(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125866
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】電子基板処理方法、電子基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H05K 3/18 20060101AFI20230831BHJP
H05K 3/06 20060101ALI20230831BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20230831BHJP
C08J 7/00 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
H05K3/18 A
H05K3/06 A
H05K3/00 K
H05K3/00 N
C08J7/00 306
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030208
(22)【出願日】2022-02-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第17回 水素・燃料電池展~FC EXPO2021~ の、下記アドレスのウェブサイト。( https://exhibitionschedule.net/tokyobigsight/tokyobigsight202103 )
(71)【出願人】
【識別番号】508022207
【氏名又は名称】コミヤマエレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104776
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100119194
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 明夫
(72)【発明者】
【氏名】久保 博義
【テーマコード(参考)】
4F073
5E339
5E343
【Fターム(参考)】
4F073AA06
4F073BA15
4F073BA16
4F073BA25
4F073BA31
4F073BB01
4F073CA01
4F073CA63
4F073CA65
5E339AA02
5E339AB02
5E339AC01
5E339AD03
5E339AE01
5E339BC02
5E339BD02
5E339BD03
5E339BD11
5E339BE13
5E339CC01
5E339CF16
5E339EE10
5E343AA16
5E343AA18
5E343AA19
5E343AA33
5E343BB24
5E343DD25
5E343DD26
5E343DD33
5E343DD43
5E343EE36
5E343FF16
5E343GG02
(57)【要約】
【課題】信頼性の高い電子基板を少ない工程と少ない製造コストで製造することができる電子基板処理方法、電子基板処理装置を提供する。
【解決手段】電子基板に用いる樹脂に各種の処理を施す電子基板処理方法においては、樹脂の表面に穴を開ける加工工程(ステップS1)と、樹脂の表面を改質するためにプラズマを照射する照射工程(ステップS2)と、照射工程が行われた樹脂の表面に所定の金属を鍍金する鍍金工程(ステップS3)とを備え、加工工程(ステップS1)は、照射工程(ステップS3)の前に行われる先穴工程として構成される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子基板に用いる樹脂に各種の処理を施す電子基板処理方法であって、
前記樹脂の表面に穴を開ける加工工程と、
前記樹脂の表面を改質するためにプラズマを照射する照射工程と、
該照射工程が行われた前記樹脂の前記表面に所定の金属を鍍金する鍍金工程とを備え、
前記加工工程は、前記照射工程の前に行われる先穴工程として構成されることを特徴とする電子基板処理方法。
【請求項2】
前記鍍金工程において、前記加工工程において開口形成された前記穴の側面と、前記照射工程において前記改質が行われた前記樹脂の表面とに対して、同時に前記鍍金を行うことを特徴とする請求項1に記載の電子基板処理方法。
【請求項3】
前記照射工程において、
前記樹脂の表面にイオンを照射して、前記樹脂の表面から該樹脂を構成する原子の少なくとも一部を離脱させる脱離工程と、
該脱離工程を経た前記樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、前記樹脂の表面にヒドロキシル基を導入する導入工程とを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子基板処理方法。
【請求項4】
前記加工工程において、前記樹脂の表面に対して略垂直方向の前記穴が開口形成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の電子基板処理方法。
【請求項5】
前記鍍金工程において用いられる前記所定の金属は銅であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の電子基板処理方法。
【請求項6】
