(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125774
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】床材、及び床材の製造方法
(51)【国際特許分類】
E04F 15/10 20060101AFI20230831BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
E04F15/10 104B
E04F15/10 104E
E04F15/10 104A
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030060
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】316012083
【氏名又は名称】シナネン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】梶村 康平
(72)【発明者】
【氏名】平田 善紀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一高
【テーマコード(参考)】
2E220
4F100
【Fターム(参考)】
2E220AA08
2E220AA18
2E220AA33
2E220AA45
2E220AB02
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2E220FA02
2E220GA08X
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2E220GB28X
2E220GB34X
2E220GB35X
2E220GB36X
2E220GB37X
2E220GB43X
4F100AT00B
4F100AT00C
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4F100BA10A
4F100BA10B
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4F100GB07
4F100HB00
4F100HB00A
(57)【要約】
【課題】高い意匠性と自由な成形性とを両立することができるとともに、コールドプレス成形層の立体構造が奏する特定の機能に、表面層が有する機能を付加することができて、床材の付加価値を高めることができる床材を提供する。
【解決手段】表面層33Aとコールドプレス成形層35Aとを積層してなる床材31Aであって、コールドプレス成形層35Aは、床面に敷設される床面敷設部41と、上方に向けて突出するように床面敷設部41に連設される立上げ壁部43とを有し、表面層33Aは、床面敷設部41に固着される主表面部61と、主表面部61に連設され、且つ立上げ壁部43に固着される立上げ表面部63とを有するものとする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層とコールドプレス成形層とを積層してなる床材であって、
前記コールドプレス成形層は、床面に敷設される床面敷設部と、上方に向けて突出するように前記床面敷設部に連設される立上げ壁部とを有し、
前記表面層は、前記床面敷設部に固着される主表面部と、前記主表面部に連設され、且つ前記立上げ壁部に固着される立上げ表面部とを有する床材。
【請求項2】
前記立上げ表面部は、角部を形成するように前記主表面部に対し起立した隣接する二つの折上げ片を含み、
前記表面層における前記二つの折上げ片が隣接する部分において、一方の折上げ片の端面と他方の折上げ片の端部とが接触する部分が存在する状態で前記二つの折上げ片が起立状態となるように切込が付されている請求項1に記載の床材。
【請求項3】
前記表面層及び前記コールドプレス成形層は、同種の材料で構成されている請求項1又は2に記載の床材。
【請求項4】
前記表面層及び前記コールドプレス成形層は、異種の材料で構成され、両層が接合層を介して積層されている請求項1又は2に記載の床材。
【請求項5】
前記表面層は、凹凸模様を有する請求項1~4の何れか一項に記載の床材。
【請求項6】
表面層とコールドプレス成形層とを積層してなる床材の製造方法であって、
前記コールドプレス成形層は、床面に敷設される床面敷設部と、上方に向けて突出するように前記床面敷設部に連設される立上げ壁部とを有し、
前記表面層は、前記床面敷設部に固着される主表面部と、前記主表面部に連設され、且つ前記立上げ壁部に固着される立上げ表面部とを有し、
前記床面敷設部及び前記立上げ壁部、並びに前記主表面部及び前記立上げ表面部を成形するための成形キャビティが形成された成形型に、前記主表面部となる部分と前記立上げ表面部となる部分との境界で折曲可能となるように前記表面層を配置する第一配置工程と、
前記表面層に接するように熱可塑性樹脂を軟化点以上の状態にして配置する第二配置工程と、
前記成形型の内容物を前記熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度でプレスするプレス工程と、
前記プレス工程により形成された積層成形体を前記成形型から取り出す回収工程と、
を包含する床材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に柄や模様が付された床材、及び床材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表面に柄や凹凸模様が付された床材が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に係る床材は、複数の層を重ね合わせた状態で一対のロールの間に通して加圧加熱することにより融着一体化された積層体によって構成される。この積層体は、エンボスロール及び受けロールの間に通され、その際、エンボスロールの凹凸模様が積層体の表面に転写される。
【0003】
複数の層を一体化する手段として、上記の熱融着以外に、例えば、接着剤を介在させた状態で複数の層を重ね合わせて常温でプレスする「コールドプレス」によって接着するものや、コールドプレスを行った後に更に熱を加えてプレスする「ホットプレス」によって接着するものが知られている(例えば、特許文献2,3を参照)。
【0004】
ここで、コールドプレスに関し、樹脂材をその母材である熱可塑性樹脂の軟化温度(軟化点)よりも高い可塑化温度に加熱して可塑状態とし、これを上型と下型とで構成される成形型の内部に配置し、次いで成形型で冷却しながら加圧することにより所定形状に成形する樹脂成形品の製造方法が実用化されている(例えば、特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-20248号公報
【特許文献2】国際公開第2012/053036号
【特許文献3】特開2002-18807号公報
【特許文献4】特開2017-177692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る床材は、エンボスロールによって凹凸模様を表面に形成できるため、ある程度の意匠性を付与することができる。しかしながら、当該床材を構成する積層体は、複数の層を重ね合わせた状態で一対のロールの間に通して加圧加熱することによって成形されるものであるため、その製造工程上の制約から成形品がシート状の平面的な形状に限定され、立体感のある自由な形、特にシートの厚みを超える立体的な形に成形することは困難である。
【0007】
特許文献2に開示されているような、コールドプレスによる一体化手段でも、製造工程上の制約から成形品がシート状の平面的な形状に限定される。特許文献3では、コールドプレス工程に加えてホットプレス工程が実施されるため、例えば、柄や凹凸模様が付されたポリ塩化ビニル系樹脂で表面層が構成されている場合、熱変形とプレス工程時の圧力とによって表面の柄や凹凸模様が潰れてしまい、意匠性を保つことができない。
【0008】
特許文献4に開示される樹脂成形品の製造方法に利用されるコールドプレス成形は、成形型における上型と下型との型締めにより形成される成形キャビティの形状に沿って可塑状態の樹脂材が充填されるため、成形キャビティの形状に応じて自由な形に成形することは可能であるものの、表面に柄や凹凸模様を付与するといった細かな装飾の付与は苦手としている。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、高い意匠性と自由な成形性とを両立することができるとともに、コールドプレス成形層の立体構造が奏する特定の機能に、表面層が有する機能を付加することができて、床材の付加価値を高めることができる床材、及び当該床材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る床材の特徴構成は、
表面層とコールドプレス成形層とを積層してなる床材であって、
前記コールドプレス成形層は、床面に敷設される床面敷設部と、上方に向けて突出するように前記床面敷設部に連設される立上げ壁部とを有し、
前記表面層は、前記床面敷設部に固着される主表面部と、前記主表面部に連設され、且つ前記立上げ壁部に固着される立上げ表面部とを有することにある。
【0011】
本構成の床材によれば、表面層とコールドプレス成形層とが積層されているので、表面層の表面側に、高い意匠性を付することができる。この意匠性とは、立体的に形成される凹凸模様、平面的に形成される柄などが挙げられる。例えば、凹凸模様は、エンボス加工等により表面に凹凸を形成することによって得られる。柄は、色彩や模様などを意味し、印刷フィルムや多色チップによる意匠層を設けることによって得られる。コールドプレス成形層は、軟化点以上の状態とされた当該コールドプレス成形層の母材を、成形型によって冷却しながらプレス加工を行うことによって成形される層である。表面層とコールドプレス成形層との境界は、軟化点以上の状態とされたコールドプレス成形層の母材の熱とプレス加工時の圧力とによる熱融着によって一体化される。本構成の床材において、表面層の表面側は、プレス加工時の圧力が作用するものの成形型によって冷却されている。このため、表面層の表面側の熱変形を抑えることができ、その結果、表面層の表面側に付与された柄や凹凸模様が潰れずに残り、高い意匠性を確保することができる。一方、コールドプレス成形層においては、軟化点以上の状態とされた母材が冷却によって固化するまで自由な形に成形することができる。従って、従来の床材では実現し得なかった高い意匠性と自由な成形性とを両立することができる。さらに、本構成の床材によれば、コールドプレス成形層は、床面に敷設される床面敷設部と、上方に向けて突出するように床面敷設部に連設される立上げ壁部とを有し、表面層は、床面敷設部に固着される主表面部と、主表面部に連設され、且つ立上げ壁部に固着される立上げ表面部とを有する。これにより、コールドプレス成形層の立体構造が奏する特定の機能に、表面層が有する機能を付加することができて、床材の付加価値を高めることができる。詳細には、特許文献1~3において開示された技術では、上述したように、製造工程上の制約から成形品がシート状の平面的な形状に限定されることになり、本発明の床材の表面層に相当する部材については成形可能であっても、その表面層の厚み以上の突出長さの突出部を成形することはできない。本発明において、コールドプレス成形層は、軟化点以上の状態とされた母材が冷却によって固化するまで自由な形に成形することができる。従って、成形型の成形キャビティの形状の設定により、コールドプレス成形層において、表面層の厚み以上の突出長さの突出部である立上げ壁部を成形することができる。よって、本構成の床材は、表面層の凹凸模様とコールドプレス成形層の立体構造とを併せ持つこととなり、比較的大きな立体構造と小さい凹凸構造を重畳して形成することができる。これにより、防滑性や排水性の制御を高い水準で行うことができる。さらに、凹凸模様の屈曲面及び立体構造による音の乱反射の作用により、防音、遮音及び吸音の効果を得ることもできる。また、コールドプレス成形層における立上げ壁部を框として機能させた場合、立上げ壁部に固着される表面層の立上げ表面部によって当該框の意匠性をより高めることができ、本発明の床材を例えば玄関用床材として適用した場合の付加価値をより高めることができる。
