロメートル以上であることが好ましい。
【0083】
本開示の熱成形シートは、任意に追加の層を含んでもよい。かかる追加の層としては、例えば、装飾層(例えばカラー層、パターン層、レリーフ層)、接合層、中間フィルム層、及び剥離ライナーからなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。追加の層は、熱成形シートの全面に又は一部に適用することができる。追加の層は、その表面にエンボスパターンなどの3次元形状を有してもよい。
【0084】
追加の層は、任意成分として、例えば、粘着付与樹脂、架橋剤、導電性フィラー、熱伝導性フィラー等のフィラー(充填剤)、シランカップリング剤、可塑剤、増粘剤、顔料、染料、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、安定化剤、分散剤、フロー向上剤、界面活性剤、触媒等を配合することができる。かかる任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0085】
装飾層としては、次のものに限定されないが、塗装色、例えば、白、黄等の淡色、赤、茶、緑、青、グレー、黒などの濃色を呈するカラー層、木目、石目、幾何学模様、皮革模様などの模様、ロゴ、絵柄などを物品に付与するパターン層、表面に凹凸形状が設けられたレリーフ(浮き彫り模様)層、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0086】
装飾層は、次のものに限定されないが、熱成形シートを構成する層、例えば、表面層、第1接着層、第2接着層等の全面又は一部に、直接又は接合層等を介して適用することができる。
【0087】
カラー層の材料としては、次のものに限定されないが、例えば、カーボンブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、赤色酸化鉄などの無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アゾレーキ系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドンレッドなどのキナクリドン系顔料などの有機顔料などの顔料が、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン結合を有する樹脂などのバインダー樹脂に分散された材料を使用することができる。なかでも、耐衝撃性等の観点から、ウレタン結合を有する樹脂が好ましい。
【0088】
カラー層は、このような材料を用い、例えば、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコートなどのコーティング法により形成することができる。
【0089】
パターン層としては、次のものに限定されないが、例えば、模様、ロゴ、絵柄などのパターンを、グラビアダイレクト印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷、レーザー印刷、スクリーン印刷などの印刷法を用いて、表面層、第1接着層、第2接着層等に直接適用したものを採用してもよく、或いは、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコートなどのコーティング、打ち抜き、エッチングなどにより形成された模様、ロゴ、絵柄などを有するフィルム、シートなどを使用することもできる。パターン層の材料としては、例えば、カラー層で使用した材料と同様の材料を使用することができる。
【0090】
レリーフ層として、従来公知の方法、例えば、エンボス加工、スクラッチ加工、レーザー加工、ドライエッチング加工、又は熱プレス加工などによる凹凸形状を表面に有する熱可塑性樹脂フィルムを使用することができる。凹凸形状を有する剥離ライナーに硬化性(メタ)アクリル樹脂などの熱硬化性又は放射線硬化性樹脂を塗布し、加熱又は放射線照射により硬化させて、剥離ライナーを取り除くことによりレリーフ層を形成することもできる。
【0091】
レリーフ層に用いられる熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び放射線硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂、PET、PENなどのポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル、ウレタン結合を有する樹脂などを使用することができる。なかでも、耐衝撃性等の観点から、ウレタン結合を有する樹脂が好ましい。レリーフ層は、カラー層で使用される顔料の少なくとも1種を含んでもよい。
