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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125737
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】光学材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/74 20060101AFI20230831BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230831BHJP
   C01D 17/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C09K11/74
C09K11/08 A ZNM
C01D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030004
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健司
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 美寿貴
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF01
4H001XA17
4H001XA35
4H001XA53
4H001XA55
4H001XA83
4H001XB72
(57)【要約】
【課題】優れた特性を示すビスマス系ハロゲン化物の光学材料を、量産に適した環境に優しい方法で製造できる光学材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の光学材料の製造方法は、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料の製造方法であって、光学材料を構成する元素を含む複数種の原料を準備する原料準備工程と、複数種の原料を水の存在下で混合する混合工程とを有することを特徴とする。前記原料として、CsXおよびBiXを用いることが好ましい。前記混合工程での処理温度は、10℃以上100℃以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料の製造方法であって、
前記光学材料を構成する元素を含む複数種の原料を準備する原料準備工程と、
前記複数種の原料を水の存在下で混合する混合工程を有することを特徴とする光学材料の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程に供される混合物中における水の含有率が0.1質量%以上20質量%以下である請求項1に記載の光学材料の製造方法。
【請求項3】
前記原料として、CsXおよびBiXを用いる請求項1または2に記載の光学材料の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程での処理温度が10℃以上100℃以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光学材料の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程での処理時間が6時間以上96時間以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の光学材料の製造方法。
【請求項6】
前記光学材料の平均粒径が1nm以上100nm以下のナノ粒子で構成される請求項1ないし5のいずれか1項に記載の光学材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドットとは、ナノメートルサイズ、例えば約2nm~10nmの半導体であり、量子閉じ込め効果に基づく特異な電気的および光学的性質を示す。1980年代にカドミウム系量子ドットが発見されて以来、多種多様な量子ドットが合成され、研究が行われてきた(例えば、非特許文献1)。
【0003】
最近では、ペロブスカイト構造を持つハロゲン化鉛の量子ドットが、発光ダイオードから太陽電池、蛍光体、レーザーにいたる幅広い用途において優れた特性を示す新たな光学材料として注目されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、カドミウムに比べて毒性が低い鉛でも、環境汚染の問題が懸念されており、非鉛系の光学材料の開発が、重要な研究テーマとなっている。
【0005】
非鉛系ハロゲン化物の量子ドットの中でも、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)を代表とする、ビスマス系ハロゲン化物の量子ドットは、比較的高い化学的安定性と良好な発光効率とを示すことから、蛍光体、太陽電池、放射線検出器への応用が注目されている(例えば、特許文献3および4)。
【0006】
ビスマス系ハロゲン化物の量子ドットの製造方法としては、CsXやBiX(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)のような粉末原料をジメチルスルホキシドのような有機溶媒に溶解した後に、貧溶媒を用いて析出させる工程を有する方法が知られているが、有機溶媒を大量に使用すること、また、均一な反応を量産プロセスで実現することは困難であることから、量産に適するものではなかった。
【0007】
そのため、ビスマス系ハロゲン化物の光学材料を、量産に適した環境に優しい方法で製造できる合成手法の開発が課題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Murray, C. B. et al., J. Am. Chem. Soc. 115, 8706-8715 (1993)
【非特許文献2】He Huang et al., NPG Asia Materials, 8, e328 (2016)
【非特許文献3】M. N. Tranら, J. Mater. Chem. C, 8, 10456 (2020).