【0012】
本発明に係る床材において、
前記立上げ表面部は、角部を形成するように前記主表面部に対し起立した隣接する二つの折上げ片を含み、
前記表面層における前記二つの折上げ片が隣接する部分において、一方の折上げ片の端面と他方の折上げ片の端部とが接触する部分が存在する状態で前記二つの折上げ片が起立状態となるように切込が付されていることが好ましい。
【0013】
本構成の床材によれば、表面層における二つの折上げ片が隣接する部分において、一方の折上げ片の端面と他方の折上げ片の端部とが接触する部分が存在する状態でそれら二つの折上げ片が起立状態となるように切込が付されている。これにより、起立した二つの折上げ片によって角部が形成される際に、二つの折上げ片が相互に干渉するのを未然に防ぐことができる。また、一方の折上げ片の端面と他方の折上げ片の端部とが接触する部分が存在する状態とされるので、起立状態の二つの折上げ片によって形成される角部に隙間が生じるのを防ぐことができ、プレス工程においてコールドプレス成形層の構成材が角部から露出するのを防ぐことができる。従って、二つの折上げ片によって角部を見た目にも美しく確実に形成することができる。
【0014】
本発明に係る床材において、
前記表面層及び前記コールドプレス成形層は、同種の材料で構成されていることが好ましい。
【0015】
本構成の床材によれば、表面層及びコールドプレス成形層が同種の材料で構成されているので、表面層とコールドプレス成形層との境界を熱融着によってより強固に一体化することができる。
【0016】
本発明に係る床材において、
前記表面層及び前記コールドプレス成形層は、異種の材料で構成され、両層が接合層を介して積層されていることが好ましい。
【0017】
本構成の床材によれば、表面層及びコールドプレス成形層が異種の材料で構成され、両層が接合層を介して積層されているので、表面層とコールドプレス成形層とが異種の材料であっても、表面層とコールドプレス成形層とを接合層を介して強固に一体化することができる。
【0018】
本発明に係る床材において、
前記表面層は、凹凸模様を有することが好ましい。
【0019】
本構成の床材によれば、表面層は、凹凸模様を有する。これにより、意匠面では、アイキャッチ力を高めることができるとともに、質感を高めて高級感を醸し出すことができる。一方、機能面では、凹凸模様における凹凸が滑り止めの役割をし、防滑性を高めることができる。また、凹凸模様における凹凸の屈曲面の弾性力や部分接触により、平滑面にはない心地の良い感触を得ることができる。
【0020】
次に、本発明に係る床材の製造方法の特徴構成は、
表面層とコールドプレス成形層とを積層してなる床材の製造方法であって、
前記コールドプレス成形層は、床面に敷設される床面敷設部と、上方に向けて突出するように前記床面敷設部に連設される立上げ壁部とを有し、
前記表面層は、前記床面敷設部に固着される主表面部と、前記主表面部に連設され、且つ前記立上げ壁部に固着される立上げ表面部とを有し、
前記床面敷設部及び前記立上げ壁部、並びに前記主表面部及び前記立上げ表面部を成形するための成形キャビティが形成された成形型に、前記主表面部となる部分と前記立上げ表面部となる部分との境界で折曲可能となるように前記表面層を配置する第一配置工程と、
前記表面層に接するように熱可塑性樹脂を軟化点以上の状態にして配置する第二配置工程と、
前記成形型の内容物を前記熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度でプレスするプレス工程と、
前記プレス工程により形成された積層成形体を前記成形型から取り出す回収工程と、
を包含することにある。
【0021】
本構成の床材の製造方法によれば、床面敷設部及び立上げ壁部、並びに主表面部及び立上げ表面部を成形するための成形キャビティが形成された成形型に、主表面部となる部分と立上げ表面部となる部分との境界で折曲可能となるように表面層が配置され、表面層に接するように、軟化点以上の状態にされた、コールドプレス成形層の母材である熱可塑性樹脂が配置される。そして、成形型の内容物、すなわち表面層とコールドプレス成形層の母材とを、熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度でプレスするプレス工程が実施される。これにより、コールドプレス成形層の成形がプレス工程に伴って進行し、成形途中のコールドプレス成形層が表面層全体を覆うように広がり、表面層全体を覆う成形途中のコールドプレス成形層を介して表面層に作用するプレス圧によって主表面部となる部分と立上げ表面部となる部分との境界で表面層が折り曲げられるとともに、成形途中のコールドプレス成形層と表面層との境界が、軟化点以上の状態とされたコールドプレス成形層の母材の熱とプレス加工時の圧力とによる熱融着によって一体化される。こうして、プレス工程により形成された積層成形体は、成形型から取り出されて回収される。本構成の床材の製造方法において、表面層の表面側は、プレス加工時の圧力が作用するものの成形型によって冷却されている。このため、表面層の表面側の熱変形を抑えることができ、その結果、表面層の表面側に付与された凹凸模様が潰れずに残り、高い意匠性を確保することができる。一方、コールドプレス成形層においては、軟化点以上の状態とされた母材が冷却によって固化するまで自由な形に成形することができる。従って、従来の床材では実現し得なかった高い意匠性と自由な成形性とを両立することができる。また、本構成の床材の製造方法は、表面層とコールドプレス成形層とを個別に成形した後に互いを接合する方法に比べて、ワンステップの加工で成形できるので、迅速、且つ容易に成形することができるとともに、複雑な構成でも正確に成形ができ、製造効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の第一実施形態に係る床材の積層構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、表面層の積層構造を模式的に示し、(a)は防滑性を高めた表面層の断面図、(b)はクッション性を高めた表面層の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第二実施形態に係る床材の積層構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明が適用される床材の具体例(1)である玄関用床材を示す図である。
【
図5】
図5は、床材の具体例(1)の玄関用床材における表面層を示す図である。
【
図6】
図6は、床材の具体例(1)の玄関用床材における別態様の表面層を示す図である。
【
図7】
図7は、床材の具体例(1)の玄関用床材を成形するための成形型を示す図である。
【
図8】
図8は、床材の具体例(1)の玄関用床材を成形する製造方法の手順を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明が適用される床材の具体例(2)である玄関用床材を示す図である。
【
図10】
図10は、床材の具体例(2)の玄関用床材における表面層を示す図である。
【
図11】
図11は、床材の具体例(2)の玄関用床材における別態様の表面層を示す図である。
【
図12】
図12は、床材の具体例(2)の玄関用床材を成形するための成形型を示す図である。
【
図13】
図13は、床材の具体例(2)の玄関用床材を成形する製造方法の手順を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の床材の製造方法に係る接合層配置工程を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明が適用される床材の具体例(3)である玄関用床材を示す平面図である。
【
図16】
図16は、床材の具体例(2)の玄関用床材における表面層の変形例(1)を示す図である。
【
図17】
図17は、床材の具体例(2)の玄関用床材における表面層の変形例(2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の床材、及び床材の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、図において、本発明の床材は複数の層で構成されていることが示されているが、各層の厚み関係は説明容易化のため適宜誇張又は簡略化しており、実際の床材における各層の厚みの大小関係(縮尺)を厳密に反映したものではない。
【0024】
本明細書において、ある層の「上面」又は「上方」は、床材を敷設する床面(水平面)から遠い側の面又は方向を指し、「下面」又は「下方」は、その反対側(床材を敷設する床面に近い側)の面又は方向を指す。
【0025】
〔第一実施形態〕
<床材の全体構成>
図1は、本発明の第一実施形態に係る床材1Aの積層構造を模式的に示す断面図である。
図1に示す床材1Aは、表面層2とコールドプレス成形層3とを有し、上方から下方に向かって、表面層2及びコールドプレス成形層3がこの記載順に積層されている。
【0026】
<表面層>
図2は、表面層2の積層構造を模式的に示し、
図2(a)は防滑性を高めた表面層2Aの断面図、
図2(b)はクッション性を高めた表面層2Bの断面図である。表面層2には、床材の意匠性を高めるため凹凸模様(図示省略)が形成されている。凹凸模様としては、エンボス、発泡構造、デボス、シボ等が挙げられる。表面層2は、例えば、
図2(a)に示す表面層2A、及び
図2(b)に示す表面層2Bの何れもが採用可能であり、床材1Aの防滑性を高める場合は、
図2(a)に示す表面層2Aが採用され、床材1Aのクッション性を高める場合は、
図2(b)に示す表面層2Bが採用される。
【0027】
まず、床材1Aの防滑性を高めることができる表面層2Aについて、
図2(a)を用いて説明する。
図2(a)に示す表面層2Aは、上方から下方に向かって、耐摩耗層11、保護層12、意匠層13、上側樹脂層14、樹脂含浸ガラスシート15、及び下側樹脂層16がこの記載順に積層されている。
【0028】
[耐摩耗層]
耐摩耗層11は、最も表側に位置する層であって、表面層2Aの必須構成要素ではないが、傷付きなどを防止したり、耐摩耗性を向上させたりする。耐摩耗層11は、透明又は不透明でもよいが、保護層12の裏面側に設けられた意匠層13などの柄を視認できるようにするため、透明であることが好ましい。耐摩耗層11は、耐傷付き性を発揮しつつ、全体がもろくならず、耐衝撃性にも優れるという理由から、層厚が2~50μmであることが好ましく、5~35μmであることがより好ましい。特に、層厚が2μm以上で十分な耐傷性が得られ、層厚が50μm以下で床材全体の剛性が高くなりすぎず、割れにくく、加工性に優れる。
【0029】
