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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125714
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】脂質二重膜における貫通孔形成制御
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230831BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N1/00 N
C12N15/63 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029968
(22)【出願日】2022-02-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1)ウェブサイトの掲載日 2021年7月9日 ウェブサイトのアドレス https://microtas2021.org/ https://microtas2021.org/program/MicroTAS2021_Program.pdf (その2)ウェブサイトの掲載日 2021年9月27日 ウェブサイトのアドレス https://microtas2021.org/ https://microtas2021.org/cgi-bin/download.cgi (その3)開催日 2021年10月11日(開催期間:2021年10月10日~2021年10月14日) 集会名、開催場所 MicroTAS 2021(The 25th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences)(オンライン開催)
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】外岡 大志
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 達彦
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】脂質二重膜において貫通孔を形成させ、また、脂質二重膜に形成された該貫通孔を消失させる上で有用な技術を提供することを目的とする。
【解決手段】プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパク質をコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド、ここで、膜タンパク質は、膜タンパク質、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパク質をコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド、
ここで、膜タンパク質は、αヘモリシン、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【請求項2】
前記分解酵素認識タグが、ssrAタグである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
(a-1)請求項1もしくは2に記載するポリヌクレオチドを用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させる工程、及び
(a-2)前記分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を、脂質二重膜と共存させる工程、または
(b)脂質二重膜との共存下で、請求項1もしくは2に記載するポリヌクレオチドを用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させる工程、
を含有する、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔を有する脂質二重膜の製造方法、
ここで、膜タンパク質は、αヘモリシン、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脂質二重膜における貫通孔形成制御に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質二重膜で形成されたカプセル(小胞体)はリポソームと呼ばれ、従来、ドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアとして利用されている(非特許文献1)。近年では、外部刺激(特定の物質の添加等)に応答して脂質二重膜カプセルの内部の物質を外部に放出させる研究も進められている。このような研究は、目的部位において外部刺激に応答して薬剤放出を行うDDSとしての応用が期待されている。
【0003】
例えば、αヘモリシンは、脂質二重膜中で自発的に直径1~2nm程度の貫通孔を形成する性質を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の膜タンパク質として知られている。外部刺激に応答して、脂質二重膜カプセル内でαヘモリシンを発現させ、αヘモリシンにより形成された貫通孔を介して、脂質二重膜カプセル内部から外部へ薬剤等の物質を放出させる技術の研究も進められている。
【0004】
しかし、このようにして形成された貫通孔は閉じることができず、貫通孔が一旦形成されると、脂質二重膜カプセル内の物質が枯渇するまで、脂質二重膜カプセル内部からの物質放出を止めることができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】丸山 典夫ら、特集2 ドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究開発動向、科学技術動向、2002年12月号、pp.25-34.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、脂質二重膜カプセル内部から外部へ物質を放出することができ、また、該放出を止めることが可能な技術の確立は、脂質二重膜カプセル内の物質を外部に放出する量や放出場所等を制御できる点で有用であると考えた。このことから、本開示は、脂質二重膜において貫通孔を形成させ、また、脂質二重膜に形成された該貫通孔を消失させる上で有用な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、膜タンパク質であるαヘモリシン等に着目し、膜タンパク質によって脂質二重膜に貫通孔を形成することができ、且つ、形成された貫通孔を消失することが可能な手段について検討した。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、αヘモリシンに分解酵素認識タグを連結させた場合であっても、該αヘモリシンを用いて脂質二重膜に貫通孔を形成できることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねて完成されたものであり、本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
項1.プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパク質をコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド、
ここで、膜タンパク質は、αヘモリシン、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種である。
項2.前記分解酵素認識タグが、ssrAタグである、項1に記載のポリヌクレオチド。
項3.(a-1)項1もしくは2に記載するポリヌクレオチドを用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させる工程、及び
(a-2)前記分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を、脂質二重膜と共存させる工程、または
(b)脂質二重膜との共存下で、項1もしくは2に記載するポリヌクレオチドを用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させる工程、
を含有する、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔を有する脂質二重膜の製造方法、
ここで、膜タンパク質は、αヘモリシン、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0008】
本開示のポリヌクレオオチドによれば、分解酵素認識タグと連結した、αヘモリシン、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種の膜タンパク質を提供することができる。本開示によれば、分解酵素認識タグと連結した該膜タンパク質によって貫通孔が形成された脂質二重膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示のポリヌクレオチドを用いて発現させたssrAタグ連結αHL(実施例1)の、ポリアクリルアミド電気泳動の結果(36.7kDa付近)を示す。
図2図2は、天然αHLを用いた場合に認められる、ステップ状の電流波形のモデル図を示す。