【0092】
装飾層の厚さとしては、要する装飾性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、約1.0マイクロメートル以上、約3.0マイクロメートル以上、又は約5.0マイクロメートル以上とすることができ、約50マイクロメートル以下、約40マイクロメートル以下、又は約30マイクロメートル以下とすることができる。
【0093】
本開示の熱成形シートは、熱成形シートを構成する各層を接合するために接合層(「プライマー層」などと呼ばれる場合もある。)を用いることができる。一実施態様では、熱成形シートは、表面層と、任意の要素である装飾層若しくは中間フィルム層との間、又は装飾層と中間フィルム層との間、に接合層を有する。
【0094】
接合層は、例えば、ウレタン結合を有する樹脂、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、若しくはフェノキシ樹脂、又はこれらの2種以上の樹脂ブレンドを含み得る。一実施態様では、接合層は、ウレタン結合を有する樹脂とフェノキシ樹脂の樹脂ブレンドを含む。
【0095】
接合層の厚さは、約0.1マイクロメートル以上、約0.2マイクロメートル以上、又は約0.5マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以下、約10マイクロメートル未満、約5.0マイクロメートル以下、約2.0マイクロメートル以下、約1.0マイクロメートル以下、約0.5マイクロメートル以下、又は約0.5マイクロメートル未満とすることができる。
【0096】
熱成形シートは、任意に、例えば、表面層と第2接着層との間、表面層と装飾層との間、装飾層と第2接着層との間に介在する中間フィルム層を含んでもよい。中間フィルム層は、熱成形シートの強度を高めることができる。
【0097】
中間フィルム層としては、例えば、ウレタン結合を有する樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、(メタ)アクリル系ポリマー、又はフッ素系ポリマーの樹脂フィルムを使用することができる。中間フィルム層は熱可塑性を有することが好ましい。一実施態様では、中間フィルム層は、水系のウレタン結合を有する樹脂を含む。
【0098】
中間フィルム層の厚さは、約5.0マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、又は約15マイクロメートル以上、約200マイクロメートル以下、約100マイクロメートル以下、又は約50マイクロメートル以下とすることができる。
【0099】
本開示の熱成形シートは、典型的には、第1接着層に対して剥離ライナーが適用され得る。剥離ライナーとして、例えば、紙;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル(例えばPET)、及び酢酸セルロースなどのプラスチック材料;このようなプラスチック材料で被覆された紙などを挙げることができる。これらのライナーは、シリコーンなどの剥離剤により剥離処理した表面を有してもよい。
【0100】
剥離ライナーの厚さは、一般に、約5マイクロメートル以上、約15マイクロメートル以上、又は約25マイクロメートル以上とすることができ、約500マイクロメートル以下、約300マイクロメートル以下、又は約250マイクロメートル以下とすることができる。
【0101】
本開示の熱成形シートは、例えば、枚葉品であってもよく、或いはロール状に巻かれたロール体であってもよい。
【0102】
熱成形シートは、例えば、以下の手順で製造することができる。第2接着剤組成物を調製し、表面層としての熱可塑性樹脂フィルム上に第2接着剤層組成物を塗布し、必要に応じて加熱乾燥して第2接着層を形成する。次いで、第1接着剤組成物を調製し、第1接着剤層組成物を第2接着層の上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して第1接着層を形成する。このようにして熱成形シートを得ることができる。熱成形シートの第1接着層の上に剥離ライナーをラミネートして、第1接着層を保護してもよい。
