(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125893
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20230831BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230831BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20230831BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01G11/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030244
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】出水 真史
(72)【発明者】
【氏名】奥坊 崇司
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AA07
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA26
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078DA02
5E078DA05
5H029AJ04
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H050AA09
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050EA23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリアニオン系正極活物質を含む正極を備える非水電解質蓄電素子であって、低温環境下での直流抵抗が低く且つ高温環境下に放置後の容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、ポリアニオン系正極活物質を含む正極と、アクリル系バインダを含む負極と、ヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む非水電解質とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニオン系正極活物質を含む正極と、
アクリル系バインダを含む負極と、
ヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む非水電解質と
を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項2】
上記ポリアニオン系正極活物質がリン酸鉄リチウムである請求項1に記載の非水電解質蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された正極及び負極と、上記正極及び負極の間に介在する非水電解質とを有し、正極と負極との間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
非水電解質蓄電素子に用いられる正極活物質として、リン酸鉄リチウム等のポリアニオン系正極活物質が知られている。特許文献1には、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む正極及び負極活物質として黒鉛を含む負極を備える非水電解質二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリアニオン系正極活物質は、熱安定性が高いこと、特にリン酸鉄リチウムの場合は鉄が豊富な資源であるため安価であること等の利点を有する。しかし、ポリアニオン系正極活物質を含む正極を備える非水電解質蓄電素子は、低温環境下での直流抵抗が高いことや、高温環境下に放置後の容量維持率が低いことなどの課題があり、改善が望まれる。
【0006】
本発明の目的は、ポリアニオン系正極活物質を含む正極を備える非水電解質蓄電素子であって、低温環境下での直流抵抗が低く且つ高温環境下に放置後の容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、ポリアニオン系正極活物質を含む正極と、アクリル系バインダを含む負極と、ヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む非水電解質とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、ポリアニオン系正極活物質を含む正極を備える非水電解質蓄電素子であって、低温環境下での直流抵抗が低く且つ高温環境下に放置後の容量維持率が高い非水電解質蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、非水電解質蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解質蓄電素子を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本明細書によって開示される非水電解質蓄電素子の概要について説明する。
【0011】
本発明の一側面に係る非水電解質蓄電素子は、ポリアニオン系正極活物質を含む正極と、アクリル系バインダを含む負極と、ヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む非水電解質とを備える。
【0012】
当該非水電解質蓄電素子は、ポリアニオン系正極活物質を含む正極を備える非水電解質蓄電素子であって、低温環境下での直流抵抗が低く且つ高温環境下に放置後の容量維持率が高い。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。負極のバインダとしてアクリル系バインダを用いることで、低温環境下での直流抵抗が低くなる。この理由としては、アクリル系バインダを用いた場合、負極活物質等の分散性や密着性が高まることなどが推測される。しかし、ポリアニオン系正極活物質を含む正極を備える非水電解質蓄電素子において負極にアクリル系バインダを用いると、高温環境下に放置後の容量維持率が低下することがある。そこで、非水電解質にヘキサフルオロリン酸塩とイミド塩とを含有させることで、高温環境下に放置後の容量維持率の低下が抑制される。この理由としては、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸塩とイミド塩とが存在している場合、高温環境下に放置されているときのポリアニオン系正極活物質から非水電解質へ溶出した遷移金属イオン等の溶出成分とアクリル系バインダとの反応が抑制されることなどが推測される。
【0013】
