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2023-125847ギャップマー型アンチセンス核酸における修飾
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125847
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ギャップマー型アンチセンス核酸における修飾
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20230831BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030186
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】520293070
【氏名又は名称】株式会社GF・Mille
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000173913
【氏名又は名称】公益財団法人微生物化学研究会
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 義仁
(72)【発明者】
【氏名】上田 浩生
(72)【発明者】
【氏名】茶野 徳宏
(72)【発明者】
【氏名】古市 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】河出 美和
(72)【発明者】
【氏名】柿澤 侑里
(72)【発明者】
【氏名】坂本 修一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ギャップマー型アンチセンス核酸のmRNAノックダウン効率向上や悪影響の軽減に貢献する修飾ないしデザインを提供する。
【解決手段】ギャップ領域と、ウィング領域と、を備え、以下の(a)の修飾を備える、アンチセンス核酸。(a)前記ギャップ領域の5’末端から1~3塩基単位内に1個又は2個の式(1)で表されるヌクレオシド誘導体に由来する構成単位を備える。

(上記式(1)において、R及びRは、水素原子を表し、Rはリン酸基又はホスホとチオエート基を表し、Rは、アミノエチル基又はメチルアミノエチル基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチセンス核酸であって、
ギャップ領域と、ウィング領域と、を備え、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも一つの修飾を備える、アンチセンス核酸。
(a)前記ギャップ領域の5’末端から1~3塩基単位内に1個又は2個の式(1)で表されるヌクレオシド誘導体に由来する構成単位を備える、
(b)前記ギャップ領域の3’末端から1塩基単位に、1個の式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える、及び
(c)前記ギャップ領域の5’末端から4~5塩基単位の範囲に、1個又は2個の式(2)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える
【化11】

(上記式(1)において、R及びRは、水素原子を表し、Rはリン酸基又はホスホとチオエート基を表し、Rは、アミノエチル基又はメチルアミノエチル基を表す。)

【化12】
(上記式(1)において、R及びRは、水素原子を表し、Rはリン鎖基又はホスホロチオエート基を表し、R5は、水酸基を表す。)
【請求項2】
前記(a)の修飾を有し、前記ギャップ領域の5’末端から1~2塩基単位の範囲に1個又は2個の式(1)で表されるヌクレオシド誘導体に由来する構成単位を備える、請求項1に記載のアンチセンス核酸。
【請求項3】
さらに、以下の(d)の修飾を備える、請求項1又は2に記載のアンチセンス核酸。
(d)前記ギャップ領域の前記ギャップ領域の5’末端から3塩基単位及び6塩基単位以降3’末端から2塩基単位までの範囲に、1個~5個の式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える
【請求項4】
さらに、以下の(e)の修飾を備える、請求項1~3のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
(e)前記ギャップ領域の5’末端から3塩基単位に、式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える
【請求項5】
前記ギャップ領域は、7塩基単位以上13塩基単位以下である、請求項1~4のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
【請求項6】
前記ギャップ領域及びウィング領域を構成するヌクレオチド単位間は、いずれも、ホスホチロオエート結合で連結されている、請求項1~5のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
【請求項7】
前記ウィング領域を構成するヌクレオチド単位は、いずれも、LNA又はBNAである、請求項1~6のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、ギャップマー型アンチセンス核酸における修飾に関する。
【背景技術】
【0002】
mRNAとハイブリダイズするように設計されたアンチセンス核酸(ASO)が核酸医薬として開発されている。ASOの1つとして、mRNAにハイブリダイズしてRNA/DNA二本鎖ハイブリッドを形成して、RNase HというRNA分解酵素を誘導し、mRNAを切断するものがある。切断されたmRNA断片は、エキソヌクレアーゼにより分解される。RNase Hは、DNA:RNA二本鎖ハイブリッドを識別して標的となるRNA鎖のみを切断するヌクレアーゼである。
【0003】