前記鍍金工程の後に行われる、前記樹脂の表面に電子基板を形成するためパターンエッチングを行うパターンエッチング工程を備えたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の電子基板処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一つに記載の電子基板処理方法によって前記樹脂に各種の処理を施し、電子基板に用いる樹脂に各種の処理を施す電子基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の表面に金属層を形成した樹脂製品の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種の電子回路が形成される電子基板の基材として各種の樹脂が用いられている。例えば、ミリ波またはマイクロ波に対応可能な伝送損失が小さい電子基板、において、低誘電の樹脂製の基材が使われ始めている。この低誘電の樹脂としては、たとえば液晶ポリマー(LCP:Liquid Crystal Polymer)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)などのフッ素樹脂があげられるが、LCPやPTFE等の樹脂材料は、配線材として使われる銅などの金属との密着性が悪いという問題がある。このため、基材の表面を化学的に荒らしたり、基材に密着させる銅箔などの金属の表面に凹凸を形成したりして、樹脂製の基材と銅などの金属の物理的な密着度を向上させる技術が知られている。また、樹脂製の基材の化学特性を変化させて他の金属や樹脂との結合度を強化するために、樹脂製の基材の表面にプラズマを照射して基材の表面を活性化させ、PTFE基材中のフッ素を、空気中の水分に由来するヒドロキシル基に置換し、基材の表面に銅箔などの金属箔や他の樹脂を強い結合度で付着させることで電子基板を形成することも行われる(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、基材の表裏面に電子回路を形成して、これらの電子回路同士を導電させる場合、非導電性の樹脂で形成された基材を貫通した導電部分を設ける必要がある。そのため、基材に穴を開口形成し、この穴の内部に銅などの金属で鍍金を行うことで、非導電性の基材を貫通した導電部分を形成することが行われている。
【0004】
図11は、従来の電子基板処理方法を示すフローチャートである。同図に示すとおり、従来の電子基板処理方法においては、まず、PTFE等のフッ素樹脂基材の表面に大気プラズマを照射して基板の表面を物理的に改質したり、PTFE等の基材の表面を化学的に粗面したり、基材に密着させる銅箔の表面を粗して凹凸を形成したりする表面改質を行う(ステップS101)。次いで、銅箔とPTFEの表面を接合させたり、銅箔とPTFEとの間に接着剤を入れて接合させる(ステップS102)、さらに、基材に開口形成して基材の表裏面を貫通させ(ステップS103)、ビア部の側面に銅鍍金を行う(ステップS104)。このとき、たとえば銅箔の厚さが15μmで銅鍍金の厚さが15μmなら、鍍金することで表面の合計の厚さは15μm(銅箔)+15μm(銅鍍金)=30μmとなる。このビア部の厚さと表面部分の厚さと同じにしたければスリミング工程を施して表面を削る。さらに、回路パターンを形成するために、銅箔にパターンエッチング加工を行う(ステップS105)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明に基づいて基材に貫通形成させた穴に鍍金を施す場合、穴の内部は改質処理がされておらず、鍍金の良好な密着状態を確保するのが難しくなるという問題がある。また、改質処理が行われた基材の表面と改質処理が行われていない穴の内部との鍍金の密着状態に差異が生じ、基材の表面と穴の内部との導電状態に差異が生じてしまい得る問題がある。さらに、基材に銅箔を付着させた(ステップS101)のちに別途銅の鍍金を行う(ステップS104)という別個の手順で銅箔と銅の鍍金を行うため、工程が複雑化して電子基板の製造コストが高騰するという問題がある。
【0007】
本願はこのような事情に鑑みてなされたものであり、これにより、信頼性の高い電子基板を少ない工程と少ない製造コストで製造することができる電子基板処理方法、電子基板処理装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、電子基板に用いる樹脂に各種の処理を施す電子基板処理方法であって、前記樹脂の表面に穴を開ける加工工程と、前記樹脂の表面を改質するためにプラズマを照射する照射工程と、該照射工程が行われた前記樹脂の前記表面に所定の金属を鍍金する鍍金工程とを備え、前記加工工程は、前記照射工程の前に行われる先穴工程として構成されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記鍍金工程において、前記加工工程において開口形成された前記穴の側面と、前記照射工程において前記改質が行われた前記樹脂の表面とに対して、同時に前記鍍金を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記照射工程において、前記樹脂の表面にイオンを照射して、前記樹脂の表面から該樹脂を構成する原子の少なくとも一部を離脱させる脱離工程と、該脱離工程を経た前記樹脂の表面に、プラズマで発生したヒドロキシルイオンを減じ、ヒドロキシルラジカルを選択に照射して、前記樹脂の表面にヒドロキシル基を導入する導入工程とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の構成に加え、前記加工工程において、前記樹脂の表面に対して略垂直方向の前記穴が開口形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記鍍金工程において用いられる前記所定の金属は銅であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れか一つに記載の構成に加え、前記鍍金工程の後に行われる、前記樹脂の表面に電子基板を形成するためパターンエッチングを行うパターンエッチング工程を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、電子基板に用いる樹脂に各種の処理を施す電子基板処理装置であって、請求項1乃至6の何れか一つに記載の電子基板処理方法によって前記樹脂に各種の処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、電子基板に用いる樹脂の表面に穴を開ける加工工程を、樹脂の表面にプラズマを照射する照射工程と、照射工程が行われた樹脂の表面に所定の金属を鍍金する鍍金工程との前に行われる先穴工程として構成することにより、プラズマの照射による樹脂の改質を樹脂の表面と穴の双方に同時に行うことができる。