(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125817
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
H01G4/30 311Z
H01G4/30 311A
H01G4/30 311D
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030131
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恒
(72)【発明者】
【氏名】江藤 大俊
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC03
5E001AD03
5E001AH06
5E001AJ01
5E001AJ02
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082LL01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電気特性の優れた積層セラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】積層セラミック電子部品の製造方法は、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層されてなる樹脂バインダを含む母積層体を切断して、積層体13を作製し、ブラスト材のジェット流23を用いて、積層体13の切断面9を研磨洗浄する。ブラスト材は、樹脂バインダと相溶性の無いブラスト液の凍結粒子である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層されてなる、樹脂バインダを含む母積層体を切断して、積層体を作製し、
ブラスト材のジェット流であって、前記樹脂バインダと相溶性の無いブラスト液の凍結粒子であるブラスト材のジェット流を用いて、前記積層体の切断面を研磨洗浄する、積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記凍結粒子は、前記ブラスト液をラバールノズル内に導入し、球形換算で直径が20μm以下の凍結粒子にされたものであり、
前記ブラスト材のジェット流は、前記ラバールノズルから300m/秒以上の速度で噴射される、請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記ブラスト液は水であり、前記凍結粒子は過冷却水が混在する氷結粒子である、請求項1または2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記氷結粒子の量が、前記ジェット流のエア量に対して、体積比で2~50ppmである、請求項3に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記ラバールノズル内に導入される水の温度が5℃以下である、請求項3または4に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記ブラスト液は、球形換算での直径が1μm以下の砥粒を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記砥粒は、前記積層体に含まれるセラミック材料の粉末である、請求項6に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記ブラスト液は、リチウムイオンおよびカリウムイオンのうちの少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記ブラスト液は、前記内部電極層に含まれる金属を溶解するエッチング液を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記積層体を150℃以上180℃以下の温度に加熱しながら前記切断面の研磨洗浄を行う、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項11】
前記積層体の温度を氷点下にして前記切断面の研磨洗浄を行う、請求項1~10のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
切断された積層体の内部電極層は、前記切断面に露出した電極端部を有し、前記電極端部は、所定方向に延びており、
前記ジェット流を、前記切断面に対して20°以上60°以下の角度を成し、かつ前記切断面に垂直な方向から見たときに前記所定方向と交差する方向から、前記切断面に衝突させる、請求項1~11のいずれか1項に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項13】
第1面を有する支持シート、および枠体を準備し、
前記積層体を、前記切断面が解放面となるように、前記支持シートの前記第1面に配置し、
前記枠体を、前記積層体を取り囲むように、前記支持シートの前記第1面に配置し、
前記ジェット流を前記切断面に衝突させる、請求項12に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記枠体の、前記支持シートの前記第1面に対向する面とは反対側の面が、前記切断面よりも、前記第1面からの高さが高い、請求項13に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層セラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型高機能化に伴い、電子機器に搭載される電子部品においても小型化が求められている。積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサは、一辺の長さが1mm以下である製品が主流となっているが、さらなる小型化および大容量化が求められている。
【0003】
