(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125828
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】カット野菜の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/153 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
A23B7/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030150
(22)【出願日】2022-02-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 株式会社GRプラント(香川県東かがわ市小磯303)、令和3年5月13日 [刊行物等]株式会社GRプラント(香川県東かがわ市小磯303)、令和3年5月27日 [刊行物等]令和3年6月1日、news every.(西日本放送株式会社) [刊行物等]令和3年6月6日、https://news.ntv.co.jp/category/society/978f6306718d44968beebd10aa3f9d3b(日本テレビ放送網株式会社)
(71)【出願人】
【識別番号】522079300
【氏名又は名称】株式会社GRプラント
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】有馬 康高
【テーマコード(参考)】
4B169
【Fターム(参考)】
4B169HA01
4B169HA20
4B169KA01
4B169KA10
4B169KB03
4B169KC08
4B169KC19
4B169KC22
(57)【要約】
【課題】カット野菜の鮮度と風味を長期間維持できるカット野菜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のカット野菜の製造方法は、カット野菜を製造する方法であり、前記カット野菜を、オリーブの葉から得られる抽出物を含有するオリーブ葉抽出液に接触させる工程を含むことを特徴とする。本発明のカット野菜の製造方法では、カット野菜をオリーブ葉抽出液に接触させる工程を含むことにより、単なる水洗いのカット野菜と比べて一般生菌数の増加を抑制できるので、鮮度と風味を長期間維持できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カット野菜を製造する方法であり、
前記カット野菜を、オリーブの葉から得られる抽出物を含有するオリーブ葉抽出液に接触させる工程を含む
ことを特徴とするカット野菜の製造方法。
【請求項2】
前記オリーブ葉抽出液に接触させる工程の前に、前記カット野菜を次亜塩素酸水および/または次亜塩素酸ナトリウム水溶液に接触させる工程を行う
ことを特徴とする請求項1記載のカット野菜の製造方法。
【請求項3】
前記オリーブ葉抽出液は、
前記抽出物と水とを含有しており、
水1Lに含まれる前記抽出物が、固形分質量0.5g以上のオリーブの葉から得られるものである
ことを特徴とする請求項1または2記載のカット野菜の製造方法。
【請求項4】
前記抽出物は、
オリーブの葉と水とを含む混合物を熱水抽出して得られた熱水抽出物および/または加圧熱水抽出して得られた加圧熱水抽出物を含有する
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のカット野菜の製造方法。
【請求項5】
前記熱水抽出物を抽出する前記混合物は、
該混合物中のオリーブの葉の含有量が、水1Lに対して、固形分質量0.5g以上である
ことを特徴とする請求項4記載のカット野菜の製造方法。
【請求項6】
前記カット野菜が、ネギである
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のカット野菜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カット野菜の製造方法に関する。さらに詳しくは、オリーブの葉の抽出液を用いたカット野菜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、調理の簡便性や個人の健康志向などから、野菜を細切り状に細断したもの(以下、カット野菜という)の需要が増加している。しかし、野菜をカットしていることからカットしていない状態(いわゆるホール状)のものと比べて傷みやすいということから保存性が低いという問題がある。