【0103】
上記熱成形シートの製造において、剥離ライナー上に第1接着層及び第2接着層を形成した後に、表面層として、熱可塑性樹脂フィルムを第2接着層の露出面に接触させて熱ラミネートしてもよく、表面層の樹脂成分を第2接着層の露出面の上に溶融押出してもよい。
【0104】
別の実施態様として、熱成形シートは、例えば、以下の手順で製造することもできる。装飾層組成物を調製して、剥離ライナーの上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して装飾層を形成する。中間フィルム層組成物を調製して、装飾層の露出面に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して中間フィルム層を形成する。接合層組成物を調製して、キャリアフィルムの上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して接合層を形成する。接合層の露出面と中間フィルム層の露出面とを接触させて熱ラミネートし、キャリアフィルムを除去する。表面層として、熱可塑性樹脂フィルムを接合層の露出面に接触させて熱ラミネートする。第2接着剤組成物を調製し、剥離ライナーを除去して装飾層を露出させた後、第2接着剤層組成物を装飾層の上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して第2接着層を形成する。次いで、第1接着剤組成物を調製し、第1接着剤層組成物を第2接着層の上に塗布し、必要に応じて加熱乾燥して第1接着層を形成する。このようにして熱成形シートを得ることができる。熱成形シートの第1接着層の上に剥離ライナーをラミネートして、第1接着層を保護してもよい。
【0105】
上記熱成形シートの製造において、装飾層を形成した後、中間フィルム層及び接合層を形成せずに、表面層として、熱可塑性樹脂フィルムを装飾層の露出面に接触させて熱ラミネートしてもよく、表面層の樹脂成分を装飾層の露出面の上に溶融押出してもよい。上記熱成形シートの製造において、装飾層の上ではなく、剥離ライナーの上に第1接着層及び第2接着層を形成し、装飾層の露出面と第2接着層の露出面とを接触させて常温ラミネート又は熱ラミネートしてもよい。
【0106】
剥離ライナーの厚さを除く、熱成形シートの総厚は、例えば、約30マイクロメートル以上、約80マイクロメートル以上、又は約120マイクロメートル以上とすることができ、約600マイクロメートル以下、約400マイクロメートル以下、又は約350マイクロメートル以下とすることができる。
【0107】
本開示の熱成形シートは、95℃で200%延伸したときの引張強度が、約3N/50mm以上約240N/50mm以下を呈する。熱成形シートがこのような引張強度をさらに有すると、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性を向上させることができる。熱成形シートにおけるかかる引張強度は、例えば、表面層の形態(例えばフィルム)、厚さ、材料、又は任意の追加の層(例えば中間フィルム層)の形態、厚さ、材料などを調整することで適宜設定することができる。ここで、本開示において、200%延伸とは、伸長前のフィルム長さを100%としたときに、200%の長さ(2倍)となるまで伸長させた状態を意味する。本開示における引張強度の具体的な測定条件は、実施例の「4.200%伸び時引張強度」に記載のとおりである。
【0108】
熱成形シートにおける95℃で200%延伸したときの引張強度は、約5N/50mm以上、約7N/50mm以上、又は約9N/50mm以上とすることができ、約220N/50mm以下、約200N/50mm以下、約180N/50mm以下、約160N/50mm以下、約140N/50mm以下、約120N/50mm以下、約100N/50mm以下、又は約80N/50mm以下とすることができる。
【0109】
一実施態様では、本開示の熱成形シートは、120℃で200%延伸したときの引張強度が、約1N/50mm以上約140N/50mm以下を呈する。熱成形シートが、このような引張強度をさらに有すると、被着体に対する接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性をより向上させることができる。熱成形シートにおけるかかる引張強度は、例えば、表面層の形態(例えばフィルム)、厚さ、材料、又は任意の追加の層(例えば中間フィルム層)の形態、厚さ、材料などを調整することで適宜設定することができる。
