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特開2023-125940情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125940
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20230831BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230831BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G06Q10/04
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030317
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397039919
【氏名又は名称】一般財団法人日本気象協会
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【弁理士】
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】大久保 寛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 義騎
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 正広
(72)【発明者】
【氏名】横洲 弘武
(72)【発明者】
【氏名】舘畑 秀衛
(72)【発明者】
【氏名】林 健次
(72)【発明者】
【氏名】上原 謙太郎
【テーマコード(参考)】
2G105
5L049
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB02
2G105DD01
2G105EE02
2G105GG05
2G105GG06
2G105MM04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】津波に関する各種推定における利便性を向上させること。
【解決手段】シミュレーション音波波形情報DB80には、予め、所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す単位断層音波波形情報が格納されている。観測音波波形情報取得部521は、実際に津波が発生した際に音波観測装置2の夫々で観測された複数の観測音波波形を示す観測音波波形情報として取得する。津波波源域推定部523は、観測音波波形情報と、複数の単位断層毎の単位断層音波波形情報の夫々との比較をすることで、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する。また、津波波源域推定部523は、1以上の前記波源域に基づいて、実際に発生した前記津波の津波規模を特定する。報知制御部526は、前記津波規模を示す情報を出力して報知する制御を実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報を、単位断層音波波形情報として、複数の単位断層毎に予め格納されているデータベースにアクセス可能な情報処理装置であって、
実際に津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測された複数の観測音波波形を示す観測音波波形情報として取得する観測波形取得手段と、
前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較をすることで、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する波源域推定手段と、
1以上の前記波源域に基づいて、実際に発生した前記津波の津波規模を特定する津波規模特定手段と、
前記津波規模を示す情報を出力する制御を実行する出力制御手段と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記観測波形取得手段は、
前記複数の地地点の夫々で実際に観測された音波波形を収集し、
複数の前記音波波形に対してノイズ除去を行い、
ノイズ除去が行われた複数の音波波形のうち所定の時間帯の複数の音波波形を示す情報を、前記観測音波波形情報として取得する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記単位断層音波波形情報は、津波波源域と予想されるエリアにおいてに前記複数の単位断層を設定し、前記複数の単位断層の夫々を処理対象として、処理対象が一定量隆起した場合の音波伝搬をシミュレーションにより求めた結果得られる情報であり、
前記波源域推定手段は、前記比較においてインバージョン手法を採用して、前記1以上の波源域を推定する、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記津波規模特定手段は、前記1以上の波源域に基づく津波波源域分布を用いて、前記津波規模を特定する、
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
実際に津波が発生した際に、複数の地点の夫々で観測された水位又は水圧を示す情報を、津波観測情報として取得する津波観測情報取得手段、
をさらに備え、
前記波源域推定手段は、前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較に加え、前記津波観測情報に基づいて、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する、
請求項1乃至4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報を、単位断層音波波形情報として、複数の単位断層毎に予め格納されているデータベースにアクセス可能な情報処理装置が実行する情報処理方法において、
実際に津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測された複数の観測音波波形を示す観測音波波形情報として取得する観測波形取得ステップと、
