(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125922
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】成形品の製造方法、レンズの製造方法、およびレンズ
(51)【国際特許分類】
B29C 43/34 20060101AFI20230831BHJP
B29C 43/58 20060101ALI20230831BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B29C43/34
B29C43/58
G02B3/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030285
(22)【出願日】2022-02-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-15
(71)【出願人】
【識別番号】515110122
【氏名又は名称】有限会社飯田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】三宅 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】野渡 透一
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 晴一郎
(72)【発明者】
【氏名】花田 秀美
(72)【発明者】
【氏名】野渡 潤也
【テーマコード(参考)】
4F204
【Fターム(参考)】
4F204AA16
4F204AC04
4F204AG19
4F204AH74
4F204AR02
4F204AR08
4F204FA01
4F204FB01
4F204FF01
4F204FN11
4F204FN15
(57)【要約】
【課題】成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の方法は、成形品の製造方法であり、方法は、中空筒状シリンダと、中空筒状シリンダ内を通過することが可能なプレス部材とを備える圧縮成形装置内に、フッ素樹脂(例えば、PTFE)部材を配置することと、真空中でプレス部材を中空筒状シリンダ内へ押し込むことによって中空筒状シリンダ内においてフッ素樹脂部材を圧縮し、成形品を成形することとを含む。一実施形態では、フッ素樹脂部材は、約5MPa~約40MPaの成形圧力下において圧縮される。一実施形態では、フッ素樹脂部材は、約0.5mm/秒~約1.0cm/秒の加圧速度でプレス部材を移動させることによって、圧縮される。一実施形態では、フッ素樹脂部材は、圧縮の後に、約300秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の製造方法であって、前記方法は、
中空筒状シリンダと、前記中空筒状シリンダ内を通過することが可能なプレス部材とを備える圧縮成形装置内に、フッ素樹脂部材を配置することと、
真空中で前記プレス部材を前記中空筒状シリンダ内へ押し込むことによって前記中空筒状シリンダ内において前記フッ素樹脂部材を圧縮し、前記成形品を成形することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記圧縮することは、約5MPa~約40MPaの成形圧力下において前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧縮することは、約10MPa~約35MPaの成形圧力下において前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記圧縮することは、約0.5mm/秒~約1.0cm/秒の加圧速度で前記プレス部材を移動させることによって、前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記圧縮することは、約0.5mm/秒~約7.0mm/秒の加圧速度で前記プレス部材を移動させることによって、前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記圧縮の後に、約300秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持することをさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記圧縮の後に、約600秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記圧縮することは、約10MPa~約35MPaの成形圧力で、約0.5mm/秒~約7.0mm/秒の加圧速度で前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含み、前記圧縮の後に約600秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持することをさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記成形品は、略円柱状成形品を含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記フッ素樹脂部材は、PTFE部材を含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10に記載の方法に従って前記成形品を製造することと、
前記成形品を加工することによりレンズを製造することと
を含む、レンズの製造方法。
【請求項12】
レンズ面と、前記レンズ面に略直交する方向の厚みとを有するフッ素樹脂製レンズであって、前記レンズ面に含まれる所定の範囲において前記レンズ面にテラヘルツ波を照射した場合に、前記レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xの最大値は、0.004である、レンズ。
【請求項13】
前記所定の範囲は、前記レンズ面の重心を中心とする円であり、前記円の直径Rは、0<R<Lであり、前記Lは、前記重心と前記重心に最も近い前記成形品の縁との距離である、請求項12に記載のレンズ。
【請求項14】
Rは、約30mm~約110mmである、請求項12または13に記載のレンズ。
【請求項15】
前記重心にテラヘルツ波を照射した場合の、前記レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度をX(A)とした場合に、前記偏光強度Xは、X(A)-0.003≦X≦X(A)+0.003を満たす、請求項12~14のいずれかに記載のレンズ。
【請求項16】
前記厚みは、約3mm~約30mmである、請求項11~15のいずれかに記載のレンズ。
【請求項17】
請求項9に記載の方法に従って製造されたものである、請求項11~16のいずれかに記載のレンズ。
【請求項18】
