(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125892
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】車両ドア構造およびキーシリンダ
(51)【国際特許分類】
E05B 79/02 20140101AFI20230831BHJP
E05B 79/10 20140101ALI20230831BHJP
E05B 85/06 20140101ALI20230831BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
E05B79/02
E05B79/10
E05B85/06
B60J5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030243
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000138462
【氏名又は名称】株式会社ユーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】五十幡 大地
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 浩司
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250LL01
2E250PP15
(57)【要約】
【課題】車両ドア構造の生産効率を向上させる。
【解決手段】車両ドア構造1は、内部空間7を有する車両ドア2と、パドル16を有するキーシリンダ13と、パドル16の先端部と接続されるキーロータ24を有するラッチ機構20とを備える。ラッチ機構20のケーシング21は、車両ドア2の内面と近接対向する縦壁部36を有し、キーロータ24は、縦壁部36に近接して配置される。パドル16は、車両ドア2の内面に沿って延伸する軸部41と、キーロータ24に接続された組付状態において縦壁部36よりも軸方向基端側で軸部41から軸方向に対して交差する延設方向に延びる延設部43とを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する車両ドアと、
前記内部空間内で前記車両ドアの内面に沿ってその軸方向に延伸するパドルを有し、前記車両ドアに設けられるキーシリンダと、
前記内面に取り付けられるケーシングと、前記パドルの先端部と接続されるキーロータとを有し、前記車両ドアに設けられるラッチ機構と、
を備え、
前記ケーシングが、前記内面と近接対向して前記軸方向に延びる縦壁部を有し、前記キーロータが、前記縦壁部に近接して配置され、
前記パドルが、前記内面に沿って延伸する軸部と、前記キーロータに接続された組付状態において前記縦壁部よりも前記軸方向基端側で前記軸部から前記軸方向に対して交差する延設方向に延びる延設部とを有する、
車両ドア構造。
【請求項2】
前記延設方向は、前記内面と前記縦壁部とが対向する方向である、
請求項1に記載の車両ドア構造。
【請求項3】
前記延設位置が、前記軸部の前記軸方向における中央位置よりも前記軸方向先端側にある、
請求項1または請求項2に記載の車両ドア構造。
【請求項4】
前記延設部の先端は、前記縦壁部よりも前記内面に近づけられている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両ドア構造。
【請求項5】
前記パドルが、前記軸部と前記延設部とを連結する補強部を有する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両ドア構造。
【請求項6】
前記補強部が、前記軸部と前記延設部の表面との間に架け渡され、前記延設方向に延びる三角形状の第1リブを含む、
請求項5に記載の車両ドア構造。
【請求項7】
前記補強部は、前記軸部と前記延設部の前記延設方向における中央部との間に架け渡される第2リブを含む、
請求項5または請求項6に記載の車両ドア構造。
【請求項8】