図3図3は、ssrAタグ連結αHL(実施例1)と脂質二重膜と共存させた場合に認められる、ステップ状の電流波形を示す。
図4図4は、ssrAタグ連結αHLを脂質二重膜と共存させた場合の、電流値と印加電圧との関係を示す
図5図5は、ssrAタグ連結αHLを脂質二重膜と共存させた場合の、コンダクタンス値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。なお、本開示において「含有する」は、「実質的にからなる」、「からなる」という意味も包含する。
【0011】
1.ポリヌクレオチド
本開示は、プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパクをコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチドを包含する。ここで、膜タンパクは、αヘモリシン、ストレプトリシンO及びエロリジンからなる群より選択される少なくとも1種の膜タンパクである。
【0012】
αヘモリシンは、脂質二重膜において自発的に直径(平均直径)1~2nm程度の貫通孔を形成する性質を有する、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の膜タンパク質として知られている。αヘモリシンをコードするアミノ酸配列や該アミノ酸をコードする塩基配列は公知であり、例えばNCBI等の各種データベース上で容易に得ることができる。
【0013】
本開示を制限するものではないが、αヘモリシンとして、配列番号1で表されるアミノ酸配列で特定されるタンパク質が例示される。該アミノ酸配列をコードする塩基配列として、配列番号2で表される塩基配列が例示される。
【0014】
αヘモリシンは、その活性を損なわない範囲で、アミノ酸配列の変異(例えば、1または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加)を有していてもよい。この観点から、αヘモリシンとして、配列番号1で表されるアミノ酸配列と、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、その活性(脂質二重膜中で貫通孔を形成する特性)を有するものが例示される。または、同様の観点から、αヘモリシンとして、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対して、1または複数個(1~30個、1~28個、1~20個、1~15、1~10個、1~5個、1~3個、1または2個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、その活性を有するものが例示される。ここで、活性(脂質二重膜中で貫通孔を形成する特性)とは、配列番号1で表されるアミノ酸配列でコードされるαヘモリシンと同等に脂質二重膜において貫通孔を形成できる特性を意味する。該活性を有するかどうかは、従来公知の手順に従い決定すればよく、好ましくは後述の実施例に示す手順に従い、配列番号1で表されるアミノ酸配列でコードされるαヘモリシンを用いた場合と同様に、前記変異後のαヘモリシンを用いた場合も脂質二重膜中で貫通孔を形成できるかどうかに基づいて決定すればよい。前者と同様に貫通孔を形成できる場合、活性を有すると判断する。該変異において好ましくはアミノ酸の保存的置換が例示される。
【0015】
本開示を制限するものではないが、αヘモリシンのアミノ酸配列の一例として、配列番号3で表されるアミノ酸配列が挙げられる。これは、NCBIのアクセッション番号ABD30233(VERSION番号ABD30233.1)に特定される、黄色ブドウ球菌由来のαヘモリシンのタンパク質をコードするアミノ酸配列に相当する。
【0016】
また、αヘモリシンは市販されており、配列番号3で表されるアミノ酸配列のうち27番目以降のアミノ酸配列に基づいてαヘモリシンのタンパク質を合成する市販品も存在する。このように、αヘモリシンのアミノ酸配列の一例として、配列番号3のうち27番目~293番目の配列で表されるアミノ酸配列が挙げられる。
【0017】
なお、配列番号3のうち27番目~293番目のアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列において2個のアミノ酸が置換した配列に相当する。また、配列番号3のアミノ酸配列は、配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端に1~26個のアミノ酸が付加し且つ前述と同様に2個のアミノ酸が置換した配列に相当する。このことから、本開示を制限するものではないが、配列番号1における前記変異として、配列番号1のN末端に1~26個の範囲内の数でアミノ酸が付加されているか、配列番号1で表されるアミノ酸配列において1または複数個(1~5個、1~3個、1または2個)のアミノ酸が欠失若しくは置換されているか、配列番号1のN末端に1~26個の範囲内の数でアミノ酸が付加され且つ配列番号1で表されるアミノ酸配列において1または複数個(1~5個、1~3個、1または2個)のアミノ酸が欠失若しくは置換されていることが好まししい一例として挙げられる。
【0018】
本開示においてアミノ酸配列の同一性は、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対するアミノ酸配列の一致の程度をいう。アミノ酸配列の同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。若しくは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin S,Altschul SF.“Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by us ing general scoringschemes” Proc Natl Acad Sci USA.87:2264-2268 1990)、Karlin S,Altschul SF.“Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences.”Proc Natl Acad Sci USA.90:5873-7(1993))に基づいて決定できる。このようなBLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェエブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。
【0019】
本開示において、保存的置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。例えば、アルギニン、リジン、ヒスチジンといった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが保存的な置換にあたる。また、そのほかの例として、アスパラギン酸、グルタミン酸といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システインといった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファンといった非極性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;スレオニン、バリン、イソロイシンといったβ分枝側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されること;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジンといった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることも、保存的な置換にあたる。
【0020】
このことから、本開示において、αヘモリシンは、配列番号2で表される塩基配列において変異(例えば、1または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加)を有していてもよい。この観点から、該変異は、前記アミノ酸配列をコードする限り制限されず、αヘモリシンの塩基配列として、配列番号2で表される塩基配列と、例えば80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、該塩基配列がコードするアミノ酸配列により特定されるタンパク質が前記活性を有する塩基配列が例示される。または、配列番号2で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、該塩基配列がコードするタンパク質が前記活性を有する塩基配列が例示される。
【0021】
ここで、活性は前述と同様に説明され、すなわち、配列番号2で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列により特定されるαヘモリシンと同等に脂質二重膜において貫通孔を形成できる特性を意味する。該活性を有するかどうかも前述と同様に、従来公知の手順に従い決定すればよく、好ましくは後述の実施例に示す手順に従い、配列番号2で表される塩基配列がコードするアミノ酸配列により特定されるαヘモリシンを用いた場合と同様に、前記変異後のαヘモリシンを用いた場合も脂質二重膜中で貫通孔を形成できるかどうかに基づいて決定すればよい。前者と同様に貫通孔を形成できる場合、活性を有すると判断する。
【0022】