レンズ面と、前記レンズ面に略直交する方向の厚みとを有する樹脂製レンズの品質検査方法であって、
前記レンズ面に含まれる所定の範囲において前記レンズ面にテラヘルツ波を照射することと、
前記レンズ面に含まれる所定の範囲において前記レンズ面にテラヘルツ波を照射した場合に、前記レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xの最大値が所定の値以下である場合に前記樹脂製レンズを適合品であると決定することと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品(例えば、PTFE製レンズを製造するための成形品)の製造方法、レンズの製造方法、およびレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、テラヘルツ波用のフッ素樹脂(例えば、PTFE)製レンズが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Thorlabs, Inc.、“PTFE平凸レンズ”、[online]、[令和4年2月22日検索]、インターネット<URL:https://www.thorlabs.co.jp/newgrouppage9.cfm?objectgroup_id=1627>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のPTFE製レンズでは、テラヘルツ波の透過減衰が大きかった。このため、質の低いレンズが提供されていた。
【0005】
本発明は、テラヘルツ波の透過減衰が低減されかつ偏光が低減される成形品(例えば、PTFE製レンズを製造するための成形品)の製造方法、レンズの製造方法、およびレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
成形品の製造方法であって、前記方法は、
中空筒状シリンダと、前記中空筒状シリンダ内を通過することが可能なプレス部材とを備える圧縮成形装置内に、フッ素樹脂部材を配置することと、
真空中で前記プレス部材を前記中空筒状シリンダ内へ押し込むことによって前記中空筒状シリンダ内において前記フッ素樹脂部材を圧縮し、前記成形品を成形することと
を含む、方法。
(項目2)
前記圧縮することは、約5MPa~約40MPaの成形圧力下において前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記圧縮することは、約10MPa~約35MPaの成形圧力下において前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記圧縮することは、約0.5mm/秒~約1.0cm/秒の加圧速度で前記プレス部材を移動させることによって、前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、項目1~3のいずれかに記載の方法。
(項目5)
前記圧縮することは、約0.5mm/秒~約7.0mm/秒の加圧速度で前記プレス部材を移動させることによって、前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記圧縮の後に、約300秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持することをさらに含む、項目1~5のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記圧縮の後に、約600秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持することをさらに含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記圧縮することは、約10MPa~約35MPaの成形圧力で、約0.5mm/秒~約7.0mm/秒の加圧速度で前記フッ素樹脂部材を圧縮することを含み、前記圧縮の後に約600秒以上の圧力保持時間にわたって加圧状態を維持することをさらに含む、項目1~7のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記成形品は、略円柱状成形品を含む、項目1~8のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記フッ素樹脂部材は、PTFE部材を含む、項目1~9のいずれかに記載の方法。
(項目11)
項目1~10に記載の方法に従って前記成形品を製造することと、
前記成形品を加工することによりレンズを製造することと
を含む、レンズの製造方法。
(項目12)
レンズ面と、前記レンズ面に略直交する方向の厚みとを有するフッ素樹脂製レンズであって、前記レンズ面に含まれる所定の範囲において前記レンズ面にテラヘルツ波を照射した場合に、前記レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xの最大値は、0.004である、レンズ。
(項目13)
前記所定の範囲は、前記レンズ面の重心を中心とする円であり、前記円の直径Rは、0<R<Lであり、前記Lは、前記重心と前記重心に最も近い前記成形品の縁との距離である、項目12に記載のレンズ。
(項目14)
Rは、約30mm~約110mmである、項目12または13に記載のレンズ。
(項目15)
前記重心にテラヘルツ波を照射した場合の、前記レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度をX(A)とした場合に、前記偏光強度Xは、X(A)-0.003≦X≦X(A)+0.003を満たす、項目12~14のいずれかに記載のレンズ。
(項目16)
前記厚みは、約3mm~約30mmである、項目11~15のいずれかに記載のレンズ。
(項目17)
項目9に記載の方法に従って製造されたものである、項目11~16のいずれかに記載のレンズ。
(項目18)
レンズ面と、前記レンズ面に略直交する方向の厚みとを有する樹脂製レンズの品質検査方法であって、
前記レンズ面に含まれる所定の範囲において前記レンズ面にテラヘルツ波を照射することと、
前記レンズ面に含まれる所定の範囲において前記レンズ面にテラヘルツ波を照射した場合に、前記レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xの最大値が所定の値以下である場合に前記樹脂製レンズを適合品であると決定することと
を含む、方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、テラヘルツ波の透過減衰が低減されかつ偏光が低減される成形品(例えば、PTFE製レンズを製造するための成形品)の製造方法、レンズの製造方法、およびレンズを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】成形品のテラヘルツ波偏光計測の概念を概略的に示す図