上記ポリアニオン系正極活物質がリン酸鉄リチウムであることが好ましい。この場合、低温環境下での直流抵抗が低く且つ高温環境下に放置後の容量維持率が高くなるという本願の効果が顕著に得られる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子、蓄電装置、非水電解質蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0015】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)は、正極、負極及びセパレータを有する電極体と、非水電解質と、上記電極体及び非水電解質を収容する容器と、を備える。電極体は、通常、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型、又は、正極及び負極がセパレータを介して積層された状態で巻回された巻回型である。非水電解質は、正極、負極及びセパレータに含まれた状態で存在する。非水電解質蓄電素子の一例として、非水電解質二次電池(以下、単に「二次電池」ともいう。)について説明する。
【0016】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0017】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0018】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。正極基材及び後述する負極基材の「平均厚さ」とは、所定の面積の基材を打ち抜いた際の打ち抜き質量を、基材の真密度及び打ち抜き面積で除した値をいう。
【0019】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0020】
正極活物質層は、ポリアニオン系正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。正極活物質層は、ポリアニオン系正極活物質及び必要に応じて任意成分を含むいわゆる正極合剤から形成される層であってもよい。
【0021】
ポリアニオン系正極活物質は、リチウムイオン等のイオンを吸蔵及び放出することができるポリアニオン化合物である。ポリアニオン化合物とは、オキソ酸アニオン(PO4
3-、SO4
2-、SiO4
4-、BO3
3-、VO4
3-等)を含む化合物をいう。オキソ酸アニオンは、縮合アニオン(P2O7
4-、P3O10
5-等)であってもよい。ポリアニオン系正極活物質は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素と、遷移金属元素とを含むポリアニオン化合物であることが好ましい。ポリアニオン系正極活物質には、その他の元素(例えばハロゲン元素等)がさらに含まれていてもよい。ポリアニオン系正極活物質が有するアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素としては、リチウム元素が好ましい。ポリアニオン系正極活物質が有する遷移金属元素としては、鉄元素、マンガン元素及びコバルト元素が好ましく、鉄元素がより好ましい。ポリアニオン系正極活物質が有するオキソ酸アニオンとしては、リン酸アニオン(PO4
3-)が好ましい。
【0022】
ポリアニオン系正極活物質は、下記式1で表される化合物であってもよい。
LiaMb(AOc)dXe ・・・1
式1中、Mは、少なくとも1種の遷移金属元素である。Aは、B、Al、Si、P、S、Cl、Ti、V、Cr、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。Xは、少なくとも1種のハロゲン元素である。a、b、c、d及びeは、0<a≦3、0<b≦2、2≦c≦4、1≦d≦3、0≦e≦1を満たす数である。a、b、c、d及びeは、いずれも整数であってもよく、小数であってもよい。
【0023】
式1中のMとしては、Fe、Mn及びCoのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、Fe、Mn及びCoの合計含有率が50モル%以上であることがより好ましく、Fe、Mn及びCoのうちの少なくとも1種の含有率が50モル%以上であることがさらに好ましく、Feの含有率が50モル%以上であることがさらに好ましい。また、Mとしては、Fe、Mn及びCoのうちの少なくとも1種であることも好ましく、Feであることも好ましい。Aとしては、Pが好ましい。Xとしては、Fが好ましい。一実施形態として、a=1、b=1、c=4、d=1、e=0が好ましい場合もある。
【0024】
ポリアニオン系正極活物質の具体例としては、例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiFe0.5Co0.5PO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、LiCrPO4、LiFeVO4、Li2FeSiO4、Li2Fe2(SO4)3、LiFeBO3、LiFePO3.9F0.2、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。これらの中でも、LiFePO4(リン酸鉄リチウム)が好ましい。これらのポリアニオン系正極活物質中の原子又はポリアニオンは、他の原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。ポリアニオン系正極活物質は表面が他の材料で被覆されていてもよい。ポリアニオン系正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
ポリアニオン系正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。ポリアニオン系正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。ポリアニオン系正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、ポリアニオン系正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。ポリアニオン系正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。ポリアニオン系正極活物質の表面が他の材料で被覆されている場合、他の材料で被覆されたポリアニオン系正極活物質の平均粒径をポリアニオン系正極活物質の平均粒径とする。ここで「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0026】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0027】
正極活物質層におけるポリアニオン系正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。ポリアニオン系正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0028】