【0110】
熱成形シートにおける120℃で200%延伸したときの引張強度は、約2N/50mm以上、約3N/50mm以上、約4N/50mm以上、又は約5N/50mm以上とすることができ、約120N/50mm以下、約100N/50mm以下、約80N/50mm以下、約60N/50mm以下、又は約50N/50mm以下とすることができる。
【0111】
一実施態様では、本開示の熱成形シートは、熱成形シートを165℃±5℃に加熱し、延伸前の熱成形シートの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅40mmの格子状に切断し、95℃で144時間置いた後の切れ目の開き(口開き)が約1.0mm以下を呈する。切れ目の開きは、好ましくは約0.8mm以下、より好ましくは約0.5mm以下である。切れ目の開きは、熱成形シートの耐熱性、具体的には熱成形シートの熱収縮の挙動を表しており、切れ目の開きの値が小さいほど高温環境下でも熱成形シートは収縮しにくく、被着体への接着及び熱成形シートの外観をより高い水準で維持することができる。切れ目の開きの具体的な測定条件は、実施例の「3.熱収縮」に記載のとおりである。
【0112】
一実施態様では、熱成形シートを165℃±5℃に加熱し、延伸前の熱成形シートの面積を100%としたときに、真空圧空成形機を用いて面積比で200%延伸してPC-ABS板に貼り合わせて、幅10mmの短冊状に切断し、23℃、剥離速度200mm/分で180度剥離したときの接着力は約6.4N/10mm以上である。接着力は、好ましくは約6.8N/10mm以上、より好ましくは約7.2N/10mm以上である。接着力は、被着体又は熱成形シートの凝集破壊に要する力よりも小さく、一般に約20N/10mm以下、又は約15N/10mm以下である。接着力の具体的な測定条件は、実施例の「2.接着力」に記載のとおりである。
【0113】
本開示の一実施態様によれば、上述した熱成形シートを支持部材(被着体)に接着した物品が提供される。かかる物品としては、例えば、熱成形シートをポリカーボネート板等の支持部材に貼り合わせた成形加工前の略平坦な物品、若しくはこのような略平坦な物品をさらに成形加工して得られる三次元形状を有する物品、又は、曲面等の形状を有する支持部材に対して熱成形シートを貼り合わせて得られる三次元形状を有する物品などを挙げることができる。本開示において「三次元形状」とは、典型的には、二次元形状(X軸、Y軸だけの平面形状)に対し、Z軸を加えた立体形状を意図する。
【0114】
三次元形状を有する物品は、生産性等の観点から、上述した熱成形シートを、三次元形状を有する支持部材に適用することによって製造することが好ましい。この支持部材への熱成形シートの適用は、精度の高い物品を得る観点から、真空成形(VT、Vacuum Thermoforming)法又は真空圧空成形(DVT、Dual Vacuum Thermoforming)法によって実施することが好ましい。本開示の熱成形シートは、延伸を伴う真空成形用又は真空圧空成形用として好適に使用することができる。
【0115】
支持部材としては特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル樹脂部材(例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂部材)、ポリカーボネート樹脂部材(PC樹脂部材)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体部材(ABS部材)、PC-ABS部材、及び電着塗装部材からなる群から選択される少なくとも一種を挙げることができる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、熱成形シートに対する接着力(剥がれ防止性)、耐口開き性等の観点から、支持部材は、PC-ABS部材、及び電着塗装部材からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0116】
支持部材の表面には、プライマー処理が適用されてもよい。しかし、プライマー処理は、一般に、有機溶剤を使用するため、作業環境を悪化させるおそれがあったり、或いは、プライマー処理面にゴミが付着して外観不良を生じさせるおそれがあったりする。本開示の熱成形シートは、被着体である支持部材表面にプライマー処理が適用されていなくても、優れた接着力(剥がれ防止性)及び耐口開き性を発揮することができる。したがって、良好な作業環境及び物品外観を得る観点から、支持部材の表面には、プライマー処理が適用されないことが有利である。