【
図2】テラヘルツ波の偏光強度を測定するためのシステム100の構成の一例を示す図
【
図3A】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図3B】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図3C】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図3D】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図3E】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図3F】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図3G】成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図
【
図4】コンピュータシステム130の構成の一例を示す図
【
図6A】テラヘルツ波の照射位置を説明するための図
【
図6B】テラヘルツ波の照射位置を説明するための図
【
図7】成形品A1のテラヘルツ波の測定された偏光強度をグラフ表示した図
【
図8】成形品V1のテラヘルツ波の測定された偏光強度をグラフ表示した図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本明細書において用いられる用語を定義する。
【0010】
「テラヘルツ波」または「THz波」とは、波長約30μm~約1mmの光を意味する。「テラヘルツ波」または「THz波」は、パルス状の光であってもよいし、連続した光であってもよい。
【0011】
「テラヘルツ波の偏光強度」とは、テラヘルツ波が物体に照射されたときに物体から受けた偏光の程度を意味する。「テラヘルツ波の偏光強度」は、物体を透過したテラヘルツ波または物体から反射したテラヘルツ波から計測される。テラヘルツ波が何も物体を透過しないとき、テラヘルツ波の偏光強度はゼロである。
【0012】
本明細書において、「レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度の最大値」とは、ある点において、テラヘルツ波光源および/またはワーク回転台を約15°ずつ回転させることによって、成形品に照射されるテラヘルツ波の光軸周りの向きを24パターン変化させ、それぞれのパターンでのテラヘルツ波の偏光強度の測定結果の中の最大の値をいう。
【0013】
本明細書において、「レンズ面に含まれる所定の範囲においてレンズ面にテラヘルツ波を照射した場合の、レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度の最大値」とは、レンズ面の重心を含む所定の範囲において、当該重心と、当該重心から半径rの円周上の等間隔ずつ間隔を空けた少なくとも4点と、当該重心から半径r/2の円周上の等間隔ずつ間隔を空けた少なくとも4点の計8点のぞれぞれの点における、それぞれ偏光強度の最大値をいう。ただし、レンズ面の重心を中心とした半径rの円は、レンズ面の中に含まれていることを前提とする。
【0014】
「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、成形品のテラヘルツ波偏光計測の概念を概略的に示す。
【0017】
テラヘルツ波偏光計測は、テラヘルツ波光源110と、テラヘルツ波検出器120を用いて行われる。テラヘルツ波光源110は、テラヘルツ波を照射するように構成されており、テラヘルツ波検出器120は、テラヘルツ波の偏光強度を検出するように構成されている。テラヘルツ波光源110と、テラヘルツ波検出器120との間に成形品を置き、テラヘルツ波光源110から成形品にテラヘルツ波11を照射し、透過したテラヘルツ波11をテラヘルツ波検出器120によって検出することにより、成形品によるテラヘルツ波の偏光強度を測定することができる。
【0018】
図1に示される例では、成形品の内部の高分子結晶12が概略的に示されている。
図1に示されるように、成形品の内部の高分子結晶12が特定の方向に配向している場合、成形品を透過したテラヘルツ波11のスペクトルに異方性が現れる。この異方性が、テラヘルツ波の偏光強度の原因であると考えられている。
【0019】
成形品上の複数の位置にテラヘルツ波を照射し、複数の位置のそれぞれにおいて、成形品を透過したテラヘルツ波を検出することにより、成形品によるテラヘルツ波の偏光強度を測定することができる。このとき、複数の位置のそれぞれにおいて、成形品自体を回転させるまたはテラヘルツ波光源を回転させることによって、成形品に照射されるテラヘルツ波の光軸周りの向きを変化させ、複数の向きのそれぞれにおいて成形品を透過したテラヘルツ波を検出する。すなわち、(位置の数)×(向きの数)のテラヘルツ波の偏光強度が測定されることになる。
【0020】
本発明の発明者は、このようにして測定されたテラヘルツ波の偏光強度について、真空中でフッ素樹脂部材を圧縮成形することによって製造された成形品およびレンズの偏光強度が、大気圧下でフッ素樹脂部材を圧縮成形することによって製造された成形品およびレンズの偏光強度よりも均一であるであることを見出した。偏光強度がより均一であることは、粒子の配向が均一であることを意味し、従って、透過減衰や偏向を低減することが可能な高精度の光学部品を製造することが可能となる。
【0021】
図2は、テラヘルツ波の偏光強度を測定するためのシステム100の構成の一例を示す。
【0022】
システム100は、テラヘルツ波光源110と、テラヘルツ波検出器120と、コンピュータシステム130とを備えている。テラヘルツ波光源110およびテラヘルツ波検出器120はそれぞれ、コンピュータシステム130に通信可能なように接続されている。本発明では、テラヘルツ波光源110およびテラヘルツ波検出器120と、コンピュータシステム130との接続態様は問わない。例えば、テラヘルツ波光源110およびテラヘルツ波検出器120と、コンピュータシステム130とは、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。例えば、テラヘルツ波光源110およびテラヘルツ波検出器120と、コンピュータシステム130とは、任意のネットワーク(例えば、インターネット、ローカルエリアネットワーク)を介して接続され得る。
【0023】
テラヘルツ波光源110は、テラヘルツ波を照射することが可能な任意の機構であり得る。テラヘルツ波光源110は、例えば、特定の周波数または特定の周波数帯を有するTHz波のみを照射することが可能なように構成されてもよい。特定の周波数は、約0~約5.0THz等であり得る。テラヘルツ波光源110が、特定の周波数を有するテラヘルツ波のみを照射するようにすることにより、テラヘルツ波光源110は、広範なテラヘルツ波照射能力を有する必要がなく、テラヘルツ波光源110の構成を簡略化することができる。これは、システム100の低コスト化につながる。