そこで、カット野菜の保存性を向上させる様々な処理方法が提案されている(特許文献1~3)。これらの文献には、ホール状の野菜を細切り状にカットしたカット野菜を次亜塩素酸水又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄処理する方法が開示されている。そして、次亜塩素酸水又は次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理することにより、カット野菜を殺菌できるので保存性を向上させることができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-93369号公報
【特許文献2】特開2005-160398号公報
【特許文献3】特開2019-180384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術を用いたカット野菜の保存性が十分なものではなく、処理した後から消費者のもとへ届くまでの期間または消費者が使用するまでの期間を十分に担保できていないというのが実情である。
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、カット野菜の鮮度と風味を長期間維持できるカット野菜の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、オリーブの葉由来の抽出物を含有する水を用いることにより、カット野菜の保存性を向上させ得る方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のカット野菜の製造方法は、カット野菜を製造する方法であり、前記カット野菜を、オリーブの葉から得られる抽出物を含有するオリーブ葉抽出液に接触させる工程を含むことを特徴とする。
第2発明のカット野菜の製造方法は、第1発明において、前記オリーブ葉抽出液に接触させる工程の前に、前記カット野菜を次亜塩素酸水および/または次亜塩素酸ナトリウム水溶液に接触させる工程を行うことを特徴とする。
第3発明のカット野菜の製造方法は、第1発明または第2発明において、前記オリーブ葉抽出液は、前記抽出物と水とを含有しており、水1Lに含まれる前記抽出物が、固形分質量0.5g以上のオリーブの葉から得られるものであることを特徴とする。
第4発明のカット野菜の製造方法は、第1発明、第2発明または第3発明のいずれかの発明において、前記抽出物は、オリーブの葉と水とを含む混合物を熱水抽出して得られた熱水抽出物および/または加圧熱水抽出して得られた加圧熱水抽出物を含有することを特徴とする。
第5発明のカット野菜の製造方法は、第4発明において、前記熱水抽出物を抽出する前記混合物は、該混合物中のオリーブの葉の含有量が、水1Lに対して、固形分質量0.5g以上であることを特徴とする。
第6発明のカット野菜の製造方法は、第1発明乃至第5発明のいずれかの発明において、前記カット野菜が、ネギであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、カット野菜をオリーブ葉抽出液に接触させることにより、水洗いのカット野菜と比べて一般生菌数の増加を抑制できるので、鮮度と風味を長期間維持できる。
第2発明によれば、カット野菜を次亜塩素酸水および/または次亜塩素酸ナトリウム水溶液に接触させることにより、一般生菌数の増加を適切に抑制できる。
第3発明によれば、鮮度と風味をより適切に長期間維持できるカット野菜が得られる。
第4発明、第5発明によれば、所定の抽出方法により、より適切な抽出物が得られる。
第6発明によれば、鮮度と風味を長期間維持できるカットネギが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のカット野菜の製造方法の概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態のカット野菜の製造方法は、カット野菜をオリーブの葉から得られる抽出物を含有するオリーブ葉抽出液に接触させることにより、長期間にわたって食感と風味を有するカット野菜が得られるようにしたことに特徴を有している。
【0011】