【非特許文献4】B. Yangら, Angew. Chem. Int. Ed., 56, 124741 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、優れた特性を示すビスマス系ハロゲン化物の光学材料を、量産に適した環境に優しい方法で製造できる光学材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の光学材料の製造方法は、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料の製造方法であって、
前記光学材料を構成する元素を含む複数種の原料を準備する原料準備工程と、
前記複数種の原料を水の存在下で混合する混合工程を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の光学材料の製造方法では、前記混合工程に供される混合物中における水の含有率が0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の光学材料の製造方法では、前記原料として、CsXおよびBiXを用いることが好ましい。
【0013】
本発明の光学材料の製造方法では、前記混合工程での処理温度が10℃以上100℃以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の光学材料の製造方法では、前記混合工程での処理時間が6時間以上96時間以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の光学材料の製造方法では、前記光学材料の平均粒径が1nm以上100nm以下のナノ粒子で構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた特性を示すビスマス系ハロゲン化物の光学材料を、量産に適した環境に優しい方法で製造できる、光学材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の光学材料の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
図2】実施例における光学材料の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図3】実施例1~3の光学材料の粉末X線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明は、産業通商資源部(MOTIE)および韓国産業技術振興院(KIAT)との国際協力研究開発プログラムである、P0006844_次世代ディスプレイ用色変換ナノ結晶発光材料の開発(13580-703000-J18K0121 次世代ディスプレイ用色変換ナノクリスタルルミネッセンス材料の開発)に関する共同研究(2018年12月1日から2021年11月30日)における成果である。
【0019】
[1]光学材料
まず、本発明の光学材料の製造方法によって製造される光学材料について説明する。
【0020】
なお、以下の説明では、本発明に係る光学材料が蛍光体である場合について中心的に説明するが、これに限定されるものではなく、本発明に係る光学材料は、後述するように、広い用途において種々の光学材料として適用することができる。
【0021】
本発明に係る光学材料は、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する。
【0022】
本発明の製造方法によれば、結晶性がよく、優れた特性を有するビスマス系ハロゲン化物の光学材料を提供することができる。
【0023】
特に、例えば、このような光学材料では、紫外線を吸収して高い発光強度で発光(蛍光)を示すことができる。より具体的には、例えば、XがClである場合、254nmの波長をもつ紫外線で励起され、高い発光強度で青紫色の発光(蛍光)を発する。
【0024】
この光学材料の発光色の帯域は、ビスマス系ハロゲン化物の結晶構造に由来するものであり、Xの種類を変えることにより、その発光色の帯域を変えることができる。
【0025】
例えば、XがBrである場合、当該光学材料は、302nmの波長をもつ紫外線で励起され、高い発光強度で青緑色の発光(蛍光)を発する。
【0026】
また、例えば、XがIである場合、当該光学材料は、365nmの波長をもつ紫外線で励起され、高い発光強度で黄緑色の発光(蛍光)を発する。
【0027】
この光学材料は、ナノ粒子で構成されることが好ましい。より具体的には、光学材料を構成するナノ粒子の平均粒径は、1nm以上100nm以下であるのが好ましく、2nm以上60nm以下であるのがより好ましく、3nm以上40nm以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
これにより、光学材料を発光性量子ドットとしてより好適に使用することができる。また、例えば、光学材料を、光学材料を含む組成物に適用した場合における光学材料の分散安定性をより優れたものとすることができる。また、粉砕処理等をしなくても、分散処理をするだけで発光性量子ドットとして使用することができる。
【0029】