前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較をすることで、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する波源域推定ステップと、
1以上の前記波源域に基づいて、実際に発生した前記津波の津波規模を特定する津波規模特定ステップと、
前記津波規模を示す情報を出力する制御を実行する出力制御ステップと、
を含む情報処理方法。
【請求項7】
所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報を、単位断層音波波形情報として、複数の単位断層毎に予め格納されているデータベースにアクセス可能なコンピュータに、
実際に津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測された複数の観測音波波形を示す観測音波波形情報として取得する観測波形取得ステップと、
前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較をすることで、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する波源域推定ステップと、
1以上の前記波源域に基づいて、実際に発生した前記津波の津波規模を特定する津波規模特定ステップと、
前記津波規模を示す情報を出力する制御を実行する出力制御ステップと、
を含む制御処理を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、海底水圧計やGPS波浪計、海洋レーダ等の観測装置を用いて観測された結果に基づいて津波波源域を推定する技術が存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-089316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来用いられていた海底水圧計やGPS波浪計、海洋レーダといった観測機器の設置や運用には、多額の費用がかかるという問題があった。
また、津波の到達時間、津波高等の情報を、津波到達前のできるだけ早いタイミングで推定することが望まれていた。
このように、津波に関する各種推定における利便性の向上が望まれていた。
【0005】
本願発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、津波に関する各種推定における利便性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様の情報処理装置は、
所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報を、単位断層音波波形情報(例えばグリーン関数の形態の情報)として、複数の単位断層毎に予め格納されているデータベースにアクセス可能な情報処理装置であって、
実際に津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測された複数の観測音波波形を示す観測音波波形情報として取得する観測波形取得手段と、
前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較をすることで、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する波源域推定手段と、
1以上の前記波源域に基づいて、実際に発生した前記津波の津波規模を特定する津波規模特定手段と、
前記津波規模を示す情報を出力する制御を実行する出力制御手段と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、津波に関する各種推定における利便性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の情報処理装置の一実施形態に係るサーバを含む情報処理システムにより実行される情報処理の概要の一例を示す図である。
図2図1の情報処理の津波発生から到達までにおけるタイミングの一例を示す図である。
図3図1に示す情報処理を実行するシステムのうちサーバのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4図3のサーバの機能的構成のうち、シミュレーション処理及び津波検知処理を実行するための機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
図5図1図2及び図5における処理の流れを示すフロー図である。
図6図4のサーバにより取得される観測音波波形の一例を示す図である。
図7A】観測音波波形から津波成分の波形を抽出する処理の一例を示す図である。
図7B】観測音波波形から津波成分の波形を抽出する処理の一例を示す図である。
図8A】津波波源域の推定の一例を示す図である。
図8B】津波波源域の推定の一例を示す図である。
図9A】津波波源域の推定の一例を示す図である。
図9B】津波波源域の推定の一例を示す図である。
図10A】本発明のGPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果との比較の一例を示す図である。
図10B】本発明のGPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果との比較の一例を示す図である。
図10C】本発明のGPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果との比較の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0010】
本発明の情報処理装置の一実施形態に係るサーバ(例えば、図1のサーバ1)を含む情報処理システム(例えば、図3の情報処理システム)は、観測音波により津波の波源域の推定や到達する津波の規模の予測を行うものである。以下、本発明情報処理装置の一実施形態に係るサーバを含む情報処理システム(以下、「本情報処理システム」と呼ぶ)の概要について、図1及び図2を用いて説明する。
図1は、本発明の情報処理装置の一実施形態に係るサーバを含む情報処理システムにより実行される情報処理の概要の一例を示す図である。
【0011】