耐摩耗層11は、汎用的であることから、紫外線硬化樹脂などの電離放射線硬化性樹脂を用いることがより好ましい。前記硬化性樹脂としては、紫外線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂以外に、熱硬化性樹脂、非電離放射線により硬化する樹脂などが挙げられる。電離放射線硬化性樹脂組成物を用いる場合、耐摩耗層11は、重合開始剤、その他の各種添加剤など含み、必要に応じて骨材を含む。電離放射線により硬化する樹脂としては、加工性の良さ及び汎用的であることから、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系等の紫外線硬化樹脂を用いることが好ましく、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等を添加してもよい。また、骨材としては、アルミナ等の無機粒子を用いることができ、これにより、防滑性、耐摩耗性、耐久性を向上させることができる。
【0030】
[保護層]
保護層12は、表面層2Aに付着した汚れを容易に除去できるようにするために設けられた層である。すなわち、保護層12は、表面層2Aに汚れ除去性を付与する。保護層12は、必要に応じて設けられる。保護層12は、透明又は不透明の何れでもよいが、保護層12の裏面側に設けられた意匠層13の柄や着色を視認できるようにするため、透明であることが好ましい。
【0031】
保護層12の素材としては、樹脂材料が好適である。樹脂材料は、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられ、これらのうち、ポリ塩化ビニル系樹脂が好ましい。保護層12の厚みは、0.03~1mmであり、好ましくは0.1~0.8mmである。
【0032】
[意匠層]
意匠層13は、所望の柄を表現し、表面層2Aの表面に意匠性を付与する層である。例えば、意匠層13は、熱可塑性樹脂により形成される。前記熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル樹脂、オレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メタクリレート樹脂などのアクリル系樹脂、アミド系樹脂、エステル系樹脂、酢酸ビニル、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマーなどの各種エラストマー、ゴムなどが挙げられる。なかでも、耐久性や加工性に優れることから、塩化ビニル樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂に、充填剤、可塑剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、発泡剤などの各種添加剤を配合してもよい。
【0033】
意匠層13は、印刷の施された印刷フィルムで形成してもよく、着色剤を添加した熱可塑性樹脂で成形してもよく、複数色の樹脂チップを添加し練り込むことにより形成してもよい。
【0034】
意匠層13の厚みは、0.50~1.50mmであり、0.60~1.00mmが好ましく、0.65~0.80mmがより好ましい。
【0035】
また、上側樹脂層14に着色剤などを添加することによって柄を表出させる場合、上記意匠層13を除いてもよい。
【0036】
[上側樹脂層及び下側樹脂層]
上側樹脂層14及び下側樹脂層16は、表面層2Aの強度及び重量を構成する主たる部分である。上側樹脂層14及び下側樹脂層16の厚みは、特に限定されず、適宜設定できる。上側樹脂層14の厚みと下側樹脂層16の厚みとは、同じでもよいし、異なっていてもよい。上側樹脂層14の厚みは、0.05~1.0mmであり、好ましくは0.1~0.8mmである。下側樹脂層16の厚みは、0.5~3.0mmであり、好ましくは0.7~2.0mmである。
【0037】
上側樹脂層14及び下側樹脂層16の素材としては、熱可塑性樹脂が好適である。熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の各種エラストマー等が挙げられる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。上側樹脂層14及び下側樹脂層16の少なくとも何れか一方は、優れた可撓性を有し、さらに、樹脂含浸ガラスシート15と接合し易いことから、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂層であることが好ましく、上側樹脂層14及び下側樹脂層16の双方が、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とすることがより好ましい。ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂層を有する表面層2Aは、柔軟性に優れているので、歩行感が良好であり、さらに、湾曲させながら床面に施工できる。また、ポリ塩化ビニル系樹脂は、安価である上、これを用いると、表面層2Aの製造も簡易となる。上側樹脂層14及び下側樹脂層16が何れもポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする場合、当該ポリ塩化ビニル系樹脂は、モノマーの種類及び重合度が同じでもよく、異なっていてもよい。
【0038】
なお、本明細書において、主成分とは、添加剤を除いた樹脂成分のことをいい、その層を構成する成分(ただし、添加剤を除く)が複数ある場合、その中で最も含有量が多い成分(重量比)をいう。この添加剤としては、例えば、可塑剤、充填剤、安定剤などが挙げられる。主成分の含有量は、その層を構成する成分全体を100質量%とした場合、50質量%を超え、好ましくは、70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。主成分の含有量の上限は、100質量%である。主成分の含有量が100質量%未満である場合において、その層に含まれる主成分以外の成分は特に限定されず、従来公知の成分を含み得る。
【0039】
[樹脂含浸ガラスシート]
樹脂含浸ガラスシート15は、経時的な収縮や膨張による表面層2Aのサイズ変動を抑制するために用いられ、詳細図示による説明は省略するが、ガラス繊維を含むガラスシートに樹脂を含浸させたものである。樹脂含浸ガラスシート15は、強度が高く、温度によるサイズ変動が少ないというガラス繊維の特性を有し、表面層2Aのサイズ安定性や剛性などの機械的強度を高め、温度変化や経時的な収縮、膨張によるサイズ変化、反りを抑制することができる。樹脂含浸ガラスシート15の基材であるガラスシートは、複数の繊維が重なり合って層を成しており、ガラス不織布やガラス織布等を用いることができるが、ガラス不織布が好適に用いられる。ガラス不織布は、サイズ安定性に優れるため、表面層2Aの全体のサイズ安定性に大きく寄与する上、表面層2Aの曲げ強度及び引張り強度を向上させることができる。また、ガラス織布は、繊維が概ね規則的に配列されているので、表面層2Aの表面に織り目が表出して凹凸模様の見た目に影響することがあるが、ガラス不織布を用いた場合には表面層2Aの凹凸模様に影響せず、そのまま維持することができる。なお、樹脂含浸ガラスシート15は、サイズ変動が大きくてもよい場合や、他の構成でサイズ変動を抑制できる場合、などは省いてもよい。
【0040】
ガラスシートに含浸させる樹脂としては、上側樹脂層14及び下側樹脂層16の何れにも接着するものであれば特に限定されず、従来公知の樹脂を用いることができる。樹脂としては、上側樹脂層14及び下側樹脂層16で例示したような熱可塑性樹脂が挙げられる。上側樹脂層14及び下側樹脂層16がポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする場合、ガラスシートに含浸させる樹脂もポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とするものであれば、上側樹脂層14及び下側樹脂層16に対して優れた接着性を示すため好ましい。ガラスシートに含浸させる樹脂の性状は、ペースト状のものが含浸し易く、加工性に優れるので好ましい。
【0041】
次に、床材1Aのクッション性を高めることができる表面層2Bについて、
図2(b)を用いて説明する。
図2(b)に示す表面層2Bは、発泡層23と、発泡層23の上面に積層される意匠層24と、意匠層24の上面に積層される保護層22と、発泡層23中に埋設積層されるガラス繊維布21とを備えている。表面層2Bにおいて、ガラス繊維布21を埋設積層する位置は、表面層2Bの全厚みの中心線Sより上面側の発泡層23中とされる。なお、必要に応じて、保護層22とガラス繊維布21との間に意匠性を有する装飾層(図示省略)を設けてもよい。
【0042】
[ガラス繊維布]
ガラス繊維布21としては、発泡性樹脂組成物を含浸し得るように適度な隙間を有するものが好ましい。具体的には、目付が15~80g/m2程度であり、平均厚みが0.15~0.60mm程度のシート状、マット状の不織布又は織布を用いることができる。なお、目付が15g/m2未満の場合、繊維間隙に発泡性樹脂組成物が入り込み易いものの、主として発泡性樹脂組成物の強度に依存することになる。目付が80g/m2を超える場合、繊維間隙に発泡性樹脂組成物が入り込みにくく、繊維と発泡性樹脂組成物との絡み付きが不足することになる。何れの場合も十分なアンカー効果を得られない虞がある。
【0043】
ガラス繊維布21の積層方法としては、従来の発泡製品の製造方法において、ガラス繊維布21を埋没させたペースト状の発泡性樹脂組成物を赤外線ヒーター等の通常の加熱器で発泡させることにより、該ガラス繊維布21を発泡製品中に埋没して積層する方法、流動状態の発泡性樹脂組成物をガラス繊維布21にコーティングして強制的に含浸させる方法、流動状態の発泡性樹脂組成物を離型紙等のキャリア上にナイフコーター等でコーティングした後、該ガラス繊維布21を載置して該発泡性樹脂組成物を含浸させて加熱し発泡させる方法等、任意の方法が適用できる。
【0044】
[保護層]
保護層22としては、前述した保護層12の成分の説明で例示したものを使用することができる。
【0045】
<コールドプレス成形層>
図1に示す床材1Aにおいて、コールドプレス成形層3は、軟化点以上の状態とされた当該コールドプレス成形層3の母材(樹脂)を、後述する成形型200(上型201,下型203),300(上型301,下型303)によって冷却しながらプレス加工を行うことによって成形される層である。ここで、「軟化点」とは、樹脂が外部応力を受けた場合に塑性変形可能となる温度であり、軟化点は通常、樹脂のガラス転移温度(Tg)と溶融温度(Tm)との間にある。コールドプレス成形層3の母材としては、前述した上側樹脂層14及び下側樹脂層16の成分の説明で例示した熱可塑性樹脂を使用することができ、とりわけポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。ちなみに、ポリ塩化ビニル系樹脂の代表例であるポリ塩化ビニルは、可塑剤の配合量によって異なるが、ガラス転移点(Tg)が約60~85℃、溶融温度(Tm)が約210℃であるから、軟化点は、例えば60~200℃と見積もることができる。
【0046】
コールドプレス成形層3は、母材となる樹脂のみで形成してもよいが、木質材や金属材などの他の部材を芯材や基材として内蔵したり、接合することができる。木質材としては、合板やMDF、パーティクルボードやハードボード等が好適に用いられる。金属材としては、鉄、アルミ、ステンレス等が好適に用いられる。木質材や金属材を基材として、コールドプレス成形層3をその上に形成すると、建築物との接合や組み込みを容易に行うことができ、利便性を向上させることができる。