積層セラミックコンデンサを小型大容量化するためには、内部電極層の周囲のサイドマージン部を薄くすることが有効である。サイドマージン部を薄くするために、誘電体層と内部電極層とが交互に積層されてなる母積層体を切断して、側面に内部電極層が露出した積層体を作製し、積層体の側面にサイドマージン部となる保護層を後付けで形成する方法がある。そのような方法では、極性の異なる内部電極層同士の短絡を抑制するために、保護層を形成する前に、母積層体の切断時に発生し、積層体の側面に付着した切断屑等の異物を除去する必要がある。特許文献1は、積層体の側面に付着した異物を取り除く工程を含む、積層セラミックコンデンサの製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の積層セラミック電子部品の製造方法は、積層体の側面に付着した異物を効率よく、かつ高品質に除去できないことがあり、積層セラミック電子部品の電気特性を低下させてしまうことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の積層セラミック電子部品の製造方法は、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層されてなる、樹脂バインダを含む母積層体を切断して、積層体を作製し、
ブラスト材のジェット流であって、前記樹脂バインダと相溶性の無いブラスト液の凍結粒子であるブラスト材のジェット流を用いて、前記積層体の切断面を研磨洗浄する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の積層セラミック電子部品の製造方法によれば、積層体の切断面に付着した異物を効率よく、かつ高品質に除去できるため、電気特性の優れた積層セラミック電子部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】積層セラミックコンデンサを示す斜視図である。
【
図2】
図1の積層セラミックコンデンサの素体部品を示す斜視図である。
【
図3】
図2の素体部品の前駆体である素体前駆体を示す斜視図である。
【
図4】
図3の素体前駆体の側面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図5】
図3の素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す斜視図である。
【
図6】
図3の素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す斜視図である。
【
図7A】素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す拡大断面図である。
【
図7B】素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す平面図である。
【
図7C】研磨洗浄後の素体前駆体を示す拡大断面図である。
【
図8】導電性ペーストを印刷されたセラミックグリーンシートを示す斜視図である。
【
図9】導電性ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの積層状態を示す斜視図である。
【
図11】母積層体を切断して得た複数の素体前駆体の斜視図である。
【
図12】側面が上下方向に位置するように回転させた素体前駆体を示す斜視図である。
【
図13A】素体前駆体の側面に保護層となるセラミックグリーンシートを貼り付ける工程を説明する図である。
【
図13B】素体前駆体の側面に保護層となるセラミックグリーンシートを貼り付ける工程を説明する図である。
【
図13C】素体前駆体の側面に保護層となるセラミックグリーンシートを貼り付ける工程を説明する図である。
【
図14】側面に保護層が形成された素体前駆体を示す斜視図である。
【
図15】ブラスト装置のブラストノズルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本開示の積層セラミック電子部品の製造方法の実施形態について説明する。以下では、積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの製造方法について説明するが、本開示の積層セラミック電子部品の製造方法は、積層セラミックコンデンサの製造方法に限られず、積層型圧電素子、積層サーミスタ素子、積層チップコイル、およびセラミック多層基板等の様々な積層セラミック電子部品の製造方法にも適用することができる。以下で参照する図面は、模式的なものであり、図面に示された寸法比率等は、必ずしも正確に図示されたものではない。また、一部の図面において、便宜的に、直交座標系XYZを定義し、Z方向の正方向を上方として、上面または下面等の語を用いるものとする。X方向、Y方向およびZ方向はそれぞれ、第1方向、第2方向および第3方向とも称される。
【0010】
図1は、積層セラミックコンデンサを示す斜視図であり、
図2は、
図1の積層セラミックコンデンサの素体部品を示す斜視図であり、
図3は、
図2の素体部品の前駆体である素体前駆体を示す斜視図であり、
図4は、
図3の素体前駆体の側面を拡大して示す拡大断面図である。
図5は、
図3の素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す斜視図であり、
図6は、
図3の素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す斜視図であり、
図7Aは、素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す拡大断面図であり、
図7Bは、素体前駆体の側面を研磨洗浄する様子を示す平面図であり、
図7Cは、研磨洗浄後の素体前駆体を示す拡大断面図である。
図8は、導電性ペーストを印刷されたセラミックグリーンシートを示す斜視図であり、
図9は、導電性ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの積層状態を示す斜視図であり、
図10は、母積層体を示す斜視図であり、
図11は、母積層体を切断して得た複数の素体前駆体の斜視図であり、
図12は、側面が上下方向に位置するように回転させた素体前駆体を示す斜視図である。
図13A,13B,13Cは、素体前駆体の側面に保護層となるセラミックグリーンシートを貼り付ける工程を説明する図であり、
図14は、側面に保護層が形成された素体前駆体を示す斜視図である。
図15は、ブラスト装置のブラストノズルを示す断面図である。なお、焼成後の素体部品は、焼成によって収縮しているが、焼成前の素体部品と同一構造を有している。したがって、
図2は、焼成後の素体部品を示す図でもあり、焼成前の素体部品を示す図でもある。
図8,9では、図解を容易にするために、内部電極層となる導電性ペーストにハッチングを付している。
【0011】
積層セラミックコンデンサ1は、例えば
