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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125854
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】アーク溶接装置及びアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20230831BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20230831BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B23K9/073 545
B23K9/12 305
B23K9/16 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030195
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB06
4E001DD02
4E001DD04
4E001EA01
4E001EA03
4E001EA04
4E082AA01
4E082AB01
4E082BA01
4E082DA01
4E082EB26
4E082EE01
4E082EE02
4E082EE05
4E082EF16
(57)【要約】
【課題】溶接速度及び設定電流に応じて溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅を調整し、溶接品質を向上させることができるアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接ワイヤを周期的に正逆送させることにより短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置であって、溶接ワイヤの送給速度を設定する送給速度設定回路と、送給速度設定回路にて設定された送給速度に基づいて、溶接ワイヤの送給を制御する送給制御回路とを備え、送給速度設定回路は、溶接速度を示す溶接速度データと、溶接の設定電流を示す設定電流データとを取得し、取得した溶接速度データと、設定電流データとに基づいて、溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅とを調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを周期的に正逆送させることにより短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置であって、
前記溶接ワイヤの送給速度を設定する送給速度設定回路と、
該送給速度設定回路にて設定された前記送給速度に基づいて、前記溶接ワイヤの送給を制御する送給制御回路と
を備え、
前記送給速度設定回路は、
溶接速度を示す溶接速度データと、溶接の設定電流を示す設定電流データとを取得し、
取得した前記溶接速度データと、前記設定電流データとに基づいて、前記溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅とを調整する
アーク溶接装置。
【請求項2】
更に、シールドガスにおけるアルゴンガスの比率を示すガス比率データを取得し、
前記送給速度設定回路は、
取得した前記溶接速度データと、前記設定電流データと、前記ガス比率データとに基づいて、前記送給周波数又は前記送給振幅とを調整する
請求項1に記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
前記溶接速度データ、前記設定電流データ及び前記ガス比率データが入力された場合に、前記送給周波数又は前記送給振幅の調整方法に係るデータを出力するように学習された学習モデルに、取得した前記溶接速度データ、前記設定電流データ及び前記ガス比率データを入力して、前記調整方法に係るデータを出力する
請求項2に記載のアーク溶接装置。
【請求項4】
前記送給速度設定回路は、
前記溶接ワイヤの加減速時間を変更することによって、前記送給周波数を変更する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。
【請求項5】
溶接ワイヤを周期的に正逆送させることにより短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接方法であって、
溶接速度を示す溶接速度データと、溶接の設定電流を示す設定電流データとを取得し、
取得した前記溶接速度データと、前記設定電流データとに基づいて、前記溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅とを調整する
アーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式のアーク溶接装置及びアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤを周期的に正逆送させて溶接するアーク溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1のアーク溶接方法によれば、一定の送給速度で溶接ワイヤを送給する場合に比べて、短絡とアークとの繰り返し周期を安定化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-84120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶接ワイヤの送給周波数及び送給振幅は、溶接速度及び設定電流によって適正な値が異なる。従って、予め決定された送給周波数及び送給振幅では溶接性能が低下することがある。作業者が設定電流及び設定電圧を微調整することによって安定した溶接を実現することも可能だが、時間とスキルを要する。
【0005】
本開示の目的は、溶接速度及び設定電流に応じて溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅を調整し、溶接品質を向上させることができるアーク溶接装置及びアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るアーク溶接装置は、溶接ワイヤを周期的に正逆送させることにより短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接装置であって、前記溶接ワイヤの送給速度を設定する送給速度設定回路と、該送給速度設定回路にて設定された前記送給速度に基づいて、前記溶接ワイヤの送給を制御する送給制御回路とを備え、前記送給速度設定回路は、溶接速度を示す溶接速度データと、溶接の設定電流を示す設定電流データとを取得し、取得した前記溶接速度データと、前記設定電流データとに基づいて、前記溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅とを調整する。
【0007】
本開示の他の側面に係るアーク溶接方法は、溶接ワイヤを周期的に正逆送させることにより短絡期間とアーク期間とを繰り返して溶接するアーク溶接方法であって、溶接速度を示す溶接速度データと、溶接の設定電流を示す設定電流データとを取得し、取得した前記溶接速度データと、前記設定電流データとに基づいて、前記溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅とを調整する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶接速度及び設定電流に応じて溶接ワイヤの送給周波数又は送給振幅を調整し、溶接品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る送給速度設定回路等の構成例を示すブロック図である。
図3】送給周波数及び送給振幅の調整処理手順を示すフローチャートである。
図4】送給周波数及び送給振幅の調整内容の概要を示す図表である。
図5】送給周波数及び送給振幅の調整方法を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0011】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
<アーク溶接装置の構成>
図1は、本実施形態に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のガスシールドアーク溶接機であり、溶接電源1、溶接トーチ2及びワイヤ送給部3を備える。アーク溶接装置は、消耗電極である溶接ワイヤ5を周期的に正逆送させることにより短絡期間とアーク期間とを繰り返して母材4を溶接する。
【0012】
溶接トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4へ溶接ワイヤ5を案内すると共に、アークの発生に必要な溶接電流Iwを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iwを溶接ワイヤ5に供給する。溶接トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、シールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、アルゴンを含む混合ガスである。例えば、シールドガスは、炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、酸素及びアルゴンガスの混合ガス等である。
【0013】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。
【0014】