【0117】
支持部材は、目的とする外観を提供するために、全体又は部分的に可視域において、透明、半透明、又は不透明であってもよい。
【0118】
支持部材の厚さとしては特に制限はなく、例えば、約0.2mm以上、約0.5mm以上、約1.0mm以上、又は約1.5mm以上とすることができ、約3.0mm以下、約2.5mm以下、又は約2.0mm以下とすることができる。
【0119】
本開示の熱成形シートを適用した物品は、種々の用途で使用することができる。このような用途として、例えば、看板(例えば内照式看板及び外照式看板);標識(例えば内照式標識及び外照式標識);各種の内装品又は外装品、例えば、自動車、鉄道、航空機、及び船などの乗物の内装品又は外装品(例えば、ルーフ部材、ピラー部材、ドアトリム部材、インストルメントパネル部材、ボンネット等のフロント部材、バンパー部材、フェンダー部材、サイドシル部材、及びインテリアパネル部材);建築部材(例えばドア);パソコン、スマートフォン、携帯電話、冷蔵庫、及びエアコンなどの電化製品;文具;家具;机;缶等の各種容器などが挙げられる。なかでも、本開示の熱成形シートを適用した物品は、乗物の内装品又は外装品に好適に使用することができる。乗物としては、トラック、バス、乗用車などの自動車、オートバイ、スクーターなどの二輪車、自転車、電車、遊覧船、ヨット、モーターボートなどの船舶などが挙げられる。
【0120】
以下、図2を参照しながら、真空圧空成形法(DVT法)を用いて熱成形シートを支持部材に適用して物品を形成する方法について例示的に説明する。
【0121】
図2(A)に示すように、例示的な真空圧空成形機30は、上下に第1真空室31及び第2の真空室32をそれぞれ有しており、上下の真空室の間に被着体である支持部材40に貼り付ける熱成形シート10をセットする治具が設けられている。下側の第1真空室31には、上下に昇降可能な昇降台35(図2(A)では不図示)の上に仕切り板34及び台座33が設置されており、三次元形状物などの支持部材40は、この台座33の上にセットされる。このような真空圧空成形機としては、市販のもの、例えば両面真空成形機(布施真空株式会社)などを使用することができる。
【0122】
図2(A)に示すように、まず、真空圧空成形機30の第1真空室31及び第2真空室32を大気圧に解放した状態で、上下の真空室の間に、熱成形シート10をセットする。第1真空室31において台座33の上に支持部材40をセットする。
【0123】
次に、図2(B)に示すように、第1真空室31及び第2真空室32を閉鎖し、それぞれ減圧し、各室の内部を真空(大気圧を1atmとした場合、例えば約0atm)にする。その後又は減圧と同時に熱成形シートを加熱する。
【0124】
次いで、図2(C)に示すように、昇降台35を上昇させて支持部材40を第2真空室32まで押し上げる。加熱は、例えば、第2真空室32の天井部に組み込まれたIRランプヒータ(不図示)で行うことができる。加熱温度は、一般に、約50℃以上、約180℃以下とすることができ、好ましくは約130℃以上、約160℃以下である。減圧雰囲気の真空度は、大気圧を1atmとして、約0.10atm以下、約0.05atm以下、又は約0.01以下atm以下とすることができる。
【0125】
加熱された熱成形シート10は、支持部材40の表面に押しつけられて延伸される。その後又は延伸と同時に、図2(D)に示すように、第2真空室32内を適当な圧力(例えば約3atm~約1atm)に加圧する。圧力差により、熱成形シート10が支持部材40の露出表面に密着し、露出表面の三次元形状に追従して延伸され、支持部材表面に密着した被覆を形成する。熱成形シート10の少なくとも一部は、例えば、支持部材40の三次元形状に追従して延伸されるときに、面積比で約4倍以上、約4.5倍以上、又は約5倍以上に延伸される場合がある。なお、図2(B)の状態で減圧及び加熱を行った後、そのまま第2真空室32内を加圧して、熱成形シート10で支持部材40の露出表面を被覆することもできる。
【0126】