以下、本実施形態のカット野菜の製造方法を図に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態のカット野菜の製造方法は、カットされたカット野菜を製造する方法であり、カット野菜をオリーブ葉抽出液に接触させる工程を含む製造方法である。
【0012】
(野菜)
本実施形態のカット野菜の製造方法において、カット野菜の原料となる野菜は、ホール状のものをカットした状態の生のままサラダや薬味等として用いられる野菜や、カットした状態で炒め物などに用いられる野菜など、カットした状態で顧客に提供するまでの間冷蔵庫等で保存しておくような野菜や傷みの早い野菜などを挙げることができる。
このような野菜としては、例えば、根菜類、葉茎菜類、果菜類などを挙げることができるが、これらに限定されない。根菜類としては、例えば、だいこん、にんじん、カブ、さといも、ごぼう、れんこん、やまいもなどを挙げることができる。葉茎菜類としては、例えば、はくさい、キャベツ、ほうれんそう、レタス、ねぎ、たまねぎ、こまつな、ちんげんさい、ふき、みつば、しゅんぎく、みずな、セルリー、アスパラガス、カリフラワー、ブロッコリー、にら、にんにくなどを挙げることができる。果菜類としては、例えば、きゅうり、なす、トマト、ピーマン、かぼちゃ、スイートコーン、さやいんげん、さやえんどう、グリーンピース、そらまめ、えだまめなどを挙げることができる。また、緑豆、ブラックマッペ、大豆等の種子を暗室にて発芽・生育させた新芽(もやし)なども傷みの早い野菜として挙げられる。
とくに、本実施形態のカット野菜の製造方法の対象となる野菜は、風味等を楽しむものに対して本発明の効果を発揮し易い。例えば、上述したサラダや薬味などに使用されるネギや、タマネギ、大根、ニンジン、レタス、キャベツなどを挙げることができる。
【0013】
なお、本明細書においてホール状とは、生野菜から食用に適した状態(つまり食用に適さない根やへたなどを除去した状態)でカットされていない状態のものをいう。また、カットとは、ホール状の野菜を食用に適する大きさに切ることをいう。
【0014】
本実施形態のカット野菜の製造方法におけるオリーブ葉抽出液は、オリーブの葉から得られる抽出物を含有するものである。具体的には、オリーブ葉抽出液は、オリーブの葉から得られる抽出物と水を混合することにより調製される。
【0015】
このオリーブ葉抽出液に含まれる抽出物の濃度は、とくに限定されない。
【0016】
例えば、抽出物は、オリーブ葉抽出液において、混合する水1Lあたり、固形分質量0.5g以上のオリーブの葉から得られるものが含有するように調製されている。つまり、水1Lに含まれる抽出物が、固形分質量0.5g以上のオリーブの葉から得られるものを含有するように調製されている。この抽出物の濃度は、固形分質量0.6g以上のオリーブの葉から得られるものが水1Lに含まれるように調製されているのが好ましく、より好ましくは固形分質量0.7g以上のオリーブの葉から得られるものが含まれるように調製されている。さらに好ましくは固形分質量0.8g以上である。なお、オリーブ葉抽出液に含まれる抽出物の濃度があまり高くなると取り扱い性やオリーブに含まれる揮発成分の匂いが強くなる傾向にある。
したがって、上記観点を考慮した場合、オリーブ葉抽出液において、混合する水1Lに含まれる抽出物が、固形分質量0.5g~10g程度のオリーブの葉から得られるものを含有するのが好ましく、より好ましくは固形分質量0.7g~7g程度のオリーブの葉から得られるものを含有するように調製し、さらに好ましくは固形分質量1g~5g程度のオリーブの葉から得られるものを含有するように調製する。
【0017】
なお、本明細書において、固形分質量とは、測定対象物を乾燥機(例えば、105℃、1時間~2時間)で乾燥させて恒量となるように調整された乾燥質量の値である。
【0018】
ここで、オリーブとは、モクセイ科のオリーブ属に属する植物であり、その種類はとくに限定されない。また、抽出対象となるオリーブの部位は、葉であり、これらを単独または混合して使用することができる。例えば、抽出対象となるオリーブの葉は、オリーブの葉のみからなるものはもちろん、葉に枝の一部がついたもの、枝に複数枚の葉がついた状態のものなどオリーブの葉が主として存在する状態のものであれば、とくに限定されない。
したがって、本明細書において、オリーブの葉と称する場合には、オリーブの葉のみからなるもの以外に、上記枝などを含んだ状態のものも含む概念である。また、オリーブの葉が得られるオリーブの栽培状態も、とくに限定されない。例えば、オリーブの果実が生る前やオリーブの果実の収穫過程で剪定し廃棄される予定のオリーブの枝についた葉などを用いれば、未利用のバイオマス資源を有効に活用することができるという利点が得られる。