【0024】
テラヘルツ波光源110から照射されたテラヘルツ波は、成形品10を透過し、テラヘルツ波検出器120に到達する。
【0025】
テラヘルツ波検出器120は、テラヘルツ波を検出するように構成された任意の機構であり得る。テラヘルツ波検出器120は、テラヘルツ波の偏光強度を測定するように構成されることができる。テラヘルツ波検出器120は、例えば、検出されたテラヘルツ波の偏光強度を電圧信号として出力することができる。
【0026】
システム100は、成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台をさらに備えるようにしてもよい。
【0027】
成形品10の材料は、樹脂であり、典型的には、フッ素樹脂を含む。フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、または、これらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。
【0028】
図3A~
図3Gは、成形品10上のテラヘルツ波を照射する位置を変化させるためのワーク回転台300を上から見た図である。
【0029】
ワーク回転台300上には成形品10が載置されている。
図3に示される例では、成形品10は、略円柱状部材として示されているが、本発明で測定対象となる成形品10は、これに限定されない。成形品10の形状は、任意の形状であることができる。例えば、成形品10の形状は、断面が略円形、略楕円形、略多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)、略正多角形(略正三角形、略正方形、略正五角形、略正六角形等)等であり得る。また、成形品10は、略柱状体であってもよいし、略平板であってもよい。成形品10は、レンズ面と、レンズ面に略直交する方向の厚みとを有する。成形品10は、その大きさおよび/または形状に応じて、レンズに相当し得る。
【0030】
ワーク回転台300上のスポットSは、ワーク回転台300の中心であり、孔(不可視)があいている。スポットSにテラヘルツ波光源110からテラヘルツ波を照射する。テラヘルツ波光源110とワーク回転台300との位置関係が固定されているため、ワーク回転台300を回転させることによって、成形品10上にテラヘルツ波が照射される光軸周りの向きを変化させることができる。テラヘルツ波は、電場ベクトルおよび磁場ベクトルが振動する方向を有しており、成形品10上にテラヘルツ波が照射される光軸周りの向きを変化させることに伴って、成形品10上でのテラヘルツ波の電場ベクトルおよび磁場ベクトルの振動方向も変化し得る。例えば、
図3A~
図3Dに示すように、成形品10上のテラヘルツ波が照射される位置を変化させることなく、ワーク回転台300を回転させることによって、成形品10上にテラヘルツ波が照射される向きを変化させることができる。
【0031】
さらに、ワーク回転台300に対する成形品10の位置および/または向きを変化させることによって、成形品10上にテラヘルツ波が照射される照射位置を変化させることができる。例えば、
図3A、
図3E~
図3Gに示されるように、ワーク回転台に対する成形品10の方向を変化させることによって、成形品10上にテラヘルツ波が照射される位置を変化させることができる。テラヘルツ波は、例えば、成形品10のレンズ面に含まれる所定の範囲においてレンズ面に照射されることができる。所定の範囲は、例えば、成形品10のレンズ面の重心(例えば、レンズ面が円形である場合には、レンズ面の中心)を中心とする円である。このとき、その円の直径Rは、0<R<Lを満たし、Lは、レンズ面の重心とその重心に最も近い成形品10の縁との距離である。円の直径Rは、例えば、R≦L×3/4、R≦L×1/2、またはR≦L×1/4をさらに満たし得る。
【0032】
成形品10のレンズ面が円形である場合に、成形品10のレンズ面の直径は、例えば、約10mm以上、約20mm以上、約30mm以上、約36mm以上、約40mm以上、約50mm以上、約60mm以上、約70mm以上、約80mm以上、約90mm以上、または約100mm以上であり得る。また、成形品10のレンズ面の直径は、約40mm以下、約50mm以下、約60mm以下、約70mm以下、約80mm以下、約90mm以下、約100mm以下、約110mm以下、約120mm以下、約130mm以下、約140mm以下、または約150mm以下であり得る。従って、成形品10のレンズ面の直径は、例えば、約10mm~約60mm、好ましくは、約20mm~約50mm、より好ましくは、約30mm~約40mmであり得る。
【0033】
成形品10の厚みは、例えば、約0.1mm以上、約0.5mm以上、約1mm以上、約2mm以上、約3mm以上、約4mm以上、約5mm以上、約6mm以上、約7mm以上、約8mm以上、約9mm以上、約10mm以上、約15mm以上、約20mm以上、約25mm以上、約30mm以上、約35mm以上、約40mm以上、約45mm以上、または約50mm以上であり得る。また、成形品10の厚みは、約3mm以下、約4mm以下、約5mm以下、約6mm以下、約7mm以下、約8mm以下、約9mm以下、約10mm以下、約15mm以下、約20mm以下、約25mm以下、約30mm以下、約35mm以下、約40mm以下、約45mm以下、または約50mm以下であり得る。従って、成形品10の厚みは、例えば、約1mm~約40mm、好ましくは、約3mm~約30mm、より好ましくは、約20mmであり得る。
【0034】
円(すなわち、テラヘルツ波の照射範囲)の直径Rは、例えば、約10mm以上、約20mm以上、約30mm以上、約36mm以上、約40mm以上、約50mm以上、約60mm以上、約70mm以上、約80mm以上、約90mm以上、または約100mm以上であり得る。また、円の直径Rは、例えば、約40mm以下、約50mm以下、約60mm以下、約70mm以下、約80mm以下、約90mm以下、約100mm以下、約110mm以下、約120mm以下、約130mm以下、約140mm以下、または約150mm以下であり得る。従って、円の直径Rは、例えば、約20mm~約120mm、好ましくは、約30mm~約110mm、より好ましくは、約100mmであり得る。
【0035】
図3Aは、第1の状態を示し、第1の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第1の位置に載置され、ワーク回転台300が第1の向きに位置する。紙面左右方向をx軸方向とし、紙面上下方向をy軸とする。
図3Aに示される第1の状態において、便宜上、y座標が最大となる成形品10上の点をAとし、y座標が最大となるワーク回転台300上の点をBとする。
【0036】
図3Bは、