そして、改質された樹脂の表面と穴の内部とに、樹脂に対する密着度が高いので、従来のように上下の金属箔と連結するために必要な強度が確保できるまで内部の金属膜を厚くする必要がなく、薄い鍍金を施すことができる。この鍍金により、電子基板の表裏面間の電気の導通を良好な状態にし、樹脂に対する密着度が高く導電性の高く信頼性の高い電子基板を形成できる。また、樹脂の表面の金属箔を薄く形成した場合でも、穴の部分の金属膜を上下の金属箔と同じ厚さとすることができるので、電子基板の信頼性も向上する。穴の内部の鍍金とを同時に行うことができるので、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。これにより、信頼性の高い電子基板を少ない工程と少ない製造コストで製造することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、樹脂の表面と穴の内部との鍍金圧を均一にすることができるので、信頼性の高い電子基板を形成できる。また、照射工程ののちに樹脂の表面にCVD法やスパッタリング等の成膜工程を用いて金属膜を形成し、さらに鍍金を行う場合には、鍍金による基板表面の金属膜と樹脂との接合と穴の内部の鍍金とを同時に行うことができるので、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、樹脂の表面に穴を開けたのち、樹脂の表面にプラズマを照射して、樹脂を構成する原子の少なくとも一部を離脱させ、樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、樹脂の表面にヒドロキシル基を導入することにより、樹脂表面と穴の側面の双方に良好な状態で鍍金を施して、信頼性の高い電子基板を簡易な工程で製造コストを低減させながら形成できる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、樹脂の表面に対して略垂直方向に開口形成された穴に鍍金を行う際に、穴の内部も良好な状態で鍍金を施して電子基板の表裏面間の電気の導通を良好な状態にし、また樹脂の表面と穴の内部との鍍金圧を均一にすることができるので、信頼性の高い電子基板を形成できる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、電子基板に銅鍍金を行う場合において、信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。
【0020】
請求項6に記載の発明によれば、パターンエッチングが行われる電子基板において、信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程を簡略化して製造コストを低減させる電子基板処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この実施の形態の電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置を構成するビア加工装置を模式的に示す図であって、(a)全体図、(b)基材が載置された箇所の部分拡大図である。
【
図2】同上電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置を構成するプラズマ処理装置を模式的に示す図である。
【
図3】同上電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置を構成する鍍金装置を模式的に示す図であって、(a)全体図、(b)基材が設置された箇所の部分拡大図である。
【
図4】同上電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置を構成するパターンエッチング装置を模式的に示す図であって、(a)全体図、(b)基材が載置された箇所の部分拡大図である。
【
図5】同上電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置を構成する鍍金装置を模式的に示す図であって、スパッタリング等の金属膜を付与した場合で、(a)全体図、(b)基材が設置された箇所の部分拡大図である。
【
図6】同上電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置を構成するパターンエッチング装置を模式的に示す図であって、スパッタリング等の金属膜を付与した場合で、(a)全体図、(b)基材が載置された箇所の部分拡大図である。
【
図7】同上電子基板処理方法を示すフローチャートである。
【
図8】この実施の形態の電子基板処理方法の照射工程(脱離工程と導入工程)が行われた基材の状態を示す図であり、(a)脱離工程と導入工程が行われていない基材に水滴を滴下した状態を側面から見た図、(b)脱離工程と導入工程が行われていない基材の表面の拡大図、(c)脱離工程と導入工程が行われた基材に水滴を滴下した状態を側面から見た図、(d)脱離工程と導入工程が行われた基材の表面の拡大図、である。
【
図9】この実施の形態の電子基板処理方法の加工工程が行われた基材の状態を示す図であり、(a)表面側の状態を示す図、(b)裏面側の状態を示す図、(c)穴が貫通形成された箇所を拡大した断面図、である。
【
図10】この実施の形態の電子基板処理方法の鍍金工程が行われた基材の状態を示す図であり、(a)基材に穴が貫通形成された箇所に鍍金がされた状態の拡大図、(b)基材に穴が貫通形成された箇所に鍍金がされた状態を(a)よりもさらに拡大した図、(c)基材に穴が貫通形成された箇所に鍍金がされた状態の(a)とは異なる箇所の拡大図、である。
【
図11】従来の電子基板処理方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
【0024】
[基板製造システムの構成]
図1乃至
図6は、この実施の形態の電子基板処理方法が用いられる電子基板処理装置の一部を模式的に示す図である。
【0025】
図1乃至
図6に示すとおり、この実施の形態の電子基板処理装置1Aは、
