(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125617
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】モータ及びモータの運転システム
(51)【国際特許分類】
H02K 21/14 20060101AFI20230831BHJP
H02K 19/14 20060101ALI20230831BHJP
H02P 25/024 20160101ALI20230831BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02K19/14
H02P25/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029822
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堺 和人
【テーマコード(参考)】
5H505
5H619
5H621
【Fターム(参考)】
5H505AA03
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB02
5H505DD03
5H505DD05
5H505DD08
5H505DD10
5H505EE30
5H505EE32
5H505EE49
5H505EE55
5H505HA07
5H505HB01
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL58
5H619BB01
5H619BB06
5H619PP08
5H621AA01
5H621BB10
5H621HH10
(57)【要約】
【課題】 モータの高出力かつ高効率を実現する。
【解決手段】 モータは、シャフトと、シャフトの外周に備えられる回転子と、回転子の外周側にエアギャップを介して備えられ、多相巻線を含むコイルを備える固定子とを備える。回転子は、永久磁石と導体とを外周面に備える。モータは、第1のモードにおいて、多相巻線で形成する回転磁界の極数が永久磁石の数と同じであり、回転磁界と永久磁石との間で生じる永久磁石トルクにより回転子を固定子に対して相対的に回転させる。モータは、第1のモードよりも高速回転時に適用される第2のモードにおいて、多相巻線で形成する回転磁界の極数が永久磁石の数と異なり、回転磁界と、回転磁界によって回転子の導体に誘導された誘導導体が作用して生じた誘導トルクにより回転子を固定子に対して相対的に回転させる。第2のモードにおける極数は、第1のモードにおける極数より少ない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトの外周に備えられる回転子と、
前記回転子の外周側にエアギャップを介して備えられ、多相巻線を含むコイルを備える固定子と、
を具備し、
前記回転子は、永久磁石と導体とを外周側に備えており、
第1のモードにおいて前記多相巻線で形成する回転磁界の極数が前記回転子の前記永久磁石の数と同じであり、前記回転磁界と前記永久磁石との間で生じる磁気吸引力と磁気反発力の永久磁石トルクにより前記回転子を前記固定子に対して相対的に回転させ、
前記第1のモードよりも高速回転時に適用される第2のモードにおいて前記多相巻線で形成する前記回転磁界の極数が前記回転子の前記永久磁石の数と異なり、前記回転磁界と、前記回転磁界によって前記回転子の前記導体に誘導された誘導電流が作用して生じた誘導トルクにより前記回転子を前記固定子に対して相対的に回転させ、
前記第2のモードにおける極数は、前記第1のモードにおける極数より少ない、
モータ。
【請求項2】
前記回転子の回転速度が閾値未満である場合に第1のモードで駆動し、前記回転子の回転速度が前記閾値以上である場合に第2のモードで駆動し、
前記閾値は、速度起電力が駆動電源の出力電圧になる回転速度、又は、任意のトルクにおける前記第1のモード及び前記第2のモードが同レベルの効率になる回転速度とする、
請求項1のモータ。
【請求項3】
前記回転子は、複数の突極を有する突極形状の回転子鉄心をさらに具備し、
前記回転子鉄心は、前記複数の突極の間に前記永久磁石を備えており、
前記導体は、前記複数の突極の間において、前記永久磁石を円周方向に挟むように配置され、
前記第1のモードにおいて前記多相巻線で形成する前記回転磁界の極数が前記回転子の前記永久磁石の数及び前記回転子鉄心の突極の数のいずれとも同じであり、前記回転磁界と前記永久磁石との間で生じる前記磁気吸引力と前記磁気反発力の前記永久磁石トルク、及び、前記回転磁界と前記回転子鉄心の前記突極で生じる磁気吸引力により前記回転子を前記固定子に対して相対的に回転させ、
前記第2のモードにおいて前記多相巻線で形成する前記回転磁界の極数が前記回転子の前記永久磁石の数及び前記突極の数と異なり、前記回転磁界と、前記回転磁界によって前記回転子の前記導体に誘導された前記誘導電流が作用して生じた前記誘導トルクにより前記回転子を前記固定子に対して相対的に回転させる、
請求項1又は請求項2のモータ。
【請求項4】
前記複数の突極のそれぞれに誘導トルク発生用導体をさらに具備し、
前記第2のモードにおいて前記多相巻線で生じる前記回転磁界と、前記回転磁界によって前記突極内の前記誘導トルク発生用導体に誘導された誘導電流が作用して生じた追加の誘導トルクが前記永久磁石トルクと前記誘導トルクに追加されて前記回転子を前記固定子に対して相対的に回転させる、
請求項3のモータ。
【請求項5】
前記永久磁石は低保磁力の磁気特性の永久磁石であり、
前記第2のモードにおいては、前記多相巻線に負のd軸電流成分を含む多相交流電流を与え、前記負のd軸電流で発生した減磁界が前記低保磁力の永久磁石の磁化を減磁状態にし、前記第1のモードに戻すときに正のd軸電流で発生した増磁界が前記低保磁力の永久磁石の磁化を増磁状態にする、
請求項1乃至請求項4のうちのいずれか1項のモータ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちのいずれか1項のモータを運転する運転システムであって、