図1に示すように、素体部品2と、外部電極3とを含む。素体部品2は、例えば
図2に示すように、積層体13と、保護層6とを含む。積層体13は、素体部品2の前駆体であり、素体前駆体13とも称される。
【0012】
積層体13は、例えば
図3に示すように、誘電体セラミック層(以下、誘電体層ともいう)4と内部電極層5とが第3方向(Z方向)に交互に積層されて構成されている。積層体13は、略直方体状の形状を有している。積層体13は、第3方向において互いに対向する第1面7Aおよび第2面7Bを有している。積層体13は、第1方向(X方向)において互いに対向する第1端面8Aおよび第2端面8B、ならびに第2方向(Y方向)において互いに対向する第1側面9Aおよび第2側面9Bを有している。以下では、第1面7Aおよび第2面7Bを纏めて主面7と記載することがあり、第1端面8Aおよび第2端面8Bを纏めて端面8と記載することがあり、第1側面9Aおよび第2側面9Bを纏めて側面9と記載することがある。
【0013】
誘電体層4は、絶縁性を有する材料で構成されている。誘電体層4は、例えばBaTiO3(チタン酸バリウム)、CaTiO3(チタン酸カルシウム)、SrTiO3(チタン酸ストロンチウム)、BaZrO3(ジルコン酸バリウム)等のセラミック材料で構成されていてもよい。誘電体層4は、BaTiO3を主成分としていてもよい。なお、本明細書において、主成分とは、着目する材料、部材等において最も含有量(質量%)が大きい成分を指す。
【0014】
誘電体層4の厚みが薄いほど、積層セラミックコンデンサ1の静電容量が大きくなる。誘電体層4の厚みは、例えば0.5μm~10μm程度であってもよい。
【0015】
内部電極層5は、導電性を有する材料で構成されている。内部電極層5は、例えばNi(ニッケル)、Cu(銅)、Ag(銀)、Sn(スズ)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Au(金)等の金属材料またはこれらの金属材料を含む合金材料で構成されていてもよい。
【0016】
内部電極層5は、
図3に示すように、第1側面9Aおよび第2側面9Bに露出している。内部電極層5は、側面9に露出した電極端部51を有しており、電極端部51は、所定方向に延在している。
図3は、電極端部51の延在方向が、第1方向(X方向)である例を示している。また、内部電極層5は、極性別に第1端面8Aまたは第2端面8Bに露出している。
【0017】
コンデンサとしての特性が確保できる限りにおいて、内部電極層5の厚みが薄いほど、内部応力による内部欠陥を抑制し、積層セラミックコンデンサの信頼性を向上させることができる。積層セラミックコンデンサ1が、高積層数のコンデンサである場合、内部電極層5の厚みは、例えば1.5μm程度以下であってもよい。
【0018】
外部電極3は、外部との電気的接続のために用いられる。外部電極3は、
図1に示すように、第1外部電極3Aおよび第2外部電極3Bを含む。第1外部電極3Aは、第1端面8Aに位置し、第1端面8Aに露出した内部電極層5と電気的に接続されている。第2外部電極3Bは、第2端面8Bに位置し、第2端面8Bに露出した内部電極層5と電気的に接続されている。第1外部電極3Aおよび第2外部電極3Bは、第1面7Aおよび第2面7Bに回り込んでいる。第1外部電極3Aは、第1側面9A上および第2側面9B上に回り込み、保護層6における第1端面8A寄りの部位を覆っている。第2外部電極3Bは、第1側面9A上および第2側面9B上に回り込み、保護層6における第2端面8B寄りの部位を覆っている。第1外部電極3Aと第2外部電極3Bとは、互いに電気的に絶縁されている。
【0019】
外部電極3は、素体部品2に接続する下地層と、はんだ実装を容易にするめっき外層とで構成されていてもよい。下地層は、焼成後の素体部品2に塗布焼き付けしてもよく、焼成前の素体部品2に塗布し、素体部品2と同時に焼成してもよい。下地層は、直接めっきで形成されていてもよい。下地層およびめっき外層のそれぞれは、単一層から成っていてもよく、複数層からなっていてもよい。下地層およびめっき外層は、例えばNi、Cu、Ag、Pd、Au等の金属材料またはこれらの金属材料を含む合金材料で構成されていてもよい。下地層およびめっき外層は、中間層または外層として、導電性樹脂層を有していてもよい。
【0020】
第1側面9Aおよび第2側面9Bにおいて、正極の内部電極層5と負極の内部電極層5とが誘電体層4を挟んで隣接している。保護層6は、第1側面9Aおよび第2側面9Bに位置し、極性の異なる内部電極層5同士を電気的に絶縁するとともに、内部電極層5の電極端部51を物理的に保護している。
【0021】
保護層6は、絶縁性を有する材料で構成されている。保護層6は、セラミック材料で構成されていてもよく、この場合、保護層6は、絶縁性および比較的高い機械的強度を有することができる。保護層6は、例えばBaTiO
3、CaTiO
3、SrTiO
3、BaZrO
3等のセラミック材料で構成されていてもよい。保護層6は、誘電体層4を構成するセラミック材料と同じセラミック材料で構成されていてもよい。保護層6がセラミック材料で構成されている場合、積層体13と保護層6とを同時に焼成することが可能となる。
図2では、積層体13と保護層6との境界を二点鎖線で示しているが、実際の境界は明瞭に現われるわけではない。
【0022】
保護層6の厚みが薄いほど、積層セラミックコンデンサ1を小型大容量化することができる。保護層6の厚みは、例えば5μm~40μm程度であってもよい。
【0023】
焼成前の積層体13は、例えば
図8~11に示すように、内部電極層5が印刷されたセラミックグリーンシート10を複数積層してなる母積層体11を切断することによって作製することができる。母積層体11は、例えば、押切刃等の切断刃28を用いて押し切り切断することができる。セラミックグリーンシート10の積層および母積層体11の切断は、支持シート上で行ってもよい。支持シートとしては、例えば、弱粘着シートまたは発泡剥離シート等の粘着および剥離が可能な粘着剥離シートを用いることができる。
【0024】
図4は、母積層体11を切断して得られた積層体13の側面(以下、切断面または被洗浄面ともいう)9を示している。黒丸は、樹脂マトリックス内に存在する内部電極層5の金属粉を示し、白丸は、樹脂マトリックス内に存在する誘電体層4のセラミック粉を示している。樹脂マトリックスは、樹脂バインダ16を主成分とし、樹脂バインダ16の他に可塑剤、分散剤、溶剤成分等を含んでいてもよい。
【0025】
母積層体11を切断する際、切断刃28は、母積層体11の主面側(