本開示において塩基配列の同一性は、2以上の対比可能な塩基配列の、お互いに対する塩基配列の一致の程度を意味し、該同一性も従来公知の一般的な手法に従い決定される。該変異において好ましくはアミノ酸の保存的置換となる変異が例示される。また、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ」するとは、標準的なハイブリダイゼーション条件下に、2つのポリヌクレオチド断片が互いにハイブリダイズできることを意味し、本条件は、Sambrook et al., Molecular Cloning : A laboratory manual (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, USAに記載されている。より具体的には、「ストリンジェントな条件」とは、6.0xSSC中、約45℃にてハイブリダイゼーションを行い、そして2.0xSSCによって50℃にて洗浄することを意味する。
【0023】
ストレプトリシンOは、脂質二重膜において自発的に直径(平均直径)25~30nm程度の貫通孔を形成する性質を有する、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来の公知の膜タンパク質である。ストレプトリシンOをコードするアミノ酸配列や該アミノ酸をコードする塩基配列は公知であり、例えばNCBI等の各種データベース上で容易に得ることができる。本開示を制限するものではないが、ストレプトリシンOのタンパク質をコードするアミノ酸配列として配列番号4で表されるアミノ酸配列が挙げられる。これは、UniProt(https://www.uniprot.org/)のアクセッション番号P0DF96により特定される。ストレプトリシンOにおけるアミノ酸配列等の変異も、前述のαヘモリシンにおける変異と同様に説明される。
【0024】
エロリジンは、脂質二重膜において自発的に直径(平均直径)1~3nm程度の貫通孔を形成する性質を有する、エロモナス ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)由来の公知の膜タンパク質である。エロリジンをコードするアミノ酸配列や該アミノ酸をコードする塩基配列は公知であり、例えばNCBI等の各種データベース上で容易に得ることができる。本開示を制限するものではないが、エロリジンのタンパク質をコードするアミノ酸配列として配列番号5で表されるアミノ酸配列が挙げられる。これは、UniProtのアクセッション番号P09167により特定される。エロリジンにおけるアミノ酸配列等の変異も、前述のαヘモリシンにおける変異と同様に説明される。
【0025】
分解酵素認識タグとしては、本開示を制限するものではないが、ssrAタグが例示される。分解酵素認識タグは、該タグを認識するタンパク質分解酵素の目印となるものであり、該タグがタンパク質分解酵素に認識されることによって、該タグに連結されたタンパク質が、タンパク質分解酵素により分解されるというものである。
【0026】
本開示を制限するものではないが、ssrAタグについて説明すると、ssrAタグは従来公知の分解酵素認識タグである。ssrAタグを認識可能なタンパク質分解酵素は知られており、該タンパク質分解酵素としてClpXP、Lon、FtsH、ClpAP、HslUV、Tsp等が例示さる。該タンパク質分解酵素として、好ましくはClpXP、Lon等が例示される。
【0027】
このようなssrAタグとして、様々な由来のssrAタグが公知である。例えば、配列番号6で表されるアミノ酸配列(AANDENYALAA)で特定されるポリペプチドが例示され、これは、Uniportのアクセッション番号Q5D4Q8に相当する、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)由来のssrAタグである。該配列からなるssrAタグとして大腸菌(Escherichia coli)由来のssrAタグも公知である。該アミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号7で表される塩基配列が例示される。
【0028】
また、カウロバクター クレセントス(Caulobacter crescentus)由来のssrAタグとして配列番号8で表されるアミノ酸配列(AANDNFAEEFAVAA)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)由来のssrAタグとして配列番号9で表されるアミノ酸配列(AANDETYALAA)、ミクソコッカ スザンサス(Myxococcus xanthus)由来のssrAタグとして配列番号10で表されるアミノ酸配列(AANDNVELALAA)、ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)由来のssrAタグとして配列番号11で表されるアミノ酸配列(AVNNTDYAPAYAKAA)、マイコバクテリウム ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)由来のssrAタグとして配列番号12で表されるアミノ酸配列(AADSHQRDYALAA)、ボツリヌス菌 (Clostridium botulinum)由来のssrAタグとして配列番号13で表されるアミノ酸配列(AANDNFALAA)、バチルス サブティリス(Bacillus subtilis)由来のssrAタグとして配列番号14で表されるアミノ酸配列(AGKTNSFNQNVALAA)、ストレプトコッカス ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のssrAタグとして配列番号15で表されるアミノ酸配列(AAKNTNSYALAA)、メソプラズマ フローラム(Mesoplasma florum)由来のssrAタグとして配列番号16で表されるアミノ酸配列(AANKNEENTNEVPTFMLNAGQANYAFA)、ウレアプラズマ パルバム(Ureaplasma parvum)由来のssrAタグとして配列番号17で表されるアミノ酸配列(AAENKKSSEVELNPAFMASATNANYAFAY)、マイコプラズマ ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)由来のssrAタグとして配列番号18で表されるアミノ酸配列(ADKENNEVLVDPNLIINQQASVNFAFA)、マイコプラズマ ニューモニア(Mycoplasma pneumoniae)由来のssrAタグとして配列番号19で表されるアミノ酸配列(ADKNNDEVLVDPMLIANQQASINYAFA)、ファイトプラズマ アステリス(Phytoplasma asteris)由来のssrAタグとして配列番号20で表されるアミノ酸配列(AGNNKQTVTNTQDFAGQTPVYQMNFANSFSSQLAFA)、ユーバクテリウム ドリカム(Eubacterium dolichum)由来のssrAタグとして配列番号21で表されるアミノ酸配列(AGKTKFANIFGANQSVAFAA)、プロクロロコッカス マリヌス(Prochlorococcus marinus)由来のssrAタグとして配列番号22で表されるアミノ酸配列(AANKIVSFSRQTAPVAA)、アクウィフェクス アエロリクス(Aquifex aeolicus)由来のssrAタグとして配列番号23で表されるアミノ酸配列(AAPEAELALAA)、テルモトガ マリティマ(Thermotoga maritima)由来のssrAタグとして配列番号24で表されるアミノ酸配列(AANEPVAVAA)、デイノコッカス ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来のssrAタグとして配列番号25で表されるアミノ酸配列(AGNQNYALAA)等が例示される。
【0029】
また、本開示を制限するものではないが、ssrAタグとして配列番号26で表されるアミノ酸配列(NYALAA)が例示される。該配列は、ClpXP等のタンパク質分解酵素に認識されるssrAタグにおいて比較的共通して認められる配列ともいえる。また、ssrAタグとして配列番号27で表されるアミノ酸配列(NYAFA)が例示され、該配列もタンパク質分解酵素に認識される一部のssrAタグに共通して認められる配列であり、好ましいタンパク質分解酵素としてLonが例示される。
【0030】
ssrAタグはいずれも、その活性を損なわない範囲で、アミノ酸配列の変異(例えば、1または複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加)を有していてもよい。この観点から、ssrAタグとして、配列番号6で表されるアミノ酸を例に挙げて説明すると、配列番号6で表されるアミノ酸配列と、45%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、好ましくは95%%以上、より好ましくは98%以上、99%、99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つ、その活性(タンパク質分解酵素に認識されるという特性)を有するものが例示される。または、同様の観点から、ssrAタグとして、配列番号6で表されるアミノ酸配列に対して、1または複数個(1~5個、1~3個、1または2個)のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、その活性を有するものが例示される。ここで、活性(タンパク質分解酵素に認識されるという特性)とは、該変異を有するポリペプチドからなるssrAタグが、配列番号6で表されるアミノ酸配列でコードされるポリペプチド配列からなるssrAタグと同等に、該タグを目印とするタンパク質分解酵素に認識されることを意味する。該活性を有するかどうかは、配列番号6で表されるアミノ酸配列でコードされるポリペプチドからなるssrAタグを連結した膜タンパク質と同様に、配列番号6において変異を有するアミノ酸配列コードされるポリペプチドからなるssrAタグを連結した膜タンパク質が、タンパク質分解酵素に認識されることにより膜タンパク質が分解されるかどうかに基づいて決定すればよい。前者と同様に膜タンパク質が分解される場合、活性を有すると判断する。