なお、本明細書において、平均粒径とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指す。光学材料の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた粒子径測定により求めることができる。
【0030】
前述したように、本発明に係る光学材料は、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で構成された相を結晶として含むものであるが、当該結晶は、Cs、Bi以外の金属元素を含んでいてもよい。すなわち、前記結晶を構成する金属元素の一部は、Cs、Bi以外の金属元素で置換されていてもよい。以下、このような金属元素を「その他の金属元素」という。
【0031】
その他の金属元素としては、例えば、Ca、Ba、Mg、Ga、Ge、Si、Li、Na、希土類元素等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を含むことができる。
【0032】
例えば、前記結晶が、その他の金属元素として、Ca、Mg、Li、NaおよびSiよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであると、光学材料の発光ピーク波長を好適に長波長にシフトさせることができる。
【0033】
また、前記結晶が、その他の金属元素として、Ba、GaおよびGeよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものであると、光学材料の発光ピーク波長を好適に短波長にシフトさせることができる。
【0034】
また、前記結晶が、その他の金属元素として、希土類元素を含むものであると、トラップ深さの制御により残光時間をより好適に調整することができる。
【0035】
前記結晶がその他の金属元素を含むものである場合、前記CsBi中におけるBiの含有量に対するその他の金属元素の含有量の比率は、35mol%以下であるのが好ましく、30mol%以下であるのがより好ましく、25mol%以下であるのがさらに好ましい。
【0036】
本発明に係る光学材料は、前記結晶以外の成分を含んでいてもよい。ただし、本発明に係る光学材料中における前記結晶以外の成分の含有率は、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以下であるのがさらに好ましい。言い換えると、本発明に係る光学材料中におけるCsBiの含有率は、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのがより好ましく、97質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0037】
例えば、本発明に係る光学材料はフラックスを含んでいてもよいが、本発明に係る光学材料におけるフラックスの含有率は、0.001質量%未満であるのが好ましく、0.0005質量%以下であるのがより好ましい。
【0038】
フラックスには毒性を有するものがあり、このような成分の含有率を十分に低くすること、すなわち、このような成分を実質的に含有しないことにより、光学材料の製造過程における安全性、製造された光学材料を使用する者等の安全性を確保するうえで有利である。また、上記のようにフラックスの含有率が十分に低いと、光学材料中に、蓄光、発光に寄与しない成分の含有率を低くすることができ、光学材料全体としての発光特性をより優れたものとすることができる。
【0039】
光学材料に含まれるフラックスは、通常、製造時の原料混合物に添加されるフラックス(例えば、硼素化合物)によるものである。後述するように、本発明に係る光学材料の製造方法では、各成分(特に、ビスマスイオン)を十分に反応させることができ、原料混合物にフラックスを添加する必要がない。したがって、本発明に係る光学材料中において、フラックスを実質的に含有しないものとすることができ、フラックスの含有率について、上記のような条件を満足するものとすることができる。
【0040】
本発明に係る光学材料は、優れた光学特性を有するものであるため、種々の用途に用いることができる。
【0041】
本発明に係る光学材料の用途としては、例えば、蛍光体、紫外線吸収剤、太陽電池、光センサー等が挙げられる。
【0042】
蛍光体としては、例えば、ディスプレイ用発光素子、照明用発光素子、シンチレーター等として用いることができる。
【0043】
紫外線吸収剤としては、例えば、紫外線吸収フィルム、ファンデーション、化粧水、日焼け止め等における紫外線吸収材料として用いることができる。
【0044】
太陽電池としては、例えば、太陽電池における波長変換材料等として用いることができる。
【0045】
光センサーとしては、例えば、フォトディテクターにおける光検出素子等として用いることができる。
【0046】
[2]光学材料の製造方法
次に、本発明の光学材料の製造方法について説明する。
図1は、本発明の光学材料の製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。
【0047】
本発明の光学材料の製造方法は、前述した光学材料を製造する方法である。より具体的には、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料の製造方法であって、光学材料を構成する元素を含む複数種の原料を準備する原料準備工程と、複数種の原料を水の存在下で混合する混合工程とを有することを特徴とする。