図4における上方側)から母積層体11に侵入する。切断刃28の側面28aが、切断面9を擦りながら進行するため、切断面9に露出したセラミック粉および金属粉は、樹脂バインダ16と一緒に、切断刃28の進行方向に引き摺られながら移動する。その結果、例えば
図4に示すように、内部電極層5を構成する金属粉が、誘電体層4における切断面9に露出した端部41に移動し付着することがある。切断面9には、正極の内部電極層5と負極の内部電極層5とが誘電体層4を挟んで隣接している。このため、内部電極層5を構成する金属粉が誘電体層4の端部41に付着した状態で保護層6を形成すると、正極の内部電極層5と負極の内部電極層5との短絡または絶縁抵抗劣化の原因となるおそれがある。また、支持シート上に配置した母積層体11を押し切り切断する場合、切断面9は、内部電極層5を構成する金属粉が誘電体層4の端部41に移動しているだけでなく、セラミックグリーンシート10の屑、セラミックグリーンシート10に含まれる樹脂バインダ、および切断刃28に付着し、切断面9に転移付着した支持シートの糊等で汚染されている。誘電体層4の端部41に移動した金属粉は、短絡または絶縁抵抗劣化の原因となるおそれがあり、樹脂バインダおよび糊等の有機物は、焼成後の素体部品2中に空隙を発生させ、製品の電気特性、特に製品の耐電圧性を低下させるおそれがある。したがって、製造する積層セラミックコンデンサ(以下、単に、製品ともいう)の電気特性の低下を抑制するためには、誘電体層4の端部41に付着した金属粉、ならびに切断面9に付着したセラミックグリーンシート10の屑、セラミックグリーンシート10に含まれる樹脂バインダおよび支持シートの糊等を除去する必要がある。以下では、誘電体層4の端部41に付着した金属粉、ならびに切断面9に付着したセラミックグリーンシート10の屑、セラミックグリーンシート10に含まれる樹脂バインダおよび支持シートの糊等を、異物19と称することがある。
【0026】
異物19を除去する方法として、ブラスト研磨法を用いて切断面9を研磨洗浄する方法が考えられる。しかしながら、切断面9には、例えば数μm程度以下の狭い間隔で誘電体層4および内部電極層5が露出しているため、従来のブラスト研磨法では、切断面9を損傷させることなく、切断面9を研磨洗浄することが難しい。ブラスト材の粒径が大きい場合、異物19を除去することはできるが、切断面9を損傷させるおそれがある。ブラスト材の粒径が小さい場合、切断面9を損傷させるおそれは低減できるが、切断面9に対するブラスト材の衝突エネルギーが不足し、異物19を除去できないおそれがある。また、切断面9にブラスト材が付着したまま積層体13を焼成してしまうと、積層体13に含まれる誘電体組成物がブラスト材に含まれる成分と反応して変質してしまい、製品の電気特性の低下をもたらすおそれがある。
【0027】
本開示の積層セラミック電子部品の製造方法では、ブラスト液の凍結粒子をブラスト材として使用するブラスト研磨法を用いて切断面9を研磨洗浄し、切断面9に付着した異物19を除去する。ブラスト液としては、研磨洗浄後の処理が容易であり、かつ低コストであるものを用いてもよい。
【0028】
また、本開示の製造方法では、ブラスト装置のブラストノズル(以下、単に、ノズルともいう)22から噴射される凍結粒子31のジェット流23を切断面9に衝突させて、切断面9を研磨洗浄する。切断面9には、比較的軟らかい誘電体層4と比較的硬い内部電極層5とが層状に露出している。研磨洗浄による切断面9の損傷を抑制するためには、ブラスト材である凍結粒子31のサイズ(すなわち、質量)を小さくする必要がある。しかしながら、凍結粒子31の質量が小さくなるにつれて、切断面9に対する衝突エネルギーが減少するため、凍結粒子31のサイズを小さくし過ぎると、切断面9を効率的に研磨洗浄できなくなる。凍結粒子31の衝突エネルギーは、凍結粒子31の速度の2乗に比例するため、凍結粒子31の速度を高めることにより、凍結粒子31の質量が小さい場合であっても、切断面9を効率的に研磨洗浄することが可能になる。このように、凍結粒子31のサイズおよび噴射速度等を調整することで、切断面9を損傷させることなく、異物19を除去することが可能となる。
【0029】
また、本開示の製造方法では、積層体13に含まれる樹脂バインダ16と相溶性の無い液体をブラスト液として用いる。これにより、凍結粒子31が切断面9との衝突等により融解したとしても、ブラスト液が積層体13を膨潤させたり、変形させたりするおそれを低減できる。したがって、積層体13の特性および品質を劣化させることなく、切断面9の研磨洗浄を行うことができる。ブラスト液としては、研磨洗浄後の積層体13を乾燥させたとき、ブラスト液の成分が積層体13の表面または内部に残留していたとしても、製品の電気特性に与える影響が小さいものを用いてもよい。
【0030】
ブラスト液の凍結粒子31は、球形換算での直径(以下、球形換算直径ともいう)が20μm程度以下であってもよい。この場合、切断面9の研磨量を10μm以内で制御し得る研磨洗浄を安定して行うことができる。なお、ブラスト液の凍結粒子31は、球形換算での平均直径が20μm程度以下であればよく、一部の凍結粒子31の球形換算直径が20μmを超えていてもよい。
【0031】
ブラスト液の凍結粒子31は、ブラスト装置から、例えば300m/秒以上の速度で噴射されてもよい。この場合、凍結粒子31の球形換算直径が小さい(例えば20μm程度以下)ときであっても、切断面9に対する衝突エネルギーを、異物19を除去し得る程度の衝突エネルギーとすることが可能となる。
【0032】
ブラスト装置のノズル22は、例えば
図15に示すように、ラバールノズル22aを含んで構成されていてもよい。ラバールノズル22aは、流路断面積(以下、ノズル断面積ともいう)が局所的に縮小された絞りを有する管状形状であり、入口である一方の開口から、圧縮エアホース30(
図5,6参照)を介して送られてきた圧縮エア29が供給される。ラバールノズル22aに圧縮エア29を供給すると、ノズル断面積が最小となるスロート部22aaにおいて、気体速度が音速(マッハ数が1)となり、気体の流れ方向におけるスロート部22aaの後段において、気体が膨張し、気体速度は超音速に達する。ブラスト液は、気体の流れ方向におけるスロート部22aの前段において、給液ホース21を介して、ラバールノズル22a内に導入される。給液ホース21から吐出される液滴は、気体の急激な断熱膨張に伴って、膨張破壊し、過冷却状態の液滴を含む微粒の凍結粒子31となって、ジェット流23と一緒に、ブラストノズル22から噴出される。このように、ノズル22がラバールノズル22aを含んで構成されている場合、ブラスト装置を、圧縮エア29およびブラスト液を供給するだけでブラスト液の凍結粒子31のジェット流23を噴射する簡易な装置とすることができるため、ランニングコストを含めた製造の負担を軽減することが可能となる。なお、本明細書において、凍結粒子31とは、固体である凍結粒子に、過冷却の微粒液体(以下、単に、液滴または水滴ともいう)が混在したものを意味する。ラバールノズル22a内で凍結粒子31とならなかった過冷却の液滴は、切断面9に衝突した際に凍結粒子31となる性質がある。