【0031】
このことから、本開示において、ssrAタグは、配列番号7で表される塩基配列において変異(例えば、1または複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加)を有していてもよい。この観点から、ssrAタグの塩基配列として、配列番号7で表される塩基配列と、例えば50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、且つ、該塩基配列がコードするアミノ酸配列により特定されるポリペプチドが前記活性を有する塩基配列が例示される。または、同様の観点から、ssrAタグとして、配列番号7で表される塩基配列に対して、1または複数個(1~15個、1~10個、1~5個、1~3個、1または2個)の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つ、該塩基配列がコードするアミノ酸配列により特定されるポリペプチドが前記活性を有する塩基配列が例示される。または、配列番号7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的なDNA配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つ、該塩基配列がコードするポリヌクレオチドが前記活性を有する塩基配列が例示される。
【0032】
該変異において、配列同一性、アミノ酸の保存的置換、ストリンジェントな条件等は前述と同様に説明される。
【0033】
このように変異について配列番号6及び7を例に挙げて説明するが、該変異の説明は、配列番号8~27のいずれかで表されるアミノ酸配列についても、配列番号6を配列番号8~27の各配列に置き換える以外は、同様にして説明される。また、配列NYALAA(配列番号26)またはNYAFA(配列番号27)を含むssrAでは、NYALAAまたはNYAFAの配列を保持した変異が好ましく例示される。
【0034】
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。使用するタグに応じて、該タグを認識可能なタンパク質分解酵素を適宜選択すればよい。
【0035】
なお、本開示においてタンパク質とポリペプチドは本分野において通常の意味であり、通常、膜タンパク質についてはタンパク質、ssrAタグ等のタグについてはポリペプチドと称されていることから、これに従い、αヘモリシン、ストレプトリシンO、エロリジンについてタンパク質、分解酵素認識タグについてポリペプチドと記載する。
【0036】
本開示を制限するものではないが、αヘモリシンをコードする塩基配列と分解酵素認識タグをコードする塩基配列とを連結させたポリヌクレオチドの例として、配列番号28で表される塩基配列が例示される。配列番号28において、85~963番目の塩基配列が、配列番号2で表される塩基配列に相当し、1042~1074番目の塩基配列が、配列番号7で表される塩基配列に相当する。該ポリヌクレオチドは後述の実施例で用いたポリヌクレオチドであり、後述の通り、プロモーター等を含むポリヌクレオチドである。
【0037】
本開示のポリヌクレオチドにおいて、膜タンパク質をコードする塩基配列は、プロモーター制御下に配置される。プロモーターは特に制限されず、従来公知のプロモーターを適宜選択すればよい。プロモーターとして、本開示を制限するものではないが、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、シグマ70プロモーター、シグマ28プロモーター、シグマ35プロモーター、シグマ54プロモーター等が例示される。プロモーターとして、好ましくはT7プロモーター、シグマ70プロモーター等が例示される。
【0038】
また、本開示のポリヌクレオチドにおいて、該プロモーターとして、刺激応答性プロモーターが好ましく例示される。該刺激として、pH、温度、特定物質、光等が例示される。各種刺激応答性プロモーターやその作成方法は公知である。これらは、刺激に応じて、分解酵素認識タグ付き膜タンパク質の発現(発現環境等)を制御できることから、脂質二重膜における貫通孔形成の時期等の制御を容易にする点で好ましい。
【0039】
本開示において該プロモーターは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
本開示のポリヌクレオチドにおいて、膜タンパク質をコードする塩基配列と分解酵素認識タグをコードする塩基配列とは、一つのプロモーター制御下に配置されてもよく、別々のプロモーター制御下に配置されてもよい。本開示を制限するものではないが、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を効率よく発現させる観点から、膜タンパク質をコードする塩基配列と分解酵素認識タグをコードする塩基配列とが一つのプロモーター制御下に配置されることが好ましく例示される。また、本開示のポリヌクレオチドにおいて、膜タンパク質をコードする塩基配列と分解酵素認識タグをコードする塩基配列とが別々のプロモーター制御下に配置される場合、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を効率よく発現させる観点から、膜タンパク質をコードする塩基配列を制御するプロモーターと分解酵素認識タグをコードする塩基配列を制御するプロモーターとが互いに連動して分解酵素認識タグ連結α膜タンパク質を発現するプロモーターが好ましく例示される。
【0041】
本開示において分解酵素認識タグ連結膜タンパク質とは、分解酵素認識タグが連結した膜タンパク質を意味する。
【0042】
本開示のポリヌクレオチドにおいて、膜タンパク質をコードする塩基配列と分解酵素認識タグをコードする塩基配列は、発現された分解酵素認識タグ連結α膜タンパク質が、分解酵素認識タンパク質分解酵素に認識されることによって膜タンパク質が分解される限りにおいて、直接連結されていてもよく間接的に連結されていてもよい。
【0043】
本開示のポリヌクレオチドは、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現できる限り、必要に応じて、任意の他の塩基配列を含んでいてもよい。該配列として、リボソーム結合配列、開始コドン、終止コドン、ターミネーター、各種リンカー(例えばGGSSGGSSGG(配列番号29)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号30)、GSGSGS(配列番号31)等)等が例示される。また、発現させた分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の精製を容易にすること目的として、従来公知のタグ等を用いてもよく、例えばヒスチジンタグ(ヒスチジン残基数5以上、好ましくは5~10、5~8等)、FLAGタグ(ペプチド配列:DYKDDDDK(配列番号32)、ペプチド分子数1分子以上、好ましくは1分子~10分子(DYKDDDDKをペプチド1分子とする、以下、同様に説明される))、HAタグ(ペプチド配列:YPYDVPDYA(配列番号33)、ペプチド分子数1分子以上、好ましくは1分子~3分子)、Mycタグ(ペプチド配列:EQKLISEEDL(配列番号34)、ペプチド分子数1分子以上、好ましくは1分子~10分子)、V5タグ(ペプチド配列:GKPIPNPLLGLDST(配列番号35)、ペプチド分子数1分子以上、好ましくは1分子~10分子)、GST(Glutathione-S-transferase、タンパク質分子数1分子以上、好ましくは1分子~3分子)、MBP(Maltose Binding Protein、タンパク質分子数1分子以上、好ましくは1分子~3分子)等が例示される。該配列として、好ましくはリボソーム結合配列、開始コドン、終止コドン、ターミネーター、リンカー、ヒスチジンタグ等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
本開示のポリヌクレオチドとして、本開示を制限するものではないが、一実施形態として、その上流から下流方向へ(5’末端から3’末端の方向へ)、プロモーター、膜タンパク質をコードする塩基配列、分解酵素認識タグをコードする塩基配列の順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。また、本開示のポリヌクレオチドの一実施形態として、その上流から下流方向へ(5’末端から5’末端の方向へ)、プロモーター、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、膜タンパク質をコードする塩基配列の順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。このように、分解酵素認識タグをコードする塩基配列は、膜タンパク質をコードする塩基配列の3’末端側に連結されていてもよく、5’末端側に連結されていてもよい。