【0048】
これにより、前述した光学材料、すなわち、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料を好適に製造することができる。
【0049】
また、この光学材料の製造方法では、有機溶媒に対し溶解性の低い安価な原料を用いることができる。また、複数種の原料を水の存在下で混合することで、均一な反応を実現することができる。また、使用する水の量を少なくすることができるため、大量生産時に取り扱う物質量を減らすことができる。さらに、鉛を実質的に使用せず、セシウムやビスマス金属元素を用いている。これにより、ビスマス系ハロゲン化物の光学材料の、量産に適した環境に優しい光学材料の製造方法を提供することができる。
【0050】
このような優れた効果が得られるのは、複数種の原料を水の存在下で混合する混合工程を行うことにより、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料が得られるためである。
【0051】
以下、各工程について説明する。
[2-1]原料準備工程
原料準備工程では、光学材料を構成する元素を含む複数種の原料を準備する。
光学材料を構成する元素を含む複数種の原料としては、例えば、Cs源の物質、Bi源の物質、X源(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)の物質等が挙げられる。
【0052】
本工程で準備する原料のうち少なくとも1種は、光学材料を構成する元素を2種以上含むものを用いてもよい。より具体的には、例えば、金属元素とハロゲン元素とを含む原料を準備してもよい。
【0053】
Cs源およびBi源としては、それぞれ、CsおよびBiを含む化合物であれば使用可能であるが、例えば、これらのハロゲン化物を好適に用いることができる。例えば、XがClである場合、これらの塩化物を好適に用いることができる。言い換えると、これらのハロゲン化物は、Cs源およびBi源と、X源(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)とを兼ねたものであってもよい。
これにより、後工程の混合工程における反応を好適に行うことができる。
【0054】
これらの化合物としては、水和物を用いてもよい。以下の好ましい化合物の説明では、水和物の水和水を省略して示す。
【0055】
Cs源としては、XがClである場合、例えば、塩化セシウム(CsCl)が挙げられる。
【0056】
Bi源としては、XがClである場合、例えば、塩化ビスマス(BiCl)が挙げられる。
【0057】
本発明の光学材料の製造方法では、原料としてCsXおよびBiXを用いることが好ましい。
【0058】
これにより、混合工程における反応をより好適に行うことができるとともに、得られる光学材料において、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する相を好適に形成することができる。
原料準備工程では、上記のようなCs源およびBi源を準備する。
【0059】
[2-2]混合工程
混合工程では、複数種の原料を水の存在下で混合する。
【0060】
混合工程では、上記のようなCs源およびBi源を、水の存在下で、所定の比率、例えば、化学量論比に従って混合して原料混合物とする。
【0061】
より具体的には、Cs源としてCsCl、Bi源としてBiClを用いる場合、それらの混合比は、以下のようにするのが好ましい。
【0062】
すなわち、物質量比でのBiClの使用量に対するCsClの使用量の比率は、1.0以上2.0以下であるのが好ましく、1.4以上1.6以下であるのがより好ましい。
【0063】
本工程における前記水には、液体の水のほか、気体の水(水蒸気)も含む。前記気体の水は、例えば、大気中に含まれる水蒸気であってもよい。また、前記水には、例えば、原料が吸湿した水分も含まれ、また、原料として水和物を用いる場合には、その水和水も含まれる。
【0064】
本発明の光学材料の製造方法では、混合工程に供される混合物中における水の含有率が0.1質量%以上20質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上15質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以上10質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
上記のような条件を満足することにより、混合工程における反応をより好適に行うことができ、得られる光学材料において、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する相を好適に形成することができる。また、水を溶媒として混合物を溶解させる場合に比べて、使用する水の量が少ないため、大量生産時に取り扱う物質量を、さらに効果的に減らすことができ、環境にさらに優しいものとすることができる。
【0066】
上記のような複数種の原料を水の存在下で混合する方法としては、特に限定されないが、例えば、原料混合物に水を滴下する方法、原料として吸湿性の物質を用いることにより、雰囲気中の水蒸気を吸収して原料混合物中に水を取り込ませる方法、原料に含まれる水和水を用いる方法等が挙げられる。