こうしたASOとして、ギャップマー型ASOがある。ギャップマー型ASOは、mRNAにハイブリダイズする第1の領域(ギャップ領域)と、その両側に連結される第2の領域(ウィング領域)と、を有している。
【0004】
一般に、ギャップ領域は、RNase Hの基質部分を構成するDNA鎖で構成され、ウィング領域は、RNA鎖に対する親和性やヌクレアーゼ耐性を向上させる修飾されたヌクレオチド誘導体を含む鎖で構成されている。さらに、ギャップ領域及びウィング領域にわたって、ヌクレオチド間のリン酸エステル結合を、ホスホロチオエート (Phosphorothioate, PS)修飾されている。PS修飾は、リン酸基の酸素原子の1つを硫黄原子で置換したリン鎖基修飾である。PS修飾は、高いヌクレアーゼ耐性を有するとともに、RNase Hの認識を受けるという優れた性質を有し、さらに、細胞膜透過性に貢献していると考えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、こうした優れたPS修飾ではあるが、細胞毒性や肝毒性を示すという問題がある。一方、PS修飾を代替したりPS修飾の悪影響を抑制したりできる有効な修飾は未だ提供されていない。また、ギャップマー型ASOのデザインも提供されていない。
【0006】
本明細書は、ギャップマー型ASOのmRNAノックダウン効率向上や悪影響の軽減に貢献する修飾ないしデザインを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ギャップマー型ASOのギャップ領域及びウィング領域におけるヌクレオシドの修飾態様及び修飾の導入部位について、検討した。本発明者らによれば、RNase H活性化能に優れる修飾ヌクレオチドであっても、ASOにおける導入部位によっては、膜透過性を低下させるなどしてmRNAノックダウン効果を著しく下げる場合があることがわかった。本発明者らは、特定の修飾ヌクレオシドを用いて、ギャップマー型ASOのギャップ領域における当該修飾ヌクレオシドの導入がRNase H活性化能及び細胞膜透過性の双方にどのような影響を及ぼすかを検討した。そして、ギャップマー型ASOのギャップ領域における特定修飾ヌクレオシドの導入部位毎の観察結果から、特定修飾ヌクレオチドを用いたギャップ領域のデザインを確立した。さらに、当該デザインに基づいて、PS修飾による毒性も抑制できるという知見も得た。この結果、mRNAノックダウン効果に好適なギャップマー型ASOを提供できることを見出した。本明細書は、かかる知見に基づき以下の手段を提供する。
【0008】
[1]アンチセンス核酸であって、
ギャップ領域と、ウィング領域と、を備え、
以下の(a)~(c)からなる群から選択される少なくとも一つの修飾を備える、アンチセンス核酸。
(a)前記ギャップ領域の5’末端から1~3塩基単位内に1個又は2個の式(1)で表されるヌクレオシド誘導体に由来する構成単位を備える、
(b)前記ギャップ領域の3’末端から1塩基単位に、1個の式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える、及び
(c)前記ギャップ領域の5’末端から4~5塩基単位の範囲に、1個又は2個の式(2)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える
【化1】

(上記式(1)において、R及びRは、水素原子を表し、Rはリン酸基又はホスホとチオエート基を表し、Rは、アミノエチル基又はメチルアミノエチル基を表す。)
【化2】

(上記式(1)において、R及びRは、水素原子を表し、Rはリン鎖基又はホスホロチオエート基を表し、R5は、水酸基を表す。)

[2]前記(a)の修飾を有し、前記ギャップ領域の5’末端から1~2塩基単位の範囲に1個又は2個の式(1)で表されるヌクレオシド誘導体に由来する構成単位を備える、[1]に記載のアンチセンス核酸。
[3]さらに、以下の(d)の修飾を備える、[1]又は[2]に記載のアンチセンス核酸。
(d)前記ギャップ領域の5’末端から3塩基単位及び6塩基単位以降3’末端から2塩基単位までの範囲に、1個~5個の式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える

[4]さらに、以下の(e)の修飾を備える、[1]~[3]のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
(e)前記ギャップ領域の5’末端から3塩基単位に、式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備える
[5]前記ギャップ領域の長さは、7塩基単位以上13塩基単位以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
[6]前記ギャップ領域及びウィング領域を構成するヌクレオチド間は、いずれも、ホスホロチオエート結合で連結されている、[1]~[5]のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
[7]前記ウィング領域を構成するヌクレオチド単位は、いずれも、LNA又はBNAである、[1]~[6]のいずれかに記載のアンチセンス核酸。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本明細書に開示されるギャップマー型アンチセンス核酸を示す図である。
図2】KNTC2に対するギャップマー型アンチセンス核酸における4'-アミノエチル化ヌクレオチドの導入態様を示す図である。
図3】KNTC2に対するギャップマー型アンチセンス核酸における4'-アミノエチル化ヌクレオチドの導入態様とRNase H活性化と膜透過能との関係を示す図である。
図4】異なるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位を備えるギャップ領域を有するKNTC2に対するギャップマー型アンチセンス核酸を用いた場合のRNase H活性化を示す図である。
図5】KNTC2に対するギャップマー型アンチセンス核酸におけるホスホチオレート化の影響を示す図である。