【0019】
この抽出物の調製方法は、オリーブの葉に含まれる成分を抽出できる方法であれば、とくに限定されない。詳細については後述するが、以下にその概略を説明する。
この方法としては、例えば、オリーブの葉を熱水抽出や、加圧熱水抽出、圧搾抽出などを採用することができる。この抽出物は、熱水抽出により得られる熱水抽出物や、加圧熱水抽出により得られる加圧熱水抽出物、圧搾抽出により得られる圧搾抽出物から選ばれる少なくとも1種以上を含有するものであり、得られた抽出物がオリーブ葉抽出液に用いられる。
【0020】
以上のごとく、オリーブの葉から得られる抽出物を含有するオリーブ葉抽出液をカット野菜に接触させることにより、水洗いのカット野菜と比べて一般生菌数の増加を抑制できるので、鮮度を長期間維持できるようになる。すると、時間がたった状態でも食べたときに野菜の風味が感じられ、しかもシャキシャキとした食感も維持される。したがって、食した際に口の中で広がる野菜独自の風味とシャキシャキ感を数日間にわたって維持できるので、カット野菜の食品ロス(食材廃棄)も抑制することができる。
【0021】
また、飲食店においては、カット野菜の風味を感じてもらいたいことからお客様に提供する直前に野菜を処理していたが、本実施形態のカット野菜の製造方法を用いたカット野菜であれば数日たってもカットして直ぐのものと同様の風味、食感を維持させることができる。このため、カット野菜をつくる手間や時間等を低減することができるので、作業コストを削減できるという利点が得られる。
【0022】
なお、本実施形態のカット野菜の製造方法によりカット野菜の鮮度と風味を維持できる機序が明確ではないが、次のように推察される。
一般的に、野菜をカットすれば、カット断面から野菜に含まれる揮発性の風味が一気に大気中に放出されて、その風味が急激に減衰する。しかし、本実施形態のカット野菜の製造方法では、野菜をカットした後、このカット野菜をオリーブ葉抽出液に接触させることにより、オリーブ葉に含まれる抗酸化物質等が、野菜に付着した菌などの増殖が抑制される。このため、カット野菜の劣化が抑制されるので、野菜の風味などを長時間維持できるものと推察される。また、このようなオリーブ葉に含まれる抗酸化物質等が野菜の風味のもととなる物質の酸化を防ぐ効果を有しているということも要因であると考えられる。さらに、オリーブ葉抽出液がカット断面を保護することで大気中に放出される揮発性の風味成分の量が抑制されるのも要因の一つであると考える。
【0023】
以下、本実施形態のカット野菜の製造方法について、詳細に説明する。
【0024】
本実施形態のカット野菜の製造方法は、カット処理したカット野菜をオリーブ葉抽出液に接触させて処理する工程を含む製造方法である。
【0025】
野菜をカット処理する方法(野菜カット処理工程)は、とくに限定されない。包丁等でカットしてもよいし、専用の機械(野菜カットマシーン)を用いてカットしてもよい。
【0026】
(オリーブ葉抽出液処理工程)
図1に示すように、野菜カット処理工程で処理されたカット野菜は、オリーブ葉抽出液をカット野菜に接触させて処理する工程(オリーブ葉抽出液処理工程)に供される。
このオリーブ葉抽出液処理工程において、オリーブ葉抽出液をカット野菜に接触させる方法は、カット野菜の表面やカット断面等にオリーブ葉抽出液が接することができる方法であれば、とくに限定されない。例えば、シャワー状のオリーブ葉抽出液をカット野菜に散布するように接触させてもよいし、カット野菜をオリーブ葉抽出液に浸漬させてもよい。
【0027】
カット野菜をオリーブ葉抽出液中に浸漬させる方法を採用する場合には、個々のカット野菜をそのまま浸漬させてもよいし、袋状のものに複数個を収容した状態で浸漬させてもよいし、ベルトコンベア上に網を設けてこの網とベルトコンベア上の間にカット野菜を配置してオリーブ葉抽出液中に浸漬させてもよい。なお、作業性の観点では、一度に複数のカット野菜を処理できる方法(例えば、袋状のものに複数のカット野菜を収納したものを浸漬させる方法など)を採用するのが好ましい。
【0028】
また、オリーブ葉抽出液接触工程において、オリーブ葉抽出液をカット野菜に接触させる時間は、カット野菜全体にオリーブ葉抽出液が接触できる時間であれば、とくに限定されない。例えば、カット野菜をオリーブ葉抽出液に浸漬させる場合には、20秒~3分程度が好ましい。より好ましくは30秒~2分であり、作業性の観点では30秒~1分がより好ましい。