【0067】
複数種の原料のうち少なくとも1つ以上に、吸湿性の高い物質を用いる場合、混合工程における雰囲気の湿度は、50%RH以上であるのが好ましく、60%RH以上であるのがより好ましく、70%RH以上であるのがさらに好ましい。
【0068】
これにより、大気中の水蒸気をより効率よく原料混合物に取り込むことができ、混合工程における反応をより好適に進行させることができる。また、大気中の水蒸気を用いることで、使用する水の量をさらに少なくすることができ、大量生産時に取り扱う物質量をさらに効果的に減らすことができ、環境にさらに優しいものとすることができる。なお、混合工程における雰囲気の湿度の上限は、100%RHである。
【0069】
本発明の光学材料の製造方法では、混合工程での雰囲気における水蒸気分圧が、10hPa以上1022hPa以下であるのが好ましく、200hPa以上800hPa以下であるのがより好ましい。
【0070】
本発明の光学材料の製造方法では、混合工程での処理温度が、10℃以上100℃以下であるのが好ましく、15℃以上90℃以下であるのがより好ましく、20℃以上85℃以下であるのがさらに好ましい。
【0071】
これにより、混合工程における反応をより好適に進行させることができる。また、比較的低温で光学材料を製造することができ、これにより、特別な設備等を必要とせず、製造コストの低下にもつながる。
【0072】
本発明の光学材料の製造方法では、混合工程での処理時間が、6時間以上96時間以下であるのが好ましく、12時間以上72時間以下であるのがより好ましく、18時間以上48時間以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
これにより、混合工程における反応をさらに好適に進行させることができるとともに、光学材料の生産性をより優れたものとすることができる。
【0074】
本工程での混合方法としては、例えば、撹拌機、らせん型混合機、リボン型混合機、流動化型混合機等の固定型混合機、円筒型混合機、双子円筒型混合機等の回転型混合機、サンドミル、ボールミル、ビーズミル、コロイドミル、サンドグラインダーミル等の湿式粉砕機、ペイントシェーカー等の振とう機、超音波分散機等の分散機等を用いた混合方法を採用することができる。
【0075】
本工程に供される原料混合物は、フラックスを含まないものであるのが好ましい。
フラックスには毒性を有するものがあり、このような成分の含有率を十分に低くすること、すなわち、このような成分を実質的に含有しないことにより、光学材料の製造過程における安全性、製造された光学材料を使用する者等の安全性を確保するうえで有利である。また、上記のようにフラックスの含有率が十分に低いと、光学材料中に、蓄光、発光に寄与しない成分の含有率を低くすることができ、光学材料全体としての残光特性を優れたものとすることができる。
【0076】
以上のようにして、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料が得られる。
【0077】
このようにして得られる光学材料は、上記[1]で述べた好ましい条件を満たすものであるのが好ましい。
【0078】
前述した条件で製造することにより、このような好ましい条件を満たす光学材料を好適に得ることができる。
【0079】
なお、上記のようにして得られる光学材料は、複数個の粒子が凝集した凝集体を含む場合があるが、比較的温和な条件の解砕処理により、微粒子化(例えば、ナノ粒子化)することができる。
【0080】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は、これらに限定されない。
【0081】
例えば、本発明の光学材料の製造方法においては、前述した工程に加え、他の工程をさらに有していてもよい。
【0082】
より具体的には、例えば、本発明の製造方法では、必要に応じ、混合工程の後に粉砕や分級を行ってもよい。粉砕は、湿式粉砕、乾式粉砕のいずれでもよい。乾式粉砕では、必要に応じて、例えば、乳鉢、ロールクラッシャー、アトマイザー、ハンマーミル、ジェットミル、流体エネルギーミル、ミックスマラー等の乾式粉砕機を用いてもよい。
【0083】
粉砕により得られた粉末状の光学材料を、液体中に分散させた後、固液分離により回収することにより、不純物を除去してもよい。これにより、光学材料の発光効率をより一層向上させることができる。
【0084】
固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーション等の工業的に通常用いられる方法により行うことができる。固液分離により回収された光学材料は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーター等の工業的に通常用いられる装置を用いて乾燥させることができる。
【実施例0085】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0086】
なお、特に雰囲気条件、温度条件を示していない処理については、大気中、25℃で行った。
【0087】
[3]評価方法
まず、以下の実施例の評価に用いた分析方法について、測定条件を以下にまとめて示す。
【0088】
[3-1]X線回折
装置:MX-Labo(Mac Science Co.Ltd)
X線:CuΚα(λ=1.54056オングストローム)