電流の大きさと位相を切り替え可能な電源装置が前記モータの前記固定子の前記多相巻線と接続されており、前記電源装置の各電流位相を変化させることで前記多相巻線が形成する前記回転磁界の極数を変換する、運転システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のうちのいずれか1項のモータを運転する運転システムであって、
電流の大きさと位相を切り替え可能な複数の電源装置が前記固定子の複数の多相巻線のそれぞれと接続されており、前記複数の電源装置の各電流位相を変化させて前記複数の多相巻線のそれぞれに流れる電流位相を変化させることにより前記複数の多相巻線が形成する前記回転磁界の極数を変換する、運転システム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5のうちのいずれか1項のモータを運転する運転システムであって、
電流の大きさと位相を切り替え可能な複数組の3相インバータが前記固定子の複数組の3相巻線のそれぞれと接続されており、各3相インバータにおいて3相電流の位相を切り替えて各相の巻線のそれぞれに流れる電流位相を変化させることで前記複数組の3相巻線が形成する前記回転磁界の極数を変換する、運転システム。
【請求項9】
請求項1乃至請求項5のうちのいずれか1項のモータの運転システムであって、
前記コイルに電流を供給する電源装置と、
前記コイルと前記電源装置との間の導通と非導通とを切り替えるスイッチングデバイスと、
前記回転子の回転角を検出するセンサと、
前記センサの検出結果に基づいて回転速度を算出し、前記回転速度に基づいて前記電源装置と前記スイッチングデバイスとを制御し、前記モータの前記第1のモードと前記第2のモードとの切り替えを実行する制御装置と、
を具備する運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モータ及びモータの運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンに動力を発生させる装置の一例としてモータが注目されている。例えば、電気自動車の駆動用として広い回転速度で軽負荷から高負荷まで広範囲で高効率及び高出力のモータが望まれる。ここで、効率とは、入力電力に対する機械出力の比を百分率で表した値である。出力は、トルクと回転速度との積である。
【0003】
交流モータには、大きく分類して同期モータと誘導(非同期)モータとがある。
同期モータの一例として、回転子が永久磁石を備えている永久磁石モータがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5971841号公報
【特許文献2】特許第6480651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
永久磁石モータは、回転子電流(2次電流)が無いため銅損が誘導機よりも小さくなり、誘導モータと比較して、高出力であり、高効率である。特に、永久磁石モータは、近年の高磁気エネルギー積のレアアース磁石の開発によって高磁界を得ることができ、出力や効率が大幅に向上している。
【0006】
しかしながら、永久磁石モータは、高速回転時は逆に高磁束を等価的に低減するための弱め磁束電流による銅損や、トルクが小さい場合(負荷が軽い場合)に永久磁石による鉄損の割合が大きくなり、効率が低下する場合がある。
【0007】
本発明の実施形態は、低速から高速、軽負荷から高負荷までの広範囲において、高出力かつ高効率を実現するモータ及びモータの運転システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る第1の態様において、モータは、シャフトと、シャフトの外周に備えられる回転子と、回転子の外周側にエアギャップを介して備えられ、多相巻線を含むコイルを備える固定子とを備える。回転子は、永久磁石と導体とを外周側に備える。モータは、第1のモードにおいて多相巻線で形成する回転磁界の極数が回転子の永久磁石の数と同じであり、回転磁界と永久磁石との間で生じる磁気吸引力と磁気反発力の永久磁石トルクにより回転子を固定子に対して相対的に回転させる。モータは、第1のモードよりも高速回転時に適用される第2のモードにおいて多相巻線で形成する回転磁界の極数が回転子の永久磁石の数と異なり、回転磁界と、回転磁界によって回転子の導体に誘導された誘導電流が作用して生じた誘導トルクにより回転子を固定子に対して相対的に回転させる。第2のモードにおける極数は、第1のモードにおける極数より少ない。
【0009】
第2の態様において、第1の態様のモータは、回転子の回転速度が閾値未満である場合に第1のモードで駆動し、回転子の回転速度が閾値以上である場合に第2のモードで駆動する。閾値は、速度起電力が駆動電源の出力電圧になる回転速度、又は、任意のトルクにおける第1のモード及び第2のモードが同レベルの効率になる回転速度とする。
【0010】
第3の態様において、第1の態様又は第2の態様のモータの回転子は、複数の突極を有する突極形状の回転子鉄心をさらに備える。回転子鉄心は、複数の突極の間に永久磁石を備える。導体は、複数の突極の間において、永久磁石を円周方向に挟むように配置される。モータは、第1のモードにおいて多相巻線で形成する回転磁界の極数が回転子の永久磁石の数及び回転子鉄心の突極の数のいずれとも同じであり、回転磁界と永久磁石との間で生じる磁気吸引力と磁気反発力の永久磁石トルク、及び、回転磁界と回転子鉄心の突極で生じる磁気吸引力により回転子を固定子に対して相対的に回転させる。モータは、第2のモードにおいて多相巻線で形成する回転磁界の極数が回転子の永久磁石の数及び突極の数と異なり、回転磁界と、回転磁界によって回転子の導体に誘導された誘導電流が作用して生じた誘導トルクにより回転子を固定子に対して相対的に回転させる。
【0011】
第4の態様において、第3の態様のモータは、複数の突極のそれぞれに誘導トルク発生用導体をさらに備える。モータは、第2のモードにおいて多相巻線で生じる回転磁界と、回転磁界によって突極内の誘導トルク発生用導体に誘導された誘導電流が作用して生じた追加の誘導トルクが永久磁石トルクと誘導トルクに追加されて回転子を固定子に対して相対的に回転させる。
【0012】