図6】KNTC2に対するギャップマー型アンチセンス核酸における4'-アミノエチル化ヌクレオチドの導入態様と毒性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書の開示は、アンチセンス核酸におけるヌクレオチドの修飾に関する。より具体的には、修飾されデザインされたギャップマー型アンチセンス核酸に関する。本明細書に開示されるギャップマー型アンチセンス核酸(以下、単に、ASOともいう。)によれば、アミノ基含有エチル基をリボース4‘位炭素に備えるヌクレオチド誘導体を導入種として選択し、このヌクレオチド誘導体をASOのギャップ領域において部位特異的に導入する。これにより、このヌクレオチド誘導体のヌクレアーゼ耐性能、細胞膜透過能、RNase H活性化能を最大限に活用しつつ、かつ、PS修飾によるギャップマー型ASOの毒性を低減できる。
【0011】
以下では、本発明の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善されたギャップマー型ASOにおける修飾を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0012】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本発明を実施する際に必須のものではなく、特に本発明の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本発明の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0013】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0014】
以下、本明細書に開示されるギャップマー型ASOのデザインを説明する。説明の都合上、ギャップマー型ASOのギャップ領域を修飾する導入種としてのヌクレオチド誘導体について説明し、その後、その導入種によるギャップマー型のデザインについて説明する。
【0015】
[ギャップマー型ASOへの導入種]
本明細書に開示されるギャップマー型ASOに特に用いる導入種として用いるヌクレオチド誘導体は、以下の式(1)で表される。
【0016】
【化3】
【0017】
本明細書中、式(1)等で表される化合物における置換基における「低級」の意は、該置換基を構成する炭素数が、最大10個までであることを意味している。例えば、通常は炭素数1~6個、又は炭素数1~5個が例示され、さらには炭素数1~4個、又は炭素数1~3個であることが好ましい例として挙げられる。
【0018】
[R及びR]
式(1)中、R1及びR2は、水素原子を表す。
【0019】
[R]
式(1)中、Rは、リン酸基、又は、ホスホロチオエート基を表す。ホスホロチオエート基は、リン酸基の1つの酸素原子が硫黄原子で置換された基である。
【0020】
[R]
式(1)中、R4は、アミノエチル基又はメチルアミノエチル基をそれぞれ表す。
【0021】
におけるエチレン基は、ギャップ領域のヌクレアーゼ耐性能、細胞膜透過能及びRNase H活性化能の観点から好適である。
【0022】
[B:塩基について]
本ヌクレオシド誘導体におけるB:塩基としては、公知の天然塩基ほか、人工塩基が挙げられる。例えば、Bとしては、プリン-9-イル基、2-オキソ-ピリミジン-1-イル基、置換プリン-9-イル基、又は置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が選択できる。
【0023】
すなわち、Bとしては、プリン-9-イル基、又は2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が挙げられるほか、2,6-ジクロロプリン-9-イル、又は2-オキソ-ピリミジン-1-イルが挙げられる。さらに、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、4-(1H-1,2,4-トリアゾール‐1-イル)-ピリミジン-1-イル、又は2,6-ジメトキシプリン-9-イルが挙げられる。
【0024】
さらに、アミノ基が保護された2-オキソ-4-アミノ-ピリミジン-1-イル、アミノ基が保護された2-アミノ-6-ブロモプリン-9-イル、アミノ基が保護された2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、アミノ基及び/又は水酸基が保護された2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、アミノ基が保護された2-アミノ-6-クロロプリン-9-イル、アミノ基が保護された6-アミノプリン-9-イル、又はアミノ基が保護された4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-ピリミジン-1-イル基が挙げられる。なお、水酸基及びアミノ基の各保護基については、既に説明したとおりである。
【0025】
さらに、6-アミノプリン-9-イル(アデニン)、2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル(グアニジン)、2-オキソ-4-アミノ-ピリミジン-1-イル(シトシン)、2-オキソ-4-ヒドロキシ-ピリミジン-1-イル(ウラシル)、又は2-オキソ-4-ヒドロキシ-5-メチルピリミジン-1-イル(チミン)が挙げられる。
【0026】
さらにまた、4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-ピリミジン-1-イル(メチルシトシン)、2,6-ジアミノプリン-9-イル、6-アミノ-2-フルオロプリン-9-イル、6-メルカプトプリン-9-イル、4-アミノ-2-オキソ-5-クロロ-ピリミジン-1-イル、又は2-オキソ-4-メルカプト-ピリミジン-1-イルが挙げられる。
【0027】