正極活物質層は、ポリアニオン系正極活物質以外のその他の正極活物質をさらに含んでいてもよい。その他の正極活物質としては、従来公知の各種正極活物質を用いることができ、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。但し、正極活物質層に含まれる全ての正極活物質(ポリアニオン系正極活物質及びその他の正極活物質の合計)に対するポリアニオン系正極活物質の含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。
【0029】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0030】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、二次電池のエネルギー密度を高めることができる。
【0031】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0032】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。
【0033】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0034】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。
【0035】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素をポリアニオン系正極活物質、その他の正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0036】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0037】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0038】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0039】
負極活物質層は、負極活物質及びアクリル系バインダを含む。負極活物質層は、必要に応じて導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。負極活物質層は、負極活物質、アクリル系バインダ及び必要に応じて任意成分を含むいわゆる負極合剤から形成される層であってもよい。
【0040】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、アクリル系バインダ、その他のバインダ、導電剤、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0041】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。
【0043】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチまたは石油ピッチ由来の材料、石油コークスまたは石油コークス由来の材料、植物由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0044】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0045】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。
【0046】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。
【0047】
負極活物質は、通常、粒子(粉体)である。負極活物質の平均粒径は、例えば、1nm以上100μm以下とすることができる。負極活物質が炭素材料、チタン含有酸化物又はポリリン酸化合物である場合、その平均粒径は、1μm以上100μm以下であってもよい。負極活物質が、Si、Sn、Si酸化物、又は、Sn酸化物等である場合、その平均粒径は、1nm以上1μm以下であってもよい。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、活物質層の電子伝導性が向上する。粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。負極活物質が金属Li等の金属である場合、負極活物質は、箔状であってもよい。
【0048】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましい。負極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0049】
アクリル系バインダは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するモノマーに由来する構造単位を有する重合体(アクリル系樹脂)であることが好ましい。上記構造単位としては、-CH2-CR1(COOR2)-(R1は、水素原子又はメチル基である。R2は、水素原子、アルカリ金属原子、炭素数1から4の炭化水素基、又はアミノ基である。)で表される構造単位が好ましい。アクリル系樹脂の全構造単位に対する上記構造単位の含有割合としては、例えば50モル%以上であり、70モル%以上、90モル%以上又は98モル%以上が好ましい。アクリル系樹脂は、上記構造単位のみから構成されていてもよい。アクリル系樹脂としては、アクリル酸系樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミド樹脂等が挙げられる。アクリル酸系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウム等をモノマーとする重合体、及びこれらのモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。アクリル樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)又はメタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)をモノマーとする重合体、及びこれらのモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。アクリルアミド樹脂としては、アクリルアミド又はメタクリルアミドをモノマーとする重合体、及びこれらのモノマーと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸系樹脂が好ましい。アクリル系バインダは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
アクリル系バインダ(アクリル系樹脂)は、四酸化オスミウムにより染色されないものであることが好ましい。炭素-炭素二重結合を有する有機化合物に四酸化オスミウム溶液への浸漬、又は四酸化オスミウムガスへの曝露を行うと、上記有機化合物の炭素-炭素二重結合の部分が四酸化オスミウムと反応することにより染色される。アクリル系樹脂が四酸化オスミウムと反応する構造を有しないことで、負極バインダとして用いた場合に当該非水電解質蓄電素子の抵抗をより低くできるため、低温環境下での直流抵抗がより低い非水電解質蓄電素子を提供できる。換言すれば、アクリル系バインダは、炭素-炭素二重結合を有さないことが好ましい。