【0047】
第一実施形態の床材1Aにおいて、表面層2とコールドプレス成形層3とは、同種の材料で構成されている。ここで、同種の材料とは主成分が同種であることを意味し、主成分が同種とは、同じ材料であるという意味と、同系統の材料であるという意味との両方を含む。同系統の材料としては、樹脂の繰り返し単位を構成するモノマーが同一であるが、重合度が異なるもの、結晶化度が異なるもの、側鎖の置換基が異なるもの等が挙げられる。表面層2及びコールドプレス成形層3を同種の材料で構成することにより、表面層2とコールドプレス成形層3との境界を熱融着によってより強固に一体化することができる。
【0048】
表面層2及びコールドプレス成形層3には、必要に応じて樹脂以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば、可塑剤、繊維、充填剤、安定剤、加工助剤、防黴剤、消臭剤、抗菌剤、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、リン酸トリオクチル(TOP)、リン酸トリフェニル(TPP)、ジオクチルテレフタレート(DOTP)、ジオクチルイソフタレート(DOIP)、ジイソノニルシクロヘキシルフタレート(DINCH)等が挙げられる。繊維としては、樹脂、ガラスなどの短繊維が挙げられる。なかでも、ガラスの短繊維が好ましく、製品の反りを抑え、寸法安定性と強度を高めることができる。繊維長は、0.5~10mmであり、2~9mmが好ましく、4~8mmがより好ましい。充填剤としては、例えば、酸化カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク、マイカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、珪砂、水酸化アルミニウム等が挙げられる。なお、コールドプレス成形層3において、可塑剤は、10~90部である。また、充填剤は、0~400部である。
【0049】
<密度>
表面層2及びコールドプレス成形層3の密度は、特に、可塑剤の種類や配合量、充填剤の種類や配合量の影響を受けるが、後述する成形型200(上型201、下型203),300(上型301、下型303)を用いたコールドプレス成形での冷却固化時の温度変化の影響も受ける。すなわち、後述する成形型200,300を用いたコールドプレス成形において、表面層2における、成形型200,300と接する部分(上面側部分)は、成形型200,300によって当初から冷却される一方で、表面層2における、コールドプレス成形層3の母材と接する部分(下面側部分)は、その母材との接触によってコールドプレス成形層3の母材の軟化点以上の温度に一旦上昇された後、成形型200,300の温度に近づくように冷却される。これに対し、コールドプレス成形層3は、その成形段階において、当該コールドプレス成形層3の母材が軟化点以上の温度である状態から成形型200,300に接触することで急速に成形型200,300の温度に近づくように冷却される。このように、表面層2の温度変化よりも、コールドプレス成形層3の温度変化の方が大きいため、コールドプレス成形層3の密度は、表面層2の密度より大きくなる傾向がある。また、表面層2が発泡樹脂を含む場合、特にこの傾向が顕著になる。これによって、コールドプレス成形層3によって床材全体を丈夫な構造にしつつ、足裏で直接踏まれる表面層2を柔らかくして踏み心地を良くしたり、下肢疲労軽減効果も付与することができる。
【0050】
<層間剥離強度>
JIS A 1454の層間剥離強度試験方法に準拠して測定される表面層2とコールドプレス成形層3との層間剥離強度は、8~100N/50mmであり、好ましくは、20~95N/50mmであり、より好ましくは、30~90N/50mmである。これにより、床材1Aの通常の使用において、コールドプレス成形層3に対し表面層2が剥離するのを確実に防ぐことができ、床材1Aとしての機能を長期に亘って安定的に保つことができる。層間剥離強度が8N/50mm未満の場合、表面層2及びコールドプレス成形層3の溶着状態を長期に亘って維持できない虞がある。層間剥離強度が100N/50mmを超える場合、異種素材で形成された表面層2とコールドプレス成形層3とを分別処理することができず、リサイクル性の点から望ましくない。なお、表面層2とコールドプレス成形層3とが同種材料で形成される場合、リサイクル時に分別処理してもしなくてもよい。
【0051】
<硬度>
表面層2、コールドプレス成形層3の硬度は、JIS K 6253に準拠して測定した、タイプAデュロメータ硬度のことをいう。具体的には、株式会社テクロックのGS-719Nを用いて測定した値である。表面層2の硬度は、30~118であり、好ましくは、35~100であり、より好ましくは、40~98である。硬度が30未満の場合、表面層2の柔軟性が向上し踏み心地が良くなるものの、表面層2が変形し易くなるため凹凸模様が崩れる虞がある。硬度が118を超える場合、表面層2の凹凸模様は崩れ難くなるが、踏み心地が悪化する虞がある。コールドプレス成形層3の硬度は、75~115であり、好ましくは、90~100であり、より好ましくは、94~96である。硬度が75未満の場合、コールドプレス成形層3の柔軟性が向上し踏み心地が良くなるものの、コールドプレス成形層3が変形し易くなるため立体構造が潰れ易くなる虞がある。硬度が115を超える場合、コールドプレス成形層3の立体構造は潰れ難くなるが、踏み心地が悪化する虞がある。
【0052】
また、コールドプレス成形層3の硬度を、表面層2よりも高くすることで、コールドプレス成形層3によって床材全体を丈夫な構造にしつつ、足裏で直接踏まれる表面層2を柔らかくして踏み心地を良くしたり、下肢疲労軽減効果も付与することができる。この場合、コールドプレス成形層3と表面層2の硬度差は、30以上が好ましく、40以上がより好ましい。上限値は65以下が好ましく、50以下がより好ましい。ここでの硬度差は、以下の計算式によって求められる。
硬度差 = (コールドプレス成形層3の硬度)-(表面層2の硬度)
【0053】
〔第一実施形態の変形例(1)〕
第一実施形態の変形例(1)として、コールドプレス成形層に芯材が内包された床材が挙げられる。芯材としては、例えば、金属や木材、樹脂等、又はこれらの複合材から構成される板状、格子状、網目状等の形状に形成された部材が挙げられる。
【0054】
芯材は、全体がコールドプレス成形層3に内包されてもよいが、所要の部分がコールドプレス成形層3の表面から突出した突出部を有していてもよい。突出部としては、例えば、雄螺子が形成された螺子軸が挙げられる。このように、螺子軸をコールドプレス成形層3の表面から突出させる構成を採用することにより、床材の施工時に、床材の螺子軸に螺合させたナットの締付操作で床材を設置箇所に容易、且つ強固に固定することができる。
【0055】
また、コールドプレス成形層3の表面側に芯材の要所を出現させるための所要の開口部を設け、かかる開口部に対応する芯材の部分に、例えば、雌螺子を形成してもよい。このように、コールドプレス成形層3の表面側に設けられた開口部を通して、芯材に形成された雌螺子にボルトを螺合可能な構成を採用することにより、床材の施工時に、床材の雌螺子に螺合させたボルトの締付操作で床材を設置箇所に容易、且つ強固に固定することができる。
【0056】
なお、芯材として、木材板を採用することにより、設置箇所に床材を釘や木螺子を用いて容易、且つ強固に固定することができる。また、木材板の所要部分をコールドプレス成形層3から露出させるようにしてもよい。この場合、例えば、設置しようとする床面が木質下地である場合、露出された木材部分と木質下地との間に、木材用接着剤等で形成された接着層を介在させる施工法により、床材を設置箇所に容易、且つ強固に固定することができる。
【0057】
上記変形例(1)に係る床材によれば、コールドプレス成形層3に芯材が内包されているので、表面層2及びコールドプレス成形層3の強度に加えて芯材の強度が付加されて床材全体の強度を高めることができる。また、上記変形例(1)に係る床材によれば、表面層2及びコールドプレス成形層3がそれぞれ有する機能に加えて、芯材が有する機能が付加されるので、付加価値を高めることができる。また、上記変形例(1)に係る床材によれば、コールドプレス成形層3に芯材が内包される構成であるので、コールドプレス成形層3と芯材との接合強度等を考慮する必要がなく、樹脂材料から構成されるコールドプレス成形層3とは素材が異なる金属や木材等の異素材から構成される芯材を採用することが可能となり、芯材として使用される材料の選択肢を増すことができる。
【0058】
上記変形例(1)に係る床材は、以下の(1)~(6)の工程を包含する製造方法により製造することができる。
(1)成形型に表面層2を配置する第一配置工程
(2)表面層2に接するように熱可塑性樹脂を軟化点以上の状態にして配置する第二配置工程
(3)第二配置工程で配置した熱可塑性樹脂に接するように芯材を配置する第三配置工程
(4)芯材に接するように熱可塑性樹脂を軟化点以上の状態にして配置する第四配置工程
(5)成形型の内容物を熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度でプレスするプレス工程
(6)プレス工程により形成された積層成形体を成形型から取り出す回収工程
【0059】
上記の製造方法によれば、従来の床材では実現し得なかった高い意匠性と自由な成形性とを両立しつつ、樹脂材料から構成されるコールドプレス成形層3とは素材が異なる金属や木材等の異素材から構成される芯材をコールドプレス成形層3に容易に内包させることができる。
【0060】
〔第一実施形態の変形例(2)〕
第一実施形態の変形例(2)として、表面層2とコールドプレス成形層3と基材とをこの記載順に積層してなる床材が挙げられる。このように、表面層2及びコールドプレス成形層3に加えて基材が積層される構成を採用することにより、床材の強度を高めることができる。基材としては、例えば、金属や木材、樹脂等、又はこれらの複合材から構成される板状、格子状、網目状等の形状に形成された部材が挙げられる。
【0061】
例えば、設置しようとする床面が木質下地である場合、床材の基材として木材板を採用し、基材と木質下地との間に、木材用接着剤等で形成された接着層を介在させる施工法により、床材を設置箇所に容易、且つ強固に固定することができる。
【0062】
上記変形例(2)に係る床材は、以下の(1)~(5)の工程を包含する製造方法により製造することができる。
(1)成形型に表面層2を配置する第一配置工程
(2)表面層2に接するように熱可塑性樹脂を軟化点以上の状態にして配置する第二配置工程
(3)第二配置工程で配置した熱可塑性樹脂に接するように基材を配置する第三配置工程
(4)成形型の内容物を熱可塑性樹脂の軟化点より低い温度でプレスするプレス工程
(5)プレス工程により形成された積層成形体を成形型から取り出す回収工程
【0063】
上記の製造方法によれば、従来の床材では実現し得なかった高い意匠性と自由な成形性とを両立しつつ、樹脂材料から構成されるコールドプレス成形層3とは素材が異なる金属や木材等の異素材から構成される基材を表面層2及びコールドプレス成形層3に加えて容易に積層することができる。
【0064】
〔第二実施形態〕
図3は、本発明の第二実施形態に係る床材1Bの積層構造を模式的に示す断面図である。第二実施形態において、第一実施形態と同一又は同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略し、以下においては、第二実施形態に特有の部分を中心に説明する。