第5の態様において、永久磁石は低保磁力の磁気特性の永久磁石である。第1乃至第4の態様のモータは、第2のモードにおいては、多相巻線に負のd軸電流成分を含む多相交流電流を与え、負のd軸電流で発生した減磁界が低保磁力の永久磁石の磁化を減磁状態にし、第1のモードに戻すときに正のd軸電流で発生した増磁界が低保磁力の永久磁石の磁化を増磁状態にする。
【0013】
第6の態様の運転システムは、第1乃至第5の態様のモータを運転する。電流の大きさと位相を切り替え可能な電源装置がモータの固定子の多相巻線と接続されている、運転システムは、電源装置の各電流位相を変化させることで多相巻線が形成する回転磁界の極数を変換する。
【0014】
第7の態様の運転システムは、第1乃至第5の態様のモータを運転する。電流の大きさと位相を切り替え可能な複数の電源装置が固定子の複数の多相巻線のそれぞれと接続されている。運転システムは、複数の電源装置の各電流位相を変化させて複数の多相巻線のそれぞれに流れる電流位相を変化させることにより複数の多相巻線が形成する回転磁界の極数を変換する。
【0015】
第8の態様の運転システムは、第1乃至第5の態様のモータを運転する。電流の大きさと位相を切り替え可能な複数組の3相インバータが固定子の複数組の3相巻線のそれぞれと接続される。運転システムは、各3相インバータにおいて3相電流の位相を切り替えて各相の巻線のそれぞれに流れる電流位相を変化させることで複数組の3相巻線が形成する回転磁界の極数を変換する。
【0016】
第9の態様の運転システムは、第1乃至第5の態様のモータの運転システムである。運転システムは、コイルに電流を供給する電源装置と、コイルと電源装置との間の導通と非導通とを切り替えるスイッチングデバイスと、回転子の回転角を検出するセンサと、センサの検出結果に基づいて回転速度を算出し、回転速度に基づいて電源装置とスイッチングデバイスとを制御し、モータの第1のモードと第2のモードとの切り替えを実行する制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、低速から高速、軽負荷から高負荷までの広範囲において、高出力かつ高効率を実現するモータ及びモータの運転システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係るモータ及び運転システムの構成の例を示す図。
【
図3】本実施形態に係るモータの駆動状態の例を示すグラフ。
【
図4】本実施形態に係るモータを制御する制御装置の処理の例を示すフローチャート。
【
図5】8極同期モードにおけるトルク-電流位相特性の例を示すグラフ。
【
図6】4極誘導モードにおけるトルク-すべり特性の例を示すグラフ。
【
図7】8極同期モードにおける効率の変化例を示すグラフ。
【
図8】4極誘導モードにおける効率の変化例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、実質的に同一の構成要素及び機能については、同一符号を付し、説明を省略するか又は簡単に説明を行う。また、
図1乃至
図8においては、記載を簡略化するため、図番号を省略している場合がある。
【0020】
まず、本実施形態に係るモータ及び運転システムの着想を説明する。
【0021】
例えば現在市販されているハイブリッドカーの駆動モータなどにおいては、永久磁石モータが採用されている。
【0022】
誘導モータでは、固定子のコイルと回転子のコイル(導体)でそれぞれ同程度の銅損が生じる。このことから、回転子で銅損が発生しない永久磁石モータやリラクタンスモータは、回転子で銅損が発生する誘導モータよりも低速や中速回転では効率が高くなる。
【0023】
誘導モータの定出力運転で低速から高速まで運転するときの損失について説明する。固定子のコイルでは励磁電流と負荷電流(2次電流)からなる固定子電流(1次電流)は固定子コイル抵抗(1次抵抗)によって1次銅損を発生し、回転子のコイル(導体)では負荷電流が回転子コイル抵抗(2次抵抗)によって2次銅損を生じる。低速の高トルクでは負荷電流が励磁電流よりもかなり大きいため回転子の2次銅損によって効率がかなり低下する。同出力で高速回転ではトルクは小さくなるので2次銅損による効率の低下は小さくなり、励磁電流を少なくすることで電圧も抑制できる。したがって、誘導モータは低速から中速回転で高トルクでは効率が悪くなり、高速回転域では効率が良くなる。このため、電気駆動自動車の駆動モータとして、誘導モータが採用される場合もある。
【0024】
上記のような永久磁石モータ及びリラクタンスモータと誘導モータとの特性から、本実施形態では、上記の2種類のタイプのモータの回転子を組み合わせて、低速から高速まで効率の良いモータを実現する。
【0025】
ただし、上記のような2種のタイプのモータの特性を組み合わせることは、従来の延長上のモータでは実現困難である。モータが固定周波数の商用電源で駆動すると、3相交流電源と3相固定子コイルで一定の極数の回転磁界が形成されて、起動時に回転子は静止状態から回転磁界よりも遅い速度で回転する(非同期状態で誘導動作)。電磁誘導現象によって回転子のコイル(導体)に誘導電流が生じて、回転磁界と誘導電流の相互作用で誘導トルクが発生して回転が上昇する。回転が上昇して回転子の速度が回転磁界とほぼ同じ速度に近づくと、回転磁界と永久磁石間の相互作用が生じるようになり、同期に引きずりこまれて回転子は回転磁界と同じ速度で回転する(同期状態で同期動作)状態に移行する。
【0026】
したがって、同期モータの回転子と誘導モータの回転子とを組み合わせても、過渡状態時では誘導トルクが作用するが、定常状態では同期トルクのみが作用するので、結果として、誘導モータの回転子と同期モータの回転子を組み合わせても定常状態では同期モータとして駆動することになる。このように従来の延長線上での発想では同期モータと誘導モータを組み合わせてもうまく動作できても同期モータとしてしか駆動できない。商用電源を3相インバータ電源にして周波数を可変しても低速から高速回転まで同期モータとしてしか作用しないので、同期モータと誘導モータの動作を切り替えて駆動することはできない。
【0027】