まず、本情報処理システムは、図1の右側に示すように、所定の単位断層において津波が発生した際に伝搬される音波波形をシミュレーションすることで、当該津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報(以下、「単位断層音波波形情報」と呼ぶ)を予め生成する。
以下、このようにして予めシミュレーションにより所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報を生成する処理を、「シミュレーション処理」と呼ぶ。
【0012】
なお、ここでいう「音波波形」とは、津波にともない発生し、大気中を伝播する気圧変動の波形を言う。即ち、音波波形は、人間にとって音としてきこえる狭義の音波(可聴域の音波)の波形に限定されない。具体的には、ここでいう「音波」は、微気圧波、超低周波音波、低周波音、インフラサウンド等とも呼ばれるものである。
詳しくは後述するが、津波が発生した場合、海面の上昇や下降が発生する。そして、大気の圧力は、その海面付近において局所的に変動する。さらに、大気の圧力の変動は周囲に伝播する。この伝播する気圧変動が上述の「音波」であり、この音波に関する波形が「音波波形」である。
実際に津波が発生した場合、地上の観測地点に気圧計や低周波音波計を配置することによって、その観測地点における大気の圧力変化を、音波として観測することができる。
このように、「音波」とは、大気の比較的低周波数の圧力変化ともとらえられる広義的なものである。以下、広義の「音波」や「音波波形」の用語を用いて、説明を続ける。
【0013】
また、詳細については後述するが、「単位断層」とは、津波を発生させ得る所定単位の地層又は岩盤をいう。
また、シミュレーション処理においては、複数の単位断層の夫々について上述のシミュレーションが実行され、複数の単位断層の夫々についての単位断層音波波形情報が生成される。以下、このようにして予めシミュレーション処理により生成された複数の単位断層の夫々についての単位断層音波波形情報の群を「シミュレーション音波波形情報」と呼ぶ。
ただし、図1においては、説明の簡単のため、シミュレーション処理における単位断層として、ある1つの単位断層TDSと、その単位断層音波波形情報が図示されている。
【0014】
そして、本情報処理システムは、図1の左側に示すように、実際に津波が発生した際に、複数の地点の夫々で観測された音波波形を示す情報(以下、「観測音波波形情報」と呼ぶ)と、上述のシミュレーション音波波形情報に基づいて、インバージョン手法により、津波波源域の推定を行う。更に、本情報処理システムは、津波波源域における津波規模や沿岸部等に到来する津波の予測を行う。
以下、このようにして実際に津波が発生した際に、インバージョン手法により津波波源域の推定等を行う処理を、「津波検知処理」と呼ぶ。
【0015】
なお、詳細については後述するが「津波波源域」とは、津波が発生した領域をいう。換言すれば、津波波源域は、津波の原因となる海底の隆起や沈降等を起こした領域であると言える。
ここで、実際に津波が発生する際には、複数の単位断層において同時に、又は、連鎖的に津波が発生する。即ち、津波波源域とは、このような津波を発生させた複数の単位断層からなる領域をいう。
ただし、図1においては、説明の簡単のため、津波検知処理における津波波源域はある1つの単位断層からなるものとして、1つの単位断層TDと、津波TTが図示されている。
【0016】
以下、上述のシミュレーション処理及び津波検知処理についてより具体的に説明する。即ち、本情報処理システムのサーバ1は、上述のシミュレーション処理として、例えば次のような処理を実行する。
即ち、サーバ1は、ある単位断層TDSにおいて地震等が発生しその結果として津波TTSが発生した際に、複数(図1の例においては4つ)の地点R1乃至R4の夫々で観測される音波波形HS1乃至HS4をシミュレーションする。
サーバ1は、この単位断層TDSにおいて津波TTSが発生した際にシミュレーション上の複数の地点R1乃至R4の夫々で観測される音波波形HS1乃至HS4を示す情報を単位断層音波波形情報として、例えばグリーン関数の形態の情報でデータベースに格納させる。
【0017】
また、図1の右側に示すある1つの単位断層TDSのみならず、所定のエリア内の複数の単位断層毎に単位断層音波波形情報がシミュレーションにより生成され、所定エリア内の複数の単位断層音波波形情報の群がシミュレーション音波波形情報として、データベースに予め格納される。
なお、所定のエリアとして任意のものが採用され得る。即ち例えば、環太平洋造山帯を含むエリアや大地震(例えば南海トラフ地震)を発生させる可能性が有るとされる断層の存在するエリアが採用される。
【0018】
次に、図1の左側に示すように、津波波源域(図1においてはある単位断層TD)において現実に地震等が発生しその結果として津波TSが発生した際に、複数の地点R1乃至R4の夫々においては、単位断層TDやその近傍において発生した津波TTにより発生された大気の振動が周囲に伝播される。その結果、複数の地点R1乃至R4において、音波波形HK1乃至HK4が得られる。
即ち、実際に津波が発生した際に、複数の地点R1乃至R4の夫々で観測された複数の音波波形HK1乃至HK4を示す観測音波波形情報が、サーバ1により取得される。
【0019】
そして、サーバ1において、観測音波波形情報及びシミュレーション音波波形情報に基づいて、インバージョン手法により、津波波源域の推定が行われる。
即ち、図1に示すように、実際に津波TTがある単位断層TDにより発生された場合、ある単位断層TDにより発生された津波TTによる音波波形が、観測音波波形情報に含まれる。
【0020】
そこで、サーバ1は、観測音波波形情報とシミュレーション音波波形情報との比較により、津波波源域を推定する。即ち、サーバ1は、実際に観測された音波波形HK1乃至HK4が再現される、1以上の単位断層TDSにおいて発生された音波波形HS1乃至HS4組み合わせを推定する。
また、このとき、サーバ1は、実際に観測された音波波形HK1乃至HK4を再現する、1以上の単位断層TDSの夫々においてどのような規模で音波が発生したかを推定する。組み合わせを見つけることにより津波波源域を推定する。