その後、上下の第1真空室31及び第2真空室32を再び大気圧に開放して、熱成形シート10で被覆された支持部材40を外に取り出す。図2(E)に示すように、支持部材40の表面に密着した熱成形シート10のエッジをトリミングして、DVT工程は完了する。このようにして、熱成形シート10が支持部材40の端部においてその裏面部41まで回り込んで露出面をきれいに被覆する、良好な巻き込み被覆がなされた物品42を得ることができる。
【実施例0127】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。数値は本質的に測定原理及び測定装置に起因する誤差を含む。数値は通常の丸め処理が行われた有効数字で示される。
【0128】
カルボキシ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(ポリマーA)の合成
n-ブチルアクリレート(BA)94質量部、及びアクリル酸(AA)6質量部を、トルエン100質量部及び酢酸エチル100質量部の混合溶媒に溶解させて、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(商品名V-65、富士フイルム和光純薬株式会社(日本国大阪府大阪市))0.2質量部を添加した後、窒素雰囲気下、50℃で24時間反応させて、ポリマーAのトルエン/酢酸エチル混合溶液(固形分33質量%)を得た。ポリマーAの重量平均分子量は760,000、FOXの式から計算したガラス転移温度(Tg)は-48℃であった。
【0129】
アミノ基含有(メタ)アクリル系ポリマー(ポリマーB)の合成
メチルメタクリレート(MMA)60質量部、n-ブチルメタアクリレート(BMA)34質量部、及びジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)6質量部を酢酸エチル150質量部に溶解させて、重合開始剤としてジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(商品名V-601、富士フイルム和光純薬株式会社(日本国大阪府大阪市))0.6質量部を加えた後、窒素雰囲気下、65℃で24時間反応させて、ポリマーBの酢酸エチル溶液(固形分39質量%)を得た。ポリマーBの重量平均分子量は68,000、FOXの式から計算したガラス転移温度(Tg)は63℃であった。
【0130】
本実施例で使用した商品などを以下の表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
〈比較例1〉
2層構造の熱成形シートを以下の手順で作製した。表3の第2接着剤組成物E1を、表面層としての75マイクロメートル厚のテクノロイ(商標)S014G上にナイフコーターを用いて塗布し、80℃の熱風オーブンに10分間入れて40マイクロメートル厚の第2接着層を形成して、第1接着層を有さない比較例1の熱成形シートを得た。
【0133】
〈例1〉
3層構造の熱成形シートを以下の手順で作製した。表3の第2接着剤組成物E1を、表面層を構成する75マイクロメートル厚のテクノロイ(商標)S014G上にナイフコーターを用いて塗布し、80℃の熱風オーブンに10分間入れて40マイクロメートル厚の第2接着層を形成した。
【0134】
表2の第1接着剤組成物E1を、第2接着層上にナイフコーターを用いて塗布し、80℃の熱風オーブンに10分間入れて1.0マイクロメートル厚の第1接着層を形成して、例1の熱成形シートを得た。
【0135】
〈例2~例4、例9~例11、及び比較例2〉
第1接着層及び/又は第2接着層の厚さを、表5に記載のとおりにしたこと以外は、例1と同様の手順で例2~例4、例9~例11、及び比較例2の熱成形シートを得た。
【0136】
〈例5、比較例3、比較例5及び比較例6〉
第1接着剤組成物を、表2のE2、C1、C2又はC3にしたこと以外は、例3と同様の手順で例5、比較例3、比較例5及び比較例6の熱成形シートを得た。
【0137】
〈例6~例8、比較例7及び比較例8〉
表面層を、表5に記載のとおりにしたこと以外は、例3と同様の手順で例6~例8、比較例7及び比較例8の熱成形シートを得た。
【0138】
〈例12〉
例3と同様の手順で作製した熱成形シートを、23℃60%RHの環境下で40日間保管して、例12の熱成形シートを得た。
【0139】
〈比較例4〉
2層構造の熱成形シートを以下の手順で作製した。表2の第1接着剤組成物E1を、表面層としての75マイクロメートル厚のテクノロイ(商標)S014G上にナイフコーターを用いて塗布し、80℃の熱風オーブンに10分間入れて5.0マイクロメートル厚の第1接着層を形成して、第2接着層を有さない比較例4の熱成形シートを得た。