電流:25mA
電圧:40kV
試料:粉末
【0089】
[4]光学材料の製造
(実施例1)
図2は、実施例における光学材料の製造方法の工程を示すフローチャートである。
実施例1では、XがClである場合について光学材料を製造した。
【0090】
まず、Cs源としてのCsCl粉末と、Bi源としてのBiCl粉末とを用意し、これらを化学量論比に従い、秤量した。
【0091】
次に、メノウ乳鉢を用いて上記原料を混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物に、全混合物の5質量%に当たる水を液体の形で添加した。
【0092】
次に、原料混合物をポリスチレン製の容器に入れて蓋をし、室温(25℃)で24時間保持した。
その後、得られた生成物を篩分し、粉末状の光学材料を得た。
【0093】
(実施例2)
実施例2では、XがBrである場合について光学材料を製造した。
すなわち、CsCl粉末の代わりにCsBr粉末を用い、BiCl粉末の代わりにBiBr粉末を用いた以外は、前記実施例1と同様にして光学材料を製造した。
【0094】
(実施例3)
実施例3では、XがIである場合について光学材料を製造した。
すなわち、CsCl粉末の代わりにCsI粉末を用い、BiCl粉末の代わりにBiI粉末を用いた以外は、前記実施例1と同様にして光学材料を製造した。
【0095】
前記各実施例で製造された光学材料について、前述の測定条件により、X線回折により結晶相を同定した。
実施例1~3の光学材料の粉末X線回折パターンを図3に示す。
【0096】
なお、図3に示すX線回折パターンでは、参考として、CsBiCl、CsBiBr、CsBiについての粉末X線回折パターンのシミュレーション結果も併せて示している。上記のシミュレーション結果は、ISCD(データーベース)から引用したものである。
【0097】
[5]X線回折パターンの測定結果
図3から、実施例1の光学材料は、結晶構造から予測される回折パターンのシミュレーションとほぼ一致していたことから、室温(25℃)で固相反応が進行し、CsBiClが得られていた。言い換えると、この光学材料は、良好な結晶性を持つCsBiClを主相で含んでいることが確認された。
【0098】
同様に、実施例2の光学材料は、良好な結晶性を持つCsBiBrを実質的に単一相で含んでいることが確認された。
【0099】
また、実施例3の光学材料は、良好な結晶性を持つCsBiを主相で含んでいることが確認された。
【0100】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子径を測定したところ、得られた光学材料は、平均粒径が1nm以上100nm以下のナノ粒子で構成されるものであることが確認された。
【0101】
また、実施例1の光学材料に、254nmの波長をもつ紫外線を照射したところ、高い発光強度で、青紫色の発光(蛍光)を発することが確認された。
【0102】
同様に、実施例2の光学材料に、302nmの波長をもつ紫外線を照射したところ、高い発光強度で、青緑色の発光(蛍光)を発することが確認された。
【0103】
また、実施例3の光学材料に、365nmの波長をもつ紫外線を照射したところ、高い発光強度で、黄緑色の発光(蛍光)を発することが確認された。
【0104】
また、混合工程での処理温度を10℃以上100℃以下の範囲内で種々変更し、混合工程での処理時間を6時間以上96時間以下の範囲内で種々変更した以外は、前記実施例1~3と同様にして発光材料を製造し、これらについて、前記と同様に評価を行ったところ、対応する実施例と同様の結果が得られた。
【0105】
また、混合工程に供される混合物中における水の含有率を0.1質量%以上20質量%以下の範囲内で種々変更した以外は、前記実施例1~3と同様にして発光材料を製造し、これらについて、前記と同様に評価を行ったところ、対応する実施例と同様の結果が得られた。
【0106】
また、混合工程において水を添加せず、かつ、環境試験機を用いて、60%RH以上99%RH以下の環境下で行った以外は、前記実施例1~3と同様にして発光材料を製造し、これらについて、前記と同様に評価を行ったところ、対応する実施例と同様の結果が得られた。
【0107】
これに対し、混合工程において水を添加せず、かつ、実質的に水を含まないアルゴン雰囲気下で行った以外は、実施例1と同様にして発光材料を製造し、これらについて、X線回折パターンを測定したところ、対応する実施例の原料であるCsCl、BiClが主相で得られた。すなわち、水の非存在下では、所望の反応が進行していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明の光学材料の製造方法は、CsBi(ただし、Xはハロゲン元素を示す。)で表される組成を有する光学材料の製造方法であって、光学材料を構成する元素を含む複数種の原料を準備する原料準備工程と、複数種の原料を水の存在下で混合する混合工程とを有することを特徴とする。
【0109】
このような本発明の光学材料の製造方法では、例えば、結晶性がよく、優れた特性を有するビスマス系ハロゲン化物の光学材料を、量産に適した環境に優しい方法で製造できる。したがって、本発明の光学材料の製造方法は、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3