このようにして、サーバ1は、津波TSにより発生した音波が何れの津波波源域(図1の例では単位断層TD)によるものかを推定することができるのである。また、サーバ1は、津波TSが何れの津波波源域に含まれる単位断層の夫々でどのような大きさの津波TSが発生しているのか(即ち、津波波源域における津波TSの規模(海面の上下の大きさとその分布))を推定できるのである。
【0021】
なお、上述したように、津波波源域は、1つの単位断層TDのみならず、複数の単位断層において同時に、又は、連鎖的に津波が発生する。
サーバ1は、インバージョン手法により、観測音波波形情報及びシミュレーション音波波形情報に基づいて、複数の単位断層のうち何れの単位断層において、津波が発生しているかを出力することができる。このように、例えば、N(Nは2以上の正の整数値)の単位断層のうち、M(MはN以下の正の整数値)の単位断層において津波が発生したという比較の結果が、サーバ1により出力される。
【0022】
このように、本情報処理システムは、シミュレーション処理において、音波の伝搬シミュレーションにより予め複数の単位断層音波波形情報からなるシミュレーション音波波形情報を生成する。そして、本情報処理システムは、津波検出処理において、地震発生時に観測された音波波形からなる観測音波波形情報とシミュレーション音波波形とを照らし合わせることで、津波波源域を推定することができるのである。
そして、詳しくは後述するが、サーバ1は、このように推定された1以上の津波波源域に基づいて、その津波波源域から発生された津波の規模を特定することができる。
【0023】
次に、図2を用いて、実際の津波発生対して図1の情報処理が実行されるタイミング等について説明する。
図2は、図1の情報処理の津波発生から到達までにおけるタイミングの一例を示す図である。図2の下部の時間軸に示すように、図2の左から右へ、情報処理の流れに沿って説明する。
【0024】
まず、ステップST11において、津波が発生する。即ち、津波波源域において、津波波源域の海面が上昇又は下降する。
次に、ステップST12において、津波波源域の津波から音波が発生する。即ち、ステップST11において津波波源域の海面が上昇又は下降した結果、その海面から、その海面の上昇又は下降の規模に応じた音波が発生する。
【0025】
このように、ステップST11において発生した津波と、ほぼ同時にステップST12において発生した音波は、いずれも四方八方へ伝搬していく。ここで、津波と音波では、音波の方が伝搬の速度が速い。従って、後述するステップST18の津波が沿岸部に到達するタイミングと比較して、音波が先に沿岸部に到達する。
津波波源域と沿岸部との距離と、沿岸部から地上の地点までの距離が所定の条件を満たす時には、地上の地点(図1の例では地点R1乃至R4)の観測設備にも音波が先に到達する。例えば、津波波源域と沿岸部との距離が数十キロメートル、沿岸部から地上の地点までの距離が数キロメートルの場合、観測設備にも音波が先に到達する。
【0026】
次に、ステップST13において、沿岸より内側の地上の地点(図1の例では地点R1乃至R4)において、音波が観測される。
地上において観測された音波の情報は、適宜サーバ1に送信される。即ち、サーバ1は、観測音波波形情報を取得する。
【0027】
次に、ステップST14において、津波波源域の推定が行われる。即ち、サーバ1は、観測音波波形情報及びシミュレーション音波波形情報に基づいて、津波波源を推定する。
これにより、ステップST15に示すように、後述のステップST18において津波が沿岸部に到達する前に、津波規模の推定結果が報知される。即ち、サーバ1は、津波波源域における津波規模を推定し、その推定結果を沿岸部に居る人等に対して、津波規模についての情報を報知することができる。
【0028】
次に、ステップST16において、津波伝搬シミュレーションによる到来予測が行われる。即ち、サーバ1は、ステップST14において推定された津波波源域の情報などに基づいて、津波波源域から津波がどのように伝搬し、沿岸部にどのような時刻にどのような津波高で到達するかを予測する。
これにより、ステップST17に示すように、後述のステップST18において津波が沿岸部に到達する前に、到来する津波の推定結果が報知される。即ち、サーバ1は、予測された沿岸部に到来する津波を推定(予測)し、その推定結果を沿岸部にいる人等に対して、到来する津波についての情報を報知することができる。
【0029】
その後、ステップST18に示すように、実際に沿岸に津波が到達する。
このように、本情報処理システムでは、音波を用いることで、実際に沿岸に津波が到達する前に、情報処理を実行し、津波に関する各種情報の報知等ができるのである。
【0030】
図1及び図2を用いて上述した本情報処理システムは、以下のメリットを有する。
まず、本情報処理システムは、設置・運用コストを安く抑えられる。
従来、津波の波源域の推定は、海底水圧計やGPS波浪計、海洋レーダといった観測機器で得られる津波観測値に基づいて行われていた。このような従来の観測装置は、海上や海中に設置する必要があるため、観測機器の設置・運用に多額の費用がかかるものであった。
これに対して、上述したように、本情報処理システムでは、地上に観測機器として音波波形の測定装置を備えている。このような地上の観測機器は、従来の観測機器と比較して、設置コストやメンテナンスコストが少なくて済むため、設置・運用コストを安く抑えられる。
なお、音波の観測装置は、一部又は全部を海上に設置することもできるが、以下、図1等に示すように、全部が地上にあるものとして説明する。
【0031】
なお、津波の到達時間や規模を推定する手法として、海上や海中の複数地点で観測された津波波形の時間差をもとに推定する従来の手法が存在する。しかしながら、この従来の手法は、観測機器の運用に多大なコストを要するものであった。また、従来の手法は、観測機器まで津波が到達するまでの間において波形の観測ができないため、津波の推定が可能となるまで時間を要するものであった。
これに対して、本情報処理システムは、津波の到達時間や規模を推定する手法として、海上や海中ではなく、地上の複数地点で観測された音波波形(観測音波波形情報)を用いる手法を採用している。
これにより、本情報処理システムは、観測機器の設置やメンテナンスが比較的容易であり、観測機器の運用のコストが比較的安価に実現することができる。更に言えば、本情報処理システムは、従来の観測(海上や海中における観測)と組み合わせることで、安価に多重化(融合インバージョン)することができる。これにより、本情報処理システムは、津波波源域や津波規模の推定の早さや精度を向上させることができる。