ワイヤ送給部3は、溶接ワイヤ5を溶接トーチ2へ送給する送給ローラ3aと、当該送給ローラ3aを回転させる送給モータ3bとを有する。ワイヤ送給部3は、送給ローラ3aを回転させることによって、ペールパック又はワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5を溶接トーチ2へ供給する。ワイヤ送給部3による溶接ワイヤ5の送給は溶接電源1によって制御される。具体的には、送給モータ3bは、後述する送給制御回路14から出力される送給制御信号Fcの値に相当する速度及び向きに送給ローラ3aを回転させる。
【0015】
溶接電源1は、電源回路11と、電源特性切替回路12と、送給速度設定回路13と、送給制御回路14と、電流検出回路15と、電圧検出回路16と、電流設定回路17と、電流誤差増幅回路18と、出力電圧設定回路19と、電圧誤差増幅回路20と、短絡検知回路21と、溶接速度設定回路22と、溶接速度センサ22aと、Ar比率設定回路23と、操作パネル23aを備える。
【0016】
電流検出回路15は、例えば、溶接電源1から溶接トーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アークを流れる溶接電流Iwを検出し、検出した電流値を示す電流検出信号Idを電流誤差増幅回路18へ出力する。
【0017】
電圧検出回路16は、アーク電圧Vwを検出し、検出した電圧値を示す出力電圧検出信号Edを電圧誤差増幅回路20及び短絡検知回路21へ出力する。
【0018】
電流設定回路17は、設定電流を示す電流制御設定信号Icrを電流誤差増幅回路18へ出力する。設定電流は、例えば、作業者が操作パネル23aを操作することによって溶接電源1に設定された電流である。
【0019】
電流誤差増幅回路18は、電流制御設定信号Icr及び電流検出信号Idを入力として、電流制御設定信号Icr(+)と電流検出信号Id(-)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを電源特性切替回路12へ出力する。
【0020】
出力電圧設定回路19は、設定電圧を示す出力電圧設定信号Erを電圧誤差増幅回路20へ出力する。設定電圧は、例えば、作業者が操作パネル23aを操作することによって溶接電源1に設定された電圧である。なお、上記設定電流に応じた一元電圧を設定電圧としてもよい。
【0021】
電圧誤差増幅回路20は、出力電圧設定信号Er及び出力電圧検出信号Edを入力として、出力電圧設定信号Er(+)と出力電圧検出信号Ed(-)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを電源特性切替回路12へ出力する。
【0022】
短絡検知回路21は、出力電圧検出信号Edを入力として、短絡検知信号Sdを電源特性切替回路12及び送給速度設定回路13へ出力する。具体的には、短絡検知回路21は、出力電圧検出信号Edの値が所定の閾値未満である場合、短絡期間にあると判別してハイレベルの短絡検知信号Sdを出力する。短絡検知回路21は、出力電圧検出信号Edの値が上記閾値以上である場合、アーク期間にあると判別してローレベルの短絡検知信号Sdを出力する。
【0023】
電源特性切替回路12は、電流誤差増幅信号Ei、電圧誤差増幅信号Ev及び短絡検知信号Sdを入力として、誤差増幅信号Eaを電源回路11へ出力する。電源特性切替回路12は、短絡検知信号Sdがローレベルである場合、つまりアーク期間である場合、電圧誤差増幅信号Evを誤差増幅信号Eaとして電源回路11へ出力する。電源特性切替回路12は、短絡検知信号Sdがハイレベルである場合、つまり短絡期間である場合、電流誤差増幅信号Eiを誤差増幅信号Eaとして電源回路11へ出力する。電源特性切替回路12によって、アーク期間は定電圧特性となり、溶接電源1の特性は、短絡期間は定電流特性となる。
【0024】
電源回路11は、給電ケーブルを介して、溶接トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続され、溶接電流Iwを供給する回路である。電源回路11は、3相200V等の商用電源を入力として、誤差増幅信号Eaに従ってインバータ制御による出力制御を行い、出力電圧Eを出力する。電源回路11は、商用電源を整流する1次整流器、整流された直流を平滑する平滑コンデンサ、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧する高周波変圧器、降圧された高周波交流を直流に整流する2次整流器を備える。電源回路11は、電源特性切替回路12から出力された誤差増幅信号Eaに従ってインバータの動作を制御する。
誤差増幅信号Eaが電圧誤差増幅信号Evである場合、電源回路11は、定電圧特性で動作し、電圧誤差増幅信号Evに応じて調整された電圧が電源回路11から出力されるように、インバータを駆動制御する。なお、電源回路11は、溶接電源1の通電経路に存在する電気抵抗R及びリアクトルLを電子的に制御し、定電圧特性を実現する。