図1に示すビア加工装置10と、
図2に示すプラズマ処理装置20と、
図3及び
図5に示す鍍金装置30と、
図4及び
図6に示すパターンエッチング装置40とを備える。そして、電子基板処理装置1Aにおいて、この実施の形態の電子基板処理方法が実現される。
【0026】
[ビア加工装置]
図1は、この実施の形態のビア加工装置を模式的に示す図である。
【0027】
図1に示すビア加工装置10は、チャンバ11内に、電子基板を形成するための樹脂製の基材1を載置するための載置台12と、載置台12の上方に設けられた開口装置13とを備える。開口装置13には、パンチング穴あけ用の工具14が複数、載置台12側から見た状態で略マトリクス状に設けられている。開口装置13は、
図1の矢印Aに示す方向(
図1の下方)に移動して、載置台12上の基材1に、表面3と裏面4と貫通する穴2を開口形成するための開口手順を行う。
【0028】
なお、開口装置13は、パンチング穴あけ用の工具14に替えて、例えば、基材1の表面3に押圧して基材1に開口形成する方法として、液体・気体を噴射させて物理的な力で基材1に穴を開ける構成、回転式のドリル、またレーザ光の加熱で基材1に穴を開ける構成、薬品による融解で基材1に穴を開ける構成、等、基材1に開口形成するための各種構成であってもよい。また例えば、開口装置13は、各種構成等を複数組み合わせた構成であってもよい。
【0029】
この実施の形態において、ビア加工装置10は、パンチング穴あけ用の工具14によって基材1の表面3と裏面4を略垂直に貫通形成した穴2を複数開口させる。ただし、ビア加工装置10が形成する穴2は1つでもよいし、基材1の表面3や裏面4のみに形成された、貫通していない穴でもよい。また、開口装置13が形成する穴は、基材1の表面3と裏面4に対して略垂直方向でなくてもよく、基材1の表面3と裏面4に対して斜め方向や略垂直方向に形成されていてもよい。また、開口装置13が基材1に形成する穴2はどのような大きさでもよいし、穴2の形状は円筒形であってもよいし略四角筒状や略三角筒状など円筒形以外の形状であってもよい。
【0030】
[プラズマ処理装置の構成]
図2は、この実施の形態のプラズマ処理装置を模式的に示す図である。
【0031】
図2に示すプラズマ処理装置20は、樹脂製の基材1の表面にイオンを照射して、基材1を構成する樹脂の原子の少なくとも一部を脱離させ、その後、樹脂にヒドロキシル基を付与することで樹脂の表面の濡れ性を改善し、表面に金属層(例えば、
図3の(b)や
図4の(b)に示す鍍金38、あるいは、
図5の(b)や
図6の(b)に示す金属膜37や鍍金38)を接合させる際の接合状態を強固にすることができる。
【0032】
図2に示す、この実施の形態のプラズマ処理装置20は、真空チャンバ21と、ファインプラズマガン(Fine Plasma Gun 以下「FPG」と称する。)22と、保持台23と、カバー24と、保持側電源25と、プラズマ側電源26とを備えている。
【0033】
保持側電源25と保持台23と真空チャンバ21とは保持側回路28を形成している。また、プラズマ側電源26とFPG22と真空チャンバ21とは、プラズマ側回路29を形成している。
【0034】
なお、
図2には、FPG22で発生したプラズマに生じたイオンとラジカルが、真空チャンバ21の内部において、イオン22aとラジカル22bの飛散方向の一部を矢印によって模式的に示している。後述するとおり、この実施の形態におけるイオン22aは窒素イオンやアルゴンイオンで、ラジカル22bはヒドロキシルラジカルである。ただし、ラジカル22bはヒドロキシルラジカル以外のいかなるラジカルであってもよい。
【0035】
また、真空チャンバ21はグランド27に接続されている。グランド27は、保持側回路28とプラズマ側回路29の基準となる電位を設定する。
【0036】
FPG22は、真空チャンバ21内の上部に配置されて、真空チャンバ21内に導入された処理ガス(図示せず)をプラズマ化する。FPG22は、例えば国際公開第2014/175702号に記載されているものが採用できる。FPG22から発せられるプラズマは、窒素およびアルゴンの少なくとも一方を含んでいることが好ましい
保持台23は、基材1が存在する位置に依存する少なくとも一部に、保持側電源9からの保持側電圧(後述)の印加を受ける。
【0037】
カバー24は基材1と同じ材料からなって保持台23の上面を覆い、FPG22から基材1にプラズマが均一に照射されるように構成されている。
【0038】
保持側電源25は直流電源であり、プラスの電極が保持台23側に接続され、マイナスの電極が真空チャンバ21側に接続されて、保持側回路28に直流電圧を印加する。プラズマ側電源26は、直流電源であり、プラスの電極が保持台23側に、マイナスの電極が真空チャンバ21側に接続されて、プラズマ側回路29に直流電圧を印加する。なお、保持側回路28とプラズマ側回路29には、それぞれ回路の通電状態のON・OFFを切り替えるスイッチ(図示せず)が設けられている。
【0039】
[鍍金装置]
図3及び
図5は、この実施の形態の鍍金装置を模式的に示す図である。
図3の(a)及び
図5の(a)は、この実施の形態の鍍金装置の全体構成を模式的に示しており、
図3の(b)及び
図5の(b)は、基材1の、ビア加工装置10によって穴2が開口形成された部分を模式的に示す部分拡大図である。
【0040】
図3及び
図5に示す鍍金装置30は、チャンバ31内に、直流電源32と、鍍金槽33とを備える。直流電源32の正極(+)側にはアノード35の電極が接続され、負極(-)側にはカソードとして基材1が接続されて、それぞれ鍍金槽33に浸かっている。鍍金槽33には金属イオンを含む鍍金溶液34が入っており、直流電源32の通電による電気分解によって基材1の表面に所定の金属を付着させる。この実施の形態では、所定の金属は、金属膜37に用いる金属と同じ銅であるが、金属膜37に用いる金属と異なる金属でもよい。なお、
図3の鍍金装置30は直流電源32を用いた電気めっき法による鍍金を行うが、樹脂の表面は電気を通さないので、この処理の前に金属イオンの化学反応を用いた無電解めっき法による鍍金を行う。