【0065】
図3に示すように、第二実施形態の床材1Bにおいては、表面層2とコールドプレス成形層3とが接合層4を介して積層されている。表面層2とコールドプレス成形層3とは、異種の熱可塑性樹脂で構成されている。
【0066】
接合層4は、アンカー効果を発揮できる素材で構成されるものであれば特に限定されない。接合層4の素材として、例えば、ジュート、ガラス繊維不織布、スパンボンド不織布、多孔質構造を有する発泡樹脂等が挙げられる。一例として、接合層4にスパンボンド不織布が用いられた場合について説明する。後述する成形型200(上型201、下型203),300(上型301、下型303)を用いたコールドプレス成形において、軟化点以上の状態とされたコールドプレス成形層3の母材の熱とプレス加工時の圧力とにより、表面層2におけるコールドプレス成形層3と対向する側の一部、及びコールドプレス成形層3の母材における表面層2と対向する側の一部は、それぞれ溶融状態でスパンボンド不織布の繊維間隙に入り込み、その後、冷却固化することでアンカー効果により表面層2とコールドプレス成形層3とが接合層4(スパンボンド不織布)を介して強固に一体化される。表面層2とコールドプレス成形層3とが異種の材料である場合、両者の接合が上手くいかないことがあるが、こうして、接合層4を介在させることにより、表面層2とコールドプレス成形層3とが異種の材料であっても、表面層2とコールドプレス成形層3とを接合層4を介して強固に一体化することができる。
【0067】
<床材の具体例(1)>
図4は、本発明が適用される床材の具体例(1)である玄関用床材31Aを示す図である。
図4(a)は平面図、
図4(b)は
図4(a)のA-A線切断端面の要部拡大図である。
図4(a)に示す玄関用床材31Aは、表面層33Aと、表面層33Aを下側から支持するコールドプレス成形層35Aとを備えている。
【0068】
<コールドプレス成形層>
図4(a)及び(b)に示すように、コールドプレス成形層35Aは、床面に敷設される平面視矩形状の床面敷設部41と、上方に向けて突出するように床面敷設部41に連設される立上げ壁部43とを有している。立上げ壁部43は、側面視矩形状の第一側壁51、第二側壁52及び第三側壁53を含む。第一側壁51、第二側壁52及び第三側壁53は、床面敷設部41における四つの辺部のうち、
図4(a)において下側の一つの辺部を除いて、残りの三つの辺部に一体的に連設されている。第一側壁51と第二側壁52とは、直角をなすように配置されて互いの端部が一体的に接合され、第一側壁51と第二側壁52との交わりの角部によって第一角部55が形成されている。第二側壁52と第三側壁53も同様に、直角をなすように配置されて互いの端部が一体的に接合され、第二側壁52と第三側壁53との交わりの角部によって第二角部57が形成されている。
【0069】
なお、本例では、立上げ壁部43として、三つの側壁51,52,53を含むものとし、床面敷設部41における四つの辺部のうちの三つの辺部に、当該床面敷設部41を取り囲む方向に三つの側壁51,52,53が連続するように配設する態様例を示したが、これに限定されるものではなく、立上げ壁部43として、一つ、二つ又は四つの側壁を含むものとし、床面敷設部41における四つの辺部のうち、一つの辺部のみ、任意に選択される二つの辺部のみ、又は全ての辺部に側壁を配設する態様例もある。要するに、床面敷設部41が多角形である場合において、一つの辺部のみ、又は任意に選択される二つ以上の辺部に側壁を配置する態様があり得る。
【0070】
床面敷設部41において、第二側壁52が配設される
図4(a)において上側の辺部から側壁が配設されない
図4(a)において下側の辺部に向けて、必要に応じ、所定の排水勾配を付すようにしてもよい。
【0071】
コールドプレス成形層35Aは、表面層33Aが積層される積層面を有する床面敷設部41に対して、垂直(鉛直)方向に延びる立上げ壁部43を含む立体構造を有している。このように、本発明では、自由な立体構造の床材31Aを成形することができる。特に、第一側壁51、第二側壁52及び第三側壁53が表面層33Aを三方から取り囲むような立体構造を有しており、これは押出成形では得られない立体構造である。なお、立上げ壁部43は、垂直(鉛直)方向に延びる形状に限定されるものではなく、垂直(鉛直)方向に対し外側に開いたような形状(例えば、バスタブの周壁部のような形状)もあり得る。
【0072】
<表面層>
表面層33Aは、床面敷設部41の上面側に固着される平面視矩形状の枚葉状に形成された主表面部61と、主表面部61に連設され、且つ立上げ壁部43の内壁面側に固着される立上げ表面部63とを有する。
【0073】
図4(b)に示すように、表面層33Aにおける主表面部61は、後述するコールドプレス成形工程の実施によって形成される複数の凹部67と複数の凸部77とを有している。複数の凹部67と複数の凸部77とは、縦横に隣接して配置されている。複数の凹部67は、隣接する凸部77の間に形成されている。複数の凹部67と複数の凸部77とは、全体としてタイル調の凹凸模様を構成する。
【0074】
[凸部]
複数の凸部77は、平面視略正方形状に形成されている。なお、本明細書において、平面視は、表面層33Aの表面に対して鉛直方向から見ることをいい、平面視形状は、平面視での輪郭をいう。複数の凸部77は、その平面視形状の大きさが全て同じで、縦横に等間隔で規則的に配置されている。これにより、玄関用床材31Aの排水性及び防滑性が場所によってバラつくことを防ぐことができる。
【0075】
各凸部77は、突出端に略平坦な頂面を有している。頂面には、意匠性及び防滑性を高めるため、平面視格子網状に突出される網状凸部79が形成されている。網状凸部79は、格子網状の凹凸模様を構成する。
【0076】
[凹部]
複数の凹部67は連続して排水溝80を構成しており、この排水溝80は、各凸部77を取り囲むように平面視格子状に形成されている。
【0077】
図4(a)に示すように、表面層33Aにおいて、立上げ表面部63は、主表面部61に対し起立した側面視矩形状の第一折上げ片81、第二折上げ片82及び第三折上げ片83を含む。第一折上げ片81、第二折上げ片82及び第三折上げ片83は、主表面部61における四つの辺部のうち、
図4(a)において下側の一つの辺部を除いて、残りの三つの辺部に一体的に連設されている。第一折上げ片81、第二折上げ片82及び第三折上げ片83においては、第一折上げ片81が第一側壁51の内壁面側に固着され、第二折上げ片82が第二側壁52の内壁面側に固着され、第三折上げ片83が第三側壁53の内壁面側に固着されている。第一折上げ片81及び第二折上げ片82は、直角の第一角部85を形成するように隣接配置されている。第二折上げ片82及び第三折上げ片83も同様に、直角の第二角部87を形成するように隣接配置されている。
【0078】
図5は、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aにおける表面層33Aを示す図である。
図5(a)は、表面層33Aの展開状態の平面図である。
図5(a)において、主表面部61と各折上げ片81,82,83との境界を明示するため、主表面部61に対し各折上げ片81,82,83が折り上げられた(起立された)ときに、主表面部61と各折上げ片81,82,83との境界に形成される折目の位置を示す折線91,92,93を付しているが、実際には表面層33Aにそのような折線91,92,93は付されていない(
図6(a)、
図10(a)、
図11(a)においても同様。)。
図5(b)は、
図5(a)に示す表面層33Aにおける隣接する二つの折上げ片81,82が折り上げられて第一角部85(
図4(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
図5(c)は、
図5(a)に示す表面層33Aにおける隣接する二つの折上げ片82,83が折り上げられて第二角部87(
図4(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
図5(b)及び(c)においては、隣接する二つの折上げ片81,82;82,83の接触状態(突き合せ状態)を分かり易く模式的に示すために折上げ片81,82,83の厚み関係は誇張されており、実際の折上げ片81,82,83の厚みの大小関係(縮尺)を厳密に反映したものではない(
図6(b)及び(c)、
図10(b)及び(c)、
図11(b)及び(c)においても同様。)。
【0079】
図5(a)の左側の要部拡大図に示すように、第二折上げ片82における第一折上げ片81に近い側の端部、すなわち第二折上げ片82における
図5(a)において左側の端部と第一折上げ片81との境界には、第一折上げ片81の厚みに相当する長さ分の切込95が、折線92の延長線上に位置するように形成されている。このような切込95が設けられることにより、
図5(b)に示すように、第一角部85を形成するように主表面部61に対し起立した第一折上げ片81及び第二折上げ片82の隣接する部分において、第一折上げ片81の端面81aと第二折上げ片82の端部82bとが接触する部分が存在する状態(本例では、第一折上げ片81の端面81aの全部と第二折上げ片82の端部82bとが完全に接触する突き合せ状態)でそれら折上げ片81,82が起立されることになり、第一角部85を形成する際に、第一折上げ片81と第二折上げ片82とが相互に干渉するのを防ぐことができるとともに、第一角部85に隙間が生じないようにすることができる。第一折上げ片81と第二折上げ片82とが相互に干渉しないことによって、不要な凸部が生じるなどの不具合を防ぐことができる。但し、わずかな相互干渉は許容できるし、より積極的に意図的に第一折上げ片81と第二折上げ片82とを相互に干渉させて特殊な形状を形成することも可能である。
【0080】
図5(a)の右側の要部拡大図に示すように、第二折上げ片82における第三折上げ片83に近い側の端部、すなわち第二折上げ片82における
図5(a)において右側の端部と第三折上げ片83との境界には、第三折上げ片83の厚みに相当する長さ分の切込96が、折線92の延長線上に位置するように形成されている。このような切込96が設けられることにより、
図5(c)に示すように、第二角部87を形成するように主表面部61に対し起立した第二折上げ片82及び第三折上げ片83の隣接する部分において、第三折上げ片83の端面83aと第二折上げ片82の端部82bとが接触する部分が存在する状態(本例では、第三折上げ片83の端面31aの全部と第二折上げ片82の端部82bとが完全に接触する突き合せ状態)でそれら折上げ片82,83が起立されることになり、第二角部87を形成する際に、第二折上げ片82と第三折上げ片83とが相互に干渉するのを防ぐことができるとともに、第二角部87に隙間が生じないようにすることができる。第二折上げ片82と第三折上げ片83とが相互に干渉しないことによって、不要な凸部が生じるなどの不具合を防ぐことができる。但し、わずかな相互干渉は許容できるし、より積極的に意図的に第二折上げ片82と第三折上げ片83とを相互に干渉させて特殊な形状を形成することも可能である。
【0081】
こうして、後述するプレス工程において、コールドプレス成形層35Aの構成材である熱可塑性樹脂が第一角部85及び第二角部87から露出するのを防ぐことができ、第一折上げ片81、第二折上げ片82及び第三折上げ片83によって第一角部85及び第二角部87を見た目にも美しく確実に形成することができる。併せて、熱可塑性樹脂が第一角部85及び第二角部87の隙間から表面層33Aの上に漏出して、美観や表面層33Aの物性を損ねるなどの不具合を生じることも防ぐことができる。