前記パドルが車幅方向に延伸し、前記ケーシングが前記車両ドアの内面に取り付けられ、前記縦壁部が前記内面と車長方向に近接対向し、前記延設部が前記軸部から前記車長方向に延設されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載の車両ドア構造。
【請求項9】
車両ドアに設けられるキーシリンダであって、
車両ドアの内部空間内で前記車両ドアの内面に沿ってその軸方向に延伸し、ラッチ機構のケーシングに設けられ、前記内面と近接対向して前記軸方向に延びる縦壁部に近接して配置されたキーロータに接続されるパドルを備え、
前記パドルが、前記内面に沿って延伸する軸部と、前記キーロータに接続された組付状態において前記縦壁部よりも前記軸方向基端側で前記軸部から前記軸方向に対して交差する延設方向に延びる延設部とを有する、キーシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドア構造およびキーシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ドアロック装置は、車両ドアと共に車両ドア構造を構成する。車両ドアは、インナパネルおよびアウタパネル等の複数のパネル部材によって構成される。車両用ドアロック装置は、これらパネル部材により画定された閉空間に収容される。車両用ドアロック装置は、鍵が挿入されるキーシリンダと、鍵の回転操作(施錠/解錠操作)に応じてロック状態とアンロック状態とを切り替えるラッチ機構とを備えている。キーシリンダのパドルが、鍵の回転をラッチ機構に伝達し、それにより、ラッチ機構が施錠/解錠操作と連動する。
【0003】
車両用ドアロック装置の車両ドアへの組み付け方の一例として、キーシリンダをアウタパネルに取り付けて車両ドアの内部に収容した後、ラッチ機構をインナパネルの内面に取り付ける場合がある。この場合、組立作業員は、車両ドアの内部でラッチ機構を予め定められた取付位置へと移動させていく過程で、ラッチ機構のキーロータにパドルを挿入させ、パドルの先端部をキーロータに一体回転可能に連結する必要がある。
【0004】
車両ドアの閉空間は、インナパネルとアウタパネルとが対向する方向において狭隘であり、ラッチ機構の取付作業中には、ラッチ機構およびキーシリンダを視認困難になるおそれがある。そこで、例えば特許文献1に開示されるように、パドルは揺動可能に構成され、パドルの姿勢は基準姿勢から変更可能である。これにより、挿入の容易化が図られる。なお、パドルの「基準姿勢」とは、パドルがキーロータに適正に組み付けられ且つラッチ機構が取付位置に適正に取り付けられた状態における、車両ドアに対するパドルの姿勢をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パドルが基準姿勢に対して角変位している状況下でラッチ機構の取付作業が行われると、パドルをキーロータに挿入させるべく閉空間内でラッチ機構を移動させていく過程で、パドルがラッチ機構と車両ドアの内面との間に誤って挟み込まれるおそれも生ずる。本書では、パドルがラッチ機構のキーロータに適正に連結されていない状態を「誤組付状態」と言う場合がある。
【0007】
パドルが短い場合には、ラッチ機構が取付位置に到達する前に、パドルがラッチ機構の表面に引っかかり、ラッチ機構を移動させづらくなる。組立作業員は、移動に対する抵抗がその手に伝わることにより、誤組付状態を認識することができる。しかし、パドルが長いと、パドルがラッチ機構に引っかかることなくラッチ機構が取付位置に到達できてしまう。組立作業員は、パドルがキーロータに挿入されたと誤認し、誤組付状態でラッチ機構をインナパネルに取り付けてしまうおそれがある。
【0008】
誤組付状態においては、キーシリンダに挿入された鍵が回転操作(施錠/解錠操作)されても、ラッチ機構が動作し得ない。ラッチ機構の動作を検査する段階でこの誤組付状態を発見することは可能である。しかし、誤組付状態を解消するための分解作業および再組立作業は、車両ドア構造の生産効率を低下させる。
【0009】