【0041】
図5は、基本的には
図3に示す鍍金装置30と同じ構成であるが、変形例として、基材1に金属膜37を付着させたのちに鍍金を行う構成を示している。そのため、
図5の(b)に示すように、基材1の表面や裏面に加え、穴2の内部も、金属膜37の上に更に鍍金38が施された状態となっている。
【0042】
[エッチング工程を行う装置]
図4及び
図6は、この実施の形態のエッチング工程を行う装置の一部を模式的に示す図である。
図4の(a)及び
図6の(a)は、この実施の形態のエッチング工程の一部を行う露光装置の全体構成を模式的に示しており、
図4の(b)及び
図6の(b)は、基材1の、ビア加工装置10によって穴2が開口形成された部分を模式的に示す部分拡大図である。
【0043】
図4及び
図6に示す、この実施の形態のエッチング工程に用いるパターンエッチング装置40においては、チャンバ41内に、載置台42と、露光装置本体部43とを備える。露光装置本体部43は、例えば基材1の表面に金属の鍍金38が形成された状態(
図4の(b)参照)や、基材1の表面に金属膜37や金属の鍍金38が形成された状態(
図6の(b)参照)が形成された状態で、フォトレジスト(図示せず)が塗布されて載置台42に載置された基材1を露光し、基材1上に回路パターンの現像を行う。
【0044】
図6は、基本的には
図4に示すパターンエッチング装置40と同じ構成であるが、変形例として、基材1に金属膜37を付着させたのちに露光を行う構成を示している。そのため、
図6の(b)に示すように、基材1の表面や裏面に加え、穴2の内部も、金属膜37の上に更に鍍金38が施された状態で露光を行うものとなっている。
【0045】
さらに、エッチング工程においては、エッチング装置(図示せず)による、回路パターンの現像が行われた基材1をエッチング液(図示せず)に浸して、基材1上の不要なフォトレジスト等や未感光部分等を除去する工程も行われる。なお、エッチング装置(図示せず)においては、エッチング液を用いるウェットエッチング法のみならず、チャンバ41内で発生させた放電プラズマを使用してエッチングを行うドライエッチング法が用いられてもよい。
【0046】
[基材]
この実施の形態において、基材1を構成する樹脂は、疎水表面を有するものであれば特に制限がないが、例えば、PTFEやPFAやPCTFEなどのフッ素樹脂、ポリイミド、またはLCPが挙げられる。具体的には、フッ素樹脂の場合、基材1の素材としての樹脂は、フッ素と炭素を含んでおり、樹脂の疎水表面から脱離する原子は主にフッ素と炭素である。分子結合が切れ、活性化した表面にヒドロキシル基を付与すること付与することで、フッ素樹脂の疎水表面を大きく親水化することができる。また、この現象は樹脂表面のみでおきている現象であり、その下のフッ素を含む樹脂の母材は、絶縁性が高く、比誘電率や誘電正接が小さい。その結果、信号の伝送損失が小さくなり、電気基板として優れている素材である。
【0047】
また、基材1の素材として用いられる樹脂は、上記の材質以外にも、ポリテトラフルオロエチレンや、全芳香族ポリエステルを含む液晶ポリマー等であってもよい。
【0048】
[処理工程]
図7は、この実施の形態の電子基板処理装置1Aにおける処理工程のフローチャートである。以下、同フローチャートを参酌しながら、この実施の形態における電子基板の処理工程を説明する。
【0049】
[ステップS1:ビア加工(加工工程)]
電子基板処理装置1Aのビア加工装置10においては、載置台12に、板状の樹脂製の基材1を載置し、開口装置13を下降させてパンチング穴あけ用の工具14により、基材1に穴を開口形成する(加工工程)。これにより、
図1に示すように、基材1には表面3と裏面4とを貫通する複数の穴2が開口形成される。
【0050】
[ステップS1:先穴工程としての加工工程]
ステップS1の加工工程は、後述する照射工程(ステップS2)、成膜工程、鍍金工程(ステップS3)よりも前の工程として行われる。すなわち、加工工程における基材1への穴2の開口形成は、照射工程(ステップS2)、成膜工程、鍍金工程(ステップS3)に対する先穴工程として行われる。なお、加工工程は、照射工程(ステップS2)のみ、成膜工程のみ、鍍金工程のみ、に対する先穴工程として行われてもよい。さらには、加工工程は、照射工程(ステップS2)のうちの脱離工程のみや、導入工程のみに対する先穴工程として行われてもよい。
【0051】
[ステップS2:表面改質(照射工程、脱離工程、導入工程)]
加工工程を終えた基材1は、ビア加工装置10からプラズマ処理装置20に移送される。プラズマ処理装置20においては、保持台23に載置された基材1の表面にイオンとラジカルを照射する(照射工程)。この照射工程においては、まずプラズマの照射によって基材1を構成する樹脂の原子の少なくとも一部を脱離させる(脱離工程)。脱離工程の後、基材1を構成する樹脂にヒドロキシル基を付与することで基材1の表面3の濡れ性を改善する(導入工程)。
【0052】
照射工程の開始前は、保持側回路28もプラズマ側回路29も通電されていない状態である。
【0053】
照射工程の脱離工程においては、基材1の表面3(
図2の上面側)にFPG22からプラズマを発生させ、イオンとラジカルを照射して、基材1の表面3の樹脂の原子の少なくとも一部を脱離させる。具体的には、真空チャンバ21内に窒素、アルゴンの処理ガスを導入し、プラズマ側回路29に通電させ、FPG22で処理ガスの窒素イオンと窒素ラジカル、アルゴンイオンとアルゴンラジカルを生成させる。
図2に示すように、発生したイオン22aやラジカル22bは基材1に衝突し、主にイオン22aの衝突の衝撃によって、基材1の表面3から樹脂の原子が脱離する。そして、プラズマ側回路29の通電状態を解除すると脱離工程は終了する。
【0054】
次に、保持側回路28に通電させ、保持台23上の基材1に保持側電圧としてのプラスの電圧を印加し、照射工程の導入工程を行う。
【0055】