誤差増幅信号Eaが電流誤差増幅信号Eiである場合、電源回路11は、定電流特性で動作し、電流誤差増幅信号Eiに応じて調整された電流が電源回路11から出力されるように、インバータを駆動制御する。
【0025】
溶接速度設定回路22は、溶接速度を示す溶接速度設定信号Wsrを送給速度設定回路13へ出力する。溶接速度は、母材4の溶接線に沿って移動する溶接トーチ2の移動速度である。
溶接速度設定回路22には、溶接トーチ2の速度を検出する溶接速度センサ22aが接続されている。溶接速度センサ22aは、例えば溶接トーチ2に設けられた加速度センサ、母材4に対する溶接トーチ2の位置の変化を検出する光センサ、カメラ等であり、溶接速度を示す信号を溶接速度設定回路22へ出力する。ロボット溶接の場合、ロボット制御装置が溶接速度を示す信号を溶接速度設定回路22へ出力するように構成してもよい。溶接速度設定回路22は、溶接速度の変化をリアルタイムで検出し、溶接速度設定信号Wsrを送給速度設定回路13へ出力する構成が好ましい。溶接速度設定回路22は、溶接速度の変化を所定時間毎に間欠的に検出し、溶接速度設定信号Wsrを送給速度設定回路13へ出力するように構成してもよい。なお、作業者が操作パネル23aを操作することによって溶接速度を溶接速度設定回路22に設定する態様でもよい。
【0026】
Ar比率設定回路23は、シールドガスのアルゴン比率を示すArガス比率設定信号Grを送給速度設定回路13へ出力する。アルゴン比率は、シールドガスに含まれるアルゴンガスの体積%である。アルゴン比率は、例えば、作業者が操作パネル23aを操作することによってAr比率設定回路23に設定される。
【0027】
送給速度設定回路13は、電流制御設定信号Icr、短絡検知信号Sd、溶接速度設定信号Wsr及びArガス比率設定信号Grを入力として、溶接ワイヤ5を周期的に正逆送させる送給速度設定信号Frを送給制御回路14へ出力する。例えば、送給速度設定回路13は、正負の台形波状に変化する送給パターンの送給速度設定信号Frを生成し(図5参照)、出力する。送給速度設定信号Frの値が正のとき、溶接ワイヤ5は正方向(母材4へ送り出される方向)に送給され、送給速度設定信号Frの値が負のとき、溶接ワイヤ5は逆方向(溶接トーチ2へ引き戻される方向)に送給される。
台形波状の送給速度設定信号Fr及び送給速度は、正送ピーク値と、逆送ピーク値とを有する。送給速度設定回路13は、短絡検知信号Sdがローレベルからハイレベルに変化した場合、つまりアーク期間から短絡期間に変化した場合、送給速度を正送ピーク値から逆送ピーク値まで、送給速度を減速させる送給速度設定信号Frを生成し、出力する。送給速度が正送ピーク値から0に達するまでの時間を正送減速時間、0から逆送ピーク値に達するまでの時間を逆送減速時間と呼ぶ。
送給速度設定回路13は、短絡検知信号Sdがハイレベルからローレベルに変化した場合、つまり短絡期間からアーク期間に変化した場合、送給速度を逆送ピーク値から正送ピーク値まで、送給速度を加速させる送給速度設定信号Frを生成し、出力する。送給速度が逆送ピーク値から0に達するまでの時間を逆送加速時間、0から正送ピーク値に達するまでの時間を正送加速時間と呼ぶ。
【0028】
送給制御回路14は、送給速度設定信号Frを入力として、送給速度設定信号Frの値に相当する送給速度で溶接ワイヤ5を送給するための送給制御信号Fcを送給モータ3bへ出力する。
【0029】
図2は、本実施形態に係る送給速度設定回路13等の構成例を示すブロック図である。図2Aは、送給速度設定回路13のブロック図である。送給速度設定回路13は、演算装置131、記憶部132、入力部133及び出力部134を備える。
【0030】
演算装置131は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)等の1又は複数の演算装置131、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置、I/O端子、計時部等を有するプロセッサ又はコンピュータである。演算装置131は、TPU(Tensor Processing Unit)、GPGPU(General-Purpose Computing on Graphics Processing unit)、又はAIチップ(AI用半導体)等の1又は複数の回路を備えてもよい。演算装置131には、記憶部132と、出力部134と、出力部134とが接続されている。
【0031】
演算装置131は、記憶部132が記憶するコンピュータプログラム(プログラム製品)135を実行することによって、本実施形態に係る送給速度調整方法を実施する。コンピュータプログラム135を実行することにより、演算装置131は、設定電流、溶接速度、シールドガス中のアルゴン比率に応じて、溶接ワイヤ5の送給周波数及び送給振幅を最適化する処理を実行する。なお、送給速度調整に係る各種処理機能部は、ソフトウェア的に実現しても良いし、一部又は全部をハードウェア的に実現しても良い。