上記のような実情に鑑みて、本実施形態では、同期(同期機として動作)と非同期(誘導機として動作)の全く逆の動作を1つのモータで可能にする技術を提供する。同期モータは回転子の極数によってモータの極数が決定する。一方、誘導モータでは、回転子電流は固定子電流が作る磁界によって誘導されるので、回転子の極数は固定子の極数に依存する。すなわち、誘導モータは固定子の極数でモータの極数が決定される。
【0028】
本実施形態は、上記の同期モータと誘導モータの回転子の適切な極数を形成し、この回転子の極数の異なる形成と固定子の極数の変換が基になる。
【0029】
すなわち、本実施形態では、回転子は同期モータとしての磁極と誘導モータとしての回転子のコイル(導体)を有する構成を有し、固定子の回転磁界の極数を変換できる構成を有するモータを提供する。これにより、1つのモータが同期モータとしての動作と非同期の誘導モータとして動作とを実現可能となる。
【0030】
以下で、本実施形態に係るモータ及び運転システムをより具体的に説明する。
【0031】
本実施形態では、低速域から高速域までの広範囲で、高出力かつ高効率なモータ及び運転システムを説明する。本実施形態に係るモータ及び運転システムは、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、エレベータ、産業システム、デジタル機器、家電製品に適用可能である。
【0032】
本実施形態に係るモータは、回転速度が閾値未満(低速域)の場合に8極の同期モータとして駆動(動作)し、回転速度が閾値以上(中速域又は高速域)の場合に4極の誘導モータとして駆動する極数変換モータである。
【0033】
本実施形態において、モータが同期モータ及びリラクタンスモータとして駆動するモードを同期モードと表記し、モータが誘導モータとして駆動するモードを誘導モードと表記する。誘導モードは、同期モードよりも高回転時に適用される。
【0034】
本実施形態においては、例えば、中速域又は高速域で適用される誘導モードの極数を、低速域で適用される同期モードの極数より少なくする。これにより、高速域において低周波数の電流でモータを駆動可能である。例えば、誘導モードの極数をN(Nは1以上の整数)、同期モードの極数を2×Nとしてもよい。本実施形態では、N=4の場合を例として説明するがNの値は適宜変更可能である。
【0035】
図1は、本実施形態に係るモータ1及び運転システム2の構成の例を示す図である。
図1のモータ1は、シャフト(回転軸)3に垂直な断面のうちの上半分である。モータ1の断面の下半分は、上半分と同様の構成であるため省略されている。
【0036】
図2は、モータ1のうちの回転子(ロータ)4の構成の例を示す断面図である。
図2の回転子4は、シャフト3に垂直な断面のうちの上半分である。
図2では、
図1と同様に、回転子4の断面の下半分は省略されている。
【0037】
2組の3相インバータをモータ1の電源装置10a,10b(駆動電源)とし、モータ1は2組の3相巻線を構成するコイル9a,9bを配置する。
【0038】
以下で同期モードについて説明する。
【0039】
2組の3相インバータの出力端子に各々接続された2組の3相巻線に電流を通電し、2組の3相巻線が形成する回転磁界の極数は、回転子4の永久磁石5の数の8及び回転子鉄心14の突極14aの数の8といずれも同じになるように、2組の電源装置10a,10bは、出力電流の位相を設定してモータ1内に8極の回転磁界を形成する。モータ1は、低速域で、2組の3相インバータである電源装置10a,10bからコイル9a,9bに供給されるq軸電流成分による8極の回転磁界成分と8個の永久磁石5との間の磁気吸引力と磁気反発力で生じる永久磁石トルクを発生させ、さらにd軸とq軸電流による8極の回転磁界成分と回転子鉄心14の8個の突極14aとの間で生じる磁気吸引力のリラクタンストルクを発生させて、同期モータとして駆動する。一方、回転子4に設けた第2及び第3の導体7,8に関しては、回転子4と回転磁界は同期して回転しているので、回転子4内の第2及び第3の導体7,8には誘導電流が生じないため、誘導トルクは発生しない。したがって、同期モードでは、永久磁石トルクとリラクタンストルクとを含む同期トルクのみがモータ1の回転の駆動力として発生する。
【0040】
次に、中速度域または高速度域における誘導モードについて説明する。
【0041】
2組の3相巻線が形成する回転磁界の極数は回転子4の永久磁石5の数の8及び突極14aの数の8と異なるように2組の電源装置10a,10bは出力電流の位相を設定してモータ1内には4極の回転磁界を形成する。モータ1は、2組の電源装置10a,10bからコイル9a,9bに供給される電流により2組の3相巻線で形成する4極の回転磁界によって回転子4の第2及び第3の導体7,8に誘導電流が発生して、この誘導電流と回転磁界が相互作用して電磁力の誘導トルクを発生させ、誘導モータとして駆動する。一方、回転子4に設けた永久磁石5と突極14aに関して、回転子4は、回転磁界と異なる回転速度で回転する非同期状態になるので、永久磁石トルクとリラクタンストルクは正と負の同じ大きさで振幅変動する交番的な変動トルクになり、平均トルクはゼロになる。したがって、誘導モードでは、誘導トルクのみがモータ1の回転の駆動力になる。
【0042】
すなわち、モータ1は、永久磁石トルクとリラクタンストルクとを同時に発生させる同期モータとしての機能(同期モード)と、電磁誘導による誘導トルクを発生させる誘導モータとしての機能(誘導モード)とを切り替え可能である。
【0043】
加えて、モータ1は、中速域又は高速域の極数を低速域の極数よりも少なくすることが可能な極数変換モータである。モータ1は、中速域又は高速域においてコイル9a,9bに供給される電流の周波数を低速域においてコイル9a,9bに供給される電流の周波数よりも低くすることができる。高速域で周波数が例えば1/2になるとすると、高速域で支配的な損失である鉄損は1/2以下まで低減することができる。さらに高速域では速度に比例してインバータ出力電流の基本周波数が高くなるので、電源装置10a,10bのPWM制御における1周期のスイッチングの回数に限界がある。しかし、本実施形態では高速域で4極に変換するため、基本周波数を1/2にすることができ、PWM制御の適用範囲を拡大することができ、電源装置10a,10bで生じるスイッチング損失を低減することができる。