【0033】
ラバールノズル22aは、スロート部22aaの直径が、例えば1.5mm程度であってもよい。ラバールノズル22は、出口形状が、例えば、2mm~12mm程度の直径の円形状であってもよく、50mm×1mm程度の長方形状であってもよい。
【0034】
ラバールノズル22aに供給する圧縮エア29の圧力およびブラスト液の量を調整することによって、凍結粒子31のサイズ(質量)、硬度等を制御することができる。圧縮エア29の圧力が高いと、凍結粒子31の球形換算直径が小さくなる傾向があり、ブラスト液の量が多いと、凍結粒子31の球形換算直径が大きくなる傾向がある。また、ノズル22から噴射された凍結粒子31は、飛翔中に速度が低下すると互いに結合し始める。このため、ノズル22の出口側の先端(以下、ノズル22先端ともいう)からの距離が大きくなるにつれて、凍結粒子31の球形換算直径が大きくなる傾向がある。ノズル22先端は、ラバールノズル22aの出口側の先端であってもよい。
【0035】
ラバールノズル22aは、300m/秒~450m/秒の速度を有する凍結粒子31を噴射することができる。発明者らは、凍結粒子31の噴射速度が300m/秒~450m/秒であれば、凍結粒子31の球形換算直径が小さい(例えば1μm~20μm)場合であっても、積層体13の切断面9を研磨洗浄することができ、製品の電気特性の低下を抑制できることを見出した。なお、ノズル22先端と切断面9との距離を大きくすることで、凍結粒子31のサイズ(質量)を大きくすることができるが、凍結粒子31の飛翔速度、すなわち切断面9に対する衝突エネルギーが低下するため、ジェット流23の研磨洗浄力が低下してしまうことがある。ノズル22先端と切断面9との間の距離を5mm~20mm程度とし、凍結粒子31の球形換算直径を1μm~20μm程度とすることで、切断面9を効率的に研磨洗浄することが可能となる。また、ラバールノズル22aに供給する圧縮エア29の圧力は、例えば0.3MPa以上であってもよく、この場合、切断面9を効率的に研磨洗浄することができる。なお、ノズル22から噴射される凍結粒子31のサイズおよび速度は、例えば、位相ドップラー流速計(Phase Doppler Anemometry;PDA)を用いて測定することができる。凍結粒子31のサイズおよび速度の測定は、例えば、ノズル22先端から10mmの位置で行ってもよい。
【0036】
図5は、積層体13の切断面9を研磨洗浄する様子を示している。母積層体11を切断して得られた複数の積層体13は、例えば
図5に示すように、支持シート18上に第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの一方(
図5では第1側面9A)を解放面にして整列されている。複数の積層体13は、第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの他方(
図5では第2側面9B)が支持シート18の第1面18aに固定されている。支持シート18としては、弱粘着シートまたは発泡剥離シート等の粘着および剥離が可能な粘着剥離シートを用いることができる。積層体13が貼り付けられた支持シート18は、例えば真空吸着機構、メカニッククランプ等の保持装置を用いて、台座(図示せず)上に固定されていてもよい。
【0037】
ブラスト液は、水、特に純水であってもよい。この場合、氷結粒子がブラスト材となるため、研磨洗浄に伴う環境負荷を低減することができる。また、容易に入手可能であり、安価に大量に使用できる水をブラスト液として用いることで、製品の製造コストを低減することができる。また、積層体13を構成するセラミックグリーンシート10および内部電極層5に含まれる樹脂バインダ16は、一般に、有機溶媒に溶解するが、純水とは相溶性がない。このため、純水をブラスト液として用いることで、ブラスト液が積層体13を膨潤させたり、変形させたりするおそれを低減でき、その結果、積層体13の特性および品質を劣化させることなく、切断面9の研磨洗浄を行うことができる。
【0038】
ラバールノズル22a内に導入された水は、氷結粒子または一部過冷却の水滴の状態で、被洗浄面9に衝突する。被洗浄面9に衝突した氷結粒子または一部過冷却の水滴は、大部分が氷結粒子となるが、一部が融解して水となるため、水が被洗浄面9に残ることがある。積層体13は、長時間にわたる水との接触によって水に溶解する無機成分を含んでいることがある。積層体13に含まれる成分が水に溶出すると、積層体13の特性および品質が低下するおそれがある。このため、ブラスト液として水を用いる場合、積層体13に対する水の影響を低減することが求められる。本開示の製造方法では、以下に述べるように、ラバールノズル22aへの水の供給量を制御することで、積層体13に対する水の影響を低減することが可能となる。
【0039】
ラバールノズル22aに供給する水量は、ジェット流23の1000NL/分のエア量に対して、200cc/分以下であってもよい。言い換えると、ラバールノズル22aに供給する水量は、ジェット流23のエア量に対して、大気圧下0℃の基準状態での体積比で200ppm以下であってもよい。この場合、ジェット流23における氷結粒子の割合が増加し、過冷却の水滴の割合が減少するので、積層体13に対する水の影響を低減することができる。
【0040】
ラバールノズル22aに供給する水量は、ジェット流23のエア量に対して、大気圧下0℃の基準状態での体積比で50ppm以下であってもよい。この場合、ラバールノズル22a内に導入された水のほとんどが氷結粒子の状態で被洗浄面9に衝突するため、積層体13に対する水の影響を効果的に低減することができる。なお、氷結粒子の量は、ジェット流23のエア量に対して、体積比で2ppm以上であってもよい。この場合、氷結粒子のジェット流23による研磨効率を、量産工程において採用し得る程度の研磨効率とすることができる。
【0041】