また、6-アミノ-2-メトキシプリン-9-イル、6-アミノ-2-クロロプリン-9-イル、2-アミノ-6-クロロプリン-9-イル、又は2-アミノ-6-ブロモプリン-9-イルが挙げられる。
【0028】
置換プリン-9-イル基、又は置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基それぞれにおける置換基は、水酸基、保護された水酸基、低級アルコキシ基、メルカプト基、保護されたメルカプト基、低級アルキルチオ基、アミノ基、保護されたアミノ基、低級アルキル基で置換されたアミノ基、低級アルキル基、低級アルコキシメチル基、又はハロゲン原子のいずれか一つ、又はそれらの複数の組み合わせのいずれかである。これらの置換基は、既に説明したとおりである。
【0029】
本ヌクレオシド誘導体におけるBとしては、置換プリン-9-イル基、又は置換2-オキソ-ピリミジン-1-イル基における置換基が既述の各置換基が好ましいが、これに加えてさらに、トリアゾール基、低級アルコキシメチル基が加わることも好ましい。
【0030】
置換プリン-9-イル基の好ましい例としては、例えば、6-アミノプリン-9-イル、2,6-ジアミノプリン-9-イル、2-アミノ-6-クロロプリン-9-イル、2-アミノ-6-ブロモプリン-9-イル、2-アミノ-6-ヒドロキシプリン-9-イル、6-アミノ-2-メトキシプリン-9-イル、6-アミノ-2-クロロプリン-9-イル、6-アミノ-2-フルオロプリン-9-イル、2,6-ジメトキシプリン-9-イル、2,6-ジクロロプリン-9-イル、又は6-メルカプトプリン-9-イル等が挙げられる。上述の置換基中にアミノ基や水酸基があれば、それらのアミノ基及び/又は水酸基が保護化された置換基が好ましい例として挙げられる。
【0031】
置換2-オキソ-ピリミジン-1-イルとしては、例えば2-オキソ-4-アミノ-ピリミジン-1-イル、1H-(1,2,4-トリアゾール-1-イル)-ピリミジン-1-イル、4-1H-1,4-アミノ-2-オキソ-5-クロロ-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-メルカプト-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-ヒドロキシ-ピリミジン-1-イル、2-オキソ-4-ヒドロキシ-5-メチルピリミジン-1-イル、又は4-アミノ-5-メチル-2-オキソ-ピリミジン-1-イル等が挙げられる。
また、2-オキソ-4-メトキシ-ピリミジン-1-イル、又は4-(1H-1,2,4-トリアゾール‐1-イル)-ピリミジン-1-イルが好ましい例として挙げられる。
【0032】
こうしたBのうち、置換基中にアミノ基や水酸基があれば、それらのアミノ基又は水酸基が保護化された置換基が好ましい例として挙げられる。
【0033】
また、他のギャップマー型ASOに特に用いる導入種としては、以下の式(2)で表されるヌクレオチド誘導体が挙げられる。式(2)で表されるヌクレオチド誘導体は、いわゆる天然の糖骨格を備えている。
【0034】
【化4】
【0035】
上記式(2)においては、R、R、R及びBは、式(1)におけるこれらの基と同義である。また、Rは、水素原子である。
【0036】
ヌクレオチド誘導体は、塩であってもよい。塩の形態は特に限定されないが、一般的には酸付加塩が例示され、分子内対イオンの形態をとっていてもよい。又は置換基の種類によっては塩基付加塩が形成される場合もある。塩としては、薬学的に許容される塩が好ましい。薬学的に許容しうる塩を形成する酸及び塩基の種類は当業者には周知であり、例えばJ.Pharm.Sci.,1-19(1977)に記載しているものなどを参考にすることができる。例えば、酸付加塩としては、鉱酸塩、有機酸塩が挙げられる。また、一個以上の置換基が酸性部分を含有する場合、塩基付加塩も好ましい例として挙げられる。
【0037】
鉱酸塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、硫酸水素酸塩、リン酸塩、リン酸水素酸塩などが挙げられる。通常は、塩酸塩、リン酸塩、が好ましい例として挙げられる。有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、又はp-トルエンスルホン酸塩などが挙げられる。通常は、酢酸塩等が好ましい例として挙げられる。塩基付加塩としては、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩、有機アミン塩、アミノ酸の付加塩が挙げられる。
【0038】
前記のアルカリ金属の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。また、アルカリ土類金属の塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。有機アミン塩としては、例えば、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、プロカイン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等が例示される。また、アミノ酸の付加塩としては、例えば、アルギニン塩、リジン塩、オルニチン塩、セリン塩、グリシン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などが挙げられる。
【0039】
本ヌクレオシド誘導体又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあり、これらの物質も本明細書の開示の範囲に含まれる。本ヌクレオシド誘導体又はその塩は、後述の合成例や公知の方法に準じて、当業者は容易に製造することができる。
【0040】
これらのヌクレオチド誘導体は、ギャップマー型ASOのギャップ領域に導入種とすることで、かかるヌクレオチド誘導体に由来する構造単位を構成する。すなわち、R3のリン酸基又はホスホロチオエート基と3’位の水酸基との間のエステル結合により、このヌクレオチド誘導体又は他の公知のヌクレオチド誘導体に連結される。