【0029】
なお、オリーブ葉抽出液を接触させたカット野菜は、そのまま包装工程に供してもよいが、取り扱い性の観点から脱水処理工程に供するのが望ましい。この脱水工程において、カット野菜を脱水処理する方法はとくに限定されない。例えば、ザル等により収容し静置する方法や、市販の脱水機などを用いた方法などを採用することができる。
【0030】
(次亜塩素処理工程)
とくに、
図1に示すように、本実施形態のカット野菜の製造方法は、次亜塩素酸水および/または次亜塩素酸ナトリウム水溶液をカット野菜に接触させて、野菜に付着している菌などを抑制する工程(次亜塩素処理工程)をオリーブ葉抽出液処理工程の前工程として設けてもよい。つまり、カットされたカット野菜は、まず野菜に付着した菌などをある程度抑制したり殺菌した後、次工程のオリーブ葉抽出液処理工程に供給される。
【0031】
次亜塩素処理工程において、カット野菜に次亜塩素酸水等を接触させる方法は、オリーブ葉抽出液接触工程で採用した方法と同様の方法を採用することができる。また、次亜塩素処理工程において使用される次亜塩素酸水および次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、一般的に食品用に使用されているものを採用することができる。
また、次亜塩素処理工程において、カット野菜を接触させる時間も、とくに限定されない。例えば、カット野菜を次亜塩素酸水および/または次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させる場合には、30秒~3分が好ましい。より好ましくは30秒~2分であり、作業性の観点では30秒~1分がより好ましい。
【0032】
本実施形態のカット野菜の製造方法では、次亜塩素処理工程の後にオリーブ葉抽出液処理工程を設けた場合には、次のような利点も得られる。
従来の技術では、カット野菜を次亜塩素処理した後、水洗いのみで出荷する場合と比べて、カット野菜から発生する塩素臭を抑制することができる。しかも、オリーブ葉抽出液処理工程により菌の増殖を抑制することができるので、塩素濃度を一般的な食品用で使用される濃度よりも低くすることができる。したがって、カット野菜を食する際に気になる塩素臭をより低減させることができるという効果も奏する。
【0033】
なお、本明細書における殺菌とは、菌などを殺菌することはもちろん、除菌したり、菌の増殖を抑制したりすることを含む概念である。
【0034】
(抽出物の調製方法)
つぎに、抽出物の調製方法を詳細に説明する。
本実施形態のカット野菜の製造方法におけるオリーブ葉抽出液に含まれる抽出物は、上述したように、オリーブの葉を熱水抽出、加圧熱水抽出、圧搾等することにより得られる。
【0035】
(熱水抽出)
まず、熱水抽出について説明する。
この熱水抽出を利用した抽出方法は、オリーブの葉と水の混合物を高温の水で熱水抽出する工程を含む方法である。この熱水抽出方法としては、例えば、以下に示す工程を用いることができる。
【0036】
(混合物の調製)
オリーブの葉と水を混合した混合物を調製する。
両者の混合割合は、カット野菜に対する抗菌作用や風味を維持できる成分を抽出できれば、とくに限定されない。
例えば、水1Lに対して、オリーブの葉が固形分質量で0.5g以上となるように調整する。オリーブの葉を含有する量は、好ましくは固形分質量で3g以上であり、より好ましくは5g以上である。一方、オリーブの葉が多くなりすぎると取り扱い性や、抽出性が低下する可能性がある。このため、例えば、水1Lに対するオリーブの葉の混合割合の上限は、固形分質量で100g以下が好ましく、より好ましくは固形分質量で70g以下であり、さらに好ましくは固形分質量で50g以下であり、さらにより好ましくは固形分質量で30g以下である。したがって、混合物におけるオリーブの葉と水の混合割合は、水1Lに対して、オリーブの葉が固形分質量で上記範囲内となるように調整する。
【0037】
ついで、この混合物の液温が所定の温度範囲内となるように調整する。
【0038】
(抽出温度)
この抽出温度は、カット野菜に対して上述した機構を発揮させることができれば、とくに限定されない。例えば、抽出温度が40℃~100℃となるように調整する。なお、抽出時に混合物中の水分が揮散しないように密閉系で行うのが好ましいが、とくに限定されず、開放形で行ってもよい。
【0039】
(抽出時間)