ラバールノズル22aに供給する水の温度は、10℃以下であってもよい。この場合、ラバールノズル22a内における水の氷結を促進することができる。その結果、ジェット流23における氷結粒子の割合が増加し、過冷却の水滴の割合が減少するので、積層体13に対する水の影響を低減することができる。また、ジェット流23における氷結粒子の割合が増加することで、ジェット流23の研磨洗浄力を高めることができる。ラバールノズル22aに供給する水は、ラバールノズル22aに供給する水を蓄える水槽または該水槽とラバールノズル22aとの間の給水路において、例えば氷、ドライアイス、冷却装置等を用いて冷却してもよい。
【0042】
ラバールノズル22aに供給する水の温度は、氷点近傍であってもよい。氷点近傍の温度は、0℃以上5℃以下であってもよい。この場合、ラバールノズル22a内における水の氷結を一層促進することができる。その結果、ジェット流23における氷結粒子の割合が一層増加し、過冷却の水滴の割合が一層減少するので、積層体13に対する水の影響を効果的に低減することができる。また、ジェット流23における氷結粒子の割合が一層増加することで、ジェット流23の研磨洗浄力を効果的に高めることができる。
【0043】
ブラスト液は、砥粒を含んでいてもよい。この場合、ラバールノズル22a内で砥粒が凍結粒子31と結合するため、砥粒密度が高くなった凍結粒子31が被洗浄面9に衝突する。その結果、除去しにくい異物19を除去することが可能となる。また、ジェット流23による研磨効率を高めることも可能となる。
【0044】
砥粒は、凍結粒子31の球形換算直径の10分の1以下の球形換算直径を有していてもよい。焼成前の積層体13の被洗浄面9は、比較的軟らかく、変形しやすいが、砥粒の球形換算直径が凍結粒子31の球形換算直径の10分の1以下であることで、研磨洗浄による被洗浄面9の損傷、変形等を抑制できる。砥粒の球形換算直径は、例えば1μm程度以下であってよい。
【0045】
砥粒は、誘電体層4の主成分であるBaTiO3の微粉であってもよい。この場合、切断面9に砥粒残渣が付着したまま積層体13を焼成したときであっても、砥粒残渣が製品の電気特性に与える影響を低減できる。砥粒の球形換算直径は、氷結粒子の球形換算直径よりも小さくてもよく、例えば0.1μm程度であってもよい。ラバールノズル22aは、スロート部22aaの直径が0.5mm~1.5mm程度であるため、砥粒の球形換算直径が0.1μm程度である場合、砥粒によってラバールノズル22aが詰まることを抑制できる。ブラスト液が砥粒を含む場合、ブラスト液が砥粒を含まない場合と比べて、ジェット流23の研磨洗浄力を高め、切断面9の研磨洗浄に要する時間を短縮することが可能となる。なお、砥粒は、誘電体層4に含まれる成分の微粉であればよく、BaTiO3の微粉に限られない。砥粒は、例えばMgO、MnO2等の微粉であってもよく、砥粒がBaTiO3の微粉である場合と同様の効果が得られる。砥粒を含む水は、砥粒を分散剤と一緒に純水に分散させて、スラリー状にしたものであってもよい。砥粒を含む水の固形分比率は、例えば20%程度以下であってもよい。
【0046】
ブラスト液は、積層体13に含まれるリチウム(Li)イオン、カリウム(K)イオン等のイオン化しやすい成分のカチオンを含んでいてもよい。この場合、被洗浄面9に衝突した一部の凍結粒子31が融解したとしても、Liイオン、Kイオン等が水に溶出することを抑制できるため、積層体13の特性および品質の低下を抑制できる。ブラスト液は、LiイオンおよびKイオンのうちの少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0047】
ブラスト液は、内部電極層5を構成する金属を溶解するエッチング液を含んでいてもよい。この場合、被洗浄面9に衝突した一部の凍結粒子31が融解したとき、ブラスト液に含まれるエッチング液によって被洗浄面9に散在する金属を選択的にエッチングしながら、ジェット流23で除去することができる。その結果、積層体13の側面9に露出した極性の異なる内部電極層5同士の短絡または絶縁抵抗劣化を効果的に抑制できる。エッチング液は、内部電極層5を構成する金属を溶解するものであればよい。エッチング液は、例えば、水をベースとし、硝酸および過酸化水素水をそれぞれ10~20質量%混合した液体であってもよい。この場合、積層体13の焼成前および焼成中に、エッチング液が積層体13に含まれる誘電体組成物と反応し、積層体13の特性および品質に影響を与えることを抑制できる。
【0048】
被洗浄面9の研磨洗浄は、積層体13を150℃以上の温度に加熱しながら行ってもよい。この場合、被洗浄面9に衝突した一部の凍結粒子31が融解したとしても、水(融解水)が直ちに蒸発するため、融解水の影響が低減された状態で研磨洗浄を行うことができる。積層体13の温度を150℃以上とすることで、融解水が蒸発する際の気化熱によって積層体13が冷却されたとしても、新たに生じる融解水を蒸発させることが可能となる。なお、加熱温度が高いほど、融解水の蒸発速度を高めることができ、積層体13に対する融解水の影響を低減できるが、積層体13の温度が180℃を超えると、積層体13に含まれる有機物の一部が変質を開始し、積層体13の特性および品質を低下させるおそれがある。積層体13の加熱温度を180℃以下とすることで、積層体13に含まれる有機物の変質を抑制でき、積層体13の特性および品質の低下を抑制できる。
【0049】
被洗浄面9の研磨洗浄は、積層体13を氷点下に冷却しながら行ってもよい。この場合、被洗浄面9に衝突した凍結粒子31の融解を抑制できるため、融解水の影響が低減された状態で、被洗浄面9を効率的に研磨洗浄することができる。なお、積層体13を氷点下に冷却して行う研磨洗浄は、ドライエア環境で行ってもよく、この場合、積層体13に対する結露の影響を低減することができる。また、研磨洗浄後、例えば真空乾燥等を行って、積層体13の表面に存在し得る氷結膜を高速蒸発させてもよい。
【0050】
ジェット流23は、例えば
図5に示すように、被洗浄面9に垂直な方向から被洗浄面9に噴射してもよい。この場合、ジェット流23の研磨洗浄力を最大化することができる。また、積層体13を支持シート状に保持するための治具を用いないときであっても、積層体13の支持シート18からの脱離および飛散を抑制できるため、製品の製造コストを低減することができる。
【0051】
ジェット流23は、例えば
図6,7Aに示すように、被洗浄面9の法線Lに対して傾斜した方向から被洗浄面9に噴射してもよい。ジェット流23は、例えば