【0041】
これらのヌクレオチド誘導体については、当業者において周知のヌクレオチドの合成方法によって合成することができる。詳細には、例えば、WO2018/110678号パンフレットに開示されるヌクレオチドの合成方法に準じて合成することができる。
【0042】
[ギャップマー型ASO]
本明細書に開示されるギャップマー型ASOは、ギャップ領域とウィング領域とを有している。ギャップ領域は、特に限定するものではないが、通常、ヌクレオチド構成単位、典型的にはデオキリリボヌクレオチド又はその誘導体を構成単位としている。
【0043】
ギャップ領域の長さは、塩基単位数として、特に限定するものではないが、5塩基以上20塩基以下などとすることができる。また例えば、6塩基以上であり、また例えば、7塩基以上であり、また例えば、8塩基以上であり、また例えば、9塩基以上である。また、19塩基以下であり、また例えば、18塩基以下であり、また例えば、17塩基以下であり、また例えば、16塩基以下であり、また例えば、15塩基以下であり、また例えば、14塩基以下であり、また例えば、13塩基以下であり、また例えば、12塩基以下であり、また例えば、11塩基以下である。ギャップ領域の範囲は、これらの上限及び下限から適宜設定することができるが、例えば、6塩基以上14塩基以下であり、また例えば、7塩基以上13塩基以下であり、また例えば、8塩基以上12塩基以下であり、また例えば、9塩基以上11塩基以下である。ギャップ領域は、概して10塩基である。
【0044】
また、ウィング領域の長さも特に限定するものではないが、ギャップ領域の5’末端側及び3’末端側のそれぞれが、例えば、2塩基以上8塩基以下であり、また例えば、2塩基以上7塩基以下であり、また例えば、2塩基以上6塩基以下であり、また例えば、2塩基以上5塩基以下であり、また例えば、3塩基以上5塩基以下である。概して、ウィング領域は、2塩基、3塩基、4塩基又は5塩基である。
【0045】
ギャップマー型ASOにおいては、ウィング領域は、概して、RNA鎖と結合力の高い、例えば、2’-メトキシエチル基(2’-MOE)などの糖部2位が修飾されたヌクレオチドや2’,4’-BNA/LNAなどの糖部2’、4’位の架橋型修飾ヌクレオチドを備えている。さらに、3’位がホスホロチオエート基を備えるヌクレオチドによって形成されている。
【0046】
ギャップマー型ASOのデザインの概略を図1に示す。図1に示すギャップマー型ASOのギャップ領域は、例示として10ヌクレオチド単位として記載されている。
【0047】
例えば、RNase H活性化能及び細胞膜透過性能の観点からは、以下の(a)~(c)の修飾が好適な場合がある。
【0048】
(a)ギャップ領域の5’末端から1~3塩基単位内に1個又は2個の式(1)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位(以下、第1の構成単位ともいう。)を備える
(b)ギャップ領域の3’末端から1塩基単位に、1個の本構成単位を備える
(c)ギャップ領域の5’末端から4~5塩基単位に、1個又は2個の式(2)で表されるヌクレオチド誘導体に由来する構成単位(以下、第2の構成単位ともいう。)を備える
【0049】
(a)の修飾においては、好ましくは、ギャップ領域の5’末端から1~2塩基単位内に1個又は2個の第1の構成単位を備える。特にこの範囲において第1の構成単位を備えることで、RNase H活性化能の向上及び膜透過性能に大きく貢献できる。この2ヌクレオチド単位のいずれかに、1個の第1の構成単位を備えていてもよいし、この2ヌクレオチド単位のいずれにも、第1の構成単位を備えていてもよい。
【0050】
また、(a)の修飾においては、ギャップ領域の5’末端から3塩基単位目に、第1の構成単位を備える。この単位において第1の構成単位を備えることで、RNase H活性化能には貢献できるが、膜透過性能は低下する場合がある。このため、この位置に、第1の構成単位を備える場合には、ギャップマー型ASOの膜透過性を向上させる公知の手法、例えば、リポ脂質などを併用することが好ましい場合がある。
【0051】
(b)の修飾は、ギャップ領域の3’末端から1塩基単位目に、第1の構成単位を備える。この単位において第1の構成単位を備えることで、RNase H活性化能及び膜透過性能に大きく貢献する。
【0052】
(c)の修飾は、ギャップ領域の5’末端から4塩基単位目及び5塩基単位目に第2の構成単位を備える。換言すると、第1の構成単位を備えないことを意味している。これらの単位に第1の構成単位を備えることで、RNase H活性化能を低下させるからである。このため、これらの単位の一方又は双方に、第2の構成単位、すなわち、糖鎖修飾を有しないヌクレオチド誘導体を用いること好適である。
【0053】
(c)の修飾において、ギャップ領域の5’末端から5塩基単位に第2の構成単位を備える点は、ギャップ領域が6塩基以上の場合に適用されるが、ギャップ領域が5塩基の場合には、適用されない。すなわち、ギャップ領域が5塩基の場合、(c)の修飾は、ギャップ領域の5’末端から4塩基単位に限定される。かかる場合において、5’末端から5塩基単位における修飾は、3’末端から1塩基単位における(b)の修飾が優先される。
【0054】
(a)~(c)の修飾は、それぞれ単独で又は2種以上若しくは3種を組み合わせることができるが、好ましくは、少なくとも(a)及び/又は(b)の修飾を備える。さらに、(c)の修飾を備えることが好適である。
【0055】
また例えば、RNase H活性可能の観点からは、以下の(d)の修飾が好適な場合がある。
【0056】
(d)ギャップ領域の5’末端から3塩基単位、及び存在しうる場合(換言すれば、ギャップ領域が7塩基単位以上の場合)には、5’末端から6塩基単位以降、ギャップ領域の3’末端から2塩基単位までの範囲に、1個から最大、これらの塩基単位に対応する数(例えば、ギャップ領域が10塩基のとき、最大で5個)の第1の構成単位を備えることもできる。しかしながら、これらの部位に第1の構成単位を備えることは、膜透過性能を低下させる傾向があるため、これらの単位に、第1の構成単位を備えるときは、膜透過性を向上させるようなDDSの適用が好適な場合がある。