図3Aに示される第1の状態から、ワーク回転台300を矢印αの方向に約90度回転させた第2の状態を示し、第2の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第1の位置に載置され、ワーク回転台300が第2の向き(点Bが、x座標が最小となる点となる向き)に位置する。
【0037】
図3Cは、
図3Bに示される第2の状態から、ワーク回転台300を矢印αの方向に約90度回転させた第3の状態を示し、第3の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第1の位置に載置され、ワーク回転台300が第3の向き(点Bが、y座標が最小となる点となる向き)に位置する。
【0038】
図3Dは、
図3Cに示される第3の状態から、ワーク回転台300を矢印αの方向に約90度回転させた第4の状態を示し、第4の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第1の位置に載置され、ワーク回転台300が第4の向き(点Bが、x座標が最大となる点となる向き)に位置する。
【0039】
図3Eは、
図3Aに示される第1の状態から、成形品10を矢印βの方向に約90度回転させた第5の状態を示し、第5の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第2の位置(点Aが、x座標が最小となる点となる位置)に載置され、ワーク回転台300が第1の向きに位置する。例えば、
図3Eに示される第5の状態から、ワーク回転台300を矢印αの方向に約90度、約180度、約270度回転させて、第6の状態(成形品10がワーク回転台300上の第2の位置に載置され、ワーク回転台300が第2の向きに位置する)、第7の状態(成形品10がワーク回転台300上の第2の位置に載置され、ワーク回転台300が第3の向きに位置する)、第8の状態(成形品10がワーク回転台300上の第2の位置に載置され、ワーク回転台300が第4の向きに位置する)となるようにすることができる。
【0040】
図3Fは、
図3Eに示される第5の状態から、成形品10を矢印βの方向に約90度回転させた第9の状態を示し、第9の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第3の位置(点Aが、y座標が最小となる点となる位置)に載置され、ワーク回転台300が第1の向きに位置する。例えば、
図3Fに示される第9の状態から、ワーク回転台300を矢印αの方向に約90度、約180度、約270度回転させて、第10の状態(成形品10がワーク回転台300上の第3の位置に載置され、ワーク回転台300が第2の向きに位置する)、第11の状態(成形品10がワーク回転台300上の第3の位置に載置され、ワーク回転台300が第3の向きに位置する)、第12の状態(成形品10がワーク回転台300上の第3の位置に載置され、ワーク回転台300が第4の向きに位置する)となるようにすることができる。
【0041】
図3Gは、
図3Fに示される第9の状態から、成形品10を矢印βの方向に約90度回転させた第13の状態を示し、第13の状態において、成形品10がワーク回転台300上の第4の位置(点Aが、x座標が最大となる点となる位置)に載置され、ワーク回転台300が第1の向きに位置する。例えば、
図3Fに示される第13の状態から、ワーク回転台300を矢印αの方向に約90度、約180度、約270度回転させて、第14の状態(成形品10がワーク回転台300上の第4の位置に載置され、ワーク回転台300が第2の向きに位置する)、第15の状態(成形品10がワーク回転台300上の第4の位置に載置され、ワーク回転台300が第3の向きに位置する)、第16の状態(成形品10がワーク回転台300上の第4の位置に載置され、ワーク回転台300が第4の向きに位置する)となるようにすることができる。
【0042】
上述した第1の状態~第16の状態のそれぞれにおいてテラヘルツ波を成形品10に照射し、透過したテラヘルツ波を検出することにより、複数の位置のそれぞれにおける複数の向きのそれぞれでのテラヘルツ波の偏光強度を測定することができる。
【0043】
上述した例では、複数の位置は、略円形中空の成形品10における4つの位置であり、4つの位置の座標は、略円形の成形品10の中心を原点と置いたときの(a,0)、(-a,0)、(0,a)、(0,-a)と表されることができ、ここで、0<a<rであり、rは、略円形の成形品10の半径である。
【0044】
上述した例では、約90度刻みにワーク回転台300を回転させることを説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、約90度以外の任意の角度刻みにワーク回転台300を回転させるようにしてもよい。例えば、約5度刻み、約10度刻み、約15度刻み、約30度刻み、約45度刻み、または約60度刻みでワーク回転台300を回転させるようにすることができる。
【0045】
上述した例では、約90度刻みに成形品10自体をワーク回転台300上で回転させることを説明したが、本発明は、これに限定されない。例えば、約90度以外の任意の角度刻みに成形品10自体をワーク回転台300上で回転させるようにしてもよい。例えば、約5度刻み、約10度刻み、約15度刻み、約30度刻み、約45度刻み、または約60度刻みで成形品10自体をワーク回転台300上で回転させるようにすることができる。
【0046】
このように、テラヘルツ波光源110と、ワーク回転台300とを用いることにより、成形品上の複数の位置にテラヘルツ波を照射することができる。すなわち、テラヘルツ波光源110およびワーク回転台300により、成形品上の複数の位置にテラヘルツ波を照射するための照射手段が構成される。
【0047】
図4は、コンピュータシステム130の構成の一例を示す。
【0048】
コンピュータシステム130は、インターフェース部131と、プロセッサ部132と、メモリ部133とを備える。
【0049】
インターフェース部211は、テラヘルツ波光源110との通信を制御し、テラヘルツ波検出器120との通信を制御する。
【0050】
メモリ部133には、処理を実行するために必要とされるプログラムやそのプログラムを実行するために必要とされるデータ等が格納されている。ここで、プログラムをどのようにしてメモリ部133に格納するかは問わない。例えば、プログラムは、メモリ部133にプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、インターネットなどのネットワークを経由してダウンロードされることによってメモリ部133にインストールされるようにしてもよいし、光ディスクやUSBなどの記憶媒体を介してメモリ部133にインストールされるようにしてもよい。
【0051】