本発明は、車両ドア構造の生産効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、内部空間を有する車両ドアと、前記内部空間内で前記車両ドアの内面に沿ってその軸方向に延伸するパドルを有し、前記車両ドアに設けられるキーシリンダと、前記内面に取り付けられるケーシングと、前記パドルの先端部と接続されるキーロータとを有し、前記車両ドアに設けられるラッチ機構と、を備え、前記ケーシングが、前記内面と近接対向して前記軸方向に延びる縦壁部を有し、前記キーロータが、前記縦壁部に近接して配置され、前記パドルが、前記内面に沿って延伸する軸部と、前記キーロータに接続された組付状態において前記縦壁部よりも前記軸方向基端側で前記軸部から前記軸方向に対して交差する延設方向に延びる延設部と、を有する、車両ドア構造を提供する。
【0011】
ここで、先にキーシリンダが車両ドアに取り付けられた後、ラッチ機構のケーシングが車両ドアの内面に取り付けられるという手順で、車両ドア構造が組み立てられる場合を想定する。ケーシングを取り付ける際に、組立作業者は、ラッチ機構を車両ドアの内部空間内に位置づけ、縦壁部を車両ドアの内面に近接させた状態で、ケーシングをキーシリンダへと近づけていき、パドルの先端部をキーロータと接続させる。
【0012】
上記の構成によれば、パドルが誤って縦壁部と内面との間に挟み込まれてしまった場合に、軸部が縦壁部に引っかかり、延設部が内面に引っかかる。すると、組立作業者は、パドルがキーロータと適正に接続される際に必要な移動量だけケーシングをキーシリンダへと近づけるよりも前に、延設部の引っかかりに基づく抵抗をその手に感じ取ることができる。これにより、組立作業者は、ラッチ機構を車両ドアに取り付けてしまう前に、誤組付状態を容易に認識することができる。
【0013】
前記延設方向は、前記内面と前記縦壁部とが対向する方向であってもよい。
【0014】
この構成によれば、パドルが内面と縦壁部との間のクリアランスに挟み込まれた場合に延設部を内面に当接させやすくなる。そのため、組立作業員に、誤組付状態を認識させやすくなる。
【0015】
前記延設位置が、前記軸部の前記軸方向における中央位置よりも前記軸方向先端側にあってもよい。
【0016】
この構成によれば、パドルがクリアランスに挟み込まれた場合に、ケーシングが適正な取付位置に到達する前に、延設部を内面に当接させやすくなる。そのため、組立作業員に、誤組付状態を認識させやすくなる。
【0017】
前記延設部の先端は、前記縦壁部よりも前記内面に近づけられていてもよい。この構成によれば、パドルがクリアランスに挟み込まれた場合に延設部を内面に当接させやすくなる。そのため、組立作業員に、パドルの誤組付状態を認識させやすくなる。
【0018】
前記パドルが、前記軸部と前記延設部とを連結する補強部を有してもよい。
【0019】
この構成によれば、延設部が内面に引っかかった状態でケーシングを移動させる力が加えられた場合に、パドルが破断することを防止することができる。
【0020】
前記補強部が、前記軸部と前記延設部の表面との間に架け渡され、前記延設方向に延びる三角形状の第1リブを含んでもよい。
【0021】
前記補強部は、前記軸部と前記延設部の前記延設方向における中央部との間に架け渡される第2リブを含んでもよい。
【0022】
前記パドルが車幅方向に延伸し、前記ケーシングが前記車両ドアの内面に取り付けられ、前記縦壁部が前記内面と車長方向に近接対向し、前記延設部が前記軸部から前記車長方向に延設されていてもよい。
【0023】
この構成によれば、車両ドア構造の後部にラッチが設けられる場合において、組立作業員が誤組付状態を認識しやすくなる。
【0024】
本発明の第2の態様は、車両ドアに設けられるキーシリンダであって、車両ドアの内部空間内で前記車両ドアの内面に沿ってその軸方向に延伸し、ラッチ機構のケーシングに設けられ、前記内面と近接対向して前記軸方向に延びる縦壁部に近接して配置されたキーロータに接続されるパドルを備え、前記パドルが、前記内面に沿って延伸する軸部と、前記キーロータに接続された組付状態において前記縦壁部よりも前記軸方向基端側で前記軸部から前記軸方向に対して交差する延設方向に延びる延設部とを有する、キーシリンダを提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、車両ドア構造の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両ドア構造の内部を示す正面図。