抽出時間は、カット野菜に対する上記機能を発揮させることができれる成分を抽出できれば、とくに限定されない。例えば、抽出時間は、30分~10時間程度が好ましく、より好ましくは1時間~5時間である。より具体的には、抽出温度が50℃~100℃の場合には、抽出時間は30分~4時間が好まししい。また、抽出温度100℃の状態で30分保持した後、雰囲気下で3時間放置してもよい。
【0040】
抽出が終了すれば、混合物中には、液状の抽出物と、水に不溶な成分や抽出処理後のオリーブの葉などが残渣(固形分)として得られる。
この抽出処理後の混合物(抽出物と固形分)は、ろ過や遠心分離等の処理をすることにより互いに分離することができる。なお、分離された抽出物は、そのままオリーブ葉抽出液に用いてもよいし、濃縮等を行って抽出物中に含まれる成分の濃度(固形分濃度)を高めた状態(抽出物のエキス)にし用いてもよい。
【0041】
なお、抽出物をすぐに使用しない場合には、冷蔵庫内で保管したり、冷凍処理すれば、長期間保存しておくことができる。
【0042】
なお、混合物には、溶媒として水のほか、抽出に悪影響を与えない程度に他の溶媒を含有させてもよい。例えば、エタノールなどを挙げることができる。このような水以外の溶媒の混合割合は、水の混合割合よりも低くなるように調整されていればとくに限定されない。
【0043】
また、混合物に混ぜるオリーブの葉の形状や大きさは、抽出装置等に収容できる形状や大きさであれば、とくに限定されない。例えば、オリーブの葉は、採取した状態のそのままであってもよいし、粉砕等の処理をして小さくした状態のものであってもよい。後者の場合、処理時間や処理効率を向上させることが可能となる。オリーブの葉を小さくする方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、裁断や粉砕等の処理を行えば、オリーブの葉をチップ状や粉状などの粉砕物として供給することができる。
また、オリーブの葉は、圧搾機等を用いて圧搾した状態のものを用いてもよい。具体的には、圧搾されたオリーブの葉および/または圧搾後に回収される搾汁液を混合物に含有させてもよい。この場合、抽出物の回収率の向上が期待できる。
【0044】
また、オリーブの葉の状態もとくに限定されない。具体的には、水分が含んだ状態であってもよいし、水分をある程度除去した乾燥状態のものであってもよい。例えば、採取したオリーブ葉を乾燥機や凍結乾燥機を用いて乾燥してもよいし、自然乾燥で乾燥させてもよい。
【0045】
(加圧熱水抽出)
次に、加圧熱水抽出について説明する。
この加圧熱水抽出を利用した抽出方法は、オリーブの葉と水の混合物を100℃を超える温度でも沸騰しない状態の高温の水で熱水抽出する工程を含む方法である。この加圧熱水抽出方法としては、例えば、以下に示す工程を用いることができる。
【0046】
この加圧熱水抽出では、加圧容器を備えた抽出装置が用いられる。
この抽出装置の加圧容器は、内部に水と抽出対象物であるオリーブの葉を収容することができる収容空間を備えており、収容空間内に収容した混合物を加圧・加熱できるようになっている。この加圧容器内の温度や圧力は、抽出装置により制御できるようになっている。つまり、この抽出装置は、加圧容器内の収容空間内に収容した水とオリーブの葉の混合物を所定の高温高圧の条件下で処理することができるようになっている。この抽出装置は、上記機能を有するものであれば、とくに限定されず、例えば、公知のものを採用することができる。
【0047】
(混合物の調製)
まず、オリーブの葉と水を混合した混合物を調製する。
両者の混合割合は、とくに限定されない。例えば、抽出装置の加圧容器内に収容するオリーブの葉と水の混合割合(つまり混合物におけるオリーブの葉と水の混合割合)は、オリーブの葉が、水1Lに対して、オリーブの葉が固形分質量で0.5g以上となるように調製する。オリーブの葉を含有する量は、好ましくは固形分質量で1g以上であり、より好ましくは5g以上である。一方、オリーブの葉が多くなりすぎると取り扱い性や、抽出性が低下する可能性がある。このため、例えば、水1Lに対するオリーブの葉の混合割合の上限は、固形分質量で100g以下が好ましく、より好ましくは固形分質量で70g以下であり、さらに好ましくは固形分質量で50g以下であり、さらにより好ましくは固形分質量で30g以下である。したがって、混合物におけるオリーブの葉と水の混合割合は、水1Lに対して、オリーブの葉が固形分質量で上記範囲内となるように調整する。