導入工程においては、保持側回路28をONとし、保持側電源25の電圧を保持台23に印加させた状態で、真空チャンバ21内に、脱離工程で使用した窒素および/またはアルゴンに替えて処理ガスである水蒸気を導入する。次いで、プラズマ側回路29をONとし、プラズマ側電源26からFPG22に通電させると、真空チャンバ21内に充填された処理ガスのプラズマが生成する。このときの保持側回路28の電圧はプラズマ側回路29の電圧より小さいことが望ましい。
【0056】
この状態において、FPG22により真空チャンバ21内の処理ガスにプラズマ(イオンとラジカルが発生)が発生すると、プラズマ中のプラスのイオン22aは、プラスイオンなので保持台23がプラス電位になっているために反発し、電位差が大きいグランド電位の真空チャンバ21の方向にほとんど移動する。一方、プラズマ中の極性がないラジカル22b(ヒドロキシルラジカル)は、基材1に照射される。ラジカル22b(ヒドロキシルラジカル)を基板本体22に照射することによって、基材1の表面にヒドロキシル基が導入される。そして、保持側回路28、プラズマ側回路29の通電を解除することで、導入工程が終了する。
【0057】
なお、導入工程でヒドロキシル基が導入された基材1の表面は、水との接触角が10°以下、より望ましくは6°以下となっていることが望ましい。このようにすれば、後述の成膜工程や鍍金工程(ステップS3)において、基材1の表面に金属膜や金属鍍金が強固に密着する。
【0058】
なお、基材1の表面に加え、裏面(
図2に示す下側)にも脱離工程と導入工程を行い、基材1の表裏面双方にヒドロキシル基を導入してもよい。この場合、裏面(
図2の下側)にもFPG22、保持側回路28、プラズマ側回路29と同様の構成を設けて基材1の裏面側にも表面側と同様の工程を行っても良いし、表面側の工程が終了した基材1を裏返して裏面側を
図2に示す上面側に向けたのち、脱離工程と導入工程を行うようにしてもよい。
【0059】
ステップS2の照射工程によって表面改質が行われた基材1の表面や裏面には、後述の成膜工程や鍍金工程(ステップS3)において、基材1の表面に金属膜や金属鍍金が強固に密着する。また、ステップS2の照射工程においては、ステップS1において基材1に開口形成された穴2の内部36(穴2の側面)にもヒドロキシル基が導入されるので、後述の成膜工程や鍍金工程(ステップS3)において、基材1の穴2の内部にも金属膜や金属鍍金が強固に密着する。
【0060】
[ステップS2の後の工程(成膜工程)]
図示しないが、ステップS2の照射工程を行った基材1は、成膜装置(図示せず)に移送されて、基材1の表面や裏面に金属膜を成膜させる工程(成膜工程)が行われてもよい。
図5の(b)や
図6の(b)には、この成膜工程によって基材1の表面や裏面に金属膜37が生成された状態を模式的に示している。
【0061】
成膜工程においては、基材1の表面3や裏面4に金属膜37を蒸着する。金属膜37の蒸着は、例えばCVD法(化学気相成長法)やPVD法(スパッタリング法)等によって行う。金属膜37としては、所定の金属、例えばこの実施の形態では銅による銅膜が挙げられるが、他の所定の金属の金属膜37、たとえば銀膜、金膜などでもよい。
【0062】
なお、ステップS1の加工工程において、基材1には穴2が開口形成されているので、CVD法による成膜工程においては、基材1の表面3や裏面4のみならず、穴2の内部(あるいは穴2の表面3や裏面4に近い部分)にも金属膜37が形成される。
【0063】
なお、
図3の(b)及び
図4の(b)には、ステップS2とステップS3との間に成膜工程が行われていない基材1が示されている。
【0064】
[ステップS3:銅鍍金(鍍金工程)]
ステップS2での照射工程(脱離工程と導入工程)に加え、成膜工程が行われ、表面3側や裏面4側に金属膜37が形成された基材1は、プラズマ処理装置20から鍍金装置30に移送される。鍍金装置30において、基材1は直流電源32の負極(-)側のカソードとして接続され、金属イオン溶液が充填された鍍金槽33に漬けられて鍍金が行われる(鍍金工程)。
【0065】
鍍金工程においては、基材1の金属鍍金を行う部分以外の箇所にマスキング(図示せず)が施され、この状態で基材1が直流電源32の負極(-)側のカソードとして接続されて、鍍金が行われる。鍍金が行われたのち、マスキング(図示せず)を除去すると、基材1のマスキング(図示せず)が施されていなかった箇所に金属鍍金が施された状態が形成される。
【0066】
図3の(b)には、この実施の形態の鍍金工程による処理結果の一例として、基材1に、直接、鍍金工程(無電解鍍金+電解鍍金)が行われた状態が模式的に示されている。
図3の(b)に示すように、鍍金38は、無電解鍍金膜の上に電解鍍金が積層された状態となっており、金属層が形成され、導電状態が良好なものとなっている。
【0067】
例えば、ウェアラブル機器に搭載されるフレキシブル基板は、搭載される機器の用途と性質上平面方向の大きさも高さ方向の大きさも小さい方が好ましい。このため、このフレキシブル基板に用いられる基材1の厚さは、その目的に適合するように薄くしていく必要がある。さらにパターン密度を上げるために、パターン線幅を細くしなければならない。そして、パターン線幅が細くなれば、適切な加工を施すためには高さ方向の大きさもそれに応じて小さくする必要がある。そのため、線幅を細くすれば、それに応じて鍍金の厚さも薄くする必要が出てくる。このように鍍金の厚さも薄くしたいとき、直接、鍍金工程(無電解鍍金+電解鍍金)を行えば、製造時の制約によって穴内部の鍍金をコントロールする必要がなく、上下の銅箔が穴内部を鍍金した時に厚くなった分を削るスリミングも不要で、
図3の(b)に示すような同じ厚さの銅層を実現でき、信頼性も向上する。
【0068】
一方、
図5の(b)には、この実施の形態の鍍金工程による処理結果の別の一例として、成膜工程によって基材1に金属膜37が形成されたのちに基材1に鍍金工程(電解鍍金)が行われた状態が示されている。
図5の(b)に示すように、鍍金38は、金属膜37の上に積層された状態となっており、金属膜37と鍍金38の積層によって厚い金属層が形成されている。これにより、導電状態が良好なものとなっている。
【0069】