【0045】
本開示のポリヌクレオチドの一実施形態として、その上流から下流方向へ、プロモーター、リボソーム結合配列、開始コドン、膜タンパク質をコードする塩基配列、リンカー、ヒスチジンタグ、リンカー、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、終止コドンの順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。
【0046】
本開示のポリヌクレオチドの一実施形態として、その上流から下流方向へ、プロモーター、リボソーム結合配列、開始コドン、膜タンパク質をコードする塩基配列、リンカー、ヒスチジンタグ、リンカー、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、終止コドン、ターミネーターの順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。
【0047】
本開示のポリヌクレオチドの一実施形態として、その上流から下流方向へ、プロモーター、リボソーム結合配列、開始コドン、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、リンカー、膜タンパク質をコードする塩基配列、リンカー、ヒスチジンタグ、終止コドン、ターミネーターの順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。
【0048】
本開示のポリヌクレオチドの一実施形態、その上流から下流方向へ、プロモーター、リボソーム結合配列、開始コドン、ヒスチジンタグ、リンカー、膜タンパク質をコードする塩基配列、リンカー、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、終止コドン、ターミネーターの順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。
【0049】
本開示のポリヌクレオチドの一実施形態として、その上流から下流方向へ、プロモーター、リボソーム結合配列、開始コドン、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、リンカー、ヒスチジンタグ、リンカー、膜タンパク質をコードする塩基配列、終止コドン、ターミネーターの順で連結されているポリヌクレオチドが例示される。
【0050】
また、分解酵素認識タグをコードする塩基配列が膜タンパク質をコードする塩基配列の3’末端側に連結されている例示において、分解酵素認識タグをコードする塩基配列は、該3’末端側の連結に代えて、膜タンパク質をコードする塩基配列の5’末端側に連結されていてもよい。好ましくは、分解酵素認識タグをコードする塩基配列が膜タンパク質をコードする塩基配列の3’末端側に連結される。
【0051】
本開示を制限するものではないが、本開示のポリヌクレオチドの塩基数として、好ましくは500~10000程度、より好ましくは1000~5000、更に好ましくは1000~2000程度が例示される。
【0052】
本開示のポリヌクレオチドは、プロモーター、膜タンパク質をコードする塩基配列及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を、また、必要に応じて任意の他の塩基配列を、従来公知の分子遺伝子工学的手法や化学合成法等を用いて連結することにより、製造することができる。
【0053】
本開示のポリヌクレオチドを用いることにより、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を容易に発現させることができる。
【0054】
2. 分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔を有する脂質二重膜の製造方法
本開示は、次の工程(a-1)及び(a-2)、または次の工程(b)の工程を含む、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔を有する脂質二重膜の製造方法を包含する。
(a-1)ポリヌクレオチド(プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパク質をコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド)を用いて、分解酵素認識タグ連結αヘモリシンを発現させる工程、
(a-2)前記分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を、脂質二重膜と共存させる工程、
(b)脂質二重膜との共存下で、ポリヌクレオチド(プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパク質をコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチド)を用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させる工程。
【0055】
該製造方法において、ポリヌクレオチド、すなわち、プロモーター、該プロモーター制御下に配置された膜タンパク質をコードする塩基配列、及び分解酵素認識タグをコードする塩基配列を含む、ポリヌクレオチドは前述と同様に説明される。
【0056】
工程(a-1)
分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現は、前記ポリヌクレオチドを用いて、従来公知の遺伝子工学的手法等に従って行えばよい。本開示を制限するものではないが、例えば、該発現は、無細胞タンパク質発現、宿主細胞として大腸菌や酵母等の動植物細胞等を用いたタンパク質発現等の従来公知の手法に従い行えばよい。より簡便に発現できる観点から、無細胞タンパク質発現等が好ましく例示される。分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の精製等は、カラムクロマトグラフィー、透析等の従来公知の手順に従い行えばよい。
【0057】
無細胞タンパク質発現は、培養細胞内でなく、細胞溶解物(抽出物)中で組換えタンパク質を産出する手法として従来知られているタンパク質発現手法であり、無細胞タンパク質発現系と称される場合もある。無細胞タンパク質発現として、ウサギ網状赤血球溶解物(抽出物)、ヒト細胞抽出物等の哺乳動物抽出物を用いた発現系、大腸菌抽出物等の細菌抽出物を用いた発現系、小麦胚芽抽出物等の植物抽出物を用いた発現系、昆虫培養細胞抽出物を用いた発現系等が例示される。本開示を制限するものでないが、無細胞タンパク質発現として好ましくは大腸菌抽出物等の細菌抽出物を用いた発現系、より好ましくは大腸菌抽出物を用いた発現系等が例示される。また、無細胞タンパク質発現を簡便に行うためのキットは商業的に入手可能であり、例えば、商品名S30 T7 High-Yield Protein Expression System(プロメガ株式会社製)、商品名PUREfrex(コスモ・バイオ株式会社製)、商品名PURExpress(New England BioLabs社製)が例示される。該発現はこのような市販品を用いて行ってもよい。
【0058】
大腸菌や酵母等の動植物細胞等を宿主細胞として用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させてもよい。宿主細胞を用いた発現も、従来公知の手順に従い行えばよい。また、前記ポリヌクレオチドに配置される膜タンパク質の発現を制御するプロモーター等の種類に応じて宿主細胞を適宜選択すればよく、該種類に応じた宿主細胞の選択は、従来と同様にして決定すればよい。宿主細胞として、簡便である点から大腸菌が例示される。
【0059】
前記ポリヌクレオチドは、必要に応じてベクター等に組み込まれた状態で使用されてもよい。前記ポリヌクレオチドが使用される以外、ベクター等は従来と同様に構築すればよい。また、該発現において、前記ポリヌクレオチドは一本鎖の状態で使用されてもよく、二本鎖の状態で使用されてもよい。発現手順等に応じて適宜決定すればよい。
【0060】
このようにして、前記ポリヌクレオチドを用いて、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現できる。
【0061】
工程(a-2)
分解酵素認識タグ連結膜タンパク質と脂質二重膜との共存は、これらが共存できる限り、いかなる条件で行ってもよく、通常、溶液中で共存させる。
【0062】
該溶液として、本開示を制限するものではないが、塩化カリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)バッファー、PIPES(piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))バッファー、Tris((Tris(tris(hydroxymethyl)aminomethane))-塩酸バッファー、リン酸緩衝生理食塩水(PBSバッファー、137mmol/l NaCl, 8.1mmol/l Na2HPO4, 2.68mmol/l KCl, 1.47mmol/l KH2PO4, pH7.4)等の従来公知の緩衝液等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