【
図4】組付状態におけるラッチおよびキーシリンダを示す斜視図。
【
図5】組付状態におけるラッチおよびキーシリンダを示す斜視図。
【
図6】組付状態におけるラッチおよびキーシリンダの側面図。
【
図8】比較例に係る車両ドア構造のパドルの誤組付状態を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。添付図面において、X方向、Y方向、およびZ方向は、車長方向、車幅方向、および車高方向をそれぞれ示す。
【0028】
図1は、本実施形態に係る車両ドア構造1の一例として、車両の右前部のサイドドア構造を示し、
図2は、
図1の部分拡大図である。紙面の左側が車長方向後側であり、紙面の直交方向奥側が車幅方向中心側である。
【0029】
図1および
図2を参照して、車両ドア構造1は、車両ドア2と、車両ドア2に設けられた車両用ドアロック装置3とを備える。車両ドア2は、アウタパネル(不図示)、インナパネル5、およびエンドパネル6を含む複数のパネル部材を備える。アウタパネルは、インナパネル5の車幅方向外側を覆い、インナパネル5と車幅方向に対向する。エンドパネル6は、インナパネル5およびアウタパネルの後縁部に設けられ、インナパネル5と一体化されていてもよい。車両ドア2がそれ自体、パネル部材によって画定された閉空間7を有する。
【0030】
なお、以下の説明では、車両ドア2のパネル部材について、閉空間7側の面を「内側」、閉空間7とは反対側の面を「外側」という用語を使用する場合がある。
図1では、アウタパネルの図示の省略により、閉空間7の内部(インナパネル5の内側)が図示されている。
【0031】
車両用ドアロック装置3は、ハンドル機構10、ラッチ機構20、およびロッド30を備える。図示例のように、前部のサイドドア構造では、車両用ドアロック装置3が、車両ドア2の後部に設けられる。ハンドル機構10は、アウタパネルに取り付けられ、ラッチ機構20は、インナパネル5に取り付けられる。ハンドル機構10およびラッチ機構20は、その大部分が閉空間7に収容される。
【0032】
ハンドル機構10は、ハンドルベース11、アウタハンドル(不図示)、およびキーシリンダ13を備える。ハンドルベース11は、アウタパネルに取り付けられ、閉空間7内(アウタパネルの内側)に配置される。ハンドルベース11は、アウタパネルの内側後部で車長方向に延びる。アウタハンドルは、アウタパネルの外側に配置され、ハンドルベース11に可動状態で保持される。アウタハンドルは、車長方向に沿って配置され、非操作位置に付勢された状態でハンドルベース11に旋回可能に支持される。
【0033】
図3を参照して、キーシリンダ13は、キーケーシング14、シリンダ錠15、およびパドル16を備える。キーケーシング14は、ハンドルベース11の内側に取り付けられる。シリンダ錠15は、キーケーシング14に形成された収容孔11aに収容される。シリンダ錠15の鍵挿入口15aは、車幅方向外側に向けられ、ハンドルベース11およびアウタパネルに形成された孔を介して車外に露出する。
【0034】
パドル16は、キーケーシング14に回転可能に支持され、キーケーシング14からその軸方向に延び、閉空間7内に収容される。適正な鍵(不図示)が鍵挿入口15aを介してシリンダ錠15に挿入されて回転操作されると、パドル16はその中心軸周りに回転する。キーケーシング14は、シリンダ錠15の回転をパドル16に伝達する伝達機構(不図示)を収容する。
【0035】
図2を参照して、ラッチ機構20は、ケーシング21を備える。ケーシング21は、ベース部22および突出部23を有している。ベース部22は、インナパネル5の内側に沿って配置される。突出部23は、ベース部22の後部から車幅方向に突出し、エンドパネル6の内側に沿って配置される。