【0032】
記憶部132は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部132は、溶接ワイヤ5の送給速度を調整するためのコンピュータプログラム135を記憶する。また、記憶部132は、学習モデル136を記憶する。学習モデル136の詳細は後述する。
【0033】
コンピュータプログラム135は、プログラム提供サーバからネットワークを介して配信される態様でもよい。溶接電源1は通信にてプログラム提供サーバからコンピュータプログラム135を取得して記憶部132に書き込む。コンピュータプログラム135は、フラッシュメモリ等の半導体メモリ、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスク等の記録媒体6に読み出し可能に記録された態様でもよい。
【0034】
入力部133は、電流設定回路17、短絡検知回路21、溶接速度設定回路22及びAr比率設定回路23から出力された電流制御設定信号Icr、短絡検知信号Sd、溶接速度設定信号Wsr及びArガス比率設定信号Grが入力する信号入力回路である。電流制御設定信号Icr、溶接速度設定信号Wsr及びArガス比率設定信号Grはそれぞれ、設定電流データ、溶接速度データ及びガス比率データにAD変換され、演算装置131に与えられる。
【0035】
出力部134は、演算装置131による演算処理によって得られた送給速度設定値を示す送給速度設定信号Frを送給制御回路14へ出力する回路である。
【0036】
図2Bは学習モデル136の構成を示す概念図である。学習モデル136は、例えば深層学習による学習済みのニューラルネットワークを含む。学習モデル136は、設定電流データ、溶接速度データ及びガス比率データが入力される入力層136aと、これらのデータの特徴量を抽出する中間層136bと、送給周波数及び送給振幅の調整方法を示す確度データを出力する出力層136cとを有する。
【0037】
出力層136cは、送給周波数の複数の調整方法に対応する複数のノードを有し、当該調整方法が適当であることの確からしさを示す確度データを出力する。例えば、送給周波数が高くなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、送給周波数が低くなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、送給周波数の調整が不要であることを示す確度データを出力するノードを含む。
出力層136cは、送給振幅の複数の調整方法に対応する複数のノードを有し、当該調整方法が適当であることの確からしさを示す確度データを出力する。例えば、送給振幅が大きくなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、送給振幅が小さくなるように調整すべきことを示す確度データを出力するノード、送給振幅の調整が不要であることを示す確度データを出力するノードを含む。
【0038】
学習モデル136の各層は複数のノードを有する。各層のノードはエッジで結ばれている。各層は、活性化関数(応答関数)を有し、エッジは重みを有する。各層のノードから出力される値は、前の層のノードの値と、エッジの重みと、各層が持つ活性化関数とから計算される。エッジの重みは、学習によって変化させることができる。
【0039】
学習モデル136の生成方法を説明する。まず、さまざまな設定電流データ、溶接速度データ及びガス比率データを組み合わせたデータと、当該データが示す条件における送給周波数及び送給振幅の調整方法を示す教師データとを含む訓練データを用意する。教師データは、学習モデル136から出力されるデータの正解値である。
【0040】
そして、訓練データの設定電流データ、溶接速度データ及びガス比率データが、ニューラルネットワークに入力された場合に、当該ニューラルネットワークから出力されるデータと、教師データが示すデータとの誤差(所定の損失関数又は誤差関数の値)が小さくなるように、誤差逆伝播法、誤差勾配降下法等を用いて、各エッジの重み係数を最適化することによって、学習モデル136を生成することができる。
【0041】
なお、学習モデル136の一例として時系列を考慮しないニューラルネットワークモデルを説明したが、RNN(Recurrent Neural Network)、LSTM(Long Short-Term Memory)、その他のニューラルネットワークにて学習モデル136を構成してもよい。決定木、ランダムフォレスト、SVM(Support Vector Machine)等のその他の機械学習アルゴリズムを用いた学習モデル136を用いてもよい。学習モデル136は、上記した複数のアルゴリズムを組み合わせて構成してもよい。
【0042】
<送給速度調整処理>