図7Aに示すように、被洗浄面9と90°未満の角度αを成す方向から、被洗浄面9に噴射してもよい。以下、角度αは、ブラスト入射角とも称される。ジェット流23は、例えば
図7Bに示すように、被洗浄面9に垂直な方向から見たときに、電極端部51の延在方向と交差する方向から被洗浄面9に噴射してもよい。ジェット流23は、被洗浄面9に垂直な方向から見たときに、電極端部51の延在方向と直交する方向から被洗浄面9に噴射してもよい。
【0052】
被洗浄面9には、誘電体層4および内部電極層5が露出しており、誘電体層4および内部電極層5は、研磨洗浄に対する強度が互いに異なる。誘電体層4は、内部電極層5と比べて軟らかいため、研磨洗浄において優先的に除去される。誘電体層4の除去だけが過度に進行し、被洗浄面9の凹凸が大きくなると、素体部品2の焼成後に、側面9と保護層6との間に空隙が形成され、製品の電気特性が低下するおそれがある。ブラスト入射角αが90°未満である場合、誘電体層4が内部電極層5の影に隠れた状態で研磨洗浄が進行するので、誘電体層4の除去だけが過度に進行することを抑制できる。その結果、例えば
図7Cに示すような比較的平坦な研磨洗浄面が得られる。なお、ブラスト入射角αが20°未満であると、被洗浄面9の研磨効率が低下しやすい。また、ブラスト入射角αが60°を超えると、誘電体層4の除去だけが進行しやすくなる。したがって、ブラスト入射角αは、例えば20°以上60°以下の範囲であってもよい。この場合、被洗浄面9を効率的に研磨することができるとともに、誘電体層4の除去だけが進行することを抑制できる。
【0053】
被洗浄面9の研磨洗浄を行う場合、積層体13を、被洗浄面9が解放面となるように、支持シート18の第1面18aに配置する。その際、枠体26を、積層体13を囲むように、第1面18aに配置してもよい。この場合、ブラスト入射角αを90°未満とするときに、ジェット流23によって、積層体13が支持シート18から脱離し、飛散することを抑制できる。
【0054】
枠体26は、例えば
図6に示すように、第1面18aに対向する面とは反対側の面26aが、被洗浄面9よりも、第1面18aからの高さが高くてもよい。この場合、積層体13の主面7をジェット流23から保護することができる。また、枠体26は、例えば
図6に示すように、各々が積層体13を囲む複数の貫通孔26bを有する支持治具として構成されていてもよい。
【0055】
研磨洗浄は、素体前駆体13を、支持シート18の第1面18aに貼り付けられた支持治具26の貫通孔26bに収納した状態で行ってもよい。素体前駆体13は、第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの一方が解放面とされており、第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの他方が支持シート18の第1面18aに貼り付けられている。研磨洗浄は、ノズル22を固定し、素体前駆体13および支持治具26が貼り付けられた支持シート18をX-Y可動テーブル(図示せず)上に配置し、例えば10mm/秒~100mm/秒程度の速度で移動させながら行ってもよい。
【0056】
支持治具26は、支持シート18の第1面18aに対向する下面、および該下面とは反対側の上面26aを有している。支持治具26の上面26aは、解放面とされている、第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの一方よりも、第1面18aからの高さが高くてもよい。この場合、素体前駆体13の主面7がジェット流23に直接に晒されることを抑制できるため、素体前駆体13の主面7を保護することができる。なお、支持治具26の上面26aが高すぎると、切断面9にブラスト流が衝突しにくくなるため、上面26aの高さは、例えばブラスト入射角α等に応じて、適宜設定されてよい。上面26aは、第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの一方よりも、例えば20μm程度、第1面18aからの高さが高くてもよい。
【0057】
次に、上記のブラスト研磨法を用いた研磨洗浄工程を含む、積層セラミックコンデンサ1の製造方法について説明する。
【0058】
まず、誘電体層4の材料であるチタン酸バリウムに添加剤を加えたセラミックの混合粉体をビーズミルで湿式粉砕混合し、さらに、ポリビニルブチラール系バインダ、可塑剤および有機溶剤を加えて混合し、セラミックスラリーを作製する。
【0059】
次に、作製したセラミックスラリーを用いて、キャリアフィルム上にセラミックグリーンシート10を成形する。セラミックグリーンシート10の成形は、ダイコーター、ドクターブレードコーター、グラビアコーター等を用いて行うことができる。セラミックグリーンシート10の厚みは、例えば0.5~10μmであってもよく、目的とする静電容量が高いほど、薄いセラミックグリーンシート10となる。
【0060】
次に、例えば
図8に示すように、セラミックグリーンシート10に、内部電極層5となる導電性ペーストを複数列の帯状のパターンで印刷する。導電性ペーストの印刷は、例えばグラビア印刷、スクリーン印刷等を用いて行うことができる。導電性ペーストは、例えばNi、Pd、Cu、Ag等の金属またはこれらの金属を含む合金で構成されていてもよい。
【0061】
コンデンサとしての特性が確保できる限りにおいて、内部電極層5の厚みが薄いほど、内部応力による内部欠陥を抑制し、積層セラミックコンデンサの信頼性を向上させることができる。積層セラミックコンデンサ1が、高積層数のコンデンサである場合、内部電極層5の厚みは、例えば1.5μm程度以下であってもよい。
【0062】
次に、例えば
図9に示すように、所定枚数積層したセラミックグリーンシート10の上に、内部電極層5が印刷されたセラミックグリーンシート10を、内部電極層5の幅方向寸法の半分ずつずらしながら所定枚数積層し、さらに、セラミックグリーンシート10を所定枚数積層する。なお、セラミックグリーンシート10の積層は、支持シート(図示せず)上で行ってもよい。支持シートとしては、弱粘着シートまたは発泡剥離シート等の粘着および剥離が可能な粘着剥離シートを用いることができる。
【0063】
次に、セラミックグリーンシート10を積層して得られた積層体を、静水圧プレス等を用いて、積層方向にプレスし、例えば
図10に示すような、一体化した母積層体11を作製する。
図10では、母積層体11の表面に仮想分割ライン15を示している。仮想分割ライン15で区切られた個々の積層体は、