【0051】
負極活物質層におけるアクリル系バインダの含有量は、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上7質量%以下がより好ましい。アクリル系バインダの含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質を安定して保持することができ、また、低温環境下での直流抵抗を低くすることなどができる。
【0052】
負極活物質層には、アクリル系バインダ以外のその他のバインダが含有されていてもよい。その他のバインダとしては、正極活物質層に用いられるバインダとして例示したバインダのうちのアクリル系バインダ以外のバインダ等が挙げられる。但し、負極活物質層におけるアクリル系バインダ以外のその他のバインダの含有量としては、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。アクリル系バインダ以外のその他のバインダの含有量が上記上限以下であることにより、低温環境下での直流抵抗をより低くすることなどができる。
【0053】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0054】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0055】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0056】
セパレータとして、ポリマーと非水電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0057】
(非水電解質)
非水電解質は、電解質塩を含有する。非水電解質には、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含有する。
【0058】
電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む。
【0059】
ヘキサフルオロリン酸塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム等が挙げられ、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)が好ましい。ヘキサフルオロリン酸塩は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0060】
イミド塩としては、リチウムイミド塩、ナトリウムイミド塩、カリウムイミド塩、マグネシウムイミド塩、オニウムイオンを有するイミド塩等が挙げられ、リチウムイミド塩が好ましい。イミド塩は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0061】
イミド塩を構成するアニオン(イミドアニオン)は、窒素原子に2つのスルホニル基が結合された構造を有するアニオン、窒素原子に2つのホスホニル基が結合された構造を有するアニオン、窒素原子に2つのカルボニル基が結合された構造を有するアニオン、窒素原子に2つのシアノ基が結合された構造を有するアニオン、窒素原子にスルホニル基、ホスホニル基、カルボニル基及びシアノ基から選ばれた異なる2種が結合された構造を有するアニオン等が挙げられ、窒素原子に2つのスルホニル基が結合された構造を有するアニオンが好ましい。また、イミドアニオンは、フッ素原子を有することが好ましく、具体的には例えばフルオロスルホニル基、フルオロホスホニル基、フルオロアルキル基等を有することが好ましい。
【0062】
イミドアニオンとしては、N(SO2F)2
-(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン:FSI-)、N(CF3SO2)2
-(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン)、N(C2F5SO2)2
-(ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン)、N(C4F9SO2)2
-(ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドアニオン)、N(POF2)2
-(ビス(ジフルオロホスホニル)イミドアニオン)、N(CF3SO2)(CF3CO)-((トリフルオロメタンスルホニル)(トリフルオロメタンカルボニル)イミドアニオン)、N(CN)2
-(ジシアノイミドアニオン)等が挙げられ、これらの中でも、N(SO2F)2
-(ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン:FSI-)が好ましい。すなわち、イミド塩としては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)が最も好ましい。
【0063】
非水電解質中のヘキサフルオロリン酸塩を構成するアニオン(ヘキサフルオロリン酸アニオン:PF6
-)と、イミド塩を構成するアニオン(イミドアニオン)とのモル比(物質量比)は、ヘキサフルオロリン酸アニオン:イミドアニオンが1:99から99:1の範囲内が好ましく、1:9から9:1の範囲内がより好ましく、1:9から5:5の範囲内がより好ましい。非水電解質中に存在するヘキサフルオロリン酸アニオンとイミドアニオンとのモル比を上記範囲内とすることで、高温環境下に放置後の容量維持率が高まる。なお、非水電解質中において、ヘキサフルオロリン酸アニオン及びイミドアニオンは、カチオンと解離して存在していてもよく、解離せずに存在していてもよい。
【0064】
電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩以外のその他の電解質塩をさらに含んでいてもよい。但し、電解質塩におけるヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩の合計含有量は、90モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましく、100モル%であることがさらに好ましい。このような場合、高温環境下に放置後の容量維持率がより高まる。
【0065】
非水電解質における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解質のイオン伝導度を高めることができる。
【0066】
非水電解質におけるヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩の合計含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。非水電解質におけるヘキサフルオロリン酸塩及びイミド塩の合計含有量を上記の範囲とすることで、高温環境下に放置後の容量維持率をより高め、非水電解質のイオン伝導度を高めることもできる。