【0057】
また例えば、ギャップマー型ASOの毒性低下の観点から、以下の(e)の修飾が好適な場合がある。
【0058】
(e)ギャップ領域の5’末端から3塩基単位及び4塩基単位の位置に、第1の構成単位を備えることが、ギャップマー型ASOの毒性を低下させる点において好適な場合がある。既述したように、この3単位目に第1の構成単位を備えることは、膜透過性能を低下させるおそれがあるため、DDSを適用することが好ましい場合がある。また、この4単位目に第1の構成単位を備えることで、RNase H活性化能が低下する可能性があるため、第2の構成単位を備えることが好適な場合がある。例えば、3単位目に第1の構成単位を備え、4単位目に第2の構成単位を備えることができる。
【0059】
以上のことから、本明細書に開示されるギャップマー型ASOのギャップ領域のヌクレオチド誘導体、特にはその糖鎖の修飾態様は、以下の[1]~[7]が挙げられる。なお、以下の[1]~[7]における、灰色斜めで示される単位(位置)が5個あるが、この5個のそれぞれについて、第1の構成単位である場合と第2の構成単位である場合と2種類の選択がある。また、これらの単位(位置)に第1の構成単位を備える場合には、ギャップマー型ASOの使用・投与時にはDDSの適用が好ましい場合がある。
また、[1]~[7]において[5]’末端から3単位には、毒性を考慮すると第1の構成単位を備えることが好適な場合がある。
【0060】
【表1】
【0061】
ギャップ領域に導入される第1の構成単位においては、R4がアミノエチル基であるかメチルアミノエチル基であることが、ギャップマー型ASOの最終的なノックダウン効率に有効である。また、配列番号1で表される塩基配列は、例えば、ヒトKNTC2のmRNAを標的とするギャップマー型アンチセンス核酸(ギャップ領域は、4位~13位である。)として好適である。
【実施例0062】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例0063】
本実施例では、ギャップマー型ASOに導入する4’-AE(アミノエチル)体を合成した。各種の塩基を備える4’-AE体は、例えば、国際公開2018/110678号に記載されているように合成できる。本実施例では、以下の方法で合成した。
【0064】
(共通中間体の合成)
4′-AE-DNAにおける各塩基の共通中間体までの合成経路をScheme 3に示した。化合物8までは福山, 森田らの報告などの公知の方法(Fukuyama, K.; Ohrui, H.; Kuwahara, S. Synthesis of EFdA via a Diastereoselective Aldol Reaction of a Protected 3-Keto Furanose. Org. Lett., 2015, 17, 828-831及びMorita, K.; Takagi, M.; Hasegawa, C.; Kaneko, M.; Tsutsumi, S.; Sone, J.; Ishikawa, T.; Imanishi, T.; Koizumi, M. Synthesis and Properties of 2′-O, 4′-C-Ethylene-Bridged Nucleic Acids (ENA) as Effective Antisense Oligonucleotides. Bioorg. Med. Chem., 2003, 11, 2211-2226)を参考に合成を行った。1,2: 5,6-Di-O-isopropylidene-α-D-glucofuranose (化合物1) を出発物質として、 Nor-AZADOを用いた3位ヒドロキシ基の酸化に続くパラホルムアルデヒドとのアルドール反応にて4-β位にヒドロキシメチル基を導入した後, NaBH4でのヒドリド還元により3位をヒドロキシ基に変換した化合物4を3段階, 収率65%で合成した。次に, BnBrにて3位と5位のヒドロキシ基をBn基で保護した化合物5を97%で得た。その後, ヨウ素を用いた5, 6位イソプロピリデン基の脱保護及び過ヨウ素酸ナトリウムによるMalaprade-Glycol酸化開裂をワンポットで行い, 生じたアルデヒド体をWittig反応に供することで4-α位にビニル基を導入した化合物7を2段階, 86%で合成した。続いて, ブラウンヒドロホウ素化-酸化反応によりアルコール体である化合物8を93%で合成した。その後, DPPAを用いた光延反応によるアジド化にてヒドロキシ基をアジド基に変換した化合物9を84%で合成した。そして, 50%AcOHによる1, 2位アセタールの酸加水分解に続き, 無水酢酸による1, 2位のAc基保護を行うことでジアセチル体である化合物10を87%で得た。この化合物10を各塩基に対応する共通中間体とし, 続くT, C, A, Gアナログの合成に使用した。
【0065】
【化5】
【0066】
(チミジンアナログの合成)
4′-AE-Tの合成経路をScheme 4に示した。共通中間体である化合物10をVorbrugen条件でのチミンとのグリコシル化反応に供することで化合物11へと92%で変換した。次に, 2′位のAc基をメタノール中でNaOMeにより脱保護し, Staudinger還元にてアジド基をアミンへと還元した後, トリフルオロ酢酸エチルを用いてTFA基で保護することで化合物14を3段階, 95%で得た。続いて, Barton-McCombie脱酸素化反応による2′位のデオキシ化を行った。化合物14に対し, 2′位のヒドロキシをPhOCS基へと変換後, Bu3SnHを用いたBarton-McCombie脱酸素化反応を行うことで2′位をデオキシ化した化合物16を89%で合成することに成功した。その後, 化合物16の3′位と5′位のBn基をBCl3で脱保護し, 収率80%で化合物17に変換した。続いて, 5′位のヒドロキシ基を選択的にDMTr基で保護した化合物18を91%で合成した。最後に, 3′位ヒドロキシ基をCEP-Clによって亜リン酸化することにより目的のアミダイト体19を87%で合成し, 4′-AE-Tアナログの合成を全18段階, 総収率18 %で達成した。