【0048】
(抽出温度)
混合物(オリーブの葉と水の混合物)の抽出温度は、オリーブの葉から上記効果を発揮する成分が抽出できる温度であれば、とくに限定されない。例えば、抽出温度が、100℃よりも高くなるように調整する。好ましくは、110℃であり、より好ましくは120℃以上であり、さらに好ましくは140℃以上となるように調整する。一方、抽出温度を高くしすぎると、オリーブの葉に含まれる成分が分解して上記効果が低下する可能性がある。このため、抽出温度の上限値は、300℃以下が好ましく、より好ましくは250℃以下である。
したがって、抽出温度は、100℃よりも高く300℃以下であり、より好ましくは110℃以上、250℃以下である。
【0049】
(抽出圧力)
加圧熱水抽出において、抽出圧力は、抽出温度での理論値として得ることができる。この理論値は、水の蒸気圧曲線から、各抽出温度での圧力を求めることができる。例えば、抽出温度が90℃の場合には抽出圧力が大気圧と同じ0.1Mpaであり、抽出温度が120℃の場合には0.2Mpa、抽出温度が140℃の場合には0.36Mpa、抽出温度が200℃の場合には1.55Mpaとなる。
【0050】
(抽出時間)
なお、加圧熱水抽出における抽出条件において、抽出時間は、とくに限定されず、抽出温度や抽出圧力により適宜調整すればよい。例えば、抽出時間を10分以上にすることができる。より好ましくは60分以上である。上限はとくに限定されないが、120分以上行っても抽出物の回収率の増加率が向上しない可能性がある。このため、作業性や効率性の観点では、抽出時間は、10分以上、120分以下が好ましく、より好ましくは60分以上、120分以下である。なお、この抽出時間には、所定の抽出温度に到達するまでの時間は含まれない。
例えば、抽出温度が180℃、抽出圧力が1.00MPaの場合、抽出時間は60分以上となるように調整することができる。
【0051】
なお、抽出が終了すれば、混合物中には、液状の抽出物と、水に不溶な成分や抽出処理後のオリーブの葉などが残渣(固形分)として得られるので、熱水抽出で説明した場合と同様に抽出物と固形分を分離する。
【0052】
なお、混合物には、溶媒として水のほか、熱水抽出の場合と同様の溶媒を含有してもよい。
【0053】
また、用いられるオリーブの葉の形状や大きさ、状態も、上述した熱水抽出の場合と同様のものを採用することができる。
【0054】
なお、本実施形態のカット野菜の製造方法において、オリーブ葉抽出液には、上述した抽出物以外の他の物質を含有してもよいのはいうまでもない。例えば、防腐剤、安定化剤、pH調整剤などを適宜配合することができる。
【実施例0055】
つぎに、実施例によりさらに詳細に本発明を説明する。
なお、これらの実施例は、本実施形態の一例を示すものであり、本発明は、以下の実施例によってなんら制限を受けるものではない。
【0056】
(オリーブ葉の採取)
実験に用いるオリーブ葉は、オリーブの樹木から枝葉を剪定し、枝と葉を分離することで取得した。
【0057】
(オリーブの葉の乾燥)
実験では、乾燥したオリーブの葉を用いた。
原料となるオリーブの葉は、オリーブの木から採取したオリーブの生葉を乾燥機を用いて含水率が5%以下となるように乾燥した。この状態のオリーブの葉の質量(本実験では乾燥質量という)は、本実施形態の固形分質量に相当する。
【0058】
(熱水抽出)
乾燥質量20gのオリーブの葉を3Lの温度100℃の熱水に加え撹拌し、混合し混合物を調製した。つまり、この混合物は、水1Lに対して、オリーブの葉が乾燥質量で6.6g含有するように調製されている。
ついで、この混合物を加熱しながら熱水抽出を行った。抽出時間は、30分とした。
所定の時間の抽出が終了した後、約半日静置した後、抽出残渣(固形分)を濾過で取り除いて抽出液を得た。なお、この抽出液が、本実施形態の抽出物に相当する。
この抽出方法を2回行い、約6Lの抽出液を得た。この抽出液は、使用までに時間があくことから冷凍保存した。
【0059】
(オリーブ葉抽出液の調製)
冷凍庫から冷凍状態の抽出液を取り出し、解凍して液状の抽出液とした。
水40Lに、この抽出液6Lを加えてオリーブ葉抽出液を調製した。このオリーブ葉抽出液には、水46Lに対して、乾燥質量40gのオリーブの葉から得られた抽出液が含有されていることになる。つまり、オリーブ葉抽出液には、水1Lに対して、乾燥質量(固形分質量)0.87gのオリーブの葉から得られた抽出物が含有するように調製した。
【0060】