なお、ステップS1の加工工程において基材1には穴2が開口形成され、ステップS2において、表裏面を表面改質しているので、
図3や
図5に示すとおり、鍍金工程においては、基材1の表面改質した表面3や裏面4のみならず、穴2の内部36にも鍍金38が施される。鍍金槽33内の金属イオン溶液は穴2の内部にも入り込んで穴2の内部も良好な状態で鍍金が行われるので、穴2の内部が、表面側から裏面側にかけた側面全体に鍍金38による金属層を形成することができる。これにより、基材1に形成された電子基板(図示せず)は、穴2の内部の通電状態が良好な状態となり、基材1に形成された電子基板(図示せず)の表面側と裏面側に形成された電子回路同士を良好な導電状態に形成することができる。
【0070】
[ステップS4:パターンエッチング(パターンエッチング工程)]
鍍金工程ののち、基材1は鍍金装置30から、エッチング工程を行う各種装置に移送されてパターンエッチングが行われる(ステップS4:パターンエッチング工程)。
【0071】
図4に、この実施の形態のステップS4の一例を模式的に示す。具体的には、まず、基材1は、表面3や裏面にフォトレジスト(図示せず)が塗布された状態で、
図4の(a)に示すようにパターンエッチング装置40の載置台42に載置されて露光装置本体部43で露光工程が行われ、さらに、エッチング装置(図示せず)において、エッチング液(図示せず)による処理が行われ、基材1上に塗布されたフォトレジストや基材1の未感光部分等が除去される。
【0072】
これにより、
図4の(b)に示すように、基材1の表面3や裏面4の未感光部分45が除去されて、基材1の表面3と裏面4に回路パターン46が形成される。
【0073】
基材1の表面3側と裏面4側とは、穴2の内部の鍍金38によって電気的に強固に接続されているので、表面3側と裏面4側に形成される電子回路は、良好な導電性をもって接続される。
【0074】
一方、
図6に、この実施の形態のステップS4の別の一例を模式的に示す。同図は、成膜工程によって基材1に金属膜37が形成された場合の一例である。この場合においても、基材1の表面3側と裏面4側とは、穴2の内部の鍍金38によって電気的に強固に接続されているので、表面3側と裏面4側に形成される電子回路は、良好な導電性をもって接続される。
【0075】
ステップS1~ステップS4の工程ののち、基材1に対して必要な各種工程が行われることで、基材1を用いた電子基板(図示せず)が製造される。
【0076】
[作用効果]
以上、この実施の形態においては、樹脂製の基材1の表面に穴を開ける加工工程(ステップS1)を、基材1の表面にプラズマを照射する照射工程(ステップS2)と、照射工程(ステップS2)が行われた樹脂の表面に銅を鍍金する鍍金工程(ステップS3)との前に行われる先穴工程として構成することにより、基材1の表面に加え、基材1に開口形成した穴2にもイオンとラジカルを照射したのちに鍍金を行うことができるので、プラズマの照射による樹脂の改質を樹脂の表面と穴の双方に同時に行うことができる。そのため、樹脂表面と穴の内部の双方に良好な状態で鍍金を施すことができる。そして、穴の内部も良好な状態で鍍金を施して電子基板の表裏面間の電気の導通を良好な状態にし、また、樹脂の表面と穴の内部との鍍金圧を均一にすることができるので、信頼性の高い電子基板を形成できる。さらに、照射工程ののちに樹脂の表面にスパッタリング等で金属箔を形成する場合には、この金属箔にプラズマを照射できるので、金属箔上にも良好な状態で鍍金を施して信頼性を向上させることができる。このように、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。これにより、この実施の形態においては、信頼性の高い電子基板を少ない工程と少ない製造コストで製造することができる。
【0077】
この実施の形態においては、基材1の表面に穴を開けたのち、基材1の表面に窒素イオンやアルゴンイオンを照射して、樹脂を構成する原子の少なくとも一部を離脱させ、樹脂の表面にヒドロキシルラジカルを照射して、基材1の表面にヒドロキシル基を導入することにより、基材1表面と穴2の側面の双方に良好な状態で鍍金を施して、信頼性の高い電子基板を簡易な工程で製造コストを低減させながら形成できる。
【0078】
この実施の形態においては、基材1の表面に対して略垂直方向に開口形成された穴2に鍍金を行う際に、穴2の内部も良好な状態で鍍金を施して電子基板の表裏面間の電気の導通を良好な状態にし、また基材1の表面と穴2の内部との鍍金圧を均一にすることができるので、信頼性の高い電子基板を形成できる。
【0079】
この実施の形態においては、電子基板に銅鍍金を行う場合において、信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。
【0080】
ここで、例えば、ウェアラブル機器に搭載されるフレキシブル基板は、搭載される機器の用途と性質上平面方向の大きさも高さ方向の大きさも小さい方が好ましい。このため、このフレキシブル基板に用いられる基材1の厚さは、その目的に適合するように薄くしていく必要がある。さらにパターン密度を上げるために、パターン線幅を細くしなければならない。そして、パターン線幅が細くなれば、適切な加工を施すためには高さ方向の大きさもそれに応じて小さくする必要がある。そのため、線幅を細くすれば、それに応じて鍍金の厚さも薄くする必要が出てくる。このように鍍金の厚さも薄くしたいとき、直接、鍍金工程(無電解鍍金+電解鍍金)を行えば、製造時の制約によって穴内部の鍍金だけを厚くする必要がなく、上下の銅箔が穴内部を鍍金した時に厚くなった分を削るスリミングも不要で、同じ厚さの銅層を実現でき、信頼性も向上する(
図3の(b)参照)。これにより、この実施の形態においては、より信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程をより簡略化して製造コストを低減させることができる。
【0081】
この実施の形態においては、パターンエッチングが行われる電子基板において、信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程を簡略化して製造コストを低減させることができる。