【0044】
モータ1では、
図1の断面の状態が、
図1の紙面垂直方向及び紙面奥行方向(言い換えれば、モータ1のシャフト3の軸方向)の所定の範囲で連続する。なお、モータ1には、2組の3相インバータである電源装置10a,10bを制御するための図示しない電流センサ又は電圧センサ等が設けられてもよい。本実施形態において、モータ1には、回転角を検出するためのレゾルバ等のセンサ11が備えられる。
【0045】
モータは、主に、シャフト3と、固定子(ステータ)12と、回転子4とを備える。
【0046】
モータ1は、円筒形状である。シャフト3の外周側に、円筒形状の回転子4が設けられる。さらに、回転子4の外周側に、円筒形状の固定子12が設けられる。回転子4の外周面と固定子12の内周面との間には、エアギャップが存在する。回転子4は、固定子12に対して相対的に回転する。
【0047】
固定子12は、固定子鉄心13と2組(aとb)の3相巻線(U相、V相、W相)を含む3の倍数のコイル9a,9bとを備える。固定子12は、a組の3相巻線においてU相、V相、W相を電気的に入れ替えたようになる各位相とし、同様にb組の3相巻線もU相、V相、W相を電気的に入れ替えたようになる各位相とし、これらの3相の入れ替えで8極、または、4極の回転磁界を形成できる。これらは2組の電源装置10a,10bの出力電流位相を設定すれば電気的に入れ替えが可能になり、極数を変換できる。
【0048】
固定子鉄心13は、円筒状である。
【0049】
複数のコイル9a,9bは、複数の電機子コイルである。本実施形態では、複数のコイル9a,9bは3相コイルであるとする。複数のコイル9a,9bは、固定子鉄心13の内周面側において円周方向に等間隔に並んで形成されているスロットに巻設される。複数のコイル9a,9bは、例えば、円筒形状の固定子鉄心13をシャフト3の軸方向に貫通するように設けられてもよい。
図1は、コイル9a,9bを断面で表している。コイル9a,9bに流れる電機子電流により、モータ1が駆動する。
【0050】
本実施形態において、a組の3相巻線を含むコイル9aには、a組の電源装置10aから3相交流電流が供給される。コイル9bには、b組の電源装置10bから3相交流電流が供給される。
【0051】
この
図1の8極と4極の極数変換の例では、コイル9aとコイル9bとが、固定子鉄心13の内周面の円周方向において互い違いになるように配置されている。しかしながら、コイル9aとコイル9bとの配置関係はこれに限定されない。コイル9a,9bの配置は、同期モードにおいて永久磁石トルクとリラクタンストルクにより回転子4を回転可能であり、誘導モードにおいて誘導トルクにより回転子4を回転可能であればよい。
【0052】
本実施形態において、同期モードでは、8個の永久磁石5と8個の突極14aを形成する形状の回転子鉄心14により磁極を形成する。突極14aは表面上に幾何的な凹凸を設けることで形成されてもよい。突極14aは、円筒形の回転子鉄心14内で磁束が8極模様を描く分布に沿って空気層のスリットを回転子14内に設けた構成(リラクタンスモータの多層ロータと同様)により形成されてもよい。本実施形態において、同期モードにおける極数は8とする。
【0053】
本実施形態において、誘導モードは、aとbの2組の電源装置(2組の3相インバータ)10a,10bとモータ1内のaとbの2組の3相巻線を構成する3相のコイル9a,9bにより回転磁界の磁極を形成する。本実施形態において、誘導モードにおける極数は4とする。
【0054】
回転子4は、
図1及び
図2に示すように、シャフト3、回転子鉄心14、永久磁石5、第1の導体6、第2の導体7、第3の導体8を備える。
【0055】
回転子4はシャフト3を中心に回転する。
【0056】
回転子鉄心14は、円筒状であるが、本実施形態では突極形状を有しており、複数の突極14aを備える。回転子鉄心14は、シャフト3の外周面に備えられる。
【0057】
永久磁石5、第1の導体6、第2の導体7、第3の導体8は、回転子鉄心14の外周側に備えられる。
【0058】
より具体的には、回転子鉄心14の8個の突極(
図1及び
図2の断面における回転子鉄心14の外周面における凸状部)14aの間の8個の溝部に8個の永久磁石5が埋め込まれている。突極鉄心である回転子鉄心14の突極14aの中央部に第1の導体6が挿入される。回転子鉄心14の突極14aと永久磁石5との間に、第2の導体7と第3の導体8が挿入される。
【0059】
図1及び
図2では、8個の永久磁石5が回転子鉄心14の外周面の円周方向にほぼ等間隔で配置されている。また、8個の第1の導体6が回転子鉄14心の外周面の円周方向にほぼ等間隔で、かつ、8個の永久磁石5の間に存在する8個の突極14a(例えば突極14aの中央部)に配置されている。
【0060】
永久磁石5は、同期モードにおいて永久磁石トルクを発生させる。8個の永久磁石は、回転子鉄心14に円周方向に等間隔で、かつ、回転子4の外周に現れる磁極が全周で同極となる向きに埋め込まれる。
【0061】
図1及び
図2の断面においては、各永久磁石5の円周方向の両端に第2の導体7と第3の導体8とが隣接するように配置されている。言い換えれば、第2の導体7及び第3の導体8は、複数の突極14aの間において永久磁石5を円周方向に挟むように配置される。第1の導体6は、永久磁石5を介することなく互いに対向している第2の導体7と第3の導体8との間に存在する突極14aの中央部に備えられる。
【0062】
第2の導体7及び第3の導体8のシャフト3側(内側)の端部は、永久磁石5及び第1の導体6のシャフト3側の端部よりも、シャフト3に近い位置となっているが、同じ位置や遠い位置でもよい。この位置は2次抵抗やすべり周波数を考慮して最適なモータ特性になるように設計を行う。第2の導体7及び第3の導体8の外周側(外側)の端部は、永久磁石5、第1の導体6、及び、回転子鉄心14の突極14aの外周側の端部よりも、シャフト3側に位置になっているが、ギャップ側表面部の渦電流と誘導トルク及び導体の突極部のチップ部による遠心力に対する導体の保持、スロットリプルなどを勘案して設定を行う。
【0063】
第1の導体6、第2の導体7、及び第3の導体8は、誘導モードにおいて誘導トルクを発生させる。