(次亜塩素酸水の調製)
市販の次亜塩素酸水20mg(塩素濃度500ppm(mg/kg))を水40Lに溶解して、次亜塩素酸水を調製した。
【0061】
(カット野菜の処理工程)
実験では、カット野菜として青ネギを用いた。
ネギは、ネギ切断機を用いて、1.5mm~2.0mm幅となるようにカットした。
【0062】
実験では、カットネギを次亜塩素酸水で処理した後、オリーブ葉抽出液で処理し、その後脱水処理を行った。以下、各工程を具体的に説明する。
【0063】
(次亜塩素処理工程)
まず、カットネギ3kgをザルにいれ、このザルを塩素濃度0.25ppm(mg/kg)の次亜塩素酸水40L(水温8~10℃)が入った容器内に入れた。この状態で定期的に撹拌しながら1分間浸漬させた。
【0064】
(オリーブ葉抽出液処理工程)
つぎに、次亜塩素酸水が入った容器からザルと共にカットネギを取り出した後、このザルをオリーブ葉抽出液が入った容器内に入れた。この状態で定期的に撹拌しながら1分間浸漬させた。
【0065】
オリーブ葉抽出液に所定時間浸漬撹拌したカットネギを取り出し、遠心分離機を用いて脱水処理を行った。
【0066】
<比較例>
オリーブ葉抽出液による処理を水40Lに代えた以外は、実施例と同様に処理を行った。
【0067】
(評価試験)
本発明のカット野菜の製造方法による抗菌作用を一般生菌数で評価した。
また、本発明のカット野菜の製造方法により処理したカットネギの風味や食感などを官能試験で評価した。
【0068】
【0069】
図2には、カットネギの製造2日後および5日後の一般生菌数を示す。左のグラフが比較例の結果であり、右のグラフが実施例の結果である。
比較例は、5日目で1gあたりの一般生菌数(c.f.u/g)が約220万になったのに対して、実施例では、5日目で1gあたりの一般生菌数(c.f.u/g)が約99万であった。つまり、本発明のカット野菜の製造方法を用いることにより、比較例に対して半分以下にまで菌が増殖するのを抑制できることが確認された。つまり、オリーブ葉抽出液により処理工程を行うことにより、菌の増殖を抑制できることが確認できた。
【0070】
官能試験は、以下のとおり行った。
表1の評価基準に示すように、被験者10人に、実施例のカットネギが比較例のカットネギと比べて各評価項目(「におい」、「辛味」、「硬さ」)においてどのように感じたかを「〇」「△」「×」で評価してもらった。なお、被験者には、サンプルの内容は伝えていない。
【0071】
【0072】
【0073】
図3には、評価項目「におい」の結果表とそのグラフを示す。
図3に示すように、「におい」に関しては日数が経るにつれ、実施例のカットネギの「におい」が比較例のカットネギと比べて強くなるという結果になった。とくに5日目では、実施例のカットネギの「におい」は、比較例のカットネギと比べて明確な有意差が得られることが確認できた。
この理由は、比較例のカットネギでは、日数を経るごとに「におい」物質が酸化されて、「におい」が弱くなるが、実施例のカットネギでは、オリーブ葉に含まれる抗酸化物質が、ネギの「におい」物質の酸化を防ぐ効果をもたらし、結果として実施例のカットネギが比較例と比べてにおいが強くなったのではないかと推測される。
図4には、評価項目「辛味」の結果表とそのグラフを示す。
図4に示すように、「辛味」に関しては、日数がたっても実施例と比較例のカットネギの「辛味」の変化はあまり変わらない傾向にあった。
図5には、評価項目「硬さ」の結果表とそのグラフを示す。
図5に示すように、評価項目「硬さ」に関しては、両者に大差がない結果となった。
【0074】
実験結果から、実施例のカットネギのほうが、比較例のカットネギと比べて「におい」が日数を経るにつれて強くなるという傾向が確認できた。また、「辛味」に関しては、日数を経ても当初とあまり変わらない状態に維持されていることが確認できた。つまり、実施例のカットネギは、5日目でもカット処理した初日と同等の風味を有していることが確認できた。
【0075】
したがって、本発明のカット野菜の製造方法を用いれば、カット野菜の鮮度と風味を長期間にわたって維持させることができる。言い換えれば、鮮度と風味の保持性を向上させることができる。このため、従来、数日間で廃棄されていたカット野菜に基づく食品ロスを軽減できる。しかも、飲食店においては、カット野菜のロスやカット野菜を作成するための作業などを抑制できるので、経費削減にもなる。さらに、オリーブの未利用部位を利用することにより、産業廃棄物の減量化にもつながる。