本開示を制限するものではないが、例えば、水酸化カリウム水溶液は、水酸化カリウムと水とを混合することにより調製され、水酸化カルシウム水溶液は、水酸化カルシウムと水とを混合することにより調製される。HEPESバッファー、PIPESバッファーはそれぞれグッドバッファーを構成する緩衝剤として知られるHEPESまたはPIPESを水に溶解し、水酸化ナトリウムでpH調整を行って調製される緩衝液である。Tris-塩酸バッファーは、トリスを水に溶解し、塩酸でpH調整を行って調製される緩衝液である。
【0064】
該溶液のpHも制限されず、例えば溶液の温度(25℃)でpH5~10が例示され、好ましくは6~9、より好ましくは7~8が例示される。該pHは、本分野において一般的に入手可能なpHメーターにより測定する。
【0065】
また、該溶液には、本開示の効果を妨げない範囲で、必要に応じて更に任意の他の成分を配合してもよい。該他の成分として、n-デカン等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、その配合量も制限されない。
【0066】
溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
また、該共存時の分解酵素認識タグ連結膜タンパク質と脂質二重膜との混合量(存在比)も制限されず、適宜決定すればよい。脂質二重膜が共存した溶液中、例えば、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の濃度が10pM~1μM程度、好ましくは100pM~100nM程度が例示される。また、必要に応じて該溶液中の脂質二重膜の種類や濃度を適宜設定してもよい。
【0068】
これらの共存時の温度も制限されないが、溶液の温度として、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入可能である限り制限されないが、該温度として15~40℃が例示され、25~37℃が例示される。
【0069】
また、これらの共存時間も制限されない。本発明者らは、後述の実施例に示す通り、分解酵素認識タグ連結αヘモリシンが脂質二重膜に自発的に挿入することにより貫通孔を形成することを確認した。すなわち、前記ポリヌクレオチドを用いて発現させた分解酵素認識タグ連結αヘモリシンを用いた場合であっても、分解酵素認識タグに連結されていないαヘモリシンと同様に、脂質二重膜に自発的に挿入して貫通孔を形成できることを見出した。このことから、該共存は、少なくとも分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に自発的に挿入して貫通孔を形成できる時間が挙げられる。この限りにおいて共存時間は制限されないが、少なくとも1秒間が例示され、好ましくは1秒間から10時間が例示され、より好ましくは1秒間~1時間が例示される。これにより、脂質二重膜において、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が自発的に挿入することにより貫通孔が形成される。貫通孔の形成後、該溶液を除去してもよく除去しなくてもよい。
【0070】
脂質二重膜も制限されず、従来公知の脂質二重膜であればよい。脂質二重膜は、一般的に、2枚の脂質の層を有し、各層の疎水性領域が互いに向かい合うように内側に配置されており、親水性領域が外側に向いて配置されている膜といえる。
【0071】
本開示において脂質二重膜は、シート状、小胞体状(カプセル状)等のいずれの形態であってもよく、目的に応じて適宜決定すればよい。本開示を制限するものではないが、脂質二重膜として好ましくは脂質二重膜小胞体(リポソーム)が例示される。リポソームとして、例えば、一層の脂質二重膜リポソーム(脂質二重膜の一枚膜リポソームと称される場合がある)、多重層の脂質二重膜リポソーム等のいずれあってもよく、好ましくは一層の脂質二重膜リポソームが例示される。本開示において脂質二重膜の厚みも制限されず、一層あたり平均3~10nmが例示され、好ましくは4~6nmが例示される。また、リポソームである場合、その粒径も制限されず、平均粒径(直径)として10nm~100μmが例示され、好ましくは100nm~10μmが例示される。脂質二重膜は、人工的に製造されたものであってもよく、天然由来(例えば、ヒト、マウス、ラット等の動物細胞、植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞由来)であってもよく、取り扱いが簡便である観点から、好ましくは人工的に製造された脂質二重膜が例示される。
【0072】
脂質二重膜は、従来公知の方法により製造することができる。脂質二重膜を製造する方法として、脂質一重膜に覆われた液滴同士を接触させる液滴接触法、ガラスキャピラリ先端に刷毛塗り法によって形成する方法、マイクロ流路中で形成する方法、Montal-Mueller法、水和法、エレクトロフォーメーション法等が例示される。
【0073】
脂質二重膜を構成する脂質として、例えば、DPhPC(ジ-フィタノイル-ホスファチジルコリン(1,2-diphytanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine))、DOPC(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine))、POPC(1-パルミトイル-2-オレオイル-グリセロ-3-ホスホコリン(1-palmitoyl-2-oleoyl-glycero-3-phosphocholine))、DOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine))、DPPC(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine))、POPE(1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(1-palmitoyl-2-oleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine))、DOPS(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phospho-L-serine))、DMPC(1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(1,2-dimyristoyl-sn-glycero-3-phosphocholine))等のリン脂質が例示され、また、これらの他に、大豆レシチン、水添大豆レシチン、卵黄レシチン、ホスファチジルコリン類、ホスファチジルセリン類、ホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルイノシトール類、ホスファスフィンゴミエリン類、ホスファチジルグリセロール類等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
本開示を制限するものではないが、ホスファチジルコリン類として、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等が例示される。ホスファチジルセリン類として、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンナトリウム等が例示される。ホスファチジルエタノールアミン類として、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等が例示される。ホスファチジルイノシトール類として、小麦由来のホスファチジルイノシトールナトリウム等が例示される。ホスファスフィンゴミエリン類として、ウシ脳由来のスフィンゴミレリン等が例示される。ホスファチジルグリセロール類として、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等が例示される。これらも1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
また、脂質二重膜を構成する脂質と共に、ステロール類を用いてもよい。ステロール類として、本開示を制限するものではないが、コレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、エルゴステロール等が例示される。これらも1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、必要に応じて、任意の成分をリン脂質と組み合わせて脂質二重膜を製造してもよい。
【0076】
脂質二重膜を構成するリン脂質として、好ましくはDPhPC、DOPC、POPC、DOPE、DPPC、POPE、DOPS、DMPC等のリン脂質が例示され、より好ましくはDPhPC等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ステロール類として好ましくはコレステロールが例示される。
【0077】
また、このように脂質二重膜は制限されないが、後述の実施例に基づけば、脂質二重膜の製造において、リン脂質の含有量が5~40mg/mL程度、より好ましくは10~30mg/mL程度の溶液を用いて脂質二重膜を形成させることが好ましく例示される。
【0078】