【0067】
【化6】
【0068】
(デオキシシチジンアナログの合成)
4′-AE-MedCの合成経路をScheme 5に示した。なお, 5-メチルシチジンはシチジンと比較して二重鎖の安定性が増加し, また免疫原性が低いという報告がされているため, チミジンから誘導可能な5-メチルシチジンを合成した。チミジンアナログを合成する際の中間体である化合物18から, 3′位ヒドロキシ基をTBDMS基で保護した化合物20へと94%で変換した。次に, 塩基部の4位選択的にTPS化を行った後, アンモニア処理をすることで4位にアミノ基を導入し, 無水酢酸によりAc基で保護することで化合物22を2段階, 72%で合成した。その後, 3′位のTBDMS基をTBAF処理により脱保護して化合物23を98%で得た。最後に3′位ヒドロキシ基をCEP-Clにて亜リン酸化することで目的のアミダイト体24を73%で合成し, 4′-AE-MedCアナログの合成を全22段階, 総収率10%で達成した。
【0069】
【化7】
【0070】
(デオキシアデノシンアナログの合成)
続いて, 4′-AE-dAアナログの合成を行った。合成経路をsheme7に示す。
【0071】
【化8】
【0072】
まずグリコシル化に関して、6-クロロプリンとのグリコシル化を行った所, 目的の化合物31を単一の化合物として, 93%の高収率で得ることに成功した。続いて化合物31を封管中, 100 °CでNH3 aq.処理することでアデノシンへの変換とAc基の脱保護を同時に行い, さらにアジド基の還元とTFA基による保護を行うことで化合物34を3段階, 89%で得た。その後, 化合物34の2′位をデオキシ化し, Pd/C, もしくはパールマン触媒によるBn基の脱保護を行ったが, 収率が20~50%程度と低収率な上再現性に乏しく, また化合物の分解も顕著であった。そこで, 先に2′-OHの状態でBn基を脱保護し, TBAFにより容易に脱保護可能な環状シリル基で3′, 5′位を保護し直すこととした。化合物34をギ酸存在下, パールマン触媒を用いた接触還元に供することで94%という高収率でトリオール体35を得ることに成功した。化合物35の3′位及び5′位ヒドロキシ基をTIPDS基で保護することで化合物36を76%で合成した。その後, Barton-McCombie脱酸素化反応により2′位をデオキシ化した化合物38を2段階, 74%で合成した。化合物38のアミノ基をBz基で保護した後, TIPDS基をTBAF処理により脱保護することで化合物40を2段階, 76%で合成し, 続いて5′位ヒドロキシ基をDMTr基で選択的に保護することで化合物41を75%で得た。最後に3′位ヒドロキシ基をCEP-Clにて亜リン酸化することで目的のアミダイト体42を70%で合成し, 4′-AE-dAアナログの合成を全21段階, 総収率8.5%で達成した。
【0073】
(デオキシグアノシンアナログの合成)
最後に, 4′-AE-dGアナログの合成を行った。アデノシンアナログ合成の際と同様, クロロ置換プリン塩基とのグリコシル化を行った。2-amino-6-chloropurineをBSAにてTMS保護し, TMSOTfをルイス酸として中間体10とのグリコシル化を行った所, 収率80%で目的の化合物44を得ることに成功した。その後はアデノシンアナログ合成の際と同様の経路にて合成を進めた(Scheme 9)。定法であるエチレンシアノヒドリンを用いた6-クロログアノシンからグアノシンへの変換反応は上手く進行しなかったため, 6位にBn基を導入後グアノシンへと変換する経路を選択した。化合物44の2′-Ac基を炭酸カリウムにより脱保護した後, BnOHと反応させることで6位にBn基を導入した化合物46を2段階, 59%で合成した。続いて, アジド基の還元及び生じたアミノ基のTFA基保護を行うことで化合物48を99%で得た。化合物48の3′, 5′, 6-Bn基をパールマン触媒を用いた接触還元にて脱保護し, 3′, 5′位をTIPDS基で保護し直すことで化合物50を2段階, 44%で合成した。その後, 2′位をデオキシ化した化合物52を78%で合成し, 続いて2位アミノ基のiBu (イソブチリル) 基保護, TIPDS基の脱保護を行うことで化合物54を2段階, 67%で得た。次に, 5′位ヒドロキシ基をDMTr基で選択的に保護することで化合物55を58%で得た。最後に3′位ヒドロキシ基をCEP-Clにて亜リン酸化することで目的のアミダイト体56を%で合成し, 4′-AE-dGアナログの合成を全22段階, 総収率%で達成した。
【0074】
【化9】
【実施例0075】
(4′-C- (N-メチル)アミノエチル-チミジンアナログの合成)
4′-MAE-Tアナログの合成は4′-AE-Tの合成から派生して行った (Scheme 13)。化合物16の3位窒素原子をBOM基で保護し, 84%で化合物81を合成した。続いて, ヨードメタンによりTFAアミドの窒素原子にメチル基を導入した化合物82を95%で合成した。この反応ではTLC上でスポットの変化が確認出来なかったため, 精製後1H-NMRを測定することで反応の完結を確認した。その後, BCl3により3′, 5′-Bn基及び3-BOM基を同時に脱保護することで化合物83を90%で合成し, 生じた5′-ヒドロキシ基をDMTr基で保護し化合物84を得た。最後に3′位ヒドロキシ基をCEP-Clにて亜リン酸化することで目的のアミダイト体85を82%で合成し, 4′-MAE-Tアナログの合成を全20段階, 総収率14%で達成した。
【0076】
【化10】
【実施例0077】