【0082】
図6は、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aにおける別態様の表面層33Aを示す図である。
図6(a)は、表面層33Aの展開状態の平面図である。
図6(b)は、
図6(a)に示す表面層33Aにおける隣接する二つの折上げ片81,82が折り上げられて(起立されて)第一角部85(
図4(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
図6(c)は、
図6(a)に示す表面層33Aにおける隣接する二つの折上げ片82,83が折り上げられて第二角部87(
図4(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
【0083】
図6(a)の左側の要部拡大図に示すように、第一折上げ片81における第二折上げ片82に近い側の端部、すなわち第一折上げ片81における
図6(a)において上側の端部と第二折上げ片82との境界には、第二折上げ片82の厚みに相当する長さ分の切込97が、折線91の延長線上に位置するように形成されている。このような切込97が設けられることにより、
図6(b)に示すように、第一角部85を形成するように主表面部61に対し起立した第一折上げ片81及び第二折上げ片82の隣接する部分において、第二折上げ片82の端面82aと第一折上げ片81の端部81bとが接触する部分が存在する状態(本例では、第二折上げ片82の端面82aの全部と第一折上げ片81の端部81bとが完全に接触する突き合せ状態)でそれら折上げ片81,82が起立されることになり、第一角部85を形成する際に、第一折上げ片81と第二折上げ片82とが相互に干渉するのを防ぐことができるとともに、第一角部85に隙間が生じないようにすることができる。
【0084】
図6(a)の右側の要部拡大図に示すように、第三折上げ片83における第二折上げ片82に近い側の端部、すなわち第三折上げ片83における
図6(a)において上側の端部と第二折上げ片82との境界には、第二折上げ片82の厚みに相当する長さ分の切込98が、折線93の延長線上に位置するように形成されている。このような切込98が設けられることにより、
図6(c)に示すように、第二角部87を形成するように主表面部61に対し起立した第二折上げ片82及び第三折上げ片83の隣接する部分において、第二折上げ片82の端面82aと第三折上げ片83の端部83bとが接触する部分が存在する状態(本例では、第二折上げ片82の端面82aの全部と第三折上げ片83の端部83bとが完全に接触する突き合せ状態)でそれら折上げ片82,83が起立されることになり、第二角部87を形成する際に、第二折上げ片82と第三折上げ片83とが相互に干渉するのを防ぐことができるとともに、第二角部87に隙間が生じないようにすることができる。
【0085】
こうして、後述するプレス工程において、コールドプレス成形層35Aの構成材である熱可塑性樹脂が第一角部85及び第二角部87から露出するのを防ぐことができ、第一折上げ片81、第二折上げ片82及び第三折上げ片83によって第一角部85及び第二角部87を見た目にも美しく確実に形成することができる。なお、
図5(b)では、第一折上げ片81の端面81aと第二折上げ片82の端部82bとの接触について、
図5(c)では、第三折上げ片83の端面83aと第二折上げ片82の端部82bとの接触について、
図6(b)では、第二折上げ片82の端面82aと第一折上げ片81の端部81bとの接触について、
図6(c)では、第二折上げ片82の端面82aと第三折上げ片83の端部83bとの接触について、それぞれ完全に接触する突き合せ状態を図示して説明したが、本発明の接触はこれに限定されず、一部が接触する状態も含まれる。また、第一折上げ片81の端面81aと第二折上げ片82の端部82bとの少なくとも一部、第三折上げ片83の端面83aと第二折上げ片82の端部82bとの少なくとも一部、第二折上げ片82の端面82aと第一折上げ片81の端部81bとの少なくとも一部、第二折上げ片82の端面82aと第三折上げ片83の端部83bとの少なくとも一部が重ね合わされる状態も接触に含まれる。
【0086】
上記の玄関用床材31Aによれば、コールドプレス成形層35Aは、床面に敷設される床面敷設部41と、上方に向けて突出するように床面敷設部41に連設される立上げ壁部43とを有し、表面層33Aは、床面敷設部41に固着される主表面部61と、主表面部61に連設され、且つ立上げ壁部43に固着される立上げ表面部63とを有する。これにより、コールドプレス成形層35Aの立体構造が奏する特定の機能に、表面層33Aが有する機能を付加することができて、玄関用床材31Aの付加価値を高めることができる。
【0087】
上記の玄関用床材31Aにおいて、コールドプレス成形層35Aは、軟化点以上の状態とされた母材が冷却によって固化するまで自由な形に成形することができる。従って、後述する成形型200の成形キャビティの形状の設定により、コールドプレス成形層35Aにおいて、表面層33Aの厚み以上の突出長さの突出部である立上げ壁部43を成形することができる。よって、玄関用床材31Aは、表面層33Aの凹凸模様とコールドプレス成形層35Aの立体構造とを併せ持つこととなり、比較的大きな立体構造と小さい凹凸構造を重畳して形成することができる。これにより、防滑性や排水性の制御を高い水準で行うことができる。さらに、凹凸模様の屈曲面及び立体構造による音の乱反射の作用により、防音、遮音及び吸音の効果を得ることもできる。
【0088】
上記の玄関用床材31Aにおいて、例えば、玄関の上り口、床の間、縁側等における床の面の端を隠すように、床の縁部に接続可能に立上げ壁部43及び立上げ表面部63を上方に延設するようにすれば、これらが框として機能し得るものとなり、本例の場合、特に、第二側壁52及び第二折上げ片82を含む立上げ構造部は上り框として機能し得るものとなる。こうして、コールドプレス成形層35Aにおける立上げ壁部43及び立上げ表面部63を框として機能させた場合、立上げ壁部43に固着される表面層33Aの立上げ表面部63によって当該框の意匠性をより高めることができ、玄関用床材31Aの付加価値をより高めることができる。
【0089】
<玄関用床材の成形型>
図7は、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aを成形するための成形型200を示す図である。
図7(a)は離型状態図、
図7(b)は型締め状態図である。
図7(a)に示すように、成形型200は、凹部201aを有する上型201と、凹部201aに対応する凸部203aを有する下型203とを備え、
図7(b)に示すような型締め状態において、凹部201aと凸部203aとが図のように組み合わされたときに、凹部201aと凸部203aとの間に床面敷設部41及び立上げ壁部43、並びに主表面部61及び立上げ表面部63を含む玄関用床材31Aを成形するための成形キャビティ205が形成される。
【0090】
図7(a)に示すように、上型201における凹部201aは、軟化点以上の状態とされたコールドプレス成形層35Aの母材を押圧して床面敷設部41を形成する床面敷設部形成部211と、床面敷設部形成部211によって押圧されて押し広げられたコールドプレス成形層35Aの母材を形成過程にある床面敷設部41に対し垂直をなすように押圧して立上げ壁部43を形成する立上げ壁部形成部213とを有している。
【0091】
図7(a)に示すように、下型203における凸部203aは、表面層33Aにおける主表面部61となる部分が載置される主表面部載置部215と、表面層33Aにおける主表面部61となる部分と立上げ表面部63となる部分との境界に突き当て可能に形成される山形角部217と、表面層33Aにおける主表面部61となる部分に対し垂直に折り曲げられた立上げ表面部63となる部分を受け止める立上げ表面部受止部219とを有している。
【0092】
<玄関用床材の製造方法>
図8は、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aを成形する製造方法の手順を示す図である。
図8(a)は表面層配置工程の説明図、
図8(b)は熱可塑性樹脂配置工程の説明図、
図8(c)はプレス工程の説明図、
図8(d)は回収工程の説明図である。
【0093】
[表面層配置工程]
まず、
図8(a)に示すように、下型203の上方に上型201が位置して成形型200が開いた状態において、表面層33Aの上面を下方に、下面を上方に向けて、天地を逆転させた状態の表面層33Aにおける主表面部61となる部分を、下型203の主表面部載置部215に載置する。このとき、表面層33Aにおける主表面部61となる部分と立上げ表面部63となる部分との境界で折り曲げることができるようにするため、当該境界と下型203の山形角部217とが対応する位置関係となるように、図示されない治具を用いて位置決めし、下型203に対し表面層33Aを配置する。この表面層配置工程は、本発明の「第一配置工程」に相当する。
【0094】
[熱可塑性樹脂配置工程]
次いで、
図8(b)に示すように、天地逆転状態で主表面部載置部215に載置された表面層33Aの上に、可塑状態にしたコールドプレス成形層35Aの母材である熱可塑性樹脂Mを配置する。この熱可塑性樹脂配置工程は、本発明の「第二配置工程」に相当する。
【0095】
[プレス工程]
次いで、例えば、上型201及び下型203のそれぞれに冷却水を循環させる等の冷却手段(図示省略)により、上型201と下型203とを冷却しながら、
図8(c)に示すように、下型203に対し上型201を下降させて型締めし、成形型200の内容物である表面層33Aと可塑状態の熱可塑性樹脂M(コールドプレス成形層35Aの母材)とを、熱可塑性樹脂Mの軟化点より低い温度、例えば常温ないし常温付近でプレスする。なお、冷却効率が良い製品形状や型構造では、冷却水を循環させずに冷却することができる。このプレス工程におけるプレス圧は、0.1~20MPaであり、好ましくは0.2~15MPaであり、より好ましくは0.5~10MPaである。なお、「常温」とは、JIS Z8703によれば、20℃±15℃、すなわち5~35℃とされているが、「常温ないし常温付近」は「常温」よりも広い温度範囲を含み得るものであり、例えば20~50℃とすることができる。プレス圧が0.1MPa未満の場合、熱可塑性樹脂Mを成形キャビティ205(
図7(b)参照)の全体に充填できずに成形不良となる虞がある。プレス圧が20MPaを超える場合、成形型の寿命を縮めたり、離型性が悪化したりする虞がある。
【0096】
プレス工程において、上型201の床面敷設部形成部211で押圧された熱可塑性樹脂Mは、表面層33A上で押し広げられる。こうして、プレス工程の進行に伴ってコールドプレス成形層35Aの成形が進行する。また、コールドプレス成形層35Aの成形途中において、熱可塑性樹脂Mと表面層33Aとの境界は、軟化点以上(可塑化温度)の状態とされた熱可塑性樹脂Mの熱とプレス加工時の圧力とによる熱融着によって一体化される。
【0097】
上記プレス工程において、床面敷設部形成部211によって押圧されて押し広げられた熱可塑性樹脂Mが形成過程にある床面敷設部41に対し垂直をなすように押圧されて立上げ壁部43が形成される際、上型201の凹部201aと下型203の凸部203aとの協働により、形成過程にある立上げ壁部43が、表面層33Aにおける主表面部61となる部分と立上げ表面部63となる部分との境界で折り曲げるように立上げ表面部63となる部分を押圧する。こうして、表面層33Aにおいて、主表面部61及び立上げ表面部63が形成される。