本開示によれば、このように分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を、脂質二重膜と共存させることによって、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に自発的に挿入され貫通孔を形成することから、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔を有する脂質二重膜を簡便に製造することができる。
【0079】
本開示において、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔とは、脂質二重膜の一方の面からもう一方の(反対側の)面にかけて分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が、脂質二重膜に挿入することにより形成される連続的な孔を意味し、すなわち、膜タンパク質が脂質二重膜を突き抜ける態様を意味する。
【0080】
従来、脂質二重膜に挿入された(組み込まれた)αヘモリシンは7量体であることが知られている。このため、脂質二重膜に組み込まれて(挿入されて)貫通孔を形成している本開示の分解酵素認識タグ連結αヘモリシンも7量体の状態にあると予想される。このことから、本開示においてαヘモリシンが脂質二重膜を突き抜ける態様とは、αヘモリシンの1量体自身が脂質二重膜の一方の面から反対側の面に突き抜けていてもよく突き抜けていなくてもよく、αヘモリシンの7量体全体として(一体となって)脂質二重膜を突き抜ける態様にあればよく、これにより貫通孔が形成されるといえる。
【0081】
ストレプトリシンOは、単量体20~40個程度の多量体を形成して、脂質二重膜に直径(平均直径)10~30nm程度の貫通孔を形成することが知られている。このため、脂質二重膜に組み込まれて貫通孔を形成している本開示の分解酵素認識タグ連結ストレプトリシンOも多量体の状態にあると予想される。このことから、ストレプトリシンOについても同様に、ストレプトリシンOが脂質二重膜を突き抜ける態様とは、ストレプトリシンOの1量体自身が脂質二重膜の一方の面から反対側の面に突き抜けていてもよく突き抜けていなくてもよく、ストレプトリシンOの多量体全体として(一体となって)脂質二重膜を突き抜ける態様にあればよく、これにより貫通孔が形成されるといえる。
【0082】
エロリジンについても、脂質二重膜に挿入されたエロリジンは7量体であることが知られている。このため、脂質二重膜に組み込まれて(挿入されて)貫通孔を形成している本開示の分解酵素認識タグ連結エロリジンも7量体の状態にあると予想される。このことから、エロリジンについても同様に、エロリジンが脂質二重膜を突き抜ける態様とは、エロリジンの1量体自身が脂質二重膜の一方の面から反対側の面に突き抜けていてもよく突き抜けていなくてもよく、エロリジンの7量体全体として(一体となって)脂質二重膜を突き抜ける態様にあればよく、これにより貫通孔が形成されるといえる。
【0083】
分解酵素認識タグ連結膜タンパク質により脂質二重膜に貫通孔が形成されているかどうかは、従来公知の手順に従い確認することができ、例えば、後述の実施例に示す手順に従い、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質と共存させた脂質二重膜に電圧を印加し、脂質二重膜を介して流れる電流を測定することが例示される。また、貫通孔のサイズは、分解酵素認識タグを連結させていない(無連結の)同種の膜タンパク質が脂質二重膜に形成する貫通孔と同様であり、αヘモリシン、エロリジンについては直径1~4nm程度、1~3nm程度、1~2nm程度が例示され、ストレプトリシンOについては直径10~35nm程度、12~30nm程度が例示される。貫通孔のサイズは、X線結晶構造解析により測定される。
【0084】
工程(b)
工程(b)において、脂質二重膜、前記ポリヌクレオチド、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質は、前述と同様に説明される。
【0085】
工程(b)における分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現は、脂質二重膜との共存下で、前記ポリヌクレオチドを用いて分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が発現される限り制限されず、通常、溶液中で発現させる。
【0086】
該発現は、前記工程(a-1)における分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現と同様にして行えばよく、すなわち、前記工程(a-1)において発現に使用される溶液に、更に脂質二重膜を共存させればよい。この限りにおいて制限されないが、該発現において、前記無細胞タンパク質発現で使用する溶液(反応液)に、脂質二重膜を共存させた状態で、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現させることが好ましく例示される。また、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現の発現を妨げない範囲において、前記工程(a-1)において発現に使用される溶液に、前記工程(a-2)において分解酵素認識タグ連結膜タンパク質と脂質二重膜とを共存させる際に使用する緩衝液等の溶液を更に配合した混合溶液を、工程(b)で使用する溶液としてもよい。また、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現の発現を妨げない範囲において、必要に応じて任意の他の成分を含有させてもよい。
【0087】
また、該発現は、前記工程(a-2)において分解酵素認識タグ連結膜タンパク質と脂質二重膜とを共存させる際に使用される溶液に、前記ポリヌクレオチドからの分解酵素認識タグ連結膜タンパク質の発現を可能にする成分を添加し、脂質二重膜とを共存下で、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を発現させてもよい。該発現を可能にする成分として、アデノシン三リン酸(ATP)、ウリジン三リン酸(UTP)、シチジン三リン酸(CTP)、グアノシン三リン酸(GTP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、コエンザイムA(CoA)、フォリン酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、スペルミジン、転移RNA、グラウディング剤(PEG等)、アミノ酸、還元剤(DTT等)、マグネシウム、カリウム、3-ホスホグリセリン酸、RNAポリメラーゼ、リボソーム等が例示される。これらは適宜選択して1種または2種以上で使用してもよく、その添加量も従来公知のタンパク質発現条件に従い適宜決定すればよい。
【0088】
該溶液は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0089】
該溶液のpHも制限されず、例えば溶液の温度(25℃)でpH6~9が例示され、好ましくは7~8、より好ましくは7.2~7.6が例示される。該pHは前述と同様に説明される。
【0090】
これらの共存時の温度も制限されないが、溶液中で共存させる場合、溶液の温度は、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入される限り制限されないが、該温度として25~40℃が例示され、29~37℃が例示される。
【0091】
また、該共存時の前記ポリヌクレオチドと脂質二重膜との混合量も制限されず、適宜決定すればよい。本開示を制限するものではないが、脂質二重膜が共存した溶液中、例えば、前記ポリヌクレオチドから発現される分解酵素認識タグ連結膜タンパク質量として1pM以上、好ましくは10pM~1μM程度、より好ましくは100pM~100nM等となるように前記ポリヌクレオチドを配合することが例示される。
【0092】
工程(b)においては、このようにして、脂質二重膜の共存下で、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が発現される。
【0093】
本開示によれば、このように分解酵素認識タグ連結膜タンパク質を、脂質二重膜と共存させることによって、解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に自発的に挿入され貫通孔を形成することから、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔を有する脂質二重膜を簡便に製造することができる。
【0094】
分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が脂質二重膜に挿入されることで形成された貫通孔は、前述と同様に説明される。また、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質により脂質二重膜に貫通孔が形成されているかどうかは、前述と同様にして確認される。また、貫通孔のサイズも前述と同様に説明される。
【0095】
このように、本開示のポリヌクレオチドによれば、分解酵素認識タグを連結させた膜タンパク質を容易に製造することができる。また、本開示によれは、分解酵素認識タグを膜タンパク質に連結させた場合であっても、脂質二重膜に対して、該膜タンパク質による貫通孔を形成できることが確認された。このように、本開示によれば、分解酵素認識タグを連結させた膜タンパク質により貫通孔が形成された脂質二重膜を容易に製造することができる。