実施例1で合成した各種の4’-アミノエチルヌクレオチド誘導体(4’-AE体)を用いて、図2に示す、KNTC2のmRNAとハイブリダイズする10種類のASOKN-g1~g10を合成した。これらのASOは、ギャップ領域の5'末端側の1単位から10単位において、順次、このASOにおける当該位置の塩基を備える4’-AE体を導入した。なお、ギャップ領域及びウィング領域のヌクレオチド間は、全てPS修飾を導入した。また、ウィング領域のヌクレオチドは、いずれも、LNAとした。なお、ASOの合成は、固相ホスホロアミダイト法を用いた。
【実施例0078】
本実施例では、24well plateで培養したヒト非小細胞肺がん細胞株A549に、実施例3で合成したKNTC2のmRNAを標的とする各種ASOをLipofectamine2000(Life Technologies社)の存在下及び非存在下でトランスフェクションした。
【0079】
Lipofectamine2000存在下条件では、4nM ASO及び0.3% Lipofectamine2000を用いて24時間インキュベートした。その後培地交換してさらに24時間培養したのちに細胞から全RNAを抽出した。Lipofectamine2000非存在下条件では、1μM ASOを48時間インキュベートした後に培地交換してさらに24時間培養し、全RNAを抽出した。
【0080】
抽出した全RNA0.5μgを鋳型に逆転写反応及び定量的PCRを行い、KNTC2 mRNAをddCT法により定量した。内在性コントロールにはACTBを用いた。結果を図3に示す。図3においては、相対的なKNTC2 mRNA量を、非トランスフェクション群(unTF)を1とした値で示す。
【0081】
図3に示すように、ギャップ領域の5’末端から1単位及び2単位及び3’末端から1単位に4’-AE体を導入したASOにおいては、RNase H活性化能及び膜透過能の双方ともに優れていることがわかった。また、ギャップ領域の5’末端から3単位の位置に4’-AE体を導入したASOでは、RNase H活性化能は優れていたが、膜透過能が低下することがわかった。さらに、ギャップ領域の5’末端から4単位及び5単位の位置に4’-AE体を導入したASOでは、RNase H活性化能が低下することがわかった。
【0082】
さらに、ギャップ領域の5’末端から3単位及び6~9単位に、4’-AE体を導入したASOでは、RNase H活性化能は維持されるが膜透過能が低下する傾向があることがわかった。
【0083】
以上のことから、4’-AE体などの4’位のアミノエチル基などの塩基性基を備えるヌクレオチド誘導体をASOのギャップ領域の特定領域に導入することで、RNase H活性化能及び膜透過能を調節できることがわかった。
【実施例0084】
本実施例では、実施例1で作製した4’-AE体を用いて、図4に示すASOを合成し、ASOにおけるPS修飾とRNase H活性化能及び膜透過能との関係を評価した。なお、評価は、いずれも、実施例4と同様に、KNTC2のmRNAを定量することによって行った。結果を、図4に示す。
【0085】
図4に示すように、PS修飾を備えない場合には、膜透過能が著しく低下することがわかった。なお、リポフェクタミンの存在により、PS修飾数の低下による膜透過能の低下を回復させうることがわかった。
【実施例0086】
本実施例では、実施例1で合成した4’-AE体と実施例2で合成した4’-MAE体とを用いて、常法に従い、図5に示すASO(配列番号1)を合成し、ASOにおけるヌクレオチド誘導体種がRNase H活性化能及び膜透過能に及ぼす影響を評価した。なお、評価は、いずれも、実施例5と同様に、KNTC2(Kinetochore protein Hec1)のmRNAを定量することによって行った。結果を、図5に示す。
【0087】
図5に示すように、4’-AE体は、RNase H活性化能及び膜透過能のいずれにおいても4’-AE体よりも優れた結果を示した。末端メチル基の存在がいずれにおいても優れていることは予測し難いことであったが、4’-AE体を用いてギャップ領域を修飾することで、一層、RNase H活性化能及び膜透過能の調節の自由度が向上することがわかった。
【実施例0088】
本実施例では、実施例1で合成した4’-AE体を用いて、図6に示すASOを合成し、ギャップ領域における導入位置と細胞毒性との関係について評価した。なお、評価は、CCK-8細胞株を用いた細胞毒性アッセイを用いた。
【0089】
(CCK-8を用いた細胞毒性の評価)
HeLa細胞を5.0×104 cell/mLとなるようD-MEM (10% BS) で懸濁し, 96 well plateの各wellに100μLずつ播種した後,244時間培養した。各オリゴヌクレオチドを25, 50, 250 pmol分乾固し, Opti-MEM 48.5μLに溶解させ, Lipofectamine 2000 1.5μLと混合させた。各well内の培地を除去し, Opti-MEM 40μL加え, 続いてオリゴヌクレオチド溶液を10μLを加えた。37℃で1時間インキュベートした後, D-MEM (10% BS) を50μL加え, 更にインキュベートした。30時間後, 培地を除去し, D-MEM 100μLでwell内を洗浄した。D-MEM 100 μLをwellに加え, 次にcell counting kit-8 (CCK-8) 10μLを各wellに加え37℃で4時間インキュベートした。 マイクロプレートフォトメーターにて各wellの450 nmにおける吸光度を測定し, そこから細胞生存率を算出した。結果を、図6に示す。
【0090】
図6に示すように、ギャップ領域の5’末端から3単位及び4単位に4’-AE体を導入することにより、細胞毒性が低下する傾向があることがわかった。この結果を利用して、RNase H活性化能及び膜透過能の調節しつつ、さらに、細胞毒性を低下させうることがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0091】
配列番号1:ギャップマー型アンチセンス核酸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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