【0140】
【表2】
【0141】
【表3】
【0142】
【表4】
【0143】
熱成形シートを以下の項目について評価した。
【0144】
1.DVT成形性
支持部材として以下を使用した。
【0145】
A.PC-ABS板
厚さ3mm、150mm×150mm角の正方形のPC-ABS板試験パネル(製品名「平板テストピース」、テクノポリマー製黒色PC-ABS樹脂CK43、MC山三ポリマーズ株式会社(日本国東京都中央区))を70mm×150mmの矩形に切断して得られたものを支持部材とした。
【0146】
B.電着塗装鋼板
厚さ1mm、70mm×150mmの黒色のカチオン電着塗装鋼板(JIS,G,3141(SPCC,SD)、株式会社テストピース(日本国神奈川県相模原市))を支持部材とした。
【0147】
DVT法を用い、以下の手順で熱成形シートを面積比で200%延伸して支持部材に貼り付けた。
【0148】
真空圧空成形機として、両面真空成形機NGF0709(布施真空株式会社(日本国大阪府羽曳野市))を用いた。図3Aに延伸前の真空圧空成形機の概略断面図を示す。真空圧空成形機30の第1真空室31と第2真空室32とを、下釜311、下釜フレーム312、上釜321、上釜フレーム322、及び下釜フレーム312と上釜フレーム322との間に挟み込まれる熱成形シート10によって互いに分離した。第2真空室32の天井部には、加熱用のIRランプヒータ323が上釜321の内壁に取り付けられていた。下釜フレーム312の開口部は260mm×260mmの正方形であった。
【0149】
下釜311の底部に配置された下釜テーブル313の上に、下釜フレーム312の開口部と同じ大きさの内寸を有する、上下が開放した角筒形状の延伸用井戸型治具314を配置した。延伸用井戸型治具314の高さは60mmであり、面積比で200%延伸された状態で熱成形シート10が支持部材40に貼り付けられることが予め確認された。
【0150】
70mm×150mmの矩形の支持部材40を、下釜テーブル313の上かつ延伸用井戸型治具314の内側で、面積比で200%延伸された状態で熱成形シート10が支持部材40に貼り付けられることが予め確認された位置に設置した。図3Bに基材の配置位置を上面図で示す。図3Bに示すように、支持部材40を、延伸用井戸型治具314の中央から90mm離れた4箇所に、その中心が位置するように配置した。図3Bに一点鎖線で示される円は、面積比で200%延伸された状態で熱成形シート10が支持部材40に貼り付けられる位置を表す。
【0151】
熱成形シート10を300mm×300mmの正方形に裁断し、下釜フレーム312の上に設置した。下釜フレーム312の厚さは20mmであった。したがって、熱成形シート10と支持部材40と間隔は、下釜フレーム312の厚さ(20mm)と延伸用井戸型治具314の高さ(60mm)の合計80mmであった。
【0152】
支持部材40及び熱成形シート10を設置した後、上釜321及び上釜フレーム322を下降させ、下釜フレーム312の上に設置された熱成形シート10を上釜フレーム322と下釜フレーム312で挟み込んだ。その後、第1真空室31及び第2真空室32の内部を減圧しながら、IRランプヒータ323で熱成形シート10を成形温度である165℃±5℃になるまで加熱した。このとき、成形温度に到達する前に真空状態(2~4kPa)に到達した。成形温度は、真空圧空成形機30の設定温度、及び後述する手順で予め作成した、真空圧空成形機30の設定温度と熱成形シート10の実温度の対応関係に基づいて得られた値であった。
【0153】
成形温度に到達した時点でDVT成形を開始した。延伸用井戸型治具314が下釜フレーム312に接触するまで下釜テーブル313を上昇させた。第1真空室31の内部の真空状態を維持しながら、第2真空室32の内部圧力を200~205kPaとすることで、第1真空室31と第2真空室32との間に圧力差を生じさせ、これにより熱成形シート10を延伸しながら支持部材40に貼り付けた。図3Cに延伸後の真空圧空成形機の概略断面図を示す。支持部材40の中央部では、熱成形シート10が面積比で200%延伸されて貼り付けられていた。
【0154】
第1真空室31及び第2真空室32の内部をそれぞれ大気圧に戻した後、延伸された熱成形シート10が貼り付けられた支持部材40を取り出した。カッターナイフを用いて余剰の熱成形シート10を支持部材40の端部に沿ってトリミングすることにより、DVT成形性の評価サンプルを得た。