【0032】
また、更に言えば、本情報処理システムの観測機器は、陸上に設置されるため、津波等により被災・機能停止するリスクが小さい。即ち、従来の観測機器は、津波そのものを海上や海中から直接観測するものである。そのため、津波が実際に発生した場合に津波による被災で、観測機器が破損したり、観測結果のデータの授受のための設備(電波の送受信部や信号伝達の配線部分等)が破損する可能性があった。
これに対して、本情報処理システムは、観測機器は地上に存在し、津波が到達する前の時点において観測が行われるため、津波等により被災して機能停止するリスクが小さい。即ち、津波に関する各種情報の推定が正しく行われる可能性が高まる。
【0033】
また、上述したように、音波は津波(海面の水位変動)より早く伝わる。そのため、本情報処理システムは、従来の観測機器(GPS波浪計やDONET、海洋レーダ)を用いるよりも、早く津波波源等の推定を行うことができる可能性がある。
即ち例えば、津波波源域と沿岸部との距離が数十キロメートルであって、沿岸部から本情報処理システムの地上の観測設備までの距離が数キロメートル、沿岸部から従来の海上の観測機器までの距離が数キロメートルであるとする。この場合、津波の発生から音波が本情報処理システムの地上の観測設備に到達するまでの時間は、従来の海上の観測機器に津波が到達するまでの時間と比較して短くなる可能性がある。即ち、津波が沿岸部に到達するまでの時間がより長い状態で情報処理を開始し、より早く沿岸部等に津波に関する情報を報知することができるようになる。
【0034】
以上、図1及び図2を用いて、本情報処理システムの概要やメリットについて説明した。以下、図3及び図4を用いて、情報処理を行うサーバの構成について説明する。
【0035】
図3は、図1に示す情報処理を実行するシステムのうちサーバのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0036】
サーバ1は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、バス14と、入出力インターフェース15と、入力部16と、出力部17と、記憶部18と、通信部19と、ドライブ20とを備えている。
【0037】
CPU11は、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部18からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM13には、CPU11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0038】
CPU11、ROM12、及びRAM13は、バス14を介して相互に接続されている。このバス14にはまた、入出力インターフェース15も接続されている。入出力インターフェース15には、入力部16、出力部17、記憶部18、通信部19及びドライブ20が接続されている。
【0039】
入力部16は、例えばキーボード等により構成され、各種情報を入力する。
出力部17は、液晶等のディスプレイやスピーカ等により構成され、各種情報を画像や音声として出力する。
記憶部18は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成され、各種データを記憶する。
通信部19は、インターネットを含むネットワークを介して他の装置(例えば図4の音波観測装置2)との間で通信を行う。
【0040】
ドライブ20には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア31が適宜装着される。ドライブ20によってリムーバブルメディア31から読み出されたプログラムは、必要に応じて記憶部18にインストールされる。
また、リムーバブルメディア31は、記憶部18に記憶されている各種データも、記憶部18と同様に記憶することができる。
【0041】
このような図3のサーバ1の各種ハードウェアと各種ソフトウェアとの協働により、シミュレーション処理及び津波検知処理を含む各種処理の実行が可能になる。その結果、上述の本サービスを提供することができる。
【0042】
図4は、図3のサーバの機能的構成のうち、シミュレーション処理及び津波検知処理を実行するための機能的構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0043】
図4に示すように、サーバ1がシミュレーション処理を実行する場合、CPU11においては、シミュレーション処理部51が機能する。
サーバ1が津波検知処理を実行する場合、CPU11においては、津波検知処理部52が機能する。
【0044】
また、サーバ1の記憶部18の一領域には、シミュレーション音波波形情報DB80が設けられている。シミュレーション音波波形情報DB80には、複数の単位断層音波波形の群が格納されて管理されている。
【0045】
シミュレーション処理部51は、予め、所定のエリア内の複数の単位断層毎に単位断層音波波形情報をシミュレーションにより生成する。そして、シミュレーション処理部51は、所定エリア内の複数の単位断層音波波形情報の群をシミュレーション音波波形情報としてシミュレーション音波波形情報DB80に格納する。
具体的には例えば、単位断層音波波形は、海域に想定した津波断層域(図1の説明における所定のエリア)に所定サイズの単位断層を配置し、個々の単位断層が一定量隆起した場合に、各観測地点で観測される音波波形を、音波伝搬シミュレーションにより生成される。
【0046】
音波観測装置2-1乃至2-nは、津波により生じた超低周波音波を取得する。
音波観測装置2-1乃至2-nは、地上の広範囲の複数地点に、配置される。これにより、津波波源域の推定の精度が向上する。
また、津波、即ち、海面の上昇や下降にともなう音波は、超低周波である。そこで、音波観測装置2-1乃至2-nは、超低周波音波を観測可能な装置となっている。
なお、以下、音波観測装置2-1乃至2-nを個々に区別する必要が無い場合、これらをまとめて、「音波観測装置2」と呼ぶ。
【0047】