【0098】
表面層33Aの表面側(
図8(a)~(c)においては図の下側)は、プレス加工時の圧力が作用するものの下型203によって冷却されている。このため、表面層33Aの表面側の熱変形が抑えられ、表面層33Aの表面側に付与された柄や凹凸模様(本例の場合、タイル調の凹凸模様や、格子網状の凹凸模様)が潰れずに残る。コールドプレス成形層35Aにおいては、可塑化温度の状態とされた熱可塑性樹脂Mが成形キャビティ205(
図7(b)参照)の形状に沿って広がり、成形型200(主として、上型201)による冷却によって固化することで成形キャビティ205の形状に応じた形に成形される。従って、高い意匠性と立体感のある自由な成形性とを両立することができる。
【0099】
[回収工程]
プレス工程が完了したら、
図8(d)に示すように、下型203に対し上型201を上昇させて成形型200を開き、プレス工程により形成された積層成形体(玄関用床材31A)を、成形型200から取り出して回収する。
【0100】
[接合層配置工程]
図14(a)は、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aの製造方法に係る接合層配置工程の説明図である。上記の玄関用床材31Aの製造方法は、表面層33Aとコールドプレス成形層35Aとが同種の熱可塑性樹脂で構成される場合に適用されるものである。表面層33Aとコールドプレス成形層35Aとが異種の熱可塑性樹脂で構成される場合には、上記の表面層配置工程と熱可塑性樹脂配置工程との間に、接合層配置工程が実施される。接合層配置工程においては、上記の表面層配置工程によって天地逆転状態で主表面部載置部215上に載置された表面層33Aの上に、アンカー効果を発揮する接合層4が配置される。その後、熱可塑性樹脂配置工程において、接合層4の上に、可塑状態にした熱可塑性樹脂M(
図8(b)を参照)が配置される。
【0101】
接合層4として、スパンボンド不織布が用いられた場合について説明する。成形型200を用いたコールドプレス成形のプレス工程において、軟化点以上の状態とされた熱可塑性樹脂Mの熱とプレス加工時の圧力とにより、表面層33Aにおける熱可塑性樹脂Mと対向する側の一部、及び熱可塑性樹脂Mにおける表面層33Aと対向する側の一部は、それぞれ溶融状態でスパンボンド不織布の繊維間隙に入り込み、その後、冷却固化することでアンカー効果により表面層33Aとコールドプレス成形層35Aとが接合層4(スパンボンド不織布)を介して強固に一体化される。こうして、接合層4を介在させることにより、表面層33Aとコールドプレス成形層35Aとが異種の材料であっても、表面層33Aとコールドプレス成形層35Aとを強固に一体化することができる。なお、接合層4は、予め表面層33Aの最裏面に積層しておいてもよい。
【0102】
<床材の具体例(2)>
図9は、本発明が適用される床材の具体例(2)である玄関用床材31Bを示す図である。
図9(a)は平面図、
図9(b)は
図9(a)のB-B線切断端面の要部拡大図である。
図9(a)に示す玄関用床材31Bは、表面層33Bと、表面層33Bを下側から支持するコールドプレス成形層35Bとを備えている。床材の具体例(2)の玄関用床材31Bにおいて、上記の床材の具体例(1)の玄関用床材31Aと同一又は同様のものについては、図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bに特有の分部を中心に説明することとする。
【0103】
<コールドプレス成形層>
図9(a)及び(b)に示すように、コールドプレス成形層35Bは、床面に敷設される平面視矩形状の床面敷設部41と、上方に向けて突出するように床面敷設部41に連設される立上げ壁部43と、水平方向外側に張り出すように立上げ壁部43に連設される横張出部45とを有している。横張出部45は、第一フランジ101、第二フランジ102及び第三フランジ103を含む。第一フランジ101は、第一側壁51の上端部から水平方向外側に張り出すように第一側壁51の上端部に連設されている。第二フランジ102は、第二側壁52の上端部から水平方向外側に張り出すように第二側壁52の上端部に連設されている。第三フランジ103は、第三側壁53の上端部から水平方向外側に張り出すように第三側壁53の上端部に連設されている。横張出部45は、第一フランジ101、第二フランジ102及び第三フランジ103が、立上げ壁部43を三方から取り囲むように一体化されたコの字形状に形成されている。
【0104】
<表面層>
表面層33Bは、床面敷設部41に固着される平面視矩形状の主表面部61と、主表面部61に連設され、且つ立上げ壁部43に固着される立上げ表面部63と、立上げ表面部63に連設され、且つ立上げ壁部43及び横張出部45に固着される横張出表面部65とを有する。
【0105】
横張出表面部65は、立上げ表面部63に対し直角をなすように外側に折り曲げられる第一外折曲げ片121、第二外折曲げ片122及び第三外折曲げ片123を含む。第一外折曲げ片121は、第一折上げ片81の上端部から水平方向外側に張り出すように第一折上げ片81の上端部に連設されている。第二外折曲げ片122は、第二折上げ片82の上端部から水平方向外側に張り出すように第二折上げ片82の上端部に連設されている。第三外折曲げ片123は、第三折上げ片83の上端部から水平方向外側に張り出すように第三折上げ片83の上端部に連設されている。第一外折曲げ片121、第二外折曲げ片122及び第三外折曲げ片123においては、第一外折曲げ片121が第一折上げ片81及び第一フランジ101の上面側に固着され、第二外折曲げ片122が第二折上げ片82及び第二フランジ102の上面側に固着され、第三外折曲げ片123が第三折上げ片83及び第三フランジ103の上面側に固着されている。横張出表面部65は、第一外折曲げ片121、第二外折曲げ片122及び第三外折曲げ片123が、立上げ表面部63を三方から取り囲むように一体化されたコの字形状に形成されている。
【0106】
図10は、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bにおける表面層33Bを示す図である。
図10(a)は、表面層33Bの展開状態の平面図である。
図10(b)は、
図10(a)に示す表面層33Bにおける隣接する二つの折上げ片81,82が折り上げられて(起立されて)第一角部85(
図9(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
図10(c)は、
図10(a)に示す表面層33Bにおける隣接する二つの折上げ片82,83が折り上げられて第二角部87(
図9(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
【0107】
図11は、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bにおける別態様の表面層33Bを示す図である。
図11(a)は、別態様の表面層33Bの展開状態の平面図である。
図11(b)は、
図11(a)に示す表面層33Bにおける隣接する二つの折上げ片81,82が折り上げられて(起立されて)第一角部85(
図9(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
図11(c)は、
図11(a)に示す表面層における隣接する二つの折上げ片82,83が折り上げられて第二角部87(
図9(a)参照)が形成された状態の要部拡大斜視図である。
【0108】
図10(a)及び
図11(a)において、各折上げ片81,82,83と各外折曲げ片121,122,123との境界を明示するため、各折上げ片81,82,83に対し各外折曲げ片121,122,123が水平方向外向きに折り曲げられたときに、各折上げ片81,82,83と各外折曲げ片121,122,123との境界に形成される折目の位置を示すために折線141,142,143を付しているが、実際には表面層33Bにそのような折線141,142,143は付されていない。また、
図10(b)及び(c)、並びに
図11(b)及び(c)においては、第一角部85及び第二角部87が形成される状態を明確に示すため、各外折曲げ片121,122,123については仮想線で描いている。
【0109】
図10(a)及び
図11(a)における各要部拡大図に示すように、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bにおいても、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aと同様の切込95,96,97,98が形成されている。従って、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aと同様に、後述するプレス工程において、コールドプレス成形層35Bの構成材である熱可塑性樹脂が第一角部85及び第二角部87から露出するのを防ぐことができ、第一折上げ片81、第二折上げ片82及び第三折上げ片83によって第一角部85及び第二角部87を見た目にも美しく確実に形成することができる。
【0110】
上記の床材の具体例(2)の玄関用床材31Bにおいて、例えば、玄関の上り口、床の間、縁側等における床の面の端を隠すように、床の縁部に接続可能に立上げ壁部43及び立上げ表面部63、並びに横張出部45及び横張出表面部65を上方に延設するようにすれば、これらが框として機能し得るものとなる。特に、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bでは、床材の具体例(1)の玄関用床材31Aに対し、横張出部45及び横張出表面部65が付加された構成とされているので、より重厚感及び高級感のある框として機能させることができ、玄関用床材31Bの付加価値をより高めることができる。
【0111】
<玄関用床材の成形型>
図12は、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bを成形するための成形型300を示す図である。
図12(a)は離型状態図、
図12(b)は型締め状態図である。
図12(a)に示すように、成形型300は、凹部301aを有する上型301と、凹部301aに対応する凸部303aを有する下型303とを備え、
図12(b)に示すような型締め状態において、凹部301aと凸部303aとが図のように組み合わされたときに、凹部301aと凸部303aとの間に床面敷設部41、立上げ壁部43及び横張出部45、並びに主表面部61、立上げ表面部63及び横張出表面部65を含む玄関用床材31Bを成形するための成形キャビティ305が形成される。
【0112】
図12(a)に示すように、上型301における凹部301aは、軟化点以上の状態とされたコールドプレス成形層35Bの母材を押圧して床面敷設部41を形成する床面敷設部形成部311と、床面敷設部形成部311によって押圧されて押し広げられたコールドプレス成形層35Bの母材を形成過程にある床面敷設部41に対し垂直をなすように押圧して立上げ壁部43を形成する立上げ壁部形成部313と、同母材を形成過程にある立上げ壁部43に対し外向きに垂直をなすように押圧して横張出部45を形成する横張出部形成部314とを有している。
【0113】