【0064】
回転子4は、同期モードにおいて8極として駆動可能である。また、回転子4は、誘導モードにおいて4極として駆動可能である。
【0065】
運転システム2は、センサ11、制御装置15、電源装置10a,10b、スイッチングデバイス16を備える。運転システム2は、電流の大きさと位相を切り替え可能な複数組の電源装置10a,10bが固定子12の複数組の3相巻線のそれぞれと接続されており、各電源装置10a,10bにおいて3相電流の位相を切り替えて各相の巻線のそれぞれに流れる電流位相を変化させることで複数組の3相巻線が形成する回転磁界の極数を変換する。
【0066】
センサ11は、モータ1における回転子4の回転角を検知し、回転角を示す信号を制御装置15へ送信する。
【0067】
制御装置15は、センサ11から回転角を示す信号を受信し、例えば、回転角、回転数、回転速度などを検出する。そして、制御装置15は、検出した例えば回転角及び回転速度などに基づいて、スイッチングデバイス16の導通(オン)と非導通(オフ)を制御するための信号(又は命令)をスイッチングデバイス16に送信し、電源装置10a,10bを制御するための信号を電源装置0a,10bに送信する。
【0068】
本実施形態において、制御装置15は、例えば、センサ11から受信した信号から回転速度を算出する。
【0069】
そして、制御装置15は、回転速度が閾値未満の低速域である場合に、モータ1を8極の同期モードで駆動させるために、スイッチングデバイス16のオン・オフを制御し、モータ1を8極の同期モードで駆動させるための制御信号を電源装置10a,10bへ送信する。
【0070】
制御装置15は、回転速度が閾値以上の中速又は高速域である場合に、モータ1を4極の誘導モードで駆動させるために、スイッチングデバイス16のオン・オフを制御し、モータ1を4極の誘導モードで駆動させるための制御信号を電源装置10a,10bへ送信する。
【0071】
閾値は、例えば後述するようなシミュレーションの結果に基づいてモータ1の出力及び効率が高くなるように設定されてもよい。あるいは、閾値は、モータ1の出力及び効率を実測した結果に基づいて設定されてもよい。
【0072】
閾値としては、例えば、モータ1が同期モードで駆動している場合にトルクが低下し始めた回転速度を基準とし、この回転速度より所定の値だけ速い回転速度が用いられてもよい。
【0073】
閾値としては、例えば、モータ1が同期モードで駆動している場合のトルクの最大値から一定の割合までトルクが低下する回転速度に基づいて定められてもよい。
【0074】
閾値としては、例えば、モータ1が同期モードで駆動している場合の効率と誘導トルクで駆動している場合の効率を比較して高い効率のモードで駆動するように設定されてもよい。効率比較による設定は事前に解析シミュレーションに基づいて設定されてもよく、又は駆動実験結果に基づいて予め設定されてもよい。
【0075】
閾値は、速度起電力が電源装置10a,10bの出力電圧になる回転速度、又は、任意のトルクにおける各モードが同レベルの効率になる回転速度(効率の優劣の逆転の境界)に設定されてもよい。
【0076】
同期モードの極数及び誘導モードの極数も、例えば後述するようなシミュレーションの結果に基づいてモータ1の出力及び効率が高くなるように設定されてもよい。あるいは、同期モードの極数及び誘導モードの極数は、モータ1の出力及び効率を実測した結果に基づいて設定されてもよい。
【0077】
電源装置10a,10bは、例えば、3相インバータである。
【0078】
電源装置10aは、制御装置15からの制御信号を受信し、制御信号に基づいて、制御に応じた大きさ及び位相の電流をコイル9aに供給する。
【0079】
電源装置10bは、制御装置15からの制御信号を受信し、制御信号に基づいて、制御に応じた大きさ及び位相の電流をコイル9bに供給する。
【0080】
スイッチングデバイス16は、制御装置15からの信号に基づいて、電源装置10aとモータ1内の各コイル9aとの間のオンとオフの切り替えを高速で繰り返して大きさや位相を制御した電圧波形を成形し、電圧波形をコイル9aに印加し、制御された電流をコイル9aに流す。同様に、スイッチングデバイス16は、電源装置10bと各コイル9bとの間のオンとオフの切り替えを高速で繰り返して大きさや位相を制御した電圧波形を成形し、電圧波形をコイル9bに印加し、制御された電流をコイル9bに流す。一般的には電源装置10a,10bとスイッチングデバイス(パワー半導体)16はインバータ電源として一体になっているが、スイッチングデバイス16をモータ1内に組み込んでモータコイルとスイッチングデバイス16を一体にして、電源装置10a,10bからは直流電圧を供給する構成としてもよい。このような構成によりシステムの小型化や電磁ノイズ的にメリットが得られる。
【0081】
スイッチングデバイス16は、半導体素子スイッチング回路を備えるとしてもよい。スイッチングデバイス16は、複数のパワー半導体素子を含み、コイル9a,9bに接続され、複数のパワー半導体素子のスイッチングにより複数のコイル9a,9bに流れる電流の通電タイミングを複数のコイル9a,9bごとに独立して制御し、複数のコイル9a,9bに流れる電流の位相をそれぞれ設定する。このスイッチングデバイス16の動作により、個々の電流の大きさや位相を個別に独立して制御できるため、相数や極数の変換において多様なパターンを実現可能であり、モータ1の効率の向上、トルク脈動の低減、振動や騒音の低減を実現することができる。
【0082】
同期モードにおいて、スイッチングデバイス16に備えられている半導体素子スイッチング回路は、複数のコイル9a,9bのそれぞれに流れる電流の位相を設定することにより、複数のコイル9a,9bに流れる電流の位相の組み合わせを変化させて固定子12の極数を変換する。
【0083】
誘導モードにおいて、同様にスイッチングデバイス16に備えられている半導体素子スイッチング回路は、モータ1を3相の極数変換モータとして駆動するためのスイッチングを実行する。
【0084】