図3は、送給周波数及び送給振幅の調整処理手順を示すフローチャートである。演算装置131は、溶接中、以下の処理を繰り返し実行することによって、溶接ワイヤ5の送給速度を調整する。演算装置131は、溶接速度データ、設定電流データ及びガス比率データを取得する(ステップS11)。
【0043】
演算装置131は、取得した溶接速度データ、設定電流データ及びガス比率データを学習モデル136に入力することにって、送給周波数及び送給振幅の調整方法に係る確度データを出力する(ステップS12)。
【0044】
演算装置131は、学習モデル136から出力された確度データに基づいて、送給周波数を調整する(ステップS13)。つまり、演算装置131は、最も大きな確度データが出力されたノードに対応する送給周波数の調整方法を選択し、送給周波数の値を調整する。具体的には、演算装置131は、溶接ワイヤ5の加速度及び減速度を変更することによって、送給周波数を調整する。つまり、演算装置131は、送給速度を逆送ピーク値から正送ピーク値までに変化させる加速時間(逆送加速時間及び正送加速時間)を変更し、また送給速度を正送ピーク値から逆送ピーク値までに変化させる減速時間(正送減速時間及び逆送減速時間)を変更することによって、送給周波数を調整する(図5参照)。
本実施形態では、演算装置131は、「送給周波数:高」の確度が大きい場合、送給周波数を所定量大きくし、「送給周波数:低」の確度が大きい場合、送給周波数を所定量小さくする。「送給周波数:調整無し」の確度が大きい場合、演算装置131は、送給周波数を変更しない。
【0045】
演算装置131は、学習モデル136から出力された確度データに基づいて、送給振幅を調整する(ステップS14)。つまり、演算装置131は、最も大きな確度データが出力されたノードに対応する送給振幅の調整方法を選択し、送給振幅の値を調整する。具体的には、演算装置131は、送給速度の正送ピーク値及び逆送ピーク値の絶対値の大きさを変化させることによって、送給振幅を調整する。本実施形態では、演算装置131は、「送給振幅:大」の確度が大きい場合、送給振幅を所定量大きくし、「送給振幅:小」の確度が大きい場合、送給振幅を所定量小さくする。「送給振幅:調整無し」の確度が大きい場合、演算装置131は、送給振幅を変更しない。
【0046】
そして、演算装置131は、調整された送給周波数及び送給振幅に応じた送給速度を求め、当該送給速度を示す送給速度設定信号Frを出力部134から出力することによって、溶接ワイヤ5の送給速度を設定する(ステップS15)。
【0047】
なお、送給周波数及び振幅の変更は、短絡期間からアーク期間への切り替わりタイミング、又はアーク期間から短絡期間への切り替わりタイミングで行うとよい。具体的には、演算装置131は、短絡検知信号Sdがローレベルからハイレベルに切り替わるタイミング、又はハイレベルからローレベルへ切り替わるタイミングで、送給周波数又は送給振幅を変更する。
【0048】
<作用効果>
本実施形態に係る溶接電源1は、溶接ワイヤ5を正逆送させることで短絡期間とアーク期間を繰り返す溶接方法において、学習モデル136を利用し、溶接速度、設定電流、シールドガス中のアルゴン含有量の情報に基づいて、溶接ワイヤ5の送給周波数及び振幅を自動的に適正化し、安定した溶接ビードを形成できる等、溶接品質を向上させることができる。送給周波数及び送給振幅の適正値は、特に溶接速度、設定電流、シールドガス中のアルゴン含有量によって変動する。詳細は以下の通りである。
(1)溶接速度
溶接速度が速く(例えば1.0m/分以上)、送給周波数が低い場合、単位長さ当たりの溶着量が減少又は不安定になるため溶接ビード止端部が不安定になり継手強度が低下しやすい。
(2)設定電流
設定電流が高い場合(例えば、250A以上)、溶接ワイヤ5の溶融速度が大きくなり、振幅が小さいと送給周波数が急激に低下するため溶接速度を速くすることが難しくなる。
(3)シールドガス中のAr含有量
シールドガス中のAr含有量が70%を超え、送給周波数が高い場合、アーク期間の電流値が臨界電流を超えるためスプレー化して溶接ワイヤ5を正逆送させる動作と溶滴移行が非同期になり溶接性能が大幅に低下する。
【0049】
図4は、送給周波数及び送給振幅の調整内容の概要を示す図表である。図4は、学習モデル136を用いて得られる送給周波数及び送給振幅の調整内容の概要又はおおよその傾向を示すものである。
送給速度が速い場合(例えば1.0m/分以上)、送給周波数が高くなるように調整される。送給振幅は調整されない。
設定電流が高い場合(例えば、250A以上)、送給振幅が大きくなるように調整される。送給周波数は調整されない。
シールドガスのアルゴン比率が大きい場合(例えば、70%以上)、送給周波数が低くなるように調整され、送給振幅が大きくなるように調整される。なお、送給振幅は調整されないこともある。
【0050】
図5は、送給周波数及び送給振幅の調整方法を示すタイミングチャートである。図5のタイミングチャートは、上から順に、溶接電流Iw、溶接ワイヤ5の送給速度、溶接速度、設定電流の時間変化を示している。
【0051】