【0036】
詳細図示を省略するが、ケーシング21は、ロック状態とアンロック状態とを切り替える第1機構と、ラッチ状態とラッチ解除状態とを切り替える第2機構とを収容している。ケーシング21の外側には、第1機構のキーロータ24と、第2機構のオープンレバー25とが設けられる。キーロータ24は、ケーシング21のベース部22の外面に開放されたパドル挿通孔24aを有している。パドル16の先端部は、パドル挿通孔24aを介してケーシング21内に挿入され、第1機構と連結される。
【0037】
ラッチ機構20がラッチ状態且つロック状態である場合において、乗員が鍵をシリンダ錠15に挿入して回転操作(解錠操作)すると、パドル16が回転し、シリンダ錠15の回転がパドル16を介してラッチ機構20の第1機構に伝達される。これにより、ラッチ機構20がアンロック状態に切り替わる。アンロック状態において、乗員がアウタハンドルを付勢力に抗して非操作位置から旋回操作(開扉操作)すると、アウタハンドルの動作がロッド30を介してオープンレバー25に伝達される。これにより、ラッチ機構20がラッチ解除状態に切り替わり、車両ドア2を開扉可能になる。ロック状態で開扉操作が行われても、ラッチ機構20はラッチ状態を維持する。アンロック状態で、乗員が鍵をシリンダ錠15に挿入して回転操作(施錠操作)すると、パドル16が回転し、シリンダ錠15の回転がパドル16を介してラッチ機構20の第1機構に伝達される。これにより、ラッチ機構20がロック状態に切り替わる。
【0038】
上記構成の車両ドア構造1を組み立てる際には、まず、アウタパネルに、ハンドルベース11およびキーシリンダ13を含む部品群が取り付けられる。これにより、「アウタサブアッシ」が構成される。同時的に、一体化されたインナパネル5およびエンドパネル6に、部品群が取り付けられる。これにより、「インナサブアッシ」が構成される。インナサブアッシは、ラッチ機構20を含まない。次に、アウタサブアッシとインナサブアッシとが互いに組み付けられる。これにより、車両ドア2の概形が構成される。
【0039】
概形が構成された後に、ラッチ機構20がインナパネル5の内側に取り付けられる。インナパネル5の後部には、開口5aが形成される。組立作業員は、ラッチ機構20を把持し、開口5aを介して閉空間7内に手を入れ、閉空間7内でラッチ機構20を所定の取付位置へ移動させ、当該取付位置でボルト等の固定具を用いてラッチ機構20を車両ドア2に取り付ける。閉空間7内には、アウタサブアッシを構成するパドル16が既に収容されている。組立作業員は、ラッチ機構20を閉空間7内で取付位置へと移動させる過程で、パドル16の先端部をキーロータ24のパドル挿通孔24a内に挿入させ、パドル16を第1機構に連結させる。ラッチ機構20が取り付けられると、その他の部品が順次に取り付けられ、車両ドア構造1が完成する。
【0040】
パドル挿通孔24aは、ベース部22の後部に配置され、エンドパネル6と近接する。このため、ラッチ機構20を取付位置へと移動させる過程で、パドル16が、パドル挿通孔24aではなく、ベース部22とエンドパネル6との間に誤って挟み込まれるおそれがある。以下、この誤組付状態と関連付けて、車両ドア構造1(特に、パドル16およびケーシング21)の構成について説明する。
【0041】
図4および
図5を参照して、ケーシング21のベース部22は、頂壁31と、頂壁31の縁部から突出する周壁32とを有する。周壁32は、インナパネル5から車幅方向外側に立設され、頂壁31は、インナパネル5の内面から車幅方向外側へ離れて配置される。ベース部22は、閉空間7内の後端部に配置される。周壁32は、エンドパネル6の内面と車長方向に対向して車高方向に延びる後壁部32aと、後壁部32aの上端部から下傾しながら車長方向前側へ延びる上壁部32bとを有する。
【0042】
パドル挿通孔24aは、ベース部22の上端部、すなわち、後壁部32aと上壁部32bとが交差する角部に配置されている。そのため、パドル挿通孔24aも、エンドパネル6と車長方向に近接する。パドル挿通孔24aは、頂壁31に開口しており、開口端に近づくほど拡開された漏斗状に形成されている。このようなパドル挿通孔24aを形成するため、頂壁31の角部には、円錐状の挿通孔形成部35が設けられている。