【0155】
真空圧空成形機の設定温度と真空圧空成形機の内部で加熱された熱成形シートの実温度との間には、一般に差異があることが知られている。そのため、本実施例では、真空圧空成形機の設定温度と熱成形シートの実温度との対応関係を予め決定し、DVT成形時の熱成形シートの実温度は、真空圧空成形機の設定温度及び上記対応関係に基づき得られる値とみなした。
【0156】
DVT成形時の熱成形シートの実温度の測定は、温度・電圧計測ユニットNR-TH08及びマルチ入力データロガーNR-500(いずれも株式会社キーエンス(日本国大阪府大阪市))と、熱電対(記号0.1×1P K-2-H-J2(K-H)、ワイヤー:Kタイプ、二宮電線工業株式会社(日本国神奈川県相模原市))とを用いて行った。
【0157】
熱電対の測定部位である金属部が熱成形シート10に接触しないように、熱成形シート10の表面に熱電対を耐熱テープで貼り付けた。熱電対が貼り付けられた面を上向きにして、熱成形シート10を下釜フレーム312の上に設置した。
【0158】
上釜321及び上釜フレーム322を下降させ、下釜フレーム312の上に設置された熱成形シート10を上釜フレーム322と下釜フレーム312で挟み込んだ。その後、IRランプヒータ323で熱成形シート10を加熱した。熱電対の測定値が165±5℃となった時点の真空圧空成形機の設定温度は145℃であった。この対応関係に基づいて、DVT成形時には、真空圧空成形機の設定温度を145℃とすることで、熱成形シート10が165±5℃に加熱されたものとみなした。
【0159】
2.接着力
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片を幅10mmの短冊状に切断し、引張試験機(テンシロン(登録商標)万能試験機、型番:RTC-1210A、株式会社エー・アンド・デイ(日本国東京都豊島区))を用いて温度23℃、剥離速度200mm/分で180度剥離を行ったときの接着力を測定した。測定を2回行って平均値を求めた。例えば、自動車外装の塗装代替用途では、接着力は6.4N/10mm以上であることが求められる。
【0160】
3.熱収縮
DVT成形性と同じ条件で接着された試験片の中央に図4のように幅40mmの格子状の切れ目を入れ、95℃で144時間(6日間)置いた。切れ目の開きを4箇所で測定し、4箇所の測定値の平均を熱収縮の指標とした。切れ目の開き(口開き)が1.0mm以下を合格、1.0mm超を不合格とした。
【0161】
4.200%伸び時引張強度
長さ約100mm、幅50mmに切断した熱成形シートに、長さ方向に50mmの間隔を空けて、幅50mmのカプトン(商標)フィルムを熱成形シートの両面に貼り付けることにより、カプトン(商標)フィルムで熱成形シートの2つの短辺が挟まれた測定試料を作製した。引張試験機(テンシロン(登録商標)万能試験機、型番:RTC-1210A、株式会社エー・アンド・デイ(日本国東京都豊島区))のチャックの間隔を55mmとして、チャックにカプトン(商標)フィルムが接触するようにして測定試料を固定した。チャック部全体を覆うように恒温槽を配置し、恒温槽内部の温度表示が95℃又は120℃に到達した時点で測定を開始し、温度95℃又は120℃、引張速度300mm/分で熱成形シートを200%伸び(元の長さの2倍)まで延伸したときの引張強度を測定した。各温度で測定を2回行って平均値を求めた。
【0162】
熱成形シートの評価結果を表5に示す。ここで、層構造における「A」とは、第1接着層/第2接着層/フィルム(表面層)の層構造を意味し、「B」とは、第2接着層/フィルム(表面層)の層構造を意味し、「C」とは、第1接着層/フィルム(表面層)の層構造を意味する。
【0163】
【表5】
【0164】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0165】
10 熱成形シート
12 表面層
14 第2接着層
16 第1接着層
20 剥離ライナー
30 真空圧空成形機
31 第1真空室
311 下釜
312 下釜フレーム
313 下釜テーブル
314 延伸用井戸型治具
32 第2真空室
321 上釜
322 上釜フレーム
323 IRランプヒータ
33 台座
34 仕切り板
35 昇降台
40 支持部材
41 裏面部
42 物品
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4