プロセッサ部132は、コンピュータシステム130全体の動作を制御する。プロセッサ部133は、メモリ部133に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、コンピュータシステム130は、所望のステップを実行する装置として機能することが可能であり、コンピュータシステム130のプロセッサ部132は、所望の機能を達成する手段として動作することが可能である。
【0052】
図5は、本発明の成形品の製造方法の一例を示す。
図5に示される実施形態では、圧縮成形装置500は、中空筒状シリンダ510と、中空筒状シリンダ510内を通過することが可能なプレス部材520とを備える。例えば、圧縮成形装置500は、コンピュータシステム130と通信可能に接続されており、
図5に示される各ステップは、コンピュータシステム130が圧縮成形装置500の動作全体を制御することによって、自動的に実施されてもよいが、これに限定されない。例えば、
図5に示されるステップのうちの少なくとも一部は、ユーザが圧縮成形装置500を操作することによって、手動で実施されてもよい。以下、
図5に示される各ステップを詳しく説明する。
【0053】
ステップS501:圧縮成形装置500の中空筒状シリンダ510内にPTFE部材が配置および充填される。このようなPTFE部材の充填は、真空中で実施される。
図5に示される実施形態では、パウダー状のPTFE部材が、圧縮成形装置500の中空筒状シリンダ510内に充填される。
【0054】
ステップS502:プレス部材520を中空筒状シリンダ510内へ押し込むことによって中空筒状シリンダ510内においてPTFE部材が圧縮され、成形品10を成形する。このような圧縮成形は、真空中で実施される。
【0055】
PTFE部材の圧縮は、約1MPa以上、約2MPa以上、約3MPa以上、約4MPa以上、約5MPa以上、約6MPa以上、約7MPa以上、約8MPa以上、約9MPa以上、約10MPa以上、約15MPa以上、約20MPa以上、約25MPa以上、約30MPa以上、約35MPa以上、約40MPa以上、約45MPa以上、または約50MPa以上の成形圧力下で実施されることができる。また、PTFE部材の圧縮は、約10MPa以下、約15MPa以下、約20MPa以下、約25MPa以下、約30MPa以下、約35MPa以下、約40MPa以下、約45MPa以下、または約50MPa以下の成形圧力下で実施されることができる。従って、PTFE部材の圧縮は、例えば、約5MPa~約40MPaの成形圧力下で、好ましくは、約10MPa~約35MPaの成形圧力下で、より好ましくは、約10MPa~約15MPaの成形圧力下で実施され得る。
【0056】
本発明の発明者は、PTFEに対して高圧力をかけるとひび割れを発生させてしまうため、高圧力過ぎることは好ましくないと考え、約45MPa以下(例えば、約5MPa~約40MPa)の成形圧力が好ましいと考えた(データ示さず)。また、本発明の発明者は、約35MPa以下(例えば、約10MPa~約35MPa)の成形圧力でも圧縮時間をかければ(例えば、300秒以上または600秒以上かければ)PTFEを十分に圧縮して高密度化できるのではないかと考えた(データ示さず)。下記に説明される実施例においてこの仮説を確認した。
【0057】
プレス部材520は、例えば、約0.001mm/秒以上、約0.002mm/秒以上、約0.003mm/秒以上、約0.004mm/秒以上、約0.005mm/秒以上、約0.006mm/秒以上、約0.007mm/秒以上、約0.008mm/秒以上、約0.009mm/秒以上、約0.01mm/秒以上、約0.02mm/秒以上、約0.03mm/秒以上、約0.05mm/秒以上、約0.08mm/秒以上、約0.1mm/秒以上、約0.2mm/秒以上、約0.3mm/秒以上、約0.4mm/秒以上、約0.5mm/秒以上、約0.6mm/秒以上、約0.7mm/秒以上、約0.8mm/秒以上、約0.9mm/秒以上、または約1.0mm/秒以上の加圧速度で中空筒状シリンダ510の内側を(すなわち、中空筒状シリンダ510の内壁に沿って)移動可能である。また、プレス部材520は、例えば、約1.0mm/秒以下、約2.0mm/秒以下、約3.0mm/秒以下、約4.0mm/秒以下、約5.0mm/秒以下、約6.0mm/秒以下、約7.0mm/秒以下、約8.0mm/秒以下、約9.0mm/秒以下、約1.0cm/秒以下、約2.0cm/秒以下、約3.0cm/秒以下、約4.0cm/秒以下、約5.0cm/秒以下、約6.0cm/秒以下、約7.0cm/秒以下、約8.0cm/秒以下、約9.0cm/秒以下、または約10.0cm/秒以下の加圧速度で中空筒状シリンダ510の内側を移動可能である。従って、プレス部材520は、例えば、約0.5mm/秒~約1.0cm/秒の加圧速度で、好ましくは、約0.5mm/秒~約7.0mm/秒の加圧速度で、より好ましくは、約0.5mm/秒~約1.0mm/秒の加圧速度で、中空筒状シリンダ510の内側を移動可能であり得る。これにより、PTFE部材が圧縮される。
【0058】
本発明の発明者は、低い加圧速度(例えば、約0.5mm/秒~約1.0cm/秒の加圧速度、約0.5mm/秒~約7.0mm/秒の加圧速度)でPTFE部材を加圧したとしてもその後の十分な加圧保持時間があれば、PTFE部材に対する十分な加圧がなされるため、高い加圧速度でPTFE部材を加圧した場合と同様の高密度化を実現できるのではないかと考えた(データ示さず)。下記に説明される実施例においてこの仮説を確認した。
【0059】
PTFE部材の圧縮の後(例えば、直後)、成形品10を成形するために、例えば、約30秒以上、約60秒以上、約90秒以上、約120秒以上、約150秒以上、約180秒以上、約200秒以上、約250秒以上、約300秒以上、約350秒以上、約400秒以上、約450秒以上、約500秒以上、約600秒以上、約700秒以上、約800秒以上、約900秒以上、約999秒以上、または約1000秒以上の加圧保持時間にわたって、加圧状態が維持され得る。PTFE部材の圧縮の後の加圧状態は、好ましくは、約300秒以上、より好ましくは、約600秒以上の加圧保持時間にわたって維持され得る。
【0060】
本発明の発明者は、圧縮後の加圧保持時間が十分であれば(例えば、約600秒以上であれば)、圧縮速度に依らずにPTFEの高密度化を実現できるのではないかと考えた。また、本発明の発明者は、加圧した場合の密度はある漸近線に向かって増加するため、約300秒以上(例えば、約300秒~約600秒)の加圧保持時間であっても、約600秒以上の加圧保持時間の場合に近似する高密度化を実現できているのではないかと考えた(データ示さず)。
【0061】
ステップS503:成形品10が、熱源を用いて、焼成炉内で焼成される。成形品10の焼成は、真空中で実施される。
【0062】
成形品10が作製された後、必要に応じて、レンズとしての適切な大きさおよび/または形状を有するように成形品10を加工する(例えば、切り出す)ことによって、レンズを製造してもよい。
【0063】