【0043】
ケーシング21は、縦壁部36を更に有する。縦壁部36は、頂壁31から車幅方向外側へ突出し、車高方向に延びている。縦壁部36は、車長方向に薄い板状であり、その後端面は、後壁部32aの外面とほぼ連続している。換言すると、縦壁部36は、後壁部32aの一部が車幅方向外側へ延長された部分であり、後壁部32aと同様にして、エンドパネル6の内面と僅かなクリアランスをあけて対向されている。また、縦壁部36は、パドル挿通孔24aとも近接して配置されている。一例として、縦壁部36は、円錐状の挿通孔形成部35の外表面から下方へ延びており、挿通孔形成部35と一体化されている。
【0044】
このように、本実施形態では、ケーシング21と車両ドア2の内面とが対向する方向が、車長方向であり、ケーシング21が車両ドア2の内面に対して前に位置づけられる。パドル16をラッチ機構20に適正に組み付けたパドル16の基準姿勢において、パドル挿通孔24aの中心軸はパドル16の中心軸と同軸状である。パドル挿通孔24aの軸方向(基準姿勢でのパドル16の軸方向)は、車幅方向に沿った方向であり、縦壁部は、この方向に沿って延びている。より詳しくは、当該パドル挿通孔24aの軸方向は、車幅方向内側に向かうほど(すなわち、ハンドル機構10からラッチ機構20に向かうほど)下方へ傾斜した方向であり、車長方向にはほとんど傾斜していない。
【0045】
図3~
図5を参照して、パドル16は、軸方向に延伸する軸部41と、軸部41の先端部に設けられた係合部42と、軸部41から延びる延設部43とを有する。パドル16は、アルミニウム系金属等の鋳造により製作されており、軸部41、係合部42および延設部43は互いに一体化されている。
【0046】
上記のとおり、パドル挿通孔24aがエンドパネル6の内面に近接することから、軸部41も、エンドパネル6の内面と車長方向に近接対向して車幅方向に延伸している。より詳しくは、基準姿勢において、車長方向にはほとんど傾斜しない一方、キーケーシング14から下傾しながら車幅方向内側へ延びている。
【0047】
軸部41は、その軸方向を中心に自転可能に、かつ、軸部41の基端部に設けられた枢軸45周りに揺動可能に、キーケーシング14に支持されている。枢軸45は、軸直交方向のうち車高方向に沿って延びている。パドル16の枢軸周りの揺動に応じて、パドル16の先端部が車長方向に移動可能である。
【0048】
係合部42は、軸部41の先端部においてその外周面から突出する複数のリブによって構成される。これら複数のリブは軸部41の周方向に等間隔をおいて配置されている。係合部42は、パドル挿通孔24a内でキーロータ24と係合され、それによりパドル41の回転がラッチ機構20に伝達される。
【0049】
延設部43は、キーロータ24に接続された組付状態において縦壁部36よりも軸方向基端側で軸部31から軸方向に対して交差する延設方向に延びる。この延設方向は、縦壁部36とエンドパネル6の内面とが対向する方向であり、本実施形態では車長方向である。パドル16の軸方向において延設部43が設けられている位置を「延設位置」とする。延設位置は、軸部41の軸方向における中央位置よりも軸方向先端側にある。延設部43の先端は、縦壁部36よりも内面に近づけられている。
【0050】
パドル16は、軸部41と延設部43とを連結する補強部44を更に有する。補強部44は、第1リブ44aおよび第2リブ44bを有する。第1リブ44aは、軸部41と延設部43の表面との間に架け渡され、三角形状に形成されている。延設部43は、軸部41から両側に突出するが、第1リブ44aもこれに合わせて車長方向に対を成している。第2リブ44bは、軸部41の延設位置と延設部43の延設方向における中央部との間に架け渡され、中実のブロック状に形成されている。
【0051】