例えば、多くの分野で実用的に使用されている量産技術や量産製造装置を活用し、複数組の3相インバータや3相インバータのモジュール回路と複数組の3相巻線を接続し、インバータ回路内のスイッチングデバイスを含む電源装置を、複数の3相インバータで構成し、各3相インバータで独立して3相電流の位相を替えることにより、モータ1の回転磁界の極数を替えてもよい。
【0085】
さらに、相数や極数を任意に替えるために、複数組の3相インバータや3相巻線の数を増やしてもよい。また、3相インバータではなく、多数の単相インバータ回路を各コイルに接続し、単相インバータの電流位相の設定を替えることにより、相数と極数の変換の自由度を増してもよい。
【0086】
図3は、本実施形態に係るモータ1の駆動状態の例を示すグラフである。
【0087】
モータ1のトルクは、モータ1がある回転速度V0以下の低速で回転している場合にほぼ一定に推移し、最大値Tmaxとなる。モータ1の回転速度がある回転速度V0を超えると、モータ1の回転が速くなるほどモータ1のトルクは低下する。
【0088】
本実施形態の例では、トルクの値が最大値Tmaxからある割合(例えばおよそ2分の1)まで低下する回転速度を閾値Vthとしている。
【0089】
回転速度が閾値Vth未満の範囲を低速域とし、回転速度が閾値Vth以上の範囲を中速域又は高速域とする。
【0090】
制御装置15は、回転速度が低速域の場合に、モータ1を8極の同期モータとして、すなわち8極の同期モードで駆動させる制御を実行する。
【0091】
制御装置15は、回転速度が中速域又は高速域の場合に、モータ1を4極の誘導モータとして、すなわち4極の誘導モードで駆動させる制御を実行する。
【0092】
本実施形態において、中速域又は高速域におけるモータ1の極数は、低速域におけるモータの極数よりも少ない。このような場合、中速域又は高速域の電流周波数は、低速域の電流周波数より低くても中速や高速回転速度でモータ1を駆動可能である。
【0093】
本実施形態においては、モータ1の回転速度が高速に変化した場合に電流周波数を高周波数から低周波数へ変化させ、モータ1の鉄損の低減とインピーダンスの低減により電圧余裕を確保することができる。言い換えれば、本実施形態に係るモータ1においては、中速域又は高速域において、電圧制限下で出力を増加させることができる。さらに、モータ1においては、中速域又は高速域において、高周波損失を低減することができる。
【0094】
図4は、本実施形態に係るモータ1を制御する制御装置15の処理の例を示すフローチャートである。
【0095】
ステップS401において、制御装置15は、センサ11から回転角を示す信号を受信し、センサ11から受信した信号に基づいて回転速度を算出(取得)する。
【0096】
ステップS402において、制御装置15は、回転速度が閾値Vth未満か否かを判断する。
【0097】
回転速度が閾値Vth未満である場合、ステップS403aにおいて、制御装置15は、モータ1を8極の同期モードで駆動させるためにスイッチングデバイス16のオン/オフを制御し、モータ1を8極同期モードで駆動させるための制御信号を電源装置10a,10bへ送信する。その後処理はステップS404へ移動する。
【0098】
回転速度が閾値Vth以上である場合、ステップS403bにおいて、制御装置15は、モータ1を4極誘導モードで駆動させるためにスイッチングデバイス16のオン/オフを制御し、モータ1を4極誘導モードで駆動させるための制御信号を電源装置10a,10bへ送信する。その後処理はステップS404へ移動する。
【0099】
ステップS404において、制御装置15は、モータ1の駆動の終了条件を満たすか否か判断する。
【0100】
モータ1の終了条件を満たさない場合、処理はステップS401へ移動する。
モータの終了条件を満たす場合、処理は終了する。
【0101】
以下で、本実施形態に係るモータ1のシミュレーションの結果例を説明する。
【0102】
表1は、シミュレーションに用いられたモータ1の諸元の例を示す。
【表1】
【0103】
極数は、同期モードで8、誘導モードで4とする。
【0104】
固定子12の外径は200mm、固定子12のスロット数は48、コイル9a,9bのターン数は5、巻き線抵抗は0.0066オーム/位相、定格の電流密度は19.2A/mm2とする。
【0105】
回転子4の外径は129.6mm、回転子4のスロット数は24とする。
【0106】
エアギャップ長は0.5mmとする。
【0107】
鉄心の長さは、141mmとする。
【0108】
本実施形態に係るシミュレーションでは、有限要素法電磁界解析ソフトウェアの過渡応答解析を用いて、同期モードの特性と誘導モードの駆動の特性を検討する。
【0109】
本シミュレーションでは、同期速度を3000rpmから15000rpmとして解析する。
【0110】
図5は、8極同期モード(同期駆動)におけるトルク-電流位相特性の例を示すグラフである。
【0111】
図5の横軸は電流位相を示す。電流位相はq軸からの角度である。縦軸はトルクを示す。
【0112】
図5の例では、同期モードにおけるトルクである同期トルク、同期トルクの成分の永久磁石トルク、同期トルクの成分のリラクタンストルクの3つのトルクの変化を示している。
【0113】
電流位相をq軸から40度進めた位置でトルクは最大の289Nmとなる。
【0114】
図6は、4極誘導モードにおけるトルク-すべり特性の例を示すグラフである。
【0115】
【0116】
図6の例では、3000rpm、6000rpm、9000rpm、12000rpm、15000rpmという5種類の回転速度に関するトルクの変化を示している。
【0117】
図6において、誘導トルクは最大で102Nm程度である。
【0118】
図5及び
図6から、同期モードにおけるトルクは、誘導モードにおけるトルクよりも、180%程度大きいことが理解できる。
【0119】
図7は、8極同期モードにおける効率の変化例を示すグラフである。
【0120】
【0121】
図7の例では、3000rpm、6000rpm、9000rpm、12000rpm、15000rpmという5種類の回転速度に関する効率の変化を示している。
【0122】
8極同期モードにおける最大効率は98%程度となる。
【0123】
図8は、4極誘導モードにおける効率の変化例を示すグラフである。
【0124】
【0125】