【0082】
この実施の形態においては、信頼性の高い電子基板を形成し、製造工程を簡略化して製造コストを低減させる電子基板処理装置1Aを提供できる。
【0083】
なお、上記実施の形態は本発明の例示であり、本発明が上記実施の形態のみに限定されることを意味するものではないことは、言うまでもない。すなわち、本発明の課題解決に適するものであれば、本実施の形態について、多様な変形例や応用例が考えられる。
【0084】
[実施例]
図8乃至
図10に、この実施の形態の実施例を示す。
【0085】
図8は、この実施の形態の電子基板処理装置1Aの電子基板処理方法において製造された基材1の部分拡大図である。
【0086】
図8に示す、(a)(b)は表面改質前のPTFEによる基材1の部分拡大図であり、(a)は水接触角を測定するための側面拡大図、(b)は走査電子顕微鏡(SEM)による表面拡大画像である。また、(c)(d)は、表面改質工程により表面にO-H基を付与した改質後のPTFEによる基材1の部分拡大図であり、(c)は水接触角を測定するための側面拡大図、(d)は走査電子顕微鏡(SEM)による表面拡大画像である。この工程は、上記ステップS2の表面改質工程に相当する。
【0087】
図8に示すとおり、表面改質前の基材1の表面の水接触角は大きく、水は水滴となっている(
図8(a)参照)のに対し、表面改質後の基材1の水接触角は小さく、水は表面に広がっている(
図8(c)参照)。また、表面改質前の基材1の表面は疎水基のみで形成されており(
図8(b)参照)、他の樹脂や金属を密着性の高い状態で接合させるのが難しいのに対し、表面改質後の基材1の表面は親水基で構成されており(
図8(d)参照)、他の樹脂や金属を密着性の高い状態で接合させるのが容易になっている。
【0088】
図9は、表面改質が行われたPTFE樹脂の基材1にドリルで穴を開けた基材1を示している。同図に示す基材1には直径0.5mmのドリルで複数の穴(10個×10個)が開口形成されている。また、基材1には表面側のみに本発明の表面改質工程による表面改質が行われており、裏面側は、比較のために、本発明の表面改質工程による表面改質が行われていない状態となっている。
【0089】
図9の(a)は基材1の表面側の全体図、(b)は基材1の裏面側の全体図、(c)は穴の断面図である。(a)(b)に示すように、基材1には表裏面を貫通する穴がマトリクス状に形成されている。
【0090】
図9の実施例においては、
図9の(c)の矢印(B)に示す、基材1の表面3側のみに表面改質工程(ステップS2参照)を行っている。そのため、矢印(C)に示す、基材1の表面3側のほぼ全面には良好に密着した状態で銅鍍金によって形成された金属膜が付着している。一方、
図9の(b)は、マトリックス状の穴が形成された部分の周囲の(D1)(D2)(D3)(D4)に、鍍金によって形成された金属膜が剥離した部分が形成されている。また、
図9の(c)に示すように、穴が形成された部分を拡大すると、裏面4側は、矢印(D5)に示すように、銅鍍金によって形成された金属膜が密着しておらず、隙間があいた状態で付着していない部分ができてしまっている。
【0091】
なお、
図9の(c)に示すように、基材1の表面3側は、矢印(E)に示すように、穴2の開口部に発生したバリ(突出した部分)においても、良好な状態で銅膜と銅鍍金で形成された金属膜が良好に密着した状態で基材1に付着していることがわかる。
【0092】
図10の(a)及び(b)は、他の事例であるが
図9に示す基材1の表面3側の穴2の断面に相当する部分を拡大した図である。
図10の(b)に示すように、基材1の表面3側のみならず、矢印(F)に示す、穴2の内部に厚い鍍金が密着した状態で付着している。そして、矢印(F)に示す、穴2の内部の基材1の凹凸形状のある部分にも、基材1の凹凸形状に沿って、鍍金によって形成された金属膜が密着した状態で付着していることがわかる。
【0093】
図10の(c)も、他の事例であるが
図9に示す基材1の裏面4側の穴2の断面に相当する部分を拡大した部分拡大図である。同図に示すように、基材1の裏面4側においては、矢印(G)に示す穴2の開口部のバリ(突出した部分)や、矢印(H)に示す裏面4の面部分にも、鍍金によって形成された金属膜が基材1から剥離した部分ができてしまっていることがわかる。
【0094】
以上に示すとおり、本発明を実施することで、基材1の表面に凹凸形状があっても、表面改質工程が行われた基材に鍍金工程を行うことで、導電性の高い状態で高い密着性を確保して基材に鍍金を施すことができることが確認でき、さらに、穴の内部にも導電性の高い状態で高い密着性を確保して鍍金を施すことが可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本実施形態の電子基板処理装置1A、および電子基板処理方法は、例えば、高速大容量の情報を通信する携帯電話に用いる回路基板の製造に用いられる。フッ素樹脂の比誘電率は空気の次に低いので、フッ素樹脂基板は、高周波基板の素材に特に適している。フッ素樹脂を用いた回路基板は、他の一般的な素材を用いた回路基板と比べて、高周波電流を流しても比誘電率および誘電正接が低く、誘電損失が小さい。
【0096】
本実施形態の電子基板処理装置1A、および電子基板処理方法をフッ素樹脂基板の製造に適用した場合、製造した基板の親水性が向上し、銅配線との密着性が向上でき、高周波数帯での使用に耐えうる回路基板が提供できる。この高周波数帯での使用に適用できる技術は、ウェアラブル機器や携帯電話本体にとどまらず、携帯電話の基地局に使われる基板、家庭内、工場内、もしくは地域専用の通信用の基板、または自動車もしくはドローンなどの自動運転に用いられるミリ波レーダー用の基板にも適用できる。また、本実施形態の電子基板処理装置、及び電子基板処理方法は、上記以外の多様な分野の基板の製造にも用いられる。
【符号の説明】
【0097】
1A・・・電子基板処理装置
1・・・基材(樹脂)
S1・・・加工工程
S2・・・照射工程(脱離工程、導入工程)
S3・・・鍍金工程
S4・・・パターンエッチング工程