この点、リブを有する部品の鋳造では、リブの周辺部位をエジェクタピンで押すことで、離型が容易化される。他方、製品には、エジェクタピンで押す部位に、その痕跡(エジェクタピン受け)が残る。このパドル16においては、第1リブ44aに近接する部位がエジェクタピンで押され、パドル16の生産効率の向上(離型の容易化)が図られている。パドル16は閉空間7に収容されるため、エジェクタピン受けは、乗員の目に触れず車両の美観を損ねない。そこで、第2リブ44bが、エジェクタピン受けにより実現される。エジェクタピン受けの除去を省略することでパドル16の製造工程が簡素化され、また、エジェクタピン受けを近接の第1リブ44aと共に補強メンバとして機能させることでパドル16に高い剛性がもたらされる。
【0052】
ケーシング21およびパドル16が以上のように構成された場合において、パドル16をキーロータ24に連結しつつラッチ機構20を車両ドア2に取り付ける作業での誤組付状態について説明する。
図8は、第1比較例および第2比較例を示す。第1比較例に係るパドル86は、本実施形態のパドル16よりも短く、延設部を有さない。第2比較例に係るパドル96は、延設部を有さない点を除き、本実施形態のパドル16と同じ構造を有する。第1比較例、第2比較例および本実施形態において、パドル16,86,96の基端部は、車幅方向において同じ位置にある。
【0053】
また、第1比較例、第2比較例および本実施形態において、ラッチ機構20は、同じ構造を有しており、
図8は、ラッチ機構20を複数車種間で共用する状況を示しているとも言える。この点、ハンドル機構10の形状および配置は、車両個々の意匠に影響されやすく、車種により様々である。ラッチ機構20は、意匠部品としての役割を要求されない。そのため、要求される機能(スマートキーでの状態切替え等)が同じである複数車種間で、ラッチ機構20を共用することが許容される。
【0054】
代わりに、パドル16は、ハンドル機構10とラッチ機構20との位置関係に応じて車種ごとに設計され、車種に適した長さに設計される。車格が小さいと、ラッチ機構10とハンドル機構20との距離が短い傾向にあり、これに合わせてパドル16が第1比較例のように相対的に短くなる。車格が大きいと、パドル16が第2比較例のように相対的に長くなる。
【0055】
第1比較例および第2比較例においても、パドル86,96がケーシング21と車両ドア2の内面との間に挟み込まれるためには、パドル36の先端部が縦壁部36を乗り越えて後方へ位置する必要がある。パドル16は、それだけ基準姿勢に対して角変位している必要がある。パドル86が短いほど、縦壁部36を乗り越えるために必要な基準姿勢に対する角変位量は大きくなり、パドル96が長いほど、その角変位量は小さくなる。
【0056】
第1比較例のように、(車格が小さいために)パドル86が短ければ、ケーシング21が所定の取付位置に取り付けられた状態で、縦壁部36を乗り越えるだけの角変位を行うことができない。つまり、第1比較例では、ケーシング21を取付位置に移動させる過程において、パドル16が基準姿勢に対して大きく変位していてパドル挿通孔24aから外れたとしても、ケーシング21が取付位置に到達する前に、縦壁部36がパドル86と干渉する。ケーシング21の移動に対する大きな抵抗が組立作業員に伝わり、それにより、組立作業員はケーシング21をインナパネル5に固定する前に、誤組付状態を認識することができる。
図8では、ケーシング21が取付位置に位置する状態で、縦壁部36がパドル86と重なって図示されている。これは、ケーシング21が取付位置に位置する状態において、パドル86は縦壁部36を乗り越えて挟み込まれることがあり得ず、取付位置への到達前にパドル86の引っかかりが生じることを示している。
【0057】
第2比較例のように、(車格が大きいために)パドル96が長ければ、ケーシング21が所定の取付位置に取り付けられた状態においても、パドル96の先端部は小さな角変位で縦壁部36よりも後方に位置することが可能である。角変位量が小さいため、パドル96は、車幅方向に沿って延びる状態を保つことができ、縦壁部36の先端がパドル96と車幅方向に離れる。そのため、第1比較例とは異なり、顕著な抵抗が組立作業員の手に伝わらないままラッチ機構20が取付位置に到達し、誤組付状態が看過されたままラッチ機構20がインナパネル5に取り付けられるおそれがある。