図8の例では、3000rpm、6000rpm、9000rpm、12000rpm、15000rpmという5種類の回転速度に関する効率の変化を示している。
【0126】
4極誘導モードにおける最大効率は93%となる。
【0127】
図7及び
図8から、同期モードは、誘導モードよりも、高出力で高効率となることが理解できる。
【0128】
しかしながら、同期モードは、高速域でコイル9a,9bに発生する速度起電力(誘起電圧)が過大となり、インバータの出力電圧を越える。速度起電力が過大となることを防止するために、同期モードにおいて弱め磁束制御を用いると、9000rpm(基底速度3000rpmの3倍)以上では電流位相は約80度以上まで進む。このような状態で同期モードではモータ1の効率が90%以下に低下する。
【0129】
一方、誘導モードは、9000rpm以上において駆動電圧上限(基底速度の電圧)以下の電圧では、すべりが0.1以下となり、90%以上の高効率になる。
【0130】
上記の
図6から
図8までのシミュレーション結果から、制御装置15は、例えば、モータ1を、回転速度が0rpmから9000rpm未満までの低速域で同期モードにより駆動させ、回転速度が9000rpm以上の中速域又は高速域で誘導モードにより駆動させる。
【0131】
これにより、各回転速度で高効率にモータ1を運転することができる。
【0132】
以上説明した本実施形態に係るモータ1は、同期モードにおいて多相巻線で形成する回転磁界の極数が回転子4の永久磁石5の数及び回転子鉄心14の突極14aの数のいずれとも同じであり、回転磁界と永久磁石5との間で生じる磁気吸引力と磁気反発力の永久磁石トルク、及び、回転磁界と回転子鉄心14の突極14aで生じる磁気吸引力により回転子4を固定子12に対して相対的に回転させる。モータ1は、誘導モードにおいて多相巻線で形成する回転磁界の極数が回転子4の永久磁石5の数及び突極14aの数と異なり、回転磁界と、回転磁界によって回転子4の導体7,8に誘導された誘導電流が作用して生じた誘導トルクにより回転子4を固定子12に対して相対的に回転させる。
【0133】
モータ1は、複数の突極14aのそれぞれに誘導トルク発生用の導体6をさらに備える。モータ1は、誘導モードにおいて多相巻線で生じる回転磁界と、回転磁界によって突極14a内の導体6に誘導された誘導電流が作用して生じた追加の誘導トルクが永久磁石トルクと誘導トルクに追加されて回転子4を固定子12に対して相対的に回転させる。
【0134】
永久磁石5は低保磁力の磁気特性を持つとしてもよい。この場合、モータ1は、誘導モードにおいては、多相巻線に負のd軸電流成分を含む多相交流電流を与え、負のd軸電流で発生した減磁界が低保磁力の永久磁石5の磁化を減磁状態にし、同期モードに戻すときに正のd軸電流で発生した増磁界が低保磁力の永久磁石5の磁化を増磁状態にする。
【0135】
例えば、モータ1の複数組の多相巻線には、複数組の多相電流の電源装置10a,10b(複数組の多相インバータ)が接続される。複数組の電源装置10a,10bは、電流位相を設定して変更し、固定子12の回転磁界の極数変換を行うとしてもよい。モータ1は、回転子4を永久磁石5と同数の突極数を有する形状とすることにより同期モードにおいて、リラクタンストルクも併用して回転させてもよい。
【0136】
上記のようなモータ1は、低速から高速、軽負荷から高負荷までの広範囲において、高出力で高効率に運転可能である。
【0137】
本実施形態においては、中速域又は高速域で適用される誘導モードの極数を、低速域で適用される同期モードの極数より少なくすることにより、高速域において低周波数の電流でモータ1を駆動させることができる。
【0138】
本実施形態においては、モータ1の回転速度が高速に変化した場合に電流周波数を高周波数から低周波数へ変化させ、鉄損の低減とインピーダンスの低減により電圧余裕を確保することができる。
【0139】
本実施形態に係るモータ1においては、中速域又は高速域において、電圧制限下で出力を増加させることができ、高周波損失を低減することができる。
【0140】
本実施形態において、回転子4の永久磁石5は低保磁力の磁気特性を持つとしてもよい。低保磁力の永久磁石5の保磁力は減磁と増磁し易さと負荷電流による磁界による意図しない不可逆減磁を避けるために100~300kA/m程度が好適である。誘導モードにおいては、2組の3相巻線に負のd軸電流成分を含む3相交流電流を与え、負のd軸電流で発生した減磁界が低保磁力の永久磁石に作用して永久磁石の磁化が減少した状態にする。これによって、誘導モードにおいて永久磁石5による鉄損は大幅に減少するので誘導モードにおけるモータの効率が向上する。さらに負のd軸電流を増やして低保磁力の永久磁石を減磁させて磁化をゼロの状態にする。この場合には、誘導モードにおいて永久磁石5による鉄損はゼロになり、誘導モードにおけるモータ1の効率がさらに向上する。次に低速になって同期モードで駆動する場合は、このままの減磁状態でもリラクタンストルク成分によって8極でモータ1を駆動できる。始めと同様な状態に戻して同期モードでリラクタンストルクのみでなく永久磁石トルクも併用して駆動する場合は、低保磁力の永久磁石の磁化が減磁した状態から、正のd軸電流を2組の3相巻線に流して発生した増磁界が低保磁力の永久磁石の磁化が始めの増磁状態に戻る。モータ1をこの増磁状態で同期駆動すれば、始めの8極で最大のトルクを発生することができる。
【0141】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、構成要素を削除、付加又は変更等をしてもよい。また、複数の実施形態について構成要素を組合せ又は交換等をすることで、新たな実施形態としてもよい。このような実施形態が上述した実施形態と直接的に異なるものであっても、本発明と同様の趣旨のものは、本発明の実施形態として説明したものとして、その説明を省略している。
【符号の説明】
【0142】
1…モータ、2…運転システム、3…シャフト、4…回転子、5…永久磁石、6…第1の導体、7…第2の導体、8…第3の導体、9a,9b…コイル、10a,10b…電源装置、11…センサ、12…固定子、13…固定子鉄心、14…回転子鉄心、14a…突極、15…制御装置、16…スイッチングデバイス