【0067】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0068】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0069】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0070】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0071】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0072】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0073】
非水電解質としては、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0074】
本実施形態の非水電解質蓄電素子の形状については特に限定されるものではなく、例えば、円筒型電池、角型電池、扁平型電池、コイン型電池、ボタン型電池等が挙げられる。
【0075】
図1に角型電池の一例としての非水電解質蓄電素子1を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。セパレータを挟んで巻回された正極及び負極を有する電極体2が角型の容器3に収納される。正極は正極リード41を介して正極端子4と電気的に接続されている。負極は負極リード51を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0076】
<蓄電装置>
本実施形態の非水電解質蓄電素子は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に、複数の非水電解質蓄電素子1を集合して構成した蓄電ユニット(バッテリーモジュール)として搭載することができる。この場合、蓄電ユニットに含まれる少なくとも一つの非水電解質蓄電素子に対して、本発明の技術が適用されていればよい。
【0077】
図2に、電気的に接続された二以上の非水電解質蓄電素子1が集合した蓄電ユニット20をさらに集合した蓄電装置30の一例を示す。蓄電装置30は、二以上の非水電解質蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)等を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の非水電解質蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。
【0078】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本実施形態の非水電解質蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、非水電解質を準備することと、電極体及び非水電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0079】
非水電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、非水電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0080】
<その他の実施形態>
尚、本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0081】
上記実施形態では、非水電解質蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、非水電解質蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタにも適用できる。
【0082】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。
【実施例0083】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0084】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質としてポリアニオン系正極活物質であるリン酸鉄リチウム(LFP)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤としてのアセチレンブラックとを含有し、N-メチルピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤ペーストを調製した。正極活物質とバインダと導電剤との比率は、固形分換算の質量比で、90:5:5とした。正極合剤ペーストを正極基材としてのアルミニウム箔の表面に塗工し、乾燥させた後、塗工層を所定の厚さに圧縮することにより正極活物質層を形成し、正極を得た。
【0085】
(負極の作製)
負極活物質としての黒鉛と、バインダとしてのアクリル系バインダと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを含有し、水を分散媒とする負極合剤ペーストを調製した。負極活物質とバインダと増粘剤との比率は、固形分換算の質量比で、97:2:1とした。負極合剤ペーストを負極基材としての銅箔の表面に塗工し、乾燥させた後、塗工層を所定の厚さに圧縮することにより負極活物質層を形成し、負極を得た。アクリル系バインダには、四酸化オスミウムにより染色されないものを用いた。
【0086】
(非水電解質の調製)
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比20:80で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸塩であるLiPF6及びイミド塩であるLiFSIをそれぞれ0.3mol/dm3及び0.6mol/dm3の濃度で混合し、非水電解質を調製した。
【0087】
(非水電解質蓄電素子の組み立て)
上記正極及び負極と、ポリエチレン製微多孔膜セパレータとを積層し、巻回することで、巻回型電極体を作製した。巻回型電極体を容器に収容した。次いで、上記非水電解質を容器に注入することにより、非水電解質電蓄電素子を得た。
【0088】
[比較例1]
負極のバインダにSBRを用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の非水電解質蓄電素子を得た。
【0089】
[比較例2、3]
負極のバインダに表1に記載のバインダを用いた。また、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比20:35:45で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸塩であるLiPF6を0.9mol/dm3の濃度で混合し、非水電解質を調製した。これらの点以外は、実施例1と同様にして、比較例2、3の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0090】
(初期充放電)