【0096】
分解酵素認識タグを認識可能なタンパク質分解酵素は公知であることから、該タグを認識するタンパク質分解酵素を分解酵素認識タグ連結膜タンパク質に作用させることにより、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が分解され、脂質二重膜に形成された貫通孔を閉じることができる。
【0097】
脂質二重膜、特に脂質二重膜カプセル(リポソーム)は、従来、DDSのキャリアとして利用されている。近年、目的部位において、脂質二重膜カプセルの内部の薬剤等の物質を外部に放出させる研究が進められており、これは、目的部位で、薬剤等の物質の放出が可能なる点で有用である。しかし、このような技術においては、外部への物質の放出を停止することができない。本開示は、このような物質の放出とその放出停止にかかわる技術の提供に寄与し、前述の通り、分解酵素認識タグを連結させた膜タンパク質であっても、脂質二重膜に貫通孔を形成できることが理解できた。タンパク質分解酵素に認識されることによって、分解酵素認識タグ連結膜タンパク質が分解されて貫通孔が消失することにより、脂質二重膜カプセルの内部から外部への物質放出を抑制できることが期待される。
【0098】
このような膜タンパク質の貫通膜形成制御は、脂質二重膜カプセル内の物質を外部に放出させることが可能であると共に、その放出停止も可能になる。これは、脂質二重膜を介した物質の放出場所、放出量、放出時間をはじめとするDDS技術における物質放出制御に大きく貢献する。
【実施例0099】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0100】
試験例1
1-1)ポリヌクレオチドの構築
以下の手順に従い、プロモーター制御下で分解酵素認識タグが連結されたαヘモリシン(αHL)を発現させるためのポリヌクレオチドを作製した。
【0101】
本試験例では、αHLをコードする塩基配列として、配列番号2で表される塩基配列を用いた。本試験例で用いたαHLは、配列番号1で表されるアミノ酸配列で特定されるタンパク質であり、塩基配列1は該タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列である。
【0102】
分解酵素認識タグとして大腸菌由来のssrAタグを用いた。ssrAタグをコードする塩基配列として、配列番号7で表される塩基配列を用いた。これは、配列番号6で表されるアミノ酸配列で特定されるポリペプチドをコードする塩基配列である。
【0103】
これらを用いて、配列番号28で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを作製した。該ポリヌクレオチドは、5’末端から3’末端の方向へ(その上流から下流方向へ)、プロモーター、リボソーム結合配列、開始コドン、αヘモリシンをコードする塩基配列、リンカー、ヒスチジンタグ、リンカー、分解酵素認識タグをコードする塩基配列、終止コドン、ターミネーターの順で各配列が連結されているDNAである。これは、ssrAタグが連結されたαHLをT7プロモーター制御下で発現可能になるように構築したポリヌクレオチド(実施例1)である。
【0104】
1-2)前記ポリヌクレオチドを用いた分解酵素認識タグ連結αHLの発現
前記実施例1のポリヌクレオチドを人工合成し、ベクター(pUC-GW-Amp)に挿入することにより、前記実施例1のポリヌクレオチドの塩基配列を含むプラスミドを作製した。このようにして得たプラスミドと市販の無細胞タンパク質発現系(商品名S30 T7 High-Yield Protein Expression System、プロメガ株式会社製、大腸菌抽出物を用いた発現)を用いて、使用説明書に従い、分解酵素認識タグ連結αヘモリシンを発現させた。その後、従来公知の遺伝子工学手法に従い、Higタグ精製を行った。このようにして、αHLのC末端側にssrAタグが付与された、ssrAタグ連結αHLを発現させた。
【0105】
また、比較例1として、ssrAが連結していない市販のαヘモリシン(製品番号H9395、シグマアルドリッチ)を、ssrAが連結していないαHL(ssrAタグ無連結αHL)として用いた。
【0106】
1-3)分解酵素認識タグ連結αHLの発現確認
前述の手順に従い得られた発現産物(実施例1のssrAタグ連結αHL)と比較例1のssrAタグ無連結αHLを用いて、従来公知の手順に従いポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)を行った。
【0107】
1-4)結果
前記ポリアクリルアミド電気泳動の結果を図1に示す。図1中、ssrA-tagged αHLは実施例1のssrAタグ連結αHLを示し、Non-tagged αHLは比較例1のssrAタグ無連結αHLを示す。図1から理解できる通り、実施例1のポリヌクレオチドを用いた場合、36.7kDa付近にバンドが認められた。比較例1のポリヌクレオチドを用いた場合、αヘモリシンに典型的な30kDa付近にバンドが認められた。このことから、実施例1のポリヌクレオチドを用いることにより、ssrAタグ連結αHLを発現できたことが分かった。
【0108】
試験例2
2―1)脂質二重膜におけるssrAタグ無連結αHLによる貫通孔形成手順
銀塩化銀(Ag/AgCl)電極を組み込んだ人工脂質二重層形成装置(神奈川県立産業技術総合研究所の「人工細胞膜システム」グループより提供、R. Kawano et al., Sci. Rep., 3, 1995, 2013)を用いて脂質二重膜を作製した。具体的には、1.0 M塩化カリウム水溶液と20mg/mLのジ-フィタノイル-ホスファチジルコリン(DPhPC)を含むn-デカンとを用いて脂質二重膜を形成した。
【0109】
脂質二重膜の製造に使用した前記装置は、形成した脂質二重膜に電圧を印加し、脂質二重膜を介して流れる電流を測定することができる。そこで、前述のようにして得た脂質二重膜を含有する溶液に、前記試験例1で発現させたssrAタグ連結αHL(実施例1)を最終濃度80nMとなるように添加し、電流測定を行った(+50mV、5kHz)。また、別途、同様にして、得られた脂質二重膜を含有する溶液に、前記ssrAタグ無連結αHL(比較例1)を最終濃度80nMとなるように添加し、電流測定を行った。
【0110】
2―2)結果
ssrAタグの付いていない(天然の)αHLによる脂質二重膜への貫通孔(ナノポア)形成は、ステップ状の電流波形を生成することが知られている。図2は、ステップ状の電流波形を生成するモデル図である。
【0111】
ssrAタグ無連結αHL(比較例1)と脂質二重膜とを共存させた場合、ssrAタグの付いていない天然のαHLと脂質二重膜とを共存させた場合に認められる電波波形と同様の、ステップ状の電流波形が認められた。また、前記試験例1で発現させたssrAタグ連結αHL(実施例1)と脂質二重膜とを共存させた場合、ssrAタグ無連結αHL(比較例1)と脂質二重膜とを共存させた場合と同様に、ステップ状の電流波形が認められた(図3)。図3は、ssrAタグ連結αHL(実施例1)を用いた場合の電流波形を示す。一方、前記脂質二重膜を含有する溶液について、ssrAタグ連結αHLやssrAタグ無連結αHLを添加することなく、同様に電流測定を行ったところ、ステップ状の電流波形は認められなかった。
【0112】
このように、脂質二重膜が存在するもののαHL非存在下では、ステップ状の電流波形が認められなかった。これに対して、ssrAタグ連結αHLを脂質二重膜と共存させた場合は、ssrAタグ無連結αHLを脂質二重膜と共存させた場合と同様のステップ状の電流波形が認められた。これらのことから、天然のαHLを用いた場合と同様に、ssrAタグ連結αHLを脂質二重膜と共存させた場合であっても、ssrAタグ連結αHLが7量体の形態で挿入することにより脂質二重膜に貫通孔が連続的に形成されたことが理解できた。
【0113】
次に、印加電圧ごとに、シングルチャネルコンダクタンスに相当するステップ幅を解析した。図4及び図5は、濃度1Mの塩化カリウム存在下においてssrAタグ連結αHLを脂質二重膜と共存させた場合の結果を示す。図4に示す通り、各ステップの電流値は、印加電圧とともに増加する傾向が認められた。この傾向は、ssrAタグの付いていない天然のαHLの傾向と類似していた。また、図5に示す通り、いずれの電圧においても、コンダクタンスは概ね1nSに近い値であり、ssrAタグの付いていない天然のαHLを1Mの塩化カリウム水溶液中で測定した場合の従来公知のコンダクタンスの値(文献値)とおおよそ一致した。このことからも、ssrAタグ連結αHLを脂質二重膜と共存させることにより、ssrAタグ連結αHLが7量体の形態で挿入することにより脂質二重膜に貫通孔が形成されたことが理解できた。
【0114】
また、このように、ssrAタグ連結αHLを用いた場合に脂質二重膜に貫通孔が形成されたことから、ssrAタグ連結以外の分解酵素認識タグをαHLに連結させた場合であっても、同様に脂質二重膜に貫通孔が形成されることが理解できた。また、αHLに代えて、脂質二重膜に貫通孔を形成できる点で共通の特性と有するストレプトリシンO、エロリジンを用いた場合でであっても同様に脂質二重膜に貫通孔が形成されることが理解できた。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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