音波観測装置2-1乃至2-nは、夫々、音波測定部201と、時刻管理部202と、観測音波波形情報送信制御部203とを備える。以下、音波測定部201と、時刻管理部202と、観測音波波形情報送信制御部203との各機能について説明する。
【0048】
音波測定部201は、津波により発生した超低周波音波を含む音波を測定する。
ここで、超低周波音波は、所謂マイクロフォンといった人間の可聴域の音波ではなく、大気圧の変動ととらえることができる。そこで、例えば、音波測定部201は予め定められた周波数特性の音波を測定可能な気圧計を有し、気圧計を介して取得した音波を予め定められたサンプリング間隔で継続的に測定する。具体的には例えば、サンプリング間隔は1Hz以上とすると好適である。
音波測定部201により観測された超低周波音波の例については、図6を用いて後述する。
【0049】
時刻管理部202は、GPS衛星の信号等による正確な時刻を管理する。これにより、波形の時刻は正確に同期され、複数地点の超低周波音波の時刻歴波形の比較が可能となる。
【0050】
観測音波波形情報送信制御部203は、音波測定部201により取得された超低周波音波と、時刻管理部202により管理されている時刻情報とを含む情報を、観測音波波形情報として、サーバ1に適宜送信する制御を実行する。
【0051】
津波検知処理部52は、複数地点に配置された音波観測装置2で取得された観測音波波形情報を収集し、津波成分の波形の抽出、波源推定といった処理を実行する。
津波検知処理部52は、観測音波波形情報取得部521と、津波波形抽出部522と、津波波源域推定部523と、線形重ね合わせ部524と、津波伝搬シミュレーション部525と、報知制御部526とを備える。以下、観測音波波形情報取得部521と、津波波形抽出部522と、津波波源域推定部523と、線形重ね合わせ部524と、津波伝搬シミュレーション部525と、報知制御部526との各機能について説明する。
【0052】
観測音波波形情報取得部521は、複数地点の音波観測装置2で測定された観測音波波形情報を取得する。
即ち例えば、観測音波波形情報取得部521は、少なくとも1分毎にデータを収集する。これにより、津波発生後、迅速に津波高・到達時間を予測することが可能となる。
【0053】
津波波形抽出部522は、複数の音波観測装置2の夫々で測定された観測音波波形情報に含まれる、気圧配置等に由来するトレンド成分や観測点周辺の音源から取得されたノイズ成分等の除去を行い、津波成分波形を抽出する。具体的には例えば、観測点周辺の音源から取得されたノイズ成分等の除去には、数値フィルターが採用される。
津波成分の波形の抽出の例については、図7を用いて後述する。
【0054】
津波波源域推定部523は、津波波形抽出部522により抽出された津波成分波形と予め用意された単位断層音波波形とを照らし合わせることで津波波源域の推定を行う。
具体的には、津波波形抽出部522により抽出された津波成分波形とシミュレーション音波波形情報に含まれる単位断層音波波形をもとに、以下の式(1)乃至(3)に示す式でE(残差の2乗和)が最小になるx(初期水位)を演算することで、単位断層の夫々における津波を推定する。
ここで、yとは、時刻1~tに観測された津波波形である。また、xとは、単位断層の初期水位(単位断層1~n)である。また、Aとは、観測点における、単位断層による津波波形(η)である。また、Eとは、残差の2乗和である。
【0055】
【数1】
・・・(1)
【0056】
【数2】
・・・(2)
【0057】
【数3】
・・・(3)
【0058】
このように推定された単位断層変位量を、その単位断層(津波波源域)における津波の波高とする。
なお、この波源推定部で使用するデータは、音波波形に限らず、水位波形、水圧波形など他の観測に用いられた観測結果用いてジョイント・インバージョンの手法により取り込んでもよい。これにより、津波の各種情報の推定の精度が向上する。
なお、津波波源域の推定の例については、図8及び図9を用いて後述する。
【0059】
次に、津波検知処理部52は、推定された波源域をもとに単位断層津波波形を重ね合わせること、または推定波源域を初期水位として津波伝搬シミュレーションにより、津波高・到達時間の推定を行う。
【0060】
具体的には、線形重ね合わせ部524は、予め用意した単位断層津波波形に波源推定部で推定した初期水位(x)を乗じて重ね合わせた波形を演算する。
具体的には、線形重ね合わせ部524は、以下に示す式(4)を用いて演算する。
ここで、ηとは、予測地点kの津波波形(時刻1~t)である。また、Aとは、予測地点 k における、単位断層iによる津波波形(時刻1~t)である。また、xとは、単位断層iにおいて推定された初期水位である。
【0061】
【数4】
・・・(4)
なお、単位断層津波波形は、単位断層音波波形の作成に用いた単位断層をもとに、それぞれの単位断層が一定量隆起した場合に各観測地点で観測される津波波形として、津波伝搬シミュレーションにより予め生成されて管理されている。
【0062】
津波伝搬シミュレーション部525は、津波伝搬シミュレーション部は、津波波源域推定部523で推定した初期水位(x)を初期条件として、非線形長波方程式を用いた津波伝搬シミュレーションにより予測地点における津波波形を求める。
【0063】
報知制御部526は、上述の津波検知処理部52で推定された津波波源域や、津波高・到達時間を報知する制御を実行する。
具体的には、報知制御部526は、津波波源域推定部523により推定された津波波源域の分布、線形重ね合わせ部524による線形重ね合わせ結果、津波伝搬シミュレーション部525による津波伝搬シミュレーション結果等を、結果が得られ次第報知する。
【0064】
なお、上述したように、本情報処理システムは、従来の観測(海上や海中における観測)と組み合わせることで、多重化(融合インバージョン)することができる。従来の観測(海上や海中における観測)を組み合わせる際には、更に、津波観測情報取得部527が機能する。
【0065】
津波観測情報取得部527は、複数の水上又は水中の地点配置された観測装置(海底水圧計やGPS波浪計、海洋レーダ等)において観測された、水位又は水圧を示す情報を、津波観測情報として取得する。