得られた実施例1及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0C、充電終止電圧3.5Vの条件で、充電時間が合計3時間になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行った。その後、10分間の休止時間を設けた。次いで、放電電流1.0C、放電終止電圧2.0Vの条件で、定電流(CC)放電を行った。この初期充放電における放電時の電気量を初期の放電容量とした。
【0091】
(評価:低温環境下での直流抵抗)
上記初期充放電後の実施例1及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0Cで定電流充電を行い、SOCを50%にした。-30℃の恒温槽に4時間保管した後、放電電流0.2C、0.5C、又は1.0Cで、それぞれ30秒間放電した。各放電終了後には、充電電流1.0Cで定電流充電を行い、SOCを50%にした。各放電における放電電流と放電開始後10秒目の電圧との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから直流抵抗を求めた。求めた直流抵抗を表1に示す。
【0092】
(評価:高温環境下に放置後の容量維持率)
次いで、実施例1及び比較例1から3の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0C、充電終止電圧3.5Vの条件で、充電時間が合計3時間になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行い、SOCを100%にした。このSOC100%の状態で各非水電解質蓄電素子を85℃の恒温槽に90日放置した。その後、25℃の恒温槽内にて4時間保管した後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.0Vの条件で、定電流放電を行った。その後、10分間の休止時間を設けた。次いで、上記「初期充放電」と同様の方法で充電及び放電を行い、この放電時の電気量を高温環境下に放置後の放電容量とした。初期の放電容量に対する高温環境下に放置後の放電容量の比を高温環境下に放置後の容量維持率として求めた。求めた容量維持率を表1に示す。
【0093】
【0094】
[参考例1、2]
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM)を用いた。負極のバインダとして表2に記載のバインダを用いた。また、ECとDMCとEMCとを体積比30:35:35で混合してなる非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸塩であるLiPF6を1.2mol/dm3の濃度で混合し、非水電解質を調製した。これらの点以外は、実施例1と同様にして、参考例1、2の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0095】
(初期充放電)
得られた参考例1、2の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0C、充電終止電圧4.2Vの条件で、充電時間が合計3時間になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行った。その後、10分間の休止時間を設けた。次いで、放電電流1.0C、放電終止電圧2.5Vの条件で、定電流(CC)放電を行った。この初期充放電における放電時の電気量を初期の放電容量とした。
【0096】
(評価:高温環境下に放置後の容量維持率)
次いで、参考例1、2の各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0Cで定電流充電を行い、SOCを85%にした。このSOC85%の状態で各非水電解質蓄電素子を65℃の恒温槽に90日放置した。その後、25℃の恒温槽内にて4時間保管した後、放電電流1.0C、放電終止電圧2.5Vの条件で、定電流放電を行った。その後、10分間の休止時間を設けた。次いで、上記「初期充放電」と同様の方法で充電及び放電を行い、この放電時の電気量を高温環境下に放置後の放電容量とした。初期の放電容量に対する高温環境下に放置後の放電容量の比を高温環境下に放置後の容量維持率として求めた。求めた容量維持率を表2に示す。
【0097】
【0098】
[参考例3から7]
負極のバインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。また、表3に記載の電解質塩を用いて非水電解質を調製した。これらの点以外は、実施例1と同様にして、参考例3から7の各非水電解質蓄電素子を得た。
【0099】
(評価:高温環境下に放置後の容量維持率)
実施例1等と同様の方法にて、初期の放電容量を求めた。次いで、各非水電解質蓄電素子について、25℃の恒温槽内にて、充電電流1.0C、充電終止電圧3.5Vの条件で、充電時間が合計3時間になるまで定電流定電圧(CCCV)充電を行い、SOCを100%にした。このSOC100%の状態で各非水電解質蓄電素子を85℃の恒温槽に90日放置した。その後、実施例1等と同様の方法にて高温環境下に放置後の放電容量を求めた。初期の放電容量に対する高温環境下に放置後の放電容量の比を高温環境下に放置後の容量維持率として求めた。求めた容量維持率を表3に示す。
【0100】
【0101】
表1の比較例2、3の対比等からわかるように、負極のバインダにアクリル系バインダを用いることで、非水電解質蓄電素子の低温環境下での直流抵抗が低くなった。しかし、比較例2のように、電解質塩がヘキサフルオロリン酸塩のみである場合に負極のバインダにアクリル系バインダを用いると、非水電解質蓄電素子を高温環境下に放置した後の容量維持率が低下した。これに対し、比較例1と実施例1の対比からわかるように、電解質塩がヘキサンフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む場合に負極のバインダにアクリル系バインダを用いたときは、非水電解質蓄電素子を高温環境下に放置した後の容量維持率の低下は抑制されていた。このように、負極がアクリル系バインダを含み、電解質塩がヘキサンフルオロリン酸塩及びイミド塩を含む実施例1の非水電解質蓄電素子は、低温環境下での直流抵抗が低く且つ高温環境下に放置後の容量維持率が高い結果となった。
【0102】
なお、表2に示されるように、正極活物質がポリアニオン系正極活物質ではない場合は、電解質塩がヘキサフルオロリン酸塩のみである場合に負極のバインダにアクリル系バインダを用いても、非水電解質蓄電素子を高温環境下に放置した後の容量維持率は低下しなかった。すなわち、電解質塩がヘキサフルオロリン酸塩のみである場合に負極のバインダにアクリル系バインダを用いると非水電解質蓄電素子を高温環境下に放置した後の容量維持率が低下するという現象は、正極活物質がポリアニオン系正極活物質の場合に生じる特有の現象であるといえる。
【0103】
また、表3に示される結果からも、電解質塩がヘキサンフルオロリン酸塩及びイミド塩の双方を含む場合、高温環境下に放置後の容量維持率が高まることがわかる。