溶接条件が以下に示す条件(1)から条件(2)へ切り替わった際の調整例を図5に示す。
【0052】
条件(1)
溶接速度:0.8m/分、設定電流:200A、シールドガス:100%CO2、ワイヤ軟鋼ソリッド:φ1.2mm
正送ピーク速度:40m/分、逆送ピーク速度:30m/分、正送加速時間:800μs、正送減速時間:800μs、逆送加速時間:800μs、逆送減速時間:800μs
【0053】
条件(2)
溶接速度:1.2m/分、設定電流:300A、シールドガス:100%CO2、ワイヤ:軟鋼ソリッドφ1.2mm
正送ピーク速度:50m/分、逆送ピーク速度:40m/分、正送加速時間:400μs、正送減速時間:400μs、逆送加速時間:400μs、逆送減速時間:400μs
【0054】
図5に示すように、アーク期間中の時刻t1で溶接条件の変更指令が入り、溶接速度が0.8m/分から1.2m/分となり、設定電流が200Aから300Aに変更される。演算装置131は、変更後の溶接速度及び設定電流に適した、溶接ワイヤ5の送給周波数及び送給振幅を求める。条件(2)では、溶接速度が1.0m/分を超えるため、送給周波数は高くなり、設定電流が250Aを超えるため送給振幅も大きくなるように調整される。時刻t2で短絡の発生を検知すると、演算装置131は、溶接ワイヤ5の送給速度の条件を条件(1)から条件(2)に切り替える。正逆送加減速時間が早くなることで送給周波数が高くなり、同時に正逆送ピーク値(送給速度)が大きくなり、送給振幅が大きくなる。
【0055】
以上の通り、本実施形態に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法によれば、溶接速度、設定電流及びアルゴンガス比率に応じて溶接ワイヤ5の送給周波数及び送給振幅を調整し、溶接品質を向上させることができる。
従って、溶接速度、設定電流、シールドガス中のアルゴン含有量の違いにより溶接性能が変化する環境でも、自動的に送給周波数と送給振幅を適正化し安定した溶接結果を得ることができる。
溶接速度、設定電流及びアルゴン含有量に応じた条件出し行うための熟練した技術は不要であり、容易に溶接品質を向上させることができる。
【0056】
本実施形態によれば、学習モデル136を用いることにより、ルールベースに比べより的確に送給周波数及び送給振幅を調整することができる。
【0057】
なお、本実施形態では、溶接ワイヤ5の送給周波数及び送給振幅の調整を所定量だけ増減させる制御を行う例を説明したが、学習モデル136が送給周波数及び送給振幅の調整量の大きさを示す情報も出力するように構成してもよい。例えば、学習モデル136に、送給周波数及び送給振幅の調整量の大きさに応じた複数のノードを設けるとよい。また、出力層136cは、送給周波数の補正量を出力するノード、送給振幅の補正量を出力するノードを備えてもよい。
【0058】
本実施形態では、溶接電源1の送給速度設定回路13が送給周波数及び送給振幅を調整する例を説明したが、溶接電源1の他の回路、外部サーバ、その他の情報処理装置が当該調整を実行するように構成してもよい。
【0059】
本実施形態では、機械学習により、溶接ワイヤ5の送給周波数及び送給振幅を調整する例を説明したが、図4に示す図表に従って、ルールベースで送給周波数及び送給振幅を調整するように構成してもよい。
具体的には、演算装置131は、溶接速度が所定速度(例えば1.0m/分)以上であるか否かを判定し、所定速度以上であると判定された場合、送給周波数を増加させる。演算装置131は、設定電流が所定電流(例えば250A)以上であるか否かを判定し、所定電流以上であると判定された場合、送給振幅を増加させる。演算装置131は、シールドガスのアルゴン比率が所定割合(例えば70%)以上であるか否かを判定し、所定割合以上であると判定された場合、送給周波数を減少させ、送給振幅を増加させる。
ただし、演算装置131は、溶接速度が所定速度以上であり、かつアルゴンガスの比率が所定割合以上であると判定した場合、送給周波数を増加させる。
なお、演算装置131は、設定電流が所定電流以上であり、かつアルゴンガスの比率が所定割合以上であると判定した場合、送給振幅を加算的に増加させる必要は無く、いずれか一方の条件を満たしたきの増加量と、両方の条件を満たしたときの増加量は実質的に同一である。アルゴン比率が所定割合以上である場合、送給振幅を変更しないように構成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:溶接電源、2:トーチ、3:ワイヤ送給部、4:母材、5:溶接ワイヤ、13:送給速度設定回路、14:送給制御回路、17:電流設定回路、21:短絡検知回路、22:溶接速度設定回路、23:Ar比率設定回路、131:演算装置、132:記憶部、133:入力部、134:出力部、135:コンピュータプログラム、136:学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5