図5に示される実施形態のように、真空中でPTFE部材を圧縮成形することによって、PTFE部材から効率的に脱気することが可能であり、PTFE部材内の粒子配向を揃えることが可能である。それ故、テラヘルツ波の透過減衰が低減されかつ偏光強度が低減されたPTFE製成形品(例えば、PTFE製レンズ)を取得することが可能である。
【0064】
コンピュータシステム130は、テラヘルツ波の測定された偏光強度に基づいて、複数の成形品間の相関係数を計算することが可能なように構成され得る。相関係数が閾値以上である場合、第1の成形品のテラヘルツ波の偏光強度が第1の成形品と異なる第2の成形品のテラヘルツ波の偏光強度と相関していると言える。閾値は、例えば、約0.99、約0.98、約0.97、約0.96、約0.95、約0.94、約0.93、約0.92、約0.91、約0.90、約0.85、約0.80、約0.75、または約0.70であり得る。相関係数Correl(X,Y)は、
【数1】
で表され、
【化1】
は、{xi}の相加平均であり、
【化2】
は、{yi}の相加平均である。
【0065】
複数の相関係数を算出することができる場合には、相関することは、例えば、複数の相関係数のそれぞれが閾値以上であると定義されてもよいし、複数の相関係数の平均値が閾値以上であると定義されてもよいし、複数の相関係数の中間値が閾値以上であると定義されてもよいし、複数の相関係数の最大値または最小値が閾値以上であると定義されてもよい。
【実施例0066】
本発明の発明者は、
図2および
図3A~
図3Gを参照して説明されたテラヘルツ波の偏光強度の測定方法を用いて、
図5を参照して説明された真空中の圧縮成形によって作製された成形品10、および、大気圧下の圧縮成形によって作製された成形品のそれぞれの偏光強度を測定した。
【0067】
図6Aおよび
図6Bは、テラヘルツ波の照射位置を説明するための図である。
【0068】
略円柱状の成形品10が使用された。成形品10の円形のレンズ面の直径Rは、36mmであり、成形品10のレンズ面に略直交する方向の厚さは、3mmである。テラヘルツ波光源として、T-Ray(R) 5000 HTS4042 Transmitter(Advanced Photonix, Inc.製)を使用し、テラヘルツ波検出器として、T-Ray(R) 5000 HRS4041(Advanced Photonix, Inc.製)を使用した。
【0069】
(1.大気圧下の圧縮成形によって作製された成形品A1)
成形品A1は、大気圧下で、35MPaの成形圧力で、30秒の圧力保持時間にわたって、3.33mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。
図3Aの第1の状態からワーク回転台300を30°刻みで回転させた状態のそれぞれにおいて、
図6Aに示される、成形品10のレンズ面の中心A点上、中心A点からR×1/8だけ離れたBライン上の●4か所(すなわち、0°位置、90°位置、180°位置、270°位置)、中心A点からR×1/4だけ離れたCライン上の◆4か所(すなわち、0°位置、90°位置、180°位置、270°位置)、および、中心A点からR×3/8だけ離れたDライン上の▲12か所(すなわち、0°位置、90°位置、180°位置、270°位置)に、テラヘルツ波を照射し、テラヘルツ波の偏光強度を測定した。成形品A1のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表1に示されるとおりである。
【表1】
【0070】
成形品A1のテラヘルツ波の測定された偏光強度をグラフ表示したものが、
図7に示される。
図7では、表の横軸の角度をグラフの円周方向にとり、テラヘルツ波の測定された偏光強度の大きさをグラフの半径方向外向きにとり、ラインタイプ毎に、
図3Aの第1の状態からワーク回転台300を30°刻みで回転させた状態のそれぞれ(すなわち、表1の各行の数値をプロットして線で繋いだもの)を重ねて表示している。
【0071】
(2.大気圧下の圧縮成形によって作製された成形品A2)
成形品A2は、大気圧下で、35MPaの成形圧力で、600秒の圧力保持時間にわたって、0.5mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。成形品A1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品A2のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表2に示されるとおりである。
【表2】
【0072】
(3.大気圧下の圧縮成形によって作製された成形品A3)
成形品A3は、大気圧下で、20MPaの成形圧力で、600秒の圧力保持時間にわたって、0.5mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。成形品A1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品A3のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表3に示されるとおりである。
【表3】
【0073】
成形品A1~成形品A3を見ると、大気圧下の圧縮成形によって作製された成形品の偏光強度は、
図7に分かりやすく示されるように、最大値にばらつきがあり、偏光強度の大きさもまた照射位置に応じて大きく異なる結果となった。
【0074】
(4.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V1)
成形品V1は、真空中で、10MPaの成形圧力で、999秒の圧力保持時間にわたって、0.5mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。
図3Aに示される第1の状態からワーク回転台300を0°、30°、60°、90°、120°、150°、180°、210°、240°、270°、300°、および330°回転させた状態のそれぞれにおいて、
図6Bに示される、成形品10のレンズ面の中心A点上、中心A点からR×1/8だけ離れたBライン上の●4か所(すなわち、0°位置、90°位置、180°位置、270°位置)、中心A点からR×1/4だけ離れたCライン上の◆12か所(すなわち、0°位置、30°位置、60°位置、90°位置、120°位置、150°位置、180°位置、210°位置、240°位置、270°位置、300°位置、330°位置)、および、中心A点からR×3/8だけ離れたDライン上の▲12か所(すなわち、0°位置、30°位置、60°位置、90°位置、120°位置、150°位置、180°位置、210°位置、240°位置、270°位置、300°位置、330°位置)に、テラヘルツ波を照射し、テラヘルツ波の偏光強度を測定した。成形品V1のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表4に示されるとおりである。
【表4】
【0075】