そして、波源域推定部523は、津波波形抽出部522により抽出された津波成分波形と予め用意された単位断層音波波形とを照らし合わせることに加え、津波観測情報に基づいて、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する。津波波源域や津波規模の推定の早さや精度が向上される。
【0066】
図5は、図1図2及び図3における各種処理の流れを示すフロー図である。
図5に示すように、ステップST21において、シミュレーション処理部51は、あらかじめ音波伝搬シミュレーションにより単位断層音波波形を生成する。
また、ステップST22において、シミュレーション処理部51は、あらかじめ津波伝搬シミュレーションにより単位断層津波波形を生成する。
【0067】
実際に津波が発生した際、ステップST23に示すように、音波観測装置2は、複数地点において、津波により発生した観測音波波形を観測する。
次に、ステップST24に示すように、サーバ1の観測音波波形情報取得部521は、複数地点の観測音波波形を収集する。
次に、ステップST25に示すように、津波波形抽出部522は、各観測音波波形からトレンド成分・ノイズ成分を除去、津波成分の波形を抽出する。
次に、ステップST26に示すように、津波波源域推定部523は、あらかじめ用意した単位断層音波波形(グリーン関数)と照らし合わせることで波源域の推定をする。
次に、ステップST27において、報知制御部526は、推定された波源域を報知する。
次に、ステップST28において、線形重ね合わせ部524は、推定された波源域をもとに単位断層津波波形を重ね合わせることで津波高・到達時間を推定する。
次に、ステップST29において、津波伝搬シミュレーション部525は、推定された波源域をもとに津波伝搬シミュレーションを実施し、津波高・到達時間を推定する。
次に、ステップST30において、報知制御部526は、津波高・到達時間の推定結果を報知する。
【0068】
図6は、図4のサーバにより取得される観測音波波形の一例を示す図である。
具体的には、図6に示す観測音波波形は、東北地方太平洋沖地震発生時に水沢観測地点(MIZ)及び細倉観測地点(HSK)において観測された観測音波波形である。
「Origin time」は、津波が発生したと考えられる時刻を示している。
Origin timeから2分程度経過した後、大きくグラフが変動している。これは、地震波が音波観測装置2に到達し、地震そのものによる振動や地震により音波観測装置2の付近が揺れた結果として発生した音波等が観測されていることを示している。
Origin timeから2分程度経過した後、15分から20分程度の間において、丸で囲い、微気圧変動と記載している領域において、グラフが大きく変動している。これこそが、津波による音波波形である。
その後、グラフはいずれも滑らかに右肩上がりとなっている。これは、気象条件などによるトレンドであると考えられる。
【0069】
図7A及び図7Bは、観測音波波形から津波成分の波形を抽出する処理の一例を示す図である。
図7Aに示すように、津波発生時の観測音波波形(超低周波音波波形)とスムージング曲線(背景の大気変動)を重畳すると、横軸が15時の近傍において、スムージング曲線と観測音波波形との間に差分が生じている。これが、津波成分の波形である。
図7Bには、津波発生時の観測音波波形(超低周波音波波形)からスムージング曲線(背景の大気変動)を差し引いた差分のグラフが示されている。
上述したように、図7Bのグラフにおける横軸が15時の近傍において、低周波の微気圧変動が確認される。
このように、観測音波波形から、背景の大気変動成分等を、スムージング曲線を用いて差し引く等の方法により、津波成分の音波波形が抽出される。なお、津波成分の音波波形の抽出の方法は、スムージング曲線の差し引きという方法に限定されず、任意の方法が採用されてもよい。即ち、津波成分の音波波形の抽出の方法は、背景の大気変動成分等の除去ができれば足りる。具体的には例えば、数値フィルターを用いる方法が、採用されてもよい。
【0070】
図8A図8B図9A及び図9Bは、津波波源域の推定の一例を示す図である。
即ち、図8A図8B図9A及び図9Bには、音波伝搬シミュレーションで各予測地点の超低周波音波波形を求め、この波形とあらかじめ用意した単位断層音波波形(グリーン関数)と照らし合わせることで波源域の推定を行った結果が示されている。
図8Aには、推定に用いた断層分布のうち、負のdeformationの分布が示されている。
図8Bには、推定に用いた断層分布のうち、正のdeformationの分布が示されている。
図9Aには、推定結果の断層分布のうち、負のdeformationの分布が示されている。
図9Bには、推定結果の断層分布のうち、正のdeformationの分布が示されている。
図8A図8B図9A及び図9Bを比較すると、推定結果は、各領域においてdeformationの分布を再現していることがわかる。
【0071】
図10A乃至図10CはGPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果との比較の一例を示す図である。
東北地方太平洋沖地震における津波を対象に音波伝搬シミュレーションで各予測地点の超低周波音波波形を求め、この波形とあらかじめ用意した単位断層音波波形(グリーン関数)と照らし合わせることで波源域の推定を行い、更に、津波伝搬シミュレーションにより津波観測地点における津波波形を求めた結果の一例である。
図10Aには、久慈沖GPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果とが重畳して示されている。
図10Bには、宮古沖GPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果とが重畳して示されている。
図10Cには、釜石沖GPS波浪計における観測結果と、シミュレーション結果とが重畳して示されている。
図10A乃至図10Cに示すように、各GPS波浪計において、津波高のピークの大きさと、津波高のピークを迎えた経過時間とがよく一致している。即ち、シミュレーション結果は、各波浪計の地点における津波高を再現していることがわかる。
各GPS波浪計における津波高と同様に、各沿岸部における波高としてシミュレーションすることが可能である。
【0072】
以上、本発明が適用されるサーバの実施形態を説明してきた。しかしながら、本発明が適用される実施形態は、例えば次のようなものであってもよい。