【0058】
この状況では、ラッチ機構20が解錠操作および施錠操作に応答し得ない。車両ドア構造1が完成した後の検査で誤組付状態を容易に発見することは可能ではあるが、車両ドア構造1を分解して再び組み立て直す必要があり、車両ドア構造1の生産性を低下させる。なお、縦壁部36は、第1比較例に示されたとおり、誤組付状態の看過を防止するために有効な部材である。しかし、車格の変更によりハンドル機構10とラッチ機構20との距離が長くなったとしても、ラッチ機構20は上記のように複数車種間での共用が図られている。縦壁部36の高さを車格の違いに応じて調整することには、生産上の制約から困難性がある。
【0059】
これに対し、
図7に示すように、本実施形態では、車種に応じて設計されるパドル16が、延設部43を有する。延設部43を設けたことで、仮にパドル16に許容される角変位量が十分に大きかったとしても、延設部43がエンドパネル6に当接するため、最大角変位量は実質的に制約を受ける。パドル16が基準姿勢に対して後方へ角変位した状態でケーシング21の取り付けが行われた場合、仮にパドル16の先端部がパドル挿入孔24aから外れたとしても、パドル16は、延設部43がエンドパネル6の内面に当接されることで基準姿勢へ戻されようとする。そのパドル16の軸部41のうち延設部43よりも先端側の部位が、取付位置へと移動しようとする縦壁部36の先端に当たる。
【0060】
このように、ケーシング21が取付位置に到達する前に、パドル16が縦壁部36およびエンドパネル6の内面と干渉する。ラッチ機構20の移動に対する大きな抵抗が組立作業員に伝わり、それにより、組立作業員はラッチ機構20をインナパネル5に固定する前に、誤組付状態を認識することができる。
図7では、ラッチ機構20が取付位置に位置する状態で、パドル16がエンドパネル6と重なって図示されている。これは、ラッチ機構20が取付位置に位置する状態において、パドル16が縦壁部36を乗り越えて挟み込まれることがあり得ず、取付位置への到達前にパドル16の引っかかりが生じることを示している。すなわち、延設部43の延び方向の長さは、
図7に示すように、取付位置にある縦壁部36にパドル16が当接した誤組付状態において、エンドパネル6と干渉する長さに設定されている。
【0061】
このような引っかかりが生じ、組立作業員が、誤組付状態を認識するまでの間にラッチ機構20を移動させるべく車両ドア構造1に過負荷をかけた場合、その負荷は延設部43に入力される。延設部43には補強部44が設けられているため、パドル16の破損を防止することができる。
【0062】
本実施形態によれば、長いパドル16が延設部44を有している。そのため、延設部44がない場合には有効に機能しえなかったはずの縦壁部36を有効に機能させることができ、延設部43と縦壁部36との協働により誤組付状態の看過を防止可能になる。完成後の分解作業が発生する頻度が低減し、車格が大きい車両に適用される車両ドア構造1の生産効率が向上する。
【0063】
図9に示すように、延設部43は円盤状でもよい。上記実施形態に係る延設部の場合、閉空間に長尺の部材が不所望に挿入されると、長尺の部材から延設部43を介して軸部41に回転力が伝わり、ラッチ機構20が不所望に作動するおそれがある。円盤状であれば、このような不所望な作動を抑止できる。
【0064】
なお、車両の前部のサイドドア構造を例にとって実施形態について説明したが、本発明に係る車両ドア構造1は、後部のサイドドア構造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 車両ドア構造
2 車両ドア
3 車両用ドアロック装置
5 インナパネル
6 エンドパネル
7 閉空間(内部空間)
10 ハンドル機構
11 ハンドルベース
13 キーシリンダ
16 パドル
20 ラッチ機構
21 ケーシング
24 キーロータ
24a パドル挿通孔
32a 後壁部
36 縦壁部
41 軸部
42 係合部
43 延設部
44 補強部
44a 第1リブ
44b 第2リブ