図12(a)に示すように、下型303における凸部303aは、表面層33Bにおける主表面部61となる部分が載置される主表面部載置部315と、表面層33における主表面部61となる部分と立上げ表面部63となる部分との境界に突き当て可能に形成される山形角部317と、表面層33Bにおける主表面部61となる部分に対し垂直に折り曲げられた立上げ表面部63となる部分を受け止める立上げ表面部受止部319と、表面層33Bにおける立上げ表面部63となる部分に対し垂直に外側に折り曲げられた横張出表面部65となる部分を受け止める横張出表面部受止部321とを有している。
【0114】
<玄関用床材の製造方法>
図13は、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bを成形する製造方法の手順を示す図である。
図13(a)は表面層配置工程の説明図、
図13(b)は熱可塑性樹脂配置工程の説明図、
図13(c)はプレス工程の説明図、
図13(d)は回収工程の説明図である。
【0115】
[表面層配置工程]
まず、
図13(a)に示すように、下型303の上方に上型301が位置して成形型300が開いた状態において、表面層33Bの上面を下方に、下面を上方に向けて、天地を逆転させた状態の表面層33Bにおける主表面部61となる部分を、下型303の主表面部載置部315に載置する。このとき、表面層33Bにおける主表面部61となる部分と立上げ表面部63となる部分との境界で折り曲げることができるようにするため、当該境界と下型303の山形角部317とが対応する位置関係となるように、図示されない治具を用いて位置決めし、下型303に対し表面層33Bを配置する。この表面層配置工程は、本発明の「第一配置工程」に相当する。
【0116】
[熱可塑性樹脂配置工程]
次いで、
図13(b)に示すように、天地逆転状態で主表面部載置部315に載置された表面層33Bの上に、可塑状態にしたコールドプレス成形層35Bの母材である熱可塑性樹脂Mを配置する。この熱可塑性樹脂配置工程は、本発明の「第二配置工程」に相当する。
【0117】
[プレス工程]
次いで、例えば、上型301及び下型303のそれぞれに冷却水を循環させる等の冷却手段(図示省略)により、上型301と下型303とを冷却しながら、
図13(c)に示すように、下型303に対し上型301を下降させて型締めし、成形型300の内容物である表面層33Bと可塑状態の熱可塑性樹脂M(コールドプレス成形層35Bの母材)とを、熱可塑性樹脂Mの軟化点より低い温度、例えば常温ないし常温付近でプレスする。このプレス工程におけるプレス圧は、0.1~20MPaであり、好ましくは0.2~15MPaであり、より好ましくは0.5~10MPaである。プレス圧が0.1MPa未満の場合、熱可塑性樹脂Mを成形キャビティ305(
図12(b)参照)の全体に充填できずに成形不良となる虞がある。プレス圧が20MPaを超える場合、離型性が悪化する虞がある。
【0118】
プレス工程において、上型301の床面敷設部形成部311で押圧された熱可塑性樹脂Mは、表面層33B上で押し広げられる。こうして、プレス工程の進行に伴ってコールドプレス成形層35Bの成形が進行する。また、コールドプレス成形層35Bの成形途中において、熱可塑性樹脂Mと表面層33Bとの境界は、軟化点以上(可塑化温度)の状態とされた熱可塑性樹脂Mの熱とプレス加工時の圧力とによる熱融着によって一体化される。
【0119】
上記プレス工程において、床面敷設部形成部311によって押圧されて押し広げられた熱可塑性樹脂Mが形成過程にある床面敷設部41に対し垂直をなすように押圧されて立上げ壁部43が形成される際、上型301の凹部301aと下型303の凸部303aとの協働により、形成過程にある立上げ壁部43が、表面層33Bにおける主表面部61となる部分と立上げ表面部63となる部分との境界で折り曲げるように立上げ表面部63となる部分を押圧する。また、上記プレス工程において、床面敷設部形成部311によって押圧されて押し広げられた熱可塑性樹脂Mが形成過程にある立上げ壁部43に対し外向きに垂直をなすように押圧されて横張出部45が形成される際、上型301の凹部301aと下型303の凸部303aとの協働により、形成過程にある横張出部45が、表面層33Bにおける立上げ表面部63となる部分と横張出表面部65となる部分との境界で折り曲げるように横張出表面部65となる部分を押圧する。こうして、表面層33Bにおいて、主表面部61、立上げ表面部63及び横張出表面部65が形成される。
【0120】
表面層33Bの表面側(
図13(a)~(c)においては図の下側)は、プレス加工時の圧力が作用するものの下型303によって冷却されている。このため、表面層33Bの表面側の熱変形が抑えられ、表面層33Bの表面側に付与された柄や凹凸模様(本例の場合、タイル調の凹凸模様や、格子網状の凹凸模様)が潰れずに残る。コールドプレス成形層35Bにおいては、可塑化温度の状態とされた熱可塑性樹脂Mが成形キャビティ305(
図12(b)参照)の形状に沿って広がり、成形型300(主として、上型301)による冷却によって固化することで成形キャビティ305の形状に応じた形に成形される。従って、高い意匠性と立体感のある自由な成形性とを両立することができる。
【0121】
[回収工程]
プレス工程が完了したら、
図13(d)に示すように、下型303に対し上型301を上昇させて成形型300を開き、プレス工程により形成された積層成形体(玄関用床材31B)を、成形型300から取り出して回収する。
【0122】
[接合層配置工程]
図14(b)は、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bの製造方法に係る接合層配置工程の説明図である。上記の玄関用床材31Bの製造方法は、表面層33Bとコールドプレス成形層35Bとが同種の熱可塑性樹脂で構成される場合に適用されるものである。表面層33Bとコールドプレス成形層35Bとが異種の熱可塑性樹脂で構成される場合には、上記の表面層配置工程と熱可塑性樹脂配置工程との間に、接合層配置工程が実施される。接合層配置工程においては、上記の表面層配置工程によって天地逆転状態で主表面部載置部315上に載置された表面層33Bの上に、アンカー効果を発揮する接合層4が配置される。その後、熱可塑性樹脂配置工程において、接合層4の上に、可塑状態にした熱可塑性樹脂M(
図13(b)を参照)が配置される。
【0123】
接合層4として、スパンボンド不織布が用いられた場合について説明する。成形型300を用いたコールドプレス成形のプレス工程において、軟化点以上の状態とされた熱可塑性樹脂Mの熱とプレス加工時の圧力とにより、表面層33Bにおける熱可塑性樹脂Mと対向する側の一部、及び熱可塑性樹脂Mにおける表面層33Bと対向する側の一部は、それぞれ溶融状態でスパンボンド不織布の繊維間隙に入り込み、その後、冷却固化することでアンカー効果により表面層33Bとコールドプレス成形層35Bとが接合層4(スパンボンド不織布)を介して強固に一体化される。こうして、接合層4を介在させることにより、表面層33Bとコールドプレス成形層35Bとが異種の材料であっても、表面層33Bとコールドプレス成形層35Bとを強固に一体化することができる。なお、接合層4は、予め表面層33Bの最裏面に積層しておいてもよい。
【0124】
なお、上記玄関用床材31A,31Bの製造方法において、表面層33A,33Bの凹凸模様は、積層前に表面層33A,33Bに付与されたものであることが好ましい。上述したように表面層33A,33Bとコールドプレス成形層35A,35Bとを一体化するように積層する工程においては、コールドプレス成形層35A,35Bを成形するためのプレス加工が実施される。このプレス加工は、積層前に予め表面層33A,33Bに付与された凹凸模様を成形型200,300に接触させて行われる。このとき、凹凸模様にはプレス加工時の圧力が作用するものの、凹凸模様は成形型200,300によって冷却されている。このため、凹凸模様が積層前に予め表面層33A,33Bに付与されたものであっても、凹凸模様の熱変形を抑えることができ、凹凸模様の形態を維持することができる。床材31A,31Bによれば、プレス加工を実施した後において、表面層33A,33Bに、例えばエンボス加工等によって凹凸模様を付与する工程を実施しなくても済むため、生産効率を高めることができる。
【0125】
〔別実施形態〕
本明細書において、角部とは、平行でない二つの面が交差した部分に形成される交差線を含む凸部又は凹部を意味する。
図4及び
図9では、直交する二つの面によって形成された外方に凸状に突出する(すなわち、山型の)角部55,57,85,87が示されているが、二つの面の交差角は鈍角であってもよいし、鋭角であってもよい。
【0126】
図15は、本発明が適用される床材の具体例(3)である玄関用床材31Cを示す平面図である。
図15に示すように、二つの平面が180°よりも大きい角度で交差し、内側に凹状に窪んだ(すなわち、谷型の)形状の角部59,89を含む態様もある。
【0127】
本明細書において、床面敷設部41に主表面部61を固着するとは、床面敷設部41に主表面部61を直接的に固着する場合と、床面敷設部41に接合層4を介して主表面部61を間接的に固着する場合の両方を含む。また、立上げ壁部43に立上げ表面部63を固着するとは、立上げ壁部43に立上げ表面部63を直接的に固着する場合と、立上げ壁部43に接合層4を介して立上げ表面部63を間接的に固着する場合の両方を含む。また、立上げ壁部43及び横張出部45に横張出表面部65を固着するとは、立上げ壁部43及び横張出部45に横張出表面部65を直接的に固着する場合と、立上げ壁部43及び横張出部45に接合層4を介して横張出表面部65を間接的に固着する場合の両方を含む。
【0128】
図16は、床材の具体例(2)の玄関用床材31Bにおける表面層33Bの変形例(1)を示す図である。
図17は、同表面層33Bの変形例(2)を示す図である。上述した
図10及び
図11に示す表面層33Bの例において、展開状態で隣り合い(
図10(a)及び
図11(a)参照)、プレス成形後に隣接(
図10(b)及び(c)並びに
図11(b)及び(c)参照)する各外折曲げ片121,122,123は、片側又は両側の端部が斜めにカットされた台形状である。このような
図10及び
図11に示す態様例に限定されるものではなく、
図16の変形例(1)及び
図17の変形例(2)に示すように、各外折曲げ片121,122,123が矩形状(長方形状)である態様例もあり得る。変形例(1)及び(2)によれば、各外折曲げ片121,122,123が
図10及び
図11に示すような台形状である場合と比較して、プレス成形後に隣接(
図16(b)及び(c)並びに
図17(b)及び(c)参照)する各外折曲げ片121,122,123どうしをより高精度で接合することができるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、硬質で立体的な形成が可能なコールドプレス形成層と柔軟で微細な凹凸構造を有して意匠性に優れる表層とを強固に一体化することができる。このため、本発明は、広く建築業界、リフォーム業界等で利用可能な技術であり、例えば、一般住宅、集合住宅、マンション、商業モール、オフィスビル、工場、店舗、駅、学校、病院、公共施設等の各種建造物において、床面を施工する場面で特に有用である。
【符号の説明】
【0130】
1A,1B 床材
2,2A,2B 表面層
3 コールドプレス成形層
4 接合層
31A,31B,31C 床材
33A,33B 表面層
35A,35B コールドプレス成形層
41 床面敷設部
43 立上げ壁部
55,57 角部
61 主表面部
63 立上げ表面部
81,82,83 折上げ片
85,87 角部
95,96,97,98 切込
200,300 成形型