成形品V1のテラヘルツ波の測定された偏光強度をグラフ表示したものが、
図8に示される。
図8では、表の横軸の角度をグラフの円周方向にとり、テラヘルツ波の測定された偏光強度の大きさをグラフの半径方向外向きにとり、ラインタイプ毎に、
図3Aの第1の状態からワーク回転台300を15°刻みで回転させた状態のそれぞれ(すなわち、表8の各行の数値をプロットして線で繋いだもの)を重ねて表示している。
【0076】
(5.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V2)
成形品V2は、真空中で、20MPaの成形圧力で、999秒の圧力保持時間にわたって、0.5mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V2のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表5に示されるとおりである。
【表5】
【0077】
(6.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V3)
成形品V3は、真空中で、20MPaの成形圧力で、999秒の圧力保持時間にわたって、3.3mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V3のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表6に示されるとおりである。
【表6】
【0078】
(7.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V4)
成形品V4は、真空中で、20MPaの成形圧力で、999秒の圧力保持時間にわたって、6.66mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V4のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表7に示されるとおりである。
【表7】
【0079】
(8.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V5)
成形品V5は、真空中で、35MPaの成形圧力で、999秒の圧力保持時間にわたって、0.5mm/秒の加圧速度での圧縮成形によって作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V5のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表8に示されるとおりである。
【表8】
【0080】
(9.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V6)
成形品V6は、成形品V1の条件と同一条件で作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V6のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表9に示されるとおりである。
【表9】
【0081】
(10.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V7)
成形品V7は、成形品V1の条件と同一条件で作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V7のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表10に示されるとおりである。
【表10】
【0082】
(11.真空中の圧縮成形によって作製された成形品V8)
成形品V8は、成形品V1の条件と同一条件で作製されたものである。成形品V1におけるテラヘルツ波の照射位置と同じ位置にテラヘルツ波を照射して偏光強度を測定した。成形品V8のテラヘルツ波の測定された偏光強度は、以下の表11に示されるとおりである。
【表11】
【0083】
成形品V1~成形品V8を見ると、真空中の圧縮成形によって作製された成形品の偏光強度は、
図8に分かりやすく示されるように、最大値が0.004以下であり、成形品のレンズ面の重心(中心)に向かって照射されてレンズ面を透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度をX(A)とすると、成形品のレンズ面のいずれの位置に照射されたテラヘルツ波の偏光強度Xも、X(A)-0.003≦X≦X(A)+0.003(例えば、0<X≦0.003)を満たしている。従って、テラヘルツ波の偏光強度の大きさが照射位置に依存せずに均一である結果となった。
【0084】
また、成形品V1、V6~V8のそれぞれのA点、Bライン、Cライン、Dラインのそれぞれの最大値(すなわち、16個の値)の相関係数は、0.7008834であった。
【0085】
上記の実験から、本発明の発明者は、樹脂製レンズのテラヘルツ波の測定された偏光強度の大きさに基づいて実行できる樹脂製レンズの品質検査方法を見出した。樹脂製レンズは、レンズ面と、レンズ面に略直交する方向の厚みとを有するものとする。
【0086】
ステップ(a):テラヘルツ波光源110が、レンズ面に含まれる所定の範囲においてレンズ面にテラヘルツ波を照射し、テラヘルツ波検出器120が、樹脂製レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xを検出および測定する。所定の範囲は、例えば、成形品10のレンズ面の重心(例えば、レンズ面が円形である場合には、レンズ面の中心)を中心とする円である。このとき、その円の直径Rは、0<R<Lを満たし、Lは、レンズ面の重心とその重心に最も近い成形品10の縁との距離である。円の直径Rは、例えば、R≦L×3/4、R≦L×1/2、またはR≦L×1/4をさらに満たし得る。
【0087】
ステップ(b):コンピュータシステム130が、テラヘルツ波の偏光強度Xの複数の測定値をテラヘルツ波検出器120から受信し、樹脂製レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xの最大値が所定の値以下であるか否かを判定する。所定の値は、例えば、約0.006、約0.005、約0.004、約0.003、約0.002、約0.001であり得る。
【0088】
ステップ(c):コンピュータシステム130が、樹脂製レンズを透過または反射したテラヘルツ波の偏光強度Xの最大値が所定の値以下である場合に、その樹脂製レンズを適合品であると決定する。
【0089】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
本発明は、テラヘルツ波の透過減衰が低減されかつ偏光が低減される成形品(例えば、PTFE製レンズを製造するための成形品)の製造方法、レンズの製造方法、およびレンズ等を提供するものとして有用である。