【0073】
例えば、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるし、ソフトウェアにより実行させることもできる。
換言すると、図4の機能的構成は例示に過ぎず、特に限定されない。
即ち、上述した一連の処理を全体として実行できる機能が情報処理システムに備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのような機能ブロック及びデータベースを用いるのかは特に図4の例に限定されない。また、機能ブロック及びデータベースの存在場所も、図4に特に限定されず、任意でよい。例えば、サーバ1の機能ブロック及びデータベースを音波観測装置2等に移譲させてもよい。
また、1つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成してもよいし、ソフトウェア単体で構成してもよいし、それらの組み合わせで構成してもよい。
【0074】
また例えば、一連の処理をソフトウェアにより実行させる場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、コンピュータ等にネットワークや記録媒体からインストールされる。
コンピュータは、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータであってもよい。
また、コンピュータは、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能なコンピュータ、例えばサーバの他汎用のスマートフォンやパーソナルコンピュータであってもよい。
【0075】
また例えば、このようなプログラムを含む記録媒体は、利用者にプログラムを提供するために装置本体とは別に配布される図示せぬリムーバブルメディアにより構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態で利用者に提供される記録媒体等で構成される。
【0076】
なお、本明細書において、記録媒体に記録されるプログラムを記述するステップは、その順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的或いは個別に実行される処理をも含むものである。
また、本明細書において、システムの用語は、複数の装置や複数の手段等より構成される全体的な装置を意味するものとする。
【0077】
以上を換言すると、本発明が適用される情報処理装置は、次のような構成を有する各種各様の実施形態を取ることができる。
【0078】
即ち、本発明が適用される情報処理装置(例えば、図4のサーバ1)は、
所定の単位断層において津波が発生した際に複数の地点の夫々で観測される音波波形を示す情報を、単位断層音波波形情報(例えばグリーン関数の形態の情報)として、複数の単位断層毎に予め格納されているデータベース(例えば、図4のシミュレーション音波波形情報DB80)にアクセス可能な情報処理装置であって、
実際に津波が発生した際に複数の地点(例えば、図4の音波観測装置2が配置された図1の地点R1乃至R4)の夫々で観測された複数の観測音波波形を示す観測音波波形情報として取得する観測波形取得手段(例えば、図4の観測音波波形情報取得部521)と、
前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較をすることで、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する波源域推定手段(例えば、図4の津波検知処理部52の津波波源域推定部523)と、
1以上の前記波源域に基づいて、実際に発生した前記津波の津波規模を特定する津波規模特定手段(例えば、図4の津波検知処理部52の津波波源域推定部523)と、
前記津波規模を示す情報を出力する制御を実行する出力制御手段(例えば、図4の報知制御部526)と、
を備えれば足りる。
これにより、津波に関する各種推定における利便性を向上させることができる。
【0079】
また、前記観測波形取得手段(例えば、図4の津波検知処理部52の津波波形抽出部522)は、
前記複数の地地点の夫々で実際に観測された音波波形を収集し、
複数の前記音波波形に対してノイズ除去を行い、
ノイズ除去が行われた複数の音波波形のうち所定の時間帯の複数の音波波形(例えば地震発生後から数十秒~数百秒間の時系列波形)を示す情報を、前記観測音波波形情報として取得する、
ことができる。
【0080】
また、前記単位断層音波波形情報は、津波波源域と予想されるエリアにおいてに前記複数の単位断層を設定し、前記複数の単位断層の夫々を処理対象として、処理対象が一定量隆起した場合の音波伝搬をシミュレーションにより求めた結果得られる情報であり、
前記波源域推定手段は、前記比較においてインバージョン手法を採用して、前記1以上の波源域を推定する、
ことができる。
【0081】
また、前記津波規模特定手段は、前記1以上の波源域に基づく津波波源域分布を用いて、前記津波規模を特定する、
ことができる。
【0082】
実際に津波が発生した際に、複数の地点の夫々で観測された水位又は水圧を示す情報を、津波観測情報として取得する津波観測情報取得手段(例えば、図4の津波観測情報取得部527)、
をさらに備え、
前記波源域推定手段は、前記観測音波波形情報と、前記複数の単位断層毎の前記単位断層音波波形情報の夫々との比較に加え、前記津波観測情報に基づいて、1以上の単位断層の夫々を波源域として推定する、ことができる。
【符号の説明】
【0083】
1・・・サーバ、2・・・音波観測装置、11・・・CPU、18・・・記憶部、20・・・ドライブ、31・・・リムーバブルメディア、51・・・シミュレーション処理部、52・・・津波検知処理部、80・・・シミュレーション音波波形情報DB、201・・・音波測定部、202・・・時刻管理部、203・・・観測音波波形情報送信制御部、521・・・観測音波波形情報取得部、522・・・津波波形抽出部、523・・・津波波源域推定部、524・・・津波伝搬重ね合わせ部、525・・・津波伝搬シミュレーション部、526・・・報知制御部、527・・・津波観測情報取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C