図3の素体前駆体13に相当する。母積層体11の主面、端面および側面は、素体前駆体13の主面7、端面8および側面9にそれぞれ相当するため、以下では、同じ参照符号を付す。母積層体11の第2面7Bには、セラミックグリーンシート10を積層する際に用いた支持シートが位置していてもよい。
【0064】
次に、母積層体11を仮想分割ライン15に沿って切断し、例えば
図11に示すような複数の素体前駆体13を作製する。母積層体11の切断は、例えば押切切断、ダイシングソウ切断等を用いて行うことができる。例えば
図11に示すように、素体前駆体13の側面9には、内部電極層5が露出し、端面8には、誘電体層4(切断されたセラミックグリーンシート10)を挟んで交互に積層された内部電極層5が極性別に露出している。
【0065】
次に、素体前駆体13を整列治具のポケットに入れ、側面9が上下方向になるように方向整列させる。
図12は、方向整列した素体前駆体13を支持シート18上に固定し、整列治具を取り外した状態を示している。素体前駆体13は、第1側面9Aおよび第2側面9Bのうちの一方が解放面になっている。素体前駆体13の方向整列は、素体前駆体13の回転を含んでいてもよい。素体前駆体13の回転は、磁力による回転であってもよく、機械的な力による回転であってもよい。機械的な力による回転は、例えば、素体前駆体13を弾性体で挟んで転がすことであってもよい。
【0066】
次に、素体前駆体13の側面9に付着している異物19を除去するために、側面9を研磨洗浄する。側面9の研磨洗浄は、上記のブラスト研磨法を用いて行うことができる。これにより、素体前駆体13の側面9に付着した異物19を効率よく、かつ高品質に除去できる。
【0067】
次に、研磨洗浄した側面9に、保護層6となるセラミックグリーンシート10を形成する。
図13A,13B,13Cは、素体前駆体13の第1側面9Aに保護層6となるセラミックグリーンシート10を貼り付ける工程を示している。
【0068】
まず、例えば
図13Aに示すように、素体前駆体13の第2側面9Bを、粘着および剥離が可能な支持シート18を介して、第1台座24Aの下面に固定する。第1台座24に固定されている素体前駆体13の下方には、第2台座24Bが配置されており、第2台座24Bの上面には、樹脂フィルム27を介して、保護層6となるセラミックグリーンシート10が配置されている。
【0069】
次に、例えば
図13Bに示すように、素体前駆体13が固定されている第1台座24を下方に移動させて、セラミックグリーンシート10を第1側面9Aに圧着させる。セラミックグリーンシート10の第1側面9Aへの圧着力を高めるために、セラミックグリーンシート10を粘着性のセラミックグリーンシート10としたり、セラミックグリーンシート10を第1側面9Aに圧着する際に加熱したりしてもよい。あるいは、製品に影響を与えない接着媒体材を、セラミックグリーンシート10と第1側面9Aとの間に配置しておいてもよい。保護層6となるセラミックグリーンシート10は、単層のセラミックグリーンシート10であってもよい。保護層6となるセラミックグリーンシート10は、複数層のセラミックグリーンシート10であってもよい。複数層のセラミックグリーンシート10は、互いに異なる成分を有していてもよい。
【0070】
次に、例えば
図13Cに示すように、素体前駆体13の第1側面9Aにセラミックグリーンシート10が圧着された状態で、素体前駆体13が固定されている第1台座24Aを上方に移動させる。セラミックグリーンシート10における第1側面9Aに接触していない部分は樹脂シート27上に残るため、第1側面9Aに保護層6となるセラミックグリーンシート10を貼り付けることができる。セラミックグリーンシート10は、破断強度が低い性状のものを用いてもよい。第1側面9Aに保護層6となるセラミックグリーンシート10が位置する素体前駆体13に静水圧プレスを施して、セラミックグリーンシート10を第1側面9Aに強固に貼り付けてもよい。
【0071】
図13A,13B,13Cに示した工程と同様にして、第2側面9Bに保護層6となるセラミックグリーンシート10を貼り付けることができる。
図14は、第1側面9Aおよび第2側面9Bに、保護層6となるセラミックグリーンシート10が貼り付けられた素体前駆体13を示している。
【0072】
図13A,13B、13Cは、第1側面9Aおよび第2側面9Bに、保護層6となるセラミックグリーンシート10を片面ずつ貼り付ける例を示しているが、第1側面9Aおよび第2側面9Bに保護層6となるセラミックグリーンシート10を同時に貼り付けてもよい。
【0073】
第1側面9Aおよび第2側面9Bに保護層6となるセラミックグリーンシート10が貼り付けられた素体前駆体13を、窒素雰囲気中で脱脂した後、水素または窒素混合雰囲気中にて焼成し、素体部品2を作製する。素体部品2に外部電極3を形成することにより、
図1の積層セラミックコンデンサ1を作製することができる。外部電極3は、例えば、外部電極3となる導電性ペーストを素体部品2に塗布し、焼き付けることによって形成することができる。本開示の積層セラミック電子部品の製造方法によれば、素体前駆体13の切断面9に付着した異物19を効率よく、かつ高品質に除去できるため、電気特性の優れた積層セラミック電子部品1を製造することができる。
【0074】
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、また、本開示は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。上記各実施形態をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0075】
1 積層セラミックコンデンサ
2 素体部品
3 外部電極
3A 第1外部電極
3B 第2外部電極
4 誘電体層
41 端部
5 内部電極層
51 電極端部
6 保護層
7 主面
7A 第1面
7B 第2面
8 端面
8A 第1端面
8B 第2端面
9 側面(切断面、被洗浄面)
9A 第1側面
9B 第2側面
10 セラミックグリーンシート
11 母積層体
13 積層体(素体前駆体)
15 仮想分割ライン
16 樹脂バインダ
18 支持シート
18a 第1面
19 異物
21 給液ホース
22 ブラストノズル
22a ラバールノズル
22aa スロート部
23 ジェット流
24A 第1台座
24B 第2台座
26 枠体(支持治具)
26a 貫通孔
26a 面(上面)
27 樹脂シート
28 切断刃
28a 側面
29 圧縮エア
30 圧縮エアホース
31 凍結粒子